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明細書 :凍結保存可能な細胞足場材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6270158号 (P6270158)
登録日 平成30年1月12日(2018.1.12)
発行日 平成30年1月31日(2018.1.31)
発明の名称または考案の名称 凍結保存可能な細胞足場材料
国際特許分類 C12N   1/04        (2006.01)
A61L  27/20        (2006.01)
C08B  37/02        (2006.01)
C08B  15/10        (2006.01)
C08J   5/24        (2006.01)
C08K   5/3472      (2006.01)
D06M  15/59        (2006.01)
D06N   3/12        (2006.01)
FI C12N 1/04
A61L 27/20
C08B 37/02
C08B 15/10
C08J 5/24 CEZ
C08K 5/3472
D06M 15/59
D06N 3/12
請求項の数または発明の数 14
全頁数 38
出願番号 特願2014-533128 (P2014-533128)
出願日 平成25年8月30日(2013.8.30)
国際出願番号 PCT/JP2013/073395
国際公開番号 WO2014/034884
国際公開日 平成26年3月6日(2014.3.6)
優先権出願番号 2012191634
優先日 平成24年8月31日(2012.8.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年3月11日(2016.3.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】松村 和明
個別代理人の代理人 【識別番号】110000523、【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
【識別番号】100127133、【弁理士】、【氏名又は名称】小板橋 浩之
審査官 【審査官】鳥居 敬司
参考文献・文献 国際公開第2011/151386(WO,A1)
特表2010-519183(JP,A)
特開2011-030557(JP,A)
国際公開第2010/123971(WO,A1)
特表2000-515853(JP,A)
特表2006-503118(JP,A)
特表2005-536496(JP,A)
Biomaterials, 2009, Vol.30, pp.4842-4849
バイオインダストリー, 2011, Vol.28, No.5, pp.35-42
Biomaterials, 2009, Vol.30, pp.1453-1461
Biomacromolecules, 2012.04, Vol.13, pp.1663-1674
調査した分野 C12N 1/00-1/38
A61L 27/00-27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
ミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンが、
生理的溶液中で、分子間架橋されて、
生理的溶液が分散媒として固定されてなる、ハイドロゲルであって、
分子間架橋が、
カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンのアミノ基と、マルチアームPEGのN-ヒドロキシコハク酸イミドの基とのアミド結合形成反応によって生成された分子間架橋、
であり、
カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンが、生理的溶液中に1~60質量%含まれている、ハイドロゲル
【請求項2】
請求項に記載のハイドロゲルに、細胞又は組織が包埋されてなる、細胞包埋ハイドロゲル。
【請求項3】
請求項に記載のハイドロゲルに、細胞又は組織が包埋されてなる、凍結保存用細胞包埋ハイドロゲル。
【請求項4】
請求項の凍結保存用細胞包埋ハイドロゲルを凍結保存する、細胞又は組織の凍結保存方法。
【請求項5】
アミノ基及びカルボキシル基がデキストランに導入されてなる、アミノカルボキシルデキストランであって、
アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、アミノカルボキシルデキストラン。
【請求項6】
請求項に記載のアミノカルボキシルデキストランに、トリアゾール環形成反応が可能な、アジド基が導入された、アジド導入アミノカルボキシルデキストラン。
【請求項7】
請求項に記載のアミノカルボキシルデキストランに、トリアゾール環形成反応が可能な、炭素炭素三重結合部分が導入された、炭素炭素三重結合導入アミノカルボキシルデキストラン。
【請求項8】
請求項のいずれかに記載のアミノカルボキシルデキストランからなる、細胞凍結保存剤。
【請求項9】
請求項5~7のいずれかに記載のアミノカルボキシルデキストランが、
生理的溶液中に、1~60質量%の濃度で溶解されて含まれる、細胞凍結保存用溶液。
【請求項10】
請求項5に記載のアミノカルボキシルデキストランに、トリアゾール環形成反応が可能な、アジド基が導入された、アジド導入アミノカルボキシルデキストランと、
請求項5に記載のアミノカルボキシルデキストランに、トリアゾール環形成反応が可能な、炭素炭素三重結合部分が導入された、炭素炭素三重結合導入アミノカルボキシルデキストランとが、
トリアゾール環形成反応によって架橋されてなる、架橋体。
【請求項11】
請求項10に記載の架橋体を含んでなる、ハイドロゲル。
【請求項12】
生理的溶液が分散媒として固定されてなる、請求項11に記載のハイドロゲル。
【請求項13】
請求項11又は請求項12に記載のハイドロゲル中に細胞又は組織が包埋されてなる、細胞包埋ハイドロゲル。
【請求項14】
請求項13の細胞包埋ハイドロゲルを凍結保存する、細胞又は組織の凍結保存方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ基及びカルボキシル基を同一分子中に有する両性電解質高分子が架橋されてなるハイドロゲルからなる、細胞を凍結保存することが可能な細胞足場材料に関し、さらに、該細胞足場材料に好適に使用可能な新規な両性電解質高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療分野において組織の再生は特に二次元形状の皮膚や角膜、心筋などで一定の成果を収め、一部では商業化も始まっている。また、幹細胞を三次元的に培養することで分化を制御する技術が開発され、三次元構造を持った再生組織の開発が研究されている。このような三次元的な細胞培養を可能にする足場材料として、例えばコラーゲンゲルが用いられている。
【0003】
一方、再生医療分野において、細胞や組織の再生や分化の制御技術が確立されたとしても、再生した細胞や組織を長期に保存したり輸送したりすることができなければ、再生医療の産業的な普及は難しい。そのために想定される有望な技術が、細胞や組織の凍結保存技術である。
【0004】
しかし、細胞や組織をそのまま凍結保存すると、通常は簡単に破壊されてしまい、解凍しても、生きた細胞や組織を回収することが難しい。例えば、上述のコラーゲンゲル中に包埋された細胞をそのまま凍結保存しても、その生存率は非常に低い。そのために、このような三次元構造体の凍結解凍は、特に困難であると考えられている。
【0005】
従来より、細胞や組織に凍結保存を可能にするために、細胞の凍結保存剤として、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの低分子化合物を凍結前に添加することが提案されている。特にこのDMSOは、凍結保存剤として広く認められている分子である。
【0006】
しかし、本発明者の検討によれば、このような浸透性の低分子は、細胞への毒性や分化への影響が懸念されるという欠点があり、さらに、そのためにいずれ除去が必要となるといった欠点がある。そこで、本発明者は、細胞の凍結保存剤として、ポリリジン誘導体を使用する技術を提案してきた(特許文献1:WO2009/157209号、特許文献2:特開2011-30557号)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】PCT国際公開 WO2009/157209号
【特許文献2】日本国公開特許公報 特開2011-30557号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなポリリジン誘導体であっても、細胞を懸濁液として凍結保存するものであり、三次元的な細胞培養を可能とするものではなかった。そこで、本発明の目的は、三次元的な細胞培養を可能とする、凍結保存剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、細胞の凍結保存剤を鋭意研究した結果、細胞の凍結保存剤として特定の高分子凍結保存剤を使用して、この高分子凍結保存剤そのものに対して特定の手法によって架橋反応を行ってゲル化すると、高分子凍結保存剤とともに懸濁されていた細胞は、ゲル化のための架橋反応によっても損なわれず、ゲルのなかに三次元的に包埋された細胞を凍結保存した場合に、解凍後も高い生存性を維持できることを見いだして、本発明に到達した。この本願発明によれば、細胞の懸濁液から、三次元培養が可能である三次元構造体を形成して、細胞が包埋された三次元構造体のままで凍結保存して解凍することができる。この三次元構造体のなかで、高分子凍結保存剤はゲルを形成して、いわば、細胞の増殖及び/又は分化のための三次元足場材料を提供するものとなっている。したがって、本発明は、次の(1)~を含む。
【0010】
(1)
アミノ基及びカルボキシル基を同一分子中に有する両性電解質高分子であって、アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、両性電解質高分子が、
生理的溶液中で、分子間架橋されて、
生理的溶液が分散媒として固定されてなる、ハイドロゲル。
(2)
分子間架橋が、
両性電解質高分子の分子、又は両性電解質でない高分子の分子、に導入されたアジド基と、
両性電解質高分子の別な分子、又は両性電解質でない高分子の別な分子、に導入された炭素炭素三重結合部分とのトリアゾール環形成反応によって生成された分子間架橋(ただし、アジド基が導入された分子と炭素炭素三重結合部分が導入された分子のうち、少なくともいずれかの分子が、両性電解質高分子である)、
又は
両性電解質高分子のアミノ基と、マルチアームPEGのN-ヒドロキシコハク酸イミドの基とのアミド結合形成反応によって生成された分子間架橋、
である、(1)のハイドロゲル。
(3)
両性電解質高分子が、アミノ基及びカルボキシル基がデキストランに導入されてなるアミノカルボキシルデキストランであり、両性電解質でない高分子がデキストランである、
又は
両性電解質高分子が、カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンである、
(1)~(2)のいずれかのハイドロゲル。
(4)
両性電解質高分子が、生理的溶液中に1~60質量%含まれている、(1)~(3)のいずれかのハイドロゲル。
(5)
(1)~(4)のいずれかのハイドロゲルに、細胞又は組織が包埋されてなる、細胞包埋ハイドロゲル。
(6)
(1)~(4)のいずれかのハイドロゲルに、細胞又は組織が包埋されてなる、凍結保存用細胞包埋ハイドロゲル。
(7)
(6)の凍結保存用細胞包埋ハイドロゲルを凍結保存する、細胞又は組織の凍結保存方法。
【0011】
本発明によるハイドロゲルは、細胞を分散させた懸濁液から、細胞を損なうことなく、形成可能なゲルである。そして、このハイドロゲルは、細胞の増殖及び/又は分化のための三次元足場材料となっている。さらに、このハイドロゲルは、凍結保存して解凍する過程において、包埋された細胞を保護するものとなっている。そこで、本発明は、上記ハイドロゲルによる、細胞凍結保護剤、細胞凍結保護用組成物にもあり、細胞凍結保護用三次元足場材料にもあり、細胞凍結保護用ハイドロゲルにもある。
【0012】
さらに、本発明は、次の(11)~を含む。
(11)
アミノ基及びカルボキシル基を同一分子中に有する両性電解質高分子であって、アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、両性電解質高分子を、生理的溶液中で、分子間架橋して、ゲル化する工程、を含む、ハイドロゲルを製造する方法。
(12)
分子間架橋して、ゲル化する工程が、
両性電解質高分子の分子、又は両性電解質でない高分子の分子、に導入されたアジド基と、
両性電解質高分子の別な分子、又は両性電解質でない高分子の別な分子、に導入された炭素炭素三重結合部分とのトリアゾール環形成反応によって分子間架橋して(ただし、アジド基が導入された分子と炭素炭素三重結合部分が導入された分子のうち、少なくともいずれかの分子が、両性電解質高分子である)、ゲル化する工程、
又は
両性電解質高分子のアミノ基と、添加されたマルチアームPEGのN-ヒドロキシコハク酸イミドの基とのアミド結合形成反応によって分子間架橋して、ゲル化する工程、
である、(11)の製造方法。
(13)
両性電解質高分子が、アミノ基及びカルボキシル基がデキストランに導入されてなるアミノカルボキシルデキストランであり、両性電解質でない高分子がデキストランである、
又は
両性電解質高分子が、カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンである、
(11)~(12)のいずれかの製造方法。
(14)
両性電解質高分子が、生理的溶液中に1~60質量%含まれている、(11)~(14)のいずれかの製造方法。
(15)
(11)~(14)のいずれかの製造方法において、分子間架橋して、ゲル化する工程の前に、
生理的溶液中に、細胞又は組織を、両性電解質高分子とともに、分散又は浸漬する工程、
を含む、細胞包埋ハイドロゲルを製造する方法。
(16)
(15)の製造方法において製造された細胞包埋ハイドロゲルを、凍結保存する工程、
を含む、細胞又は組織の凍結保存方法。
(17)
(11)~(14)のいずれかの製造方法において、分子間架橋して、ゲル化する工程の前に、
生理的溶液中に、細胞又は組織を、両性電解質高分子とともに、分散又は浸漬する工程、
分散又は浸漬された細胞又は組織を、凍結保存する工程、
を含む、細胞又は組織の凍結保存後に、細胞包埋ハイドロゲルを製造する方法。
【0013】
本発明者は、上記高分子凍結保存剤を使用して、細胞を凍結保存して解凍した後に、得られた細胞の懸濁液に対して、特定の手法によって架橋反応を行ってゲル化すると、凍結解凍を受けた後に懸濁されていた細胞は、ゲル化のための架橋反応によっても損なわれないことを見いだした。このような実施の態様によれば、細胞の懸濁液を凍結保存して解凍した後に、所望の部位に注入してゲル化させることができ、所望の部位で細胞の懸濁液から、三次元培養あるいは三次元増殖が可能である三次元構造体を形成させることができる。すなわち、インジェクタブルゲル材料(注入可能ゲル材料)が実現できる。この三次元構造体のなかで、高分子凍結保存剤はゲルを形成して、いわば、細胞の増殖及び/又は分化のための三次元足場材料を提供するものとなっている。したがって、本発明は、上記両性電解質高分子による、インジェクタブルゲル材料にもあり、細胞凍結保護用インジェクタブルゲル材料にもあり、ゲル化性細胞凍結保護剤にもあり、ゲル化性細胞凍結保護用組成物にもある。
【0014】
本発明者は、上記高分子凍結保存剤として、修飾デキストランが特に好適に使用できることを見いだした。この修飾デキストランは、架橋反応によってゲル化させる場合にも細胞を損なわない点で優れている。また、この修飾デキストランは、ゲルのなかに三次元的に包埋された細胞を凍結保存して解凍した場合にも高い生存性を維持できる点で優れている。また、この修飾デキストランは、ゲル化することなく、細胞の懸濁液に添加する高分子凍結保存剤として使用した場合にも、凍結保存及び解凍を経た細胞に高い生存性を維持できる点で優れている。したがって、本発明は、次の(21)~を含む。
【0015】
(21)
アミノ基及びカルボキシル基がデキストランに導入されてなる、アミノカルボキシルデキストランであって、
アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、アミノカルボキシルデキストラン。
(22)
(21)のアミノカルボキシルデキストランからなる、細胞凍結保存剤。
(23)
(21)のアミノカルボキシルデキストランが、
生理的溶液中に、1~60質量%の濃度で溶解されて含まれる、細胞凍結保存用溶液。
(24)
生理的溶液が、生理食塩水、細胞培養液体培地、または組織培養液体培地である、(23)の細胞凍結保存用溶液。
【0016】
さらに、本発明は、次の(31)~を含む。
(31)
アミノカルボキシルデキストランが、アミノ化デキストランにカルボキシル基が導入されてなるカルボキシル基導入アミノ化デキストランである、(21)のアミノカルボキシルデキストラン。
(32)
アミノカルボキシルデキストランが、アミノ化デキストランにカルボキシル基が導入されてなるカルボキシル基導入アミノ化デキストランである、(22)の細胞凍結保存剤。
(33)
アミノカルボキシルデキストランが、アミノ化デキストランにカルボキシル基が導入されてなるカルボキシル基導入アミノ化デキストランである、(23)~(24)のいずれかの細胞凍結保存用溶液。
【0017】
さらに、本発明は、次の(41)~を含む。
(41)
(21)又は(31)のアミノカルボキシルデキストランを、生理的溶液中に、1~60質量%の濃度で溶解して、細胞凍結保存用溶液を製造する方法。
(42)
細胞凍結保存用溶液を製造するための、(21)又は(31)のアミノカルボキシルデキストランの使用。
【0018】
さらに、本発明は、次の(51)~を含む。
(51)
(23)又は(33)の細胞凍結保存用溶液に、細胞又は組織を、分散又は浸漬する工程、
分散又は浸漬された細胞又は組織を、凍結する工程、
を含む、細胞又は組織を凍結保存する方法。
(52)
(51)の細胞又は組織を凍結保存する方法において、
分散又は浸漬された細胞又は組織を、凍結する工程の後に、さらに、
凍結された細胞又は組織を、凍結下で保存する工程、
凍結下で保存された細胞又は組織を、解凍する工程、
を含む、細胞又は組織を凍結保存する方法。
【0019】
さらに、本発明は、次の(61)~を含む。
(61)
(21)又は(31)のアミノカルボキシルデキストランが分子間架橋されて、
生理的溶液が分散媒として固定されてなる、ハイドロゲル。
(62)
アミノカルボキシルデキストランの分子間架橋が、
アミノカルボキシルデキストランの分子に導入されたアジド基と、アミノカルボキシルデキストランの別な分子に導入された炭素炭素三重結合部分とのトリアゾール環形成反応によって生成された分子間架橋である、(61)のハイドロゲル。
(63)
アミノカルボキシルデキストランの分子に導入された炭素炭素三重結合部分が、
末端アルキンの基、又はシクロオクチン環含有化合物の基の炭素炭素三重結合部分である、(62)のハイドロゲル。
(64)
(61)~(63)のいずれかのハイドロゲルに、細胞又は組織が、包埋されてなる、細胞包埋ハイドロゲル。
【0020】
さらに、本発明は、次の(71)~を含む。
(71)
(21)又は(31)のアミノカルボキシルデキストランに、トリアゾール環形成反応が可能な、アジド基が導入された、アジド導入アミノカルボキシルデキストラン。
(72)
(21)又は(31)のアミノカルボキシルデキストランに、トリアゾール環形成反応が可能な、炭素炭素三重結合部分が導入された、炭素炭素三重結合導入アミノカルボキシルデキストラン。
(73)
アジド基の導入として、
アミノカルボキシデキストランの-OH基が、次の式(I):
【0021】
-Y1-N3 (I)
【0022】
(ただし、Y1は、アミノカルボキシデキストランの-OH基の位置に導入可能なスペーサーである)
で表される基に置換されている、(71)のアジド導入アミノカルボキシルデキストラン。
(74)
1が、次の:
-O-CO-O-(CH2n
(ただし、nは、1~24の整数)
-O-CO-O-(CH2-CH2-O)m-1-CH2-CH2
(ただし、mは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2j
(ただし、jは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2-CH2-O)k-1-CH2-CH2
(ただし、kは、1~24の整数)
からなる群から選択された二価基のスペーサー(ただし、-N3 は、各スペーサーの右端に結合する)である、(73)のアジド導入アミノカルボキシルデキストラン。
(75)
アミノカルボキシルデキストランに導入された炭素炭素三重結合部分が、
末端アルキンの基、又はシクロオクチン環含有化合物の基である、(72)の炭素炭素三重結合導入アミノカルボキシルデキストラン。
(76)
炭素炭素三重結合部分の導入として、
アミノカルボキシデキストランの-OH基が、次の式(II)又は式(III):
【0023】
-Y2-C≡CH (II)
【0024】
(ただし、Y2は、アミノカルボキシデキストランの-OH基の位置に導入可能なスペーサーである)
【0025】
【化1】
JP0006270158B2_000002t.gif

【0026】
(ただし、Y3は、アミノカルボキシデキストランの-OH基の位置に導入可能なスペーサーであり、
R1及びR2は、
それぞれ独立して、水素、又はC1~C12のアルキル基であるか、
あるいは、一体となって、置換又は無置換の、C6~C12の芳香族環状構造を形成しており、
R3及びR4は、
それぞれ独立して、水素、又はC1~C12のアルキル基であるか、
あるいは、一体となって、置換又は無置換の、C6~C12の芳香族環状構造を形成している)
で表される基に置換されている、(72)又は(75)の炭素炭素三重結合導入アミノカルボキシルデキストラン。
(77)
式IIIで表される基が、次の式IV:
【0027】
【化2】
JP0006270158B2_000003t.gif

【0028】
(ただし、Y3は、アミノカルボキシデキストランの-OH基の位置に導入可能なスペーサーである)
で表される基である、(76)の炭素炭素三重結合導入アミノカルボキシルデキストラン。
(78)
2が、次の:
-O-CO-N(CH3)-(CH2n
(ただし、nは、1~24の整数)
-O-CO-NH-(CH2-CH2-O)m-1-CH2
(ただし、mは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2j
(ただし、jは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2-CH2-O)k-1-CH2-CH2
(ただし、kは、1~24の整数)
からなる群から選択された二価基のスペーサーである(ただし、-C≡CH は、各スペーサーの右端に結合する)、(73)の炭素炭素三重結合導入アミノカルボキシルデキストラン。
(79)
3が、次の:
-O-CO-N(CH3)-(CH2n-CO-
(ただし、nは、1~24の整数)
-O-CO-NH-(CH2-CH2-O)m-1-CH2-CO-
(ただし、mは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2j-CO-
(ただし、jは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2-CH2-O)k-1-CH2-CO-
(ただし、kは、1~24の整数)
からなる群から選択された二価基のスペーサーである(ただし、シクロオクチン環の-N基は、各スペーサーの右端に結合する)、(73)の炭素炭素三重結合導入アミノカルボキシルデキストラン。
【0029】
さらに、本発明は、次の(81)~を含む。
(81)
次の(a)と(c)、(a)と(d)、(b)と(c)のいずれかの組み合わせを含んでなる、デキストランのキット:
(a) (71)、(73)~(75)のいずれかのアジド導入アミノカルボキシルデキストラン、
(b) アジド導入デキストラン(ただし、アジド導入は(71)、(73)~(74)のいずれかに規定された通りである)、
(c) (72)、(75)~(79)のいずれかの炭素炭素三重結合導入アミノカルボキシルデキストラン、
(d) 炭素炭素三重結合導入デキストラン(ただし、炭素炭素三重結合導入は(72)、(75)~(79)のいずれかに規定された通りである)。
(82)
(81)の(a)と(c)、(a)と(d)、(b)と(c)のいずれかの組み合わせを含む、アミノカルボキシルデキストラン含有組成物。
(83)
(71)~(79)のいずれかのアミノカルボキシルデキストランからなる、細胞凍結保存剤。
(84)
(71)~(79)のいずれかのアミノカルボキシルデキストランが、
生理的溶液中に、1~60質量%の濃度で溶解されて含まれる、細胞凍結保存用溶液。
【0030】
さらに、本発明は、次の(91)~を含む。
(91)
(71)~(79)のいずれかのアミノカルボキシルデキストランからなる、細胞包埋ハイドロゲル製造用添加剤。
(92)
(71)~(79)のいずれかのアミノカルボキシルデキストランが、生理的溶液中に、1~60質量%の濃度で溶解されて含まれる、細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液。
(93)
生理的溶液が、生理食塩水、細胞培養液体培地、または組織培養液体培地である、(92)の細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液。
(94)
(92)~(93)のいずれかの細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液に、細胞又は組織が、分散又は浸漬されてなる、細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物。
(95)
(94)の細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物が、ゲル化されてなる、細胞包埋ハイドロゲル。
(96)
(82)のアミノカルボキシルデキストラン含有組成物からなる、細胞包埋ハイドロゲル製造用添加剤。
(97)
(82)のアミノカルボキシルデキストラン含有組成物が、生理的溶液中に、アミノカルボキシデキストランの濃度として1~60質量%の濃度で溶解されて含まれる、細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液。
(98)
生理的溶液が、生理食塩水、細胞培養液体培地、または組織培養液体培地である、(97)の細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液。
(99)
(97)~(98)のいずれかの細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液に、細胞又は組織が、分散又は浸漬されてなる、細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物。
(100)
(99)の細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物が、ゲル化されてなる、細胞包埋ハイドロゲル。
【0031】
さらに、本発明は、次の(101)~を含む。
(101)
(71)~(79)のいずれかのアミノカルボキシルデキストランを、生理的溶液中に、1~60質量%の濃度で溶解して、細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液を製造する方法。
(102)
細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液を製造するための、(71)~(79)のいずれかのアミノカルボキシルデキストランの使用。
(103)
(92)~(93)及び(97)~(98)のいずれかの細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液に、細胞又は組織を、分散又は浸漬して、細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物を製造する方法。
(104)
細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物を製造するための、(92)~(93)及び(97)~(98)のいずれかの細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液の使用。
(105)
(94)又は(99)の細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物を、ゲル化して、細胞包埋ハイドロゲルを製造する方法。
(106)
細胞包埋ハイドロゲルを製造するための、(94)又は(99)の細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物の使用。
【0032】
さらに、本発明は、次の(111)~を含む。
(111)
(92)~(93)、(97)~(98)のいずれかの細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液に、細胞又は組織を、分散又は浸漬する工程
分散又は浸漬された細胞又は組織を、凍結する工程、
を含む、細胞又は組織を凍結保存する方法。
(112)
(111)の細胞及び組織の凍結保存方法において、
分散又は浸漬された細胞又は組織を、凍結する工程の後に、さらに、
凍結された細胞又は組織を、凍結下で保存する工程、
凍結下で保存された細胞又は組織を、解凍する工程、
を含む、細胞又は組織を凍結保存する方法。
(113)
(92)~(93)、(97)~(98)のいずれかの細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液に、細胞又は組織を、分散又は浸漬して、細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物を調製する工程、
調製された細胞含有組成物を、凍結する工程、
凍結された細胞含有組成物を、凍結下で保存する工程、
凍結下で保存された細胞含有組成物を、解凍する工程、
解凍された細胞含有組成物を、アミノカルボキシルデキストランの分子間架橋の形成反応によって、ゲル化して、細胞包埋ハイドロゲルを調製する工程、
を含む、凍結保存された細胞含有組成物から、細胞包埋ハイドロゲルを、製造する方法。
(114)
アミノカルボキシルデキストランの分子間架橋の形成反応が、
アミノカルボキシルデキストランのアジド部分とアルキン部分とのトリアゾール環形成反応である、(113)の製造方法。
【0033】
さらに、本発明は、次の(121)~を含む。
(121)
(92)~(93)、(97)~(98)のいずれかの細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液に、細胞又は組織を、分散又は浸漬して、細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物を調製する工程、
調製された細胞含有組成物を、アミノカルボキシルデキストランの分子間架橋の形成反応によって、ゲル化して、細胞包埋ハイドロゲルを調製する工程、
を含む、細胞含有組成物から、細胞包埋ハイドロゲルを、製造する方法。
(132)
アミノカルボキシルデキストランの分子間架橋の形成反応が、
アミノカルボキシルデキストランのアジド部分とアルキン部分とのトリアゾール環形成反応である、(131)の製造方法。
(133)
(92)~(93)、(97)~(98)のいずれかの細胞包埋ハイドロゲル製造用溶液に、細胞又は組織を、分散又は浸漬して、細胞包埋ハイドロゲル製造用細胞含有組成物を調製する工程、
調製された細胞含有組成物を、アミノカルボキシルデキストランの分子間架橋の形成反応によって、ゲル化して、細胞包埋ハイドロゲルを調製する工程、
調製された細胞包埋ハイドロゲルを、凍結する工程、
を含む、細胞又は組織を凍結保存する方法。
(134)
(132)の細胞及び組織の凍結保存方法において、
調製された細胞包埋ハイドロゲルを、凍結する工程の後に、さらに、
凍結された細胞包埋ハイドロゲルを、凍結下で保存する工程、
凍結下で保存された細胞包埋ハイドロゲルを、解凍する工程、
を含む、細胞又は組織を凍結保存する方法。
(135)
アミノカルボキシルデキストランの分子間架橋の形成反応が、
アミノカルボキシルデキストランのアジド部分とアルキン部分とのトリアゾール環形成反応である、(133)~(134)のいずれかの製造方法。
【0034】
さらに、本発明者は、上記高分子凍結保存剤として修飾ポリリジンを使用して、特定の架橋剤でゲル化すると、特に好適であることを見いだした。この組み合わせによるゲル化は、ゲル化反応時に細胞を共存させていた場合にも、細胞を損なわない点で優れたものである。また、この修飾デキストランは、ゲルのなかに三次元的に包埋された細胞を凍結保存して解凍した場合にも高い生存性を維持できる点で優れたものである。したがって、本発明は、次の(141)~を含む。
【0035】
(141)
アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンが、
生理的溶液中で、ε-ポリ-L-リジンのアミノ基と、マルチアームPEGのN-ヒドロキシコハク酸イミドの基とのアミド結合形成反応によって生成された分子間架橋によって架橋されて、
生理的溶液が分散媒として固定されてなる、ハイドロゲル。
(142)
マルチアームPEGが、次の式(V):
【0036】
C[CO-(CH2-CH2-O)n-X]4 (V)
【0037】
(ただし、nは、式Vの化合物の分子量が1000~100000の範囲となる整数であり、
Xは、次の式(VI):
【0038】
【化3】
JP0006270158B2_000004t.gif

【0039】
で表される基である)
で表される4アームPEGである、(141)のハイドロゲル。
(143)
カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンが、生理的溶液中に1~60質量%含まれている、(141)のハイドロゲル。
(144)
(141)~(142)のいずれかのハイドロゲルに、細胞又は組織が包埋されてなる、細胞包埋ハイドロゲル。
(145)
(141)~(142)のいずれかのハイドロゲルに、細胞又は組織が包埋されてなる、凍結保存用細胞包埋ハイドロゲル。
(146)
(144)の凍結保存用細胞包埋ハイドロゲルを凍結保存する、細胞又は組織の凍結保存方法。
【0040】
さらに、本発明は、次の(151)~を含む。
(151)
アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンを、
生理的溶液中で、ε-ポリ-L-リジンのアミノ基と、マルチアームPEGのN-ヒドロキシコハク酸イミドの基とのアミド結合形成反応によって生成された分子間架橋によって架橋して、ゲル化する工程、
を含む、ハイドロゲルを製造する方法。
(152)
アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンを含む生理的溶液に、細胞又は組織を、分散又は浸漬して、細胞含有組成物を調製する工程、
細胞含有組成物を、ε-ポリ-L-リジンのアミノ基と、マルチアームPEGのN-ヒドロキシコハク酸イミドの基とのアミド結合形成反応によって生成された分子間架橋によって架橋して、ゲル化して、細胞包埋ハイドロゲルを調製する工程、
を含む、細胞包埋ハイドロゲルを製造する方法。
(153)
アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンを含む生理的溶液に、細胞又は組織を、分散又は浸漬して、細胞含有組成物を調製する工程、
調製された細胞含有組成物を、凍結する工程、
凍結された細胞含有組成物を、凍結下で保存する工程、
凍結下で保存された細胞含有組成物を、解凍する工程、
解凍された細胞含有組成物を、ε-ポリ-L-リジンのアミノ基と、マルチアームPEGのN-ヒドロキシコハク酸イミドの基とのアミド結合形成反応によって生成された分子間架橋によって架橋して、ゲル化して、細胞包埋ハイドロゲルを調製する工程、
を含む、細胞包埋ハイドロゲルを製造する方法。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、細胞を含む三次元構造体を、安全に凍結保存して解凍することができる。そのために、三次元培養された細胞や組織を、長期に保存し、あるいは輸送することが可能となる。したがって、本発明は、再生医療の産業的な普及を実現するために必要となる、再生した細胞や組織を長期に保存し輸送する技術を、提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1はカルボキシル化ポリリジンのゲル化後の細胞の生死判定の結果を示す蛍光写真である。
【図2】図2はDex-PA溶液により凍結保護された細胞の生存率を示すグラフである。
【図3】図3はDex-PAのゲルにより凍結保護された細胞の生死判定の結果を示す蛍光写真である。
【図4】図4はFITCの蛍光によって凍結解凍後のDex-PAの細胞近傍の局在を観察した蛍光写真である。
【図5】図5はDex-PAの細胞凍結保護活性の濃度依存性を示すグラフである。
【図6】図6はAzide-Dex-PAとDBCO-Dexによるゲルの写真である。
【図7a】図7aはAzide:Alkyneの比が1:4のゲルでの凍結解凍後の細胞の生死判定の結果を示す蛍光写真である。
【図7b】図7bはAzide:Alkyneの比が1:6のゲルでの凍結解凍後の細胞の生死判定の結果を示す蛍光写真である。
【図7c】図7cは1%コラーゲンゲルでの凍結解凍後の細胞の生死判定の結果を示す蛍光写真である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施他の形態に限定されるものではない。

【0044】
本発明によれば、アミノ基及びカルボキシル基を同一分子中に有する両性電解質高分子であって、アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、両性電解質高分子が、生理的溶液中で、分子間架橋されて、生理的溶液が分散媒として固定されてなる、ハイドロゲルを、得ることができる。

【0045】
本発明のハイドロゲルは、細胞及び組織をそのなかに包埋して、凍結保存と解凍によるダメージから、細胞及び組織を、保護することができるものとなっている。さらに、本発明のハイドロゲルは、それ自体が細胞に三次元構造の足場を提供するものとなっている。三次元構造の足場は、細胞の増殖及び/又は分化のために非常に有利であると考えられており、細胞を凍結保護することができる三次元構造の細胞足場材料は、非常に望ましいものである。加えて、本発明のハイドロゲルは、そのゲル化のための分子間架橋の形成反応時に、細胞の損傷が最小化されており、細胞の高い生存率を達成したものとなっている。

【0046】
[両性電解質高分子]
本発明の両性電解質高分子は、アミノ基及びカルボキシル基を同一分子中に有するものとなっており、アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある。この比率は、好ましくは、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲、さらに好ましくは0.50/0.50~0.90/0.10の範囲、あるいは例えば0.70/0.30~0.75/0.25の範囲とすることができる。

【0047】
高分子の分子中へのアミノ基及びカルボキシル基の導入は、公知の修飾手段によって行うことができる。好適な実施の態様において、高分子にアミノ基を導入した後に、あるいはアミノ基を有する高分子を準備した後に、例えば、無水カルボン酸を用いて、カルボキシル化、あるいはアセチル化を行って、アミノ基及びカルボキシル基を上記比率の範囲となるように、導入することができる。

【0048】
[デキストラン]
好ましい実施の態様において、アミノ基及びカルボキシル基が導入される高分子としては、デキストランをあげることができる。デキストランは、グルコースを構成単位とする多糖類の高分子であり、α-1,6結合、及びα-1,4結合を含む。デキストランとしては、例えば市販されているデキストランを使用することができる。数平均分子量としては、例えば1000~10,000,000の範囲、例えば5000~1000,000の範囲、例えば10,000~500,000の範囲、例えば10,000~100,000の範囲を含むものを、使用することができる。

【0049】
本発明の両性電解質高分子とするために、デキストランに対して、アミノ基及びカルボキシル基が、上記比率で導入される。好適な実施の態様において、デキストランの水酸基に対して、アミノ基を有する原子団を導入した後に、導入されたアミノ基の一定割合に対して、カルボキシル基を有する原子団を導入して、アミノ基及びカルボキシル基をデキストランに導入して、両性電解質高分子とすることができる。このようなアミノ基の導入は、公知の手段によって行うことができ、例えば、カルボニルジイミダゾール(CDI)とジアミン化合物を使用して、導入することができる。このように導入されたアミノ基に対するカルボキシル基の導入は、公知の手段によって行うことができ、例えば、無水カルボン酸を使用して、導入することができる。無水カルボン酸としては、例えば、無水酢酸、無水クエン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水リンゴ酸、無水フマル酸、及び無水マレイン酸を挙げることができる。これらのうち、無水コハク酸及び無水酢酸が好ましく、無水コハク酸が特に好ましい。また、アミノ基は、上記のようにカルボキシル基を導入してもよく、アミノ基及びカルボキシル基が上記比率の範囲となるように、アミノ基を公知の手段でアセチル化してブロックしてもよい。導入されたカルボキシル基は、これに対してジアミン、トリアミン、ポリアミンなどの化合物と反応させることにより、さらに一部アミノ化することもできる。このように用いるジアミンとしては、例えば、エチレンジアミンを挙げることができる。デキストランへのアミノ基及びカルボキシル基の導入の一例を、次のスキーム1に示す。

【0050】
【化4】
JP0006270158B2_000005t.gif

【0051】
[ポリアミン]
好ましい実施の態様において、アミノ基を有する高分子として、ポリアミンを使用することができる。ポリアミンとしては、例えば、ポリアミノ酸、アミノ化多糖類を使用することができ、例えば、ポリリジン、ポリアリルアミン、ポリアルギニン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸を使用することができる。好ましい実施の態様において、アミノ基を有する高分子として、ε-ポリ-L-リジンを使用することができる。このような高分子として、数平均分子量としては、例えば1000~10,000,000の範囲、例えば5000~1000,000の範囲、例えば10,000~500,000の範囲、例えば10,000~100,000の範囲を含むものを、使用することができる。

【0052】
本発明の両性電解質高分子とするために、アミノ基を有する高分子に対して、アミノ基及びカルボキシル基が、上記比率となるように、カルボキシル基が導入される。アミノ基に対するカルボキシル基の導入は、公知の手段によって行うことができ、例えば、上述した無水カルボン酸を使用して、導入することができる。これらのうち、無水コハク酸及び無水酢酸が好ましく、無水コハク酸が特に好ましい。また、アミノ基は、上記のようにカルボキシル基を導入してもよく、アミノ基及びカルボキシル基が上記比率の範囲となるように、アミノ基を公知の手段でアセチル化してブロックしてもよい。導入されたカルボキシル基は、これに対してジアミン、トリアミン、ポリアミンなどの化合物と反応させることにより、さらに一部アミノ化することもできる。

【0053】
[生理的溶液]
本発明のハイドロゲルは、上記両性電解質高分子が、生理的溶液中で分子間架橋されてなるものである。生理的溶液としては、例えば、生理食塩水、細胞培養液体培地、組織培養液体培地、無血清培地を挙げることができる。例えば、ダルベッコ改変イーグルMEM培地(DMEM)を好ましいものとして挙げることができる。本発明の分子間架橋は、このような種々の生理物質や細胞そのものを含む溶液中においても、架橋反応が進行して、ハイドロゲルを形成することができるものとなっている。好適な実施の態様において、両性電解質高分子は、生理的溶液中に、例えば1~60質量%の濃度、例えば5~30質量%の濃度となるように添加することができる。本発明において、両性電解質高分子、及び両性電解質高分子が架橋されてなるハイドロゲルは、それ自体が優れた凍結保護の効果を発揮するものとなっており、これだけを凍結保護剤として好適に使用することができるものであるが、所望により、公知の凍結保護物質を、生理的溶液中に追加的に添加して、使用することもできる。このような公知の凍結保護物質としては、ジメチルスルホキシドやグリセロール、エチレングリコール、トレハロース、スクロースなどを挙げることができ、あるいは抗酸化剤を挙げることができる。このような抗酸化剤としては、例えば、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、ビタミンE、ビタミンC、エピガロカテキンガレートなどのポリフェノール類またはグルタチオンなどを、挙げることができる。

【0054】
[分子間架橋:トリアゾール環形成反応]
好適な実施の態様において、分子間架橋は、両性電解質高分子の分子、又は両性電解質でない高分子の分子、に導入されたアジド基と、両性電解質高分子の別な分子、又は両性電解質でない高分子の別な分子、に導入された炭素炭素三重結合部分とのトリアゾール環形成反応によって生成された分子間架橋(ただし、アジド基が導入された分子と炭素炭素三重結合部分が導入された分子のうち、少なくともいずれかの分子が、両性電解質高分子である)とすることができる。すなわち、まず、細胞保護を担う両性電解質高分子に対して、アジド基又は炭素炭素三重結合部分を導入してものを用意する。このように修飾された両性電解質高分子の溶液に細胞を分散し、あるいは組織を浸漬しておく。次いで、この修飾された両性電解質高分子の分子とトリアゾール環形成反応が可能となるように炭素炭素三重結合部分又はアジド基が導入された分子を、あたかも架橋剤のように添加して、トリアゾール環形成反応を進行させて、分子間の架橋を形成し、ゲル化を行うことができる。あたかも架橋剤のように添加する分子は、両性電解質高分子の分子であってもよく、両性電解質でない高分子の分子であってもよい。最終的に形成されるゲル中の両性電解質高分子の量が、所望の量あるいは濃度となるように、総量を調整すればよいからである。好適な実施の態様において、両性電解質高分子として、アミノカルボキシルデキストランを使用することができ、両性電解質でない高分子として、デキストランを使用することができる。

【0055】
[アジド基の導入]
好適な実施の態様において、トリアゾール環形成反応が可能となるように、両性電解質高分子の分子、または両性電解質でない高分子の分子に、アジド基が導入される。好適な実施の態様において、アジド基を末端に有する原子団を導入することができる。例えば、次の式(I):

【0056】
-Y1-N3 (I)

【0057】
で表される基を導入することができる。ただし、Y1は、所望により挿入されるスペーサーである。両性電解質高分子としてアミノカルボキシデキストラン、あるいは、両性電解質でない高分子としてデキストランを使用する場合には、デキストランのグルコース環の水酸基の位置に導入可能な基とすることが好ましい。好適な実施の態様において、具体的には、Y1は、例えば、次の:
-O-CO-O-(CH2n
(ただし、nは、1~24の整数)
-O-CO-O-(CH2-CH2-O)m-1-CH2-CH2
(ただし、mは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2j
(ただし、jは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2-CH2-O)k-1-CH2-CH2
(ただし、kは、1~24の整数)
からなる群から選択された二価基のスペーサー(ただし、-N3 は、各スペーサーの右端に結合する)とすることができる。上記n、m、j、kは、それぞれ独立して、所望の値とすることができるが、例えば、1~24の整数、1~12の整数、1~6の整数とすることができる。

【0058】
[炭素炭素三重結合部分の導入]
好適な実施の態様において、トリアゾール環形成反応が可能となるように、両性電解質高分子の分子、または両性電解質でない高分子の分子に、炭素炭素三重結合部分が導入される。好適な実施の態様において、炭素炭素三重結合部分を有する基として、末端アルキンの基、又はシクロオクチン環含有化合物の基を、使用することができる。次の式(II)又は式(III):

【0059】
-Y2-C≡CH (II)

【0060】
【化5】
JP0006270158B2_000006t.gif

【0061】
で表される基を導入することができる。ただし、Y2及びY3は、所望により挿入されるスペーサーである。両性電解質高分子としてアミノカルボキシデキストラン、あるいは、両性電解質でない高分子としてデキストランを使用する場合には、デキストランのグルコース環の水酸基の位置に導入可能な基とすることが好ましい。

【0062】
上記式IIIにおいて、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素、又はC1~C12のアルキル基であるか、あるいは、一体となって、置換又は無置換の、C6~C12の芳香族環状構造を形成する基とすることができ、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素、又はC1~C12のアルキル基であるか、あるいは、一体となって、置換又は無置換の、C6~C12の芳香族環状構造を形成する基とすることができる。置換又は無置換のC6~C12の芳香族環状構造は、複素環であってもよい。好適な実施の態様において、置換又は無置換のC6~C12の芳香族環状構造は、置換又は無置換のベンゼン環とすることができる。ベンゼン環の置換基は、例えば、C1~C12のアルキル基とすることができる。好適な実施の態様において、R1及びR2、R3及びR4は、それぞれ一体となって、無置換のベンゼン環を形成することができ、すなわち、式IIIであらわされる基は、次の式IV:

【0063】
【化6】
JP0006270158B2_000007t.gif

【0064】
で表される基とすることができる。

【0065】
好適な実施の態様において、上記Y2が、次の:
-O-CO-N(CH3)-(CH2n
(ただし、nは、1~24の整数)
-O-CO-NH-(CH2-CH2-O)m-1-CH2
(ただし、mは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2j
(ただし、jは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2-CH2-O)k-1-CH2-CH2
(ただし、kは、1~24の整数)
からなる群から選択された二価基のスペーサー(ただし、-C≡CH は、各スペーサーの右端に結合する)とすることができる。上記n、m、j、kは、それぞれ独立して、所望の値とすることができるが、例えば、1~24の整数、1~12の整数、1~6の整数とすることができる。

【0066】
好適な実施の態様において、上記Y3が、次の:
-O-CO-N(CH3)-(CH2n-CO-
(ただし、nは、1~24の整数)
-O-CO-NH-(CH2-CH2-O)m-1-CH2-CO-
(ただし、mは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2j-CO-
(ただし、jは、1~24の整数)
-O-NH-(CH2-CH2-O)k-1-CH2-CO-
(ただし、kは、1~24の整数)
からなる群から選択された二価基のスペーサー(ただし、シクロオクチン環の-N基は、各スペーサーの右端に結合する)とすることができる。上記n、m、j、kは、それぞれ独立して、所望の値とすることができるが、例えば、1~24の整数、1~12の整数、1~6の整数とすることができる。

【0067】
デキストランへのアジド基、及びアルキンの基の導入の一例を、次のスキーム2に示す。

【0068】
【化7】
JP0006270158B2_000008t.gif

【0069】
[分子間架橋:マルチアームPEG]
好適な実施の態様において、分子間架橋は、両性電解質高分子のアミノ基と、マルチアームPEG(ポリエチレングリコール)のN-ヒドロキシコハク酸イミドの基とのアミド結合形成反応によって生成された分子間架橋、とすることができる。すなわち、マルチアームPEG(ポリエチレングリコール)が架橋剤となって、両性電解質高分子の分子間に架橋を形成する。そのため、マルチアームのマルチの意味する分枝(アーム)の数は、架橋を意図する分子数によって選択することができ、例えば、2~16、2~8、2~4とすることができる。好ましい実施の態様において、4アームPEGを使用することができる。例えば、マルチアームPEGは、次の式(V):

【0070】
C[CO-(CH2-CH2-O)n-X]4 (V)

【0071】
で表される4アームPEGとすることができる。上記式(V)のnは、式Vの化合物の分子量が、例えば1,000~100,000の範囲、1,000~50,000の範囲となる整数とすることができる。上記式(V)のXは、次の式(VI):

【0072】
【化8】
JP0006270158B2_000009t.gif

【0073】
で表される基とすることができる。好適な実施の態様において、マルチアームPEG(ポリエチレングリコール)によって架橋される両性電解質高分子は、カルボキシル化されたポリリジンであり、好ましくは、カルボキシル化されたε-ポリ-L-リジンである。カルボキシル化ε-ポリ-L-リジンのアミノ基は、マルチアームPEG(ポリエチレングリコール)によって好適に架橋されて、ハイドロゲルを形成する。

【0074】
[分子間架橋反応]
本発明のハイドロゲルを形成するための分子間架橋反応は、大気圧下での生理的な条件下で、速やかに進行し、さらに、細胞表面の種々の分子や、細胞培地中の成分の共存下でも、速やかに進行する。そのため、本発明のハイドロゲルの製造用の溶液に、細胞を分散し、あるいは組織を浸漬した後に、分子間架橋反応を行ってハイドロゲルを形成して、所望の三次元構造体として、細胞や組織がハイドロゲルに包埋された状態で凍結保存することもできる。これに加えて、ハイドロゲルの製造用の溶液に、細胞を分散し、あるいは組織を浸漬した後に、ハイドロゲルを形成させることなく、溶液の状態で凍結保存した後に、解凍し、それを所望の部位、例えば創傷を治癒したい部位に注入して、その生理的な状態で、分子間架橋反応を行ってハイドロゲルを形成して、所望の三次元構造体を生体内で形成させることもできる。好適な実施の態様において、細胞培養可能な温度条件下で、例えば35~38℃、例えば37℃で、分子間架橋を行うことができる。

【0075】
トリアゾール環形成による分子間架橋反応を加速させたい場合には、アジド基と炭素炭素三重結合によるトリアゾール環形成反応の公知の好適条件を採用して、これを加速することができる。例えば、末端アルキンの基とアジド基の反応において、銅イオンとアスコルビン酸を添加することができる。アジド基(アジ基)と末端アルキンの基のモル比は、ゲル形成可能な範囲であれば使用することができるが、例えば、7:1~1:7、7:1~1:5、7:1~1:3、6:1~1:6、6:1~1:4、6:1~1:2、4:1~1:4、4:1~1:2、2:1~1:2の範囲とすることができる。あるいは、上記NHS-マルチアームPEGを用いたアミド結合形成反応による分子間架橋反応を加速させたい場合には、アミノ基とN-ヒドロキシコハク酸イミドの基とのアミド結合形成反応の公知の好適条件を採用して、これを加速することができる。

【0076】
[両性電解質デキストラン]
本発明者は、アミノ基及びカルボキシル基をデキストランに導入して得た両性電解質デキストラン(Dex-PA)が、上記手段によって分子間架橋した場合に、細胞及び組織を損なうことなく、好適にゲル化できること、得られたハイドロゲルが優れた凍結保護の効果を有していることを、見いだして、さらに、この両性電解質デキストラン(Dex-PA)が、ハイドロゲル化することなく、溶液として使用した場合においても、優れた凍結保護の効果を有していることを、見いだした。したがって、本発明は、アミノ基及びカルボキシル基がデキストランに導入されてなる、アミノカルボキシルデキストランであって、アミノ基に対するカルボキシル基の比率(カルボキシル基/アミノ基)が、0.45/0.55~0.95/0.05の範囲にある、アミノカルボキシルデキストランからなる、細胞凍結保存剤にもある。この両性電解質デキストラン(Dex-PA)は、上記トリアゾール環形成反応のためのアジド基を導入した場合にも、あるいは、炭素炭素三重結合部分を導入した場合にも、優れた凍結保護の効果を有しているものであった。したがって、アジド基導入アミノカルボキシルデキストラン、及び炭素炭素三重結合部分導入アミノカルボキシルデキストランもまた、それ自体が、優れた細胞凍結保存剤となっているものである。これらのデキストラン誘導体の濃度(ポリマー濃度、デキストラン濃度)は、細胞保護効果を発揮する範囲内において、適宜選択することができるが、例えば、5~20%、7~20%、7~15%、8~14%、10~13%、10~12%の範囲とすることができる。

【0077】
[細胞及び組織]
本発明において、生理的溶液を使用して、温度及び大気圧についても、生理的な条件下で架橋反応を行って、ハイドロゲルを形成することができる。そのために、ハイドロゲル中に包埋可能な細胞及び組織には、特に制限がない。さらに、本発明においては、両性電解質高分子、及び両性電解質高分子によるハイドロゲルが、細胞内に浸透することなく、凍結保護の効果を発揮するものとなっている。そのために、凍結保護の効果が発揮可能な細胞及び組織には、特に制限がない。好適な実施の態様において、このような細胞としては、例えば、培養用樹立細胞、ヒトを含む動物の受精卵および卵細胞を挙げることができ、また、例えば、精細胞、ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞、造血系幹細胞、神経幹細胞、臍帯血細胞などの幹細胞、肝細胞、神経細胞、心筋細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、血球細胞などのヒトを含む動物細胞もしくは植物細胞を挙げることができる。好適な実施の態様において、このような組織・臓器としては、皮膚、神経、血管、軟骨、角膜、肝臓、腎臓、心臓、膵島などを挙げることができ、さらに、これらに由来する細胞を挙げることができる。
【実施例】
【0078】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
[カルボキシル化ポリリジンによるハイドロゲル]
[カルボキシル化ポリリジンの合成]
ε-ポリ-L-リジン(チッソ、分子量4000)25%水溶液を5mLとり、無水コハク酸(和光純薬)を0.5-0.9g添加し、50℃で1時間反応させ、カルボキシル化ポリリジンを作成した。カルボキシル基の導入量は、アミノ基定量である、TNBS法を用い、アミノ基の減少量より計算し求めた。アミノ基のモル数に対して50%のモル数のカルボキシル基を導入したものをPLL(0.50)と表記する。
【実施例】
【0079】
[カルボキシル化ポリリジンによる細胞の凍結保存]
1×106個のマウス線維芽細胞L929細胞を、クライオバイアル(Simport Plastics)中にて1mLの10%PLL(0.50)培地溶液(無血清培地、Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)、シグマ社)中に懸濁し、-80℃のフリーザー中に放置することで凍結保存を行った。解凍は37℃の湯浴中にて速やかに融解し、培地で洗浄したのち、トリパンブルー染色により生死判定を行った。その結果、95%以上の生存率を確認した。
【実施例】
【0080】
[カルボキシル化ポリリジンのゲル化]
次に解凍し終わった懸濁液を、24wellの培養用プレートに移し、10%の4官能ポリエチレングリコール(4-armed functional PEG)(N-ヒドロキシスクシンイミド末端)(日油、Sunbright PTE-100S、分子量1万)培地溶液を添加することで速やかにゲル化させた。ゲルの上部に培養液を添加し、37℃インキュベータ中で6時間後に、Live-deadアッセイキット(旧invitrogen、現Life Technologies社製)により細胞の生死判定を行ったところ、80%以上の生存率を確認した。図1は、この結果を示す蛍光写真である。図1は、カラー写真においては、緑と赤の二重の蛍光染色の写真となっており、緑の蛍光は生存している細胞を示し、赤の蛍光は生存していない細胞を示している。生存率はこれらを計数することによって算出した。また、そのゲルをインキュベータ中で放置することにより、48時間後にはすべてのゲルが溶解し、細胞が培養プレートに接着していることを確認した。
【実施例】
【0081】
以上のカルボキシル化ポリリジンの合成から、ハイドロゲル形成と培養までの実験手順を、次のスキーム3にまとめた。
【実施例】
【0082】
【化9】
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【実施例】
【0083】
[結果のまとめ]
以上の実験から、両性電解質高分子PLL(0.50)水溶液は細胞を高い生存率で凍結保存することが可能な高分子溶液であり、両性電解質高分子PLL(0.50)のアミノ基によって細胞が分散された状態で細胞を高い生存率で維持しつつハイドロゲルを形成することが可能であることがわかった。つまり、細胞を凍結保存した後に解凍して、細胞の凍結保存剤を除去する必要なく、そのまますぐにゲル化する作業を行うことができ、高い生存率で細胞を包埋したまま、ハイドロゲルを形成することができることがわかった。さらに、このハイドロゲルは、培養条件下で24~48時間で生分解するという生分解性を有するものであった。つまり、例えば、患部に細胞液を注入した後にゲル化させて、数日でそのゲル自体は生分解して、三次元的に包埋された細胞がそのまま生着するという、いわゆるインジェクタブルゲル(注入可能ゲル)を実現するものとなっていることがわかった。
【実施例】
【0084】
[実施例2]
[デキストランによるハイドロゲル]
[アミノ化デキストランの合成]
デキストラン(名糖産業、分子量7万)1.5gをジメチルスルホキシド(DMSO)90mLに溶解し、3.0gのカルボニルジイミダゾール(CDI)を添加し、50℃15分反応させた。その後、1.35mLのエチレンジアミン(EDA)を添加し、50℃18時間反応させることで64.1%の導入率(単位糖残基あたりのEDAの導入数)のアミノ化デキストラン(Amino-Dex)を得た。得られたアミノ化デキストランを10%溶液とし、無水コハク酸を加え、50℃で1時間反応させることで種々のカルボキシル基導入アミノ化デキストラン(デキストラン両性電解質、(Dex-PA))を作成した。この合成の手順を、次のスキーム4にまとめた。
【実施例】
【0085】
【化10】
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【実施例】
【0086】
それらDex-PAの細胞凍結保護活性を調べるために、10%Dex-PA溶液1mL中に1.0×106個のL929細胞を懸濁し、上記凍結法と同じ方法で凍結、解凍し、生存率を評価した。その結果、アミノ基に対するカルボキシル基の割合が、50-90%において、ほぼ80%以上の高い生存率が得られることが確認され、Dex-PAも細胞凍結保護活性を持つ事を確認した。図2は、この結果を示す棒グラフである。図2の横軸は、修飾デキストラン中の全アミノ基に対するカルボキシル基の割合(%)を示す。図2の縦軸は、異なった割合(比率)でカルボキシル基が導入されたDex-PAを10%含有する溶液中でL929細胞を凍結させた後の細胞の生存率(%)である。この結果から、アミノ基とカルボキシル基を導入して両性高分子電解質となった修飾デキストラン(Dex-PA)は、高い細胞凍結保護効果を示すことがわかった。
【実施例】
【0087】
[アジド基含有デキストランの合成]
[3-アジドプロパノールの合成]
2.34gのアジ化ナトリウム(東京化成)と0.05gのテトラブチルアンモニウム硫酸水素塩(東京化成)を6mlの水に溶解し、1.5mLの3-クロロプロパノール(東京化成)を添加し、80℃で24時間反応させ、その後室温で12時間放置した。ジエチルエーテルで抽出した溶液を乾燥し、3-アジドプロパノールを得た。
【実施例】
【0088】
[アジドデキストラン(Az-Dex)の合成]
0.1gのデキストランを6mLのDMSOに溶解し、0.06gのCDI(カルバモイルジイミダゾール)を添加し、50℃2時間反応させた。その後、0.018gの3-アジドプロパノールを添加し、24時間反応させた。アジド導入率はNMRにて評価し、その結果は10%(単位糖残基あたり)であった(後述のスキーム3の化合物B)。このアジドデキストラン(Az-Dex)の合成の手順を、後述のスキーム3に示す。その後、上述のアミノ化デキストラン合成法と同じ手法でEDA導入アジド化デキストランおよびアジド導入両性電解質デキストラン(Az-Dex-PA)を合成した。
【実施例】
【0089】
[アルキン含有デキストランの合成]
0.5gのデキストランを30mLのDMSOに溶解し、0.1gのCDI(カルバモイルジイミダゾール)を添加し、50℃で2時間反応させた。その後、52.1μLのN-メチルプロパルギルアミン(東京化成)を添加し、24時間反応させることでアルキン置換デキストラン(Alk-Dex)を合成した。アルキン導入率はNMRにて評価し、導入率はNMR~12.4%(単位糖残基あたり)であった(後述のスキーム3の化合物C)。このアルキン含有デキストラン(Alk-Dex)の合成の手順を、後述のスキーム5に示す。
【実施例】
【0090】
【化11】
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【実施例】
【0091】
[ハイドロゲル形成]
10%Az-Dex-PA培地溶液と10%Alk-Dexを当量混合し、銅イオンとしてCuSO4を0.2mg/mL、アスコルビン酸を0.8mg/mLの濃度以上で添加すると速やかにゲル化することが確認できた。このゲル化をもたらしたトリアゾール環形成の反応を説明する模式図を、スキーム6に示す。
【実施例】
【0092】
【化12】
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【実施例】
【0093】
そこで、1.0×106個のL929を10%Az-Dex-PA培地溶液に懸濁し、10%Alk-Dex、CuSO4、アスコルビン酸を加えてゲル化させ、-80℃にて凍結を行い、解凍後の生存率を実施例1と同様にLive-Deadアッセイで確認したところ、生存率約70%であった。図3は、この結果を示す蛍光写真である。図3は、カラー写真においては、緑と赤の二重の蛍光染色の写真となっており、緑の蛍光は生存している細胞を示し、赤の蛍光は生存していない細胞を示している。生存率はこれらを計数することによって算出した。この結果から、アジド基とアルキル基を導入して架橋反応を生じさせることによって、Dex-PAをゲル化できること、その架橋反応とゲル化によっても、そのなかに包埋された細胞は損なわれることなく、高い生存率を示すことがわかった。さらに、架橋反応によって生成したDex-PAのハイドロゲルは、そのなかに細胞を包埋したまま、凍結保存を行っても、細胞は損なわれず、すなわち、Dex-PAのハイドロゲルは、包埋された細胞に対して、高い凍結保護効果を示すことがわかった。
【実施例】
【0094】
[結果のまとめ]
以上の実験から、両性電解質高分子Dex-PA水溶液は細胞を高い生存率で凍結保存することが可能な高分子溶液であること、両性電解質高分子Dex-PAにアジド基と炭素炭素三重結合の基を導入してトリアゾール環形成反応によって架橋することによって細胞が分散された状態で細胞を高い生存率で維持しつつハイドロゲルを形成できること、細胞が包埋された両性電解質高分子Dex-PAのハイドロゲルは凍結保存して解凍しても細胞を高い生存率で維持して保護するものとなっていることが、わかった。つまり、両性電解質高分子Dex-PAの架橋によるハイドロゲルを形成させれば、細胞の懸濁液から、三次元培養が可能である三次元構造体を形成して、細胞が包埋された三次元構造体のままで凍結保存して解凍することができ、いわば、凍結保存と解凍の過程を通じて、細胞の増殖及び/又は分化のための三次元足場材料を提供するものとなっていることがわかった。
【実施例】
【0095】
[比較例1]
[コラーゲンゲル中での細胞の凍結保存]
セルマトリックスタイプI-A(新田ゼラチン)を用いてL929をコラーゲンゲル中に分散させた。それをそのまま-80℃で凍結させ、解凍後に生存率を調べたところ、すべての細胞が死滅し、生存率は0%であった。この結果から、従来から用いられている一般的なゲル中で細胞を凍結することは非常に困難であることがわかった。
【実施例】
【0096】
[実施例3]
[シクロオクチン含有デキストランの合成]
実施例2に準じて、実施例2のアルキン含有デキストランに代えて、N-メチルプロパルギルアミンの代わりにジベンジルシクロオクチン酸(DBCO-acid)をデキストランに導入して、シクロオクチンの基を有するデキストランを合成した(DBCO-Dex)。この合成の手順を次のスキーム7に示す。
【実施例】
【0097】
【化13】
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【実施例】
【0098】
このDBCO-DexとAz-Dex-PAとの間に生じるトリアゾール環形成反応を説明する模式図を、スキーム8に示す。
【実施例】
【0099】
【化14】
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【実施例】
【0100】
[実施例4]
[両性電解質高分子Dex-PAと細胞との相互作用]
両性電解質高分子Dex-PAと細胞との相互作用を検討するために、次の実験を行った。
【実施例】
【0101】
FITC(同仁化学)導入デキストランから作成したDex-PAでL929を凍結し、解凍後に共晶点レーザー顕微鏡で観察した。得られた蛍光写真を、図4に示す。図4は、凍結解凍後に、FITCの蛍光によってDex-PAの細胞近傍の局在を観察した写真である。その結果、細胞膜周辺のみに蛍光が見られ、細胞質内には両性電解質が進入していないことが確認された。つまり、この結果から、本発明の両性電解質高分子Dex-PAは、細胞内へ浸透することなく、細胞を凍結保護していることがわかった。すなわち、本発明において、細胞外マトリックスとしての足場材料によって、細胞内に浸透することなく、細胞を凍結保護していることがわかった。
【実施例】
【0102】
[実施例5]
[Dex-PAの細胞凍結保護活性の濃度依存性]
Dex-PAの細胞凍結保護活性を、さらに検討するために、以下の実験を行った。実施例2において、種々のカルボキシル基導入量のDex-PA溶液(濃度10%)1mlに1×106個のL929細胞を懸濁し、凍結、融解して、生存率を評価した場合と同様の手法で、カルボキシル基導入量65%のAzide-Dex-PAを用いて、その濃度を5%から15%まで変えた溶液の凍結保護活性についても調べた。その結果、図5に示すように12%で最も高い凍結保護活性を示すことがわかった。
【実施例】
【0103】
[実施例6]
[Azide-Dex-PAとDBCO-Dexによる細胞包埋ゲル]
後述するように、スキーム9の手順にしたがって、細胞(L929)懸濁液をゲル化させて、細胞包埋ゲルを作成して、その細胞保護活性を調べる実験を行った。この実験で得られたゲルの写真を、図6として示す。図6には、逆さまに置かれた容器の底が上部の楕円の線で囲んだ範囲にあり、そこに得られたゲルが観察されている。
【実施例】
【0104】
[スキーム9]
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【実施例】
【0105】
[Azide-Dex-PAとDBCO-Dexの混合溶液のゲル化]
Azide-Dex-PAとDBCO-Dexの混合溶液のゲル化の条件を検討した。
ゲル化に関しては、ポリマー濃度及びazide-Dex-PAのアジド導入率とDBCO-DexのDBCO導入率に依存してゲル化時間や硬さが変化する。ゲル化時間は、試験管に入れた混合溶液が固まり、逆さまにした時に流動性が失われた時間として定義した。以下の表1に、混合時におけるAzide-Dex-PAの濃度A(mg/mL)、DBCO-Dex濃度B(mg/mL)と、アジドとDBCOの混合溶液中の割合(Azide : Alkyneのモル比)、ゲル化時間(Gelation time)を示した。
【実施例】
【0106】
【表1】
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【実施例】
【0107】
上記のように、高分子の濃度が低くなればゲル化時間が長くなり、30mg/mL以下では、1時間経過後においてもゲル化しなかった(表1において、×と示した)。また、DBCO(アルキン)に対するアジドの量を増やしていくとゲル化時間が長くなる傾向が見られた。ゲル化時間が長いゲルほど柔らかかった。
【実施例】
【0108】
[細胞包埋ゲルの作成と凍結保護活性の検討]
次に、Azide-Dex-PAとDBCO-Dexの混合溶液中に、L929細胞を1×106個懸濁し、ゲル化するのを待って-80℃のフリーザーにゲルを放置することで凍結した。解凍後の生存率を、実施例2の図3と同様に、Live/Deadアッセイにより確認した。図7の(a)はAzideとDBCO(Alkyne)の比が1:4のゲル(ポリマー濃度10%)、図7の(b)はAzide:Alkyneの比が1:6のゲル(ポリマー濃度10%)、図7の(c)が1%コラーゲンゲル中で凍結し、解凍した細胞の様子である。図7の(a)の生存率は93%、図7の(b)の生存率は94%、図7の(c)0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、細胞を含む三次元構造体を、安全に凍結保存して解凍することができる。そのために、三次元培養された細胞や組織を、長期に保存し、あるいは輸送することが可能となる。本発明は、再生医療の産業的な普及を実現するために必要となる、再生した細胞や組織を長期に保存し輸送する技術を、提供するものである。本発明は、産業上有用な発明である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7a】
6
【図7b】
7
【図7c】
8