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明細書 :ロボティックウエアの神経振動子を用いた同調制御方法、同調制御用コンピュータプログラム、およびロボティックウエア

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6646297号 (P6646297)
公開番号 特開2017-046977 (P2017-046977A)
登録日 令和2年1月15日(2020.1.15)
発行日 令和2年2月14日(2020.2.14)
公開日 平成29年3月9日(2017.3.9)
発明の名称または考案の名称 ロボティックウエアの神経振動子を用いた同調制御方法、同調制御用コンピュータプログラム、およびロボティックウエア
国際特許分類 A61H   3/00        (2006.01)
B25J  11/00        (2006.01)
FI A61H 3/00 B
B25J 11/00 Z
請求項の数または発明の数 19
全頁数 22
出願番号 特願2015-173334 (P2015-173334)
出願日 平成27年9月2日(2015.9.2)
審査請求日 平成30年7月9日(2018.7.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】橋本 稔
【氏名】田中 浩仁
個別代理人の代理人 【識別番号】100090170、【弁理士】、【氏名又は名称】横沢 志郎
【識別番号】100142619、【弁理士】、【氏名又は名称】河合 徹
【識別番号】100153316、【弁理士】、【氏名又は名称】河口 伸子
審査官 【審査官】小林 睦
参考文献・文献 特開2012-066375(JP,A)
特開2004-329520(JP,A)
特開2012-125388(JP,A)
国際公開第2013/094747(WO,A1)
調査した分野 A61H 3/00
B25J 11/00
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を股関節および膝関節に伝える股関節アクチュエータ膝関節アクチュエータおよび制御部を備えた人体装着型のロボティックウエアの制御を、前記制御部が神経振動子を用いて行う同調制御方法であって、
ヒトの歩行時に股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御し、
前記歩行時に膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御し、
前記股関節制御軌道の1周期をヒトの1歩行周期に対応するように設定し、
前記膝関節制御軌道を、前記股関節制御軌道の1周期を2周期とする2周期制御軌道に設定し、
前記股関節制御軌道の各1周期分の軌道波形に対応する前記膝関節制御軌道の2周期分の軌道波形が、ヒトの1歩行運動の立脚相および遊脚相の動きに対応するように、一方の立脚相軌道波形の振幅を、他方の遊脚相軌道波形の振幅に比べて小さくなるように設定することを特徴とするロボティックウエアの神経振動子を用いた同調制御方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記股関節神経振動子の自励振動を規定する股関節基本波形を設定し、
前記膝関節神経振動子の自励振動を規定する膝関節基本波形を、前記股関節基本波形の周期の1/2の周期を有するように設定し、
前記膝関節神経振動子の出力信号における前記立脚相に対応する立脚相波形部分および遊脚相波形部分に対して、予め設定されている振幅倍率とオフセット値をそれぞれ与えて、前記立脚相軌道波形および前記遊脚相軌道波形を備えた膝関節制御軌道を規定する制御信号波形を生成するロボティックウエアの神経振動子を用いた同調制御方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記膝関節神経振動子の出力信号の極小点を判別し、
前記極小点のそれぞれについて、対応する時点における前記股関節神経振動子の出力信号の振幅値を判別し、
前記振幅値に基づき、前記膝関節神経振動子の出力信号の各極小点間が前記立脚相波形部分および前記遊脚相波形部分のいずれであるかを判別するロボティックウエアの神経振動子を用いた同調制御方法。
【請求項4】
請求項2において、
前記制御信号波形における前記立脚相波形部分と前記遊脚相波形部分との間の継ぎ目部分が一致していない場合に、当該継ぎ目部分が滑らかに連続する継ぎ目部分となるように、波形修正を施すロボティックウエアの神経振動子を用いた同調制御方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記ロボティックウエアは、前記股関節アクチュエータとしてヒトの左右の股関節にアシスト力を与える左股関節アクチュエータおよび右股関節アクチュエータと、前記膝関節アクチュエータとしてヒトの左右の膝関節にアシスト力を与える左膝関節アクチュエータおよび右膝関節アクチュエータとを備えており、
前記左股関節アクチュエータおよび前記右股関節アクチュエータを、相互に逆位相の前記股関節制御軌道を描くように駆動制御し、
前記左膝関節アクチュエータおよび前記右膝関節アクチュエータを、相互に1周期分位相がずれた状態で前記膝関節制御軌道を描くように駆動制御するロボティックウエアの神
経振動子を用いた同調制御方法。
【請求項6】
請求項1において、
前記股関節神経振動子および前記膝関節神経振動子は、以下の三式で示す非線形1階連立微分方程式で表され、
JP0006646297B2_000003t.gif ここで、
xi:i番目の神経素子の内部状態を示す係数
g(xi):i番目の神経素子の出力
fi:i番目の神経素子の疲労状態を表す係数
Si:i番目の神経素子への定常入力
bi:i番目の神経素子の疲労係数
aij:i番目の神経素子からj番目の神経素子への結合係数
Ta,Tr:時定数
Input:外部入力
であり、
前記相互作用力を相互作用トルクτ_mutualとし、前記同調制御における同調性を調整するゲインを同調ゲインCとすると、前記外部入力Inputは、前記相互作用トルクτ_mutualと前記同調ゲインCを用いて、
Input=C*τ_mutual
で表されるロボティックウエアの神経振動子を用いた同調制御方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法を用いて、ロボティックウエアの股関節アクチュエータおよび膝関節アクチュエータの駆動を制御するロボティックウエアの同調制御用コンピュータプログラムであって、
ヒトの歩行時に股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御する機能、
前記歩行時に膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御する機能、
前記股関節制御軌道の1周期をヒトの1歩行周期に対応するように設定する機能、
前記膝関節制御軌道を、前記股関節制御軌道の1周期を2周期とする2周期制御軌道に設定する機能、および、
前記股関節制御軌道の各1周期分の軌道波形に対応する前記膝関節制御軌道の2周期分の軌道波形が、ヒトの1歩行運動の立脚相および遊脚相の動きに対応するように、一方の立脚相軌道波形の振幅を、他方の遊脚相軌道波形の振幅に比べて小さくなるように設定する機能
をコンピュータに実行させることを特徴とするロボティックウエアの同調制御用コンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項7において、
前記股関節神経振動子の自励振動を規定する股関節基本波形を設定する機能、
前記膝関節神経振動子の自励振動を規定する膝関節基本波形を、前記股関節基本波形の周期の1/2の周期を有するように設定する機能、
前記膝関節神経振動子の出力信号における前記立脚相に対応する立脚相波形部分および遊脚相波形部分に対して、予め設定されている振幅倍率とオフセット値をそれぞれ与えて、前記立脚相軌道波形および前記遊脚相軌道波形を備えた膝関節制御軌道を規定する制御信号波形を生成する機能
をコンピュータに実行させるロボティックウエアの同調制御用コンピュータプログラム。
【請求項9】
請求項8において、
前記膝関節神経振動子の出力信号の極小点を判別する機能、
前記極小点のそれぞれについて、対応する時点における前記股関節神経振動子の出力信号の振幅値を判別する機能、
前記振幅値に基づき、前記膝関節神経振動子の出力信号の各極小点間が前記立脚相波形部分および前記遊脚相波形部分のいずれであるかを判別する機能
をコンピュータに実行させるロボティックウエアの同調制御用コンピュータプログラム。
【請求項10】
請求項8において、
前記制御信号波形における前記立脚相波形部分と前記遊脚相波形部分との間の継ぎ目部分が一致していない場合に、当該継ぎ目部分が滑らかに連続する継ぎ目部分となるように、波形修正を施す機能をコンピュータに実行させるロボティックウエアの同調制御用コンピュータプログラム。
【請求項11】
請求項7において、
前記ロボティックウエアは、前記股関節アクチュエータとしてヒトの左右の股関節にアシスト力を与える左股関節アクチュエータおよび右股関節アクチュエータと、前記膝関節アクチュエータとしてヒトの左右の膝関節にアシスト力を与える左膝関節アクチュエータおよび右膝関節アクチュエータとを備えており、
前記左股関節アクチュエータおよび前記右股関節アクチュエータを、相互に逆位相の前記股関節制御軌道を描くように駆動制御する機能、および、
前記左膝関節アクチュエータおよび前記右膝関節アクチュエータを、相互に1周期分位相がずれた状態で前記膝関節制御軌道を描くように駆動制御する機能を
コンピュータに実行させるロボティックウエアの同調制御用コンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項7において、
前記股関節神経振動子および前記膝関節神経振動子を、以下の三式で示す非線形1階連立微分方程式で規定し、
JP0006646297B2_000004t.gif ここで、
xi:i番目の神経素子の内部状態を示す係数
g(xi):i番目の神経素子の出力
fi:i番目の神経素子の疲労状態を表す係数
Si:i番目の神経素子への定常入力
bi:i番目の神経素子の疲労係数
aij:i番目の神経素子からj番目の神経素子への結合係数
Ta,Tr:時定数
Input:外部入力
であり、
前記相互作用力を相互作用トルクτ_mutualとし、前記同調制御における同調性を調整するゲインを同調ゲインCとすると、前記外部入力Inputを、前記相互作用トルクτ_mutualと前記同調ゲインCを用いて、
Input=C*τ_mutual
で規定する機能を
コンピュータに実行させるロボティックウエアの同調制御用コンピュータプログラム。
【請求項13】
ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を股関節に与える股関節アクチュエータと、
ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を膝関節に伝える膝関節アクチュエータと、
前記股関節アクチュエータおよび前記膝関節アクチュエータを制御する同調制御装置と、
を有しており、
前記同調制御装置は、
ヒトの歩行時に股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御する股関節制御部と、
前記歩行時に膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御する膝関節制御部と、
を備えており、
前記股関節制御軌道の1周期をヒトの1歩行周期に対応するように設定されており、
前記膝関節制御軌道を、前記股関節制御軌道の1周期を2周期とする2周期制御軌道に設定されており、
前記股関節制御軌道の各1周期分の軌道波形に対応する前記膝関節制御軌道の2周期分の軌道波形が、ヒトの1歩行運動の立脚相および遊脚相の動きに対応するように、一方の立脚相軌道波形の振幅を、他方の遊脚相軌道波形の振幅に比べて小さくなるように設定されていることを特徴とするロボティックウエア。
【請求項14】
請求項13において、
前記股関節神経振動子の自励振動を規定する基本波形を股関節基本波形とすると、前記膝関節神経振動子の自励振動を規定する膝関節基本波形は、前記股関節基本波形の周期の1/2の周期を有するように設定されており、
前記股関節制御部は、
前記膝関節神経振動子の出力信号における前記立脚相に対応する立脚相波形部分および遊脚相波形部分に対して、予め設定されている振幅倍率とオフセット値をそれぞれ与えて、前記立脚相軌道波形および前記遊脚相軌道波形を備えた膝関節制御軌道を規定する制御信号波形を生成する信号処理部を備えているロボティックウエア。
【請求項15】
請求項14において、
前記信号処理部は、
前記膝関節神経振動子の出力信号の極小点を判別する極小点判別部と、
前記極小点のそれぞれについて、対応する時点における前記股関節神経振動子の出力信号の振幅値を判別する値判別部と、
前記振幅値に基づき、前記膝関節神経振動子の出力信号の各極小点間が前記立脚相波形
部分および前記遊脚相波形部分のいずれであるかを判別する相判別部と、
を備えているロボティックウエア。
【請求項16】
請求項14において、
前記信号処理部は、
前記制御信号波形における前記立脚相波形部分と前記遊脚相波形部分との間の継ぎ目部分が一致していない場合に、当該継ぎ目部分が滑らかに連続する継ぎ目部分となるように、波形修正を施す波形修正部を備えているロボティックウエア。
【請求項17】
請求項13において、
前記股関節アクチュエータとして、ヒトの左右の股関節にアシスト力を与える左股関節アクチュエータおよび右股関節アクチュエータとを備え、
前記膝関節アクチュエータとして、ヒトの左右の膝関節にアシスト力を与える左膝関節アクチュエータおよび右膝関節アクチュエータとを備え、
前記股関節制御部は、前記左股関節アクチュエータおよび前記右股関節アクチュエータを、相互に逆位相の前記股関節制御軌道を描くように駆動制御し、
前記膝関節制御部は、前記左膝関節アクチュエータおよび前記右膝関節アクチュエータを、相互に1周期分位相がずれた状態で前記膝関節制御軌道を描くように駆動制御するロボティックウエア。
【請求項18】
請求項13において、
前記股関節アクチュエータによって規定されるロボット股関節と前記膝関節アクチュエータによって規定されるロボット膝関節との間を連結するリンク機構が備わっていない非外骨格型であるロボティックウエア。
【請求項19】
請求項13において、
前記股関節神経振動子および前記膝関節神経振動子は、以下の三式で示す非線形1階連立微分方程式で表され、
JP0006646297B2_000005t.gif ここで、
xi:i番目の神経素子の内部状態を示す係数
g(xi):i番目の神経素子の出力
fi:i番目の神経素子の疲労状態を表す係数
Si:i番目の神経素子への定常入力
bi:i番目の神経素子の疲労係数
aij:i番目の神経素子からj番目の神経素子への結合係数
Ta,Tr:時定数
Input:外部入力
であり、
前記相互作用力を相互作用トルクτ_mutualとし、前記同調制御における同調性を調整するゲインを同調ゲインCとすると、前記外部入力Inputは、前記相互作用トルクτ_mutualと前記同調ゲインCを用いて、
Input=C*τ_mutual
で表されるロボティックウエア。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を股関節および膝関節に与える人体装着型のロボティックウエアに関し、特に、下肢4関節の歩行動作支援を、神経振動子を用いた同調制御により適切に行うことのできる同調制御方法、同調制御用コンピュータプログラムおよびロボティックウエアに関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会にある日本において、リハビリや介護、歩行補助を目的とした人体装着型のロボットが盛んに研究開発されている。リハビリ支援と自立動作支援を目的としたロボットスーツHAL、高齢者の歩行機能改善を目的としたリズム歩行アシスト、対麻痺患者の歩行補助を目的とした藤田保険衛生大学のWPAL、人工膝関節置換術後のリハビリを目的とした歩行リハビリ支援システムKAI-Rなどが例として挙げられる。本発明者等も、軽量で装着性に優れた非外骨格型のロボティックウエアを開発してきた(特許文献1)。
【0003】
一方、制御面においては、脊椎動物の中枢神経系をモデル化した神経振動子(松岡モデル)によって周期運動をおこなう2足あるいは4足歩行ロボットなどの研究が進められ、神経振動子モデル(非特許文献1)は、それらの多くの研究に用いられている。また、本発明者等は、先行研究で開発された人体装着型ロボティックスーツ、ロボティックウエアの制御においても、松岡モデルを採用し、ヒトとロボットの同調制御を実現している(非特許文献2、3、特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】松岡清利、「神経振動子によるロボットの運動制御」、IEICE Technical Report、NC2012-40、2012
【非特許文献2】Xia Zhang and Minoru Hashimoto, “SBC for Motion Assist Using Neural Oscillator” IEEE International Conference on Robotic and Automation 2009
【非特許文献3】田中浩仁、大矢卓摩、橋本稔、「同調制御を用いた高性能軽量ウェアラブル・ロボティックウェアの研究開発」、第14回建設ロボットシンボジウム論文集、pp.251-260、2014
【0005】

【特許文献1】特開2015-2970号公報
【特許文献2】特開2012-66375号公報
【特許文献3】特開2015-44240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ヒトの歩行時における膝関節は接地時の衝撃を吸収するための特徴的な運動軌道を描いて動作しており、股関節の運動軌道とは全く異なる。つまり、股関節と同様な歩行用の制御軌道ではロボット装着者の膝関節に違和感を与える。したがって、神経振動子を用いて、この膝関節の制御軌道を生成することが必要である。
【0007】
本発明の課題は、この点に鑑みて、歩行時における膝関節の特徴的な運動軌跡を神経振動子による制御軌道として生成することのできるロボティックウエアの神経振動子を用い
た同調制御方法および同調制御用コンピュータプログラムを提案することにある。
【0008】
また、本発明の課題は、運動周期が異なる神経振動子が混在する下肢4関節に装着される関節アクチュエータの駆動制御を適切に行うことのできるロボティックウエアの神経振動子を用いた同調制御方法および同調制御用コンピュータプログラムを提案することにある。
【0009】
さらに、本発明の課題は、新たな同調性制御方法あるいは同調制御用コンピュータプログラムによって駆動制御されるロボティックウエアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、ヒトの膝関節は衝撃を吸収するために特徴的な運動軌道を描くことに着目し、それを1歩行周期の間に、1歩行運動を構成する立脚相および遊脚相からなる異なる振幅の2周期運動と捉えて膝関節の軌道制御を行うようにしている。すなわち、本発明では、膝関節神経振動子出力の極小値間の信号に対して適切な振幅倍率とオフセット値を与えることによって、振幅の異なる立脚相1周期波形と遊脚相1周期波形とが滑らかに接続された2周期波形によって規定される膝関節制御軌道を生成するようにしている。
【0011】
また、本発明では、膝関節神経振動子出力の極小値間の信号波形が立脚相、遊脚相のいずれに該当するのかの判定を、極小値が得られる時点の股関節神経振動子出力の正負によって行うようにしている。
【0012】
さらに、神経振動子は同調という性質を持つので、一定の振幅倍率およびオフセット値を用いて生成された立脚相および遊脚相の波形を接続することによって得られる2周期波形の継ぎ目には誤差が生じる。これを解消するために、本発明においては、継ぎ目誤差を解消して滑らかな継ぎ目となるように波形修正を施す(誤差補正を行う)ようにしている。
【0013】
具体的に説明すると、本発明は、ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を股関節および膝関節に伝える股関節アクチュエータおよび膝関節アクチュエータを備えた人体装着型のロボティックウエアの制御を、神経振動子を用いた同調制御により行う同調制御方法および同調制御用コンピュータプログラムであって、
ヒトの歩行時に股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御し、
前記歩行時に膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御し、
前記股関節制御軌道の1周期をヒトの1歩行周期に対応するように設定し、
前記膝関節制御軌道を、前記股関節制御軌道の1周期を2周期とする2周期制御軌道に設定し、
前記股関節制御軌道の各1周期分の軌道波形に対応する前記膝関節制御軌道の2周期分の軌道波形が、ヒトの1歩行運動の立脚相および遊脚相の動きに対応するように、一方の立脚相軌道波形の振幅を、他方の遊脚相軌道波形の振幅に比べて小さくなるように設定することを特徴としている。
【0014】
具体的な膝関節制御軌道の生成手順は次の通りである。まず、前記股関節神経振動子の自励振動を規定する股関節基本波形を設定する。次に、前記膝関節神経振動子の自励振動を規定する膝関節基本波形を、前記股関節基本波形の周期の1/2の周期を有するように設定する。次に、前記膝関節神経振動子の出力信号における前記立脚相に対応する立脚相
波形部分および遊脚相波形部分に対して、予め設定されている振幅倍率とオフセット値をそれぞれ与えて、前記立脚相軌道波形および前記遊脚相軌道波形を備えた膝関節制御軌道を規定する制御信号波形を生成する。
【0015】
立脚相波形部分と遊脚相波形部分を判別するために、まず、前記膝関節神経振動子の出力信号の極小点を判別する。次に、前記極小点のそれぞれについて、対応する時点における前記股関節神経振動子の出力信号の振幅値を判別する。そして、前記振幅値に基づき、前記膝関節神経振動子の出力信号の各極小点間が前記立脚相波形部分および前記遊脚相波形部分のいずれであるかを判別する。
【0016】
ここで、前記制御信号波形における前記立脚相波形部分と前記遊脚相波形部分との間の継ぎ目部分が一致していない場合に、当該継ぎ目部分が滑らかに連続する継ぎ目部分となるように、波形修正を施すようにする。
【0017】
下肢4関節用のロボティックウエアの場合には、前記ロボティックウエアは、前記股関節アクチュエータとしてヒトの左右の股関節にアシスト力を与える左股関節アクチュエータおよび右股関節アクチュエータと、前記膝関節アクチュエータとしてヒトの左右の膝関節にアシスト力を与える左膝関節アクチュエータおよび右膝関節アクチュエータとを備えている。この場合には、前記左股関節アクチュエータおよび前記右股関節アクチュエータを、相互に逆位相の前記股関節制御軌道を描くように駆動制御する。また、前記左膝関節アクチュエータおよび前記右膝関節アクチュエータを、相互に1周期分位相がずれた状態で前記膝関節制御軌道を描くように駆動制御する。
【0018】
次に、本発明のロボティックウエアは、
ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を股関節に与える股関節アクチュエータと、
ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を膝関節に伝える膝関節アクチュエータと、
前記股関節アクチュエータおよび前記膝関節アクチュエータを制御する同調制御装置と、
を有しており、
前記同調制御装置は、
ヒトの歩行時に股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御する股関節制御部と、
前記歩行時に膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御する膝関節制御部と、
を備えており、
前記股関節制御軌道の1周期をヒトの1歩行周期に対応するように設定されており、
前記膝関節制御軌道を、前記股関節制御軌道の1周期を2周期とする2周期制御軌道に設定されており、
前記股関節制御軌道の各1周期分の軌道波形に対応する前記膝関節制御軌道の2周期分の軌道波形が、ヒトの1歩行運動の立脚相および遊脚相の動きに対応するように、一方の立脚相軌道波形の振幅を、他方の遊脚相軌道波形の振幅に比べて小さくなるように設定されていることを特徴としている。
【0019】
ここで、前記股関節神経振動子の自励振動を規定する基本波形を股関節基本波形とすると、前記膝関節神経振動子の自励振動を規定する膝関節基本波形は、前記股関節基本波形の周期の1/2の周期を有するように設定されている。また、前記膝関節制御部は、前記膝関節神経振動子の出力信号における前記立脚相に対応する立脚相波形部分および遊脚相波形部分に対して、予め設定されている振幅倍率とオフセット値をそれぞれ与えて、前記
立脚相軌道波形および前記遊脚相軌道波形を備えた膝関節制御軌道を規定する制御信号波形を生成する信号処理部を備えた構成とすることができる。
【0020】
また、前記信号処理部は、前記膝関節神経振動子の出力信号の極小点を判別する極小点判別部と、前記極小点のそれぞれについて、対応する時点における前記股関節神経振動子の出力信号の振幅値を判別する値判別部と、前記振幅値に基づき、前記膝関節神経振動子の出力信号の各極小点間が前記立脚相波形部分および前記遊脚相波形部分のいずれであるかを判別する相判別部とを備えた構成とすることができる。
【0021】
さらに、前記信号処理部は、前記制御信号波形における前記立脚相波形部分と前記遊脚相波形部分との間の継ぎ目部分が一致していない場合に、当該継ぎ目部分が滑らかに連続する継ぎ目部分となるように、波形修正を施す波形修正部を備えている。
【0022】
下肢4関節の制御軌道を生成するためには、前記股関節アクチュエータとして、ヒトの左右の股関節にアシスト力を与える左股関節アクチュエータおよび右股関節アクチュエータとを備え、前記膝関節アクチュエータとして、ヒトの左右の膝関節にアシスト力を与える左膝関節アクチュエータおよび右膝関節アクチュエータとを備え、前記股関節制御部は、前記左股関節アクチュエータおよび前記右股関節アクチュエータを、相互に逆位相の前記股関節制御軌道を描くように駆動制御し、前記膝関節制御部は、前記左膝関節アクチュエータおよび前記右膝関節アクチュエータを、相互に1周期分位相がずれた状態で前記膝関節制御軌道を描くように駆動制御すればよい。
【0023】
ロボティックウエアとしては、前記股関節アクチュエータによって規定されるロボット股関節と前記膝関節アクチュエータによって規定されるロボット膝関節との間を連結するリンク機構が備わっていない非外骨格型ロボティックウエアを用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、ヒトの歩行時に膝関節は衝撃を吸収するための特徴的な運動軌道を、異なる振幅の2周期運動と捉え、歩行時の膝関節の運動軌道とほぼ同様な股関節制御軌道を生成している。本発明によれば、装着者に違和感を与えない膝関節の歩行支援を実現できる。また、下肢4関節すべてにおいてヒトの運動軌跡とほぼ同一で装着者に違和感を与えない制御軌道を生成できるので、神経振動子を用いた同調制御により、下肢4関節の歩行支援を適切に行うことのできるロボティックウエアを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】非外骨格型ロボティックウエアの一例を示す正面図および側面図である。
【図2】神経振動子を用いた同調制御システムを示す概略ブロック図である。
【図3】神経振動子のモデルを示す説明図である。
【図4】ヒトの歩行フェーズと下肢関節の運動軌跡を示す説明図である。
【図5】下肢4関節の神経振動子間の抑制結合形態の一例、および、各神経振動子からの出力波形を示す説明図である。
【図6】図5の抑制結合形態によって生成される股関節および膝関節の制御軌道を示す説明図である。
【図7】本発明による2周期軌道生成手順を示すフローチャートである。
【図8】股関節神経振動子および膝関節神経振動子の出力波形、極小点の条件、極小点におけるフェーズ判定を示す説明図である。
【図9】膝関節神経振動子の出力波形の振幅調整、オフセット調整を示す説明図である。
【図10】生成された2周期波形(膝関節制御軌道)を示す説明図である。
【図11】膝関節神経振動子の同調性による出力振幅の変化を示す説明図である。
【図12】膝関節神経振動子の同調性による出力変動に起因する2周期波形の継ぎ目誤差の発生を示す説明図である。
【図13】2周期波形の継ぎ目誤差に起因するドリフトの誘発を示す説明図である。
【図14】2周期波形の継ぎ目誤差の補正方法を示す説明図である。
【図15】本発明を適用した下肢4関節制御システムを示す機能ブロック図である。
【図16】本発明を適応した下肢4関節の神経振動子の抑制結合形態、各神経振動子からの出力波形を示す説明図、および各関節の制御軌道を示す説明図である。
【図17】図16の抑制結合形態によって生成される股関節制御軌道および膝関節制御軌道を示す説明図である。
【図18】検証実験1の設定条件を示す説明図である。
【図19】検証実験1において得られた下肢4関節の制御軌道を示す説明図である。
【図20】検証実験2の実験状況を示す説明図である。
【図21】検証実験2の実験条件を示す説明図である。
【図22】検証実験2の実験結果を示す説明図である。
【図23】検証実験3における本発明による2周期軌道制御を用いた場合(図16に示す場合)の結果を示す説明図である。
【図24】検証実験3における2周期軌道制御を用いない場合(図5に示す場合)の結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、図面を参照して、本発明のロボティックウエアの神経振動子を用いた同調制御について詳細に説明する。

【0027】
まず、本発明の前提となるロボティックウエアの例、同調制御、神経振動子、ヒトの歩行運動について説明する。

【0028】
[人体装着型のロボティックウエア]
図1に、先行研究(非特許文献3)において開発され、本発明において用いることのできる非外骨格型ロボティックウエア(以下、単に「ロボット」と呼ぶ場合もある。)を示す。ロボットの関節間にリンク機構が無く、人体の骨格系を利用して、股関節アクチュエータおよび膝関節アクチュエータであるモータユニットで、直接的に人体の関節の動きを補助する機構である。モータユニットは、モータと、この出力回転を減速して出力する減速機とから構成される。減速機出力軸(関節軸)には、ここを中心として開閉する上下の旋回腕が取付けられ、これらの旋回腕の開閉運動が、それぞれ、サポートベルトを介して、股関節、膝関節に繋がる骨格系に伝達される。

【0029】
[同調制御方法]
先行研究(非特許文献2)ならびに本発明では、神経振動子を用いた同調制御を用いている。図2に、その制御システムの概要を示す。ロボットとヒトの動きによって生じる相互作用力を減速機内蔵型トルクセンサによって計測し、同調ゲインを乗じたものを神経振動子への入力として用いており、入力を受けた神経振動子からは同調した信号が出力される。この出力信号を目標角度としてPID制御を通じてロボットの動きを生成する。このフィードバック制御によってヒトの運動との同調を図ろうとする仕組みである。同調ゲイン(C)は同調性を決める係数であり、値が大きいほどロボットはヒトの動きに同調する。つまり同調性が高くなる。

【0030】
なお、図2に示すシステムでは、(株)ハーモニック・ドライブ・システムズ製の「ハーモニックドライブ(登録商標)」と呼ばれる減速機を使用している。また、その構成部品であるフレクスプライン(可撓性外歯車)におけるダイヤフラムの部分において、中心軸線回りに等角度間隔に貼り付けた3組の歪ゲージによってトルクセンサが構成されている。

【0031】
[神経振動子:松岡モデル]
ヒトは歩行運動などの基本的なリズム運動を行う際には、CPG(Central Pattern Generator)と呼ばれる神経回路を用いて制御しながら動作を生成している。CPGは互いに位相関係を有しながら振動している神経組織の集合で、この神経回路内で発現する神経素子間の興奮・抑制メカニズムをモデル化したものが神経振動子である。

【0032】
松岡らは、神経振動子を構成する神経素子のモデル化ならびに神経振動子の組み合わせによって、CPGが構成されることを提唱し(非特許文献1)、神経振動子間の抑制結合形態とそれによって生成される出力振動の関連についても研究を行っている。この神経振動子には外部入力信号に自励振動を同調させる同調現象や外部に対する引き込みという性質があり、先行研究(非特許文献2)では、この性質を利用したロボットとヒトの同調制御を実現している。

【0033】
本発明においても、同様に、この松岡モデルを用いてロボットを制御する。松岡モデルは、図3に示すように、最小の構成である二つの神経素子により構成され、その出力の差が一つの出力となって周期的な運動を生成できるモデルであり、式(1)~(3)の非線形1階連立微分方程式で表せる。

【0034】
【数1】
JP0006646297B2_000002t.gif

【0035】
ここで、
xi:i番目の神経素子の内部状態を示す係数
g(xi):i番目の神経素子の出力
fi:i番目の神経素子の疲労状態を表す係数
Si:i番目の神経素子への定常入力
bi:i番目の神経素子の疲労係数
aij:i番目の神経素子からj番目の神経素子への結合係数
Ta,Tr:時定数
Input:外部入力
である。

【0036】
また、相互作用力を相互作用トルクτ_mutualとし、同調制御における同調性を調整するゲインを同調ゲインCとすると、外部入力Inputは、相互作用トルクτ_mutualと同調ゲインCを用いて、
Input=C*τ_mutual
で表される。

【0037】
この神経振動子の出力Outputをg(xi)-g(xj)とすることで、正弦波のような周期的な信号が得られる。なお、本例においては、先行研究(非特許文献2)に基
いて、
aij=0.12
bi=2.5
fi=1.0
Si=2.0
Tr/Ta=0.2
としている。

【0038】
[ヒトの歩行フェーズと下肢関節の運動軌跡]
図4に示すように、ヒトの1歩行動作においては、股関節は歩行動作の周期に対応した周期の運動軌道を描く。これに対して、膝関節は衝撃を吸収するための特徴的な運動軌道を描く。

【0039】
[相互抑制結合と位相]
次に、本発明に到る過程において検討した下肢4関節用の神経振動子の抑制結合形態について説明する。

【0040】
先行研究(非特許文献2)および松岡らによって提唱された神経振動子間の抑制結合の考え方に基いて、股関節と膝関節の運動角度が同位相となるように、下肢4関節の神経振動子間の抑制結合形態を設定することが考えられる。図5には、この抑制結合形態と神経振動子からの出力波形を示す。ここで、各関節の神経振動子を結ぶ線は抑制結合を表している。

【0041】
図6には、上記の抑制結合形態によって生成される股関節および膝関節の制御軌道と、ヒトの股関節および膝関節の運動軌跡を示す。ここで、股関節における角度の+値は屈曲を、-値は伸展を表し、膝関節における角度0は完全な伸展状態を、+値は屈曲を表している。この図から分かるように、股関節制御軌道に関しては歩行期全域にわたって装着者の関節角軌跡に沿うものとなっているが、膝関節に関しては前遊脚期から遊脚期初期にかけて追従しているものの、遊脚中期から次の荷重応答期においては大きなかい離が見られる。ヒトの歩行に関する文献によれば、初期接地から荷重応答期の膝関節における特徴的な運動軌跡は、膝関節が歩行時の衝撃吸収機構として働いていることを示しており、ヒトの正常な歩行において重要な要素とされている。したがって、本来はこのような制御軌道でなければならないが、現状の制御方法では股関節と膝関節の位相や周期をどのように調整しても、初期接地時の衝撃吸収機能を維持するような運動軌跡にはならないことが分かる。

【0042】
[2周期軌道制御システム]
次に、本発明が採用している股関節アクチュエータ制御用の2周期軌道について説明する。

【0043】
(軌道生成法)
ヒト歩行時の特徴的な膝関節運動軌跡は、その1歩行周期中に二つのフェーズ(遊脚相と立脚相)が存在する(図4参照)。本発明者等は、一つのフェーズ中に、丁度、1周期分の波形が含まれていることに着目した。振幅の大きな遊脚相軌跡と振幅の小さな立脚相軌跡の周期は主に股関節の周期の1/2であることから、膝関節は1歩行周期中に2周期分の動作をする2周期軌道と捉えた。これに基づく本発明の2周期軌道の生成手順を図7に示す。

【0044】
(フェーズ波形の生成)
まず、図8には、2周期軌道の生成における膝関節の二つのフェーズ波形を生成する流
れを示す。フェーズ波形生成の第1段階では、股関節の動作周期の1/2の周期となる膝関節の基本波形(膝関節基本波形)を生成する。具体的には、膝関節の神経振動子の時定数TrおよびTaをそれぞれ股関節の時定数の半分にすることで、基本波形が生成される。次に、基本波形の極小点を判別する。時刻tにおける膝関節の神経振動子の出力値が極小点である場合には、当該時刻tの前後の時刻における出力値に比べて、当該時刻tの出力値が小さいので、これに基づき、膝関節の基本波形の極小点を判別できる。図8(b)においては、基本波形の時刻tにおける点Kが極小点であるための条件を示してある。

【0045】
ここで、極小点間の波形部分が遊脚相、立脚相のいずれに相当するのかを判定するフェーズ判定は次のように行うことができる。図8(a)に示すように、時刻tにおける膝関節の神経振動子の出力信号Kが極小となるときの股関節の神経振動子の出力信号の符号に違いがある。これに着目し、図8(c)に示す判定式に従ってフェーズ判定を行うことができる。膝関節の神経振動子の出力信号Kが極小値のときの股関節の神経振動子の出力信号θが+値の場合には当該極小値は立脚フェーズの開始点を表す極小値Kであり、出力信号θが-値の場合には当該極小値は立脚フェーズの終了点を表す極小値Kであることが分かる。

【0046】
フェーズ波形生成の第2段階では、図9に示すように、膝関節の基本波形における隣接する極小点間の1周期分に相当する波形部分のそれぞれに対して、フェーズ(遊脚相と立脚相)に応じた振幅倍率を乗じて、ロボットの膝関節アクチュエータの動作振幅に対応する振幅を備えたフェーズ波形を生成する。股関節の神経振動子の基本波形(股関節基本波形)にも所定の振幅倍率を乗じ、所定のオフセット値を加えて、股関節アクチュエータの動作振幅に対応する振幅を備えた波形に整形する。

【0047】
第3段階においては、図10に示すように、各フェーズ波形の最小値が0となるようなオフセット値を加えることにより、振幅の異なる立脚フェーズ波形と遊脚フェーズ波形を段差状の継ぎ目が生じないように繋げて、2周期波形(立脚相軌道波形、遊脚相軌道波形)を生成する。

【0048】
(継ぎ目誤差補正)
神経振動子は、入力信号に合わせて出力信号の振幅や周期を変化させる。つまり、同調するという性質を持っているので、図11に示すように、出力振幅と周期が変動する。

【0049】
神経振動子の同調性によって出力振幅が変化するが、各フェーズのオフセット値は固定であるので、出力振幅の変動によって、図12に示すように、フェーズの継ぎ目、すなわち極小点において誤差が生じる。この誤差分を単純にオフセットすれば誤差は解消できるが、各フェーズのオフセット値および誤差補正値は定数であるので、神経振動子の出力変動によって、生成される2フェーズ波形には、図13に示すようなドリフトが誘発されてしまう。

【0050】
この問題を解決するために、本発明では、図14に示すように、オフセット波形の補正を行っている。補正方法は、極小点での継ぎ目誤差Dだけオフセットした補正波形から、微小な補正量dを加算または減算し、その累積補正値がオフセット値Dに達するまで(N×d=Dとなるまで)補正を繰り返すものである。

【0051】
[下肢4関節制御システム]
図15は本発明を適用した下肢4関節制御システムの一例を示す機能ブロック図である。ここで、Tは相互作用トルク、Cは同調ゲイン値、Inputは神経振動子への入力、Nは神経振動子からの出力、AMPは制御軌道の振幅、OFFSETは制御軌道のオフセット値、AGLは生成される出力角度、Dはサイクル変換点における継ぎ目誤差、Hは誤
差Dオフセットした波形、dはドリフト誤差補正値、MはPID制御に用いられる目標角度である。添え字のkとhは、それぞれ膝関節と股関節を示す。

【0052】
この図に示すように、下肢4関節制御システム1(ロボティックウエア)は、ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を股関節に与える股関節アクチュエータ2と、ヒトの歩行運動を補助するアシスト力を膝関節に伝える膝関節アクチュエータ3と、股関節アクチュエータ2および膝関節アクチュエータ3を制御する同調制御装置4とを有している。

【0053】
同調制御装置4はコンピュータを中心に構成され、インストールされている同調制御用コンピュータプログラムを実行することにより、ヒトの歩行時に股関節と股関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、股関節神経振動子を用いた同調制御により、股関節アクチュエータを所定の股関節制御軌道を描くように駆動制御する股関節制御部5、および、歩行時に膝関節と膝関節アクチュエータの間に生じる相互作用力に基づき、膝関節神経振動子を用いた同調制御により、膝関節アクチュエータを所定の膝関節制御軌道を描くように駆動制御する膝関節制御部6として機能する。

【0054】
股関節制御軌道の1周期はヒトの1歩行周期に対応するように設定され、膝関節制御軌道は、股関節制御軌道の1周期を2周期とする2周期制御軌道に設定される。股関節制御軌道の各1周期分の軌道波形に対応する膝関節制御軌道の2周期分の軌道波形は、ヒトの1歩行運動の立脚相および遊脚相の動きに対応するように、一方の立脚相軌道波形の振幅を、他方の遊脚相軌道波形の振幅に比べて小さくなるように設定される。

【0055】
すなわち、股関節制御部5の股関節神経振動子7の自励振動を規定する基本波形を股関節基本波形とすると、膝関節制御部6の膝関節神経振動子8の自励振動を規定する膝関節基本波形は、先に述べたように、股関節基本波形の周期の1/2の周期を有するように設定されている。

【0056】
また、膝関節制御部6は、図15に示すように、膝関節神経振動子8の出力信号における立脚相に対応する立脚相波形部分および遊脚相波形部分に対して、予め設定されている振幅倍率とオフセット値をそれぞれ与えて、立脚相軌道波形および遊脚相軌道波形を備えた膝関節制御軌道を規定する制御信号波形(2周期波形)を生成する信号処理機能を備えている。

【0057】
信号処理機能には、膝関節神経振動子8の出力信号の極小点を判別する極小点判定機能9と、極小点のそれぞれについて、対応する時点における股関節神経振動子7の出力信号の振幅値に基づき、膝関節神経振動子8の出力信号の各極小点間が立脚相波形部分および遊脚相波形部分のいずれであるかを判別する相判定機能10(周期判定機能)が備わっている。また、制御信号波形(2相波形)における立脚相波形部分と遊脚相波形部分との間の継ぎ目部分が一致していない場合に、当該継ぎ目部分が滑らかに連続する継ぎ目部分となるように、波形修正を施す波形修正機能(継目誤差検知、誤差補正、ドリフト誤差補正)が備わっている。

【0058】
このようして修正された制御信号波形によって規定される膝関節の目標角度がPID制御部11に供給され、PID制御部11は、現在角度が目標角度になるように、膝関節アクチュエータ3をPID制御する。

【0059】
股関節制御部5の側においても、生成された制御信号波形(1周期波形)によって規定される股関節の目標角度がPID制御部12に供給され、PID制御部12は、股関節の現在角度が目標角度になるように、股関節アクチュエータ2をPID制御する。

【0060】
下肢4関節制御システム1では、下肢4関節の制御軌道を生成するために、股関節アクチュエータ2として、ヒトの左右の股関節にアシスト力を与える左股関節アクチュエータおよび右股関節アクチュエータを備え、膝関節アクチュエータ3として、ヒトの左右の膝関節にアシスト力を与える左膝関節アクチュエータおよび右膝関節アクチュエータとを備えている。股関節制御部5は、左股関節アクチュエータおよび右股関節アクチュエータを、相互に逆位相の股関節制御軌道を描くように駆動制御する。膝関節制御部6は、左膝関節アクチュエータおよび右膝関節アクチュエータを、相互に1周期分位相がずれた状態で膝関節制御軌道を描くように駆動制御する。

【0061】
(神経振動子間の相互抑制結合)
先に述べたように、図5に示す下肢4関節制御システムにおける神経振動子間の抑制結合形態では、股関節と膝関節に位相ズレが生じる。

【0062】
これに対して、本発明におる下肢4関節制御システムにおいては、膝関節を2周期軌道制御としたことによって、神経振動子間の抑制結合形態は図16に示すようになる。この形態では、図17に示すように、制御軌跡とヒトの下肢関節制御軌道がほぼ一致していることが分かる。

【0063】
[検証実験]
(検証実験1:制御軌道の確認)
(a)実験の目的と方法
図16に示す本発明の制御システムによって継ぎ目誤差やドリフトも無い制御軌道で動作できているかの確認を実験目的とし、人体に装着しない、つまり外部入力が全く無い条件でロボットを60秒間動作させて、その制御軌道を計測した。具体的には、ロボティックウエアの左右の股関節アクチュエータおよび左右の膝関節アクチュエータが動作時に接触しないように机上に配置し、それらの同調性を決める同調ゲイン値Cを0として、外部入力の影響を受けない状態とした。なお、制御軌道の設定は、神経振動子の時定数をTa=0.8、Tr=0.16とし、2周期軌道である膝関節に関しては股関節の1/2に設定した。これは歩行周期1.65秒(約1.2m/sec)に相当する。振幅に関しては図18に示す値を設定した。ここで、第1振幅と第2振幅はそれぞれ遊脚相と立脚相の振幅(動作設定角度)を表している。

【0064】
(b)実験結果
図19に、下肢4関節の角度軌道(股関節制御軌道、膝関節制御軌道)を示す。この結果から、左右の股関節間ならびに左右の膝関節間に180°の位相差があり、下肢4関節すべてにおいてシミュレーション結果と同じ制御軌道でロボットが動作していることがわかる。換言すると、膝関節の特徴的な軌道をロボットの制御軌道として実現できていること、継ぎ目誤差や誤差ドリフトの無い制御軌道でロボットが動作できること、周期が異なる神経振動子が混在したシステムが実現できていること(下肢4関節の動作角度の位相が正しく制御されていること)が確認された。

【0065】
(検証実験2:ヒトの動きに対するロボットの同調性と制御軌道の確認)
(a)実験の目的と方法
本実験では、変動する神経振動子の出力に応じた制御軌道生成が出来ているか否かの検証を行った。

【0066】
図20に示すように、装着者の両下肢にウエイトを固定した状態で同調性を変えた場合の歩行実験を行った。すなわち、装着者に通常歩行が困難な状態をつくり、歩行時の同調性を変えた場合の制御軌道を計測し、ロボットの同調性と制御軌道を検証した。図21に実験条件を示す。

【0067】
図22に、同調性が高い場合(C=0.5)および同調性が低い場合(C=0.1)の実験結果を示す。

【0068】
これらの結果から、同調性が高い場合、ロボットはウエイトによって歩行が困難になった装着者に同調した制御軌道となり、同調性が低い場合、ロボットは自励振動の制御軌道で運動しようとするため、歩行困難な装着者がロボットによって歩行補助されていることが分かる。換言すると、ロボットの同調性を設定することによって、装着者の歩行に同調あるいはロボットの運動に引き込んだ歩行補助も可能であることが確認された。

【0069】
(検証実験3:従来制御との比較)
(a)実験の目的と方法
従来の膝関節制御と本発明による2周期軌道制御を、ロボットと装着者の間に生じる相互作用トルクで比較し、装着者にとって違和感のない制御軌道に改善できているかの検証を実験の目的とした。

【0070】
実験方法としては、健康な被験者にロボティックウエアを装着し、それぞれの制御で60秒間の床面自然歩行を行った。自然歩行は装着者にとって違和感なく歩きやすい歩行を指示した。設定条件は上記の検証実験1の場合と同一とし、ロボットの同調ゲインをC=0.1とした。

【0071】
(b)実験結果
図23には、本発明の2周期軌道制御の場合に得られた膝関節の角度軌道および各関節における相互作用トルクを示し、図24には、従来の膝関節制御の場合に得られた膝関節の角度軌道および各関節における相互作用トルクを示す。これらの結果から、本発明による2周期軌道制御では相互作用トルクが減少していることがわかる。
【符号の説明】
【0072】
1 下肢4関節制御システム
2 股関節アクチュエータ
3 膝関節アクチュエータ
4 同調制御装置
5 股関節制御部
6 膝関節制御部
7 股関節神経振動子
8 膝関節神経振動子
9 極小点判定機能
10 相判定機能
11 PID制御部
12 PID制御部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23