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明細書 :イオンチャネルを利用したイオン交換法およびイオン交換体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6469515号 (P6469515)
公開番号 特開2016-209806 (P2016-209806A)
登録日 平成31年1月25日(2019.1.25)
発行日 平成31年2月13日(2019.2.13)
公開日 平成28年12月15日(2016.12.15)
発明の名称または考案の名称 イオンチャネルを利用したイオン交換法およびイオン交換体
国際特許分類 B01J  45/00        (2006.01)
C02F   1/42        (2006.01)
C07F  15/04        (2006.01)
FI B01J 45/00
C02F 1/42 B
C07F 15/04
請求項の数または発明の数 5
全頁数 16
出願番号 特願2015-095553 (P2015-095553)
出願日 平成27年5月8日(2015.5.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 平成26年11月21日に、2014年広島大学新技術説明会要旨集にて発表 平成26年12月13日に、第11回広島大学「ナノバイオインフォ化学シンポジウム」要旨集にて発表
審査請求日 平成30年4月27日(2018.4.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
発明者または考案者 【氏名】西原 禎文
【氏名】市橋 克哉
【氏名】井上 克也
個別代理人の代理人 【識別番号】110001427、【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
審査官 【審査官】富永 正史
参考文献・文献 特開2016-210726(JP,A)
特開2012-182060(JP,A)
特開昭58-045746(JP,A)
米国特許第04460474(US,A)
特開昭58-045745(JP,A)
特開昭58-045747(JP,A)
特開2008-291038(JP,A)
特表2002-511924(JP,A)
市橋克哉 ほか,チャンネル構造を有するLi([18])crown-6)3[Ni(dmit)2]2(H2O)4塩の固相カチオン交換と物性評価,2014年日本化学会中国四国支部大会講演要旨集,日本,2014年日本化学会中国四国支部大会実行委委員会,2014年11月 8日,p.103
調査した分野 B01J 39/00-49/90
C02F 1/42
C07F 15/04
特許請求の範囲 【請求項1】
リチウムイオンを包接したクラウンエーテルとジチオレート金属錯体とがイオン結合することにより形成されたイオン伝導性結晶を、前記リチウムイオン以外の金属イオンが溶解した溶液に浸漬させることにより、前記イオン伝導性結晶における前記リチウムイオンを前記金属イオンと交換し、
前記クラウンエーテルが15-crown-5であるとともに、前記イオン伝導性結晶が下記式(1)で表され、かつ前記金属イオンがナトリウムイオンであることを特徴とするイオン交換方法。
【化1】
JP0006469515B2_000010t.gif
(式中、dmitは、1,3-ジチオール-2-チオン-4,5-ジチオレートを示し,MはNi、Pd、Au及びPtのいずれかの金属を示す。)
【請求項2】
前記Mが、Niであることを特徴とする請求項に記載のイオン交換方法。
【請求項3】
前記溶液中の前記金属イオンの濃度が0.01~1Mであることを特徴とする請求項1または請求項に記載のイオン交換方法。
【請求項4】
前記溶液の温度が20~40℃であることを特徴とする請求項1~請求項のいずれか1項に記載のイオン交換方法。
【請求項5】
前記浸漬させる時間が2時間以上であることを特徴とする請求項1~請求項のいずれか1項に記載のイオン交換方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンチャネルを利用したイオン交換法およびイオン交換体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン交換体を使用したイオン交換法が知られており、水処理、食品、医薬・医療、産業排水処理等、様々な分野で使用されている。
【0003】
このイオン交換法は、イオン交換体中のイオンを電解質溶液中に放出するとともに、電解質溶液中のイオンを取り込むことで置換し、相移動する反応を利用した分離法である。
【0004】
しかし、このイオン交換法においては、不純物の混入を防止することができないため、目的のイオンを完全に分離することが困難であるという問題があった。
【0005】
そこで、この不都合を解消するための金属イオンの分離法が提案されている。より具体的には、まず、環状化合物であり、環のサイズに適した結合定数を有する金属イオンとのみ錯体を形成する選択的捕獲剤(例えば、クラウンエーテル)を、複数種の金属イオンを含む水溶液中に添加し、不要な金属イオンを、この選択的捕獲剤により水溶液中に保持し、次に、水溶液をイオン交換性の固相(イオン交換樹脂)と接触させ、所望の金属イオンのみをこの固相に移動させる方法が提案されている。そして、このような方法により、不純物の混入を防止しつつ分離し、特定種類の金属イオンを高濃度で得ることができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2002-121623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の方法は、イオンの選択的捕獲剤が溶液中に存在しており、不要なイオンを捕獲して水溶液中に保持し、所望のイオンを一般的なイオン交換剤によって回収する方法である。このため、所望のイオンが低濃度で存在した場合、不要なイオンを捕獲剤によって捕獲することにより、不要なイオンの濃度を所望のイオンの濃度よりも大きく低下させる必要があるが、このような方法は、包接平衡定数の問題から困難である。このため、相対的に低い濃度のイオン交換が困難であるという問題があった。
【0008】
また、上記特許文献1に記載の方法では、イオン捕獲剤の他に一般的なイオン交換剤が必要であるため、工程数が多くなるとともに、コストが増大し、かつ処理に長時間を要するという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、複数種の金属イオンを含む溶液において、相対的に低い濃度の金属イオンであっても交換を確実に行うことができ、かつイオン捕獲剤とイオン交換剤の機能を併せ持った単一材料を提供することで、処理工程数を削減でき、コスト、及び処理時間の観点で効率的なイオン交換法およびイオン交換体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のイオン交換方法は、リチウムイオンを包接したクラウンエーテルとジチオレート金属錯体とがイオン結合することにより形成されたイオン伝導性結晶を、リチウムイオン以外の金属イオンが溶解した溶液に浸漬させることにより、イオン伝導性結晶におけるリチウムイオンを金属イオンと交換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安価かつ簡単な方法により、相対的に低い濃度の金属イオンであっても交換を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るイオン伝導性結晶の結合状態を示す図である。
【図2】本発明の実施例におけるイオン交換前のイオン伝導性結晶と、イオン交換後のイオン伝導性結晶のIRスペクトルを示す図である。
【図3】本発明の実施例におけるイオン交換前のイオン伝導性結晶と、イオン交換後のイオン伝導性結晶のIRスペクトルを示す図である。
【図4】本発明の実施例におけるイオン交換後のイオン伝導性結晶におけるEPMA測定を行った部分を示す図である。
【図5】本発明の実施例におけるイオン交換後のイオン伝導性結晶におけるEPMA測定を行った部分を示す図である。
【図6】本発明の実施例におけるイオン交換後のイオン伝導性結晶におけるEPMA測定を行った部分を示す図である。
【図7】本発明の実施例におけるイオン交換後のイオン伝導性結晶におけるEPMA測定を行った部分を示す図である。
【図8】本発明の実施例におけるイオン交換後のイオン伝導性結晶におけるEPMA測定を行った部分を示す図である。
【図9】本発明の実施例におけるイオン交換後のイオン伝導性結晶におけるEPMA測定を行った部分を示す図である。
【図10】本発明の実施例におけるイオン交換前のイオン伝導性結晶と、イオン交換後のイオン伝導性結晶のIRスペクトルを示す図である。
【図11】本発明の実施例におけるイオン交換前のイオン伝導性結晶と、イオン交換後のイオン伝導性結晶のIRスペクトルを示す図である。
【図12】本発明の実施例におけるイオン交換前のイオン伝導性結晶と、イオン交換後のイオン伝導性結晶のIRスペクトルを示す図である。
【図13】本発明の実施例におけるイオン交換前のイオン伝導性結晶と、イオン交換後のイオン伝導性結晶のIRスペクトルを示す図である。
【図14】本発明の実施例におけるイオン交換後のイオン伝導性結晶におけるEPMA測定を行った部分を示す図である。
【図15】本発明の実施例におけるイオン交換後のイオン伝導性結晶におけるEPMA測定を行った部分を示す図である。
【図16】本発明の実施例におけるイオン交換後のイオン伝導性結晶におけるEPMA測定を行った部分を示す図である。
【図17】本発明の実施例におけるイオン交換後のイオン伝導性結晶におけるEPMA測定を行った部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の固体イオン交換法は、リチウムイオンを包接したクラウンエーテルとジチオレート金属錯体とがイオン結合することにより形成されたイオン伝導性結晶を、リチウムイオン以外の金属イオン(以下、単に「金属イオン」という。)が溶解した溶液に浸漬させることにより、イオン伝導性結晶におけるリチウムイオンを金属イオンと交換する方法である。

【0014】
そして、このような方法により、安価かつ簡単な方法により、複数種の金属イオンを含む溶液において、相対的に低い濃度の金属イオンであっても交換を確実に行うことが可能になる。

【0015】
また、イオン交換された結晶(即ち、イオン交換体)を回収することにより、容易に目的の金属イオンを回収することができる。

【0016】
イオン伝導性結晶は、リチウムイオンを包接したクラウンエーテル(18-クラウン-6)とジチオレートニッケル錯体(Ni(dmit)2)とが電気的引き合った構造を有するものである。

【0017】
より具体的には、本発明で使用されるイオン伝導性結晶は、全体として1価のカチオンであるリチウムイオンを包接したクラウンエーテル(Li(18-クラウン-6))と、1価のアニオンであるジチオレートニッケル錯体(Ni(dmit)2)とがクーロン力によって電気的に引き合い、結びつけられることにより(即ち、イオン結合することにより)形成されている。

【0018】
【化1】
JP0006469515B2_000002t.gif

【0019】
図1に式(1)で表されるイオン伝導性結晶の構造図を示す。図1に示すように、イオン伝導性結晶1は、2つのリチウムイオン2に対し、3つのクラウンエーテル3と、2つのジチオレートニッケル錯体4と、4つの水分子5により構成され、以下の化学式により表される。

【0020】
【化2】
JP0006469515B2_000003t.gif

【0021】
(式中、dmitは1,3-ジチオール-2-チオン-4,5-ジチオレートを示す。)
そして、図1に示すように、3つのクラウンエーテル3を1つのユニットとし、これが一次元的に積層することにより、結晶内にイオンチャネル9が形成されており、クラウンエーテル3に包接されたリチウムイオン2が、クラウンエーテル3からなるイオンチャネル9内を移動することができる。従って、上記式(2)で表される結晶は、イオン伝導性を有することになる。

【0022】
次に、本実施形態におけるイオン伝導性結晶の製造方法の概略を以下の反応スキーム1に示す。

【0023】
【化3】
JP0006469515B2_000004t.gif

【0024】
<反応スキーム1>
式(4)で表される、全体として1価のカチオンであるリチウムイオンを包接したクラウンエーテル(Li(18-クラウン-6))と、1価のアニオンであるジチオレートニッケル錯体とからなるイオン伝導性結晶を得るには、まず、式(3)の18-クラウン-6と過塩素酸リチウム(LiClO)とをアセトニトリルに溶解した溶液を準備する。

【0025】
また、TBA・Ni(dmit)2(ビス(1,3-ジチオール-2-チオン-4,5-ジチオレート)ニッケル(III)酸テトラブチルアンモニウム)を合成し、このTBA・Ni(dmit)2をアセトニトリルに溶解して、ジチオレートニッケル錯体を含有する溶液を準備する。なお、TBA・Ni(dmit)2は、公知の方法(例えば、Steinmecke, G.; Sieler, H. J.; Krimes, R.; Hoyer, E. Phosphorus Sulfur 1979, 7, 49を参照)により合成することができる。

【0026】
次いで、過塩素酸リチウムとクラウンエーテル(18-クラウン-6)が溶解したアセトニトリル溶液(以下、「溶液A」という。)をサンプル管に流し込み、ジチオレートニッケル錯体が溶解したアセトニトリル溶液(以下、「溶液B」という。)を、溶液Aと溶液Bとが急激に混合しないように、サンプル管に流し込む。

【0027】
次いで、サンプル管に蓋をせず、室温で3~4日、暗所にて静置することにより、上述の式(1)に示すように、式(4)に示すリチウムイオンを包接したリチウム-クラウンエーテル(Li(18-クラウン-6))とジチオレートニッケル錯体とが電気的引き合い、式(2)で表されるイオン伝導性結晶を得ることができる。

【0028】
また、本発明で使用されるイオン伝導性結晶は、リチウムイオンと交換される他の金属イオンに対応させて、選択することができる。

【0029】
より具体的には、イオン伝導性結晶に含まれるクラウンエーテルに対して、交換される他の金属イオンの結合定数が、リチウムイオンの結合定数よりも大きい場合に、この金属イオンを使用することができる(なお、クラウンエーテルと金属イオンの結合定数については、R. M. Izatt, J. S. Bradshaw, S. A. Nielsen, J. D. Lamb, and J. J. Christensen, Chem. Rev., 85, 271-339 (1985)、R. M. Izatt, K. Pawlak, and J. S. Bradshaw, Chem. Rev., 91, 1721-2085 (1991)、R. A. Samant, V. S. Ijeri, and A. K. Srivastava, J. Chem. Eng. Data, 48, 203-207 (2003)を参照)。

【0030】
例えば、交換される金属イオンがカリウムイオン(K)の場合、クラウンエーテル(18-クラウン-6)に対するカリウムイオンの結合定数は6.24であり、これは(18-クラウン-6)に対するリチウムイオンの結合定数2.69よりも大きいため、クラウンエーテル(18-クラウン-6)を有するイオン伝導性結晶をイオン交換体として使用することができる。

【0031】
また、例えば、交換される金属イオンがランタンイオン(La3+)の場合、クラウンエーテル(15-クラウン-5)に対するランタンイオンの結合定数は6.49であり、これは(15-クラウン-5)に対するリチウムイオンの結合定数4.26よりも大きいため、クラウンエーテル(15-クラウン-5)を有するイオン伝導性結晶をイオン交換体として使用することができる。

【0032】
即ち、リチウムイオンを包接し、全体として1価のカチオンであるリチウムイオン-クラウンエーテル(Li(15-クラウン-5))を有するイオン電導性結晶が使用される。

【0033】
この場合、イオン伝導性結晶の製造方法は、上述の18-クラウン-6を使用する場合と同様であり、上述の18-クラウン-6を15-クラウン-5に置き換えて製造することにより、下記式(5)で表されるイオン伝導性結晶を得ることができる。

【0034】
【化4】
JP0006469515B2_000005t.gif

【0035】
ここで、クラウンエーテルに対する金属イオンの結合定数は、クラウンエーテルのサイズに依存するため、交換される金属イオンに対応させて、結合定数の大きなクラウンエーテルのサイズを選択することにより、複数種の金属イオンを含む溶液において、目的の金属イオンが、相対的に低い濃度の金属イオンであっても、イオン交換平衡の原理に依存することなく、確実にイオン交換を行うことが可能になる。

【0036】
なお、交換対象となる金属イオンとしては、特に限定されず、上述のカリウムイオンやランタンイオンの他、例えば、他のアルカリ金属イオン、価数の異なるアルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、及びランタノイドイオン等を挙げることができる。

【0037】
次に、本発明の実施形態に係る固体イオン交換法について説明する。

【0038】
本発明の固体イオン交換法は、リチウムイオンを包接したクラウンエーテルとジチオレート金属錯体とがイオン結合することにより形成されたイオン伝導性結晶を金属イオンが溶解した溶液に浸漬させることにより、イオン伝導性結晶におけるリチウムイオンを金属イオンと交換する方法である。

【0039】
ここで、金属イオンのイオン交換を確実に行うとの観点から、溶液中の金属イオンの濃度は、0.01~1Mが好ましい。

【0040】
また、同様に、金属イオンのイオン交換を確実に行うとの観点から、溶液の温度は、20~40℃が好ましく、反応時間(即ち、イオン伝導性結晶を金属イオンが溶解した溶液に浸漬させる時間)は、2時間以上が好ましい。

【0041】
なお、上記実施形態は以下のように変更しても良い。

【0042】
上記実施形態においては、ジチオレート金属錯体としてジチオレートニッケル錯体(Ni(dmit))を使用したが、ジチオレート金属錯体はこれに限定されず、電荷を中性に保つためのアニオンであってもよい。例えば、ジチオレートパラジウム錯体(Pd(dmit))やジチオレート白金錯体(Pt(dmit))、ジチオレート金錯体(Au(dmit))を使用する構成としてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【実施例】
【0044】
(イオン伝導性結晶の合成)
式(3)の18-クラウン-6(東京化成工業(株)製、商品名18-crown-6-Ether)130mgと過塩素酸リチウム(無水)(関東化学(株)製、商品名Lithium perchlorate,anhydrous)10mgとをアセトニトリル(ナカライテスク(株)製)5mlに溶解し、溶液Aを得た。
【実施例】
【0045】
また、公知の方法により、TBA・Ni(dmit)2を合成し、次いで、このTBA・Ni(dmit)27mgをアセトニトリル(ナカライテスク(株)製)5mlに溶解して、ジチオレートニッケル錯体を含有する溶液Bを得た。
【実施例】
【0046】
次に、5mlの溶液Aを10mlのサンプル管に流し込んだ後、5mlの溶液Bを、溶液Aと溶液Bとが急激に混合しないように(溶液Aの界面を乱さないように)、サンプル管にゆっくりと流し込んだ。
【実施例】
【0047】
次に、溶液Aと溶液Bが流し込まれたサンプル管に蓋をせず、室温で3~4日、暗所にて静置した。そうすると、サンプル管の底に黒色(濃緑色)の板状結晶が沈殿し、式(2)で表されるイオン伝導性結晶を得た。
【実施例】
【0048】
(固体イオン交換)
次に、得られたイオン伝導性結晶を、1Mの塩化カリウム水溶液(ナカライテスク(株)製、液温:30℃)に、24時間、浸漬させ、イオン伝導性結晶におけるリチウムイオンをカリウムイオンと交換した。
【実施例】
【0049】
(IRスペクトル測定)
次いで、イオン交換を行う前のイオン伝導性結晶と、イオン交換後のイオン伝導性結晶のIRスペクトルの測定を行った。以上の結果を、図2,図3に示す。
【実施例】
【0050】
なお、IRスペクトルの測定は、赤外分光計(日本分光株式会社(JASCO)製、商品名:FT-IR660Plus)を使用し、KBr錠剤(30mg程度)と測定する試料を20回程度すりつぶして、加圧することにより、KBrディスクを作製し、これを測定することにより行った。
【実施例】
【0051】
図2に示すように、イオン交換後の試料について3500cm-1付近のOH基に由来するブロードなピークが消失していることが判る。従って、イオン交換により、交換前のイオン伝導性結晶(Li(18-クラウン-6))において、リチウムイオンに配位していた水分子が脱離したものと考えられる。
【実施例】
【0052】
また、図3に示すように、800~1500cm-1の領域において、ピークシフトが観測された。ここで、1100cm-1付近のクラウンエーテルのC-O-C伸縮に由来するピークは、クラウンエーテルに包接されている金属カチオンの種類によってシフトすることが知られており(T.Akutagawa,et.al,Chem.Eur.J.,2001,7,4902参照)、本実施例においても、イオン交換によって、そのピークが低波数側へとシフトしていることが判る。
【実施例】
【0053】
以上より、交換前のイオン伝導性結晶(Li(18-クラウン-6))において、クラウンエーテルに包接されていた金属カチオンはリチウムイオンであったが、イオン交換により、その他の金属カチオンへと交換されたことが判る。
【実施例】
【0054】
(EPMA測定)
次に、イオン交換後のイオン伝導性結晶のEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)測定を行った。より具体的には、イオン交換後の試料を割り、その断面に対して電子線を照射して、発生する特性X線のスペクトルを取得し、そのスペクトルを解析することにより、試料の構成元素(即ち、ニッケルを基準としたニッケル、硫黄、及びカリウムの原子比)を分析した。
【実施例】
【0055】
なお、EPMA測定装置(日本電子(JEOL)(株)製、商品名:JXA-8200)を使用して、図4に示す試料の断面部分1~5の各々に対してEPMA測定を行った。また、加速電圧を15kV、照射電流量を10nAに設定し、10μmのビーム径を有する電子線を、20秒間、照射した。以上の結果を表1に示す。
【実施例】
【0056】
【表1】
JP0006469515B2_000006t.gif
【実施例】
【0057】
表1に示すように、結晶切断後の断面部分1~5のいずれの部分においても、カリウムが検出された。このことから、イオン交換により、リチウムイオンがカリウムイオンへ交換されたことが判る。また、表1に示すように、ニッケルを基準とした際のニッケルとカリウムの比率が、約1:1となっており、交換前のイオン伝導性結晶(Li(18-クラウン-6))におけるニッケルとリチウムの比率が1:1であることから、リチウムイオンからカリウムイオンへのイオン交換が行われたことが判る。
【実施例】
【0058】
(クラウンエーテルのイオン選択性)
次に、塩化リチウムと塩化カリウムが溶解した水溶液を用意し、得られたイオン伝導性結晶(Li(18-クラウン-6))を、この水溶液に浸漬させることにより、クラウンエーテルのイオン選択性を確認した。
【実施例】
【0059】
より具体的には、下記表2に示すように、溶液中のリチウムイオンとカリウムイオンの濃度を変化させるとともに、溶液中のイオン総濃度(即ち、溶液中のリチウムイオンとカリウムイオンの濃度の和)が約0.1Mとなるよう溶液を調製して行った。
【実施例】
【0060】
【表2】
JP0006469515B2_000007t.gif
【実施例】
【0061】
なお、サンプル管(10ml)に10mlの水溶液を入れ、この水溶液にイオン伝導性結晶(Li(18-クラウン-6))を5~10mg加え、結晶中のリチウムイオンに対する溶液中のカリウムイオンの濃度が過剰となる状態(即ち、結晶1mg中に存在しているリチウムの量は、約7.7×10-3mgであるのに対して、最もカリウムイオンの濃度が小さい水溶液(Li:K=9:1)1ml中に存在しているカリウムイオンの量は0.47mgであるため、表2に示した各サンプルでおいては、結晶中のリチウムイオンに対する溶液中のカリウムイオンの濃度が過剰となる状態)でイオン交換を行った。
【実施例】
【0062】
次に、上述のEPMA測定と同様にして、イオン交換後の各イオン伝導性結晶のEPMA測定を行った。なお、表2に示したサンプル(Li:K=9:1)の水溶液を使用した場合のイオン交換後の試料については、図5に示す断面部分6~10の各々に対してEPMA測定を行った。また、表2に示したサンプル(Li:K=4:6)の水溶液を使用した場合のイオン交換後の試料については、図6に示す断面部分11~15の各々に対してEPMA測定を行った。また、表2に示したサンプル(Li:K=7:3)の水溶液を使用した場合のイオン交換後の試料については、図7に示す断面部分16~20の各々に対してEPMA測定を行った。また、表2に示したサンプル(Li:K=8:2)の水溶液を使用した場合のイオン交換後の試料については、図8に示す断面部分21~23の各々に対してEPMA測定を行った。また、表2に示したサンプル(Li:K=9:1)の水溶液を使用した場合のイオン交換後の試料については、図9に示す断面部分24~26の各々に対してEPMA測定を行った。以上の結果を表3に示す。
【実施例】
【0063】
【表3】
JP0006469515B2_000008t.gif
【実施例】
【0064】
表3に示すように、断面部分6~26のいずれの部分においても、カリウムが検出された。このことから、リチウムイオンが交換される金属イオンがカリウムイオン(K)の場合、クラウンエーテル(18-クラウン-6)に対するカリウムイオンの結合定数は6.24であり、これは(18-クラウン-6)に対するリチウムイオンの結合定数2.69よりも大きいため、リチウムイオンがカリウムイオンへ選択的に交換されたことが判る。
【実施例】
【0065】
また、上述の実施例(1Mの塩化カリウム水溶液を使用)、及び表2に示す実施例(0.012~0.090Mの塩化カリウム水溶液を使用)の結果から、溶液中の金属イオン(カリウムイオン)の濃度が0.01~1Mの場合に、リチウムイオンからカリウムイオンへのイオン交換が確実に行われていることが判る。
【実施例】
【0066】
(反応温度評価)
次に、上述の固体イオン交換工程(1Mの塩化カリウム水溶液の温度:30℃)において、1Mの塩化カリウム水溶液の温度を、4℃、20℃、40℃、50℃、及び60℃に変更して、イオン伝導性結晶におけるリチウムイオンをカリウムイオンと交換した。
【実施例】
【0067】
次いで、上述のIRスペクトル測定と同様の方法により、イオン交換を行う前のイオン伝導性結晶と、上記各反応温度においてイオン交換を行った後のイオン伝導性結晶のIRスペクトルの測定を行った。以上の結果を、図10、図11に示す。
【実施例】
【0068】
図10に示すように、20℃の水溶液で交換を行った試料のスペクトルでは、1103cm-1にクラウンエーテルのC-O-C伸縮に帰属されるピークのシフトが観測された。また、図11に示すように、40℃で交換実験を行った試料のスペクトルについても、20℃の場合と同様に、1103cm-1にクラウンエーテルのC-O-C伸縮に帰属されるピークのシフトが観測された。一方、図10に示すように、4℃の水溶液で交換を行った試料のスペクトルでは、交換実験前の典型的な特徴を示すピーク(1400cm-1付近のピーク)が見られ、クラウンエーテルのC-O-C伸縮のピークは1103cm-1、及び1113cm-1 (1103cm-1のものはshoulder)の各値を示した。以上より、氷浴中ではイオン交換はなされないものと推察される。
【実施例】
【0069】
また、図11に示すように、50℃以上の水溶液で交換を行った試料のスペクトルでは、クラウンエーテルのC-O-C伸縮のピークは1103cm-1であったが、交換後の試料をピンセットで触れるだけで試料が崩れた。また、スペクトルについても1200~1300cm-1の領域が大きく変化している。これらのことから、50℃以上の温度領域においては、カリウムイオンへの交換は可能であるが、本結晶状態での固相イオン交換が困難になるものと考えられる。
【実施例】
【0070】
以上より、イオン交換に適した温度は20~40℃であることが判る。
【実施例】
【0071】
(反応時間評価)
次に、上述の固体イオン交換工程(反応時間:24時間)において、反応時間を1時間、2時間、5.5時間、7時間、9時間、10.5時間、12時間、24時間、48時間、及び96時間に変更して、イオン伝導性結晶におけるリチウムイオンをカリウムイオンと交換した。
【実施例】
【0072】
次いで、上述のIRスペクトル測定と同様の方法により、上記各反応時間においてイオン交換を行った後のイオン伝導性結晶のIRスペクトルの測定を行った。以上の結果を、図12、図13に示す。
【実施例】
【0073】
図12、図13に示すように、反応時間が1時間である試料のスペクトルでは、上述の典型的なピーク(イオン交換前の試料におけるスペクトルのみで見られる1400cm-1付近のピーク)が観測されたが、反応時間が2時間以上の試料では、これらのピークが観測されなかった。また、1時間の試料のみに、クラウンエーテルのC-O-C伸縮に帰属されるピークシフトが観測されなかった。以上より、反応時間を2時間以上に設定することにより、カリウムイオンへのイオン交換が確実に行われることが判る。
【実施例】
【0074】
次いで、上述のEPMA測定と同様にして、反応時間を1時間、2時間、7時間、及び10.5時間に設定してイオン交換を行った後のイオン伝導性結晶のEPMA測定を行った。
【実施例】
【0075】
なお、反応時間が1時間の場合のイオン交換後の試料については、図14に示す断面部分27~35の各々に対してEPMA測定を行った。また、反応時間が2時間の場合のイオン交換後の試料については、図15に示す断面部分36~40の各々に対してEPMA測定を行った。また、反応時間が7時間の場合のイオン交換後の試料については、図16に示す断面部分41~44の各々に対してEPMA測定を行った。更に、反応時間が10.5時間の場合のイオン交換後の試料については、図17に示す断面部分45~49の各々に対してEPMA測定を行った。以上の結果を表4に示す。
【実施例】
【0076】
【表4】
JP0006469515B2_000009t.gif
【実施例】
【0077】
表4に示すように、反応時間が1時間の試料では、カリウムに交換されていた断面部分が少なく、結晶の大部分においてイオン交換が十分に行われていないことが判る。一方、反応時間が2時間、7時間、及び10.5時間の試料では、結晶全体において、リチウムイオンがカリウムイオンに交換されていることが判る。
【実施例】
【0078】
以上より、反応時間(即ち、イオン伝導性結晶をカリウムイオンが溶解した溶液に浸漬させる時間)は、2時間以上が好ましいことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の活用例としては、クラウンエーテルを用いたイオン交換方法およびイオン交換体が挙げられる。
【符号の説明】
【0080】
1 イオン伝導性結晶
2 リチウムイオン
3 クラウンエーテル
4 ジチオレートニッケル錯体
5 水分子
6 固体電解質
7 正極シート
8 負極シート
9 イオンチャネル
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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