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明細書 :大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6273653号 (P6273653)
公開番号 特開2017-079611 (P2017-079611A)
登録日 平成30年1月19日(2018.1.19)
発行日 平成30年2月7日(2018.2.7)
公開日 平成29年5月18日(2017.5.18)
発明の名称または考案の名称 大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物及びその利用
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12Q   1/48        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
A61P   1/00        (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  35/00        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
C12Q 1/02
C12Q 1/48 Z
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
G01N 33/50 K
A61P 1/00
A61P 29/00
A61P 35/00
A61K 35/00
C12N 5/10
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 8
全頁数 60
出願番号 特願2015-209324 (P2015-209324)
出願日 平成27年10月23日(2015.10.23)
審査請求日 平成29年2月13日(2017.2.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
発明者または考案者 【氏名】片桐 晃子
【氏名】石原 沙耶花
【氏名】錦見 昭彦
【氏名】三枝 信
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
審査官 【審査官】藤澤 雅樹
参考文献・文献 特開2004-166695(JP,A)
特開平09-117288(JP,A)
特表平11-509415(JP,A)
Nature Communications (2014) Vol.5, No.4657, pp.1-14
Oncology Reports (2014) Vol.31, pp.2055-2062
J. Immunol. (2007) Vol.179, pp.8322-8331
Mol. Cell. Biol. (2006) Vol.26, No.2, pp.643-653
J. Clin. Invest. (2014) Vol.124, No.4, pp.1757-1768
J. Neurosci. (2008) Vol.28, No.9, pp.2089-2098
Blood (2015) Vol.126, No.25, pp.2695-2703 (Prepublished online 2015.08.31)
調査した分野 A01K 67/027
C12N 15/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
非ヒト動物に大腸炎又は大腸癌を自然発症させる方法であって、前記非ヒト動物のT細胞特異的にRAS-related protein-1a(Rap1a)及びRAS-related protein-1b(Rap1b)を欠損させる工程を備える方法。
【請求項2】
Rap1a及びRap1bを欠損させる前記工程が、以下のいずれかの非ヒト動物同士、又は以下のいずれかの非ヒト動物とRap1af/fRap1bf/f非ヒト動物とを交配させてT細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損した非ヒト動物を得る工程である、請求項1に記載の方法:
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物。
【請求項3】
Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞を移植した免疫不全非ヒト動物である、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物。
【請求項4】
Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞を免疫不全非ヒト動物に移植する工程を備える、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物の製造方法。
【請求項5】
被検物質の存在下又は非存在下で、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球の、L-セレクチンリガンド上、Mucosal Addressin Cell Adhesion Molecule-1(MadCAM-1)上又はP-セレクチン上におけるローリング活性を測定する工程と、
前記被検物質の存在下における前記ローリング活性が、前記被検物質の非存在下における前記ローリング活性と比較して低下した場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、
を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
被検物質の投与下又は非投与下で、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損した非ヒト動物、又はRap1a及びRap1bを欠損したT細胞を移植した免疫不全非ヒト動物を飼育する工程と、
前記非ヒト動物の大腸炎又は大腸癌の発症の程度を測定する工程と、
前記被検物質の投与下における大腸炎又は大腸癌の発症の程度が、前記被検物質の非投与下における大腸炎又は大腸癌の発症の程度と比較して低下した場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、
を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
被検物質の存在下又は非存在下で、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球を培養する工程と、
前記リンパ球におけるEzrin/Radixin/Moesin(ERM)タンパク質のリン酸化レベルを測定する工程と、
前記被検物質の存在下における前記リン酸化レベルが、前記被検物質の非存在下における前記リン酸化レベルと比較して上昇していた場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、
を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
被検物質の存在下又は非存在下で、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球を培養する工程と、
前記リンパ球におけるLymphocyte-oriented kinase(LOK)タンパク質のキナーゼ活性を測定する工程と、
前記被検物質の存在下における前記キナーゼ活性が、前記被検物質の非存在下における前記キナーゼ活性と比較して上昇していた場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、
を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
潰瘍性大腸炎やクローン病等の炎症性腸疾患は原因が不明の難病である。特に潰瘍性大腸炎では癌が発生しやすく、発癌に至るメカニズムも未解明である。
【0003】
大腸炎又は大腸癌の治療法を開発するためには、大腸炎及び大腸癌を発症するモデル動物を用いることが有用である。大腸炎を発症するモデル動物として、2%デキストラン硫酸塩を含む水を、マウスに1週間飲ませることにより、潰瘍性大腸炎を誘導するというマウスモデルが知られている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Okayasu I., et al., A novel method in the induction of reliable experimental acute and chronic ulcerative colitis in mice., Gastroenterology, 98 (3), 694-702, 1990.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載されたマウスモデルでは大腸癌はほとんど発生しない。そこで、本発明は、大腸炎及び大腸癌を自然発症するモデル非ヒト動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
(1)T細胞特異的にRAS-related protein-1a(Rap1a)及びRAS-related protein-1b(Rap1b)を欠損した、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物。
(2)以下のいずれかの非ヒト動物:
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物。
(3)Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞。
(4)(1)に記載の大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物から採取した、(3)に記載のT細胞。
(5)(3)又は(4)に記載のT細胞を移植した免疫不全非ヒト動物である、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物。
(6)(2)に記載の非ヒト動物同士、又は(2)に記載の非ヒト動物とRap1af/fRap1bf/f非ヒト動物とを交配させて、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損した非ヒト動物を得る工程を備え、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損した前記非ヒト動物が大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物である、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物の製造方法。
(7)(3)又は(4)に記載のT細胞を免疫不全非ヒト動物に移植する工程を備える、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物の製造方法。
(8)被検物質の存在下又は非存在下で、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球の、L-セレクチンリガンド上、Mucosal Addressin Cell Adhesion Molecule-1(MadCAM-1)上又はP-セレクチン上におけるローリング活性を測定する工程と、前記被検物質の存在下における前記ローリング活性が、前記被検物質の非存在下における前記ローリング活性と比較して低下した場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法。
(9)被検物質の投与下又は非投与下で、(1)又は(5)に記載の大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物を飼育する工程と、前記非ヒト動物の大腸炎又は大腸癌の発症の程度を測定する工程と、前記被検物質の投与下における大腸炎又は大腸癌の発症の程度が、前記被検物質の非投与下における大腸炎又は大腸癌の発症の程度と比較して低下した場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法。
(10)被検物質の存在下又は非存在下で、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球を培養する工程と、前記リンパ球におけるEzrin/Radixin/Moesin(ERM)タンパク質のリン酸化レベルを測定する工程と、前記被検物質の存在下における前記リン酸化レベルが、前記被検物質の非存在下における前記リン酸化レベルと比較して上昇していた場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法。
(11)被検物質の存在下又は非存在下で、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球を培養する工程と、前記リンパ球におけるLymphocyte-oriented kinase(LOK)タンパク質のキナーゼ活性を測定する工程と、前記被検物質の存在下における前記キナーゼ活性が、前記被検物質の非存在下における前記キナーゼ活性と比較して上昇していた場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大腸炎及び大腸癌を自然発症するモデル非ヒト動物を提供することができる。当該モデル非ヒト動物は、大腸炎又は大腸癌の発症機構の解明や治療法の開発に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実験例1のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図2】実験例2のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図3】実験例3のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図4】実験例4のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図5】実験例5のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図6】(a)及び(b)は、実験例6のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図7】実験例7のデタッチメントアッセイの結果を示すグラフである。
【図8】(a)及び(b)は、実験例8のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図9】実験例9の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図10】(a)及び(b)は、実験例10のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図11】(a)及び(b)は、実験例11の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。(c)は、実験例11においてテザー様の膜の伸長を示す細胞の割合を示すグラフである。
【図12】実験例12において、L-セレクチンの局在を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図13】(a)は、実験例13において、アクチンポリメライゼーションのマーカーである、LifeAct-mCherryを導入した対照細胞及びRap1KD細胞の顕微鏡写真である。(b)及び(c)は、実験例13の結果を示すグラフである。
【図14】実験例14の結果を示す顕微鏡写真である。
【図15】実験例15の結果を示す共焦点顕微鏡画像である。
【図16】実験例16の結果を示すグラフである。
【図17】実験例16において、T細胞が腸間膜リンパ節内の高内皮細静脈に接着した様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図18】(a)~(c)は、実験例17の結果を示すグラフである。
【図19】(a)及び(b)は、実験例18の結果を示すグラフである。
【図20】(a)及び(b)は、実験例19のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図21】(a)~(d)は、実験例20の結果を示すグラフである。
【図22】(a)~(c)は、実験例21のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図23】(a)~(c)は、実験例22の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図24】(a)及び(b)は、実験例23のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図25】実験例24において、Rap1-/-マウス及び対照としてのRap1af/fRap1bf/fマウスの体重の変化を測定したグラフである。
【図26】実験例24において、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの代表的な結腸の形態を示す写真である。
【図27】実験例24において、Rap1-/-マウスの大腸炎によるダメージを光学顕微鏡観察に基づいて評価した結果を示すグラフである。
【図28】(a)~(h)は、実験例24において、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの結腸のパラフィン包埋組織切片をヘマトキシリン・エオジン染色し、光学顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
【図29】(a)は、実験例24において、Rap1-/-マウスの大腸の炎症部位における陰窩膿瘍を示す顕微鏡写真である(倍率40倍)。(b)は、実験例24において、Rap1-/-マウスの大腸における類上皮細胞肉芽腫を示す顕微鏡写真である(倍率40倍)。
【図30】(a)は、実験例25のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。(b)は、実験例25において、Rap1-/-マウスの結腸粘膜固有層のCD4陽性T細胞中のIL-17、IFN-γ又はIL-4産生細胞の割合を示すグラフである。
【図31】実験例26において、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウス由来のCD4陽性ナイーブT細胞の[H]-チミジン取り込み量を示すグラフである。
【図32】実験例27において、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウス由来のCD4陽性ナイーブT細胞のサイトカイン産生量を測定した結果を示すグラフである。
【図33】実験例28の結果を示すグラフである。
【図34】実験例29のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図35】実験例30のTreg抑制アッセイの結果を示すグラフである。
【図36】実験例31のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図37】実験例31のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図38】実験例32のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図39】実験例33のデタッチメントアッセイの結果を示すグラフである。
【図40】(a)及び(b)は、実験例34のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図41】(a)及び(b)は、実験例35のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図42】(a)及び(b)は、実験例36のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図43】(a)及び(b)は、実験例37の結果を示す写真である。
【図44】(a)及び(b)は、実験例38のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図45】実験例39のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図46】実験例40の結果を示すグラフである。
【図47】(a)及び(b)は、実験例41の結果を示す顕微鏡写真である。
【図48】実験例42のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図49】実験例43のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図50】実験例44のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図51】実験例45のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図52】実験例46のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図53】実験例47のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図54】実験例48のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図55】実験例49のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図56】実験例50のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図57】実験例51のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図58】実験例52のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図59】実験例52において、ローリング活性を測定した結果を示すグラフである。
【図60】(a)及び(b)は、実験例52において、フロー接着アッセイを行った結果を示すグラフである。
【図61】(a)及び(b)は、実験例53におけるフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。(c)は、IL-17、IFN-γ及びIL-4産生細胞の割合を百分率で示したグラフである。
【図62】実験例54のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図63】(a)は、実験例55における共焦点顕微鏡写真である。(b)は、実験例55において、1分間に1回以上ブレブ形成した細胞の割合を百分率で示したグラフである。
【図64】実験例56のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図65】(a)及び(b)は、実験例57のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図66】(a)及び(b)は、実験例58のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図67】実験例59において、細胞を移植していないマウス、ベクターのみを導入したCD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウス(対照)、及びEzrin変異体(T567E)を導入したCD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウスの体重の変化を測定したグラフである。
【図68】実験例60において、マウスの大腸炎によるダメージを光学顕微鏡観察に基づいて評価した結果を示すグラフである。
【図69】実験例60において、細胞を移植したマウスの大腸の顕微鏡写真である。
【図70】実験例61の結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図71】実験例62の結果を示す共焦点顕微鏡写真である。
【図72】実験例62の結果を示す共焦点顕微鏡写真である。
【図73】実験例62の結果を示す共焦点顕微鏡画像である。
【図74】実験例63において、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を基礎としたRap1活性のセンサーを対照細胞に導入し、CXCL12で刺激した結果を示す画像である。
【図75】実験例64の結果を示す図である。
【図76】実験例65のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図77】実験例66のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図78】実験例67のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図79】実験例68のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図80】実験例69のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図81】実験例70のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図82】実験例71のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図83】実験例72の結果を示すグラフである。
【図84】実験例72の結果を示すグラフである。
【図85】実験例73の結果を示すグラフである。
【図86】(a)及び(b)は、実験例74の結果を示すグラフである。
【図87】実験例75の結果を示す写真である。
【図88】実験例76のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図89】実験例77において、対照細胞又はFLNa/bKD細胞のLS12細胞上におけるローリングの速度を測定した結果を示すグラフである。
【図90】実験例78のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図91】実験例79において、対照細胞又はFLNa/bKD細胞を抗LFA-1抗体で前処理し、LS12細胞上におけるローリングの速度を測定した結果を示すグラフである。
【図92】実験例80のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図93】実験例81のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図94】実験例82のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図95】実験例82において、FLNaf/fT細胞及びFLNa-/-T細胞の、CCL21の非存在下、LS12内皮細胞上でのローリングの速度に対する抗LFA-1抗体の影響を検討した結果を示すグラフである。
【図96】(a)及び(b)は、実験例83のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図97】(a)~(d)は、実験例84の結果を示すグラフである。
【図98】(a)及び(b)は、実験例85のトランスウェルマイグレーションアッセイの結果を示すグラフである。
【図99】(a)~(c)は、実験例86のフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。
【図100】実験例87のイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【図101】実験例88のフロー接着アッセイの結果を示すグラフである。
【図102】実験例89の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物を提供する。本実施形態の大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物は、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損している。

【0010】
実施例において後述するように、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損したマウスは、大腸炎及び大腸癌を自然発症する。したがって、本実施形態のモデル非ヒト動物は、大腸炎及び大腸癌を自然発症するモデル非ヒト動物として有用である。

【0011】
非ヒト動物としては、特に制限されず、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、サル、ニワトリ等が挙げられる。本実施形態のモデル非ヒト動物は、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損している。例えば、マウスRap1a遺伝子のGenbankアクセッション番号はNM_145541であり、マウスRap1b遺伝子のGenbankアクセッション番号はNM_024457である。非ヒト動物がマウス以外の動物である場合には、各動物種におけるRap1a及びRap1bが欠損していればよい。

【0012】
本実施形態のモデル非ヒト動物において、Rap1a及びRap1bを欠損しているとは、機能的なRap1aタンパク質及びRap1bタンパク質の発現が抑制されているか、又は欠損していることを意味する。例えばゲノム上のRap1aアレルの一部又は全部、及びRap1bアレルの一部又は全部が欠失(ノックアウト)していてもよいし、例えばsiRNA、shRNA等の導入によりRap1a及びRap1bの発現が抑制(ノックダウン)されていてもよい。

【0013】
T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損させる方法としては、例えば、Creリコンビナーゼ-LoxPシステムを用いる方法が挙げられる。例えば、Rap1aアレル及びRap1bアレルのそれぞれを、Creリコンビナーゼの標的配列であるLoxP配列で挟んだ非ヒト動物(flox非ヒト動物)(以下、「Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物」という場合がある。)と、T細胞特異的に発現する遺伝子のプロモーターの下流にCreリコンビナーゼタンパク質をコードする遺伝子を連結した発現ユニットを導入した非ヒト動物とを交配させる方法が挙げられる。

【0014】
T細胞特異的に発現する遺伝子としては、例えば、lymphocyte-specific protein tyrosine kinase(Lck)、CD4等が挙げられる。以下、Lck遺伝子のプロモーターの下流にCreリコンビナーゼタンパク質をコードする遺伝子を連結した発現ユニットを有する非ヒト動物を「Lck-Cre非ヒト動物」という場合がある。また、CD4遺伝子のプロモーターの下流にCreリコンビナーゼタンパク質をコードする遺伝子を連結した発現ユニットを有する非ヒト動物を「CD4-Cre非ヒト動物」という場合がある。

【0015】
Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物と、Lck-Cre非ヒト動物又はCD4-Cre非ヒト動物とを交配させると、子孫の中に、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損した非ヒト動物が出現する。

【0016】
この過程についてより詳細に説明する。例として、Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物とCD4-Cre非ヒト動物とを交配させる場合について説明する。Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物とCD4-Cre非ヒト動物とを交配させて得られた一代雑種(F)の遺伝子型はCD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wtであり、表現型は正常である。

【0017】
続いて、CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物とRap1af/fRap1bf/f非ヒト動物とを交配させると、子孫の中にCD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物が出現する。CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物はT細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損する。

【0018】
ここで、CD4-Cre非ヒト動物の代わりにLck-Cre非ヒト動物を用いる場合には、上記説明における「CD4-Cre」を「Lck-Cre」と読み読み替えればよい。また、上記以外の遺伝子型の非ヒト動物を交配させることによってもT細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損した非ヒト動物を得ることができる。詳細については後述する。

【0019】
(第2実施形態)
1実施形態において、本発明は、Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞を移植した免疫不全非ヒト動物である、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物を提供する。

【0020】
Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞については後述する。実施例において後述するように、Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞を、放射線照射により免疫系を破壊したマウスに移植すると、自発的な大腸炎及び大腸癌の発症が認められた。

【0021】
したがって、本実施形態のモデル非ヒト動物は、大腸炎及び大腸癌を自然発症するモデル非ヒト動物として有用である。

【0022】
免疫不全非ヒト動物としては、例えば、放射線照射マウス、SCIDマウス、NOD-scidマウス、NOD/Shi-scid-IL2Rγnullマウス(NOGマウス)等が挙げられる。

【0023】
本実施形態のモデル非ヒト動物において、Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞の種と、免疫不全非ヒト動物の種とは、同一であってもよく異なっていてもよい。例えば、Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞がヒト由来であり、免疫不全非ヒト動物がマウスであってもよい。

【0024】
[非ヒト動物]
1実施形態において、本発明は、以下のいずれかの非ヒト動物を提供する。
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物。

【0025】
ここで、「wt」は遺伝子座が野生型であることを意味する。これらの非ヒト動物は、例えば、Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物と、CD4-Cre非ヒト動物又はLck-Cre非ヒト動物とを交配させることにより、その子孫の中から得ることができる。

【0026】
上記の非ヒト動物のうち、CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物は、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損し、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物となる。

【0027】
上記の非ヒト動物のうち、CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物以外の非ヒト動物の表現型は正常である。表現型が正常である非ヒト動物は、大腸炎又は大腸癌を発症しないため維持が容易である。

【0028】
必要に応じて上記の非ヒト動物のいずれか同士、又は上記の非ヒト動物のいずれかとRap1af/fRap1bf/f非ヒト動物とを交配させることにより、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物を容易に得ることができる。

【0029】
より具体的には、上記の非ヒト動物のいずれか同士、又は上記の非ヒト動物のいずれかとRap1af/fRap1bf/f非ヒト動物とを交配させると、子孫の中にCD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物が出現する。これらの非ヒト動物は、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損し、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物となる。

【0030】
したがって、上記の非ヒト動物及びRap1af/fRap1bf/f非ヒト動物は、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物製造用非ヒト動物であるということもできる。

【0031】
ここで、「これらの非ヒト動物のいずれか同士を交配させる」とは、これらの非ヒト動物から選択される1種同士を交配させること、及びこれらの非ヒト動物から選択される1種と、これらの非ヒト動物から選択される当該1種以外の非ヒト動物とを交配させることを含む。

【0032】
より詳細には、以下の非ヒト動物から選択されるいずれか1種同士を交配させると、子孫の中にCD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物が出現する。なお、以下の非ヒト動物は、上述した非ヒト動物のうち、Rap1awt/wt又はRap1bwt/wtの遺伝子型を有しないものである。
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物。

【0033】
また、CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、及び
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
からなる群より選択される1種の非ヒト動物と、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、及び
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
からなる群より選択される1種の非ヒト動物とを交配させると、子孫の中に、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損した非ヒト動物が出現する。

【0034】
[Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞]
1実施形態において、本発明は、Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞を提供する。実施例において後述するように、本実施形態のT細胞を免疫不全非ヒト動物に移植することによっても、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物を作製することができる。

【0035】
本実施形態のT細胞は、例えば、上述した第1実施形態の大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物から採取したT細胞であってもよい。非ヒト動物からのT細胞の採取は、常法により行うことができる。例えば、ヒト又は非ヒト動物の血液等から採取したリンパ球を、T細胞を特異的に認識する抗体で染色し、T細胞をセルソーターで分取してもよいし、磁気ビーズ及びマグネットスタンド等を用いて分取してもよい。

【0036】
本実施形態のT細胞はヒト由来であってもよく、非ヒト動物由来であってもよい。また、本実施形態のT細胞は、初代細胞であってもよく、樹立された細胞株であってもよい。

【0037】
本実施形態のT細胞は、例えばゲノム上のRap1aアレルの一部又は全部、及びRap1bアレルの一部又は全部が欠失(ノックアウト)したT細胞であってもよい。あるいは、例えばsiRNA、shRNA等の導入によりRap1a及びRap1bの発現が抑制された(ノックダウンされた)T細胞であってもよい。

【0038】
例えば、ヒトRap1a遺伝子のGenbankアクセッション番号はNM_001010935であり、ヒトRap1b遺伝子のGenbankアクセッション番号はNM_001010942である。本実施形態のT細胞の種がヒト以外の動物である場合には、各動物種におけるRap1a及びRap1bが欠損していればよい。

【0039】
[大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物の製造方法]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、以下のいずれかの非ヒト動物同士、又は以下のいずれかの非ヒト動物とRap1af/fRap1bf/f非ヒト動物とを交配させて、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損した非ヒト動物を得る工程を備え、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損した前記非ヒト動物が大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物である、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物の製造方法を提供する。
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/-Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
CD4-Cre+/+Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/-Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1awt/wtRap1bf/f非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/wtRap1bwt/wt非ヒト動物、
Lck-Cre+/+Rap1af/fRap1bwt/wt非ヒト動物。

【0040】
大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物は、上記の非ヒト動物、Rap1af/fRap1bf/f非ヒト動物、Lck-Cre非ヒト動物、CD4-Cre非ヒト動物等としてそれぞれ維持しておくことができる。特に、表現型が正常である非ヒト動物は、大腸炎又は大腸癌を発症しないため維持が容易である。そして、必要な時にこれらの非ヒト動物を交配させることにより、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物を製造することができる。

【0041】
(第2実施形態)
1実施形態において、本発明は、上述した、Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞を免疫不全非ヒト動物に移植する工程を備える、大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物の製造方法を提供する。

【0042】
本実施形態の製造方法によっても大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物を製造することができる。

【0043】
[大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法]
(第1実施形態)
1実施形態において、本発明は、被検物質の存在下又は非存在下で、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球の、L-セレクチンリガンド上、MadCAM-1上又はP-セレクチン上におけるローリング活性を測定する工程と、前記被検物質の存在下における前記ローリング活性が、前記被検物質の非存在下における前記ローリング活性と比較して低下した場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法を提供する。

【0044】
被検物質としては、例えば化合物ライブラリー等を用いることができ、後述する他の実施形態のスクリーニング方法においても同様である。

【0045】
Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球は、上述した、Rap1a及びRap1bを欠損したT細胞であってもよい。あるいは、初代細胞又は細胞株であるリンパ球細胞において、Rap1a及びRap1bをノックアウト又はノックダウンした細胞であってもよい。ここで、リンパ球細胞はT細胞であってもよく、例えばB細胞等のT細胞以外のリンパ球であってもよい。

【0046】
本実施形態のスクリーニング方法において、「L-セレクチンリガンド上」とは、例えばL-セレクチンタンパク質のリガンド、すなわち、末梢リンパ節アドレッシン(peripheral node addressin、PNAd)分子を発現した血管内皮細胞表面であってもよく、末梢リンパ節アドレッシン分子をコートした支持体表面等であってもよい。

【0047】
末梢リンパ節アドレッシン分子としては、例えばGlycosylation-dependent cell adhesion molecule(GlyCAM)、Nepmucin(CD300LG)、6硫酸化シアリルルイスX(sLeX)等が挙げられる。

【0048】
また、「MadCAM-1上」とは、例えばMadCAM-1タンパク質を発現した血管内皮細胞表面であってもよく、MadCAM-1タンパク質をコートした支持体表面等であってもよい。例えばマウスMadCAM-1タンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_038619であり、ヒトMadCAM-1タンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_570116である。

【0049】
また、「P-セレクチン上」とは、例えばP-セレクチンタンパク質を発現した血管内皮細胞表面であってもよく、P-セレクチンタンパク質をコートした支持体表面等であってもよい。例えばマウスP-セレクチンタンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_035477であり、ヒトP-セレクチンタンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_002996である。

【0050】
ローリングとは、リンパ球がL-セレクチンリガンド上、MadCAM-1上又はP-セレクチン上等の表面を転がる現象である。ローリング活性が上昇するとは、ローリングが発生する頻度が上昇することを意味し、ローリング活性が低下するとは、ローリングが発生する頻度が低下することを意味する。ローリングが発生する頻度は、例えば、単位時間あたりにリンパ球がローリングを起こした回数を測定すること等により測定することができる。

【0051】
より具体的には、例えば、上記のL-セレクチンリガンド、MadCAM-1又はP-セレクチンを有する表面を備えたチャンバー内にリンパ球を入れて培地を灌流させ、リンパ球のローリングを計測する、フロー接着アッセイにより、ローリング活性を測定することができる。培地の灌流は、例えばシリンジポンプを用いて約2dyn/cmの層流下を発生させること等により行うことができる。

【0052】
リンパ球が内皮細胞に接着する過程は、例えば、ローリング、一時的な接着(0.5~10秒の滞留時間)及び安定な接着(10秒を超える滞留時間)に分けることができる。本実施形態のスクリーニング方法において、ローリングの発生頻度を測定する場合には、一時的な接着の発生頻度及び安定な接着の発生頻度を含めてもよいし、これらを除外してローリングのみの発生頻度を測定してもよい。

【0053】
実施例において後述するように、発明者らは、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球は、Rap1a及びRap1bを欠損していないリンパ球と比較して、L-セレクチンリガンド上、MadCAM-1上又はP-セレクチン上におけるローリング活性が有意に上昇することを明らかにした。したがって、当該ローリング活性の上昇を抑制する被検物質は、大腸炎又は大腸癌の治療剤となり得る。

【0054】
(第2実施形態)
1実施形態において、本発明は、被検物質の投与下又は非投与下で、上述した大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物を飼育する工程と、前記非ヒト動物の大腸炎又は大腸癌の発症の程度を測定する工程と、前記被検物質の投与下における大腸炎又は大腸癌の発症の程度が、前記被検物質の非投与下における大腸炎又は大腸癌の発症の程度と比較して低下した場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法を提供する。

【0055】
大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物としては、上述した第1実施形態の非ヒト動物であってもよいし、上述した第2実施形態の非ヒト動物であってもよい。

【0056】
被検物質の投与は、例えば飲水中への添加、食餌中への添加、直接飲ませる等の方法により経口的に行ってもよいし、例えば静脈注射等により非経口的に行ってもよい。

【0057】
大腸炎又は大腸癌の発症の程度を測定する方法は、特に制限されず、例えば、体重の変化を測定する方法、大腸の組織切片の顕微鏡観察により評価する方法、癌マーカーの量を測定する方法等が挙げられる。

【0058】
大腸炎又は大腸癌モデル非ヒト動物に投与した場合に、大腸炎又は大腸癌の発症の程度を低下させる被検物質は、大腸炎又は大腸癌の治療剤となり得る。

【0059】
(第3実施形態)
1実施形態において、本発明は、被検物質の存在下又は非存在下で、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球を培養する工程と、前記リンパ球におけるERMタンパク質のリン酸化レベルを測定する工程と、前記被検物質の存在下における前記リン酸化レベルが、前記被検物質の非存在下における前記リン酸化レベルと比較して上昇していた場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法を提供する。

【0060】
Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球としては、上述した第1実施形態のスクリーニング方法におけるものと同様のものを用いることができる。

【0061】
ERMタンパク質としては、Ezrinタンパク質、Radixinタンパク質、Moesinタンパク質等が挙げられる。例えば、マウスEzrinタンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_033536であり、ヒトEzrinタンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_001104547である。また、例えばマウスRadixinタンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_001098086であり、ヒトRadixinタンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_001247421である。また、例えばマウスMoesinタンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_034963であり、ヒトMoesinタンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_002435である。

【0062】
実施例において後述するように、発明者らは、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球では、ERMタンパク質のリン酸化レベルが低下することを明らかにした。したがって、被検物質の存在下でRap1a及びRap1bを欠損したリンパ球を培養した場合に、上記のERMタンパク質のリン酸化レベルの低下を抑制する被検物質は、大腸炎又は大腸癌の治療剤となり得る。

【0063】
(第4実施形態)
1実施形態において、本発明は、被検物質の存在下又は非存在下で、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球を培養する工程と、前記リンパ球におけるLOKタンパク質のキナーゼ活性を測定する工程と、前記被検物質の存在下における前記キナーゼ活性が、前記被検物質の非存在下における前記キナーゼ活性と比較して上昇していた場合に、前記被検物質は大腸炎又は大腸癌の治療剤であると判定する工程と、を備える、大腸炎又は大腸癌の治療剤のスクリーニング方法を提供する。

【0064】
Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球としては、上述した第1実施形態のスクリーニング方法におけるものと同様のものを用いることができる。

【0065】
例えば、マウスLOKタンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_033314であり、ヒトLOKタンパク質のGenbankアクセッション番号はNP_005981である。

【0066】
実施例において後述するように、発明者らは、Rap1a及びRap1bを欠損したリンパ球では、LOKタンパク質のキナーゼ活性が低下することを見出した。したがって、被検物質の存在下でRap1a及びRap1bを欠損したリンパ球を培養した場合に、上記のキナーゼ活性の低下を抑制する被検物質は、大腸炎又は大腸癌の治療剤となり得る。

【0067】
LOKタンパク質のキナーゼ活性は、例えば、リンパ球の破砕物を[γ-32P]ATPを含有するバッファー中で、LOKタンパク質の基質であるミエリン塩基性タンパク質(MBP)と反応させ、MBPに取り込まれた32Pの放射活性を測定すること等により測定することができる。
【実施例】
【0068】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
[細胞及びマウス]
CD3陽性T細胞又はCD4陽性T細胞は、Rap1欠損マウス又はフィラミン(FLN)欠損マウスのリンパ節又は脾臓から、MidiMACS(ミルテニーバイオテク社)又はセルソーター(型式「moFloXDP」、ベックマンコールター社)を用いて分離した。Rap1aのエクソン2~3がLoxP配列で挟まれたRap1af/fマウス、Rap1bのエクソン1がLoxP配列で挟まれたRap1bf/fマウス、FLNaのエクソン2~7がLoxP配列で挟まれたFLNaf/fマウスは、特定病原体除去環境下で維持した。これらのマウスはLck-Creマウス又はCD4-Creマウスと交配し、T細胞特異的にRap1a、Rap1b又はFLNaを欠損したマウスを得た。全ての動物実験は、北里大学動物実験委員会に承認されたプロトコールにしたがって行った。
【実施例】
【0070】
[抗体及び試薬]
蛍光標識された抗マウスCD3、CD4、CD8、CD62L、CD44,CXCR3、CCR7、αβ、Foxp3抗体(eBioscience社)、抗マウスLFA-1抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社)、抗ヒトLFA-1抗体(TS2/4、TS1/18;American Type Culture Collection)、抗T7抗体(ノバジェン社)、抗RFP抗体(MBL社)、抗Spa-1、FLNa、FLNb抗体(Bethyl社)、抗Rap1抗体(BDバイオサイエンス社)、抗ERM、抗リン酸化ERM抗体(セルシグナリング社)、LFA-1の活性化エピトープに対する抗体(MEM148、アブカム社)、抗FLAG抗体(インビトロジェン社)、抗β-アクチン抗体(シグマ社)、抗Halo抗体及びHaloLink(商標)レジン(プロメガ社)、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ラットIgG抗体、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ラットIgG抗体(セルシグナリング社)を、フローサイトメトリー、免疫沈降、イムノブロッティングに使用した。LFA-1の活性化エピトープに対する抗体(KIM127)は、T.Springer博士(ハーバード大学医学大学院、ボストン)より提供された。マウスCXCL12、CCL21、CXCL10はR&Dシステムズ社より購入した。サイトカイン産生はBD(商標)Cytometric Bead Array(CBA)solutions(BDバイオサイエンス社)を用いて測定した。
【実施例】
【0071】
[DNA構築物]
Rap1のドミナントネガティブ変異体であるRap1N17、及びRap1のドミナントアクティブ変異体であるRap1V12は、pcDNA3.1ベクター(ライフテクノロジーズ社)又はレンチウイルスベクター(CSII-EF-MCS、理化学研究所、三好浩之博士より提供された。)に導入して発現させた。
【実施例】
【0072】
フィラミンa(FLNa)のリピート1~3、4~7、8~11及び21をコードするcDNA、又はβ2の細胞質領域をコードするcDNAをpGEXベクター(GEヘルスケアバイオサイエンス社)にサブクローニングし、大腸菌BL21株内でグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)融合タンパク質として発現させた。Haloタグを結合したFLNa cDNAは、かずさDNA研究所より購入した。また、FLNaのリピート3をKOD-Plus-mutagenesis kit(東洋紡社)を用いて削除し、pcDNA3.1ベクター(ライフテクノロジーズ社)にサブクローニングした。
【実施例】
【0073】
リン酸化状態を模倣したヒトEzrinは、cDNA(pFN21AE1417、かずさDNA研究所)の第567位のスレオニンを、mutagenesis kitを使用してグルタミン酸にシングルポイント置換し、N末端にFLAGタグを有するEzrin変異体として、pcDNA3.1ベクター(ライフテクノロジーズ社)のNotIサイトにサブクローニングした。
【実施例】
【0074】
FLAGタグを結合したLOKの発現ベクターは、ヒトLOKのcDNA及びFLAGのcDNAを、pcDNA3.1ベクター(ライフテクノロジーズ社)のEcoRI/XhoI及びXhoI/XbaIサイトにそれぞれサブクローニングして作製した。
【実施例】
【0075】
EGFPタグを結合したRal-GDS-RBDの発現ベクターは、EGFPをコードするcDNAとヒトRal-GDSのRBD(アミノ酸第772~868)をpcDNA3.1ベクター(ライフテクノロジーズ社)のNheI/HindIII及びBamHI/EcoRIサイトにそれぞれ導入することにより作製した。
【実施例】
【0076】
蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を基礎としたRap1活性のセンサーは、黄色蛍光タンパク質(YFP)タグを結合したRap1がモノマーの蛍光タンパク質である(mTurquoise)タグを結合したRAPL-RBDに結合されたものであり、pcDNA3.1ベクター上で作製した。全ての構築物は塩基配列のシークエンスにより確認した。
【実施例】
【0077】
[RNA干渉]
Rap1a、Rap1b、FLNa、FLNbを標的とするshRNA又は対照のスクランブルshRNAをGFPを含む又は含まないレンチウイルスベクター(理化学研究所、三好浩之博士より提供された。)を用いてBAF/LFA-1細胞に導入した。shRNAはレンチウイルスベクターのH1プロモーターカセットの下流に導入した。レンチウイルス粒子の調製及び濃縮は常法により行った。遺伝子導入効率は90%以上であった。
【実施例】
【0078】
Rap1aのsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号1に示す。また、Rap1bのsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号2に示す。また、FLNaのsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号3に示す。また、FLNbのsiRNAのセンス鎖の塩基配列を配列番号4に示す。
【実施例】
【0079】
[フロー接着アッセイ]
フロー接着アッセイは、ヒト内皮細胞株LS12上、又はNepmucin、GlyCAM-1若しくはMadCAM-1-IgG(リン酸バッファー(PBS)中5μg/mL)でコートしたプレート上で行った。ここで、MadCAM-1-IgGとは、MadCAM-1タンパク質とIgGタンパク質の定常領域との融合タンパク質を意味する。
【実施例】
【0080】
マウスICAM-1を発現した又は発現していない、ヒト内皮細胞株LS12を、実験の1日前にフィブロネクチンコートされたディスク上で培養した。LS12の単層は、TNFαで最後の6時間処理した。さらに、単層は、フローチャンバー(型式「FCS2」、Bioptechs社)に設置する前に、場合によりケモカイン(CXCL12、CCL21又はCXCL10、0.5μM)で処理した。層流は、自動シリンジポンプ(ハーバードアパレイタス社)を用いて発生させた。リンパ球(1×10個/mL)又はBAF/L-セレクチン/LFA-1細胞(1×10個/mL)を予め温めた10%ウシ血清及び1mM HEPESを含むRPMI1640培地中に懸濁し、37℃、2dyn/cmで注入した。いくつかの実験においては、細胞は記載した抗体で処理した。0.32mmの顕微鏡視野下の位相差イメージをオリンパス社 Plan Fluor DL10×/0.3NA対物レンズを用いて3.3m秒間隔で記録した。リンパ球のフレーム毎の移動及び速度は、MetaMorphソフトウエア(モレキュラーデバイス社)を用いて自動的に個々の細胞を追跡することにより計算した。LS12細胞、PNAd又はMadCAM-1との相互作用は、ローリング、一時的な接着(0.5~10秒の滞留時間)及び安定な接着(10秒を超える滞留時間)に基づいて分類した。1分間あたりにローリング、一時的な接着及び安定な接着を示した細胞の頻度を示した。
【実施例】
【0081】
[Treg抑制アッセイ]
ナイーブT細胞(CD4CD45RBhighCD25)及び制御性T細胞(Treg;CD4CD45RBlowCD25)を、脾細胞及びリンパ節由来の単細胞懸濁液からFACSソーティングにより分取した。ソーティング後、ナイーブT細胞は5,6-カルボキシフルオレセイン二酢酸(CFSE、インビトロジェン社)で標識し、完全RPMI培地中で5×10個/mLに調製した。非標識のTreg細胞は2.5×10個/mLに調製した。続いて、これらの細胞をラウンドボトム96ウェルプレート上でTreg細胞:ナイーブT細胞の比が1:2及び1:4となるように共培養した。続いて、細胞を1μg/mLの可溶性抗CD3抗体及び2μg/mLの抗CD28抗体で刺激した。48時間後に、細胞を回収し、ナイーブT細胞の増殖をCFSEの希釈及びフローサイトメトリー解析により決定した。
【実施例】
【0082】
[細胞内サイトカイン染色]
CD4陽性T細胞を培地から回収し、ブレフェルジンA(10μg/mL)の存在下、ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート(PMA、50ng/mL)及びイオノマイシン(1μg/mL)で37℃、4時間刺激した。PECy7標識抗CD4抗体(RM4-5)で染色した後、細胞を4%パラホルムアルデヒド-リン酸バッファー(PBS)で10分間固定し、0.5%サポニン及び1%ウシ血清を含むHBSSバッファーで透過処理し、FITC標識抗インターフェロン(IFN)-γ抗体(XMG1.1)、PE標識抗インターロイキン(IL)-17A抗体(TC11-18H10)、及びAPC標識抗IL-4抗体(11B11)で30分間染色した。続いて、細胞を、0.5%サポニン及び1%ウシ血清を含むHBSSバッファーで2回洗浄し、1%ウシ血清を含むHBSSバッファーに懸濁し、フローサイトメトリー解析を行った。
【実施例】
【0083】
[統計解析]
実験群を多重比較する場合には、分散分析(ANOVA)を行った後にボンフェローニ補正した両側多重t検定を行い、二群間で比較する場合には、スチューデントの両側t検定を行った。いずれの場合においても、5%未満のP値を有意であると判断した。
【実施例】
【0084】
<I.Rap1の欠損はL-セレクチン依存性のローリングを促進した>
[実験例1]
発明者らは、以前に、pro-B細胞株であるBAFにヒトL-セレクチン及びLFA-1を発現させた細胞株(BAF/LFA-1/L-セレクチン)及び内皮細胞であるLS12を用いて、L-セレクチン及びLFA-1に媒介されるリンパ球の接着カスケードを再構成した実験系を確立した。
【実施例】
【0085】
上記の実験系におけるRap1の役割を検討するため、発明者らは、BAF/LFA-1/L-セレクチン細胞におけるRap1を、Rap1a及びRap1bを標的としたshRNAを発現するレンチウイルスの導入によりノックダウンした。
【実施例】
【0086】
Rap1a及びRap1bに対するshRNAをコードするレンチウイルスを導入したBAF/LFA-1/L-セレクチン細胞(以下、「Rap1KD」細胞という場合がある。)を作製した。対照として、スクランブルshRNAをコードするレンチウイルスを導入したBAF/LFA-1/L-セレクチン細胞を用いた。これらの細胞の細胞破砕物をイムノブロッティングに供し、抗Rap1抗体を用いてRap1タンパク質を検出した。
【実施例】
【0087】
図1は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。3回の実験の代表的な結果を示す。アクチンはローディングコントロールとして検出した。その結果、Rap1a及びRap1bのノックダウン細胞(Rap1KD細胞)におけるRap1タンパク質の発現レベルは対照細胞であるBAF/LFA-1/L-セレクチン細胞の約20%に減少したことが確認された。
【実施例】
【0088】
[実験例2]
対照細胞、Rap1KD細胞、Spa-1発現細胞、Rap1KD細胞にRap1N17を発現させた細胞及びRap1KD細胞にRap1V12を発現させた細胞をLS12細胞上で、100nM CXCL12の存在下又は非存在下、2dyn/cmの層流下で灌流させた。ここで、Rap1N17はRap1のドミナントネガティブ変異体であり、Rap1V12はRap1のドミナントアクティブ変異体である。また、Spa-1は、Rap1特異的なGTPアーゼ活性化タンパク質である。
【実施例】
【0089】
続いて、各細胞と内皮細胞LS12との相互作用を示すデジタルイメージを30フレーム/秒で撮影した。100個以上の細胞の接着イベントを測定し、図2に示すように、ローリング、一時的接着、安定な接着に分類した。図2において、データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。図2中、「*1」は、対照細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、Rap1KD細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0090】
CXCL12により誘導される、LFA-1に媒介される細胞の接着は、Rap1の欠損により阻害されることが知られている。これに対し、意外なことに、Rap1KD細胞の内皮細胞上でのローリングの頻度は、CXCL12の非存在下において有意に上昇した。
【実施例】
【0091】
また、Spa-1の発現は、CXCL12により誘導される細胞の接着を阻害したが、ローリングイベントの発生頻度を上昇させなかった。この結果は、Rap1-GDPの減少がローリングを促進することを示す。
【実施例】
【0092】
この結果と一致して、ドミナントアクティブ変異体であるRap1V12をRap1KD細胞で発現させてもローリング頻度を低下させなかったが、ドミナントネガティブ変異体であるRap1N17をRap1KD細胞で発現させるとローリング頻度が低下した。この結果は、GDPからGTPへの変換が、キャプチャー及びそれに続くローリングを促進することを示す。
【実施例】
【0093】
[実験例3]
続いて、発明者らは、初代マウスT細胞を用いて、リンパ球接着カスケードにおけるRap1の機能を解析した。
【実施例】
【0094】
Rap1a及びRap1bのコンディショナルダブルノックアウトマウス(Rap1CKO)を作製するために、Rap1aアレル及びRap1bアレルがそれぞれloxP配列で挟まれたマウス(以下、「Rap1f/f」マウスという場合がある。)と、T細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するLck-Creマウス又はCD4-Creマウスとを交配させた。得られた子孫の中に、T細胞特異的にRap1を欠損したマウス(以下、「Rap1-/-」マウスという場合がある。)が得られた。
【実施例】
【0095】
Rap1f/fマウス由来のT細胞と、Rap1-/-マウス由来のT細胞の細胞破砕物を、抗Rap1抗体を用いたイムノブロッティングに供した。図3はイムノブロッティングの結果を示す写真である。3回の実験の代表的な結果を示す。アクチンタンパク質は、ローディングコントロールとして検出した。
【実施例】
【0096】
その結果、Rap1-/-マウス由来のT細胞はRap1タンパク質を欠損していることが確認された。
【実施例】
【0097】
[実験例4]
続いて、Rap1f/fマウス由来のT細胞(以下、「Rap1f/fT細胞」という場合がある。)及びRap1-/-マウス由来のT細胞(以下、「Rap1-/-T細胞」という場合がある。)を、マウスICAM-1を発現させたLS12細胞上で、100nM CCL21の存在下又は非存在下、2dyn/cmの層流下で灌流させた。
【実施例】
【0098】
層流下で、T細胞と内皮細胞との相互作用を示すデジタルイメージを30フレーム/秒で撮影した。100個以上の細胞の接着イベントを測定し、図4に示すように、ローリング、一時的接着、安定な接着に分類した。図4において、データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。図4中、「*」は、対照のRap1f/fT細胞における合計頻度と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0099】
その結果、Rap1-/-T細胞は、内皮細胞上への、ケモカインに誘導される安定な接着イベントを欠損していた。しかしながら、Rap1f/fT細胞と比較して、CCL21の非存在下において、有意に上昇したローリングの頻度を示した。
【実施例】
【0100】
[実験例5]
図5は、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの腸間膜リンパ節由来のナイーブT細胞におけるCCR7の発現特性を示すフローサイトメトリーの代表的な結果を示すグラフである。また、図24(a)は、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの腸間膜リンパ節由来のナイーブT細胞及びエフェクターメモリー(E/M)T細胞の、LFA-1の発現特性を示すフローサイトメトリー解析の代表的な結果を示すグラフである。図5及び図24(a)に示すように、Rap1f/fT細胞及びRap1-/-T細胞におけるLFA-1及びCCR7の発現量は同程度であった。
【実施例】
【0101】
[実験例6]
続いて、発明者らは、CCL21の非存在下における、Rap1f/fT細胞及びRap1-/-T細胞のLS12細胞との相互作用に対する、抗LFA-1抗体又は抗L-セレクチン抗体の影響を検討した。
【実施例】
【0102】
Rap1f/fT細胞及びRap1-/-T細胞を抗LFA-1抗体又は抗L-セレクチン抗体の存在下又は非存在下で前処理し、各細胞の接着イベントを上記と同様にして検討した。図6(a)は、各細胞の、ローリング、一時的接着、安定な接着の頻度を示すグラフである。
【実施例】
【0103】
その結果、抗LFA-1抗体処理は、Rap1-/-T細胞のローリングの発生に影響を与えなかったが、抗L-セレクチン抗体処理は、いずれの細胞においてもローリングの発生を完全に阻害した。この結果は、Rap1の欠損が、内皮細胞上におけるL-セレクチン依存性のローリングを促進することを示す。
【実施例】
【0104】
図6(b)は、CCL21の非存在下における、Rap1f/fT細胞又はRap1-/-T細胞のLS12内皮細胞上でのローリングの速度を示すグラフである。各細胞は、抗LFA-1抗体の存在下又は非存在下で前処理した。図6(b)において、データは3回の実験における平均値±標準誤差を表す(各群についてn=100)。図6(b)中、「*」は、対照のRap1f/fT細胞と比較して、危険率0.3%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0105】
ローリングの速度は、Rap1f/fT細胞と比較して、Rap1-/-T細胞において低下した。また、この結果は、細胞の抗LFA-1抗体による前処理の影響を受けなかった。
【実施例】
【0106】
[実験例7]
続いて、Rap1KD細胞を用いて内皮細胞上の接着イベントについて検討した。まず、対照細胞であるBAF/LFA-1/L-セレクチン細胞又はRap1KD細胞でRap1のドミナントアクティブ変異体であるRap1V12を発現させた。続いて、デタッチメントアッセイにより、各細胞の、LFA-1/ICAM-1依存性の結合を静止状態に置いた後に測定した。
【実施例】
【0107】
各細胞をICAM-1上で10分間インキュベートした後、層流下(2dyn/cm)に置き、層流に耐性を示した、強く接着した細胞を数えた。結果を図7に示す。データは3回の実験における平均値±標準誤差を表す(各群に付きn=50)。その結果、Rap1V12を発現させた細胞は、ICAM-1に対する結合活性を示すことが明らかとなった。
【実施例】
【0108】
[実験例8]
続いて、CXCL12の非存在下における、対照細胞及びRap1KD細胞(BAF/LFA-1/L-セレクチン細胞)のLS12細胞との相互作用に対する、抗LFA-1抗体又は抗L-セレクチン抗体の影響を検討した。対照細胞には、スクランブルshRNAを導入した細胞を使用した。
【実施例】
【0109】
対照細胞及びRap1KD細胞を抗LFA-1抗体又は抗L-セレクチン抗体の存在下又は非存在下で前処理し、LS12細胞上で、2dyn/cmの層流下で灌流させた。続いて、各細胞の接着イベントを上記と同様にして検討した。
【実施例】
【0110】
図8(a)は、各細胞の、ローリング、一時的接着、安定な接着の頻度を示すグラフである。図8(a)において、データは3回の実験における平均値±標準誤差を表す(各群についてn=150)。
【実施例】
【0111】
その結果、抗LFA-1抗体処理は、対照細胞のローリングの発生に影響を与えなかったが、抗L-セレクチン抗体処理は、いずれの細胞においてもローリングの発生を完全に阻害した。
【実施例】
【0112】
この結果は、Rap1の欠損が、内皮細胞上におけるL-セレクチン依存性のローリングを促進することを更に支持するものである。
【実施例】
【0113】
図8(b)は、CXCL12の非存在下における、対照細胞及びRap1KD細胞のLS12内皮細胞上でのローリングの速度を示すグラフである。各細胞は、抗LFA-1抗体の存在下又は非存在下で前処理した。図8(b)において、データは3回の実験における平均値±標準誤差を表す(各群についてn=150)。図8(b)中、「*」は、対照細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0114】
[実験例9]
対照細胞及びRap1KD細胞で(緑色蛍光タンパク質)GFPを発現させ、各細胞のローリングの様子を層流下で倍率63倍の対物レンズを用いて観察した。図9は、観察結果を示す蛍光顕微鏡写真である。内皮細胞と相互作用しない対照細胞、内皮細胞上で速くローリングする(>400μm/秒)対照細胞、及び遅くローリングする(<100μm/秒)Rap1KD細胞の連続的な画像を示す。スケールバーは5μmを示す。
【実施例】
【0115】
[実験例10]
L-セレクチンへの依存性を更に検証するために、発明者らは、対照細胞及びRap1KD細胞の、精製されたGlyCAM-1又はNepmucin(CD300LG)が固定されたプレート上への接着イベントを検討した。
【実施例】
【0116】
対照細胞及びRap1KD細胞を、精製されたGlyCAM-1又はNepmucin(CD300LG)が固定されたプレート上で、2dyn/cmの層流下で灌流させた。続いて、細胞の接着イベントを上記と同様にして測定した。
【実施例】
【0117】
図10(a)は、結果を示すグラフである。データは3回の実験における平均値±標準誤差を表す(各群に付きn=50)。図10(a)中、「*1」は、対照細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0118】
図10(b)は、対照細胞及びRap1KD細胞の、GlyCAM-1又はNepmucin(CD300LG)が固定されたプレート上でのローリングの速度を示すグラフである。図10(b)中、「*2」は、対照細胞と比較して、危険率5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0119】
その結果、Rap1KD細胞では、対照細胞と比較して、ローリングの頻度が10倍以上に増加した。また、GlyCAM-1又はNepmucin(CD300LG)が固定されたプレート上におけるローリングの速度は有意に減少した。
【実施例】
【0120】
[実験例11]
対照細胞及びRap1KD細胞のローリング中の形態を検討するために、対照細胞及びRap1KD細胞でGFPを発現させ、フローチャンバーに導入し、層流下で倍率63倍の対物レンズを用いてGFPの蛍光を観察した。図11(a)は、GFPの蛍光の観察結果を示す蛍光顕微鏡写真である。スケールバーは5μmを示す。
【実施例】
【0121】
その結果、ゆっくりとローリングする(<100μm/秒)Rap1KD細胞は、いくつかのテザー様の膜の伸長を示した。また、テザーが内皮細胞に接着し、流れの上流側に向かって伸長している場合、その瞬間的な速度は50μm/秒以下に減少した。対照的に、速くローリングする(>400μm/秒)対照細胞は、内皮細胞上に明確な突出を示さなかった。
【実施例】
【0122】
図11(b)は、ゆっくりとローリングするRap1KD細胞の連続的な画像を示す。スケールバーは5μmを示す。図11(c)は、テザー様の膜の伸長を示す細胞の割合を示すグラフである。データは3回の独立した実験結果の平均値±標準誤差を表す(各群についてn=50)。図11(c)中、「*」は、対照細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0123】
[実験例12]
図12は、対照細胞及びRap1をノックダウンしたBAF/LFA-1細胞(Rap1KD)におけるL-セレクチンの局在を示す蛍光顕微鏡写真である。代表的な2個ずつの細胞の写真を示す。「DIC」は、微分干渉顕微鏡画像であることを示す。スケールバーは5μmであることを示す。図中の矢印は、ブレブ様の突出を示す。
【実施例】
【0124】
その結果、対照細胞とRap1KD細胞において、L-セレクチンの局在には違いは認められなかった。しかしながら、Rap1KD細胞は、L-セレクチンを含む複数のブレブを形成することが示された。
【実施例】
【0125】
[実験例13]
対照細胞及びRap1KD細胞を共焦点顕微鏡で観察した。図13(a)は、アクチンポリメライゼーションのマーカーである、LifeAct-mCherryを導入した対照細胞及びRap1KD細胞の顕微鏡写真である。少なくとも3回の独立した実験における代表的な2つずつの細胞の写真を示す。スケールバーは5μmを示す。
【実施例】
【0126】
図13(b)は、対照細胞及びRap1KD細胞が1分間あたりに形成するブレブの数を示すグラフであり、図13(c)は、Rap1KD細胞におけるブレブの維持時間を示すグラフである(各群についてn=50)。その結果、ブレブの数及び維持時間は、Rap1KD細胞において、対照細胞と比較して有意に高かった。
【実施例】
【0127】
[実験例14]
続いて、発明者らは、対照細胞及びRap1KD細胞をケモカインの非存在下で37℃でインキュベートした。図14はこれらの細胞の顕微鏡画像を示す写真である。その結果、Rap1KD細胞は、ケモカイン刺激の非存在下において、活発なブレブ形成を示すことが明らかとなった。また、後述するように、対照細胞は、ケモカインによる刺激の後に、一時的にブレブ形成を示した。
【実施例】
【0128】
[実験例15]
図15は、アクチンバイオセンサーであるLifeAct-mCherryを導入したRap1KD細胞のブレブの伸長及び後退を示す代表的な共焦点顕微鏡画像である。デジタルイメージは、5秒ごとに撮影した。図中の矢印はブレブを示す。スケールバーは5μmである。ブレブの伸長は、既知の他の細胞突出と異なり、アクチンポリメライゼーションを伴わないことが知られているため、これを指標としてブレブ形成を確認することができる。
【実施例】
【0129】
以上の結果は、Rap1-GDPが、テザー形成を制限することによって、内皮細胞上におけるL-セレクチン依存性キャプチャー及びローリングを抑制することを示す。
【実施例】
【0130】
<II. Rap1の欠損によりT細胞の恒常性が損なわれた>
[実験例16]
Rap1f/fT細胞又はRap1-/-T細胞に、マウスの腸間膜リンパ節内の高内皮細静脈を通過させ、ローリング又は接着の頻度を測定した。図16は結果を示すグラフである。データは4回の独立した実験結果の平均値±標準誤差を表す。図16中、「*」は、対応するRap1f/fT細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0131】
図17は、T細胞が腸間膜リンパ節内の高内皮細静脈に接着した様子を示す蛍光顕微鏡写真である。リンパ球の接着を示す生体内イメージは、異なる標識を施したRap1f/fT細胞又はRap1-/-T細胞を静脈投与してから30分後に撮影した。3回の独立した実験における代表的な結果を示す。
【実施例】
【0132】
その結果、Rap1-/-T細胞の高内皮細静脈上におけるローリングの頻度は、Rap1f/fT細胞のそれよりも有意に高かった。しかしながら、Rap1-/-T細胞は、同程度の細胞数のRap1f/fT細胞と混合してマウスに移植して30分後には、腸間膜リンパ節内の高内皮細静脈上に集積しなかった。
【実施例】
【0133】
[実験例17]
Rap1f/fT細胞及びRap1-/-T細胞を5,6-カルボキシフルオレセイン二酢酸(CFSE、インビトロジェン社)、及び、5-(及び-6)-(((4-クロロメチル)ベンゾイル)アミノ)テトラメチルローダミン(CMTMR、インビトロジェン社)でそれぞれ標識し、同細胞数ずつ混合し、通常のマウスに静脈投与した。1時間後、レシピエントマウスの血液及び腸間膜リンパ節中のリンパ球をフローサイトメトリーで解析した。図18(a)及び(b)は実験結果を示すグラフである。4回の実験の代表的な結果を示す。四角の上の数字は、Rap1f/fT細胞に対するRap1-/-T細胞の割合を示す。図18中、「Blood」は血液を表し、「LN」はリンパ節を表す(以下、同様である。)。
【実施例】
【0134】
図18(c)は、腸間膜リンパ節中のRap1f/fT細胞に対するRap1-/-T細胞の割合を示すグラフである(n=4回の実験)。図18(c)中の「*」は、Rap1f/fT細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。その結果、Rap1-/-T細胞は、Rap1f/fT細胞の10%未満の効率で腸間膜リンパ節にホーミングすることが明らかとなった。
【実施例】
【0135】
[実験例18]
4~5週齢のRap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの血液中及び腸間膜リンパ節中のT細胞数を計測した。図19(a)及び(b)は、結果を示すグラフである(n=10)。データは平均値±標準誤差を表す。
【実施例】
【0136】
図19(a)は血液の結果を示し、図19(b)は腸間膜リンパ節の結果を示す。図19(b)中、「*」は、Rap1f/fマウスと比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。図19中、「mLN」は腸間膜リンパ節を表す(以下、同様である。)。
【実施例】
【0137】
その結果、4~5週齢において、Rap1-/-マウスの腸間膜リンパ節におけるT細胞の数は、Rap1f/fマウスの腸間膜リンパ節におけるT細胞の数の約10%に減少することが明らかとなった。また、同時に、Rap1-/-マウスの血液中のT細胞の数は、Rap1f/fマウスの血液中のT細胞の数と比較して増加することが明らかとなった。
【実施例】
【0138】
[実験例19]
図20(a)及び(b)は、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの腸間膜リンパ節由来のリンパ球の代表的なフローサイトメトリー特性を示すグラフである。図20(a)はRap1f/fマウスの結果を示し、図20(b)はRap1-/-マウスの結果を示す。横軸はCD3陽性細胞にゲートをかけた細胞集団におけるCD62Lの発現強度を示し、縦軸は、CD3陽性細胞にゲートをかけた細胞集団におけるCD44の発現強度を示す。
【実施例】
【0139】
その結果、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの腸間膜リンパ節由来のT細胞は、90%以上がナイーブT細胞の表現型を有することが明らかとなった。
【実施例】
【0140】
[実験例20]
図21(a)~(d)は、それぞれ、9週齢のRap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの、血液、腸間膜リンパ節、パイエル板(PP)、結腸粘膜固有層(Colon LP)中のナイーブT細胞及びCD4陽性エフェクターメモリーT細胞(以下、「TEM」細胞という場合がある。)の数を示すグラフである。データは平均値±標準誤差を表す。
【実施例】
【0141】
図21(b)~(c)中、「*1」は、Rap1f/fマウスと比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、Rap1f/fマウスと比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。また、「*3」は、Rap1f/fマウスと比較して、危険率0.5%未満で有意差があることを表す。また、「*4」は、Rap1f/fマウスと比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0142】
[実験例21]
図22(a)~(c)は、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの、血液、腸間膜リンパ節、結腸粘膜固有層中のリンパ球の代表的なフローサイトメトリー特性を示すグラフである。
【実施例】
【0143】
図22(a)は血液の結果を示し、図22(b)は腸間膜リンパ節の結果を示し、図22(c)は結腸粘膜固有層の結果を示す。横軸はCD4陽性細胞にゲートをかけた細胞集団におけるCD62Lの発現強度を示し、縦軸は、CD4陽性細胞にゲートをかけた細胞集団におけるCD44の発現強度を示す。
【実施例】
【0144】
8週齢以上の週齢では、Rap1-/-マウスの腸間膜リンパ節及びパイエル板におけるCD62LCD44EM細胞の割合は、62.5±4.3%及び84.2%±6.4%に増加した。これに対し、Rap1f/fマウスにおいては、それぞれ5.8±1.8%及び39.3±3.2%であった。
【実施例】
【0145】
血液及び腸間膜リンパ節におけるTEM細胞の数には、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの間で有意な差はなかった。また、パイエル板におけるTEM細胞の数は、Rap1f/fマウスと比較してRap1-/-マウスにおいて低かった。それにもかかわらず、結腸粘膜固有層におけるTEM細胞の数は、Rap1f/fマウスと比較してRap1-/-マウスにおいて4倍以上に増加していた。この結果は、Rap1-/-ナイーブT細胞が腸間膜リンパ節にホーミングできなかった結果と対照的である。
【実施例】
【0146】
[実験例22]
Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの結腸の凍結切片を抗CD4抗体及び抗CD8抗体で染色し、蛍光顕微鏡で観察した。
【実施例】
【0147】
図23(a)~(c)は、抗CD4抗体及び抗CD8抗体で染色した結果を示す蛍光顕微鏡写真である。図23(a)はRap1f/fマウスの結果を示す(倍率40倍)。図23(b)はRap1-/-マウスの結果を示す(倍率40倍)。図23(c)は図23(b)の領域cを拡大した蛍光顕微鏡写真である(倍率200倍)。
【実施例】
【0148】
その結果、CD8陽性T細胞ではなく、CD4陽性T細胞がRap1-/-マウスの結腸粘膜固有層に浸潤したことが明らかとなった。
【実施例】
【0149】
[実験例23]
図24(a)及び(b)は、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの腸間膜リンパ節由来のナイーブT細胞及びエフェクターメモリー(E/M)T細胞の、LFA-1(図24(a))及びαβ(図24(b))の発現特性を示すフローサイトメトリー解析の代表的な結果である。その結果、αβを高発現する、腸指向性のTEM細胞の数は、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの腸間膜リンパ節において全く同数であった。
【実施例】
【0150】
これらの結果は、Rap1の欠損はTEM細胞の結腸へのホーミングを促進することを示す。
【実施例】
【0151】
<III. Rap1コンディショナルノックアウトマウスは12週齢で大腸癌を伴う大腸炎を自然発症した>
[実験例24]
発明者らは、Rap1af/fRap1bf/fマウス(以下、「Rap1f/fマウス」という場合がある。)と、Lck-Creマウス又はCD4-Creマウスとを交配させることにより、T細胞特異的にRap1a及びRap1bを欠損したマウス(以下、「Rap1-/-マウス」という場合がある。)を作製した。
【実施例】
【0152】
Rap1-/-マウスを解析した結果、9週齢で消耗性疾患を発症し、体重の減少や下痢が認められることが明らかとなった。
【実施例】
【0153】
図25は、Rap1-/-マウス(以下、「-/-」と表す場合がある。)及び対照としてのRap1af/fRap1bf/fマウス(以下、「f/f」と表す場合がある。)の体重の変化を測定したグラフである(n=10)。体重は毎日測定し、測定開始時の体重を基準とした百分率で示した。データは平均値±標準誤差を表す。
【実施例】
【0154】
図25中、「*1」は、対応するRap1f/fマウスと比較して、危険率2%未満で有意差があることを表し、「*2」は危険率1%未満で有意差があることを表し、「*3」は危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0155】
Rap1-/-マウスは、12週齢において、腸重積症の発症及び脱肛が観察された。組織学的な解析の結果、全てのRap1-/-マウスが重篤な大腸炎を発症していることが明らかとなった。
【実施例】
【0156】
図26は、8~12週齢のRap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの代表的な結腸の形態を示す写真である。「#1」は、Rap1-/-マウスの結腸における腸重積症を示す。「#2」は、Rap1-/-マウスの盲腸と結腸の間に発症した腺腫(癌)を示す。図26中のバーは1cmを表す。
【実施例】
【0157】
図27は、Rap1-/-マウスの大腸炎によるダメージを光学顕微鏡観察に基づいて評価した結果を示すグラフである。縦軸は、組織学的スコアを表す。組織学的スコアは以下の基準に基づいて評価した。データは平均値±標準誤差を表す。図27中、「*」は、対応するRap1f/fマウスと比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
グレード0:変化は認められない。
グレード1:上皮の最小限の肥厚化を伴うか又は伴わない、粘膜への炎症性細胞の最小限の孤立散在性の浸潤。
グレード2:軽度の孤立散在性から散在性の炎症性細胞の浸潤、しばしば粘膜下層にまで拡張し、びらんを伴い、軽度から中度の上皮の肥厚化及びゴブレット細胞からの軽度から中度のムチンの欠失を伴う。
グレード3:しばしば経壁的である、中度の炎症性細胞の浸潤、中度から重度の上皮の肥厚化及びムチンの欠失を伴う。
グレード4:しばしば経壁的であり、陰窩膿瘍及び時々潰瘍を伴う顕著な炎症性細胞の浸潤、顕著な上皮の肥厚化及びムチンの欠失を伴う。
グレート5:重度の潰瘍及び腸腺の消失を伴う顕著で経壁的な炎症。
【実施例】
【0158】
続いて、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの結腸のパラフィン包埋組織切片をヘマトキシリン・エオジン染色し、光学顕微鏡で組織構造を観察した。図28(a)はRap1f/fマウスの盲腸の組織構造を示す顕微鏡写真である(倍率40倍)。図28(b)はRap1f/fマウスの結腸の組織構造を示す顕微鏡写真である(倍率40倍)。図28(c)はRap1-/-マウスの大腸の炎症部位の組織構造を示す顕微鏡写真である(倍率40倍)。図28(d)は、図28(b)の領域(d)を拡大した顕微鏡写真である(倍率200倍)。図28(e)は、図28(b)の領域(e)を拡大した顕微鏡写真である(倍率200倍)。バーは200μmを表す。図28(d)及び(e)は、Rap1-/-マウスの結腸の炎症部位において、リンパ球が浸潤しており、腸腺が消失していることを示す。図28(f)はRap1-/-マウスに発症した腺腫の組織構造を示す顕微鏡写真である。図28(g)は図28(f)の領域(g)を拡大した顕微鏡写真である(倍率200倍)。図28(h)は図28(f)の領域(h)を拡大した顕微鏡写真である(倍率200倍)。
【実施例】
【0159】
図29(a)はRap1-/-マウスの大腸の炎症部位における陰窩膿瘍を示す顕微鏡写真である(倍率40倍)。図29(a)の右下の領域は、図29(a)の四角で囲まれた領域を拡大した顕微鏡写真である(倍率200倍)。
【実施例】
【0160】
図29(b)はRap1-/-マウスの大腸における類上皮細胞肉芽腫を示す顕微鏡写真である(倍率40倍)。図29(b)の右下の領域は、図29(b)の四角で囲まれた領域を拡大した顕微鏡写真である(倍率200倍)。
【実施例】
【0161】
図29(c)はRap1-/-マウスの腸腺が消失した領域の組織構造を示す顕微鏡写真である(倍率40倍)。図29(d)は、図29(c)の領域(d)を拡大した顕微鏡写真である(倍率200倍)。図29(e)は、図29(d)と同一の領域を抗CD3抗体及び抗B220抗体で染色した結果を示す蛍光顕微鏡写真である(倍率200倍)。なお、CD3はT細胞のマーカーであり、B220はB細胞のマーカーである。
【実施例】
【0162】
図28~29に示すように、Rap1-/-マウスはしばしば陰窩膿瘍及び類上皮細胞肉芽腫を示した。これらはクローン病の特徴である。しかしながら、デキストラン硫酸ナトリウムにより誘導されるT細胞非依存的な大腸炎等に認められる、大腸損傷依存的な炎症と対照的に、Rap1-/-マウスでは重篤な潰瘍も好中球の浸潤も認められなかった。さらに、Rap1-/-マウスにおけるこれらの症状は、常に、軽度の異型性を伴う、大腸炎に関連した管状腺腫の発症を伴っていた。
【実施例】
【0163】
[実験例25]
続いて、Rap1-/-マウスの結腸粘膜固有層のCD4エフェクターメモリーT(TEM)細胞のサイトカイン分泌特性を検討した(n=5)。具体的には、Rap1-/-マウスの結腸粘膜固有層のT細胞を、ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート(PMA)及びイオノマイシンで刺激した。続いて、フローサイトメトリーを用いて、インターフェロン(IFN)-γ、インターロイキン(IL)-17及びIL-4の産生に基づいて、CD4陽性細胞中のT1細胞及びT17細胞、又はT1細胞及びT2細胞の割合を測定した。
【実施例】
【0164】
図30(a)は、フローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。図30(b)は、Rap1-/-マウスの結腸粘膜固有層のCD4陽性T細胞中のIL-17、IFN-γ又はIL-4産生細胞の割合を示すグラフである。データは平均値±標準誤差を表す。
【実施例】
【0165】
その結果、Rap1-/-マウスでは、腸間膜リンパ節及びパイエル板で形成された病原性T17エフェクター細胞及びT1エフェクター細胞が、結腸にホーミングし、大腸炎を引き起こしていることが明らかとなった。
【実施例】
【0166】
[実験例26]
続いて、発明者らは、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウス由来のCD4陽性ナイーブT細胞(以下、「T細胞」という場合がある。)を、抗CD3抗体及び抗CD28抗体で刺激し、増殖及びサイトカイン産生に対するRap1欠損の影響を検討した。
【実施例】
【0167】
図31は、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウス由来のCD4陽性ナイーブT細胞の[H]-チミジン取り込み量を示すグラフである。Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスのリンパ節及び脾臓に由来する初代CD4陽性ナイーブT細胞を、無刺激(図31中、「None」と示す。)、抗CD3抗体のみ(図31中、「CD3」と示す。)又は抗CD3抗体及び抗CD28抗体(図31中、「CD3/CD28」と示す。)で刺激し、刺激開始から48時間後の[H]-チミジン取り込み量を測定した(n=3)。データは3回の独立した実験結果の平均値±標準誤差を表す。図31中、「*1」は、対応するRap1f/fマウス由来のT細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表し、「*2」は危険率2%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0168】
その結果、Rap1を欠損したT細胞は、対照のT細胞と比較して、抗CD28抗体の存在下及び非存在下でのT細胞受容体複合体の架橋に対する抑制された増殖を示した。
【実施例】
【0169】
[実験例27]
図32は、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウス由来のCD4陽性ナイーブT細胞のサイトカイン産生量を測定した結果を示すグラフである。Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスのリンパ節及び脾臓に由来する初代CD4陽性ナイーブT細胞を、無刺激(図32中、「-」と示す。)又は抗CD3抗体及び抗CD28抗体(図32中、「+」と示す。)で刺激した。刺激開始から3日後に、各細胞の培養上清中のサイトカインの量を測定した(n=3)。データは3回の独立した実験結果の平均値±標準誤差を表す。図32中、「*1」は、対応するRap1f/fマウス由来のT細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表し、「*2」は危険率5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0170】
Rap1f/fT細胞及びRap1-/-T細胞において、IFN-γ、IL-10、TNF及びIL-6の産生量には違いが認められなかった。一方、Rap1-/-T細胞のIL-2、IL-4、IL-17の産生は、Rap1f/fT細胞と比較して減少又はわずかに増加した。
【実施例】
【0171】
[実験例28]
図33は、9週齢のRap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの腸間膜リンパ節、パイエル板及び結腸粘膜固有層における全CD4陽性T細胞を基準としたFoxp3陽性細胞の割合を百分率で示すグラフである(n=10)。データは平均値±標準誤差を表す。
【実施例】
【0172】
[実験例29]
図34は、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウスの結腸粘膜固有層の細胞のフローサイトメトリー解析の代表的な結果を示すグラフである。図34の結果は、CD4陽性細胞にゲートをかけたリンパ球がFoxp3を発現していることを示す。
【実施例】
【0173】
[実験例30]
図35は、Treg抑制アッセイを行った結果を示すグラフである。具体的な実験手順は上述した通りである。対照のCD4陽性ナイーブT細胞(図35中、「Tcon」と表す。)をRap1f/freg細胞又はRap1-/-reg細胞と図35に示す割合で混合し、抗CD3抗体及び抗CD28抗体で48時間刺激し、Treg細胞によるナイーブT細胞の増殖抑制効果を検討した。
【実施例】
【0174】
以上の結果から、Rap1-/-マウスの腸間膜リンパ節、パイエル板又は結腸粘膜固有層におけるFoxp3陽性細胞の割合及び抑制作用は、Rap1f/fマウス由来の同様の細胞と比較して減少していないことが明らかとなった。
【実施例】
【0175】
以上の結果は、Rap1-/-マウスの大腸におけるT17エフェクター細胞又はT1エフェクター細胞の増加は、Rap1欠損T細胞の増大した増殖又はサイトカイン産生に依存するものではないことを示す。
【実施例】
【0176】
<IV. Rap1の欠損はTEM細胞のローリングを促進した>
[実験例31]
Rap1欠損TEM細胞のホーミング活性を検討するために、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウス由来のCD4陽性ナイーブT細胞を、T17誘導条件下で培養した。図36及び図37は、Rap1f/fマウス及びRap1-/-マウス由来のCD4陽性ナイーブT細胞を、T17誘導条件下で培養したときのCD44、CD62L、αβ、CXCR3、PSGL-1及びLFA-1の発現特性を示す代表的な結果を示すグラフである。
【実施例】
【0177】
その結果、Rap1の欠損はT17細胞及びT1細胞への分化に顕著な影響を与えなかった。また、Rap1の欠損はαβ、PSGL-1、LFA-1及びCXCR3の発現にも顕著な影響を与えなかった。
【実施例】
【0178】
[実験例32]
続いて、Rap1f/fEM細胞を100nM CXCL10の存在下又は非存在下において37℃15秒間インキュベートし破砕した。細胞破砕物をRalGDS-RBD融合タンパクを用いたプルダウンアッセイに供し、抗Rap1抗体を用いたイムノブロッティングにより解析した。
【実施例】
【0179】
図38は、独立した3回の実験における代表的な結果を示す写真である。その結果、Rap1f/fEM細胞は、CXCL10による刺激により活性化することが明らかとなった。
【実施例】
【0180】
[実験例33]
図39は、ケモカインの存在下又は非存在下で、デタッチメントアッセイにより測定した、Rap1f/fCD4陽性ナイーブT細胞、Rap1-/-CD4陽性ナイーブT細胞、Rap1f/fCD4陽性エフェクターT細胞、Rap1-/-CD4陽性エフェクター細胞の、LFA-1-ICAM-1結合又はαβ-MadCAM-1結合を静止状態に置いた後に測定した結果を示すグラフである。
【実施例】
【0181】
各細胞をICAM-1又はMadCAM-1上で10分間インキュベートした後、層流(2dyn/cm)下に置き、層流に耐性を示した、強く接着した細胞を数えた。データは3回の実験における平均値±標準誤差を表す(各群に付きn=50)。図39中、「*1」は、対照のナイーブT細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、対照のTEM細胞と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0182】
その結果、Rap1-/-ナイーブT細胞又はRap1-/-EM細胞のLFA-1又はαβの、ICAM-1又はMadCAM-1に対する結合活性は、対照細胞と比較して顕著に低かった。一方、TEM細胞がICAM-1又はMadCAM-1に結合する基礎的な結合は上昇していた。これは、LFA-1又はαβの発現の上昇によると考えられた。
【実施例】
【0183】
[実験例34]
発明者らは、層流下で、Rap1の欠損が、P-セレクチン及びLFA-1を発現した内皮細胞へのTEM細胞の接着カスケードに与える影響を検討した。
【実施例】
【0184】
17誘導条件下で分化させたRap1f/fEM細胞又はRap1-/-EM細胞を、P-セレクチン及びマウスICAM-1を発現させたLS12細胞上で、100nM CXCL10の存在下又は非存在下、2dyn/cmの層流下で灌流させた。
【実施例】
【0185】
層流下で、TEM細胞と内皮細胞との相互作用を示すデジタルイメージを30フレーム/秒で撮影した。100個以上の細胞の接着イベントを測定し、図40(a)に示すように、ローリング、一時的接着、安定な接着に分類した。図40(a)において、データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。図40(a)中、「*1」は、対照のRap1f/fEM細胞と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、対照のRap1f/fEM細胞と比較して、危険率5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0186】
図40(b)は、CXCL10の非存在下における、Rap1f/fEM細胞又はRap1-/-EM細胞の内皮細胞上でのローリングの速度を示すグラフである。図40(b)中、「*」は、対照のRap1f/fEM細胞と比較して、危険率5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0187】
その結果、Rap1-/-EM細胞は、Rap1f/fEM細胞と比較して、CXCL10の存在下及び非存在下で、有意に、より高頻度のローリング及び接着を示した。また、Rap1-/-EM細胞のローリングの速度は、Rap1f/fEM細胞のローリングの速度と比較して有意に遅かった。
【実施例】
【0188】
以上の結果は、Rap1-/-EM細胞において、PSGL-1/P-セレクチン依存性のローリングが上昇していることを示す。
【実施例】
【0189】
[実験例35]
続いて、発明者らは、層流下で、Rap1の欠損が、MadCAM-1を発現した内皮細胞へのTEM細胞の接着カスケードに与える影響を検討した。
【実施例】
【0190】
17誘導条件下で分化させたRap1f/fEM細胞又はRap1-/-EM細胞を、MadCAM-1を発現させたLS12細胞上で、100nM CXCL10の存在下又は非存在下、2dyn/cmの層流下で灌流させた。
【実施例】
【0191】
層流下で、TEM細胞と内皮細胞との相互作用を示すデジタルイメージを30フレーム/秒で撮影した。100個以上の細胞の接着イベントを測定し、図41(a)に示すように、ローリング、一時的接着、安定な接着に分類した。図41(a)において、データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。図41(a)中、「*1」は、対照のRap1f/fEM細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、対照のRap1f/fEM細胞と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0192】
図41(b)は、CXCL10の非存在下における、Rap1f/fEM細胞又はRap1-/-EM細胞の内皮細胞上でのローリングの速度を示すグラフである。図41(b)中、「*」は、対照のRap1f/fEM細胞と比較して、危険率0.3%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0193】
その結果、Rap1-/-EM細胞は、Rap1f/fEM細胞と比較して、有意に、より高頻度のローリング及び接着を示した。また、Rap1-/-EM細胞のローリングの速度は、Rap1f/fEM細胞のローリングの速度と比較して有意に遅かった。
【実施例】
【0194】
[実験例36]
発明者らはまた、層流下における、Rap1-/-EM細胞の、精製されたMadCAM-1上へのローリング及び接着を検討した。
【実施例】
【0195】
17誘導条件下で分化させたRap1f/fEM細胞又はRap1-/-EM細胞を、精製したMadCAM-1を固定化したプレート上で、100nM CXCL10の存在下又は非存在下、2dyn/cmの層流下で灌流させた。
【実施例】
【0196】
Rap1-/-EM細胞には、予め、Rap1のドミナントネガティブ変異体であるRap1N17を発現可能に保持するレンチウイルスベクターを導入した。対照としては、空のレンチウイルスベクターを導入した細胞を使用した。
【実施例】
【0197】
層流下で、TEM細胞とMadCAM-1との相互作用を示すデジタルイメージを30フレーム/秒で撮影した。100個以上の細胞の接着イベントを測定し、図42(a)に示すように、ローリング、一時的接着、安定な接着に分類した。図42(a)において、データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。図42(a)中、「*1」は、刺激していない対照のRap1f/fEM細胞と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、対応するRap1f/fEM細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0198】
図42(b)は、CXCL10の非存在下における、Rap1f/fEM細胞又はRap1-/-EM細胞の内皮細胞上でのローリングの速度を示すグラフである。図42(b)中、「*」は、対照のRap1f/fEM細胞と比較して、危険率0.5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0199】
その結果、Rap1-/-EM細胞は、CXCL10の存在下又は非存在下において、Rap1f/fEM細胞と比較して、有意に、より高頻度のローリング及び接着を示した。また、MadCAM上でのRap1-/-EM細胞のローリングの速度は、Rap1f/fEM細胞のローリングの速度と比較して有意に遅かった。また、Rap1-/-EM細胞における、Rap1のドミナントネガティブ変異体であるRap1N17の発現は、MadCAM上への接着イベントの頻度を有意に抑制した。
【実施例】
【0200】
[実験例37]
図43(a)及び(b)は、1μM 5,6-カルボキシフルオレセイン二酢酸(CFSE、インビトロジェン社)で標識したRap1f/fEM細胞(図43(a))及びRap1-/-EM細胞(図43(b))のMadCAM上でのローリングの様子を層流下で倍率63倍の対物レンズを用いて観察した結果を示す図である。図43(a)及び(b)に示す時間におけるRap1f/fEM細胞及びRap1-/-EM細胞の代表的なイメージを示す。
【実施例】
【0201】
100μm/秒未満で遅くローリングするRap1-/-EM細胞は、いくつかのテザー様の膜の伸長を示した。これは、L-セレクチン依存性のローリングと同様である。しかしながら、Rap1f/fEM細胞は、MadCAM上に明確な突起を示さなかった。
【実施例】
【0202】
[実験例38]
続いて、Rap1-/-EM細胞及びRap1f/fEM細胞の結腸へのホーミングの能力を比較するために、これらの細胞を別々に標識して通常のマウスに注射した。具体的には、Rap1-/-EM細胞を1μM 5,6-カルボキシフルオレセイン二酢酸(CFSE、インビトロジェン社)で標識した。また、Rap1f/fEM細胞を10μM 5-(及び-6)-(((4-クロロメチル)ベンゾイル)アミノ)テトラメチルローダミン(CMTMR、インビトロジェン社)で標識した。各細胞5×10個ずつを混合してC57BL/6マウスに静脈注射した。10時間後に結腸粘膜固有層由来の細胞をフローサイトメトリーで解析した。
【実施例】
【0203】
図44(a)及び(b)はフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。図44(a)は、Rap1-/-EM細胞とRap1f/fEM細胞の割合を示す、3回の実験の代表的な結果である。図44(b)中の四角の上の数字は、Rap1-/-EM細胞とRap1f/fEM細胞の割合を示す。
【実施例】
【0204】
MadCAM-1上への増強したローリング及び接着と一致して、結腸にホーミングしたRap1-/-EM細胞の数は、Rap1f/fEM細胞の数の約4倍多かった。
【実施例】
【0205】
以上の結果は、Rap1の欠損が、病原性TEM細胞の大腸へのホーミングを促進することを示す。その結果、自発的な大腸炎が誘導されると考えられる。
【実施例】
【0206】
<V. Rap1欠損により、Ezrinタンパク質及びMoesinタンパク質のリン酸化が減少した>
[実験例39]
発明者らは、Rap-1GDPによって、Ezrin/Radixin/Moesin(ERM)タンパク質が制御されているか否かを検討した。ERMタンパク質としては、Ezrinタンパク質及びMoesinタンパク質を検討した。
【実施例】
【0207】
pro-B細胞株であるBAF細胞のRap1をノックダウンした細胞(Rap1KD)を100nMのCXCL12で図45に示す時間刺激した。対照として、通常のBAF細胞を使用した。細胞破砕物を、第567番目のスレオニン残基がリン酸化されたEzrinタンパク質に対する抗体、第558番目のスレオニン残基がリン酸化されたMoesinタンパク質に対する抗体、抗Ezrin抗体及び抗Moesin抗体を用いてイムノブロッティングにより検出した。図45は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。3回の独立した実験の代表的な結果を示す。
【実施例】
【0208】
図45に示すように、リンパ球は、Ezrinタンパク質及びMoesinタンパク質を発現した。対照のBAF細胞において、Ezrinタンパク質及びMoesinタンパク質は高度にリン酸化されていた。しかしながら、CXCL12で刺激を行うと、リン酸化レベルは半分以下に減少した。
【実施例】
【0209】
これに対し、刺激されていないRap1KD細胞における、ERMタンパク質の基礎的なリン酸化量は、対照の細胞の1/3であった。この結果は、Rap1-GDPが刺激されていない細胞におけるERMタンパク質の最大限のリン酸化に必須であることを示す。
【実施例】
【0210】
[実験例40]
続いて、発明者らは、Rap1a及びRap1bに特異的なセンスiRNAを、GFPを発現するレンチウイルスベクターを用いてBAF細胞に導入し、Rap1KD細胞とした。対照細胞としては、スクランブルされた対照iRNAを、GFPを発現するレンチウイルスベクターを用いてBAF細胞に導入した細胞を使用した。
【実施例】
【0211】
Rap1KD細胞及び対照細胞を、100nMのCXCL12の存在下及び非存在下で37℃、10分間インキュベートした。続いて、各細胞をリン酸化Ezrinタンパク質に対する抗体及びリン酸化Moesinタンパク質に対する抗体で染色した。
【実施例】
【0212】
続いて、各細胞を蛍光顕微鏡観察し、細胞の側部及び後部と比較して、ウロポッド(uropod)において5倍以上のリン酸化Ezrinタンパク質又はリン酸化Moesinタンパク質を有する細胞の存在割合を測定した。図46は測定結果を示すグラフである。
【実施例】
【0213】
データは3回の独立した実験結果の平均値±標準誤差を表す(各群についてn=40)。図46中、「*」は、対照細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0214】
CXCL12に誘導されるウロポッド形成はERMタンパク質のリン酸化に依存することが知られている。図46に示すように、CXCL12に誘導されるウロポッド形成は、Rap1KD細胞においても減少することが明らかとなった。
【実施例】
【0215】
[実験例41]
図47(a)及び(b)は、対照細胞(図47(a))及びRap1KD細胞(図47(b))の蛍光顕微鏡写真(「pERM」は、リン酸化Ezrinタンパク質に対する抗体及びリン酸化Moesinタンパク質に対する抗体の染色結果を示し、「GFP」は、GFPの蛍光の検出結果を示す。)及び微分干渉顕微鏡写真(DIC)である。代表的な結果を示す。スケールバーは5μmである。
【実施例】
【0216】
[実験例42]
続いて、発明者らは、Rap1のGTPアーゼ活性化因子であるSpa-1を強制発現させてその影響を検討した。まず、BAF細胞にSpa-1の発現ベクターを導入した。対照として、BAF細胞にベクターのみを導入した細胞を使用した。続いて、これらの細胞の破砕物をイムノブロッティングに供し、抗Spa-1抗体で検出した。
【実施例】
【0217】
図48は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。その結果、Spa-1が強制発現できていることが確認された。
【実施例】
【0218】
[実験例43]
続いて、対照細胞及びSpa-1を強制発現させた細胞を、図49に示した時間、37℃で100nM CXCL12の存在下でインキュベートし破砕した。続いて、細胞破砕物を、RalGDS-RBD融合タンパク質を用いたプルダウンアッセイに供し、抗Rap1抗体を用いたイムノブロッティングにより解析した。
【実施例】
【0219】
その結果、Spa-1の発現は、CXCL2刺激によるRap1の活性化を阻害することが示された。この阻害はCXCL2刺激15秒後に最大に達した。
【実施例】
【0220】
[実験例44]
続いて、対照細胞及びSpa-1を強制発現させた細胞を、図50に示した時間、37℃で100nM CXCL12の存在下でインキュベートし破砕した。続いて、細胞破砕物を、リン酸化Ezrinタンパク質に対する抗体、リン酸化Moesinタンパク質に対する抗体、抗Ezrin抗体及び抗Moesin抗体を用いたイムノブロッティングに供した。
【実施例】
【0221】
図50は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。3回の独立した実験の代表的な結果を示す。その結果、CXCL2で刺激後の全ての時点で、ERMタンパク質のリン酸化は、対照細胞におけるリン酸化レベルの約1.6倍高かった。
【実施例】
【0222】
[実験例45]
ナイーブT細胞において、ERMタンパク質はリン酸化された活性化状態で存在しており、CCL21で刺激すると15秒でERMタンパク質のリン酸化が消失することが知られている。
【実施例】
【0223】
そこで、発明者らは、Rap-1f/fナイーブT細胞及びRap-1-/-ナイーブT細胞におけるEzrinタンパク質及びMoesinタンパク質のリン酸化を検討した。まず、ナイーブT細胞を100nM CCL21で図51に示す時間刺激した。続いて、各細胞の破砕物を、リン酸化Ezrinタンパク質に対する抗体、リン酸化Moesinタンパク質に対する抗体、抗Ezrin抗体及び抗Moesin抗体を用いたイムノブロッティングに供した。
【実施例】
【0224】
図51は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。3回の独立した実験の代表的な結果を示す。アクチンタンパク質は、ローディングコントロールとして検出した。
【実施例】
【0225】
その結果、Rap-1-/-ナイーブT細胞におけるERMタンパク質のリン酸化の基礎的なレベルは、Rap-1f/fナイーブT細胞のそれの約半分(52%)に減少することが明らかとなった。
【実施例】
【0226】
[実験例46]
17誘導条件下で培養したRap1f/fEM細胞又はRap1-/-EM細胞を、100nM CXCL10で15秒間刺激した。各細胞の破砕物を、リン酸化Ezrinタンパク質に対する抗体、リン酸化Moesinタンパク質に対する抗体、抗Ezrin抗体及び抗Moesin抗体を用いたイムノブロッティングに供した。
図52はイムノブロッティングの結果を示す写真である。
【実施例】
【0227】
その結果、TEM細胞におけるERMタンパク質は高度にリン酸化されており、CXCL10刺激によりリン酸化レベルが急激に減少することが明らかとなった。CXCL10刺激の非存在下において、Rap1-/-EM細胞のERMタンパク質のリン酸化レベルは、Rap1f/fEM細胞のそれの1/3未満であった。
【実施例】
【0228】
[実験例47]
Rho関連キナーゼ(Rock)がERMタンパク質をリン酸化することが知られている。そこで、発明者らは、Rap1の欠損によってRhoタンパク質の活性が影響を受けるか否かについて検討した。
【実施例】
【0229】
具体的には、Rhotekinタンパク質のRho結合領域(RBD)とGSTタンパク質との融合タンパク質(GST-Rhotekin RBD)を用いたプルダウンアッセイにより、GTPに結合したRhoタンパク質を回収した。
【実施例】
【0230】
対照細胞及びRap1KD細胞を100nM CXCL12で図53に示す時間刺激後、破砕し、GST-Rhotekin RBDタンパク質を用いたプルダウンアッセイを行った。続いて、GTPに結合したRhoタンパク質及び総Rhoタンパク質を、抗Rho抗体を用いたイムノブロッティングにより検出した。図53はイムノブロッティングの結果を示す写真である。独立した4回の実験の代表的な結果である。
【実施例】
【0231】
図53に示すように、対照細胞において、Rhoタンパク質は、CXCL12刺激の3分後に活性化した。また、Rap1KD細胞において、Rhoタンパク質の活性化の減少は認められなかった。
【実施例】
【0232】
この結果は、Rhoタンパク質の活性が、Rap1KD細胞におけるERMタンパク質のリン酸化の減少には関与していないことを示す。
【実施例】
【0233】
[実験例48]
LOKタンパク質がリンパ球のERMタンパク質をリン酸化することが知られている。そこで、発明者らは、Rap1の欠損によってLOKタンパク質の活性が影響を受けるか否かについて検討した。
【実施例】
【0234】
アフリカミドリザル腎細胞株であるCOS細胞に、FLAGタグを結合したLOKタンパク質(FLAG-LOK)を発現させた。同時に、T7タグを結合したRap1V12又はRap1N17も発現させた。Rap1N17はRap1のドミナントネガティブ変異体である。
【実施例】
【0235】
続いて、細胞破砕物をHalo-linkedレジンで免疫沈降し、抗T7抗体でイムノブロットした。
【実施例】
【0236】
図54は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。独立した4回の実験の代表的な結果を示す。その結果、Rap1-GTPではなく、Rap1-GDPがLOKタンパク質と結合することが明らかとなった。
【実施例】
【0237】
[実験例49]
続いて、Rap1N17発現COS細胞又はRap1V12発現COS細胞におけるLOKタンパク質のキナーゼ活性を測定した。図55は、キナーゼ活性を測定した結果を示す写真である。3回の実験の代表的な結果を示す。
【実施例】
【0238】
その結果、LOKタンパク質とRap1-GDPとの結合はLOKタンパク質のキナーゼ活性を増加させることが明らかとなった。
【実施例】
【0239】
[実験例50]
続いて、対照細胞及びRap1KD細胞にFLAG-LOKを発現させ、図56に示す時間、100nM CXCL12で刺激した。続いて、LOKタンパク質のキナーゼ活性を測定した。図56は、キナーゼ活性を測定した結果を示す写真である。3回の実験の代表的な結果を示す。
【実施例】
【0240】
その結果、Rap1KD細胞におけるLOKタンパク質のキナーゼ活性は対照細胞の18±2.6%に減少したことが明らかとなった。CXCL12刺激は、迅速に、LOKタンパク質のキナーゼ活性を1/3に減少させた。この結果は、上述したERMタンパク質のリン酸化の減少の速度論と一致した。
【実施例】
【0241】
[実験例51]
続いて、Rap1f/fEM細胞又はRap1-/-EM細胞を、100nM CXCL10で図57に示す時間刺激した。続いて、各細胞中のLOKタンパク質のキナーゼ活性を測定した。図57は、キナーゼ活性を測定した結果を示す写真である。3回の実験の代表的な結果を示す。
【実施例】
【0242】
その結果、Rap1-/-EM細胞中のLOKタンパク質のキナーゼ活性は、CXCL10刺激の非存在下において対照細胞の32%に減少したことが明らかとなった。
【実施例】
【0243】
以上の結果は、Rap1-GDPがLOKタンパク質の活性化に必要であり、ナイーブT細胞及びTEM細胞のERMタンパク質のリン酸化に重要な役割を担っていることを示す。
【実施例】
【0244】
<VI. Rap1欠損T細胞における、リン酸化状態を模倣したEzrinタンパク質の発現がローリングを減少させた>
[実験例52]
Rap1KD細胞における、Ezrinタンパク質及びMoesinタンパク質の減少したリン酸化が、L-セレクチン依存性ローリングを促進しているのか否かについて検討した。具体的には、Ezrinタンパク質のリン酸化状態を模倣した変異体(T567E)を、対照細胞及びRap1KD細胞に導入した。
【実施例】
【0245】
まず、Rap1a及びRap1bに特異的なセンスiRNAを、GFPを発現するレンチウイルスベクターを用いてBAF細胞に導入し、Rap1KD細胞とした。対照細胞としては、スクランブルされた対照iRNAを、GFPを発現するレンチウイルスベクターを用いてBAF細胞に導入した細胞を使用した。
【実施例】
【0246】
これらの細胞に、FLAGタグを結合したEzrin変異体(T567E)を発現するレンチウイルスベクターを導入した。対照として、ベクターのみを導入した細胞を使用した。続いて、これらの細胞の破砕物をイムノブロッティングに供し、抗FLAG抗体で検出した。アクチンタンパク質は、ローディングコントロールとして検出した。
【実施例】
【0247】
図58は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。4回の独立した実験の代表的な結果を示す。その結果、Ezrin変異体(T567E)が強制発現できていることが確認された。
【実施例】
【0248】
続いて、これらの細胞のNepmucin(CD300LG)上でのローリングを上記と同様にして測定した。図59はローリング活性を測定した結果を示すグラフである。データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。図59中、「*」は、対照のRap1KD細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0249】
続いて、上記の細胞のLS12細胞上でのローリングを上記と同様にして測定した。図60(a)はローリング活性を測定した結果を示すグラフである。データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。図60(a)中、「*1」は、スクランブルされた対照iRNAを導入した対照細胞と比較して、危険率0.5%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、スクランブルされた対照iRNAを導入した対照細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0250】
また、「*3」は、対照のRap1KD細胞と比較して、危険率0.2%未満で有意差があることを表す。また、「*4」は、対照のRap1KD細胞と比較して、危険率0.5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0251】
図60(b)は、各細胞のローリングの速度を示すグラフである。データは3回の実験における平均値±標準誤差を表す(各群についてn=150)。図60(b)中、「*」は、Rap1KD細胞にベクターのみを導入した細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0252】
その結果、図60(a)に示すように、Ezrin変異体(T567E)を発現させることにより、ケモカインの非存在下における、Nepmucin上又は内皮細胞上でのRap1KD細胞のローリングの頻度が、対照細胞と比較して有意に減少した。
【実施例】
【0253】
また、対照細胞におけるEzrin変異体(T567E)の発現は、Rap1KD細胞におけるEzrin変異体(T567E)の発現と同様に、内皮細胞上におけるローリングの頻度をケモカインの存在下及び非存在下において減少させた。
【実施例】
【0254】
また、図60(b)に示すように、Rap1KD細胞のローリングの速度は、Ezrin変異体(T567E)を発現させることにより有意に上昇した。
【実施例】
【0255】
[実験例53]
フローサイトメトリー解析により、大腸炎を自発的に発症したRap1-/-マウスの腸間膜リンパ節由来のT細胞のサイトカイン分泌特性を測定した(n=5)。大腸炎を発症したマウスのリンパ節由来のCD4陽性TEM細胞を抗CD3抗体及び抗CD28抗体の存在下で3日間培養した。続いて、ホルボール-12-ミリステート-13-アセテート(PMA)及びイオノマイシンで刺激し、サイトカイン分泌特性を解析した。図61(a)及び(b)は、フローサイトメトリーの結果を示すグラフである。図61(c)は、IL-17、IFN-γ及びIL-4産生細胞の割合を百分率で示したグラフである。データは平均値±標準誤差を表す。
【実施例】
【0256】
[実験例54]
続いて、Rap1-/-EM細胞にEzrin変異体(T567E)を発現するレンチウイルスベクターを導入し、T17誘導条件下で培養した。対照には、ベクターのみを導入した細胞を用いた。続いて、これらの細胞の破砕物をイムノブロッティングに供し、抗FLAG抗体で検出した。
【実施例】
【0257】
図62は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。3回の独立した実験の代表的な結果を示す。アクチンタンパク質は、ローディングコントロールとして検出した。その結果、Ezrin変異体(T567E)が強制発現できていることが確認された。
【実施例】
【0258】
[実験例55]
続いて、Ezrin変異体(T567E)を強制発現したRap1f/fEM細胞及びRap1-/-EM細胞の形態を共焦点顕微鏡で観察した。図63(a)は、代表的な共焦点顕微鏡写真を示す。
【実施例】
【0259】
図63(b)は、1分間に1回以上ブレブ形成した細胞の割合を百分率で示したグラフである(n=50)。図63中、「*1」は、対照のRap1f/fEM細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、対照のRap1-/-EM細胞にベクターのみを導入した細胞と比較して、危険率0.2%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0260】
[実験例56]
図64は、対照細胞及びEzrin変異体(T567E)を発現したCD4陽性Rap1-/-EM細胞における、CXCR3及びαβの発現プロファイルを示すグラフである。
【実施例】
【0261】
その結果、対照細胞及びEzrin変異体(T567E)を発現したRap1-/-EM細胞は、CXCR3及びαβの同程度の発現を示した。一方、Ezrin変異体(T567E)を発現したRap1-/-EM細胞は、対照細胞と比較して有意に減少したブレブ形成を示した。
【実施例】
【0262】
[実験例57]
ベクターのみ又はEzrin変異体(T567E)を発現したCD4陽性Rap1-/-EM細胞を、T17誘導条件下、精製したMadCAM-1を固定化したプレート上で、100nM CXCL10の存在下又は非存在下、2dyn/cmの層流下で灌流させた。
【実施例】
【0263】
層流下で、TEM細胞とMadCAM-1との相互作用を示すデジタルイメージを30フレーム/秒で撮影した。100個以上の細胞の接着イベントを測定し、図65(a)に示すように、ローリング、一時的接着、安定な接着に分類した。
【実施例】
【0264】
図65(a)において、データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。図65(a)中、「*1」は、対照のTEM細胞と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、対応するTEM細胞と比較して、危険率0.2%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0265】
図65(b)は、CXCL10の非存在下における、CD4陽性Rap1-/-EM細胞のMadCAM-1上でのローリングの速度を示すグラフである。図65(b)中、「*」は、対照のTEM細胞と比較して、危険率0.5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0266】
図65(a)及び(b)に示すように、Ezrin変異体(T567E)の発現は、CXCL10の存在下又は非存在下において、Rap1-/-EM細胞のローリング及び接着を有意に抑制し、ローリング速度を上昇させた。
【実施例】
【0267】
[実験例58]
続いて、発明者らは、Ezrin変異体(T567E)を発現したCD4陽性Rap1-/-EM細胞の結腸へのホーミングの検討を行った。対照細胞としては、ベクターのみを導入したCD4陽性Rap1-/-EM細胞を使用した。
【実施例】
【0268】
CFSE又はCMTMRでそれぞれ染色した各細胞5×10個ずつを混合してC57BL/6マウスに静脈注射した。10時間後に結腸粘膜固有層由来の細胞をフローサイトメトリーで解析した。
【実施例】
【0269】
図66(a)は、フローサイトメトリーの結果を示すグラフである。図66(a)中の四角の上の数字は、対照細胞とEzrin変異体(T567E)を発現したRap1-/-EM細胞の割合を示す。図66(b)は、結腸粘膜固有層における、Ezrin変異体(T567E)を発現したRap1-/-EM細胞の対照細胞に対する割合を示すグラフである(n=3)。図66(b)中、「*」は、対照細胞と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0270】
その結果、Ezrin変異体(T567E)を発現したRap1-/-EM細胞の、結腸にホーミングする能力は対照細胞の36.5±5.3%に減少した。Ezrin変異体(T567E)を発現したRap1-/-EM細胞及び対照細胞は、血液中では同数存在していた。
【実施例】
【0271】
[実験例59]
続いて、発明者らは、CD4陽性Rap1-/-病原性T細胞を、放射線照射した通常のマウスに移植し、Ezrin変異体(T567E)の発現が大腸炎の発症を抑制するか否かを検討した。
【実施例】
【0272】
図67は、細胞を移植していないマウス、ベクターのみを導入したCD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウス(対照)、及びEzrin変異体(T567E)を導入したCD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウスの体重を毎日測定し、測定開始時の体重を基準とした百分率で示したグラフである(各群についてn=3)。データは平均値±標準誤差を表す。図67中、「*」は、対照細胞と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0273】
[実験例60]
図68は、各マウスの大腸炎によるダメージを光学顕微鏡観察に基づいて評価した結果を示すグラフである。縦軸は、組織学的スコアを表す。組織学的スコアは上述した基準に基づいて評価した。データは平均値±標準誤差を表す。図68中、「*」は、ベクターのみを導入したCD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウスと比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0274】
図69は、細胞を移植したマウスにおける大腸の代表的な組織構造を示す顕微鏡写真である。各マウスの結腸のパラフィン包埋組織切片をヘマトキシリン・エオジン染色し、光学顕微鏡で観察した代表的な組織学的構造を示す(倍率40倍)。スケールバーは200μmを示す。
【実施例】
【0275】
その結果、CD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウスは、3週間で、体重の減少、下痢を特徴とする消耗性疾患を発症した。しかしながら、Ezrin変異体(T567E)を導入したCD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウスは、少なくとも移植後3週間、上記のような症状を示さなかった。
【実施例】
【0276】
[実験例61]
図70は、CD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウス及びEzrin変異体(T567E)を導入したCD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウスの結腸の凍結切片を抗CD4抗体及び抗CD8抗体で染色した結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。
【実施例】
【0277】
その結果、Ezrin変異体(T567E)を導入したCD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウスの結腸では、CD4陽性Rap1-/-EM細胞を移植したマウスの結腸と比較して、CD4陽性TEM細胞の浸潤が減少していることが明らかとなった。
【実施例】
【0278】
以上の結果は、Rap1-GDPが、ERMタンパク質のリン酸化を介したL-セレクチン、P-セレクチン又はαβ依存性のローリングを抑制し、CD4陽性病原性T細胞の結腸への移動を抑制することにより、大腸炎の発症を阻害していることを示す。
【実施例】
【0279】
<VII. フィラミンはLFA-1の活性化を抑制した>
[実験例62]
ケモカイン刺激後のRap1-GTPの細胞内局在を検討した。以下の実験では、Ralグアニンヌクレオチド解離阻害因子(GDS)-RBD(Ras結合ドメイン)-mCherry(RalGDS-RBD)をレポーターとして使用した。
【実施例】
【0280】
RalGDS-RBD及びmCherryの融合タンパク質を発現させた対照細胞を100nM CXCL12で図71に示す時間刺激した。図71は、上記の細胞を共焦点顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは5μmを表す。
【実施例】
【0281】
図72は、CXCL12による刺激の3秒後にRalGDS-RBD-mCherryが細胞膜に局在する様子を示す共焦点顕微鏡写真である。RalGDS-RBD及びmCherryの融合タンパク質を野生型の細胞で発現させ、CXCL12刺激によるその局在の変化を検討した。図72は、5回の実験の代表的な結果を示す。スケールバーは5μmを示す。図72の各写真の下のグラフは、各写真におけるX-Y直線に沿ったRalGDS-RBD-mCherryの蛍光強度のラインプロファイルを示す。
【実施例】
【0282】
その結果、CXCL12刺激の前は、RalGDS-RBD-mCherryタンパク質は細胞全体に拡散して存在していた。そして、CXCL12刺激の5秒後に細胞膜に集積した。
【実施例】
【0283】
図71に示すように、Rap1活性化の数秒後にブレブが出現し、続いて膜のひだが出現した。図73は、RalGDS-RBD-mCherryの蛍光強度の疑似カラーイメージを示す共焦点顕微鏡画像である。CXCL12刺激の70秒後に、RalGDS-RBD-mCherryは核周囲領域に局在した。スケールバーは5μmを表す。最終的に、RalGDS-RBD-mCherryは、極性化した細胞の前縁に局在した。
【実施例】
【0284】
[実験例63]
図74は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を基礎としたRap1活性のセンサーを対照細胞に導入し、図74に示す時間100nM CXCL12で刺激した結果を示す画像である。FRET効率に対応するmTurquoise/CFPの蛍光強度比イメージを示す。5回の実験の代表的な結果を示す。スケールバーは5μmを示す。
【実施例】
【0285】
図74に示すように、Rap1の活性化は、CXCL12刺激から5秒以内に細胞膜で起こり、続いて核周囲領域で起こった。最終的に、Rap1の活性化は細胞の前縁に限定された。
【実施例】
【0286】
[実験例64]
発明者らは、更に、RalGDS-RBD-mCherryを用いて、Rap1活性化と層流下でのリンパ球の内皮細胞への接着との関連を検討した。RalGDS-RBD-mCherryを発現させた対照細胞を、100nM CXCL12の存在下、LS12細胞上で2dyn/cmの層流下で灌流させた。層流下で倍率63倍の対物レンズを用いて、細胞の接着領域のデジタルイメージを毎秒1フレームで撮影した。図75は、3回の実験の代表的な結果を示す図である。
【実施例】
【0287】
その結果、RalGDS-RBD-mCherryが対照細胞及び内皮細胞の接触領域の一部に明確に集積したときに、当該Rap1の活性化部位を通じて細胞が停止することが明らかとなった。
【実施例】
【0288】
これらの結果は、Rap1の活性化は細胞膜においてケモカイン刺激の数秒以内に起こり、内皮細胞上におけるLFA-1依存性の細胞接着が誘導されることを示す。
【実施例】
【0289】
[実験例65]
続いて、発明者らは、LFA-1の細胞質ドメインにアクチン結合タンパク質であるフィラミン(FLN)が結合しているか否かを検討した。具体的には、Rap1V12又はRap1N17とFLNaとの結合をプルダウンアッセイにより検討した。
【実施例】
【0290】
T7タグを結合したRap1V12、Rap1N17、αL及びβ2をCOS細胞に導入した。遺伝子導入から48時間後に細胞を破砕し、FLNaリピートの1~3、4~7、8~11及び21とGSTとの融合タンパク質を用いたプルダウンアッセイを行い、抗T7抗体又は抗β2抗体を用いたイムノブロッティングにより検出した。図76は3回の実験の代表的な結果を示す。
【実施例】
【0291】
その結果、Rap1N17ではなくRap1V12がFLNaリピートの1~3とGSTとの融合タンパク質に結合した。しかしながら、検討した他の領域については、非常に弱く結合したか、全く結合しなかった。また、LFA-1のβ2は、FLNaのリピート21と結合した。
【実施例】
【0292】
[実験例66]
T7タグを結合したRap1V12、Rap1N17、αL及びβ2をCOS細胞に導入した。遺伝子導入から48時間後に細胞を破砕し、細胞破砕物を抗FLNa抗体を用いた免疫沈降に供し、沈降物を抗T7抗体を用いたイムノブロッティングにより検出した。図77は、免疫沈降の結果を示す写真である。4回の実験の代表的な結果を示す。図77に示すように、Rap1-GDPではなくRap1-GTPが細胞中のFLNaと結合した。
【実施例】
【0293】
[実験例67]
続いて、発明者らは、リピート1~3をそれぞれ欠失したFLNaとRap1V12との結合を検討した。
【実施例】
【0294】
具体的には、Halo-野生型FLNa、Halo-FLNa(Δ1)、Halo-FLNa(Δ2)、Halo-FLNa(Δ3)をCOS細胞に導入した。ここで、FLNa(Δ1)はFLNaのリピート1欠失変異体を表す。また、FLNa(Δ2)はFLNaのリピート2欠失変異体を表す。また、FLNa(Δ3)はFLNaのリピート3欠失変異体を表す。
【実施例】
【0295】
続いて、遺伝子導入から48時間後に細胞を破砕し、細胞破砕物をHalolink(商標)レジンを用いた免疫沈降に供し、沈降物を抗T7抗体又は抗FLNa抗体を用いたイムノブロッティングにより検出した。図78は、免疫沈降の結果を示す写真である。3回の独立した実験の代表的な結果を示す。
【実施例】
【0296】
その結果、Rap1V12は、FLNa(Δ1)及びFLNa(Δ2)と結合したが、FLNa(Δ3)とは結合しなかった。この結果は、FLNaのリピート3がRap1-GTPとの結合に最も重要な領域であることを示す。
【実施例】
【0297】
[実験例68]
続いて発明者らは、FLNaとRap1-GTPとの結合が、FLNaとβ2の細胞質領域との結合に影響しているか否かを検討した。具体的には、Halo-FLNa、T7タグを結合したRap1V12及びRap1N17、αL、並びにmRFPタグを結合したβ2をCOS細胞に導入した。遺伝子導入から48時間後に細胞を破砕し、細胞破砕物をHalolink(商標)レジンを用いた免疫沈降に供し、沈降物を抗mRFP抗体、抗T7抗体、抗Halo抗体及び抗αL抗体を用いたイムノブロッティングにより検出した。図79は、免疫沈降の結果を示す写真である。3回の独立した実験の代表的な結果を示す。
【実施例】
【0298】
その結果、FLNaはRap1V12と結合することが明らかとなった。この結果、FLNaとβ2との結合が、Rap1N17を発現させた細胞におけるFLNaとβ2との結合と比較して減少した。
【実施例】
【0299】
[実験例69]
ベクターのみ又はT7タグを結合したRap1V12(T7-Rap1V12)を発現したBAF/LFA-1細胞の膜画分をβ2の細胞質領域とGSTとの融合タンパク質(β2cyt-GST)を用いてプルダウンした。
【実施例】
【0300】
β2cyt-GSTに結合したFLNa、全FLNa及びT7-Rap1V12を、抗FLNa抗体及び抗T7抗体を用いたイムノブロッティングにより解析した。図80は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。3回の独立した実験の代表的な結果を示す。
【実施例】
【0301】
その結果、Rap1V12発現細胞の膜画分からβ2cyt-GSTによりプルダウンされたFLNaの量は、対照細胞の32%であった。
【実施例】
【0302】
[実験例70]
Rap1はケモカイン刺激によって活性化されるため、発明者らは、CXCL12刺激がRap1-GTPに依存してFLNとβ2との結合を減少させるか否かを検討した。ベクターのみ又はSpa-1を発現させた細胞を100nM CXCL12で1分間刺激し、破砕した。細胞破砕物を、抗β2抗体を用いて免疫沈降し、沈降物を抗FLNa抗体を用いたイムノブロッティングにより検出した。
【実施例】
【0303】
図81は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。3回の独立した実験の代表的な結果を示す。その結果、CXCL12刺激後の対照細胞において、抗β2抗体により免疫沈降したFLNaの量は、CXCL12刺激なしの対照細胞において、抗β2抗体により免疫沈降したFLNaの量の28%であった。
【実施例】
【0304】
一方、CXCL12刺激後のSpa-1発現細胞において、抗β2抗体により免疫沈降したFLNaの量は、CXCL12刺激なしのSpa-1発現細胞において、抗β2抗体により免疫沈降したFLNaの量の68%であった。
【実施例】
【0305】
この結果は、CXCL12刺激が対照細胞におけるβ2とLFNaとの結合を減少させるが、Spa-1発現細胞におけるβ2とLFNaとの結合は減少させないことを示す。すなわち、Spa-1の発現によるRap1活性化の阻害が、CXCL12刺激後のLFA-1とβ2の細胞質領域との解離を抑制した。
【実施例】
【0306】
[実験例71]
続いて、発明者らは、接着カスケードにおける、FLNとβ2とのRap依存性の解離について検討した。まず、FLNa及びFLNbをshRNAによりノックダウン(KD)した。スクランブルshRNA(対照)、FLNaに対するshRNA又はFLNbに対するshRNAをコードするレンチウイルスをBAF/LFA-1/L-セレクチン細胞に導入し、細胞破砕物をイムノブロッティングにより解析した。図82はイムノブロッティングの結果を示す写真である。3回の独立した実験の代表的な結果を示す。アクチンタンパク質をローディングコントロールとして検出した。その結果、FLNa及びFLNbの85%以上がノックダウンできていることが確認された。
【実施例】
【0307】
[実験例72]
LFA-1の活性化エピトープに対する抗体(KIM127)を用いたフローサイトメトリー解析により、対照細胞、FLNaKD細胞、FLNbKD細胞、FLNa/bKD細胞におけるLFA-1の活性化を検討した。
【実施例】
【0308】
図83は、結果を示すグラフである。データは、抗LFA-1抗体(TS1/18)を用いたLFA-1の発現量に基づいて正規化した。データは3回の実験結果の平均値±標準誤差を表す。図83中、「*」は、対照細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0309】
続いて、同様の実験をLFA-1の活性化エピトープに対する別の抗体(MEM148)を用いたフローサイトメトリー解析により行い、対照細胞、FLNaKD細胞、FLNbKD細胞、FLNa/bKD細胞におけるLFA-1の活性化を検討した。
【実施例】
【0310】
図84は、結果を示すグラフである。データは、抗LFA-1抗体(TS1/18)を用いたLFA-1の発現量に基づいて正規化した。データは3回の実験結果の平均値±標準誤差を表す。図84中、「*」は、対照細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0311】
その結果、抗体KIM127及びMEM148により認識される、LFA-1の活性化を示すエピトープの発現は、FLNのノックダウンにより有意に上昇した。この結果は、FLNがLFA-1の活性化を制限していることを示す。
【実施例】
【0312】
[実験例73]
続いて、発明者らは、FRAP(光褪色後蛍光回復法)により、FLNのノックダウンがLFA-1の可動性を高めているか否かを検討した。図85は、赤色蛍光タンパク質(mRFP)標識したLFA-1を発現した対照細胞及びFLNa/bKD細胞における、フォトブリーチングから1分後の回復割合の百分率を示すグラフである。データは3回の実験結果の平均値±標準誤差を表す(各群についてn=20)。図85中、「*」は、対照細胞と比較して、危険率0.5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0313】
その結果、対照細胞と比較して、FLNa/bKD細胞におけるLFA-1の可動性は有意に高かった。
【実施例】
【0314】
[実験例74]
図86(a)及び(b)は、αL-mRFP及びβ2を共発現させた対照細胞(図86(a))及びFLNa/bKD細胞(図86(b))を、波長567nmのレーザーを用いてフォトブリーチングし、定量的なFRAP解析を行った代表的な結果を示すグラフである。
【実施例】
【0315】
[実験例75]
図87は、αL-mRFP及びβ2を共発現させたBAF細胞を用いたFRAP解析の代表的な結果を示す写真である。四角はフォトブリーチングを行った領域を示す。スケールバーは5μmを表す。
【実施例】
【0316】
[実験例76]
対照細胞、FLNaKD細胞、FLNbKD細胞及びFLNa/bKD細胞をLS12細胞上で、2dyn/cmの層流下で灌流させた。各細胞の相互作用を示すデジタルイメージを30フレーム/秒で撮影し、ローリング、一時的接着、安定な接着に分類した(各群についてn=150)。
【実施例】
【0317】
図88は、結果を示すグラフである。図88中、「*1」は、対照細胞における合計頻度と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。「*2」は、対照細胞における合計頻度と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0318】
その結果、BAF/LFA-1/L-セレクチン細胞におけるFLNa又はFLNbの欠損は、ローリング及び接着の頻度を上昇させ、FLNa及びbのダブルノックダウンはこれらの頻度を相加的に上昇させることが明らかとなった。
【実施例】
【0319】
[実験例77]
図89は、対照細胞又はFLNa/bKD細胞のLS12細胞上におけるローリングの速度を示すグラフである。データは3回の実験結果の平均値±標準誤差を表す(各群についてn=150)。図89中、「*」は、対照細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0320】
その結果、FLNa/bKD細胞のローリングの速度は、対照細胞と比較して有意に遅かった。
【実施例】
【0321】
[実験例78]
対照細胞及びFLNa/bKD細胞を抗L-セレクチン抗体若しくは抗LFA-1抗体の存在下又は非存在下で前処理し、LS12細胞上で、2dyn/cmの層流下で灌流させた。各細胞の相互作用を示すデジタルイメージを30フレーム/秒で撮影し、ローリング、一時的接着、安定な接着に分類した。
【実施例】
【0322】
図90は、結果を示すグラフである。データは3回の実験結果の平均値±標準誤差を表す(各群についてn=150)。図90中、「*」は、対照細胞における合計頻度と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0323】
その結果、細胞の相互作用イベントの頻度は、細胞を抗LFA-1抗体で前処理することにより有意に減少することが明らかとなった。
【実施例】
【0324】
[実験例79]
対照細胞又はFLNa/bKD細胞を抗LFA-1抗体で前処理し、LS12細胞上におけるローリングの速度を検討した。図91は、対照細胞又はFLNa/bKD細胞のローリングの速度に対する抗LFA-1抗体の影響を示すグラフである。
【実施例】
【0325】
図91中、「*1」は、対照細胞と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。「*2」は、抗LFA-1抗体で前処理していないFLNa/bKD細胞と比較して、危険率5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0326】
その結果、FLNa/bKD細胞のローリングの速度は、抗LFA-1抗体処理により有意に速くなることが明らかとなった。
【実施例】
【0327】
[実験例80]
対照細胞及びFLNa/bKD細胞を、100nM CXCL12の存在下又は非存在下、抗L-セレクチン抗体若しくは抗LFA-1抗体の存在下又は非存在下、LS12細胞上で、2dyn/cmの層流下で灌流させた。
【実施例】
【0328】
図92は、実験結果を示すグラフである。データは3回の実験結果の平均値±標準誤差を表す(各群についてn=150)。図92中、「*1」は、CXCL12で刺激し、抗LFA-1抗体で処理しなかった対照細胞における合計頻度と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、CXCL12で刺激し、抗LFA-1抗体で処理しなかった対照細胞における合計頻度と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0329】
以上の結果から、FLNの欠損は、主にLFA-1依存性のローリング及び接着を誘導することが明らかとなった。
【実施例】
【0330】
<VIII. FLNa欠損T細胞は、LFA-1に媒介される機能の増強を示した>
[実験例81]
続いて、発明者らは、初代T細胞の接着カスケードにおけるFLNaの機能について検討した。FLNaのコンディショナルノックアウトマウスを作製するために、FLNaアレルがloxP配列で挟まれたマウス(以下、「FLNaf/f」マウスという場合がある。)と、T細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するLck-Creマウスとを交配させた。得られた子孫の中に、T細胞特異的にFLNaを欠損したマウス(以下、「FLNa-/-」マウスという場合がある。)が得られた。
【実施例】
【0331】
FLNaf/fマウス及びFLNa-/-マウス由来のT細胞を抗FLNa抗体又は抗FLNb抗体を用いたイムノブロッティングにより解析した。アクチンタンパク質をローディングコントロールとして検出した。図93は、3回の独立した実験の代表的な結果を示す写真である。
【実施例】
【0332】
その結果、FLNa-/-マウス由来のT細胞(以下、「FLNa-/-T細胞」という場合がある。)では、FLNaタンパク質が発現していないことが確認された。しかしながらFLNbの発現はわずかに補償的に上昇した。
【実施例】
【0333】
[実験例82]
FLNaf/fT細胞及びFLNa-/-T細胞のLS12細胞上での接着イベントを、上記と同様にして層流下で測定した。図94は、結果を示すグラフである。データは3回の独立した実験結果の平均値±標準誤差を表す。図94中、「*1」は、対応するFLNaf/fT細胞における合計頻度と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、抗LFA-1抗体で処理しなかったFLNa-/-T細胞における合計頻度と比較して、危険率0.1%未満で有意差があることを表す。また、「*3」は、抗LFA-1抗体で処理しなかったFLNa-/-T細胞における合計頻度と比較して、危険率3%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0334】
図95は、FLNaf/fT細胞及びFLNa-/-T細胞の、CCL21の非存在下、LS12内皮細胞上でのローリングの速度に対する抗LFA-1抗体の影響を示すグラフである。データは3回の独立した実験結果の平均値±標準誤差を表す。図95中、「*1」は、FLNaf/fT細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、抗LFA-1抗体で処理しなかったFLNa-/-T細胞と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0335】
その結果、FLNa-/-T細胞は、FLNaf/fT細胞と比較して、LFA-1依存性ローリングの頻度の有意な上昇及びローリングの速度の有意な低下を示すことが明らかとなった。また、抗LFA-1抗体による前処理により、FLNa-/-T細胞の相互作用イベントの頻度が有意に低下し、ローリングの速度が有意に上昇した。
【実施例】
【0336】
[実験例83]
FLNaf/fT細胞及びFLNa-/-T細胞を、CCL21の非存在下、MadCAM-1上で、2dyn/cmの層流下で灌流させた。図96(a)は上記と同様にして細胞の接着イベントを測定した結果を示すグラフである。データは3回の実験における平均値±標準誤差を表す(各群についてn=100)。
【実施例】
【0337】
図96(b)は、FLNaf/fT細胞及びFLNa-/-T細胞のローリングの速度を示すグラフである。データは3回の実験における平均値±標準誤差を表す(各群についてn=100)。
【実施例】
【0338】
その結果、FLNa-/-T細胞及びFLNaf/fT細胞との間には、αβ依存性のローリングであるMadCAM-1上のローリングの頻度及びローリングの速度には有意な差は認められなかった。
【実施例】
【0339】
[実験例84]
図97(a)及び(b)は、CCL21の存在下又は非存在下におけるFLNaf/fT細胞及びFLNa-/-T細胞のICAM-1上での移動(displacement)(図97(a))及び速度(図97(b))を示すグラフである(各群についてn=50)。図97中、「*1」は、Rap1f/fT細胞と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。また、「*2」は、Rap1f/fT細胞と比較して、危険率5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0340】
図97(c)及び(d)は、CCL21の存在下、ICAM-1上におけるFLNaf/fT細胞及びFLNa-/-T細胞の軌跡を示す代表的な図である。各線は1個の細胞の軌跡を示す。
【実施例】
【0341】
その結果、ICAM-1上での移動及び速度は、FLNaf/fT細胞と比較して、FLNa-/-T細胞において、有意に上昇した。
【実施例】
【0342】
[実験例85]
発明者らは、トランスウェルマイグレーションアッセイにより、FLNa-/-T細胞のCCL21に対する走化性について検討した。まず、精製されたFLNaf/fT細胞及びFLNa-/-T細胞を、直径3μmのポアを有するコートされていないトランスウェルインサート上に、500μLの1%ウシ胎児血清-RPMI培地中、2×10個/mLの濃度で播種した。
【実施例】
【0343】
続いて、下部チャンバーの培地(500μL)に、図98(a)に示す濃度のCCL21を添加した。続いて、細胞の遊走を37℃で1時間行った。続いて、トランスウェルインサートを除去し、下部チャンバーに移動した細胞の数を計測した。
【実施例】
【0344】
図98(a)は結果を示すグラフである。全細胞数に対する、下部チャンバーに移動した細胞の数を百分率で示す。データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。図98(b)は、同様の実験をICAM-1でコートされたトランスウェルインサートを用いて行った結果を示すグラフである。データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。「*」は、対応するFLNaf/fT細胞と比較して、危険率0.2%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0345】
その結果、コートされていないトランスウェルインサートを用いた実験では、CCL21によって誘引され、下部チャンバーに移動した細胞数は、FLNaf/fT細胞及びFLNa-/-T細胞の間で差が認められなかった。一方、ICAM-1コートされたトランスウェルインサートを通過したFLNa-/-T細胞の数は、低濃度のCCL21において、FLNaf/fT細胞と比較して有意に増加した。
【実施例】
【0346】
[実験例86]
FLNaf/fT細胞及びFLNa-/-T細胞をCFSE又はCMTMRでそれぞれ標識し、同細胞数ずつ混合し通常のマウスに静脈注射した。1時間後、血液及び末梢リンパ節中のリンパ球をフローサイトメトリーにより解析した。図99(a)及び(b)は、血液中(図99(a))及びリンパ節中(図99(b))におけるフローサイトメトリー解析の結果を示すグラフである。グラフ中の四角の上の数字は、FLNaf/fT細胞に対するFLNa-/-T細胞の比率を示す。
【実施例】
【0347】
図99(c)はリンパ節中のFLNaf/fT細胞に対するFLNa-/-T細胞の比率を示すグラフである(n=4)。「*」は、FLNaf/fT細胞と比較して、危険率2%未満で有意差があることを表す。その結果、リンパ節にホーミングしたFLNa-/-T細胞は、FLNaf/fT細胞と比較して有意に多いことが明らかとなった。
【実施例】
【0348】
これらの結果は、FLNaが、LFA-1依存性の初代T細胞の接着及び移動の抑制因子であることを支持する。
【実施例】
【0349】
[実験例87]
Rap1依存性のβ2からのFLNの解離が、ケモカインに誘導される接着と関連しているか否かを検討するために、以下の実験を行った。まず、Haloタグを結合した野生型(WT)FLNa又はFLNa(Δ3)をBAF/LFA-1/L-セレクチン細胞に導入した。続いてこれらの細胞の破砕物を、抗Halo抗体を用いたイムノブロッティングに供した。
【実施例】
【0350】
図100は、イムノブロッティングの結果を示す写真である。3回の実験の代表的な結果を示す。その結果、野生型FLNa及びFLNa(Δ3)が発現したことが確認された。
【実施例】
【0351】
[実験例88]
続いて、野生型FLNa又はFLNa(Δ3)を発現した細胞のLS12細胞上での接着イベントを層流下で上記と同様にして測定した。図101は結果を示すグラフである。データは3回の独立した実験における平均値±標準誤差を表す。「*1」は、抗LFA-1抗体処理をしなかった対照細胞における頻度の合計と比較して、危険率3%未満で有意差があることを表す。「*2」は、対応する対照細胞における頻度の合計と比較して、危険率1%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0352】
[実験例89]
図102は、ベクターのみ、野生型FLNa又はFLNa(Δ3)を発現した細胞の、CXCL12の存在下又は非存在下におけるKIM127エピトープの発現を検討した結果を示すグラフである(各群についてn=5)。「*」は、野生型のFLNaを発現した細胞と比較して、危険率5%未満で有意差があることを表す。
【実施例】
【0353】
その結果、BAF/LFA-1/L-セレクチン細胞におけるFLNa(Δ3)の発現は、野生型FLNaを発現した細胞と比較して、CXCL12刺激による細胞接着の頻度を有意に低下させ、KIM127抗体により認識されるLFA-1の拡張した高次構造の形成を有意に阻害した。
【実施例】
【0354】
以上の結果は、Rap1-GTPのFLNsへの結合が、LFA-1の活性化に重要であり、LFA-1の活性化がケモカイン刺激による細胞接着に必須であることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0355】
本発明によれば、大腸炎及び大腸癌を自然発症するモデル非ヒト動物を提供することができる。当該モデル非ヒト動物は、大腸炎又は大腸癌の発症機構の解明や治療法の開発に有用である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図101】
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【図102】
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