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明細書 :混合粘性蓄熱体およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6703734号 (P6703734)
公開番号 特開2017-206571 (P2017-206571A)
登録日 令和2年5月13日(2020.5.13)
発行日 令和2年6月3日(2020.6.3)
公開日 平成29年11月24日(2017.11.24)
発明の名称または考案の名称 混合粘性蓄熱体およびその製造方法
国際特許分類 C09K   5/06        (2006.01)
B01J  13/18        (2006.01)
FI C09K 5/06 E
B01J 13/18
請求項の数または発明の数 6
全頁数 28
出願番号 特願2016-097527 (P2016-097527)
出願日 平成28年5月16日(2016.5.16)
審査請求日 平成31年3月26日(2019.3.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
発明者または考案者 【氏名】藤 正督
【氏名】高井 千加
審査官 【審査官】中野 孝一
参考文献・文献 特開2001-226667(JP,A)
特開昭62-025640(JP,A)
米国特許出願公開第2014/0197355(US,A1)
特開平07-026251(JP,A)
特開2007-136291(JP,A)
J.Phys.Chem.C,2011年,115,20061-20066
調査した分野 C09K5/00-5/20、
F28D17/00-21/00、
B01J13/02-13/22、
C01B33/00-33/193、
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ポリマーと無機塩との混合粘性蓄熱体において、
ポリマー水溶液と、ポリマー/硫酸ナトリウム水溶液と水溶性界面活性剤とを水相とし、オクタノールと増粘剤とを油相とし、
前記無機塩であるオルトケイ酸テトラエチルを滴下させることにより、シリカシェル内部に硫酸ナトリウムが形成されたことを特徴とする混合粘性蓄熱体。
【請求項2】
前記粘性蓄熱体を、3-10wt%の硫酸ナトリウム水溶液中にて、4~6μmにマイクロカプセル化したことを特徴とする請求項1記載の混合粘性蓄熱体。
【請求項3】
水相をポリエチレングリコールと硫酸ナトリウム10水和物の組み合わせとしたことを特徴とする請求項1または請求項2記載の混合粘性蓄熱体。
【請求項4】
ポリマーと無機塩との混合粘性蓄熱体において、
ポリマー水溶液と、ポリマー/硫酸ナトリウム水溶液と水溶性界面活性剤とを水相とし、オクタノールと増粘剤とを油相とし、前記無機塩であるオルトケイ酸テトラエチルを滴下し、撹拌、合成することにより、シリカシェル内部に硫酸ナトリウムを形成させたことを特徴とする混合粘性蓄熱体の製造方法。
【請求項5】
前記粘性蓄熱体を、3-10wt%の硫酸ナトリウム水溶液中にて、4~6μmにマイクロカプセル化したことを特徴とする請求項4記載の混合粘性蓄熱体の製造方法。
【請求項6】
水相をポリエチレングリコールと硫酸ナトリウム10水和物の組み合わせとしたことを特徴とする請求項4または請求項5記載の混合粘性蓄熱体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、混合粘性蓄熱体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄熱とは入出力方法が熱エネルギー形態の貯蔵方法である。熱エネルギーは最も多く使われているエネルギー形態であり、これを蓄える技術の発展によりエネルギー全体の有効利用に大きく寄与すると考えられる。
近年、電力需要拡大や地球温暖化、化石燃料枯渇問題などの影響によりエネルギー利用の高効率化が注目されるなかで蓄熱材料の重要性も高まっている。例えば工場の廃熱利用や、衣料、建材へ応用することにより省エネルギー化やエネルギーの利用効率の向上など幅広い分野において応用が期待されている。
蓄熱方法はその貯蔵する熱エネルギー形態により顕熱蓄熱法、化学蓄熱法そして潜熱蓄熱法と三つに大別することが出来る。顕熱蓄熱法は蓄熱材の熱容量を利用し熱を貯蔵する手法である。蓄熱原理がシンプルであり、技術的な課題も少なく水、煉瓦、コンクリートなどがよく用いられており、広い温度範囲で安定して熱を蓄えることが出来るという利点を持つ。特に水蓄熱技術の開発は空調設備の設計を通じて様々な応用研究がなされている。
一方で単位面積当たりの熱貯蔵量が少なく、大きな蓄熱槽が必要であること、使用温度以上の高温で蓄熱しなければならず、熱損失が大きいという課題がある。
化学蓄熱法は化学反応を利用し熱エネルギーを化学エネルギーとして貯蔵する方法である。熱を放出する際には、逆反応を起こし貯蔵した化学エネルギーを熱エネルギーとして回収する。化学蓄熱は熱貯蔵密度が大きく、熱損失が少ないために常温で長時間熱を貯蔵できるという長所がある。また、反応系の適切な選択により広い温度範囲で利用することが可能である。しかし、不均一反応系が多いために安定性が低く、長期的に持続できる蓄熱システムの構築に大きな課題がある。
潜熱蓄熱は、一般的に物質の固体・液体間の相変化において発生する潜熱を利用して蓄熱する方法である。比較的高い熱交換ができ、単位体積当たりの蓄熱容量は大きく顕熱蓄熱法などと比較して装置体積や質量を大きく減らす事ができるという利点を持つ。また、潜熱蓄熱に用いられる物質にはパラフィンなどの有機系材料と無機水和物系材料に大別され、利用したい温度域により適切な材料を選択する必要がある。
このように蓄熱システム毎に長所、短所があり、使用法や場所、予算など目的に応じたシステムの選択が重要である。
【0003】
潜熱蓄熱は前述の通り、他の方法と比べて高い蓄熱密度を持ち、装置のコンパクト化が可能であるため注目を集めている。なかでも氷蓄熱は冷房用として発展を遂げている。また、太陽熱利用発電、冷暖房給湯用など多くの用途に潜熱蓄熱技術が研究開発されていると共に将来性を嘱望されている。一方で多くの工学的課題を持つ技術でもある。
図45に潜熱蓄熱法の基本的概念図を示した。潜熱蓄熱法において蓄熱過程で、熱源より供給される温度Tの熱媒体を蓄熱材に接して流して蓄熱材側に熱を与え、固相を融解させる。この時Tは潜熱蓄熱材(以下「PCM」という。)の融解温度Tより高温とする。融解後は固相時より潜熱分だけ熱を蓄えた事になる。放熱過程では、温度T(<T)熱媒体を流して蓄熱材から熱を放出させて凝固を起こし、出した熱エネルギーを利用する。以上をサイクル的に行う事で熱利用を可能にする。
潜熱蓄熱の長所は、1)蓄熱密度が大きく蓄熱槽容積をコンパクトに出来る、2)温度がほぼ一定の熱の出し入れが可能である、3)大規模になるほど経済性が高くなる、等が挙げられる。一方短所は、1)温度範囲が限定される、2)蓄熱材と熱媒体を別にする必要があり、熱交換プロセスが必要である、3)蓄熱材には毒性や環境安全性で問題になるものも多い、4)技術的課題が比較的多い、などが挙げられる。
【0004】
蓄熱槽でPCMを用いる研究は1947年にTelkes Mによって始まった。従来における潜熱蓄熱システムにおける研究としては、融解潜熱が大きく熱理学的な性質が蓄熱媒体として優れている無機塩の水和結晶や単位面積当たりの貯蔵能力に優れ融点範囲が広く、過冷却や相分離現象が起こり難いパラフィンなどの有機物を利用する潜熱蓄熱システムの基礎および応用研究が注目されている。例えば稲葉等は、低温潜熱物質としてテトラデカンを用い、水を連続相とするO/Wエマルジョンの熱的物性を測定し、エマルジョンの検討を行っている。その結果、エマルジョン中のテトラデカン油滴は過冷却現象を起こすことを明らかとした。F.L.Tan らの研究では、様々な形態の熱貯蔵システムの融解・凝固に関して検討されている。潜熱を貯蔵するためにn-octadecaneをカプセル内に充填し、そのカプセル内部における相変化とカプセルの対流現象を観察するため、実験的な結果やCFD(Computational fluid dynamics)プログラムで解析の結果と比較を行った。また、Tyagi等は無機系水和材料であるCaCl・6HOの過冷却挙動に関する研究を行い、pHを変化させることにより過冷却を減少させる事を明らかにした。
【0005】
上述のようにPCMの研究の基礎的な事から応用にかけて幅広い研究がなされている。理想的に考えれば、PCMは一定の相変化温度で融解・凝固するはずである。しかし実際には非可逆的挙動を示し、それらの性能低下を示す。このことがPCMを工学的に応用する際の大きな課題となっている。例えば、塩水和物などでは特に過冷却が問題となる。冷却をしても本来固化する温度よりも相当の過冷却温度で固化する。加えて、不純物や冷却速度によって、準安定域は異なってくるために定量的評価も難しい。対策として核生成剤などを付与するなどが挙げられるが、用いる材料により核生成剤も様々であり分析が必要となる。また、使用している間に固相と液相に分離してしまう相分離現象を起こしてしまう。他に 高温用蓄熱に使われる溶融塩は容器などへの腐食が大きく防蝕技術が必要なこと、相変化時の体積膨張が構造物に与える影響を避ける設計が必要であること、低熱伝導性などの課題が挙げられる。
【0006】
硫酸ナトリウム10水和物(NaSO・10HO)は代表的な無機水和物系材料であり、潜熱蓄熱材として知られる。NaSO・10HOは安価であり、潜熱量もおよそ240kJ/kgと比較的大きく、1940年代から多くの研究がなされてきた。また、人体に無害であり、その融点は32℃であるため生活環境においても使用し易いという利点がある。
純粋なNaSO・10HOは過冷却が大きく、融解凝固の過程で相分離を起こしNaSO・7HOを形成するため、蓄熱性能や安定性が低下する。図1に-40℃~80℃の温度範囲でのNaSO・10HOのDSC(示差走査熱量計)測定結果を示す。図1に示すように-40℃から昇温時には約32℃で融解時の吸熱に起因するピークが観察された。しかし一方で80℃からの降温時には結晶が凝固する際の放熱に起因するピークが3つに分裂した状態で観察された。このようなピークの分裂は相分離により目的となる10水和物以外の低次の水和物が形成されたためだと考えられる。このように相分離、過冷却状態により安定性の低下につながり、所望の温度で熱を取り出すことが難しくなってしまう。このように不均一状態で融解した蓄熱材がその融点以下になり過冷却状態になると融解していないNaSOは新しく生成したNaSO・10HOおよび水と3成分が準安定状態(meta-stable condition)を形成する。潜熱量はNaSO・10HOの生成量によって、直線的に増加するため蓄熱システムの性能を減少させる。こうした減少を解決するには、一般的には核形成剤を加え、各成長を促す必要がある。また増粘剤などを加えて系全体の粘度を増加させ、溶解したNaSO粒子の沈殿を防止することにより、平衡状態を保つことができ相分離を防止することができる。前述のように純粋なNaSO・10HOの初期潜熱量は約240kJ/kgである。しかし20~40回の測定後には約64kJ/kgまで減少する。9.3wt%の増粘剤を加えた系では、初期の潜熱量は純粋なものに比べて85%程度まで減少するが200回の測定後にも106kJ/kgという潜熱量を保つことが可能であり、その後はほぼ安定した値を示すという報告がある。
【0007】
また、近年相分離防止策の一つとして溶融体をミクロな構造に閉じ込めることで、その構造の中で溶融凝固させるような方法がとられるようになってきた。溶融体をミクロ構造内に閉じ込めることにより、吸熱時に高次の水和塩から低次の水和塩ができる際に放出される水分子が、水和塩の近隣に存在することになる。そのため放熱時に水和塩がこの水を容易に取り込むことが出来る。基本的な原理自体は増粘剤を加えることによる相分離防止策と同じである。こうしたミクロ構造を利用した相分離防止法の一つにマイクロカプセル化がある。
【0008】
マイクロカプセルはそれを球とみなしたとき、径がマイクロメートル領域にあるカプセルである。しかし製法が原理的に同じであるならば、径がミリメートルあるいはナノメートル領域にあるものもマイクロカプセルと呼んでいる。マイクロカプセルの役割として、芯物質あるいは核物質と呼ばれる中身を外部環境から保護することである。また、芯物質を外部に放出する速度を調節する機能なども持つ。このような機能からマイクロカプセルは幅広い分野に利用されている。製法原理は通常のそれと異なる。微小なマイクロカプセルを作るには芯物質を微粒子状にして適切な媒質中に分散し、次いで微粒子に膜をかぶせて被覆する。特に後者の過程はマイクロカプセル化(microencapusulation)と呼ばれる。カプセル化の方法は多数報告されており、大別すると化学反応を利用する化学的方法、物理化学的変化を利用する物理化学的方法及び物理的ないし機械的操作を主に利用する物理的方法に分類できる。また、内包する物質の物理化学的・生化学的性質および使用する壁材の物性、カプセル化によりどのような機能を期待するかによってマイクロカプセル化の方法を選択する必要がある。その方法は、前述の大別方法とは別に、芯物質界面への壁材の沈積を利用する場合と界面での反応を利用して被膜を形成させる場合とに大別できる。前者を界面沈積法、後者を界面反応法とすると表1のように分類できる。本発明では特に界面反応法の中で広く一般的に用いられているin situ重合法について着目した。
【0009】
【表1】
JP0006703734B2_000002t.gif

【0010】
in situ重合法は互いに混じり合わない2相の一方にモノマーや触媒を加えることでその界面で重合反応を起こして芯物質の表面に均一な膜を形成する方法である。原理を図2に示す。この方法の利点として芯物質は液体に限らず、固体や気体を用いる事が出来ることが挙げられる。メラミン樹脂を膜物質としたマイクロカプセル、スチレンモノマーをW/Oエマルジョンの外部から与える架橋ポリスチレンを膜とするカプセル、スチレンモノマーをO/Wエマルジョンの内部から与え、内部にイソオクタンを含有するカプセルの合成に関する報告が成されている。また高分子に限らず、無機質壁マイクロカプセルの合成についても研究がなされており、無機質壁を持つ球形粒子の合成例も報告されている。例えば、水和酸化鉄球形粒子、酸化亜鉛球形粒子、炭酸カルシウム球形粒子、アルカリ土類金属ケイ酸塩球形粒子、シリカ壁球形粒子などが報告されている。
以上のようにマイクロカプセルは有機、無機を問わず様々な材料で幅広い分野に応用が可能である。現在でも記録材料、医薬品、人工臓器分野、農業材料、表示材料、香料・化粧品、食品などに使用されている。
【0011】
また、パラフィン等の潜熱蓄熱材及びゲル化剤を含む材料を用い、建材として用いられる潜熱蓄熱材であって、外界に向けられた太陽光の照射側の外側表面と、日中における太陽のふく射熱を受ける外側表面の最低温度と最高温度間の温度範囲内になる相変化温度とを有する潜熱蓄熱材が知られている(特許文献1参照)。本例は、硫酸ナトリウムとポリマーとの配合比率の開示がなく、十分な蓄熱性も得られていない。
【先行技術文献】
【0012】

【特許文献1】WO2013/176050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明では蓄熱材料の一種である、NaSO・10HOにマイクロカプセル技術を応用することで蓄熱材内包カプセル粒子を合成する。カプセル粒子中に蓄熱材を内包することで、融解時の漏出を防止することや相分離の減少などが期待できる。また、蓄熱材内包粒子の合成を試みた。また、触媒や界面活性剤の影響を検討すると共に24時間という長時間の合成時間の短時間化を試みた。その後、触媒の働きなどを考察すると共に粒子形成メカニズムについて考察を行った。
また、粒子径の増大化を図り粒子内部のNaSO・10HO量を増やすことで蓄熱性能の向上を目指した。また中空シリカナノ粒子の合成方法を蓄熱材内包粒子に応用し、W/Oエマルジョンの連続相である水中にポリエチレングリコールを溶解させることでエマルジョンの安定性を高めマイクロメートルオーダーの粒子合成を試みた。
また、用いる高分子を変え、同様に蓄熱材内包粒子を合成し、その相互作用の違いを利用することで熱的特性のさらなる向上を目指した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明において、物質間の固体・液体相変化を利用した潜熱特熱の利用には、蓄熱材料を粒子内部に内包させたカプセル粒子の合成が必要となる。より高い蓄熱性能を求めるためには、粒子内部に蓄熱材が充填された状態が理想である。また、粒子サイズは大きい方がシリカの影響を最小限に抑えて蓄熱性能を発揮できると期待される。
また、シクロヘキサン溶媒中に硫酸ナトリウム水溶液を添加し、W/Oエマルジョンを形成させ、その表面をシリカでコーティングすることによりカプセル粒子を合成できると報告されている。しかし用いる触媒量の影響や粒子径の制御などが確立されておらず、またその影響についても不明な点は多い。加えて粒子の合成時間は24時間としており非常に長い事も応用への課題となっている。粒子形成メカニズムについても明確になっておらず、反応条件の影響やメカニズムの明確化などが必要である。
そこで本発明では、触媒や界面活性剤の影響を検討すると共に合成時間の短時間化を試みた後、触媒の働きなどを考察すると共に粒子形成メカニズムについて考察を行った。
また、エマルジョン安定のために界面活性剤を用いている。カプセル粒子の粒径の違いが熱的特性に与える影響についてはまだ明らかになっていない。その結果として所望の特性を持つような粒径の粒子を合成することは、応用として非常に重要な点であると考えられる。一般的にエマルジョン径の大きさは界面活性剤濃度に影響している。そのため、界面活性剤濃度を変化させることで粒子径に与える影響を調査し、粒子系の制御が可能であるかどうかを調査した。
また、エマルジョンの安定化は粒子形成を考える上で非常に重要な要素の一つであると考えられる。そのため界面活性剤が粒子形成に与える影響について調べることに意義があると考えた。そこで、界面活性剤種を変化させ界面活性剤がカプセル化にどのように影響するかを調査した。
TEOSの加水分解、縮合重合反応において触媒として作用するNHの存在は重要である。そこで、カプセル粒子合成時の触媒濃度の最適化を行った。TEOSの加水分解、縮合重合反応が起こるタイミングを調べるために反応系の水量を調整して合成を行った。またカチオンを有するアミン触媒とアニオン性界面活性剤の静電的相互作用により、エマルジョンの界面付近でシリカシェルコーティングが進行すると報告されている。そこで合成時のpHを変化させることで反応における触媒の電的相互作用を制御し、反応における触媒作用メカニズムを考察した。以上を踏まえて24時間という長い反応時間を短縮することを試みた。触媒能向上を期待し、両端と内部にアミノ基を合計3個持つ3-3ジアミノジプロピルアミン、一般的に触媒として広く用いられるアンモニアを用いて反応時間や触媒種による粒子形成への影響を調べた。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、ポリマーと無機塩の混合粘性体とすることで、袋状、箱状など様々な形態に対応した蓄熱材を容易に得ることができる。ポリマーと無機塩の配合比により粘性の調整ができる。カプセル化することで粉体としての利用も可能である。ナノサイズ化しても蓄熱性が得られるため、可視光透過性を付与することができ、コーティング材、フィルムへ練り込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明に係るNaSO・10HOのDSC測定結果を示すグラフである。
【図2】図2は、重合法によるマイクロカプセル化の原理図である。
【図3】図3は、界面活性剤を変えた際のカプセル粒子合成フローチャートである。
【図4】図4は、触媒種を変化させた粒子合成手順を示すフローチャートである。
【図5】図5は、TEDモードにおけるSEM画像である。
【図6】図6は、各界面活性剤濃度におけるDSC測定結果を示すグラフである。
【図7】図7は、各界面活性剤種を変えた際の粒子を示すSEM画像である。
【図8】図8は、Span80のDSC測定結果を示すグラフである。
【図9】図9は、水量を調節した際の粒子を示すSEM画像である。
【図10】図10は、水量調節系と通常系での合成粒子のDSC測定結果を示すグラフである。
【図11】図11は、NHを触媒、反応時間12時間条件で合成した粒子を示すSEM画像である。
【図12】図12は、3-3’ジアミノジプロピルアミン触媒、反応時間(a)は6時間、(b)は12時間、条件で合成した粒子を示すSEM画像である。
【図13】図13は、各触媒を用いた際のせん断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【図14】図14は、蓄熱材として用いる硫酸ナトリウム10水和物の水溶液濃度を変えて合成した際の手順を示すフローチャートである。
【図15】図15は、水相中にポリマーを加えず合成した手順を示すフローチャートである。
【図16】図16は、PEGの分子量および濃度を変えて合成した際の手順を示すフローチャートである。
【図17】図17は、硫酸ナトリウム水溶液濃度を変えて合成した粒子を示すSEM画像である。
【図18】図18は、XRD(X線解析)結果を示すグラフである。
【図19】図19は、DSC(示差走査熱量測定)結果を示すグラフである。
【図20】図20は、硫酸ナトリウム10%の条件で合成した粒子の繰り返し測定結果を示すグラフである。
【図21】図21は、繰り返し測定から得られた吸熱量とサイクル数の関係を示すグラフである。
【図22】図22は、PEG無添加状態でのSEM画像である。
【図23】図23は、無添加系シリカシェル形成イメージを示す概念図である。
【図24】図24は、ポリマー有無条件でのDSC測定比較を示すグラフである。
【図25】図25は、PEG濃度変更の条件で合成した粒子を示すSEM画像である。
【図26】図26は、粒子を示すEDS画像であり、(a)は3.0wt%、(b)は7.5wt%、(c)は9.0wt%の条件を示す。
【図27】図27は、ラマン分光法測定の結果を示すグラフである。
【図28】図28は、PEG-NaSOのTG測定結果を示すグラフである。
【図29】図29は、粒子のDSC測定結果を示すグラフである。
【図30】図30は、PEG濃度による硫酸ナトリウムの取り込みイメージを示す概念図である。
【図31】図31は、ポリマーの構造式である。
【図32】図32は、ポリマーを変えた条件での合成手順を示すフローチャートである。
【図33】図33は、PAA条件による合成粒子のSEMおよびEDS画像である。
【図34】図34は、PEI条件による合成粒子のSEMおよびEDS画像である。
【図35】図35は、PVA条件による合成粒子のSEMおよびEDS画像である。
【図36】図36は、PVP条件による合成粒子のSEMおよびEDS画像である。
【図37】図37は、各試料のXRD測定結果を示すグラフである。
【図38】図38は、合成した各粒子のDSC測定結果を示すグラフである。
【図39】図39は、ポリマー水溶液、ポリマー/硫酸ナトリウム水溶液のせん断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【図40】図40は、PVAを除いたポリマー水溶液、ポリマー/硫酸ナトリウム水溶液のせん断速度と粘度の関係を示すグラフである。
【図41】図41は、PEI条件におけるエマルジョン径の時間変化の関係を示すグラフである。
【図42】図42は、PVA条件におけるエマルジョン径の時間変化の関係を示すグラフである。
【図43】図43は、PVP条件におけるエマルジョン径の時間変化の関係を示すグラフである。
【図44】図44は、PVP挙動イメージを示す概念図である。
【図45】図45は、潜熱蓄熱法を示す基本的概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
粉体としても利用可能、可視光透過性のある蓄熱マイクロカプセルを安価に提供する目的を、ポリマー水溶液と、ポリマー/硫酸ナトリウム水溶液と水溶性界面活性剤とを水相とし、オクタノールと増粘剤とを油相とし、無機塩を滴下させることにより、実現した。
【実施例1】
【0018】
〔原料〕
コアとなるPCM(潜熱蓄熱材)は硫酸ナトリウム10水和物(和光純薬工業社)を用いた。溶媒としてシクロヘキサン(和光純薬工業社)、またエマルジョンを形成させる界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業社)、ソルビタンモノオレアート(Span 80)(東京化成工業社))、t-オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(TritonX-100)(ナカライテスク)を用いた。粒子のシェルとなるシリカ前駆体としてオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)(和光純薬工業社)、触媒として3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTS)(信越シリコーン) を用いた。
【実施例1】
【0019】
〔製造方法〕
製造フローチャートを図3に示す。また、その際に用いた試薬の組成を表2に示す。
【実施例1】
【0020】
【表2】
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【実施例1】
【0021】
50mLビーカー中にシクロヘキサンを加えホットスターラーで60℃に加熱しながら撹拌を行った。その後、SDSを0.02Mになるように加え溶液が薄く白濁するまで撹拌を行った。その後、2MNaSO水溶液を一度に加え、1-ペンタノールもまた一度に加えエマルジョンを形成させた。15分撹拌した後、1時間エイジングし、再び撹拌しながらTEOSを滴下し、APTSを加え24時間反応させた。反応終了後遠心分離を行い、エタノールで三回洗浄を行った。洗浄後10℃で一晩乾燥し粒子を得た。報告では、触媒であるAPTS量に明確な記載はなかったが、本例では表2に示すように2wt%のAPTS水溶液を所定の量加えた。同様に界面活性剤種を変化させ粒子形成の影響を調査した。手順は図3と同様に行った。表3に合成時の試薬量を示す。界面活性剤量はSDS0.02Mの系に合わせて等しい濃度になるように加えた。
【実施例1】
【0022】
【表3】
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【実施例1】
【0023】
表4に触媒濃度を変更し合成を行った際の試薬量を示す。合成手順は図3に示した手順と同様に行った。
【実施例1】
【0024】
【表4】
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【実施例1】
【0025】
メカニズムを考察するために系全体の水量を調節して合成を行った。合成手順は図3に示した手順と同様に行った。合成時の試薬量は表6に示す。
また図4に触媒の種類を変えた際の合成手順、表5に合成時の試薬量を示す。
【実施例1】
【0026】
【表5】
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【実施例1】
【0027】
【表6】
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【実施例1】
【0028】
〔評価〕
a.SEM
乾燥後の粒子をエタノール中に分散させマイクログリッドに滴下することで観察試料を作製した。その後、OSMIUM PLASMA COATER OPC60A (フィルジェン社)によりオスミウムを蒸着させた。観察は走査型電子顕微鏡(JSM-7000F,JEOL社製)を用い、加速電圧は15.0kVとした。観察にはSecondary Electron Image(SEI)とTransmission Electron Diffraction(TED)モードを用いた。
b.XRD測定
硫酸ナトリウムの結晶構造を確認するためにX線回折装置(RINT1000,Rigaku社製)を用いて、X線回折パターンの測定をした。印加電圧40kV、印加電流40mV、測定範囲10~70度、アタッチメント回転速度60rpmとした。
c.DSC測定
粒子の熱的特性を評価するために示差走査熱量計 (Thermo Plus DSC8230,Rigak社製)を用いた。吸熱および発熱量の測定範囲-40℃~80℃、サイクル数3回、昇温・降温速度40℃/minの条件で測定を行った。また、測定は初め-40℃に冷却した状態から開始し80℃に降温した後再び-40℃まで冷却し行った。結果は特に言及の無い場合は3回目の測定結果を示す。
d.粘度測定
触媒種を変えた際の混合溶液を回転式粘度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製HAAKE Rheo Stress 6000)を用いて以下の条件で粘度を測定した。(せん断速度200~800m/s、測定時間60s、コーンc20/Ti)
e.pH測定
APTS濃度を変えた条件において溶液のpHをpHメーター(METTLER TOLEDO, SevenGo pH meter SG2)を用いて測定した。
【実施例1】
【0029】
〔結果と考察〕
界面活性剤濃度の違いによる粒子径の影響を調べるためにAPTS量を0.70mLと固定し、界面活性剤であるSDSの濃度を変化させたときの粒子径や形態への影響を調べた。活性剤濃度は表3に示すように0.005~0.04Mになるように調整した量を加えた。
図5に界面活性剤濃度を変えて合成した粒子のSEM画像を示す。また、(a)、(b)では50~80nm程度の球形粒子が合成された事がわかった。(c)では微小な粒子が凝集した状態が観察された。SDS濃度が0.005Mの条件では粒子は得られなかった。
0.005Mにおいては、界面活性剤は希薄な状態でありミセルを形成する必要最低濃度である臨海ミセル濃度(cmc)に達していないためエマルジョンが形成されず、粒子が合成されなかったと考えられる。また、図5より界面活性剤濃度が増加するにつれて粒子径が減少していることがわかる。濃度が高い状態では、溶液中に存在する界面活性剤が多い状態なのでミセルの形成が容易である。そのため径の小さいエマルジョンにおいても濃度が低い系と比べて安定的に存在することが出来、粒子径も減少したと考えられる。
【実施例1】
【0030】
図6にDSC測定結果を示す。どの濃度においても30℃付近で硫酸ナトリウム10水和物の融解に起因するピークが観察された。SDS濃度の増加に伴い凝固点が上昇する傾向が観察された。凝固点の上昇は約-10℃~10℃の範囲であった。
SEMおよびDSCの結果よりSDS濃度の増加に伴い、粒子径は減少する傾向にあるとわかった。また粒子径が減少するにつれて凝固点の上昇が観察された。粒子径が減少すると内部圧が大きくなるために結晶化が容易になったと考えられる。ヤング・ラプラスの式 (式1)より粒子径の大きさに反比例して内部圧が大きくなることが知られている。ここで、ΔPは内部圧Piと外部圧Pgの差であり、γは表面張力、rは粒子半径である。(式1)より粒子径の小さな試料ほど内部圧が大きくなり内部の状態は不安定である。そのため高い温度域でも結晶化し易いと考えられる。結果、粒子径の減少に伴い凝固点が増加したと考えられる。また、外的要因として周囲にシリカが存在しているため原料時と比べて核となるものが存在し核形成が容易になった可能性がある。
【実施例1】
【0031】
【数1】
JP0006703734B2_000008t.gif
【実施例1】
【0032】
界面活性剤がエマルジョンの安定化および粒子形成に与える影響を調査するために界面活性剤種を変化させ製造した。
図7に界面活性剤としてSpan80またTriton X-100を用いて合成した際の粒子のSEM画像を示す。Span 80を用いた系では、約180nm程の球形粒子が観察された。
TEDの結果からも粒子内部は一部空洞であり、硫酸ナトリウムと思われる物質が確認できる事から、SDSを用いた条件と同様にカプセル化された事が示唆された。しかし一方で、Triton X-100を用いて合成した系では、100~200nm程度の球状粒子は観察できるが、TEDの結果より中実の粒子であることがわかる。そのためカプセル化された粒子は合成できていないことがわかった。図8にはDSC測定の結果を示す。Span 80を用いた系では昇温時には30℃付近に融解に起因する、降温時には0℃付近に凝固に起因するピークが確認できる。以上の結果よりSpan80を用いた系ではカプセル粒子を合成出来ることがわかった。
この界面活性剤の違いによる粒子形成の違いは、界面活性剤のHLB値によって説明される。HLB値とは、界面活性剤の親油性と親水性のバランスを表した値であり、グリフィン法により計算が可能である(式2)。
【実施例1】
【0033】
【数2】
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【実施例1】
【0034】
式2より疎水基に対して親水基を多く持つ物質ほどHLB値は高く、疎水基を多く持つ物質はHLB値が低くなる。そのため一般的にHLB値が高い界面活性剤はO/Wエマルジョンの安定に寄与し、HLB値が低い活性剤はW/Oエマルジョンの安定に寄与するとされている。表7に今回使用した界面活性剤のHLB値を示す。表7からSpan 80はHLB値が低く親油性が高いことがわかる。そのためW/Oエマルジョンの安定化に寄与し粒子の形成がし易かったと考えられる。Triton X-100においてはHLB値が13.5と高いため親水性が高くエマルジョンが安定せず崩壊してしまったために中実の粒子が形成されたと考えられる。
【実施例1】
【0035】
【表7】
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【実施例1】
【0036】
APTS水溶液添加量を0.35、0.70、1.4、2.1、4.2mLに変化させて粒子の合成を行い、触媒濃度における粒子径や形態への影響を調べた。
図5に各濃度で合成した粒子のSEM画像を示す。図6には得られた粒子のXRD測定結果、図7にはDSCによる熱的特性評価の結果を示す。
図5より4.2mLを除く条件で50~100nm程度の球状粒子が確認された。また、粒子形状はAPTS添加量による違いはなく、粒子径はAPTS添加量による一貫した傾向は認められなかった。一方で、4.2mLを加えた触媒濃度が高い系では粒子が確認できなかった。これは、触媒量が増加すると共に溶媒である水の量も増加するため、系全体の粘度が低下しエマルジョンが不安定化してしまうことが原因だと考えられる。粒子の確認できた条件において、TEDでは粒子の中央部分が透過した状態で観察された。これは、内部のNaSOが自身の結晶水により一部溶解したため、中空状態のように観察されたためだと考えられる。また1.4mLの条件で合成した粒子のように一部影が観察できるものがある。結晶水に融解せず内部に残存したNaSOだと考えられる。
また、XRD測定結果より触媒濃度によりピークの変化は観察されなかった。このことから触媒濃度は内部のNaSO・10HOの形成に影響を与えないと考えられる。
図7のDSCの測定より得られたすべての粒子で吸熱、放熱に起因するピークが観察された。またAPTSの増加に伴い凝固時の放熱ピークが減少していることがわかる。APTSが増加するにつれ粒子のシェル形成に寄与しないAPTS量も増加する。APTSはTEOSの塩基触媒として作用する。そのためコア表面以外でTEOSの加水分解および縮合重合反応が起こり、PCMをコアとしない中実の粒子生成量が増加することが予想される。結果、相対的に熱量が減少したのだと考えられる。
【実施例1】
【0037】
界面活性剤種や触媒量を変えて様々な条件で粒子の合成が可能であることを確認した。ここで、潜熱蓄熱材内包粒子の形成メカニズムについて詳説する。本例では、TEOSの加水分解反応を利用してシリカをコーティングしている。その際にどのタイミングで加水分解が起こり、反応が進行するのかを調査した。本例において、APTS水溶液ではなくAPTS原料をそのまま加えることで、APTS水溶液中の水が反応に寄与しているのか、エマルジョン形成に用いられる水相中の水が寄与しているのかを調査した。
図9に合成した粒子のSEM像を示す。SEMの観察からごくわずかな中実粒子のみが観察された。その粒径は80~100nm程度であり形状は球状の粒子であった。また観察された粒子量自体も少量であった。図10には今回合成した粒子とのAPTS水溶液0.70mLを添加して合成した粒子とのDSC測定の比較結果を示す。DSC測定では、昇温時に観察される32℃付近の硫酸ナトリウム10水和物の融解に起因する吸熱ピークを観察することは出来なかった。また0℃付近に小さなブロードしたピークが確認できる。これは乾燥時に除去しきれなかった残存水分が凝固したために現れたピークだと考えられる。このように今回の条件で得られた粒子は熱的特性を示さないという事を確認した。以上の結果から、TEOSの加水分解縮合重合反応は、主にAPTS水溶液中の水を反応源として進行していると推測できる。そのためAPTS原料を用いた系では、反応が十分に進行せず粒子量も少なくなったと考えられる。
【実施例1】
【0038】
表8には各濃度のAPTS水溶液をエマルジョン形性溶液に0.70mL加えた際のpHをまとめたものを示す。また粒子形成の欄には、カプセル粒子が確認できたものに○、カプセル粒子、中実粒子とも確認できなかったものは×としている。中実粒子のみが観察されたものは△とした。表8の結果よりAPTS濃度が1wt%以下では、粒子形成がされなかったことがわかる。また、APTS濃度6wt%以上では粒子は形成されるがカプセル粒子は形成されず、中実粒子が形成された事がわかった。APTSとSDSはその静電的相互作用によってエマルジョン界面で反応すると考えられる。APTSに存在する正電荷のアミノプロピル基(-NH)と負電荷をもつSDS中の親水基(-SO)の相互作用により界面付近APTSが存在し易く反応が進行すると考えられる。APTS濃度が低い条件では、溶媒のpHは低くほぼ中性の値を示す。そのためAPTSが触媒として充分に作用せずTEOS加水分解、縮合重合反応が進行しなかったと考えられる。また、APTS濃度の高い条件では、pHは高くなる。アミノプロピル基のpKaは室温において約10.6の値を示し、pHが10.6以上となるとその解離平衡状態は非イオン型に傾く。そのため高pHでは、アミノプロピル基は電荷的に中性となりSDSとの静電的相互作用も弱まる。静電的相互作用が弱まることでAPTSがエマルジョン界面に集まらず、溶液全体に拡散してしまうためにカプセル粒子ではなく中実粒子が観察されたと考えられる。Tatsumi 等は、連続相としてエタノール、分散相に水、界面活性剤としてSDSを用いpHを2~13の条件に設定しAPTS及びTEOSを加えメソポーラスシリカの合成条件について報告をしている。この報告では、pHが8以下の条件では加水分解が進行せず、pHが11以上では前述のように相互作用の減少によりシリカの形成が困難であるとしている。
【実施例1】
【0039】
【表8】
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【実施例1】
【0040】
24時間という合成時間を短縮するために、添加する触媒に着目し、TEOSの触媒として一般的に用いられるNHやアミノ基を多く持つ3-3ジアミノジプロピルアミンを用いて合成し、合成時間への影響を調査した。
図11にNHを加えて(a)12時間の条件で合成した粒子の SEM画像、図12には3-3’ジアミノジプロピルアミンを加えて(a)6時間、(b)12時間の条件で合成した粒子のSEM画像を示す。NHを加えた系では、撹拌時間6時間では生成物は観察されなかった。図9より撹拌時間12時間では中実の粒子が観察された。3-3’ジアミノジプロピルアミンを加えた系では、6、12時間いずれにおいても一部でカプセル粒子が凝集した状態が観察された。
図13に各エマルジョン溶液のせん断速度と粘度の関係を示した。3-3’ジアミノジプロピルアミンは両端と内部にアミノ基を有するためpHが増加しTEOSの加水分解、縮合重合反応がより促進されると考えられる。またNHでは、系全体の水量が増えてしまい粘度が低下するのに比べて3-3’ジアミノジプロピルアミンはそれ自体の粘度が大きいため、水溶液を加えても粘度は増加すると考えられる。結果としてエマルジョンの安定化につながりシリカが表面に堆積し易く短い反応時間でも粒子形成が可能になったと考えられる。
【実施例1】
【0041】
シクロヘキサン溶媒中に硫酸ナトリウム水溶液を添加し、W/Oエマルジョンを形成させ、その表面をシリカでコーティングすることによりカプセル粒子を合成することに成功した。その粒子形成プロセスでは、界面活性剤濃度が主に粒径に影響を与えることが明らかになった。また、粒径の変化に伴い内部のPCMの凝固点が変化していることから粒径を制御することにより凝固点を制御することができる可能性が示唆された。また、界面活性剤のHLB値の違いによりW/Oエマルジョンの安定性への寄与が異なることから適切な界面活性剤の選択が必要であることが明らかとなった。粒子形成にかかる反応時間について触媒に3-3’ジアミノジプロピルアミンを用いることで18時間の短縮に成功した。その際には触媒が持つアミノ基(触媒能)と粘度が重要なファクターであることが示唆された。
【実施例2】
【0042】
〔カプセル粒子の合成〕
本例では、シクロヘキサンを溶媒とし、硫酸ナトリウム水溶液をコアとした合成方法を用いた。界面活性剤濃度を変化させることで得られる粒子径を数10nmオーダーで制御し、さらに用いる触媒を工夫することで合成時間を16時間短縮することが可能であると明らかになった。しかし、数10nmオーダーでの粒子径制御は可能であるが、さらなる蓄熱性能の向上を目指した場合より大きな粒子が必要となる。Zhaoらの報告した方法では、水相は硫酸ナトリウム水溶液のみであるためエマルジョンは比較的不安定であり、より大きなエマルジョンを安定して形成するのは困難であると考えられる。蓄熱性能を向上させるためには、粒子径は同じでも内部に硫酸ナトリウムをより密に取り込む、粒子径を大きくし取り込む量を増やすなどの粒子設計が必要となる。本例では後者の粒子径を大きくし内包する硫酸ナトリウム量を増やす設計により蓄熱性能を向上させることを試みた。Seong-Geuh Ohらは分散相である水中にポリエチレングリコールなどの高分子を溶解させることでエマルジョンの安定性を高め3~6μmの球状中空シリカ粒子の合成を報告している。そのため水相中に水溶性の高分子であるポリエチレングリコールを溶解させ、水溶液の粘度を調整しエマルジョンを安定化させ粒子サイズを増大化させることを試みた。これにより粒子自体のサイズも増大化し蓄熱性能の向上を期待することが出来る。また、ポリマー濃度を固定して水相中に加える硫酸ナトリウム濃度を変化させることで、粒子が合成できる条件を探った。水溶液中のポリマーのコアとしての働きおよびエマルジョンの安定性の向上への影響を確認するために水相中にポリマーを加えない条件で粒子合成を行い、ポリマーの有無による粒子形成への影響を考察した。また、硫酸ナトリウム水溶液濃度を50wt%に固定し、ポリマー濃度を変化させることで、ポリマーと硫酸ナトリウムとの相互作用による粒子内部への硫酸ナトリウムの内包量の向上および粒子形成への影響を検討した。
【実施例2】
【0043】
〔原料〕
コア生成としてポリエチレングリコール(PEG)(重合度 20000, 和光純薬工業社)、25%アンモニア水(和光純薬工業社)、硫酸ナトリウム10水和物(和光純薬工業社)を用いた。また水溶性界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(Tween 20)、油相として1-オクタノール(和光純薬工業社)、増粘剤としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)(和光純薬工業社)、油溶性界面活性剤としてソルビタンモノオレアート(Span 80)(東京化成工業社)を用いた。シリカ前駆体としてオルトケイ酸テトラエチル(TEOS) (和光純薬工業社)を用いた。
【実施例2】
【0044】
〔製造方法〕
分散相である水中に高分子を溶解させることでエマルジョンの安定性を高め3~6μmの球状中空シリカ粒子の合成が報告されている。
オクタノールにHPCを加え、ホットスターラーを用いて80℃で4時間撹拌し溶解させた後、室温まで冷却しSpan 80を加え40℃で撹拌を行った。別の容器において、水中にPEGを加え溶解させた後、Tween 20を加え20分撹拌を行った。次いでアンモニア水を加えこれを水相とした。この水相溶液を40℃で撹拌した状態の油相中に水相:油相の体積比が1:9になるように滴下した。30分撹拌した後、自動滴下装置を用いてTEOSを30μL/minの条件で滴下した。
14時間撹拌し粒子を合成した。反応終了後遠心分離を行い、エタノールで三回洗浄を行った。硫酸ナトリウム10水和物は室温で空気中に放置すると風解してしまう。そのため、洗浄後10℃で一晩乾燥し粒子を得た。図14に蓄熱材として用いる硫酸ナトリウム10水和物の水溶液濃度を変えて合成した際の手順を示す。蓄熱材である硫酸ナトリウム水溶液が水相に対して10、50、100wt%になるように加えた。表9には油相、水相での用いた試薬の組成を示す。図15には水相中にポリマーを加えず合成した手順を示す。表9には用いた試薬の組成を示す。図16にPEGの分子量および濃度を変えて合成した際の手順を示す。また表10に変更した組成を示す。
【実施例2】
【0045】
【表9】
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【実施例2】
【0046】
【表10】
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【実施例2】
【0047】
〔評価〕
a.SEM
乾燥させた粒子を、カーボンテープを貼った真鍮製の試料台に固定することで観察試料を作製した。その後、OSMIUM PLASMA COATER OPC60A(フィルジェン社)によりオスミウムを蒸着させた。観察は走査型電子顕微鏡(JSM-7000F,JEOL社製)を用い、加速電圧は15.0kVとした。観察にはSecondary Electron Image(SEI)モードを用いた。
b.XRD測定
硫酸ナトリウムの結晶構造を確認するためにX線回折装置(RINT1000, Rigaku社製)を用いて、X線回折パターンの測定をした。印加電圧40kV、印加電流40mV、測定範囲10~70度、アタッチメント回転速度60rpmとした。
c.DSC測定
粒子の熱的特性を評価するために示差走査熱量計(Thermo Plus DSC8230,Rigak社製)を用いた。吸熱および発熱量の測定範囲-40℃~80℃、サイクル数3回、昇温・降温速度10℃/minの条件で測定を行った。また、測定は初め-40℃に冷却した状態から開始し、80℃に昇温した後再び-40℃まで冷却し行った。結果は特に言及の無い場合は3回目の測定結果を示す。
d.ラマン分光法
作製した粒子において硫酸ナトリウム10水和物の存在を確認するためにレーザーラマン分光光度計(日本分光社製 NRS-3100)を用いてラマンスペクトルを測定した。対物レンズには倍率100倍のレンズ、励起レーザーには波長532.0nmの緑色レーザー光を用い、露光時間5秒、レーザー出力4~6W、積算回数を16回とした。
e.TG測定
ポリマー内部に内包されている硫酸ナトリウム量を定量するため、エマルジョン水溶液中にヘキサンを適量加え溶解したPEGとその内部に取り込まれた硫酸ナトリウムを析出させた。その後試料を10℃で一晩乾燥させた。乾燥後試料を10℃/minで1000℃まで加熱し、TG測定を行った。
【実施例2】
【0048】
〔結果と考察〕
図17に硫酸ナトリウム水溶液量10、50、100wt%の条件で作製した粒子のSEM画像を示す。SEMによる観察の結果では、10%加えた系でのみ粒子を観察することが出来た。観察された粒子は粒径約3μmの球状粒子であり表面は滑らかなものであった。また、球状粒子以外は観察されなかった。50%の系では、微小粒子が球状粒子のミセルを形成し、崩壊した様な状態が観察された。また、外部(矢印部)には、数μm程度の生成物が確認された。これは、硫酸ナトリウムと考えられる。そのためシリカシェルと硫酸ナトリウムが別々に生成していると考えられる。100%の系では、10%の系に観察されるような球状粒子は観察されず、50%の系で観察された様な数μmの生成物が観察された。図18にXRD(X線解析)測定結果を示す。XRDでの測定では全てのサンプルで硫酸ナトリウムのピークが観察された。10wt%条件では、内部に硫酸ナトリウムが内包されていることが示唆された。50、100wt%条件では粒子が形成されずに外部に析出している硫酸ナトリウムが検出されていると考えられる。また、20~30度にかけてブロードなピークが観察されたことから非晶質のシリカが生成したことがわかる。他の濃度と比較して10%においては硫酸ナトリウムに起因するピークは減少している。これは、他の系と比較しシリカ粒子の形成が確認されているため相対的に硫酸ナトリウム濃度は低くなり、ピークが減少したと考えられる。
図19には作製した試料のDSC(示差走査熱量測定)結果を示す。10%の試料では硫酸ナトリウムの50℃付近に融解、38℃付近に凝固に起因する吸放熱ピークが観察された。一方で50、100%の系では、ピークは観察されなかった。
【実施例2】
【0049】
図20には硫酸ナトリウム10%の条件で合成した粒子の繰り返し測定結果を示す。また、図21には繰り返し測定から得られた吸熱量とサイクル数の関係を示す。図20より連続測定を行った際にも蓄熱量に大きな変化は見られないことがわかった。また、一サイクル目と二サイクル目以降では、僅かにピーク位置がシフトしている。初め硫酸ナトリウム結晶は粒子内部にランダムな状態で析出しており結晶化が不完全な状態であると考えられる。しかし、融解・凝固を繰り返すことで粒子内部での結晶状態が整い安定化するため二回目以降ではピークシフトが生じないと考えられる。図21からサイクルを重ねても吸熱量はほぼ安定している。このことから硫酸ナトウリム濃度を10%の条件において、安定した熱的特性を示すPCM内包カプセル粒子を合成出来る事がわかった。
【実施例2】
【0050】
PEGが粒子合成や蓄熱性能に及ぼす影響の有無を検討するためにポリマー無添加系において影響を検討した。図22にSEM画像を示す。SEMでの観察から数μm~10μm程度のシェルが崩壊した粒子が観察された。図22に示すように粒子形成が完全には進まずシリカコーティングに部分的に穴が空いたような状態が観察された。コアとなるPEGが無添加の状態では、水相中の粘度が低いと考えられる。そのためPEG無添加状態ではエマルジョン界面は非常に不安定であり、図23に示すような状態であると考えられる。粘度が大きくエマルジョンが安定した状態では図23-Aのように水中に拡散する溶媒は界面においても安定して存在することができる。しかしPEG無添加条件では、添加条件と比べて粘度が小さく界面が不安定であり図23-Bのように界面付近で拡散した上程である。そのためTEOSとの反応が進行しシリカシェルを形成してもエマルジョン全体を覆うに至らず、孔ができシェルが崩壊したような状態になったのだと考えられる。このことからPEGを加えた系と比較してシリカがコーティングし難く図22に示すような状態が観察されたと考えられる。
図24にはPEG無添加条件での試料と合成した硫酸ナトリウム水溶液10%の条件で合成した粒子のDSC測定における比較を示す。図24からもわかるようにPEG無添加条件では、吸熱ピークを確認することは出来なかった。これはSEMでの観察結果とも一致しておりPEG無添加の条件ではNaSOが存在していない事がわかる。以上の結果から水相中に溶解したポリマーは粒子形成時のコアとして重要な役割を持ちカプセル粒子の形成には不可欠なファクターの一つである事が明らかとなったといえる。
【実施例2】
【0051】
このように、硫酸ナトリウム水溶液10wt%の条件において蓄熱材内包粒子が合成できることが明らかになった。しかし、蓄熱性能をより向上させるためには内部の硫酸ナトリウム量を増やすなどの工夫が求められる。そこで、硫酸ナトリウム水溶液濃度を50wt%とし、PEG濃度を増加させることで粒子内部への硫酸ナトリウムの取り込み量を増やすことを試みた。図25にPEGの分子量20000を用いた系において加えるPEG濃度を3.0、6.0、7.5、9.0wt%と変化させて合成した粒子のSEM画像を示す。PEGの濃度が6.0wt%では粒子が完全に形成できていない様子が観察された。この様子は他の濃度では観察されなかった。6wt%では、コアに十分な安定性が無く、シリカ粒子がコア表面に堆積し難く14時間という反応時間では完全には粒子を形成できなかったのではないかと考えられる。また、他の濃度では、粒子が観察されその粒子サイズに違いはなかった。
図26に3.0、7.5、9.0wt%の条件で合成した粒子のEDS画像を示す。これより粒子はシリカ粒子であることがわかった。また同様にNaのマッピングがシリカ粒子上に確認できることから内部に硫酸ナトリウムが存在していると考えられ、カプセル粒子となっている可能性が示唆された。しかし、EDSの結果からだけでは硫酸ナトリウムが粒子外部に存在するのか内部に存在しているのか議論することは難しく結論付けることはできない。また図27にラマン分光法測定の結果を示す。硫酸ナトリウムにおけるラマン分光法測定では990cm-1付近に硫酸イオンの全対称伸縮振動に帰属するピークが現れる事が知られている。測定結果よりどの濃度においても硫酸イオンの振動に由来するピークが観察され、試料中に硫酸ナトリウムが存在していることがわかった。SEM等の観察で粒子の存在が確認されなかった6wt%の系にも同様にピークが観察された。外部に析出した硫酸ナトリウムが洗浄操作で完全に除去されず試料中に残存したためだと考えられる。また、それぞれのピーク強度は7.5wt>6wt≧9wt>3wtの順に強い結果となった。ラマンスペクトルにおいてピーク強度を定義する強度パラメーターI は(式 3)によって表される。
【実施例2】
【0052】
【数3】
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【実施例2】
【0053】
ここにIは入射レーザー光強度、T(ν)は分光器の透過度、νは散乱光の振動数、A(ν)は試料による吸収強度、α(ν)はKramers-Heisenberg-Diracの分散式で表される分極率、cは試料濃度である。I、T(ν)、ν、A(ν)は試料により一定値であるのでIは試料濃度cに比例することになる。そのため一般的にはラマン分光法を用いて粒子中の硫酸ナトリウムを定量的に評価することが可能であると考えられる。しかし本例においては粒子が形成されていない6.0wt%の条件においてラマンスペクトル強度が高く測定された。本来粒子が形成されていない条件ではスペクトル強度は減少すると予想される。前述のようにラマンスペクトル強度は測定試料の濃度に依存する。粒子形成がされない6.0wt%の試料においては、粒子が確認できる系と比較して試料中に存在するシリカ量が少ない事が考えられる。そのため相対的に試料中の硫酸ナトリウム量は多くなり先の様な強度の大小として観察されたと考えられる。
【実施例2】
【0054】
エマルジョン溶液にヘキサンを添加し内部に硫酸ナトリウムを内包した状態でPEGを析出させた。図28にはここで得られた試料のTG測定の結果を示す。本例の目的としてはPEG濃度の違いによって硫酸ナトリウムがどれほど粒子内部に取り込まれるか、その違いを定量化することにある。図28よりどの濃度においても300℃付近から重量減少が始まり400℃付近で重量はほぼ一定となった。そのため300℃付近よりPEGの熱分解が始まりおよそ400℃で完全に分解したと考えられる。この結果よりPEGの重量に対してどれだけの硫酸ナトリウムが取り込まれているのかがわかる。PEG7.5、3.0wt%の条件では重量減少率はそれぞれ57.1、58.2%とほぼ同じである。また、9wt%では、88.7%、6.0wt%では、93.7%であった。このことから粒子形成が確認出来ない6wt%においてもエマルジョン形性時には少量ではあるが硫酸ナトリウムが内部に取り込まれている事が示唆された。
図29には6.0wt%を除く粒子のDSC測定結果を示した。図29より測定したサンプル全てで吸放熱によるピークを確認することが出来た。また吸放熱量は 図28との結果と相関しており内部への硫酸ナトリウムの取り込み量が大きい粒子ほど高い蓄熱性を示した。つまりPEG7.5、3.0wt%の条件では、内部への取り込み量に差はなく蓄熱量にも大きな差は認められなかった。9.0wt%では他の濃度条件と比べて内部への取り込み量が少なく蓄熱量も大きく低下している。以上の結果から水相に用いるPEG濃度の違いによって蓄熱材である硫酸ナトリウムの内部への取り込み量には違いがあることが明らかとなった。
【実施例2】
【0055】
PEGの濃度が増加することによって硫酸ナトリウムとの相互作用が増加すると考えられる。そのため内部のPEGが増加するにつれて取り込まれる硫酸ナトリウムも増えると考えられる。しかし、本例の結果では濃度の小さい3wt%の条件において濃度の高い9wt%よりも高い蓄熱性能を示した。PEG濃度が増加するにつれて粒子内部におけるPEGの占める体積割合は大きくなる。そのため相互作用が強くなることに反して硫酸ナトリウムが内部に取り込まれ難い状態になっていると予想される。そのため、一定濃度以上のPEGが存在することにより内部に取り込まれる硫酸ナトリウム量は減少し、蓄熱性能が低下したように見られたと考えられる(図30参照)。
【実施例2】
【0056】
水相中に水溶性の高分子を溶解させ、水溶液の粘度を上げると共に溶解した高分子を一種のコアとして利用することにより、5~6μm程度の蓄熱材内包粒子を合成することに成功した。硫酸ナトリウム10wt%の条件で合成した粒子は数回の測定で蓄熱量に大きな変化はなく、安定した性能を示すことが明らかになった。また、ポリマー濃度を変化せることで蓄熱量に変化が見られたことからポリマーと硫酸ナトリウムの相互作用の変化により粒子内部への硫酸ナトリウムの内包量をある程度制御できることが示唆された。
【実施例3】
【0057】
〔カプセル粒子の合成〕
前記の通り、水溶液中に水溶性の高分子を溶解させ溶解した高分子をコアとして利用することにより蓄熱材を内部に内包したカプセル粒子が合成できることがわかった。また粒子内部に取り込まれる硫酸ナトリウムの量についてポリマーと硫酸ナトリウムとの相互作用が関係していることが示唆された。高分子としてPEGを用いたが既研究では、ポリアクリル酸(PAA)をコアとしてシリカ中空ナノ粒子の合成に成功したという報告がなされている。そこで本例では、種々のポリマーを用いて同様にカプセル粒子を合成し、その相互作用の違いを利用することで熱的特性のさらなる向上を目指した。また、エマルジョンの安定性や粒子形成への影響を調査し、その熱的特性を評価することにより本プロセスの適用の広汎性を調査した。
高分子鎖にヒドロキシ基やカルボキシ基などを持つ高分子を用いることでその静電的相互作用の違いによる硫酸ナトリウムの内包挙動の違いについて検討した。
【実施例3】
【0058】
〔原料〕
図31に各ポリマーの構造を示す。
【実施例3】
【0059】
〔製造方法〕
オクタノールにHPCを加え80℃で4時間撹拌し完全に溶解させた後、室温まで冷却しSpan 80を加え40℃で撹拌を行った。別の容器において、水中にPAA、PVA、PVP、PEIをそれぞれ加え溶解させた後、Teen 20を加え20分撹拌を行った。次いでアンモニア水を加え水相とした。この水相溶液を40℃で撹拌した状態の油層中に水相:油相が 1:9になるように添加した。30分撹拌した後粒子を作製した。反応終了後遠心分離を行い、エタノールで三回洗浄を行った。洗浄後10℃で一晩乾燥し粒子を得た。
図32に合成フローチャートを示す。表11にその際の試薬組成を示す。前例結果よりポリマー濃度は全て7.5wt%とした。
【実施例3】
【0060】
【表11】
JP0006703734B2_000015t.gif
【実施例3】
【0061】
〔評価〕
a.SEM
乾燥させた粒子を、カーボンテープを貼った真鍮製の試料台に固定することで観察試料を作製した。その後、OSMIUM PLASMA COATER OPC60A(フィルジェン社)によりオスミウムを蒸着させた。観察は走査型電子顕微鏡(JSM-7000F,JEOL社製)を用い、加速電圧は15.0kVとした。観察にはSecondary Electron Image(SEI)モードを用いた。
b.XRD測定
硫酸ナトリウムの結晶構造を確認するためにX線回折装置(RINT1000,Rigaku社製)を用いて、X線回折パターンの測定をした。
c.DSC測定
粒子の熱的特性を評価するために示差走査熱量計(Thermo Plus DSC8230,Rigak社製)を用いた。吸熱および発熱量の測定範囲-40℃~80℃、サイクル数3回、昇温・降温速度10℃/minの条件で測定を行った。また、測定は初め-40℃に冷却した状態から開始し80℃に昇温した後再び-40℃まで冷却し行った。結果は特に言及の無い場合は3回目の測定結果を示す。また、Thermo Plus2標準ソフトウェアを用いてピーク面積の積分値を計算し蓄熱量とした。
d.粘度測定
各ポリマーの水溶液(7.5wt%)および硫酸ナトリウムとポリマーの混合水溶液(硫酸ナトリウム:50wt%、ポリマー:7.5wt%)を回転式粘度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 HAAKE Rheo Stress 6000)を用いて以下の条件で粘度を測定した(せん断速度200~800m/s、測定時間60s、コーン c20/Ti)。
e.TG測定
ポリマー内部に内包されている硫酸ナトリウム量を定量するため、エマルジョン水溶液中にヘキサンを滴量加え溶解したPEGとその内部に取り込まれた硫酸ナトリウムを析出させた。その後試料を10℃で一晩乾燥させた。乾燥後試料を10℃/minで1000℃まで加熱しTG測定を行った。
【実施例3】
【0062】
〔結果と考察〕
図33~図36に各ポリマーを用いた条件で合成した粒子のSEMおよびEDS画像を示す。まず図33のPAAをポリマーコアとして用いた条件では、4μm、少し崩れた球状、表面に僅かな凹凸がある粒子が観察された。EDS分析により、NaとSが強く観察されSiが視野全体に広まっていることから硫酸ナトリウムの結晶である可能性が考えられる。図34のPEIをポリマーコアとして用いた条件では、約3μmの表面が少し粗い粒子が生成したことがわかる。EDS分析により粒子上にSiが観察され、視野全体にNa、Sが広がっていることからシリカ粒子である可能性が示唆された。図35のPVAを用いた条件では粒径約6μmの表面が滑らかな球状粒子が生成された事がわかった。またEDSの分析から他の粒子と比べ、粒子上に強くSi、Na、Sのマッピングが観察できる。そのため硫酸ナトリウムを内部に含んだシリカシェルが生成している可能性が示唆された。しかし、SEM及びEDSの結果からでは、硫酸ナトリウムが内部に存在しているのか、シリカ粒子上に付着した状態であるのかを断定することは難しい。図36のPVP条件では、4μm程度の表面が滑らかな球状粒子が生成した事がわかった。EDS分析ではPVAと同様に粒子上にすべてのマッピングがはっきりと観察された。そのため硫酸ナトリウムを内部に含んだシリカシェルが生成している可能性が示唆された。また図37に各試料のXRD測定の結果を示す。どの試料においても硫酸ナトリウムのピークを観察することが出来た。しかし、PAAやPEI条件のものは一部のピークが減少している。このことから試料中に含まれる硫酸ナトリウムの絶対量が他の二つと比べても少ないことがわかる。EDSやXRDの結果からだけでは硫酸ナトリウムが粒子の内部または外部に存在するのかを議論することはできない。しかしながら以上の結果より熱的特性に対して予想を立てることができる。つまり、シリカと硫酸ナトリウムが完全に分離していると考えられるPAA、PEIを用いた条件では熱的特性は観察されず、硫酸ナトリウムが粒子内部に内包されている可能性のあるPVA、PVPを用いた条件では熱的特性を観察することができると予想される。そのため次のDSC測定において実際に熱的特性の評価を行った。
図38に合成した各粒子のDSC測定結果を示す。結果よりPVAおよびPVPを用いた条件において昇温時に結晶が融解することに起因して現れる吸熱ピーク、降温時に結晶が凝固することによる放熱ピークが確認できた。PAA、PEIを用いた条件では、ピークが確認できない。これは先ほどのEDSの結果から予想される傾向とも一致している。表12にDSC測定結果より得られた各サンプルの蓄熱量を示す。前例の合成したPEGを7.5wt%加えた条件のものと本例で合成したPVA、PVP系のものを比べると約5分の1程に減少していることがわかる。これは後述するポリマーと硫酸ナトリウムの相互作用による違いだと考えられる。

【実施例3】
【0063】
【表12】
JP0006703734B2_000016t.gif
【実施例3】
【0064】
続いて、各ポリマー水溶液の粘度および2Mの硫酸ナトリウム水溶液を50wt%になるように調整した水溶液のそれぞれの粘度測定を行った。結果を図39に示す。
PVA単体の水溶液では粘度が300mPa/sと非常に大きい。一方で硫酸ナトリウムを加えたものは加えてないものに比べて非常に低い値となった。これは、硫酸ナトリウムを加えた条件では、PVAが十分に溶解していないためだと考えられる。本例においてもPVAを用いた条件では、硫酸ナトリウムを加えた際、溶液は白濁した状態になり、溶解していない硫酸ナトリウムが溶液中に分散している状態が観察された。そのためPVAに関しては、硫酸ナトリウムを加えた溶液中ではその溶解度は著しく下がることが推測される。図40にはPVAを用いた条件を除いた粘度測定の結果を示す。破線で表したものがポリマー単体の水溶液、実線で示したものがポリマーと硫酸ナトリウムの混合水溶液である。上述のように硫酸ナトリウム水溶液が50wt%になるように調整した。ポリマー毎の傾向に注目すると二通りに大別される。PAAやPEIは硫酸ナトリウムを加えた方が、粘度が高くなる傾向が見られた。一方で、PVPを用いたものは、硫酸ナトリウムを加えたものに粘度の減少が見られた。
次いで、カプセル粒子形成へのエマルジョン安定性の 影響を調査するために各ポリマー条件毎のエマルジョン径の時間経過による変化を、DLSを用いて調べた。図40~43に各エマルジョン形成溶液のDLS測定結果を示す。まず図41のPAA条件について注目すると、時間経過によるエマルジョン径はバラつきが大きく安定していないことがわかる。5分では800nmを中心に広範囲に分布している。30分後から僅かに微小化し、1hではシャープなピークが観察され500nm程度のエマルジョン径になった事がわかる。図41のPEI条件では始めPAA程大きなコアがなく時間経過とともに少しずつ肥大化し1h後には再び微小化している事がわかる。時間経過とともにエマルジョン同士が会合し肥大化しているが、1h後には肥大化したエマルジョンが崩壊し小さな粒径のものが残存していると考えられる。一方で、他のポリマーでは、エマルジョン径は比較的安定している。特に図43のPVPを用いた条件では、5minで約800nmの広い分布を示しているが15min、30min、1hと時間が経過しても粒径は変わらずほぼ一定である。そのため時間経過による径の変化は少なくエマルジョンが安定していると考えられる。
以上、粘度およびDLSによるエマルジョン径の測定により、PAA、PEIを用いた条件と、PVA、PVPを用いた条件では、挙動が異なることが明らかになった。特にPVPではエマルジョンはより安定している事が示唆された。こうした要因の一つとして硫酸ナトリウムとポリマーとの静電的相互作用の違いが考えられる。まず、PEIに着目すると、PEIはカチオン密度の高いポリマーとして良く知られている。そのため同じくカチオンであるナトリウムイオンとの静電反発が起こると考えられる。また、溶液中で硫酸イオンなどの陰イオンと複合体を形成し易いために粒子内部で硫酸ナトリウムが析出し難いと考えられる。また硫酸イオンと複合体を形成するためにPEI単体と比べて分子鎖運動性が下がったために粘度が減少したのではないかと考えられる。またPAA、PVAでは共に分子鎖に含まれるカルボキシ基、ヒドロキシ基の静電的相互作用により硫酸ナトリウムが内部に取り込まれ易いのではないかと予想した。しかし結果としてPVAではカプセル粒子が合成できたがPAAでは合成出来なかった。これは、二つ官能基の静電的相互作用の強さによる差であると考えられる。PVPについては、他ポリマーと違う要因が考えられる。PVPは図31に示すように一つの分子中に親水基と親油基を併せ持つ両親媒性の高分子である。水溶液中では、親水性部分を外側に親油性部分を内側に向け会合することが知られている。そのため水中で素早く会合することにより運動性が低下し、時間経過によるエマルジョン径の安定性が他のポリマーより高くなったと考えられる。また、硫酸ナトリウムを加えると粘度が減少することについて、会合状態のPVPに硫酸ナトリウムが吸着することによりその会合状態が緩み分子鎖の運動性が増加すると推測される。それにより粘度が減少したのではないかと考えられる(図44参照)。
【実施例3】
【0065】
本例を通してコアとして用いるポリマー種を変更した際にも蓄熱材内包粒子を合成できることが明らかになった。用いるポリマー種によりカプセル粒子を合成できるもとそうでないものがあると明らかになり、疎水性相互作用による分子鎖挙動や蓄熱材と相互作用の違いが原因であることが示唆された。そのため応用時には用いる蓄熱材とポリマーとの相互作用について詳細に分析することが不可欠であると考えられ、適切なポリマーの選択が必要になると考えられる。
【実施例3】
【0066】
本発明ではカプセル粒子中に蓄熱材を内包することで、融解時の漏出を防止することや相分離の減少などが期待できることから、NaSO・10HOをPCMとして用い、マイクロカプセル化技術を応用することで蓄熱材内包カプセル粒子の合成を行った。またその合成プロセスにおいて、合成条件が粒子形成に与える影響について考察した。
実施例2ではシクロヘキサン溶媒中に硫酸ナトリウム水溶液を添加し、W/Oエマルジョンを形成させ、その表面をシリカでコーティングすることによりカプセル粒子を合成することに成功した。その粒子形成プロセスでは、界面活性剤濃度が主に粒径に影響を与えることが明らかになった。また、粒径の変化に伴い内部のPCMの凝固点が変化していることから粒径を制御することにより凝固点を制御することができる可能性が示唆された。また、粒子形成にかかる反応時間について触媒に3-3’ジアミノジプロピルアミンを用いることで18時間の短縮に成功した。その際には触媒が持つアミノ基(触媒能)と粘度が重要なファクターであることわかった。
実施例2では水相中に水溶性の高分子を溶解させ、水溶液の粘度を上げると共に溶解した高分子を一種のコアとして利用することにより、5~6μm程度の蓄熱材内包粒子を合成することに成功した。硫酸ナトリウム10wt%の条件で合成した粒子は数回の測定で蓄熱量に大きな変化はなく、安定した性能を示すことが明らかになった。また、ポリマー濃度を変化せることで蓄熱量に変化が見られたことからポリマーと硫酸ナトリウムの相互作用の変化により粒子内部への硫酸ナトリウムの内包量をある程度制御できることが示唆された。
実施例3において、水相中に溶解させる高分子を変更した際にも蓄熱材内包粒子を合成できることが明らかになった。用いる高分子によりカプセル粒子の形成に差異があり、疎水性相互作用による分子鎖挙動や蓄熱材との相互作用の違いが原因であることが示唆された。そのため応用時には用いる蓄熱材とポリマーとの相互作用について詳細に分析することが不可欠であると考えられ、適切なポリマーの選択が必要になると考えられる。
以上の通り、PCMにマイクロカプセル化技術を応用することにより、繰り返しの使用を行っても蓄熱性能の低下しない蓄熱材内包粒子の合成が可能であることが明らかになった。また、内部のPCMに対して適切な高分子を使用することにより蓄熱性能の向上を図ることができることも明らかになった。同様に適切な配合比、製造条件の選択をすることで、NaSO・10HO以外の様々なPCMに対しても応用可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る混合粘性蓄熱体およびその製造方法によれば、透明蓄熱塗料、透明蓄熱フィルムとして利用できるばかりでなく、各種コーティング材、フィルムに練り込んで使用可能である。


図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
11
【図13】
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【図14】
13
【図15】
14
【図16】
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【図17】
16
【図18】
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【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
26
【図28】
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【図29】
28
【図30】
29
【図31】
30
【図32】
31
【図33】
32
【図34】
33
【図35】
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【図36】
35
【図37】
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【図38】
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【図39】
38
【図40】
39
【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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