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明細書 :ハイドロゲルを担体として過酸化水素を徐放する腫瘍内局注用の放射線/化学療法増感剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6339062号 (P6339062)
登録日 平成30年5月18日(2018.5.18)
発行日 平成30年6月6日(2018.6.6)
発明の名称または考案の名称 ハイドロゲルを担体として過酸化水素を徐放する腫瘍内局注用の放射線/化学療法増感剤
国際特許分類 A61K  33/40        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  47/42        (2017.01)
A61K   9/06        (2006.01)
FI A61K 33/40
A61P 35/00
A61P 43/00 121
A61K 47/42
A61K 9/06
請求項の数または発明の数 10
全頁数 22
出願番号 特願2015-500320 (P2015-500320)
出願日 平成26年2月14日(2014.2.14)
国際出願番号 PCT/JP2014/053542
国際公開番号 WO2014/126222
国際公開日 平成26年8月21日(2014.8.21)
優先権出願番号 2013028413
優先日 平成25年2月15日(2013.2.15)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年2月10日(2017.2.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
発明者または考案者 【氏名】小川 恭弘
【氏名】徳廣 志保
【氏名】小田 秀樹
【氏名】横田 典和
【氏名】明間 陵
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】石井 裕美子
参考文献・文献 国際公開第2008/041514(WO,A1)
国際公開第2009/116556(WO,A1)
国際公開第2009/075329(WO,A1)
国際公開第2008/016163(WO,A1)
Y.Ogawa, et al., International Journal of Oncology, 2009, 34, pp609-618,文献全体
S.Tokuhiro, et al., Oncology Letters, 2010, 1, pp1025-1028,文献全体
M.Yamamoto, et al., Biomaterials, 2003, 24, pp4375-4383,Abstract、4378頁左欄下から25行-右欄6行
調査した分野 A61K 33/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 35/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための、
(a)過酸化水素、及び
(b)酸性ゼラチンから調製された架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル
を組み合わせてなる増感剤であって、前記増感剤が腫瘍患部に局所投与されるものである、増感剤。
【請求項2】
酸性ゼラチンの等電点が4.5~5.5であることを特徴とする、請求項1に記載の増感剤。
【請求項3】
腫瘍が、放射線または抗がん剤による治療に対して抵抗性を示すものである、請求項1または2に記載の増感剤。
【請求項4】
前記増感剤の第一回目の投与が、第一回目の放射線照射または抗がん剤投与開始日の3日前から放射線照射または抗がん剤投与開始までに行われることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の増感剤。
【請求項5】
前記増感剤の第二回目の投与が、第一回目の前記増感剤の投与の5~14日後に行われることを特徴とする、請求項4に記載の増感剤。
【請求項6】
架橋ゼラチンゲルの含水率が、92~99.7%であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の増感剤。
【請求項7】
最終製剤が、架橋ゼラチンゲルの乾燥重量に換算して、腫瘍体積200mm当たり0.1~10mgの割合で投与されるものである、請求項1~6のいずれか一項に記載の増感剤。
【請求項8】
最終製剤中の過酸化水素の含有量が0.01~3.5重量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の増感剤。
【請求項9】
放射線または抗がん剤を使用した腫瘍の治療のための組成物であって、前記組成物が、
(a)過酸化水素、及び
(b)酸性ゼラチンから調製された架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル
を組み合わせてなり、前記組成物が腫瘍患部に局所投与されるものである、組成物。
【請求項10】
放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高める増感剤の製造のための、下記(a)及び(b)を組み合わせてなる、腫瘍患部に局所投与する組成物の使用:
(a)過酸化水素
(b)酸性ゼラチンから調製された架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための増感剤、特に放射線照射または抗がん剤投与の際に、腫瘍患部に注入して用いられる徐放性の放射線治療または抗がん剤治療の増感剤に関する。また、本発明はかかる増感剤を用いた抗がん療法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、悪性腫瘍の局所治療法として外科的手術に次ぐ方法であり、高齢患者に適用でき、また正常臓器や組織が温存できるという点から、昨今治療患者数が激増している治療方法である。しかしながら、現在、当該放射線治療に汎用されているリニア・アクセラレータによる高エネルギーエックス線及び電子線は、低LET(linear energy transfer)放射線であり、その生物学的効果は比較的低い。そのため、悪性黒色腫や種々の肉腫、多型性神経膠芽腫などの腫瘍にはリニア・アクセラレータによる放射線治療の効果は乏しい。また数cm以上にまで増大した局所進行癌は、低酸素性腫瘍細胞数が多く、また多量の抗酸化酵素を含むために放射線抵抗性であるだけでなく、抗がん化学療法に対しても抵抗性を示すことが少なくない。
【0003】
本発明者等は、既にこのような放射線治療及び抗がん化学療法に抵抗性を示す腫瘍に対して、過酸化水素を併用することが有効であることを確認している(例えば非特許文献1~3)。
【0004】
また、本発明者等は、患部への刺激が強く腫瘍内で分解されやすい過酸化水素を腫瘍内に投与するために、過酸化水素とヒアルロン酸またはその塩を併用することが最も有効であることを確認している(例えば特許文献1、非特許文献4~7)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開公報WO2008/041514号
【特許文献2】特開2004-203829号
【特許文献3】特開2005-325075号
【0006】

【非特許文献1】Yasuhiro Ogawa et. al.,:Mechanism of apoptotic resistance of human osteosarcoma cell line, HS-Os-1, against irradiation. International Journal of Molecular Medicine 12:453-458, 2003
【非特許文献2】Yasuhiro Ogawa et. al.,: Apoptotic-resistance of human osteosarcoma cell line HS-Os-1 to irradiation is converted to apoptotic-susceptibility by hydrogen peroxide: A potent role of hydrogen peroxide as a new radiosensitizer. International Journal of Molecular Medicine 12:845-850, 2003
【非特許文献3】Yasuhiro Ogawa et. al.,:Immunocytochemical characteristics of human osteosarcoma cell line HS-Os-1: Possible implication in apoptotic resistance against irradiation. International Journal of Molecular Medicine 14:397-403, 2004
【非特許文献4】YASUHIRO OGAWA et al; Phase I study of a new radiosensitizer containing hydrogen peroxide and sodium hyaluronate for topical tumor injection: A new enzyme-targeting radiosensitization treatment, Kochi Oxydol-Radiation Therapy for Unresectable Carcinomas, Type II (KORTUC II); INTERNATIONAL JOURNAL OF ONCOLOGY 34: 609-618, 2009
【非特許文献5】明間陵、小川恭弘 他;過酸化水素腫瘍内局注による放射線増感効果のマウス移植腫瘍を用いた実験的検討ヒアルロン酸添加の有用性について;臨床放射線 Vol. 54 No. 12 2009
【非特許文献6】Shiho Tokuhiro, Yasuhiro Ogawa, et al; Development of a novel enzyme-targeting radiosensitizer (KORTUC) containing hydrogen peroxide for intratumoral injection for patients with low linear energy transfer-radioresistant neoplasms; ONCOLOGY LETTERS 1: 1025-1028, 2010
【非特許文献7】Yasuhiro Ogawa, et al; Safety and effectiveness of a new enzyme-targeting radiosensitization treatment (KORTUC II) for intratumoral injection for low-LET radioresistant tumors; INTERNATIONAL JOURNAL OF ONCOLOGY 39: 553-560, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで本発明者等が開発を進めてきた過酸化水素及びヒアルロン酸またはその塩からなる放射線増感剤または抗がん化学療法増感剤(以下KORTUCともいう)は、放射線治療または抗がん剤投与期間中に週に2回の頻度で、超音波検査のガイド下で治療対象者の腫瘍内に局所注入する必要があった。そのため、該増感剤注入時の治療対象者の疼痛等の肉体的・精神的な負担が大きく、また該増感剤を注入する医師や超音波を担当する医師等の時間的・肉体的負担も認められた。また、KORTUCを使用した場合であっても、腫瘍内の酸素分圧が最も高く、放射線照射への増感効果が最も高いのは、該増感剤を注入後24時間以内であるため、該増感剤注入後直ちに放射線照射または抗がん化学療法を行う必要があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、より長期間過酸化水素の分解が防止でき、その効果が持続する放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための増感剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために鋭意検討を行っていたところ、過酸化水素と架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルを併用することで、過酸化水素を体内に投与した場合でも抗酸化酵素の働きによる過酸化水素の分解が長期間有意に抑制されて、KORTUCよりも長時間過酸化水素投与の効果が維持されることを見出した。またハイドロゲルに含浸させた過酸化水素が長期間徐放されることにより、過酸化水素の投与回数を減らしてもKORTUCを使用した場合よりも強い放射線増感効果及び抗がん化学療法増感効果が発揮できることを見出した。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の構成を有することを特徴とする。
I.放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための増感剤
I-1.放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための、
(a)過酸化水素、及び
(b)架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル
を組み合わせてなる増感剤であって、前記増感剤が腫瘍患部に局所投与されるものである、増感剤。
I-2.腫瘍が、放射線または抗がん剤による治療に対して抵抗性を示すものである、I-1に記載の増感剤。
I-3.前記増感剤の第一回目の投与が、第一回目の放射線照射または抗がん剤投与開始日の3日前から放射線照射または抗がん剤投与開始までに行われることを特徴とする、I-1またはI-2に記載の増感剤。
I-4. 前記増感剤の第二回目の投与が、第一回目の前記増感剤の投与の5~14日後に行われることを特徴とする、I-3に記載の増感剤。
I-5.架橋ゼラチンゲルが、4.5~5.5の等電点を有するゼラチンから調製されるものであることを特徴とする、I-1~I-4のいずれか一項に記載の増感剤。
I-6.架橋ゼラチンゲルの含水率が、92~99.7%であることを特徴とする、I-1~I-5のいずれか一項に記載の増感剤。
I-7.最終製剤が、架橋ゼラチンゲルの乾燥重量に換算して、腫瘍体積200mm当たり0.1~10mgの割合で投与されるものである、I-1~I-6のいずれか一項に記載の増感剤。
I-8.最終製剤中の過酸化水素の含有量が0.01~3.5重量%である、I-1~I-7のいずれか一項に記載の増感剤。
II.腫瘍の治療方法
II-1.以下の工程を含む、腫瘍の治療方法:
(1)(a)過酸化水素、及び(b)架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルを組み合わせてなる増感剤を、腫瘍患部に局所投与する工程、及び
(2)腫瘍患部に放射線を照射するかまたは抗がん剤を腫瘍を患う患者に投与する工程。
II-2.腫瘍が、放射線または抗がん剤による治療に対して抵抗性を示すものである、II-1に記載の腫瘍の治療方法。
II-3.前記増感剤の第一回目の投与が、第一回目の放射線照射または抗がん剤投与開始日の3日前から放射線照射または抗がん剤投与開始までに行われることを特徴とする、II-1またはII-2に記載の腫瘍の治療方法。
II-4.前記増感剤の第二回目の投与が、第一回目の前記増感剤の投与の5~14日後に行われることを特徴とする、II-3に記載の腫瘍の治療方法。
II-5.架橋ゼラチンゲルが、4.5~5.5の等電点を有するゼラチンから調製されるものであることを特徴とする、II-1~II-4のいずれか一項に記載の腫瘍の治療方法。
II-6.架橋ゼラチンゲルの含水率が、92~99.7%であることを特徴とする、II-1~II-5のいずれか一項に記載の腫瘍の治療方法。
II-7.最終製剤が、架橋ゼラチンゲルの乾燥重量に換算して、腫瘍体積200mm当たり0.1~10mgの割合で投与されるものである、II-1~II-6のいずれか一項に記載の腫瘍の治療方法。
II-8.最終製剤中の過酸化水素の含有量が0.01~3.5重量%である、II-1~II-7のいずれか一項に記載の腫瘍の治療方法。
III.放射線または抗がん剤を使用した腫瘍の治療のための組成物
III-1.放射線または抗がん剤を使用した腫瘍の治療のための組成物であって、前記組成物が、
(a)過酸化水素、及び
(b)架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル
を組み合わせてなり、前記組成物が腫瘍患部に局所投与されるものである、組成物。
III-2.腫瘍が、放射線または抗がん剤による治療に対して抵抗性を示すものである、III-1に記載の組成物。
III-3.前記増感剤の第一回目の投与が、第一回目の放射線照射または抗がん剤投与開始日の3日前から放射線照射または抗がん剤投与開始までに行われることを特徴とする、III-1またはIII-2に記載の組成物。
III-4. 前記増感剤の第二回目の投与が、第一回目の前記増感剤の投与の5~14日後に行われることを特徴とする、III-3に記載の組成物。
III-5.架橋ゼラチンゲルが、4.5~5.5の等電点を有するゼラチンから調製されるものであることを特徴とする、III-1~III-4のいずれか一項に記載の組成物。
III-6.架橋ゼラチンゲルの含水率が、92~99.7%であることを特徴とする、III-1~III-5のいずれか一項に記載の組成物。
III-7.最終製剤が、架橋ゼラチンゲルの乾燥重量に換算して、腫瘍体積200mm当たり0.1~10mgの割合で投与されるものである、III-1~III-6のいずれか一項に記載の組成物。
III-8.最終製剤中の過酸化水素の含有量が0.01~3.5重量%である、III-1~III-7のいずれか一項に記載の組成物。
IV.放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高める増感剤の製造のための使用
IV-1.放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高める増感剤の製造のための、下記(a)及び(b)を組み合わせてなる、腫瘍患部に局所投与する組成物の使用:
(a)過酸化水素
(b)架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル。
IV-2.腫瘍が、放射線または抗がん剤による治療に対して抵抗性を示すものである、IV-1に記載の使用。
IV-3.前記増感剤の第一回目の投与が、第一回目の放射線照射または抗がん剤投与開始日の3日前から放射線照射または抗がん剤投与開始までに行われることを特徴とする、IV-1またはIV-2に記載の使用。
IV-4. 前記増感剤の第二回目の投与が、第一回目の前記増感剤の投与の5~14日後に行われることを特徴とする、IV-3に記載の使用。
IV-5.架橋ゼラチンゲルが、4.5~5.5の等電点を有するゼラチンから調製されるものであることを特徴とする、IV-1~IV-4のいずれか一項に記載の使用。
IV-6.架橋ゼラチンゲルの含水率が、92~99.7%であることを特徴とする、IV-1~IV-5のいずれか一項に記載の使用。
IV-7.最終製剤が、架橋ゼラチンゲルの乾燥重量に換算して、腫瘍体積200mm当たり0.1~10mgの割合で投与されるものである、IV-1~IV-6のいずれか一項に記載の使用。
IV-8.最終製剤中の過酸化水素の含有量が0.01~3.5重量%である、IV-1~IV-7のいずれか一項に記載の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、該増感剤投与後直ちに放射線照射または抗がん学剤投与を行わなくても、放射線治療や抗がん剤治療の効果を増感することができる。また、本発明によれば、KORTUCと比較しても、1回の放射線照射における腫瘍増殖抑制効果を長い時間持続することができ、KORTUCよりもより強い腫瘍増殖抑制効果が得られる。さらに、KORTUCは、週に2回の頻度で患部へ注入しなければ効果が得られなかったが、本発明によれば、該増感剤の投与は、多くても週1回の頻度で投与すればよく、治療対象者の時間的、肉体的、精神的負担を軽くすることができる。
【0012】
さらにKORTUCと比較しても、より強い腫瘍増殖抑制効果を示し、腫瘍の再発も低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】マウスに放射線を照射する際、マウスを固定した状態の器具及びボーラスを示す。
【図2】マウスに腫瘍細胞を移植した後、PBS+過酸化水素(コントロール)、ヒアルロン酸+過酸化水素(KORTUC)、またはメドジェル+過酸化水素(メドジェル)を投与し、72時間後に放射線を照射した。放射線照射後の各群の生存曲線を示す(◇:コントロール群、■:KORTUC投与群、△:メドジェル投与群)。
【図3】マウスに腫瘍細胞を移植した後、PBS+過酸化水素(コントロール)、ヒアルロン酸+過酸化水素(KORTUC)、またはメドジェル+過酸化水素(メドジェル)を投与し、72時間後に放射線を照射した。放射線照射後の各群の腫瘍体積曲線を示す(◇:コントロール群、■:KORTUC投与群、△:メドジェル投与群)。
【図4】図3に示したグラフの測定開始30日目の腫瘍体積の比較を示す(左からコントロール群、KORTUC投与群、メドジェル投与群)。
【図5】オキシドール中でのメドジェル粒子の10日後までの経時変化を示す。
【図6】各増感剤を腫瘍に投与した後48時間後に放射線照射を行った場合の腫瘍体積への影響を示す。腫瘍体積は、増感剤を投与してから37日目(放射線を照射してから35日目)に測定した。controlは放射線照射のみを行った群を、KORTUCはKOURTUCを投与し放射線照射を行った群を、PI5-100は100μlの処方例1の増感剤を投与し放射線照射を行った群を、PI5-30は30μlの処方例1の増感剤を投与し放射線照射を行った群を、PI9-2はPI-9の乾燥重量に換算して2mgとなるように処方例2の増感剤を投与し放射線照射を行った群を、PI9-0.6はPI-9の乾燥重量に換算して0.6mgとなるように処方例2の増感剤を投与し放射線照射を行った群を示す。
【図7】各増感剤を腫瘍に投与した後72時間後に放射線照射を行った場合の腫瘍体積への影響を示す。腫瘍体積は、増感剤を投与してから37日目(放射線を照射してから34日目)に測定した。controlは放射線照射のみを行った群を、KORTUCはKOURTUCを投与し放射線照射を行った群を、PI5-30は30μlの処方例1の増感剤を投与し放射線照射を行った群を、PI9-0.6はPI-9の乾燥重量に換算して0.6mgとなるように処方例2の増感剤を投与し放射線照射を行った群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
I.放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための増感剤
I-1.増感剤の組成
本発明の放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための増感剤(本明細書において、単に「増感剤」とすることがある)は、(a)過酸化水素と、(b)架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルとを組み合わせてなることを特徴とする。

【0015】
本発明において「放射線または抗がん剤による治療効果を高めるための増感剤」とは、腫瘍の放射線治療(放射線照射)並びに抗がん剤治療(抗がん剤の投与)の実施に際して、放射線照射または抗がん剤投与の前に、または同時に若しくは当該治療の実施後に、腫瘍患部に局所的に用いられる製剤組成物であって、腫瘍患部に対する放射線治療並びに抗がん剤治療の効果を増強することのできるものである。

【0016】
本発明において、「腫瘍」とは、良性若しくは悪性、または上皮性若しくは非上皮性を問わず、腫瘍全般を指す。好ましくは悪性の腫瘍である。また、放射線及び/または抗がん剤を使用した治療に対する腫瘍の感受性に制限はないが、より好ましくは、放射線及び/または抗がん剤を使用した治療に対して抵抗性を示す腫瘍である。

【0017】
また、本発明において「腫瘍患部」とは、主に腫瘍細胞が存在する腫瘍組織をさすが、該腫瘍組織は、腫瘍細胞並びに正常細胞及び/若しくは正常組織が混在するものも含む。腫瘍細胞並びに正常細胞及び/若しくは正常組織が混在する場合、正常細胞及び/若しくは正常組織に対する腫瘍細胞が占める容積または細胞数の割合は、特に制限されない。

【0018】
治療効果は、腫瘍組織の縮小率、患者の生存率、治療後の再発率等、腫瘍治療の一般的な評価方法により、評価することができる。

【0019】
腫瘍細胞に対するリニアー・アクセラレータによる放射線治療の効果は、ヒドロキシルラジカル等の活性酸素の産生に70%程度依存している。この点は、種々の抗がん剤(制がん剤)の作用メカニズムと共通している。従って、放射線による治療効果を増感する物質は、同時に抗がん剤による腫瘍の治療効果をも増感することになる。

【0020】
本発明で用いられる「過酸化水素」は、特に記載のない場合には、過酸化水素分子(H;分子量34)そのものを表す。

【0021】
また、「過酸化水素水」は、特に記載のない場合には、過酸化水素を日本局方等の蒸留水に溶解したものをいう。過酸化水素水に含まれる過酸化水素の濃度は、0.1~30w/v%、好ましくは2.5~30w/v%である。

【0022】
また、本明細書において、「オキシドール」と記載した場合には、日本薬局方に基づくオキシドールを指し、過酸化水素を2.5~3.5w/v%含有する過酸化水素水をいう。

【0023】
本明細書において、特に制限がない場合、w/v%は重量/容積パーセント濃度を表す。

【0024】
本発明で用いられる「架橋ゼラチンゲル」の原料となるゼラチンは、牛、豚、魚類などの各種の動物種の皮膚、骨、腱、靱帯、鰭、尾などの身体のあらゆる部位から採取できるコラーゲンをアルカリ加水分解、酸加水分解、及び/または酵素分解等の種々の処理によって変性させて得ることができる。好ましくは、牛または豚由来のゼラチンであり、特に好ましくは牛由来のゼラチンである。

【0025】
また、ゼラチンは、天然に存在しているコラーゲンだけでなく、遺伝子組換え技術によって得られたコラーゲンを下記方法により変性させたものでもよい。

【0026】
ゼラチンの入手方法には特に制限はなく、上記動物の骨等から抽出してもよいし、新田ゼラチン社製、株式会社ニッピ社製、グンゼ株式会社製等の市販のものを使用してもよい。ゼラチンは、エンドトキシンを含んでいないものが好ましい。

【0027】
さらに、ゼラチンとしては、例えば、等電点が4.5~5.5、より好ましくは4.8~5.0のアルカリ処理ゼラチン(酸性ゼラチン);等電点が7.0~10.0、より好ましくは8.0~9.0の酸処理ゼラチン(アルカリゼラチン)などが挙げられるが、等電点が4.8~5.0の酸性ゼラチンが好ましい。

【0028】
酸性ゼラチンは、常法に従ってコラーゲンを石灰等を用いて2~3ヶ月程度処理することにより得ることができ、アルカリ処理後の脱アミド率は、98~100%程度である。

【0029】
アルカリゼラチンは、常法に従ってコラーゲンを塩酸または硫酸等の無機酸を用いて数十時間~数日程度処理することにより得ることができ、酸処理後の脱アミド率は、0~2%程度である。

【0030】
ゼラチンは、一種類のみではなく、原料や、溶解性、分子量、等電点等の物性の異なるものを適宜混合して用いてもよい。

【0031】
ゼラチンの性質は、用いる材料及び処理方法により様々であるが、医療用として許容されない成分を含むものを除き、そのいずれの性質をもつゼラチンも本発明の架橋ゼラチンゲルの原料として利用することができる。

【0032】
本発明で用いられる「架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル」は、ゼラチンを化学的架橋剤、熱処理若しくは紫外線照射または電子線照射により架橋したゼラチンゲルを主成分とする。

【0033】
また、架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルは、架橋ゼラチンゲルの他、色素、コラーゲン以外のタンパク質及び/または塩等の夾雑物質を医学的に許容される範囲内において含むことがある。

【0034】
架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルの架橋ゼラチンゲルの含有量は、例えば95~100w/v%、より好ましくは98~100w/v%、最も好ましくは、99.5~100w/v%である。

【0035】
本発明において架橋ゼラチンゲルの調製に用いられる化学的架橋剤としては、生体に対する毒性がないものであれば特に限定されないが、例えば、グルタルアルデヒド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩や1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド-メト-p-トルエンスルホナート等の水溶性カルボジイミド、ビスエポキシ化合物、ホルマリンなどが好ましく、グルタルアルデヒド及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩が特に好ましい。

【0036】
また、これらの架橋処理を組み合わせて用いることもできる。さらに、塩架橋、静電的相互作用、水素結合、疎水性相互作用などを利用した物理架橋により架橋ゼラチンゲルを調製することも可能である。架橋の強度の点から、化学的架橋剤を用いることが好ましい。

【0037】
ゼラチンの架橋度は、架橋ゼラチンゲルの生体で分解される速度(日数)に応じて選択することができる。架橋ゼラチンゲルの分解速度は、例えば次の方法により測定することができる。乾燥架橋ゼラチンゲル1mg当たり60μlのPBSを滴下し、37℃で1時間または4℃で12時間~24時間静置する。PBSを含浸した架橋ゼラチンゲルの総重量を測定した後、当該架橋ゼラチンゲルを複数匹のマウスの背部皮下にそれぞれ埋植する。マウスを毎日、または2~3日おきに屠殺して埋植した架橋ゼラチンゲルを取り出し、その湿重量を測定する。取り出した架橋ゼラチンゲルの重量が、埋植前に測定したPBS含浸架橋ゼラチンの湿重量の約半分になった時点を架橋ゼラチンゲルの半減期(単位は日数)とする。

【0038】
本発明において使用される架橋ゼラチンゲルは、半減期が5~25日、好ましくは8~22日、より好ましくは10~20日、さらに好ましくは14~19日程度のものである。

【0039】
また、架橋ゼラチンの架橋度は、含水率として評価することができる。含水率は、Tabata, Yらの報告(Tabata, Y et al:J. Controlled Release, 31: 189-199,1994、Tabata Y,et al Tissue Eng. 1999 (2):127-38)に記載の方法等に従って求めることができる。例えば、乾燥架橋ゼラチンゲル1mgを1~3mlのPBS(pH7.4)に浸し、37℃で24時間程度時々撹拌しながらインキュベーションする。余剰のPBSを取り除きPBS含浸後の膨潤した架橋ゼラチンゲルの湿重量(膨潤後の架橋ゼラチンゲルの湿重量)を測定する。

【0040】
膨潤後の架橋ゼラチンゲルの湿重量の値から乾燥架橋ゼラチンゲルの重量の値を減じた吸水した水分重量の値を算出する。すなわち、次の式で表される。

【0041】
【化1】
JP0006339062B2_000002t.gif

【0042】
含水率は、吸水した水分重量の値を膨潤後の架橋ゼラチンゲルの湿重量の値で除し、その値を100倍する。すなわち、次の式で表される。

【0043】
【化2】
JP0006339062B2_000003t.gif

【0044】
本発明において使用される架橋ゼラチンゲルは、含水率が、92~99.7%、より好ましくは、93~98.5%、さらに好ましくは95~98%である。架橋ゼラチンゲルの含水率が低くなるにつれ、架橋ゼラチンゲルが生体で分解される速度は遅くなり、含水率が約98.8%の時の架橋ゼラチンゲルの半減期は6~8日程度、含水率が約97.6%の時の架橋ゼラチンゲルの半減期は10~14日程度、含水率が約96.9%の時の架橋ゼラチンゲルの半減期は16~20日程度である。

【0045】
上記含水率を有する架橋ゼラチンゲルは、架橋ゼラチンゲルを調製する際のゼラチンと架橋剤の濃度を、例えばゼラチン濃度1~20重量%、架橋剤濃度0.01~1重量%とすることにより得ることができる。さらに、架橋反応条件を、例えば、0~40℃、1~48時間の間で調整することにより所望の含水率の架橋ゼラチンを得ることができる。

【0046】
例えば、架橋剤としてグルタルアルデヒドを用いる場合には、3~5重量%のゼラチン水溶液にグルタルアルデヒドを終濃度で0.8~1.0重量%となるように加え、4℃、12時間程度の架橋反応を行うことにより、含水率が94%前後の架橋ゼラチンゲルを得ることができる。また同条件で、3~5重量%のゼラチン水溶液にグルタルアルデヒドを終濃度で0.6~0.7重量%となるように加えて架橋反応を行うことにより、含水率が97%前後の架橋ゼラチンゲルを得ることができ、さらに、3~5重量%のゼラチン水溶液にグルタルアルデヒドを終濃度で0.1~0.4重量%となるように加えて架橋反応を行うことにより、含水率が98%前後の架橋ゼラチンゲルを得ることができる。

【0047】
また、架橋剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を用いる場合には、1~10重量%のゼラチン水溶液にEDCを終濃度0.01~10重量%の範囲で適宜調整して添加し、4℃で24時間反応させることにより、含水率が92~99.7%の架橋ゼラチンゲルを得ることができる。

【0048】
また、ゼラチンは、架橋されることにより、水に不溶性となる。水不溶性とは、水を含む溶液を含んで膨潤するものの、水を含む水溶液には溶けないことをいう。架橋ゼラチンゲルの水への溶解性は、たとえば、60℃の水100gに対して、乾燥粉末状の架橋ゼラチン1gを投入し、1時間静置したときの該ゼラチンの溶解量が、0.1g以上である場合を水溶性、0.1g未満である場合を水不溶性と判定することができる。

【0049】
本発明で用いる架橋ゼラチンゲルの形状は特に制限はなく、例えば、円柱状、角柱状、シート状、ディスク状、球状、粒子状、粒状、粉末状、ペースト状などが挙げられる。本発明の増感剤を腫瘍患部に埋植して用いる場合には、円柱状、角柱状、シート状、ディスク状のものが好ましく、より好ましくはシート状、ディスク状のものである。本発明の増感剤を腫瘍患部に直接注入するまたは腫瘍患部の血管内に注入する形態を有する製剤として用いる場合には、球状、粒子状、粒状、粉末状、ペースト状のものが好ましい。

【0050】
架橋ゼラチンゲルの成形方法は、例えば特開2004-203829号及び特開2005-325075号に記載の方法に準じて行うことができる。

【0051】
すなわち、円柱状、角柱状、シート状、ディスク状の架橋ゼラチンゲルは、ゼラチン水溶液と架橋剤水溶液を混合した後に、所望の形状の鋳型に流し込み、架橋反応させて調製することができる。また、成形したゼラチンゲルをそのまま、あるいは乾燥後に架橋剤水溶液を添加してもよい。架橋反応を停止させるには、エタノールアミン、グリシン等のアミノ基を持つ低分子原子に接触させるか、またはpH2.5以下の水溶液を添加する。得られた架橋ゼラチンゲルは、蒸留水、エタノール、2-プロパノール、アセトン等により洗浄し、製剤調製に供される。

【0052】
ペースト状の架橋ゼラチンゲルは、上述の円柱状、角柱状、シート状、ディスク状の架橋ゼラチンゲルの調製方法と類似の方法で調製することができる。

【0053】
球状、粒子状、粒状の架橋ゼラチンゲルは、例えば、撹拌用モーター(例えば、新東科学社製、スリーワンモーター、EYELA mini D.C. Stirrer等)とテフロン(登録商標)製撹拌用プロペラを三つ口丸底フラスコに取り付け、これらを固定した装置に、ゼラチン水溶液を入れ、ここにオリーブ油等の油を加えて200~600rpm程度の速度で撹拌し、W/O型エマルジョンとし、これに架橋剤水溶液を添加するか、ゼラチン水溶液を予めオリーブ油中にて前乳化(例えば、vortex mixer Advantec TME-21、ホモジナイザー polytron PT10-35等)しておいたものをオリーブ油中に滴下し、微粒子化したW/O型エマルジョンを調製し、これに架橋剤水溶液を添加し、架橋反応させ、遠心分離により架橋ゼラチンゲルを回収し、アセトン、酢酸エチル等で洗浄し、さらにIPA、エタノール等で洗浄して乾燥させる。次に、Tween80を含む水溶液に100mMグリシンを加え、その中に粒子を懸濁させることで架橋反応を停止させることにより調製することができる。得られた架橋ゼラチンゲル粒子は、IPA、Tween80を含む蒸留水、蒸留水等で順次洗浄し、製剤調製に供される。

【0054】
架橋ゼラチンゲル粒子が凝集する場合には、例えば、超音波照射(冷却下、1分以内程度が好ましい)等を行ってもよい。

【0055】
なお、前乳化することによって、粒子サイズ20μm以下の微粒子状の架橋ゼラチンゲルが得られる。

【0056】
得られる架橋ゼラチンゲル粒子の平均粒子径は、1~1000μmであり、目的に応じて適宜必要なサイズの粒子をふるい分けして使用する。局所投与する場合は平均粒子径10~150μmの粒子を用いるのが好ましい。なお、ここでいう平均粒子径とは篩過により類推される粒子の平均径を意味する。また、得られる架橋ゼラチンゲル粒子の含水率は50~99%程度であり、適宜好ましい含水率のものを調製できる。

【0057】
上記のようにして得られた架橋ゼラチンゲルは減圧乾燥または凍結乾燥させることもできる。

【0058】
凍結乾燥は、例えば架橋ゼラチンゲルを蒸留水に入れ、液体窒素中で30分以上または-80℃で1時間以上凍結させた後に凍結乾燥機で1~3日間乾燥させることにより行う。

【0059】
乾燥架橋ゼラチンゲルは、メドジェル株式会社製のMedJel(登録商標)など市販のものを使用することもできる。

【0060】
本発明の増感剤は、過酸化水素(本発明では「(a)成分」ともいう)と架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル(本発明では(b)成分ともいう)との組み合わせてなる組成物である。

【0061】
ここで「組み合わせてなる」とは、本発明が対象とする増感剤が、
(i)最初から(a)成分と(b)成分の両方が含まれている状態(配合剤)である場合、つまり、(b)成分に(a)成分を含浸させた状態である場合、
(i)’(b)成分に(a)成分を含浸させたものを生理食塩水等に浮遊または懸濁した状態である場合、
(ii)(a)成分を含有する製剤と(b)成分を含有する製剤とがおのおの別個の包装形態で存在し、組み合わせ物(キット)として販売される場合、または
(iii)(a)成分を含有する製剤と(b)成分を含有する製剤とがおのおの別個の包装形態で、また別個の流通経路で市場に存在し、使用時に組み合わせて使用される場合を包含する意味で用いられる。すなわち、本発明において「組み合わせてなる増感剤」とは、最終使用時の増感剤(本発明において、これを「最終製剤」ともいう)中に、(a)成分と(b)成分の両方が含まれていればよいことを意味し、販売を含む流通段階における形態を特に問うものではない。

【0062】
また「(a)成分と(b)成分を組み合わせてなる」との表現には、「(a)成分と(b)成分を含む」、「実質的に(a)成分と(b)成分からなる」、「(a)成分と(b)成分からなる」のすべての意味が含まれるものとする。

【0063】
本発明の増感剤に(a)成分として用いられる過酸化水素の割合としては、制限されないが、最終製剤中に含まれる量が0.01~3.5w/v%となるような範囲から適宜選択して用いることができる。好ましくは0.1~3w/v%の範囲であり、より好ましくは0.5~2w/v%の範囲である。

【0064】
また過酸化水素に対する架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルの配合割合としては、制限されないが、過酸化水素300μg(3w/v%過酸化水素水10μl)に対して架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル0.1~100mg(乾燥重量)の範囲から選択することができる。好ましくは0.5~50mg(乾燥重量)、より好ましくは0.8~10mg(乾燥重量)である。

【0065】
本発明の増感剤(最終製剤)に含まれる架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルの割合としては、制限されないが、0.05~20w/v%の範囲から適宜選択して用いることができる。好ましくは0.1~10w/v%の範囲、より好ましくは0.5~5w/v%の範囲である。ここで架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルの重量(w)は、乾燥重量を表す。

【0066】
過酸化水素水を、架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルに含浸させる方法としては、乾燥した円柱状、角柱状、シート状、ディスク状、球状、粒子状、粒状または粉末状の架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルを必要量測り取り、過酸化水素水を、上記配合割合となるように架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルにピペット等で滴下する。滴下後、例えば30~37℃で15分~2時間程度、または2~8℃で12~24時間程度、より好ましくは37℃で1時間程度または4℃で12~18時間程度インキュベーションする方法が上げられる。

【0067】
増感剤としての品質を一定化させるため、滴下した過酸化水素水がすべて含浸される容積の過酸化水素水を滴下することが好ましい。

【0068】
また、上記の方法により架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルに、過酸化水素水を含浸させたものを増感剤としてそのまま使用してもよいし、架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルに、過酸化水素水を含浸させたものをさらに、医薬的に許容し得る生理的食塩水やリン酸緩衝液等(例えば、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなど)に浮遊または懸濁させて増感剤として使用することもできる。架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルに、過酸化水素水を含浸させたものをさらに生理食塩水等に浮遊または懸濁させる場合にも、過酸化水素と架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルの最終含有量は、上記の範囲となるように調整することができる。

【0069】
本発明の増感剤は、人体に適合性があればその液性を特に制限するものではないが、好ましくはpH6~8.5の範囲に調整されていることが好ましい。より好ましくはpH6.5~8.0の範囲である。

【0070】
I-2.増感剤の適用方法
本発明の増感剤は、液状(溶解液、乳濁液、懸濁液を含む)、ゲル状または弾力のある固形状を有し、その限りにおいて使用形態(用法)を特に制限するものではない。例えば、本発明の増感剤が液状またはゲル状の外用剤である場合、放射線治療または抗がん剤治療の実施に際し、例えば放射線照射または抗がん剤投与時に、放射線照射または抗がん剤投与に先だって治療対象の腫瘍患部に、直接噴霧、塗布または貼付する方法;消毒綿または消毒ガーゼに含浸させてこれを放射線照射時に照射する腫瘍患部にあてる方法等によって、増感剤を腫瘍患部に局所投与する方法を挙げることができる。

【0071】
また、本発明の増感剤が液状またはゲル状の注入剤である場合、放射線照射または抗がん剤投与に先だって、同時に、または、後に治療対象の腫瘍患部に、より好ましくは腫瘍組織内に、注射器などを用いてそのまま注入するか、または血管造影のカテーテルを介して経血管的に腫瘍患部内に注入する方法を挙げることができる。

【0072】
注入は、具体的には超音波検査でのガイド下にて増感剤の組織への浸透状況を確認しながら、注射器などで21ゲージ程度の注射針を用いて行なうことが好ましい。この場合、超音波ガイドで注入針の深さや方向を変えることにより、増感剤を組織に広くいきわたらすことができる。また、腫瘍の栄養血管を介して、腫瘍患部に注入してもよい。なお、本発明の増感剤の腫瘍患部への投与量は、対象とする腫瘍の大きさや投与方法によって異なるが、例えば腫瘍患部に注入する場合は、通常1回投与量(注入量)として約1~5ml程度、好ましくは3ml程度を挙げることができる。

【0073】
さらに、本発明の増感剤が弾力のある固形状の場合には、腫瘍患部または腫瘍切除後の患部をメス等で切開して埋植することもできる。

【0074】
他の態様として、本発明の増感剤は投与量は、腫瘍体積に応じて設定することもできる。腫瘍体積(V)は、例えば、腫瘍の短径(W)と長径(L)をノギスで測定し、式:V=(W×L)/2に当てはめることによって算出することができる。増感剤をマウスに使用する場合の腫瘍体積に応じた増感剤の投与量の下限値は、最終製剤中に含まれる架橋ゼラチンゲルの乾燥重量に換算して腫瘍体積200mm当たり、0.1、0.2、0.3、0.4、または0.5mgであり、増感剤の投与量の上限値は、最終製剤中に含まれる架橋ゼラチンゲルの乾燥重量で腫瘍体積200mm当たり、10、5、3、2、または1mgである。これらの上限値と下限値はどのように組み合わせてもよいが、好ましい下限値は0.1mgであり、上限値は、1mgである。

【0075】
さらに増感剤をヒトに投与する場合の投与量は、マウスの場合の投与量に準ずることができるが、必要に応じてマウスのおける投与量の5~10倍の量の増感剤を投与することもできる。ヒトに増感剤を投与する場合、腫瘍体積に応じた増感剤の投与量の下限値は、例えば最終製剤中に含まれる架橋ゼラチンゲルの乾燥重量に換算して腫瘍体積200mm当たり、0.5、1、1.5、2または2.5mgであり、上限値は、例えば最終製剤中に含まれる架橋ゼラチンゲルの乾燥重量に換算して腫瘍体積200mm当たり、5、8、10、15または20mgである。これらの上限値と下限値はどのように組み合わせてもよいが、好ましい下限値は0.5mgであり、上限値は、5または10mgである。

【0076】
本発明の増感剤の形態として好ましくは、注入剤(放射線治療増感用注入剤または抗がん剤治療増感用注入剤)の形態である。注入剤は、注射用水(注射用蒸留水、注射用滅菌水など)、等張化剤、pH調整剤及び緩衝液などを用いて水溶液を調製し、その水溶液に(a)成分及び(b)成分を上記の範囲となるような割合で添加配合し、容器に充填して密封した後、高圧蒸気滅菌、熱水浸漬滅菌などによって滅菌処理を行うことによって調製することができる。また、使用時に(a)成分を含有する製剤と(b)成分を含有する製剤とを、必要に応じて注射用水(注射用蒸留水、注射用滅菌水など)を用いて、配合混合して調製することもできる(用時調製製剤)。

【0077】
等張化剤としては塩化ナトリウム、グリセリン、ブドウ糖、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、果糖、キシリトール、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられ、好ましくは塩化ナトリウムが用いられる。また、pH調整剤としては、塩酸、水酸化ナトリウム等が挙げられ、上記するようにpH6~8.5の範囲、好ましくはpH6.8~7.8に調整される。そしてpH保持のために用いられる緩衝液としてリン酸緩衝液、トリス緩衝液、酢酸緩衝液等が挙げられる。好ましくはリン酸緩衝液が用いられる。

【0078】
I-3.増感剤を使用した放射線治療
本発明の増感剤は、前述するように放射線治療に際して、放射線照射に先だって放射線照射する腫瘍患部に対して用いられる。好ましくは、放射線による治療に抵抗性を示す腫瘍を対象とした放射線治療に用いることができる。

【0079】
ここで放射線抵抗性の腫瘍としては、低酸素腫瘍細胞の多い状態にある腫瘍並びに抗酸化酵素を多く含む腫瘍を挙げることができる。現在汎用されているリニアー・アクセラレータを主体とした癌放射線治療における最大の課題は、放射線抵抗性の癌細胞の存在である。かかる放射線抵抗性の腫瘍組織は低酸素状態の部位に多く存在し、放射線治療に対して抵抗性を示す。またこれらの細胞の放射線に対する抵抗性は、低酸素状態においては、放射線により誘導されたDNA損傷などに酸素による固定が起こらず、さらには、放射線により腫瘍細胞内に産生された活性酸素種を抗酸化酵素が消去するため、アポトーシスが誘導されにくいことによると言われている。かかる放射線抵抗性の腫瘍としては、具体的には、悪性黒色腫、悪性神経膠芽腫、骨肉腫をはじめとする種々の肉腫並びに数cm以上に成長した局所進行癌のほとんどすべてを挙げることができる。

【0080】
本発明の増感剤を用いた放射線治療は、本発明の増感剤を放射線照射する腫瘍患部に適用した後、当該患部に、好ましくはリニア・アクセラレータを用いてエックス線照射もしくは電子線照射を行うことによって実施することができる。ここでエックス線照射の条件は、腫瘍の進行度や大きさなどによって異なるが、通常1回線量1.5~3Gy,好ましくは2Gy程度の照射を、週に2~5回、好ましくは週4~5回程度、1~5週間にわたって行う方法を挙げることができる。総線量としては20~70Gy,好ましくは40~70Gy程度、より好ましくは50~60Gy程度を挙げることができる。また電子線照射の条件は、やはり腫瘍の進行度や大きさなどによって異なるが、通常1回線量2~5Gy、好ましくは4Gy程度の照射を、週1~5回、好ましくは週2~3回程度、1~5週間にわたって行う方法を挙げることができる。総線量としては30~70Gy、好ましくは40~60Gy程度を挙げることができる。

【0081】
本発明の増感剤の投与は、最初の放射線照射と同時にまたは、放射線照射に先立って行うことができる。より具体的には、本発明の増感剤の第1回目の投与は、放射線照射開始日の3日前から放射線照射開始までに行うことが望ましく、放射線照射開始日の2日前から放射線照射開始までに行うことがより好ましく、放射線照射開始日の1日前から放射線照射開始までに、または放射線照射直前に行うことがさらに好ましい。第2回目以降の増感剤の投与は、例えば前回の増感剤投与の5~14日後、より好ましくは7~10日後に行うことができる。

【0082】
例えば、1週間に4~5回程度4週間の放射線照射を行う場合、放射線照射の開始が月曜日であれば、毎週月曜日の放射線照射前に、本発明の増感剤を投与すればよい。

【0083】
本発明の増感剤の投与回数は、腫瘍の治療効果に応じて、増やすことも減らすことできる。

【0084】
また、放射線治療を先に行い、放射線照射の効果が得られない場合には、放射線治療開始後に、本発明の増感剤の使用を開始してもよい。

【0085】
さらに、外科的手術を行った後、放射線治療を開始する場合には、先に放射線治療を開始し、例えば放射線照射開始から5日~14日後、より好ましくは、6~8日後から、本発明の増感剤の使用を開始してもよい。

【0086】
例えば、乳房温存手術の後に放射線治療を行う場合には、全乳房照射は50Gy(2Gy×5回/週)である。また、手術時に切除断端に腫瘍細胞が認められる場合には、例えば、電子線でのブースト照射を10Gy(2Gy×5回)行うことができる。また別の態様としては、例えば全乳房照射を44Gy(2.75Gy×16回)、ブースト照射を9Gy(3Gy×3回)の照射を行うことができる。本発明の増感剤は、放射線照射開始から例えば1週間経過してから腫瘍患部へ局所投与することができる。増感剤の投与回数は、例えば1~4回である。

【0087】
I-4.増感剤を使用した抗がん剤治療
本発明の増感剤は、抗がん剤による治療に先立って、当該治療対象の腫瘍患部に対して用いられる。好ましくは、抗がん剤による治療に対して抵抗性を示す腫瘍、並びに比較的大きな腫瘍に対して用いることができる。例えば、胃がんや非小細胞肺がん、大腸・直腸がん、肝臓癌、すい臓がん、子宮がん、食道がんなどの多くの固形腫瘍は、抗がん剤に抵抗性を示すことが多い。また、これらの固形腫瘍については、局所的に進行した局所進行癌のほとんどが、抗がん剤に対して抵抗性を示す傾向がある。

【0088】
本発明の増感剤の投与は、最初の抗がん剤の投与と同時にまたは先立って行うことができる。より具体的には、本発明の増感剤の第1回目の投与は、抗がん剤投与開始日の3日前から抗がん剤投与開始までに行うことが望ましく、抗がん剤投与開始日の2日前から抗がん剤投与開始までに行うことがより好ましく、抗がん剤投与開始日の1日前から抗がん剤投与開始までに、または抗がん剤投与開始直前に行うことがさらに好ましい。第2回目以降の増感剤の投与は、例えば前回の増感剤投与の5~14日後、より好ましくは7~10日後に行うことができる。

【0089】
例えば、1週間に1~5回程度4週間の抗がん剤投与を行う場合、抗がん剤の投与開始が月曜日であれば、毎週月曜日の抗がん剤の投与開始前に、本発明の増感剤を投与すればよい。

【0090】
本発明の抗がん化学療法増感剤の投与回数は、腫瘍の治療効果に応じて、増やすことも減らすことできる。

【0091】
また、抗がん剤投与を先に行い、抗がん剤の効果が得られない場合には、抗がん剤投与開始後に、本発明の増感剤の使用を開始してもよい。

【0092】
本発明において使用される抗がん剤(制がん剤)は、例えば、シクロホスファミド、イホスファミド、ブスルファン、メルファラン、ベンダムスチン塩酸塩、ニムスチン塩酸塩、ラニムスチン、ダガルバジン、プロカルバジン塩酸塩テモゾロミド等のアルキル化薬;メトトレキサート、ペメトレキセドナトリウム、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、カペシタビン、テガフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート水和物、エノシタビン、ゲムシタビン塩酸塩、メルカプトプリン水和物、フルダラビンリン酸エステル、ネララビン、ペントスタチン、クラドリビン、レボホリナートカルシウム、ホリナートカルシウム、ヒドロキシカルバミド、L-アスパラギナーゼ、アザシチジン等の代謝拮抗薬;ドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸塩、ピラルビシン、エピルビシン塩酸塩、イダルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、アムルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、ペプロマイシン硫酸塩、ジノスタチンスチラマー等の抗腫瘍性抗生物質;ビンクリスチン硫酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンデシン硫酸塩、ビノレルビン酒石酸塩、パクリタキセル、ドセタキセル水和物、エリブリンメシル酸塩等の微小血管阻害薬;アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、タモキシフェンクエン酸塩、トレミフェンクエン酸塩、フルベストラント、フルタミド、ビカルタミド、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル、エストラムスチンリン酸エステルナトリウム水和物、ゴセレリン酢酸塩、リュープロレリン酢酸塩等のホルモン剤;シスプラチン、ミリプラチン水和物、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等の白金製剤;イリノテカン塩酸塩水和物、ノギテカン塩酸塩等のトポイソメラーゼI阻害薬;エトポシド、ソブゾキサン等のトポイソメラーゼII阻害薬;インターフェロンガンマ-1a、テセロイキン、セルモロイキン等のサイトカイン;トラツズマブ、リツキシマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ベバシズマブ、セツキシマブ等の抗体薬;イブリツモマブ チウキセタン配合剤等の放射免疫療法薬;ゲフィチニブ、イマチニブメシル、ボルテゾミブ、エルロチニブ塩酸塩、ソラフェニブトシル酸塩、スニチニブリンゴ酸塩、サリドマイド、ニロチニブ塩酸塩水和物、ダサチニブ水和物、ラパチニブトシル酸塩水和物、エベロリムス、レナリドミド水和物、デキサメタゾン、テムシロリムス、ボリノスタット、トレチノイン、タミバロテン等の分子標的薬;OK-432、乾燥BCG、かわらたけ多糖体製剤、レンチナン、ウベニメクス等の非特異的免疫賦活薬;アセグラトン、ポルフィマーナトリウム、タラポルフィンナトリウム、エタノール、三酸化ヒ素等の抗がん剤が上げられる。

【0093】
より好ましい抗がん剤は、ドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸塩、ピラルビシン、エピルビシン塩酸塩、イダルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、アムルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩等のアンスラサイクリン系抗がん剤;シスプラチン、ミリプラチン水和物、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等の白金系抗がん剤;フルオロウラシル、ドキシフルリジン、カペシタビン、テガフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート水和物、エノシタビン、ゲムシタビン塩酸塩等のピリミジン拮抗系抗がん剤を挙げることができる。

【0094】
これらの抗がん剤または制がん剤は、単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。

【0095】
抗がん剤の投与方法は、原則各抗がん剤に応じた公知の投与方法を適用することができる。各抗がん剤の使用説明書に記載の投与方法、投与量及び適用方法に準じて抗がん剤を投与すればよいが、増感剤との併用により腫瘍の縮小が促進される場合には、投与量や投与回数を減らすこともできる。
II.腫瘍の治療方法
本発明の別の態様は、(1)(a)過酸化水素、及び(b)架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルを組み合わせてなる増感剤を、腫瘍患部に局所投与する工程、及び、(2)腫瘍患部に放射線照射するかまたは抗がん剤を腫瘍を患う患者に投与する工程、を含む腫瘍の治療方法に関する。

【0096】
腫瘍の治療方法に適用される増感剤の組成、該増感剤の適用方法、及び放射線治療若しくは抗がん剤治療の実施方法は、「I.放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための増感剤」に準ずる。
III.放射線または抗がん剤を使用した腫瘍の治療のための組成物
本発明の別の態様は、放射線または抗がん剤を使用した腫瘍の治療のための組成物であって、前記組成物が、
(a)過酸化水素、及び
(b)架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル
を組み合わせてなり、前記組成物が腫瘍患部に局所投与されるものである、組成物に関する。

【0097】
該組成物は、「I.放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための増感剤」に記載の増感剤と同じものであり、該増感剤と同様の方法で製造することができる。また、該組成物の適用方法も該増感剤と同様である。
IV.放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を増感する増感剤の製造のための使用
本発明の別の態様は、放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高める増感剤の製造のための、下記(a)及び(b)を組み合わせてなる、腫瘍患部に局所投与する組成物の使用:
(a)過酸化水素
(b)架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲル、に関する。

【0098】
本態様における(a)過酸化水素、及び(b)架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルは、「I.放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための増感剤」に記載の過酸化水素、及び架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルを使用することができる。また、増感剤の製造方法及び該増感剤の適用方法も「I.放射線または抗がん剤による腫瘍の治療効果を高めるための増感剤」に記載の製造方法及び適用方法に準ずる。
【実施例】
【0099】
次に、実施例及び処方例によって本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例等によって何ら限定されるものではない。なおここで%は、特に制限がない限りw/v%を表すものとする。
【実施例】
【0100】
また下記の実施例で示す動物実験はすべて、高知大学動物実験委員会の承認のもと、高知大学総合研究センター生命・機能物質部門動物実験施設内で行った。
増感剤の処方例1
メドジェル(登録商標)粒子(PI5-95MS:等電点が4.8~5.0のゼラチンから調製された架橋ゼラチンハイドロゲル)1mgあたり、10μlの過酸化水素水(約3w/v%)を直接滴下し、軽くタッピングを行った。その後37℃で1時間静置し、過酸化水素水をメドジェルに完全に含浸させ、さらに過酸化水素水含浸させたメドジェルを50μlのPBSに浮遊させた。この場合過酸化水素の終濃度は、約0.5w/v%、メドジェルの終濃度は、約1.67w/v%となる。
【実施例】
【0101】
この増感剤100μlあたりには、メドジェル(架橋ゼラチンハイドロゲル)が乾燥重量で2mg含まれることになる。
【実施例】
【0102】
増感剤の処方例2
メドジェル(登録商標)(PM-SF01:等電点が8.0~9.0のゼラチンから調製された架橋ゼラチンハイドロゲル)1mgあたり、10μlの過酸化水素水(約0.5w/v%)を直接滴下した。その後37℃で1時間静置し、過酸化水素水をメドジェルに完全に含浸さた。過酸化水素水(約0.5w/v%)は、過酸化水素水(約3w/v%)をPBSで6倍希釈したものをも用いた。この場合過酸化水素の終濃度は、約0.5w/v%、メドジェルの終濃度は、約1.67w/v%となる。
【実施例】
【0103】
比較例1
過酸化水素を終濃度0.5w/v%となるようにPBSによって希釈した。
【実施例】
【0104】
比較例2
ヒアルロン酸ナトリウム濃度1w/v%のヒアルロン酸製剤(商品名「アルツディスポ(登録商標)」、生化学工業(株)製)〔1シリンジ(2.5ml)中にヒアルロン酸ナトリウム25mg含有。その他、L-メチオニン2.5mg、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、結晶リン酸二水素ナトリウム、等張化剤を含む。無色透明の粘ちょう水性液、pH6.8~7.8、浸透圧比1.0~1.2(生理食塩水に対する比)、重量平均分子量60万~120万〕1シリンジ中(2.5ml)に、使用直前に、約3w/v%の過酸化水素水を0.5ml添加してよく混和して、本発明の放射線増感剤または抗がん化学療法増感剤を作成した。これらの増感剤のヒアルロン酸ナトリウムの濃度は0.83w/v%、過酸化水素の濃度は約0.5w/v%となる。
【実施例】
【0105】
実施例1
KORTUC法とのハイドロゲル法との効果の比較
1.方法
実験動物は7週齢のC3H/Heの雌マウスを用い、動物実験施設にて実験を行った。マウスは、室温及び湿度を一定に維持し、餌と水は自由に摂取できる施設で飼育された。
SCCVII腫瘍細胞(1.0×10個/匹)をマウスの右下腿部皮下に移植し、以下のように群分けした。
【実施例】
【0106】
グループ1:コントロール群(比較例1の増感剤を投与)
グループ2:KORTUC群(比較例2の増感剤を投与)
グループ3:メドジェル群(処方例1の増感剤を投与)
腫瘍径が約1cmの段階で比較例1、比較例2及び処方例1の増感剤をそれぞれ腫瘍部に注入した。注入には、インシュリンシリンジ(注射針のサイズは26ゲージ)を使用し、各増感剤を200μlずつ注入した。増感剤投与から72時間後にリニアック(EXL-20TP,Mitsubishi Electric,Tokyo)を用いて、エネルギー6MeVの電子線を30Gy照射した。照射時には麻酔を使用し、マウス固定用の器具(図1)を使用して照射した。この器具は、マウスの脚部局所照射の為に工夫したもので、腫瘍を持つ脚部以外の全身を厚さ4.5mmの銅板によって保護している。
【実施例】
【0107】
その後、観察期間を60日とし、ノギスを用いて腫瘍体積の変化と生存率について観察した。
【実施例】
【0108】
腫瘍体積(V)は、腫瘍の短径(W)と長径(L)をノギスで測定し、式:V=(W×L)/2により算出した。
【実施例】
【0109】
2.結果
図2に示すように、マウスの生存率はメドジェル群が最も高く、60日後の生存率は、80 %であった。その他、コントロール群は60 %でKORTUC群は50 %であった。KORTUC群において照射時に麻酔によって死亡した1匹を除くと60 %であり、コントロール群と同じ生存率であった。
【実施例】
【0110】
今回の放射線照射は、各薬剤を腫瘍患部に局注してから、72時間後に行っている。従来のKORTUCは、腫瘍組織内の酸素分圧の保持効果が24時間である。従って、今回の実験においては、KORTUC群では、放射線照射時には既に腫瘍内の酸素分圧が低下しており、十分な治療効果が得られなかったと考えられる。
【実施例】
【0111】
上記結果は、本発明の架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルが、増感剤投与直後だけでなく、投与から72時間経過した後であっても、腫瘍内の酸素分圧を高く維持していることを示唆している。
【実施例】
【0112】
腫瘍体積の変化では、メドジェル群において最も腫瘍の増大率が抑制されていた(図3)。測定開始30日目の測定において、メドジェル群の腫瘍体積の平均はその他の群の半分以下であった(図4)。また、メドジェル群において、腫瘍が消失したと判断したマウスが2匹いた。1匹は測定開始9日目に消失と判断し、もう1匹は20日目に消失と判断した。しかし、20日目に消失と判断した1匹は、関節が拘縮しており増大傾向がなかったため、拘縮した関節であり腫瘍ではないと判断していたが、その後増大傾向が見られたため、その時点で腫瘍と判断し測定を開始した。コントロール群においても腫瘍が消失したと判断したマウスがいたが、再度増大傾向にあったため、その時点で腫瘍と判断し測定を開始した。
【実施例】
【0113】
今回の実験により、本発明の架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルは、腫瘍内の酸素分圧を保持する点においてKORTUC群に比べて、最も効果が高い支持体であると考えられた。生存率においてもメドジェル群が最も高く、一部のマウスでは、肉眼的に腫瘍が消失し、Complete Responseに近い効果を示した。これらの結果は、増感剤として過酸化水素と架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルを併用することにより、放射線治療に対する増感効果が高くなり、結果として腫瘍抑制効果が強くなったためであると考えられる。
【実施例】
【0114】
実施例2メドジェルの形態の経時的変化
処方例1に従って過酸化水素水(オキシドール)と混合したメドジェルの形態変化を経時的に観察した(図5)。
【実施例】
【0115】
10日経過時点でもメドジェル粒子は溶解することなくその形態を保持していた。
【実施例】
【0116】
このことから、放射線療法を行っている期間中、メドジェルによる過酸化水素の放出が持続されていると考えられる。
【実施例】
【0117】
実施例3
増感剤を腫瘍に投与した後48時間後に放射線照射を行った場合の腫瘍体積への影響
1.方法
実施例1の1.と同様に、SCCVII腫瘍細胞(1.0×10個/匹)をマウスの右下腿部皮下に移植し、以下のように群分けした。
【実施例】
【0118】
グループ1:コントロール群(増感剤投与なし)
グループ2:KORTUC群(比較例2の増感剤を100μl投与)
グループ3:PI5-100群(処方例1の増感剤をメドジェルの乾燥重量で2mgとなるように投与)
グループ4:PI5-30群(処方例1の増感剤をメドジェルの乾燥重量で0.6mgとなるように投与)
グループ5:PI9-2群(処方例2の増感剤をメドジェルの乾燥重量で2mgとなるように投与)
グループ6:PI9-0.6群(処方例2の増感剤をメドジェルの乾燥重量で0.6mgとなるように投与)
腫瘍体積が約200mg~約250mgの段階で、比較例2の増感剤を100μl、処方例1の増感剤を100μl(メドジェルの乾燥重量で2mg)または30μl(メドジェルの乾燥重量で0.6mg)ずつ腫瘍内に注入した。また、処方例2の増感剤は、弾力のある固形状となるため、腫瘍患部を切開して、腫瘍体積が約200mg~約250mgあたりメドジェル(架橋ゼラチンゲル)の乾燥重量に換算して2または0.6mgとなるように埋植した。
【実施例】
【0119】
増感剤を投与してから48時間後に、実施例1の1.と同じ条件で放射線照射を行い、増感剤を投与した日から37日目(放射線照射を行ってから35日目)の腫瘍体積を測定した。
【実施例】
【0120】
2.結果
図6に示すようにKORTUC群(KORTUC)、及びPI9-2群(PI9-2)の腫瘍体積と、コントロール群(control)の腫瘍体積との間にはほとんど差が認められなかった。これに対して、PI5-100群(PI5-100)、PI5-30群(PI5-30)及びPI9-0.6群(PI9-0.6)は、KORTUC群よりも腫瘍体積の増加が抑制されていた。特にPI5-30群及びPI9-0.6群では、その効果が大きかった。この結果から、架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルは、腫瘍体積200mmあたり、架橋ゼラチンゲルの乾燥重量に換算して、0.1~1mg程度のとなるように腫瘍患部に局所投与することが好ましいと考えられる。このデータをヒトの場合の投与量に換算すると、0.1~5mgまたは0.5~10mgとなる。
【実施例】
【0121】
実施例4
増感剤を腫瘍に投与した後72時間後に放射線照射を行った場合の腫瘍体積への影響
1.方法
実施例1の1.と同様に、SCCVII腫瘍細胞(1.0×10個/匹)をマウスの右下腿部皮下に移植し、以下のように群分けした。
【実施例】
【0122】
グループ1:コントロール群(増感剤投与なし)
グループ2:KORTUC群(比較例2の増感剤を100μl投与)
グループ3:PI5-30群(処方例1の増感剤をメドジェルの乾燥重量で0.6mgとなるように投与)
グループ4:PI9-0.6群(処方例2の増感剤をメドジェルの乾燥重量で0.6mgとなるように投与)
腫瘍体積が約200mg~約250mgの段階で、比較例2の増感剤を100μl、または処方例1の増感剤を30μlずつ腫瘍内に注入した。また、処方例2の増感剤は、弾力のある固形状となるため、腫瘍患部を切開して、腫瘍体積が約200mg~約250mgあたりメドジェル(架橋ゼラチン)の乾燥重量に換算して0.6mgとなるように埋植した。
【実施例】
【0123】
増感剤を投与してから72時間後に、実施例1の1.と同じ条件で放射線照射を行い、増感剤を投与した日から37日目(放射線照射を行ってから34日目)の腫瘍体積を測定した。
【実施例】
【0124】
2.結果
図7に示すようにKORTUC群(KORTUC)、及びPI9-0.6群(PI9-0.6)の腫瘍体積と、コントロール群(control)の腫瘍体積との間にはほとんど差が認められなかった。これに対して、PI5-30群(PI5-30)は、他の群よりも腫瘍体積の増加が抑制されていた。この結果から、架橋ゼラチンゲルを含むハイドロゲルとしては、等電点が4.5~5.5のゼラチンから調製されたものを使用する方が好ましいと考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6