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明細書 :原子状水素発生器、原子状水素の製造方法および原子状水素の発生を確認する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6433068号 (P6433068)
公開番号 特開2016-222508 (P2016-222508A)
登録日 平成30年11月16日(2018.11.16)
発行日 平成30年12月5日(2018.12.5)
公開日 平成28年12月28日(2016.12.28)
発明の名称または考案の名称 原子状水素発生器、原子状水素の製造方法および原子状水素の発生を確認する方法
国際特許分類 C01B   3/00        (2006.01)
G01N  27/62        (2006.01)
FI C01B 3/00 Z
G01N 27/62 V
請求項の数または発明の数 8
全頁数 12
出願番号 特願2015-111987 (P2015-111987)
出願日 平成27年6月2日(2015.6.2)
審査請求日 平成30年1月9日(2018.1.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
発明者または考案者 【氏名】高山 光男
【氏名】関本 奏子
【氏名】三舩 千佳
個別代理人の代理人 【識別番号】100108833、【弁理士】、【氏名又は名称】早川 裕司
【識別番号】100162156、【弁理士】、【氏名又は名称】村雨 圭介
審査官 【審査官】西山 義之
参考文献・文献 特表2010-510679(JP,A)
特開昭63-123898(JP,A)
特開2005-217244(JP,A)
調査した分野 C01B 3/00-6/34
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
反応チャンバと、
前記反応チャンバ内に4.5eV以上の光を含み9eV以上の光を含まない光を照射可能な光源と、
前記反応チャンバ内に水素分子と窒素ガスを含む不活性ガスとの混合気体を供給可能な供給部と、
を備えることを特徴とする原子状水素の製造装置。
【請求項2】
前記反応チャンバ内に生成した原子状水素と反応するための試料を保持する保持部を前記反応チャンバ内にさらに備える、請求項1記載の原子状水素の製造装置。
【請求項3】
前記反応チャンバ内に生成した原子状水素を含む気体を前記反応チャンバ外に導出する導出部をさらに備える、請求項1または2に記載の原子状水素の製造装置。
【請求項4】
水素分子と窒素ガスを含む不活性ガスとの混合気体がその内部に存在する反応チャンバ内に、4.5eV以上の光を含み9eV以上の光を含まない光を照射して、前記反応チャンバ内に原子状水素を発生させることを特徴とする原子状水素の製造方法。
【請求項5】
前記反応チャンバ内で生成した原子状水素は、前記反応チャンバ内に配置された試料と反応可能とされる、請求項に記載の原子状水素の製造方法。
【請求項6】
前記反応チャンバ内で生成した原子状水素を含む気体は、前記反応チャンバ外に導出可能とされる、請求項4または5に記載の原子状水素の製造方法。
【請求項7】
被検気体中に原子状水素が含まれているか否かを確認する方法であって、
前記被検気体は、請求項に記載される原子状水素の製造装置が備える前記導出から導出された気体を含
C-F結合を有する物質に前記被検気体を接触させて第1気体を得て、
前記第1気体に含まれる物質と、大気圧コロナ放電イオン化により生成した反応イオンとを反応させ、
得られた生成物質を、衝突誘起解離を含む質量分析により分析して、
質量20のフッ化水素を含むプリカーサーイオンおよびプロダクトイオンの少なくとも一方が存在していることに基づくピークが検出された場合に、前記被検気体中に原子状水素が含まれていたと判定すること
を特徴とする原子状水素の存否を確認する方法。
【請求項8】
被検気体中に原子状水素が含まれているか否かを確認する方法であって、
前記被検気体は、請求項に記載される原子状水素の製造方法により前記反応チャンバ外に導出された気体を含
C-F結合を有する物質に前記被検気体を接触させて第1気体を得て、
前記第1気体に含まれる物質と、大気圧コロナ放電イオン化により生成した反応イオンとを反応させ、
得られた生成物質を、衝突誘起解離を含む質量分析により分析して、
質量20のフッ化水素を含むプリカーサーイオンおよびプロダクトイオンの少なくとも一方が存在していることに基づくピークが検出された場合に、前記被検気体中に原子状水素が含まれていたと判定すること
を特徴とする原子状水素の存否を確認する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、原子状水素発生器、原子状水素の製造方法および原子状水素の存否を確認する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子状水素は、半導体製造関連技術において基板洗浄の目的で使用されたり、タンパク質のアミノ酸配列を調べるためにタンパク質のアミド結合を解離させるための手段として用いられたりしている。
【0003】
原子状水素を発生させる方法として、特許文献1には、処理室内に収容された処理対処物に原子状水素を接触させて表面処理を行う原子状水素処理装置に用いられ、水素ガス供給部より供給される水素ガスから前記原子状水素を発生する原子状水素発生器であって、内部に前記原子状水素を発生する発生室が形成され、前記発生室を真空排気するための排気口、前記水素ガスを前記発生室に導入するためのガス導入口、発生した原子状水素を前記処理室に送給するための原子状水素放出口および前記原子状水素放出口を前記処理室に真空密に接続するための接続部が設けられた容器と、前記発生室の内部に着脱自在に装着され、発熱状態において前記水素ガスが接触することにより前記水素ガスから原子状水素を発生させる発熱体とを備えたことを特徴とする原子状水素発生器が開示されている。
【0004】
特許文献2には、水素ラジカルを用いて異物が付着したEUV露光装置をクリーニングする方法において、水素含有ガスを、1000~1600℃に加熱したモリブデン又はモリブデン合金に接触させて得られ、且つ、水素ラジカルの密度が1×10~1×1016/cmの範囲にある水素ラジカル含有ガスを用いることを特徴とするEUV露光装置のクリーニング方法が開示されている。
【0005】
非特許文献1には、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析法を使い、真空中で紫外レーザー光を有機分子(マトリックス)に照射し、水素原子を放出させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2008-13383号公報
【特許文献2】国際公開第2009/133759号
【0007】

【非特許文献1】Mitsuo Takayama, Keishiro Nagoshi, Ryunosuke Iimuro and Kazuma Inatomi, "Access of Hydrogen-Radicals to the Peptide-Backbone as a Measure for Estimating the Flexibility of Proteins Using Matrix-Assisted Laser Desorption/Ionization Mass Spectrometry", Int. J. Mol. Sci. 2014, 15, pp 8428-8442
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の文献に開示される原子状水素の生成方法では、水素分子の解離は真空中で行われており、特許文献1や2に記載される方法では、1000℃以上の加熱手段によって水素分子の解離が行われている。このため、発生させた原子状水素を、タンパク質のような比較的熱に弱く揮発しやすい有機物質と反応させることは、必ずしも容易ではなかった。
【0009】
本発明は、かかる現状を鑑み、従来技術よりも低温で、しかも大気中で、原子状水素を生成する手段を提供することを目的とする。また、本発明は、原子状水素の存否を確認する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく提供される本発明は次のとおりである。
(1)反応チャンバと、前記反応チャンバ内に4.5eV以上の光を含む光を照射可能な光源と、前記反応チャンバ内に水素分子と不活性ガスとの混合気体を供給可能な供給部と、を備えることを特徴とする原子状水素の製造装置。
【0011】
(2)前記不活性ガスは窒素ガスを含み、前記光源が照射可能な光は9eV以上の光を含まない、上記(1)に記載の原子状水素の製造装置。
【0012】
(3)前記反応チャンバ内に生成した原子状水素と反応するための試料を保持する保持部を前記反応チャンバ内にさらに備える、上記(1)または(2)に記載の原子状水素の製造装置。
【0013】
(4)前記反応チャンバ内に生成した原子状水素を含む気体を前記反応チャンバ外に導出する導出部をさらに備える、上記(1)から(3)のいずれかに記載の原子状水素の製造装置。
【0014】
(5)水素分子と不活性ガスとの混合気体がその内部に存在する反応チャンバ内に、4.5eV以上の光を含む光を照射して、前記反応チャンバ内に原子状水素を発生させることを特徴とする原子状水素の製造方法。
【0015】
(6)前記不活性ガスは窒素ガスを含み、前記光源が照射可能な光は9eV以上の光を含まない、上記(5)に記載の原子状水素の製造方法。
【0016】
(7)前記反応チャンバ内で生成した原子状水素は、前記反応チャンバ内に配置された試料と反応可能とされる、上記(5)または(6)に記載の原子状水素の製造方法。
【0017】
(8)前記反応チャンバ内で生成した原子状水素を含む気体は、前記反応チャンバ外に導出可能とされる、上記(5)から(7)のいずれかに記載の原子状水素の製造方法。
【0018】
(9)被検気体中に原子状水素が含まれているか否かを確認する方法であって、C-F結合を有する物質に前記被検気体を接触させて第1気体を得て、前記第1気体に含まれる物質と、大気圧コロナ放電イオン化により生成した反応イオンとを反応させ、得られた生成物質を、衝突誘起解離を含む質量分析により分析して、質量20のフッ化水素を含むプリカーサーイオンおよびプロダクトイオンの少なくとも一方が存在していることに基づくピークが検出された場合に、前記被検気体中に原子状水素が含まれていたと判定することを特徴とする原子状水素の存否を確認する方法。
【0019】
(10)前記被検気体は、上記(4)に記載される原子状水素の製造装置が備える前記導出装置から導出された気体を含む、上記(9)に記載の原子状水素の存否を確認する方法。
【0020】
(11)前記被検気体は、上記(8)に記載される原子状水素の製造方法により前記反応チャンバ外に導出された気体を含む、上記(9)に記載の原子状水素の存否を確認する方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来技術よりも低温で、しかも大気中で、原子状水素を生成することが可能な装置および原子状水素の製造方法が提供される。また、本発明によれば、原子状水素の存否を確認する方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造装置の別の一例を概念的に示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る原子状水素の存否を確認する方法を概念的に示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る原子状水素の存否を確認する方法を検証するための検証装置を動作させない状態で、大気圧コロナ放電イオン化(APCDI)により生成した反応イオンについての、第一次質量分析器(MS1)による質量スペクトルを示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る原子状水素の存否を確認する方法を検証するための検証装置を動作させたが水素ガスの供給を行わなかった場合における、第一次質量分析器(MS1)による質量スペクトルを示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る原子状水素の存否を確認する方法を検証するための検証装置を動作させた場合における、第一次質量分析器(MS1)による質量スペクトルを示す図である。
【図7】タンデム質量分析計(MS/MS)の第一次質量分析器(MS1)で質量電荷比(m/z)が114.0のイオンをプリカーサーイオンとして選択した場合において、衝突室(CID)での衝突エネルギー(CE,単位:eV)を変化させて((a)はCE:5eV、(b)はCE:15eV、(c)はCE:25eV)、第二次質量分析器(MS2)により測定した質量スペクトルを示す図である。
【図8】タンデム質量分析計(MS/MS)の第一次質量分析器(MS1)で質量電荷比(m/z)が101.0のイオンをプリカーサーイオンとして選択した場合において、衝突室(CID)での衝突エネルギー(CE,単位:eV)を変化させて((a)はCE:5eV、(b)はCE:15eV、(c)はCE:25eV)、第二次質量分析器(MS2)により測定した質量スペクトルを示す図である。
【図9】タンデム質量分析計(MS/MS)の第一次質量分析器(MS1)で質量電荷比(m/z)が85.1のイオンをプリカーサーイオンとして選択した場合において、衝突室(CID)での衝突エネルギー(CE,単位:eV)を変化させて((a)はCE:5eV、(b)はCE:15eV、(c)はCE:25eV)、第二次質量分析器(MS2)により測定した質量スペクトルを示す図である。
【図10】タンデム質量分析計(MS/MS)の第一次質量分析器(MS1)で質量電荷比(m/z)が79.1のイオンをプリカーサーイオンとして選択した場合において、衝突室(CID)での衝突エネルギー(CE,単位:eV)を変化させて((a)はCE:5eV、(b)はCE:15eV、(c)はCE:25eV)、第二次質量分析器(MS2)により測定した質量スペクトルを示す図である。
【図11】タンデム質量分析計(MS/MS)の第一次質量分析器(MS1)で質量電荷比(m/z)が59.2のイオンをプリカーサーイオンとして選択した場合において、衝突室(CID)での衝突エネルギー(CE,単位:eV)を変化させて((a)はCE:5eV、(b)はCE:15eV、(c)はCE:25eV)、第二次質量分析器(MS2)により測定した質量スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造装置の一例を概念的に示す図である。図1に示されるように、原子状水素の製造装置100は、反応チャンバ1と、反応チャンバ1内に4.5eV以上の光を含む光を照射可能な光源2と、反応チャンバ1内に水素分子と不活性ガスとの混合気体を供給可能な供給部3と、を備える。

【0024】
反応チャンバ1の材質は限定されない。ステンレス鋼など金属系の材料であってもよいし、石英など無機系の材料であってもよい。有機系の材料は、生成した原子状水素と反応する可能性があり、そのような反応が生じることを回避することが求められる場合には、反応チャンバ1の材質として有機系の材料を用いないことが好ましい。

【0025】
水素分子を解離するために必要とされるエネルギーが4.5eV(波長換算:約275nm)であるから、光源2の種類は、4.5eV以上(波長換算:約275nm以下)の光を含む光を照射可能である限り限定されない。低圧水銀ランプのような、UV-C領域の光を発生させることが可能な光源が、光源2の好ましい一例として挙げられる。

【0026】
光源2が発生可能な光のエネルギーの上限は、原子状水素を発生させる観点からは限定されない。不活性ガスの種類によっては、照射される光のエネルギーが過度に高いと、ガスを構成する原子や分子がイオン化したり分解したりする場合がある。このような場合には、照射される光のエネルギーに上限が設定されることが好ましい。例えば、不活性ガスが窒素分子を含む場合には、窒素分子の解離エネルギーが9.8eVであるから、光源2から照射される光のエネルギーは、9.8eVよりも低いことが好ましく、9eVよりも低いことがより好ましい。すなわち、不活性ガスが窒素ガスを含む場合には、光源2が照射可能な光は、9.8eV以上の光を含まないことが好ましく、9eV以上の光を含まないことがより好ましい。

【0027】
供給部3は、2つの入口と1つの出口を備えて2種の気体を混合し混合気体を生成する気体混合部31を備える。気体混合部31の一方の入口には、水素分子を含む水素含有ガスを供給可能な水素ガス源32からの配管が接続され、気体混合部31の他方の入口には、不活性ガスを含む不活性ガス含有ガスを供給可能な不活性ガス源33からの配管が接続される。水素ガス源32の具体的な構成は限定されない。水素ガス源32として、水素ガスボンベ、水素発生装置などが例示される。水素発生装置の場合には、例えば、水の電気分解により水素は生成される。不活性ガス源33として、窒素ガス、アルゴンガスなど不活性ガスのボンベが例示される。

【0028】
気体混合部31の出口には、開放された一方の端部(開放端)34aが反応チャンバ1内に配置された配管34の他方の端部が接続される。このように接続されることにより、水素ガス源32に含有される水素分子と、不活性ガス源33に含有される不活性ガスとの混合気体が、反応チャンバ1内に供給可能とされ、反応チャンバ1の内部に上記の混合気体を存在させることが可能となる。

【0029】
反応チャンバ1の内部に上記の混合気体が存在する状態で、4.5eV以上の光を含む光を光源2から照射することにより、混合気体内の水素分子が光によって分解し、反応チャンバ1の内部に原子状水素が発生する。このように、本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造装置100を用いれば、反応チャンバ1の内部圧力を減圧にすることなく、すなわち、真空状態にすることなく、原子状水素を発生させることが可能である。

【0030】
本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造装置100は、図1に示されるように、反応チャンバ1内に生成した原子状水素を含む気体を反応チャンバ1外に導出する導出部4をさらに備える。導出部4は、両端が開放されたパイプからなり、一方の端部(開放端)41は反応チャンバ1内に位置し、他方の端部(開放端)42は反応チャンバ1外に位置する。開放端34aから反応チャンバ1内に供給される混合気体の圧力を適切に調整することにより、反応チャンバ1内の気体を開放端41から取り込んで、開放端42から反応チャンバ1外に導き出すことが可能である。

【0031】
本発明の他の一実施形態に係る原子状水素の製造装置200は、基本構成は原子状水素の製造装置100と同様であるが、図2に示されるように、導出部4を備えず、保持部5を備える。保持部5は、反応チャンバ1内に生成した原子状水素と反応するための試料SPを保持するものである。保持部5の具体的な構成は限定されない。試料SPの性状に合わせて適宜設定すればよい。図2に示される保持部5は、試料SPが位置する部分には光源2からの光が直接到達しないように配置されている。試料SPが有機系物質(具体例としてタンパク質が例示される。)である場合には、このような構成とすることにより、試料SPが光源2からの光によって分解・変質することが抑制され、好ましい。試料SPは、反応チャンバ1の開口部(図示せず)から反応チャンバ1内に導入され、保持部5により保持される。

【0032】
本発明の一実施形態に係る、被検気体中に原子状水素が含まれているか否かを確認する方法(確認方法)について、図3を用いて説明する。

【0033】
本発明の一実施形態に係る確認方法では、C-F結合を有する物質に被検気体を接触させて第1気体を得て、第1気体に含まれる物質と、大気圧コロナ放電イオン化により生成した反応イオンとを反応させ、得られた生成物質を、衝突誘起解離を含む質量分析により分析して、フッ化水素(HF)を含むイオン化物質に基づくピークが検出された場合に、被検気体中に原子状水素が含まれていたと判定する。

【0034】
C-F結合の結合エネルギーは485kJ/mol(CHFにおけるC-F結合)程度であり、C-H結合の結合エネルギー(約414kJ/mol、CHにおけるC-H結合)やC-C結合の結合エネルギー(約347kJ/mol、CH-CにおけるC-C結合)に比べて高い。このため、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのようなC-F結合を有する物質は、通常の環境では冒されにくい。ところが、原子状水素は極めて活性な物質であり、H-F結合の結合エネルギーは569kJ/mol程度であるため、原子状水素が存在する場合には、C-F結合を有する物質におけるC-F結合が解離して、HF(フッ化水素)が生成する。このHFの生成を検出することにより、被検気体に原子状水素が含まれていたことを確認することができる。

【0035】
被検気体とC-F結合を有する物質との接触方法は限定されない。図3に示されるように、本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造装置300を用いてもよい。本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造装置300は、本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造装置200と同様に試料を保持する保持部5を有するとともに、本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造装置100と同様に反応チャンバ1内の気体を導き出す導出部4を有する。

【0036】
図3に示される構成では、開放端34aからの混合気体に光源2からの光を照射して得られた気体が被検気体に相当する。保持部5にC-F結合を有する物質SP1を保持することにより、反応チャンバ1内で被検気体と接触させることができる。この被検気体との接触により得られた第1気体は、開放端41から導出部4内に入って開放端42から反応チャンバ1外に導き出される。

【0037】
大気圧コロナ放電イオン化(APCDI)では、図3に示したように、針電極61の先端部を大気圧下のイオン化領域に配置し、この針電極61のコロナ放電により大気成分をイオン化して反応イオンを生成させる。コロナ放電のための電圧は限定されない。一例を挙げれば、針電極61が-2.0kV、対極が+3.9kVである。コロナ放電により大気中に放出された電子は、酸素などの大気成分をイオン化し、一次イオンが生成する。図3では、一次イオンをOや、Oとして示している。一次イオンによって大気成分のイオン化が更に生じるイオン発展によって、大気成分のイオン化が生じて反応イオンが生成する。図3では、反応イオンをXとして示している。

【0038】
こうして生成した反応イオンXと第1気体とが反応しうるように、針電極61および開放端42の配置は設定される。反応イオンXと第1気体との反応により生成した物質は、オリフィスOLを通じてタンデム質量分析計(MS/MS)の第一次質量分析器(MS1)内に導入される。この生成物質の導入が容易になるように、第一次質量分析器の入口となるオリフィスOLを含む部分を、針電極61の対極に設定してもよい。第一次質量分析器において所定の物質(プリカーサーイオン)が質量選択されて、衝突室(CID)内に導かれる。衝突室内では、数eVから数十eVのエネルギーのプリカーサーイオンとして衝突ガス(例えばアルゴンガス)と衝突させて、プリカーサーイオンを分解して、複数の物質(プロダクトイオン)を生成させる。これらの生成した複数の物質を、第二次質量分析器(MS2)内に導いて、質量分析を行う。

【0039】
この質量分析の結果、検出された複数のピークの質量電荷比(m/z)の差がフッ化水素(HF)の質量20である場合には、第1気体にフッ化水素(HF)が含まれていることになる。このフッ化水素(HF)は、C-F結合を有する物質のC-F結合を解離させることにより得られたものであるから、被検気体に原子状水素が含まれていることを確認することができる。

【0040】
衝突室(CID)において、衝突ガス(アルゴンなど)に衝突させるプリカーサーイオンのエネルギーを変化させることによって、プロダクトイオンの種類を変更し、第二次質量分析器(MS2)で検出される物質の質量電荷比(m/z)を変化させてもよい。

【0041】
上記の本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造方法および原子状水素の存否を確認する方法を検証するために、本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造装置100と同様の構成であるが、反応チャンバ1がPTFEにより構成されている装置(以下、「検証装置」ともいう。)を試作した。紫外線ランプの照射エネルギー範囲は3.8eV~7.7eVであり、水素発生装置から発生させた水素ガスの圧力は200kPaであり、流量は80mL/分であった。

【0042】
本発明の一実施形態に係る原子状水素の存否を確認する方法において示した原子状水素の製造装置300と同様に、大気圧コロナ放電イオン化(APCDI)により生成した反応イオンと反応可能な位置に、検証装置の導出部から導き出された物質を供給可能とした。大気圧コロナ放電イオン化の条件は次のとおりとした。

【0043】
針電極の対極に対する印加電圧:-2.0kV
針電極の対極の法線に対する角度:90°
オリフィスOLの温度:70℃
針電極からオリフィスOLまでの大気の相対湿度:70%

【0044】
オリフィスOLから先には三連四重極質量分析計がタンデム質量分析計(MS/MS)として配置された。三連四重極質量分析計における、オリフィスOLに最近位の質量分析器を第一次質量分析器(MS1)とし、オリフィスOLから最遠位の質量分析器を第二次質量分析器(MS2)とし、これらの質量分析器の間に位置する質量分析器が配置された部分を衝突室(CID)として用いた。

【0045】
図4は、検証装置を動作させない状態で、大気圧コロナ放電イオン化(APCDI)により生成した反応イオンについての、第一次質量分析器(MS1)による質量スペクトルである。図4に示されるように、O(HO)に基づくピークが検出された。図4では、O(HO)に基づくピークには、ピーク上に逆三角形を付した。

【0046】
図5は、検証装置を動作させたが水素ガスの供給を行わなかった場合、すなわち、反応チャンバ内に窒素ガスのみを供給しつつ紫外線ランプから紫外線を照射させた場合における、第一次質量分析器(MS1)による質量スペクトルである。図5に示されるように、オゾンの影響に基づくピーク(質量電荷比(m/z):93.8,113.8,123.7,139.7,172.7など)が検出された。図5では、オゾンの影響に基づくピークには、ピーク上に記された質量電荷比(m/z)を表す数値を丸で囲った。

【0047】
検証装置内で上記の本発明の一実施形態に係る原子状水素の製造方法に基づき原子状水素が生成した場合には、反応チャンバを構成するPTFEにおけるC-F結合と原子状水素との反応により、反応チャンバ内にHFが生成し、このHFがAPCDIにより生成した反応イオンと反応すると期待される。

【0048】
図6は、検証装置を動作させて、水素ガスと窒素ガスとの混合気体を反応チャンバ内に供給しつつ、紫外線ランプから紫外線を照射させた場合における、第一次質量分析器(MS1)による質量スペクトルである。図6に示されるように、図5に示される水素ガスを供給しない場合とは明らかに異なる質量スペクトルが得られた。

【0049】
そこで、タンデム質量分析計(MS/MS)の第一次質量分析器(MS1)において選択するプリカーサーイオンの種類を変化させ、各プリカーサーイオンについて衝突室(CID)での衝突エネルギー(CE,単位:eV)を変化させて、第二次質量分析器(MS2)により質量スペクトルを測定した。その結果を図7から11に示した。

【0050】
図7は、プリカーサーイオンとして質量電荷比(m/z)が114.0のイオンを衝突室(CID)に導入した場合に、第二次質量分析器(MS2)において測定された質量スペクトルである。質量電荷比(m/z)が20(HFと想定される。)異なる、質量電荷比(m/z)が94.1のピークが検出された。また、質量電荷比(m/z)が94.1のピークから質量電荷比(m/z)が、33異なるピーク、44異なるピーク、および62異なるピークが検出された。これらの質量スペクトルから、質量電荷比(m/z)が114.0のプリカーサーイオンは、O(HCO+HF)を含むと考えられる。

【0051】
図8は、プリカーサーイオンとして質量電荷比(m/z)が101.0のイオンを衝突室(CID)に導入した場合に、第二次質量分析器(MS2)において測定された質量スペクトルである。質量電荷比(m/z)が20(HFと想定される。)ずつ異なる、質量電荷比(m/z)が81.1および61.1のピークが検出された。これらの質量スペクトルから、質量電荷比(m/z)が101.0のプリカーサーイオンは、HCO(HF)を含むと考えられる。

【0052】
図9は、プリカーサーイオンとして質量電荷比(m/z)が85.1のイオンを衝突室(CID)に導入した場合に、第二次質量分析器(MS2)において測定された質量スペクトルである。質量電荷比(m/z)が20(HFと想定される。)ずつ異なる、質量電荷比(m/z)が65.1および45.1のピークが検出された。これらの質量スペクトルから、質量電荷比(m/z)が85.1のプリカーサーイオンは、HCOO(HF)を含むと考えられる。

【0053】
図10は、プリカーサーイオンとして質量電荷比(m/z)が79.1のイオンを衝突室(CID)に導入した場合に、第二次質量分析器(MS2)において測定された質量スペクトルである。質量電荷比(m/z)が20(HFと想定される。)ずつ異なる、質量電荷比(m/z)が59.1および39.2のピーク、ならびに質量電荷比(m/z)が19.3のピークが検出された。質量電荷比(m/z)が19.3のピークはフッ素イオン(F)と想定される。これらの質量スペクトルから、質量電荷比(m/z)が79.1のプリカーサーイオンは、F(HF)を含むと考えられる。

【0054】
図11は、プリカーサーイオンとして質量電荷比(m/z)が59.1のイオンを衝突室(CID)に導入した場合に、第二次質量分析器(MS2)において測定された質量スペクトルである。質量電荷比(m/z)が20(HFと想定される。)異なる質量電荷比(m/z)が39.2のピークおよび質量電荷比(m/z)が19.3のピークが検出された。質量電荷比(m/z)が19.3のピークはフッ素イオン(F)と想定される。これらの質量スペクトルから、質量電荷比(m/z)が59.1のプリカーサーイオンは、F(HF)を含むと考えられる。

【0055】
図7から図11に示されるように、オリフィスOL内に導入された物質について、質量電荷比(m/z)の差が20(HFと想定される。)や質量電荷比(m/z)が19のフラグメントの存在が確認された。したがって、検証装置内において、C-F結合を切断する活性な物質である原子状水素が生成していることが確認された。

【0056】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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