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明細書 :循環動態監視装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6304749号 (P6304749)
公開番号 特開2015-146966 (P2015-146966A)
登録日 平成30年3月16日(2018.3.16)
発行日 平成30年4月4日(2018.4.4)
公開日 平成27年8月20日(2015.8.20)
発明の名称または考案の名称 循環動態監視装置
国際特許分類 A61B   5/02        (2006.01)
FI A61B 5/02 D
A61B 5/02 350
請求項の数または発明の数 4
全頁数 11
出願番号 特願2014-022373 (P2014-022373)
出願日 平成26年2月7日(2014.2.7)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 ▲1▼平成25年8月7日 公益社団法人日本麻酔科学会 東海・北陸支部第11回学術集会 プログラム集、 第19頁にて発表 ▲2▼平成25年8月9日 http://www.anesth.or.jp/branch/2013/toukai-hokuriku2013/を通じて発表 ▲3▼平成25年9月14日 公益社団法人日本麻酔科学会 東海・北陸支部第11回学術集会 じゅうろくプラザにおいてポスターにて発表 ▲4▼平成25年11月10日 http://square.umin.ac.jp/~jsta31/を通じて発表 ▲5▼平成25年11月30日 第31回日本麻酔・集中治療テクノロジー学会において文書(スライド)をもって発表 (演題「平均血圧、拡張期血圧、等容量収縮時間、駆出時間から算出した左心室大動脈結合状態の有用性と問題点」)
審査請求日 平成28年12月12日(2016.12.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
発明者または考案者 【氏名】重見 研司
【氏名】小畑 友里江
【氏名】高久 明子
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100122688、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 健二
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査官 【審査官】佐藤 高之
参考文献・文献 特開2005-278965(JP,A)
特開2000-333910(JP,A)
特開2003-245256(JP,A)
調査した分野 A61B 5/00-5/22
特許請求の範囲 【請求項1】
生体の循環動態を左心室-大動脈カップリングに基づいて監視するための循環動態監視装置であって、
前記生体の左心室の心筋の収縮開始から、左心室から血液が駆出するまでの前駆出期間を非観血的に決定する前駆出期間決定手段、
前記生体の左心室から血液が駆出されている駆出期間を非観血的に決定する駆出期間決定手段、
前記生体の拡張期における大動脈内圧である動脈拡張期血圧を非観血的に決定する動脈拡張期血圧決定手段、
前記生体の平均血圧を非観血的に決定する平均血圧決定手段、および、
予め設定された関係に基づいて、前記前駆出期間決定手段により決定された前駆出期間と、前記駆出期間決定手段により決定された駆出期間と、前記動脈拡張期血圧決定手段により決定された動脈拡張期血圧と、前記平均血圧決定手段により決定された平均血圧とから、前記生体の左心室-大動脈カップリングを算出する左心室-大動脈カップリング算出手段
を有し、
前記予め設定された関係が、前記左心室-大動脈カップリングをEes/E、前記前駆出期間をPEP、前記駆出期間をET、前記動脈拡張期血圧をPad、前記平均血圧をPとし、a、b、cおよびdを定数とすると、以下の方程式系(1):
es/E=a・Ees/E'+b
es/E'=Pad/P(1+k・ET/PEP)-1
k=c(Ees/E') (1)
により表されるものである、
前記循環動態監視装置。
【請求項2】
上記方程式系(1)が、以下の方程式系(2):
es/E=0.70・Ees/E'-0.22
es/E'=Pad/P(1+k・ET/PEP)-1
k=0.53(Ees/E')0.51 (2)
である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記算出された左心室-大動脈カップリングを表示する表示装置を更に有する、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記動脈拡張期血圧決定手段が、動脈血圧波形の決定または推定を伴わずに動脈拡張期血圧を決定するように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の循環動態の指標となる左心室-大動脈カップリングを非侵襲的かつ連続的にモニタリングすることにより、生体の循環動態を評価するための循環動態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋収縮末期エラスタンスEesと実効動脈エラスタンスEの比である左心室-大動脈カップリングEes/Eは、心臓と動脈系の結合状態(バランス)を評価する指標であり、この値を正常に保つことでバランスのとれた循環動態を維持できる。しかし、Ees/Eを測定するためには左心室の圧と容積をカテーテルを用いて測定する必要があり、侵襲が大きく実用的でなかった。
【0003】
Hayashiらは、前駆出期間PEP、駆出期間ET、収縮末期圧Pes、拡張末期大動脈圧Padから左心室-大動脈カップリングEes/Eを算出する以下の近似式(以下、Hayashiの式ともいう。):
es/E=Pad/Pes(1+k・ET/PEP)-1
k=0.53(Ees/E0.51
を導いた(特許文献1、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2000-333910
【0005】

【非特許文献1】Hayashi et al., Anesthesiology. 2000; 92: 1769-76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Hayashiの式では収縮末期圧Pesを変数として用いる。収縮末期圧は、現在のCAVI(cardio ankle vascular index)検査では直接求めず、脈波の高さの比から求めるため、収縮末期圧の算出は手間がかかる上に誤差も大きかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
収縮末期圧は、大動脈弁閉鎖時の左室圧(後負荷)である。平均血圧は左室の平均的な後負荷と考えられるため、本発明者らは、Hayashiの式において収縮末期圧の代わりに平均血圧を用いることを着想し、収縮末期圧を用いて算出したカップリングと平均血圧を用いて算出したカップリングとの比較研究を行った。その結果、本発明者らは、収縮末期圧の代わりに平均血圧を用いてもカップリングを算出できること、そしてそのための近似式を見出した。係る知見に基づいて本発明者らは更に研究を行い、本発明を完成させるに至った。本発明は即ち以下の通りである。
【0008】
[1]生体の循環動態を左心室-大動脈カップリングに基づいて監視するための循環動態監視装置であって、
前記生体の左心室の心筋の収縮開始から、左心室から血液が駆出するまでの前駆出期間を非観血的に決定する前駆出期間決定手段、
前記生体の左心室から血液が駆出されている駆出期間を非観血的に決定する駆出期間決定手段、
前記生体の拡張期における大動脈内圧である動脈拡張期血圧を非観血的に決定する動脈拡張期血圧決定手段、
前記生体の平均血圧を非観血的に決定する平均血圧決定手段、および、
予め設定された関係に基づいて、前記前駆出期間決定手段により決定された前駆出期間と、前記駆出期間決定手段により決定された駆出期間と、前記動脈拡張期血圧決定手段により決定された動脈拡張期血圧と、前記平均血圧決定手段により決定された平均血圧とから、前記生体の左心室-大動脈カップリングを算出する左心室-大動脈カップリング算出手段
を有する、前記装置。
[2]前記予め設定された関係が、前記左心室-大動脈カップリングをEes/E、前記前駆出期間をPEP、前記駆出期間をET、前記動脈拡張期血圧をPad、前記平均血圧をPとし、a、b、cおよびdを定数とすると、以下の方程式系(1):
es/E=a・Ees/E'+b
es/E'=Pad/P(1+k・ET/PEP)-1
k=c(Ees/E') (1)
により表されるものである、上記[1]に記載の装置。
[3]前記算出された左心室-大動脈カップリングを表示する表示装置を更に有する、上記[1]または[2]に記載の装置。
[4]前記動脈拡張期血圧決定手段が、動脈血圧波形の決定または推定を伴わずに動脈拡張期血圧を決定するように構成されている、上記[1]~[3]のいずれかに記載の装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明を利用することにより、左心室-大動脈カップリングを非侵襲的に算定することができる。特に、本発明では、収縮末期圧ではなく平均血圧を利用するので、従来法より簡便かつ正確に該カップリングを算出でき、動脈血圧異常値を測定する前に異常を予測することや、連続的なモニタリングが可能となる。更に、本発明では、収縮末期圧の決定のために必要であった動脈血圧波形の測定または予測を行わなくてもよく、装置の構成を単純化できる。本発明者らはまた、Hayashiの式の係数kはイヌでの実験データを基にしているのに対し、ヒトでの実験データに基づいて係数kを決定したので、本発明において当該係数を用いることにより、ヒトのためのより正確な循環動態モニタリングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の循環動態監視装置1の例示的な実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1の実施形態の装置における演算制御装置28の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図3】本発明の循環動態監視装置1における演算制御装置28の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【図4】Hayashiの式において収縮末期圧Pes(左図; Ees/Ea(Pes))または平均血圧Pm(右図; Ees/Ea(Pm))を用いたときのEes/Eaを算出するノモグラムを示す図である。
【図5】Ees/Ea(Pes)とEes/Ea(Pm)との相関(左図)、およびそれらのBland-Amtman分析の結果(右図)を示す図である。
【図6】Ees/Ea(Pes)とEes/Ea'(Pm)との相関(左図)、およびそれらのBland-Amtman分析の結果(右図)を示す図である。
【図7】対象とした1774例における実年齢、血管年齢またはCAVIとEes/Eaとの関係のプロット(上図)である。下図は、上図においてデータが集中している部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の例示的な実施形態をより詳細に説明する。なお、前述の通り、本発明はHayashiらの発明において収縮末期圧を平均血圧で代用することを一つの主な特徴としているので、以下においてもHayashiらの先行技術と適宜対比しつつ、本発明の特徴を説明する。

【0012】
図1は本発明の心機能監視装置(以下、本発明の装置ともいう。)1の例示的な実施形態を示すブロック図である。図1に示す実施形態は、収縮末期大動脈圧を決定するための手段を有しないことに加えて、動脈血圧波形を決定または推定するための手段を有しないことを先行技術と比較した一つの特徴としている。

【0013】
図1に示す実施形態における各構成要素は、演算制御装置28を除いて、上記先行特許文献で提案された装置における対応する構成要素と同様のものを用いることができる。すなわち、図1において、カフ10は血圧測定用途のための通常のカフを用いることができ、例えば、ゴム製袋を布製帯状袋内に有するカフであって、患者の上腕部に巻回された状態で装着される。カフ10には、圧力センサ14、排気制御弁16、および空気ポンプ18が配管20を介してそれぞれ接続されている。排気制御弁16は、カフ10内への圧力の供給を許容する圧力供給状態、カフ10内を徐々に排圧する徐速排圧状態、およびカフ10内を急速に排圧する急速排圧状態の3つの状態に切り換えられるように構成されている。

【0014】
圧力センサ14は、カフ10内の圧力を検出してその圧力を表す圧力信号SPを静圧弁別回路22および脈波弁別回路24にそれぞれ供給する。静圧弁別回路22はローパスフィルタを備えており、圧力信号SPに含まれる定常的な圧力を表すカフ圧信号SKを弁別してそのカフ圧信号SKをA/D変換器26を介して演算制御装置28へ供給する。脈波弁別回路24はバンドパスフィルタを備えており、圧力信号SPの振動成分である脈波信号SM1を弁別してその脈波信号SM1をA/D変換器30を介して演算制御装置28へ供給する。この脈波信号SM1が表すカフ脈波は、患者の心拍に同期して図示しない上腕動脈から発生してカフ10に伝達される圧力振動波であり、上記脈波弁別回路24はカフ脈波検出手段として機能している。

【0015】
上記演算制御装置28は、CPU29、ROM31、RAM33、および図示しないI/Oポート等を備えた所謂マイクロコンピュータにて構成されており、CPU29は、ROM31に予め記憶されたプログラムに従ってRAM33の記憶機能を利用しつつ信号処理を実行することにより、I/Oポートから駆動信号を出力して図示しない駆動回路を介して排気制御弁16および空気ポンプ18を制御する。

【0016】
図2は、上記演算制御装置28の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図2において、カフ10を用いた血圧測定に際して、カフ圧制御手段74により変化させられるカフ10の圧迫圧力が圧力センサ14により検出される。血圧測定手段76は、カフ10による圧迫圧力を2~3mmHg/sec程度の速度で徐々に変化させる過程で得られた脈拍同期信号、例えば脈波振幅またはコロトコフ音の変化に基づきオシロメトリック法またはコロトコフ音法に従って生体の最高血圧値BPSYS、平均血圧値P、および最低血圧値(即ち、動脈拡張期血圧Pad)を測定する。従って、血圧測定手段76は、平均血圧決定手段および動脈拡張期血圧決定手段として機能できる。決定された血圧値は表示器32に表示される。

【0017】
また、図1において、心音検出装置として機能する心音マイクロホン62は、生体の心臓の近傍に配設されてその心臓から発生する心音を検出し、その心音を表す心音信号SSを出力する。この心音マイクロホン62は、生体の体表面に装着されてもよいが、より好適には、心臓により近接させて心音を一層明瞭に検出するために生体の食道等の体腔内に配置される。上記心音マイクロホン62から出力された心音信号SSは、図示しない増幅器、ノイズ除去のための帯域フィルタ64、A/D変換器66を介して、演算制御装置28へ供給される。上記心音には、僧帽弁の閉鎖および大動脈弁の開放に対応する第1心音I、大動脈弁の閉鎖に対応する第2心音IIなどが含まれている。

【0018】
心電誘導装置68は、生体の表皮上においてその生体の心臓を挟むように位置する部位に貼着される複数の電極70を備え、その生体の表皮に誘導される心電誘導波形すなわちECG波形を検出し、その心電誘導波形を表す心電誘導信号SEを演算制御装置28へ出力する。上記心電誘導波形の1周期内には、P波、Q波、R波、S波、T波が順次含まれている。

【0019】
図2に示すように、演算制御装置28は、心電誘導信号SEおよび心音信号SSに基づいて前駆出期間PEPを決定するための前駆出期間決定手段84を備える。前駆出期間PEPは、生体の左心室の心筋の収縮開始から、左心室から血液が駆出するまでの期間を表す。例えば、心電誘導波形のQ波の発生時点から第1心音Iの終端時点までの時間を、基準クロックパルスを計数することなどにより計測し、前駆出期間PEP(秒)を1拍毎に決定する。また、心電誘導波形のQ波とR波との時間間隔が問題にならない場合は、より検出が容易なR波がQ波に代えて用いられてもよい。

【0020】
演算制御装置28はまた、心電誘導信号SEおよび心音信号SSに基づいて駆出期間ETを決定するための駆出期間決定手段86も備える。駆出期間ETは、生体の左心室から血液が駆出されている期間を表す。例えば、第1心音Iの終端時点から第2心音IIの開始点までの時間を基準クロックパルスを計数することなどにより計測し、駆出期間ET(秒)を決定する。あるいは、心電誘導波形のQ波の発生時点から第2心音IIの開始点までの時間を計測することにより、心臓の収縮期間すなわち前駆出期間PEPと駆出期間ETとの合計値(PEP+ET)を算出し、その合計値(PEP+ET)から前駆出期間決定手段84により求められた前駆出期間PEPを差し引くことにより駆出期間ET(秒)を1拍毎に算出してもよい。この場合も、前駆出期間算出手段84と同様に、心電誘導波形のQ波に代えて、R波が用いられてもよい。

【0021】
左心室-大動脈カップリング算出手段88は、前記方程式系(1)に示すような予め設定された関係に基づいて、前駆出期間決定手段84により求められた前駆出期間PEP、駆出期間決定手段86により求められた駆出期間ET、血圧測定手段76により求められた平均血圧P、および動脈拡張期血圧Padに基づいて左心室-大動脈カップリングEes/Eを算出する。

【0022】
方程式系(1)における定数a、b、c、dは、実験的に決定される定数である。例えば、対象とする動物(例えば、ヒト)について観血的手法により左心室-大動脈カップリングEes/Eを測定する。更に、等容性収縮期と駆出期の時変エラスタンスを2直線近似し、そのスロープ比をkとし、kとEes/Eの関係式を求めることにより方程式系(1)における定数c、dを決定できる。実測したEes/Eと方程式から求めたEes/E'との関係式からa、bを決定できる。

【0023】
一つの具体的実施形態において、後述の検討例に示されるように、例えば、a=0.70、b=-0.22、c=0.53、d=0.51を用いることができる。これらの定数は、本発明者らがイヌでの実験データに基づいた式を用いてヒトの血圧脈波測定結果から決定したものである。すなわち、一つの具体的実施形態において、上記方程式系(1)は、以下の方程式系(2):
es/E=0.70・Ees/E'-0.22
es/E'=Pad/P(1+k・ET/PEP)-1
k=0.53(Ees/E')0.51 (2)
とすることができる。

【0024】
演算制御装置28は更に、算出した左心室-大動脈カップリングEes/Eをハードディスク、半導体メモリカード、磁気テープなどの図示しない記憶装置に逐次記憶させるとともに、表示制御手段98を用いて、前記表示器32または図示しないプリンタにおいて、上記左心室-大動脈カップリングEes/Eをトレンド表示させることができる。

【0025】
図3は、前記演算制御装置28の制御作動の要部を説明するフローチャートである。図3のステップ(以下、ステップを省略する)S1は前記血圧測定手段76に対応し、カフ10を用いた血圧測定がオシロメトリック法またはコロトコフ音法により実行され、平均血圧Pおよび動脈拡張期血圧Padが決定される(S2)。通常、S1の以前に、カフ10によるキャリブレーション周期であるか否かが判断される。続くS3では、心電誘導信号SEにより表される心電誘導波形のQ波が発生したか否かが判断される。このS3の判断が否定された場合には本ルーチンが終了させられて繰り返される。しかし、上記S3の判断が肯定された場合には、S4において、第1心音Iの終端が発生したか否かが心音信号SSに基づいて判断される。このS4の判断が否定された場合には繰り返しS4の判断が実行されるが、肯定された場合には、S5において、上記Q波の発生時から第1心音Iの終端までの時間が前駆出期間PEPとして決定される。従って、本実施例では、上記S3~S5が前駆出期間決定手段84に対応している。

【0026】
続くS6では、第2心音IIが発生したか否かが心音信号SSに基づいて判断される。第2心音IIは、左心室内の圧力が大動脈圧以下になり、大動脈弁が閉鎖する時に発生する。従って、第2心音IIの開始は左心室の収縮の終了すなわち収縮末期を意味する。このS6の判断が否定された場合には繰り返しS6の判断が実行されるが、肯定された場合には、S7において、S4において検出された第1心音Iの終端点からS6において検出された第2心音IIの始まりまでの時間が、左心室から血液が駆出される駆出期間ETとして決定される。従って、本実施例では、上記S4、S6およびS7が駆出期間決定手段86に対応している。

【0027】
次いで、左心室-大動脈カップリング算出手段88に対応するS8では、前記方程式系(1)に示す関係式に、上記平均血圧P、上記動脈拡張期血圧Pad、上記前駆出期間PEPおよび駆出期間ETが代入された後に、それらの式に基づいて左心室-大動脈カップリングEes/Eaが算出される。続く表示制御手段98に対応するS9では、上記S8で算出された左心室-大動脈カップリングEes/Eaの値が表示器32において表示され、且つその左心室-大動脈カップリングEes/Eaの時間的変化を示すトレンドグラフが表示器32に表示される。

【0028】
以上、本発明の例示的な実施形態を図面を参照して説明したが、本発明はその他の態様においても実施され得る。
【実施例】
【0029】
検討1:Hayashiの式による左心室-大動脈カップリングの算出において収縮末期圧を平均血圧で代用することの可能性の検討
【実施例】
【0030】
<方法>
福井大学医学部付属病院で2006年から2011年までの間にCAVI検査を用いて脈波伝搬速度を測定した患者101例を対象とした。
I. 以下2通りの値をHayashiの式のPesに代入し、Ees/Eaを求めた。
i. Pes: CAVI検査結果を印刷し、脈波の高さの比により求めた。
ii. Pm: CAVI検査(オシロメトリック法)による測定値を用いた。
以後、iの代入結果をEes/Ea(Pes)、iiの代入結果をEes/Ea(Pm)と表記する。Hayashiの式の計算にはニュートン法を用いた。
II. I-iiで得られたEes/Ea(Pm)を、Ees/Ea(Pes)とEes/Ea(Pm)の相関式に代入し、理論上のEes/Ea(Pes)を導いた。以後、この推定値をEes/Ea'(Pm)と表記する。
【実施例】
【0031】
<結果>
Hayashiの式を用いると、Ees/Ea(Pes)は101例中43例、Ees/Ea(Pm)は8例計算不能となった。ノモグラムによるEes/Ea値を図4に示す。101例全てについてPes>Pmであり、Ees/Ea(Pes)<Ees/Ea(Pm)となった。 Ees/Ea(Pes)=0.70・Ees/Ea(Pm)-0.22 (r2=0.83) (3)
であった(図5(a))。Bland-Altman分析での平均値(mean)と標準偏差(SD)はmean±2SD=0.87±0.75であった(図5(b))。
更に、計算可能な58例のEes/Ea(Pm)を上記式(3)に代入し、Ees/Ea'(Pm)を求めた。相関関係は、
Ees/Ea(Pes)=1.0・Ees/Ea'(Pm)+3.1x10-3(r2=0.83)
であった(図6(a))。Bland-Altman分析ではmean±2SD=-6.7x10-3±0.55であった(図6(b))。
【実施例】
【0032】
以上のことから、以下の式(4)が得られた。
Ees/Ea(Pm)=Pad/Pm・(1+k・ET/PEP)-1
k=0.53・(Ees/Ea(Pm))0.51
Ees/Ea(Pes)=0.70・Ees/Ea(Pm)-0.22 (4)
【実施例】
【0033】
実施例1:得られた式の臨床への応用
【実施例】
【0034】
得られた上記式(4)を用いて、カップリングと、実年齢、血管年齢、CAVIとを比較した。CAVIは血管固有の硬さの指標であり、血管年齢はCAVIと実年齢をもとに推定される。
2008年から2013年に当院でCAVI検査を行った3241例のうち、ABI(Ankle Brechial Pressure Index)により動脈硬化の疑いがないとされ(即ち、ABI>0.9)、かつ上記式(4)を用いてカップリングが算出される1774例を対象とした。
【実施例】
【0035】
結果を図7に示す。図7は1774例全てのデータであり、下はデータが集中している部分の拡大である。実年齢の年代に関係なくカップリング平均値は一定を示した。血管年齢の上昇に伴い、カップリング平均値に低下傾向が見られた。CAVIの上昇に伴いカップリング平均値に低下傾向が見られた。血管年齢およびCAVIとカップリングとの間で相関がある傾向が認められたことから、動脈硬化でEaが大きく、Ees/Eaが小さい値となった可能性がある。以上のことから、上記式(4)はカップリングの算出のために有用であると考えられる。
【実施例】
【0036】
検討2:ヒトについての係数kの決定
【実施例】
【0037】
Hayashiの式における係数kはイヌでの実験データに基づくものであった。そのため、ヒトについての係数kを決定するための研究を行った。
<方法>
正常心18例を含む48例の圧容量関係計測データを使用した。(背景は正常心18例、冠動脈疾患13例、心筋梗塞後の左室瘤3例、肥大型心筋症7例、拡張型心筋症7例であった。)まず、等容性収縮期と駆出期の時変エラスタンスを2直線近似し、そのスロープ比をkとすると、Ees/Ea = Pad/Pes(1+k×ET/PEP)-1の関係式が成り立つ(式a)。次に実験により測定したkとEes/Eaの関係式(式b)を求めた。このとき式aから求めた計算値としてのk(k*)を求め、実測値のkとの差が平均±2SDから外れる1例は除外した。その後理論式と実験式、およびPEP、ET、Pes、Padの測定値からEes/Eaをニュートン法を用いて算出し、解が2未満となるものをEes/Eaの実測値と比較した。
<結果>
式bはk = 0.59×(Ees/Ea)0.39(r=0.69)となった。47例中ニュートン法で計算できたものは46例で、解が2以上となったものは11例であった。残った35例の計算値と実測値を比較するとr=0.72と有意な相関を認め、その関係式はEes/Ea(計算値)=Ees/Ea(実測値)+0.36となった。そこでこの計算値から0.36を引いた値を算定値とした。この式を用いれば解が2未満の範囲で非侵襲的にEes/Eaを予測することが可能である。
以上より、ヒトについての係数kが以下の通りに決定された。
k=0.59・(Ees/Ea)0.39
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6