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明細書 :銅三次元ナノ構造体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6665364号 (P6665364)
公開番号 特開2017-106093 (P2017-106093A)
登録日 令和2年2月25日(2020.2.25)
発行日 令和2年3月13日(2020.3.13)
公開日 平成29年6月15日(2017.6.15)
発明の名称または考案の名称 銅三次元ナノ構造体の製造方法
国際特許分類 C25D   5/16        (2006.01)
C25D   3/38        (2006.01)
C25D   5/10        (2006.01)
H01M   4/66        (2006.01)
H01M   4/80        (2006.01)
B82Y  30/00        (2011.01)
FI C25D 5/16
C25D 3/38 101
C25D 5/10
H01M 4/66 A
H01M 4/80 C
B82Y 30/00
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2016-046711 (P2016-046711)
出願日 平成28年3月10日(2016.3.10)
優先権出願番号 2015234533
優先日 平成27年12月1日(2015.12.1)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成31年2月12日(2019.2.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】新井 進
審査官 【審査官】國方 康伸
参考文献・文献 特開2015-042776(JP,A)
特開2014-080674(JP,A)
調査した分野 C25D 1/00- 7/12
H01M 4/64- 4/84
特許請求の範囲 【請求項1】
電解銅めっき法により、基板上に、銅からなる薄い板状の析出物がランダムに交錯した形態を備える銅三次元ナノ構造体を形成する方法について、
前記基板に銅三次元ナノ構造体を形成する工程と、
銅三次元ナノ構造体が形成された前記基板に補強めっきを施す工程とを備え、
前記補強めっきを施す工程においては、前記基板に形成されている銅三次元ナノ構造体の先端側よりも基部側に選択的に銅を析出させる添加剤を加えためっき浴を使用してめっきする銅三次元ナノ構造体の製造方法であって、
銅三次元ナノ構造体の先端側に銅が析出することを抑制する添加剤として、塩化物イオンを生成する添加剤と、有機添加剤であるポリエーテル化合物とを使用するもので、
該ポリエーテル化合物は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、又はこれらのコポリマー或いは誘導体のいずれかであることを特徴とする銅三次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項2】
電解銅めっき法により、基板上に、銅からなる薄い板状の析出物がランダムに交錯した形態を備える銅三次元ナノ構造体を形成する方法について、
前記基板に銅三次元ナノ構造体を形成する工程と、
銅三次元ナノ構造体が形成された前記基板に補強めっきを施す工程とを備え、
前記補強めっきを施す工程においては、前記基板に形成されている銅三次元ナノ構造体の先端側よりも基部側に選択的に銅を析出させる添加剤を加えためっき浴を使用してめっきする銅三次元ナノ構造体の製造方法であって、
銅三次元ナノ構造体の基部側に銅が析出することを促進する添加剤として、有機化合物としての硫黄化合物を使用するもので、
該硫黄化合物は、3,3’ジチオビス(1-プロパンスルホン酸)二ナトリウム(SPS)であることを特徴とする銅三次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項3】
電解銅めっき法により、基板上に、銅からなる薄い板状の析出物がランダムに交錯した形態を備える銅三次元ナノ構造体を形成する方法について、
前記基板に銅三次元ナノ構造体を形成する工程と、
銅三次元ナノ構造体が形成された前記基板に補強めっきを施す工程とを備え、
前記補強めっきを施す工程においては、前記基板に形成されている銅三次元ナノ構造体の先端側よりも基部側に選択的に銅を析出させる添加剤を加えためっき浴を使用してめっきする銅三次元ナノ構造体の製造方法であって、
銅三次元ナノ構造体の先端側に銅が析出することを抑制する添加剤として、塩化物イオンを生成する添加剤と、有機添加剤であるポリエーテル化合物とを使用するもので、
該ポリエーテル化合物は、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、又はこれらのコポリマー或いは誘導体のいずれかであり、
銅三次元ナノ構造体の基部側に銅が析出することを促進する添加剤として、有機化合物としての硫黄化合物を使用するもので、
該硫黄化合物は、3,3’ジチオビス(1-プロパンスルホン酸)二ナトリウム(SPS)であることを特徴とする銅三次元ナノ構造体の製造方法。
【請求項4】
前記補強めっきを施す工程においては、めっき液を空気攪拌しながらめっきすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の銅三次元ナノ構造体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、銅三次元ナノ構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、電解銅めっき法により、銅からなる薄い板状の析出物が基板上にランダムに交錯した形態となる銅三次元ナノ構造体を形成する方法を提案した(特許文献1)。この銅三次元ナノ構造体は、さまざまな用途に利用することが可能であり、たとえば、銅三次元ナノ構造体にSnやSiといった活物質を取り込むことにより、リチウムイオン電池の負極材料として利用することができる(特許文献2)。SnやSiはグラファイトと比較して理論容量が3倍以上もあり、活物質として実用することができれば、グラファイトを活物質としている従来の電池の充放電特性を上回る充放電特性を得ることが可能である。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2015-042776号公報
【特許文献2】特開2015-153495号公報
【特許文献3】特開2010-027916号公報
【特許文献4】特開2013-105980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図12(a)は銅三次元ナノ構造体の表面SEM像、図12(b)は断面SEM像である。銅三次元ナノ構造体は、銅からなる薄い板状の析出物がランダムに交錯した形態に形成されたものである。銅の析出物は数十nm~数百nm程度の薄板状で、図12(a)、(b)に示すように、基板上から斜めに傾斜して形成される。
この銅三次元ナノ構造体を構成する銅の板状の析出物はきわめて薄いため、機械的な強度が不十分であるという問題がある。銅の薄板状の析出物に機械的な外力が作用すると、銅の薄板が倒れたり変形したりして、基材と薄板との連結部分が剥離する場合もある。
【0005】
銅三次元ナノ構造体を構成する銅の薄板がある程度の変形性を有するということは、言い換えれば、銅三次元ナノ構造体は内部に十分な空間を備えることと相まって、緩衝性(クッション性)を備えているということでもある。
リチウムイオン電池の負極に活物質としてSiやSnを使用する場合の課題として、リチウムイオンの吸排作用に伴ってSiあるいはSnの体積が膨張・収縮するため、負極から活物質が剥落してしまうという問題があった。この問題は、銅三次元ナノ構造体にSiあるいはSnを担持させることにより、SiあるいはSnが膨張・収縮しても、銅三次元ナノ構造体の緩衝作用により負極から剥落することを防止することで解消することが可能である。
【0006】
しかしながら、電極の容量を大きくするには、銅三次元ナノ構造体の全表面積を大きくする必要があり、そのためには銅三次元ナノ構造体の厚さを全体として厚くしなければならない。めっき法により銅三次元ナノ構造体を作製する場合、銅の薄板状の析出物は、薄板の面方向を保持し、薄板のまま、先端から延出していく。したがって、銅三次元ナノ構造体の全体の厚さを厚くすると、薄板の銅の析出物が延出する長さが必然的に長くなり、銅三次元ナノ構造体の機械的強度が弱いという問題が顕著になる。
本発明は、銅三次元ナノ構造体の特徴的な構造を保持するとともに、機械的強度を向上させた銅三次元ナノ構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は銅三次元ナノ構造体の特徴的な構造を保持しながら、銅三次元ナノ構造体の機械的強度を向上させる方法として、いわゆるビアフィルめっきとして知られているめっき方法(特許文献3、4)を利用することを着想し、この方法を利用して銅三次元ナノ構造体を補強する方法について研究してきた。ビアフィルめっきは、配線基板の層間に設けるビアを形成するための凹部を、めっき金属により充填した形態としてビアを形成する手法である。
めっき法を利用して、銅三次元ナノ構造体の特徴的な形態を保持しながら、銅三次元ナノ構造体の機械的強度を向上させるには、銅三次元ナノ構造体を構成している薄板の基部に近い部分のみに選択的に銅を析出させるようにすることができれば目的を達成することができると考えられる。
本発明者は、銅三次元ナノ構造体にビアフィルめっきと同様な手法を適用した実験を行い、銅三次元ナノ構造体にビアフィルめっきと同様な手法による補強めっきを施す方法が、銅三次元ナノ構造体の特徴的な形態を保持しながら銅三次元ナノ構造体を補強する方法として有効であることを確かめることができ、本発明に至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明に係る銅三次元ナノ構造体の製造方法は、電解銅めっき法により、基板上に、銅からなる薄い板状の析出物がランダムに交錯した形態を備える銅三次元ナノ構造体を形成する方法であって、前記基板に銅三次元ナノ構造体を形成する工程と、銅三次元ナノ構造体が形成された前記基板に補強めっきを施す工程とを備え、前記補強めっきを施す工程においては、前記基板に形成されている銅三次元ナノ構造体の先端側よりも基部側に選択的に銅を析出させる添加剤を加えためっき浴を使用してめっきすることを特徴とする。
【0009】
前記めっき浴に加える添加剤としては、銅三次元ナノ構造体の先端側に銅が析出することを抑制する第1の添加剤と、銅三次元ナノ構造体の基部側に銅が析出することを促進する第2の添加剤と、を用いる方法が有効である。
銅が析出することを抑制する第1の添加剤としては、種々の添加剤を組み合わせて使用することができる。たとえば、塩素イオンを生成する添加剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩酸等)と、有機添加剤としてポリエーテル化合物(ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、及びこれらのコポリマー、誘導体等)とを組み合わせて用いることができる。ポリエチレングリコールは、用途に応じて、分子量300~3000のものを使用することができる。
また、銅の析出を促進させる第2の添加剤としては、硫黄化合物(3,3’ジチオビス(1-プロパンスルホン酸)二ナトリウム(SPS))等を用いることができる。
【0010】
また、本発明に係る銅三次元ナノ構造体の製造方法においては、前記補強めっき工程においてめっき液を攪拌する操作を行いながらめっきすることにより、銅三次元ナノ構造体の表面側に銅を析出することを抑制し、銅三次元ナノ構造体の基部側に選択的に銅を析出させることができる。めっき液の撹拌には、カソードロッカー、スターラー攪拌、空気攪拌等が利用でき、とくに空気攪拌を利用する方法が、補強めっきにより銅三次元ナノ構造体の基部側に選択的に銅を析出させる方法として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る銅三次元ナノ構造体の製造方法によれば、銅三次元ナノ構造体を構成する薄板の基部側に選択的に銅を析出させることができ、銅三次元ナノ構造体全体としての機械的強度を向上させ、銅三次元ナノ構造体が変形することを抑えることができる。また、銅三次元ナノ構造体の表面側については銅の薄板がランダムに交錯した形態を維持することができ、銅三次元ナノ構造体の特徴的な構成を併せ備える銅三次元ナノ構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】基板に銅三次元ナノ構造体を形成した状態(a)、銅三次元ナノ構造体を形成した基板に補強めっきを施したサンプルのマクロ写真(b)~(f)である。
【図2】図1(a)~(f)の各サンプルについて測定した低倍率の表面SEM像(a)~(f)である。
【図3】図1(a)~(f)の各サンプルについて測定した高倍率の表面SEM像(a)~(f)である。
【図4】銅三次元ナノ構造体を形成したサンプル(a)、添加剤を使用せずに補強めっきをしたサンプル(b)、添加剤としてPEG300を使用したサンプル(c)についての表面SEM像と、それぞれの断面SEM像(d)、(e)、(f)である。
【図5】添加剤を使用しない場合と、添加剤を使用した場合での補強めっきによる作用を示す説明図である。
【図6】銅三次元ナノ構造体を形成した銅板にめっきを施した際の電流-電位曲線を測定した結果を示すグラフである。
【図7】補強めっきを施した後のめっき膜のXRD測定結果を示すグラフである。
【図8】銅三次元ナノ構造体を形成した状態(3D Cu)、添加剤を添加せず撹拌せずにめっきした場合(無添加・無攪拌)、添加剤を添加し攪拌せずにめっきした場合(添加・無攪拌)のサンプルの表面SEM像(上段)と断面SEM像(下段)である。
【図9】(3D Cu)、(無添加・無攪拌)、(添加・無攪拌)のサンプルと、添加剤を添加し、カソードロッカー、スターラー攪拌、空気攪拌によりめっきを施したサンプルの表面SEM像である。
【図10】図9に示した各サンプルについての高倍率の表面SEM像である。
【図11】(3D Cu)、(添加・無攪拌)、(添加・空気攪拌)の3種のサンプルについての表面SEM像と断面SEM像である。
【図12】銅三次元ナノ構造体の表面SEM像(a)、断面SEM像(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る銅三次元ナノ構造体の製造方法は、基板上に銅三次元ナノ構造体を形成した後、銅三次元ナノ構造体を補強するめっきを施すことにより、銅三次元ナノ構造体の特徴的な構成を保持したまま機械的強度を向上させた銅三次元ナノ構造体を製造する。
めっきにより基板上に銅三次元ナノ構造体を形成する方法には公知の方法(特許文献1)を利用する。めっき法を利用して銅三次元ナノ構造体を作成するには、添加剤としてポリアクリル酸を加えた銅めっき浴を使用し、ポリアクリル酸の添加濃度cを2×10-5 M<c<2×10-3 Mの範囲に設定する。とくに好適なポリアクリル酸の添加濃度cは1×10-4 M<c<5×10-4 Mである。基板には銅以外の素材を使用することができる。銅以外の下地層を使用する場合も、銅めっき浴に添加するポリアクリル酸の濃度を上記範囲内に設定することによって銅三次元ナノ構造体を形成することができる。

【0014】
(銅三次元ナノ構造体の作製例)
銅板を基板とし、電解銅めっき法により、基板上に銅三次元ナノ構造体を形成した。使用しためっき浴は下記のものである。
CuSO4・5H2O 0.85M
H2SO4 0.55M
添加剤 ポリアクリル酸(分子量:5000) 3×10-4 M
この作製例では、めっき浴へのポリアクリル酸の添加量を3×10-4 Mとした。

【0015】
電析条件は下記のとおりである。
カソード:ハルセル銅板(3cm×3.3cm)
アノード:含リン銅板
液温: 25℃
撹拌なし
液量: 100ml
電流密度:1A/dm2
通電量:30C

【0016】
(補強めっきの例:添加剤有無)
上記めっき方法により基板上に銅三次元ナノ構造体を形成した後、電解銅めっきによる補強めっきを施し、めっき浴に添加する添加剤の有無によって銅三次元ナノ構造体の構造がどのようになるかを調べた。
実験で使用した添加剤は、銅三次元ナノ構造体を構成する銅の薄板の先端側に銅が析出することを抑制する添加剤(第1の添加剤)と、銅の薄板の基部側(基板に連結する側)に銅が析出することを促進する添加剤(第2の添加剤)である。第1の添加剤として実際に使用したのは塩素イオンを供給するための塩化ナトリウムとポリエチレングリコール(PEG)である。ポリエチレングリコールは分子量が相違することによる銅三次元ナノ構造体の構造の変化を調べるため、分子量300、600、2000、3000の4種を使用した。
銅の析出を促進する第2の添加剤には、硫黄化合物である3,3’ジチオビス(1-プロパンスルホン酸)二ナトリウム(SPS)を使用した。

【0017】
以下に実験で使用した電解銅めっきのめっき浴の組成を示す。
CuSO4・5H2O 0.85M
H2SO4 0.55M
添加剤
Cl- 50ppm
PEG(300、600、2000、3000) 100ppm
JGB(ヤヌスグリーンB) 2ppm
SPS(3,3’ジチオビス(1-プロパンスルホン酸)二ナトリウム) 2ppm
ヤヌスグリーンB(JGB)は、めっき浴の撹拌作用とも関連するもので、銅三次元ナノ構造体の基部側に銅めっきの析出を促進させるSPSが行き渡るようにする目的で使用している。
添加剤を使用しない電解銅めっきのめっき浴の組成は、CuSO4・5H2O 0.85M、H2SO4 0.55Mである。

【0018】
補強めっきでの電析条件を下記に示す。添加剤を使用する場合も添加剤を使用しない場合も、電析条件は共通とした。
カソード:銅三次元ナノ構造体を形成した銅板(3×3.3cm)
アノード:含リン銅板
液温: 25℃
撹拌なし
液量: 100ml
電流密度:1A/dm2
通電量:30C

【0019】
図1(a)は基板に銅三次元ナノ構造体を形成した後、補強めっきを施していないサンプルのマクロ写真であり、図1(b)~(f)は銅三次元ナノ構造体を形成した後、補強めっきを施したサンプルのマクロ写真を示す。図1(b)は添加剤を使用せずに補強めっきを施したサンプルのマクロ写真、図1(c)~(f)は上述した添加剤を加えて補強めっきを施したサンプルのマクロ写真で、分子量が異なるPEGを用いた場合を示す。

【0020】
図1(a)に示すように、基板に銅三次元ナノ構造体を形成し補強めっきを施す前の状態のサンプルは、基板の表面に形成されている銅三次元ナノ構造体の作用により、基板に入射した光が銅三次元ナノ構造体によって吸収され、基板から反射されないため、基板の外観色が黒色になる。言い換えれば、基板の表面の外観食が黒色になれば、基板の表面に銅三次元ナノ構造体が形成されていると推定することができる。

【0021】
図1(b)は、基板の表面に銅三次元ナノ構造体が表面に形成されているにも関わらず、サンプルの外観色が銅色になっている。サンプルの外観色が銅色になっている理由は、銅三次元ナノ構造体が銅板と同様な光を反射する構造になっているためである。基板の外観色が銅色であることから、添加剤を用いずに補強めっきを施した場合は、基板の表面に形成されていた銅三次元ナノ構造体の構造が補強めっきを施す前と比べて大きく変化していることが示唆される。

【0022】
図1(c)~(f)に示すマクロ写真は、PEGの分子量が大きくなるにしたがって、サンプルの表面の外観色が暗い色から徐々に銅色に近づいていることを示す。分子量300のPEGを使用した場合は、補強めっきを施す前のサンプルの外観色と比較するとやや明るくなるが、基板の表面は濃色である。一方、分子量3000のPEGを使用したサンプルについては、添加剤を使用せずに補強めっきした基板(図1(b))と同程度の銅色になっている。

【0023】
図2(a)~(f)は、図1(a)~(f)の各サンプルについて測定した低倍率の表面SEM像であり、図3(a)~(f)は、図1(a)~(f)の各サンプルについて測定した高倍率の表面SEM像である。
図2(a)、図3(a)は、補強めっきを施す前の銅三次元ナノ構造体の構造を示しており、銅の薄板状の析出物がランダムに交錯して形成されている様子が見られる。

【0024】
図2(b)、図3(b)は、添加剤を使用せずに電解銅めっき(補強めっき)を施した場合で、基板に形成した銅三次元ナノ構造体の表面に銅粒が析出しており、銅の薄板がランダムに交錯した銅三次元ナノ構造体に特徴的な構造はサンプルの表面側からは見られない。
基板の表面に形成されていた銅三次元ナノ構造体が銅粒によって完全に遮蔽(被覆)された状態になったため、基板の表面の外観色が銅色になったと考えられる(図1(b))。

【0025】
図2(c)、図3(c)は添加剤としてPEG300を使用した場合で、この場合には、基板の表面に形成されていた銅三次元ナノ構造体の構造は、図2(a)、図3(a)に示した補強めっきを施す前の状態とほとんど変わらない。すなわち、添加剤としてPEG300を使用して補強めっきを施した場合には、基板上に形成されていた銅三次元ナノ構造体の構造をほとんど変えることなくめっきができていることがわかる。補強めっきを施した後の基板の表面の外観色が、濃色(暗色)に見えるのは、銅三次元ナノ構造体の構造がそのまま維持されているからである。

【0026】
図2(d)、(e)、(f)と、図3(d)、(e)、(f)は、それぞれ添加剤として、PEG600、PEG2000、PEG3000を使用した場合である。
図2(d)、(e)、(f)を見ると、いずれの場合も、基板上に形成されていた銅三次元ナノ構造体の構造自体はさほど大きく変化していない。ただし、PEGの分子量が大きくなるにしたがって、銅の薄板の厚さが厚くなっており、銅の薄板の間に銅粒が付着し、薄板の間の空間が徐々に銅粒で埋められていく傾向が見られる。PEGの分子量が大きくなるにしたがって、基板の外観色が銅色に近づいていく理由は、銅三次元ナノ構造体に銅粒が入り込み、基板に入射した光が銅三次元ナノ構造体の内部で閉じ込められて吸収される作用が減退したためと考えられる。

【0027】
図4は、銅三次元ナノ構造体を形成したサンプル、添加剤を使用せずに補強めっきをしたサンプル、添加剤としてPEG300を使用したサンプルについての表面SEM像と断面SEM像を示す。図4(a)、(b)、(c)は、図2(a)、(b)、(c)に示した表面SEM像と同一のものである。図4(d)、(e)、(f)は、それぞれのサンプルの断面SEM像である。

【0028】
添加剤を使用せずに補強めっきを施したサンプル(図4(b)、(d))について見ると、このサンプルの場合は、銅三次元ナノ構造体の薄板の間に銅が入り込み、銅三次元ナノ構造体の構造が崩れている。また、銅三次元ナノ構造体の表面部分については、銅粒が集中的に付着し、銅三次元ナノ構造体の表面が銅粒で覆われ、銅三次元ナノ構造体の表面構造が完全に崩れてしまっている。

【0029】
添加剤としてPEG300を使用して補強めっきを施したサンプル(図4(c)、(f))について見ると、銅三次元ナノ構造体の内部側では、銅板の表面に銅が析出して銅板の厚さが厚くなっていること、銅三次元ナノ構造体の表面側の部分については、銅の薄板に銅があまり析出せず、銅三次元ナノ構造体の構造がよく保たれていることが分かる。
すなわち、PEG300を添加剤として補強めっきを施す方法によれば、銅三次元ナノ構造体の表面側には銅を析出させず、銅三次元ナノ構造体の基部側(内部側)に、より選択的に銅を析出させることで、薄板の薄板の基部部分を互いに連結し、基板と薄板との連結を補強することができている。

【0030】
図5は、添加剤を使用しない場合と、添加剤を使用した場合での補強めっきによる作用を説明的に示したものである。
図5(a)は補強めっきを施す前の状態で、基板10上に銅三次元ナノ構造体を構成する銅の薄板12が交錯して成長した状態を示す。
図5(b)は添加剤を使用せずに補強めっきを施した場合、図5(c)は添加剤を用いて補強めっきを施した場合を示す。

【0031】
図5(b)に示すように、添加剤を使用しない場合は、基板10上にランダムに析出した薄板12からなる銅三次元ナノ構造体の内部側よりも表面側により多く銅14が析出し、銅三次元ナノ構造体の表面部分では銅三次元ナノ構造体の構造が崩れてしまう。
これに対し、第1の添加剤と第2の添加剤とを用いて補強めっきを施した場合は、銅三次元ナノ構造体の表面側よりも内部側により多く銅14が析出することにより、銅三次元ナノ構造体の表面側については元の構造を保持するとともに、銅三次元ナノ構造体の内部側(基部)で銅の薄板12を相互に連結し、基板10と銅の薄板12との間を補強するように作用する。

【0032】
(補強めっきの他の例:めっき浴の撹拌作用)
上述したように銅三次元ナノ構造体に補強めっきを施す際に、銅三次元ナノ構造体の先端側に銅が析出することを抑制する第1の添加剤と、銅三次元ナノ構造体の基部側に銅が析出することを促進する第2の添加剤を用いることにより、銅三次元ナノ構造体が備える特徴的な構造を保持しながら、銅三次元ナノ構造体の基部側を選択的に補強することができる。
上述した実験では、補強めっきを施す際にめっき浴を攪拌せずにめっきを施した。以下では、補強めっきの際にめっき浴を攪拌することによる添加剤の作用効果について説明する。

【0033】
銅板に銅三次元ナノ構造体を形成するめっき浴と電析条件は前述した銅三次元ナノ構造体を形成した方法と同一である。また、銅三次元ナノ構造体に施す補強めっきに用いるめっき浴も前述した補強めっき用のめっき浴と同一である。なお、本実験では、銅めっきの析出を抑制する第1の添加剤として用いたポリエチレングリコールとして分子量300~6000のPEGを使用した。銅めっきの析出を促進する第2の添加剤には同様にSPSを使用した。

【0034】
本実験(補強めっき)における電析条件を下記に示す。添加剤を使用する場合も使用しない場合も電析条件は共通とした。
カソード:銅三次元ナノ構造体を形成した銅板(3×3.3cm)
アノード:含リン銅板
液温: 25℃
撹拌:なし、カソードロッカー、スターラー、空気
液量: 100ml、500ml、250ml、
電流密度:1A/dm2
通電量:30C

【0035】
めっき液を攪拌する方法として、めっきの際にカソードを振動させながらめっきを行うカソードロッカー、スターラーを用いてめっき浴を攪拌しながらめっきする方法、めっき浴中に空気を導入しバブリングしながらめっきする空気攪拌の方法を用いた。カソードロッカーはカソード自体を動かすから、銅三次元ナノ構造体の内部側(基部側)までめっき浴が撹拌されると考えられ、スターラーと空気攪拌による場合は、銅三次元ナノ構造体の表面側で撹拌作用が強く作用し、内部(基部)側では撹拌作用による影響は弱くなると考えられる。

【0036】
図6は上記電析条件により銅の平板に銅めっきを施した際における電流-電位曲線を測定した結果を示す。基本浴とあるのは添加剤(PEG、SPS)を添加していないめっき浴である。PEG300、PEG600、PEG2000、PEG3000、PEG6000とあるのは、それぞれ分子量300、、600、2000、3000、6000のPEGを使用したものである。
電流-電位曲線において、特定の電位における電流値が高いものは、電析速度が速いことを示す。図6から、添加剤の抑制作用としてはPEG6000が最も強いことがわかる。以下では、添加剤として抑制作用が最も強いPEG6000を使用した結果について示す。

【0037】
図7は銅三次元ナノ構造体を形成し、補強めっきを施した後のめっき膜のXRD測定結果である。銅三次元ナノ構造体を形成した状態のサンプルと、攪拌せずに補強めっきを施した後のサンプル、攪拌方法を変えて補強めっきを施したサンプルについての測定結果をそれぞれ示す。図7の測定結果は、いずれの場合も補強めっきによって銅が析出していることを示す。

【0038】
図8は、補強めっきを施す前(3D Cu)、添加剤を添加せず撹拌せずにめっきした場合(無添加・無攪拌)、添加剤を添加し攪拌せずにめっきした場合(添加・無攪拌)のサンプルの表面SEM像(上段)と断面SEM像(下段)を示す。添加剤にはPEG6000を使用し、通電量を30Cとした。
無添加・無攪拌の場合は、銅三次元ナノ構造体の表面に銅が析出し、断面構造を見ても銅三次元ナノ構造体の構造が大きく変形している。添加・無攪拌の場合は、銅三次元ナノ構造体の表面側への銅の析出が無添加の場合と比較して抑制され、銅三次元ナノ構造体の内部(楕円部分)における空隙が確保されている。

【0039】
図9は、補強めっきを施す前(3D Cu)、無添加・無攪拌のもの、添加・無攪拌のものに加えて、添加剤を添加し、カソードロッカー、スターラー攪拌、空気攪拌によりめっき浴を攪拌しながら補強めっきしたサンプルの表面SEM像である。いずれも添加剤はPEG6000、通電量は30Cである。
図10は、図9に示した各サンプルについて高倍率の表面SEM像である。
図10で、添加・無攪拌、添加・カソードロッカー、添加・スターラーのサンプルについて、銅三次元ナノ構造体を表面側からみると、これらのサンプルでは銅三次元ナノ構造体の空間部分(隙間部分)に銅粒子が入り込んでいる状態が見える。これに対して、添加・空気攪拌のサンプルでは、銅三次元ナノ構造体の表面側からは補強めっきにより析出した銅粒子がまったく見られない。この実験結果は、添加剤を添加し、空気攪拌を用いながらめっきする方法は、攪拌方法を利用する方法の中でも、銅三次元ナノ構造体の表面側に銅粒子を析出させずにめっきする方法として有効であることを示す。

【0040】
図11は、図10のサンプルのうち、補強めっきを施す前(3D Cu)、添加・無攪拌、添加・空気攪拌による3種のサンプルについて、表面SEM像(上段)と断面SEM像(下段)を示す。図11から、添加剤を添加して空気攪拌を利用しながらめっきを施した場合には、銅三次元ナノ構造体の表面側に銅が析出することが抑制され、銅三次元ナノ構造体の基部側に選択的に銅が析出されることがわかる。

【0041】
銅の析出を抑制する抑制剤の作用は、攪拌によって抑制効果が高くなることが知られている。上記実験結果は、銅三次元ナノ構造体に補強めっきを施す際に、めっき浴を攪拌する方法が銅三次元ナノ構造体の表面側に銅が析出することを抑制する方法として有効であり、攪拌方法のうちとくに空気攪拌方法を併用することが有効であることを示す。
空気攪拌方法を利用すれば、補強めっきの際に銅三次元ナノ構造体の表面側に銅が析出することを効果的に抑制し、銅三次元ナノ構造体の基部側に銅を選択的に析出させることができるから、銅三次元ナノ構造体と基材との連結部分及びその近傍の強度を向上させることにより、銅三次元ナノ構造体を効果的に補強することができる。

【0042】
以上説明したように、銅三次元ナノ構造体の内部側(基部)に選択的に銅を析出させる補強めっきを施すことにより、銅三次元ナノ構造体の全体の厚さを厚くした場合(銅の薄板の長さが長くなる)であっても、銅の薄板の基部側が補強されていることから、薄板が倒れてしまったり、基板から薄板が剥離したりすることを防止することが可能になる。この方法によれば、銅三次元ナノ構造体の機械的強度を維持しながら、銅三次元ナノ構造体の全体厚を厚くすることができる。
銅三次元ナノ構造体の特徴的な構造を維持しながら、銅三次元ナノ構造体の全体厚を厚くすることができれば、より大きな表面積を備える銅三次元ナノ構造体として提供することができ、SnやSiといったリチウムイオンの吸排作用にともなって体積が膨張・収縮する活物質を内部に保持することができ、より大きな電気容量を備えるリチウムイオン電池の負極材料として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 基板
12 薄板
14 銅

図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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