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明細書 :シルク多孔質繊維立体構造体の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6758707号 (P6758707)
公開番号 特開2018-038290 (P2018-038290A)
登録日 令和2年9月4日(2020.9.4)
発行日 令和2年9月23日(2020.9.23)
公開日 平成30年3月15日(2018.3.15)
発明の名称または考案の名称 シルク多孔質繊維立体構造体の製造方法
国際特許分類 D01F   4/02        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
A61L  27/36        (2006.01)
A61K   8/02        (2006.01)
A61K   8/64        (2006.01)
A61Q  19/00        (2006.01)
A61K  35/64        (2015.01)
A61P  17/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P   9/00        (2006.01)
C12M   3/00        (2006.01)
FI D01F 4/02
C12M 1/00 A
A61L 27/36 200
A61L 27/36 320
A61L 27/36 300
A61K 8/02
A61K 8/64
A61Q 19/00
A61K 35/64
A61P 17/00
A61P 43/00 107
A61P 9/00
C12M 3/00 A
請求項の数または発明の数 5
全頁数 11
出願番号 特願2016-173093 (P2016-173093)
出願日 平成28年9月5日(2016.9.5)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 一般社団法人繊維学会、繊維学会予稿集(2016 71巻1号、2E15、平成28年6月6日)にて発表
特許法第30条第2項適用 平成28年6月9日タワーホール船橋において開催された平成28年度繊維学会年次大会で発表
審査請求日 令和元年8月23日(2019.8.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】玉田 靖
【氏名】岸本 祐輝
【氏名】森川 英明
【氏名】山中 茂
個別代理人の代理人 【識別番号】100101236、【弁理士】、【氏名又は名称】栗原 浩之
【識別番号】100166914、【弁理士】、【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
審査官 【審査官】田中 晴絵
参考文献・文献 特開2014-138877(JP,A)
特表2007-515391(JP,A)
国際公開第2014/192822(WO,A1)
特開2010-270426(JP,A)
特開2010-150712(JP,A)
特開2016-50374(JP,A)
特表2015-532690(JP,A)
国際公開第2004/090205(WO,A2)
特開2004-68161(JP,A)
特開2018-40071(JP,A)
調査した分野 D01F 4/02
C12M 1/00-3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
電界紡糸法に従って、紡糸液として、4~30w/v%濃度のシルクタンパク質水溶液を用い、凝固浴として、緩衝作用を有するpH3~7の酸性塩水溶液を用い、多孔質構造を有するシルク繊維集合体からなるシルク多孔質繊維立体構造体を形成させることを特徴とするシルク多孔質繊維立体構造体の製造方法。
【請求項2】
前記緩衝作用を持つ酸性塩が、シュウ酸塩、マレイン酸塩、アスパラギン酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、及びコハク酸塩からなる群から選ばれた塩であることを特徴とする請求項1に記載のシルク多孔質繊維立体構造体の製造方法。
【請求項3】
前記緩衝作用を持つ酸性塩水溶液に界面活性剤及びアルコールから選ばれた少なくとも1種を添加した混合水溶液を使用することを特徴とする請求項1に記載のシルク多孔質繊維立体構造体の製造方法。
【請求項4】
前記アルコールがエタノール又はブタノールであることを特徴とする請求項3に記載のシルク多孔質繊維立体構造体の製造方法。
【請求項5】
前記シルク多孔質繊維立体構造体を形成した後に、さらに、この形成したシルク多孔質繊維立体構造体をアルコール水溶液に浸漬し、又は水蒸気に暴露することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のシルク多孔質繊維立体構造体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、シルク多孔質繊維立体構造体の製造方法に関し、特に、皮膚再生や血管再生等の生体組織再生における細胞足場材料等の再生医療用材料や、創傷保護や治癒促進のための創傷被覆材等の医療用分野や、フェースパックや皮膚保湿材等のエステティックや化粧分野、マスク等の衛生材料分野、あるいは、微細粒子捕捉や水質浄化用のフィルター等の産業分野において活用されるシルク多孔質繊維立体構造体の製造方法に関するものである。本発明において、多孔質繊維立体構造体とは、1μm以上の(所定の径(大きさ))の繊維間空隙を持ち、及び/又は10~100μmの孔径を持つ多孔質構造を有する多孔質繊維立体構造体をいうものとする。すなわち、繊維間空隙の大きさも多孔質の孔径とする。
【背景技術】
【0002】
手術用縫合糸として2500年以上の間使用されているシルクは、重篤な生体反応を起こさないために、生体親和性の高い材料として利用されている。シルクは、通常は水に対して不溶であるが、高濃度の塩溶液等に溶解することが可能であり、その水溶液を水に対して透析することで所定濃度の水溶液を調製することが可能である。このシルクタンパク質水溶液を利用して、フィルム、パウダーあるいはスポンジ構造体等を容易に作製できる。これらの構造体は生体親和性の高い材料であるので、軟骨再生、骨再生、皮膚再生、膀胱再生、血管再生等の再生医療用材料としての利用、研究開発が進められている。特に、シルクのナノファイバーやマイクロファイバーの集積体は、体積に対する表面積の割合が高く、また、生体組織に近い繊維構造体となることから、再生医療用の細胞足場材料として有望であると考えられている。
【0003】
そこで、シルクを原料としたナノファイバーやマイクロファイバーからなる繊維集積体の作製と再生医療用細胞足場材料としての開発が検討されている。この繊維集積体の作製方法としては、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)を用いるのが容易である。エレクトロスピニング法は、紡糸液に高電圧を印加することで紡糸液表面に電荷を蓄積させ、その電荷の反発が表面張力を超えると、ジェット状に電荷を帯びた紡糸液が噴射され、さらにその噴射液が溶媒の蒸発とともに分岐しナノファイバーを形成し、コレクタ上に堆積させることで、繊維集積体を作製する方法である。
【0004】
一般的なエレクトロスピニング法では、コレクタ電極として平板、ドラムあるいは円板を利用して繊維集合体を作製する。しかし、これらの手法では、嵩方向に繊維が密に集積するために、嵩方向への目詰まりが避けられず、例えば、再生医療用足場材料として用いる場合は、細胞の浸潤が阻止され、組織再生の阻害となり、また、血管新生の障害となり細胞や組織へ栄養不足が生じるという問題がある。あるいは、フィルター素材として利用する場合も、フィルターの目詰まりにより流動層の妨げとなり、十分な性能を発揮できないという問題がある。これらの課題を解決するために、繊維間に空隙を生起させるためにコレクタ電極に液体電極を用いる方法が考案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1において開示されている技術では、紡糸液として使用する高分子が可溶しない溶媒を用いて液体コレクタ電極へ紡糸する方法が提案され、海綿状繊維立体構造体が製造出来ることを示している。シルクにおいても、ギ酸やフッ素系溶媒に溶解したシルク溶液をメタノール中に紡糸する方法が考案されている。しかし、このような技術は、所望の多孔質構造を有するシルク繊維集合体を得るには必ずしも満足すべきものではない。
【0005】
また、再生医療用細胞足場材料としては、数十~100μm程度の多孔質構造が有用であることが知られている。前述の液体コレクタ電極によっても、繊維間の空隙を増やすことで多孔質構造の形成が可能となる。しかし、その空隙の大きさは、十μm程度が限度であり、さらに大きな多孔質径の空隙をもつ構造体の製造が所望とされるが、いまだ満足すべき技術は開発されていない。また、再生医療用足場材料等の人体への利用を考える場合、その製造過程において、人体に対して有害な試薬や溶媒を使用することを避けるべきであり、紡糸液を水溶液として使用することが必要となる。しかし、水溶液を紡糸液として使用するときには、コレクタ電極の液体としては低表面張力の有機溶媒を使用しなければならなかったのが現状である。また、大量の有機溶剤を液体コレクタ電極用の溶媒として使用する場合は、製造中の爆発や火災の危険性があり、工業生産的に大きな問題となっている。紡糸液としてシルクタンパク質水溶液を使用する場合も、エタノール等の有機溶媒を液体コレクタ電極に用いることが検討されているが、多孔質構造を有する繊維立体構造体の製造は困難で有り、また、製造上の危険性があり解決すべき課題が多い。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2008-261064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、従来の技術の課題を解決し、生体親和性の高いシルクの比較的低濃度の水溶液のみを用いて、酸や溶剤を添加せずに、生体に対して安全な電界紡糸プロセスに従って、例えば、再生医療用細胞足場材料等として適切な多孔質構造を持ったシルク多孔質繊維立体構造体を製造できる方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシルク多孔質繊維立体構造体の製造方法は、電界紡糸法に従って、紡糸液として、4~30wt/vol%(w/v%)濃度のシルクタンパク質水溶液を用い、凝固浴(コレクタ)として、緩衝作用を有するpH3~7の酸性塩水溶液用い、多孔質構造を有するシルク繊維集合体からなるシルク多孔質繊維立体構造体を形成させることを特徴とする。
【0009】
前記シルクタンパク質水溶液の濃度が4w/v%未満であると、電界紡糸により、ビーズが出現し安定したシルク多孔質繊維立体構造体の作製が困難となり、30w/v%を超えると、シルクタンパク質水溶液の安定性が失われ安定な紡糸が困難となる。また、pHが3未満であると、得られるシルク繊維集合体が凝集塊となってしまい、シルク多孔質繊維立体構造体が得られなく、pHが7を超えると多孔質構造を有する繊維立体構造体が得られない。
【0010】
前記シルク多孔質繊維立体構造体の製造方法において、前記緩衝作用を持つ酸性塩が、シュウ酸塩、マレイン酸塩、アスパラギン酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、及びコハク酸塩からなる群から選ばれた塩であることを特徴とする。
【0011】
前記シルク多孔質繊維立体構造体の製造方法において、前記緩衝作用を持つ酸性塩水溶液に界面活性剤及びアルコールから選ばれた少なくとも1種を添加した混合水溶液を使用することを特徴とする。
【0012】
界面活性剤やアルコールの添加により、酸性塩水溶液の表面張力が低下し、より安定に多孔質構造を有した繊維立体構造体を作製できる。
【0013】
前記シルク多孔質繊維立体構造体の製造方法において、前記アルコールがエタノール又はブタノールであることを特徴とする。
【0014】
前記シルク多孔質繊維立体構造体の製造方法において、前記シルク多孔質繊維立体構造体を形成した後に、さらに、この形成したシルク多孔質繊維立体構造体をアルコール水溶液に浸漬し、又は水蒸気に暴露することを特徴とする。
【0015】
前記のようにして製造されたシルク多孔質繊維立体構造体は、そのままでは水に対して溶解する可能性があるため、不溶化処理を行うことで安定化できる。シルクタンパク質(例えば、シルクフィブロイン等)の不溶化処理は、公知のいかなる方法を用いても良い。例えば、前記したようなメタノールやエタノール等のアルコール水溶液に浸漬する方法や、水蒸気に曝露する方法がある。
【0016】
本発明によれば、多孔質構造を有するシルク繊維立体構造体を製造する方法が提供されるので、例えば、再生医療における細胞や組織の足場材料として、あるいは、香粧やエステティックにおける素材として、さらに、衛生用品等の日用品素材や環境分野でのフィルター等の素材として活用することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明の製造方法によると、人体に有害な試薬や溶媒を使用することなく、かつ製造における爆発や火災の危険がない安全な製造プロセスを提供することができるため、人体や環境に適合した製造が可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】以下のpHを有する0.05Mクエン酸緩衝液を凝固浴(液浴)とし、これに対してシルクフィブロイン水溶液を電界紡糸して得られたシルク多孔質繊維立体構造体のSEM写真(図1の(a)-pH3、(b)-pH3.8、(c)-pH5)。
【図2】表1に示す凝固浴(緩衝液pH:図2の(a)-pH3、(b)-pH4、(c)-pH5、(d)-pH6、(e)-pH7、(f)-pH8、(g)-pH9、(h)-pH10)に5vol%のTween20を添加した凝固浴中に形成されたシルク多孔質繊維立体構造体のSEM写真。
【図3】pH3.8の0.05Mクエン酸緩衝液にエタノールを30vol%(a)、50vol%(b)、70vol%(c)添加した凝固浴に対して、6w/v%シルクフィブロイン水溶液を電界紡糸して得られたシルク多孔質繊維立体構造体のSEM写真。
【図4】pH3.8の0.05Mクエン酸緩衝液にt-ブタノールを(10vol%(a)、30vol%(b)、50vol%(c)添加した凝固浴に対し、6w/v%シルクフィブロイン水溶液を電界紡糸して得られたシルク多孔質繊維立体構造体のSEM写真。
【図5】従来の2次元平板コレクタ(平面板)に6w/v%のシルクフィブロイン水溶液を電界紡糸して得られたシルク多孔質繊維立体構造体のSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で使用するシルクタンパク質水溶液を構成するタンパク質は、家蚕が産生するシルク、テンサン、サクサン、タタールサン、シンジュサン等の野蚕が産生するシルク、ミツバチやスズメバチ等の産生するシルク、トビケラ等の水中昆虫が産生するシルクなどを用いることができるが、産業上、家蚕が生産するシルクを用いるのが好ましい。以下、家蚕由来のシルクから抽出するフィブロインタンパク質を例として説明するが、家蚕由来のシルクに限定されるものではない。原料として用いるシルクタンパク質は、家蚕が産生する繭から抽出するフィブロインタンパク質やセリシンタンパク質を用いることもできるし、家蚕の絹糸腺から抽出したシルクタンパク質を用いても良い。以下の説明では、家蚕由来のシルクタンパク質に基づいて説明する。

【0020】
家蚕繭からのフィブロインタンパク質は、公知の方法、例えば、重炭酸ナトリウムと石けんの水溶液中で煮沸するプロセス、炭酸ナトリウム水溶液中で煮沸するプロセス、熱水によるプロセス、酵素を用いるプロセス、加圧加熱(オートクレーブ)を用いるプロセス等の方法で抽出したものを用いることができる。

【0021】
紡糸液としては、上記したようなシルクタンパク質水溶液を調製して用いるが、このシルクタンパク質水溶液は、公知の方法を使用して調製できる。例えば、シルクタンパク質をギ酸やトリフルオロ酢酸のような酸に溶解する方法、あるいはヘキサフルオロイソプロパノールのようなフッ素含有有機溶媒に溶解する方法が上げられる。しかし、再生医療用材料のように人体への使用を考える場合は、シルクタンパク質水溶液を用いることが好ましい。シルクタンパク質水溶液の調製は、公知のいかなる方法を用いても良い。例えば、臭化リチウム水溶液や塩化カルシウム/エタノール混合水溶液等により溶解し、透析により塩を除きフィブロインタンパク質水溶液とするプロセスが簡便である。また、安定的な製造のためには、本明細書中に記載のシルクタンパク質水溶液を用いることが好ましく、紡糸液として用いるためには、作製したシルクタンパク質水溶液のpHを調整する必要がある。このpHの調整には、公知の方法を用いればよいが、例えば、工業生産性や得られた製品の安全性を考慮すると、2~5N程度の水酸化ナトリウム水溶液を滴下することで調整する方法が好ましい。このpHは、8~12の範囲であれば良いが、好ましくは9~11、より好ましくは10~11が良い。pH8未満あるいはpH12を超えると、低濃度シルクタンパク質水溶液による電界紡糸での紡糸が困難となる。pH11、11.5の場合もpH10.5の場合と同様に、シルク多孔質繊維立体構造体の作製が可能である。

【0022】
フィブロインタンパク質等のシルクタンパク質水溶液の濃度は、4~30w/v%が好ましい。4w/v%未満であると、電界紡糸により、ビーズが出現し安定したシルク多孔質繊維立体構造体の作製が困難となり、30w/v%を超えると、シルクタンパク質水溶液の安定性が失われ安定な紡糸が困難となる。フィブロインタンパク質等のシルクタンパク質水溶液の粘度としては、おおよそ30mPa・s~100mPa・sが、安定した紡糸に有効である。粘度が、この範囲を外れると、安定した紡糸が困難になる。

【0023】
本発明で用いる電界紡糸装置は、公知の市販の装置、あるいは従来からの知見により設計された様々な形態による公知の装置を使用することができるが、液体を電極とする液体コレクタが設置できる形態が必要である。液体コレクタは、紡糸されたシルクタンパク質繊維が溶解しない液体を用いれば良いが、多孔質体を形成するためには、酸性塩の水溶液を用いる。この酸性塩水溶液のpHは、3~7の範囲であればいずれでも良く、酸性塩水溶液のpHが3未満であると、繊維集合体が凝集塊となり、pHが7を超えると、多孔質構造を有した繊維立体構造体の形成ができない。酸性塩の種類は、前記のpHを安定して維持できるものであればいかなる塩でも良いが、例えば、シュウ酸塩、マレイン酸塩、アスパラギン酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、コハク酸塩などの緩衝作用を持つ塩が好ましく使用される。用いる酸性塩水溶液の濃度は、0.001M~1Mの範囲で使用すれば良いが、緩衝作用が十分に発現する0.01M~0.1M程度の濃度を用いることが、経済的にも好ましい。

【0024】
また、酸性塩水溶液に界面活性剤やアルコール等の有機溶媒を添加してもよい。界面活性剤やアルコールの添加により、酸性塩水溶液の表面張力が低下し、より安定に多孔質構造を有した繊維立体構造体が作製できる。界面活性剤は、表面張力を低下させるものであればいかなるものを使用しても良いが、再生医療用等に利用する場合は人体に害の少ないものを選択する。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤を使用することが好ましく、例えばTween 20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート)やTriton X-100(オクチルフェノールエトキシレート)等を使用できる。また、アルコールとしては、人体に害の少なく表面張力の低いものが好ましく、エタノールやt-ブタノール、2-プロパノール等を使用できる。添加量は、多孔質構造を有する繊維立体構造体が形成できる量で十分であり、例えばアルコールの場合は、以下のべるように、エタノールを添加した場合、50~70vol%、t-ブタノールを添加した場合、30~50vol%のときにシルク多孔質繊維立体構造体が形成される。

【0025】
なお、電界紡糸時の印加電圧や電極間距離等の条件は装置により異なるが、安定した紡糸が可能な条件の適宜設定すれば良い。本発明により製造されたシルク多孔質繊維立体構造体は、そのままでは水に対して溶解する可能性があるため、不溶化処理を行うことで安定化できる。シルクフィブロイン等のシルクタンパク質の不溶化処理は、公知のいかなる方法を用いても良い。例えば、メタノールやエタノール等のアルコール水溶液に浸漬する方法や、水蒸気に曝露する方法がある。

【0026】
以下、本発明に関し、実施例及び比較例を参照して、より詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例では、家蚕由来のシルクフィブロイン水溶液を用いる。これは、家蚕から公知の方法により作製した水溶液である。野蚕の場合も同様に使用できるのは当業者の常識である。例えば、家蚕の場合、前記したように作製され得る。また、野蚕の場合には、野蚕由来のシルクをギ酸、トリフルオロ酢酸等の有機溶媒に溶解し、得られた溶液を用いても、シルク多孔質繊維立体構造体を作製することが可能である。
【実施例1】
【0027】
濃度6w/v%のシルクフィブロイン水溶液(pH10.5)を紡糸液として用いてpH3、3.8、5の0.05Mクエン酸緩衝液からなる凝固浴中に電界紡糸し、繊維状構造体を形成した。このSEM写真を図1に示す。図1から明らかなように、本発明で規定した所定の範囲内の、すなわち、1~10μmの範囲内の繊維間空隙を持ち、及び/又は10~100μmの範囲内の大きさの孔径を持った多孔質構造を有するシルク多孔質繊維立体構造体が形成されている。この繊維間に生じた多孔質構造の孔径(繊維間空隙)を持つシルク多孔質繊維立体構造体が形成されている。この繊維間に生じた多孔質構造の孔径は、図1(a)の場合、1.92μm(SD:0.82)、図1(b)の場合、2.05μm(SD:0.97)、図2(c)の場合、2.51μm(SD:0.91)であった。
【実施例1】
【0028】
紡糸液としては、上記したように、濃度6w/v%でpH10.5のシルクフィブロイン水溶液を用い、電界紡糸による紡糸条件は、印加電圧25kv、紡糸速度1.0mL/h、電極間距離20cmに設定して行った。
【実施例2】
【0029】
表1に示した各種の緩衝塩液を凝固浴とした場合のシルク繊維構造体の形成の有無を検討した。この凝固浴としては、クエン酸、酢酸、リン酸、Tris-HCl、Gly-NaOHを用いて、pHを3、4、5、6、7、8、9、10に調整した緩衝液に、より大きな多孔質構造を形成させるために、非イオン性界面活性剤のTween20を5vol%添加して凝固浴を作製した。
【実施例2】
【0030】
【表1】
JP0006758707B2_000002t.gif
【実施例2】
【0031】
図2に、表1に示す凝固浴中に形成された繊維状構造体のSEM写真を示す。図2(a)~(h)は、それぞれ、pH3、4、5、6、7、8、9、10を有する凝固浴にTween20を添加した場合である。図2から明らかなように、pH3~7の凝固浴にTween20を添加した場合は、各pHの緩衝液により、シルク多孔質繊維立体構造体(本発明で規定した所定の範囲内の、すなわち、1~10μmの範囲内の繊維間空隙を持ち、及び/又は10~100μmの範囲内の大きさの孔径を持った多孔質構造の大きさの孔径を持った多孔質構造を有する)が形成されていた。pH8~10の凝固浴を用いた図2(f)~(h)の場合は目的とするシルク多孔質繊維立体構造体は形成されなかった。
【実施例2】
【0032】
また、図2から明らかなように、シルク多孔質繊維立体構造体が形成されていた。この構造体では、10~100μmの孔径を持つと共に、(a)の場合、7.26μm(SD:4.25)、(b)の場合、2.05μm(SD:0.76)、(c)の場合、3.86μm(SD:2.59)、(d)の場合、2.85μm(SD:1.23)、(e)の場合、2.26μm(SD:0.71)で、繊維間に多孔質構造を有している。
【実施例2】
【0033】
なお、家蚕由来のシルクフィブロイン水溶液の代わりに、野蚕由来のシルクフィブロイン水溶液を用い上記操作を繰り返したところ、同様な結果が得られる可能性がある。
【実施例3】
【0034】
6w/v%のシルクフィブロイン水溶液を紡糸液として用い、pH2.5、3、3.8、5、7に調整した0.05Mクエン酸緩衝液からなる凝固浴中に1時間、電界紡糸を行った。また、同じ紡糸液を用い、pH7.5に調整した0.1Mリン酸緩衝液からなる凝固液中に1時間電界紡糸を行った。紡糸条件は、印加電圧25kv、紡糸速度1.0mL/h,電極間距離20cmに設定して行った。pH3、3.8、5、7の凝固浴を用いた場合には、実施例2の場合と同様にシルク多孔質繊維立体構造体が形成されたが、pHが2.5であり、pHが7.5であると繊維状構造体は形成されなかった。
【実施例4】
【0035】
pH3.8に調整した0.05Mクエン酸緩衝液にエタノールを30~70vol%又はt-BuOH(t-ブタノール)を10~50vol%添加した凝固浴に対し、6w/v% のシルクフィブロイン水溶液(pH10.5)を紡糸液として用い、1時間、電界紡糸を行った。紡糸条件は、印加電圧25kv、紡糸速度1.0mL/h、電極間距離20cmに設定して行った。エタノールを添加した場合に形成された繊維構造体のSEM写真を図3に、また、t-ブタノールを添加した場合に形成された繊維構造体を図4に示した。図3(a)は30vol%、図3(b)は50vol%、図3(c)は70vol%のエタノールを添加した結果を示す。図4(a)は10vol%、図4(b)は30vol%、図3(c)は50vol%のt-ブタノールを添加した結果を示す。
【実施例4】
【0036】
図3(a)~(c)から明らかなように、エタノールを添加した場合、30vol%のときにはシルク多孔質繊維立体構造体は形成されず、50vol%のときにはシルク多孔質繊維立体構造体(多孔質の孔径:6.28μm(SD:1.8))が、そして70vol%のときにはシルク多孔質繊維立体構造体(多孔質の孔径:3.68μm(SD:1.59))が形成された。かくして、エタノールを添加した場合、50~70vol%で良い。
【実施例4】
【0037】
図4(a)~(c)から明らかなように、t-ブタノールを添加した場合、30~50vol%のときにシルク多孔質繊維立体構造体が形成されたが、t-ブタノールを10vol%添加した時には繊維構造体は形成されなかった。30vol%のときにはシルク多孔質繊維立体構造体(多孔質の孔径:12.81μm(SD:3.15))が、そして50vol%のときにはシルク多孔質繊維立体構造体(多孔質の孔径:6.25μm(SD:2.63))が形成された。
【実施例4】
【0038】
(比較例1)
凝固浴として、緩衝作用を有するpH3~7の酸性塩水溶液を用いることなく、従来法に従って、2次元の平板コレクタに、6w/v%のシルクフィブロイン水溶液を用いて、印加電圧15kv、吐糸速度1.0mL/h、紡糸距離18cmの条件で電界紡糸すると平均繊維径約130nmのナノファイバー不織布が作製された(図5)。図5から明らかなように、得られたナノファイバー不織布の空隙は0~1μmであり、空隙が格別小さく、多孔質が形成されておらず、本発明の目的であるナノファイバー不織布の繊維空隙の多孔質サイズ(孔径:10~100μm)より極めて顕著に小さかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、特定のシルク多孔質繊維立体構造体を提供できるので、皮膚再生や血管再生等の生体組織再生における細胞足場材料等の再生医療用材料や、創傷保護や治癒促進のための創傷被覆材等の医療用分野や、フェースパックや皮膚保湿材等のエステティックや化粧分野、マスク等の衛生材料分野、あるいは、微細粒子捕捉や水質浄化用のフィルター等の産業分野において利用可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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