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明細書 :リチウム二次電池、リチウム二次電池用電解液、及び、リチウム二次電池の電解液用添加剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6372823号 (P6372823)
公開番号 特開2016-152140 (P2016-152140A)
登録日 平成30年7月27日(2018.7.27)
発行日 平成30年8月15日(2018.8.15)
公開日 平成28年8月22日(2016.8.22)
発明の名称または考案の名称 リチウム二次電池、リチウム二次電池用電解液、及び、リチウム二次電池の電解液用添加剤
国際特許分類 H01M  10/0567      (2010.01)
H01M  10/0568      (2010.01)
H01M  10/052       (2010.01)
FI H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 10/052
請求項の数または発明の数 8
全頁数 19
出願番号 特願2015-029190 (P2015-029190)
出願日 平成27年2月18日(2015.2.18)
審査請求日 平成29年4月26日(2017.4.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
発明者または考案者 【氏名】春名 博史
【氏名】高橋 心
【氏名】阿部 登志雄
【氏名】田中 康隆
個別代理人の代理人 【識別番号】110001807、【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
審査官 【審査官】式部 玲
参考文献・文献 特開平10-223258(JP,A)
特開2007-273260(JP,A)
特開2007-165108(JP,A)
特開平11-003728(JP,A)
特開2003-168476(JP,A)
特開2015-041531(JP,A)
調査した分野 H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
CAplus/REGISTRY(STN)
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特許請求の範囲 【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極と、
リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極と、
前記正極及び負極に接触される非水電解液と、を備え、
前記非水電解液は、
ヘキサフルオロリン酸リチウムと、
(O-CHCHCHCH(BO)及び(O-CH(CH)CHCH(BO)からなる群から選択される少なくとも一方のボロキシン化合物と、を含むことを特徴とする、リチウム二次電池
【請求項2】
前記非水電解液において、前記ボロキシン化合物を構成するホウ素原子のうちの少なくとも1つが、4価のホウ素原子になっていることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記非水電解液において、前記ボロキシン化合物の含有量が、前記非水電解液における濃度として、0.1質量%以上2質量%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記非水電解液には、ビニレンカーボネートが含まれていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
ヘキサフルオロリン酸リチウムと、
(O-CHCHCHCH(BO)及び(O-CH(CH)CHCH(BO)からなる群から選択される少なくとも一方のボロキシン化合物と、を含むことを特徴とする、リチウム二次電池用電解液
【請求項6】
記ボロキシン化合物を構成するホウ素原子のうちの少なくとも1つが、4価のホウ素原子になっていることを特徴とする、請求項に記載のリチウム二次電池用電解液。
【請求項7】
ビニレンカーボネートが含まれていることを特徴とする、請求項又はに記載のリチウム二次電池用電解液。
【請求項8】
(O-CHCHCHCH(BO)及び(O-CH(CH)CHCH(BO)からなる群から選択される少なくとも一方のボロキシン化合物を含むことを特徴とする、リチウム二次電池の電解液用添加剤
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池、リチウム二次電池用電解液、及び、リチウム二次電池の電解液用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電話や携帯用パソコン等の移動体通信用電源はますます小型化、高エネルギ密度化(高容量化)が要望されており、船舶や、電力を動力の一部に利用したハイブリッド鉄道やハイブリッド車、電気自動車等の実用化が進んでいる。さらに、環境保護の観点から、深夜電力の貯蔵のみならず、太陽電池や風力発電と組み合わせた電力貯蔵用電源やスマートグリッドの開発も進んでいる。このような状況下、リチウム二次電池が注目されているが、リチウム二次電池は、充放電を繰り返すことで充放電効率の低下や電池内部抵抗の増加を示すため、電池性能の経時劣化が小さいリチウム二次電池が求められている。
【0003】
このような技術に関連して、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、高電圧で繰り返し充電することができるリチウム二次電池用電解液を提供することが記載されている。具体的には、炭酸エステル溶媒及びホウ酸エステル溶媒から選ばれる少なくとも一種の溶媒と、LiBFと、所定のボロキシン化合物と、を混合したリチウム二次電池用電解液が記載されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第2012/133556号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電解液を用いたリチウム二次電池では、高電圧で繰り返し充電することができるとされている。しかし、特許文献1に記載の電解液を用いたリチウム二次電池では、初期容量やサイクル特性の改善については開示されていない。従って、従来の技術では、電池の高容量化とともに、経時劣化を抑制することは十分ではなかった。
【0006】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、初期容量に優れるとともにサイクル特性にも優れたリチウム二次電池、リチウム二次電池用電解液、及び、リチウム二次電池の電解液用添加剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意検討した結果、(O-CHCHCHCH(BO)及び(O-CH(CH)CHCH(BO)からなる群から選択される少なくとも一方のボロキシン化合物を用いることで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、初期容量に優れるとともにサイクル特性にも優れたリチウム二次電池、リチウム二次電池用電解液、及び、リチウム二次電池の電解液用添加剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の内部構造を模式的に表す図である。
【図2】ボロキシン化合物(1)についての11B-NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明する。

【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池1の内部構造を模式的に表す図である。図1に示すように、リチウム二次電池1は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な正極10と、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極12とを少なくとも備えて構成されている。これらは、電池容器13に収納される。そして、電池容器13の内部には、電解液(「リチウム二次電池電解液」や「非水電解液」ともいう)が充填されている。この電解液と正極10及び負極12との間でリチウムイオンが授受されることで、リチウム二次電池1の充放電が行われるようになっている。

【0012】
<電解液>
電池容器13の内部に充填される電解液は、以下の式(1)で表されるボロキシン化合物と、電解質としてのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)と、非水溶媒とを含有するものである。そして、この式(1)で表されるボロキシン化合物は、25℃で液体状態になっているものである。以下、25℃で液体となる、式(1)で表される化合物のことを、「ボロキシン化合物(1)」ということがある。また、式(1)で示される構造を略記して、「(RO)(BO)」と表記することがある。

【0013】
【化1】
JP0006372823B2_000002t.gif
(式(1)中、Rは、それぞれ独立して、炭素数が3以上の直鎖の鎖状アルキル基を有する有機基である。ただし、当該鎖状アルキル基は分岐を有していてもよく、当該鎖状アルキル基が分岐を有する場合には、当該直鎖を構成する部分の鎖状アルキル基の炭素数が3以上のものである。)

【0014】
このような25℃で液体状態のボロキシン化合物(1)を用いることにより、非水溶媒への溶解性を高め、ボロキシン化合物(1)の有する利点を最大限発揮させることができる。また、容易に溶解させることができるため、溶解のための装置を簡略化できる。

【0015】
ボロキシン化合物(1)は、ボロキシン(B)に存在する3つの水素原子(H)がアルコキシ基(-OR)により置換されてなるものである。そして、ボロキシン化合物(1)に含まれる3つのRについて、全てのRが同一であってもよく、一部又は全部のRが他のRと異なるものであってもよい。

【0016】
ボロキシン化合物(1)において、Rは、前記のように、炭素数が3以上の直鎖の鎖状アルキル基を有する有機基である。ここでいう「炭素数が3以上の直鎖の鎖状アルキル基」とは、Rを構成する有機基に含まれる直鎖アルキル基のうち、最も長い鎖状アルキル基を構成する炭素の数が3以上であることを表す。そして、この鎖状アルキル基は分岐を有していてもよく、分岐を有する場合には、当該直鎖を構成する部分の鎖状アルキル基の炭素数が3以上になっている。このような構造とすることで、ボロキシン化合物の立体性がボロキシンの立体性から変化して嵩高くなり、25℃で液体となるボロキシン化合物(1)を得ることができる。

【0017】
ただし、Rを構成する有機基は、分岐を有してもよい、炭素数が3以上の直鎖の鎖状アルキル基であることが好ましい。有機基がアルキル基であることで、例えばグリニャール反応を利用して容易にボロキシン化合物(1)を製造することができる。なお、以下の説明では、説明の都合上、Rは、Rとして好適な「分岐を有しうる、炭素数が3以上の直鎖の鎖状アルキル基」としている。

【0018】
また、Rを構成する有機基に含まれる炭素の数の上限は特に制限されないが、製造のし易さの観点からは、その上限(Rを構成する有機基に含まれる全ての炭素数の上限)は6以下であることが好ましい。また、アルキル基は飽和アルキル基でもよい。Rは、任意の置換基(ハロゲン、窒素、硫黄等)を有していてもよい。

【0019】
鎖状アルキル基の具体例としては、特にこれらに制限されるものではないが、
R=C(Cは炭素原子、Hは水素原子を表し、aは3以上の整数であり、bはb=2a+1を満たす数である)で表される直鎖の鎖状アルキル基、具体的には、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の直鎖の飽和炭化水素基、
R=C(Cは炭素原子、Hは水素原子を表し、cは4以上の整数であり、dはd=2a+1を満たす数である)で表される、分岐を有する直鎖の鎖状アルキル基、具体的には、1-メチル-プロピル基、1-エチル-プロピル基、2-メチル-プロピル基、1-メチル-ブチル基、1-エチル-ブチル基、2-メチル-ブチル基、2-エチル-ブチル基、3-メチル-ブチル基、1-メチル-ペンチル基、1-エチル-ペンチル基、1-プロピル-ペンチル基、2-メチル-ペンチル基、2-エチル-ペンチル基、2-プロピル-ペンチル基、3-メチル-ペンチル基、3-エチル-ペンチル基、4-メチル-ペンチル基、1-メチル-ヘキシル基、1-エチル-ヘキシル基、1-プロピル-ヘキシル基、1-ブチル-ヘキシル基、1-ペンチル-ヘキシル基、2-メチル-ヘキシル基、2-エチル-ヘキシル基、2-プロピル-ヘキシル基、2-ブチル-ヘキシル基、3-メチル-ヘキシル基、3-エチル-ヘキシル基、3-プロピル-ヘキシル基、4-メチル-ヘキシル基、4-エチル-ヘキシル基、5-メチル-ヘキシル基等が挙げられる。

【0020】
ここで、前記のようなボロキシン化合物(1)であれば25℃で液体となって本発明の効果が得られる理由を説明する。

【0021】
ホウ素原子に配位子が3つ配位した3配位化合物(例えば、1つのホウ素原子に3つの水素原子が配位したボラン(B-H))は、通常、三角形の平面構造をとる。そのため、(B-O)で示される環状構造(ボロキシン環の骨格構造)も平面構造をとると考えられる。つまり、このような骨格構造を有するボロキシン化合物では、ホウ素原子上の空のp軌道と、酸素原子上の非共有電子対とによりπ軌道が形成され、芳香族であるベンゼンと電子環境が同様のものとなって、ボロキシン化合物は芳香族性を示すと考えられる。また、ボロキシン化合物におけるホウ素原子の単結合はs軌道の割合が高いため、ボロキシン環((B-O)の骨格構造)の大きさは置換基による影響を受けにくく、置換基の大きさによらず、同程度の大きさになると考えられる。

【0022】
そして、ボロキシン化合物(1)は、「-OR」で示される置換基(アルコキシ基)が結合した(B-O)である。そのため、ボロキシン環の骨格構造の電子環境に対して、アルコキシ基による大きな影響は無いと考えられる。特に、芳香性を有するボロキシン環に対して、アルコキシ基に含まれる酸素原子による電子供与効果が高い一方、Rの違いによる電子吸引や誘起効果は小さいと考えられる。特に、ボロキシン化合物(1)では、Rがアルキル基であるため、Rの種類によるボロキシン環への電子環境への影響はほとんど変わらないと考えられる。従って、Rが前記のような構造を有すれば、それぞれのボロキシン化合物(1)について同様の効果が得られると考えられる。

【0023】
また、ボロキシン化合物(1)は25℃で液体の化合物である。ボロキシン化合物(1)に含まれるボロキシン環は、前記のように平面構造をとるものと考えられる。しかし、ボロキシン化合物(1)に含まれる3つのRは前記のように嵩高いため、ボロキシン化合物(1)では、その平面構造が崩れる傾向にある。その結果、ボロキシン化合物(1)は、25℃で液体の状態になると考えられる。そして、25℃で液体のボロキシン化合物(1)を用いることで、ボロキシン化合物(1)を電解液に混合し易くなり、ボロキシン化合物(1)の有する利点を得られ易くすることができる。

【0024】
ボロキシン化合物(1)は、例えば、グリニャール試薬であるアルキルマグネシウムクロリドとホウ酸トリメチルとの反応を利用して製造することが可能である。そして、ボロキシン化合物(1)におけるRの種類に応じて、アルキルマグネシウムクロリドに含まれるアルキル基を選択すればよい。即ち、アルキルマグネシウムクロリドの種類を選定すれば、Rとして種々のアルキル基を含むボロキシン化合物(1)の製造が可能である。また、例えば、複数種のアルキルマグネシウムクロリドを用い、それらのモル数を変化させることで、一分子中に異なるアルキル基を有する(OR)(OR)(OR)(BO)(R~Rは、互いに異なる有機基を示す)を得ることもできる。

【0025】
また、ボロキシン化合物(1)は、例えば、トリアルキルボレートB(OR)とBとの環化反応により合成することも可能である。この場合において、B(OR)の種類を選定すれば、Rとして様々な有機基の結合したボロキシン化合物(1)の合成が可能である。さらには、アルキル基Rの異なる複数のB(OR)、例えば、所定のモル比で含まれるB(OR)、B(OR)及びB(OR)の混合物と無水ホウ酸Bとを反応させることで、一分子中に異なる有機基を有するボロキシン化合物(1)(化学式:(OR)(OR)(OR)(BO)(R~Rは、互いに異なる有機基を示す))等を得ることもできる。

【0026】
特に、環化反応を利用した合成方法では、B(OCとBとが等モル量で反応することで、目的物であるボロキシン化合物(1)を得ることができる。そのため、未反応物や副生成物等の、ボロキシン化合物(1)以外の成分の生成を低減することが可能である。また、この合成方法によると、目的物であるボロキシン化合物(1)をリチウム電池用電解液へ混合し、電解液添加剤として用いる場合に、添加するボロキシン化合物(1)以外の成分の混入を抑制できることが可能になる。そのため、この合成方法には、高純度の要求されるリチウム電池用電解液添加剤を得る合成方法としても利点がある。

【0027】
電解液には、前記のように、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiとPFとのイオン結合により構成される)が含まれている。そして、本発明の電解液においては、前記のボロキシン化合物(1)とヘキサフルオロリン酸リチウムとが併存していることで、これらが反応し、ボロキシン化合物(1)を構成するホウ素原子(通常では3価)のうちの少なくとも1つが、4価のホウ素原子である化合物が生成している。このような反応が生じることで、リチウムイオンの解離度を向上させて、電池容量を向上させることができる。

【0028】
このような生成反応において、考えられる反応機構は以下の通りである。(RO)(BO)で表されるボロキシン化合物では、芳香性を示す(B-O)環を構成するホウ素原子の電子密度が低くなっている。そのため、このホウ素原子は、電解液中のアニオンである、電子リッチなPFと錯形成する。そして、この錯形成反応によって、ホウ素原子の価数は3価から4価に変化する。一方で、電解液中において、電解質のLiは、電解質のアニオンPFと相互作用を形成しているものの、前記のようにPFが(B-O)環のホウ素原子と相互作用することで、以下の化学反応式(2)における平衡反応が右に進行することになる。これにより、Liの解離が促進され、電池反応に寄与できるLi量が電解液中で増加して、電池の高容量化が達成できる。
【化2】
JP0006372823B2_000003t.gif

【0029】
特に、このような反応は、電解液中において、ボロキシン化合物(1)とヘキサフルオロリン酸リチウムとが共存した時点で開始される。従って、これらを電解液に溶解させた時点でLiの解離が開始されるため、その電解液を用いてリチウム二次電池1を組み立てた際の、リチウム二次電池1の初期容量を増加させることができる。また、この反応は、リチウム二次電池1の充放電中にも進行する。即ち、充放電中においても前記の平衡反応に応じてLiの解離が適宜促進されるため、例えば活物質の劣化等によるサイクル特性の低下を抑制し、リチウムイオン二次電池1のサイクル特性を向上させることができる。

【0030】
この反応は、11B-NMR測定による、ホウ素原子上の電荷密度を反映するケミカルシフトに基づき判別をすることが可能である。そこで、ボロキシン化合物(1)とヘキサフルオロリン酸リチウムとが含まれる電解液において、この反応が生じていることを確認するために、以下の手順で11B-NMR測定を行った。

【0031】
ボロキシン化合物(1)としては、前記式(1)においてRが炭素数4の直鎖アルキル基(ブチル基)である(O-CHCHCHCH(BO)を用いた。そして、電解液として、非水溶媒であるエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶液(EC:EMC=1:3(体積比))に、当該ボロキシン化合物(1)及びヘキサフルオロリン酸リチウムを、それぞれ1.0mol/kgの質量モル濃度となるように溶解し、電解液(以下、「混合物からなる電解液」ということがある)を得た。また、この電解液に対する比較として、ヘキサフルオロリン酸リチウムを含まないこと以外はこの電解液と同様にして、比較対象となる電解液(以下、「単独の電解液」ということがある)を得た。

【0032】
それぞれの電解液について、11B-NMRスペクトル測定を行った。その結果を図2に示す。

【0033】
図2は、ボロキシン化合物(1)についての11B-NMRスペクトルを示す図である。図2において、上段のスペクトルは、ボロキシン化合物(1)とヘキサフルオロリン酸リチウムとの混合物からなる電解液についてのスペクトルである。また、下段のスペクトルは、ヘキサフルオロリン酸リチウムを含まずにボロキシン化合物(1)単独の電解液についてのスペクトルである。

【0034】
下段のスペクトル(単独)では、0ppm近傍に1つのピーク(成分)しか観測されなかった。しかし、上段のスペクトル(LiPFとの混合物)では、下段のスペクトルで観測されたピークの他に、約20ppm高磁場側にシフトしたピーク(成分)も観測された。この結果から、ボロキシン化合物(1)とヘキサフルオロリン酸リチウムとの混合物からなる電解液では、電解液中でボロキシン化合物(1)を構成するホウ素原子の価数が変化していることがわかる。

【0035】
また、図示はしないが、価数の既知なホウ酸(具体的には3価)について、11B-NMRスペクトルを測定した。そして、外部標準となるホウ酸について得られたスペクトルのケミカルシフトと、図2に示したスペクトルのケミカルシフトとを比較した。その結果、単独の電解液では、ケミカルシフトは、ホウ酸の場合とほぼ同等の位置に観測された。一方で、混合物からなる電解液では、ケミカルシフトは、ホウ酸のケミカルシフトとほぼ同じ位置に加えて、約20ppm高磁場側にシフトした位置の2種類が観測された。このように、混合物からなる電解液では、ホウ素として、3価の化合物及びそれより高い価数(例えば4価)の化合物が混在していることが確認された。

【0036】
なお、このような構造変化をより詳細に確認するためには、二次元NMR、又はH-NMR等を併用することも可能である。

【0037】
さらに、本発明者らが検討したところによれば、ボロキシン化合物(1)と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)に代えてホウフッ化リチウム(LiBF)とを含む電解液の場合には、前記の現象(電解液中でのホウ素原子の価数の変化)は生じないことが確認されている。なお、この確認は、11B-NMR及びH-NMRにより行った。

【0038】
このような差異が生じる理由は、本発明者らが検討したところによれば、以下のように考えられる。ホウフッ化リチウムを構成する「BF」は、1つのホウ素原子と4つのフッ素原子とにより構成されている。そして、特にホウ素原子のイオン半径が小さいため、これらが結合してなる「BF」全体の表面積も相対的に小さくなる。これにより、その表面に帯電しているマイナスの強さは、相対的に大きなものとなる。そのため、プラスの電荷を有するリチウムイオンと相対的に強く結合することになり、「BF」とイオン結合するリチウムイオンは、電解液中で電離しにくくなる。この結果、ホウフッ化リチウムは、ボロキシン化合物(1)と反応しにくくなると考えられる。

【0039】
一方で、ヘキサフルオロリン酸リチウムを構成する「PF」は、1つのリン原子と6つのフッ素原子とにより構成されている。そして、リン原子のイオン半径の大きさは、ホウ素原子のイオン半径よりも大きい。そして、これらが結合してなる「PF」の構成する原子の総数(7つ)も、「BF」を構成する原子の総数(5つ)よりも多く、「PF」全体の表面積は相対的に大きくなる。これにより、その表面に帯電しているマイナスの強さは、相対的に小さなものとなる。そのため、プラスの電荷を有するリチウムイオンと相対的に弱く結合することになり、「PF」とイオン結合するリチウムイオンは、電解液中で電離しやすくなる。この結果、電離しやすくなったリチウムイオンは、電子密度が濃いボロキシン化合物を構成するホウ素原子に配位し易くなり、前記のようなホウ素原子の価数が変化すると考えられる。

【0040】
これらのように、ボロキシン化合物(1)を構成するホウ素原子と電解質との相互作用は、電解質のカウンタアニオンの種類によって変化する。そして、その作用は、熱力学的な作用であるため、低温、又は高温環境下での測定によって、その効果を明確に確認することが可能である。

【0041】
電解液に含まれるボロキシン化合物(1)やヘキサフルオロリン酸リチウムの量に特に制限はない。ただし、これらの相互作用のし易さの観点から、電解液に含まれるボロキシン化合物(1)の量は、電解液における濃度(通常はヘキサフルオロリン酸リチウム及び非水溶媒の合計量に対して)、0.1質量%~2質量%以下とすることが好ましい。また、ボロキシン化合物(1)の含有量は、0.3質量%~0.8質量%とすることがより好ましい。このような濃度範囲とすることで、ボロキシン化合物(1)の溶解性と、得られる効果とのバランスが特に優れたものとすることができる。

【0042】
また、電解液におけるヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度も特に制限されないが、ヘキサフルオロリン酸リチウムのほかに含有されうる電解質(例えばホウフッ化リチウム)も含めた電解質全体の濃度として、非水溶媒に対して、0.6mol/L~1.5mol/Lとすることが好ましい。

【0043】
電解液に含まれる非水溶媒としては、例えば、前記のエチルメチルカーボネートやエチレンカーボネートのほか、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。また、これら非水溶媒については、フッ素置換体等のハロゲン化物や硫黄元素で置換したものを用いてもよい。さらにこれらの非水溶媒は、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。なお、2種類以上の非水溶媒を用いる場合は、環状カーボネートや環状ラクトンのような粘度の大きい溶媒と、鎖状カーボネートや鎖状エステルのような粘度の小さい溶媒との混合溶媒系を用いることが好ましい。

【0044】
以上、リチウム二次電池1の電池容器13に充填される電解液について説明したが、電解液には、前記の各成分以外にも、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意の成分が含まれていてもよい。

【0045】
例えば、電解液には、ビニレンカーボネートが含まれることが好ましい。電解液にビニレンカーボネートが含まれることで、負極12(図1参照)の表面での電解液の分解反応を抑制し、リチウム二次電池1のサイクル特性をいっそう向上させることが可能となる。電解液にビニレンカーボネートが含まれる場合、電解液中のビニレンカーボネートの濃度は、2質量%以下とすることが好ましい。

【0046】
ビニレンカーボネートが含まれることで、以下のような効果が得られる。即ち、詳細は後記するが、負極12は、負極活物質等を含む負極合剤が集電板に塗布及び乾燥されてなる。そのため、負極活物質の表面には、C=O、C-H及びCOO等の表面官能基が存在することがある。表面官能基の種類によっては、表面官能基が電池反応で電解液と不可逆な反応をすることで、SEI被膜といわれる表面被膜を形成することがある。そこで、電解液にビニレンカーボネートを含有させて、ビニレンカーボネートを反応に関与させることで、SEI被膜の生成に伴って生じる電荷消費を抑制し、電池の容量低下をより十分に抑制することができる。一方で、SEI被膜により、負極12の界面での電解液との経時的な反応が抑制され、これにより、寿命の向上した(サイクル特性が十分優れた)リチウム二次電池を提供することができる。

【0047】
また、電解質としては、前記のようにヘキサフルオロリン酸リチウムが用いられるが、ヘキサフルオロリン酸リチウムに加えて、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSO)N等のリチウム塩等により構成される電解質を併用してもよい。ただし、ヘキサフルオロリン酸リチウム以外の電解質を併用する場合には、ヘキサフルオロリン酸リチウム以外の電解質は、含まれる電解質の総量において、30質量%未満とすることが望ましい。

【0048】
さらに、前記のもののほかにも、例えば、カルボン酸無水物基を有する化合物、プロパンサルトン等硫黄元素を有する化合物、ホウ素を有する化合物等の正極及び/又は負極活物質表面に被膜を形成し電極表面の還元分解を抑制するための添加物、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン等の過充電抑制のための添加剤、リン酸系及び/又はハロゲンへの置換により電解液に難燃・不燃性を付与させる添加剤、正極活物質からのMnの溶出を抑制する添加剤、電解液のイオン導電性を向上するための添加剤、自己消化性添加剤、電極・セパレータ濡れ性改善添加剤等を含有させることができる。

【0049】
これらは、所望の目的に応じて、適宜電解液に含有させればよい。また、これらは1種が単独で含まれてもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせで含まれていてもよい。ただし、これらの添加剤の含有量としては、本発明の効果を特に十分に発揮させる観点から、含まれる添加剤の含有量の総量が、電解液において10質量%未満とすることが好ましい。

【0050】
次に、図1を再度参照しながら、リチウム二次電池1の全体構造を説明する。リチウム二次電池1は、正極10、セパレータ11、負極12、電池容器13、正極集電タブ14、負極集電タブ15、内蓋16、内圧解放弁17、ガスケット18、正温度係数(Positive Temperature Coefficient;PTC)抵抗素子19、電池蓋20及び軸心21から概略構成される。電池蓋20は、内蓋16、内圧開放弁17、ガスケット18及び正温度係数抵抗素子19からなる一体化部品である。また、軸心21には、正極10、セパレータ11及び負極12が捲回されている。

【0051】
セパレータ11は、正極10と負極12との間に挿入されている。そして、正極10、セパレータ11及び負極12を軸心21に捲回してなる電極群において、軸心21は、これらを担持できるものであれば任意の軸心を用いることができる。この実施の形態では、電極群は、円筒形状に形成されている。電池容器13の形状は、電極群の形状に合わせて円筒形に形成されている。

【0052】
電池容器13の材質は、電解液に対し耐食性のある材料、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等から選択される。電池容器13を正極10又は負極12に電気的に接続する場合に、電解液と接触している部分において、電池容器13の腐食やリチウムイオンとの合金化による材料の変質が起こらないように、電池容器13の材料の選定が行われる。

【0053】
前記の電極群は電池容器13に収納され、電池容器13の内壁に負極集電タブ15が接続された後、電池蓋20の底面に正極集電タブ14が接続される。電解液(リチウム二次電池用電解液。後記する)は、電池を密閉する前に電池容器13の内部に注入される。電解液の注入方法としては、電池蓋20を開放した状態にて電極群に直接添加する方法、又は電池蓋20に設置した注入口から添加する方法等が挙げられる。

【0054】
その後、電池蓋20を電池容器13に密着させ、電池全体が密閉される。電解液の注入口がある場合は、それも密封する。電池密閉は、溶接、かしめ等の任意の技術を用いて行うことができる。

【0055】
<正極10>
正極10は、正極活物質、導電剤、バインダ及び集電体から概略構成される。具体的には、まず、正極活物質を、バインダ、導電剤、及び必要に応じてカルボキシメチルセルロースや溶媒等と混合して、正極合剤スラリーが調製される。溶媒は、例えばNMP(N-メチルピロリドン)を使用可能である。そして、正極合剤スラリーが、例えば、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等によって集電体に塗布された後、有機溶媒を乾燥させ、ロールプレスによって加圧成形することにより、正極10を作製することができる。また、正極合剤スラリーの塗布及び乾燥を複数回行うことにより、複数の合剤層を集電体に積層化させることも可能である。

【0056】
正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiMnO、LiMn、LiMnO、LiMn12、LiMn2-x(ただし、MはCo、Ni、Fe、Cr、Zn及びTiからなる群から選択される少なくとも1種であり、xは0.01~0.2である)、LiMnMO(ただし、MはFe、Co、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される少なくとも1種である)、Li1-xMn(ただし、AはMg、B、Al、Fe、Co、Ni、Cr、Zn及びCaからなる群から選択される少なくとも1種であり、xは0.01~0.1である)、LiNi1-x(ただし、MはCo、Fe及びGaからなる群から選択される少なくとも1種であり、xは0.01~0.2である)、LiFeO、Fe(SO、LiCo1-x(ただし、MはNi、Fe及びMnからなる群から選択される少なくとも1種であり、xは0.01~0.2である)、LiNi1-x(ただし、MはMn、Fe、Co、Al、Ga、Ca及びMgからなる群から選択される少なくとも1種であり、xは0.01~0.2である)、Fe(MoO、FeF、LiFePO、LiMnPO、等が挙げられる。

【0057】
正極活物質の粒径は、正極活物質、導電剤及びバインダから形成される合剤層の厚さ以下になるように通常は規定される。正極活物質の粉末中に合剤層厚さ以上のサイズを有する粗粒がある場合、予めふるい分級や風流分級等により粗粒を除去し、合剤層厚さ以下の粒子を作製することが好ましい。

【0058】
また、正極活物質は、酸化物系であるために一般に電気抵抗が高い。そこで、電気伝導性を補うための炭素粉末等からなる導電剤を併用することが好ましい。正極活物質及び導電剤はともに通常は粉末であるので、粉末にバインダを混合して、粉末同士を結合させると同時に集電体へ接着させることができる。

【0059】
正極10を構成する集電体としては、例えば、厚さが10μm~100μmのアルミニウム箔、厚さが10μm~100μmで孔径が0.1mm~10mmのアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル又は発泡金属板等が用いられる。また、アルミニウムの他に、ステンレスやチタン等の材質も適用可能であり、材質、形状、製造方法等に制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。さらに、正極合剤層の厚さは、集電体の両面に塗布した場合で、それぞれ50μm~200μm程度とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。

【0060】
正極10に用いるバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル系のポリマー、イミドやアミド基を有するポリマー等を用いることができる。正極合剤層におけるバインダの量は、多過ぎると内部抵抗値の増加や電池容量の低下につながる可能性がある。一方で、バインダ成分が少な過ぎると、電極の密着強度が低下し、電極作製が困難になったり、電池の保存特性、サイクル特性の低下を招いたりする可能性がある。そこで、これらのバランスを考慮して、バインダの使用量が適宜設定されることが好ましい。具体的には、正極活物質、導電剤及びバインダの合計量に対して、バインダの量を1質量%~7質量%とすることが好ましい。好適な配合比率は、電池の保存特性、サイクル特性等の試験結果を基に決定されることが好ましい。

【0061】
<セパレータ11>
セパレータ11は、正極10及び負極12の直接接触による短絡防止を目的として使用されるものである。このセパレータ11には、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂等の微多孔質の高分子フィルムや、高分子フィルムの表面上にアルミナ粒子等の耐熱性物質を被覆した膜等が使用可能である。

【0062】
<負極12>
負極12は、負極活物質、バインダ及び集電体から概略構成される。具体的には、まず、負極活物質を、スチレンブタジエン共重合体等のバインダ及び必要に応じてカルボキシメチルセルロースや溶媒等と混合して、負極合剤スラリーが調製される。溶媒は、例えば正極10の作製の際に用いた溶媒と同じものを用いることができる。そして、負極合剤スラリーが、例えば、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法等によって集電体に塗布された後、有機溶媒を乾燥させ、ロールプレスすることにより、負極12を作製することができる。また、負極合剤スラリーの塗布及び乾燥を複数回行うことにより、複数の合剤層を集電体に積層化させることも可能である。

【0063】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、石油コークス又は石炭ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の高温で処理したもの、メソフェーズカーボン、非晶質炭素、黒鉛の表面に非晶質炭素を被覆したもの、天然又は人造黒鉛の表面を機械的処理することにより表面の結晶性を低下させた炭素材、高分子等の有機物を炭素表面に被覆・吸着させた材料、炭素繊維、リチウム金属、リチウムと合金化する金属、シリコン又は炭素粒子表面に金属を担持した材料等が用いられる。担持させる金属としては、例えば、リチウム、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム及びマグネシウムより選択される金属、あるいはそれらの合金が挙げられる。また、スズ、ケイ素、鉄、チタン等の金属の酸化物を負極活物質として用いてもよい。これら負極活物質は、いずれか1種を単独で又は2種以上を混合させて用いることができる。

【0064】
負極活物質の粒径は、負極活物質及びバインダから形成される合剤層の厚さ以下になるように通常は規定される。負極活物質の粉末中に合剤層厚さ以上のサイズを有する粗粒がある場合、予めふるい分級や風流分級等により粗粒を除去し、合剤層厚さ以下の粒子を作製することが好ましい。

【0065】
負極12を構成する集電体には、銅箔等を用いることができる。例えば、厚さ7μm~25μm程度の銅箔等を用いることが好ましい。また、負極合剤層の厚さは、集電体の両面に塗布した場合で、それぞれ50μm~200μm程度とすることが好ましいが、これに限定されるものではない。

【0066】
バインダとしては、水に溶解、膨潤又は分散するポリマーを用いることができ、例えば、スチレンブタジエン共重合体、アクリル基を有するポリマー、シアノ基を有するポリマー等が適用可能である。負極合剤層におけるバインダの量は、負極活物質、増粘効果を向上させる目的で用いるカルボキシメチルセルロース等及びバインダの合計量に対して、例えば0.8質量%~1.5質量%程度とすることが好ましい。バインダ成分が多くなると、内部抵抗値の増加や電池容量の低下につながる可能性がある。一方で、バインダ成分が少な過ぎると、電極の密着強度が低下し、電極作製が困難になったり、電池の保存特性、サイクル特性の低下を招いたりする可能性がある。ただし、カルボキシメチルセルロース等の、合剤スラリーの増粘効果の向上を目的として加える有機物自体が、結着力向上効果を発現する場合もあり、さらに、用いる活物質により、その好適な使用量も大きく変わり得る。そこで、バインダの配合比率は、電池の初期特性や保存特性、サイクル特性等の電池試験結果を基に決定されることが好ましい。

【0067】
また、水には溶解、膨潤又は分散しない有機系のバインダを用いることも可能である。有機系バインダを用いる場合は、負極活物質、カルボキシメチルセルロース等及びバインダの合計量に対して、例えば3質量%~6質量%程度とすることができる。好適な配合比率は、水系バインダの場合と同様に、電池の保存特性、サイクル特性等の試験結果を基に、決定することが好ましい。

【0068】
以上、図1に示すリチウム二次電池1の全体構造を説明したが、本発明のリチウム二次電池1は、図1に示す形状に限られるものではない。例えば、図1に示す例では、電極群は円筒形状に形成されていたが、例えば短冊状電極を積層したもの、又は正極10と負極12を扁平状等の任意の形状に捲回したもの等、種々の形状でもよい。電池容器13の形状は、上記のような円筒形状の他、例えば扁平長円形状、扁平楕円形状、角形等の形状でもよい。さらに軸心21は、電池形状によって、あるいは電池内部における電極の体積占有率を向上させる目的で、省略することも可能である。

【0069】
また、本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【実施例】
【0070】
以下に示す方法により、図1に示すリチウム二次電池1を作製した。そして、作製されたそれぞれのリチウム二次電池1について、サイクル特性の評価を行った。
【実施例】
【0071】
〔実施例1〕
ボロキシン化合物(1)として(O-CHCHCHCH(BO)を含む電解液を用いて図1に示すリチウム二次電池1を作製し、リチウム二次電池1のサイクル特性を評価した。(O-CHCHCHCH(BO)は、炭素数4の直鎖アルキル基であり、25℃で液体のボロキシン化合物(1)である。
なお、以下の記載では、便宜上、(O-CHCHCHCH(BO)により示されるボロキシン化合物(1)のことを、「ボロキシン化合物(A)」ということがある。
【実施例】
【0072】
<ボロキシン化合物(A)の調製>
ボロキシン化合物(A)は以下のようにして合成した。アルゴン雰囲気下で、10gのB(OCHCHCHCH(0.043mol)と3.0gのB(0.043mol)とを等モル量混合し、環化反応させた。これにより、前記のボロキシン化合物(A)が得られた。B(OCHCHCHCHは、使用前に十分に脱水、蒸留し高純度のものを用いた。このときの収率は99%(12.8g)であった。
【実施例】
【0073】
<電解液の調製>
電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムを1mol/Lの濃度で、非水溶媒であるエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC:EMC=1:2(体積比))に溶解させた。そして、ヘキサフルオロリン酸リチウム及び非水溶媒の合計量に対して0.5質量%の濃度になるように、ボロキシン化合物(A)を溶解した。
【実施例】
【0074】
<負極12の作製>
負極活物質として、X線回折測定で得られた面間隔が0.368nm、平均粒径が20μm、比表面積が5m/gの天然黒鉛を用いた。天然黒鉛、カルボキシメチルセルロースの水膨潤体及びスチレンブタジエン共重合体を含む水分散液を回転翼のような撹拌手段を備えた混合機を用いて充分に混錬し、負極合剤スラリーを調製した。負極活物質、カルボキシメチルセルロース及びスチレンブタジエン共重合体の混合比は、質量比で97:1.5:1.5になるようにした。
【実施例】
【0075】
この負極合剤スラリーを、厚さ10μmの圧延銅箔(集電体)の両面に実質的に均一に塗布した。乾燥後に、ロールプレス機により、負極12の活物質密度が約1.5g/cmになるように圧縮成形した。そして、密度調整のためのプレス後に、合剤層の塗布長さ55cmと未塗布部5cmとの合計60cm、塗布幅5.6cmになるように切断した。その後、未塗布部にニッケル製のリード片を溶接し、電流取出し部を具備した負極12を作製した。
【実施例】
【0076】
<正極10の作製>
正極活物質として、平均粒径10μm、比表面積1.5m/gのLi1.02Mn1.98Al0.02を用いた。正極活物質と、塊状黒鉛及びアセチレンブラックを9:2で混合してなる導電剤とを、バインダとして予め5質量%PVDFに調整されたNMP溶液に分散させて正極合剤スラリーを調製した。正極活物質、導電剤及びPVDFの混合比は、質量比で85:10:5になるようにした。また、スラリーの作製は、負極の場合と同様に、回転翼のような撹拌手段を備えた混合機を用いて充分に混練した。
【実施例】
【0077】
この正極合剤スラリーを、厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の両面にできるだけ均一かつ均等に、前記の負極12と同じ手順で塗布し乾燥した。その後、ロールプレス機により、正極10の活物質密度が2.6g/cmになるよう圧縮成形した。そして、合剤層の塗布長さ50cmと未塗布部5cmとの合計55cmとなるよう切断した。その後、電流を取り出すためのアルミニウム箔製のリード片を未塗布部に溶接し、電流取出し部を具備した10正極を作製した。
【実施例】
【0078】
<リチウム二次電池1の組み立て>
作製した正極10、負極12及び電解液を用いて、図1に示すような円筒型のリチウム二次電池1を作製した。具体的には正極10及び負極12には、それぞれ電流引き出し用の正極集電タブ14、負極集電タブ15を超音波溶接した。正極集電タブ14、負極集電タブ15は、長方形の集電体とそれぞれ同じ材質の金属箔から構成される。また、正極10及び負極12の間には、ポリエチレンの単層膜であるセパレータ11を挟んで重ねた。そして、これらを、図1に示すように円筒状(螺旋状)に捲いて電極群とし、円筒状の電池容器13に収納した。
【実施例】
【0079】
電極群を電池容器13に収納した後、電池容器13内に、作製した電解液を注入した。正極集電タブ14が取り付けられた密閉用の電池蓋20を、ガスケットを介して電池容器13に密着させ、かしめにより密閉した。これらの操作により、径18mm、長さ650mmの円筒型のリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0080】
〔実施例2〕
電解液に含有させるボロキシン化合物(A)の含有量を1.0質量%にしたこと以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0081】
〔実施例3〕
電解液に含有させるボロキシン化合物(A)の含有量を2.0質量%にしたこと以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0082】
〔実施例4〕
電解液に対して、さらにビニレンカーボネートを2.0質量%の濃度になるように含有させたこと以外は実施例2と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0083】
〔実施例5〕
電解液に対して、さらにビニレンカーボネートを2.0質量%の濃度になるように含有させたこと以外は実施例3と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0084】
〔実施例6〕
ボロキシン化合物(1)としてのボロキシン化合物(A)に代えて、(O-CH(CH)CHCH(BO)により示されるボロキシン化合物(B)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。このボロキシン化合物(B)を構成するRは、炭素数が3の直鎖の鎖状アルキル基であって、炭素数が1の分岐を有する(即ち、メチル基が分岐している)化合物である。ボロキシン化合物(B)も、前記のボロキシン化合物(A)と同様に、25℃で液体となるものである。
なお、ボロキシン化合物(B)の電解液における含有量は、実施例1と同様に0.5質量%である。
【実施例】
【0085】
ボロキシン化合物(B)は、実施例1で用いたB(OCHCHCHCHをB(OCH(CH)CHCHに変更したこと以外は実施例1のボロキシン化合物(A)と同様にして合成した。このときの収率は98%(12.6g)であった。
【実施例】
【0086】
〔実施例7〕
電解液に含有させるボロキシン化合物(B)の含有量を1.0質量%にしたこと以外は実施例6と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0087】
〔実施例8〕
電解液に含有させるボロキシン化合物(B)の含有量を2.0質量%にしたこと以外は実施例6と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0088】
〔実施例9〕
電解液に対して、さらにビニレンカーボネートを2.0質量%の濃度になるように含有させたこと以外は実施例7と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0089】
〔実施例10〕
電解液に対して、さらにビニレンカーボネートを2.0質量%の濃度になるように含有させたこと以外は実施例8と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0090】
〔比較例1〕
ボロキシン化合物(A)が電解液に含まれないこと以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0091】
〔比較例2〕
ボロキシン化合物(A)に代えて、25℃で固体(粉体)であるシクロヘキソキシボロキシン(前記式(1)において、Rは環状のアルキル基)を用いたこと以外は実施例3と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。ただし、シクロヘキソキシボロキシンは25℃で難溶であったため、50℃に電解液を加熱しながら4時間かけて、電解液に溶解させた。
【実施例】
【0092】
〔比較例3〕
シクロヘキソキシボロキシンに代えて、25℃で固体(粉体)であるトリフェニルボロキシン(前記式(1)において、Rは芳香環)を用いたこと以外は比較例2と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0093】
〔比較例4〕
電解質としてのヘキサフルオロリン酸(LiPF)に代えてホウフッ化リチウム(LiBF)を用いたこと以外は実施例3と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0094】
〔比較例5〕
ボロキシン(A)に代えてシクロヘキソキシボロキシン(25℃で固体)を用いたこと以外は比較例4と同様にしてリチウム二次電池1を作製した。
【実施例】
【0095】
〔サイクル特性の評価〕
以上のようにして作製した実施例1~10及び比較例1~5のそれぞれのリチウム二次電池1について、サイクル特性の評価を行った。ただし、比較例3については、使用したトリフェニルボロキシンが電解液に難溶であったため、サイクル特性の評価は行っていない。
【実施例】
【0096】
まず、それぞれのリチウム二次電池1について、25℃の恒温槽内で、充電電流1500mA、電圧4.2V、3時間の定電流定電圧充電をし、5時間の休止後、放電電流1500mAで電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電した。この充電及び放電プロセスを1サイクルとし、合計3サイクルの充放電を行った。
【実施例】
【0097】
そして、3サイクル目の放電容量を100%として、サイクル負荷特性試験を行った。サイクル負荷特性試験では、充電電流1500mA、電圧4.2V、5時間の定電流定電圧充電をし、5時間の休止後、放電電流1500mAで電池電圧が3.0Vになるまで定電流放電することを1サイクルとして、100サイクルの負荷特性試験を行った。そして、100サイクル試験後に、3サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比を求めた。この比の値が大きい程、サイクル特性が優れることを意味する。
【実施例】
【0098】
〔評価結果〕
サイクル特性の評価結果を以下の表1に示す。
【表1】
JP0006372823B2_000004t.gif
【実施例】
【0099】
実施例1のようにボロキシン化合物(1)を含むことで、100サイクル後の放電容量は84%を示した。一方で、比較例1では、100サイクル後の放電容量は、3サイクル目の81%であった。このように、25℃で液体のボロキシン化合物(1)を含むことで、100サイクロ後の放電容量の向上が認められ、サイクル特性が良好なものとなった。従って、本発明のリチウム二次電池1によれば、経時劣化を抑制し、電池寿命が十分に向上したリチウム二次電池1が得られることがわかった。
【実施例】
【0100】
また、実施例2及び3に示すように、ボロキシン化合物(1)を1.0%~2.0%混合することでいずれも87%であった。この結果は、ボロキシン化合物(1)を含有しない比較例1よりも6%も向上したものであった。また、この結果から、ボロキシン化合物(1)の含有量は多い方が好ましいものの(実施例1と実施例2及び3との比較)、ある程度以上の含有量になるとほぼ同じ効果が得られると考えられる(実施例2と実施例3との比較)。
【実施例】
【0101】
さらに、実施例4及び5に示すように、ボロキシン化合物(1)に加えて、ビニレンカーボネートを含有することで、さらなる放電容量の向上を図ることができることがわかった。特に、ボロキシン化合物(1)を2.0質量%で含むとともに、ビニレンカーボネート2.0質量%の割合で含む実施例5では、いずれも含まない比較例1と比べて、13%という特に大きな向上がみられた。これは、ビニレンカーボネートを含むことで、負極表面上での電解液の還元分解が抑制され、ビニレンカーボネート由来の被膜生成反応がまず進行し、ボロキシン化合物の分解及び電解液の物性変化が抑制されたためと考えられる。
【実施例】
【0102】
また、前記の実施例1~5は、いずれも、ボロキシン化合物(1)の一例としてボロキシン化合物(A)を使用している。しかし、ボロキシン化合物(1)の別の一例であるボロキシン化合物(B)を使用した実施例6~10においても、実施例1~5と同様の結果が示された。このように、ボロキシン化合物(1)におけるRが異なっても、同様に良好な結果が得られることがわかった。
【実施例】
【0103】
一方で、比較例2では、加熱によりシクロヘキソキシボロキシンを電解液に溶解させることができたもの、比較例2のサイクル特性(82%)は、ボロキシン化合物を含まない比較例1(81%)と同程度であった。これは、加熱により電解液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの分解が促進されてしまったためであると考えられる。また、比較例3で用いたトリフェニルボロキシンは、加熱をしても溶解せずに、電解液中に残留物が目視で確認された。従って、トリフェニルボロキシンが溶解しなかったこと、及び、加熱によりヘキサフルオロリン酸リチウムの分解促進の可能性の二点を考慮すると、サイクル特性は評価していないが、比較例1の結果(81%)よりも低くなるのではないかと考えられる。これらのように、従って、25℃で液体状態であるボロキシン化合物(1)を用い、過度の加熱をすることなく、電解液に溶解するようにすることがよいことがわかった。
【実施例】
【0104】
さらに、電解質としてホウフッ化リチウムを用いた比較例4では、比較例4と同じボロキシン化合物(A)を等量用いた実施例3と比べて、サイクル特性は著しく低かった(実施例3では87%であるが、比較例4では69%)。また、比較例4のサイクル特性(69%)は、25℃では固体(粉体)であるシクロヘキソキシボロキシンを用いた比較例5のサイクル特性(68%)と同程度であった。従って、25℃で液体となるボロキシン化合物(1)は、電解質としてヘキサフルオロリン酸リチウムと併用することで優れた効果が得ら得ることがわかった。
【符号の説明】
【0105】
1 リチウム二次電池
10 正極
11 セパレータ
12 負極
13 電池容器
14 正極集電タブ
15 負極集電タブ
16 内蓋
17 内圧解放弁
18 ガスケット
19 正温度係数抵抗素子
20 電池蓋
21 軸心
図面
【図1】
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【図2】
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