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明細書 :疼痛遺伝子及びその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6782412号 (P6782412)
公開番号 特開2016-098215 (P2016-098215A)
登録日 令和2年10月22日(2020.10.22)
発行日 令和2年11月11日(2020.11.11)
公開日 平成28年5月30日(2016.5.30)
発明の名称または考案の名称 疼痛遺伝子及びその用途
国際特許分類 C12N  15/12        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12Q   1/68        (2018.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  29/02        (2006.01)
A61P  25/04        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/12 ZNA
C07K 14/47
C12P 21/02 A
A01K 67/027
C12Q 1/02
C12Q 1/68
A61K 45/00
A61P 43/00 105
A61P 29/02
A61P 25/04
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
C12N 5/10
請求項の数または発明の数 13
全頁数 21
出願番号 特願2014-238250 (P2014-238250)
出願日 平成26年11月25日(2014.11.25)
審査請求日 平成29年11月22日(2017.11.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
発明者または考案者 【氏名】小泉 昭夫
【氏名】小林 果
【氏名】原田 浩二
【氏名】人見 敏明
【氏名】土生 敏行
【氏名】高橋 勉
【氏名】野口 篤子
【氏名】近藤 大喜
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査官 【審査官】井関 めぐみ
参考文献・文献 中国特許出願公開第103224939(CN,A)
特表2013-508443(JP,A)
The American Journal of Human Genetics,2013年,Vol.93,p.957-966
Brain,2014年 4月27日,Vol.137,p.1627-1642
調査した分野 C12N 15/12
A01K 67/027
A61K 45/00
A61P 25/04
A61P 29/02
A61P 43/00
C07K 14/47
C12N 5/10
C12P 21/02
C12Q 1/02
C12Q 1/68
G01N 33/15
G01N 33/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDSUniProt/GeneSeq
(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~()のいずれかのタンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1~50個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列(但し、222位の置換を除く)を有し、かつ、疼痛誘発作用を有するタンパク
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の、他の哺乳動物におけるオルソログであって、該アミノ酸配列の222位に対応するアミノ酸残基がヒスチジン又はセリンであり、かつ疼痛誘発作用を有するタンパク質
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質をコードする核酸。
【請求項3】
請求項2に記載の核酸を含むベクター。
【請求項4】
請求項3に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項5】
宿主細胞が哺乳動物細胞であり、内因性のSCN11Aをコードする核酸が請求項2に記載の核酸で置換された、請求項4に記載の細胞。
【請求項6】
請求項4に記載の細胞を培養し、該培養物から請求項1に記載のタンパク質を回収することを含む、該タンパク質の製造方法。
【請求項7】
請求項2に記載の核酸を外因的に発現し、疼痛の表現型を示すトランスジェニック非ヒト哺乳動物又はその生体の一部。
【請求項8】
非ヒト哺乳動物の内因性SCN11Aをコードする核酸が請求項2に記載の核酸で置換された、請求項7に記載の動物又はその生体の一部。
【請求項9】
非ヒト哺乳動物がマウス又はラットである、請求項7又は8に記載の動物又はその生体の一部。
【請求項10】
請求項5に記載の細胞、あるいは請求項7-9のいずれか1項に記載の動物又はその生体の一部に被検物質を接触させ、疼痛の表現型を改善した被検物質を選択することを特徴とする、疼痛を抑制する物質をスクリーニングする方法。
【請求項11】
疼痛を抑制する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項5に記載の細胞あるいは請求項7-9のいずれか1項に記載の非ヒト哺乳動物又はその生体の一部に、被験物質を接触させる工程、
(b)被検物質を接触させた場合と、させない場合とのそれぞれにおいて、請求項1に記載のタンパク質又は請求項2に記載の核酸の発現レベルを測定する工程、及び
(c)(b)において、発現レベルを低下させた被検物質を、疼痛を抑制する物質として選択する工程
を含む、方法。
【請求項12】
被験者から採取した生体試料中の、請求項1に記載のタンパク質又は請求項2に記載の核酸の存在を検出することを特徴とする、該被験者における疼痛関連疾患の診断のための検査方法。
【請求項13】
SCN11A遺伝子に疼痛誘発性変異を有する哺乳動物における痛覚異常の治療剤であって、該遺伝子産物で構成されるイオンチャネルの遮断薬、又は該遺伝子のmRNAを標的とするsiRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスオリゴ核酸及びリボザイムからなる群から選択される該遺伝子の発現阻害薬を含有し、かつ前記疼痛誘発性変異を有するSCN11A遺伝子が、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の、他の哺乳動物におけるオルソログであって、該アミノ酸配列の222位に対応するアミノ酸残基がヒスチジン又はセリンであり、かつ疼痛誘発作用を有するタンパク質をコードする、剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、疼痛に関与する遺伝子、若年期周期性四肢疼痛の原因となる該遺伝子の変異、及びそれを利用した疼痛抑制物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
疼痛(以下、「痛み」という場合もある)は、急性疼痛と慢性疼痛とに大別される。急性疼痛は、更なる傷害から身体を保護する防御システムとして作用し、怪我や火傷等に伴い一過的に痛みを生じるが、痛み刺激の消失や治癒と共に消失する。これに対し、慢性疼痛は、長期間痛みが継続し、怪我等が回復しても痛みが継続する場合や、糖尿病、がんをはじめとして、変形性脊椎症、腰痛症等の筋骨格系及び結合組織の疾患、神経疾患、リウマチ性疾患、線維筋痛症等の原因不明の疾患等、様々な疾患に付随して生じる場合がある。
【0003】
疼痛罹患者は世界人口の10%にも及んでいる。痛みが長期間継続する慢性疼痛は、患者の生活の質を著しく低下させ、就労困難を招く等、社会的損失が大きいため、適切な痛みの対策が求められている。しかしながら、慢性疼痛に関わる根本的な発痛物質は同定されていない。非炎症性の四肢関節痛は高齢者に多くみられる慢性疼痛の一つであるが、そのメカニズムは未だ不明である。
一方、小児期において周期的に四肢及び/又は四肢関節痛を生じ、そのメカニズムが不明な家系が存在する。当該家系の患者は、乳幼児期から周期的な四肢/四肢関節痛が始まり、成人期に寛解し、時に片頭痛を残す以外は心臓の伝導障害やてんかんなどを伴わない。しかも、臨床検査では炎症所見を認めない等、長らく当該疼痛(以下、本明細書において「若年期周期性四肢疼痛」と略記する場合がある)の原因は不明であった。
【0004】
単一遺伝子による遺伝性の疼痛性障害の研究は、疼痛に対する分子的な理解を高めるとともに、新規な鎮痛薬の創薬ターゲットを提供してきた。
電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)は、興奮性細胞において活動電位を生じるのに不可欠である。ナトリウムチャネルのα-サブユニットをコードする10種の遺伝子が哺乳動物で同定されている。sodium channel voltage gated type XI alpha (SCN11A) は、テトロドトキシンに対して抵抗性のゲート特性を有する電位依存性ナトリウムチャネル(Nav1.9)であり、脊髄後根神経節や三叉神経節に存在する小径感覚ニューロン(small-diameter sensory neuron)に局在する傷害受容性受容器をコードしている。この遺伝子のノックアウトマウスは無痛覚の表現型を示し、また、種々の炎症性メディエーターが痛覚過敏を緩和することから(非特許文献1)、Nav1.9は末梢性の炎症性痛覚過敏の主要なエフェクターであると考えられる。
SCN11Aのパラログ遺伝子としてSCN9A及びSCN10Aが知られている。SCN9Aは、テトロドトキシン感受性のゲート特性を有するNav1.7をコードし、遺伝性肢端紅痛症(Inherited Erythromelalgia)、発作性激痛症(Paroxysmal extreme pain)、先天性無痛症(Congenital Insensitivity to Pain)等の原因遺伝子である。一方、SCN10AはSCN11Aと同じくテトロドトキシンに対して抵抗性のゲート特性を有し、機能的に類似すると推定されているNav1.8をコードしている。SCN10Aは、小径線維ニューロパチー(Small fiber neuropathy)やブルガダ症候群(Brugada syndrome)の原因遺伝子であることが知られている。しかし、SCN11Aについては、変異によって引き起こされるヒトでの症状が知られておらず、機能の解明が遅れていた。
【0005】
上述のように、SCN9A及びSCN10Aは、それぞれの遺伝子が関与する痛み及び臓器局在性が解明されており、それぞれの遺伝子産物に特異的な阻害薬の開発が行われてきた。しかし、SCN9A及びSCN10Aは神経以外にも存在するため、自律神経系や心臓の刺激伝導系への影響が合併症として認められる。そのため、後根神経節及び三叉神経節に限局するSCN11Aの阻害薬が頭痛薬等として有望視され、その遺伝子産物(Nav1.9)を含む広範なナトリウムチャネルの阻害薬が、これまでにも報告されてはいる(例えば、特許文献1参照)。
しかし、SCN11Aの変異がどのような性質の痛みを引き起こすのかヒトでの症例がなかったため、治療による効果が予想できず、SCN11Aの特異的阻害薬は開発されてこなかった。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2013-100374号公報
【0007】

【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci USA Vol.102 No.26 Page.9382-9387 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、疼痛に関連する新規な原因遺伝子を同定し、該遺伝子又はその産物を利用して、新規機序に基づく疼痛抑制物質(鎮痛薬)をスクリーニングする手段を提供することである。
また、本発明の別の目的は、SCN11Aと疼痛との関係を明らかにし、以て、疼痛に対する新規かつ有用な創薬ターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、原因不明の遺伝性の疼痛性障害として、若年期周期性四肢疼痛に着目し、4世代にわたり小児期において周期的に四肢関節痛と四肢痛を訴える患者家系3家系について、その原因遺伝子を究明すべく、連鎖解析及び全ゲノムエクソーム解析を行った。その結果、当該家系の中で、若年期周期性四肢疼痛の発症者のみに、SCN11A遺伝子の222番目のコドン(CGT)にミスセンス変異(CAT(c.665G>A)又はAGT(c.664C>A))が存在し、当該変異により、SCN11A翻訳産物の222番目のアルギニンがヒスチジン(p.R222H)又はセリン(p.R222S)に置換していることを見出した。これら患者の居住地域における一般集団での変異検索の結果、上記の変異は見いだされなかったことから、SCN11Aが疼痛の原因遺伝子であり、3家系における若年期周期性四肢疼痛の原因が、該遺伝子中のp.R222H又はp.R222S変異であると同定した。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は下記のとおりである:
[1]以下の(a)~(d)のいずれかのタンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列(但し、222位のアルギニンへの置換を除く)を有し、かつ、疼痛誘発作用を有するタンパク質
(c)配列番号1に示される塩基配列の相補鎖配列からなる核酸と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされ、かつ、疼痛誘発作用を有するタンパク質
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の、他の哺乳動物におけるオルソログであって、該アミノ酸配列の222位に対応するアミノ酸残基がアルギニン以外のアミノ酸であり、かつ疼痛誘発作用を有するタンパク質
[2][1]に記載のタンパク質をコードする核酸。
[3][2]に記載の核酸を含むベクター。
[4][3]に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
[5]宿主細胞が哺乳動物細胞であり、内因性のSCN11Aをコードする核酸が[2]に記載の核酸で置換された、[4]に記載の細胞。
[6][4]に記載の細胞を培養し、該培養物から[1]に記載のタンパク質を回収することを含む、該タンパク質の製造方法。
[7][2]に記載の核酸を外因的に発現し、疼痛の表現型を示すトランスジェニック非ヒト哺乳動物又はその生体の一部。
[8]非ヒト哺乳動物の内因性SCN11Aをコードする核酸が[2]に記載の核酸で置換された、[7]に記載の動物又はその生体の一部。
[9]非ヒト哺乳動物がマウス又はラットである、[7]又は[8]に記載の動物又はその生体の一部。
[10][5]に記載の細胞、あるいは[7]-[9]のいずれかに記載の動物又はその生体の一部に被検物質を接触させ、疼痛の表現型を改善した被検物質を選択することを特徴とする、疼痛を抑制する物質をスクリーニングする方法。
[11]疼痛を抑制する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)[5]に記載の細胞あるいは[7]-[9]のいずれかに記載の非ヒト哺乳動物又はその生体の一部に、被験物質を接触させる工程、
(b)被検物質を接触させた場合と、させない場合とのそれぞれにおいて、[1]に記載のタンパク質又は[2]に記載の核酸の発現レベルを測定する工程、及び
(c)(b)において、発現レベルを低下させた被検物質を、疼痛を抑制する物質として選択する工程
を含む、方法。
[12][1]に記載のタンパク質に特異的に結合する抗体又はその断片。
[13]被験者から採取した生体試料中の、[1]に記載のタンパク質又は[2]に記載の核酸の存在を検出することを特徴とする、該被験者における疼痛関連疾患の診断のための検査方法。
[14]SCN11A遺伝子に疼痛誘発性変異又は痛覚鈍麻誘発性変異を有する哺乳動物における痛覚異常の治療剤であって、該遺伝子産物で構成されるイオンチャネルの調節薬を含有してなる、剤。
[15]前記疼痛誘発性変異を有するSCN11A遺伝子が、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、又は
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の、他の哺乳動物におけるオルソログであって、該アミノ酸配列の222位に対応するアミノ酸残基がアルギニン以外のアミノ酸であり、かつ疼痛誘発作用を有するタンパク質
をコードする、[14]の記載の剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によりSCN11Aが疼痛に関連する遺伝子であり、そのp.R222H又はp.R222S変異は若年期周期性四肢疼痛を引き起こすことを明らかにした。SCN11Aは、パラログ遺伝子であるSCN9AやSCN10Aに比べて、その発現が後根神経節及び三叉神経節に限局しているので、SCN11Aの発現又はその遺伝子産物であるNav1.9の機能を選択的に阻害することにより、疼痛の抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明で解析を行った家系(家系1)の家系図(上)、並びにエクソーム解析結果(下)を示す。■及び●は疼痛発症者、□及び○は非発症者を示し、■及び□は男性、●及び○は女性を示す。矢印は発端者を示す。
【図2】図2は、本発明で解析を行った家系(家系2)の家系図を示す。四角印は男性、丸印は女性を示す。各印について、左半分塗りつぶしは四肢痛発症者、右半分塗りつぶしは頭痛発症者を示す。矢印は発端者を示す。丸で囲った個体から検体を採取し、解析した。
【図3】図3は、本発明で解析を行った家系(家系3)の家系図を示す。■及び●は疼痛発症者、□及び○は非発症者を示し、■及び□は男性、●及び○は女性を示す。斜線は、既に死亡しているため症状が不明であることを示す。Pは発端者を示す。数字+yは年齢を示す。丸で囲った個体から検体を採取し、解析した。
【図4】図4は、家系3の発端者とその両親におけるSCN11A遺伝子の222番目のコドンの塩基配列のシークエンシング結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明において「疼痛」又は「痛み」とは、国際疼痛学会(IASP, 1981年)で定義された「組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、そのような傷害を表す言葉を使って表現される、不快な感覚的又は情動的経験」の意味で用いられ、侵害受容性疼痛(体性痛、内臓痛)、神経因性疼痛、心因性疼痛のいずれをも包含する。また、急性疼痛、慢性疼痛のいずれをも含み得るが、主に慢性疼痛の場合をいう。
本発明において、「疼痛誘発作用を有する」とは、ヒト等の哺乳動物に、鈍痛、激痛等の痛みの程度や痛みの種類を問わず、痛みを引き起こす作用を有することをいう。例えば、VAS(visual analogue pain scale)で表現される痛みの程度を、1mm以上、好ましくは10mm以上、より好ましくは20mm以上、100mm(即ち、想像し得る最大の痛み)側に、統計学上有意に変化させる作用を有することをいい、より好ましくは、VASで表現される痛みの程度を、70mm以上、さらに好ましくは80mm以下に増大させることをいう。
一方、「疼痛を抑制する」とは、前記疼痛の程度、種類を問わず、痛みを軽減もしくは消失させることをいう。例えば、VASで表現される痛みの程度を、1mm以上、好ましくは10mm以上、より好ましくは20mm以上、0mm(即ち、全く痛みのない状態)側に、統計学上有意に変化させることをいい、より好ましくは、VASで表現される痛みの程度を、30mm以下、さらに好ましくは20mm以下に減少させることをいう。
本発明において、「疼痛誘発性変異」とは、当該変異により生じる変異タンパク質が、上記「疼痛誘発作用を有する」ような遺伝子変異を意味する。一方、「痛覚鈍麻誘発性変異」とは、当該変異により生じる変異タンパク質が、痛みの感覚を鈍らせるか失くす(無痛覚)を引き起こすような遺伝子変異を意味する。

【0014】
電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)は、興奮性細胞が活動電位を引き起こすために不可欠なイオンチャネルであり、膜電位の変化によりゲートが開閉してNaイオンを細胞内外の濃度差に応じて通過させ、それによって細胞膜の荷電状態を変化させるタンパク質である。Navは、その機能の大部分を担うαサブユニットといくつかのβサブユニットにより構成される。αサブユニットとして、現在までに10種類のサブタイプ(Nav1.1~1.9及びNax)がクローニングされている。そのうち、Nav1.8とNav1.9は、後根神経節(DRG)や三叉神経節等の末梢知覚神経節に存在し侵害刺激情報を伝播すると考えられる小型侵害受容ニューロンに特異的に発現していることから、疼痛発現に関与している可能性がある。実際に、Nav1.8と炎症性痛覚過敏や神経因性疼痛との関連を示唆する報告が数多くなされている。一方、Nav1.9と病的疼痛の発現との関連についての報告はきわめて少ない。

【0015】
sodium channel voltage gated type XI alpha (SCN11A) 遺伝子は、Nav1.9をコードする遺伝子であり、ヒトSCN11A遺伝子は、1791アミノ酸からなるタンパク質をコードしている。ヒトSCN11A cDNAの塩基配列及び翻訳産物のアミノ酸配列は、それぞれNCBI RefSeq番号NM_001287223及びNP_001274152として、National Center of Biotechnology Information(NCBI)データベースに登録されている。

【0016】
本発明は、疼痛誘発性変異を有する新規SCN11A遺伝子(以下、「本発明の変異SCN11A遺伝子」ともいう。)、並びにその翻訳産物である、疼痛誘発作用を有する変異Nav1.9タンパク質を提供する。本発明の変異Nav1.9タンパク質は、以下の(a)~(d)のいずれかである。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失及び/又は置換及び/又は挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列(但し、222位のアルギニンへの置換を除く)を有し、かつ、疼痛誘発作用を有するタンパク質
(c)配列番号1に示される塩基配列の相補鎖配列からなる核酸と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされ、かつ、疼痛誘発作用を有するタンパク質
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質の、他の哺乳動物におけるオルソログであって、該アミノ酸配列の222位に対応するアミノ酸残基がアルギニン以外のアミノ酸であり、かつ疼痛誘発作用を有するタンパク質
なお、本明細書において「及び/又は」は、いずれか一方、あるいは、両方を包含する意味で使用される。
ここで「配列番号2に示されるアミノ酸配列」は、既知のヒトNav1.9タンパク質のアミノ酸配列において、222位のアルギニンがヒスチジン(p.R222H)又はセリン(p.R222S)に置換したアミノ酸配列である。また、「配列番号1に示される塩基配列」は、既知のヒトSCN11A cDNA配列において、コード配列(CDS)の665番目のGがAに(p.R222H変異に対応)又は664番目のCがAに(p.R222Sに対応)置換した塩基配列である。即ち、本発明は、下記(i)~(vi)の特徴を有する家族性の若年期周期性四肢疼痛の原因遺伝子がSCN11A遺伝子であり、該疼痛を誘発する変異がp.R222H(c.665G>A)又はp.R222S(c.664C>A)であることの発見に基づいている。
(i) 常染色体優性である。
(ii) 痛みは乳幼児期から始まり、成人期に寛解し、時に偏頭痛を残す以外、心臓の伝導傷害やてんかんなどを伴わない。
(iii) 痛みの性状は骨を触られるような強い自発性の四肢及び四肢関節の痛みである。
(iv) 炎症所見を伴わない。
(v) 痛みは周期的であり、天候や寒冷曝露で誘発され温めることで改善する。
(vi) 非ステロイド消炎鎮痛剤が痛みを軽度に緩和する。

【0017】
上記(b)に関し、より具体的には、(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列中の1~50個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1~50個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1~50個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv)配列番号2に示されるアミノ酸配列中の1~50個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~数(5、4、3もしくは2)個のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、又は(v)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。ただし、配列番号2において、222位がアルギニンに置換される場合を除く。
例えば、天然に見出されているアミノ酸置換を生じるヒトSCN11Aの多型としては、481位のグリシンがグルタミン酸に置換したもの(p.G481E; NCBI dbSNPデータベースにrs12059805として登録されている)、777位のメチオニンがアルギニンに置換したもの(p.M777R; NCBI dbSNPデータベースにrs4302324として登録されている)、909位のバリンがイソロイシンに置換したもの(p.V909I; NCBI dbSNPデータベースにrs33985936として登録されている)、1198位のチロシンがヒスチジンに置換したもの(p.Y1198H; NCBI dbSNPデータベースにrs12638601として登録されている)等が挙げられる。

【0018】
さらに、性質の似たアミノ酸(例えば、グリシンとアラニン、バリンとロイシンとイソロイシン、セリンとトレオニン、アスパラギン酸とグルタミン酸、アスパラギンとグルタミン、リシンとアルギニン、システインとメチオニン、フェニルアラニンとチロシン等)同士の置換等であれば、より多くの個数の置換等があり得る。上述のようにアミノ酸が欠失、置換又は挿入されている場合、その欠失、置換、挿入の位置は、疼痛誘発作用が保持される限り、特に限定されない。そして、変異の導入は、部位特異的突然変異誘発、アラニンスキャニング、又はPCRによる突然変異誘発等、自体公知の方法により行うことができる。

【0019】
上記(c)において「ストリンジェントな条件」とは、同一性が高いヌクレオチド配列同士、例えば95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、いっそう好ましくは99%以上、特に好ましくは99.5%以上の同一性を有するヌクレオチド配列同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いヌクレオチド配列同士がハイブリダイズしない条件、具体的には、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons,6.3.1-6.3.6, 1999に記載される条件、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)/45℃でのハイブリダイゼーション、次いで0.2×SSC/0.1% SDS/50~65℃での一回以上の洗浄等が挙げられるが、当業者であれば、これと同等のストリンジェンシーを与えるハイブリダイゼーションの条件を適宜選択することができる。
ここで「ヌクレオチド配列の同一性」は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップコスト=Linear;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-2)にて計算することができる。
また、上記(c)のタンパク質として、配列番号1に示される塩基配列からなるSCN11A遺伝子のスプライシングバリアントによってコードされるNav1.9のアイソフォームも包含される。例えば、ヒトNav1.9のアイソフォームとして、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1444位のスレオニンがリジンに置換し、1445~1791位のアミノ酸を欠失するアイソフォーム(UniprotKB identifier: Q9UI33-2を参照)、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、946~983位のアミノ酸を欠失するアイソフォーム(UniprotKB identifier: Q9UI33-3を参照)が挙げられる。

【0020】
上記(d)においてヒト以外の哺乳動物種由来のSCN11A遺伝子オルソログとしては、NCBIデータベースにRefSeq番号NP_036017として登録されているマウスNav1.9タンパク質のアミノ酸配列において、222位のアルギニンが他のアミノ酸、好ましくはヒスチジン又はセリンに置換したアミノ酸配列を有するもの、RefSeq番号NP_062138として登録されているラットNav1.9タンパク質のアミノ酸配列において、219位のアルギニンが他のアミノ酸、好ましくはヒスチジン又はセリンに置換したアミノ酸配列を有するもの、RefSeq番号XP_002696965として登録されているウシNav1.9タンパク質のアミノ酸配列において、225位のアルギニンが他のアミノ酸、好ましくはヒスチジン又はセリンに置換したアミノ酸配列を有するもの、UniprotKBにアクセッション番号H2QMB6として登録されているチンパンジーNav1.9タンパク質のアミノ酸配列において、222位のアルギニンが他のアミノ酸、好ましくはヒスチジン又はセリンに置換したアミノ酸配列を有するもの等が挙げられる。

【0021】
上記配列のみならず、他の哺乳動物におけるSCN11A遺伝子又はその遺伝子産物は、配列番号1に示される塩基配列又は配列番号2に示されるアミノ酸配列をクエリーにして、ヒト以外の哺乳動物のゲノム及び/もしくはcDNAのデータベース又はタンパク質のデータベースに対して、BLASTやFASTAを用いて検索を行う等により、所望の種由来のSCN11Aの塩基配列及びアミノ酸配列を取得することができる。

【0022】
疼痛誘発作用を有する変異Nav1.9タンパク質は、当該変異を有する哺乳動物の末梢知覚神経節の小型侵害受容ニューロン等から、自体公知の膜タンパク質の分離精製方法を用いて単離することができる。あるいは当該細胞からmRNAを抽出し、例えば、配列番号1に示されるヒトSCN11AのcDNA配列情報に基づいてプライマーを設計し、該mRNAを鋳型とするRT-PCRを行うことにより、変異SCN11A cDNAをクローニングし、該cDNAを適当な発現ベクター中に挿入して宿主細胞に導入・発現させ、該宿主細胞の培養物から変異Nav1.9タンパク質を回収することによっても取得することができる。
しかしながら、より簡便には、疼痛誘発性変異を有しない正常SCN11A遺伝子を有する哺乳動物から上記と同様の方法により正常なSCN11A cDNAをクローニングし、自体公知の部位特異的変異誘発法により、配列番号2に示されるアミノ酸配列の222位に対応するアルギニン残基をコードするコドンを、他のアミノ酸、好ましくはヒスチジン又はセリン残基に置換するような変異を導入することにより取得することができる。

【0023】
本発明の変異SCN11A遺伝子は、上記の疼痛誘発作用を有する変異Nav1.9タンパク質をコードする塩基配列を含む核酸である限り特に制限はない。該核酸は、二本鎖DNA、一本鎖DNA、一本鎖RNA、二本鎖RNA、DNA/RNAハイブリッドのいずれであってもよいが、好ましくは二本鎖DNA又は一本鎖RNAであり、より好ましくは二本鎖DNAである。本発明の変異SCN11A遺伝子は、ベクター(クローニングベクター又は発現ベクター)に連結して使用することができる。さらに、目的(例えば、タンパク質の発現)に応じて、当該ベクターを導入する宿主細胞に適したものを適宜選択し、当該ベクターを宿主細胞に形質転換することができる。当該ベクターはさらに、適切なプロモーター、ターミネーター領域、形質転換体を選択するための選択マーカー遺伝子(薬剤耐性遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)等も含むことができる。

【0024】
加えて、当該ベクターはタンパク質の分離・精製に有用なタグ配列(例えばHisタグ、GSTタグ、FLAG(商標)タグ等)をコードする配列等を含んでいてもよく、当該ベクターは、対象宿主細胞のゲノムに組み込まれるものであってもよい。

【0025】
ベクターの種類としては、特に限定されないが、pBTrp2、pBTac1、pBTac2、pBluescript II SK(+)、pBluescript II SK(-)、pSTV28、pUC118、pUC19、pKK233-2、pSE280、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pETベクター、pAGEベクター、pcDNAベクター、pGEXベクター、pMC1neo、λgt11、pkk223-3、pBlue BacIII、pVL1392、pVL1393等が挙げられる。

【0026】
宿主細胞としては、前記ベクターを発現することのできる任意の細胞、例えば、細菌細胞、真菌細胞、昆虫細胞、動物細胞等が挙げられる。
細菌細胞としては、特に限定されないが、大腸菌(Escherichia coli)、バチルス(Bacillus)、ブレビバチルス(Brevibacillus)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、ストレプトマイセス(Streptomyces)等が挙げられる。真菌細胞としては、特に限定されないが、サッカロミセス・セレビシア(Saccharomyces cerevisiae)やアスペルギルス(Aspergillus)属真菌等が挙げられる。昆虫細胞としては、特に限定されないが、カイコ(Bombyx mori)、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)等が挙げられる。動物細胞としては、特に限定されないが、CHO細胞、HeLa細胞、COS-1細胞、COS-7細胞、HEK293細胞、BALL-1細胞、HCT-15細胞、PC12細胞等の細胞株、後根神経節(DRG)ニューロンの初代培養、ES細胞、iPS細胞等が挙げられる。

【0027】
ベクターの宿主細胞への導入は、各宿主細胞に応じて自体公知の形質転換法、例えば、コンピテント細胞法、プロトプラスト法、リン酸カルシウム共沈法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法等を用いて行うことができる。

【0028】
形質転換細胞を変異Nav1.9タンパク質の精製の目的で使用する場合、精製を容易にするために、宿主細胞として内因性SCN11A遺伝子を発現しない細胞を用いることが好ましいが、動物細胞を用いる場合でも、ヒトとマウス、ラット等との間ではSCN11Aタンパク質のアミノ酸配列にある程度の差異があるので、例えば、ヒト由来の変異Nav1.9タンパク質を組換え生産する場合には、マウス又はラット等の霊長類以外の哺乳動物細胞を使用することもできる。

【0029】
一方、該形質転換細胞を、例えば後述の疼痛抑制物質のスクリーニング系として使用することを意図する場合、宿主細胞として哺乳動物細胞、好ましくは神経細胞、特にDRGニューロン等を用いることが好ましく、さらに内因性のSCN11A遺伝子のコード領域を該ベクターに搭載された変異Nav1.9タンパク質をコードする核酸で置換(ノックイン)することが望ましい。変異SCN11Aノックイン細胞を容易に得るために、宿主細胞としてES細胞やiPS細胞を用い、相同組換えによりノックインES又はiPS細胞を作製した後、自体公知の分化誘導法により神経細胞に分化させることができる。

【0030】
上述の形質転換細胞は、自体公知の方法により培養することができる。培養に使用する培地は、所望の細胞毎に、適宜選択することができる。例えば、大腸菌の培養であれば、LB培地等、酵母の培養であればSD培地等、哺乳動物の培養であれば、DMEM培地、EMEM培地等を使用することができる。さらに、培地(半固形培地、液体培地、粉末培地)には、必要に応じて、各種ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE等)、各種アミノ酸(天然アミノ酸又は合成アミノ酸も含む)、核酸塩基(プリン、ピリミジン)、無機塩類(MgSO4、MnSO4、FeSO4、NaCl等)抗生物質(アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン)等を添加することができる。

【0031】
培養時間、培養温度等は細胞の種類に応じて、当業者は適宜決定することができる。例えば、培養温度は10~45℃、好ましくは、20~40℃、培養時間は、1時間~14日間、好ましくは、10時間~7日間等を設定することができる。pHも適宜調整することができる。

【0032】
上述の方法で得られる変異Nav1.9タンパク質は、自体公知の方法で精製することができる。例えば、遠心分離等で集菌した菌体を、超音波又はガラスビーズ等で摩砕した後、遠心分離等により細胞片等の固形物を除き、粗酵素液を調製し、さらに、硫安、硫酸ナトリウム等による塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニテイクロマトグラフィー等のクロマトグラフ法、ゲル電気泳動法等を用いることができる。

【0033】
本発明の変異SCN11A遺伝子にコードされる変異Nav1.9タンパク質は、哺乳動物において疼痛誘発作用を有するので、該変異Nav1.9タンパク質をコードする核酸を非ヒト哺乳動物細胞に導入し、トランスジェニック動物を作製することにより、疼痛モデル動物を提供することができる。従って、本発明はまた、本発明の変異SCN11A遺伝子を外因的に発現し、疼痛の表現型を示すトランスジェニック(以下、Tgともいう)非ヒト哺乳動物を提供する。

【0034】
本発明のTg動物は、非ヒト哺乳動物の受精卵や、未受精卵、精子及びその前駆細胞(始原生殖細胞、卵原細胞、卵母細胞、卵細胞、精原細胞、精母細胞、精細胞等)等に、好ましくは受精卵の胚発生の初期段階(さらに好ましくは8細胞期以前)において、リン酸カルシウム共沈殿法、電気穿孔(エレクトロポレーション)法、リポフェクション法、凝集法、顕微注入(マイクロインジェクション)法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、DEAE-デキストラン法等の遺伝子導入法によって、本発明の変異SCN11A遺伝子を導入することにより作製される。
発現ベクターとしてウイルスを用いる場合の一実施態様として、変異Nav1.9タンパク質をコードするDNAを含むウイルスで、非ヒト哺乳動物の初期胚もしくはES細胞を感染させる方法が挙げられる(例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99(4): 2140-2145, 2002参照)。例えば、レトロウイルスやレンチウイルスを用いる場合、ディッシュなどの適当な培養器に細胞を播き、培養液にウイルスベクターを加えて、1~2日間培養後、初期胚であれば、偽妊娠させた受胚用雌非ヒト哺乳動物の卵管又は子宮内に移植し、ES細胞であれば、G418やハイグロマイシンなどの選択薬剤を添加して培養を続け、ベクターが組み込まれた細胞を選択する。
さらに、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98: 13090-13095 (2001) に記載されるように、雄非ヒト哺乳動物から採取した精原細胞をSTOフィーダー細胞と共培養する間にウイルスベクターに感染させた後、雄性不妊非ヒト哺乳動物の精細管に注入して雌非ヒト哺乳動物と交配させることにより、効率よく外来性変異SCN11A遺伝子へテロTg(+/-)産仔を得ることができる。

【0035】
また、該遺伝子導入法により、非ヒト哺乳動物の体細胞、組織、臓器などに本発明の変異SCN11A遺伝子を含むDNAを導入し、細胞培養、組織培養などに利用することもでき、さらに、この細胞を上述の胚(もしくは生殖)細胞と公知の細胞融合法を用いて融合させることによりTg動物を作製することもできる。あるいは、ノックアウト動物を作製する場合と同様に、非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞(ES細胞)又は人工多能性幹細胞(iPS細胞)に、上記の遺伝子導入法を用いて本発明の核酸を含むDNAを導入し、予め該DNAが安定に組み込まれたクローンを選択した後に、該ES細胞を胚盤胞に注入するかあるいはES細胞塊と8細胞期胚とを凝集させてキメラマウスを作製し、生殖系列に導入DNAが伝達されたものを選択することによってもTg動物を得ることが可能である。

【0036】
さらに、Tg動物は、内在性SCN11A遺伝子が変異ヒトNav1.9タンパク質をコードする配列で置換されたノックイン(KI)動物であることがより好ましい。そのため、本発明のTg動物は、ES又はiPS細胞へ、目的DNAを適当なターゲッティングベクターを用いて導入し、相同組換えにより内在性のSCN11A遺伝子を、変異ヒトNav1.9タンパク質をコードする配列で置換することによっても作製され得る。

【0037】
本発明は、上述のように作製されたTg動物(好ましくはKI動物)の生体の一部(例えば、(1)キメラSCN11A遺伝子を安定に保持する細胞(例えば、小型侵害受容性ニューロン)、組織(例、後根神経節、三叉神経節)等、(2)これらに由来する細胞又は組織を培養し、必要に応じて継代したもの等)も、本発明の変異ヒトNav1.9タンパク質を産生し得るキメラSCN11A遺伝子を発現可能な状態で保持するトランスジェニック非ヒト哺乳動物の生体の一部として、本発明のヒト型変異Nav1.9タンパク質を産生し得るキメラSCN11A遺伝子を発現可能な状態で保持する非ヒト哺乳動物と同様な目的に用いることができる。
上述の方法で得られるTg非ヒト哺乳動物又はその生体の一部は、疼痛誘発モデル動物又はモデル細胞として使用し得る。

【0038】
本発明で対象とし得る非ヒト哺乳動物(レシピエント動物)は、トランスジェニック系(KI動物の場合はノックアウト系)が確立されたヒト以外の哺乳動物であれば特に制限はなく、例えば、マウス、ラット、ウシ、サル、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスターなどが挙げられる。好ましくは、疾患モデル動物作製の面から個体発生及び生物サイクルが比較的短く、繁殖が容易な齧歯動物がより好ましく、とりわけマウス(例えば、純系としてC57BL/6系統、BALB/c系統、C3H系統、FVB系統、DBA2系統等、交雑系としてB6C3F1系統、BDF1系統、B6D2F1系統、ICR系統等)及びラット(例えば、Wistar、SD等)が好ましい。
また、哺乳動物以外にもニワトリ等の鳥類が本発明で対象とする非ヒト哺乳動物と同様の目的に用いることができる。

【0039】
さらに、本発明は、本発明の変異Nav1.9タンパク質に作用する物質をスクリーニングする方法も含まれる。作用する物質とは、該変異Nav1.9タンパク質に結合する物質、該変異Nav1.9タンパク質の疼痛誘発作用と関連する物質等が含まれ、例えば、変異Nav1.9タンパク質のナトリウムチャネル機能を阻害又は促進する物質を探索する等の目的で、当該スクリーニングを行うことができる。

【0040】
当該手法としては、特に限定されないが、上述の変異Nav1.9タンパク質又はその断片をを発現する細胞、組織又はトランスジェニック非ヒト哺乳動物に対し、被験物質の存在下及び非存在下における前記細胞等の変化を評価し、比較する方法、例えば、パッチクランプ法など自体公知の方法により、該細胞等におけるナトリウムイオン電流、活動電位等を測定し、被験物質の存在下及び非存在下におけるナトリウム電流や活動電位等の変動を調べる方法等が挙げられる。

【0041】
さらに、本発明には、疼痛を抑制する物質をスクリーニングする方法も含まれる。当該方法としては、特に限定されないが、例えば、上記の変異Nav1.9タンパク質又はその断片を発現する細胞、組織又はトランスジェニック非ヒト哺乳動物に被検物質を接触させ、該被検物質を接触させない場合との間で、該細胞、組織又は動物における疼痛の表現型の変化を測定・比較し、疼痛の表現型を改善した被検物質を、疼痛抑制物質の候補として選択する方法が挙げられる。

【0042】
被検物質の接触は、細胞もしくは組織にあっては、培地又は緩衝液などに被検物質を添加することにより、トランスジェニック非ヒト哺乳動物にあっては、被検物質を経口もしくは非経口的に投与することにより行われ得る。培地等への添加量、動物への投与量は、被検物質に応じて適宜選択することができる。

【0043】
疼痛抑制作用は、疼痛の表現型、例えば、細胞・組織にあってはナトリウムイオン電流の変化等、動物にあっては疼痛症状の緩和を、それぞれ指標として評価することができる。

【0044】
あるいは、疼痛を抑制する物質をスクリーニングする別の方法として、以下の(a)~(c)の工程:
(a)上述の変異Nav1.9タンパク質を発現する細胞、組織又はトランスジェニック非ヒト哺乳動物に対し、被験物質を接触させる工程、
(b)被検物質を接触させた場合と、させない場合とにおいて、それぞれ変異Nav1.9タンパク質又はそれをコードする核酸の発現レベルを測定する工程、及び
(c)(b)において、発現レベルを低下させた被検物質を疼痛抑制物質の候補として選択する工程、を含む方法が挙げられる。

【0045】
工程(a)における被検物質の接触は、上記と同様に行うことができる。工程(b)における発現レベルの測定は、自体公知のタンパク質又はRNAの検出方法を用いて行うことができる。ここで使用される細胞、組織、Tg動物は、内因性のSCN11A遺伝子を発現しないものが好ましく、また、変異SCN11A遺伝子の発現が内因性SCN11A遺伝子の発現調節領域により制御されることが好ましい。従って、好ましい一実施態様においては、変異Nav1.9タンパク質をコードする核酸で内因性SCN11A遺伝子のコード領域を置換したノックイン細胞・組織又は動物が使用される。しかし、内因性SCN11A遺伝子を発現する形質転換細胞やTg動物を用いた場合でも、後述の疼痛関連疾患の診断のための臨床検査に使用し得る、抗変異Nav1.9タンパク質特異的抗体(即ち、内因性のNav1.9タンパク質とは交叉反応しない抗体)や、変異Nav1.9タンパク質をコードするmRNAのみを特異的に検出するプライマー及び/又はプローブを用いて、変異Nav1.9タンパク質又はそれをコードするmRNAのみを測定することができる。

【0046】
上記いずれかのスクリーニング方法において試験され得る被験物質としては、特に限定されないが、例えば、低分子化合物、高分子化合物、タンパク質(サイトカイン、ケモカイン、抗体等)、核酸(DNA、RNA等)、ウイルス、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、微生物、動植物若しくは海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。このような物質は、当業者が適宜決定することができる。

【0047】
上述の方法で得られる疼痛を抑制する物質は、当該物質を有効成分とし、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を添加して製剤化し、疼痛治療剤又は予防剤として使用することもできる。

【0048】
本発明は、さらに一態様として、被験者のSCN11A遺伝子のp.R222H(c.665G>A)又はp.R222S(c.664C>A)変異(被験者がヒト以外の哺乳動物である場合は、ヒトNav1.9タンパク質の222位のアルギニンに対応するアルギニン残基が、他のアミノ酸、好ましくはヒスチジン又はセリンに置換されるような変異)を検出する工程を含む、該被験者における疼痛関連疾患の診断のための検査方法も提供する。

【0049】
一実施態様においては、当該変異は公知のいずれかのSNP検出法を用いて検出され得る。例えば、被験者の細胞等から抽出したゲノムDNAを試料とし、上記したいずれかの多型部位の塩基を含む約15~約500塩基の連続した塩基配列を含有してなる核酸をプローブとして用い、例えばWallaceら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA , 80, 278-282 (1983))の方法に従って、ストリンジェンシーを正確にコントロールしながらハイブリダイゼーションを行い、プローブと完全相補的な配列のみを検出する方法や、上記核酸と上記核酸において多型部位の塩基が他の塩基に置換された核酸のいずれか一方を標識し、他方を未標識としたミックスプローブを用い、変性温度から徐々に反応温度を低下させながらハイブリダイゼーションを行い、一方のプローブと完全相補的な配列を先にハイブリダイズさせ、ミスマッチを有するプローブとの交差反応を防ぐ方法などが挙げられる。ここで標識剤としては、例えば、放射性同位元素(例、125I、131I、3H、14Cなど)、酵素(例、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素など)、蛍光物質(例、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート、Cy3、Cy5など)、発光物質(例、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなど)などが用いられる。

【0050】
好ましくは、多型の検出は、例えば、WO 03/023063に記載された種々の方法、例えば、RFLP法、PCR-SSCP法、ASOハイブリダイゼーション、ダイレクトシークエンス法、ARMS法、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法、RNase A切断法、化学切断法、DOL法、TaqMan PCR法、インベーダー法、MALDI-TOF/MS法、TDI法、モレキュラー・ビーコン法、ダイナミック・アレルスペシフィック・ハイブリダイゼーション法、パドロック・プローブ法、UCAN法、DNAチップ又はDNAマイクロアレイを用いた核酸ハイブリダイゼーション法、及びECA法などにより実施することができる(WO 03/023063, 第17頁第5行~ 第28頁第20行を参照)。

【0051】
上記検査方法に実施に適したキットとして、上述の変異Nav1.9タンパク質をコードする核酸の塩基配列の中から、例えば、変異SCN11A遺伝子のp.R222H(c.665G>A)又はp.R222S(c.664C>A)を含む領域を増幅し得るプライマーを含むキットが挙げられる。当該プライマーは、自体公知の方法により作製することができる。例えばヒトの場合、配列番号1に示される塩基配列の15個以上の連続した核酸を有し、変異SCN11A遺伝子のp.R222H(c.665G>A)又はp.R222S(c.664C>A)を含む領域を増幅し得るプライマーとすることができる。

【0052】
SCN11A遺伝子のp.R222H(c.665G>A)又はp.R222S(c.664C>A)変異を検出する別の態様として、被検者の変異Nav1.9タンパク質の発現を検出する方法が挙げられる。例えば、DRGの生検サンプル中の変異Nav1.9タンパク質は、例えば、ウェスタンブロッティング法、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、蛍光抗体法、ELISA法等の免疫学的手法を用いて検出することができる。

【0053】
上記変異Nav1.9タンパク質の検出には、変異Nav1.9タンパク質のみに特異的に結合し、p.R222H又はp.R222S変異を有しないNav1.9タンパク質には結合いない抗体又はその断片が使用される。当該抗体の作製法は周知であり、自体公知の手法で作製することができる。免疫原としては、上記変異Nav1.9タンパク質の全部を用いてもよいし、222位のヒスチジン又はセリンを含むそのフラグメントを用いてもよい。該抗体はモノクローナル抗体でも、ポリクローナル抗体でもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。抗体断片としては、特に限定されないが、scFv、Fab、Fab’、(Fab’)2、Fv、Fd、scFv、sdFv等が挙げられる。

【0054】
疼痛関連疾患としては、四肢関節痛、外傷による神経障害あるいは代謝性の神経炎症による疼痛、糖尿病性末梢神経傷害、癌性疼痛等が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、家族性の若年期周期性四肢疼痛であり、特に好ましくは、下記(i)~(vi)の特徴を有する家族性の若年期周期性四肢疼痛である。
(i) 常染色体優性である。
(ii) 痛みは乳幼児期から始まり、成人期に寛解し、時に偏頭痛を残す以外、心臓の伝導傷害やてんかんなどを伴わない。
(iii) 痛みの性状は骨を触られるような強い自発性の四肢及び四肢関節の痛みである。
(iv) 炎症所見を伴わない。
(v) 痛みは周期的であり、天候や寒冷曝露で誘発され温めることで改善する。
(vi) 非ステロイド消炎鎮痛剤が痛みを軽度に緩和する。
これらの痛みの特徴のうち、(ii) 乳幼児期から始まり、成人期で寛解し、心臓や自律神経の異常を伴わないことと、(v) 寒冷曝露で誘発され、温めることで改善することの2点は、SCN11Aのパラログ遺伝子であるSCN9AやSCN10Aの変異による遺伝性疼痛の痛みと大きく異なることから、家族性、孤発性(de novo変異による)を問わず、SCN11A遺伝子を原因とする特有の機序に基づく痛みの存在が示された。

【0055】
本発明は、SCN11Aが疼痛の原因遺伝子であり、その特定の遺伝子変異が家族性の若年期周期性四肢疼痛を誘発することを初めて見出したことに基づく。即ち、SCN11A遺伝子産物であるNav1.9ナトリウムチャネルの機能異常が、疼痛の発現や、あるいは痛覚鈍麻を引き起こし得ることが、本発明により初めて実証された。このことは、SCN11A遺伝子に疼痛誘発性変異や痛覚鈍麻誘発性変異を有する痛覚異常を発症した哺乳動物において、SCN11A遺伝子産物であるNav1.9ナトリウムチャネルの機能を調節することにより、当該痛覚異常を治療することができることを示している。
従って、本発明はまた、SCN11A遺伝子に疼痛誘発性変異又は痛覚鈍麻誘発性変異を有する哺乳動物における痛覚異常の治療剤であって、該遺伝子産物で構成されるイオンチャネルの調節薬を含有してなる、剤を提供する。

【0056】
治療対象となるSCN11A遺伝子に疼痛誘発性変異又は痛覚鈍麻誘発性変異を有する哺乳動物(例、ヒト、サル、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等)は、疼痛又は痛覚鈍麻の症状を示す哺乳動物について、例えばゲノムDNAもしくはDRGニューロン由来mRNAを単離し、SCN11A遺伝子のコード領域にアミノ酸の変化を引き起こす変異を有するか否かを調べることにより推定することができる。疼痛誘発性変異がp.R222H又はp.R222S(ヒト以外の哺乳動物においてはヒトNav1.9タンパク質の222位のアルギニンに対応するアルギニン残基の他のアミノ酸、好ましくはヒスチジン又はセリンへの置換)である場合には、上記の疼痛関連疾患の診断のための検査方法と同様の方法を用いて、当該変異を検出することができる。

【0057】
疼痛誘発性変異又は痛覚鈍麻誘発性変異を有するSCN11A遺伝子によりコードされる変異Nav1.9タンパク質によって構成されるナトリウムチャネルの特性を決定するために、同定された変異SCN11A遺伝子を哺乳動物由来のDRGニューロン細胞等に導入し、得られる変異Nav1.9タンパク質発現細胞において、パッチクランプ法等の自体公知の電気生理学的アッセイを実施して、ナトリウムチャネルの特性を野生型Nav1.9と比較することができる。

【0058】
同定された変異SCN11A遺伝子によりコードされる変異Nav1.9タンパク質の、野生型Nav1.9と異なるチャネル特性(例、ナトリウム電流の大きさ、持続性等)を、野生型Nav1.9のそれに近づける作用を有するNav1.9ナトリウムチャネルの調節薬(モジュレーター)を、該変異SCN11A遺伝子を有する哺乳動物に投与することにより、該哺乳動物における疼痛や痛覚鈍麻等の痛覚異常を治療することができる。例えば、痛覚異常が、野生型Nav1.9に比べて過剰な変異Nav1.9によるナトリウム電流の発生による場合、Nav1.9ナトリウムチャネルの遮断薬を投与することにより、当該症状を緩和することができる。そのようなチャネル遮断薬としては、例えば、特開2013-100374号公報、特開2012-149084、特開2012-126751、特開2012-126745、特開2012-126744等に記載の化合物などが挙げられるが、これらに限定されず、他の既知のチャネル遮断薬や、上記の本発明のスクリーニング法により選択される新規薬剤も、好ましく用いることができる。あるいは、変異Nav1.9タンパク質の発現阻害薬として、SCN11A mRNAを標的とするsiRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスオリゴ核酸、リボザイムを、Nav1.9ナトリウムチャネルの選択的阻害を目的として用いることもできる。

【0059】
以下の実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は本発明の単なる例示にすぎず、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0060】
サンプル
以下の実施例では、4世代にわたり、小児期において周期的に四肢痛を訴える患者家系3家系(家系1~3)を選択した。被験者全員からインフォームドコンセントを得た。また、本研究は、京都大学及び秋田大学の倫理委員会により承認を受けて行った。
【実施例】
【0061】
実施例1 家系1の連鎖解析及び全ゲノムエクソーム解析
本家系では、乳児期より突発的な四肢痛を生じる。四肢痛は思春期まで、ほぼ低気圧が来ると疼痛が30~40分持続し、その後1時間半くらい痛みのない時間が生じ、再び痛くなるという2時間サイクルの発作を繰り返す程度の頻度にて推移するものの、その後徐々に改善を認め、成人期では1~2回/年程度の頻度となる。疼痛は四肢に限定しているものの疼痛部位は不定であり、単肢のみの場合から四肢全ての場合まで様々であり、上肢のみの場合もある。疼痛部位の腫脹・発赤を認めず、拍動痛を伴わず、冷感を伴う鈍痛であり、加温にてやや改善する。骨・筋変化を認めず、神経所見も異常所見を認めない。成人後の体格の異常を認めない。本家系の家系図(第II~IV世代)を図1(上パネル)に示す。
【実施例】
【0062】
本家系にて連鎖解析を行い、第3番染色体領域にLODスコア1.20の連鎖領域を認めた。本家系の参加者全8名のエクソームの結果を図1(下パネル)に示す。全患者が有し、非発症者が有さない新規遺伝多型は、ANKRD23、SCN11A、STAB1、RPAP1、ITGA11の5遺伝子であり、機能から、SCN11Aが原因遺伝子であることが予測された。SCN11A遺伝子の変異は、p.R222Hであった。エクソーム解析のQuality Control (QC)およびQuality Assurance(QA)の詳細を以下に示す。
【実施例】
【0063】
次世代シークエンサーであるイルミナ社HiSeq 2000を用いて全ゲノムエクソーム解析を行った。ゲノムDNAのキャプチャーにはAgilent社のSureSelect Human All Exon V4 + UTRs Kitを使用し、イルミナ社のプロトコールに従いライブラリを作製した。被験者から調製したゲノムDNAを断片化し、150-200bp(アダプターを含まず)の該ゲノム断片を前記キャプチャーと連結させライブラリーとした。イルミナ社指定のフローセルを使用し、Multiplex sequencingを行った。Read lengthは100bpsとした。RefSeqのデータベースとしてUCSC Genome Browser hg19を使用し、Burrows-Wheeler Aligner 0.6.2 (BWA)を用いて解析した。SNP、In/delの解析にはThe Genome Analysis Toolkit 1.6-13- g91f02df (GATK) を使用した。有効なリード数、塩基数は、後述の家系2の3検体を加えた計11検体で平均して、約8486万read pair、約5.3Gbpであった。解析結果を表1にまとめた。
【実施例】
【0064】
【表1】
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【実施例】
【0065】
MS/NS/Indel/SS/FS/RT (MS, Missense; NS, Nonsense; Indel, Insertion or deletion; SS, Splice Site; FS, Fragile Sites; RT, Read through)を含め、各検体それぞれにおいて、変異は約1万個認められ、発症者に共通し、非発症者に存在しないヘテロ接合体変異は61個であった。そのうち、1kゲノムにおいて、マイナー対立遺伝子頻度 (Minor Allele Frequency, MAF) 1%以下の変異は23個であり、日本人におけるMAF 1%以下の変異は11個であった。その中でdbSNP135に登録されていない新規変異は5個であった。
【実施例】
【0066】
実施例2 家系2の連鎖解析及び全ゲノムエクソーム解析
家系2(家系図を図2に示す)は、すでに論文として報告されており(Brain Res., 2006, 28(10): 660-662)、家系1とほぼ同様の症状を示している。発端者(IV-1)の兄(IV-2)、弟(IV-3)、母(III-1)及び父(III-1の配偶者)からゲノムDNAを採取し、うち3検体(IV-3、III-1及びIII-1の配偶者)について、実施例1と同様にしてエクソーム解析を行い、その結果を表2にまとめた。
【実施例】
【0067】
【表2】
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【実施例】
【0068】
MS/NS/Indel/SS/FS/RTを含め、各検体それぞれにおいて、変異は約1万個認められ、発症者に共通し、非発症者に存在しないヘテロ接合体変異は1332個であった。そのうち、1kゲノムにおいて、MAF1%以下の変異は238個であり、日本人におけるMAF 1%以下の変異は165個であった。その中でdbSNP135に登録されていない新規変異は59個であった。このうち、イオンチャネルの遺伝子は家系1と共通するSCN11Aのみで、変異はp.R222Sであった。この症例では、発症時に三叉神経節に存在する神経終末から放出されることが知られているsubstance P(9.3-12.6 pg/ml; 対照4.8+2.4 pg/ml)の上昇、CGRPの上昇(20.9-30.7 pg/ml; 対照13.4+4.4 pg/ml)が認められた。
【実施例】
【0069】
実施例3 家系3の解析
本家系の第IV世代発端者(IV-1)は、2歳男児で、41週、2954g、仮死なしである。熱性痙攣5回の既往があるが、脳波異常はみられない。1歳11カ月頃から、突如泣きだすエピソードが出現した。下肢が床につけられないなど自分で訴えるようになったので気付いた。疼痛部位は四肢の関節で、肘、膝、足首、手首など。膝が多い。1回の疼痛は5分程度が多いが1日に何度も生じる。疼痛発作時に他の随伴症状はない(発熱、発赤、腫脹等)。天気の悪い時、気圧の低下時、また日中よりは夜に多い。疼痛時にはバファリンを内服している。父(III-5)も幼少期から同症状を呈したが、学生時代はサッカー部に所属し、成人になって疼痛の頻度は圧倒的に減少した。本家系では、少なくともII-4、III-5、IV-1では頭痛はなく、III-3、III-4もIII-5によれば頭痛はないとのことである(III-1、III-2については、詳細は不明)。III-5とIII-6とは近親婚ではない。I-2はすでに死亡しており、症状の有無は確認されていない。II-2は、III-5が知る限り症状はない。
本家系において、SCN11Aの全エクソンの遺伝子配列を、発端者IV-1及びその両親(III-5及びIII-6)のゲノムについて調べたところ、IV-1と父(III-5)においてp.R222H変異を認めた(図4)この変異は、非発症の母(III-6)には認めなかった。
【実施例】
【0070】
実施例4 患者居住地域の一般集団でのSCN11A遺伝子変異のアレル頻度
患者の居住地域における一般人口150人において、制限酵素を用いて変異アレルp.R222H及びp.R222Sの頻度を解析した。一般人口150人において、2つの変異は認められず、95%CIは0-0.0122であった。
【実施例】
【0071】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明である。
【実施例】
【0072】
ここで述べられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
現在に至るまで、SCN11Aの関わる痛みについては不明であった。本発明により、きわめて特徴的な若年期周期性四肢疼痛を発症する3家系において、SCN11Aが原因遺伝子であることと、痛み発現に関わるアミノ酸の部位が222位のアルギニンの置換であることを明らかにした。このことにより、高齢者に多発する四肢関節の痛み、慢性炎症による疼痛、担癌患者の骨の痛みなどに有効な新たな機序による副作用の少ない鎮痛剤の創薬の可能性が示された。
SCN11A遺伝子の発現は、神経細胞、特に末梢知覚神経節の小型侵害受容ニューロンに限局していることから、他臓器への影響の非常に少ない選択性の高い疼痛治療薬の開発が可能となる。従って、本発明は産業上きわめて有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3