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明細書 :RNA修飾の簡易検出法、及び該検出法を用いた2型糖尿病の検査方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6447829号 (P6447829)
登録日 平成30年12月14日(2018.12.14)
発行日 平成31年1月9日(2019.1.9)
発明の名称または考案の名称 RNA修飾の簡易検出法、及び該検出法を用いた2型糖尿病の検査方法
国際特許分類 C12Q   1/6853      (2018.01)
C12Q   1/6876      (2018.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/6853 ZNAZ
C12Q 1/6876 Z
C12N 15/09 Z
請求項の数または発明の数 21
全頁数 27
出願番号 特願2015-504379 (P2015-504379)
出願日 平成26年3月6日(2014.3.6)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 平成25年3月29日、第90回日本生理学会大会(東京都江戸川区)において発表(演題番号3PK-060)
国際出願番号 PCT/JP2014/055758
国際公開番号 WO2014/136870
国際公開日 平成26年9月12日(2014.9.12)
優先権出願番号 2013047278
2013150133
優先日 平成25年3月8日(2013.3.8)
平成25年7月19日(2013.7.19)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成29年2月20日(2017.2.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】富澤 一仁
【氏名】魏 笵研
【氏名】鈴木 健夫
【氏名】鈴木 勉
個別代理人の代理人 【識別番号】100102015、【弁理士】、【氏名又は名称】大澤 健一
審査官 【審査官】吉田 知美
参考文献・文献 国際公開第2007/018169(WO,A1)
国際公開第2008/149855(WO,A1)
特開2007-295855(JP,A)
国際公開第2008/109945(WO,A1)
特表2007-509613(JP,A)
特表2012-523218(JP,A)
矢野ほか,RNAエディティングの網羅的探索と機能解析,臨床検査,2011年 9月15日,Vol. 55, No. 9,p. 858-864
Kirino et al,PNAS,2005年 5月17日,vol. 102, no. 20,p. 7127-7132
Vendeix et al,J. Mol. Biol.,2012年,Vol. 416,p. 467-485
Nucleic Acids Research,1998年,26 (23),p.5533-5535
Xie et al,Simple and Rapid Detection of 2-methylthio Modification in tRNA for Diagnostic Application of Type 2,第90回日本生理学会大会,2013年 3月29日,p. S248, 3PK-060
調査した分野 C12Q 1/68-1/6897
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Thomson Innovation
特許請求の範囲 【請求項1】
tRNAに存在するRNA修飾を検出するための方法であって、
前記RNA修飾が、チオメチル化、メチル化又はタウリン化であり、
以下の2つの工程:
a.第1プライマーを用いて、該tRNAから逆転写によりcDNAを生成する工程、ここで、該第1プライマーは、該tRNA上の該RNA修飾を有する部位を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである、
b.第2プライマーを用いて、該tRNAから逆転写によりcDNAを生成する工程、ここで、該第2プライマーは、該tRNA上の該RNA修飾を有する部位よ3’側領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである、
をそれぞれ別々又は同時に行い、それぞれの工程から生成されたcDNA量の差を測定することにより該RNA修飾を検出する方法。
【請求項2】
前記工程aとbを別々に行う請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記cDNA量の差を核酸増幅反応又は蛍光法により測定する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記核酸増幅反応が、定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法を用いて行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記cDNA量の差を、核酸増幅反応における核酸の増幅速度の差として測定する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNA、Trpに対するtRNA、Pheに対するtRNA、又はSer(UCN)に対するtRNAのいずれかの37番目のアデノシンのチオメチル化である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNAの37番目のアデノシンのチオメチル化である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記tRNAがヒト組織又はヒト血液由来のtRNAを含む、請求項1~7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記tRNAがヒト末梢血由来のtRNAを含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
tRNAに存在するRNA修飾率が既知の少なくとも2つの試料、及びRNA修飾率が未知の試料、のそれぞれについて請求項1~9のいずれか一つに記載の方法を行い、それぞれの試料について測定されたcDNA量の差を示すパラメーターを比較することにより、未知の試料中のRNA修飾率を測定する方法。
【請求項11】
前記核酸増幅反応が定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法であり、かつ前記パラメーターが、第1のプライマー及び第2のプライマーを用いた際の標的核酸増幅のための閾値サイクル数(threshold cycle)の差である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
tRNAに存在するRNA修飾率が未知の試料について請求項1~9のいずれか一つに記載の方法を行い、該試料について測定されたcDNA量の差を示すパラメーターを予め決められている検量線と比較することにより、未知の試料中のRNA修飾率を測定する方法。
【請求項13】
前記核酸増幅反応が定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法であり、かつ前記パラメーターが、第1のプライマー及び第2のプライマーを用いた際の標的核酸増幅のための閾値サイクル数(threshold cycle)の差である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
試料中のtRNAに存在するRNA修飾を検出するためのキットであって、
前記RNA修飾が、チオメチル化、メチル化又はタウリン化であり、
tRNA上の該RNA修飾を有する部位を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第1のプライマー、および
tRNA上の該RNA修飾を有する部位より3’側の領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第2のプライマー、
を含むキット。
【請求項15】
前記RNA修飾が、tRNAに存在するチオメチル化である、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNA、Trpに対するtRNA、Pheに対するtRNA、又はSer(UCN)に対するtRNAのいずれかの37番目のアデノシンのチオメチル化である、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
さらに、PCRを行うための別のプライマーを含む、請求項14~16のいずれか一つに記載のキット。
【請求項18】
請求項7に記載の方法を用いて、前記tRNAが由来する被験者が2型糖尿病又はそのリスクがあるか否かを判定する方法(但し、医師による診断行為を除く)
【請求項19】
前記tRNAは、被験者の組織又は血液に由来するtRNAである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項7に記載の方法を用いて、前記tRNAが由来する被験者のインスリン分泌能を検定する方法(但し、医師による診断行為を除く)
【請求項21】
前記tRNAは、被験者の組織又は血液に由来するtRNAである請求項20に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、逆転写法を用いてRNA修飾を検出する方法に関する。本発明はまた、逆転写法と核酸増幅法、例えばPCR法を組み合わせて、RNAにおける修飾を検出するとともに、修飾の程度を定量する方法に関する。より詳しくは、RNAの修飾部位を含む領域と結合するプライマー、及びRNAの修飾部位を含まない領域と相補的に結合するプライマーを含む、少なくとも2種類のプライマーを用いて逆転写を行い、次いで核酸増幅、例えばPCRを行うことにより、該修飾を検出及び/又は定量する方法に関する。本発明はまた、該検出方法を用いた、2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスファーRNA(tRNA)は、mRNAの情報(コドン)を解読して、対応するアミノ酸を合成中のポリペプチド鎖に転移させるアダプター分子であり、タンパク翻訳において中心的な役割を有する小分子RNAである。tRNAのアンチコドンループは化学修飾を受けるが、これは、翻訳の忠実度(ファイデリティ)に必要であり、特にアンチコドンに位置する34番の塩基及びアンチコドンすぐ近傍の37番の塩基における化学修飾は、翻訳の正確性を制御する重要な役割を有する。また、tRNAのアンチコドンループの化学修飾の破綻は、疾患に関係していると考えられている。
【0003】
2型糖尿病は、環境因子及び遺伝因子の組み合わせによって発症する疾患であり、世界中で患者は2億人を超えており、多くの国において患者数は増加している。2型糖尿病は、インスリン抵抗性及び/又は膵臓β細胞でのインスリン分泌の異常を特徴としているが、主要なメカニズムはまだ議論されている。2007年以降、世界各国で2型糖尿病患者を対象とした大規模遺伝子多型疫学研究が精力的に行われ、糖尿病の罹患と相関のある遺伝子一塩基多型(SNP)が多く同定されている。中でも、Cdkal1(cdk5 regulatory associated protein 1-like 1)のSNPsは、2型糖尿病の発症と最も高い相関があることが多くの論文で報告されている。そして、Cdkal1遺伝子の危険対立遺伝子(リスクアレル)を保有している人では、ブドウ糖応答性インスリン分泌が悪いが、肥満、インスリン抵抗性とは相関がないことが明かとされている。また、アジア人種がこの遺伝子リスクアレルを多く保有しており、リスクアレル保有者の表現型を加味すると、Cdkal1のSNPsはアジア人種型2型糖尿病の発症に関与していると推察されている。
【0004】
そして、Cdkal1の生理機能は、リジンに対応するtRNAの37番目のアデニンをチオメチル化して、2-メチルチオ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン(ms26A)とする酵素であることが明らかにされた(非特許文献1:Arragain S., et al. J. Biol. Chem. 285, 28425-28433 (2010) 、及び非特許文献2:富澤ら、上原記念生命科学財団研究報告書、25 (2011) 論文番号77)。ms26A修飾は、リジンコドンの正確なデコーディング(decoding)に必要であり(非特許文献1)、同種コドン(cognate codons)の読み誤りを防ぐのに、特に翻訳速度が比較的早い場合に読み誤りを防ぐのに重要な役割を果たしていることが示された(非特許文献3:富澤ら、Endocrine Journal 2011, 58 (10), 819-825)。
【0005】
Cdkal1欠損マウスにおいては、ミトコンドリアATP生成及び第一相インスリン分泌が損なわれることが観察されること、そして、膵臓β細胞特異的Cdkal1ノックアウトマウスは、2型糖尿病の病態を示し、膵島肥大と血中グルコースの制御障害が観察され、高脂肪食で誘発される小胞体ストレスに対して過敏であることが報告されている(非特許文献3、及び非特許文献4:Wei, F. Y. et al. J. Clin. Invest. 121, 3598-3608 (2011))。
【0006】
すなわち、本発明者らにより、遺伝的あるいは環境的な要因によりCdkal1の発現量や活性が低下すると、リジンtRNAのチオメチル化が低下し、その結果、インスリンの翻訳精度が低下し、2型糖尿病が発症するというメカニズムが示され、リジンtRNAのチオメチル化は糖尿病発症と密接に関連することが判った。一方、ミトコンドリアDNAがコードするミトコンドリアtRNAにもチオメチル化が存在する。ミトコンドリアtRNAのチオメチル化はCdk5rap1によって修飾され、Cdk5rap1遺伝子の一塩基多型変異は白斑症の発症と相関することが報告されている(非特許文献1,及び比特許文献5:Reiter, V. et al. Nucleic Acids Res. 40, 6235-6240(2012))。このようにtRNAのチオメチル化は疾患の新たなバイオマーカーとして注目されている。
【0007】
tRNAのチオメチル化を検出する方法としては、質量分析法を利用した検出法が一般的に使用されている(非特許文献6:Suzuki, T. et al. Method. Enzymol. 425, 211-229 (2007))。質量分析法では、まず、組織や細胞からtRNAを精製したのち、ヌクレアーゼによりtRNAを数個のオリゴヌクレオチドまで消化する。その後、消化されたオリゴヌクレオチドを精製し、逆相液体クロマトグラフィ及び質量分析機にて分析することによりチオメチル化を検出する。しかし、この質量分析によるチオメチル化の検出は、多量のRNA(mg単位)を必要とするが、臨床サンプルは量が一般的に限られ、mg単位のサンプルを入手することが困難である。そのため、臨床サンプルを用いて、質量分析によりチオメチル化を検出することは困難である。また、質量分析によるチオメチル化検出法は、上述したように多くの前処理が必要であるため、チオメチル化を検出するまでに数日かかり、迅速な検出ができないばかりか、コストが嵩むという問題がある。更には、多くの試料を同時に扱うことは困難である。その上、質量分析機は非常に高価であり、また、使用するためには熟練した経験が必要とされるため、一般的な医療機関や研究室で分析を行うのは困難であるという問題がある。
【0008】
上記したように、質量分析法は時間及びコストがかかり、更には、多量の臨床サンプルを入手することは困難であるという問題のため、RNAのチオメチル化の検出法として質量分析法は臨床応用に対応できない。従って、RNAのチオメチル化を効率よく、つまり迅速にそして安価に検出でき、更には、少ないサンプルを用いて検出できる、新しい検出法が望まれていた。
【先行技術文献】
【0009】

【非特許文献1】Arragain S., et al. J. Biol. Chem. 285, 28425-28433 (2010)
【非特許文献2】富澤ら、上原記念生命科学財団研究報告書、25 (2011) 論文番号77
【非特許文献3】富澤ら、Endocrine Journal 2011, 58 (10), 819-825
【非特許文献4】Wei, F. Y. et al. J. Clin. Invest. 121, 3598-3608 (2011)
【非特許文献5】Reiter, V. et al. Nucleic Acids Res. 40, 6235-6240(2012)
【非特許文献6】Suzuki, T. et al. Method. Enzymol. 425, 211-229 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、少量のRNA試料を用いて、RNAに存在する修飾を検出及び/又は定量する方法を提供することを目的とする。本発明は、更には、tRNAに存在する修飾、例えば、チオメチル化を検出及び/又は定量する方法を提供することを目的とする。
本発明はまた、RNAに存在する修飾を検出及び/又は定量することにより、該修飾に関連する疾患又はそのリスクを診断する方法を提供することを目的とする。例えば、リジンtRNAのチオメチル化を検出及び/又は定量することにより、ヒト2型糖尿病又はそのリスクを診断する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、逆転写法及び核酸増幅法(例えば、定量PCR法)を併用することにより、RNA(例えば、tRNA)における修飾(例えば、チオメチル化)を検出する方法を見いだし、本発明を完成した。
本発明は以下の通りである。
(1)RNAに存在するRNA修飾を検出するための方法であって、
以下の2つの工程:
a.第1プライマーを用いて、該RNAから逆転写によりcDNAを生成する工程、ここで、該第1プライマーは、該RNA上の該RNA修飾を有する部位を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである、
b.第2プライマーを用いて、該RNAから逆転写によりcDNAを生成する工程、ここで、該第2プライマーは、該RNA上の該RNA修飾を有する部位よ3’側領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである、
をそれぞれ別々又は同時に行い、それぞれの工程から生成されたcDNA量の差を測定することにより該RNA修飾を検出する方法。
(2)前記工程aとbを別々に行う前記(1)に記載の方法。
(3)前記cDNA量の差を核酸増幅反応又は蛍光法により測定する前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記核酸増幅反応が、定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法を用いて行われる、前記(3)に記載の方法。
(5)前記cDNA量の差を、核酸増幅反応における核酸の増幅速度の差として測定する、前記(4)に記載の方法。
(6)前記RNAがtRNAである前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の方法。
(7)前記RNAに存在するRNA修飾が、tRNAに存在するチオメチル化、メチル化又はタウリン化である、前記(6)に記載の方法。
(8)前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNA、Trpに対するtRNA、Pheに対するtRNA、又はSer(UCN)に対するtRNAのいずれかの37番目のアデノシンのチオメチル化である、前記(7)に記載の方法。
(9)前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNAの37番目のアデノシンのチオメチル化である、前記(8)に記載の方法。
(10)前記RNAがヒト組織又はヒト血液由来のRNAを含む、前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の方法。
(11)前記RNAがヒト末梢血由来のRNAを含む前記(10)に記載の方法。
【0012】
(12)RNAに存在するRNA修飾率が既知の少なくとも2つの試料、及びRNA修飾率が未知の試料、のそれぞれについて前記(1)~(11)のいずれか一つに記載の方法を行い、それぞれの試料について測定されたcDNA量の差を示すパラメーターを比較することにより、未知の試料中のRNA修飾率を測定する方法。
(13)前記核酸増幅反応が定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法であり、かつ前記パラメーターが、第1のプライマー及び第2のプライマーを用いた際の標的核酸増幅のための閾値サイクル数(threshold cycle)の差である、前記(12)に記載の方法。
(14)RNAに存在するRNA修飾率が未知の試料について前記(1)~(11)のいずれか一つに記載の方法を行い、その試料について測定されたcDNA量の差を示すパラメーターを予め決められている検量線と比較することにより、未知の試料中のRNA修飾率を測定する方法。
(15)前記核酸増幅反応が定量PCR法又はリアルタイム定量PCR法であり、かつ前記パラメーターが、第1のプライマー及び第2のプライマーを用いた際の標的核酸増幅のための閾値サイクル数(threshold cycle)の差である、前記(14)に記載の方法。
【0013】
(16)RNA試料(例えば、ヒト組織又はヒト血液由来の試料)中のRNAに存在するRNA修飾を検出するためのキットであって、
該RNA上の該RNA修飾を有する部位を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第1のプライマー、および
該RNA上の該RNA修飾を有する部位より3’側の領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第2のプライマー、
を含むキット。
(17)前記RNAがtRNAである前記(16)に記載のキット。
(18)前記RNAに存在するRNA修飾が、tRNAに存在するチオメチル化である、前記(17)に記載のキット。
(19)前記tRNAに存在するチオメチル化が、Lysに対応するtRNA、Trpに対するtRNA、Pheに対するtRNA、又はSer(UCN)に対するtRNAのいずれかの37番目のアデノシンのチオメチル化である、前記(18)に記載のキット。
(20)さらに、PCRを行うための別のプライマーを含む、前記(16)~(19)のいずれか一つに記載のキット。
【0014】
(21)前記(9)に記載の方法を用いて、前記tRNAが由来する被験者が2型糖尿病患者又はそのリスクがあるか否かを判定する方法。
(22)前記tRNAは、被験者の組織又は血液(好ましくは末梢血)に由来するtRNAである前記(21)に記載の方法。
(23)前記(9)に記載の方法を用いて、前記tRNAが由来する被験者のインスリン分泌能を検定する方法。
(24)前記tRNAは、被験者の組織又は血液(好ましくは末梢血)に由来するtRNAである前記(23)に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、少量のサンプルを用いて、迅速にそして安価に、RNAの修飾、例えばtRNAのチオメチル化を検出できるので、臨床サンプル(例えば、組織又は血液)を用いた種々の遺伝的異常(例えば、これに限定されないが、2型糖尿病の遺伝的感受性)の検出方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】左図は、37番目のアデニンがチオメチル化されている、リジンに対応するtRNAを示している。右図は、Cdkal1によるチオメチル化反応を示している。
【図2】本発明の一つの態様である第1及び第2のリバースプライマーを用いたRNA修飾の検出方法における、逆転写法及びそれに引き続く定量PCR法(qPCR-MtR法)の手順の概略を、リジンtRNAをモデルとして示した図である。
【図3】野生型及びCdkal1 KOマウスから精製したリジンtRNAを用いて、逆転写法及び定量PCR法により、リジンtRNAのms2修飾を検出した結果である。
【図4】精製RNAを用いた結果を、計算修飾率(calculated ratio)と期待される修飾率(expected ratio)をそれぞれ、Y軸及びX軸にプロットした図である。
【図5】野生型マウス及びCdkal1 KOマウスから単離した粗精製RNAを用いて、逆転写及び定量PCR法により、リジンtRNAのms2修飾を検出した結果である。
【図6】粗精製RNAを用いた結果を、計算修飾率(calculated ratio)と期待される修飾率(expected ratio)をそれぞれ、Y軸及びX軸にプロットした図である。
【図7】野生型マウス及びCdkal1 KOマウスから単離した粗精製RNA(2ng)を用いて、逆転写及び定量PCR法により、リジンtRNAのms2修飾を検出した結果を、計算修飾率(calculated ratio)と期待される修飾率(expected ratio)をそれぞれ、Y軸及びX軸にプロットした図である。
【図8】Cdkal1 SNP(rs775840)の2型糖尿病関連リスクアレルをもつ人(Risk群)及び健常人(Cdkal1 SNPのリスクアレルをもたない人)(Non-risk群)の末梢血からの粗精製RNAを用いて、逆転写及び定量PCR法により、リジンtRNAのms2修飾を検出した結果である。
【図9】Cdkal1 SNP(rs775840)の2型糖尿病関連リスクアレルをもつ人(図9b)及び健常人(Cdkal1 SNPのリスクアレルをもたない人)(図9a)の末梢血からの精製RNAを用いて質量分析した結果である。図9cは、全リジンtRNA(ms26A+t6A)中のms2未修飾リジンtRNA(t6A)の割合を示している。
【図10】ミトコンドリアtRNAのA37におけるms2修飾を質量分析した結果である。上段は、ms2修飾されたオリゴヌクレオチド、下段は、ms2修飾されていないオリゴヌクレオチドのマスクロマとグラムを示している。
【図11】Cdkal1遺伝子変異を有する群(ホモで有する(C/C)群およびヘテロで有する群(G/C))と有さない群(G/G)のそれぞれの個体群におけるリジンRNAのチオメチル化修飾度を示している。
【図12】リジンtRNAのチオメチル化修飾度とインスリン分泌能との相関を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
本発明は、RNA試料中のRNA上に存在する修飾を、第1のプライマー及び第2のプライマーを用いて逆転写することにより検出することを特徴とする。より具体的には、第1のプライマーを用いてRNAから逆転写によりcDNAを生成し、そのcDNAの量を、第2のプライマーを用いてRNAから逆転写により生成されるcDNAの量と比較することにより、RNA上に存在する修飾を検出することを特徴とする。

【0018】
本発明の検出方法の対象とするものは、RNAであり、例えば、これに限定されないが、tRNA、rRNA、snRNA、mRNA-like ncRNA、snoRNA、又はmiRNAをあげることができ、好ましくは、tRNA,rRNA、又はsnRNAであり、より好ましくは、tRNAである。
また、検出対象とするtRNAも特に限定されず、例えば、Lysに対応するtRNA、Trpに対するtRNA、Pheに対するtRNA、又はSer(UCN)に対するtRNA等をあげることができる。

【0019】
また、本発明において「RNA試料」とは、特に制限されず、RNAの種類や含有量にかかわらず、RNAが含まれている試料を意味する。RNA試料として、例えば、哺乳動物組織、臓器又は血液、例えばヒト組織、臓器又はヒト血液由来のRNAを含む試料をあげることができるが、好ましくは、被験者に過度の負担をかけずまた採取が容易であるヒト末梢血由来のRNAを含む試料である。血液からの白血球RNAの採取方法は、特に限定されないが、例えば、全血をフィコール比重遠心法で処理して白血球を濃縮した後、RNA抽出を行う方法や、RNA採血管、例えば、パクスジーンRNA採血管(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)に血液を採った後に、製造者のプロトコールに従い白血球を分離することなしに直接RNA試料とする方法、をあげることができる。

【0020】
本発明の検出方法において、検出できるRNA修飾は、例えば、これに限定されないが、チオメチル化、メチル化、及びタウリン化をあげることができ、好ましくは、チオメチル化、及びメチル化、より好ましくはチオメチル化である。特定の疾患との関連が判っている或いは推定されているRNA修飾の場合は、本発明の方法を用いてその修飾を検出又は定量することにより、その疾患に罹っている或いはそのリスクがあるかを判定することができる。例えば、既に記載しているように、リジンに対するtRNAの37番目のアデノシンのチオメチル化は、2型糖尿病と関連しているので、そのRNA修飾を検出又は定量することにより、2型糖尿病に罹っている或いはそのリスクがあるかを判定できる。
本発明の方法において検出できるRNA修飾と、その修飾との関連が判っている疾患(すなわち、本発明の方法を用いて、その疾患に罹っている或いはそのリスクがあるかを判定できる疾患)は、例えば、タウリン化とミトコンドリア脳筋症、チオメチル化と糖尿病、メチル化とX染色体連鎖性精神遅滞をあげることができる。

【0021】
本発明で用いられる第1プライマーとは、本発明の検出方法において検出すべきRNA修飾を有する部位(例えば、これに限定されないが、チオメチル化された塩基)を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドであり、逆転写法、及び必要に応じて本発明においてそれに組み合わされるPCR法のそれぞれで、プライマーとして機能する限りその長さは特に制限はなく、例えば、10塩基以上、好ましくは、10~30塩基、より好ましくは、15~20塩基である。オリゴヌクレオチド(プライマー)の設計において用いられる上記RNA修飾を有する部位を含む領域は、該修飾部位を含む限り特に制限がないが、領域の(中心より)5’側にRNA修飾部位が位置するように選択するのが好ましい。このように第1プライマーを設計することにより、逆転写を、RNA修飾を有する部位の影響を受けずに又は影響を小さくして行うことができる。

【0022】
本発明で用いられる第2プライマーとは、本発明の検出方法において検出すべきRNA修飾を有する部位(例えば、これに限定されないが、チオメチル化された塩基)よ3’側任意の領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドであり、逆転写法、及び必要に応じて本発明においてそれに組み合わされるPCR法のそれぞれで、プライマーとして機能する限りその長さは特に制限はなく、例えば、10塩基以上、好ましくは、10~30塩基、より好ましくは、15~20塩基である。第2プライマーが相補的に結合する領域がRNA修飾を有する部位の3’側に存在するため、逆転写において、RNA修飾(例えば、これに限定されないが、チオメチル化)が逆転写を阻害する。そのため、上記のように設計された第2プライマーを用いて逆転写を行うと、修飾されたtRNAの量が多いほど、逆転写産物の量が低下する、という反比例の相関が観察される。一方、第1プライマーを用いた逆転写はRNA修飾とは非依存的にcDNAを生成するので、第2プライマーを用いて生成されるcDNA量は、第1プライマーを用いて生成されるcDNA量より少なくなる。第2プライマーが相補的に結合する上記3’側の任意の領域は、特に制限がなく、逆転写においてRNA修飾が逆転写を少なくとも部分的に、好ましくは実質的に阻害する限り、いずれの領域でもよいが、上記3’側の任意の領域は、RNA修飾部位から離れすぎずまた近づきすぎないように設計するのが好ましく、例えば、RNA修飾部位からおおよそ3~10塩基、好ましくはおおよそ3~5塩基はなれたところから始まるように設計するのが好ましい。


【0023】
このように、RNA修飾部位との位置関係において第1プライマー及び第2プライマーを設計することにより、それぞれのプライマーを用いた逆転写による生成されるcDNA量に差異がより生じやすくなる。

【0024】
また、本発明で用いる第1プライマー及び/又は第2プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などで標識されてもよい。放射性同位元素としては、例えば、125I、131I、3H、14Cをあげることができ、酵素としては、例えば、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素をあげることができ、蛍光物質としては、例えば、フルオレセイン、Alex Fluorをあげることができ、発光物質としては、例えば、ルミノールをあげることができる。

【0025】
本発明において用いる第1及び第2プライマーは、検査対象であるRNA及び標的とするRNA修飾(その位置及びその種類)に基づいて、標的の領域と相補的に結合するように設計し、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。このような第1及び第2プライマーは、各々別個に、水又は適当な緩衝液(例えば、TE緩衝液)中に適当な濃度となるように溶解し、約-20℃で保存することができる。

【0026】
本発明の特徴の一つである、第1プライマーにより生成されるcDNA量と第2プライマーにより生成されるcDNA量の差の検出は、その差を検出できる限り、任意の方法を用いることができるが、例えば、核酸増幅法(核酸増幅反応)、質量分析法等をあげることができるが、好ましくは核酸増幅法である。核酸増幅法を用いることにより、cDNAの量の差を、迅速にそして安価に測定することができる。なお、逆転写時に蛍光標識したヌクレオチドを用いることにより、その後の核酸増幅法によるcDNA量の差の検出を省くことも可能となるが、検出感度及び検出精度の点より、逆転写法と核酸増幅法を組み合わせるのが好ましい。

【0027】
核酸増幅反応としては、定量PCR又はリアルタイム定量PCRをあげることができるが、好ましくは、SYBR GREENを用いたインターカレーション法、又はTaqMan(登録商標)プローブ法をあげることができ、これらの方法を用いることにより、RNA修飾の検出ばかりだけでなく、測定対象試料間の比較、さらにはRNA修飾の定量が可能となる。また、検出目的であれば、第1プライマー及び第2プライマーを別々の蛍光物質で標識して、マルチプレックス解析を行うことにより、少ない試料で迅速にRNA修飾を検出することも可能である。

【0028】
第1プライマー又は第2プライマーを用いて生成されたcDNAを増幅する上記核酸増幅反応において用いるプライマーは、逆転写産物である生成されたcDNAと相補的に結合する一対のプライマー(リバースプライマーとフォワードプライマー)であれば特に制限なく用いることができるが、好ましくは、一対のプライマーの一方は、第1プライマーと同じである。

【0029】
また、本発明の一つの態様である、第1及び第2プライマーを用いてRNAから逆転写によりcDNAを生成し、次いで、生成されたcDNAをリアルタイム定量PCRにより増幅する工程は、別々に行っても、或いは、逆転写に用いたプライマーと同じプライマーをPCRに用いて、リアルタイム装置の中で逆転写反応も行うOne-step定量RT-PCRであってもよい。

【0030】
PCR法を組み合わせた本発明の検出法において、第1プライマーにより生成されるcDNA量と第2プライマーにより生成されるcDNA量の差の検出は、DNAの増幅を経時的に(PCRのサイクル数の増加とともに)観察して検出しても、或いは、任意のPCRのサイクル数におけるDNA量の差として検出してもよい。

【0031】
本発明の一つの態様である、逆転写法と定量PCR法を組み合わせたRNA修飾の検出方法は、検出感度が非常に高く、例えば、僅か1ngの全RNAを用いてRNA修飾があるか否かの検出をすることが可能であり、従来の質量分析法に比べて約1000倍以上の感度を有する。また、逆転写後にPCRを行うという、2ステップのRT-PCR法或いは1ステップRT-PCR法であるため、短時間、例えば2~3時間以内で検出操作を終了でき、また、多量のサンプルを同時に処理することも可能である。さらには、質量分析法に比べて、必要となる機器も安価であり、操作も簡便である。

【0032】
本発明の別の一つの態様においては、RNA試料中のRNAに存在するRNA修飾を検出するためのキットであり、RNA修飾を有する部位を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第1プライマー、及びRNA修飾を有する部位より3’側の領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第2プライマーを含むキットである。また、上記キットは、第1及び第2プライマーを含み、更に検出法に応じて、検出を行うのに必要な他の成分を構成として含んでもよい。例えば、PCR法を行うための、別のプライマー(フォワードプライマー及び/又はリバースプライマー)やPCRを行うための、反応緩衝液、DNAポリメラーゼ等をさらに含むことができる。

【0033】
本発明のさらに別の一つの態様においては、RNA試料中のtRNAに存在するチオメチル化を検出するための方法であって、tRNAに対して相補的に結合する少なくとも2つのプライマー、すなわち、検出すべきチオメチル化された塩基を含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第1プライマー、及び検出すべきチオメチル化された塩基より3’側の任意の領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドを用いることを特徴とする。
第1プライマー及び第2プライマーは、上記条件を満たし、かつ、逆転写法、及び必要に応じて本発明においてそれに組み合わされるPCR法のそれぞれでプライマーとして機能する限り特に制限はなく設計することができ、その長さは、特に制限がないが、例えば、10塩基以上、好ましくは、10~30塩基、より好ましくは、15~20塩基に設計できる。
第1プライマーは、上記のように標的のチオメチル化塩基部位を含む領域と相補的に結合するに設計され、より好ましくは、標的のチオメチル化塩基部位がプライマーのほぼ中心の位置に対応するように設計する。この第1プライマーを利用して逆転写を行うと、チオメチル基に非依存的に逆転写が行われ、逆転写産物の量はtRNAの全量に相関する。一方、第2プライマーは、標的のチオメチル化塩基部位より3’側に位置するように設計されているので、チオメチル化部位のチオメチル基が逆転写の効率を阻害するため、第2プライマーを用いて逆転写を行うと、チオメチル化されたtRNAの量が多いほど、逆転写産物の量が低下する、という反比例の相関が生じる。その結果、tRNAのチオメチル化の程度に相関して、第2プライマーを用いて生成されるcDNA量は、第1プライマーを用いて生成されるcDNA量より少なくなる。

【0034】
本発明のさらに一つの態様においては、上記のチオメチル化の検出において、第1プライマーと第2プライマーから生成されるcDNA量の差を、逆転写後に、さらに、上記した核酸増幅法、例えば、リアルタイムPCR(例えば、SYBR GREENを用いたインターカレーション法、又はTaqMan(登録商標)プローブ法)を用いて測定することができる。また、上記したように、2ステップのRT-PCR法或いは1ステップRT-PCR法のいずれも用いることができる。

【0035】
本発明のさらに別の一つの態様において、上記のtRNAのチオメチル化を検出する方法を用いて、被験者由来のtRNAのチオメチル化(リジンに対応するtRNAの37番目のアデニンのチオメチル化)を検出することにより、被験者が2型糖尿病患者又はそのリスクがあるか否かを判定する方法が提供される。それにより、2型糖尿病の正確で、簡便かつ迅速な検査が可能であり、2型糖尿病の発症前検査、リスク検査、早期検査も可能である。
本発明において「被験者」とは、特に制限されず、2型糖尿病患者、2型糖尿病に対する感受性を有する者、及び健常人を含む。
また、本発明の検査方法を用いて、2型糖尿病を発症した患者から採取した試料を検査することにより、2型糖尿病の原因としてtRNAのチオメチル化に異常があるか否かを判断可能である。

【0036】
本発明の別の一つの態様において、2型糖尿病に対する遺伝的感受性の検査キットが提供され、該キットは、少なくとも、リジンに対応するtRNAの37番目のアデノシンを含む領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第1プライマー、及びリジンに対応するtRNAの37番目より3’側の任意の領域と相補的に結合するように設計されたオリゴヌクレオチドである第2プライマーを含む。

【0037】
上記したように、本発明の検出方法を用いると、短時間・低コスト・高感度でRNA修飾(例えば、チオメチル化)を検出することが可能である。また、本発明を用いれば、僅かなRNA試料(例えば、検体の末梢血からのtRNA)を用いて、RNA修飾(例えば、tRNAのチオメチル化)を検出し、疾患(例えば、糖尿病)の発症リスクの診断を行うことができ、更には、患者に対しては、テーラーメード医療(個人の体質に合わせた治療、例えば治療薬の種類や投薬方法)を開発することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1:tRNAのチオメチル化の検出
(1)リジンに対応するtRNA(tRNALys(UUU))のチオメチル化
2型糖尿病の発症と最も高い相関があるSNPsが確認されているCdkal1は、リジンに対応するtRNAの37番目のアデノシンをチオメチル化して、2-メチルチオ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン(ms26A)とする酵素である。チオメチル修飾(37A(ms2))されたリジンtRNA及びCdkal1によるチオメチル化反応を図1に模式的に示す。
【実施例】
【0039】
(2)tRNALys(UUU)の検出
tRNALys(UUU)の検出の概略図を図2に示す。tRNALys(UUU)のユニーク部位(チオメチル化部位)を標的とするように2つのリバースプライマーを用いて逆転写を行った。第1のリバースリバースプライマーは、チオメチル化部位(37番目のアデノシン)を含む特異的領域にアニールするように設計し、一方、第2のリバースプライマーは、チオメチル化部位の3’方向の下流の特異的配列にアニールするように設計した。まず、tRNALys(UUU)を線状化し(Step1)、ついで、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、逆転写を行った(Step2)。その後、第1のリバースプライマー又は第2のリバースプライマーのいずれかによって生成されたcDNAを、定量PCRを行って増幅した(Step3)。
完全に修飾されたtRNALys(UUU)の逆転写においては、37番目のアデノシンのms2修飾が逆転写を減衰させるので、第2のリバースプライマーによって生成されるcDNA量は、第1のリバースプライマーによって生成されるcDNA量より少なくなる。一方、部分的に修飾されたtRNALys(UUU)の場合は、修飾の減少に応じて、第2のリバースプライマーによって生成されるcDNA量は、第1のリバースプライマーによって生成されるcDNA量に近づく。
【実施例】
【0040】
(3)RNAの単離
(3-1)粗精製RNAの単離
全RNA単離物(粗精製RNA)は、細胞又は組織(マウス肝臓)より、TRlzol試薬(Invitrogen)を用いたグアニジンチオシアネート/フェノール/クロロフォルム法により、製造元のプロトコールに従い単離した。
(3-2)RNAの精製
個々のtRNALys(UUU)は、Miyauchi, et al. Nucleic Acids Res. 35, e24 (2007) に記載の方法に従い、往復循環クロマトグラフィ(RCC)法を用いて精製した。
(3-3)末梢血からのRNAの単離
全RNA(粗精製RNA)は、1.5mlの末梢血から、QIAamp RNA Blood Mini Kit(Qiagen)を用いて製造元のプロトコールに従って単離した。精製RNAは、50mlの末梢血から、過剰のQIAamp RNA Blood Mini Kit(Qiagen)の低張液を加えて赤血球を破壊し、その後、TRlzolを用いて白血球中の全RNAを精製することにより、単離した。
(4)質量分析
単離・精製したそれぞれのtRNA(tRNALys(UUU)、tRNATrp、tRNAPhe、tRNASer(UCN)、及びtRNALeu(UUR)を消化してオリゴヌクレオチドにした後、Weiら(非特許文献4)に記載の方法に従って、液体クロマトグラフィ/質量分析を行った。
(5)プライマー
tRNALysのms2修飾を測定するために設計したプライマー配列(フォワードプライマー(forward primer)配列(配列番号2)、第1リバースプライマー(reverse Primer r1)配列(配列番号3)、第2リバースプライマー(reverse Primer r2)配列(配列番号4))を、tRNALys配列(配列番号1)(ms2修飾部位である37番目のアデノシン(A37)を矢印で示す)とともに以下の表1に示す。
【実施例】
【0041】
【表1】
JP0006447829B2_000002t.gif
マウスミトコンドリアtRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)、及びtRNALeu(UUR)のms2修飾を測定するために設計したプライマー配列(フォワードプライマー(forward primer)配列、第1リバースプライマー(reverse Primer r1)配列、第2リバースプライマー(reverse Primer r2)配列)を、それぞれのtRNA配列(ms2修飾部位であるA37を矢印で示す)とともに以下の表2に示す。
【実施例】
【0042】
【表2】
JP0006447829B2_000003t.gif
ヒトミトコンドリアtRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)、及びtRNALeu(UUR)のms2修飾を測定するために設計したプライマー配列(フォワードプライマー(forward primer)、第1リバースプライマー(reverse Primer r1)配列、第2リバースプライマー(reverse Primer r2)配列)を、それぞれのtRNA配列(ms2修飾部位であるA37を矢印で示す)とともに以下の表3に示す。
【実施例】
【0043】
【表3】
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【実施例】
【0044】
(6)逆転写及び定量PCR(本明細書中、tRNAのチオメチル化の検出のために用いる際は、「qPCR-MtR」という場合がある)
細胞又は組織(例えば、肝臓)より単離した全RNA(粗精製又は精製RNA)を、特にことわりのない限り、RNase-free水で100ng/mlに調製した。ゲノムの混入を避けるために、20μlの反応液中、2μl(200ng)の全RNAを5UnitsのDNaseI(Roche)で、37℃で20分間分解し、次いで、75℃で10分間処理することにより、DNaseIを熱不活性化した。DNase処理後に、消化した全RNAの2.5μlを、20μMの第1リバースプライマー又は第2リバースプライマーを含む1μlの溶液と混合し、次いで、65℃で10分間、熱変性を行った後、少なくとも5分間氷上にて急速に冷却した。氷上にて、組換え逆転写酵素(Transcriptor、Roche)を終濃度が、0.5unit/μlとなるように添加した。逆転写を、10μlの全反応容量中で、55℃で30分間行い、次いで、85℃で5分間、熱不活性化を行った。第1又は第2リバースプライマーから合成されたcDNAについて、SYBR Premix Ex Taq Kit(Takara)及びABI PRISM 7300 Real-Time PCRシステム(Applied biosystems)を用いて、製造元のプロトコールに従い、定量PCRを行った。
【実施例】
【0045】
(7)ノックアウトマウス及び細胞培養
Cdkal1ノックアウトマウスは、Wei, F. Y. et al. J. Clin. Invest. 121, 3598-3608 (2011)(非特許文献4)に記載の方法に従って作成した。偏在的なCdk5rap1の発現を取り除くために、loxP配列よってに隣接されたCdk5rap1のエクソン4及び5をもったトランスジェニックマウスを、CAGプロモーターの制御下にあるCreリコンビナーゼを発現しているトランスジェニックマウスと交配させた。全ての動物実験は、熊本大学の動物倫理委員会の承認を得た手順書(ID:B24-134、B24-132)に従って行った。
(8)トランスフェクション
HeLa細胞は、10%FBSを含む高グルコース濃度DMEM培地(Invitrogen)で培養した。siRNAのトランスフェクションは、以下のようにして行った。HeLa細胞を、24ウェルプレートに、30%の密度になるように播種した。24時間後、細胞に、ヒトCdk5rap1をターゲットとするsiRNA(Dharmacon)又はネガティブコントロールsiRNA(Ambion)を、LIpofectamine RNAiMAX試薬(Invitrogen)を用いて、終濃度50nMにて導入した。トランスフェクション3日後に、全RNAを上記の方法を用いて単離した。
【実施例】
【0046】
(9)Cdkal1の一塩基遺伝子多型(SNP)の同定
QIAamp DNA Blood Mini Kit(Qiagen)を用いて、200μlの末梢血からゲノムDNAを精製し、蒸留水で10ng/μlとなるように調製した。Cdkal1のSNP(rs7754840)は、Taqman SNP Genotyping Assay Kit(Applied biosystems)を用いて検査した。ヒトのゲノム試料を用いた実験は、熊本大学の倫理委員会の承認(承認番号:ゲノム159)を得て行った。
【実施例】
【0047】
実施例2:野生型マウス及びCadKal1 KOマウスの精製RNAを用いたms2修飾の検出
上記に記載のRNAの単離方法に従い、野生型マウスの肝臓より37番目のアデノシンがms2によって完全に修飾されているtRNALys(UUU)を、CadKal1 KOマウスの肝臓よりms2修飾が完全に止められているtRNALys(UUU)を精製した。精製したそれぞれのtRNALys(UUU)を用いて、逆転写、次いで定量PCRを行った。結果を図3に示す。図3aは、野生型マウスからのtRNALys(UUU)を用いてqPCR-MtRを行った結果を、図3bは、CadKal1 KOマウスからのtRNALys(UUU)を用いてqPCR-MtRを行った結果を示している。
完全にms2修飾された野生型tRNALys(UUU)をテンプレートとして用いた場合は、第2のリバースプライマー(r2)によって得られる閾値サイクル数(threshold cycle:CT)CTr2は、第1のリバースプライマー(r1)によって得られる閾値サイクル数CTr1に比べて、顕著に増加していた(図3a)。一方、ms2修飾を欠いているtRNALys(UUU)の場合は、CTr2は、CTr1に近づいていた。これらの結果より、第2のリバースプライマーを用いた場合は、37番目のアデノシンのms2修飾よって逆転写が減ぜられているが、第1のリバースプライマーを用いた場合は、逆転写に影響がないことが確認された。すなわち、CTr2はms2修飾の程度を反映し、CTr1は、tRNA試料中の全tRNA分子を反映していることが判った。
【実施例】
【0048】
実施例3:試料中のtRNAにおけるms2修飾率の測定
慣用のddCT法と以下の計算モデルを用い、修飾率を表す指標として、任意の試料中のCTr1とCTr2間の差(dCTr2r1=CTr2-CTr1)を用いることができる。すなわち、dCTr2r1値が小さければ小さいほど、tRNAのms2修飾は少ない。また、以下の計算式に基づき、tRNAのms2修飾率について既知の2つの参照試料を用いて、未知の試験試料中のtRNAのms2修飾率を求めることができる。
【実施例】
【0049】
【数1】
JP0006447829B2_000005t.gif
ms2修飾をもつtRNA分子の総数をLms、ms2修飾をもたないtRNA分子の総数をLt6とし、全RNA分子数をLtotalとする。従って、絶対修飾率(x)は以下の式で表される。
【実施例】
【0050】
【数2】
JP0006447829B2_000006t.gif
逆転写の間、ms2修飾をもつtRNAは、第1のリバースプライマー(r1)又は第2のリバースプライマー(r2)によって、それぞれの率、RTmsr1又はRTmsr2で転写される。一方、ms2修飾をもたないtRNAは、第1のリバースプライマー(r1)又は第2のリバースプライマー(r2)によって、それぞれの率、RTt6r1又はRTt6r2で転写される。r1による逆転写は、ms2修飾とは関係ないので、以下の式(3)で表され、一方、r2による逆転写は、ms2修飾により減ぜられるので、以下の式(4)で表される。
【実施例】
【0051】
【数3】
JP0006447829B2_000007t.gif
ms及びLt6を含む全RNA試料を用いて逆転写を行うと、以下の式(5)~(7)のように表すことができる。
【実施例】
【0052】
【数4】
JP0006447829B2_000008t.gif
ここで、R0又はM0は、それぞれ、プライマーr1又はr2を用いて生成されたcDNA量である。R0a又はM0aは、それぞれ、修飾率aの全RNA試料を用いて、プライマーr1又はr2で生成されたcDNA量である。以下の方程式(8)は、引き続いてのPCRによる指数関数的増幅を示している。
【実施例】
【0053】
【数5】
JP0006447829B2_000009t.gif
ここで、XTは、標的分子の閾値数(threshold number)であり、CTxは、標的増幅のための閾値サイクル数(threshold cycle)であり、Eは、標的増幅効率である。
修飾率aの任意の試料からプライマーr1又はr2により生成されたcDNAを用いてPCRを行っている間は、以下の関係式(9)で表される。
【実施例】
【0054】
【数6】
JP0006447829B2_000010t.gif
0aでM0aを割ると、以下の式(10)が与えられる。
【実施例】
【0055】
【数7】
JP0006447829B2_000011t.gif
ここで、CTr2aは、プライマーr2によって生成されるM0aの増幅の閾値サイクル数であり、CTr1aは、プライマーr1によって生成されるR0aの増幅の閾値サイクル数である。
修飾率a又はbの試料を比較すると、以下の式(11)となる。
【実施例】
【0056】
【数8】
JP0006447829B2_000012t.gif
一方、式(4)と式(7)から以下の式(12)が求められる。
【実施例】
【0057】
【数9】
JP0006447829B2_000013t.gif
修飾率w、k又はsの個々の試料から以下(13)の式が導かれる。
【実施例】
【0058】
【数10】
JP0006447829B2_000014t.gif
もし、修飾率w及びkが既に判っていれば、修飾率sを式(13)から求められる。修飾率w、k、sが判らない場合でも、それぞれの間の修飾率の相対比較は、以下の式で表されるように、dCTr2r1を用いて容易である。
【実施例】
【0059】
【数11】
JP0006447829B2_000015t.gif
【実施例】
【0060】
実施例4:種々のms2修飾率のtRNAの測定
本発明の原理を用いて、種々のms2修飾率のtRNAの試料を測定した。野生型マウスからの精製tRNALys(UUU)とCadKal1 KOマウスからの精製tRNALys(UUU)を、表に示した割合で組み合わせることにより、種々のms2修飾率(25、50、75、及び100%)をもつtRNAを調製し、qPCR-MtRを行った。ddCT値は、サンプル1のdCTr2r1値から各サンプルのdCTr2r1値を引くことにより算出した。計算修飾率(calculated modification ratio)は、実施例3の式に従って算出した。結果を以下の表4に示す。
【実施例】
【0061】
【表4】
JP0006447829B2_000016t.gif
通常のdCT値は、ms2修飾率の減少にともなって減少した。また、完全にms2修飾されたtRNA試料(Sample No.5)とms2修飾がないtRNA試料(Sample No.1)を参照として、一部がms2修飾された試料(Sample Nos. 2~4)の、計算上の修飾率と期待される修飾率を比較したところ、計算値が期待値を正確に予測できることが判った(図4)。これにより、修飾率が判っているtRNAを参照試料として用いて、或いは、予め求めておいた標準検量線を用いて、未知の試料中のtRNAの修飾率を測定できることが判った。
【実施例】
【0062】
実施例5:粗精製RNAを用いたms2修飾の測定
少量の粗精製RNAを用いて、qPCR-MtRにより、ms2修飾の測定を行った。野生型マウスとCadKal1 KOマウスのそれぞれから、200ngの全RNAを単離し、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、qPCR-MtRを行った。結果を図5に示す。図5aは、野生型マウスからの粗精製RNAを用いてqPCR-MtRを行った結果を、図5bは、CadKal1 KOマウスからの粗精製RNAを用いてqPCR-MtRを行った結果を示している。精製tRNALys(UUU)を用いた実験結果と一致し、CadKal1 KOマウスからの全RNAから得られたCTr2値は、野生型マウスからの全RNAから得られたCTr2値に比べて顕著に減少していた。
さらに、実施例4と同様に、野生型マウスからの全RNA(粗精製RNA)とCadKal1 KOマウスからの全RNA(粗精製RNA)を、特定の割合で組み合わせることにより、種々のms2修飾率(25、50、75、及び100%)をもつRNAを調製し、同様にしてqPCR-MtRを行った。各SampleのdCTr2r1値は、Sample1のdCTr2r1値をもとに標準化し、ddCT値として示している。結果を以下の表5に示す。
【実施例】
【0063】
【表5】
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dCT値は、ms2修飾率の減少にともなって減少した。また、完全にms2修飾されたtRNA試料(Sample No.5)とms2修飾がないtRNA試料(Sample No.1)を参照として、一部がms2修飾された試料(Sample Nos. 2~4)の、計算上の修飾率と期待される修飾率を比較したところ、計算値が期待値を正確に予測できることが判った(図6)。これにより、全RNAを用いた場合でも、修飾率が判っている参照試料を用いて、或いは、予め求めておいた標準検量線を用いて、未知の試料中のtRNAの修飾率を測定できることが判った。
【実施例】
【0064】
実施例6:少量の粗精製RNAを用いたms2修飾の測定
実施例5と同様にして測定を行った。但し、用いた全RNA量は、2ngとした。野生型マウス及びCadKal1 KOマウスから得られた全RNAを、1ng/μlとなるように調製し、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、qPCR-MtRを行った。結果を以下の表6及び図7に示す。RNA量が2ngでも、十分に検出できることが判った。
【実施例】
【0065】
【表6】
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【実施例】
【0066】
実施例7:末梢血からのRNA試料を用いた測定
Cdkal1 SNP(rs775840)の2型糖尿病関連リスクアレルをもつ人及び健常人(Cdkal1 SNPのリスクアレルをもたない人)から末梢血を採取し、以下の実験を行った。末梢血試料から単離した全RNA(粗精製RNA)の100ngを用いて、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、qPCR-MtRを行った。ヒトのtRNALys(UUU)の絶対ms2修飾率を求めるための参照が入手できないので、dCTr2r1値を用いて、相対修飾レベルを測定した。Cdkal1 SNP(rs775840)の2型糖尿病関連リスクアレルをもつ人(個体数:6)及び健常人(個体数:7)のそれぞれの末梢血1.5mlから単離した全RNAのdCTr2r1値を、修飾指標(Modification Index)として比較した。結果を図8に示す。Cdkal1 SNPのリスクアレルをもつ人のdCTr2r1値は、健常人のdCTr2r1値に比べて顕著に低かった。これは、2型糖尿病関連Cdkal1 SNPをもつ人において、ms2修飾が抑制されていることを示している。
【実施例】
【0067】
qPCR-MtRの結果を、質量分析により確認した。Cdkal1 SNPのリスクアレルをもつ人及び健常人、それぞれの末梢血30mlから単離した全RNA50μgを用いてtRNALys(UUU)を精製し、精製tRNALys(UUU)の質量分析を行った。結果を図9に示す。図9bがリスクアレルをもつ人の結果であり、図9aが健常人の結果である(マスクロマトグラム:ms26A(m/z459)、t6A(m/z413))。非修飾率は、t6Aとms26Aの合計領域に対するt6A領域の比として標準化した。同じ個体から単離した全RNAを用いて3回実験した平均を示している。図9cに示されるように、リスクアレルをもつ人のms2未修飾tRNALys(UUU)は、1.47倍に増加していた。
【実施例】
【0068】
実施例8
ミトコンドリアtRNA試料を用いた測定
哺乳動物のミトコンドリアtRNAも、2-メチルチオ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン(ms26A)修飾を受けている。ミトコンドリアtRNAにおいては、tRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)は、ms26A修飾を受けているが、tRNALeu(UUR)は、ms26A修飾を受けていない。哺乳動物細胞においては、Cdk5rap1が、A37において、N6-イソペンテニルアデノシン(i6A)を、ms26Aに変換している。
Cdk5rap1ノックアウト(Cdk5rap1 KO)マウスにおけるミトコンドリアtRNAのms26A修飾を、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、qPCR-MtRを行うことにより、システマチックに調べた。野生型マウス及びCdk5rap1 KOマウスからそれぞれ全RNA(粗精製RNA)を調製し、前記表3に示されるプライマーを用いて、それぞれの、tRNATrp、tRNAPhe、tRNASer(UCN)、及びtRNALeu(UUR)のdCTr2r1値を測定した。
結果を、以下の表7に示す。野生型マウス(WT)のtRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)のdCTr2r1値は、Cdk5rap1 KOマウスから得られたdCTr2r1値に比べて顕著に大きかった。このことは、ノックアウトマウスにおいて、tRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)のms2修飾が抑制されていることを示している。一方、野生型マウスのtRNALeu(UUR)のdCTr2r1値は、Cdk5rap1 KOマウスから得られたdCTr2r1値と殆ど同じであった。
【実施例】
【0069】
【表7】
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また、野生型マウス及びCdk5rap1 KOマウスの肝臓から単離・精製した、ミトコンドリアtRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)のそれぞれについて、質量分析によりms2修飾を確認したところ、tRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)のms2修飾が消失していることが確認され、qPCR-MtRの結果と一致した。結果を図10に示す。
【実施例】
【0070】
実施例9:HeLa細胞を用いたtRNAのms2修飾の測定
Cdk5rap1に対するsiRNAを導入したHeLa細胞(KD)及びコントロールのsiRNAを導入したHeLa細胞(Control)を調製し、それぞれの細胞から、実施例1に記載の方法に従って、粗精製RNAを単離した。単離した粗精製RNAを用いて、第1又は第2のリバースプライマーを用いて、qPCR-MtRを行い、tRNATrp、tRNAPhe、tRNASer(UCN)、及びtRNALeu(UUR)のdCTr2r1値を測定した。結果を、以下の表8に示す。
【実施例】
【0071】
【表8】
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HeLa細胞を用いた結果も、マウスを用いた結果と同様に、Controlの細胞から得られたtRNATrp、tRNAPhe、及びtRNASer(UCN)のdCTr2r1値は、Cdk5rap1をノックダウン(KD)した細胞から得られたdCTr2r1値に比べて顕著に大きかった。一方、ControltRNALeu(UUR)のdCTr2r1値は、Cdk5rap1 KDのdCTr2r1値と殆ど同じであった。
【実施例】
【0072】
実施例10:Cdcak1遺伝子変異とtRNALys(UUU)の修飾の相関の検討
実施例1に従い、ヒトの末梢血液よりDNA及びRNAを抽出した。実施例1(9)の方法に従い、糖尿病の発症と関わるCdkal1遺伝子変異を同定し、危険型Cdkal1変異をホモで持つ群(C/C、n=20)、非危険型Cdkal1 変異をホモで持つ群(G/G、n=31)及びヘテロ群(G/C、n=35)に分けた。次に各群のRNAを用いてPCR法を行ってtRNALys(UUU)の修飾を測定して、相対的修飾率を検討した。結果を図11に示す。その結果、糖尿病発症のリスクを高める危険型Cdkal1遺伝子変異を持つ群は、非危険型Cdkal1変異を持つ群より有意にチオメチル化の修飾率が低下した。P<0.05を有意とする。検定はANOVAを用いた。【0073】
実施例11:チオメチル化とインスリン分泌能の相関の検討
tRNALys(UUU)のチオメチル化とインスリン分泌能の相関を検討するために、ヒトにおける糖負荷試験を常法に従って実施した。一晩絶食したボランティア28人(Cdkal1変異遺伝子型:C/C, n=9、G/C, n=12、G/G, n=7)に75グラムのブドウ糖を含む溶液(トレランG)を飲んでもらい、飲む前と飲んで30分後に採血し、血中インスリン、血糖値を基にインスリン分泌能(Corrected insulin response)を算出した。また、同血液サンプルよりRNAを精製し、PCR法によりチオメチル化修飾の度合いの検出し、インスリン分泌能とチオメチル化の度合いとの相関を検討した。結果を図12に示す。その結果、チオメチル化修飾が低いほど、インスリン分泌能が低いという正の相関が認められた。
【実施例】
【0074】
上記の記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の検出方法を用いて、短時間・低コスト・高感度でRNA修飾(例えば、チオメチル化)を検出することができる。また、本発明の検出方法を用いて、僅かなRNA試料(例えば、末梢血からのtRNA)を用いて、RNA修飾(例えば、tRNAのチオメチル化)を検出し、疾患(例えば、糖尿病)の発症リスクの診断を行うことができる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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