TOP > 国内特許検索 > 植物のDNA倍加誘導法 > 明細書

明細書 :植物のDNA倍加誘導法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-011552 (P2018-011552A)
公開日 平成30年1月25日(2018.1.25)
発明の名称または考案の名称 植物のDNA倍加誘導法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2018.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 1/00 A
A01H 5/00 A
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2016-143238 (P2016-143238)
出願日 平成28年7月21日(2016.7.21)
発明者または考案者 【氏名】伊藤 正樹
【氏名】栂根 美佳
【氏名】梅田 正明
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2B030
Fターム 2B030AA02
2B030AB03
2B030AD07
2B030AD20
2B030CA14
要約 【課題】DNA倍加を起こさない植物において、DNA倍加を誘導する方法及びDNA倍加を誘導させて植物の器官の大きさを増大させる方法を提供する。
【解決手段】植物においてCYCA2遺伝子の発現を抑制することによってDNA倍加を誘導する方法、植物においてCYCA2遺伝子の発現を抑制することによって植物の器官の大きさを増大させる方法、CYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸を植物において発現させる工程を含むDNA倍加を誘導する方法、及びCYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸を植物において発現させる工程を含む植物の器官の大きさを増大させる方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
植物においてCYCA2遺伝子の発現を抑制することによってDNA倍加を誘導する方法。
【請求項2】
植物においてCYCA2遺伝子の発現を抑制することによって植物の器官の大きさを増大させる方法。
【請求項3】
CYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸を植物において発現させる工程を含む、DNA倍加を誘導する方法。
【請求項4】
CYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸を植物において発現させる工程を含む、植物の器官の大きさを増大させる方法。
【請求項5】
CYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸が導入されたトランスジェニック植物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA倍加を誘導する方法、及び植物の器官の大きさを増大させる方法に関する。さらに、本発明は、トランスジェニック植物に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の植物はゲノムを2セット持つ2倍体の状態であるが、ゲノムが重複して3倍体又は4倍体になることがある。このようなゲノムの重複、すなわち倍数化は自然環境下でも生じるが、コルヒチンなどの薬品処理、温度処理などの物理的な刺激を与えることなどにより高頻度で誘導することができる。倍数化すると一般に細胞のサイズが増加することが知られている。また、倍数化により果実及び種子(例えば、イチゴ、ナシ、イチジク、ブドウ、セイヨウナシなど)のサイズを拡大させることも可能であり、倍数体育種としてこれまでにも広く利用されている。
【0003】
しかしながら、4倍体、8倍体などの従来の倍数体植物は、個体全体の細胞においてゲノムが倍加するため、晩成化(生育遅延)、稔実率の低下などのデメリットも併せ持つことが知られている。また、8倍体以上の高度な倍加は細胞分裂を阻害する結果、逆に生育を阻害してしまうなどの問題が存在する。一方、多くの植物では、個体全体ではなく、一部の体細胞のDNA倍数性が増加する現象(DNA倍加)が知られている。このような植物では、細胞サイズの増加を引き起こし、自らの成長を促進するための戦略としてDNA倍加を起こしているのではないかと考えられている。
【0004】
このように、倍数体は個体全体の細胞でゲノムが倍加しているのに対して、DNA倍加は一部の体細胞でのみゲノムが倍加する(非特許文献1)。例えば、シロイヌナズナの葉の表皮細胞は、2倍体細胞の他に、その2倍、4倍、8倍のDNA量をもつ細胞が混在した形になっている。DNA倍加では細胞分裂を経ずにDNA複製を繰り返す。すなわち、DNA倍加はM期をスキップした特殊な細胞周期G1期→S期→G2期→(M期)→G1期が原因となり生じることが知られている。
【0005】
DNA倍加は、特定の器官だけサイズを拡大できる可能性があるほか、分裂を停止した細胞で起きるため分裂を阻害することによる器官サイズへの負の効果がないなど、倍数体育種と比べて有利な点が存在する。しかしながら、被子植物の70%はDNA倍加を行っているが、イネ及び樹木をはじめ、特殊な組織を除きDNA倍加を起こさない植物も多く存在している。
【0006】
非特許文献2では、シロイヌナズナにおいて、A2-type cyclinであるCYCA2遺伝子が変異するとDNA倍加が促進することが報告されている。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Molecular control and function of endoreplication in development and physiology. De Veylder L, Larkin JC, Schnittger A. Trends Plant Sci. 2011 Nov;16(11):624-34.
【非特許文献2】Developmental regulation of CYCA2s contributes to tissue-specific proliferation in Arabidopsis. Vanneste S, Coppens F, Lee E, Donner TJ, Xie Z, Van Isterdael G, Dhondt S, De Winter F, De Rybel B, Vuylsteke M, De Veylder L, Friml J, Inze D, Grotewold E, Scarpella E, Sack F, Beemster GT, Beeckman T. EMBO J. 2011 Jul 19;30(16):3430-41.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、DNA倍加は植物の成長のために利用されているが、イネなどのDNA倍加を起こさない植物も多く存在することが知られている。
【0009】
本発明は、DNA倍加を起こさない植物において、DNA倍加を誘導する方法及びDNA倍加を誘導させて植物の器官の大きさを増大させる方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、DNA倍加を起こさない植物において、DNA倍加を誘導する核酸が導入されたトランスジェニック植物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、イネの変異体の中からDNA倍加を起こす変異体を選抜し、当該イネのDNA倍加変異体よりDNA倍加を引き起こす原因遺伝子の単離に成功し、原因遺伝子がCYCA2遺伝子であるという知見を得た。
【0011】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のDNA倍加を誘導する方法、植物の器官の大きさを増大させる方法、及びトランスジェニック植物を提供するものである。
【0012】
項1.植物においてCYCA2遺伝子の発現を抑制することによってDNA倍加を誘導する方法。
項2.植物においてCYCA2遺伝子の発現を抑制することによって植物の器官の大きさを増大させる方法。
項3.CYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸を植物において発現させる工程を含む、DNA倍加を誘導する方法。
項4.CYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸を植物において発現させる工程を含む、植物の器官の大きさを増大させる方法。
項5.CYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸が導入されたトランスジェニック植物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、通常はDNA倍加を起こさない植物にDNA倍加を誘導することができる。また、DNA倍加を起こす植物の倍加を更に促進することが可能となる。植物の特定の器官でDNA倍加を誘導することで、植物の特定の器官の大きさのみを増大させることが可能となる。
【0014】
本発明で誘導するDNA倍加は、従来の倍数体育種と異なり、分裂を停止した細胞で起きるので分裂を阻害したり、逆に器官サイズを小さくするなどの問題が存在しない。
【0015】
CYCA2遺伝子は高等植物で広く保存されているため、本発明は、果樹、樹木などを始め広範囲の植物への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】フローサイトメーターによるイネの倍加変異体の核相の測定結果を示す図である。
【図2】2種類の倍加変異体におけるCYCA2遺伝子の変異箇所を示す図である。
【図3】野生型及び2種類の倍加変異体におけるCYCA2遺伝子のcDNAのアガロースゲル電気泳動の結果を示す写真である。
【図4】野生型及び2種類の倍加変異体におけるCYCA2遺伝子にコードされることが予測されるタンパク質の構造を示す図である。
【図5】フローサイトメーターによるcyca2変異体の各部位における核相の測定結果を示す図である。
【図6】野生型及び2種類のcyca2変異体における第二節間の横断面を示す顕微鏡写真である。
【図7】野生型及びcyca2変異体における葉肉細胞の形態と細胞核の形態を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。

【0018】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「からなる(consist of)」という意味をも包含する。

【0019】
本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、2本鎖DNA、1本鎖DNA(センス鎖又はアンチセンス鎖)、及びそれらの断片が含まれる。また、本発明において「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。

【0020】
また、本発明において、「核酸」、「ヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は同義であって、これらはDNA及びRNAの両方を含み、2本鎖であっても1本鎖であってもよい。

【0021】
本発明のDNA倍加を誘導する方法又は植物の器官の大きさを増大させる方法は、植物においてCYCA2遺伝子の発現を抑制することを特徴とする。

【0022】
本発明のDNA倍加を誘導する方法又は植物の器官の大きさを増大させる方法はまた、CYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸を植物において発現させる工程を含むことを特徴とする。

【0023】
また、本発明のトランスジェニック植物は、CYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸が導入されていることを特徴とする。

【0024】
DNA倍加(核内倍加)とは、細胞当たりの染色体組の数が、種固有の数より増加する現象をいう。例えば、通常2倍体である植物であれば、その2倍、4倍、8倍のように染色体組を倍々に増加させる現象のこという。通常、DNA倍加においては染色体組の数は整数倍である。DNA倍加は植物体内の一部の細胞のみで染色体組の数が増加する現象を意味し、個体全体の細胞で染色体組の数が増加する倍数体とは明確に相違する。

【0025】
CYCA2 (cyclin A2)は、A2タイプのサイクリンであり、CDK (サイクリン依存性キナーゼ)と結合してG2期からM期への移行を調節する。APC (anaphase promoting complex)によりCYCA2のタンパク質分解が誘導される。CYCA2遺伝子は高等植物で広く保存されている遺伝子であり、通常DNA倍加を起こさない植物においてCYCA2遺伝子の発現を抑制することで、DNA倍加を起こすことが可能となる。実施例においてはイネのCYCA2遺伝子が変異することで、DNA倍加を起こすことが示されているが、イネ以外の植物においてもCYCA2遺伝子の発現を抑制することでDNA倍加を起こすことができると予想される。このように、通常DNA倍加を起こさない植物において特定の遺伝子の発現を抑制することでDNA倍加を起こすことができることは予想外のことであり、本発明者らによって初めて発見された。

【0026】
各植物におけるCYCA2遺伝子の塩基配列の情報は、公共の遺伝子データベース(例えば、GeneBank等)から容易に取得することが可能であり、CYCA2遺伝子及びゲノムの情報がデータベースに登録されていない植物の場合は、常法(例えば、対象となる植物のCYCA2遺伝子のクローニング及びシークエンシング)によりCYCA2遺伝子の塩基配列の情報を取得することが可能である。

【0027】
CYCA2遺伝子の一例として、イネのCYCA2遺伝子の塩基配列は、RefSeq Accession No. XM_015763405、XM_015763406、XM_015763407、XM_015763408として、アミノ酸配列は、RefSeq Accession No.XP_015618891、XP_015618892、XP_015618893、XP_015618894としてNCBIのweb siteに登録されている。

【0028】
植物においてCYCA2遺伝子の発現を抑制する方法は、本発明の効果が得られる限り特に限定されず、例えば、(1)植物内でCYCA2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNAを発現させる方法、(2)植物内でCYCA2遺伝子の転写産物又はその一部に対するアンチセンス核酸を発現させる方法、(3)植物内でCYCA2遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸を発現させる方法、(4)植物内でCYCA2遺伝子に対するmiRNAを発現させる方法などが挙げられ、これらの方法によりCYCA2タンパク質への翻訳が阻害される。また、CYCA2遺伝子の発現を抑制する物質としても、上記と同様に、(1)CYCA2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA、(2)CYCA2遺伝子の転写産物又はその一部に対するアンチセンス核酸、(3)CYCA2遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有する核酸、(4)CYCA2遺伝子に対するmiRNAなどが挙げられる。

【0029】
(1)RNAi効果を有する二本鎖RNA
RNAi (RNA interference、RNA干渉)とは、標的遺伝子のmRNA配列と同一の配列からなるセンスRNA及びこれと相補的な配列からなるアンチセンスRNAからなる二本鎖RNAを細胞内に導入することにより、標的遺伝子のmRNAの破壊、タンパク質への翻訳阻害を誘導し、標的遺伝子の発現が阻害される現象をいう。RNAi機構の詳細については未だに不明な部分もあるが、DICERといわれる酵素(RNase III核酸分解酵素ファミリーの一種)が二本鎖RNAと接触し、二本鎖RNAがsmall interfering RNA (siRNA)と呼ばれる小さな断片に分解されるのが主な機構と考えられている。本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAには、当該siRNAも含まれる。

【0030】
なお、本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAには、二本鎖RNAの一方の端が閉じられた構造の分子、例えば、ヘアピン構造を有するsiRNA(shRNA)も含まれる。すなわち、上記RNAには、分子内において二本鎖RNA構造を形成し得る分子も含まれる。

【0031】
本発明においてRNAiのために使用されるRNAは、CYCA2遺伝子又は当該遺伝子の部分領域と完全に同一である必要はないが、完全な同一性を有することが好ましい。

【0032】
本発明のRNAi効果を有する二本鎖RNAは、通常、CYCA2遺伝子のmRNAにおける連続する任意のRNA領域と同一の配列からなるセンスRNA、及び当該センスRNAに相補的な配列からなるアンチセンスRNAからなる二本鎖RNAである。上記「連続する任意のRNA領域」の長さは、通常20~30塩基であり、好ましくは21~23塩基である。しかしながら、そのままの長さではRNAi効果を有さないような長鎖のRNAであっても、細胞内でRNAi効果を有するsiRNAへ分解され得るので、本発明における二本鎖RNAの長さは特に制限されない。また、CYCA2遺伝子のmRNAの全長又はほぼ全長の領域に対応する長鎖二本鎖RNAを、例えば、予めDICERで分解させ、その分解産物を本発明の二本鎖RNAとして利用することもできる。この分解産物には、RNAi効果を有する二本鎖RNA分子(siRNA)が含まれ得る。

【0033】
また、通常、末端に数塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNAは、RNAi効果が高いことが知られているため、本発明の二本鎖RNAは、末端に数塩基のオーバーハングを有することが望ましい。このオーバーハングを形成する塩基の長さは特に制限されないが、好ましくは2塩基のオーバーハングである。本発明において、例えば、UU(ウラシル×2)等のオーバーハングを有する二本鎖RNAを用いることができる。

【0034】
本発明における「CYCA2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖RNA」は、当該二本鎖RNAの標的となるCYCA2遺伝子の塩基配列の情報を基に設計することが可能である。例えば、CYCA2遺伝子の塩基配列の情報を基に、当該配列の転写産物であるmRNAの任意の連続するRNA領域を選択し、この領域に対応する二本鎖RNAを設計する。

【0035】
本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAは、細胞内で当該二本鎖RNAを発現し得るポリヌクレオチドを利用したものである。このような二本鎖RNAを発現し得るポリヌクレオチドは、通常、当該二本鎖RNAの一方の鎖をコードする核酸、及び当該二本鎖RNAの他方の鎖をコードする核酸が、それぞれ独立又は連続して発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するポリヌクレオチドである。上記ポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法により、容易に製造することができる。上記ポリヌクレオチドとしては、例えば、本発明におけるRNAi効果を有する二本鎖RNAをコードするポリヌクレオチドを公知の発現ベクターへ挿入することによって得られる発現ベクターを挙げることができる。

【0036】
(2)アンチセンス核酸
アンチセンス核酸とは、標的とする遺伝子配列に対して相補的であって、ある特定の遺伝子の発現を抑制する核酸を意味する。

【0037】
本発明の一つの態様として、CYCA2遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計することで、遺伝子の翻訳阻害に効果的であり得る。また、コード領域又は3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することも可能である。このように、CYCA2遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含む核酸も、本発明におけるアンチセンス核酸に含まれ得る。アンチセンス核酸の配列は、標的遺伝子又はその一部と相補的な配列であることが望ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限り、完全に相補的である必要はなく、標的遺伝子の転写産物に対して、好ましくは90%以上の相補性、より好ましくは95%以上の相補性を有していればよい。アンチセンス核酸を用いて標的遺伝子の発現を効果的に抑制するため、アンチセンス核酸の長さは15塩基以上が好ましい。さらに、非特異的な影響を回避するため標的遺伝子の異なる配列に相補的な複数のアンチセンス核酸を用いるのが好ましい。

【0038】
本発明におけるアンチセンス核酸は、細胞内で当該アンチセンス核酸を発現し得るポリヌクレオチドを利用したものである。当該ポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法により、容易に製造することができる。当該ポリヌクレオチドとしては、例えば、本発明におけるアンチセンス核酸をコードする核酸を公知の発現ベクターへ挿入することによって得られる発現ベクターを挙げることができる。

【0039】
(3)リボザイム活性を有する核酸
リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を意味し、リボザイムには種々の活性を有するものが存在する。CYCA2遺伝子のmRNAを部位特異的に切断するリボザイムを設計することは公知の方法により可能である。

【0040】
上記リボザイム活性を有する核酸としては、当該リボザイム活性を有する核酸を発現し得るポリヌクレオチドを利用したものである。上記ポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法により、容易に製造することができる。上記ポリヌクレオチドとしては、例えば、本発明におけるリボザイム活性を有する核酸をコードする核酸を公知の発現ベクターへ挿入することによって得られる発現ベクターを挙げることができる。

【0041】
(4)CYCA2遺伝子に対するmiRNA
miRNA (マイクロRNA (microRNA))は、標的mRNAの分解又は翻訳抑制を行うRNAを意味する。本発明におけるmiRNAには、pri-miRNA (primary-miRNA)、pre-miRNA、amiRNA (人工miRNA)なども包含される。CYCA2遺伝子に対するmiRNAを設計することは公知の方法により可能である。

【0042】
上記miRNAとしては、当該miRNAを発現し得るポリヌクレオチドを利用したものである。上記ポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法により、容易に製造することができる。上記ポリヌクレオチドとしては、例えば、本発明におけるmiRNAをコードする核酸を公知の発現ベクターへ挿入することによって得られる発現ベクターを挙げることができる。

【0043】
上記の(1)RNAi効果を有する二本鎖RNA、(2)アンチセンス核酸、(3)リボザイム活性を有する核酸、又は(4)miRNAをコードする核酸を含む発現ベクターを用いて植物を形質転換することで、当該核酸が導入されたトランスジェニック植物を得ることができる。当該発現ベクターとしては、植物内で上記核酸を発現することができる物である限り特に制限されず、公知の発現ベクターを広く使用することができる。発現ベクターとしては、上記核酸を導入する植物の種類等を考慮し、適切な発現ベクターを適宜選択すればよい。発現ベクターは、上記核酸以外にも、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、ポリアデニル化シグナル、選択マーカー、複製起点などを含有し得る。発現ベクターは、自立的に複製するベクター、及び宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるもののいずれも使用することができる。上記核酸は、公知の方法により発現ベクターに挿入することができる。

【0044】
プロモーターとしては、特定の器官又は時期にCYCA2遺伝子の発現を抑制できるように、組織特異的に発現を誘導するプロモーター及び外的ストレス(例えば、糸状菌、細菌、ウイルスの感染又は侵入、低温、高温、乾燥、紫外線の照射、特定の化合物の散布など)により発現を誘導するプロモーターの中から適切なものを使用することが望ましい。

【0045】
発現ベクターの構築、及び当該発現ベクターの細胞への導入法は周知であり、例えば、Sambrook and Russell, Molecular Cloning, A Laboratory Manual 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)等の記載を参考にして実施することができる。

【0046】
本発明のCYCA2遺伝子の発現を抑制する物質をコードする核酸が導入されたトランスジェニック植物の作製は、上記発現ベクターを利用することにより行うことができる。宿主植物への発現ベクターの導入は、エレクトロポーレーション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、マイクロインジェクション等の公知の方法により行うことができる。発現ベクターを利用して形質転換された植物細胞を再分化させることで植物体が得ることができるが、再分化は植物の種類に応じた公知の手法を利用して行うことができる。

【0047】
また、本発明のトランスジェニック植物には、発現ベクターにより形質転換された植物体に加えて、当該植物体の子孫又はクローン、これらの繁殖材料(例えば、種子、果実など)なども含まれる。

【0048】
本発明のDNA倍加を誘導する方法、及び植物の器官の大きさを増大させる方法を適用する植物、並びに本発明のトランスジェニック植物の宿主植物としては以下の植物を挙げることができ、通常、DNA倍加を起こさない植物が好適である。
(穀物)イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ、ダイズ、ラッカセイ、ソバ、テンサイ、エンドウ、インゲンマメ、アズキ、ソラマメ、サトウキビ、サツマイモなど
(野菜)ナス、トマト、ジャガイモ、キュウリ、カボチャ、ダイコン、キャベツ、ネギ、タマネギ、ニンジン、スイカ、メロン、イチゴなど
(果樹)リンゴ、ナシ、セイヨウナシ、モモ、ウンシュウミカン、オレンジ、レモン、ブドウ、カキ、バナナなど
(樹木)スギ、ヒノキ、サクラ、ユーカリ、イチョウ、カエデ、カシ、マツ、ポプラなど

【0049】
中でも、DNA倍加を起こさない植物としては、例えば、イネ、ニンジン、ダイズ、リンゴ、ナシ、バナナ、ポプラなどが挙げられる。

【0050】
本発明により増大させる植物の器官としては、葉、樹皮、茎、幹、葉、果実、種子、花、根などが挙げられる。

【0051】
本発明では、植物においてCYCA2遺伝子の発現を抑制することで、通常はDNA倍加を起こさない植物にDNA倍加を誘導することが可能となる。また、DNA倍加を起こす植物の倍加を更に促進することが可能となる。特定の器官でCYCA2遺伝子の発現を抑制することで、植物の特定の器官でDNA倍加を誘導させて、特定の器官の大きさのみを増大させることが可能となる。

【0052】
DNA倍加は従来の倍数体育種と異なり、分裂を停止した細胞で起こすことができるので、分裂を阻害したり、逆に器官サイズを小さくする等の問題が生じない。

【0053】
CYCA2遺伝子は高等植物で広く保存されているため、本発明は、果樹、樹木などを始め広範囲の植物への応用が期待される。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
<イネDNA倍加体の選抜>
屋外で栽培が可能なイネの変異体種子を複数の機関から得て、表1に記載の計12,567の種子を水耕栽培した。発芽したイネの第3葉にCyStain UV Precise P (PARTEC)を添加し、カミソリを用いて葉をチョッピングすることによって核を抽出した。30μmメッシュフィルター(PARTEC)を通した抽出液をフローサイトメーター(PARTEC, PA型)に供し、核相を測定した。そして、2Cに加えて4Cのピークを示した9個体を倍加変異体として単離した(表1)。ひとめぼれ系統から得た2つの変異体は他の変異体と比べて顕著な4Cピークを示した(図1)。
【実施例】
【0056】
【表1】
JP2018011552A_000002t.gif
【実施例】
【0057】
<DNA倍加変異体の責任遺伝子の同定>
ひとめぼれ系統より得た2個体の変異体をそれぞれインド型イネ品種カサラスと交配し、得られた交雑F2世代の植物からDNA倍加を示す個体を選抜した。野生型ひとめぼれと、それぞれのF2変異体個体(各17個体、15個体)においてCYCA2遺伝子の転写産物の確認のために、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて発芽後4日目の植物からRNAを抽出し、PrimeScript RT reagent Kit with gDNA Eraser (タカラバイオ株式会社)によってcDNAを作製した。プライマーにはOligo dT Primerを使用した。cDNAを鋳型として、特異的プライマー5'-GGCTCACATGGCTGGAAGGA-3' (配列番号1)及び5'-GCCTTTGTCAGCTGAAGAGTG-3' (配列番号2)とTakara Ex-Taq HS (タカラバイオ株式会社)を用いて、98℃-2分、(98℃-10秒、60℃-30秒、72℃-90秒)30サイクル、72℃-5分の条件でPCR反応を行った。
【実施例】
【0058】
電気泳動した増幅産物はゲルから切り出した後にWizard SV Gel and PCR Clean-Up System (プロメガ株式会社)で精製し、pGEM-T Easy Vector System Iを用いてクローニングした。形質転換により大腸菌内で増やしたプラスミドはWizard Plus SV Minipreps DNA Purification Systems (プロメガ株式会社)で抽出し、各PCRフラグメントに対して2クローンを選抜してシーケンス解析(Genome Analyzer IIx System, Illumina)を行った。
【実施例】
【0059】
その結果、両変異体ではCYCA2遺伝子の異なる部位に点変異が生じており、うち1変異体では点変異により転写産物のタンパク質コード領域にナンセンス変異が起きていた(図2)。また、もう一方の変異体ではスプライス部位の点変異により、第10イントロンのスプライシング異常が起きていた(図3)。両変異体の表現型は類似しており、変異遺伝子にコードされるアミノ酸配列はどちらもC末領域が欠損していることが予測された(図4)。
【実施例】
【0060】
<イネcyca2変異体>
cyca2変異体の各器官の核相測定を前述の手法と同様に行った。DNA倍加はcyca2変異体の葉、根などほとんどの組織で見られるが、その比率は低位の葉で高く、止葉ではほとんど検出することができないなど、組織によりDNA倍加の程度は異なっていた(図5)。
【実施例】
【0061】
野生型及び変異体イネを屋外の圃場にて栽培し、複数の項目について形態的特徴を測定した。分げつ数の測定には各16個体以上を、一次枝梗数の測定には各5個体の主稈を用いた。稈の太さは第二節間の中央部断面を蛍光顕微鏡(OLYMPUS BX51)で撮影後に(励起波長/蛍光波長、372 nm/456 nm)、フリーソフトImageJにて画像解析することによって測定した。cyca2変異体には分げつ数及び一次枝梗数の増加が認められ、また稈がやや太いという特徴があった(図6)。
【実施例】
【0062】
葉肉細胞及びその核の観察をTOMEI法により行った(Three-dimensional imaging of plant organs using simple and rapid transparency technique. Hasegawa J, Sakamomto Y, Nakagami S, Aida M, Sawa S, Matsunaga S. Plant Cell Physiol. 2016 Mar;57(3):462-72.)。cyca2変異体の葉及び根の細胞サイズは野生型イネに比べて著しく大きく、特に葉肉細胞の肥大が顕著であった(図7)。しかし、同時に花などの器官を構成する細胞の数の減少により、葉身などの器官サイズの増大はもたらされていなかった。また、種子稔性は野生型植物と比べて低下していた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6