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明細書 :上皮間葉転換阻害剤及び癌転移治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6530206号 (P6530206)
公開番号 特開2016-172701 (P2016-172701A)
登録日 令和元年5月24日(2019.5.24)
発行日 令和元年6月12日(2019.6.12)
公開日 平成28年9月29日(2016.9.29)
発明の名称または考案の名称 上皮間葉転換阻害剤及び癌転移治療剤
国際特許分類 A61K  31/711       (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  35/04        (2006.01)
FI A61K 31/711 ZNA
A61K 48/00
A61P 35/00
A61P 35/04
請求項の数または発明の数 6
全頁数 12
出願番号 特願2015-053282 (P2015-053282)
出願日 平成27年3月17日(2015.3.17)
審査請求日 平成30年1月30日(2018.1.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】吉川 研一
【氏名】谷口 浩章
【氏名】橋本 周
【氏名】松田 修
【氏名】岸田 綱郎
【氏名】太田 太恵子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】中村 浩
参考文献・文献 国際公開第2015/061779(WO,A1)
Blood,2003年12月 4日,Vol.103, No.7,p.2753-2760,URL,doi:10.1182/blood-2003-07-2482
Bioessays,2011年,Vol.34,p.50-60
Blood,2014年 7月31日,Vol.124, No.11,p.1737-1747,URL,doi:10.1182/blood-2013-10-543735
Cell,2014年 3月13日,Vol.156,p.1259-1273,URL,http://dx.doi.org/j.cell.2014.01.053
The Journal of Clinical Investigation,2007年12月,Vol.117, No.12,p.3696-3707,URL,https://doi.org/10.1172/JCI32390
The Journal of Biological Chemistry ,2009年 1月30日,Vol.284, No.5,p.3334-3344,URL,DOI 10.1074/jbc.M808989200
調査した分野 A61K31/00-31/80
A61K35/00-35/768
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1に示す塩基配列からなる核酸又は
配列番号1に示す塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換又は付加してなる核酸であって、上皮細胞から間葉細胞への転換を阻害する転写因子の機能を有する核酸を含む、上皮細胞(胃腺癌由来細胞を除く)から間葉細胞への転換阻害剤。
【請求項2】
上皮細胞が、乳腺上皮細胞、肝上皮細胞、及び癌組織に由来する細胞からなる群より選択される上皮細胞である、請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
上皮細胞が、癌組織に由来する細胞である、請求項1又は2に記載の阻害剤。
【請求項4】
上皮細胞が、大腸癌、肝臓癌、肺癌、及び乳癌からなる群より選択される癌組織に由来する細胞である、請求項1~3の何れか1項に記載の阻害剤。
【請求項5】
配列番号1に示す塩基配列からなる核酸又は
配列番号1に示す塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換又は付加してなる核酸であって、上皮細胞から間葉細胞への転換を阻害する転写因子の機能を有する核酸を含む、上皮間葉転換を発症機序とする癌(胃腺癌を除く)の転移を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【請求項6】
癌の転移が、大腸癌、肝臓癌、肺癌、及び乳癌からなる群より選択される癌からの転移である、請求項5に記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮細胞から間葉細胞への転換阻害剤、及び癌の転移を予防及び/又は治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
Prdmファミリーは、神経、造血、及び生殖系の幹細胞の運命決定因子として同定されたSETドメインを保有する転写因子群に属し、その作用機構の解明が待たれている(非特許文献1~3)。
【0003】
近年、Prdm16を筋肉細胞および白色脂肪細胞に発現させることによって褐色脂肪細胞への分化誘導が可能になることが明らかになったが、その分子機構については不明である(非特許文献4、5)。
【0004】
悪性腫瘍は、日本での死因のトップとなっている。なかでも、原発腫瘍が原因である死亡よりも転移癌による死亡が大半を占めている。近年の研究において、上皮間葉転換(上皮間葉移行とも呼ばれ、本明細書ではEMTと呼ぶことがある。)が、癌の転移に認められる現象として知られる。
【0005】
上皮系の癌細胞が間葉系の細胞に形質転換することによって、斯かる癌細胞が運動性と他の臓器への浸潤性を獲得し、血管に侵入することで癌の転移が生じるといったメカニズムが考えられている。そして、このようなEMTはTGFβシグナルカスケードがポジティブに作動することによって生じることも知られている。
【0006】
TGFβシグナルカスケード(Smadシグナルカスケードとも呼ばれる)は、TGFβs、BMPs、GDFs、各種アクチビン、各種インヒビン、ノダル等のTGFβスーパーファミリーに属するリガンドが、セリン/スレオニン型のTGFβレセプタースーパーファミリーに属する各種レセプターに結合することによって惹起され、細胞内でSmadファミリータンパク質群のリン酸化を経て、核内に情報が伝達されるシグナルカスケードである。このようなTGFβシグナルカスケードは、細胞の分化/増殖に関与することから、特に厳密に制御されていることが知られている。
【0007】
例えば、GPCRやRTKを上流に持つMAPKシグナルカスケード、βカテニン/Wntシグナルカスケード、PI3K/Aktシグナルカスケード等といった、他の様々なシグナルカスケードとクロストークしながら、TGFβシグナルカスケードは厳密に制御される。
【0008】
よって、TGFβシグナルカスケードの一部を遮断したとしても、上記する様々なクロストークカスケードを迂回して本来のTGFβシグナルカスケードが進行する事も知られている。
【0009】
非特許文献6には、転写共役制御因子であるSKI(c-skiとも呼ばれる)と転写因子であるMEL1(Prdm16とも呼ばれる)が、胃腺癌に由来するMKNs細胞内にて強調的にTGFβシグナルカスケードを阻害することが開示されている。
【先行技術文献】
【0010】

【非特許文献1】Nat Cell Biol.2010;12:999-1006.
【非特許文献2】Nature.2005;436:207-13.
【非特許文献3】PNAS.2010;107:9783-8.
【非特許文献4】Nature.2009;460(7259):1154-8.
【非特許文献5】Genes Dev.2008;22(10):1397-409.
【非特許文献6】J Biol Chem.2009;284(5):3334-44.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
TGFβシグナルカスケードがポジティブに作動することによって生じるとされるEMTが癌の転移に関連するとの知見を基に、EMT抑制作用を示す生体分子が探索され、癌の転移を予防又は治療する医薬組成物の開発が進められている。
【0012】
ところが、TGFβ刺激によって惹起されたあらゆる癌細胞においてEMTが生じるとは言えず、例えば胃腺癌細胞においてTGFβシグナルカスケードを作動させても、EMTが生じないことを本発明者らは明らかにしている。
【0013】
また、TGFβシグナルカスケードが様々なシグナルカスケードとクロストークしながら厳密に制御されるといった上述の従来技術に照らすと、TGFβシグナルカスケード阻害剤が直ちにEMT抑制作用を示すかどうかは不明である。
【0014】
以上のことから、TGFβシグナルカスケードの阻害剤が、あらゆる癌の転移を治療又は予防するために用いる事ができるとは言えず、市場のニーズを十分に満足できる有効成分の探索には至っていない。
【0015】
本発明は、斯かる従来技術に鑑みて、癌の転移を治療及び/又は予防するための医薬組成物の有効成分としてEMTの抑制効果を発揮する分子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述する課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、Prdm16が特定の上皮細胞から間葉細胞への転換を阻害することを確認した。また、Prdm16が上皮間葉移行に基づく特定の癌の転移を阻害することも見出した。
【0017】
本発明は斯かる知見に基づいて完成されたものであり、以下に示す態様の発明を広く包含する。
【0018】
〔項1〕 Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸を含む、上皮細胞(但し、胃腺癌由来細胞を除く)から間葉細胞への転換阻害剤。
〔項2〕 上皮細胞が、乳腺上皮細胞、肝上皮細胞、及び癌組織に由来する細胞からなる群より選択される上皮細胞である、上記項1に記載の阻害剤。
〔項3〕 上皮細胞が、癌組織に由来する細胞である、上記項1又は項2に記載の阻害剤。
〔項4〕 上皮細胞が、大腸癌、肝臓癌、肺癌、及び乳癌からなる群より選択される癌組織に由来する細胞である、上記項1~項3の何れか1項に記載の阻害剤。
〔項5〕 上皮細胞が、乳癌組織に由来する細胞である、上記項1~項4の何れか1項に記載の阻害剤。
〔項6〕 Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸を含む、癌(但し、胃腺癌を除く)の転移を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
〔項7〕 癌の転移が、大腸癌、肝臓癌、肺癌、及び乳癌からなる群より選択される癌からの転移である、上記項6に記載の医薬組成物。
〔項8〕 上皮間葉転換を発症機序とする癌の転移である、上記項6又は項7に記載の医薬組成物。
〔項9〕 癌の転移が、乳癌からの転移である、上記項6~項8の何れか1項に記載の医薬組成物。
〔項10〕 上皮細胞(但し、胃腺癌由来細胞を除く)にPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸を導入する工程を含む、上皮間葉転換を阻害する方法。
〔項11〕 転移癌(但し、胃腺癌を除く)に罹患している患者にPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸の有効量を投与する工程を含む、癌の転移を予防及び/又は治療する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の阻害剤は、胃腺癌由来の細胞を除く上皮細胞におけるEMTを阻害する効果を発揮する。特に、乳癌組織に由来する細胞の間葉細胞への転換を好適に阻害する。
【0020】
本発明の医薬組成物は、胃腺癌を除く癌の転移を予防及び/又は治療する効果を発揮する。特に乳癌が原発巣である際の転移を好適に予防及び/又は治療する効果を発揮し、更に好ましくは乳癌が他臓器に転移することを予防する効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】各種MKN細胞における、TGFβ刺激によるEMT誘導実験の結果を示す顕微鏡写真像。
【図2】各種MKN細胞における、TGFβ刺激によるEMT誘導実験の結果を示すグラフ。
【図3】MNuMG細胞における、Prdm16によるTGFβ刺激によって誘導されたEMT阻害実験の結果を示す顕微鏡写真像。
【図4】MNuMG細胞における、Prdm16によるTGFβ刺激によって誘導されたEMT阻害実験の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<上皮間葉転換阻害剤>
本発明の阻害剤は、上皮細胞から間葉細胞への転換を阻害するための剤(上皮間葉転換阻害剤)であり、Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸を含む。

【0023】
上皮細胞とは、胃腺癌細胞に由来する上皮細胞以外であれば、特に限定はされないが、例えば乳腺上皮細胞、肝上皮細胞、又は癌組織に由来する上皮細胞が好ましい。

【0024】
癌組織とは、転移能を有する癌であれば特に限定はされないが、例えば乳癌、大腸癌、肝臓癌、肺癌等の癌組織が挙げられる。

【0025】
Prdm16とは主として細胞内の核内で機能を発揮する転写因子であり、種々のシグナリングカスケード内において、その下流に位置する種々の遺伝子群を発現させる作用を有する。また、生体内においてユビキタスに発現している。

【0026】
Prdm16をコードする塩基配列とは、特に限定はされないが、例えばNCBIのアクセッションナンバー(ACCESSION;NM_199454:XM_936938;VERSION:NM_199454.2.GI:289547570)にて登録された塩基配列が挙げられる。具体的には、配列番号1にて示される塩基配列である。

【0027】
また、上記塩基配列には適宜変異が施されていてもよい。斯かる変異とは、上述したPrdm16の機能を発揮する範囲に限って、特に限定されることは無いが、例えば、置換、欠失、付加等の変異が挙げられる。中でも、置換変異が好ましく、更に具体的には保存的な置換変異が好ましい。

【0028】
用語「保存的な置換技術」とは、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置換されることを意味する。

【0029】
例えば、リジン、アルギニン、又はヒスチジン等といった塩基性側鎖を有するアミノ酸残基同士で置換されることが、保存的な置換技術にあたる。その他に、アスパラギン酸、又はグルタミン酸等といった酸性側鎖を有するアミノ酸残基;グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、又はシステイン等といった非帯電性極性側鎖を有するアミノ酸残基;アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、又はトリプトファン等といった非極性側鎖を有するアミノ酸残基;スレオニン、バリン、又はイソロイシン等といったβ-分枝側鎖を有するアミノ酸残基、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、又はヒスチジン等といった芳香族側鎖を有するアミノ酸残基同士での置換も同様に、保存的な置換にあたる。

【0030】
具体的な変異導入数は、上述したPrdm16の機能を発揮する範囲に限って特に限定はされないが、通常は変異導入前のアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する変異体となるような変異導入数とすればよい。

【0031】
用語「同一性」とは、2以上の対比可能なアミノ酸配列の、お互いに対する同一のアミノ酸配列の程度をいう。アミノ酸配列又同一性のレベルは、例えば、配列分析用ツールであるFASTAを用い、デフォルトパラメータを用いて決定される。これらの解析方法の具体的な手法は公知であり、National Center of Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を参照すればよい。

【0032】
Prdm16をコードする塩基配列には、上記変異の他にPrdm16のC末端又はN末端側となる塩基配列に、FLAGタグ、Hisタグ、又はmycタグ等といったタグが1つ又は2つ以上付加された、更なる変異が施されていてもよい。

【0033】
以下に詳述するが、本発明の阻害剤は上述する上皮細胞内に導入して用いられ、生体内でPrdm16が発現することによって、斯かる上皮細胞から間葉細胞への転換阻止する機能が発揮される。このため、Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸は、上皮細胞内でのPrdm16の発現量を向上させるために必要なその他の核酸と、その間に任意の核酸を含むことを許容しながらホスホジエステル結合した態様であってもよい。

【0034】
ここでいうその他の核酸とは、分子生物学、細胞生物学等の分野で、真核細胞内における遺伝子(DNA)の転写調節機構に関与する公知の塩基配列を有する核酸であれば特に限定はされない。このような塩基配列として、例えばプロモーター配列を有する核酸、エンハンサー配列を有する核酸、又はターミネーター配列を有する核酸等が挙げられる。

【0035】
これらのなかでも、プロモーター配列に関しては、本発明の阻害剤を導入する細胞にて遺伝子を発現させるのに適した細胞特異的プロモーターを採用するのがよい。例えば、乳癌由来細胞であれば、乳がん特異的アロマーターゼプロモーター等を用いることが好ましい。また、肝臓がんであれば、アルブミンプロモーター等を用いることが好ましい。

【0036】
本発明の阻害剤は、上述の核酸そのものとしてもよいが、この他にPrdm16が上皮細胞の核内にて転写因子としての働きをより発揮できるような他の成分が含まれていてもよい。

【0037】
ここでいうその他の成分とは、分子生物学、細胞生物学等の分野で、真核細胞内における遺伝子の転写調節機構に関与すると知られる公知の成分であれば特に限定はされない。このような成分として、例えばアクチベーター、又はコアクチベーター等が挙げられる。

【0038】
これらの他の成分は、そのままの形態で含まれていても、これらの他の成分をコードする塩基配列を有する核酸の形態で含まれていてもよい。

【0039】
また、核酸の形態で含まれる場合は、上述のPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸と同様に、他の成分の発現量を向上させるために必要なその他の核酸と、その間に任意の核酸を含むことを許容しながらホスホジエステル結合した態様で含まれていてもよい。

【0040】
上述のPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸は、発現ベクターの形態であってもよい。発現ベクターの種類は特に限定はされないが、真核細胞内にてPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸が好適に発現できる機能を備えたベクターであることが好ましい。このような発現ベクターとして、例えばプラスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクター、フォスミドベクター、又はコスミドベクター等が挙げられる。

【0041】
本発明の阻害剤は、上述する上皮細胞に導入することによって、斯かる上皮細胞から間葉細胞への転換を阻害する効果を発揮する。具体的な導入方法は、特に限定はされないが、例えば公知の遺伝子導入技術を適宜改変して採用すればよい。

【0042】
本発明の阻害剤による上皮細胞から間葉細胞への転換の阻害効果を確認する方法は、特に限定はされないが、例えば下記の実施例に示すように、細胞の形態を顕微鏡を用いて観察することで、間葉細胞の形態に変化していないこと確認する方法や、細胞内のカドヘリン等といった細胞間接着因子の発現量を測定し、その数値が減少していないことを指標に、上皮細胞から間葉細胞への転換を阻害していることを確認することができる。

【0043】
<医薬組成物>
本発明の医薬組成物は、Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸を含み、癌(胃腺癌を除く)の転移を予防及び/又は治療するために用いられる。

【0044】
Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸とは、<上皮間葉転換阻害剤>にて詳述した通りとすることができる。

【0045】
具体的な癌とは、胃腺癌以外の癌であれば特に限定はされないが、例えば、大腸癌、肝臓癌、肺癌、又は乳癌等が挙げられる。中でも、上皮間葉転換を発症機序とする癌の転移が好ましく、具体的には乳癌が好ましい。

【0046】
本発明の医薬組成物の投与対象は、転移癌に罹患している患者であれば特に限定はされず、上述する癌と同様とすることができる。

【0047】
「癌の転移を治療する」とは、転移能をもったある臓器における癌が他の臓器に移行しそこで新たに癌を発症することを防ぐことを包含し、転移した癌を治療することとは区別される。

【0048】
「癌の転移を予防する」とは、癌が転移能を獲得する事を防ぐことを意味する。

【0049】
本発明の医薬組成物に含有されるPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸の量及びその投与量は、特に限定はされず、所望の治療効果、治療期間、投与間隔、患者の年齢、その性別、後述する医薬組成物の剤形、投与方法、その他の条件等に応じて広範囲より選択される。

【0050】
例えば、投与量であれば、通常は1回の投与あたり、Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸の量に換算して、0.1pg~100mg/kg程度とすればよい。

【0051】
本発明の医薬組成物には、Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸と共に、公知の薬学的に許容される担体、添加剤等を含んでいてもよい。

【0052】
本発明の医薬組成物は、所望の投与方法、例えば経口投与、経静脈内投与、経筋肉内投与、経皮下投与、経肺投与、経鼻投与、経腸投与、又は経腹腔内投与等がによって投与することができ、これらの投与経路に応じて、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、及びカプセル剤等の固体投与形態;溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、リポソーム製剤、注射剤、静注剤、点滴剤、及びエリキシル等の液剤投与形態;貼付剤、軟膏、クリーム、乳液、及び噴霧剤等の外用投与形態に適宜調合、成形、又は調製することができる。

【0053】
このような製剤の調整に利用される本発明の医薬組成物に含まれる担体として、製剤の投与形態に応じて通常使用される賦形剤、希釈剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、吸収促進剤、滑沢剤、溶解補助剤、緩衝剤、乳化剤、及び懸濁剤等が例示できる。また、添加剤としては、製剤の投与形態に応じて通常使用される安定化剤、保存剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、着色剤、香料、風味剤、及び甘味剤等が提示できる。

【0054】
本発明の医薬組成物は、生体に投与された後に癌細胞に特異的に送達されることが好ましい。また、本発明の医薬組成物が上述するPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸を有効成分とすることから、生体内のヌクレアーゼによる攻撃を受けて分解される可能性もはらんでいる。以上のことから、本発明の医薬組成物はDDS製剤とすることが好ましい。

【0055】
具体的なDDS製剤化方法は、特に限定はされないが、公知の方法を適宜採用すればよい。例えば、生体適合性を有するポリエチレングリコール、デンドリマー、シクロデキストリン、又はポリシアル酸等といった化合物で上述するPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸を包摂する方法が挙げられる。

【0056】
このほかにも、リポソーム製剤とする方法、アデノウイルス、センダイウイルス、又は肝炎ウイルス等のキャプシド内に、上述するPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸を内包する方法、エマルションの連続水相又は油相内に溶解させる方法等が挙げられる。

【0057】
更に、治療を所望する癌細胞を特異的に認識する抗体を付与する工程を上述の方法に組みわせることでDDS製剤化することもできる。

【0058】
<上皮間葉転換を阻害する方法>
本発明の上皮間葉転換を阻害する方法は、上皮細胞にPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸を導入する工程を含む。

【0059】
斯かる核酸の導入はインビトロであってもインビボであってもよく特に限定はされない。

【0060】
上皮細胞及びPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸とは、<上皮間葉転換阻害剤>にて詳述した通りとすることができる。

【0061】
上皮細胞に核酸を導入する方法は、<上皮間葉転換阻害剤>にて詳述した方法を適宜改変して採用すればよい
上皮間葉転換が阻害されているかどうかを確認する方法は、<上皮間葉転換阻害剤>にて詳述した方法を適宜改変して採用すればよい。

【0062】
<癌の転移を予防及び/又は治療する方法>
本発明の癌の転移を予防及び/又は治療する方法は、転移癌に罹患する患者にPrdm16をコードする塩基配列を有する核酸の有効量を投与する工程を含む。

【0063】
「転移癌に罹患する患者」、「癌の転移を治療する」、「癌の転移を予防する」及び「Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸」とは、<医薬組成物>にて詳述した通りとすることができる。

【0064】
有効量とは、<医薬組成物>にて説明する、Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸に換算した投与量と同様にすることができる。

【0065】
Prdm16をコードする塩基配列を有する核酸の有効量を投与する方法等は、<医薬組成物>にて説明した通りとすることができる。
【実施例】
【0066】
以下に、本発明をより詳細に説明するための実施例を示す。なお、本発明が下記に示す実施例に限定されないのは言うまでもない。
【実施例】
【0067】
〔TGFβによるEMTの誘導〕
理研BRC より入手した上皮細胞である胃腺癌由来細胞(MKN7細胞及びMKN45細胞)を培養し、終濃度が10ng/mLとなるようにTGFβ(R&Dシステム社:品番240-B-002)を培地に添加して、6日間培養した。コントロールとしてTGFβを添加せずに同様に培養を行った。
【実施例】
【0068】
6日間培養後のMKN7細胞及びMKN45細胞の形態を、顕微鏡にて観察した。結果を図1に示す。また、6時間培養後のMKN7細胞及びMKN45細胞中の総RNAを回収して、これを鋳型に逆転写した後に、定量PCR法に供してE-カドヘリンのmRNA量を測定した。その結果を図2に示す。
【実施例】
【0069】
図1に示す結果から、TGFβを添加したMKN7細胞及びMKN45細胞(図中のTGF-β(+))では、細胞間の間隙が明瞭に現れており、間葉系細胞としての形質が確認されたものの、予めPrdm16遺伝子を導入したNMuMG細胞(図中のTGFbeta+Prdm16)では細胞間が密に接着した形質が確認され、間葉系細胞にて見られる形質は確認されなかった。この結果から、Prdm16は上皮細胞から間葉細胞への転換を阻害する作用を有していることが明らかとなった。
【実施例】
【0070】
また、図2に示す結果から、TGFβで刺激されたNMuMG細胞中のE-カドヘリンの発現量(図中のTGFbeta)が、無処理の陰性対象(図中のControl)と比較して顕著に減少することが明らかに見てとれるのに対し、予めPrdm16遺伝子が導入されたNMuMG細胞(図中のTGFbeta+Prdm16)では、TGFβ刺激によるE-カドヘリンの発現量の減少が、少なくなっていることが明らかとなった。
【実施例】
【0071】
E-カドヘリンは、細胞間の接着因子として知られ、この発現量が少なくなることを指標にEMTが生じていると判断される。
【実施例】
【0072】
〔Prdm16による効果〕
理研BRCより入手した上皮細胞であるマウス乳腺由来細胞(NMuMG細胞)をポリブレン処理に供し、続いて配列番号1に示す塩基配列を有する核酸(Prdm16をコードする遺伝子)を、セルバイオラボ社のPlatinum-E Packaging Cell Line(品番:RV-101)及びpMXs-miRNA-GFP/Pur Retroviral Vector(品番RTV-017)を用いたウイルス感染法によってNMuMG細胞に導入した。
【実施例】
【0073】
核酸導入後のNMuMG細胞を、10%FBS含有DMEM培地にて48時間培養し、終濃度が10ng/mLとなるようにTGFβ(R&Dシステム社:品番240-B-002)を培地に添加して、更に24時間培養を続けた。コントロールとして、TGFβを添加せず同様の培養を行った。
【実施例】
【0074】
24時間培養後のNMuMG細胞の形態を、顕微鏡にて観察した。結果を図3に示す。また、24時間培養後のNMuMG細胞中の総RNAを回収して、これを鋳型に逆転写した後に、定量PCR法に供してE-カドヘリンのmRNA量を測定した。その結果を図4に示す。
【実施例】
【0075】
図3に示す結果から、TGFβを添加したNMuMG細胞(図中のTGFbeta)では、細胞間の間隙が明瞭に現れており、間葉系細胞としての形質が確認されたものの、予めPrdm16遺伝子を導入したNMuMG細胞(図中のTGFbeta+Prdm16)では細胞間が密に接着した形質が確認され、間葉系細胞にて見られる形質は確認されなかった。この結果から、Prdm16は上皮細胞から間葉細胞への転換を阻害する作用を有していることが明らかとなった。
【実施例】
【0076】
また、図4に示す結果から、TGFβで刺激されたNMuMG細胞中のE-カドヘリンの発現量(図中のTGFbeta)が、無処理の陰性対象(図中のControl)と比較して顕著に減少していることが明らかに見てとれるのに対し、予めPrdm16遺伝子が導入されたNMuMG細胞(図中のTGFbeta+Prdm16)では、TGFβ刺激によるE-カドヘリンの発現量の減少が、少なくなっていることが明らかとなった。
【実施例】
【0077】
上述のように、E-カドヘリンの発現量が少なくなることを指標にEMTが生じていると判断されるので、Prdm16はTGFβ刺激によって誘導されるEMTを阻害する作用を発揮することが明らかとなった。
【実施例】
【0078】
なお、図4に示す結果から、予めPrdm16遺伝子が導入され、TGFβによる処理を行わなかったNMuMG細胞(図中のTGFbeta)では無処理の陰性対象よりもE-カドヘリンの発現量が増加していることが明らかである。このことから、Prdm16はTGFβのシグナル抑制因子であることが示唆される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3