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明細書 :ハイドロゲル繊維の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6521738号 (P6521738)
公開番号 特開2016-216861 (P2016-216861A)
登録日 令和元年5月10日(2019.5.10)
発行日 令和元年5月29日(2019.5.29)
公開日 平成28年12月22日(2016.12.22)
発明の名称または考案の名称 ハイドロゲル繊維の製造方法
国際特許分類 D01F   4/00        (2006.01)
D01D   5/04        (2006.01)
D01D   5/34        (2006.01)
D01F   9/04        (2006.01)
D06M  11/00        (2006.01)
C08B  37/04        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI D01F 4/00 A
D01D 5/04
D01D 5/34
D01F 9/04
D06M 11/00 100
C08B 37/04
A61L 27/00
請求項の数または発明の数 7
全頁数 12
出願番号 特願2015-104696 (P2015-104696)
出願日 平成27年5月22日(2015.5.22)
審査請求日 平成30年5月14日(2018.5.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
発明者または考案者 【氏名】藤田 聡
【氏名】西本 昇平
個別代理人の代理人 【識別番号】110001900、【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
審査官 【審査官】相田 元
参考文献・文献 特開2009-052185(JP,A)
再公表特許第2011/077958(JP,A1)
特開2009-041117(JP,A)
米国特許出願公開第2014/0322512(US,A1)
米国特許出願公開第2009/0031691(US,A1)
特表2016-519222(JP,A)
調査した分野 D01F 1/00- 6/96
D01F 9/00- 9/04
D01D 1/00-13/02
D04H 1/00-18/04
C08B 37/04
D06M 11/00
A61L 27/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
静電紡糸法による紡糸が可能な水溶性ポリマーを溶媒に溶解させた溶液を鞘材溶液とし、ハイドロゲル前駆体をフッ素系有機溶剤非含有の溶媒に溶解させた溶液を芯材溶液として、前記水溶性ポリマーが繊維化された鞘材繊維からなる鞘部と、前記芯材溶液からなる芯部と、を有する芯鞘構造の芯鞘繊維を静電紡糸法により生成する芯鞘繊維生成工程と、
生成した芯鞘繊維の鞘材繊維を除去し、前記芯材溶液をゲル化させてハイドロゲルの繊維を製造する芯材ゲル化工程と、
を含むことを特徴とするハイドロゲル繊維の製造方法。
【請求項2】
前記芯材ゲル化工程において、前記鞘材繊維の除去と前記芯材溶液のゲル化は並行して行われる
ことを特徴とする請求項1に記載のハイドロゲル繊維の製造方法。
【請求項3】
前記ゲル化は、非共有結合により架橋された架橋構造を有する物理ゲルを形成することにより行われる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイドロゲル繊維の製造方法。
【請求項4】
前記ハイドロゲル前駆体は、コラーゲン又はアルギン酸である
ことを特徴とする請求項3に記載のハイドロゲル繊維の製造方法。
【請求項5】
前記ハイドロゲル前駆体はコラーゲンであって、
前記芯材ゲル化工程は、
生成した芯鞘繊維を弱アルカリ水溶液中に浸漬することによって、前記鞘材繊維を除去し、
物理ゲル化によって、前記芯材溶液をゲル化する
ことを特徴とする請求項2に記載のハイドロゲル繊維の製造方法。
【請求項6】
前記ハイドロゲル前駆体はアルギン酸であって、
前記芯材ゲル化工程は、
生成した芯鞘繊維を2価金属塩水溶液中に浸漬することによって、前記鞘材繊維を除去し、
物理ゲル化によって、前記芯材溶液をゲル化する
ことを特徴とする請求項2に記載のハイドロゲル繊維の製造方法。
【請求項7】
前記ハイドロゲル前駆体はヒアルロン酸であって、
前記芯材ゲル化工程は、
生成した芯鞘繊維をpH2.0~3.8、20~100重量パーセントのエタノール水溶液中に浸漬することによって、前記鞘材繊維を除去し、
物理ゲル化によって、前記芯材溶液をゲル化する
ことを特徴とする請求項2に記載のハイドロゲル繊維の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用材料、化粧品材料、細胞培養基材等に広く用いられているハイドロゲルの紡糸技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンのハイドロゲルやアルギン酸のハイドロゲル等の天然のハイドロゲルは、生体親和性が高いこと、生分解性であること、毒性がなく、安全であること、免疫抗原性が低いこと、生体吸収性がよいこと等の多くの優れた特性を有することから、医療用材料、化粧品材料、細胞培養基材等の材料に広く利用されている。
さらに、最近では、上記の各種の材料の機能性をより向上させるために、マイクロ、ナノオーダーの極細の繊維径からなる上記材料が求められている。例えば、再生医療の分野では、細胞の足場(scaffold)などとなる足場材料は、骨髄や結合組織などの細胞が生育する生体内組織の環境を模倣することが可能なものであることが重要である。そして、上記生体内組織は、ナノオーダーの繊維状の構造であるため、人工皮膚等の医療用材料の生成に用いる足場材料もマイクロ、ナノオーダーの極細繊維状の構造体にすることが好ましく、このような極細繊維状の構造体とすることにより、従来の足場材料に比べて比表面積を格段に大きなものとし、組織再生における細胞接着効率を顕著に高めることが可能となる。
【0003】
一方、上記のような天然のハイドロゲルは、機械的強度が弱く、単純にハイドロゲルを延伸することによりマイクロ、ナノオーダーの大きさに紡糸することは困難であるが、近年では、静電紡糸法(エレクトロスピニング)を用いてハイドロゲルの極細繊維を製造する方法が報告されている(特許文献1)。
上記方法は、紡糸対象となるハイドロゲル前駆体(コラーゲン)を、フッ素系有機溶剤(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールや2,2,2-トリフルオロエタノールなど)を添加した溶媒に溶解させた後、高電圧下で帯電させてコラーゲン分子間に静電気的な反発力を生じさせ、この反発力を利用して極細繊維を紡糸する方法である。特許文献1には、コラーゲンを水とフッ素系有機溶剤との混合溶液に溶解して、静電紡糸法を用いてハイドロゲル繊維(コラーゲン繊維)を製造する方法が記載されている。
【0004】
コラーゲン水溶液は、粘度が高いため、上記フッ素系有機溶剤を無添加の状態では、静電紡糸法により、コラーゲン繊維を製造することはできないが、上記フッ素系有機溶剤を溶媒としてコラーゲンを溶解させることにより、粘度が低下し、静電紡糸法によるコラーゲン繊維の製造が可能となる。
上記静電紡糸法を用いたコラーゲン繊維の製造方法では、コラーゲンを水と上記フッ素系有機溶剤との重量比が8:2~5:5の混合溶液に溶解させることにより、繊維径がマイクロオーダーの極細繊維が得られている。又、上記製造方法において、静電紡糸に用いるコラーゲン溶液中のコラーゲン濃度を低くすることにより、ナノオーダーの極細繊維の製造も可能と考えられる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2007-138364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記静電紡糸法では、フッ素系の有機溶剤が添加されるため、コラーゲンの高次構造を維持する水素結合等が当該有機溶剤により切断されて
コラーゲンの高次構造(3重螺旋構造等の高次構造)が変性する。そのため、製造されたコラーゲン繊維は、そのままの状態では、水溶液中で容易に溶解し、不安定であり、化学架橋剤で架橋しないと当該繊維を足場材料等の材料として用いることができない。
【0007】
さらに、上記静電紡糸法では、製造されたコラーゲン繊維にフッ素系の有機溶剤が残留することになるので、上記コラーゲン繊維を用いた材料を人体等に適用する場合に、安全性の観点から好ましくない。
本発明は、上述のような問題に鑑みて為されたものであって、コラーゲン等のハイドロゲル前駆体の高次構造を変性させることなく、安全性の高いハイドロゲル繊維を製造することが可能なハイドロゲル繊維の製造方法及び当該製造方法により製造されたハイドロゲル繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、ハイドロゲル前駆体を繊維化する前に、静電紡糸法により、ハイドロゲル前駆体をフッ素系有機溶剤非含有の溶媒に溶解させたハイドロゲル前駆体溶液を芯部とし、水溶性ポリマーの繊維を鞘部とする芯鞘構造の芯鞘繊維を生成した後、鞘部を除去し、芯部のハイドロゲル前駆体をゲル化することにより、高次構造を変性させることなく、ハイドロゲル前駆体から極細繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
本発明の一形態に係るハイドロゲル繊維の製造方法は、静電紡糸法による紡糸が可能な水溶性ポリマーを溶媒に溶解させた溶液を鞘材溶液とし、ハイドロゲル前駆体をフッ素系有機溶剤非含有の溶媒に溶解させた溶液を芯材溶液として、前記水溶性ポリマーが繊維化された鞘材繊維からなる鞘部と、前記芯材溶液からなる芯部と、を有する芯鞘構造の芯鞘繊維を静電紡糸法により生成する芯鞘繊維生成工程と、生成した芯鞘繊維の鞘材繊維を除去し、前記芯材溶液をゲル化させてハイドロゲルの繊維を製造する芯材ゲル化工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
前記芯材ゲル化工程において、前記鞘材繊維の除去と前記芯材溶液のゲル化は並行して行われることとすることができる。これにより、製造工程を迅速化することができる。
前記ゲル化は、非共有結合により架橋された架橋構造を有する物理ゲルを形成することにより行われることとすることができる。これにより、化学架橋剤を用いることなく簡易な方法でハイドロゲルの繊維を製造することができる。
【0011】
前記ハイドロゲル前駆体は、コラーゲン又はアルギン酸であることすることができる
【0012】
前記ハイドロゲル前駆体はコラーゲンであって、前記芯材ゲル化工程は、生成した芯鞘繊維を弱アルカリ水溶液中に浸漬することによって、前記鞘材繊維を除去し、物理ゲル化によって、前記芯材溶液をゲル化することができる。
前記ハイドロゲル前駆体はアルギン酸であって、前記芯材ゲル化工程は、生成した芯鞘繊維を2価金属塩水溶液中に浸漬することによって、前記鞘材繊維を除去し、物理ゲル化によって、前記芯材溶液をゲル化することができる。
前記ハイドロゲル前駆体はヒアルロン酸であって、前記芯材ゲル化工程は、生成した芯鞘繊維をpH2.0~3.8、20~100重量パーセントのエタノール水溶液中に浸漬することによって、前記鞘材繊維を除去し、物理ゲル化によって、前記芯材溶液をゲル化することができる。
【発明の効果】
【0013】
上記ハイドロゲル繊維の製造方法では、フッ素系有機溶剤非含有の溶媒に溶解させたハイドロゲル前駆体溶液を芯部とする芯鞘構造の芯鞘繊維を生成することにより、ハイドロゲル前駆体溶液を繊維状に引き伸ばした後、ハイドロゲル前駆体溶液をゲル化してハイドロゲル繊維を製造することができるので、高次構造を変性させることなく、ハイドロゲル繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】芯鞘繊維の製造に用いるエレクトロスピニング装置の模式図である。
【図2】同軸スピナレットの周辺の様子を模式的に示す断面図である。
【図3】芯鞘繊維を模式的に示す図である。
【図4】本実施の形態に係るハイドロゲル繊維の製造工程を示すフローチャートである。
【図5】実施例1で得られた芯鞘繊維の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図6】実施例1で得られたコラーゲンのハイドロゲル繊維の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図7】実施例1で得られたコラーゲンのハイドロゲル繊維の円二色性(CD)スペクトルの測定結果を示す。
【図8】実施例2で得られた芯鞘繊維の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【図9】実施例2で得られたアルギン酸のハイドロゲル繊維の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態に係るハイドロゲル繊維の製造方法は、静電紡糸法による紡糸が可能な水溶性の紡糸基材を溶媒に溶解させた溶液を鞘材溶液とし、ハイドロゲルの前駆体をフッ素系有機溶剤非含有の溶媒に溶解させた溶液を芯材溶液として、紡糸基材が繊維化された鞘材繊維からなる鞘部と、繊維化されていない芯材溶液からなる芯部と、を有する芯鞘構造の極細繊維(以下、「芯鞘繊維」という。)を静電紡糸法により生成する芯鞘繊維生成工程と、芯鞘繊維の鞘材繊維を除去し、芯材溶液をゲル化させる芯材ゲル化工程とを含むことを特徴とする。

【0016】
<芯鞘繊維生成工程>
芯鞘繊維は、エレクトロスピニング装置を用いて生成される。当該エレクトロスピニング装置は、例えば、特開2011-246833号公報の段落0040~0044、図2、特開2009-174066号公報の段落0019~0028、図1、図3に記載されているように公知であるが、以下、簡略化した模式図(図1、図2)を参照しながら説明する。

【0017】
図1は、芯鞘繊維の生成に用いるエレクトロスピニング装置の構成を示す。図2は、図1の符号Aで示す点線で囲んだ部分(後述する同軸スピナレット10(紡糸金口)及びその周辺)の様子を模式的に示す断面図である。
エレクトロスピニング装置1は、内口径の異なる同軸ノズル(鞘材溶液を供給する外層ノズル10Aと芯材溶液を供給する内層ノズル10B)を有する同軸スピナレット10、芯材溶液を収容するシリンジ11、シリンジ11から芯材溶液を内層ノズル10Bへ供給するシリンジポンプ12、鞘材溶液を収容するシリンジ13、シリンジ13から鞘材溶液を外層ノズル10Aへ供給するシリンジポンプ14、コレクター15、同軸スピナレット10とコレクター15との間に高電圧を印加する高圧電源16を備える。

【0018】
芯鞘繊維は、エレクトロスピニング装置1を用いて以下のようにして生成される。シリンジポンプ14及びシリンジポンプ12を駆動させて同軸スピナレット10の外層ノズル10Aに鞘材溶液を、内層ノズル10Bに芯材溶液をそれぞれ供給し、同軸スピナレット10とコレクター15との間に0.5kV/cm~10kV/cmの電界を印加した状態で同軸スピナレット10の先端の紡糸口10Dから芯材溶液と鞘材溶液を吐出させる。

【0019】
これにより、芯材溶液が鞘材溶液で覆われ、主として鞘材溶液が帯電(プラス又はマイナスの何れかに帯電)した円錐形状の液滴(テーラーコーン10C)が形成される。上記液滴は、異極に帯電(アース)しているコレクター15に向かう電気力線に沿って作用する静電力(クーロン力)により吸引される。
そして、静電力が上記液滴の表面張力を上回ると、上記液滴から紡糸ジェットの噴流10Eが形成されてコレクター15に向かって連続的に噴射される。この噴射により、噴流10Eがコレクター15に到達する過程において、鞘材溶液の外表面の静電力(静電反発力)により、噴流10Eが引き伸ばされて薄くなってゆき、それとともに、主として鞘材溶液の溶媒が蒸発してゆき、鞘材溶液が繊維化してゆく。その結果、図3に示すように、芯材溶液101を繊維化した鞘材繊維102で被覆した芯鞘繊維が生成されてコレクター15上に捕集される。

【0020】
同軸スピナレット10としては、例えば、外層ノズル10Aの内口径が0.1~3mmであることが好ましく、より好ましくは0.5から2.5mmである。又、内層ノズル10Bの外径は、外層ノズルの内口径より小さく、内口径が0.05から2.5mmであることが好ましく、より好ましくは0.1~1.5mmである。内口径が0.05mm未満になると溶液がノズルに詰まりやすくなり、好ましくない。又、内口径が2.5mmを超えると、テーラーコーンを安定に形成することができず好ましくない。

【0021】
同軸スピナレット10とコレクター15との間に高圧電源16から印加する電界は、0.5~10kV/cmとすることが好ましく、より好ましくは、2~5
kV/cmとするのがよい。電界が0.5kV/cm未満になると紡糸ジェットの噴流が連続的に形成されにくくなり、電界が10kV/cmを超えると、紡糸ジェットの噴流の分離が起こりやすくなるためである。

【0022】
外層ノズル10Aへ供給する鞘材溶液の流量は、鞘材溶液の内側に芯材溶液を適切に封じ込めることができるように、内層ノズル10Bへ供給する芯材溶液の流量に比べ、小さくなりすぎないようにすることが好ましい。
鞘材溶液の流量は、0.1~2.0ml/hとするのが好ましい。芯材溶液の流量は、0.1~2.0ml/hとするのが好ましい。

【0023】
鞘材溶液の粘度は、芯材溶液の粘度より大きくするのが好ましい。前者の粘度を後者の粘度より大きくすることにより、鞘材溶液のせん断強度を高めて静電力により両者の溶液が均等に引っ張られて芯鞘繊維が形成されるようにすることができ、紡糸ジェットの噴流が小滴に分裂したり、ビーズ構造を形成したりするのを防止することができる。
又、鞘材溶液は、静電紡糸法による紡糸が可能な紡糸基材を溶媒に溶解し、静電紡糸可能な範囲の粘度になるように上記紡糸基材の濃度が調整されていることが必要である。さらに、上記濃度は、分子鎖同士が充分に絡み合い、繊維の形成が可能な濃度以上で、静電紡糸に必要な溶液の流動性が阻害される濃度を超えないように調整されていることが必要である。又、静電紡糸の際にテーラーコーンを安定に形成させるために鞘材溶液と芯材溶液の間の界面張力ができるだけ小さくなるように、両者の溶液組成を構成することが好ましい。

【0024】
紡糸基材としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアルキレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシエチルデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、デキストリン、キトサン等の水溶性ポリマーを用いることができる。

【0025】
又、上記紡糸基材を溶解させる溶媒としては、各種無機緩衝液(酢酸緩衝液、リン酸緩衝液等)、水、生理食塩水、酸、アルカリ、エタノール等の溶媒を用いることができる。水の種類は、特に制限されない。例えば、蒸留水、精製水、純水、水道水等の水を用いることができるが、不純物が少ないこと等の理由により、蒸留水、精製水、純水を用いることが好ましい。溶媒は、紡糸基材に用いる水溶性ポリマーの種類に応じて上記の溶媒の中から適宜選択される。又、溶媒は、1種単独で用いることとしてもよいし、2種以上混合して用いることとしてもよい。

【0026】
芯材溶液に用いるハイドロゲル前駆体としては、例えば、天然のコラーゲン(ヒト、豚、牛、魚等由来のコラーゲン)、アルギン酸(海藻等由来のアルギン酸)、ヒアルロン酸(鶏等動物、微生物由来のヒアルロン酸)等を用いることができる。
ここで、「天然」とは、ヒト、動物、植物、魚類、鳥類、海藻、微生物等の生物から抽出されたものであって、抽出後、化学架橋等の化学修飾がされたり、水溶性ポリマー等の他の紡糸基材と混合されたりしていないもののことをいう。

【0027】
なお、本実施の形態に適用できるハイドロゲル前駆体は、天然のものに限定されるものではなく、化学修飾(化学架橋等)等.されたものであってもよいことは、勿論のことである。
又、ハイドロゲル前駆体を溶解させる溶媒としては、ハイドロゲル前駆体の高次構造を変性させることなく、ハイドロゲル前駆体を溶解し得るものであればよく、例えば、水、各種無機緩衝液(酢酸緩衝液、リン酸緩衝液等)、酸、アルカリ等を用いることができる。紡糸基材の溶媒の場合と同様に、水の種類は制限されないが、蒸留水、精製水、純水を用いることが好ましい。溶媒は、ハイドロゲル前駆体の種類に応じて適宜選択される。例えば、コラーゲンの溶媒として酸やpHを酸性に調整した無機緩衝液を用いることができ、アルギン酸、ヒアルロン酸の溶媒として水を用いることができる。又、上記溶媒は、1種単独で用いることとしてもよいし、2種以上混合して用いることとしてもよい。

【0028】
コレクター15は、連続的に噴射される紡糸ジェットの噴流を電気的に吸引して捕集する。コレクター15は、図1に示すような回転軸の周りに回転する回転ドラムであってもよいし、特開2008—223187号公報の図7~図9に示すような回転軸の周りに回転する円盤状のディスク(ディスクコレクター)であってもよいし、同公報の図5、図6に示すような平板形状であってもよい。コレクターの形状を回転体とし、紡糸ジェットを高速で巻き取ることにより、配向性(異方性)のある、芯鞘繊維を捕集することができる。

【0029】
又、同軸スピナレット10の先端からコレクター15までの距離は、上記静電紡糸法により得られる芯鞘繊維の繊維径に影響するので、紡糸基材の種類に応じて適宜調整されるべきであるが、マイクロオーダー(1μm以上1mm未満)、ナノオーダー(1nm以上1μm未満)の極細繊維を得るためには、当該距離を5~50cmとするのが好ましい。
又、上記静電紡糸を行なう環境温度は、ハイドロゲル前駆体の高次構造に変性が生じない温度範囲になるように温度調節される。例えば、ハイドロゲル前駆体がヒト等哺乳類由来の天然のコラーゲンの場合には、水溶液中のコラーゲンが熱変性する温度(約60℃)より低い温度に温度調節されて上記静電紡糸が行われる。

【0030】
<芯材ゲル化工程>
上記静電紡糸法により得られた芯鞘繊維において、極細繊維状に引き伸ばされた芯材溶液をゲル化させるとともに、芯鞘繊維生成工程において繊維化した鞘材繊維を溶解させて除去することにより、ハイドロゲル繊維が得られる。
芯材溶液のゲル化と鞘材繊維の除去は、並行して行うこととしてもよいし、芯材溶液をゲル化した後、鞘材繊維を除去することとしてもよい。芯鞘繊維生成工程の場合と同様に、上記芯材ゲル化工程における環境温度は、ハイドロゲル前駆体の高次構造に変性が生じない温度範囲になるように温度調節される。

【0031】
以下に芯材ゲル化工程の具体例を示す。
(1)ハイドロゲル前駆体がコラーゲンの場合
上記芯鞘繊維生成工程において生成した芯鞘繊維を弱アルカリ水溶液中に浸漬することにより、鞘材繊維を構成する水溶性ポリマーの繊維を溶解させて除去すると共に、芯材溶液(コラーゲンを酸又は酸性の無機緩衝液に溶解させたコラーゲン酸性水溶液)をゲル化(物理ゲルを形成)させてコラーゲンのハイドロゲル繊維を得る。

【0032】
ここで、「物理ゲル」とは、水素結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用、イオン結合、キレート形成などの非共有結合性の相互作用により高分子間に架橋構造が形成されることにより、生成されるゲルのことをいう。これに対し、共有結合により高分子間に架橋構造が形成されて生成されるゲルのことを「化学ゲル」という。
又、上記芯鞘繊維をゲル化可能な温度でインキュベートして先に芯材溶液をゲル化させた後、鞘材繊維(水溶性ポリマー繊維)を溶解させることが可能な溶媒中にゲル化後の上記芯鞘繊維を浸漬して鞘材繊維を溶解させて除去することとしてもよい。

【0033】
上記ゲル化温度としては、例えば、哺乳類由来のコラーゲンの場合、20℃~37℃の範囲とするのが好ましい。又、インキュベート時間は、ゲル化温度により異なるが、約1時間~24時間の範囲とするのが好ましく、ゲル化温度を高くすることにより、インキュベート時間を短くすることができる。
(2)ハイドゲル前駆体がアルギン酸の場合
上記芯鞘繊維生成工程において生成した芯鞘繊維を2価金属塩水溶液中に浸漬することにより、鞘材繊維を構成する水溶性ポリマーの繊維を溶解させて除去すると共に、芯材溶液(アルギン酸を溶媒(例えば、水)に溶解させたアルギン酸水溶液)をゲル化(物理ゲルを形成)させてアルギン酸のハイドロゲル繊維を得る。

【0034】
2価金属塩としては、例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、硫酸銅、硫酸亜鉛、塩化ストロンチウム等の2価金属塩を用いることができる。
(3)ハイドロゲル前駆体がヒアルロン酸の場合
上記芯鞘繊維生成工程において生成した芯鞘繊維をpH2.0~3.8、20~100重量パーセントのエタノール水溶液中に浸漬することにより、鞘材繊維を構成する水溶性ポリマーの繊維を溶解させて除去すると共に、芯材溶液(ヒアルロン酸を水に溶解させたヒアルロン酸水溶液)をゲル化(物理ゲルを形成)させてヒアルロン酸のハイドロゲル繊維を得る。

【0035】
なお、上記条件により、ヒアルロン酸がゲル化されることは、特開平5-58881号公報の段落0017~0031に記載されているように、公知である。
<ハイドロゲル繊維製造工程>
図4は、本実施の形態に係るハイドロゲル繊維の製造工程を示すフローチャートである。上記製造工程においては、まず、シリンジポンプ12を駆動させてシリンジ11から芯材溶液を、シリンジポンプ14を駆動させてシリンジ13から鞘材溶液をそれぞれ同軸スピナレット10に供給する(P1)。そして、同軸スピナレット10とコレクター15間に高圧電源16から電圧を印加し、同軸スピナレット10から吐出された芯材溶液と鞘材溶液により、テーラーコーン10Cを形成させてテーラーコーン10Cから紡糸ジェットの噴流10Eをコレクター15に向かって連続的に噴射させ、上記噴流の噴射により芯材溶液を、鞘材溶液で被覆した状態で薄く引き伸ばしてゆき、鞘材溶液を繊維化して芯材溶液を鞘材繊維で被覆した、芯鞘繊維を生成させてコレクター15に捕集する(P2)。

【0036】
これにより、鞘材溶液とともに薄く引き伸ばされた極細繊維状の芯材溶液を内層とし、鞘材繊維を外層とする芯鞘繊維が得られる。
そして、上記芯材ゲル化工程において説明したように、鞘材繊維の溶解による除去と、芯材溶液のゲル化(物理ゲルの形成)とを行い、ハイドロゲル繊維を得る(P3)。
なお、ゲル化して得たハイドロゲル繊維を水等で1回以上洗浄した後、乾燥させることとしてもよい。

【0037】
乾燥方法としては、室温に放置して自然乾燥させてもよいし、加熱(例えば、60℃で加熱)して乾燥させてもよいし、加熱すると高次構造が変性するおそれがある場合(例えば、コラーゲンのハイドロゲル繊維の場合)は、凍結乾燥させることとしてもよい。
このように、本実施の形態に係るハイドロゲル繊維の製造方法では、ハイドロゲル前駆体がフッ素系有機溶剤非含有の溶媒に溶解されたハイドロゲル前駆体溶液が繊維化される前に、芯鞘繊維生成工程により、ハイドロゲル前駆体溶液を内層とする芯鞘繊維が生成され、ハイドロゲル前駆体溶液が、外層の鞘材溶液とともに極細繊維状に引き伸ばされた後、フッ素系有機溶剤の添加を要する静電紡糸法を用いることなく、ハイドロゲル前駆体溶液がゲル化されて繊維化されてハイドロゲル繊維が製造される。

【0038】
その結果、ハイドロゲル前駆体が本来有する高次構造がフッ素系有機溶剤により変性を受けることなく、安全性が高く、生体適用に適したハイドロゲル繊維を製造することができる。
(実施例1)上記のハイドロゲル繊維製造工程により、コラーゲンのハイドロゲル繊維を以下のようにして製造した。

【0039】
ブタ由来コラーゲンを終濃度が1.5重量%となるようにpHが3.3の15mM酢酸ナトリウム溶液に溶解させて芯材溶液を調製し、ポリビニルピロリドン(PVP)を終濃度が32重量%となるようにpHが3.3の15mM酢酸ナトリウム溶液に溶解させて鞘材溶液を調製した。なお、上記コラーゲンの終濃度は、1~3重量%の範囲で、PVPの終濃度は、7.5~40%の範囲で適宜選択可能である。コラーゲンの終濃度を低くする程、得られるコラーゲンのハイドロゲル繊維の繊維径を小さくすることができる。

【0040】
調製した芯材溶液を流量0.4ml/hで、調製した鞘材溶液を流量0.6ml/hでそれぞれ同軸スピナレットに供給し、同軸スピナレットとコレクター間に3.7kV/cmの電界を印加して紡糸ジェットの噴流をコレクターに向かって1.5時間噴射させて静電紡糸を行い、PVP繊維を鞘材繊維とし、コラーゲン溶解酢酸ナトリウム水溶液を芯材溶液とする芯鞘繊維を得た。

【0041】
なお、芯材溶液の供給流量は、0.3~0.6ml/hの範囲で、鞘材溶液の供給流量は、0.3~1.0ml/hの範囲で、印加した電界は、2.5~4.0kV/cmの範囲で、上記噴流の噴射時間は、1.5~2.5時間の範囲でそれぞれ適宜選択可能である。
エレクトロスピニング装置は、メック社製の「NF-500」を用い、同軸スピナレットは、メック社製の芯鞘スピナレットを用い、コレクターは、回転ドラム型のコレクター(メック社製の半径10cmのドラムコレクター)を用い、回転ドラムの回転速度は600rpmとした。又、内層ノズルの内口径は、0.4mm、外層ノズルの内口径は、1.2mmとし、同軸スピナレットの先端からコレクターまでの距離は、7.5cmとした。

【0042】
なお、上記回転速度は、150~3000rpmの範囲で適宜選択可能である。
図5は、得られた芯鞘繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。同図に示すように、上記静電紡糸法により繊維径が400nm~6000nm、平均1500nmの芯鞘繊維が得られた。
得られた上記芯鞘繊維を、60重量%エタノールを溶媒とする10mM炭酸水素ナトリウム溶液中に浸漬して鞘材繊維のPVPを溶解させて除去すると共に芯材溶液のコラーゲン水溶液をアルカリ性にしてゲル化して、コラーゲンのハイドロゲル繊維を得た。図6は、得られたコラーゲンのハイドロゲル繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。同図に示すように、繊維径が200nm~900nm、平均400nmのコラーゲンのハイドロゲル繊維が得られた。

【0043】
又、図7は、得られたコラーゲンのハイドロゲル繊維の円二色性(CD)スペクトルの測定結果を示す。同図に示すように、220nm付近(210~230nmの範囲)に、ヘリックス構造に由来する正のコットン効果が観察され、コラーゲン特有の高次構造である3重螺旋構造が維持されていることを示す。
(実施例2)上記のハイドロゲル繊維製造工程により、アルギン酸のハイドロゲル繊維を以下のようして製造した。

【0044】
海藻由来のアルギン酸を終濃度が8重量%となるように蒸留水に溶解させて芯材溶液を調製し、ポリビニルピロリドン(PVP)を終濃度が40重量%となるように蒸留水に溶解させて鞘材溶液を調製した。
なお、アルギン酸の終濃度は、1~8重量%の範囲で適宜選択可能である。アルギン酸の終濃度を低くする程、得られるアルギン酸のハイドロゲル繊維の繊維径を小さくすることができる。

【0045】
他の条件は、実施例1の場合と同じ条件で静電紡糸を行い、PVPを鞘材繊維とし、アルギン酸水溶液を芯材溶液とする芯鞘繊維を得た。
図8は、得られた芯鞘繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。同図に示すように、上記静電紡糸法により繊維径が200nm~3000nm、平均1000nmの芯鞘繊維が得られた。

【0046】
得られた上記芯鞘繊維を、1M塩化カルシウム(CaCl2)を含む70重量%エタノール水溶液中に浸漬して鞘材のPVPを溶解させて除去すると共に芯材のアルギン酸水溶液をゲル化してアルギン酸のハイドロゲル繊維を得た。図9は、得られたハイドロゲル繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。同図に示すように、100nm~1400nm、平均800nmのアルギン酸のハイドロゲル繊維が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、医療用材料、化粧品材料、細胞培養基材等に広く用いられているハイドロゲルの紡糸技術として利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 エレクトロスピニング装置
10 同軸スピナレット
11、13 シリンジ
12、14 シリンジポンプ
15 コレクター
16 高圧電源
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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