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明細書 :心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのデータを収集する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-027048 (P2018-027048A)
公開日 平成30年2月22日(2018.2.22)
発明の名称または考案の名称 心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのデータを収集する方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/06        (2006.01)
C12Q   1/68        (2018.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12Q 1/06 ZNA
C12Q 1/68 A
G01N 33/50 P
G01N 33/68
G01N 33/53 D
G01N 33/53 M
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2016-160569 (P2016-160569)
出願日 平成28年8月18日(2016.8.18)
発明者または考案者 【氏名】南野 徹
【氏名】清水 逸平
出願人 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106909、【弁理士】、【氏名又は名称】棚井 澄雄
【識別番号】100149548、【弁理士】、【氏名又は名称】松沼 泰史
【識別番号】100141139、【弁理士】、【氏名又は名称】及川 周
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
Fターム 2G045AA25
2G045CB01
2G045DA14
2G045DA36
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ43
4B063QQ52
4B063QQ53
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS32
4B063QX01
要約 【課題】内科的治療が有効である心不全患者と、内科的治療が有効でない心不全患者を識別する技術を提供する。
【解決手段】心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのデータを収集する方法であって、上記心不全患者に由来する心筋生検試料中の心筋細胞中のミトコンドリアのサイズを測定する工程、上記心筋細胞中のミトコンドリアの密度を測定する工程、又は上記心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子若しくはタンパク質の発現量を測定する工程を備える方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのデータを収集する方法であって、前記心不全患者に由来する心筋生検試料中の心筋細胞中のミトコンドリアのサイズを測定する工程、前記心筋細胞中のミトコンドリアの密度を測定する工程、又は前記心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子若しくはタンパク質の発現量を測定する工程を備える方法。
【請求項2】
心不全患者に由来する心筋生検試料の厚さ50~200nmの切片を用いて心筋細胞中のミトコンドリアの面積を測定し、前記ミトコンドリアの平均面積が0.27μm/個以上であれば内科的治療が有効であり、前記平均面積が0.21μm/個以下であれば内科的治療が有効でないという基準と比較することにより、前記心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法。
【請求項3】
心不全患者に由来する心筋生検試料の厚さ50~200nmの切片を用いて心筋細胞中のミトコンドリアの平均密度を測定し、前記ミトコンドリアの平均密度が0.4個/μm以上であれば内科的治療が有効であり、前記平均密度が0.3個/μm以下であれば内科的治療が有効でないという基準と比較することにより、前記心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法。
【請求項4】
心不全患者に由来する心筋生検試料中の心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子の発現量を測定し、Cytochrome C Oxidase Subunit 6A1(COX6A1)遺伝子の発現量を1とした場合のMitofusin-1遺伝子の発現量の相対値が0.7以上であれば内科的治療が有効であり、前記相対値が0.5以下であれば内科的治療が有効でないという基準と比較することにより、前記心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法。
【請求項5】
Mitofusin-1タンパク質に対する特異的結合物質、
Mitofusin-1遺伝子のcDNAを増幅するためのプライマーセット、又は
Mitofusin-1遺伝子のmRNAに相補的なプローブ、
を備える、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのデータを収集する方法に関する。より詳細には、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのデータを収集する方法、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法、及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
重症心不全は予後が不良な疾患である。心不全については、心筋におけるエネルギー代謝の変化(心筋代謝リモデリング)が生じることにより、病態が促進することが明らかにされているが、その分子機序の多くは謎である(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0003】
心不全患者に対しては、β遮断薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬等を投与する、内科的治療が標準的に行われている。内科的治療により、心不全患者の予後が改善される場合がある一方で、中には内科的治療が奏功しない患者群が存在し、これらの患者は予後が非常に不良である。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Neubauer S., The failing heart - an engine out of fuel., N. Engl. J. Med., 356 (11), 1140-1151, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、内科的治療が有効である心不全患者(レスポンダー)と、内科的治療が有効でない心不全患者(ノンレスポンダー)を識別する方法は存在しない。そこで、本発明は、内科的治療が有効である心不全患者と、内科的治療が有効でない心不全患者を識別する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
[1]心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのデータを収集する方法であって、上記心不全患者に由来する心筋生検試料中の心筋細胞中のミトコンドリアのサイズを測定する工程、上記心筋細胞中のミトコンドリアの密度を測定する工程、又は上記心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子若しくはタンパク質の発現量を測定する工程を備える方法。
[2]心不全患者に由来する心筋生検試料の厚さ50~200nmの切片を用いて心筋細胞中のミトコンドリアの面積を測定し、前記ミトコンドリアの平均面積が0.27μm/個以上であれば内科的治療が有効であり、前記平均面積が0.21μm/個以下であれば内科的治療が有効でないという基準と比較することにより、前記心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法。
[3]心不全患者に由来する心筋生検試料の厚さ50~200nmの切片を用いて心筋細胞中のミトコンドリアの平均密度を測定し、前記ミトコンドリアの平均密度が0.4個/μm以上であれば内科的治療が有効であり、前記平均密度が0.3個/μm以下であれば内科的治療が有効でないという基準と比較することにより、前記心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法。
[4]心不全患者に由来する心筋生検試料中の心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子の発現量を測定し、Cytochrome C Oxidase Subunit 6A1(COX6A1)遺伝子の発現量を1とした場合のMitofusin-1遺伝子の発現量の相対値が0.7以上であれば内科的治療が有効であり、前記相対値が0.5以下であれば内科的治療が有効でないという基準と比較することにより、前記心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法。
[5]Mitofusin-1タンパク質に対する特異的結合物質、Mitofusin-1遺伝子のcDNAを増幅するためのプライマーセット、又はMitofusin-1遺伝子のmRNAに相補的なプローブ、を備える、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのキット。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、内科的治療が有効である心不全患者と、内科的治療が有効でない心不全患者を識別する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)及び(b)は、実験例1の結果を示す代表的な電子顕微鏡写真である。
【図2】実験例1の結果を示すグラフである。
【図3】実験例2の結果を示すグラフである。
【図4】実験例3の結果を示すグラフである。
【図5】(a)及び(b)は、実験例4の結果を示す代表的な蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[データ収集方法]
1実施形態において、本発明は、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのデータを収集する方法であって、上記心不全患者に由来する心筋生検試料中の心筋細胞中のミトコンドリアのサイズを測定する工程、上記心筋細胞中のミトコンドリアの密度を測定する工程、又は上記心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子若しくはタンパク質の発現量を測定する工程を備える方法を提供する。本実施形態の方法は、患者の身体状態、治療計画について医療上の判断を行う工程を含まない。

【0010】
実施例において後述するように、発明者らは、心不全患者に由来する心筋細胞中のミトコンドリアのサイズ、上記心筋細胞中のミトコンドリアの密度、上記心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子の発現量、又は上記心筋細胞におけるMitofusin-1タンパク質の発現量の測定値に基づいて、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測することができることを明らかにした。

【0011】
したがって、本実施形態の方法により、内科的治療が有効である心不全患者と、内科的治療が有効でない心不全患者を識別するためのデータを得ることができる。すなわち、心筋細胞中のミトコンドリアのサイズ、心筋細胞中のミトコンドリアの密度、心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子若しくはタンパク質の発現量は、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのデータであるということができる。

【0012】
そして、ミトコンドリアのサイズ、ミトコンドリアの密度、Mitofusin-1遺伝子の発現量又はMitofusin-1タンパク質の発現量が、所定の基準値よりも大きい場合には、心不全患者に対する内科的治療が有効であると判断することができ、基準値よりも小さい場合には、心不全患者に対する内科的治療が有効でないと判断することができる。

【0013】
ミトコンドリアのサイズ、ミトコンドリアの密度、Mitofusin-1遺伝子の発現量、Mitofusin-1タンパク質の発現量から選択されるパラメータの測定は、いずれか1つを単独で行ってもよいし、いずれか2つ以上を組み合わせて行ってもよい。複数のパラメータを組み合わせて測定し、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを総合的に判断することにより、より正確な予測が可能になる。

【0014】
複数のパラメータを組み合わせて測定する場合、それぞれの測定値をスコア化し、合計スコアにより心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを総合的に判断してもよい。

【0015】
本実施形態の方法により収集されたデータに基づいて、内科的治療が有効であると予測された患者には、内科的治療を行うことが効果的である。一方、内科的治療が有効でないと予測された患者には、内科的治療ではなく、心臓移植や人工心臓の装着を早期に行うことを検討する必要がある。

【0016】
従来は、内科的治療が有効である心不全患者と、内科的治療が有効でない心不全患者を識別する方法が存在しなかった。このため、心不全患者が、内科的治療が有効でない患者であった場合、予後が非常に不良であった。これに対し、本実施形態の方法により、より効果的な治療法を早期に選択することが容易になる。

【0017】
内科的治療としては、例えば、β遮断薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬等を投与する治療が挙げられる。

【0018】
[心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法]
1実施形態において、本発明は、心不全患者に由来する心筋生検試料の厚さ50~200nmの切片を用いて心筋細胞中のミトコンドリアの面積を測定し、上記ミトコンドリアの平均面積が0.27μm/個以上、例えば0.277μm/個以上、例えば0.27~1.0μm/個、例えば0.277~1.0μm/個であれば内科的治療が有効であり、上記平均面積が0.21μm/個以下、例えば0.206μm/個以下であれば内科的治療が有効でないという基準と比較することにより、上記心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法を提供する。

【0019】
本実施形態の方法において、ミトコンドリアの面積は、心筋生検試料の切片の電子顕微鏡画像に基づいて測定してもよい。また、心筋生検試料の切片の厚さは、例えば50~100nmであってもよく、例えば70~90nmであってもよい。

【0020】
本実施形態の方法は、人体から収集された試料又はデータを用いて基準と比較する分析を行うものである。

【0021】
実施例において後述するように、発明者らは、心不全患者に由来する心筋細胞中のミトコンドリアのサイズに基づいて、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測することができることを明らかにした。したがって、本実施形態の方法により、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験することができる。

【0022】
ミトコンドリアのサイズとしては、例えば、心筋生検試料の薄切切片を用いて測定された、ミトコンドリア1個あたりの面積が挙げられる。この面積は、ミトコンドリア1個あたりの平面視における投影面積であるということもできる。あるいは、ミトコンドリアのサイズとして、ミトコンドリア1個あたりの体積を用いてもよい。

【0023】
ミトコンドリアのサイズの平均値を算出する場合、患者1人あたり100個以上、例えば200個以上のミトコンドリアのサイズを測定し、平均値を算出することが好ましい。また、平均値は、相加平均であることが好ましい。

【0024】
1実施形態において、本発明は、心不全患者に由来する心筋生検試料の厚さ50~200nmの切片を用いて心筋細胞中のミトコンドリアの平均密度を測定し、上記ミトコンドリアの平均密度が0.4個/μm以上、例えば0.44個/μm以上、例えば0.4~1.0個/μm、例えば0.44~1.0個/μmであれば内科的治療が有効であり、上記平均密度が0.3個/μm以下、例えば0.29個/μm以下であれば内科的治療が有効でないという基準と比較することにより、上記心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法を提供する。

【0025】
本実施形態の方法において、ミトコンドリアの密度は、心筋生検試料の切片の電子顕微鏡画像に基づいて測定してもよい。また、心筋生検試料の切片の厚さは、例えば50~100nmであってもよく、例えば70~90nmであってもよい。

【0026】
本実施形態の方法は、人体から収集された試料又はデータを用いて基準と比較する分析を行うものである。

【0027】
実施例において後述するように、発明者らは、心不全患者に由来する心筋細胞中のミトコンドリアの平均密度に基づいて、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測することができることを明らかにした。したがって、本実施形態の方法により、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験することができる。

【0028】
ミトコンドリアの平均密度としては、例えば、心筋生検試料の薄切切片を用いて測定された、単位面積あたりのミトコンドリアの数が挙げられる。あるいは、ミトコンドリアの平均密度として、例えば患者由来の心筋細胞中の単位体積あたりのミトコンドリアの数を用いてもよい。また、平均値は、相加平均であることが好ましい。

【0029】
1実施形態において、本発明は、心不全患者に由来する心筋生検試料中の心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子の発現量を測定し、COX6A1遺伝子の発現量を1とした場合のMitofusin-1遺伝子の発現量の相対値が0.7以上であれば内科的治療が有効であり、上記相対値が0.5以下であれば内科的治療が有効でないという基準と比較することにより、上記心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験する方法を提供する。

【0030】
実施例において後述するように、発明者らは、心不全患者に由来する心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子又はタンパク質の発現量に基づいて、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測することができることを明らかにした。したがって、本実施形態の方法により、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを試験することができる。

【0031】
上記の基準において、COX6A1遺伝子の発現量は、各細胞において発現量のばらつきが少ないと考えられるハウスキーピング遺伝子の代表的なものとして使用している。しかしながら、ハウスキーピング遺伝子はこれに限定されず、例えば、β-アクチン遺伝子、グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素遺伝子等の他の遺伝子を使用してもよい。その場合、使用したハウスキーピング遺伝子の発現量を1とした場合のMitofusin-1遺伝子の発現量の相対値に基づいて内科的治療が有効であるか否かを判断する基準値は適宜調整すればよい。

【0032】
あるいは、例えば、測定したハウスキーピング遺伝子がCOX6A1以外の遺伝子であった場合であっても、測定したハウスキーピング遺伝子の発現量と、COX6A1遺伝子の発現量の比に基づいて、COX6A1遺伝子の発現量を1とした場合のMitofusin-1遺伝子の発現量の相対値を算出することができる。そして、COX6A1遺伝子の発現量を1とした場合のMitofusin-1遺伝子の発現量の相対値が0.7以上であれば内科的治療が有効であり、上記相対値が0.5以下であれば内科的治療が有効でないと判断することができる。

【0033】
また、ハウスキーピング遺伝子及びMitofusin-1遺伝子の発現量は、タンパク質レベルで測定することもできる。その場合、ハウスキーピング遺伝子にコードされるタンパク質の発現量を1とした場合のMitofusin-1タンパク質の発現量の相対値に基づいて内科的治療が有効であるか否かを判断する基準値は適宜調整すればよい。

【0034】
ヒトCOX6A1遺伝子mRNAのRefSeq IDはNM_004373である。また、ヒトCOX6A1タンパク質のRefSeq IDはNP_004364である。

【0035】
Mitofusin-1タンパク質は、ミトコンドリアの融合に不可欠な分子であることが知られている。ヒトMitofusin-1遺伝子のmRNAのRefSeq IDはNM_033540である。また、ヒトMitofusin-1タンパク質のRefSeq IDはNP_284941である。

【0036】
Mitofusin-1遺伝子及びCOX6A1遺伝子の発現量は、例えばリアルタイムPCRにより測定してもよく、例えばDNAアレイ等を用いて測定してもよく、例えばノーザンブロッティング等により測定してもよい。

【0037】
また、Mitofusin-1タンパク質及びCOX6A1タンパク質の発現量は、例えば、心筋組織切片の免疫染色により測定してもよく、例えば、ELISA法により測定してもよく、例えば、ウエスタンブロッティング法等により測定してもよい。

【0038】
なお、発明者らは、心不全患者に由来する心筋細胞におけるMitofusin-2遺伝子又はタンパク質の発現量は、内科的治療が有効である心不全患者(レスポンダー)と内科的治療が有効でない心不全患者(ノンレスポンダー)との間で差がないことを明らかにした。

【0039】
[キット]
1実施形態において、本発明は、Mitofusin-1タンパク質に対する特異的結合物質、Mitofusin-1遺伝子のcDNAを増幅するためのプライマーセット、又はMitofusin-1遺伝子のmRNAに相補的なプローブ、を備える、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測するためのキットを提供する。

【0040】
実施例において後述するように、発明者らは、心不全患者に由来する心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子又はタンパク質の発現量に基づいて、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測することができることを明らかにした。

【0041】
本実施形態のキットは、Mitofusin-1遺伝子又はタンパク質の発現量に基づいて心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測又は試験するために、好適に用いることができる。

【0042】
(特異的結合物質)
特異的結合物質としては、抗体、抗体断片、アプタマー等が挙げられる。抗体は、例えば、マウス等の動物に、Mitofusin-1タンパク質又はその断片を抗原として免疫することによって作製することができる。あるいは、例えば、ファージライブラリーのスクリーニングにより作製することができる。抗体断片としては、Fv、Fab、scFv等が挙げられる。

【0043】
上記の抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。また、市販の抗体であってもよい。

【0044】
アプタマーとは、標的物質に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。標的ペプチドに特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、標的ペプチドに特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo-hybrid法等により選別することができる。

【0045】
(プライマーセット)
Mitofusin-1遺伝子のcDNAを増幅するためのプライマーセットは、Mitofusin-1遺伝子のmRNAをRT-PCR等により増幅することができるものであれば特に制限されず、例えば、配列番号1に示すセンスプライマー及び配列番号2に示すアンチセンスプライマーからなるプライマーセット等が挙げられる。

【0046】
Mitofusin-1遺伝子のmRNAは、上述したIDで特定されるRefSeqデータベースのエントリーに記載された塩基配列を有している。なお、mRNAにはスプライシングバリアント等が存在する場合があるため、Mitofusin-1遺伝子のmRNAは上述したRefSeq IDで特定されるものに限られるものではない。

【0047】
例えば、被検者由来の心筋生検試料を用い、本プライマーセットを用いたRT-PCR等を行うことにより、試料中のMitofusin-1遺伝子のmRNAを検出又は定量することができる。

【0048】
(プローブ)
プローブとしては、Mitofusin-1遺伝子のmRNAに特異的にハイブリダイズするものであれば特に限定されない。プローブは、担体上に固定されてDNAマイクロアレイ等を構成していてもよい。例えば、上記のDNAマイクロアレイに、被検者由来の心筋生検試料から抽出したmRNAを接触させ、プローブにハイブリダイズしたMitofusin-1遺伝子のmRNAを検出することにより、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かの予測、又は心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かの試験を行うことができる。

【0049】
本実施形態のキットは、ハウスキーピング遺伝子にコードされるタンパク質に対する特異的結合物質、ハウスキーピング遺伝子のcDNAを増幅するためのプライマーセット、又はハウスキーピング遺伝子のmRNAに相補的なプローブ、を更に備えていてもよい。ハウスキーピング遺伝子としては、上述したものと同様であり、例えば、COX6A1遺伝子が挙げられる。

【0050】
[その他の実施形態]
1実施形態において、本発明は、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを診断する方法であって、上記心不全患者に由来する心筋生検試料中の心筋細胞中のミトコンドリアのサイズを測定する工程、上記心筋細胞中のミトコンドリアの密度を測定する工程、又は上記心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子若しくはタンパク質の発現量を測定する工程を備える方法を提供する。

【0051】
1実施形態において、本発明は、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを診断する方法であって、上記心不全患者に由来する心筋生検試料中の心筋細胞中のミトコンドリアのサイズを測定する工程を備え、上記生検試料の厚さ50~200nmの切片を用いて測定された、上記ミトコンドリアの平均面積が0.27μm/個以上であれば内科的治療が有効であり、上記平均面積が0.21μm/個未満であれば内科的治療が有効でないと診断する方法を提供する。

【0052】
1実施形態において、本発明は、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを診断する方法であって、上記心筋細胞中のミトコンドリアの密度を測定する工程を備え、上記生検試料の厚さ50~200nmの切片を用いて測定された、上記ミトコンドリアの平均密度が0.4個/μm以上であれば内科的治療が有効であり、上記平均密度が0.3個/μm未満であれば内科的治療が有効でないと診断する方法を提供する。

【0053】
1実施形態において、本発明は、心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを診断する方法であって、上記心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子の発現量を測定する工程を備え、COX6A1遺伝子の発現量を1とした場合のMitofusin-1遺伝子の発現量の相対値が0.7以上であれば内科的治療が有効であり、上記相対値が0.5未満であれば内科的治療が有効でないと診断する方法を提供する。

【0054】
上記のいずれかの実施形態において、心不全患者に対する内科的治療が有効であると診断された場合には、内科的治療を行うことが効果的である。内科的治療としては、上述したもの等が挙げられる。また、心不全患者に対する内科的治療が有効でないと診断された場合には、心臓移植や人工心臓の装着を早期に行うことが効果的である。

【0055】
1実施形態において、本発明は、心不全患者の治療方法であって、上記心不全患者に由来する心筋生検試料中の心筋細胞中のミトコンドリアのサイズに基づいて心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを診断する工程、上記心筋細胞中のミトコンドリアの密度に基づいて心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを診断する工程、又は上記心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子若しくはタンパク質の発現量に基づいて心不全患者に対する内科的治療が有効であるか否かを診断する工程を備え、心不全患者に対する内科的治療が有効であると診断された場合には内科的治療を行い、心不全患者に対する内科的治療が有効でないと診断された場合には心臓移植又は人工心臓の装着を行う方法を提供する。
【実施例】
【0056】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
[実験例1]
(ミトコンドリアのサイズの検討)
新潟大学医歯学総合病院循環器内科に入院した心不全患者のうち、2012~2014年の間に、心臓超音波検査、心臓カテーテル検査及び心筋生検を行い、且つ、内科的治療を開始してから半年から1年後に、心臓超音波検査を再度行って心機能を再確認した患者を対象とした。
【実施例】
【0058】
対象とした患者のうち、心機能の再確認時の心臓超音波検査において、心臓の収縮能(Ejection Fraction、EF)と左室拡張末期径が、いずれも10%以上改善した患者をレスポンダー(内科的治療が有効である心不全患者)と定義し、心臓の収縮能と左室拡張末期径が、いずれも10%未満の改善しか示さなかった患者をノンレスポンダー(内科的治療が有効でない心不全患者)と定義した。
【実施例】
【0059】
対象とした患者の心筋生検試料をパラホルムアルデヒド固定してパラフィン包埋後、厚さ70~90nmの薄切切片を作製した。続いて透過電子顕微鏡(型式「JEM1400」、日本電子株式会社製)を用いて倍率1000倍で心筋細胞の長軸像を観察した。続いて、最もミトコンドリアが密集していた領域を倍率2500倍で観察し、ミトコンドリアのサイズ(面積)を測定した。なお、倍率2500倍で観察した場合、1視野の面積は10.2×10.2μmであった。患者1人あたり200個以上のミトコンドリアについて面積を測定し、平均値を算出した。
【実施例】
【0060】
図1(a)は、レスポンダー群(Res)の患者の心筋生検試料の薄切切片の代表的な電子顕微鏡写真である。倍率は2500倍である。スケールバーは2pmを示す。図1(b)は、ノンレスポンダー群(Non-Res)の患者の心筋生検試料の薄切切片の代表的な電子顕微鏡写真である。倍率は2500倍である。スケールバーは2pmを示す。
【実施例】
【0061】
図2は、レスポンダー群(Res)及びノンレスポンダー群(Non-Res)の患者の心筋細胞中のミトコンドリア1個あたりの平均面積の測定結果を示すグラフである。図2中、「**」は、危険率1%未満で有意差があることを示す。
【実施例】
【0062】
その結果、レスポンダー群の患者のミトコンドリア1個あたりの平均面積は0.277μmであり、ノンレスポンダー群の患者のミトコンドリア1個あたりの平均面積は、0.206μmであり、これらの値には有意差があることが明らかとなった。すなわち、心不全患者由来の心筋細胞中のミトコンドリアのサイズを測定することにより、その患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測することができることが明らかとなった。
【実施例】
【0063】
[実験例2]
(ミトコンドリアの密度の検討)
実験例1で撮影した電子顕微鏡写真を用いて、単位面積あたりのミトコンドリアの数、すなわち、ミトコンドリアの平均密度を測定した。実験例1と同様にして、最もミトコンドリアが密集していた領域を倍率2500倍で観察し、単位面積当たりのミトコンドリアの数(密度)を測定した。なお、倍率2500倍で観察した場合、1視野の面積は10.2×10.2μmであった。患者1人あたり5視野以上の領域について、ミトコンドリアの密度を測定し、平均値を算出した。
【実施例】
【0064】
図3は、レスポンダー群(Res)及びノンレスポンダー群(Non-Res)の患者の心筋細胞中のミトコンドリアの平均密度の測定結果を示すグラフである。図3中、「*」は、危険率5%未満で有意差があることを示す。
【実施例】
【0065】
その結果、レスポンダー群の患者のミトコンドリアの平均密度は0.44個/μmであり、ノンレスポンダー群の患者のミトコンドリアの平均密度は0.29個/μmであり、これらの値には有意差があることが明らかとなった。すなわち、心不全患者由来の心筋細胞中のミトコンドリアの平均密度を測定することにより、その患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測することができることが明らかとなった。
【実施例】
【0066】
[実験例3]
(Mitofusin-1遺伝子の発現量の検討)
実験例1の対象患者由来の心筋生検試料から全RNA(最大5μg)を抽出しcDNAを合成した。続いて、リアルタイムPCR装置(型式「Light cycler II」、ロシュ社)を用いて定量的PCRを行い、Mitofusin-1遺伝子及びCOX6A1遺伝子の発現量を測定した。
【実施例】
【0067】
Mitofusin-1遺伝子のcDNAの増幅には配列番号1に示すセンスプライマー及び配列番号2に示すアンチセンスプライマーを用いた。また、COX6A1遺伝子のcDNAの増幅には配列番号3に示すセンスプライマー及び配列番号4に示すアンチセンスプライマーを用いた。測定されたMitofusin-1遺伝子の発現量は、COX6A1遺伝子の発現量で基準化した。
【実施例】
【0068】
図4は、レスポンダー群(Res)及びノンレスポンダー群(Non-Res)の患者の心筋細胞におけるMitofusin-1遺伝子の発現量の測定結果を示すグラフである。図4中、「*」は、危険率5%未満で有意差があることを示す。
【実施例】
【0069】
本実験例の結果から、COX6A1遺伝子の発現量を1とした場合のMitofusin-1遺伝子の発現量の相対値が0.7以上であれば内科的治療が有効であり、前記相対値が0.5以下であれば内科的治療が有効でないと判断できると計算された。
【実施例】
【0070】
あるいは、Mitofusin-1遺伝子の(Threshold Cycle)Ct値からCOX6A1遺伝子のCt値を引いた値(以下、「α」とする。)から更に0.52625(レスポンダー群におけるMitofusin-1遺伝子のCt値からCOX6A1遺伝子のCt値を引いた値の平均値)を引き(α-0.52625、以下「β」とする。)、2のマイナスβ乗(2-β)により得られた計算値が1以上であれば内科的治療が有効であり、上記計算値が0.75未満であれば内科的治療が有効でないということもできる。
【実施例】
【0071】
なおCt値とは、定量的PCRにおいて、閾値と増幅曲線が交わる点におけるPCRサイクル数である。
【実施例】
【0072】
[実験例4]
(Mitofusin-1タンパク質の発現量の検討)
実験例1の対象患者由来の心筋生検試料をパラホルムアルデヒド固定してパラフィン包埋後、厚さ70~90nmの薄切切片を作製した。続いて、抗Mitofusin-1タンパク質抗体を用いた免疫染色により、Mitofusin-1タンパク質の発現量を検討した。
【実施例】
【0073】
図5(a)は、レスポンダー群(Res)の患者の心筋生検試料の薄切切片の代表的な蛍光顕微鏡写真である。倍率は400倍である。図5(b)は、ノンレスポンダー群(Non-Res)の患者の心筋生検試料の薄切切片の代表的な蛍光顕微鏡写真である。倍率は400倍である。
【実施例】
【0074】
その結果、レスポンダー群の患者の心筋細胞におけるMitofusin-1タンパク質の発現量は、ノンレスポンダー群の患者の心筋細胞におけるMitofusin-1タンパク質の発現量と比較して顕著に高いことが明らかとなった。
【実施例】
【0075】
すなわち、心不全患者由来の心筋細胞中のMitofusin-1タンパク質の発現量を測定することにより、その患者に対する内科的治療が有効であるか否かを予測することができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明により、内科的治療が有効である心不全患者と、内科的治療が有効でない心不全患者を識別する技術を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4