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明細書 :抗酸化機能を有するエピジェネティクコントロールキャリアによる慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6731730号 (P6731730)
公開番号 特開2016-130238 (P2016-130238A)
登録日 令和2年7月9日(2020.7.9)
発行日 令和2年7月29日(2020.7.29)
公開日 平成28年7月21日(2016.7.21)
発明の名称または考案の名称 抗酸化機能を有するエピジェネティクコントロールキャリアによる慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療
国際特許分類 A61K  31/7088      (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  31/713       (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61K  47/18        (2006.01)
A61K  47/22        (2006.01)
A61K  47/28        (2006.01)
A61K  47/24        (2006.01)
A61K  47/16        (2006.01)
A61K  47/14        (2006.01)
A61K  47/34        (2017.01)
A61K  47/36        (2006.01)
A61K  31/7135      (2006.01)
A61K  31/409       (2006.01)
A61K  31/375       (2006.01)
A61K  31/522       (2006.01)
A61K  31/4045      (2006.01)
A61K  31/4025      (2006.01)
A61K  31/355       (2006.01)
A61K  31/015       (2006.01)
A61K  31/122       (2006.01)
A61K  31/05        (2006.01)
A61K  31/352       (2006.01)
A61P  11/00        (2006.01)
FI A61K 31/7088
A61P 43/00 121
A61K 48/00
A61K 31/713
A61K 9/127
A61K 47/18
A61K 47/22
A61K 47/28
A61K 47/24
A61K 47/16
A61K 47/14
A61K 47/34
A61K 47/36
A61K 31/7135
A61K 31/409
A61K 31/375
A61K 31/522
A61K 31/4045
A61K 31/4025
A61K 31/355
A61K 31/015
A61K 31/122
A61K 31/05
A61K 31/352
A61P 11/00
請求項の数または発明の数 11
全頁数 30
出願番号 特願2016-001501 (P2016-001501)
出願日 平成28年1月7日(2016.1.7)
優先権出願番号 2015001502
優先日 平成27年1月7日(2015.1.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年12月12日(2018.12.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
発明者または考案者 【氏名】川上 浩良
【氏名】朝山 章一郎
【氏名】山口 翔平
【氏名】松帆 志幸
【氏名】浅羽 祐太郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100101373、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 茂雄
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100128750、【弁理士】、【氏名又は名称】廣瀬 しのぶ
審査官 【審査官】飯濱 翔太郎
参考文献・文献 米国特許出願公開第2004/0076585(US,A1)
特開2006-063008(JP,A)
特表2005-504012(JP,A)
特開2005-041869(JP,A)
国際公開第2014/017471(WO,A1)
米国特許出願公開第2004/0063681(US,A1)
特開2010-215527(JP,A)
Riku Kubota, et al.,Synthesis of Water-Soluble Dinuclear Mn-Porphyrin with Multiple Antioxidative Activities,ACS Med. Chem. Lett.,2014年 3月27日,Vol.5,P.639-643,特にFigure 1
Natsumi Hayakawa, et al.,Pharmaceutical Effect of Manganese Porphyrins on Manganese Superoxide Dismutase Deficient Mice,Mol. Pharmaceutics,2012年 8月21日,Vol.9,P.2956-2959
調査した分野 A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)



特許請求の範囲 【請求項1】
抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体であって、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAを含み、
ここで、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアが、リポソームまたは脂質コートされた生分解性ポリマーであり、
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアがリポソームである場合、抗酸化剤を含むリポソーム粒子の表面にプラスミドDNAが付着しており、
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアが脂質コートされた生分解性ポリマーである場合は、抗酸化剤と生分解性ポリマーを混合した粒子を脂質コートしたものの表面にプラスミドDNAが付着している、
前記複合体。
【請求項2】
リポソームがカチオン性リポソームであり、当該カチオン性リポソームは、以下:
ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB);
N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA);
1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
ジオクタデシル-ジメチル-アンモニウムクロリド(DODAC);
1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
3β-N-(N’,N’-ジメチル-アミノエタン-カルバモイル-コレステロール)(DC-Chol);および
O,O’-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
からなる群より選択される少なくとも1つのカチオン性脂質、および以下:
ジアシルホスファチジルコリン;
リゾホスファチジルコリン;
ジアシルホスファチジルグリセロール;
ジアシルホスファチジン酸;
ジアシルホスファチジルセリン;
ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
スフィンゴミエリン;
セラミド;
ジアシルグリセロール;および
コレステロール;
からなる群より選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質(ここで非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、炭素数が12~20の飽和または不飽和アシル基である)、により構成される、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
脂質コートされた生分解性ポリマーが、カチオン性脂質でコートされた生分解性ポリマーであり、ここで当該カチオン性脂質は、以下:
ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB);
N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA);
1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
ジオクタデシル-ジメチル-アンモニウムクロリド(DODAC);
1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
3β-N-(N’,N’-ジメチル-アミノエタン-カルバモイル-コレステロール)(DC-Chol);および
O,O’-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
からなる群より選択され、
そしてここで当該生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびキトサン、からなる群より選択される、
請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
抗酸化剤が、ポルフィリン系抗酸化剤、フタロシアニン系抗酸化剤、アスコルビン酸、グルタチオン、尿酸、メラトニン、ウロビリノーゲン、トコフェロール類、トコトリエノール類、カロテノイド、キサントフィル類、ポリフェノール、フラボノイド類、からなる群より選択される、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
抗酸化剤がポルフィリン系抗酸化剤であり、当該ポルフィリン系抗酸化剤は、
下記式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体:
【化1】
JP0006731730B2_000012t.gif
(式中、
Mは錯体を形成するための金属原子を示し、
Ar、Ar、Ar、およびAr、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基を示し、そしてAr、Ar、Ar、およびAr、の少なくとも1つはカチオン性の基を有する芳香族基である);
である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
抗酸化剤がポルフィリン系抗酸化剤であり、当該ポルフィリン系抗酸化剤は、
下記式(II)で表されるカチオン性金属ポルフィリンダイマー:
【化2】
JP0006731730B2_000013t.gif
(式中、
Mは錯体を形成するための金属原子を示し、
ArおよびAr’はピリジンを示し、ここでピリジンの1位はXに、4位がポルフィリンにそれぞれ結合しており、
Ar、Ar、およびAr、並びに、Ar’、Ar’、およびAr’、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基を示し、
Xは、-CH-フェニル-CH-であるか、下記式(III)ないし(V)のいずれかで表される:
-C-(NH-CHCH- ・・・・ (III)
(式中、aは、1~10の整数を示す)
-C-(NH-CHCHCH)b-NH-CHCH- ・・・ (IV)
-C-(NH-CHCHCH)b-NH-CHCHCH- ・・・(V)
(式中、bは3~5の整数を示す))
である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
プラスミドDNAが、以下:
エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質をコードするDNA;
エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質の発現を抑制するアンチセンス核酸または二本鎖RNAをコードするDNA;
エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするDNA;
からなる群より選択されるDNAを含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の複合体を含む、医薬組成物。
【請求項9】
COPDを治療するための医薬組成物であって、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAで構成される複合体を含み、
ここで、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアが、リポソームまたは脂質コートされた生分解性ポリマーであり、
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアがリポソームである場合、抗酸化剤を含むリポソームに対してプラスミドDNAが複合化されており、
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアが脂質コートされた生分解性ポリマーである場合は、抗酸化剤と生分解性ポリマーを混合した粒子を脂質コートしたものに対してプラスミドDNAが複合化されており、
ここで、抗酸化剤は下記式(II)で表されるカチオン性金属ポルフィリンダイマー:
【化3】
JP0006731730B2_000014t.gif
(式中、
Mは錯体を形成するための金属原子を示し、
ArおよびAr’はピリジンを示し、ここでピリジンの1位はXに、4位がポルフィリンにそれぞれ結合しており、
Ar、Ar、およびAr、並びに、Ar’、Ar’、およびAr’、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基を示し、
Xは、-CH-フェニル-CH-であるか、下記式(III)ないし(V)のいずれかで表される:
-C-(NH-CHCH- ・・・・ (III)
(式中、aは、1~10の整数を示す)
-C-(NH-CHCHCH)b-NH-CHCH- ・・・ (IV)
-C-(NH-CHCHCH)b-NH-CHCHCH- ・・・(V)
(式中、bは3~5の整数を示す))
からなる群より選択されるポルフィリン系抗酸化剤であり、
プラスミドDNAはヒストン脱アセチル化酵素2(HDAC2)をコードするプラスミドDNAである、
前記医薬組成物。
【請求項10】
COPDを治療するための医薬組成物であって、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAで構成される複合体を含み、
ここで、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアが、ジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド(DDAB)およびジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)で構成されるリポソームであり、
抗酸化剤が下記式(VI):
【化4】
JP0006731730B2_000015t.gif
で表されるカチオン性Mnポルフィリンダイマーであり、そして
プラスミドDNAが、HDAC2をコードするプラスミドDNAである、
前記医薬組成物。
【請求項11】
COPDを治療するための医薬組成物であって、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAで構成される複合体を含み、
ここで、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアが、1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)でコートされたポリ乳酸粒子であり、
抗酸化剤が下記式(VI):
【化5】
JP0006731730B2_000016t.gif
で表されるカチオン性Mnポルフィリンダイマーであり、当該抗酸化剤はポリ乳酸粒子中に存在し、
プラスミドDNAが、HDAC2をコードするプラスミドDNAであり、当該プラスミドDNAは、脂質でコートされたポリ乳酸粒子の表面に付着している、
前記医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本出願は、抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体に関する。当該複合体は、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAを含む。本出願はまた、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能な複合化剤に関する。本出願はさらに、当該複合体を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1960年代以降、ヒストンのアセチル化と緊密なクロマチン構造のリモデリングが、遺伝子誘導と関係していることが認識されてきたが、遺伝子が転写因子とヒストンアセチル化によって転写活性化される分子機序がよく理解されるようになったのは、つい最近のことである。遺伝子発現制御にはクロマチン構造の変化が重要であり、このようにクロマチンの構造変化により遺伝子発現の制御を行う機構はエピジェネティクス機構と呼ばれている。クロマチン構造は前述したヒストンアセチル化やDNA/ヒストンのメチル化などの後天的な化学修飾により変化し、この後天的修飾は様々な要因で起こり得るものである。
【0003】
また、近年ではエピジェネティクな異常が疾患の発症、病理の悪化に関係することが報告されており、疾患治療においてはエピジェネティクな異常を正常化することを考慮に入れる必要がある。
【0004】
一方、活性酸素種(ROS)は生体活動に必須なエネルギー代謝を行うミトコンドリアにおいて消費される酸素の0.4~4%から産生される。ROSにはスーパーオキシド(O2・)や、過酸化水素(H)、ペルオキシ亜硝酸イオン(ONOO)、そして非常に反応性の高いヒドロキラジカル(・OH)などが含まれ、これらのROSは、生体防御や細胞内シグナル伝達などに利用されており、生体内において重要な役割を担っているが、その一方では高い反応性によりDNAや脂質等の生体分子を酸化変性させ、様々な細胞障害を誘発させる原因となることが知られている。このように生体機能におけるROSは「両刃の刃」となっており、通常は、役割を終えたROSは、生体内に存在するROSを消去する抗酸化物質により速やかに還元消去される。しかしながら、過剰に生成したROSが生体恒常性を損なうとき、ROSは臓器レベルの障害を誘発し、動脈硬化・腎不全などの重篤な疾患を惹起する。
【0005】
このように前述したエピジェネティクスと活性酸素種(ROS)はそれぞれ病理に関わっていることは明白であるが、近年ではこの2つが相互に関わっていることが報告され始めており、抗酸化とエピジェネティクな異常の改善を同時に行うことの有用性が示唆されている。
【0006】
例えば、アルツハイマー病の原因の1つと考えられているアミロイドベータ(Aβ)は過酸化水素による酸化架橋により凝集し、病理進行に関わっていることが知られている。同時に過酸化水素がAβの前駆体の産生を担う遺伝子のプロモーター領域の低メチル化に寄与することでAβの産生増加が引き起こされることも報告されている。また、過剰な過酸化水素にさらされたヒト大腸がん細胞SNU-407において、がん抑制遺伝子であるRunt domain transcription factor 3(RUNX3)のプロモーター領域のメチル化が増大することによりがん抑制遺伝子がサイレンシングされ、ROSによる酸化傷害とともにエピジェネティクな機構を介して、大腸がんの進行に関わっている。そして慢性閉塞性肺疾患(COPD)においては、ONOOがヒストン脱アセチル化酵素(HDAC2)を直接ニトロ化、あるいはHなどのROSがPI3kσ-Akt過程を介して、ユビキチン化やリン酸化などの後天的修飾を与えることでプロテアソーム分解を促進させる。これによりHDAC2の発現および活性が低下し、結果、炎症性遺伝子の発現が増加し、慢性的な炎症反応となる(非特許文献1、2)。
【0007】
このようにROSが直接的に酸化傷害を与えることで発病させるだけでなく、エピジェネティクな異常を引き起こすことで疾患をより促進させることが判明してきている。双方が影響し合って疾患を引き起こしているため、片方のみの治療では再度疾患に状態に陥ってしまう可能性が高く、ROSによる酸化傷害とエピジェネティクな異常を同時に治療することが根治治療には重要であると考えられる。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Malhotra, D., et al., J. Clin. Invest., 121(11):4289-4302, 2011
【非特許文献2】P. J. Barnes, et al., Eur. Respir. J., 25:552-563, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、活性酸素種(ROS)による酸化傷害とエピジェネティクな異常を同時に治療することを可能にするための、新しい治療法の開発が求められている。
【0010】
例えば、炎症性疾患は、炎症性遺伝子の過剰発現による炎症性サイトカインの異常産生、慢性的な炎症反応による組織の破壊が導かれる難治疾患である。中でも、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は罹患者数が2億1000万人と推計されており、がん、心筋梗塞、脳卒中に次ぐ世界4大成人病の一つである。COPD以外の疾患群については予防・治療が進歩し、死亡率を過去四半世紀で半減させているのに対し、COPDの死亡率は一度も減ることがなく、ひたすら増え続けている。COPDは、喫煙が主な発症機序であるが、大気汚染も影響を与えていると考えられ、今後も患者は増え続ける可能性が極めて高い。日本での推定患者数は700万人ともいわれているが、実際に治療を受けている患者は50万人程度であり、患者数の増加は確実に起こる。2030年には死亡原因の第3位に浮上することが懸念されている。現在、COPDの根治療法はなく、禁煙、酸素療法、ステロイド投与等の対処療法で進行を防いでいる状態である。さらに、超高齢化が進む日本では、COPD患者は加速度的に増えることが予想されており、新しい治療法の開発が急務とされている。
【0011】
本出願は、エピジェネティクスに基づく病理メカニズムを有する疾患に対して、活性酸素種の除去、及び、エピジェネティクな異常の改善、すなわちエピジェネティクス制御に関わる酵素またはタンパク質の発現異常の改善、を同時に行うことが可能な剤を提供する。本出願は、抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体を提供する。当該複合体は、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAを含む。プラスミドDNAは、エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質をコードするDNA、または当該酵素またはタンパク質の発現または活性を抑制する分子をコードするDNAを含むものであってもよい。本出願はまた、当該複合体を含む医薬組成物を提供する。本出願はさらに、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能な複合化剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために、エピジェネティクスと活性酸素種が病理に関わる疾患の治療戦略について慢性閉塞性肺疾患(COPD)をモデルとして鋭意研究を行った。COPDの病理メカニズムとして、活性酸素種によるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC2)の機能不全というエピジェネティクス異常が提唱されている。このことから、本発明者らはCOPDの治療のために、活性酸素種消去によるHDAC2の後天的修飾の抑制およびHDAC2の発現量の回復という2種類のターゲットを同時に治療する戦略について検討した。そのために、活性酸素種消去のための抗酸化剤、HDAC2の発現量回復のためのHDAC2をコードするプラスミドDNA、および当該抗酸化剤とプラスミドの共送達が可能なキャリア、を含む複合体を用いたところ、COPDモデルにおいて優れた抗炎症効果およびステロイド不応性の改善が観察された。当該知見に基づいて、本発明は完成された。
【0013】
すなわち、一態様において、本発明は以下のとおりであってよい。
[態様1]
抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体であって、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAを含む、前記複合体。
[態様2]
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアが、リポソーム、生分解性ポリマーまたは脂質コートされた生分解性ポリマーである、態様1に記載の複合体。
[態様3]
リポソームがカチオン性リポソームであり、当該カチオン性リポソームは、以下:
ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB);
N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA);
1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
ジオクタデシル-ジメチル-アンモニウムクロリド(DODAC);
1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
3β-N-(N’,N’-ジメチル-アミノエタン-カルバモイル-コレステロール)(DC-Chol);および
O,O’-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
からなる群より選択される少なくとも1つのカチオン性脂質、および以下:
ジアシルホスファチジルコリン;
リゾホスファチジルコリン;
ジアシルホスファチジルグリセロール;
ジアシルホスファチジン酸;
ジアシルホスファチジルセリン;
ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
スフィンゴミエリン;
セラミド;
ジアシルグリセロール;および
コレステロール;
からなる群より選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質(ここで非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、炭素数が12~20の飽和または不飽和アシル基である)、により構成される、態様2に記載の複合体。
[態様4]
生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびキトサン、からなる群より選択される、態様2に記載の複合体。
[態様5]
脂質コートされた生分解性ポリマーが、カチオン性脂質でコートされた生分解性ポリマーであり、ここで当該カチオン性脂質は、以下:
ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB);
N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA);
1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
ジオクタデシル-ジメチル-アンモニウムクロリド(DODAC);
1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
3β-N-(N’,N’-ジメチル-アミノエタン-カルバモイル-コレステロール)(DC-Chol);および
O,O’-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
からなる群より選択され、
そしてここで当該生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびキトサン、からなる群より選択される、
請求項2に記載の複合体。
[態様6]
抗酸化剤が、ポルフィリン系抗酸化剤、フタロシアニン系抗酸化剤、アスコルビン酸、グルタチオン、尿酸、メラトニン、ウロビリノーゲン、トコフェロール類、トコトリエノール類、カロテノイド、キサントフィル類、ポリフェノール、フラボノイド類、からなる群より選択される、態様1ないし5のいずれか1項に記載の複合体。
[態様7]
抗酸化剤がポルフィリン系抗酸化剤であり、当該ポルフィリン系抗酸化剤は、
下記式(I)で表されるカチオン性金属ポルフィリン錯体:
【0014】
【化1】
JP0006731730B2_000002t.gif

【0015】
(式中、
Mは錯体を形成するための金属原子を示し、
Ar、Ar、Ar、およびAr、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基を示し、そしてAr、Ar、Ar、およびAr、の少なくとも1つはカチオン性の基を有する芳香族基である);および
下記式(II)で表されるカチオン性金属ポルフィリンダイマー:
【0016】
【化2】
JP0006731730B2_000003t.gif

【0017】
(式中、
Mは錯体を形成するための金属原子を示し、
ArおよびAr’はピリジンを示し、ここでピリジンの1位はXに、4位がポルフィリンにそれぞれ結合しており、
Ar、Ar、およびAr、並びに、Ar’、Ar’、およびAr’、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基を示し、
Xは、-CH-フェニル-CH-であるか、下記式(III)ないし(V)のいずれかで表される:
-C-(NH-CHCH- ・・・・ (III)
(式中、aは、1~10の整数を示す)
-C-(NH-CHCHCH)b-NH-CHCH- ・・・ (IV)
-C-(NH-CHCHCH)b-NH-CHCHCH- ・・・(V)
(式中、bは3~5の整数を示す))
からなる群より選択される、態様1ないし5のいずれか1項に記載の複合体。
[態様8]
プラスミドDNAが、以下:
エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質をコードするDNA;
エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質の発現を抑制するアンチセンス核酸または二本鎖RNAをコードするDNA;
エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするDNA;
からなる群より選択されるDNAを含む、態様1ないし7のいずれか1項に記載の複合体。
[態様9]
態様1ないし8のいずれか1項に記載の複合体を含む、医薬組成物。
[態様10]
COPDを治療するための医薬組成物であって、態様1ないし8のいずれか1項に記載の複合体を含み、ここでプラスミドDNAはヒストン脱アセチル化酵素2(HDAC2)をコードするプラスミドDNAである、前記医薬組成物。
[態様11]
COPDを治療するための医薬組成物であって、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAで構成される複合体を含み、
ここで、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアが、ジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド(DDAB)およびジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)で構成されるリポソームであり、
抗酸化剤が下記式(VI):
【0018】
【化3】
JP0006731730B2_000004t.gif

【0019】
で表されるカチオン性Mnポルフィリンダイマーであり、そして
プラスミドDNAが、HDAC2をコードするプラスミドDNAである、
前記医薬組成物。
[態様12]
COPDを治療するための医薬組成物であって、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAで構成される複合体を含み、
ここで、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアが、1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)でコートされたポリ乳酸粒子であり、
抗酸化剤が下記式(VI):
【0020】
【化3-2】
JP0006731730B2_000005t.gif

【0021】
で表されるカチオン性Mnポルフィリンダイマーであり、当該抗酸化剤はポリ乳酸粒子注に存在し、
プラスミドDNAが、HDAC2をコードするプラスミドDNAであり、当該プラスミドDNAは、脂質でコートされたポリ乳酸粒子の表面に付着している、
前記医薬組成物。
[態様13]
抗酸化剤およびプラスミドDNAを複合化するための複合化剤であって、カチオン性リポソームおよび生分解性ポリマーからなる群より選択され、
ここでカチオン性リポソームは、以下:
ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB);
N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA);
1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
ジオクタデシル-ジメチル-アンモニウムクロリド(DODAC);
1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
3β-N-(N’,N’-ジメチル-アミノエタン-カルバモイル-コレステロール)(DC-Chol);および
O,O’-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
からなる群より選択される少なくとも1つのカチオン性脂質、および以下:
ジアシルホスファチジルコリン;
リゾホスファチジルコリン;
ジアシルホスファチジルグリセロール;
ジアシルホスファチジン酸;
ジアシルホスファチジルセリン;
ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
スフィンゴミエリン;
セラミド;
ジアシルグリセロール;および
コレステロール;
からなる群より選択される少なくとも1つの非カチオン性脂質(ここで非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、炭素数が12~20の飽和または不飽和アシル基である)、により構成されるものであり、そして
生分解性ポリマーは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびキトサン、からなる群より選択される、
前記複合化剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明の複合体は、対象において、抗酸化剤による活性酵素種消去と、プラスミドDNAによるエピジェネティクな異常の改善を同時に行うことができるものである。したがって、本発明の複合体は、エピジェネティクスと活性酸素種が病理に関わる疾患に対するエピジェネティクスに基づいた根治治療のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、COPDをモデルとした本発明の複合体による2つの治療ターゲットを示す模式図である。(a)はCOPDの病理メカニズムを示す模式図である。(b)は本発明の複合体によるCOPD治療のための2つのターゲットを示す模式図である。
【図2】図2は、COPDモデルにおけるDNA複合化脂質コートMnPD含有PLAナノ粒子の抗炎症効果及びステロイド耐性抑制効果を示すグラフである。*は、有意差ががることを示す(p<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。

【0025】
抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体
一態様において、本出願は、抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体であって、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAを含む、前記複合体に関する。

【0026】
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAとしては、以下に詳述するものを用いることができる。

【0027】
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア、抗酸化剤、およびプラスミドDNAで構成されるプラスミドを作製する手順は、これらの成分を含む複合体が形成される限りにおいて特に制限はない。先に任意の二つの成分で複合体を形成した後、残りの一つの成分をさらに追加して複合体を形成してもよい。あるいは、三つの成分すべてを同時に混合して複合体を形成してもよい。複合体を形成する条件は、当業者が適宜選択することができる。

【0028】
例えば、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアがリポソームである場合には、リポソームを構成する脂質と抗酸化剤を先に混合して抗酸化剤を含むリポソームを作製し、次いでプラスミドDNAを複合化させてもよい。

【0029】
あるいは、抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアがポリ乳酸である場合には、抗酸化剤とプラスミドを先に混合しておき、そこにポリ乳酸を加えて攪拌することにより複合体を形成してもよい。

【0030】
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアが脂質コートされたポリ乳酸等の生分解性ポリマーである場合は、抗酸化剤と生分解性ポリマーを混合して粒子を形成し、それを脂質でコートした後、さらにプラスミドDNAを複合化させることにより複合体を調製してもよい。

【0031】
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリア/抗酸化剤およびプラスミドDNAを複合化するための複合化剤
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアは、抗酸化剤と遺伝子の両方を対象に投与する際に保持することができ、そして抗酸化剤と遺伝子の両方を対象の細胞内に送達することができるキャリアであれば特に限定されない。抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアには、例えば、リポソーム、生分解性ポリマーまたは脂質コートされた生分解性ポリマーが含まれる。

【0032】
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアとして用いられるリポソームは、好ましくはカチオン性リポソームである。カチオン性リポソームは、少なくとも1つのカチオン性脂質により構成されるものであってもよい。あるいは、カチオン性リポソームは、少なくとも1つのカチオン性脂質と少なくとも1つの非カチオン性脂質により構成されるものであってもよい。

【0033】
カチオン性リポソームを構成するカチオン性脂質は、特に限定されないが、以下:
ジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB);
N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA);
1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);
1,2-ジステアロイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);
ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);
ジオクタデシル-ジメチル-アンモニウムクロリド(DODAC);
1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE);
2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミウム トリフルオロアセテート(DOSPA);
3β-N-(N’,N’-ジメチル-アミノエタン-カルバモイル-コレステロール)(DC-Chol);および
O,O’-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミン クロリド;
からなる群より選択されるものであってもよい。好ましいカチオン性脂質としては、ジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド(DDAB)が挙げられる。

【0034】
カチオン性リポソームを構成する非カチオン性脂質は、特に限定されないが、以下:
ジアシルホスファチジルコリン;
リゾホスファチジルコリン;
ジアシルホスファチジルグリセロール;
ジアシルホスファチジン酸;
ジアシルホスファチジルセリン;
ジアシルホスファチジルエタノールアミン;
スフィンゴミエリン;
セラミド;
ジアシルグリセロール;および
コレステロール;
からなる群より選択されるものであってもく、ここで上記非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、炭素数が12~20の飽和または不飽和アシル基である。例えば、上記非カチオン性脂質に含まれるアシル基は、ドデカノイル基(ラウロイル基)、テトラデカノイル基(ミリストイル基)、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基(パルミトイル基)、9-ヘキサデセノイル基(パルミトレノイル基)、ヘプタデカノイル基(マルガロイル基)、オクタデカノイル基(ステアロイル基)、9-オクタデセノイル基(オレオイル基)、11-オクタデセノイル基(バクセノイル基)、9,12-オクタデカジエノイル基(リノレオイル基)、9,12,15-オクタデカントリエノイル基(9,12,15-リノレノイル基)、6,9,12-オクタデカトリエノイル基(6,9,12-リノレノイル基)、エイコサノイル基(アラキジノイル基)、8,11-エイコサジエノイル基、5,8,11-エイコサトリエノイル基、5,8,11-エイコサテトラエノイル基(アラキドノイル基)、などが挙げられる。好ましい非カチオン性脂質としては、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、および/または、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)が挙げられる。

【0035】
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアとして用いられる生分解性ポリマーは、特に限定されないが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)共重合体、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、およびキトサン、からなる群より選択される生分解性ポリマーである。

【0036】
抗酸化剤と遺伝子の共送達が可能なキャリアとして用いられる脂質コートされた生分解性ポリマーは、特に限定されないが、カチオン性脂質でコートされた生分解性ポリマーである。ここで、当該カチオン性脂質および生分解性ポリマーは、リポソームおよび生分解性ポリマーについて上述したものを使用することができる。

【0037】
また、上記抗酸化剤と遺伝子の共送達可能なキャリアは、抗酸化剤およびプラスミドDNAを複合化するための複合化剤としても把握されるものである。

【0038】
抗酸化剤
本願の複合体に含まれる抗酸化剤は、抗酸化活性を有する化合物である限り特に限定されないが、例えば、ポルフィリン系抗酸化剤、フタロシアニン系抗酸化剤、アスコルビン酸、グルタチオン、尿酸、メラトニン、ウロビリノーゲン、トコフェロール類、トコトリエノール類、カロテノイド、キサントフィル類、ポリフェノール、フラボノイド類、からなる群より選択される抗酸化剤であってもよい。

【0039】
ポルフィリン系抗酸化剤として、例えば、カチオン性金属ポルフィリン錯体またはカチオン性金属ポルフィリンダイマーが挙げられる。好ましい態様において、ポルフィリン系抗酸化剤はカチオン性金属ポルフィリンダイマーである。

【0040】
カチオン性金属ポルフィリン錯体は、下記の式(I):

【0041】
【化4】
JP0006731730B2_000006t.gif

【0042】
で表される化合物であってもよい。

【0043】
前記式(I)における中心金属Mは、特に制限はないが、好ましくは遷移金属である。例えば、中心金属Mは、マンガン原子、ニッケル原子、鉄原子、銅原子、コバルト原子、および亜鉛原子からなる群より選択することができる。さらに好ましい中心金属はマンガン原子である。

【0044】
前記式(I)におけるAr、Ar、Ar、およびAr、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基である。当該芳香族基は、単環式のものでも、多環式のものでも、あるいは、縮合環式のものであってもよい。炭素環式の芳香族基としては例えば、炭素数6~36、好ましくは6~20の単環式、多環式、または縮合環式の炭素環式芳香族基が挙げられる。これには例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などから誘導される基が挙げられる。複素環式の芳香族基としては、1個または2個異常の窒素原子、酸素原子または硫黄原子を有する5~10員の単環式、多環式、または縮合環式の複素環から誘導される基である。これには例えば、ピリジン環、ピリミジン環、アゾール環などおから誘導される基である。好ましい芳香族基としては、フェニル基や4-ピリジル基などが挙げられる。

【0045】
前記式(I)のAr、Ar、Ar、およびArの少なくとも1つはカチオン性の基を有する芳香族基である。芳香族基が有するカチオン性の基としては、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、さらに好ましくは炭素数1~5程度の直鎖状または分枝状のアルキル基などによりカチオン化されたアンモニウム基やスルホニウム基などが挙げられるが、第四級アンモニウム基が好ましい。これらのカチオン性の基は芳香族基に直接結合していてもよいが、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、さらに好ましくは炭素数1~5程度の直鎖状または分枝状のアルキレン基を解して結合していてもよい、また、カチオン性の基は芳香族基の置換基として有していてもよいが、芳香族基の異種原子、好ましくは窒素原子が炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、さらに好ましくは1~5程度の直鎖状または分枝状のアルキル基などによりカチオン化されたものであってもよい。このような芳香族基としては、例えば、4-N,N,N-トリメチルアミノフェニル基、4-N,N,N-トリエチルアミノフェニル基などの4-N,N,N-トリ低級アルキルアミノフェニル基、N-メチル-4-ピリジル基、N-エチル-4-ピリジル基などのN-低級アルキル-4-ピジリル基、N,N’-ジ置換イミダゾール基などが挙げられる。また、これらのカチオン性の基を有する芳香族基が、フェニル基やナフチル基などの炭素環式芳香族基に直接またはアルキレン基、アミド基、またはエステル基などを解して結合した基となっていてもよい。

【0046】
これらの芳香族基は、置換基を有していてもよい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、さらに好ましくは1~5の直鎖状または分枝状のアルキル基、アミノ基、前記したアルキル基で置換されているアミノ基、前記したアルキル基を含むアルコキシ基などが挙げられる。

【0047】
前記式(I)のAr、Ar、Ar、およびArの少なくとも1つはカチオン性の基を有する芳香族基であるが、好ましくはこれらの芳香族基のうちの2つ以上がカチオン性の基を有するものである。例えば、Ar、Ar、Ar、およびArのすべてが、N-メチル-4-ピリジル基などのN-低級アルキル-4-ピリジル基、4-N,N,N-トリメチルアミノフェニル基などの4-N,N,N-トリ低級アルキルアミノフェニル基、N,N’-ジ置換イミダゾール基である化合物;Ar、Ar、およびArがN-メチル-4-ピリジル基などのN-低級アルキル-4-ピリジル基、4-N,N,N-トリメチルアミノフェニル基などの4-N,N,N-トリ低級アルキルアミノフェニル基、N,N’-ジ置換イミダゾール基であり、Arがフェニル基である化合物;ArおよびArがN-メチル-4-ピリジル基などのN-低級アルキル-4-ピリジル基、4-N,N,N-トリメチルアミノフェニル基などの4-N,N,N-トリ低級アルキルアミノフェニル基、またはN,N’-ジ置換イミダゾール基であり、ArおよびArがフェニル基である化合物;ArおよびArがN-メチル-4-ピリジル基などのN-低級アルキル-4-ピリジル基、4-N,N,N-トリメチルアミノフェニル基などの4-N,N,N-トリ低級アルキルアミノフェニル基、またはN,N’-ジ置換イミダゾール基であり、ArおよびArがフェニル基である化合物;などが挙げられる。

【0048】
カチオン性金属ポルフィリンダイマーは、下記の式(II):

【0049】
【化5】
JP0006731730B2_000007t.gif

【0050】
で表される化合物であってもよい。

【0051】
前記式(II)における中心金属Mは、特に制限はないが、好ましくは遷移金属である。例えば、中心金属Mは、マンガン原子、ニッケル原子、鉄原子、銅原子、コバルト原子、および亜鉛原子からなる群より選択することができる。さらに好ましい中心金属はマンガン原子である。

【0052】
前記式(II)におけるArおよびAr’はピリジンを示し、ここでピリジンの1位はXに、4位がポルフィリンにそれぞれ結合している。

【0053】
前記式(II)におけるr、Ar、およびAr、並びに、Ar’、Ar’、およびAr’、はそれぞれ独立して無置換のまたは置換基を有してもよい炭素環式または複素環式芳香族基である。当該芳香族基は、単環式のものでも、多環式のものでも、あるいは、縮合環式のものであってもよい。炭素環式の芳香族基としては例えば、炭素数6~36、好ましくは6~20の単環式、多環式、または縮合環式の炭素環式芳香族基が挙げられる。これには例えば、ベンゼン環、ナフタレン環などから誘導される基が挙げられる。複素環式の芳香族基としては、1個または2個異常の窒素原子、酸素原子または硫黄原子を有する5~10員の単環式、多環式、または縮合環式の複素環から誘導される基である。これには例えば、ピリジン環、ピリミジン環、アゾール環などおから誘導される基である。好ましい芳香族基としては、フェニル基や4-ピリジル基などが挙げられる。

【0054】
これらの芳香族基は、置換基を有していてもよい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10、さらに好ましくは1~5の直鎖状または分枝状のアルキル基、アミノ基、前記したアルキル基で置換されているアミノ基、前記したアルキル基を含むアルコキシ基などが挙げられる。

【0055】
前記式(II)において、Xは、-CH-フェニル-CH-であるか、下記式(III)ないし(V)のいずれかで表される:
-C-(NH-CHCH- ・・・・ (III)
(式中、aは、1~10の整数を示す)
-C-(NH-CHCHCH)b-NH-CHCH- ・・・ (IV)
-C-(NH-CHCHCH)b-NH-CHCHCH- ・・・(V)
(式中、bは3~5の整数を示す)
好ましくは、Xは-CH-フェニル-CH-である。

【0056】
好ましいポルフィリン系抗酸化剤は、下記の式(VI):

【0057】
【化6】
JP0006731730B2_000008t.gif

【0058】
を有するカチオン性マンガンポルフィリンダイマーである。

【0059】
プラスミドDNA
本願の複合体に含まれるプラスミドDNAは、特に限定されないが、本願の複合体を適用する対象において、酵素またはタンパク質の発現量または活性を変調することができるものである。このようなプラスミドDNAとして、例えば、酵素またはタンパク質をコードするDNA;対象において酵素またはタンパク質の発現を抑制するアンチセンス核酸または二本鎖RNAをコードするDNA;あるいは、酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするDNA;を含むプラスミドDNAが挙げられる。

【0060】
酵素またはタンパク質をコードするDNAを含むプラスミドDNAは、本願の複合体が適用された対象において当該酵素またはタンパク質を発現する。それにより、当該酵素またはタンパク質の発現量を増加させることができる。

【0061】
対象において酵素またはタンパク質の発現を抑制するアンチセンス核酸または二本鎖RNAをコードするDNAを含むプラスミドDNAは、本願の複合体が適用された対象においてアンチセンス核酸または二本鎖RNAを発現する。それにより、アンチセンス核酸の作用またはRNA干渉の作用に基づいて、当該酵素またはタンパク質の発現を抑制することができる。

【0062】
酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするDNAは、本願の複合体が適用された対象において当該酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントを発現する。それにより、当該酵素またはタンパク質の活性が抑制または亢進する。特定の酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントは当業者に周知の方法により作製することができ、またそれらをコードするDNAも当業者は適宜同定することができる。抗体のフラグメントは、特に限定されないが、Fab、F(ab’)、Fab’、Fv、scFvが含まれる。

【0063】
好ましい態様において、本願の複合体に含まれるプラスミドDNAはエピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質の発現量または活性を変調することができるものである。このようなプラスミドDNAは、例えば、エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質をコードするDNA;対象において当該酵素またはタンパク質の発現を抑制するアンチセンス核酸または二本鎖RNAをコードするDNA;あるいは、当該酵素またはタンパク質に結合する抗体またはそのフラグメントをコードするDNA;を含むものである。エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質には、例えば、DNAメチル化酵素、メチル化DNA結合タンパク質、ヒストン修飾酵素、クロマチン構造因子、クロマチンリモデリング因子、クロマチンインスレーター等が含まれる。好ましい態様において、エピジェネティクスの制御に関わる酵素またはタンパク質はヒストン脱アセチル化酵素2(HDAC2)である。

【0064】
特に好ましい態様において、本願の複合体に含まれるプラスミドDNAはHDAC2をコードするプラスミドDNAである。

【0065】
医薬組成物
別の態様において、本出願は、抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体を含む医薬組成物に関する。

【0066】
本発明の医薬組成物は、経口投与、または、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、もしくは経直腸投与などの非経口投与により投与することができる。経口投与に適した製剤には、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、溶液剤、シロップ剤などが挙げられる。非経口投与に適した製剤として、本発明の医薬組成物を無菌溶液または坐剤として調製してもよい。本発明の医薬組成物は公知の方法により製剤化することができ、投与方法や患者により適宜製剤することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、本発明の抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体を有効成分として含有し、これに製薬上許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香料、着色剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などと共に公知の方法により製剤化することができる。

【0067】
本発明の医薬組成物の有効投与量は、病態や患者により相違するが、一般的には、1日あたり抗酸化剤が1μg~1g、プラスミドDNAが0.6mg~600mgになるように投与することができる。本発明の医薬組成物は、1回で投与する、1日数回にわけて投与する。あるいは、連続的に投与する。医師をはじめとする医療従事者は、患者の属性および/または病態等に応じて、本発明の医薬組成物の投与量、投与間隔、投与時間、投与手順、投与部位等の用法または用量を適宜決定することができる。そのようにして適宜決定される用法または用量で投与される本発明の医薬組成物もまた、本発明の範囲内である。

【0068】
本発明の抗酸化剤と遺伝子を対象に共送達するための複合体を有効成分とする医薬組成物による予防や治療に適する疾患としては、エピジェネティクスの異常で引き起こされる疾患が挙げられる。このような疾患の例としては、特に限定されるものではないが、例えば炎症性肺疾患(COPD)などの炎症性疾患、大腸がん、アルツハイマー型認知症等が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下に本発明の具体例を示す。これらの具体例は、本発明を理解するための説明を提供することを目的とするものであって、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0070】
実施例1:ダイマー型Mnポルフィリン錯体(MnPD)の製造
(1)4PyPP(5-(4-ピリジル)-10,15,20-トリフェニル-21H,23H-ポルフィリン)の合成
1lの三つ口フラスコにプロピオン酸500mlを加え、173℃にて30分間攪拌・還流した。温度一定後、ベンズアルデヒド14ml、4-ピリジンカルボキシアルデヒド6mlを加え、続いて精製したピロールを12.5ml加えた。
【実施例】
【0071】
1.5時間加熱攪拌後、90℃まで放冷し、エチレングリコール350mlを滴下した。室温まで放冷した後、冷蔵庫で一晩静置した。
【実施例】
【0072】
冷却後の溶液を吸引濾過し、冷やしたエタノール/メタノール=1:1溶液で洗浄した後に紫粉末の6種類のポルフィリンからなる混合物を回収した。
【実施例】
【0073】
得られたポルフィリンの混合物を、シリカゲルクロマトグラフィーにより100%CHClで溶出させてTPP(テトラフェニルポルフィリン)を溶出した。次いで、目的化合物となる4PyPを溶出させた。分画の溶媒を留去し、紫色の目的のポルフィリンを得た。合成の確認はUVスペクトル測定とH-NMRで行った。結果は次に示す。
【実施例】
【0074】
4PyPの極大吸収波長:λmax 421nm(soret帯)
4PyPH-NMR:9.44(2H)(ピリジン環の2,6位の水素原子),9.02(2H)(ピリジン環の3,5位の水素原子),8.98(2H)(ピロールのβ位の水素原子),8.95(2H)(ピロールのβ位の水素原子),8.87(4H)(ピロールのβ位の水素原子),8.24(6H)(フェニル基の水素原子),7.91-7.84(9H)(フェニル基の水素原子),4.70(3H)(メチル基の水素原子),-2.91(2H)(環内部の水素原子)
4PyPPの構造式:
【実施例】
【0075】
【化7】
JP0006731730B2_000009t.gif
【実施例】
【0076】
(2)ダイマー型ポルフィリン錯体(HPD:1,3-ジ[5-(N-メチレン-ピリジニウム-4-イル)-10,15,20-トリフェニル-21H,23H-ポルフィリン]ベンゼンジブロミド)合成
100mlの三つ口フラスコに前記(1)で得たポルフィリン4PyPの100mgとメタキシレンジブロマイド19mgを入れ、dry DMFを5ml加え、90℃、窒素フロー下で24時間加熱還流した。
【実施例】
【0077】
ロータリーエバポレーターにより、反応混合物の溶媒を留去した。メタノールを加え、不溶な4PyPを濾過で除いた後、エバポレートし、溶媒を留去した。
【実施例】
【0078】
得られたポルフィリン混合物をシリカゲルクロマトグラフィーによりクロロホルム/メタノール/DMF=4:1:0.02の混合溶媒で溶出させ、4PyPおよび一置換体を溶出させた。次いで、3番目に溶出してきた目的化合物であるHPDを溶出させた。分画の溶媒を留去し、目的のポルフィリンを得た。合成の確認はUVスペクトル測定とH-NMRで行った。結果を次に示す。
【実施例】
【0079】
PDの極大吸収波長:λmax 415nm(soret帯)
PDのH-NMR:9.72(4H)(ピリジン環の2,6位の水素原子)9.13(4H)(ピリジン環の3,5位水素原子)8.94(4H)(ピロールのβ位水素原子)8.79(4H)(ピロールのβ位の水素原子)8.54(8H)(ピロールのβ位の水素原子)8.33(1H)(キシリルの2位の水素原子)8.22(4H)(フェニル基の2,6位の水素原子)8.09(2H)(キシリルの4,6位の水素原子)7.91-7.85(7H)(キシリルの5位とフェニル基の3,4,5位の水素原子)7.62-7.56(12H)(フェニル基の2,4,6位の水素原子)7.37-7.35(8H)(フェニル基3,5位の水素原子)6.40(4H)(ベンジルの水素原子)-2.96(4H)(環内部の水素原子)
PDの構造式:
【実施例】
【0080】
【化8】
JP0006731730B2_000010t.gif
【実施例】
【0081】
(3)PDへのMn導入
100mlの三つ口フラスコに前記(2)で得られたHPDを加えて、メタノールに溶解させた後、10当量の酢酸マンガン4水和物を加え、50℃で加熱還流し、UV-可視スペクトルを用いてポルフィリンのソーレー帯のシフトおよび吸光度変化から金属導入の確認ができるまで反応を行った。
【実施例】
【0082】
反応終了後、エバポレートすることで溶媒を留去した。得られた固体を水に再溶解させ、ヘキサフルオロリン酸アンモニウムを適量加え、吸引濾過し、濾紙上の緑色固体を回収した。合成の確認はUVスペクトル測定と元素分析で行った。結果を次に示す。
【実施例】
【0083】
MnPDの極大吸収波長:467nm(soret帯)
MnPDの元素分析:理論値(%)C:65.48,H:4.42,N:7.31 実測値(%)C:65.43,H:4.59,N:7.32
MnPDの構造式:
【実施例】
【0084】
【化9】
JP0006731730B2_000011t.gif
【実施例】
【0085】
実施例2:DNA複合化MnPD含有リポソームの調製
(1)MnPD含有リポソームの調製
20mlナスフラスコにMnPD0.12mg、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)0.0124g、ジドデシルジメチルアンモニウムブロマイド(DDAB)3.4mgを入れ、クロロホルム/メタノール=1:1の混合溶媒5mlに溶解させた。ロータリーエバポレーターを用いることで溶媒を留去し、乾燥薄膜を作製した。
【実施例】
【0086】
乾燥薄膜にPBS(-)5mlを加え、氷水中で40分間超音波攪拌を行うことで、MnPDリポソーム分散液を得た。粒径は71.9±17.6nm、ゼータ電位は+25.8mVの値を示した。
(2)DNAとの複合化
エッペンドルフチューブ内で前記(1)のリポソーム溶液とプラスミドDNA(pDNA)溶液を任意のmol比で混合し、常温で1時間静置することでリポソームの構成成分であるカチオン性脂質のDDABとアニオン性のpDNAの電荷比(+/-)が1となるように複合化させた。粒径は558.8±136.1nm、ゼータ電位は+4.51mVの値を示した。
【実施例】
【0087】
実施例3:MnPD/pDNA複合体含有PLA粒子の調製
エッペンドルフチューブに0.4mM MnPD50μLと0.0856mg/mLのpGL3溶液75μLを加え、室温で1時間静置し、複合化させた。ここで、pGL3はルシフェラーゼをコードするDNAを含むプラスミドDNAである。10mLバイアル瓶に複合体溶液を移し、DMSO(ジメチルスルホキシド)150μLを加えて溶解させた。400rpmの速度で1時間攪拌し、ポリ乳酸(PLA;重量平均分子量10,000)0.0025gを加え、同条件で再び攪拌した。1時間後、蒸留水2mL加えて、分画分子量100-500の透析膜に移し、2日間攪拌した。その後、透析膜内の溶液を50mL遠沈管に移し、1000rpmで15分間遠心し、回収した。
【実施例】
【0088】
粒径は365.8±433.9nmを示した。
【実施例】
【0089】
実施例4:MnPD含有リポソームおよびDNA複合化MnPD含有リポソームの細胞集積能評価
MnPD含有リポソームおよびDNA複合化MnPD含有リポソームの細胞膜内への取り込み評価は、A549細胞(ヒト肺胞基底上皮腺がん細胞)を用いて行った。
【実施例】
【0090】
A549細胞の培養は10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10cells/wellの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。MnPD、MnPD含有リポソーム、DNA複合化MnPDリポソームを各種濃度が0~100μMになるように添加し、4時間培養後、培地を除去し、PBS洗浄により細胞膜に付着しているポルフィリンを除去した。洗浄後、100μl/wellのcell lysisで細胞を溶解させ、細胞溶解液をサンプル管に回収した。最後に回収した細胞溶解液に硝酸(0.5N HNO)を加え、細胞を破壊し、静置した。細胞含有硝酸溶液の上清をサンプルとし、細胞内に取り込まれている金属ポルフィリンの中心金属を、原子吸光分析によって定量した。
【実施例】
【0091】
DNA複合化MnPD含有リポソームの添加濃度が20μMの場合は添加量の5%程度が細胞内に取り込まれた。
【実施例】
【0092】
実施例5:DNA複合化MnPD含有リポソームのin vitro抗酸化活性評価
A549細胞の培養は10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10cells/wellの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。MnPD、DNA複合化MnPDリポソームを各種濃度が0~100μMになるように添加し、4時間培養後、培地を除去し、PBS洗浄により細胞膜に付着しているポルフィリンを除去した。洗浄後、100μl/wellのcell lysisで細胞を溶解させ、Mnポルフィリン錯体細胞溶解液をサンプル管に回収した。サンプルを熱湯中で5分間静置し、内因性のカタラーゼを失活させた。クラーク型溶存酸素電極のセルの中に10mM過酸化水素溶液100μl、回収したMnポルフィリン錯体含有細胞溶解液100μl、50mMリン酸バッファー(pH7.4)800μlを加えて、過酸化水素がポルフィリン錯体により分解される様子を過酸化水素の分解に伴い発生する酸素を電気化学的に検出、追跡した。
【実施例】
【0093】
DNA複合化MnPDリポソームを添加した場合においても酸素産生が見られ、細胞内の環境でもDNA複合化MnPDリポソームが抗酸化活性を発揮することが示された。
【実施例】
【0094】
実施例6:DNA複合化MnPD含有リポソームのin vitro遺伝子発現評価
A549細胞の培養は10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10cells/wellの細胞密度で96ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
【実施例】
【0095】
ルシフェラーゼをコードしたpGL3を用いて、PBS(-)中でpDNA濃度が200ng/wellとなるようにpDNAを任意の電荷比でMnPD含有リポソームと混合し、室温で1時間静置し、複合体を形成させた。
【実施例】
【0096】
各複合体のPBS(-)溶液を上記のA549細胞の培養培地中に添加し、インキュベーター内で5%CO、37℃の条件で4時間培養後、培地交換を行った。その後同条件で48時間培養後、培地を除去し、PBS洗浄により細胞膜に付着している複合体を除去した。洗浄後、20μl/wellのcell lysisで細胞を溶解させ、100μlのルシフェリン溶液を加え、よく混合したものをエッペンドルフチューブに回収し、ルシフェリンの化学発光量をルミノメーターで測定した。
【実施例】
【0097】
Naked DNAに比べて約1000倍の遺伝子発現効率を示し、調製した複合体が十分な遺伝子発現能を有していることが示された。
【実施例】
【0098】
実施例7:ウェスタンブロット法によるHDAC2発現量評価
A549細胞の培養は10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10cells/wellの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
【実施例】
【0099】
HDAC2をコードしたpDNAを用いて、PBS(-)中でpDNA濃度が1000ng/wellとなるようにpDNAを任意の電荷比でMnPD含有リポソームと混合し、室温で1時間静置し、複合体を形成させた。
【実施例】
【0100】
各複合体のPBS(-)溶液を上記のA549細胞の培養培地中に添加し、インキュベーター内で5%CO、37℃の条件で4時間培養後、培地交換を行った。その後同条件で48時間培養後、培地を除去し、PBS洗浄により細胞膜に付着している複合体を除去した。洗浄後、100μl/wellのcell lysisで細胞を溶解させ、その内90μlはエッペンドルフチューブに回収し、残りの10μlはタンパク定量用に分取した。タンパク定量の結果から、希釈倍率を決定し、サンプルバッファーで希釈した。タンパク質のジスルフィド結合を切断するために95℃で5分間熱処理を行った。作製したサンプルをポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)(濃縮ゲル:30%アクリルアミド、Tris pH6.8、10%SDS、10%APS、TEMED、DDW;分離ゲル:30%アクリルアミド、Tris pH8.8、10%SDS、10%APS、TEMED、DDW)によって分離し、タンク式ブロッティング装置を用いて、ゲルからPVDF膜へタンパクを転写した。タンパクを転写した膜に一次抗体(抗HDAC2マウス抗体、及び抗β-アクチンウサギ抗体):washバッファー=1:1000溶液で一次抗体処理を一晩行い、次いで、二次抗体(HRP-複合化抗マウス抗体、HRP-複合化抗ウサギ抗体):washバッファー=1:1000溶液で二次抗体処理を行った。Prime Western Blotting Detection Systemを使用し、発光検出することでHDAC2発現量を半定量的に評価した。
【実施例】
【0101】
未処理細胞に対して、HDAC2の発現量が約3倍に増加しており、調製した複合体を用いることで十分量のHDAC2が発現することが示された。
【実施例】
【0102】
実施例8:ELISAによる複合体のHDAC2活性評価
A549細胞の培養は10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10cells/wellの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
【実施例】
【0103】
HDAC2をコードしたpDNAを用いて、PBS(-)中でpDNA濃度が1000ng/wellとなるようにpDNAを任意の電荷比でMnPD含有リポソームと混合し、室温で1時間静置し、複合体を形成させた。
【実施例】
【0104】
各複合体のPBS(-)溶液を上記のA549細胞の培養培地中に添加し、インキュベーター内で5%CO、37℃の条件で4時間培養後、培地交換を行った。その後同条件で48時間培養後、培地を除去し、PBS洗浄により細胞膜に付着している複合体を除去した。洗浄後、100μl/wellのcell lysisで細胞を溶解させ、エッペンドルフチューブに回収した。
【実施例】
【0105】
回収したサンプルにELISAを用いて、蛍光強度の変化を検出することで各複合体のHDAC2活性評価を行った。未処理細胞のHDAC2活性を100%とした時に、調製した複合体を添加した場合にHDAC2の活性が103%に増加していることが示された。
【実施例】
【0106】
実施例9:過酸化水素によるHDAC2発現量低下に対するDNA複合化MnPD含有リポソームのHDAC2保護効果の検討
A549細胞の培養は10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10cells/wellの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
【実施例】
【0107】
HDAC2をコードしたpDNAを用いて、PBS(-)中でpDNA濃度が1000ng/wellとなるようにpDNAを任意の電荷比でMnPD含有リポソームと混合し、室温で1時間静置し、複合体を形成させた。
【実施例】
【0108】
各複合体のPBS(-)溶液を上記のA549細胞の培養培地中に添加し、インキュベーター内で5%CO、37℃の条件で4時間培養後、培地交換を行った。その後同条件で48時間培養後、過酸化水素を100μM/wellになるように添加し、4時間培養した。4時間培養後、培地を除去し、100μl/wellのcell lysisで細胞を溶解させ、その内90μlはエッペンドルフチューブに回収し、残りの10μlはタンパク定量用に分取した。タンパク定量の結果から、希釈倍率を決定し、サンプルバッファーで希釈した。タンパク質のジスルフィド結合を切断するために95℃で5分間熱処理を行った。作製したサンプルをポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)(濃縮ゲル:30%アクリルアミド、Tris pH6.8、10%SDS、10%APS、TEMED、DDW;分離ゲル:30%アクリルアミド、Tris pH8.8、10%SDS、10%APS、TEMED、DDW)によって分離し、タンク式ブロッティング装置を用いて、ゲルからPVDF膜へタンパクを転写した。タンパクを転写した膜に一次抗体(抗HDAC2マウス抗体、及び抗β-アクチンウサギ抗体):washバッファー=1:1000溶液で一次抗体処理を一晩行い、次いで、二次抗体(HRP-複合化抗マウス抗体、及びHRP-複合化抗ウサギ抗体):washバッファー=1:1000溶液で二次抗体処理を行った。Prime Western Blotting Detection Systemを使用し、発光検出することでHDAC2発現量を半定量的に定量した。過酸化水素により発現量の低下するHDAC2を定量し、それに対して各複合体がHDAC2発現量の低下を抑制できるかどうかを検討することで複合体のHDAC2保護効果を評価した。
【実施例】
【0109】
未処理細胞のHDAC2発現量を100%としたときに、過酸化水素処理により、HDAC2発現量が60%程度に低下した。それに対して調製した複合体を添加した場合に約200%まで発現量が増加した。
【実施例】
【0110】
実施例10:過酸化水素によるHDAC2発現量低下に対するDNA複合化MnPD含有リポソームのHDAC2活性改善効果の検討
A549細胞の培養は10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10cells/wellの細胞密度で12ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
【実施例】
【0111】
HDAC2をコードしたpDNAを用いて、PBS(-)中でpDNA濃度が1000ng/wellとなるようにpDNAを任意の電荷比でMnPD含有リポソームと混合し、室温で1時間静置し、複合体を形成させた。
【実施例】
【0112】
各複合体のPBS(-)溶液を上記のA549細胞の培養培地中に添加し、インキュベーター内で5%CO、37℃の条件で4時間培養後、培地交換を行った。その後同条件で48時間培養後、過酸化水素を100μM/wellになるように添加し、4時間培養した。4時間培養後、培地を除去し、100μl/wellのcell lysisで細胞を溶解させ、エッペンドルフチューブに回収した。回収したサンプルにELISAを用いて、化学発光量の変化を検出することで各複合体のHDAC2活性改善効果の検討を行った。
【実施例】
【0113】
未処理細胞のHDAC2活性を100%としたときに、過酸化水素処理により、HDAC2活性が50%まで低下した。それに対して調製した複合体を添加すると60%までHDAC2活性が回復した。
【実施例】
【0114】
実施例11:過酸化水素とLPSによるCOPDモデルにおけるDNA複合化MnPD含有リポソームのステロイド耐性抑制効果の検討
A549細胞の培養は10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、1×10cells/wellの細胞密度で48ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
【実施例】
【0115】
HDAC2をコードしたpDNAを用いて、PBS(-)中でpDNA濃度が200ng/wellとなるようにpDNAを任意の電荷比でMnPD含有リポソームと混合し、室温で1時間静置し、複合体を形成させた。
【実施例】
【0116】
各複合体のPBS(-)溶液を上記のA549細胞の培養培地中に添加し、インキュベーター内で5%CO、37℃の条件で4時間培養後、培地交換を行った。その後同条件で48時間培養後、過酸化水素を100μM/wellになるように添加し、4時間培養した。4時間培養後、培地交換し、0.2ng/wellとなるようにLPSを、100μM/wellとなるようにデキサメタゾンを添加し、16時間培養した。その後、培地を除去し、50μl/wellのcell lysisで細胞を溶解させ、細胞溶解液をエッペンドルフチューブに回収した。過酸化水素とLPSの共処理によるCOPDモデルにおいてはステロイドであるデキサメタゾンの投与はIL-8産生量を抑制することができない(ステロイド耐性)。COPDモデルにおけるIL-8産生量を定量し、それに対して複合体の投与がステロイドの作用を正常化し、IL-8産生量が減少するかを検討することで複合体のステロイド耐性抑制効果を評価した。また、評価はELISAで行い、蛍光強度の変化からIL-8産生量の変化を算出した。
【実施例】
【0117】
未処理細胞においてIL-8産生量は約400pg/mLであり、過酸化水素とLPSの処理により、IL-8産生量が約1200pg/mLまで増加した。それに対してデキサメタゾンを添加した場合、IL-8産生量を抑制することはできなかった(ステロイド耐性)。しかし、DNA複合化MnPD含有リポソームを共投与した場合にはIL-8産生量が約500pg/mLまで減少し、調製した複合体がCOPDモデルにおけるステロイド耐性を抑制することに成功したことが示された。
【実施例】
【0118】
実施例12:DNA複合化脂質コートMnPD含有PLAナノ粒子の調製
マンガンポルフィリンダイマー(MnPD)含有ポリ乳酸(PLA)ナノ粒子は、以下の手順で調製した。まず、MnPD 1mgとPLA 100mgはメタノール/アセトン混合溶媒に溶解した。得られた溶液は、ポリビニルアルコール溶液30mLに添加し、撹拌した。撹拌したのち、遠心分離により粒子を沈降した。次に上清を除去し、蒸留水を30mL添加し、遠心分離を行った。この作業を2回繰り返した。最後に上清除去し、蒸留水を10mL添加し、粒子を再懸濁した。得られた懸濁液は、凍結乾燥によりMnPD含有PLAナノ粒子を得た。粒径は265±78nm、ゼータ電位は-6.7mVの値を示した。
【実施例】
【0119】
得られた粒子への脂質コートは以下の手順で行った。まず、2mgカチオン性脂質(1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP))はクロロホルムに溶解し、ロータリーエバポレータを用いて溶媒を蒸散し、脂質薄膜を得た。得られた脂質薄膜に対して、PBSに懸濁したMnPD含有PLA粒子 4mgを添加し、超音波処理を行った。超音波処理後、静置し脂質コートしたMnPD含有PLAナノ粒子を得た。
【実施例】
【0120】
最後に、脂質コートしたMnPD含有PLAナノ粒子 690ngはPBS中でHDAC2をコードしたプラスミドDNA 200ngを添加し、室温で1時間静置することにより、DNA複合化脂質コートMnPD含有PLAナノ粒子を得た。粒径は414±17nm、ゼータ電位は+21mVの値を示した。
【実施例】
【0121】
実施例13:過酸化水素とLPSによるCOPDモデルにおけるDNA複合化脂質コートMnPD含有PLAナノ粒子の抗炎症効果及びステロイド耐性抑制効果の検討
A549細胞の培養は10%FBS、1%抗生物質含有DMEM培地にて5%CO、37℃の条件で行った。コンフルエントになった細胞を計測して、5×10cells/wellの細胞密度で96ウェルプレート上に播種し、24時間インキュベーター内で培養した。
【実施例】
【0122】
実施例12で調製したDNA複合化脂質コートMnPD含有PLAナノ粒子のPBS(-)溶液を上記のA549細胞の培養培地中に添加した。インキュベーター内で5%CO、37℃の条件で48時間培養後、過酸化水素を100μM/wellとなるように添加し、4時間インキュベートした。その後、0.2ng/wellとなるようにLPSを、100μM/wellとなるようにデキサメタゾン(Dex.)を添加し、16時間インキュベートした。その後、培地を除去し、回収した細胞を50μl/wellのcell lysisで溶解し、ELISAによる炎症性サイトカイン(IL-8)発現量評価を行った。
【実施例】
【0123】
結果を図2に示す。過酸化水素とLPSで処理した細胞は、IL-8産生量が増大した。DNA複合化脂質コートMnPD含有PLAナノ粒子を添加した細胞では、過酸化水素とLPSで処理した細胞に対して、IL-8産生量が有意に抑制された(p<0.05)。さらにキャリアとデキサメタゾンを添加することで、キャリアのみと比較してIL-8量のさらなる低下を導いた(p<0.05)。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の複合体は、抗酸化剤とプラスミドDNAの共送達により、抗酸化剤による活性酸素種消去と、プラスミドDNAによるエピジェネティクな異常の改善を同時に達成することができるものである。したがって、従来は対症療法しか存在しなかったエピジェネティクス異常と活性酸素種が病理に関わる疾患の根治治療への応用が期待される。
図面
【図1】
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【図2】
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