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明細書 :AMPA型グルタミン酸受容体サブユニットを認識するモノクローナル抗体及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6434736号 (P6434736)
公開番号 特開2016-030733 (P2016-030733A)
登録日 平成30年11月16日(2018.11.16)
発行日 平成30年12月5日(2018.12.5)
公開日 平成28年3月7日(2016.3.7)
発明の名称または考案の名称 AMPA型グルタミン酸受容体サブユニットを認識するモノクローナル抗体及びその利用
国際特許分類 C07K  16/28        (2006.01)
C12N  15/06        (2006.01)
C12N   5/20        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/577       (2006.01)
C12P  21/08        (2006.01)
FI C07K 16/28 ZNA
C12N 15/06 100
C12N 5/20
A61K 39/395 N
A61P 43/00 111
G01N 33/53 D
G01N 33/577 B
C12P 21/08
請求項の数または発明の数 10
微生物の受託番号 NPMD NITE P-01879
全頁数 14
出願番号 特願2014-153743 (P2014-153743)
出願日 平成26年7月29日(2014.7.29)
審査請求日 平成29年3月24日(2017.3.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
発明者または考案者 【氏名】竹本 研
【氏名】浜窪 隆雄
【氏名】岩成 宏子
【氏名】高橋 琢哉
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】西 賢二
参考文献・文献 CARROLL, Reed C. et al.,"Dynamin-dependent endocytosis of ionotropic glutamate receptors",Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A.,1999年,Vol. 96,pp. 14112-14117
竹本研 ほか,"in vivo脳情報解読を目指した光操作によるAMPA受容体機能破壊技術の開発",Neuro2013オンライン演題検索システム[オンライン],2013年,P2-2-240,[検索日:2017年1月17日],URL,http://www.jnss.org/abstract/neuro2013/sessiondetail.php?id=11076&u=1516148908
竹居光太郎,光照射分子不活性化法(CALI/FALI法),日薬理誌,2012年,Vol. 140,pp. 226-230
調査した分野 C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq



特許請求の範囲 【請求項1】
GluA1の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体であって、光照射分子不活性化(CALI)により光照射特異的にAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊でき、
GluA1の細胞外ドメインが、GluA1の236-286アミノ酸領域(配列番号2)であり、
照射分子不活性化(CALI)により、光照射特異的に、GluA1/GluA1であるAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊できるが、GluA1/GluA2およびGluA2/GluA3の機能は抑制又は破壊せず、
光照射分子不活性化(CALI)によりNMDA受容体の機能は抑制又は破壊せず、
GluA1の活性を中和しない、
モノクローナル抗体又は前記機能を有するその断片。
【請求項2】
前記モノクローナル抗体が、受領番号NITE AP-01879(受託番号NITE P-01879)を有するハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体である、請求項1に記載のモノクローナル抗体又はその断片。
【請求項3】
光増感物質で標識されている、請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体又はその断片。
【請求項4】
受領番号NITE AP-01879(受託番号NITE P-01879)を有するハイブリドーマ。
【請求項5】
請求項1からの何れかに記載のモノクローナル抗体又はその断片を含む、AMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊するための試薬。
【請求項6】
光増感物質で標識されている請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体又はその断片を、AMPA型グルタミン酸受容体を発現している細胞にインビトロで接触し、光照射する工程を含む、AMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊する方法。
【請求項7】
光増感物質で標識されている請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体又はその断片を非ヒト哺乳動物に投与し、光照射する工程を含む、前記非ヒト哺乳動物におけるAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊する方法。
【請求項8】
AMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊することにより、前記非ヒト哺乳動物における記憶が消去される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
光増感物質で標識されている請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体又はその断片を非ヒト哺乳動物に投与し、光照射する工程を含む、前記非ヒト哺乳動物における記憶を消去する方法。
【請求項10】
光増感物質で標識されている請求項1又は2に記載のモノクローナル抗体又はその断片を非ヒト哺乳動物に投与し、光照射する工程を含む、前記非ヒト哺乳動物におけるAMPA型グルタミン酸受容体の機能を解析する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、AMPA型グルタミン酸受容体のサブユニットであるGluA1を特異的に認識するモノクローナル抗体に関する。より詳細には、本発明は、光照射分子不活性化(chromophore assisted light inactivation; CALI)法により光に特異的にAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊できるモノクローナル抗体に関する。本発明は上記モノクローナル抗体を用いてAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
AMPA型グルタミン酸受容体のひとつGluA1は、シナプス可塑性という脳の高次機能に重要な現象を担う分子である。これまでの脳スライスを用いた電気生理学的解析により、ひげ経験依存的にGluA1がシナプスに移行することが報告されている(Takahashi T, Svoboda K, Malinow R. Science. 2003 Mar 7;299(5612):1585-8)。また文脈的恐怖条件付け学習時にGluA1がシナプスに移行することが報告されている(Mitsushima D, Ishihara K, Sano A, Kessels HW, Takahashi T. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Jul 26;108(30):12503-8)。上記の通り、GluA1は学習記憶学習の成立に重要な分子であることが知られている。即ち、AMPA受容体の中でも、活動依存的にシナプスに移行するGluA1は、活性化した神経細胞や動物の記憶学習を特異的に操作する標的として有望であると考えられる。
【0003】
他方、AMPA受容体の光不活性化を可能にした化合物6-アジド-7-ニトロ-1,4-ジヒドロキノキサリン-2,3-ジオン(ANQX)(Chambers JJ. et al., J.AM.CHEM.SOC. 2004, 126, 13886-13887)が報告されている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Takahashi T, Svoboda K, Malinow R. Science. 2003 Mar 7;299(5612):1585-8
【非特許文献2】Mitsushima D, Ishihara K, Sano A, Kessels HW, Takahashi T. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Jul 26;108(30):12503-8
【非特許文献3】Chambers JJ. et al., J.AM.CHEM.SOC. 2004, 126, 13886-13887
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
GluA1受容体を光で特異的に機能破壊できる技術が開発できれば、特定の高次機能を持つシナプスのマッピングが可能な画期的技術となる。
上記のANQXはin vitroで動作することは報告されたが、in vivoで機能することは報告されていない。またGluA1受容体に対する特異性はなく、他のAMPA受容体にも結合すると考えられる。GluA1を含まないAMPA受容体は恒常的にシナプス移行していることが知られており、ANQXは学習記憶に依存しない受容体機能も破壊する可能性が高く、記憶の特異的消去や記憶情報の解析には不向きであった。
【0006】
本発明は、シナプス可塑性という脳の高次機能に重要な現象を担うAMPA型グルタミン酸受容体の一つであるGluA1をCALI(chromophore assisted light inactivation)法を用いて光で特異的に機能破壊できる抗GluA1抗体を提供し、記憶の消去を誘導する新技術を開発することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、GluA1の細胞外ドメインを認識するモノクローナル抗体を作製することによって、GluA1特異的な機能破壊およびインビボにおける記憶消去を実現できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) GluA1の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体であって、光照射分子不活性化(CALI)により光照射特異的にAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊できるモノクローナル抗体又は前記機能を有するその断片。
(2) GluA1の細胞外ドメインが、GluA1の236-286アミノ酸領域(配列番号2)である、(1)に記載のモノクローナル抗体又はその断片。
(3) 照射分子不活性化(CALI)により、光照射特異的に、GluA1/GluA1であるAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊できるが、GluA1/GluA2およびGluA2/GluA3の機能は抑制又は破壊しない、(1)又は(2)に記載のモノクローナル抗体又はその断片。
(4) 光照射分子不活性化(CALI)によりNMDA受容体の機能は抑制又は破壊しない、(1)から(3)の何れかに記載のモノクローナル抗体又はその断片。
(5) GluA1の活性を中和しない、(1)から(4)の何れかに記載のモノクローナル抗体又はその断片。
(6) 前記モノクローナル抗体が、受領番号NITE AP-01879(受託番号NITE P-01879)を有するハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体である、(1)から(5)の何れかに記載のモノクローナル抗体又はその断片。
(7) 光増感物質で標識されている、(1)から(6)の何れかに記載のモノクローナル抗体又はその断片。
(8) 受領番号NITE AP-01879(受託番号NITE P-01879)を有するハイブリドーマ。
(9) (1)から(7)の何れかに記載のモノクローナル抗体又はその断片を含む、AMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊するための試薬。
(10) 光増感物質で標識されている(1)から(6)の何れかに記載のモノクローナル抗体又はその断片を、AMPA型グルタミン酸受容体を発現している細胞にインビトロで接触し、光照射する工程を含む、AMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊する方法。
(11) 光増感物質で標識されている(1)から(6)の何れかに記載のモノクローナル抗体又はその断片を非ヒト哺乳動物に投与し、光照射する工程を含む、前記非ヒト哺乳動物におけるAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊する方法。
(12) AMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊することにより、前記非ヒト哺乳動物における記憶が消去される、(11)に記載の方法。
(13) 光増感物質で標識されている(1)から(6)の何れかに記載のモノクローナル抗体又はその断片を非ヒト哺乳動物に投与し、光照射する工程を含む、前記非ヒト哺乳動物における記憶を消去する方法。
(14) 光増感物質で標識されている(1)から(6)の何れかに記載のモノクローナル抗体又はその断片を非ヒト哺乳動物に投与し、光照射する工程を含む、前記非ヒト哺乳動物におけるAMPA型グルタミン酸受容体の機能を解析する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のモノクローナル抗体を用いて内在性GluA1を機能破壊することにより、記憶の消去が可能になる。本発明によれば、記憶の獲得維持におけるGluA1ホモマー分子の重要性が見出された。本発明のモノクローナル抗体は、記憶を担う脳領域やシナプスの特定、GluA1が関与する痛みのコントロール、並びにトラウマ的記憶の短時間治療法の開発などにおいて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、各抗体について光照射前後におけるAMPA電流の比較を示す。
【図2】図2は、Z9139抗体について、GluA1/ GluA1、GluA1/GluA2又はGluA2/GluA3についての光照射前後におけるAMPA電流の比較を示す。
【図3】図3は、海馬初代培養ニューロンのシナプスにおけるZ9139抗体について光照射前後におけるAMPA電流およびNMDA電流を示す。
【図4】図4は、Z9139抗体について光照射前後におけるAMPA電流の比較、並びにZ9139抗体の中和活性を示す。
【図5】図5は、Z9139抗体を用いたin vivo CALIの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
(1)本発明のモノクローナル抗体
本発明においては先ず、ラットGluA1(配列番号1)の細胞外ドメインである236-286アミノ酸領域(配列番号2)に対するモノクローナル抗体を取得した。ウエスタンブロットで特異性が確認できた抗体のうち5種類に関して抗体をエオシンで標識し、CHO細胞に発現したGluA1をCALIできるかスクリーニングした。その結果、GluA1をCALI により機能破壊できる抗体として、Z9139抗体が同定された。さらにこのZ9139抗体を添加しても中和活性は示さないことも確認した。また、培養した海馬ニューロンのシナプスにおいてCALIの特異性を調べたところ、NMDA受容体を壊さずAMPA受容体を特異的に機能破壊できることが分かった。最後にin vitroで機能が明らかになったZ9139抗体について、in vivo CALIによる海馬依存的記憶の消去を試みたところ、光照射依存的に記憶の消去ができることがわかった。本発明によるin vivo CALIによる記憶消去技術は、学習記憶と神経活動間における因果関係の詳細なマッピングが初めて可能にするものである。

【0012】
本発明は、GluA1の細胞外ドメインに対するモノクローナル抗体であって、光照射分子不活性化(CALI)により光照射特異的にAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊できるモノクローナル抗体又は前記機能を有するその断片に関する。

【0013】
本発明の実施例においては、抗体の取得方法として、定法である一般的な免疫方法を使用せず、発芽型バキュロウイルスにGluA1の細胞外ドメインである236-286アミノ酸領域(配列番号2)を提示させた抗原(BV抗原)をマウスに免疫する方法を採用した。即ち、本発明のモノクローナル抗体の取得方法の好ましい例としては、GluA1の細胞外ドメインである236-286アミノ酸領域のcDNAを含む組み換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養上清から回収されるGluA1の細胞外ドメインである236-286アミノ酸領域を提示する発芽バキュロウイルスを抗原として用いて免疫動物を免疫することにより得る方法を挙げることができる。免疫動物は、BALB/cマウスでもよいし、gp64を過剰発現するトランスジェニックマウスでもよい。

【0014】
抗原として用いる発芽バキュロウイルスの調製方法は公知であり、例えば、特開2001-333773号公報、特開2003-52370号公報、Loisel TP, Ansanay H, St-Onge S, Gay B, Boulanger P, Strosberg AD,Marullo S, Bouvier M., Nat Biotechnol. 1997 Nov;15(12):1300-4., Recovery of homogeneous and functional beta 2-adrenergic receptors from extracellular baculovirus particles:並びに国際公開WO98/46777などに記載の方法に準じて行うことができる。

【0015】
具体的には、GluA1の細胞外ドメインである236-286アミノ酸領域のcDNAを含む少なくとも1種の組換えバキュロウィルスを使用する。昆虫に感染して病気を起こすウイルスであるバキュロウイルスは、環状の二本鎖DNAを遺伝子としてもつエンベロープウイルスで、鱗翅目、膜翅目および双翅目などの昆虫に感受性を示す。本発明で用いられるバキュロウイルスとしては、NPVのキンウワバ亜科のオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)NPV(AcNPV)やカイコのボンビックス・モリ(Bombyx mori )NPV(BmNPV)などのウイルスがベクターとして用いることができる。AcNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda )細胞(Sf細胞)などが挙げられ、BmNPVの宿主(感染、継代細胞)としてはBmN4細胞などが挙げられる。Sf細胞は、BmN4細胞などに比べ増殖速度が速いこと、また、AcNPVはヒト肝細胞およびヒト胎児腎細胞などにも感染する能力を有することから、AcNPV系のベクターが好ましい。宿主としては、Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などがS.frugiperda幼虫の卵巣組織から確立しており、Invitrogen社あるいはPharmingen社(San Diego,CA)、又はATCCなどから入手可能である。さらに、生きている昆虫幼虫を宿主細胞系として使用することもできる。

【0016】
本発明で用いる組換えウイルスを構築する方法は、常法に従って行えばよく、例えば次の手順で行うことができる。先ず、発現させたい蛋白質の遺伝子をトランスファーベクターに挿入して組換えトランスファーベクターを構築する。トランスファーベクターの全体の大きさは一般的には数kb~10kb程度であり、そのうちの約3kbはプラスミド由来の骨格であり、アンピシリン等の抗生物質耐性遺伝子と細菌のDNA複製開始のシグナルを含んでいる。通常のトランスファーベクターではこの骨格以外に、多角体遺伝子の5'領域と3'領域をそれぞれ数kbずつ含み、以下に述べるようなトランスフェクションを行った際に、この配列間で目的遺伝子と多角体遺伝子との間で相同組換えが引き起こる。また、トランスファーベクターには蛋白質遺伝子を発現させるためのプラモーターを含むことが好ましい。プロモーターとしては、多角体遺伝子のプロモーター、p10遺伝子のプロモーター、キャプシド遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。トランスファーベクターの種類は特に限定されない。トランスファーベクターの具体例としては、AcNPV系トランスファーベクター、又はBmNPV系トランスファーベクターなどを使用することができる。

【0017】
次に、組換えウイルスを作製するために、上記の組換えトランスファーベクターをウイルスと混合した後、宿主として用いる培養細胞に移入するか、あるいは予めウイルスで感染させた宿主として用いる培養細胞に上記のトランスファーベクターを移入し、組換えトランスファーベクターとウイルスゲノムDNAとの間に相同組み換えを起こさせ、組み換えウイルスを構築する。ここで宿主として用いる培養細胞とは、上記した宿主が挙げられ、通常、昆虫培養細胞(Sf9細胞やBmN細胞など)である。培養条件は、当業者により適宜決定されるが、具体的にはSf9細胞を用いた場合は10%ウシ胎児血清を含む培地で、28℃前後で培養することが好ましい。このようにして構築された組み換えウイルスは、常法、例えばプラークアッセイなどによって精製することができる。なお、このようにして作製された組換えウイルスは、核多角体病ウイルスの多角体蛋白質の遺伝子領域に外来のDNAが置換または挿入されており多角体を形成することができないため、非組換えウイルスと容易に区別することが可能である。

【0018】
本発明の方法では、前記の組換えバキュロウイルスを、上記した適当な宿主(Spodoptera Frugiperda細胞系統Sf9およびSf21などの培養細胞、又は昆虫幼虫など)に感染させ、一定時間後(例えば、72時間後等)に培養上清から細胞外発芽ウイルス(budded virus, BV)を遠心などの分離操作によって回収することができる。細胞外発芽バキュロウイルスの回収は、例えば、以下のように行うことができる。先ず感染細胞の培養液を500~3,000gで遠心分離して、細胞外発芽バキュロウイルスを含む上清を回収する。この上清を約30,000~50,000gで遠心分離して細胞外発芽バキュロウイルスを含む沈殿物を得ることができる。

【0019】
本発明の抗体の種類は特に限定されず、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体、ラクダ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体等を適宜用いることができる。抗体はモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は当業者に周知の方法により作製することができる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。免疫される動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、サル、などの哺乳動物を用いることができる。

【0020】
ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じて行うことができる。

【0021】
ハイブリドーマのスクリーニングは、ELISAアッセイ、ウエスタンブロット分析、ラジオイムノアッセイ、GluA1を発現している細胞を用いたFACS等の当該技術分野においてよく知られる方法を用いて、GluA1の細胞外ドメインである236-286アミノ酸領域を認識する抗体 を産生するハイブリドーマ細胞を選択することができる。所望の抗体 を分泌するハイブリドーマをクローニングし、適切な条件下で培養し、分泌された抗体を回収し、当該技術分野においてよく知られる方法、例えばイオン交換カラム、アフィニティークロマトグラフィー等を用いて精製することができる。

【0022】
モノクローナル抗体 をコードするDNAは、慣用な方法(例えば、モノクローナル抗体 の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)により容易に単離、配列決定できる。

【0023】
抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた遺伝子組換え型抗体を用いることができる。具体的には、ハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素を用いて抗体の可変領域(V領域)のcDNAを合成する。目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。

【0024】
上記のように、抗体遺伝子を一旦単離し、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真菌細胞を用いることができる。動物細胞としては、(1) 哺乳類細胞、例えば、CHO, COS,ミエローマ、BHK (baby hamster kidney),HeLa,Vero,(2) 両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3) 昆虫細胞、例えば、sf9, sf21, Tn5などが知られている。植物細胞としては、ニコティアナ(Nicotiana)属、例えばニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)、糸状菌、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などが知られている。原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、枯草菌が知られている。これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。

【0025】
また、これらの抗体は、GluA1の細胞外ドメインである236-286アミノ酸領域を認識する特性を失わない限り、抗体断片(フラグメント)等の低分子化抗体 や抗体の修飾物などであってもよい。抗体断片の具体例としては、例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、Diabodyなどを挙げることができる。このような抗体断片を得るには、これら抗体 断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させればよい。抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体 を使用することもできる。

【0026】
前記のように発現、産生された抗体は、通常のタンパク質の精製で使用されている公知の方法により精製することができる。例えば、プロテインAカラムなどのアフィニティーカラム、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせることにより、抗体を分離、精製することができる。

【0027】
本発明のモノクローナル抗体は、光照射分子不活性化(chromophore-assisted light inactivation ;CALI)により光照射特異的にAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊できることを特徴とする。

【0028】
光照射分子不活性化(CALI)とは、標的分子の機能部位に産生された活性酸素による酸化によって時空間的に不活性化し、そのタンパク質の機能解析を行う方法である。光照射分子不活性化(CALI)は、光増感物質を使用して、標的分子の機能を抑制することによって、標的分子の機能を解析する方法である。光増感物質としては、例えば、マラカイトグリーン、ローダミン誘導体、フルオレセイン誘導体、ルテニウム 、エオシンなどを使用することができる。さらに、光増感物質としては、光増感性蛍光タンパク質(CALI色素)を使用することもでき、KillerRedなどが報告されている(国際公開第2006/117694号公報)。

【0029】
本発明のモノクローナル抗体又はその断片は、上記した光増感物質で標識した形で光照射分子不活性化(CALI)において使用することができる。本発明のモノクローナル抗体又はその断片と光増感物質との結合は特に限定されないが、化学結合が好ましく、特に共有結合が好ましい。上記した光増感物質で標識されている本発明のモノクローナル抗体又はその断片も本発明の範囲内である。
本発明のモノクローナル抗体又はその断片は、光照射分子不活性化(CALI)においてAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊するための試薬として使用することができる。

【0030】
本発明のモノクローナル抗体又はその断片は、好ましくは、光照射分子不活性化(CALI)により、光照射特異的に、GluA1/GluA1であるAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊できるが、GluA1/GluA2およびGluA2/GluA3の機能は抑制又は破壊しない。即ち、本発明のモノクローナル抗体又はその断片は、GluA1/GluA1に対して特異的に作用し、GluA1/GluA2およびGluA2/GluA3には作用しないことが好ましい。

【0031】
本発明のモノクローナル抗体又はその断片は、好ましくは、光照射分子不活性化(CALI)によりNMDA受容体の機能は抑制又は破壊しない。即ち、本発明のモノクローナル抗体又はその断片は、AMPA型グルタミン酸受容体に特異的に作用し、NMDA受容体には作用しないことが好ましい。
さらに本発明のモノクローナル抗体又はその断片は、GluA1の活性を中和しないものが好ましい。

【0032】
本発明のモノクローナル抗体の一例としては、受領番号NITE AP-01879(受託番号NITE P-01879)を有するハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体を挙げることができる。受領番号NITE AP-01879(受託番号NITE P-01879)を有するハイブリドーマも本発明の範囲内である。

【0033】
(2)AMPA型グルタミン酸受容体の機能破壊方法および機能解析方法
本発明によれば、光増感物質で標識されている本発明のモノクローナル抗体又はその断片を、AMPA型グルタミン酸受容体を発現している細胞にインビトロで接触し、光照射することによって、AMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊することができる。同様に、光増感物質で標識されている本発明のモノクローナル抗体又はその断片を非ヒト哺乳動物に投与し、光照射することによって、前記非ヒト哺乳動物におけるAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊することができる。上記のように、AMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊することにより、前記非ヒト哺乳動物における記憶を消去することができる。即ち、非ヒト哺乳動物における記憶を消去する方法も本発明の範囲内である。

【0034】
同様に、光増感物質で標識されている本発明のモノクローナル抗体又はその断片を非ヒト哺乳動物に投与し、光照射することによって、前記非ヒト哺乳動物におけるAMPA型グルタミン酸受容体の機能を解析することができる。

【0035】
光増感物質としては、上記の通り、光の照射によって、活性酸素(例えば、一重項酸素)を産生するものを使用することができる。光増感物質で標識されている本発明のモノクローナル抗体又はその断片を細胞に接触させ、適当な励起波長の光を照射することによって、一重項酸素を発生させ、これによりAMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊することができる。また、AMPA型グルタミン酸受容体の機能を抑制又は破壊することを通じて、AMPA型グルタミン酸受容体の機能を解析することができる。

【0036】
照射光の励起波長は、使用する光増感物質から活性酸素を産生させることのできる波長である。エオシンの場合には、励起波長は、515nm近傍が好ましく、抗原として水銀ランプを使用する場合には515近傍の強度が弱いので、525nm~546nm程度の波長を使用することができる。

【0037】
光増感物質が産生する活性酸素は、一重項酸素である。発生した一重項酸素は、約10~50Åの半径内の標的分子(AMPA型グルタミン酸受容体)あるいはその機能性部位を選択的に不活化することができる。このようにして、AMPA型グルタミン酸受容体を不活性化することによって、AMPA型グルタミン酸受容体の生理的機能を解析することができる。

【0038】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
実施例1:gp64融合部分長GluA1発現BV(GluA1 BV: GluA1発芽型バキュロウイルス)の調製
GluA1のN末端領域(236-286アミノ酸残基)のcDNA GFP-GluA1/pHSV プラスミドをテンプレートとし、プライマーとして下記の2種類のオリゴDNAを用いてPCR法により増幅し、gp64遺伝子と連結させた。
5'- CCTGCAGATGGACATTGACTTAAAT -3(配列番号3)
5'-CCCCGGGGTGGCCTCTTCCAGTCCAC-3'(配列番号4)
GluA1遺伝子が導入された組換え発芽型バキュロウイルスの調製は、既報(1,2)の記述に従った。簡潔に述べると、組換えウイルスをSf9細胞に感染させ、72時間後に培養上清画分を40,000×g、40分遠心して、沈澱画分に発芽型ウイルス(GluA1 BV)を回収し、免疫原として使用した。
【実施例】
【0040】
実施例2:抗GluA1マウスモノクローナル抗体の作製
GluA1BV 60 μgにアジュバントとして0.1 μgの百日咳毒素(フナコシ社製)を混合し、BALB/cマウス(日本クレア社製)の腹腔内に投与、免疫した。追加免疫はアジュバントを含まない60 μgの GluA1BVを2週間間隔で2回投与した。最終免疫から3日後に脾細胞を採取し、ポリエチレングリコール(ロッシュ社製)を用いた標準的な方法(3)に従いマウスミエローマ細胞NS-1(大日本ファーマ社製)と細胞融合した。融合細胞はHAT選択培地(0.1 mM hypoxanthine, 0.1 mM aminopterine, and 0.16 mM thymidine)で7日間培養した。細胞融合から8日後、ハイブリドーマの培養上清を回収し、GluA1BVに対するELISAとウェスタンブロッティングにより抗体産生陽性のウェルを選別した。 抗原発現BVを用いたELISAおよびウエスタンブロットは(1,2)の記述に従った。陽性ウェルの細胞について限界希釈法でクローニングを行い、抗GluA1モノクローナル抗体産生ハイブリドーマクローンとして樹立した。ハイブリドーマ細胞をBALB/cマウス(日本クレア社製)に接種し腹水を調製し、50%硫酸アンモニウム塩析精製を2回行ない、150mM NaClに透析して抗体蛋白質を調製した。
【実施例】
【0041】
実施例3:BV ELISA
ポリスチレン製ELISAプレート(Greiner社製)に、GluA1 BVをウイルス総蛋白量として0.5μg/ウェル固相化した。40%ブロックエース(大日本ファーマ社製)/TBSでブロッキング後、0.05% Tween 20を添加した150mM NaCl(以下洗浄液)で洗浄した。ここに1次抗体としてハイブリドーマ培養上清および精製抗体を1次抗体希釈液で希釈調製して添加し、室温で1時間振とう反応させた。洗浄液で洗浄後、2次抗体としてHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)を添加して、室温で1時間振とう反応を行なった。洗浄液で洗浄後2次抗体としてHRP-標識ヤギ抗マウスIgG抗体の30,000倍希釈液を室温で1時間浸とう反応させた。洗浄液で洗浄後、TMB Soluble Reagent (ScyTek Laboratories社製)を添加して暗所で室温30分間呈色反応を行い、TMB Stop buffer(ScyTek Laboratories社製)を添加して反応停止後、マイクロプレートリーダー(Biotrak II, GEヘルスケア社製)により450nmの吸光度(以下A450)を測定した。陰性コントロール用として、Wild BV(GluA1の発現なし)を0.5μg/ウェル固相化したプレートを用いて、同様のアッセイを行なった。GluA1 BV固相とWild BV固相の両系の感度をモニターするために、gp64蛋白質特異的抗体K7124(自家調製, 参考文献1)1μg/mLを1次抗体として使用した。陰性コントロールIgG (クローン3423)は特殊免疫研究所(Tokyo, Japan)より購入した。
【実施例】
【0042】
実施例4:ウエスタンブロット
BVを総蛋白量で200μg/mLとなるようにPBSで調製し、3%SDSと3% 2MEを含むSDS-ポリアクリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)用サンプル緩衝液で2倍希釈し、10%分離ゲルに3μL/laneアプライしてSDS-PAGEにより分離した。その後、ニトロセルロース膜(GEヘルスケア社製)へ転写し、転写膜への非特異結合をブロックエース(大日本ファーマ社製)でブロッキングし一次抗体およびハイブリドーマの培養上清を反応させた。TBS-T (0.05% Tween20/10 mM トリス緩衝液生理食塩水) で洗浄後、転写膜を1万倍希釈したhorseradish peroxidase (HRP)-conjugatedヤギ抗マウス抗体 (Jackson ImmunoResearch Laboratories社製) で反応させ、SuperSignal West Dura Extended Duration Substrate (Thermo社製) を用いて検出した。gp64融合タンパク質の検出には、野生型バキュロウイルスを免疫し我々が作製したgp64タンパク質特異的抗体K7124(1) を用いた。コントロールIgG (3423, 2AHB12) は特殊免疫研究所(Tokyo, Japan)より購入した。
【実施例】
【0043】
実施例5:モノクローナル抗体の取得とCALI可能な抗体のスクリーニング
取得した抗GluA1抗体のうち、ウエスタンブロットで特異性が認められた中から5種類の抗体のハイブリドーマ培養上精に関し、エオシンイソチオシアネート(Molecular Probe製)にてラベル化を行い、CALI活性があるかを解析した。GFP-GluA1を発現したCHO細胞に本ラベル化抗体を抗体濃度10ug/mlで2hr反応させ、HBSSにて3回洗浄後、HBSS溶液(含100uM シクロチアザイド)中においてホールセルパッチクランプ法にてAMPA電流の計測を行った。ここではAMPA電流を発生させるために、10mM グルタミン酸(含100uM シクロチアザイド)を細胞に反応させた。CALIは60倍対物レンズとフィルターセット(励起フィルター535/22-25(semrock製)、555DRLP(OMEGA製)、蛍光フィルター580DF30(OMEGA製))及び水銀ランプを光源に用い、7.5W/cm2の光強度で行った。その結果、エピトープ2のZ9139抗体において、光照射依存的にAMPA電流が減少することを見出した(図1)。さらにCHO細胞にGluA1, GluA2, GluA3/pEFBOSベクターをそれぞれGluA1のみ、GluA1/GluA2、GluA2/GluA3の組み合わせでトランスフェクトし、同様にパッチクランプ後にCALIで光照射前後のAMPA電流値を比較したところ、GluA1ホモマーでのみCALI効果が認められた。以上からZ9139抗体はGluA1ホモマー特異的に機能破壊することが分かった(図2)。
【実施例】
【0044】
モノクローナル抗体であるZ9139抗体を産生するハイブリドーマ細胞は、受領番号NITE AP-01879(受託番号NITE P-01879)として、2014年6月19日に、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特0許微生物寄託センター(郵便番号292-0818、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託されている。
【実施例】
【0045】
実施例6:海馬初代培養ニューロンのシナプスにおけるCALIの特異性
Z9139抗体をproteinAカラムで精製し、以下の実験に用いた。海馬初代培養ニューロンについて、シナプスに発現するGluA1のCALIを検討した。妊娠17日目SDラットの胎児から海馬を摘出し、1x106個/35mm dishの細胞密度で培養した海馬初代培養ニューロンについて、培養後15-16日目の海馬ニューロンにエオシンラベル化Z9139抗体を抗体濃度10ug/mlで2hr反応させ、ACSFにて3回洗浄後、ACSF中でホールセルパッチクランプ法にてシナプス性AMPA電流の計測を行った。ここではシナプス性AMPA電流を発生させるために、刺激電極を5-10個程度の細胞塊付近に設置した。また、そこから300-350um程度の距離にある細胞についてパッチクランプを行い、シナプス性のAMPA電流を検出した。CALIは60倍対物レンズとフィルターセット(励起フィルター535/22-25(semrock製)、555DRLP(OMEGA製)、蛍光フィルター580DF30(OMEGA製))及び水銀ランプを光源に用い、7.5W/cm2の光強度で行った。光照射領域は、60倍対物レンズを用いて電極とパッチクランプ細胞の間で行った。その結果、シナプスにおいてもAMPA電流をCALIで破壊することができた(図3)。さらにニューロン内で同様の発現パターンをもつNMDA受容体を機能破壊しないことから、GluA1のCALI法には分子特異性があることが示唆された。
【実施例】
【0046】
実施例7:抗体の中和活性
CHO細胞にGluA1/pEFaとEGFP-N3 ベクターをトランスフェクションし両者を共発現させた。翌日Z9139エオシンラベル抗体を抗体濃度10ug/mlで30min反応させ、HBSSで3回洗浄後、HBSS溶液(含100uM シクロチアザイド)中においてGFP陽性細胞をパッチクランプした。ここではAMPA電流を発生させるために、10mM グルタミン酸(含100uM シクロチアザイド)を細胞に反応させた。CALIは60倍対物レンズとフィルターセット(励起フィルター535/22-25(semrock製)、555DRLP(OMEGA製)、蛍光フィルター580DF30(OMEGA製))及び水銀ランプを光源に用い、7.5W/cm2の光強度で行った。その結果、CALIが可能であることが分かり、30minの抗体反応によっても、GluA1とZ9139抗体は抗原抗体反応を起こしていることが分かった(図4)。次に同様にGFP陽性細胞をパッチクランプし、抗体反応前後のAMPA電流を比較することで中和活性があるかを調べた。その結果、抗体反応前後においてもAMPA電流は変化しないことが分かり、よってZ9139抗体はGluA1の活性を中和しないことが分かった(図4)。
【実施例】
【0047】
実施例8:in vivo CALI
生後28-31日(体重20-25g)のICRマウスの頭蓋骨にドリルで穴を開け、35ゲージ針(WPI製)と10ulシリンジ(WPI製)と電動インジェクターを用い、海馬両側のCA1領域にエオシンラベルZ9139抗体を抗体濃度150ng/ulで0.18ulインジェクションした。その際の脳座標は後ろ2.3mm左右1.6mm深さは1.4mmである。なお深さ方向は一度1.5mmまで針を刺し、インジェクションは1.4mm地点で行った。さらに光照射用に光照射カヌラ(Doric製)を先端が海馬CA1の直上にくるような脳座標(後ろ2.3mm左右1.6mm深さは0.9mm)に設置し、セメント固定した。手術後6hrは飼育箱で静置し、文脈的恐怖条件付け学習(電気ショック条件は0.35mA, 2secである)を行った。学習後1hrにおいてマウスを麻酔後、光ファイバーを埋め込んだカヌラに接続し、543nmレーザー光を海馬CA1領域に光照射した。光照射は60mWを2minで行った。光照射の翌日20-24時間後に学習のチェックを行い、記憶消去の効果を調べたところ、光照射依存的にlatencyが半分程度に抑制できることが分かった(図5)。以上から本技術は、in vivoにおいて記憶情報を光照射で消去できる技術であることが分かった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4