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明細書 :蓄電残量推定装置、蓄電池の蓄電残量を推定する方法、及びコンピュータプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6555773号 (P6555773)
公開番号 特開2016-099123 (P2016-099123A)
登録日 令和元年7月19日(2019.7.19)
発行日 令和元年8月7日(2019.8.7)
公開日 平成28年5月30日(2016.5.30)
発明の名称または考案の名称 蓄電残量推定装置、蓄電池の蓄電残量を推定する方法、及びコンピュータプログラム
国際特許分類 G01R  31/3842      (2019.01)
G01R  31/367       (2019.01)
G01R  31/374       (2019.01)
G01R  31/36        (2019.01)
H01M  10/48        (2006.01)
H02J   7/00        (2006.01)
FI G01R 31/3842
G01R 31/367
G01R 31/374
G01R 31/36 ZHV
H01M 10/48 P
H02J 7/00 X
請求項の数または発明の数 5
全頁数 27
出願番号 特願2014-233606 (P2014-233606)
出願日 平成26年11月18日(2014.11.18)
審査請求日 平成29年11月16日(2017.11.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
発明者または考案者 【氏名】福井 正博
個別代理人の代理人 【識別番号】100111567、【弁理士】、【氏名又は名称】坂本 寛
【識別番号】110000280、【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
審査官 【審査官】續山 浩二
参考文献・文献 特開2014-178213(JP,A)
国際公開第2014/084117(WO,A1)
特開2007-187534(JP,A)
国際公開第2011/118080(WO,A1)
特表2014-520254(JP,A)
特開2008-10420(JP,A)
林 磊 LEI LIN,リチウムイオン蓄電池の高精度残量予測システムの開発と実装 Development and Implementation of Accurate SOC Estimation System for Lithium-ion Batteries,電子情報通信学会技術研究報告 Vol.114 No.59 IEICE Technical Report,日本,一般社団法人電子情報通信学会 The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers,2014年 5月22日,Vol.114 No.59
石崎 龍 Ryu Ishizaki,温度変動を考慮したリチウムイオン蓄電池の高精度残量予測システム An Accurate SOC Estimation System for Lithium-ion Batteries Considering Thermal Variation,電池討論会講演要旨集 第55回,内本 喜晴 (公社)電気化学会 電池技術委員会,2014年11月19日
調査した分野 G01R 31/36-31/396
H01M 10/48
H02J 7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
蓄電池の蓄電残量を推定する蓄電残量推定装置であって、
前記蓄電池の状態を観測する観測部と、
前記蓄電池をモデル化した等価回路に基づいて前記蓄電池の状態を表した状態ベクトルと、前記観測部の観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルとに基づき、カルマンフィルタを用いて前記状態ベクトルを更新し、前記蓄電池の蓄電残量を推定する推定部と、を備え、
前記状態ベクトルは前記蓄電残量を含み、
前記推定部は、前記等価回路においてモデル化された前記蓄電池の内部インピーダンスを、前記内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させ、
前記内部インピーダンスに影響を与える値は、前記蓄電池の温度と、前記推定部によって更新された前記状態ベクトルに含まれる前記蓄電残量と、を含み、
前記推定部は、以下のアレニウスの式に基づいて、前記内部インピーダンスを変化させる
アレニウスの式:内部インピーダンス=A×eB/RT
ここで、Rは、気体定数、Tは前記蓄電池の温度、A及びBは係数であり、Aは、前記蓄電残量の関数である
蓄電残量推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記等価回路において前記蓄電池の内部インピーダンスを表すための要素に対して設定される設定値の内、2以上の設定値を前記内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させる請求項1に記載の蓄電残量推定装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記状態ベクトルを繰り返し更新する中で、前記等価回路においてモデル化された前記蓄電池の内部インピーダンスを、前記状態ベクトルを更新するたびに前記内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させる請求項1から請求項のいずれか一項に記載の蓄電残量推定装置。
【請求項4】
蓄電池の蓄電残量を推定する方法であって、
前記蓄電池の状態を観測する観測ステップと、
前記蓄電池をモデル化した等価回路に基づいて前記蓄電池の状態を表した状態ベクトルと、前記観測ステップの観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルとに基づき、カルマンフィルタを用いて前記状態ベクトルを更新し、前記蓄電池の蓄電残量を推定する推定ステップと、を含み、
前記状態ベクトルは前記蓄電残量を含み、
前記推定ステップは、前記等価回路においてモデル化された前記蓄電池の内部インピーダンスを、前記内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させ、
前記内部インピーダンスに影響を与える値は、前記蓄電池の温度と、前記推定ステップで更新された前記状態ベクトルに含まれる前記蓄電残量と、を含み、
前記推定ステップは、以下のアレニウスの式に基づいて、前記内部インピーダンスを変化させる
アレニウスの式:内部インピーダンス=A×eB/RT
ここで、Rは、気体定数、Tは前記蓄電池の温度、A及びBは係数であり、Aは、前記蓄電残量の関数である
蓄電池の蓄電残量を推定する方法。
【請求項5】
蓄電池の蓄電残量を推定する処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータに、
前記蓄電池の状態を観測する観測ステップと、
前記蓄電池をモデル化した等価回路に基づいて前記蓄電池の状態を表した状態ベクトルと、前記観測ステップの観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルとに基づき、カルマンフィルタを用いて前記状態ベクトルを更新し、前記蓄電池の蓄電残量を推定する推定ステップと、を実行させるためのコンピュータプログラムであり、
前記状態ベクトルは前記蓄電残量を含み、
前記推定ステップは、前記等価回路においてモデル化された前記蓄電池の内部インピーダンスを、前記内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させ、
前記内部インピーダンスに影響を与える値は、前記蓄電池の温度と、前記推定ステップで更新された前記状態ベクトルに含まれる前記蓄電残量と、を含み、
前記推定ステップは、以下のアレニウスの式に基づいて、前記内部インピーダンスを変化させる
アレニウスの式:内部インピーダンス=A×eB/RT
ここで、Rは、気体定数、Tは前記蓄電池の温度、A及びBは係数であり、Aは、前記蓄電残量の関数である
コンピュータプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン蓄電池等の蓄電池の蓄電残量を推定するための装置、及びその方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車等の増加や、太陽光発電の普及に伴って、電気エネルギーを貯蔵するための蓄電池の重要性が高まっている。
蓄電池は、当該蓄電池が組み込まれる各種装置に対して電力を安定して供給することが求められるため、その状態を管理する必要がある。
蓄電池において管理すべき状態としては、蓄電池の温度や、蓄電残量(蓄電率)、劣化状態等が挙げられるが、これらの内、特に、蓄電率(SOC:State of Charge)は、蓄電池の状態を示す基本的パラメータであり、その推定については高い精度が要求される。
【0003】
このため、蓄電池のSOCの推定方法としては、従来から出力電圧法や、内部抵抗法、電流積算法といった推定方法が提案されているが、より高精度なSOC推定を実現するために、カルマンフィルタを用いて蓄電池のSOCを推定するという方法が採られることがある(例えば、非特許文献1参照)。
カルマンフィルタを用いたSOCの推定方法では、高精度に残量予測が可能である上に、蓄電池の初期残量が未知であったとしても、残量予測が可能であるという利点を有している。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Dai Haifeng Wei Xuezhe Sun Zechang、「State and Parameter Estimation of a HEV Li-ion Battery Pack Using Adaptive Kalman Filter with a New SOC-OCV Concept」、2009 International Conference on Measuring Technology and Mechatronics Automation Volume2、IEEE Computer Society、2009年4月、p.375-380
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カルマンフィルタを用いたSOCの推定方法は、まず、対象の蓄電池をモデル化した等価回路を設定し、設定した等価回路に含まれる複数の要素によって表現される蓄電池の状態について推定する。次いで、推定した蓄電池の状態と観測した蓄電池の状態との間の誤差を求めつつ新たに蓄電池の状態を推定し、推定される蓄電池の状態を逐次更新することで行われる。
【0006】
上記蓄電池の等価回路は、抵抗素子や容量素子を組み合わせることで当該蓄電池の内部インピーダンスを表現するが、これら素子の特性は、一般に定数として取り扱われる。
しかし、実際の蓄電池の内部インピーダンスは、電池の状態によって変化することが考えられ、この変化が、蓄電池のSOCの推定精度を低下させている要因の1つとなっている可能性がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、蓄電池のSOCをより高精度で推定することができる蓄電残量推定装置、蓄電池の蓄電残量を推定する方法、及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、蓄電池の蓄電残量を推定する蓄電残量推定装置であって、前記蓄電池の状態を観測する観測部と、前記蓄電池をモデル化した等価回路に基づいて前記蓄電池の状態を表した状態ベクトルと、前記観測部の観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルとに基づき、カルマンフィルタを用いて前記状態ベクトルを更新し、前記蓄電池の蓄電残量を推定する推定部と、を備え、前記推定部は、前記等価回路においてモデル化された前記蓄電池の内部インピーダンスを、前記内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させることを特徴としている。
【0009】
上記のように構成された蓄電残量推定装置によれば、推定部が、等価回路においてモデル化された蓄電池の内部インピーダンスを、内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させるので、上記従来例のように内部インピーダンスを定数として設定した場合と比較して、推定部が更新する状態ベクトルを蓄電池の実際の状態により近似させることができる。この結果、蓄電残量をより高精度で推定することができる。
【0010】
(2)上記蓄電残量推定装置において、前記推定部は、前記等価回路において前記蓄電池の内部インピーダンスを表すための要素に対して設定される設定値の内、2以上の設定値を前記内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させることが好ましい。
この場合、内部インピーダンスをより詳細に変化させることができ、推定部が更新する状態ベクトルを蓄電池の実際の状態にさらに近似させることができる。
【0011】
(3)(4)(5)また、前記内部インピーダンスに影響を与える値は、前記蓄電池の温度であってもよいし、前記推定部が推定した前記蓄電池の蓄電残量であってもよい。
さらに、前記内部インピーダンスに影響を与える値が前記蓄電池の温度、及び前記推定部が推定した前記蓄電池の蓄電残量の両方であってもよい。
【0012】
(6)さらに、前記推定部は、前記状態ベクトルを繰り返し更新する中で、前記等価回路においてモデル化された前記蓄電池の内部インピーダンスを、前記内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させるものであってもよい。
【0013】
(7)また、本発明は、蓄電池の蓄電残量を推定する方法であって、前記蓄電池の状態を観測する観測ステップと、前記蓄電池をモデル化した等価回路に基づいて前記蓄電池の状態を表した状態ベクトルと、前記観測ステップの観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルとに基づき、カルマンフィルタを用いて前記状態ベクトルを更新し、前記蓄電池の蓄電残量を推定する推定ステップと、を含み、前記推定ステップは、前記等価回路においてモデル化された前記蓄電池の内部インピーダンスを、前記内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させることを特徴としている。
【0014】
(8)また、本発明は、蓄電池の蓄電残量を推定する処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータに、前記蓄電池の状態を観測する観測ステップと、前記蓄電池をモデル化した等価回路に含まれる複数の要素によって前記蓄電池の状態を表した状態ベクトルと、前記観測ステップの観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルとに基づき、カルマンフィルタを用いて前記状態ベクトルを更新し、前記蓄電池の蓄電残量を推定する推定ステップと、を実行させるさせるためのコンピュータプログラムであり、前記推定ステップは、前記等価回路においてモデル化された前記蓄電池の内部インピーダンスを、前記内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させることを特徴としている。
【0015】
上記のように構成された蓄電池の蓄電残量を推定する方法及びコンピュータプログラムによれば、蓄電池のSOCをより高精度で推定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、蓄電池の蓄電残量をより高精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】蓄電池システムのブロック図である。
【図2】制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】残量推定部による処理において用いられる、蓄電池の等価回路モデルを示す図である。
【図4】蓄電池におけるSOCとOCVとの関係を示す測定値の一例を示すグラフである。
【図5】実際の蓄電池の内部インピーダンスの測定結果を示したナイキスト線図を模式的に示した図である。
【図6】(a)は、内部インピーダンスの測定に用いた実際の蓄電池の仕様を示す図であり、(b)は、内部インピーダンスの測定条件を示す図である。
【図7】実際の蓄電池の内部インピーダンスを測定することによって得たナイキスト線図の一例である。
【図8】蓄電池の内部インピーダンスを測定することで得た抵抗素子の抵抗値Rと、環境温度及びSOCとの関係を示した図である。
【図9】蓄電池の内部インピーダンスを測定することで得た抵抗素子の抵抗値Rと、環境温度及びSOCとの関係を示した図である。
【図10】蓄電池の内部インピーダンスを測定することで得たキャパシタの容量Cと、環境温度及びSOCとの関係を示した図である。
【図11】抵抗値Rにおける係数Aの近似値を求めた結果を示す図である。
【図12】抵抗値Rにおける係数Bの近似値を求めた結果を示す図である。
【図13】抵抗値Rにおける係数Aの近似値を求めた結果であって、係数Bを定数として係数Aの近似値を求めた結果を示す図である。
【図14】(a)は、図8、図9、及び図10で示した測定結果に基づいて、上記手法によって抵抗値R、抵抗値R、及び容量Cの両係数A、Bを求めた結果の一例を示す図であり、(b)は、抵抗値R、及び容量Cの両係数A、Bを求めた結果の一例を示す図である。
【図15】残量推定部が実行する、カルマンフィルタを用いた蓄電池の状態推定の処理手順を示す図である。
【図16】検証試験の試験条件を示す図である。
【図17】検証試験における充放電パターンを示す図である。
【図18】環境温度を15度に設定したときに、検証試験によって得られた誤差の経時変化を示すグラフである。
【図19】環境温度を25度に設定したときに、検証試験によって得られた誤差の経時変化を示すグラフである。
【図20】環境温度を35度に設定したときに、検証試験によって得られた誤差の経時変化を示すグラフである。
【図21】環境温度を45度に設定したときに、検証試験によって得られた誤差の経時変化を示すグラフである。
【図22】各実験例の環境温度ごとの誤差率の平均値を求めた結果を示す図である。
【図23】図22に示す各実験例の環境温度ごとの誤差率の平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔1 システムの構成について〕
図1は、蓄電池システムのブロック図である。図中、蓄電池システム1は、蓄電池2と、蓄電池管理装置3とを備えている。

【0019】
蓄電池2は、リチウムイオン電池の単位セルを単一又は複数直列して構成したものであり、その両端端子4に図示しない充電器を接続することによって直流電力を蓄電するとともに、両端端子4に充電器に替えて図示しない負荷を接続することによって蓄電した直流電力を前記負荷に対して放電する。

【0020】
蓄電池管理装置3は、蓄電池2が放電する直流電力の電流値を測定するための電流センサ5と、蓄電池2の端子間電圧を測定するための電圧センサ6と、蓄電池2の環境温度を測定するための温度センサ9と、蓄電池2の状態管理に関する処理を行う制御部7と、蓄電池2の状態管理に関する処理結果を出力する出力部8とを備えている。

【0021】
電流センサ5は、蓄電池2が充放電する際の直流電力の電流値を計測し、計測結果を示す計測信号を制御部7に与える。
電圧センサ6は、蓄電池2が充放電する際の直流電力の電流値を計測し、計測結果を示す計測信号を制御部7に与える。
温度センサ9は、現状の蓄電池2周囲の温度である環境温度を測定し、測定結果を示す信号を制御部7に与える。

【0022】
制御部7は、各センサ5,6,9から与えられる計測信号に基づいて、蓄電池2の蓄電残量を推定したり蓄電池2の劣化度合を推定し、蓄電池2の状態を推定する処理を実行するとともにその推定結果を管理する処理を実行する。

【0023】
図2は、制御部7の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、制御部7は、プロセッサ等を含む処理部10と、ROMやRAM等からなる記憶部11と、入出力部12とを備えており、マイコンによって構成されている。
記憶部11には、制御部7を動作させるために必要なオペレーティングシステムの他、制御部7が有する機能を実現するための各種コンピュータプログラムが記憶されている。
入出力部12は、各センサ5,6,9からの計測信号を受け取る機能を有している。入出力部12が受け取った信号は、記憶部11に記憶されるとともに処理部10によって各種処理に利用される。
処理部10は、記憶部11に記憶されているコンピュータプログラムを実行することで、以下の各機能が実現される。

【0024】
処理部10は、図2に示すように、残量推定部15と、管理処理部16とを機能的に有している。
残量推定部15は、蓄電池2の蓄電残量を推定する処理を実行するための機能を有している。残量推定部15は、両センサ5,6からの計測信号に基づいて、蓄電池2の状態を取得し、蓄電池2の蓄電残量を示す値である蓄電率(以下、単にSOCともいう)の推定値を求める。つまり、本実施形態の蓄電池管理装置3は、蓄電池2の蓄電残量を推定する蓄電残量推定装置を構成している。

【0025】
管理処理部16は、残量推定部15が求めたSOCの推定値や、両センサ5,6からの計測信号に基づいて、蓄電池2の劣化度合を推定する。さらに、管理処理部16は、SOCの推定値や推定した劣化度合といった蓄電池2の状態に関する情報を入出力部12を介して出力部8(図1)に出力させたり、蓄電池2の状態に関する情報を記憶部11に記憶して管理する機能を有している。

【0026】
〔2 蓄電池のSOCの推定処理について〕
残量推定部15は、上述のように蓄電池2のSOCの推定値を求める処理を実行する。
残量推定部15は、蓄電池2をモデル化した等価回路に含まれる種々のパラメータを用いて蓄電池2の状態を推定する。
さらに、残量推定部15は、両センサ5,6からの計測信号に基づいて、蓄電池2の観測値を取得する。
次いで、残量推定部15は、推定した蓄電池2の状態と、両センサ5,6からの計測信号に基づいた蓄電池2の観測値とに基づき、カルマンフィルタを用いて再度蓄電池2の状態を推定し、推定した蓄電池2の状態を更新する。
残量推定部15は、逐次推定される蓄電池2の状態に基づいて、蓄電池2のSOCの推定値を取得する。

【0027】
〔2.1 蓄電池2の等価回路モデルについて〕
図3は、残量推定部15による処理において用いられる、蓄電池2の等価回路モデルを示す図である。
図中、等価回路モデル20は、電源21と、抵抗素子22と、第1RC回路23と、第2RC回路24とを有して構成されている。
電源21は、理想電源によって構成されており、無負荷状態の蓄電池2の電圧である開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage,以下、単にOCVともいう)を表現している。

【0028】
抵抗素子22は、蓄電池2の内部抵抗を表現しており、蓄電池2の電解質の抵抗等の直流成分を設定するためのものである。
第1RC回路23は、抵抗素子23aとキャパシタ23bとを並列に接続して構成されている。第1RC回路23は、蓄電池2の電荷移動過程における動的な挙動を表現している。
第2RC回路24は、抵抗素子24aとキャパシタ24bとを並列に接続して構成されている。第2RC回路24は、蓄電池2の拡散過程における動的な挙動を表現している。

【0029】
ここで、OCVをuOCV、抵抗素子22の抵抗値をR、抵抗素子23aの抵抗値をR、抵抗素子24aの抵抗値をR、キャパシタ23bの容量をC、キャパシタ24bの容量をCで表したとすると、第1RC回路23の両端電圧u、及び、第2RC回路24の両端電圧uを微分方程式で表すと、下記式(1)、式(2)となる。
また、等価回路モデル20によって表現される蓄電池2の両端電圧Uは、下記式(3)のように表すことができる。

【0030】
【数1】
JP0006555773B2_000002t.gif

【0031】
なお、上記式(1)~(3)中、iは、等価回路モデル20から外部に放電される電流である。

【0032】
〔2.2 蓄電池2の開放電圧について〕
制御部7は、SOCとOCVとの関係を示す関数を記憶部11に記憶している。制御部7は、後述するSOCの推定処理を実行するために必要な情報として、前記関数を記憶している。

【0033】
前記関数は、蓄電池2を用いた実験によって得たSOCとOCVとの関係を示す測定値から回帰的に求められる。
以下、前記関数の求め方について説明する。

【0034】
まず、SOCが0%の状態の蓄電池2に対して、蓄電池2に作用する負荷が無視できる程度の微小電流で充電したときの蓄電池2の電圧値を連続的に測定する。さらに、SOCが100%の状態の蓄電池2に対して、蓄電池2に作用する負荷が無視できる程度の微小電流で放電したときの蓄電池2の電圧値を連続的に測定する。

【0035】
次いで、これら充電時に測定された電圧値と、放電時に測定された電圧値との間で、互いに対応する値の平均値を求め、この平均値で構成される電圧値とSOCとの関係を、蓄電池2を充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す測定値として取得する。

【0036】
図4は、蓄電池2におけるSOCとOCVとの関係を示す測定値の一例を示すグラフである。図中、横軸はSOC(%)、縦軸はOCV(V)である。
図中、充電時に測定された電圧値をプロットして得た曲線L1と、放電時に測定された電圧値をプロットして得た曲線L2とは、同じSOCのときのOCVの値が僅かに乖離している。
蓄電池2を充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す測定値は、上述のように、充電時に測定された電圧値と、放電時に測定された電圧値との平均値で構成されている。よって、蓄電池2を充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す曲線L3は、上記曲線L1と、曲線L2との間に位置している。

【0037】
さらに、上記のように求めた蓄電池2を充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す測定値を、例えば最小二乗法等によって、下記式(4)に示す多項式に回帰させることで、前記関数を求める。

【0038】
【数2】
JP0006555773B2_000003t.gif

【0039】
以上のようにして、SOCとOCVとの関係を示す関数であるOCV(SOC)は求められる。
制御部7は、SOCとOCVとの関係を示す関数である上記式(4)で回帰されたOCV(SOC)を記憶している。なお、本実施形態では、OCVは、式(4)に示すように12次の多項式によって回帰されている。

【0040】
〔2.3 蓄電池2における分極の影響について〕
等価回路モデル20では、一定の電流iで一定時間放電させた後に当該電流iの放電を除去(停止)したときからの電圧変化には、等価回路モデル20の第1RC回路23及び第2RC回路24によって表される分極による電圧が含まれる。分極による電圧を考慮した第1RC回路23の両端電圧u、及び第2RC回路24の両端電圧uは、下記式(5)、(6)のように表すことができる。

【0041】
【数3】
JP0006555773B2_000004t.gif

【0042】
なお、上記式(5)中、u(0)及びu(0)は、電流iを除去した瞬間の電圧であり、τと、τは、下記の通りである。
τ = R
τ = R

【0043】
放電の時間が十分に長くなると、u(0)及びu(0)は、iR及びiRに近似することができる。
よって、等価回路モデル20によって表現される蓄電池2の両端電圧Uは、上記式(4)から回帰される関数OCV(SOC)と、上記式(3)とに基づいて、下記式(7)のように表すことができる。

【0044】
【数4】
JP0006555773B2_000005t.gif

【0045】
〔2.4 等価回路モデルにおける内部インピーダンスの変化について〕
蓄電池2の等価回路モデル20における内部インピーダンスは、図3に示すように、抵抗素子22、第1RC回路23、及び第2RC回路24によって表される。
等価回路モデル20における内部インピーダンスは、当該内部インピーダンスを表すための要素である、抵抗素子22、第1RC回路23の抵抗素子23a、第1RC回路23のキャパシタ23b、第2RC回路24の抵抗素子24a、及び第2RC回路24のキャパシタ24bの各設定値(内部パラメータ)によって定まる。

【0046】
つまり、抵抗素子22の抵抗値R、抵抗素子23aの抵抗値R、キャパシタ23bの容量C、抵抗素子24aの抵抗値R、及びキャパシタ24bの容量Cは、蓄電池2の内部インピーダンスを表すための各要素に対して設定される内部パラメータ(設定値)である。

【0047】
これに対して、実際の蓄電池2の内部インピーダンスは、当該蓄電池2における内的要因や外的要因に応じて変化することが考えられる。
そこで、本実施形態の制御部7は、等価回路モデル20の内部インピーダンスを定める各内部パラメータと、蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値との関係を示した情報を記憶部11に記憶している。
制御部7は、後述するSOCの推定処理を実行する際に、記憶部11に記憶した各内部パラメータと蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値との関係を示した情報を参照し、そのときの蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値に応じて各内部パラメータを変化させ、等価回路モデル20によってモデル化された蓄電池2の内部インピーダンスを変化させる。

【0048】
記憶部11に記憶されている、各内部パラメータと蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値との関係を示した情報は、実際の蓄電池2を用いて内部インピーダンスを測定し、これによって得たナイキスト線図に基づいて取得する。

【0049】
以下に、各内部パラメータと蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値との関係を示す情報を取得するために行った方法の一例を説明する。なお、ここでは、蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値として、蓄電池2の環境温度及びSOCを採用し、各内部パラメータが蓄電池2の環境温度及びSOCの変化に応じてどのように変化するかを把握し、各内部パラメータの定式化を行った。

【0050】
実際の蓄電池の内部インピーダンスは、交流電圧を印可しその周波数を変化させながらてインピーダンスを測定する交流インピーダンス法によって測定した。
図5は、実際の蓄電池の内部インピーダンスの測定結果を示したナイキスト線図を模式的に示した図である。図中、横軸は蓄電池の内部インピーダンスにおける抵抗的成分(Z’)、縦軸は容量的成分(Z’’)を示している。

【0051】
図に示すように、内部インピーダンスを測定した結果を示す線図L4は、点Pの地点から容量的成分が立ち上がっている第1の半円状部分L41と、第1の半円状部分L41に繋がっている第2の半円状部分L42とを有する線図で構成されている。なお、周波数は、線図L上、紙面右側から左側に向かって大きくなっている。

【0052】
抵抗的成分が0から点Pまでの範囲は、実際の蓄電池の電解質の抵抗等の直流成分によって現れている範囲である。
よって、抵抗素子22の抵抗値Rに相当する値は、点Pにおける抵抗的成分の値を読み取ることで得ることができる。
また、第1の半円状部分L41は、実際の蓄電池の電荷移動過程における動的な挙動が現れている部分である。
よって、第1RC回路23の抵抗素子23aの抵抗値Rに相当する値は、第1の半円状部分L41に沿って描くことができる半円状の仮想線Mが横軸と交わっている点Qにおける抵抗的成分の値を読み取ることで得ることができる。

【0053】
第1RC回路23のキャパシタ23bの容量Cに相当する値は、下記式(8)によって求めることができる。なお、式(8)中のfは、容量的成分が最大のときの周波数である。
= 1/(2πRf) ・・・(8)

【0054】
また、第2の半円状部分L42は、実際の蓄電池の拡散過程における動的な挙動が現れている部分である。
よって、第2RC回路24の抵抗素子24aの抵抗値Rに相当する値は、第2の半円状部分L42に基づいて求めることができるが、この第2の半円状部分L42は、第1の半円状部分L41のように半円状とはならず直線状となって現れる。このため、線図L4上において予め定めた特定の周波数の点Sにおける抵抗的成分の値を抵抗値Rとし、この抵抗値Rに基づいてキャパシタ24bの容量Cを求める。

【0055】
以上のように、蓄電池の内部インピーダンスの測定結果であるナイキスト線図を読み取ることで、抵抗素子22の抵抗値R、抵抗素子23aの抵抗値R、キャパシタ23bの容量C、抵抗素子24aの抵抗値R、キャパシタ24bの容量Cそれぞれに相当する値を取得することができる。

【0056】
図6(a)は、内部インピーダンスの測定に用いた実際の蓄電池の仕様を示す図である。測定に用いた実際の蓄電池としては、図6(a)に示す通りであり、公称容量2250mAh、公称電圧3.6Vのリチウムイオン電池を用いた。

【0057】
交流インピーダンス法による内部インピーダンスの測定は、以下の手順で行った。すなわち、まず、上記蓄電池を所定の環境温度に設定した後、交流電圧を印可しその周波数を変化させながらてインピーダンスを測定する。次いで、SOCを0.1減らした後、電圧回復を待つために3時間放置し、再度インピーダンス測定を行うという手順を満充電状態(出力電圧3.2V)から出力電圧が3.0Vになるまで繰り返し行った。

【0058】
図6(b)は、内部インピーダンスの測定条件を示す図である。交流インピーダンス法において印可した交流電圧の周波数は、図6(b)に示すように、3kHzから0.08Hzまでの間で変化させた。

【0059】
図7は、実際の蓄電池の内部インピーダンスを測定することによって得たナイキスト線図の一例である。図7では、複数の環境温度それぞれによって内部インピーダンスを測定したときのナイキスト線図を重ねて示している。
図7に示すような実測によって得たナイキスト線図を上述の手法によって読み取ることで、予め設定された環境温度及びSOCにおける各内部パラメータを取得する。

【0060】
以上のようにして、予め設定した各環境温度(0度から5度毎に45度まで)それぞれについて、実際の蓄電池の内部インピーダンスをSOCを変化させつつ測定した。
これによって、各内部パラメータそれぞれにおける、環境温度及びSOCに応じた変化を取得することができる。

【0061】
図8は、蓄電池の内部インピーダンスを測定することで得た抵抗素子22の抵抗値Rと、環境温度及びSOCとの関係を示した図である。
図9は、蓄電池の内部インピーダンスを測定することで得た抵抗素子23aの抵抗値Rと、環境温度及びSOCとの関係を示した図である。
図10は、蓄電池の内部インピーダンスを測定することで得たキャパシタ23bの容量Cと、環境温度及びSOCとの関係を示した図である。

【0062】
図8では、横軸は温度(環境温度)、縦軸は抵抗値Rの値を示している。図9では、横軸は温度(環境温度)、縦軸は抵抗値Rの値を示している。図10では、横軸は温度(環境温度)、縦軸は容量Cの値を示している。
図8、図9、及び図10は、それぞれSOCの値ごとに抵抗値又は容量と、環境温度との関係を示している。

【0063】
ここで、蓄電池の内部の反応は化学反応であるため、内部パラメータの変化はアレニウスの法則に従うと仮定し、下記式(9)に示すように、各内部パラメータと蓄電池の状態である環境温度及びSOCとの関係をそれぞれアレニウスの式によって近似化することによって定式化した。

【0064】
【数5】
JP0006555773B2_000006t.gif

【0065】
なお、上記式(9)において、Rは気体定数、Tは絶対温度である。
上記定式化は、上記式中、各内部パラメータと環境温度及びSOCとの関係に近似し得る係数Aと係数Bとを特定することによって行った。
例えば、抵抗値Rについて定式化を行う場合、まず、図8にて示した抵抗値Rと、環境温度及びSOCとの関係を表す測定結果を用いる。
抵抗値Rと、環境温度及びSOCとの関係を表す測定結果をSOCごとに上記式(9)に導入し、最小二乗法を適用して式(9)に含まれる係数Aと係数Bとの近似関数を求め、係数A及び係数Bの各SOCごとの近似値を求める。

【0066】
図11は、抵抗値Rにおける係数Aの近似値を求めた結果を示す図である。
図12は、抵抗値Rにおける係数Bの近似値を求めた結果を示す図である。
図11及び図12は、それぞれSOCの値ごとに係数A及び係数Bの近似値を示している。

【0067】
上記のように、最小二乗法を適用して式(9)に含まれる係数A及び係数Bの近似値をSOCごとに求めた後、係数Bについては、SOCごとに求められた値を互いに合計して平均値を求め、これを係数Bの値として採用する。

【0068】
図13は、抵抗値Rにおける係数Aの近似値を求めた結果であって、係数Bを定数として係数Aの近似値を求めた結果を示す図である。
つまり、上記で求めた係数Bを式(9)に定数として代入し、各SOCごとにAを求めると、図13に示すように、係数AとSOCの値との間には相関が認められる。
そこで、さらに、係数AとSOCとの近似関数を最小二乗法により求める。
求められた係数AとSOCとの近似関数によって、係数Aは、SOCの関数として表現することができる。

【0069】
以上のようにして、係数AはSOCの関数として求め、係数Bは定数として求める。
求めた係数A及び係数Bは、上記式(9)に代入することで、内部パラメータである抵抗値Rを蓄電池2の環境温度及びSOCの関数として定式化することができる。
なお、他の内部パラメータである抵抗値R、及び容量Cも同様の手法によって係数A及び係数Bを求め、定式化することができる。

【0070】
また、抵抗素子24aの抵抗値R、及びキャパシタ24bの容量Cについても、定式化する必要がある。
これらについては、上述したように、予め定めた特定の周波数における抵抗値を抵抗素子24aの抵抗値Rとしているが、他の内部パラメータと同様、これら値を用いてアレニウスの式によって近似化し、蓄電池2の環境温度及びSOCの関数として定式化した。

【0071】
図14(a)は、図8、図9、及び図10で示した測定結果に基づいて、上記手法によって抵抗値R、抵抗値R、及び容量Cの両係数A、Bを求めた結果の一例を示す図である。
また、図14(b)は、抵抗値R、及び容量Cの両係数A、Bを求めた結果の一例を示す図である。

【0072】
図14に示すように、各内部パラメータは、これら係数A及び係数Bを式(9)に代入することよって、蓄電池2の環境温度及びSOCの関数として定式化される。
また、これら係数A及び係数Bを代入した式(9)は、各内部パラメータを、蓄電池2の環境温度及びSOCの関数として表現している。さらに、変数である蓄電池2の環境温度及びSOCは、互いに独立した変数となっている。

【0073】
上記のようにして求めた、定式化された各内部パラメータは、各内部パラメータと蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値との関係を示した情報として、記憶部11に記憶される。
制御部7は、SOCの推定処理を実行する際に、記憶部11に記憶した各内部パラメータと蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値との関係を示した情報である、定式化された各内部パラメータを示す情報を参照し、そのときの蓄電池2の環境温度、及びSOCに応じて各内部パラメータを変化させ、等価回路モデル20でモデル化された蓄電池2の内部インピーダンスを変化させる。

【0074】
〔2.5 蓄電池2の状態について〕
制御部7の残量推定部15は、蓄電池2の状態を離散時間領域におけるシステムとして表現し、これをカルマンフィルタに与えることで、蓄電池2の状態推定を実行する。
下記式(10)、(11)は、残量推定部15がSOCの推定処理を実行する上で想定される、蓄電池2の状態を表すシステムモデルを示しており、式(10)は、蓄電池2の状態を示すシステム状態方程式、式(11)は、蓄電池2の観測値に係る観測方程式を示している。これら式(8)、(9)で示されるシステムモデルは、非線形モデルである。

【0075】
【数6】
JP0006555773B2_000007t.gif

【0076】
上記式(10)中、xは、離散時間領域における時刻kの蓄電池2の状態を示す状態ベクトル、f(x)は、時刻kにおける状態ベクトルxと次の時刻k+1の状態ベクトルxk+1との関係を示す遷移関数、bは定数、uは外部からの制御入力、ωはシステムノイズである。

【0077】
また、上記式(11)中、yは時刻kにおける蓄電池2の観測値を表した観測ベクトル、h(x)は、時刻kの状態ベクトルxと観測ベクトルyとの関係を示す観測関数、vは観測ノイズである。

【0078】
上記式(10)、(11)に示すように、残量推定部15は、蓄電池2の状態を時間領域で離散化した上で、蓄電池2の状態推定を実行する。

【0079】
上記式(10)、(11)中、状態ベクトルxは、下記式(12)のように設定される。また、観測ベクトルyは、下記式(13)に示すように、上記式(7)の蓄電池2の両端電圧Uに設定される。

【0080】
【数7】
JP0006555773B2_000008t.gif

【0081】
上記式(12)に示すように、状態ベクトルxは、等価回路モデル20に含まれる複数の要素である、SOC(k)や、第1RC回路23の両端電圧u、及び第2RC回路24の両端電圧uによって蓄電池2の状態を表している。

【0082】
ここで、上記式(1)、(2)を前進オイラー法によって数値解析し、第1RC回路23の両端電圧u、及び、第2RC回路24の両端電圧uの単位時間経過前後の関係を求めると、下記式(14)、(15)のように表される。

【0083】
【数8】
JP0006555773B2_000009t.gif

【0084】
なお、上記式(14)、(15)中、kは離散時間領域における時刻、Δtはサンプリング時間である。
このように、本実施形態では、等価回路モデル20に含まれる第1RC回路23の両端電圧u、及び、第2RC回路24の両端電圧uは、時間領域で離散化されることによって、時刻kを変数に持つ線形関数によって表現されている。
また、状態ベクトルxに含まれるSOC(k)も、時刻kに対して線形である。さらに、状態ベクトルxに含まれる内部抵抗Rは定数である。
このように、状態ベクトルxを構成している、等価回路モデル20に含まれる複数の要素である、SOC(k)、第1RC回路23の両端電圧u、及び第2RC回路24の両端電圧uは、蓄電池2の状態に応じた変数である時刻kを変数に持つ線形関数で表現され、蓄電池2の内部抵抗Rは、定数によって表現されている。
つまり、等価回路モデル20に含まれる複数の要素は、蓄電池2の状態に応じた変数(時刻k)を持つ関数によって表現されるものを含み、その全ての関数は線形関数である。

【0085】
さらに、上記式(14)、(15)を、上記式(10)に導入することで、蓄電池2の状態方程式は、下記式(16)のように表される。

【0086】
【数9】
JP0006555773B2_000010t.gif

【0087】
なお、上記式(16)中、Cは、蓄電池2の容量である。
また、観測方程式は、上記式(7)及び式(13)より、下記式(17)のように表される。

【0088】
【数10】
JP0006555773B2_000011t.gif

【0089】
なお、式(17)中、i(k)は、時刻kにおいて測定された蓄電池2の放電電流、u(k)は、時刻kにおける第1RC回路23の両端電圧、u(k)は、時刻kにおける第2RC回路24の両端電圧である。
また、OCV(SOC)は、蓄電池2を実際に充放電させたときのSOCとOCVとの関係を示す測定値から回帰的に求めた関数である。
さらに、R(SOC,T)は、定式化された内部パラメータとしての抵抗素子22の抵抗値R0であり、SOC及び環境温度Tの関数として表現されている。
つまり、観測方程式は、実際に両センサ5,6等によって計測(観測)された蓄電池2の観測値が反映されており、観測ベクトルyは、観測部としての両センサ5,6の観測結果に基づいた観測値を表している。

【0090】
上記式(16)で表されるシステムモデルは線形モデルである。このように、蓄電池2の状態を表すシステムモデルは、非線形モデルである上記式(10)に、上記式(14)、(15)を導入することで、線形モデルに変換される。

【0091】
〔2.6 蓄電池2の状態推定について〕
制御部7の残量推定部15は、偏微分による線形化近似する拡張カルマンフィルタによって蓄電池2の状態推定を実行する。
よって、蓄電池2の状態方程式である上記式(16)は、xによって偏微分される。下記式(18)は、式(16)をxによって偏微分した結果を、Aとして示している。

【0092】
【数11】
JP0006555773B2_000012t.gif

【0093】
また、観測方程式である上記式(17)も、xによって偏微分される。下記式(19)は、式(17)をxによって偏微分した結果を、Cとして示している。

【0094】
【数12】
JP0006555773B2_000013t.gif

【0095】
残量推定部15は、上記式(18)、(19)に基づいて、カルマンフィルタを用いて蓄電池2の状態推定を実行する。

【0096】
図15は、残量推定部15が実行する、カルマンフィルタを用いた蓄電池2の状態推定の処理手順を示す図である。
なお、本明細書中において以下に示す事前推定値x^(k)、事後推定値x^(k)、事前誤差共分散P(k)は、図15中においては、下記のように表示されている。

【0097】
【数13】
JP0006555773B2_000014t.gif

【0098】
残量推定部15は、図15に示すように、まず、蓄電池2の状態の推定値である事後推定値x^の初期値x^(0)と、後述の処理に用いる事後誤差共分散Pの初期値P(0)を設定する。

【0099】
蓄電池2の初期状態を示す、事後推定値x^の初期値x^(0)と、事後誤差共分散Pの初期値P(0)とを設定すると、残量推定部15は、図15中、予測ステップに進む。

【0100】
残量推定部15は、予測ステップにおいて、図15の予測ステップ中に示されている式に従って、事後推定値x^の初期値x^(0)と、事後誤差共分散Pの初期値P(0)とを用いて、次の時刻(k+1)における蓄電池2の状態の推定値である事前推定値x^(k+1)と、事前誤差共分散P(k+1)とを求める。
なお、事前推定値x^(k+1)、及び事後推定値x^(k+1)は、蓄電池2の状態を示す状態ベクトルである。
また、図15の予測ステップにおいて、事前誤差共分散P(k+1)を示す式中のδで示される項は、システムノイズに関する項である。

【0101】
事前推定値x^(k+1)と、事前誤差共分散P(k+1)とを求めると、残量推定部15は、図15中、フィルタリングステップに進む。
フィルタリングステップに進んだ残量推定部15は、カルマンフィルタを用いて、事前推定値x^(k+1)、及び事前誤差共分散P(k+1)を更新し、これらを更新した事後推定値x^(k+1)と、事後誤差共分散P(k+1)を求める。

【0102】
フィルタリングステップにおいて、残量推定部15は、図15のフィルタリングステップ中に示されている式によって定義されるカルマンゲインg(k+1)を求める。
また、残量推定部15は、事前推定値x^(k+1)を更新した事後推定値x^(k+1)を求める。残量推定部15は、図15のフィルタリングステップ中の事後推定値x^(k+1)を示している式のように、カルマンゲインg(k+1)と、実際の観測値が反映される観測方程式の誤差値とに基づいて事前推定値x^(k+1)を修正し更新することで、事後推定値x^(k+1)を求める。
なお、カルマンゲインg(k+1)を示す式に含まれているδで示される項は、観測ノイズに関する項である。

【0103】
さらに、残量推定部15は、事前誤差共分散P(k+1)を更新した事後誤差共分散P(k+1)を求める。残量推定部15は、図15のフィルタリングステップ中の事後誤差共分散P(k+1)を示している式のように、カルマンゲインg(k+1)に基づいて事前誤差共分散P(k+1)を更新することで、事後誤差共分散P(k+1)を求める。

【0104】
残量推定部15は、カルマンゲインg(k+1)、事後推定値x^(k+1)、及び事後誤差共分散P(k+1)を求めた後、事後推定値x^(k)に含まれるSOCを参照し、これを蓄電池2のSOCの推定値として取得する。
次いで、残量推定部15は、図15中、更新ステップに進み、フィルタリングステップにて取得した蓄電池2のSOC、及び温度センサ9から得られる現状の蓄電池2の環境温度に応じて、カルマンフィルタを用いた蓄電池2の状態推定に用いられる各式に含まれている蓄電池2の各内部パラメータ(抵抗値R、抵抗値R、容量C、抵抗値R、容量C)を変化させる。

【0105】
上述したように、制御部7の記憶部11には、環境温度及びSOCの関数として定式化された各内部パラメータに関する情報が、各内部パラメータと蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値との関係を示した情報として記憶されている。
残量推定部15は、更新ステップにおいて、記憶部11に記憶されている定式化された各内部パラメータを示す情報を参照し、フィルタリングステップにて取得した蓄電池2のSOC及び現状の蓄電池2の環境温度に応じて蓄電池2の各内部パラメータ(内部インピーダンス)を変化させる。

【0106】
残量推定部15は、更新ステップにおいて、現状の蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値(SOC及び現状の蓄電池2の環境温度)に応じて各内部パラメータを変化させた後、「k+1」を「k」に更新し、再度予測ステップに戻る。残量推定部15は、フィルタリングステップにて更新された事後推定値x^(k)と、事後誤差共分散P(k)とを用いて、再度、次の時刻における事前推定値x^(k+1)と、事前誤差共分散P(k+1)とを求める。

【0107】
以降、残量推定部15は、上述の予測ステップ、フィルタリングステップ、及び更新ステップを繰り返すことで、事後推定値x^(k)、及び事後誤差共分散P(k)を繰り返し更新する。
これにより、残量推定部15は、蓄電池2の状態を示す状態ベクトルである事後推定値x^(k)を繰り返し推定する。
また、残量推定部15は、事後推定値x^(k)を繰り返し更新する中で、等価回路モデル20においてモデル化された蓄電池2の内部インピーダンス(各内部パラメータ)を、内部インピーダンスに影響を与える値(SOC及び現状の蓄電池2の環境温度)に応じて変化させる。

【0108】
残量推定部15は、フィルタリングステップにおいて、事後推定値x^(k)が逐次推定更新されるごとに蓄電池2のSOCの推定値を取得する。
残量推定部15は、取得したSOCの推定値を管理処理部16に与えたり、入出力部12を介して出力部8に出力させたりする。

【0109】
以上のように、残量推定部15は、等価回路モデル20に含まれる複数の要素によって蓄電池2の状態を表した状態ベクトルxと、観測結果に基づいた観測値を表した観測ベクトルyとに基づき、カルマンフィルタを用いて蓄電池2の状態を更新し、蓄電池2のSOCを推定する。

【0110】
〔3 効果について〕
本実施形態の蓄電池管理装置3によれば、残量推定部15が、等価回路モデル20においてモデル化された蓄電池2の内部インピーダンスを、蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値としてのSOC及び蓄電池2の環境温度に応じて変化させるので、上記従来例のように内部インピーダンスを定数として設定した場合と比較して、残量推定部15が更新する状態ベクトルxを蓄電池2の実際の状態により近似させることができる。この結果、蓄電残量をより高精度で推定することができる。

【0111】
また、本実施形態において、残量推定部15は、内部インピーダンスを表すための各要素に対して設定される各内部パラメータの内、2以上の内部パラメータをSOC及び蓄電池2の環境温度に応じて変化させるので、内部インピーダンスをより詳細に変化させることができ、残量推定部15が更新する状態ベクトルxを蓄電池2の実際の状態にさらに近似させることができる。

【0112】
なお、上記実施形態では、蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値として、蓄電池2の環境温度及び蓄電池2のSOCの両方を採用した場合を例示したが、少なくともいずれか一方を、蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値として採用してもよい。

【0113】
また、上記実施形態では、内部パラメータである抵抗値R、抵抗値R、容量C、抵抗値R、容量Cの全てを蓄電池2の内部インピーダンスに影響を与える値に応じて変化させる場合を例示したが、例えば、各内部パラメータの内、第2RC回路24に関する値である抵抗値R、容量Cを固定値とし、他の内部パラメータについては変化させるといったように、各内部パラメータの内の一部を固定値としてもよい。

【0114】
〔4 検証試験について〕
次に、本発明者らが行った、蓄電池管理装置3によるSOCの推定精度についての検証試験について説明する。
蓄電池管理装置3によってSOCの推定値を求めさせる方法として、以下に示す3つの実験例を設定した。
実験例1 : 抵抗値R、抵抗値R、容量C、抵抗値R、容量Cを、環境温度及びSOCに応じて変化させた場合
実験例2 : 抵抗値R、抵抗値R、容量Cを、環境温度及びSOCに応じて変化させた場合
実験例3 : 抵抗値R、抵抗値R、容量C、抵抗値R、及び容量Cについて、環境温度を25度で固定した上で、SOCに応じて変化させた場合

【0115】
試験方法としては、制御部7を小型のマイコン等によって構成した蓄電池システム1を用意し、蓄電池2を満充電にした状態から充放電装置を用いて所定のパターンで下限電圧まで放電させる。その間に得られる蓄電池2の観測値等を蓄電池管理装置3に与え、蓄電池管理装置3に蓄電池2のSOCの推定値を求めさせる。
蓄電池2としては、図6に示した仕様のリチウムイオン電池を用いた。
また、推定値に対する真値としては、前記充放電機が測定した蓄電池2の蓄電残量を真値とした。

【0116】
試験条件としては、図16に示すように、蓄電池2の環境温度として、15度、25度、35度、45度を設定した。
また、充放電機に実行させる充放電パターンは、図17に示すように、ランダムパルスパターンに設定した。
評価方法としては、蓄電池管理装置3が推定するSOCと、充放電機による真値との間の誤差率を求め、この誤差率を比較することによって評価を行った。

【0117】
図18は、環境温度を15度に設定したときに、検証試験によって得られた誤差率の経時変化を示すグラフである。
図19は、環境温度を25度に設定したときに、検証試験によって得られた誤差率の経時変化を示すグラフである。
図20は、環境温度を35度に設定したときに、検証試験によって得られた誤差率の経時変化を示すグラフである。
図21は、環境温度を45度に設定したときに、検証試験によって得られた誤差率の経時変化を示すグラフである。
図18から図21において、横軸は満充電から放電を開始したときの経過時間、縦軸は誤差率を示している。

【0118】
また、図22は、各実験例の環境温度ごとの誤差率の平均値を求めた結果を示す図であり、図23は、図22に示す各実験例の環境温度ごとの誤差率の平均値を示すグラフである。図23において、左上がりの細かいハッチングで示された棒グラフは実験例1、右上がりの粗いハッチングで示された棒グラフは実験例2、黒塗りの棒グラフは実験例3を示している。

【0119】
図18から図23に示すように、各内部パラメータをSOCのみに応じて変化させた実験例3と、各内部パラメータを環境温度及びSOCに応じて変化させた実験例1及び実験例2と比較すると、各環境温度において、実験例1及び実験例2の方が、実験例3と比較して誤差率が小さくなっており、各内部パラメータ(内部インピーダンス)を、蓄電池の状態を示す値である環境温度及びSOCに応じて変化させることで、より誤差率を小さくすることができ、高い精度でSOCを推定できることが確認できる。

【0120】
また、各内部パラメータを環境温度に応じて変化させた場合についてみると、図19中、実験例3は、環境温度を25度で固定した上で、SOCに応じて変化させたものである。よって、各内部パラメータの値は環境温度(25度)に対応した値となっている。このため、誤差率は比較的小さい値で安定している。

【0121】
これに対して、環境温度をそれぞれ15度、35度、及び45度に設定した図18、図20、及び図21中の実験例3では、内部パラメータの値が環境温度に応じた値となっていない。このため、これらの誤差率は、図22、図23に示すように、環境温度を25度に設定した試験における実験例3と比較して大きい値となっている。
また、図18、図20、及び図21において、各内部パラメータの値を環境温度及びSOCに応じて変化させた実験例1及び実験例2と、実験例3とを比較すると、実験例1及び実験例2の方が、実験例3よりも誤差率が小さくなっている。

【0122】
これら結果から、蓄電池2の環境温度に応じて各内部パラメータ(内部インピーダンス)を変化させることで、より誤差率を小さくすることができ、高い精度でSOCを推定できることを確認できる。

【0123】
次に、各内部パラメータをSOCに応じて変化させた場合についてみると、図18中、実験例3は、上述したように、環境温度を25度で固定した上で、SOCに応じて変化させたものであるので、各内部パラメータの値は、環境温度が15度である場合におけるSOCに応じた値となっていない。
一方、図18中、実験例1及び実験例2は、各内部パラメータの値が、環境温度及びSOCに応じた値となっている。

【0124】
ここで、図18中、実験例1及び実験例2と、実験例3とを比較すると、各内部パラメータがSOCに応じた値となっている実験例1及び実験例2の方が、誤差率の平均値が低い値となっており、かつ誤差率の経時変化も安定して現れている。
また、図20、図21においても同様の結果となっている。

【0125】
これら結果から、蓄電池2のSOCに応じて各内部パラメータ(内部インピーダンス)を変化させることで、安定した高い精度でSOCを推定できることを確認できる。

【0126】
以上の試験結果から、本実施形態によれば、より安定した精度でSOCを推定できるとともに、より高い精度でSOCを推定できることが確認できた。

【0127】
〔6 その他〕
本発明は、上記各実施形態に限定されない。例えば、上記各実施形態では、蓄電池2としてリチウムイオン電池を用いた場合を示したが、他の種類の蓄電池に対しても本実施形態の蓄電池管理装置3は適用可能である。
【符号の説明】
【0128】
1 蓄電池システム
2 蓄電池
3 蓄電池管理装置
5 電流センサ
6 電圧センサ
7 制御部
9 温度センサ
10 処理部
15 残量推定部
20 等価回路モデル
22 抵抗素子
23a 抵抗素子
23b キャパシタ
24a 抵抗素子
24b キャパシタ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22