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明細書 :抗癌剤及び癌の診断キット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6249450号 (P6249450)
公開番号 特開2017-039647 (P2017-039647A)
登録日 平成29年12月1日(2017.12.1)
発行日 平成29年12月20日(2017.12.20)
公開日 平成29年2月23日(2017.2.23)
発明の名称または考案の名称 抗癌剤及び癌の診断キット
国際特許分類 A61K  38/17        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI A61K 38/17 ZNA
A61K 48/00
A61P 35/00
A61P 43/00 105
C12Q 1/68 A
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2015-160409 (P2015-160409)
出願日 平成27年8月17日(2015.8.17)
審査請求日 平成29年5月19日(2017.5.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
発明者または考案者 【氏名】汾陽 光盛
【氏名】米澤 智洋
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100188558、【弁理士】、【氏名又は名称】飯田 雅人
審査官 【審査官】小堀 麻子
参考文献・文献 米国特許出願公開第2006/0293226(US,A1)
ACTA ANATOMICA SINICA,2009年,Vol.40, No.1,p.52-56
ONCOLOGY REPORTS,2014年,Vol.32, No.6,p.2557-2563
DATABASE EMBASE AN:0050428383,2010年,Abstract
Clinica Chimica Acta,2014年,Vol.427,p.42-48
Chinese Journal of Cancer Prevention and Treatment,2014年,Vol.21, No.2,p.91-94,99
調査した分野 A61K 38/00
A61K 48/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)

特許請求の範囲 【請求項1】
アネキシンA5タンパク質又はその誘導体を有効成分として含有する、乳腺腫瘍に対する抗癌剤。
【請求項2】
アネキシンA5タンパク質又はその誘導体の発現ベクターを有効成分として含有する、乳腺腫瘍に対する抗癌剤。
【請求項3】
癌細胞にアポトーシスを誘導する、請求項1又は2に記載の乳腺腫瘍に対する抗癌剤。
【請求項4】
アネキシンA5タンパク質に対する特異的結合物質又はアネキシンA5遺伝子を増幅するプライマーセットを備え、生検試料中のアネキシンA5タンパク質の発現量又は生検試料中のアネキシンA5遺伝子の発現量が、正常組織中のアネキシンA5タンパク質の発現量又はアネキシンA5遺伝子の発現量と比較して低いことが、前記生検試料が乳腺腫瘍由来のものであることを示す、乳腺腫瘍の診断キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤及び癌の診断キットに関する。
【背景技術】
【0002】
アネキシンは、カルシウムを結合することによってリン脂質への結合性を示す一群のタンパク質の総称であり、現在までに植物からほ乳類まで20種類以上が見出されている。アネキシンは、分子量30,000~40,000(アネキシンA6のみ約66,000)のタンパク質であり、アミノ末端側に各アネキシンに固有のアミノ酸配列(11~196残基)を有しており、カルボキシ末端側にアネキシンファミリー内でよく保存された約60アミノ酸残基からなるαヘリックスを含む相同性の高い4回(アネキシンA6のみ8回)の繰り返し構造を有している。カルシウム結合部位やリン脂質結合部位はカルボキシ末端側に存在する。
【0003】
アネキシンA5は、アネキシンファミリーに属する約36kDaのタンパク質であり、下垂体、卵巣、乳腺等に発現していることが知られている。例えば非特許文献1では、アネキシンA5が下垂体前葉で発現し、ホルモンの一種であるプロラクチンと結合することが報告されている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Kawaminami M., et al., Association of annexin V with prolactin in the rat anterior pituitary gland., Biochem. Biophys. Res. Commun. 186 (2), 894-898, 1992.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アネキシンの生理作用には未だ不明な点が多い。本発明は、アネキシンA5の新たな生理作用を解明し、アネキシンA5の新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
(1)アネキシンA5タンパク質又はその誘導体を有効成分として含有する抗癌剤。
(2)アネキシンA5タンパク質又はその誘導体の発現ベクターを有効成分として含有する抗癌剤。
(3)癌細胞にアポトーシスを誘導する、請求項1又は2に記載の抗癌剤。
(4)アネキシンA5タンパク質に対する特異的結合物質又はアネキシンA5遺伝子を増幅するプライマーセットを備える癌の診断キット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、アネキシンA5の新たな用途が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実験例1の結果を示すグラフである。
【図2】実験例2の結果を示すグラフである。
【図3】実験例3の結果を示すグラフである。
【図4】実験例4の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[抗癌剤]
1実施形態において、本発明は、アネキシンA5タンパク質又はその誘導体を有効成分として含有する抗癌剤を提供する。

【0010】
アネキシンA5タンパク質には、シグナル配列が存在しない。このため、アネキシンA5タンパク質は、細胞外に分泌されるものではなく、細胞内で作用するタンパク質であると考えられている。

【0011】
これに対し、実施例において後述するように、発明者らは、癌細胞の培地にアネキシンA5タンパク質を添加することにより、細胞の増殖を抑制できることを見出した。アネキシンA5タンパク質は、もともと生体内に存在するタンパク質であることから、本実施形態の抗癌剤は、生体に投与しても副作用が少ないと考えられる。

【0012】
本実施形態の抗癌剤は、ヒトに投与するものであってもよく、例えば、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ等の家畜;イヌ、ネコ等の愛玩動物;チンパンジー、ゴリラ、カニクイザル等の霊長類;マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類等に投与するものであってもよい。なかでも、ヒト、乳腺腫瘍の患畜が多いイヌ、及び発症すれば悪性度が高く臨床上重要なネコに投与するものであることが好ましい。

【0013】
アネキシンA5タンパク質としては、投与対象とする動物のアネキシンA5タンパク質が好適に用いられる。より具体的には、例えばヒトを投与対象とする場合には、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられ、例えばイヌを投与対象とする場合には、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。

【0014】
本実施形態の抗癌剤は、アネキシンA5タンパク質の誘導体を有効成分として含有するものであってもよい。アネキシンA5タンパク質の誘導体としては、例えば、アネキシンA5タンパク質のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ投与対象とする動物の腫瘍細胞の増殖を抑制する活性を有するタンパク質(以下、「アネキシンA5タンパク質の変異体」という場合がある。);アネキシンA5タンパク質又はその変異体の部分断片であって、かつ投与対象とする動物の腫瘍細胞の増殖を抑制する活性を有するタンパク質;アネキシンA5タンパク質又はその変異体に、例えばポリエチレングリコール等の化合物が結合したもの等が挙げられる。ポリエチレングリコールを結合することにより、例えば血中安定性を高めること等が可能になる。ここで、1若しくは数個とは、例えば1~20個、例えば1~15個、例えば1~10個、例えば1~5個、例えば1~3個を意味する。

【0015】
1実施形態において、本発明は、アネキシンA5タンパク質又はその誘導体の発現ベクターを有効成分として含有する抗癌剤を提供する。実施例において後述するように、発明者らは、癌細胞にアネキシンA5タンパク質の発現ベクターを導入することにより、細胞の増殖を抑制できることを見出した。

【0016】
本実施形態の抗癌剤の投与対象は上述したものと同様である。発現ベクターとしては、投与対象の細胞中でアネキシンA5タンパク質又はその誘導体を発現可能なものであれば特に限定されず、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のベクター;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のベクター;pSH19、pSH15等の酵母由来ベクター;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。

【0017】
発現ベクターにおいて、アネキシンA5タンパク質又はその誘導体の発現用プロモーターとしては特に限定されず、例えば、EF1αプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、HSV-tkプロモーター等が挙げられる。

【0018】
発現ベクターは、更に、マルチクローニングサイト、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、複製起点等を有していてもよい。

【0019】
本実施形態の抗癌剤において、発現ベクターに組み込む遺伝子としては、投与対象とする動物のアネキシンA5タンパク質をコードする遺伝子が好適に用いられる。

【0020】
より具体的には、例えばヒトを投与対象とする場合には、配列番号3に示す塩基配列からなる遺伝子が挙げられ、例えばイヌを投与対象とする場合には、配列番号4に示す塩基配列からなる遺伝子が挙げられる。

【0021】
本実施形態の抗癌剤は、アネキシンA5タンパク質の誘導体の発現ベクターを有効成分として含有するものであってもよい。アネキシンA5タンパク質の誘導体としては、例えば上述したアネキシンA5タンパク質の変異体;アネキシンA5タンパク質又はその変異体の部分断片であって、かつ投与対象とする動物の腫瘍細胞の増殖を抑制する活性を有するタンパク質等が挙げられる。

【0022】
アネキシンA5タンパク質の誘導体の発現ベクターに組み込む遺伝子としては、例えば、投与対象とする動物のアネキシンA5タンパク質をコードする塩基配列に対して、例えば80%以上、例えば90%以上、例えば95%以上の配列同一性を有する塩基配列からなり、かつ投与対象とする動物の腫瘍細胞の増殖を抑制する活性を有するタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。

【0023】
ここで、基準塩基配列に対する、対象塩基配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準塩基配列及び対象塩基配列をアラインメントする。ここで、各塩基配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準塩基配列及び対象塩基配列において、一致した塩基の塩基数を算出し、下記式(1)にしたがって、配列同一性を求めることができる。
配列同一性(%)=一致した塩基数/対象塩基配列の総塩基数×100 (1)

【0024】
上述したアネキシンA5タンパク質若しくはその誘導体、又はアネキシンA5タンパク質若しくはその誘導体の発現ベクターを有効成分とする抗癌剤は、癌細胞にアポトーシスを誘導する場合がある。

【0025】
すなわち、アネキシンA5タンパク質若しくはその誘導体、又はアネキシンA5タンパク質若しくはその誘導体の発現ベクターは、アポトーシス誘導剤であるということもできる。

【0026】
上述したアネキシンA5タンパク質若しくはその誘導体、又はアネキシンA5タンパク質若しくはその誘導体の発現ベクターは、それ自体を投与してもよいし、薬学的に許容される担体と混合した医薬組成物として製剤化したものを投与してもよい。

【0027】
医薬組成物は、例えば錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤等の経口的に使用される剤型に製剤化されていてもよく、例えば注射剤、軟膏、貼付剤等の非経口的に使用される剤型に製剤化されていてもよい。

【0028】
薬学的に許容される担体としては、例えば、滅菌水、生理食塩水等の溶媒;ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤、結晶性セルロース等の賦形剤;コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等の膨化剤等が挙げられる。

【0029】
医薬組成物は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤;ショ糖、乳糖、サッカリン等の甘味剤;ペパーミント、アカモノ油等の香味剤;ベンジルアルコール、フェノールの安定剤;リン酸塩、酢酸ナトリウム等の緩衝剤;安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の溶解補助剤;酸化防止剤;防腐剤;界面活性剤;乳化剤等が挙げられる。

【0030】
医薬組成物は、上記の担体及び添加剤を適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。

【0031】
医薬組成物が注射剤である場合、注射剤用の溶媒としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等の補助薬を含む等張液が挙げられる。注射剤用の溶媒は、エタノール等のアルコール;プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリアルコール;ポリソルベート80(商標)、HCO-50等の非イオン性界面活性剤等を含有していてもよい。

【0032】
本実施形態の抗癌剤の患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等のほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。

【0033】
本実施形態の抗癌剤の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法によっても異なるが、当業者であれば適切な投与量を適宜選択することが可能である。例えば注射剤の場合、通常成人(体重60kg)において、1日あたり例えば0.01から50μg、例えば0.01から10μg、例えば0.01から5μg程度を局所投与することが挙げられる。

【0034】
[癌の診断キット]
1実施形態において、本発明は、アネキシンA5タンパク質に対する特異的結合物質又はアネキシンA5遺伝子を増幅するプライマーセットを備える癌の診断キットを提供する。

【0035】
実施例において後述するように、発明者らは、腫瘍組織中では、正常組織と比較して、アネキシンA5の発現量が低下していることを明らかにした。

【0036】
したがって、生検試料中のアネキシンA5の発現レベルをタンパクレベル又は遺伝子レベルで測定することにより、当該生検試料に癌細胞が含まれているか否かを判定することができる。

【0037】
より具体的には、生検試料中のアネキシンA5の発現量が、正常組織中のアネキシンA5の発現量と比較して低い場合には、生検試料中に癌細胞が含まれていると判定することができる。

【0038】
本実施形態の診断キットは、ヒトを対象とするものであってもよく、上述した動物を対象とするものであってもよい。

【0039】
(アネキシンA5タンパク質に対する特異的結合物質)
特異的結合物質としては、例えば、抗体、抗体断片、アプタマー等が挙げられる。抗体は、例えば、マウス等の動物にアネキシンA5タンパク質又はその部分ペプチドを抗原として免疫することにより作製することができる。あるいは、ファージライブラリー等の抗体ライブラリーのスクリーニング等により作製することができる。ここで、アネキシンA5タンパク質としては、診断の対象とする動物種に由来するものを使用する。

【0040】
抗体断片としては、Fv、Fab、scFv等が挙げられる。上記の抗体又は抗体断片は、ポリクローナルであってもよく、モノクローナルであってもよい。

【0041】
アプタマーとは、標識物質に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。アネキシンA5タンパク質に特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、アネキシンA5タンパク質に対する特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo-hybrid法等により選別することができる。

【0042】
特異的結合物質は、アネキシンA5タンパク質に特異的に結合することができれば特に制限されず、市販のものであってもよい。また、特異的結合物質は、担体上に固定されてプロテインチップ等を構成していてもよい。

【0043】
(アネキシンA5遺伝子を増幅するプライマーセット)
プライマーセットとしては、診断の対象とする動物種に由来するアネキシンA5のcDNAを増幅することができるものであれば特に限定されない。例えば、ヒトのアネキシンA5のcDNAを増幅するプライマーとしては、配列番号5に示す塩基配列からなるセンスプライマー及び配列番号6に示す塩基配列からなるアンチセンスプライマーのセット等が挙げられる。また、イヌのアネキシンA5のcDNAを増幅するプライマーとしては、配列番号7に示す塩基配列からなるセンスプライマー及び配列番号8に示す塩基配列からなるアンチセンスプライマーのセット等が挙げられる。

【0044】
(癌の判定方法)
本実施形態の診断キットを用いた癌の診断は、例えば次のようにして行うことができる。

【0045】
診断キットがアネキシンA5タンパク質に対する特異的結合物質を用いるものである場合、まず、患者又は患畜から採取された生検試料及び対照となる正常組織を試料として、上記の特異的結合物質を用いた組織染色、ELISA、ウエスタンブロッティング、フローサイトメトリー等を行うことにより、生検試料及び正常組織中のアネキシンA5タンパク質の発現量を測定する。ここで、正常組織は、生検試料が由来する同一の患者又は患畜に由来するものであることが好ましい。

【0046】
続いて、測定されたアネキシンA5タンパク質の発現量に基づいて生検試料中に癌細胞が存在していたか否かを判定する。具体的には、生検試料中のアネキシンA5タンパク質の発現量が、正常組織中のアネキシンA5タンパク質の発現量と比較して低い場合には、生検試料中に癌細胞が含まれていると判定することができる。

【0047】
あるいは、正常組織中のアネキシンA5タンパク質の発現量を予め測定して基準値を設定しておき、生検試料中のアネキシンA5タンパク質の発現量が上記基準値と比較して低い場合には生検試料中に癌細胞が含まれていると判定してもよい。これにより、診断の度に正常組織を準備する必要がなくなる。

【0048】
診断キットがアネキシンA5遺伝子を増幅するプライマーセットを用いるものである場合、まず、患者又は患畜から採取された生検試料及び対照となる正常組織を試料として、定量的RT-PCR(逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応)等を行うことにより、生検試料及び正常組織中のアネキシンA5のmRNAの発現量を測定する。ここで、正常組織は、生検試料が由来する同一の患者又は患畜に由来するものであることが好ましい。

【0049】
続いて、測定されたアネキシンA5のmRNAの発現量に基づいて生検試料中に癌細胞が存在していたか否かを判定する。具体的には、生検試料中のアネキシンA5のmRNAの発現量が、正常組織中のアネキシンA5のmRNAの発現量と比較して低い場合には、生検試料中に癌細胞が含まれていると判定することができる。

【0050】
あるいは、正常組織中のアネキシンA5のmRNAの発現量を予め測定して基準値を設定しておき、生検試料中のアネキシンA5のmRNAの発現量が前記基準値と比較して低い場合には生検試料中に癌細胞が含まれていると判定してもよい。これにより、診断の度に正常組織を準備する必要がなくなる。

【0051】
癌の判定において、生検試料及び正常組織中のアネキシンA5のmRNAの発現量は、例えばRNA-Seq等により網羅的に測定してもよい。

【0052】
(その他の実施形態)
1実施形態において、本発明は、アネキシンA5タンパク質若しくはその誘導体、又はアネキシンA5タンパク質又はその誘導体の発現ベクターの有効量を、治療を必要とする患者又は患畜に投与する工程を備える癌の治療方法を提供する。

【0053】
1実施形態において、本発明は、患者又は患畜から採取された生検試料及び正常組織中のアネキシンA5の発現量を測定する工程と、生検試料中のアネキシンA5の発現量が、正常組織中のアネキシンA5の発現量と比較して低い場合に、生検試料中に癌細胞が含まれていると判定する工程と、を備える、癌の診断方法を提供する。

【0054】
1実施形態において、本発明は、患者又は患畜から採取された生検試料中のアネキシンA5の発現量を測定する工程と、生検試料中のアネキシンA5の発現量が、予め設定した基準値と比較して低い場合に、生検試料中に癌細胞が含まれていると判定する工程と、を備える、癌の診断方法を提供する。

【0055】
1実施形態において、本発明は、癌の治療のためのアネキシンA5タンパク質若しくはその誘導体、又はアネキシンA5タンパク質又はその誘導体の発現ベクターを提供する。

【0056】
1実施形態において、本発明は、抗癌剤を製造するためのアネキシンA5タンパク質若しくはその誘導体、又はアネキシンA5タンパク質又はその誘導体の発現ベクターの使用を提供する。
【実施例】
【0057】
次に実験例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
[実験例1]
(イヌ乳腺腫瘍におけるアネキシンA5の発現量の検討)
イヌの正常乳腺組織及び乳腺腫瘍組織におけるアネキシンA5の発現量を定量的RT-PCRにより検討した。より具体的には、まず、東京大学農学部附属動物医療センターで摘出されたイヌ乳腺組織の一部を-80℃で保存した。また、残りの組織について病理診断を行い、正常乳腺(n=8)、良性乳腺腫瘍(n=8)、悪性乳腺腫瘍(n=6)に分類した。
【実施例】
【0059】
続いて、-80℃で保存したイヌ乳腺組織から約5mm四方を切り出し、市販のキット(商品名「RNeasy mini kit」、キアゲン社)を用いて総RNAを抽出した。抽出したRNAをDnase処理した後、逆転写酵素(商品名「SuperScript III First-Strand Synthesis System for q-PCR」、インビトロジェン社)を反応させてcDNAを合成した。
【実施例】
【0060】
得られたcDNAを鋳型として、市販のキット(商品名「StepOnePlus Real-Time PCR system」、アプライドバイオシステムズ社;商品名「Thunderbird SYBR q-PCR Mix」、東洋紡社)を用いて定量的PCRを行い、アネキシンA5の転写量を定量した。アネキシンA5のcDNA増幅用プライマーとしては、配列番号7に示す塩基配列からなるセンスプライマー及び配列番号8に示す塩基配列からなるアンチセンスプライマーを用いた。
【実施例】
【0061】
また、対照として、リボソームタンパク質L32(以下、「RP32」という場合がある。)の転写量をアネキシンA5と同様にして定量した。RP32のcDNA増幅用プライマーとしては、配列番号9に示す塩基配列からなるセンスプライマー及び配列番号10に示す塩基配列からなるアンチセンスプライマーを用いた。
【実施例】
【0062】
図1は、定量PCRの結果に基づいて、各組織におけるアネキシンA5の転写量を、RP32の転写量で除することにより標準化した結果を示すグラフである。図中の「*」は、危険率5%未満で有意差があることを示す。有意差検定にはANOVAによる群間の有意差を解析した上でTukey-Kramer testによる多重比較検定を行った。
【実施例】
【0063】
その結果、良性、悪性にかかわらず、イヌ乳腺腫瘍組織中では、イヌ正常乳腺組織と比較して、アネキシンA5の発現量が低下していることが明らかとなった。この結果は、アネキシンA5の発現量を測定することにより、癌の診断が可能であることを示す。
【実施例】
【0064】
[実験例2]
(アネキシンA5のノックダウンの検討)
イヌ乳腺腫瘍細胞株におけるアネキシンA5の発現を、siRNAの培地への添加によりノックダウンし、細胞の増殖を検討した。
【実施例】
【0065】
アネキシンA5特異的siRNAとして、ガイド鎖がsiAnxa5-guide(配列番号11)であり、パッセンジャー鎖がsiAnxa5-passenger(配列番号12)であるsiRNAを使用した。
【実施例】
【0066】
また、対照siRNAとして、ガイド鎖がsiCont-guide(配列番号13)であり、パッセンジャー鎖がsiCont-passenger(配列番号14)であるsiRNAを使用した。
【実施例】
【0067】
イヌ乳腺腫瘍細胞株CIPpに、遺伝子導入試薬(商品名「Lipofectamine RNAiMax」、インビトロジェン社)を用いて、アネキシンA5特異的siRNA及び対照siRNAをそれぞれ導入した。48時間後にMTTアッセイ(商品名「Cell couting kit8」、同仁化学社)を用いて各細胞数(相対値)を測定した。
【実施例】
【0068】
図2は結果を示すグラフである。図中、エラーバーは平均±標準誤差(n=6)を示す。また、「対照」は対照siRNAを導入した結果を示し、「siAX5」はアネキシンA5特異的siRNAを導入した結果を示す。また「*」は、student’s t testにより、危険率5%未満で有意差があることを示す。
【実施例】
【0069】
その結果、アネキシンA5の発現をノックダウンすることにより、イヌ乳腺腫瘍細胞の増殖が促進されることが明らかとなった。
【実施例】
【0070】
[実験例3]
(アネキシンA5の強制発現の検討)
イヌ乳腺腫瘍細胞株中でアネキシンA5を強制発現し、細胞の増殖を検討した。具体的には、まず、イヌアネキシンA5遺伝子の翻訳領域全長を発現ベクターであるpCAGGS(インビトロジェン社)に組み込み、イヌアネキシンA5の発現ベクターを作製した。イヌアネキシンA5遺伝子の塩基配列を配列番号4に示す。
【実施例】
【0071】
続いて、遺伝子導入試薬(商品名「Trans IT」、タカラバイオ社)を用いて、イヌアネキシンA5の発現ベクター及び対照ベクターをイヌ乳腺腫瘍細胞株CIPpに導入した。対照ベクターとしては、空のpCAGGSベクターを使用した。48時間後にMTTアッセイ(商品名「Cell couting kit8」、同仁化学社)を用いて各細胞数(相対値)を測定した。
【実施例】
【0072】
図3は結果を示すグラフである。図中、エラーバーは平均±標準誤差(n=6)を示す。また、「対照」は対照ベクターを導入した結果を示し、「AX5」はアネキシンA5発現ベクターを導入した結果を示す。また「*」は、student’s t testにより、危険率5%未満で有意差があることを示す。
【実施例】
【0073】
その結果、アネキシンA5を強制発現することにより、イヌ乳腺腫瘍細胞の増殖が抑制されることが明らかとなった。この結果は、アネキシンA5の発現ベクターを抗癌剤として使用できることを示す。
【実施例】
【0074】
[実験例4]
(腫瘍細胞株へのアネキシンA5の添加)
イヌの乳腺腫瘍細胞株の培地にアネキシンA5タンパク質を添加し、細胞の増殖を検討した。
【実施例】
【0075】
アネキシンA5タンパク質としてはヒト組換えアネキシンA5タンパク質(型番「AR09289PU-L」、Acris社)を使用した。ヒトアネキシンA5タンパク質をコードする塩基配列を配列番号1に示す。
【実施例】
【0076】
イヌ乳腺腫瘍細胞株CIPpに、アネキシンA5タンパク質を、終濃度0、10-12、10-11、10-10、10-9、10-8(M)となるように添加した(n=4)。48時間後にMTTアッセイ(商品名「Cell couting kit8」、同仁化学社)を用いて各細胞数(相対値)を測定した。
【実施例】
【0077】
図4に結果を示す。その結果、アネキシンA5タンパク質の添加により、濃度依存的に細胞数が減少することが示された。この結果は、アネキシンA5タンパク質を抗癌剤として使用できることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明により、アネキシンA5の新たな用途が提供される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3