TOP > 国内特許検索 > グラフェン及び化学修飾グラフェンの製造方法 > 明細書

明細書 :グラフェン及び化学修飾グラフェンの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-222538 (P2017-222538A)
公開日 平成29年12月21日(2017.12.21)
発明の名称または考案の名称 グラフェン及び化学修飾グラフェンの製造方法
国際特許分類 C01B  32/15        (2017.01)
C01B  32/18        (2017.01)
C01B  32/182       (2017.01)
H05H   1/24        (2006.01)
B82Y  30/00        (2011.01)
B82Y  40/00        (2011.01)
FI C01B 31/02 101Z
H05H 1/24 ZNM
B82Y 30/00
B82Y 40/00
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 18
出願番号 特願2016-119006 (P2016-119006)
出願日 平成28年6月15日(2016.6.15)
発明者または考案者 【氏名】真下 茂
【氏名】速水 真也
【氏名】竹平 裕
出願人 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100101373、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 茂雄
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100112634、【弁理士】、【氏名又は名称】松山 美奈子
審査請求 未請求
テーマコード 2G084
4G146
Fターム 2G084AA26
2G084BB37
2G084CC08
2G084CC23
2G084CC35
2G084DD12
2G084DD14
2G084DD63
2G084DD67
2G084EE17
2G084EE18
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB07
4G146AC02B
4G146AC16B
4G146AC27B
4G146AD12
4G146AD22
4G146AD23
4G146AD24
4G146AD28
4G146AD35
4G146BA01
4G146BA11
4G146BA40
4G146BA42
4G146BA49
4G146BC16
4G146BC41
4G146BC47
4G146DA03
4G146DA16
要約 【解決課題】グラフェン、ナノグラフェン、及び化学修飾グラフェンを簡易的かつ大量に合成する方法を提供する。
【解決手段】化学修飾型グラフェンの製造方法であって、化学修飾基を構成する原子を含む溶媒中に一対の炭素電極を浸漬させ、当該一対の炭素電極間に火花放電を繰り返し発生させ、当該一対の炭素電極から化学修飾型グラフェンを形成することを特徴とする方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
溶媒中に一対の炭素電極を浸漬させ、当該一対の炭素電極間にパルス状に火花放電を繰り返し発生させ、当該一対の炭素電極からグラフェンを形成することを特徴とする方法。
【請求項2】
溶媒中に一対の炭素電極を浸漬させ、
当該一対の炭素電極に、10V以上500V以下の電圧、1μs以上50μs以下の立ち上がり期間、10μs以上200μs以下のパルス幅の条件でパルス状に電圧を周期的に印加して、パルスプラズマを繰り返し発生させ、
当該一対の炭素電極からグラフェンを形成することを特徴とする方法。
【請求項3】
前記溶媒は、水、水酸化ナトリウム水溶液、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、又はトルエンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
化学修飾型グラフェンの製造方法であって、
化学修飾基を構成する原子を含む溶媒中に一対の炭素電極を浸漬させ、当該一対の炭素電極間にパルス状に火花放電を繰り返し発生させ、当該一対の炭素電極から化学修飾型グラフェンを形成することを特徴とする方法。
【請求項5】
化学修飾型グラフェンの製造方法であって、
化学修飾基を構成する原子を含む溶媒中に一対の炭素電極を浸漬させ、
当該一対の炭素電極に、10V以上500V以下の電圧、1μs以上50μs以下の立ち上がり時間、10μs以上200μs以下のパルス幅の条件でパルス状に電圧を周期的に印加して、パルスプラズマを繰り返し発生させ、
当該一対の炭素電極から化学修飾型グラフェンを形成することを特徴とする方法。
【請求項6】
前記化学修飾基を構成する原子は、N、F、Cl、Br、I、F、又はSである、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記化学修飾基を構成する原子を含む溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,2,2-テトラクロロエタン、トリフルオロ酢酸、1,3,5-トリフルオロベンゼンメタノール溶液、液体臭素、1,1,2,3-テトラブロモエタン、ブロモホルム、四臭化炭素ヘキサン溶液、ヨウ化メチル、ヨウ素溶液、ジヨードメタン、ヨードホルムメタノール溶液、アセトニトリル、アンモニア、二硫化炭素又は融解硫黄溶液である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項8】
形成されるグラフェンは、固溶体のナノ粒子である、請求項1~7のいずれか1に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン及び化学修飾グラフェンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは炭素で構成された二次元シートであり、優れた伝導特性をもつことから、特にエレクトロニクスの分野で注目されている材料である。これまで提案されているグラフェンの作製法としては、メタンガスなどを高温、真空下でフローすることによって、銅基板上にグラフェンを作製するCVD法、スコッチテープを用いて高純度グラファイトからグラフェンを剥離し、基板に転写する機械的剥離法、Liなどでグラフェンにインターカレーションを行ない剥離する化学的剥離法、ベンゼン類縁体を出発原料としてナノグラフェンを合成するボトムアップ方式の有機合成法などが主にあげられる。
【0003】
水中で発生させるプラズマを利用したグラフェンの製造方法として、水又は水溶液中に一対の炭素電極を浸漬させて、電圧1kV~2kV、パルス幅0.5μs~4μs、周波数5kHz~50Hzの条件でパルス状に電圧を印加してグロー放電プラズマを発生させ、炭素電極からグラフェンを形成する方法が提案されている(特許文献1)。当該方法は、電子温度は高いがイオンや中性粒子の温度が低い非平衡状態にある低温プラズマであるグロー放電プラズマを発生させることによって、炭素電極間に作用するエネルギーを極微量に制限し、プラズマ活性種が炭素電極に衝突した際に、炭素電極の表面から炭素成分をグラフェンの形態で剥がし取るものである。
【0004】
また、バンドギャップが存在しないグラフェンを化学修飾することによって、バンドギャップを付与することができる。水素化やハロゲン化、窒素化、欠陥の導入などの化学修飾により、吸着能や発光性を発現させ、あるいは水素ストレージなどにも応用することができる。グラフェンに化学修飾を行なうには、CVD法により窒素をフローすることによって、グラフェンに窒素を導入する手法を始め、ドナー性又はアクセプター性の化合物をグラフェンに物理吸着させる手法、またハロゲン化においては、フッ素、塩素プラズマ法や光化学的反応、マイクロウエーブを利用した手法などが報告されている。
【0005】
しかしながら、これらの作製法は大量合成に不向きであり、温度や雰囲気などの条件の厳しい制御を必要とすることがほとんどである。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2014-152095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、グラフェン、ナノグラフェン、及び化学修飾グラフェンを簡易的かつ大量に合成する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、グラフェン、ナノグラフェン、及び化学修飾グラフェンを簡易的かつ大量に合成する方法を提供する。また、本発明は、溶媒に浸漬した一対の炭素電極間に火花放電によるパルスプラズマ又は瞬間的なアーク放電によるパルスプラズマをパルス状に繰り返し印加する方法において、溶媒の選択及び印加電圧の選択によって所望の化学修飾を施したグラフェンを簡易かつ大量に合成する方法であって、化学修飾したい元素を含む溶媒に一対の炭素電極を浸漬させ、所定の電圧を印加して、炭素電極間にパルスプラズマを発生させ、所望の元素で化学修飾されたグラフェンを合成する方法を提供する。
【0009】
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[1]溶媒中に一対の炭素電極を浸漬させ、当該一対の炭素電極間にパルス状に火花放電を繰り返し発生させ、当該一対の炭素電極からグラフェンを形成することを特徴とする方法。
[2]溶媒中に一対の炭素電極を浸漬させ、
当該一対の炭素電極に、10V以上500V以下の電圧、1μs以上50μs以下の立ち上がり期間、10μs以上200μs以下のパルス幅の条件でパルス状に電圧を周期的に印加して、パルスプラズマを繰り返し発生させ、
当該一対の炭素電極からグラフェンを形成することを特徴とする方法。
[3]前記溶媒は、水、水酸化ナトリウム水溶液、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、又はトルエンである、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]化学修飾型グラフェンの製造方法であって、
化学修飾基を構成する原子を含む溶媒中に一対の炭素電極を浸漬させ、当該一対の炭素電極間にパルス状に火花放電を繰り返し発生させ、当該一対の炭素電極から化学修飾型グラフェンを形成することを特徴とする方法。
[5]化学修飾型グラフェンの製造方法であって、
化学修飾基を構成する原子を含む溶媒中に一対の炭素電極を浸漬させ、
当該一対の炭素電極に、10V以上500V以下の電圧、1μs以上50μs以下の立ち上がり時間、10μs以上200μs以下のパルス幅の条件でパルス状に電圧を周期的に印加して、パルスプラズマを繰り返し発生させ、
当該一対の炭素電極から化学修飾型グラフェンを形成することを特徴とする方法。
[6]前記化学修飾基を構成する原子は、N、F、Cl、Br、I、F、又はSである、[4]又は[5]に記載の方法。
[7]前記化学修飾基を構成する原子を含む溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,2,2-テトラクロロエタン、トリフルオロ酢酸、1,3,5-トリフルオロベンゼンメタノール溶液、液体臭素、1,1,2,3-テトラブロモエタン、ブロモホルム、四臭化炭素ヘキサン溶液、ヨウ化メチル、ヨウ素溶液、ジヨードメタン、ヨードホルムメタノール溶液、アセトニトリル、アンモニア、二硫化炭素又は融解硫黄溶液である、[4]又は[5]に記載の方法。
[8]形成されるグラフェンは、固溶体のナノ粒子である、[1]~[7]のいずれか1に記載の方法。
【0010】
本発明の製造方法では、一対の炭素電極間に、溶媒中で火花放電又は瞬間的なアーク放電によるパルスプラズマを発生させる。アーク放電プラズマは、粒子密度が高く、イオンや中性粒子の温度が電子温度とほぼ等しい局所熱平衡状態にある熱プラズマである。生産量は火花放電の方がすぐれている。
【0011】
液中にて火花放電又は瞬間的なアーク放電をパルス状に繰り返すことにより、炭素電極材料が瞬間的に蒸発し、イオン化(プラズマ)状態になり、冷却の際に炭素原子が凝集し、そのまま常温でグラフェンが合成される。液中でナノ粒子が合成され、合成されたナノ粒子は液中に浮遊するので、ナノ粒子の凝集を防ぐことができる。合成されたナノ粒子は液中に沈殿することもあるが、このときにナノ粒子の凝集は起こらない。ここで、凝集とは、ナノ粒子同士が互いに結合し合い、撹拌によって分離し難くなっていることを指す概念である。このように、本実施の形態では、従来の方法で問題となっていたナノ粒子の凝集が生じない。従って、ナノ粒子を分散させた状態で得ることができる。
【0012】
また、本発明の方法では、従来から研究されている真空中や空気中の直流のアーク放電を用いる方法とは異なり、液体中での繰り返し火花放電又は瞬間的なアーク放電をパルス状に繰り返し用いることによる瞬間的なプラズマ状態と急冷効果により、ナノグラフェンはもとより、修飾グラフェンなど準安定相を合成することができる。
【0013】
一対の炭素電極間に周期的に印加する電圧は、10V以上500V以下の範囲、好ましくは30V以上400V以下の範囲である。このとき、電流ピーク値は、数A~数100A、例えば1A以上200A以下、好ましくは1A以上50A以下、より好ましくは1A以上20A以下で変動する。電流平均値は数A以下、例えば0.1A以上10A以下である。パルス幅は、10μs以上200μs以下の範囲、好ましくは10μs以上100μs以下、より好ましくは10μs以上50μs以下の範囲である。パルス電流を出力する際に、パルス電流の立ち上がり期間を、例えば、1μs以上50μs以下、好ましくは1μs以上20μs以下とする。このとき、パルス間隔は、限定されるものではないが、好ましくは5ms以上20ms以下となる。
【0014】
一対の炭素電極間に印加する電圧を制御することで、得られるグラフェンの寸法を制御することができる。例えば、水を溶媒として用いる場合には、印加する電圧が大きいほど、グラフェンの寸法は小さくなり、数10nmの寸法まで製造することができる。印加する電圧及びパルス条件を適切に制御することで、微細で均一な単層のグラフェンシートを合成することができる。
【0015】
本発明の方法において、化学修飾型グラフェンを製造する場合には、化学修飾したい元素を含む溶媒中に一対の炭素電極を浸漬させて、上記条件で火花放電プラズマ又はアーク放電プラズマをパルス状に繰り返し印加する。化学修飾したい元素を含む溶媒は、所望の元素を含む物であれば特に限定されないが、揮発性、引火性、毒性を考慮して選択することが好ましい。例えば、ハロゲン元素で化学修飾したい場合には、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子を含む溶媒を用いることができる。塩素原子を含む溶媒としては、ジクロロメタン(CHCl)、クロロホルム(CHCl)、四塩化炭素(CCl)、1,1,2,2-テトラクロロエタンン(CHClCHCl)、などを好ましく挙げることができる。フッ素原子を含む溶媒としては、トリフルオロ酢酸(CFCOOH)、1,3,5-トリフルオロベンゼンメタノール溶液などを好ましく挙げることができる。臭素原子を含む溶媒としては、常温で液体である臭素(Br)、1,1,2,3-テトラブロモエタン(CHBrCHBr)、ブロモホルム(CHBr)、四臭化炭素(CBr)ヘキサン溶液などを好ましく挙げることができる。ヨウ素原子を含む溶媒としては、ヨウ化メチル(CHI)、ヨウ素溶液(I)、ジヨードメタン(CH)、ヨードホルムメタノール溶液などを好ましく挙げることができる。あるいは、窒素原子で化学修飾したい場合には、アセトニトリル(CN)、アンモニア(NH)などを好ましく挙げることができる。また硫黄原子で化学修飾したい場合には、二硫化炭素(CS)、融解させた硫黄溶液などを好ましく挙げることができる。
【0016】
塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子、イオウ原子などを含む溶媒を用いる場合、プラズマを発生させたときにフッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子、塩素原子、イオウ原子などが炭素と結合して修飾グラフェンが生成される。
【0017】
本方法によりグラフェンに導入することができる元素量は、溶媒として不安定な物質であるほど多量になる。たとえば、四塩化炭素とクロロホルムとでは、四塩化炭素の方が塩素原子数は多いが安定な溶媒であるため、より不安定な溶媒であるクロロホルムの方がより多量に塩素原子を導入することができる。
【0018】
また、この製造方法では、放電面積を大きくするだけで、生産量を大きくすることができ、放電面積の増大に技術上の制約は無い。従って、この製造方法は、固溶体のナノ粒子の量産に適切である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、たとえば以下の効果を得ることができる。
(1)数十nmまでのナノグラフェンを作製することができる。グラフェンの寸法は、印加電圧及び電流量、溶媒を変更することによって制御することができる。
(2)溶媒を変更することによって、グラフェンやナノグラフェン、窒素やホウ素、リン、ハロゲン元素(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、カルコゲン(イオウ、セレン、テルル)で化学修飾したグラフェンを作製することができ、またその導入量や寸法も制御することができる。例えば、アンモニアやアセトニトリルなどであればNドープ、クロロメタンやクロロホルムなどであればClドープを行なうことができ、この量は溶媒の種類と濃度で調整することが可能である。
(3)クロロ化に関して、クロロホルムを使用したときに元素比として27.4%のクロロを導入することができる。
(4)作製時間を大幅に短縮することができ、溶媒によっては数分で作製可能である。
(5)大量合成が可能であり、溶媒によっては1時間あたりグラムスケールの合成が可能である。たとえば200mLのビーカー中のクロロホルムに浸漬したグラファイト電極に、1kHz、240Vの電圧を20分間印加して0.72g(2.16g/h)と多量のClドープグラフェンが得られる。
(6)低電気エネルギーで、高真空や高圧電源を必要としないため、低廉な製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の製造方法において用いる製造装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】実施例1において合成した各サンプルのXPSチャートである。
【図3】実施例2において合成したN-ドープグラフェンのXPSチャートである。
【図4】実施例2において合成したN-ドープグラフェンのXPSチャートである。
【図5】実施例3において合成したCl-ドープグラフェンのXPSチャートである。
【図6】実施例4において合成したF-ドープグラフェンのXPSチャートである。
【図7】実施例5において合成したBr-ドープグラフェンのXPSチャートである。
【図8】実施例6において合成したI-ドープグラフェンのXPSチャートである。
【図9】実施例7において合成したS-ドープグラフェンのXPSチャートである。
【図10】実施例8においてグラファイト電極間に液中パルスプラズマ(火花放電)を15分間印加した後の状況を示す写真である。
【図11】実施例9において合成したグラフェンシートのAFM観察画像である。
【図12】実施例10において合成したClドープグラフェンシートのAFM観察画像である。
【図13】グラフェン/ナノグラフェンへの化学修飾を示す構造式である。
【図14】ケルビンプローブフォース顕微鏡で測定したClドープグラフェンシートの電位像写真と二点間の電位差を示すグラフである。
【実施形態】
【0021】
以下、添付図面を参照しながら本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
図1は、本発明の方法を実施するために用いるナノ粒子製造装置1の概略構成の一例を示す説明図である。ナノ粒子製造装置1は、例えば、電源装置10、一対の炭素電極20、反応容器30、および振動装置50を備えている。反応容器30には、水、水溶液又は化学修飾したい元素を含む溶媒40(以下、単に「溶媒等40」と略す。)が収容されている。なお、振動装置50については、省略することも可能である。
【0023】
電源装置10は、一対の炭素電極20間にパルス状の火花放電プラズマまたはアーク放電プラズマを発生させるために、10V以上500V以下の範囲の電圧をパルス状に周期的に出力可能であればよく、特に制限されるものではない。安全性や、特殊な装置の必要性を考慮して、電源装置10は、好ましくは30V以上400V以下の範囲で使用される。エネルギー効率を考慮して、電源装置10は、例えば、時間平均で、0.1A以上10A以下の範囲で使用される。このときの電流ピーク値は、数A以上数100A以下の範囲に出現し、例えば、1A以上200A以下、好ましくは50A以下、より好ましくは20A以下の範囲に出現する。また、パルス電流の立ち上がり期間を、例えば、1μs以上50μs以下、好ましくは1μs以上20μs以下とする。
【0024】
一対の炭素電極に、定期的又は間欠的に振動を与えてもよい。振動を与えると、電極間に析出するグラフェンが滞留しにくくなり、放電が効率的に行われるため好ましい。
【0025】
一対の炭素電極20としては、棒状、針金状、板状など所望の形状及び寸法の炭素電極を用いることができる。化学修飾を制御したグラフェンを合成するには、高純度のグラファイト電極(99.99%以上)が好ましいが、必要に応じて純度や原料を変えてもよい。
【0026】
溶媒等40は、一対の炭素電極20間で液中パルス放電を行うばかりではなく、液中パルス放電による生成物を一時的に貯蔵する作用も有する。溶媒等40の量は、特に制限されるものではないが、少なくとも、反応容器30中で、一対の炭素電極20の少なくとも一部が溶媒等40中に存在でき、液中パルス放電により飛散消失せず、また、液中パルス放電による生成物の溶媒中における拡散性が失われない程度の量とすることが望ましい。放電時の溶媒等40の温度は、特に制限されるものではなく、種類にも依存するが、通常、室温~300℃の範囲で放電が行われる。溶媒等40の温度が高すぎる場合には、溶媒等40の蒸気圧が上がり、溶媒等40が引火性の液体であるときには放電による引火の可能性がある。他方、溶媒等40の温度が低すぎる場合には、溶媒等40の粘度が上がり、液中パルス放電による生成物の拡散性が損なわれる可能性がある。溶媒等40の温度は、これらを考慮した温度にしておくことが好ましい。たとえば、溶媒等40が水の場合には20℃~80℃の温度範囲、溶媒等40がクロロホルムの場合には20℃~50℃の温度範囲が好ましい。
【0027】
振動装置50は、一対の炭素電極20に振動を与えるものである。炭素電極20に振動を与えることで、炭素電極20表面に生成される析出物が電極20表面で滞留することを防止し、放電を効率的に行うことができる。振動装置50は、炭素電極20に定期的に振動を与えてもよいし、連続的または間欠的に振動を与えてもよい。また、反応が進行して一対の炭素電極20付近の溶媒等40の濃度及び温度が変化することを防止し、一対の炭素電極20表面の冷却を効率的に行うために、ナノ粒子製造装置1は、撹拌装置など、溶媒等40を流動させる機構を備えていてもよい。
【0028】
本発明によるグラフェン又は化学修飾型グラフェンは、反応容器30に所望の溶媒等40を適量仕込み、溶媒等40に一対の炭素電極20を浸漬させ、電源装置10により所望の電圧を印加して、一対の炭素電極20間に火花放電又はアーク放電のパルスプラズマを繰り返し発生させることにより製造することができる。パルスプラズマを繰り返し作用させることで、炭素電極20表面にグラフェンが形成されて瞬間的に冷却され、好ましくは振動装置50により炭素電極20表面に与えられる振動によってグラフェンを炭素電極20表面から剥離させて溶媒等40中に拡散させることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。下記実施例において、特に断らない限り、「電流(A)」は平均値を意味し、電流ピーク値ではない。
【0030】
[実施例1]
表1に示す溶媒を入れた200mlビーカーに、円柱状のグラファイト電極(純度99.9995%、Φ=6.15mm)2本を浸漬して、電極に振動を与えながら、表1に示す条件にて電圧をパルス状に周期的に印加して(パルス間隔:8~17ms)、グラファイト電極間に火花放電のパルスプラズマを繰り返し発生させ、グラフェン及び化学修飾グラフェンを合成し、XPSにて分析した。XPSチャートを図2に示す。サンプルNo.1は対照としてのグラフェン電極である。図2は、C1sスペクトルであり、各スペクトルにおいて、分離されたスペクトルの実線はC=C結合、破線はCH結合を示す。図2から、水やアルコール系のOH基を含む溶媒を用いると、構造欠陥や酸素官能基の比較的少ないグラフェンを合成できることがわかる。またトルエンにおいては、C60が作製されるため、酸素官能基が殆ど認められない。
【0031】
【表1】
JP2017222538A_000002t.gif
表2に各基の存在比率を示す。
【0032】
【表2】
JP2017222538A_000003t.gif
表3に各元素の存在比率を示す。
【0033】
【表3】
JP2017222538A_000004t.gif
本方法は火花放電を利用するので、グロー放電に比べて電流が極めて大きく大量生産に向いている。また、液体をハロゲン溶液などにすることにより修飾型グラフェンを容易に合成することができる。
【0034】
[実施例2]
表4に示す溶媒を入れた200mlビーカーに、グラファイト電極2本を浸漬して、電極に振動を与えながら、表4に示す条件にてパルス状に火花放電を発生させ、N-ドープグラフェンを合成し、XPSにて分析した。XPSチャートを図3及び図4に示す。図3左側は、アセトニトリルを溶媒として用いたNo.8サンプルについてのC1sスペクトルであり、図3右側は同じNo.8サンプルのN1sスペクトルである。図4左側はアンモニアを溶媒として用いたNo.9サンプルについてのC1sスペクトルであり、図4右側は同じNo.9サンプルについてのN1sスペクトルである。図3左側及び図4側のスペクトルにおいて、分離されたスペクトルの実線はC—N結合、破線はC=C結合を示す。図3右側及び図4右側のスペクトルにおいて、分離されたスペクトルの実線はC—N結合である。Nの結合様式は化1で示すとおりである。
【0035】
【表4】
JP2017222538A_000005t.gif
表5に各基の存在比率を示す。
【0036】
【表5】
JP2017222538A_000006t.gif
表6に各元素の存在比率を示す。
【0037】
【表6】
JP2017222538A_000007t.gif
図3及び4のN1sスペクトルから、溶媒としてアセトニトリル及びアンモニアを用いると、主にピロリック型(下記構造式Pyrrolic参照)でNが導入されていることがわかる。
【0038】
【化1】
JP2017222538A_000008t.gif
表7に、N導入のピロリック型(Pyrrolic)、ピリジン型(Pyridinic)、グラファイト型(Graphitic)及び酸化物型の存在比率を示す。
【0039】
【表7】
JP2017222538A_000009t.gif
[実施例3]
表8に示す溶媒を入れた200mlビーカーに、グラファイト電極2本を浸漬して、電極に振動を与えながら、表8に示す条件にてパルス状に火花放電を発生させ、Cl-ドープグラフェンを合成し、XPSにて分析した。XPSチャートを図5に示す。図5上段はC1sスペクトルであり、分離されたスペクトルの実線はC—Cl結合、破線はC=C結合を示す。図5下段はCl2pスペクトルである。図5上段に示すように、C1sスペクトルでは、C-ClのピークとC-OHのピークとが重なってしまうため、Cl2pスペクトルのピークからCl-ドープの比率(Cl/C+Cl)を算出したところ、CHCl、CHCl、CClについてそれぞれ9.75%、29.67%及び12.62%であった。またCHClに関して収量は1時間当たり2.16gであった。
【0040】
【表8】
JP2017222538A_000010t.gif
表9に各基の存在比率を示す。
【0041】
【表9】
JP2017222538A_000011t.gif
表10に各元素の存在比率を示す。
【0042】
【表10】
JP2017222538A_000012t.gif
グラフェンに対するClの導入量は、溶媒としての安定性が最も低いCHClが最も多く、次いでCCl、CHClの順番に低下することがわかる。
【0043】
[実施例4]
表11に示す溶媒を入れた200mlビーカーに、グラファイト電極2本を浸漬して、電極に振動を与えながら、表11に示す条件にてパルス状に火花放電を発生させ、F-ドープグラフェンを合成し、XPSにて分析した。XPSチャートを図6に示す。図6上段は溶媒としてCFCOOHを用いた場合、図6下段は溶媒として1,3,5-トリフルオロベンゼンを用いた場合であり、それぞれ左側はC1sスペクトルであり、右側はF1sスペクトルである。C1sスペクトルにおいて、分離されたスペクトルの実線はC—F結合、破線はC=C結合を示す。F1sスペクトルにおいてもC-F結合が確認できる。
【0044】
【表11】
JP2017222538A_000013t.gif
表12に各官能基の結合エネルギー値を示す。
【0045】
【表12】
JP2017222538A_000014t.gif
表13に各元素の存在比率を示す
【0046】
【表13】
JP2017222538A_000015t.gif
[実施例5]
表14に示す溶媒を入れた200mlビーカーに、グラファイト電極2本を浸漬して、電極に振動を与えながら、表14に示す条件にてパルス状に火花放電を発生させ、Br-ドープグラフェンを合成し、XPSにて分析した。XPSチャートを図7に示す。図7左は溶媒としてBrを用いた場合であり、図7中央は溶媒としてCHBrCHBrを用いた場合、図7右は溶媒としてCBrを用いた場合である。また、それぞれ上段はC1sスペクトルであり、右側はBr3dスペクトルである。C1sスペクトルにおいて、分離されたスペクトルの実線はCとFとの結合、破線はC=C結合を示す。286.2eV付近にC-Br基のピークが認められ、Br3dスペクトルにおいてもC-Brの結合が確認できる。
【0047】
【表14】
JP2017222538A_000016t.gif
表15に各元素の存在比率を示す
【0048】
【表15】
JP2017222538A_000017t.gif
[実施例6]
表16に示す溶媒を入れた200mlビーカーに、グラファイト電極2本を浸漬して、電極に振動を与えながら、表16に示す条件にてパルス状に火花放電を発生させ、I-ドープグラフェンを合成し、XPSにて分析した。XPSチャートを図8に示す。図8下段は溶媒としてCHIを用いた場合、図8上段は溶媒としてIを用いた場合であり、それぞれ左側はC1sスペクトルであり、上段右側はI3dスペクトルであり、下段右側はBr3dスペクトルである。C1sスペクトルにおいて、分離されたスペクトルの実線がC-I結合であり、破線はC=C結合のピークである。C1sスペクトルにおいて、285.8eV付近にC-I基のピークが認められ、I3dスペクトルにおいても621eV付近にC-Iの結合が確認できる。
【0049】
【表16】
JP2017222538A_000018t.gif
表17に各元素の存在比率を示す
【0050】
【表17】
JP2017222538A_000019t.gif
[実施例7]
表18に示す溶媒を入れた200mlビーカーに、グラファイト電極2本を浸漬して、電極に振動を与えながら、表18に示す条件にてパルス状に火花放電を発生させ、S-ドープグラフェンを合成し、XPSにて分析した。XPSチャートを図9に示す。分離されたスペクトルの実線がC-S結合であり、破線はC=C結合のピークであり、285.6eV付近にC-S基のピークが認められる。
【0051】
【表18】
JP2017222538A_000020t.gif
表19に各元素の存在比率を示す
【0052】
【表19】
JP2017222538A_000021t.gif
[実施例8]
溶媒としての水を入れたビーカーに、グラファイト電極2本を浸漬して、電極に振動を与えながら、電圧を60V、100V、200V及び240Vに変えて、グラファイト電極間に液中パルスプラズマ(火花放電)を15分間印加して、グラフェンシートを合成した。パルス間隔は8-17msであった。反応後の得られたグラフェンを図10に示し、実際に得られたグラフェンの収量を表20に示す。印加する電圧が増加するにしたがって、得られるグラフェンの量が増加していることがわかる。
【0053】
【表20】
JP2017222538A_000022t.gif
[実施例9]
溶媒としてHOを用い、電圧を60V、100V、200V及び240Vに変えて、炭素電極間に電極に振動を与えながら液中パルスプラズマ(火花放電)を印加して、グラフェンシートを合成した。パルス間隔は8-17msであった。得られたグラフェン溶液をマイカに滴下乾燥し、AFM測定を行なった。グラフェンシートのAFM像を図11に示す。表21にAFM観察画像から読み取ったグラフェンナノシートの寸法を示す。印加電圧が高くなるほど、グラフェンナノシートの寸法は小さくなる。
【0054】
【表21】
JP2017222538A_000023t.gif
[実施例10]
溶媒としてCHClを用い、電圧を60V、100V、200V及び240Vに変えて、炭素電極間に電極に振動を与えながら液中パルスプラズマ(火花放電)を印加して、グラフェンシートを合成した。パルス間隔は8-17msであった。2時間超音波処理を行ない、得られたグラフェンを4800rpmで1時間遠心分離し、得られた溶液をSi基板に滴下乾燥し、AFM測定を行なった。電圧240Vの場合に得られたClドープのグラフェンシートのAFM像を図12に示す。AFM観察画像から、数十nmのグラフェンナノシートが得られていることがわかる。
【0055】
[物性]
本発明では溶媒を変更することによって、窒素やホウ素、リン、ハロゲン元素(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)、カルコゲン(イオウ、セレン、テルル)で化学修飾したグラフェンを作製することができ、その物性も制御できる。例えば、表8に示す溶媒を入れた200mlビーカーに、グラファイト電極2本を浸漬して、表8に示す条件にてCl-ドープグラフェンを合成し、これらをSi基板に滴下、乾燥させたサンプルをケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)で測定した。CHClでの場合を例にとると、左図で示す電位像上から二点とり、この二点間(図中白線で表示)の電位とそのシートの厚さを示したグラフが右図である。電位が減少すると電位像が黒く表示され、右図のグラフでは基板の電圧430mVから390mVに減少していることがわかる。さらにCHCl、CHCl、CClを使用したときの電位像を比較すると、ドープする量が増加するにしただって、KPFMの電位像が減少していることがわかる。ハロゲンドープをした一般的なグラフェンはp型の挙動を示すが、ドープ量が増加するに従い、化学修飾グラフェンの接触電位差つまり仕事関数の値が減少してN型半導体の挙動に近づいていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の合成方法により得られる化学修飾されたグラフェンは、グラフェン同様に伝導特性に優れ、またバンドギャップを制御できるので、半導体素子としても使用することができる。そのためFETやセンサー、電極などで使用が期待できる。また化学的視点から触媒活性が非常に優れていることから電極の触媒としても期待できる。また化学修飾されたグラフェンやそれを酸化処理したものを使用することで、優れたプロトン伝導性を発現でき、燃料電池や太陽電池、キャパシタなど、エネルギー創成のための材料として期待される。また積層したグラフェンの層間や溶媒との親和性の制御も可能であり、ガスや溶液の分離膜としても期待できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13