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明細書 :子宮肉腫転移モデル動物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6436669号 (P6436669)
公開番号 特開2016-021931 (P2016-021931A)
登録日 平成30年11月22日(2018.11.22)
発行日 平成30年12月12日(2018.12.12)
公開日 平成28年2月8日(2016.2.8)
発明の名称または考案の名称 子宮肉腫転移モデル動物
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N   5/09        (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/65        (2006.01)
C12Q   1/04        (2006.01)
C12Q   1/6837      (2018.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
G01T   1/161       (2006.01)
FI A01K 67/027
C12N 5/09
C12N 5/10
C12N 15/65 Z
C12Q 1/04
C12Q 1/6837
C12N 15/09 200
G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
G01N 37/00 102
G01T 1/161 D
請求項の数または発明の数 18
全頁数 15
出願番号 特願2014-149007 (P2014-149007)
出願日 平成26年7月22日(2014.7.22)
審査請求日 平成29年5月10日(2017.5.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
発明者または考案者 【氏名】吉田 好雄
【氏名】河邉 真也
【氏名】水谷 哲也
【氏名】宮本 薫
【氏名】石兼 真
【氏名】清野 泰
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査官 【審査官】藤澤 雅樹
参考文献・文献 特開2011-135895(JP,A)
特表2002-534398(JP,A)
特表2005-501568(JP,A)
特表2008-517946(JP,A)
特表2001-502537(JP,A)
Clin Cancer Res (2008) Vol.14, pp.5466-5475
Cancer Research (1983) Vol.43, pp.4943-4950
Cancer Research (2009) Vol.69, pp.8231-8235
Journal of Pathology (2007) Vol.211, pp.389-398
PNAS (2012) Vol.109, No.17, pp.6656-6661
調査した分野 A01K 67/027
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
非ヒト哺乳動物を用いる子宮肉腫転移モデル動物の作製方法であって、
(a)子宮肉腫に由来する転移性かつ造腫瘍性の細胞をレシピエントの免疫不全非ヒト哺乳動物に移植し、該レシピエント動物において腫瘍を形成させる工程、
(b)該形成された腫瘍を切除して腫瘍片を得る工程、および、
(c)該モデル動物となるべき免疫不全非ヒト哺乳動物の子宮筋層に該腫瘍片を移植する工程
を含み、該移植された腫瘍片が、該動物において子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣を形成する、前記方法。
【請求項2】
工程(a)で移植される細胞が、蛍光タンパク質または発光タンパク質をコードする遺伝子を該細胞内で機能し得るようにゲノム中に組み込まれている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)で移植される細胞がヒトに由来する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)で移植される細胞がMES-SA細胞、SKN細胞またはSK-UT-1細胞に由来する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)の後、
(d)該動物において子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣が形成されたか否かを確認する工程
を更に含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該標的臓器が肺である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該モデル動物がマウスまたはラットである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
該レシピエント動物がマウスまたはラットである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法により得られる子宮肉腫転移モデル非ヒト哺乳動物。
【請求項11】
形成された子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣が、子宮筋層および該標的臓器に腫瘍を有しない同一系統の動物中の対応部位と比較して、GLUT-1およびGLUT-3の少なくとも一方の亢進した発現を示す、請求項10に記載の動物。
【請求項12】
子宮肉腫に対する抗がん活性および/または転移抑制活性を有する物質をスクリーニングする方法であって、
(i)請求項10または11に記載の子宮肉腫転移モデル非ヒト哺乳動物を提供する工程、
(ii)該動物に被験物質を投与する工程、
(iii)該被験物質の投与開始後に、子宮筋層中の原発腫瘍巣の大きさ、ならびに/あるいは標的臓器中の転移巣の数および/または大きさを評価する工程、および、
(iv)該被験物質を適用しなかった場合と比較して、該原発腫瘍巣の大きさ、ならびに/あるいは該転移巣の数および/または大きさが減少したときに、該被験物質を子宮肉腫に対する抗がん活性および/または転移抑制活性を有する物質の候補として選択する工程
を含む、前記方法。
【請求項13】
該動物が請求項11に記載の動物であり、かつ、工程(iii)における評価が陽電子放射断層撮影法を用いて行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
療法の子宮肉腫に対する抗がん効果および/または転移抑制効果を判定する方法であって、
(i)請求項10または11に記載の子宮肉腫転移モデル非ヒト哺乳動物を提供する工程、
(ii)該動物に該療法を施行する工程、
(iii)該療法の施行開始後に、子宮筋層中の原発腫瘍巣の大きさ、ならびに/あるいは標的臓器中の転移巣の数および/または大きさを評価する工程、および、
(iv)工程(iii)での評価に基づいて、該療法の子宮肉腫に対する抗がん効果および/または転移抑制効果を判定する工程
を含む、前記方法。
【請求項15】
該動物が請求項11に記載の動物であり、かつ、工程(iii)における評価が陽電子放射断層撮影法を用いて行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
向上した転移能を持つ子宮肉腫に由来する細胞株を樹立する方法であって、
(i)転移能の向上が所望される親細胞株の細胞を前記工程(a)で移植される細胞として用いて、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法を用いて前記モデル動物を作製する工程、
(ii)該動物において形成された転移巣から腫瘍片を得る工程、
(iii)別の免疫不全非ヒト哺乳動物の子宮筋層に該腫瘍片を移植し、該動物において子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣を形成させ、形成された転移巣から腫瘍片を得ることを、少なくとも1回行う工程、および、
(iv)得られた腫瘍片中の細胞をin vitroで分離して増やし、細胞株を樹立する工程
を含み、樹立された細胞株が該親細胞株と比較して向上した転移能を有する、前記方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法により樹立された細胞株の細胞、および標的臓器へのより低い転移能を有する細胞株の細胞について遺伝子発現解析を行い、両細胞の遺伝子発現を比較することを含む、子宮肉腫の転移に関連する遺伝子の同定方法。
【請求項18】
遺伝子発現解析がマイクロアレイ法を用いて行われる、請求項17に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮肉腫転移モデル動物、その作製方法および用途、ならびにその作製に有用な単離された細胞などに関する。
【背景技術】
【0002】
子宮肉腫は、極めて稀(子宮体部悪性腫瘍の3-8%)で、予後不良の疾患である。5年生存率はI期(腫瘍が子宮に限局)で50%程度であり、完全摘出例でも半数は肺に再発、転移する。未婚者、肥満者、ホルモン剤(特にタモキシフェン)内服者に発生者が多く認められ、少子・晩婚化、乳がん患者の増加、ホルモン療法の普及で、今後患者の増加が考えられている。
【0003】
一方、解決すべき問題点として、子宮肉腫に対する有用な診断マーカーがないこと、稀少症例であるため有効な臨床研究が実施されていないこと、肺などへの血行性転移・再発を予防する適切な治療薬がないことなどが挙げられる。
【0004】
子宮肉腫またはその肺転移巣を有するモデル動物の作製方法としては、特定の遺伝子(例:LMP2、CR-1、BRCA1)を操作することにより、マウス子宮に子宮肉腫を発生させたもの(非特許文献1-3)、子宮筋層に直接子宮肉腫細胞を注入することにより、マウス子宮に子宮肉腫を作製したもの(非特許文献4)、およびマウスの皮下に子宮肉腫細胞を注入して、肺転移巣を形成させたもの(非特許文献5)が知られている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Hayashi et al., Cancer Res. 2002, Jan 1;62(1):24-7
【非特許文献2】Strizzi et al., J Pathology 2007, Jan;211(1):36-44.
【非特許文献3】Xing et al., Cancer Res. 2009, Nov 1;69(21):8231-5.
【非特許文献4】Ren et al., Clin. Cancer Res. 2008, Sep 1;14(17):5466-75.
【非特許文献5】Edris et al., Proc. Natl. Sci. Acad. USA 2012, Apr 24;109(17):6656-61.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来法では、原発巣のみの形成か、あるいは転移巣のみの形成に限られている。また、モデルマウスの作製にも最大の観察期間が13ヶ月と長期にわたる。
【0007】
従って、ヒトにおける子宮肉腫の臨床病態をより反映し、子宮の原発巣と転移巣を同時に有している子宮肉腫転移モデル動物を短期間で簡便に作製できる方法が求められている。本発明は、そのような方法を提供することを課題とする。本発明はまた、該方法により得られるモデル動物、薬剤のスクリーニングおよび療法の有効性の評価のための該モデル動物の用途、子宮肉腫由来の高転移株の樹立方法、上記作製方法のために有用な単離された細胞、なども提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、子宮肉腫由来細胞株を免疫不全動物に移植して腫瘍を形成させた後、該腫瘍を細片化した腫瘍片を免疫不全動物の子宮筋層に移植する方法論に想到した。移植された腫瘍片は、該動物において子宮筋層中の原発腫瘍巣および肺などの標的臓器における転移巣を形成する。
本来、子宮肉腫由来細胞株MES-SA細胞は、免疫不全非ヒト哺乳動物の皮下注射および子宮筋層へ直接注入する方法では、転移は認められない(皮下についてはHarker et al., Cancer Res. 43: 4943-4950, 1983.、子宮筋層についてはRen et al., Clin Cancer Res. 14: 5466-5475, 2008.を参照)。その最大の理由の一つに、非常に小さな免疫不全非ヒト哺乳動物の子宮に、転移能を有する腫瘍を形成するのに必要な量の細胞を注入するのは技術的に困難であったからである。この問題を克服するために、本発明者らは、腫瘍片を移植することを発案した。この手法により、子宮の原発巣と転移巣を同時に有している子宮肉腫転移モデル動物作成に成功した。
本発明者らは以上の知見に基づいて更に検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は即ち、以下を提供する。
[1]非ヒト哺乳動物を用いる子宮肉腫転移モデル動物の作製方法であって、
(a)子宮肉腫に由来する転移性かつ造腫瘍性の細胞をレシピエントの免疫不全非ヒト哺乳動物に移植し、該レシピエント動物において腫瘍を形成させる工程、
(b)該形成された腫瘍を切除して腫瘍片を得る工程、および、
(c)該モデル動物となるべき免疫不全非ヒト哺乳動物の子宮筋層に該腫瘍片を移植する工程
を含み、該移植された腫瘍片が、該動物において子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣を形成する、前記方法。
[2]工程(a)で移植される細胞が、蛍光タンパク質または発光タンパク質をコードする遺伝子を該細胞内で機能し得るようにゲノム中に組み込まれている、上記[1]に記載の方法。
[3]該蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質である、上記[2]に記載の方法。
[4]工程(a)で移植される細胞がヒトに由来する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]工程(a)で移植される細胞がMES-SA細胞、SKN細胞またはSK-UT-1細胞に由来する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]工程(c)の後、
(d)該動物において子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣が形成されたか否かを確認する工程
を更に含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]該標的臓器が肺である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]該モデル動物がマウスまたはラットである、上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]該レシピエント動物がマウスまたはラットである、上記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載の方法により得られる子宮肉腫転移モデル非ヒト哺乳動物。
[11]形成された子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣が、子宮筋層および該標的臓器に腫瘍を有しない同一系統の動物中の対応部位と比較して、GLUT-1およびGLUT-3の少なくとも一方の亢進した発現を示す、上記[10]に記載の動物。
[12]子宮肉腫に対する抗がん活性および/または転移抑制活性を有する物質をスクリーニングする方法であって、
(i)上記[10]または[11]に記載の子宮肉腫転移モデル非ヒト哺乳動物を提供する工程、
(ii)該動物に被験物質を投与する工程、
(iii)該被験物質の投与開始後に、子宮筋層中の原発腫瘍巣の大きさ、ならびに/あるいは標的臓器中の転移巣の数および/または大きさを評価する工程、および、
(iv)該被験物質を適用しなかった場合と比較して、該原発腫瘍巣の大きさ、ならびに/あるいは該転移巣の数および/または大きさが減少したときに、該被験物質を子宮肉腫に対する抗がん活性および/または転移抑制活性を有する物質の候補として選択する工程
を含む、前記方法。
[13]該動物が上記[11]に記載の動物であり、かつ、工程(iii)における評価が陽電子放射断層撮影法を用いて行われる、上記[12]に記載の方法。
[14]療法の子宮肉腫に対する抗がん効果および/または転移抑制効果を判定する方法であって、
(i)上記[10]または[11]に記載の子宮肉腫転移モデル非ヒト哺乳動物を提供する工程、
(ii)該動物に該療法を施行する工程、
(iii)該療法の施行開始後に、子宮筋層中の原発腫瘍巣の大きさ、ならびに/あるいは標的臓器中の転移巣の数および/または大きさを評価する工程、および、
(iv)工程(iii)での評価に基づいて、該療法の子宮肉腫に対する抗がん効果および/または転移抑制効果を判定する工程
を含む、前記方法。
[15]該動物が上記[11]に記載の動物であり、かつ、工程(iii)における評価が陽電子放射断層撮影法を用いて行われる、上記[14]に記載の方法。
[16]向上した転移能を持つ子宮肉腫に由来する細胞株を樹立する方法であって、
(i)転移能の向上が所望される親細胞株の細胞を前記工程(a)で移植される細胞として用いて、上記[1]~[9]のいずれかに記載の方法を用いて前記モデル動物を作製する工程、
(ii)該動物において形成された転移巣から腫瘍片を得る工程、
(iii)別の免疫不全非ヒト哺乳動物の子宮筋層に該腫瘍片を移植し、該動物において子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣を形成させ、形成された転移巣から腫瘍片を得ることを、少なくとも1回行う工程、および、
(iv)得られた腫瘍片中の細胞をin vitroで分離して増やし、細胞株を樹立する工程
を含み、樹立された細胞株が該親細胞株と比較して向上した転移能を有する、前記方法。
[17]上記[16]に記載の方法により樹立された細胞株の細胞、および標的臓器へのより低い転移能を有する細胞株の細胞について遺伝子発現解析を行い、両細胞の遺伝子発現を比較することを含む、子宮肉腫の転移に関連する遺伝子の同定方法。
[18]遺伝子発現解析がマイクロアレイ法を用いて行われる、上記[17]に記載の方法。
[19]哺乳動物の子宮肉腫に由来する転移性かつ造腫瘍性の単離された細胞であって、蛍光タンパク質または発光タンパク質をコードする遺伝子を該細胞内で機能し得るようにゲノム中に組み込まれている、前記細胞。
[20]該蛍光タンパク質が緑色蛍光タンパク質である、上記[19]に記載の細胞。
[21]該哺乳動物がヒトである、上記[19]または[20]に記載の細胞。
[22]MES-SA細胞、SKN細胞またはSK-UT-1細胞に由来する、上記[19]~[21]のいずれかに記載の細胞。
【発明の効果】
【0010】
本発明のモデル動物の作製方法によれば、子宮の原発巣と肺などの転移巣を同時に有しているモデル動物を短期間(例:約10週間)で高い再現性(例:80%以上)で簡便に作製することが可能になる。
【0011】
上記[2]および[3]に記載の通り、蛍光タンパク質または発光タンパク質を安定的に導入した細胞を用いて腫瘍を形成させる手法を用いれば、該蛍光または発光を指標にして、がん細胞の増殖、移動、浸潤、転移などの挙動を非侵襲的、リアルタイム、in vivoで観察することが可能になる。
【0012】
上記[11]に記載の通り、本発明に従って作製されたモデル動物では、形成された原発巣および転移巣の腫瘍がGLUT-1および/またはGLUT-3を高発現し得る。従って、18F-FDGなどのトレーサー化合物を用いたPET撮像実験により、非侵襲的に原発巣および転移巣を観察することが可能になり得る。
【0013】
上記[12]~[15]に記載の通り、本発明に従って作製されたモデル動物は、子宮肉腫に対する抗がん活性および/または転移抑制活性を有する物質をスクリーニングする方法、療法の子宮肉腫に対する抗がん効果および/または転移抑制効果を判定する方法などの用途を提供できる。
【0014】
また、上記[16]に記載の通り、本発明のモデル動物の作製方法を応用することで、向上した転移能を持つ子宮肉腫に由来する細胞株を樹立することが可能となる。そのようにして樹立される高転移株は、上記[17]および[18]に記載の通り、子宮肉腫の転移に関連する遺伝子を網羅的に解析するために利用できる。
【0015】
本発明はまた、上記[19]~[22]に記載の通り、本発明のモデル動物の作製方法のために有用な単離された細胞も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ヒト子宮平滑筋肉腫由来MES-SA細胞(ATCC)にGFP遺伝子を導入しクローン化した、GFPを恒常的に発現するMES-SA GFP-Jの亜株であるC9細胞の作製と、該細胞のマウスへの接種の概略を示す図である。
【図2-1】同所移植の6週後のマウスの開腹前(a左図)および原発腫瘍巣の写真(a右図)、子宮の原発腫瘍巣(b)および肺転移巣(c)の肉眼像、GFP蛍光像、各種マーカー(H&E、Vimentin、Ki-67、Glut-1)の染色像を示す。
【図2-2】同所移植の6週後のマウスの開腹前(a左図)および原発腫瘍巣の写真(a右図)、子宮の原発腫瘍巣(b)および肺転移巣(c)の肉眼像、GFP蛍光像、各種マーカー(H&E、Vimentin、Ki-67、Glut-1)の染色像を示す。
【図3-1】肺転移の一例を示す。転移により形成された腫瘍巣がGFPによる蛍光で示されている(a)。また、(b)は各種マーカー(H&E、Glut-1、Ki-67)の染色像、(c)はその拡大図(c)である。
【図3-2】肺転移の一例を示す。転移により形成された腫瘍巣がGFPによる蛍光で示されている(a)。また、(b)は各種マーカー(H&E、Glut-1、Ki-67)の染色像、(c)はその拡大図(c)である。
【図4】作製されたモデルマウスについて取得したanimal PETのデータを示す。A(側面図)、B(上面図)は正常マウス、C(側面図)、D(上面図)は上記モデルマウスのPETイメージである。
【図5】原発腫瘍重量と原発腫瘍体積、同所移植後日数と原発腫瘍体積、肺転移数と同所移植後日数、肺転移数と原発腫瘍体積との相関を調べたグラフを示す。
【図6】肺転移数と肺FDG、肺転移数と肺FLTとの相関を調べたグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(作製方法)
本発明は、子宮肉腫転移モデル動物の作製方法(以下、本発明の作製方法ともいう。)を提供する。該方法は、(a)子宮肉腫に由来する転移性かつ造腫瘍性の細胞をレシピエントの免疫不全非ヒト哺乳動物に移植し、該レシピエント動物において腫瘍を形成させる工程、(b)該形成された腫瘍を切除して腫瘍片を得る工程、および、(c)該モデル動物となるべき免疫不全非ヒト哺乳動物の子宮筋層に該腫瘍片を移植する工程を含む。該移植された腫瘍片が、該動物において子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣を形成する。

【0018】
本明細書において、「子宮肉腫転移モデル動物」は、関心のある哺乳動物における転移性の子宮肉腫の病態を表すことができるモデル動物を意味する。該モデル動物は、子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣を既に有する動物であってもよいし、あるいは未だ転移巣または原発腫瘍巣および転移巣を形成していないが、時間と共に自然にそれらの腫瘍を形成することが見込まれる動物であってもよい。上記関心のある哺乳動物は特に制限されるものではなく、任意の哺乳動物であってよいが、臨床的観点から好ましくはヒトである。

【0019】
該モデル動物は、本発明に従って作製できる限り、任意の非ヒト哺乳動物種であってよい。該動物は、後述の通り、外来の腫瘍片を受け入れることができる必要があるので、免疫不全である。本明細書において、「免疫不全動物」は、人為的または先天的に健常な動物と比較して免疫機能(例:T細胞機能、B細胞機能、NK細胞機能など)が有意に低下している動物を意味する。動物種としては特に限定されないが、作製や入手、取扱いの容易さなどの観点から、好ましくはマウスおよびラットであり、より好ましくはマウスである。具体的には、例えば、BALB/c Slc-nu/nuマウス、KSN/Slcマウスなどのヌードマウス、F344/NJcl-rnu/rnuラットなどのT細胞機能欠如ラット、重症複合免疫不全(SCID)のマウスやラット、NOD.CBD17-Prkdcscid/Jマウス(NOD-scidマウス)、NOD/Shi-scid,IL2Rγnullマウス(NOGマウス)、Rag2null/IL2Rγnullマウス、ならびにこれらを改良したマウスやラットが挙げられる。

【0020】
該モデル動物の転移巣の部位、即ち上記の「標的臓器」は、子宮肉腫に由来する転移巣を形成し得る限り特に限定されない。該標的臓器としては、例えば、肺、肝臓、心臓、骨、皮膚、大網、リンパ節、腸間膜、深部軟部組織、脳などが挙げられ、好ましくは肺および腸間リンパ節、より好ましくは肺である。

【0021】
以下、各工程について詳細に説明する。

【0022】
(a)子宮肉腫に由来する転移性かつ造腫瘍性の細胞をレシピエントの免疫不全非ヒト哺乳動物に移植し、該レシピエント動物において腫瘍を形成させる工程
該細胞は、上記関心のある哺乳動物(例:ヒト)の子宮肉腫に由来する細胞である。該細胞は、子宮肉腫に罹患した患者または動物から自体公知の手順に従って新たに単離されたものであってもよいし、あるいは市販の株化された細胞を用いることもできる。市販の細胞としては、ヒト未分化肉腫由来のMES-SA細胞(Harker WG, et al., Cancer Res. 43: 4943-4950 (1983); ATCC (American Type Culture Collection))、ヒト子宮平滑筋肉腫由来のSKN細胞 (Ishiwata et al., Cancer Res. 37: 658-664 (1977); 理化学研究所)、ヒト子宮平滑筋肉腫由来のSK-UT-1細胞 (Fogh et al., J Natl Cancer Inst. 58: 209-214 (1977));ATCC)などが挙げられる。細胞の転移能および造腫瘍能は、自体公知の方法を用いて確認することができる。例えば、転移能について、コラーゲンゲルを用いて測定した細胞浸潤能を指標とする方法など、造腫瘍能について、核型分析、軟寒天コロニー試験、免疫不全動物における腫瘍形成能試験などを用いることができる。

【0023】
好ましい実施形態において、該細胞として、蛍光タンパク質または発光タンパク質をコードする遺伝子を該細胞内で機能し得るようにゲノム中に組み込み、該タンパク質を安定的に発現するように改変した細胞が用いられる。そのような細胞を用いて本発明の作製方法に従ってモデル動物を作製すれば、該蛍光または発光を指標にして、がん細胞の増殖、移動、浸潤、転移などの挙動を非侵襲的、リアルタイム、in vivoで観察することが可能になる。そのような細胞は、遺伝子工学の一般的な技術を用いて作製することができ、例えば、Chishima et al., Cancer Res. 1997; 57: 2042-2047、「がん転移研究の実験手法」(編 日本がん転移学会、金芳堂)などを参照することができる。蛍光タンパク質および発光タンパク質としては、当該技術分野において一般に使用されている任意のものを使用することができる。例えば、蛍光タンパク質としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、DsRed、およびこれらの改良型などが挙げられ、発光タンパク質としては、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、クラゲエクオリン、およびこれらの改良型などが挙げられる。これらは、当業者に周知の供給業者より市販されている。

【0024】
上記レシピエントの免疫不全非ヒト哺乳動物(レシピエント動物)は、該動物において腫瘍の形成を可能にする限り、任意のものを使用することができる。例えば、本発明のモデル動物に関して上述した免疫不全動物を好適に使用することができる。例えばマウスの場合、6週齢程度の動物を好適に使用することができる。

【0025】
レシピエント動物における腫瘍の形成は、例えば、以下の文献: Fiebig et al., "Human Tumor Xenografts: Predictivity, Characterization and Discovery of New Anticancer Agents," in Contributions to Oncology: Relevance of Tumor Models for Anticancer Drug Development, Fiebig & Burger, eds. (Basel, Kargerl999), vol. 54, pp. 29-50; Berger et al., "Establishment and Characterization of Human Tumor Xenografts in Thymus- Aplastic Nude Mice," in Immunodeficient Mice in Oncology, Fiebig & Berger, eds. (Basel, Karger 1992), pp. 23-46; Fiebig & Burger, "Human Tumor Xenografts and Explants," in Models in Cancer Research, Teicher, ed. (Humana Press 2002) pp. 113-137に従って行うことができる。具体的には、例えば以下の手順に従うことができる。前記の細胞を市販の細胞乖離液で細胞毎に乖離させ、次いで細胞を遠心分離などにより分取した後、細胞を該レシピエント動物に移植することにより実施できる。移植は、該細胞を生理的食塩水またはPBSに懸濁させ、注射器などを用いてレシピエント動物の適当な部位に注入することにより実施できる。接種の部位は、腫瘍を形成しやすい部位である限り特に限定されないが、接種が容易であり、かつ腫瘍を形成しやすい点で、動物の皮下に接種することが好ましい。具体的には、背部皮下や腹部皮下が好適である。動物の種類や大きさ、接種部位などに応じて異なるが、例えば免疫不全マウスに皮下接種する場合、約1x10~1x10個程度の上記の細胞を約100μlのPBSなどに懸濁して、注射器を用いて接種することができる。該細胞の注入後、該動物を無菌下に通常の飼育を行うことにより、該動物の体内に腫瘍を形成することができる。用いる細胞の種類や移植した細胞数によっても異なるが、通常4~6週間程度で腫瘍が形成され得る。

【0026】
(b)該形成された腫瘍を切除して腫瘍片を得る工程
本工程では、工程(a)で形成された腫瘍を通常無菌下で切除する。得られた腫瘍片はPBSなどで洗浄することができる。腫瘍が逢着時腹腔内に剥離せず、且つ十分な細胞を有しているという観点から、新鮮組織を2mm角程度の大きさに手術用鋏で細切したものを次の工程(c)において用いることが好ましい。また、壊死を起こしていない腫瘍片を次の工程(c)において用いることが好ましい。

【0027】
(c)該モデル動物となるべき免疫不全非ヒト哺乳動物の子宮筋層に該腫瘍片を移植する工程
本工程では、工程(b)で得られた腫瘍片が、上述したような免疫不全非ヒト哺乳動物の子宮筋層に移植される。例えばマウスの場合、6週齢程度の動物を移植に供することができる。移植のために、例えば吸入麻酔により該動物に全身麻酔を施すことができる。麻酔薬としては、動物実験で汎用されているという観点から、好ましくは揮発性麻酔薬、より好ましくはイソフルラン、セボフルランなどを用いることができる。麻酔状態を確認した後、例えば腹部正中切開を手術用鋏を用いて行い、子宮を露出させる。次いで、例えばutero-cervical junctionに小切開を入れ、その部分に工程(b)で採取した腫瘍片をナイロンなどの手術用縫合糸を用いて逢着させることができる。例えば、2mm角に細切された1つの腫瘍片を当該箇所に逢着させることができる。その後、手術用縫合糸を用いて閉腹する。

【0028】
上記に従う同所移植後、該動物を無菌下に通常の飼育を行うことにより、その子宮筋層において原発腫瘍巣を成長させることができ、更にその転移巣を肺などの標的臓器に形成させることができる。原発腫瘍巣および転移巣の形成のために、通常6週間程度を要し得る。

【0029】
本発明の作製方法は、工程(c)の後、(d)該動物において子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣が形成されたか否かを確認する工程を更に含むことが好ましい。腫瘍巣の確認は当業者に公知の方法に従って行うことができる。例えば、本発明に従って作製されたモデル動物では、通常、腫瘍細胞がGLUT(グルコーストランスポータ)-1および/または-3を高発現するので、陽電子放射断層撮影法(PET)を用いて非侵襲的に原発巣および転移巣を観察することが可能であり得る。PET観察のために、18F-FDGなどのトレーサー化合物を該動物に投与することができる。また、工程(a)の細胞として蛍光タンパク質または発光タンパク質を恒常的に発現するように改変されたものを用いた場合、当該蛍光または発光を指標にして腫瘍巣の形成を確認することができる。

【0030】
(スクリーニング方法)
本発明はまた、子宮肉腫に対する抗がん活性(例:腫瘍増殖抑制、腫瘍退縮、腫瘍消滅など)および/または転移抑制活性を有する物質をスクリーニングする方法(以下、本発明のスクリーニング方法ともいう。)を提供する。該方法は、(i)本発明のモデル動物を提供する工程、(ii)該動物に被験物質を投与する工程、(iii)該被験物質の投与開始後に、子宮筋層中の原発腫瘍巣の大きさ、ならびに/あるいは標的臓器中の転移巣の数および/または大きさを評価する工程、および、(iv)該被験物質を適用しなかった場合と比較して、該原発腫瘍巣の大きさ、ならびに/あるいは該転移巣の数および/または大きさが減少したときに、該被験物質を子宮肉腫に対する抗がん活性および/または転移抑制活性を有する物質の候補として選択する工程を含む。

【0031】
工程(i)で提供される本発明のモデル動物は、実験の目的に応じて、任意の齢、および上記同所移植から任意の期間が経過したものを使用することができる。また、該動物は、成長した原発腫瘍巣および転移巣を既に有するものであってもよいし、あるいは未だ成長した原発腫瘍巣および/または転移巣を有しないが、その後にそれらの形成が見込まれるものであってもよい。

【0032】
工程(ii)において、当該モデル動物に対して被検物質が投与される。被検物質としては、公知の合成化合物、ペプチド、蛋白質、DNAライブラリーなどの他に、例えば哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、サル、ヒトなど)の組織抽出物、細胞培養上清などが用いられる。被検物質の投与方法は特に制限されない。例えば、被検物質を固形、半固形、液状、エアロゾル等の形態で経口的もしくは非経口的(例:静脈内、筋肉内、腹腔内、動脈内、皮下、皮内、気道内など)に投与することができる。被検物質の投与量は、化合物の種類、動物種、体重、投与形態などによって異なり、例えば、0.01~1000mg/kg/日の範囲から適宜選択することができ、当該量を1日1回ないし数回に分けて投与することができる。投与期間も特に制限されないが、例えば1~14日間連日もしくは2~4日おきに投与することができる。被験物質投与群の他に陰性対照群(例えば溶媒を投与)を設けることが好ましい。また、既知の抗がん物質を投与する陽性対照群を設けてもよい。

【0033】
工程(iii)において、評価を行う時期は被験物質の投与開始後であればいつでもよい。被験物質の投与期間中でもよく、投与期間終了時でもよく、投与期間終了から任意の期間経過後でもよい。腫瘍巣の大きさを評価する方法は特に限定されない。例えば、腫瘍の長さ、幅、高さをノギスなどで測定して、腫瘍体積を算出する方法、腫瘍を摘出してその重量を測定する方法などが挙げられる。また、標的臓器における転移巣の数または大きさを評価する方法も特に限定されない。例えば、動物を解剖して標的臓器を採取し、肉眼または顕微鏡下で転移巣の数または大きさを測定する方法などが挙げられる。標的臓器としては、本発明の作製方法において上述したものが挙げられ、好ましい態様についても同様である。上述の通り、本発明のモデル動物においては、腫瘍は高いGLUT-1および/またはGLUT-3発現を示し得るので、それを利用してPET観察により腫瘍巣の大きさや数を評価することもできる。また、移植した腫瘍由来の細胞が蛍光または発光を生じるように改変されている実施形態においては、当該蛍光または発光も本工程の評価のために利用することができる。

【0034】
工程(iv)において、被験物質を投与した場合と被験物質を投与していない場合の原発腫瘍巣の大きさ、ならびに/あるいは該転移巣の数および/または大きさを比較する。比較は被験物質投与前後の該動物について行ってもよいし、被験物質を投与していない動物(通常、陰性対照群(例えば溶媒投与群))との比較であってもよい。
被験物質を投与していない場合の腫瘍の大きさと比較して、被験物質を投与した場合の腫瘍のほうが小さければ、当該被験物質は抗がん活性(例えば、腫瘍増殖抑制、腫瘍退縮、腫瘍消滅など)を有していると判定できる。好ましくは腫瘍の大きさを50%以下に低下させる被験物質、より好ましくは10%以下に低下させる被験物質を抗がん物質と判定する。
被験物質を投与していない場合の標的臓器における転移巣の数と比較して、被験物質を投与した場合の転移巣の数が減少していれば、当該被験物質はがん転移抑制活性を有していると判定できる。また、被験物質を投与していない場合の標的臓器における転移巣の大きさと比較して、被験物質を投与した場合の転移巣の大きさが小さければ、当該被験物質はがん転移抑制活性を有していると判定できる。好ましくは転移巣の数または大きさを20%以下に減少させる被験物質、より好ましくは5%以下に減少させる被験物質をがん転移抑制物質と判定する。

【0035】
(評価方法)
本発明はまた、療法の子宮肉腫に対する抗がん効果(例:腫瘍増殖抑制、腫瘍退縮、腫瘍消滅など)および/または転移抑制効果を判定する方法を提供する。該方法は、(i)本発明のモデル動物を提供する工程、(ii)該動物に該療法を施行する工程、(iii)該療法の施行開始後に、子宮筋層中の原発腫瘍巣の大きさ、ならびに/あるいは標的臓器中の転移巣の数および/または大きさを評価する工程、および、(iv)工程(iii)での評価に基づいて、該療法の子宮肉腫に対する抗がん効果および/または転移抑制効果を判定する工程を含む。工程(i)、(iii)および(iv)については本発明のスクリーニング方法の工程(i)、(iii)および(iv)と同様にして行うことができ、好ましい態様などについても同様である。

【0036】
工程(ii)において該動物に施行される療法は、子宮肉腫に対する抗がん効果および/または転移抑制効果の判定を所望される任意の療法であってよい。該療法としては、例えば、外科療法、薬物療法、放射線療法、温熱療法などが挙げられる。有効性の判定を所望される態様に従って該動物にそれらの療法を施行すればよい。

【0037】
(樹立方法)
本発明はまた、向上した転移能を持つ子宮肉腫に由来する細胞株を樹立する方法(以下、本発明の樹立方法ともいう。)を提供する。該方法は、(i)転移能の向上を所望される親細胞株の細胞を前記工程(a)で移植される細胞として用いて、本発明の作製方法を用いて前記モデル動物を作製する工程、(ii)該動物において形成された転移巣から腫瘍片を得る工程、(iii)別の免疫不全非ヒト哺乳動物の子宮筋層に該腫瘍片を移植し、該動物において子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣を形成させ、形成された転移巣から腫瘍片を得ることを、少なくとも1回行う工程、および、(iv)得られた腫瘍片中の細胞をin vitroで分離して増やし、細胞株を樹立する工程を含む。樹立された細胞株は、該親細胞株と比較して向上した転移能を有し得る。

【0038】
工程(i)で使用される細胞株は、転移能を向上させることを所望される出発細胞株である。該細胞株の細胞は、例えば、低い転移能を持ち、即ち、例えば、本発明の作製方法に従うモデル動物の作製において、該細胞を移植した全ての動物からは原発腫瘍巣および転移巣を有する本発明のモデル動物を作製できず、一部の動物からのみ該モデル動物を作製できるようなものであり得る。工程(i)では、そのような細胞を用いて、本発明の作製方法に従ってモデル動物が作製される。その作製、および好ましい態様については上述した通りである。

【0039】
工程(ii)において、動物において標的臓器中の転移巣の形成が確認されたら、該動物から転移巣を切除し、腫瘍片を取得する。「標的臓器」は本発明の作製方法において上述した通りであり、好ましくは肺である。転移巣の切除は、本発明の作製方法の工程(b)と同様にして行うことができ、好ましくは2mm角程度の大きさに細切した腫瘍片が取得される。

【0040】
工程(iii)において、工程(ii)で取得した腫瘍片を別の免疫不全非ヒト哺乳動物の子宮筋層に移植する。該動物についても本発明の作製方法において上述したような動物を用いることができる。また、該移植は、本発明の作製方法の工程(c)と同様にして行うことができる。次いで、該動物においても子宮筋層中の原発腫瘍巣および標的臓器中の転移巣が形成されたことを確認したら、形成された転移巣から工程(ii)と同様にして腫瘍片を取得する。都度新たな動物を用いて、以上の手順を少なくとも1回、好ましくは3~5回程度行う。

【0041】
工程(iii)における1回または繰り返しの手順後の動物に含まれる転移巣中の細胞は、親細胞株と比較してより高い転移能を有することが期待され得る。従って、そのような細胞を転移巣から単離し、自体公知の方法に従って細胞株を樹立することにより、所望とする向上した転移能を有する子宮肉腫に由来する細胞株(例:常に標的臓器において転移巣を形成できる細胞株)を樹立し得る。転移能を確認するための公知の手段(例えば、上述のコラーゲンゲルを用いて測定した細胞浸潤能を指標とする方法など)を用いて、該細胞株の細胞の転移能が親細胞株と比較して向上していることを確認することが好ましい。

【0042】
(同定方法)
本発明はまた、子宮肉腫の転移に関連する遺伝子の同定方法(本発明の同定方法ともいう。)を提供する。該方法は、本発明の樹立方法により樹立された細胞株の細胞、および標的臓器へのより低い転移能を有する細胞株の細胞について遺伝子発現解析を行い、両細胞の遺伝子発現を比較することを含む。用語「標的臓器」については、本発明の作製方法において上述した通りである。

【0043】
上記の「標的臓器へのより低い転移能を有する細胞株」としては、本発明の樹立方法により樹立された細胞株(高転移株ともいう。)と比較して標的臓器への転移能がより低いものである限り特に限定されない。例えば、該細胞群として、低転移株、または本発明の樹立方法における親細胞株を用いることができる。

【0044】
遺伝子発現の比較は、自体公知の方法を用いて行うことができる。好ましくは、比較は、遺伝子発現を網羅的(例:数万~数十万の遺伝子発現)に解析することを伴う。そのような網羅的解析のために、例えばDNAマイクロアレイを使用することができる。DNAマイクロアレイとしては、Affymetrix社のGene Chipなど、市販のものを利用することができる。低い転移能を持つ細胞と比較して、高い転移能を持つ細胞において有意に発現が増大または低減している遺伝子を、子宮肉腫の転移に関連する可能性がある遺伝子として同定することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
1.ヒト子宮肉腫転移モデルマウスの作製
以下の手順に従って、ヒト子宮肉腫転移モデルマウスを作製した。
ヒト子宮平滑筋肉腫由来MES-SA細胞(ATCC)にGFP遺伝子を導入しクローン化した、GFPを恒常的に発現するMES-SA GFP-Jの亜株であるC9細胞を作製した。その概略が図1に示されている。簡潔には、PiggyBacTMTransposon Vector Systemのうち、PB513B-1をMES-SA細胞へ導入することにより行った。GFP遺伝子と同時にピューロマイシン耐性遺伝子を導入し、GFP導入細胞をピューロマイシン添加培地で培養することにより、選択した。その後、1細胞を単離し、培養することにより各株をクローン化した。
該細胞を5週齢KSN雌マウス(日本エスエルシー)の皮下に5 x 106細胞/PBS 100μlを注入した。4週間後皮下に形成された腫瘍を無菌下で切除した。腫瘍片をPBSで洗浄し、新鮮組織を2 mm角に手術用鋏で細切した。次に5週齢KSN雌マウス(日本エスエルシー)に笑気による吸入麻酔を施行した。麻酔状態を確認後、腹部正中切開を手術用鋏で行った。子宮を露出した後、utero-cervical junctionに小切開を入れ、その部分に先ほど採取した2 mm角の新鮮組織を5-0 dexonで逢着させた。その後、5-0 dexon糸で閉腹した。同所移植実験後、6週目にanimal PETを実施し、腫瘍のFDGの集積程度を確認し、腫瘍の形成の有無を確認した。
【実施例】
【0047】
同所移植の6週後のマウスの開腹前(a左図)および原発腫瘍巣の写真(a右図)、子宮の原発腫瘍巣(b)および肺転移巣(c)の肉眼像、GFP蛍光像、各種マーカー(H&E、Vimentin、Ki-67、Glut-1)の染色像を図2に示す。
また、肺転移の一例を図3に示す。転移により形成された腫瘍巣がGFPによる蛍光で示されている(a)。また、各種マーカー(H&E、Glut-1、Ki-67)の染色像(b)とその拡大図(c)から、肺胞腔内の巨大な腫瘍塞栓(Glut-1強陽性)、肺胞毛細血管内に生じた腫瘍細胞塞栓(Ki-67強陽性)、肺胞最少動脈および毛細血管の内腔がGlut-1強陽性腫瘍細胞で塞栓されていることが分かる。
更に、上記のanimal PETのデータを図4に示す。A(側面図)、B(上面図)は正常マウス、C(側面図)、D(上面図)は上記モデルマウスのPETイメージである。12.1-14.4 MBqの18F-FDGの投与の60分後にイメージを取得した。モデル動物においては、子宮、肺、心臓においてより強いシグナルが観察された。
図5は、原発腫瘍重量と原発腫瘍体積、同所移植後日数と原発腫瘍体積、肺転移数と同所移植後日数、肺転移数と原発腫瘍体積との相関を調べたグラフである。肺への転移と、同所移植後の日数、原発腫瘍体積に相関はなかった。
図6は、肺転移数と肺FDG、肺転移数と肺FLTとの相関を調べたグラフである。18F-FDG集積能は肺転移巣数と相関したが、18F-FLT集積能は肺転移巣数と相関しなかった。
図面
【図1】
0
【図2-1】
1
【図2-2】
2
【図3-1】
3
【図3-2】
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【図4】
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【図5】
6
【図6】
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