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明細書 :脂質膜構造体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6384863号 (P6384863)
公開番号 特開2016-084297 (P2016-084297A)
登録日 平成30年8月17日(2018.8.17)
発行日 平成30年9月5日(2018.9.5)
公開日 平成28年5月19日(2016.5.19)
発明の名称または考案の名称 脂質膜構造体
国際特許分類 C07C 219/06        (2006.01)
A61K  47/18        (2006.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
A61P  31/20        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
C07C 229/12        (2006.01)
C12N  15/00        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
FI C07C 219/06 CSP
A61K 47/18
A61K 31/7105
A61P 31/20
A61K 9/127
A61K 48/00
C07C 229/12
C12N 15/00 ZNA
C12N 15/113 100Z
請求項の数または発明の数 8
全頁数 18
出願番号 特願2014-217011 (P2014-217011)
出願日 平成26年10月24日(2014.10.24)
審査請求日 平成29年9月8日(2017.9.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
【識別番号】591063394
【氏名又は名称】公益財団法人東京都医学総合研究所
発明者または考案者 【氏名】原島 秀吉
【氏名】佐藤 悠介
【氏名】兵藤 守
【氏名】畠山 浩人
【氏名】小原 道法
【氏名】山本 直樹
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】新留 素子
参考文献・文献 国際公開第2014/089486(WO,A1)
特開2013-245190(JP,A)
国際公開第2013/151736(WO,A1)
特表2016-539916(JP,A)
SEMPLE, S. C. et al.,Rational design of cationic lipids for siRNA delivery,Nature Biotechnology,2010年,28(2),p.172-176,ONLINE METHODS
YAMAMOTO, N. et al.,Novel pH-sensitive multifunctional envelope-type nanodevice for siRNA-based treatments for chronic HBV infection,Journal of Hepatology,2015年,64,p.547-555
研究代表者 小原 道法,ツパイ全ゲノム解析に基づくB型肝炎ウイルス感染感受性小動物モデルの開発に関する研究,厚生労働科学研究費補助金 B型肝炎創薬実用化等研究事業 ,2014年 3月,平成25年度 総括・分担研究報告書,p.38-40,肝細胞を標的とした薬物送達システムの開発
調査した分野 C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】
JP0006384863B2_000006t.gif
(式中、Rは式(A)で表される基又は式(B)で表される基:
【化2】
JP0006384863B2_000007t.gif
(式中、nは2から4の整数を示し、mは2から5の整数を示す)を示す)で表される化合物。
【請求項2】
脂質膜構造体にpH依存性のカチオン性を付与するために用いる請求項1に記載の一般式(I)で表される化合物。
【請求項3】
請求項1に記載の一般式(I)で表される化合物を構成脂質として含む脂質膜構造体。
【請求項4】
送達すべき物質が内部に封入された請求項3に記載の脂質膜構造体。
【請求項5】
送達の標的細胞が肝実質細胞である請求項4に記載の脂質膜構造体。
【請求項6】
送達すべき物質が核酸である請求項5に記載の脂質膜構造体。
【請求項7】
送達すべき物質がB型肝炎に対する予防及び/又は治療効果を有するsiRNAである請求項5に記載の脂質膜構造体。
【請求項8】
請求項7に記載の脂質膜構造体を有効成分として含むB型肝炎の予防及び/又は治療のための医薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はsiRNAなどの核酸を肝実質細胞の細胞質などに効率的に送達することができる脂質膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウィルス(HBV)持続感染者は世界で約4億人存在すると推定されており、本邦におけるHBV感染率は1%に上る。感染後にウィルスの活動性が持続すると慢性肝炎から肝硬変、肝細胞がん、肝不全に進展する。現在、B型肝炎治療にはポリエチレングリコール(PEG)化インターフェロン(IFN)及び核酸アナログであるエンテカビルが用いられている。PEG化IFNは免疫賦活作用や高ウィルス作用を有し、セロコンバージョン例では高効率で効果が持続するものの、高頻度かつ多彩な副作用が生じることが大きな問題である。また、エンテカビルはウィルスの複製阻害によりHBV DNA量を減少させるものの、その薬効は投与の中止によって速やかに消失し、肝炎が再燃してしまうという問題がある。このような問題点から、従来とは異なるメカニズムの新規治療法の開発が強く望まれている。
【0003】
siRNAはRNA干渉により標的遺伝子がコードするタンパク質の合成を抑制する機能性核酸であり、迅速に分子設計が可能であることから、新規B型肝炎治療薬として期待されている。siRNAは塩基配列によって遺伝子抑制効果が大きく異なることから、HBV遺伝子発現を強力に抑制可能なsiRNA配列を見出すことが重要である。また、様々なHBVゲノタイプに対しても効果的な配列の設計も重要である。さらに、siRNAは親水性高分子化合物であるため、それ単独では細胞膜を透過できず、また、血中から速やかに腎排泄を受ける。そのため、siRNAをHBV感染細胞である肝実質細胞の細胞質へ効率的に送達可能なキャリアの開発が重要である。
【0004】
shRNAを発現するウィルスベクターの開発が試みられているが、安全性に問題があり、大量製造が困難であるという問題もある。そのため、siRNAを標的細胞へ効率的に送達可能な人工キャリアの開発が盛んに行われている。ドラッグ・デリバリ・システム(DDS)としてリポソームなどの脂質膜構造体が汎用されおり、HBV標的siRNAを搭載したリポソーム型のキャリアについての報告もあるが、その効果は部分的である(Nature Biotechnol., 23, pp.1002-1007, 2005; Mol. Pharmaceutics, 6, pp.706-717, 2009)。これは、HBV感染細胞である肝実質細胞の細胞質へのsiRNA送達効率が不十分であることが原因であると考えられている。DDSとしての脂質膜構造体には、薬物などの送達すべき物質を保持する能力、生体内での安定性、物質を送達すべき特定の細胞(標的細胞)に対する選択性、標的細胞内への移行性、及び標的細胞内での物質の放出性等の様々な特性が求められるが、特に標的細胞の細胞質に核酸を送達するための脂質膜構造体には、標的細胞に対する選択性のほか、細胞内への優れた移行性が求められる。
【0005】
一方、人工siRNAキャリアとして使用可能な多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)が本発明者らにより報告されており、siRNA導入効率に優れるpH応答性カチオン性脂質YSK05(1-メチル-4,4-ビス[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ]ピペリジン)を脂質組成に含むYSK05-MENDが開発されている(J. Control. Release, 163, pp.267-276, 2012; Yakugaku Zasshi, 132, pp.1355-1363, 2012; YSK05については特開2013-245190号公報を参照のこと)。YSK05-MENDはin vivo肝臓において内因性遺伝子発現を投与量依存的に抑制し、ED50で0.06 mg/kgを示す。しかしながら、YSK05-MENDの遺伝子抑制活性は、siRNA医薬をリードするAlnylam社のpH応答性脂質MC3を含むキャリアと比較して劣っている。
【0006】
上記のように、in vivoにおいてRNA干渉による強いHBV抑制活性を実現するためには、HBVに対する強力なsiRNAと、siRNAを肝実質細胞へ効率的に送達可能なキャリアを適切に組み合わせることで初めて実現可能であるが、現状でそのような報告例はほとんどない。なお、核酸を送達するためのキャリアとしての脂質膜構造体に使用可能な脂質化合物が国際公開WO 2011/143230に開示されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2013-245190号公報
【特許文献2】国際公開WO 2011/143230
【0008】

【非特許文献1】Nature Biotechnol., 23, pp.1002-1007, 2005
【非特許文献2】Mol. Pharmaceutics, 6, pp.706-717, 2009
【非特許文献3】J. Control. Release, 163, pp.267-276, 2012
【非特許文献4】Yakugaku Zasshi, 132, pp.1355-1363, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、siRNAなどの核酸を肝実質細胞の細胞質などに効率的に送達することができるキャリアーとしての脂質膜構造体を提供することにある。
また、本発明の別の課題は、上記の脂質膜構造体を用いて肝実質細胞内に薬剤、好ましくは核酸、さらに好ましくはsiRNAを送達し、肝臓疾患を予防及び/又は治療する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
先に説明したように、本発明者らはpH応答性カチオン性脂質YSK05を用いて肝実質細胞へのsiRNA導入効率に優れるYSK05-MENDを報告している(J. Control. Release, 163, pp.267-276, 2012; 特開2013-245190号公報)。本発明者らは肝実質細胞の細胞質内にさらに効率的にsiRNAを導入すべく鋭意研究を行ったところ、脂質化合物として下記の一般式(I)で表される化合物を脂質構成成分として用いると、脂質膜構造体にpH依存性カチオン性が付加され、細胞内に核酸などを極めて効率的に送達できることを見出した。また、この脂質膜構造体が、特に肝実質細胞の細胞質内に薬物や核酸、より好ましくはsiRNAを送達するためのキャリアとして優れた性質を有していることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明により、下記の一般式(I):
【化1】
JP0006384863B2_000002t.gif
(式中、Rは式(A)で表される基又は式(B)で表される基:
【化2】
JP0006384863B2_000003t.gif
(式中、nは2から4の整数を示し、mは2から5の整数を示す)を示す)で表される化合物、及び脂質膜構造体にpH依存性のカチオン性を付与するための上記化合物が提供される。好ましくはRは式(A)で表される基であり、nは2又は3である。
【0012】
また、本発明により、上記の一般式(I)で表される化合物を構成脂質として含む脂質膜構造体、及び送達すべき物質が内部に封入された上記の脂質膜構造体が提供される。送達すべき物質としては、核酸、例えば遺伝子を含む核酸やsiRNAなどの機能性核酸を用いることができ、送達の標的となる細胞としては肝実質細胞などが好ましい。
【0013】
さらに、本発明により、肝実質細胞に核酸、好ましくはsiRNAなどの機能性核酸、さらに好ましくはB型肝炎に対する予防及び/又は治療効果を有するsiRNAを送達するために用いる上記の一般式(I)で表される化合物を構成脂質として含む脂質膜構造体が提供される。上記の脂質膜構造体の製造のために用いる上記の一般式(I)で表される化合物の使用も本発明により提供される。
【0014】
別の観点からは、肝実質細胞への物質の送達方法であって、送達すべき物質が内部に封入された上記の脂質膜構造体をヒトを含む哺乳類動物に投与する方法が本発明により提供される。送達すべき物質としては、核酸、例えば遺伝子を含む核酸やsiRNAなどの機能性核酸を用いることができ、送達の標的となる細胞としては肝実質細胞などが好ましい。
【0015】
さらに別の観点からは、B型肝炎の予防及び/又は治療のための医薬であって、B型肝炎に対する予防及び/又は治療効果を有するsiRNAが内部に封入された上記の脂質膜構造体を含む医薬;B型肝炎の予防及び/又は治療方法であって、B型肝炎に対する予防及び/又は治療効果を有するsiRNAが内部に封入された上記の脂質膜構造体をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が本発明により提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一般式(I)で表される化合物を脂質膜構造体の構成脂質として使用することにより、脂質膜構造体にpH依存性のカチオン性を付与することができる。pH依存性のカチオン性を付与された脂質膜構造体は、pHの低下に伴って生体膜との膜融合能が向上する性質を有しており、標的細胞の細胞質内に取り込まれた後にエンドソーム膜と効率的に膜融合して、細胞質内に送達すべき物質を効率的に放出することができる。また、本発明の脂質膜構造体は脂質膜pKaが低いことから肝実質細胞内に効率的に移行することができることから、送達すべき物質としてsiRNAを内包させておくことにより、効率的にsiRNAを肝実質細胞の細胞質に送達することが可能になる。例えば、B型肝炎に対する予防及び/又は治療効果を有するsiRNAが内部に封入された本発明の脂質膜構造体を用いて該siRNAを肝実質細胞の細胞質内に送達することにより、B型肝炎を予防及び/又は治療することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例で製造した脂質膜構造体の脂質膜pKaを示した図である。
【図2】肝実質細胞特異的遺伝子である第7凝固因子(FVII)に対するsiRNA(siFVII)を封入したYSK13-MEND又はYSK15-MENDをICRマウスに静脈内投与し、48 hr後に採血して血漿中FVII酵素活性を測定した結果を示した図である。
【図3】Cy5標識siRNA又はDiDで蛍光標識したYSK13-MENDをICRマウスに静脈内投与し、30 min後の肝臓、肺、腎臓、脾臓を回収して、各組織ホモジネート中のCy5(A)又はDiD(B)由来の蛍光強度を測定してYSK13-MENDの各組織への移行量を評価した結果を示した図である。
【図4】Cy5標識siRNA封入YSK13-MENDをICRマウスに静脈内投与し、25 min後にFITC標識イソレクチンB4を40μg/mouseで静脈内投与し、さらに5 min後に肝臓を回収してHoechst33342で核染色後に共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いてsiRNAの肝臓内分布を観察した結果を示した図である。
【図5】YSK13-C3-MENDをICRマウスに静脈内投与し、24時間後に血液を回収して血清中のAST及びALT活性を定量して肝毒性を評価した結果を示した図である。
【図6】siRNAの合成にあたり16種類の遺伝子配列を比較して高度に保存している領域を選択して標的領域の設定する手法を示した図である。
【図7】HBV-siRNAsを封入したYSK13-C3-MENDをHBVが持続感染しているヒト肝臓キメラマウス初代培養肝細胞へ1回添加し、siRNA添加後4、7、11、及び14日目の培養上清中HBs抗原、HBe抗原、HBV-DNA量の変化を定量してHBV阻害活性を評価した結果を示した図である。
【図8】HBV-siRNAsを3種類(si758、si1804、si2460)混合してYSK13-C3-MENDに封入し、遺伝子型CのHBVが持続感染しているヒト肝臓キメラマウスに1回投与し、そのHBV阻害活性および毒性を評価した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の脂質膜構造体を構成する脂質としては、例えば、リン脂質、糖脂質、ステロール、又は飽和若しくは不飽和の脂肪酸などが挙げられるが、これらに限定されることはない。

【0019】
リン脂質及びリン脂質誘導体としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファリジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン、プラスマロゲン、ホスファチジン酸などを挙げることができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらリン脂質における脂肪酸残基は特に限定されないが、例えば、炭素数12~20の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を挙げることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。また、卵黄レシチン、大豆レシチンなどの天然物由来のリン脂質を用いることもできる。

【0020】
糖脂質としては、例えば、グリセロ糖脂質(例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド)、スフィンゴ糖脂質(例えば、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド)などが挙げられる。

【0021】
ステロールとしては、例えば、動物由来のステロール(例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール)、植物由来のステロール(フィトステロール)(例えば、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール)、微生物由来のステロール(例えば、チモステロール、エルゴステロール)などが挙げられる。

【0022】
飽和又は不飽和の脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸などの炭素数12~20の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられる。また、オレイルアルコール、ステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、リノリルアルコールなどの飽和又は不飽和の脂肪族アルコールを用いることもできる。さらに、モノアシルグリセリドなどのグリセリン脂肪酸エステル、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性脂質、両帯電性脂質や非帯電性脂質を含む中性脂質などを用いてもよい。脂質膜構造体に使用可能な脂質類などについては、特開2013-245190号公報に具体例が挙げられている。上記公開公報の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。

【0023】
脂質膜構造体の形態は特に限定されないが、例えば、水系溶媒に分散した形態として一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、又は不定型の層状構造物などを挙げることができる。本発明の脂質膜構造体の好ましい形態としてリポソームを挙げることができる。以下、本発明の脂質膜構造体の好ましい態様としてリポソームについて説明する場合があるが、本発明の脂質膜構造体はリポソームに限定されることはない。

【0024】
脂質膜構造体の表面をポリアルキレングリコールで修飾することによりリポソームの血中滞留性を高めることができる。その手段については、例えば、特開平1-249717号公報、特開平2-149512号公報、特開平4-346918号公報、特開2004-10481号公報などに記載されている。ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールなどを用いることができる。ポリアルキレングリコールの分子量は、例えば300~10,000程度、好ましくは500~10,000、さらに好ましくは1,000~5,000程度である。

【0025】
ポリアルキレングリコールによる脂質膜構造体の表面修飾は、例えばポリアルキレングリコール修飾脂質を脂質膜構成脂質として用いて脂質膜構造体を構築することにより容易に行なうことができる。例えば、ポリエチレングリコールによる修飾を行う場合にはステアリル化ポリエチレングリコール(例えばステアリン酸PEG45(STR-PEG45)など)を用いることができる。その他、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、n-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000]-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-750]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-[カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000]-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミンなどのポリエチレングリコール誘導体などを用いることもできるが、ポリアルキレングリコール化脂質はこれらに限定されることはない。

【0026】
本発明の脂質膜構造体の製造にあたり、標的細胞選択性リガンドを結合させた上記ポリアルキレングリコールを用いることもできる。ポリアルキレングリコールによる表面修飾を行うにあたり、使用するポリアルキレングリコールの全部又はその一部のポリアルキレングリコールに標的細胞選択性リガンドを結合させることができる。ポリアルキレングリコールに標的細胞選択性リガンドを結合させる位置は特に限定されないが、好ましくはポリアルキレングリコールの先端部分である。本明細書においてポリアルキレングリコールの「先端部」とは、ポリアルキレングリコールの両末端のうち、脂質膜構造体に結合していない側の末端付近を意味している。一般的には直鎖状のポリアルキレングリコールの末端部分、あるいは分枝鎖状のポリアルキレングリコールについては主鎖又は側鎖の末端部分に標的細胞選択性リガンドを結合することができる。標的細胞選択性リガンドは1個のポリアルキレングリコールに複数個結合していてもよい。

【0027】
標的細胞選択性リガンドをポリアルキレングリコールに結合する手段は特に限定されないが、例えばステアリル化ポリエチレングリコールなど適当なリン脂質が縮合したポリアルキレングリコールの末端にマレイミド基を導入しておき、そのマレイミド基に対して標的細胞選択性リガンドのチオール基、アミノ基、又は水酸基などの反応性官能基を反応させることができる。標的細胞選択性リガンドとしてオリゴペプチドを用いる場合には、例えば、オリゴペプチドのN末端又はC末端のシステイン(Cys)残基のチオール基を反応させることが好ましい。その典型的な反応例を本明細書の実施例に示した。例えば、J. Pharm., 281, pp.25-33, 2004にはトランスフェリンを結合したPEGで修飾したリポソームが開示されており、J. Pharm., 342, 194-200, 2007にはFab化抗体を結合したPEGで修飾したリポソームが開示されているので、これらの刊行物を参照することにより、当業者は容易ににPEGにリガンドを結合して脂質膜構造体を修飾することができる。標的細胞選択性リガンドの結合量は特に限定されず、リガンド及びレセプターの種類、リガンドとレセプターとの結合力、結合特異性、標的細胞の種類、送達すべき物質の種類などに応じて適宜選択することが可能であり、例えば本明細書の実施例に記載された具体的な手法により任意のリガンドについて適宜の修飾量を決定することができる。例えば標的細胞選択性リガンドを結合したポリアルキレングリコールの修飾量を10~15 mol%程度とすることにより好ましい結果が得られる場合がある。

【0028】
本明細書において、「標的細胞」とは本発明の脂質膜構造体を用いて核酸や医薬などの物質を送達すべき標的となる細胞を意味している。標的細胞の種類は特に限定されず、送達すべき物質の種類や物質送達の目的などに応じて、適宜の細胞を標的とすることができる。例えば、標的細胞は組織や臓器を形成する細胞であってもよく、あるいは白血病細胞のように単独で存在する細胞であってもよい。固形がん細胞のように正常組織に腫瘍を形成している細胞やリンパ組織や他の組織に浸潤している細胞などであってもよい。本発明において好ましい標的細胞は、肝実質細胞である。

【0029】
本発明の脂質膜構造体には、例えば、温度変化感受性機能、膜透過機能、遺伝子発現機能、及びpH感受性機能などのいずれか1つ又は2つ以上の機能を付与することができる。これらの機能を適宜付加することにより、例えば遺伝子を含む核酸などを内包する脂質膜構造体の血液中での滞留性を向上させ、肝臓や脾臓などの細網内皮系組織による捕捉率を低下させるとともに、標的細胞におけるエンドサイトーシスの後にエンドソームから効率的に脂質膜構造体を脱出させて細胞質内に移行させることができ、さらには核内において高い遺伝子発現活性を達成することも可能になる場合がある。このような手段については、例えば、国際公開WO2111/135905及び国際公開WO2013/140643などに具体的に記載されている。これらの国際公開の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。

【0030】
本発明の脂質膜構造体は、構成脂質として上記の一般式(I)で表される化合物を含むことを特徴としている。一般式(I)で表される化合物は、本明細書の実施例に具体的に示した方法に従って当業者が容易に入手できる化合物である。一般式(I)で表される化合物は酸付加塩の形態で調製されてもよい。また、水和物や溶媒和物の形態で調製される場合もある。一般式(I)で表される化合物において、Rは式(A)又は(B)で表される基を示し、nは2~4の整数を示し、mは2~5の整数を示すが、好ましくはRは式(A)で表される基であり、nは2又は3である。いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、一般式(I)で表される化合物は各炭化水素鎖に2つの不飽和結合を有し、2つの炭化水素鎖同士が炭素-炭素二重結合を介して結合することで疎水性部位の立体的嵩高さが強調されるという特徴があり、この構造的な特徴により、この化合物を構成脂質として含む脂質膜構造体はエンドソーム膜と効率的に膜融合することが可能となる。また、疎水性部位と親水性部位とをつなぐリンカーであるエステル結合と、第3級アミンとをつなぐ炭素鎖の炭素数が異なることで、様々な脂質膜pKaを示すという特徴がある。

【0031】
本発明の脂質膜構造体において、一般式(I)で表される化合物を1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。脂質構造体の脂質膜を一般式(I)で表される化合物だけで構成することも可能であるが、一般的には上記に説明した脂質との適宜の組み合わせにより脂質膜を構成することが好ましい。例えば、構成脂質の全モル量に対して一般式(I)で表される化合物の割合が20~90モル%程度とすることができ、より好ましくは 45~75モル%程度であり、所望のpH依存性カチオン性が十分に付与されることを指標にして配合量を決定することもできる。脂質膜構造体がpH依存性カチオン性を有するか否かは、定法に従って確認することができるが、例えば、負荷電性のTNS試薬を用いて簡便に確認することができる。TNS試薬はカチオン性の脂質膜に入り込んで蛍光を発する試薬である。種々のpHとなるよう調製した緩衝液中で脂質膜構造体とTNS試薬とを混合した後、緩衝液の蛍光強度を測定することにより、測定した蛍光強度と緩衝液のpHとの相関関係を確認し、pHが小さいほど蛍光強度が大きい場合は、当該脂質膜構造体がpH依存性カチオン性を有すると判断することができる。

【0032】
多機能性を付加したエンベロープ型ナノ構造体(MEND)が知られており、本発明の脂質膜構造体として好適に使用することができる。MENDは、例えば、プラスミドDNAなどの核酸とプロタミンなどのカチオン性ポリマーとの複合体をコアとし、このコアがリポソーム形態の脂質エンベロープ膜の内部に封入された構造を有している。MENDの脂質エンベロープ膜には、必要に応じてpH応答性や膜透過性を調節するためのペプチドを配置することができ、脂質エンベロープ膜の外側表面はポリエチレングリコールなどのアルキレングリコールで修飾することができる。MENDの脂質エンベロープの内部には、凝縮化されたDNA及びカチオン性ポリマーが封入されており、効率的に遺伝子発現を達成できるように設計されている。本発明に好適に使用可能なMENDとしては、所望の遺伝子を組み込んだプラスミドDNAとプロタミンとの複合体が内部に封入され、脂質エンベロープの外側表面がオリゴ糖結合PEGで修飾されたMENDが好ましい。また、siRNAを内包し、pH応答性カチオン性脂質YSK05を脂質組成に含むYSK05-MENDが開発されている(J. Control. Release, 163, pp.267-276, 2012; Yakugaku Zasshi, 132, pp.1355-1363, 2012)。本発明の脂質膜構造体の製造にあたっては、YSK05-MENDを開示した上記刊行物を参照することができる。MENDについては、例えばDrug Delivery System, 22-2, pp.115-122, 2007などの総説を参照することができる。上記刊行物の開示及びこの総説において引用された全ての文献の開示を参照により本明細書の開示として含める。

【0033】
脂質膜構造体の形態は特に限定されないが、例えば、水系溶媒(例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水など)に分散された形態やこの水性分散物を凍結乾燥した形態などが挙げられる。

【0034】
脂質膜構造体の製造方法も特に限定されず、当業者に利用可能な任意の方法を採用することができる。一例を挙げれば、全ての脂質成分をクロロホルムなどの有機溶媒に溶解し、エバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって脂質膜を形成した後、水系溶媒を乾燥した上記の混合物に添加し、さらにホモジナイザーなどの乳化機、超音波乳化機、又は高圧噴射乳化機などにより乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することができる。脂質膜構造体の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルターなどを用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。分散した状態の脂質膜構造体の大きさは特に限定されないが、例えば、リポソームの場合には粒子径が50 nmから5μm程度であり、50 nmから400 nm程度が好ましく、50 nmから300 nm程度が好ましい。例えば抗腫瘍剤などの医薬を内包したリポソームでは粒子径が200 nmから400 nm程度であることが好ましい場合があり、粒子径が300 nm程度であることが特に好ましい場合がある。また、粒子径として150 nmから250 nm程度がさらに好ましい場合もある。粒子径は、例えばDLS(dynamic light scattering)法により測定することができる。

【0035】
水系溶媒(分散媒)の組成は特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩液などの緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などを挙げることができる。これら水系溶媒(分散媒)は脂質膜構造体を安定に分散させることができるが、さらに、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトースなどの二糖類、ラフィノース、メレジノースなどの三糖類、シクロデキストリンなどの多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコールなどの糖(水溶液)や、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)などを加えてもよい。この水系溶媒に分散した脂質膜構造体を安定に長期間保存するには、凝集抑制などの物理的安定性の面から水系溶媒中の電解質を極力排除することが望ましい。また、脂質の化学的安定性の面からは水系溶媒のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0から8.0程度)に設定し、及び/又は窒素バブリングなどにより溶存酸素を除去することが望ましい。

【0036】
得られた脂質膜構造体の水性分散物を凍結乾燥又は噴霧乾燥する場合には、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトースなどの二糖類、ラフィノース、メレジノースなどの三糖類、シクロデキストリンなどの多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコールなどの糖(水溶液)を用いると安定性を改善できる場合がある。また、上記水性分散物を凍結する場合には、例えば、前記の糖類やグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)を用いると安定性を改善できる場合がある。

【0037】
本発明の脂質膜構造体、例えばリポソームの内部には、標的細胞の細胞質内に送達すべき物質を内包させることができる。内包すべき物質の種類は特に限定されないが、抗腫瘍剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗ウイルス剤などの任意の医薬の有効成分のほか、糖類、ペプチド類、核酸類、低分子化合物、金属化合物など任意の物質を内包させることができる。本発明の脂質膜構造体のうち、特に核酸類を内包する脂質膜構造体が好ましいが、核酸類としてはDNA又はRNAのほか、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)やホスホロチオエートDNAなど)が包含される。核酸は一本鎖又は二本鎖のいずれであってもよく、線状又は環状のいずれであってもよい。核酸には遺伝子が含まれていてもよい。遺伝子としては、オリゴヌクレオチド、DNA、又はRNAのいずれでもよく、特に形質転換などのイン・ビトロにおける導入用遺伝子や、イン・ビボで発現することにより作用する遺伝子、例えば、相同組換え用の正常遺伝子などの遺伝子治療用遺伝子などを挙げることができる。治療用の核酸としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスDNA、アンチセンスRNA、酵素、サイトカインなどの生理活性物質をコードする遺伝子のほか、遺伝子の発現を調節する機能を有する核酸、例えばsiRNAなどのRNAなどを含む機能性核酸を用いることもでき、これらも本明細書における核酸の用語に含める。本明細書において「核酸」の用語は最も広義に解釈する必要があり、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。

【0038】
本発明の脂質膜構造体をB型肝炎の予防及び/又は治療のための医薬組成物として使用する場合には、B型肝炎の予防及び/又は治療を可能にするsiRNAを内包させることが好ましい。例えば、効率的なB型肝炎ウイルス(HBV)抑制を達成するため、多種類のHBV遺伝子配列の比較から高度に保存されている領域を見いだし、それらの領域を標的とするsiRNAを作製することができる。本明細書の実施例にその具体的な手法を示した。本発明の脂質膜構造体にはB型肝炎の予防及び/又は治療を可能にするsiRNAを2種以上組み合わせて内包させてもよい。

【0039】
また、本発明の脂質膜構造体に核酸を封入する場合には、核酸導入機能を有する化合物を加えることもできる。このような化合物としては、例えば、O,O'-N-ジドデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジヘキサデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジオクタデセノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O',O''-トリデカノイル-N-(ω-トリメチルアンモニオデカノイル)アミノメタンブロミド及びN-[α-トリメチルアンモニオアセチル]-ジドデシル-D-グルタメート、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル)-N,N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、3-β-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロールなどを挙げることができる。これらの核酸導入機能を有する化合物は、脂質膜構造体の膜の任意の位置に配置されていてもよく、及び/又は脂質膜構造体の内部に充填されていてもよい。

【0040】
例えば、B型肝炎の予防及び/又は治療を可能にするsiRNAを内包させた本発明の脂質膜構造体は、標的細胞である肝実質細胞の細胞質内にsiRNAを効率的に送達することができるので、この脂質膜構造体をヒトを含む哺乳類動物に投与することにより、肝実質細胞の細胞質内にsiRNAを効率的に送達して、B型肝炎の予防及び/又は治療を達成することができる。投与方法は特に限定されないが、非経口投与が好ましく、静脈内投与がさらに好ましい。本発明の脂質膜構造体を医薬として使用する場合には、例えば、適宜の製剤用添加物とともに医薬組成物の形態の医薬を調製して投与することができる。

【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
式(I)の化合物のうちRが式(A)の基である化合物(YSK13)を以下の合成スキームに示す方法に従ってリノレン酸から合成した。得られた化合物の物理化学的性状は以下のとおりである。
n=2の場合(YSK13-C2)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) d: 5.66 (1H, s), 5.29-5.41 (8H, m), 4.17 (2H, t), 2.77 (4H, t), 2.58 (2H, t), 2.29 (6H, s), 1.97-2.13 (12H, m), 1.20-1.47 (36H, m), 0.88 (6H, t) ppm.
n=3の場合(YSK13-C3
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d: 5.60 (1H, s), 5.29-5.40 (8H, m), 4.10 (2H, t), 2.76 (4H, t), 2.57 (2H, t), 2.33 (2H, t), 2.21 (6H, s), 2.12 (2H, t), 1.97-2.09 (8H, m), 1.81 (2H, m), 1.20-1.45 (36H, m), 0.88 (6H, t) ppm.
n=4の場合(YSK13-C4)
1H NMR (400 MHz, CDCl3) d: 5.59 (1H, s), 5.27-5.40 (8H, m), 4.08 (2H, t), 2.76 (4H, t), 2.56 (2H, t), 2.28 (2H, t), 2.21 (6H, s), 2.12 (2H, t), 1.97-2.09 (8H, m), 1.65 (2H, m), 1.20-1.45 (38H, m), 0.88 (6H, t) ppm.

【0042】
【化3】
JP0006384863B2_000004t.gif

【0043】
式(I)の化合物のうちRが式(B)の基である化合物(YSK15)を以下の合成スキームに示す方法に従ってリノレン酸から合成した。得られた化合物の物理化学的性状は以下のとおりである。
m=2の場合(YSK15-C2)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) d: 5.28-5.41 (9H, m), 4.59 (2H, d), 2.77 (4H, t), 2.61 (2H, t), 2.47 (2H, t), 2.23 (6H, s), 1.94-2.07 (12H, m), 1.20-1.42 (36H, m), 0.88 (6H, t) ppm.
m=3の場合(YSK15-C3)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) d: 5.28-5.41 (9H, m), 4.58 (2H, d), 2.76 (4H, t), 2.32 (2H, t), 2.28 (2H, t), 2.20 (6H, s), 1.95-2.08 (12H, m), 1.78 (2H, m), 1.20-1.40 (36H, m), 0.88 (6H, t) ppm.
m=4の場合(YSK15-C4)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) d: 5.28-5.41 (9H, m), 4.58 (2H, d), 2.76 (4H, t), 2.32 (2H, t), 2.28 (2H, t), 2.20 (6H, s), 1.95-2.10 (12H, m), 1.64 (2H, m), 1.49 (2H, m), 1.20-1.40 (36H, m), 0.88 (6H, t) ppm.
m=5の場合(YSK15-C5)
1H NMR (500 MHz, CDCl3) d: 5.28-5.41 (9H, m), 4.58 (2H, d), 2.76 (4H, t), 2.35-2.57 (6H, br), 2.31 (2H, t), 1.93-2.09 (12H, m), 1.63 (4H, m), 1.20-1.40 (40H, m), 0.88 (6H, t) ppm.

【0044】
【化4】
JP0006384863B2_000005t.gif

【0045】
例2
例1で得られたYSK13を構成脂質に含むMENDを以下のようにして製造した。YSK13-MENDはアルコール希釈法を用いて調製した。総脂質量が1545 nmolとなるようにYSK13、コレステロール(chol)、メトキシエチレングリコール2000(PEG-DMG)を含む90% tert-ブタノール溶液400 μLに、撹拌下でsiRNA 40μgを含む水溶液200μLを添加した。さらに20 mMクエン酸緩衝液(pH4.0) 2 mLに、撹拌下で脂質-siRNA混合溶液を注入した。続いて10-14 mLのPBSを添加後に限外濾過精製を計2回行った。調製したYSK13-MENDの平均粒子径は80 nm程度、siRNA封入率は90%程度であった。

【0046】
0.5 mMの脂質濃度に調整したsiRNA未封入YSK13-MEND、0.6 mM 6-(p-トルイジノ)-2-ナフタレンスルホン酸ナトリウム(TNS)、20 mM緩衝液(3.5≦pH≦9.5)をそれぞれ12μL、4μL、184μLずつ混合し、蛍光強度を測定した(excitation: 321 nm、emission: 447 nm)。その結果、YSK13-C2-MEND、YSK13-C3-MEND、YSK13-C4-MENDの脂質膜pKaはそれぞれ5.70、6.45、6.80を示した(図1)。YSK15-C2-MEND、YSK15-C3-MEND、YSK15-C4-MEND、YSK15-C5-MENDの脂質膜pKaはそれぞれ5.80、6.65、7.10、7.25を示した (図1B) 。また、YSK15-C2とYSK15-C3を2:5のモル比で混合して調製したMENDの脂質膜pKaは6.45を示した。

【0047】
肝実質細胞特異的遺伝子である第7凝固因子(FVII)に対するsiRNA(siFVII)を封入したYSK13-MENDを0.03 mg siRNA/kgでICRマウス(雄性、4週齢)に静脈内投与し、48 hr後に採血し血漿を得た。呈色反応により血漿中FVII酵素活性を測定した。その結果、YSK13-MEND及びYSK15-MENDは共に脂質膜pKa 6.45で最大活性を示した(図2A及び2B)。また、YSK13-C3-MENDは50%有効量(ED50)で0.015 mg/kgを示し、公知のYSK05-MENDと比較して4倍高い活性を有していた。また、YSK13-C3-MENDは、Alnylam社pH応答性脂質MC3を用いたキャリアと同程度の高い活性を有していた(図2C)。

【0048】
Cy5標識siRNA又はDiDで蛍光標識したYSK13-MENDをICRマウス(雄性、4週齢)に0.5 mg siRNA/kgで静脈内投与し、30 min後の肝臓、肺、腎臓、脾臓を回収した。各組織ホモジネート中のCy5(図3A)又はDiD(図3B)由来の蛍光強度を測定することで、YSK13-MENDの各組織への移行量を評価した。その結果、いずれのYSK13-MENDも大部分が肝臓へ移行し、その中でもYSK13-C3-MENDにおいてsiRNAの最も高い肝臓移行性が認められた。

【0049】
Cy5標識siRNA封入YSK13-MENDをICRマウス(雄性、4週齢)に1 mg siRNA/kgで静脈内投与し、25 min後にFITC標識イソレクチンB4を40μg/mouseで静脈内投与し、さらに5 min後に肝臓を回収した。肝臓をHoechst33342で核染色後、共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いてsiRNAの肝臓内分布を観察した。その結果、脂質膜pKaの比較的低いYSK13-C2-MENDとYSK13-C3-MENDは血管外に存在する肝実質細胞へ多く移行していた(図4A及びB)。脂質膜pKaの高いYSK13-C4-MENDの多くは血管に局在しており、肝実質細胞への移行量はYSK13-C2-MEND及びYSK13-C3-MENDに比べて少なかった(図4C)。

【0050】
YSK13-C3-MENDをICRマウス(雄性、4週齢)に1 mg siRNA/kgで静脈内投与し、24時間後に血液を回収した。遠心分離法により得られた血清中のaspartate aminotransferase(AST)及びalanine aminotransferase(ALT)活性を呈色反応により定量することで肝毒性を評価した(図5A及びB)。また、全身的な毒性の指標としてYSK13-C3-MEND投与直前から24時間後の体重変化を算出した(図5C)。その結果、YSK13-C3-MENDの投与による肝毒性及び全身毒性は観察されなかった。ED50の約100倍量である1 mg/kgの投与量において毒性が認められなかったことから、YSK13-C3-MENDは広い治療域を有することが示された。

【0051】
例3
siRNAの合成にあたり、標的領域の設定は次の16種類の遺伝子配列を比較して高度に保存している領域を選択した(Genotype A: AB246338, AY161149, X51970, AM282986, AF297621; Genotype B: AB246341, AB073858, AB033554, D00329, D00330, AF100309; Genotype C: AB246345, AB048704, AB014381, AY123041, AB033556, AB231908)(図6)。選択された領域について25塩基からなるsiRNAを合成した(ライフテクノロジーズジャパン)。合成したアンチセンスsiRNAの配列情報を次に示す。
5'-uugagagaaguccaccacgagucua-3' (si249)
5'-aauugagagaaguccaccacgaguc-3' (si251)
5'-ucaagauguuguacagacuuggccc-3' (si758)
5'-cagaggugaagcgaagugcacacgg-3' (si1575)
5'-gugaaaaaguugcauggugcuggug-3' (si1804)
5'-uuuccggaaguguugauaagauagg-3' (si2312)
5'-uaaaguuucccaccuuaugagucca-3' (si2460)
また、陰性コントロールとして siRNA 5'-cuaauacaggccaauacauuu-3'を用いた。

【0052】
合成したHBV-siRNAsをYSK13-C3-MENDに封入した。これをHBVが持続感染しているヒト肝臓キメラマウス初代培養肝細胞へ1回添加してHBV阻害活性を評価した。評価はsiRNA添加後4、7、11、及び14日目の培養上清中HBs抗原、HBe抗原、HBV-DNA量の変化を定量することで行った。阻害活性の程度を図7に示した。HBs抗原は si251、si1575、及びsi1804 siRNAs の投与により遺伝子型A、B、及びCともに14日間にわたり減少した(図7B)。HBe抗原は si251、si1575及びsi1804、si2312、si2460、siRNAs の投与により、遺伝子型A、Cともに14日間にわたり減少した(図7C)。HBV-DNAは si251、si1575及び si1804、si2312、si2460、siRNAsの投与により遺伝子型A、B、及びCともに14日間にわたり減少した(図7D)。以上のとおり、合成したHBV-siRNAsをYSK13-C3-MENDに封入した場合には、エンテカビルに匹敵する高いHBV DNA抑制効果及びエンテカビルを上回るHBsAg及びHBeAgの減少が認められた。

【0053】
合成したHBV-siRNAsを3種類(si758, si1804, si2460)混合してYSK13-C3-MENDに封入した。これを遺伝子型CのHBVが持続感染しているヒト肝臓キメラマウス個体へ5mg/kgで1回投与し、そのHBV阻害活性を評価した(図8A)。評価はsiRNA添加後1, 3, 5, 7, 10日目の血清中HBV-DNA量の変化を定量することで行った。この間の体重及びALTの変化は認められず、安全性に問題は無かった(図8B)。1回の投与で10日間にわたり血清中のHBs抗原、HBe抗原、HBV-DNA産生が強く阻害されていた(図8C)。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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