【非特許文献1】Baneyx, F., and Mujacic, M. (2004) Recombinant protein folding and misfolding in Escherichia coli. Nat. Biotechnol. 22, 1399-1408. 【非特許文献2】Weinstock, G. M., ap Rhys, C., Berman, M. L., Hampar, B., Jackson, D., Silhavy, T. J., Weisemann, J., and Zweig, M.(1983) Open reading frame expression vectors: a general method for antigen production in Escherichia coli using protein fusions to beta-galactosidase. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80(14), 4432-4436. 【非特許文献3】Sorensen, H. P., and Mortensenm K. K. (2005) Soluble expression of recombinant proteins in the cytoplasm of Escherichia coli. Microbial Cell Factories 2005, 4:1 doi:10.1186/1475-2859-4-1. 【非特許文献4】Dabbs, E. R. (1979) Selection for Escherichia coli mutants with proteins missing from the ribosome. J. Bacteriol. 140, 734-737 【非特許文献5】Uchiumi, T., Honma, S., Nomura, T., Dabbs, E. R., and Hachimori, A. (2002) Translation elongation by a hybrid ribosome in which proteins at the GTPase center of the Escherichia coli ribosome are replaced with rat counterparts. J. Biol. Chem. 277, 3857-3862. 【非特許文献6】Dyke, N. V., Xu, W., and Murgola, E. J. (2002) J.Mol.Biol.319, 329-339. 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 特許文献1に示されるような、低温培養条件による大腸菌内タンパク質合成は、低温環境を維持するための専用機器や、それらを維持するためのコストが必要となり、多くのタンパク質を合成する必要がある場合には、経済的負荷、環境負荷が大きい。これに対して、特許文献2に示されるL11欠損大腸菌変異株(AM68株)を発現宿主とした場合は、低温環境を必要としないが、生育が遅すぎるために、一連の操作に長時間を要することや、発現ベクターを大腸菌内に導入するための、形質転換効率が極めて悪いという課題があった。 【0010】 本発明者らは、上記課題を解決すべく、大腸菌を用いる可溶化タンパク質の製造方法において、ターゲットタンパク質の生成過程での低温環境下での培養条件を必要とせず、且つ、宿主の大腸菌の生育過程での生育時間を短縮する方法について鋭意研究を行った。AM68株は、L11発現遺伝子が欠損していることから、宿主の大腸菌の生育過程およびターゲットタンパク質の生成過程の全ての過程において生育時間が長い。そこで、本発明者は、宿主の大腸菌の生育過程においてはL11の発現を促し、ターゲットタンパク質の生成過程ではL11の発現を抑えることによって、ターゲットタンパク質の生成過程においてのみ生育時間を遅くしてターゲットタンパク質を可溶化できると考え、L11発現遺伝子の発現を誘導物質により調節できる誘導性プロモーターをL11発現遺伝子の上流に組み込んだベクターを作製し、形質転換したところ誘導物質によりL11の発現を制御できることを見出した。 【0011】 さらに、ターゲットタンパク質の生成過程ではL11の発現を抑えると共にターゲットタンパク質の発現を誘発すべく、L11発現プロモーターの誘導物質とは異なる誘導物質により調節できる誘導性プロモーターをターゲットタンパク質発現遺伝子の上流に組み込んだベクターを作製し形質転換することにより、可溶化したターゲットタンパク質を効率よく生成させることができるとの知見を得て、本発明を完成させるに至った。 【0012】 即ち本発明は、低温環境を維持する培養装置を必要とせず、かつ、十分な生育速度と形質転換効率を確保することが可能な、可溶化したターゲットタンパク質の製造方法、及びこれを実現するための新規ベクターを提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】 (1)本発明に係るタンパク質の製造方法は、GST発現遺伝子とその下流のMCS領域にターゲットタンパク質発現遺伝子が組み込まれた系の上流にtacプロモーターを有したターゲットタンパク質遺伝子の発現誘導システムと、さらに、L11発現遺伝子とその上流にaraBADプロモーターを有したL11遺伝子の発現誘導システムとを有したベクターにより形質転換がなされたL11欠損大腸菌を用いたタンパク質の製造方法であって、0.3%以上の濃度のアラビノース(arabinose)を含む液体培地中で前記L11欠損大腸菌の生育を高速化させるプロセスと、 0.1%以下の濃度のアラビノースを含む液体培地中で前記L11欠損大腸菌の生育を低速化させるプロセスと、さらにイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)存在下でターゲットタンパク質の発現誘導を実行させるプロセスと、を含むことを特徴とするタンパク質の製造方法である。 【0014】 (2)また、本発明に係るベクターは、前記タンパク質の製造方法に用いるL11欠損大腸菌を形質転換するベクターであって、配列表の配列番号1に示される塩基配列またはその配列の1もしくは複数の塩基が欠失、置換もしくは付加された配列で示される塩基配列を有するベクターである。 【図面の簡単な説明】 【0021】 【図1】本発明に係る製造方法の概要図である。 【図2】pBAD24/Ec_L11作製の模式図である。 【図3】実施例に係る二制御系ベクター(pTAK)の作製の模式図である。 【図4】pTAK発現ベクター作製の模式図である。 【図5】ΔL11-pBAD24/Ec_L11の生育実験の結果である。 【図6】ΔL11-pTAKの生育実験の結果である。 【図7】ΔL11-pTAKにおけるL11存在状態の解析結果である。 【図8】ターゲットタンパク質の発現状態の解析結果である。 【発明を実施するための形態】 【0022】 以下に、本発明に係る可溶化タンパク質の製造方法を実施するための形態について説明する。