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明細書 :補償光学系及び光学装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6394850号 (P6394850)
公開番号 特開2015-060202 (P2015-060202A)
登録日 平成30年9月7日(2018.9.7)
発行日 平成30年9月26日(2018.9.26)
公開日 平成27年3月30日(2015.3.30)
発明の名称または考案の名称 補償光学系及び光学装置
国際特許分類 G02B  21/06        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
FI G02B 21/06
G01N 21/64 E
請求項の数または発明の数 31
全頁数 42
出願番号 特願2013-195943 (P2013-195943)
出願日 平成25年9月20日(2013.9.20)
審査請求日 平成28年8月24日(2016.8.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
発明者または考案者 【氏名】服部 雅之
【氏名】玉田 洋介
【氏名】村田 隆
【氏名】亀井 保博
【氏名】長谷部 光泰
【氏名】早野 裕
【氏名】大屋 真
個別代理人の代理人 【識別番号】100112874、【弁理士】、【氏名又は名称】渡邊 薫
【識別番号】100147865、【弁理士】、【氏名又は名称】井上 美和子
【識別番号】100173646、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 桂子
審査官 【審査官】堀井 康司
参考文献・文献 特表2012-533069(JP,A)
特開2011-180290(JP,A)
特表2009-540586(JP,A)
国際公開第2007/120112(WO,A1)
特開2013-198721(JP,A)
特開2007-330582(JP,A)
調査した分野 G02B 19/00 - 21/36
G01N 21/62 - 21/74
特許請求の範囲 【請求項1】
入射光に対して収差補正を行い補正後の光を出射する波面位相変調器と、
前記波面位相変調器により形成されるゆらぎ補正面と結像共役となる面の位置を試料内において自在に調整する結像共役位置調整機構と、を有し、
前記結像共役位置調整機構により、前記揺らぎ補正面が、前記試料内に存在する揺らぎ層と、結像共役になるように調整され、
前記波面位相変調器と前記試料との間には、前記結像共役位置調整機構として、前記試料側から順に、対物レンズ及び少なくとも1枚のリレーレンズが配置され、
前記対物レンズと前記少なくとも1枚のリレーレンズとの光学的な距離を変更すること、前記少なくとも1枚のリレーレンズと前記波面位相変調器との光学的な距離を変更すること、及び/又は前記少なくとも1枚のリレーレンズが少なくとも2枚のリレーレンズから構成されて、前記少なくとも2枚のリレーレンズの光学的な距離を変更することにより、前記ゆらぎ補正面と結像共役となる面の前記試料内における位置を調整し、
前記試料内に存在する揺らぎ層には、位相収差の誤差を発生させる揺らぎ要素が存在している、補償光学系。
【請求項2】
前記対物レンズと前記少なくとも1枚のリレーレンズとの間には、少なくとも2枚のミラーを備える折り返し光学系が配置されており、
前記折り返し光学系を光軸に平行な方向に移動させると、前記対物レンズと前記少なくとも1枚のリレーレンズとの光学的な距離が変更される、請求項1に記載の補償光学系。
【請求項3】
前記少なくとも1枚のリレーレンズと前記波面位相変調器との間には、少なくとも2枚のミラーを備える折り返し光学系が配置されており、
前記折り返し光学系を光軸に平行な方向に移動させると、前記少なくとも1枚のリレーレンズと前記波面位相変調器との光学的な距離が変更される、請求項1又は2に記載の補償光学系。
【請求項4】
前記折り返し光学系は、前記光軸に平行な方向に移動可能なスライドステージに載置されている請求項2又は3に記載の補償光学系。
【請求項5】
前記対物レンズは、前記試料が載置されたステージと一体で可動すると共に、前記少なくとも1枚のリレーレンズが可動となっている請求項1に記載の補償光学系。
【請求項6】
前記少なくとも1枚のリレーレンズを変位させることにより、波面傾斜及び/又は波面曲率が補正される請求項1~5のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項7】
前記波面位相変調器と前記試料との間には、前記結像共役位置調整機構として、前記試料側から順に、対物レンズ、リレーレンズを構成する第1レンズ及び第2レンズが配置され、前記対物レンズと前記第1レンズとの光学的な距離を変更することにより、前記ゆらぎ補正面と結像共役となる面の前記試料内における位置を調整するか、又は前記第2レンズと前記波面位相変調器との光学的な距離を変更することにより、前記ゆらぎ補正面と結像共役となる面の前記試料内における位置を調整する、請求項1に記載の補償光学系。
【請求項8】
前記第1レンズと前記第2レンズとの間には、少なくとも2枚のミラーを備える折り返し光学系が配置されており、
前記折り返し光学系を光軸に平行な方向に移動させると、前記第1レンズと前記2レンズとの光学的な距離が変更される、請求項7に記載の補償光学系。
【請求項9】
前記折り返し光学系は、前記光軸に平行な方向に移動可能なスライドステージに載置されている請求項8に記載の補償光学系。
【請求項10】
前記第1レンズ及び前記第2レンズの少なくとも一方を変位させることにより、波面傾斜及び/又は波面曲率が補正される請求項7~9のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項11】
前記波面位相変調器により補正された光に含まれる波面残差成分を検出する波面センサーと、
前記波面センサーでの検出結果に基づいて前記波面位相変調器を制御する第1制御部と、を有し、
前記第1制御部は、前記揺らぎ補正面が、前記試料内に存在する揺らぎ層と、位相共役になるように前記波面位相変調器を調整する請求項1~5のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項12】
前記第1制御部は、前記波面センサーへの入射光の波面位相が設定値になるように、前記波面位相変調器を調整する請求項11に記載の補償光学系。
【請求項13】
前記少なくとも1枚のリレーレンズを変位させることにより、波面傾斜及び/又は波面曲率が補正される請求項11又は12に記載の補償光学系。
【請求項14】
前記波面位相変調器により補正された光に含まれる波面残差成分を検出する波面センサーと、
前記波面センサーでの検出結果に基づいて前記波面位相変調器を制御する第1制御部と、を有し、
前記第1制御部は、前記揺らぎ補正面が、前記試料内に存在する揺らぎ層と、位相共役になるように前記波面位相変調器を調整する請求項7~9のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項15】
前記第1制御部は、前記波面センサーへの入射光の波面位相が設定値になるように、前記波面位相変調器を調整する請求項14に記載の補償光学系。
【請求項16】
前記第1レンズ及び前記第2レンズの少なくとも一方を変位させることにより、波面傾斜及び/又は波面曲率が補正される請求項14又は15に記載の補償光学系。
【請求項17】
前記試料と前記波面センサーとの間に、複数の波面位相変調器及びリレーレンズが、前記試料の深さ方向において異なる位置で結像共役となるように配置されている請求項11~16のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項18】
前記波面位相変調器と前記波面センサーとの間には、焦点面又はその近傍に視野絞りが配置されている請求項11~17のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項19】
前記試料内に存在する参照物の位置に応じて、前記視野絞りを移動させる請求項18に記載の補償光学系。
【請求項20】
前記試料内に存在する参照物の位置に応じて、前記波面センサーの位置を移動させる請求項11~18のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項21】
複数の波面センサーを備える請求項11~20のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項22】
前記波面センサーは、前記波面位相変調器に対して、素子の並びを45°回転させた状態で配置されている請求項11~21のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項23】
前記波面センサーは位相差方式である請求項11~22のいずれか1項に記載の補償光学系。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか1項に記載の補償光学系を備えた光学装置。
【請求項25】
前記試料内の観察対象の像及び前記揺らぎ補正面の像を撮像する撮像素子を有し、
前記撮像素子上に結ばれる像の焦点を調整することにより、前記観察対象の像及び前記揺らぎ補正面の像のいずれか一方を取得する請求項24に記載の光学装置。
【請求項26】
前記試料内の観察対象の像を撮像する第1撮像素子と、
前記揺らぎ補正面の像を撮像する第2撮像素子と、
前記試料からの光の一部を前記第1撮像素子及び前記第2撮像素子に向けて分岐させる1又は2以上のビームスプリッターと、を有し、
前記観察対象の像と、前記揺らぎ補正面の像とを、それぞれ独立して取得する請求項24に記載の光学装置。
【請求項27】
前記揺らぎ補正面の像に基づいて、前記結像共役位置調整機構による前記ゆらぎ補正面と結像共役となる面の位置調整を制御する第2制御部を有する請求項25又は26に記載の光学装置。
【請求項28】
焦点を深さ方向に特定間隔でずらしながら、前記試料の断層画像群を撮像する請求項25~27のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項29】
前記試料内の観察対象の像を一定時間隔で継続して撮像する請求項25~28のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項30】
顕微鏡装置、望遠鏡、レーザー計測装置、レーザー入射装置、カメラ又は医療用検査装置である請求項24~29のいずれか1項に記載の光学装置。
【請求項31】
前記顕微鏡装置は、蛍光顕微鏡、微分干渉顕微鏡、位相差顕微鏡、超解像顕微鏡、走査型顕微鏡、多光子顕微鏡又はレーザー入射顕微鏡である請求項30に記載の光学装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、補償光学系及びこの光学系を備えた光学装置に関する。より詳しくは、観察対象に起因する収差を補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞などの生物試料の観察には、一般に、顕微鏡装置が利用されている。しかしながら、例えば観察対象物が細胞である場合、細胞表面や特定の細胞内小器官などが揺らぎ(歪み)発生層となり、波面収差が生じるという問題がある。また、観察対象物が生体組織・器官である場合は、組織表面や特定の組織層が主な歪み発生層となる。そこで、従来、生物試料の観察に用いられる顕微鏡装置では、観察対象物に由来する波面収差を補正し、高画質の顕微鏡画像を得るために、種々の検討がなされている(特許文献1~4参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、光学系の後瞳をセグメント化し、各セグメントを波面変調デバイスによって制御することにより、収差を補正する技術が提案されている。また、特許文献2には、光書き込み型の液晶空間位相変調素子を用いて波面補正をする方法が提案されている。この特許文献2に記載の波面補正映像装置では、物体からの光を、被測定物体と観察面間の空間の擾乱媒質を通過させて液晶空間位相変調素子の位相変調面に入射し、位相変調面で反射した参照光から擾乱媒質の位相分布を反映した干渉縞を得て、これを液晶空間位相変調素子の書き込み面に照射することにより擾乱媒質の位相分布を打ち消すように位相変調面を形成し、被測定物体から前記擾乱媒質を通り位相変調面に入射して反射した被測定光を観察している。
【0004】
更に、眼科機器の分野では、特許文献3,4に記載されているように、波面センサーで検出した波面収差を、形状可変ミラーや空間光変調器などの波面補正器により補正する補償光学系が提案されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2012-533069号公報
【特許文献2】特開2002-040368号公報
【特許文献3】特表2005-501587号公報
【特許文献4】特開2011-239884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の補償光学系は、観察対象と揺らぎ層とが近接している場合や観察対象が微小である場合などは、高精度に波面位相収差を補正することが難しい。特に、細胞を含む生体組織は、多くの場合微細な揺らぎが大きく、その結果、補正の制御が不安定になりやすく、また、補正が有効となる範囲が狭いという問題が存在する。
【0007】
また、特許文献4に記載の補償光学系は、装置構成が複雑になることが指摘されており、それを小型化する方法として、非球面レンズを用いた特殊な光学系や光駆動型の変調器などの特殊な部品を用いることが提案されている。しかしながら、その場合、簡素性や自在性が失われ、実用機材としての生産性や実験装置としての拡張性が劣るものとなる。
【0008】
そこで、本発明は、観察対象と揺らぎ層との距離や観察対象の大きさにかかわらず、従来よりも精度よく波面位相収差を補正することができ、更に従来よりも補正範囲の広い補償光学系及び光学装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る補償光学系は、入射光に対して収差補正を行い補正後の光を出射する波面位相変調器と、前記波面位相変調器により形成されるゆらぎ補正面と結像共役となる面の位置を試料内において自在に調整する結像共役位置調整機構と、を有し、前記結像共役位置調整機構により、前記揺らぎ補正面が、前記試料内に存在する揺らぎ層と、結像共役になるように調整される。
この補償光学系では、前記波面位相変調器と前記試料との間に、前記結像共役位置調整機構として、前記試料側から順に、対物レンズ、リレーレンズを構成する第1レンズ及び第2レンズを配置してもよい。
この構成では、前記対物レンズと前記第1レンズとの光学的な距離を変更することにより、前記ゆらぎ補正面と結像共役となる面の前記試料内における位置を調整することができる。
その場合、例えば前記対物レンズと前記第1レンズとの間に、少なくとも1枚のミラーを備える折り返し光学系を配置し、前記折り返し光学系を光軸に平行な方向に移動させることにより、前記対物レンズと前記第1レンズとの光学的な距離が変更される構成にしてもよい。
更に、前述した構成に加えて、又は、前述した構成とは独立に、前記第2レンズと前記波面位相変調器との光学的な距離を変更することにより、前記ゆらぎ補正面と結像共役となる面の前記試料内における位置を調整することもできる。
その場合、例えば前記第2レンズと前記波面位相変調器との間に、少なくとも1枚のミラーを備える折り返し光学系を配置し、前記折り返し光学系を光軸に平行な方向に移動させることにより、前記第2レンズと前記波面位相変調器との光学的な距離が変更される構成にしてもよい。
又は、前記第1レンズと前記第2レンズとの間に、少なくとも1枚のミラーを備える折り返し光学系を配置し、前記折り返し光学系を光軸に平行な方向に移動させると、前記第1レンズと前記2レンズとの光学的な距離が変更される構成にしてもよい。
前記折り返し光学系は、前記光軸に平行な方向に移動可能なスライドステージに載置することもできる。
又は、前記対物レンズが、前記試料が載置されたステージと一体で可動すると共に、前記第1レンズ及び第2レンズも可動する構成としてもよい。
本発明の補償光学系は、更に、前記波面位相変調器により補正された光に含まれる波面残差成分を検出する波面センサーと、前記波面センサーでの検出結果に基づいて前記波面変調器を制御する第1制御部と、を有し、前記第1制御部により、前記揺らぎ補正面が、前記試料内に存在する揺らぎ層と、位相共役になるように前記波面変調器を調整してもよい。
その場合、前記第1制御部は、前記波面センサーへの入射光の波面位相が設定値になるように、前記波面位相変調器を調整することができる。
前記第1レンズ及び前記第2レンズの少なくとも一方を変位させることにより、波面傾斜及び/又は波面曲率を補正してもよい。
また、前記試料と前記波面センサーとの間に、複数の波面位相変調器が、前記試料の深さ方向において異なる位置で結像共役となるように配置されていてもよい。
前記波面位相変調器と前記波面センサーとの間には、焦点面又はその近傍に視野絞りを配置することができる。
その場合、前記試料内に存在する参照物の位置に応じて、前記視野絞りを移動させることができる。
前記試料内に存在する参照物の位置に応じて、前記波面センサーの位置が移動する構成にすることもできる。
複数の波面センサーを備えていてもよい。
前記波面センサーは、前記波面位相変調器に対して、素子の並びを45°回転させた状態で配置されていてもよい。
又は、前記波面センサーは位相差方式とすることもできる。
【0010】
本発明に係る光学装置は、前述した補償光学系を備えるものである。
本発明の光学装置は、前記試料内の観察対象の像及び前記揺らぎ補正面の像を撮像する撮像素子を有し、この撮像素子上に結ばれる像の焦点を調整することにより、前記観察対象の像及び前記揺らぎ補正面の像のいずれか一方を取得する構成とすることができる。
又は、前記試料内の観察対象の像を撮像する第1撮像素子と、前記揺らぎ補正面の像を撮像する第2撮像素子と、前記試料からの光の一部を前記第1撮像素子及び前記第2撮像素子に向けて分岐させる1又は2以上のビームスプリッターと、を有し、前記観察対象の像と、前記揺らぎ補正面の像とを、それぞれ独立して取得する構成にすることもできる。
その場合、前記揺らぎ補正面の像に基づいて、前記結像共役位置調整機構による前記ゆらぎ補正面と結像共役となる面の位置調整を制御する第2制御部を有していてもよい。
また、焦点を深さ方向に特定間隔でずらしながら、前記試料の断層画像群を撮像することもできる。
更に、前記試料内の観察対象の像を一定時間隔で継続して撮像することもできる。
本発明の光学装置は、例えば、顕微鏡装置、望遠鏡、レーザー計測装置、レーザー入射装置、カメラ又は医療用検査装置である。
そして、前記顕微鏡装置としては、例えば蛍光顕微鏡、微分干渉顕微鏡、位相差顕微鏡、超解像顕微鏡、走査型顕微鏡、多光子顕微鏡及びレーザー入射顕微鏡が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、補償光学系において揺らぎ補正面と揺らぎ層とを結像共役の関係にしているため、観察対象と揺らぎ層とが近接している場合や観察対象が微小である場合でも、高精度かつ広範囲にわたって波面位相収差を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態の顕微鏡装置の構成を示す模式図である。
【図2】試料1の構成例を示す模式図である。
【図3】4f光学系に基づいた結像関係と波面位相の平面性を共に保持する拡大縮小リレー光学系の構成を示す図である。
【図4】図1に示す顕微鏡装置の補償光学系の構成例を示す図である。
【図5】A及びBは揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構の動作を示す模式図であり、Aは調整前の状態を示し、Bは調整後の状態を示す。
【図6】A~Cは補償光学系の調整によって像焦点を調整する方法を示す図である。
【図7】補償光学系を介して顕微鏡装置の像焦点を調整する方法を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態の第1変形例の顕微鏡装置の補償光学系の構成例を示す図である。
【図9】A及びBは図8に示す補償光学系における揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構の動作を示す模式図であり、Aは調整前の状態を示し、Bは調整後の状態を示す。
【図10】本発明の第1の実施形態の第2変形例の顕微鏡装置の補償光学系の構成例を示す図である。
【図11】光路長lrを調整することにより光路長lcを独立に変更可能にする方法を示す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態の第3変形例の顕微鏡装置における光路長調整方法を示す図である。
【図13】図12に示す光路長調整方法を実現する具体的構成例を示す図である。
【図14】図12に示す光路長調整方法を実現する具体的構成例を示す図である。
【図15】図12に示す光路長調整方法を実現する具体的構成例を示す図である。
【図16】図12に示す光路長調整方法を実現する具体的構成例を示す図である。
【図17】図12に示す光路長調整方法を実現する具体的構成例を示す図である。
【図18】本発明の第1の実施形態の第4変形例の顕微鏡装置における揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構(リレーレンズ1枚)を示す図である。
【図19】本発明の第1の実施形態の第4変形例の顕微鏡装置における他の揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構(リレーレンズ2枚)を示す図である。
【図20】図18に示す揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構の具体的構成例である。
【図21】A及びBは本発明の第1の実施形態の第5変形例の顕微鏡装置の補償光学系の構成例を示す図である。
【図22】本発明の第1の実施形態の第6変形例の顕微鏡装置における揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構の構成例を示す図である。
【図23】本発明の第1の実施形態の第6変形例の顕微鏡装置における揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構の他の構成例を示す図である。
【図24】本発明の第1の実施形態の第7変形例の顕微鏡装置の概要を示す図である。
【図25】図24に示す補償光学系において複数の波面センサーを用いる場合の構成を示す図である。
【図26】リレー光学系のレンズの変位による波面傾斜成分の補正方法を示す図である。
【図27】リレー光学系のレンズの変位による波面曲率成分の補正方法を示す図である。
【図28】本発明の第1の実施形態の第10変形例の顕微鏡装置の補償光学系の構成例を示す図である。
【図29】波面位相変調器の素子配置とワッフルモードの波面形状を示す模式図である。
【図30】波面位相変調器に対する波面センサーの素子の配置を示す図であり、Aは通常配置、Bは45°回転配置を示す。
【図31】波面センサーの素子配置の違いとワッフルモードへの検出感度との関係を示す図であり、Aは通常配置、Bは45°回転配置を示す。
【図32】波面センサーの45°回転配置と光学系の倍率の変更の関係を示す図であり、Aは適用前、Bは適用後を示す。
【図33】本発明の第3の実施形態に係るレーザー入射装置を用いたレーザー入射顕微鏡の構成を示す模式図である。
【図34】本発明の第4の実施形態に係る位相差顕微鏡装置の構成を示す模式図である。
【図35】本発明の第5の実施形態に係る微分干渉顕微鏡装置の構成を示す模式図である。
【図36】本発明の第6の実施形態に係る共焦点走査顕微鏡装置の構成を示す模式図である。
【図37】本発明の第7の実施形態に係る多光子励起顕微鏡の構成を示す模式図である。
【図38】本発明の第9の実施形態に係る望遠鏡装置の構成を示す模式図である。
【図39】Aは結像共役位置調整なしの従来の補償光学系により補正を行って撮影した人工試料の顕微鏡写真であり、Bは本発明の補償光学系を用いて揺らぎ補償面を揺らぎ層と結像共役にして補正を行って撮影した人工試料の顕微鏡写真である。
【図40】Aは結像共役位置調整なしの従来の補償光学系により補正を行って撮影したタマネギ表皮細胞の顕微鏡写真であり、Bは本発明の補償光学系を用いて揺らぎ補償面を揺らぎ層と結像共役にして補正を行って撮影したタマネギ表皮細胞の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。

【0014】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る顕微鏡装置について、蛍光顕微鏡を例にして説明する。図1は本実施形態の顕微鏡装置の構成を示す模式図であり、図2は試料1の構成例を示す模式図である。

【0015】
[全体構成]
本実施形態の顕微鏡装置は、補償光学系を備えており、この補償光学系の揺らぎ補正面に対する結像共役面の位置が、自在に調整可能となっている。具体的には、図1に示すように、本実施形態の顕微鏡装置は、光源3、波面位相変調器6、波面センサー7、撮像カメラ8、瞳カメラ9、コンピュータ10などを備えている。

【0016】
この顕微鏡装置では、試料1と波面位相変調器6との間に、対物レンズLo、ビームスプリッターBS1、ミラーM1,M2、リレーレンズL1、ミラーM3,M4及びリレーレンズL2が、この順に配置されている。また、波面位相変調器6と波面センサー7との間には、ビームスプリッターBS2、フィルターF3、リレーレンズL3、視野絞りST、リレーレンズL4、ビームスプリッターBS3が、この順に配置されている。

【0017】
本実施形態の顕微鏡装置は、光源3から出射された励起光が、フィルターF1、ビームスプリッターBS1、対物レンズLoを介して、試料1に照射される構成になっている。また、本実施形態の顕微鏡装置では、ビームスプリッターBS2で反射された光が、フィルターF2、レンズL5を介して撮像カメラ8に入射すると共に、ビームスプリッターBS3で反射された光が、レンズL6を介して瞳カメラ9に入射するように構成されている。更に、試料1及びミラーM1~M4は、それぞれ試料ステージ2、スライドステージ4,5上に配置されており、これらのステージ2,4,5を移動させることにより、その位置が調整可能となっている。

【0018】
[試料1]
本実施形態の顕微鏡装置により観察する試料1は、動物組織、植物組織及び培養細胞などの生物試料であり、例えば図2に示すように、スライドグラス(図示せず)上に載置されカバーグラス103で封止されている。図2に示す試料1の場合、光源3から出射された励起光は、対物レンズ104及びカバーグラス103を介して、試料1に入射する。

【0019】
試料1は、観察対象100の他に、参照物101や揺らぎ要素を含んでいる。ここで、「観察対象」とは、試料1の内部にあり、光学的な像を取得して観察する箇所(物)であり、例えば、生物の組織、細胞、細胞内構造及び蛍光タンパク質などの分子が挙げられる。「参照物」は、補償光学系を制御する際に、波面の揺らぎの測定に用いる物体であり、人工のものでも天然に存在するものでもよく、例えば、蛍光ビーズ、組織や細胞内の特定部位及び蛍光タンパク質などの分子である。また、観察対象100を参照物101として用いることも可能であり、その場合、観察対象100からの光を補償光学系に導入して波面の補正を行う。

【0020】
一方、「揺らぎ要素」は、観察対象100や参照物101からの光が透過する際に、透過光に対して位相の擾乱を与え、透過波面を揺らがせる要因となるものであり、試料1内における屈折率の不均一や表面形状の凹凸などが挙げられる。この透過波面の揺らぎは、像に劣化を生じさせる原因の1つとなっている。そして、観察対象100と対物レンズ104の間には、位相収差などの誤差を発生させる揺らぎ要素が多く存在している揺らぎ層102がある。揺らぎ層102の具体例としては、生物組織・器官及び細胞の表面(水や培地との境界面)に加えて、例えば植物細胞の細胞壁や葉緑体のように周囲と屈折率が大きく異なる細胞内構造や組織などが挙げられる。

【0021】
[試料ステージ2]
試料ステージ2は、試料1の位置を、対物レンズに対してxyzの三軸(三方向)に変位させるものである。本実施形態の顕微鏡装置では、試料ステージ2を、z軸方向に変位させることにより焦点の調整を行い、x軸及びy軸方向に変位させることにより、視野内における観察対象100の位置の調整を行う。

【0022】
[光源3]
光源3は、試料1に、蛍光を発生させるための励起光を照射するためのものであり、ハロゲンランプ、タングステンランプ、水銀ランプ、LED(Light Emitting Diode;発光ダイオード)、固体プラズマ光源及び各種レーザーなどを用いることができる。

【0023】
[フィルターF1]
光源用フィルターF1は、光源3から発せられた励起光から、蛍光の励起に必要な波長の光のみを透過し、不要な波長の光を遮断するものである。

【0024】
[ビームスプリッターBS1]
ビームスプリッターBS1は、蛍光励起用ミラーであり、試料1内部の観察対象100及び/又は参照物101で蛍光を励起させる場合に、光源3から出射された励起光を、対物レンズ104(対物レンズLo)を介して、試料1に入射させるものである。例えば、図1に示す構成の場合、ビームスプリッターBS1は、波長の短い励起光を反射すると共に、観察対象100や参照物101から発せられた波長の長い蛍光を透過して観察側の光学系(ミラーM1)に導く。ビームスプリッターBS1には、光の波長により反射と透過を弁別できるものを用いることができ、例えばダイクロックミラーなどのハーフミラーを使用することができる。

【0025】
[対物レンズLo]
対物レンズLoとしては、例えば無限遠焦点光学系用の対物レンズを用いることができる。無限遠焦点光学系用の対物レンズは、図2に示すように、対物レンズ104の作動距離に置かれた観察対象100からの発散光が平行光線に変換されるが、その場合に光学収差が少なくなるように設計されている。

【0026】
[共役スライド]
共役スライドステージ4には、2枚のミラーM1,M2が90°の角度で配置されており、試料1から発せられた光は、ミラーM1,M2により入射方向と平行な方向に折り返される。また、共役スライドステージ4は、入射光及び出射光の光軸に沿って移動可能となっており、これにより、リレーレンズL1から対物レンズLoまでの光路長の可変調節を実現することができる。そして、本実施形態の顕微鏡装置では、この方法で光路長を変更することにより、試料1内における揺らぎ補正面の結像共役位置の調整を行う。ここでいう「光路長」は、光線に沿った空間の長さであり、本実施形態の顕微鏡装置においては、光束の光軸の長さ又は光学素子の間の光学的な距離を表す。

【0027】
[フォーカススライド]
フォーカススライドステージ5にも、2枚のミラーM3,M4が90°の角度で配置されている。そして、ミラーM2で反射され、リレーレンズL1を介して入射した光は、ミラーM3,M4により入射方向と平行な方向に折り返される。また、フォーカススライドステージ5も、入射光及び出射光の光軸に沿って移動可能となっており、これにより光路長の可変調節を実現することができる。フォーカススライドステージ5を調整する場合は、例えば波面位相変調器6からリレーレンズL2を適正な位置に配置した後、リレーレンズL1からリレーレンズL2までの光路長を調節し、像の焦点が正しくなるようにその位置を移動させる。

【0028】
[リレーレンズL1,L2]
リレーレンズL1,L2は、凸レンズなどの正の屈折力をもつ光学素子を用いたリレー光学系である。そして、リレーレンズL1,L2の主な機能は、以下の通りである。
(1)対物レンズLoと共に像の倍率を定める。
(2)対物レンズLoの瞳開口からの光線を、波面位相変調器6に投射する際に、その光束と波面位相変調器6の開口の大きさが適合するように調整する。
(3)入射面と出射面の間を結像共役にすると共に、入射面と出射面の間で波面位相に余分な傾斜や曲率などの不要な成分を増加させないようにする。

【0029】
ここで、上記(1)及び(2)を実現するにはリレー光学系に拡大縮小光学系を用いればよい。また、上記(3)を実現するリレー光学系としては4f光学系が知られている。そこで、本実施形態の顕微鏡装置では、4f光学系の構成に基づきながら、2枚のリレーレンズL1,L2の焦点距離が異なる場合を含めることで、像の拡大縮小の倍率をもたせるようにする。具体的には、リレーレンズL1,L2に、屈折力1/f1のレンズ110と、屈折力1/f2のレンズ111とを用いて、図3に示す配置の拡大縮小リレーレンズ系を構成した。

【0030】
この場合、先ず、図3に点線で示すように、入射面Pinと出射面Pout上の各点が結像共役関係になっている。一方、図3に実線で示すように、入射面Pinでの平行光線は、出射面Poutでも平行に保たれており、これらの光線に垂直な波面位相は平面性が保持され、波面位相には傾斜や曲率などの増減が生じない。同様の光学系の波面位相の保持に関する性質として、レンズ110とレンズ111の屈折力が等しい場合は、4fフーリエ変換光学系として知られている。

【0031】
[波面位相変調器6]
波面位相変調器6は、入射光に対して変動する位相誤差の動的な収差補正を行い、補正後の光を出射する装置である。本実施形態の顕微鏡装置の補償光学系においては、波面位相変調器6によって位相の補正動作を行う。この場合、波面位相変調器6の素子面は、補償光学系において揺らぎ補正面として機能する。

【0032】
波面位相変調器6としては、例えば、静電気力で薄膜ミラーを駆動する方式のマイクロマシーンによって構成された可変形状鏡を波面位相変調器に用いることができる。その場合、可変形状鏡を、デジタルアナログ変換機を介して制御用計算機(コンピュータ10)に接続し、計算機の制御ポートから出力される制御信号に基づいて、例えば12×12の正方配置を持つ各素子に駆動電圧が印加されるようにする。

【0033】
可変形状鏡は、素子ごとに駆動電圧を印加し、複数の静電素子をそれぞれ独立に駆動させると、入射光線の反射を行う薄膜鏡面が押し引きされ、鏡面の表面形状が変形する。これにより、光の位相分布に随時変位を与えることができるため、変動する位相誤差に対しても動的に収差補正を行うことができる。なお、同様に、波面位相変調器6としては、前述した可変形状鏡の他に、液晶などを用いた空間光位相変調器などを用いることも可能である。

【0034】
[ビームスプリッターBS2]
ビームスプリッターBS2は、ハーフミラーの1種であり、光学系の性能を劣化させないように、効率が高く、かつ平面度が高く作られているものである。光を波長で分割して感度の向上を図る場合には、ビームスプリッターBS2としてダイクロイックミラーを用いることも可能である。なお、光の効率の向上のために、ハーフミラーによる分岐ではなく、透過の無い反射鏡を出し入れして反射と透過の光路を切り替える手法を用いることもできる。

【0035】
ビームスプリッターBS2で分割された光は、一方が撮像カメラ8への光学系に、他方が補償光学のための波面センサー7への光学系に、それぞれ分岐する。以下、ビームスプリッターBS2で分岐し、撮像カメラ8が配置された光路を「撮像観察光路」、波線センサー7が配置された光路を「波面測定光路」という。なお、「撮像観察光路」及び「波面測定光路」の配置は、相互に入れ替えてもよく、その場合でも同様に機能し、効果が得られる。

【0036】
[フィルターF2]
フィルターF2は、蛍光用フィルターであり、試料1から発せられた蛍光のうち、観察対象100に由来する観察に必要な波長の光のみを透過し、不要成分を遮断する。

【0037】
[レンズL5]
レンズL5は、結像レンズであり、撮像カメラ8の撮像面上に、試料1の内部にある観察対象100の像を結像する。

【0038】
[撮像カメラ8]
撮像カメラ8は、観察対象100を撮像するものであり、例えばCCD(Charge-Coupled Device)カメラなどを用いることができる。撮像カメラ8の撮像面上に生じた像は、電気信号に変換されコンピュータ10の画像記憶部11に出力される。

【0039】
[フィルターF3]
フィルターF3は、蛍光用フィルターであり、試料1から発せられた光のうち、参照物101から発せられた蛍光成分のみを透過し、不要成分を除去する。

【0040】
[リレーレンズL3,L4]
リレーレンズL3,L4は、凸レンズなどの正の屈折力をもつレンズであり、波面位相変調器6を入射面、波面センサー7の開口を出射面として結像共役を構成する。そして、これらリレーレンズL3,L4は、波面位相変調器6からの出射光と波面センサー7への入射光との間で波面の曲率に差が出ないように、図3に示すような4f光学系に基づいた拡大縮小リレー光学系の配置とすることが好ましい。

【0041】
[視野絞りST]
視野絞りSTは、参照物101から発せられた光のうち、開口穴を透過する光のみを透過し、その他の余分な光は遮断する。視野絞りSTの開口穴の大きさは、絞り機構により調整が可能となっている。この視野絞りSTは、焦点のずれた光に対しても、開口穴とビームの集光スポットの不整合により、透過光量を低減する効果もある。視野絞りSTが配置される位置は、リレーレンズL3とリレーレンズL4との間の焦点面又はその近傍であり、例えばリレーレンズL3,L4に図3に示す拡大縮小リレー光学系を用いた場合、フーリエ回折面DPに相当する位置又はその前後の位置が好ましい。

【0042】
[ビームスプリッターBS3]
ビームスプリッターBS3は、ハーフミラーの1種であり、波面測定光路に入射した光の一部を、波面センサー7の手前で、瞳カメラ9に向けて分岐させる。

【0043】
[波面センサー7]
波面センサー7は、試料1内の参照物101から発せられ、揺らぎ層102を通過して揺らぎを受けた光波面について、波面位相変調器6でも補正し切れずに残った波面残差成分を検出する。波面センサー7の方式は特に限定されるものではないが、例えばシャックハルトマン方式のものを使用することができる。シャックハルトマン型波面センサーは、入射開口部分にレンズレットアレイが配置されており、更に、その後方に生ずる小開口ごとの集光スポットの横変位を用いて入射波面の傾斜を検出をするために、受光用のCCDカメラを備えている。

【0044】
本実施形態の顕微鏡装置の補償光学系は、波面センサー7への入射光の位相傾斜が任意の設定値になるように制御することができ、具体的には理想値、例えば0となるように制御される。そして、波面センサー7がシャックハルトマン型波面センサーである場合、レンズレットアレイの開口面は、補償光学系における波面測定面になる。

【0045】
[コンピュータ10]
コンピュータ10には、撮像カメラ8や瞳カメラ9で取得した画像を記憶する画像記憶部11と、波面センサー7からの信号に基づいて波面位相変調器6などを制御する補償光学制御部12が設けられている。補償光学制御部12は、波面センサー7から出力された波面残差の測定信号を、補償光学制御用プログラムによって波面位相変調器6の制御電圧補正値に変換し、その結果を波面位相変調器6に出力し、波面補正面で波面位相の誤差の補償を行う。

【0046】
本実施形態の顕微鏡装置では、入射波面と、波面センサー7と、波面位相変調器6と、コンピュータ10の補償光学制御部12との間の閉ループ制御により、入射した波面揺らぎに対して負帰還がかかり、光波面の位相歪みは漸近的に理想値、例えば0に収束する。

【0047】
[レンズL6]
レンズL6は、瞳カメラ9用の結像レンズであり、図1に示すように、ビームスプリッターBS3で分岐された光の中から、波面センサー7における揺らぎ測定面の鏡像13を、瞳カメラ9の撮像面上に結像させるものである。このレンズL6は、位置を変更可能とし、ビームスプリッターBS3側の焦点距離を無限遠に調整する(レンズL6´の位置に移動する)ことで、瞳カメラ9の撮像面上に参照物101の像を結像させることもできる。

【0048】
[瞳カメラ9]
瞳カメラ9は、波面センサー7における揺らぎ測定面の像や参照物101の像を撮像するものであり、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラなどを用いることができる。瞳カメラ9の撮像面上に生じた像は、電気信号に変換されコンピュータ10の画像記憶部11に出力される。

【0049】
[動作]
次に、本実施形態の顕微鏡装置の動作について、図2に示す試料1を観察する場合を例にして説明する。

【0050】
<顕微鏡操作の概略>
本実施形態の顕微鏡装置では、予め、可変形状鏡を平坦にした上で、波面補正無しでも通常の顕微鏡としての像が得られるように、レンズやカメラなどの光学部品を調整しておく。そして、試料1を試料ステージ2上に載置し、撮像カメラ8で観察対象100を観察しながら試料ステージ2を動かし、像が最良となるようにフォーカスと横位置を調整する。撮像カメラ8で撮像した画像は、コンピュータ10に記憶される。そして、必要に応じてコンピュータ10から読みだして、画像処理や分析を行う。

【0051】
<補償光学による像補正の概略>
補償光学により、像の補正を行う場合は、先ず、瞳カメラ9で取得した参照物101の像を確認しながら、視野絞りSTの大きさ及び位置の調整、並びに試料ステージ2を移動させることにより試料1の位置を調整し、波面センサー7に光が適切に入射するようにする。なお、視野絞りSTの調整や試料1の位置調整は、位置調整制御部(図示せず)によって各調整機構を制御することで、自動で行うことができる。

【0052】
その状態で、コンピュータ10の補償光学制御部12(補償光学制御プログラム)を動作させて、波面センサー7での波面位相の歪みデータを取得し、補正値を波面位相変調器6に負帰還して、鏡面形状の制御値を更新し、この動作を繰り返す。そして、このフィードバック制御が適正に行われれば、波面センサー7で検出される波面残差は理想値、例えば0に収束し、撮像カメラ8上における像の解像度が向上し、鮮明な像が得られる。

【0053】
<揺らぎ補正面の結像共役面の位置調整>
図4は図1に示す顕微鏡装置の補償光学系の構成例を示す図であり、図5はその揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構の動作を示す図である。なお、図4及び図5において、点線は観察対象又は参照物からの光を示し、実線は揺らぎ補正面に収束する光を示し、fo及びf1~f4は、それぞれ対物レンズLo及びレンズL1~L4の焦点距離を示す。また、図5において、P1は観察対象又は参照物の位置を、P2は揺らぎ補正面の結像共役面の位置を、それぞれ示す。更に、図4では、揺らぎ補正面の結像共役面の位置調整に関係する要素のみを抜粋し、等価になるように示しており、位置調整に直接関係のない要素は省略している。

【0054】
先ず、対物レンズLoとリレーレンズL1の光学的な距離を変更することにより、揺らぎ補正面の結像共役位置を調整する方法について説明する。図4に実線で示すように、波面位相変調器6の揺らぎ補正面(素子面)に入射する光線を逆進すると、試料1の内部で収束し、対物レンズLoからlc’の位置に、この補償光学系における揺らぎ補正面の像が生じ、結像共役面となる。

【0055】
ここで、図5Aに示すように、揺らぎ補正面の結像共役面の位置調整前は、対物レンズLoの開口瞳と揺らぎ補正面P2が結像共役となっているため、lc’=0である。そして、揺らぎ補正面の結像面P2と対物レンズLoとの距離lc’は、対物レンズLoとリレーレンズL1との間の光路長lcを調整することにより、変化させることができる。この変化を利用することで、補償光学系の揺らぎ補正面の結像面P2の位置を、試料1の内部の揺らぎ層102の位置と共役にすることが可能となる。

【0056】
図5Bに示すように、位置調整後は、揺らぎ補正面の結像面P2と対物レンズLoとの距離lc’が増し、揺らぎ補正面の結像位置が移動しているが、点線で示す観察対象又は参照物からの出射光線は、調整前後で不変に保たれる。即ち、揺らぎ補正面の結像位置調整により、対物レンズLoとリレーレンズL1との間の光路長lcは変化するが、リレーレンズL1とリレーレンズL2との間の光路長(=f1+f2)及びリレーレンズL2と波面位相変調器6との間の光路長(=f2)は変化せず、観察対象又は参照物からの像の焦点は固定される。

【0057】
ここで、光路長lcの調整は、対物レンズLoの位置を試料ステージ2と共に移動させる他に、ミラーM2,M3により構成される折り返し光学系を共役スライドステージ4上に配置し、光軸に平行な方向に動かすことによっても実現することができる。その場合、顕微鏡の操作は、瞳カメラ9で取得される揺らぎ測定面における像の焦点や、波面位相の収束発散による明暗の変化、波面センサー7からの波面信号を確認しながら、共役スライドステージ4を操作し、揺らぎ補正面の結像共役面の位置を試料1の揺らぎ層102に合致させ、補償光学系の効果が良好となるように調整する。この共役スライドステージ4の調整は、位置調整制御部(図示せず)によって結像共役位置調整機構を制御することで、自動で行うことができる。

【0058】
瞳カメラ9の像は、揺らぎ補正面の結像共役面と試料内部のゆらぎ層が近くなったところで、波面位相に起因したコントラストが減少する。そこで、これを利用し、揺らぎ補正面の試料内部における結像共役の位置を、ゆらぎ層に対して最良となるように調整することもできる。この調整も、位置調整制御部(図示せず)によって結像共役位置調整機構を制御することで、自動で行うことができる。

【0059】
このとき、図5A及びBに点線で示す観察対象又は参照物からの光は、位置調整前後のいずれにおいても、対物レンズLoとリレーレンズL1間において平行光となるため、光路長lcを調整しても観察対象物や参照物の焦点には影響が出ない。即ち、共役スライドステージ4を動かしても、図4に示す視野絞りSTの通過状態と、波面センサー7への入射状態は保持され、更に、参照物が観察対象と同じ位置にある場合には、撮像カメラ8及び瞳カメラ9上の観察対象像の焦点と倍率が保持される。これにより、揺らぎ補正面の試料1内部における結像共役位置を、自在に調整することが可能となる。

【0060】
前述した対物レンズLoとリレーレンズL1の光学的な距離(光路長lc)を調整する方法によって、試料1の内部における揺らぎ補正面の結像共役面の位置を、容易に調整することが可能である。そして、本実施形態の顕微鏡装置のように、揺らぎ補正面の結像共役面の位置を揺らぎ層102に合致させることにより、波面補正の精度を向上させることができると共に、像カメラ8で取得する観察対象100の像の補正領域の視野拡大を図ることができる。

【0061】
<焦点調整>
補償光学は、参照物101の像を鮮鋭化させるように働くため、例えば図2に示すように参照物101が観察対象100から離れている場合には、観察対象100に焦点を調整する方法が、別途必要になる。この観察対象100への焦点の調整は、以下の方法で行うことができる。

【0062】
図6A~Cは補償光学系の調整によって像焦点を調整する方法を示す図である。なお、図6A~Cにおいては、前述した第1の実施形態の顕微鏡装置の構成要素と同じものには、同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。また、図6A~Cは像焦点の調整に関係する要素のみを抜粋して示し、像焦点の調整に直接関係しない要素は省略している。

【0063】
<撮像カメラ8による焦点調整>
図6Aに示す焦点調整前では、破線で示した観察対象100からの光の焦点が、撮像カメラ8の結像面からずれた状態となっている。これに対して、レンズL5の焦点又は撮像カメラ8の位置を変更することにより、焦点位置を調整することができる。この場合、レンズL5に焦点調整と連動させた収差補正系を組み込むことも可能である。

【0064】
<波面センサー7とリレーレンズの移動による焦点調整>
補償光学系による波面補正では、波面センサー7の入射面で波面が平面、即ち、波面センサー7への入射光が平行光線となるように、波面位相変調器6の各素子6aが制御される。一方、図6Bに示すように、視野絞りST、リレーレンズL4及び波面センサー7を、個別に又は一体で、光軸に沿って移動させると、波面センサー7への入射光線に変位が生ずる。

【0065】
この状態で、補償光学系を通常通りに動作させることによって、波面センサー7への入射光が平行に戻るように、波面位相変調器6の各素子6aが制御されれば、波面位相変調器6で反射する光線を発散又は収束させることができる。そして、この視野絞りST、リレーレンズL4及び波面センサー7の変位に対応して発生する波面位相変調器6による光線の発散又は収束を利用することにより、撮像観測光路光線の焦点又は撮像カメラ8の焦点を、任意に調整することができる。

【0066】
<撮像観察光路の無限遠焦点化>
同様の手法で、補償光学系からの出射光を無限遠焦点とすることが可能となる。図2に示すように、参照物101が観察対象100から離れている場合、焦点のずれによって、破線で示す観察対象100からの光線と、点線で示す参照物101からの光線の間で、図6Aに示すような収束又は発散の差が生ずる。そこで、図6Bに示すように、視野絞りST、レンズL5及び波面センサー7を光軸に沿って変位させると、点線で示す参照物からの光線は波面センサー7に平行光線として入射し、破線で示す観察対象からの光線は撮像観察光路への出射が平行光線となるように調整することができる。

【0067】
<波面センサー7のオフセットによる曲率の調整>
図6Cに示すように、レンズL4及び波面センサー7の位置を移動させて参照物からの光(点線)の収束発散を吸収する代わりに、波面センサー7からの信号に、光の収束・発散に相当する意図的な偏差、即ちオフセットを与えることで、焦点調整の効果を得ることができる。その際、例えば波面センサー7の測定値に偏差を与え、負帰還制御を介して波面位相変調器6に伝達し、それに基づいて現れる素子6aの変位を調整することで、出射光の焦点をずらすことができる。

【0068】
この手法を用いると、撮像観察光路への出射光を、無限遠焦点に調整することができる。その場合、必要に応じて、焦点の移動に合わせて視野絞りSTを光軸に沿って移動させる。

【0069】
<焦点調整と収差補正>
前述した焦点調整方法により、対物レンズLoから観察対象までの距離が設計値からずれることによって、又は、リレーレンズへの透過状態の変化によって、収差が生ずる場合がある。その際の収差は、例えば、結像レンズL5にレンズのフォーカスに連動した収差補正機構を内蔵したり、波面センサー7及び波面位相変調器6の波面補正値に意図的な偏差を与えて収差分の微調整をかけたり、リレーレンズを工夫したりすることにより、補正することができる。

【0070】
<顕微鏡装置への適用>
図7は、図6Bに示した方法によって、参照物からの光(点線)と観察対象からの光(破線)の間の焦点ずれの補正を行う方法を示す図である。図7に示すように、観察対象からの光(破線)は、ビームスプリッターBS2から撮像カメラ8に向かう撮像観察光路への出射において平行光線、即ち無限遠焦点光学系となる。また、観察対象からの光(破線)は、リレーレンズL2から波面位相変調器6の間でも平行に保持されるため、この部分における光路長の変位は、撮像カメラ8上での観察対象の像の焦点や倍率などの像特性に影響しない。

【0071】
以上詳述したように、本実施形態の顕微鏡装置は、補償光学系により揺らぎ補正面の結像共役面の位置を試料の揺らぎ層に合致するように調整しているため、波面位相収差補正の有効性が最大に保たれる。これにより、補正精度を従来よりも向上させることができ、観察対象と揺らぎ層とが近接している場合や観察対象が微小である場合についても、精度よく補正を行うことができる。また、本実施形態の顕微鏡装置は、従来の系と比較して、揺らぎが大きい場合でも安定性が高く、広範囲の補正を行うことができる。

【0072】
更に、本実施形態の顕微鏡装置は、波面センサーへの入射時の焦点誤差を低減することができるため、生物試料のように、空間的に微細な構造が多く、高空間周波数成分を無視できない場合でも、測定誤差を抑制し補正の効果を改善することができる。その結果、波面補正時の安定性が向上し、動作を安定化させることができる。

【0073】
なお、観察対象及び参照物から発せられる光は、必ずしも蛍光である必要はなく、撮像カメラ8や瞳カメラ9により、観察対象及び参照物から発せられる散乱光や反射光を検出してもよい。また、リレーレンズの代わりに反射鏡を用いてもよい。この構成は、赤外線を利用する際などにおいて、色収差の回避に有効である。

【0074】
更に、本実施形態の顕微鏡装置は、ビームスプリッターBS2の反射側に設けられている光路と透過側に設けられている光路を入れ替えても、同様に動作させることができる。具体的には、図1に示す顕微鏡装置では、直進透過光側の光路に波面センサー7を含む光学系を配置し、反射側の光路に像カメラ8と結像レンズL5を含む光学系を配置しているが、それらを入れ替えて、反射側の光路に波面センサー7を含む光学系を配置し、直進透過光側の光路に像カメラ8と結像レンズL5を含む光学系を配置してもよい。

【0075】
(第1の実施形態の第1変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第1変形例に係る顕微鏡装置について説明する。図8は本変形例の顕微鏡装置の補償光学系の構成例を示す図であり、図9はその揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構の動作を示す図である。なお、図8においては、前述した第1の実施形態の顕微鏡装置の構成要素と同じものには、同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。また、図8は、揺らぎ補正面の結像共役面の位置調整に関係する要素のみを抜粋し、等価になるように示しており、位置調整に直接関係のない要素は省略している。

【0076】
揺らぎ補正面の結像面P2と対物レンズLoとの距離lc’は、図8に示す対物レンズLoとリレーレンズL1との間の光路長lcの調整だけでなく、リレーレンズL2と波面位相変調器6との間の光路長lcの調整でも、変化させることができる。そこで、これらを併用することにより、より広い範囲で、揺らぎ補正面の結像共役位置を調整することが可能となる。

【0077】
[補償光学系の構成]
そこで、本変形例の顕微鏡装置では、図8に示すように、リレーレンズL2と波面位相変調器6との間の光路に、光路長調整機構が設けられている。この光路長調整機構の構成は特に限定されるものではないが、例えば、図1に示すミラーM1~M4と同様に、光軸に沿って移動可能なスライドステージ上に2枚のミラーM5,M6を90°の角度で配置した構成とすることができる。

【0078】
[動作]
本変形例の顕微鏡装置では、対物レンズLoとリレーレンズL1との間の光路長lcやリレーレンズL2と波面位相変調器6との間の光路長lcが短くなると、揺らぎ補正面の結像面P2と対物レンズLoとの距離lc’が伸びる。即ち、揺らぎ補正面の結像面P2と対物レンズLoとの距離lc’を調整するには、光路長lc及び光路長lcのいずれか一方又は両方を、伸縮変化させればよい。

【0079】
図9Aに示すように、揺らぎ補正面の結像共役面の位置調整前は、対物レンズLoの開口瞳と揺らぎ補正面P2が結像共役となっているため、lc’=0である。そして、光路長lc及び光路長lcを収縮変化させることにより、揺らぎ補正面の結像共役面の位置を調整すると、図9Bに示すように、揺らぎ補正面の結像面P2と対物レンズLoとの距離lc’が増す。

【0080】
このとき、対物レンズLoとリレーレンズL1との間の光路長lc及びリレーレンズL2と波面位相変調器6との間の光路長lcは変化するが、リレーレンズL1とリレーレンズL2との間の光路長(=f1+f2)は変化せず、固定される。また、図9A及び図9Bに示すように、観察対象又は参照物からの光(点線)は、対物レンズLoとリレーレンズL1との間と同様に、リレーレンズL2と波面位相変調器6との間でも、位置調整前後のいずれにおいても平行光となる。

【0081】
これにより、揺らぎ補正面の結像面P2の位置は移動するが、出射光線は調整前後で不変に保たれる。即ち、光路長lcを調整しても、観察対象又は参照物からの光の波面センサー7での平面性に影響を及ぼさない。また、参照物が観察対象と同じ位置にある場合は、撮像カメラ8上の観察対象の像の焦点と倍率にも影響しない。

【0082】
本変形例の顕微鏡装置は、光路長lcの調整により、揺らぎ補正面の結像面P2と対物レンズLoとの距離lc’が変化するため、補償光学系の揺らぎ補正面の結像面P2の位置を試料1の内部の揺らぎの層102に合致させて、波面補正の精度向上及び視野の拡大を図ることができる。なお、本変形例における上記以外の構成、動作及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。

【0083】
(第1の実施形態の第2変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第2変形例の顕微鏡装置について説明する。図10は本変形例の顕微鏡装置の補償光学系の構成例を示す図である。なお、図10においては、前述した第1の実施形態の第1変形例の顕微鏡装置の構成要素と同じものには、同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。また、図10は、揺らぎ補正面の結像共役面の位置調整に関係する要素のみを抜粋し、等価になるように示しており、位置調整に直接関係のない要素は省略している。

【0084】
対物レンズLoを観察対象に対して無限遠焦点で用いた場合、参照物の位置が観察対象から離れてくると、参照物からの光は焦点からずれて、対物レンズLoの出射側で平行光線ではなくなる。その結果、図7において点線で示す参照物からの光は、対物レンズLoとリレーレンズL1との間及びリレーレンズL2から波面位相変調器6との間の両方で、平行光線ではなくなる。これにより、光路長lc及び光路長lcの調整の自在性に制約が生ずる。

【0085】
そこで、本変形例の顕微鏡装置では、図10に示すように、リレーレンズL1とリレーレンズL2との間の光路長lrを可変とし、任意に調整可能としている。これにより、リレーレンズL2から波面位相変調器6までの間において、参照物からの光(点線)を平行光線にし、その部分の光路長lcの変位を参照物の光線の収束とは独立にして自在性を与え、揺らぎ補正面と揺らぎ層の結像共役の調整に用いる。

【0086】
[動作]
次に、本変形例の顕微鏡装置の動作について説明する。図11は光路長lrを調整することにより光路長lcを独立に変更可能にする方法を示す図である。本変形例の顕微鏡装置においては、先ず、リレーレンズL1とリレーレンズL2との間の光路長lrを焦点距離の和(f1+f2)に、リレーレンズL2と波面位相変調器6との間の光路長lcを焦点距離f2に保った状態で、対物レンズLoの作動距離にある焦点に参照物を置き、補償光学を動作させる。その状態で、揺らぎ層と揺らぎ補正面との結像共役位置の調整を行い、補償光学の効果が最も大きくなるような光路長lcを探し出す。この光路長lcの決定が、参照物と揺らぎ層との間隔の粗調整となる。

【0087】
その後、コンピュータ10の制御部12による補償光学の負帰還制御を一旦停止し、試料ステージ2を調整して観察対象を対物レンズLoの作動距離にある焦点に合わせる。そこで、参照物から波面センサー7への入射光波面の平面からのずれが最も小さくなるように、即ち、入射光線が最も垂直になるように、光路長lrを調整する。この調整には、確認のために瞳カメラ9の映像を用いることもできる。

【0088】
次に、補償光学を動作させ、その状態で観察対象に焦点を合わせる。なお、焦点の調整方法は第1の実施形態と同様であるが、図10に示す構成の場合、例えば波面センサー7、リレーレンズL4及び視野絞りSTを、光軸にそって変位させる方法を用いることができる。この場合、ビームスプリッターBS2からレンズL5への撮像観察光路への出射光は平行光線、即ち、無限遠焦点となる。

【0089】
図11に示すように、前述した揺らぎ層と揺らぎ補正面の結像共役位置の粗調整において、光路長lcの長さを定めた段階では、リレーレンズL1とリレーレンズL2との間では、実線で示す試料1の揺らぎ層からの光線は平行となっている。このため、光路長lrの調整操作の間には、揺らぎ層と揺らぎ補正面との結像共役には影響が生じない。従って、光路長lcの調整について、自在性を確保することができる。次に、光路長lrを調整した後、リレーレンズL2から波面位相変調器6までの間で、参照物からの光線は平行となるため、光路長lcの調整は参照物の波面センサー6への入射に影響せず、自在性を確保することができる。

【0090】
前述したように、本変形例の顕微鏡装置では、実線で示す揺らぎ層からの光線、破線で示す観察対象からの光線、点線で示す参照物からの光線について、それぞれ、光路上での光線の平行性を独立して設定することで、焦点調整の独立性を実現することが可能になる。これにより、観察対象からの光線の対物レンズへの入射の作動距離を、無限遠方などの設計値通りに保つことで、収差の低減を図ることができる。

【0091】
(第1の実施形態の第3変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第3変形例の顕微鏡装置について説明する。前述した第1の実施形態及びその第1変形例に係る顕微鏡装置の補償光学系は、実現が容易である。また、第1の実施形態の第2変形例に係る顕微鏡装置は、補償光学系の揺らぎ補正層を試料の揺らぎ層に結像共役に調整した上で、観察対象及び参照物の位置が異なる場合に関しても、独立に焦点の調整が可能となる。

【0092】
しかしながら、これら変形例の顕微鏡装置では複数のミラーが必要になり、補償光学系において光路長の調整を行う光学系にミラーを多用すると、光の伝達効率が低下するおそれがある。そこで、本変形例の顕微鏡装置では、光の伝達効率を向上させるために、ミラーの数を少数にしている。図12は本変形例の顕微鏡装置における光路長調整方法を示す図であり、図13~図17はその具体的構成例を示す図である。なお、図12~図17においては、前述した第1の実施形態の第1変形例の顕微鏡装置の構成要素と同じものには、同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。

【0093】
図12に示すように、本変形例の顕微鏡装置では、リレーレンズL1,L2の位置を光軸に沿って可変にする。これにより、対物レンズLoからリレーレンズL1までの光路長pl、リレーレンズL1からリレーレンズL2までの光路長pl、リレーレンズL2から波面位相変調器6までの光路長plを、それぞれ調整することが可能になる。更に、本変形例の顕微鏡装置では、対物レンズLoから波面位相変調器6までの全体の光路長plを調整するための機構を加えることにより、全ての光路長を独立して調整することが可能となる。

【0094】
また更に、それら光路長の調整に工夫を加えることで、光路長を調整するために必要なミラーなどの光学素子の数を減らし、簡素で効率の高い光学系を実現することができる。以下、この調整方法を実現する具体的構成例について説明する。

【0095】
[レンズの移動と折り返しミラースライドを用いた例]
図13に示す系では、リレーレンズL1,L2を移動可能にすると共に、折り返しミラーM1,M2が設置されたスライドステージ4が、入射光及び出射光の光軸と平行に移動可能となっている。これにより、図12に示す光路長pl、光路長pl及び光路長plの全てが調整可能となる。

【0096】
[対物レンズと試料ステージを用いた例]
図14に示す系では、リレーレンズL1,L2を移動可能にし、更に、対物レンズLo及び試料ステージ2を載置したステージ22を、光軸に沿って移動可能にしている。これにより、自由度が加わり、光路長pl、光路長pl及び光路長plの全てが調整可能となる。

【0097】
[共役調整用ステージを簡略化した例]
図15に示す系では、対物レンズLoの物体側フォーカスの調整は、試料1を試料ステージ2に載置して移動可能にすることで行う。一方、リレーレンズL1,L2及びステージ4を載置したステージ24も、光軸に平行方向に移動可能とする。ステージ24を移動させることは、光路長plと光路長plとを同時に伸縮させることになり、簡素な系で揺らぎ補正面の共役の効果を大きくすることができる。この構成には、重要な光路長に調整手段を確保しつつ、系を簡素化するという実用上の利点がある。

【0098】
この系では、図14に示す系のように、対物レンズLo及び試料ステージ2が載置されたステージ22を、光軸と平行方向に移動可能とし、光路長plを独立に調整できるようにしてもよい。更に、ステージ4を移動可能とし、光路長plを独立に調整できるようにしてもよい。

【0099】
[リレーレンズの代わりに凹面鏡を用いた例]
図16に示す系では、リレーレンズを構成するリレーレンズL1及びリレーレンズL2の代わりに凹面鏡CM1及び凹面鏡CM2を用いている。これらの凹面鏡CM1,CM2はスライドステージ4上に配置されており、このステージ4を入射及び出射の光軸に沿って移動させることができる。これによって、光路長plと光路長plを同時に伸縮させることができるため、簡素な系で揺らぎ補正面の共役位置の調整の効果を大きくすることが可能となる。

【0100】
また、対物レンズLo及び試料ステージ2が載置されたステージ22と、凹面鏡CM1が載置されたスライドステージ21は、それぞれスライドステージ4の移動方向とは垂直に可動にする。これによって、光路長plも独立に調整が可能になる。この系は、鏡面の使用により色収差を避けられると共に、光の収束と光路の折り曲げを同時に行うため、光の効率を向上させる効果もある。なお、この系においても、対物レンズLo及び試料ステージ2が載置されたステージ22を光軸と平行方向に移動可能とすることで、光路長plを独立に調整可能としてもよい。

【0101】
[組み合わせ移動回転ミラーを用いた例]
図17に示す系では、リレーレンズL1,L2の位置を可変とすることで、光路長pl,plを調整可能にすると共に、ミラーM1及びミラーM2の位置と角度を変えることで、更に光路長plを独立に設定することが可能になっている。この系は、リレーレンズL1からミラーM1への入射光と、ミラーM2からリレーレンズL2への出射光の光軸が平行でない場合にも、対応することが可能である。同様又は類似の光路長の独立な調整機能は、リレーレンズL1、ミラーM1、ミラーM2、リレーレンズL2となっている配列順序を、ミラーM1、リレーレンズL1、リレーレンズL2、ミラーM2などのように、順番を入れ替えた配置によっても実現することができる。

【0102】
(第1の実施形態の第4変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第4変形例に係る顕微鏡装置について説明する。揺らぎ補正面を揺らぎ層に合わせる結像共役位置調整機構は、有限の焦点距離を持つ対物レンズを用いた場合でも、実現することが可能である。図18及び図19は本変形例の顕微鏡装置における揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構を示す図であり、図20はその具体的構成例を示す図である。

【0103】
[1枚のリレーレンズを用いた系]
対物レンズLoから波面位相変調器6までに1枚のリレーレンズを用いた構成の場合、図12に示す対物レンズLoからリレーレンズL1までの光路長plを0にした状況に類似している。図18に示す調整機構では、光路長plの調整によって、点線で示す参照物からの光線、又は破線で示す観察対象からの光線を、リレーレンズL2と波面位相変調器6との間で平行光線にする。

【0104】
その上で、光路長plを可変にすれば、観察対象又は参照物の焦点の位置や倍率とは別に、実線で示す試料内部に生じる揺らぎ補正面の像の位置を変位させることができる。これにより、揺らぎ層に対する揺らぎ補正面の結像共役位置の調整を、自在性高く行うことができる。これは、前述した無限遠焦点の対物レンズを使った場合と類似の調整となる。

【0105】
一方、図18に実線で示すように、試料内部の観察対象よりも対物レンズLo側に、対物レンズLoからの出射光を無限遠焦点の平行光線にする面が存在する。そこで、本変形例の顕微鏡装置では、同じく図18に実線で示すように、波面位相変調器6をその面と共役に配置する。これにより、実線で示す光線は、対物レンズLoからリレーレンズL2の間で平行となるため、光路長plの調整の影響を受けなくなる。対物レンズLoとリレーレンズL2との間の光路長plの調整は、観察対象と参照物が異なる場合の焦点の調整に用いることが可能であり、自在性の高い調整を実現することができる。

【0106】
[2枚のリレーレンズを用いた系]
図19は2枚又は2群のリレーレンズを用いた系であり、リレーレンズL1の負又は正の屈折力と光路長plの調整により、実線で示す揺らぎ層からの光線をリレーレンズL1からリレーレンズL2の間で平行となるようにする。これにより、揺らぎ層と揺らぎ補正層との間の共役関係には影響を与えずに光路長plを調整し、参照物からの光線又は観察対象からの光線の平行性や焦点を調整することができる。

【0107】
そして、これを利用して、参照物からの光線又は観察対象からの光線を、リレーレンズL2から波面位相変調器6までの間で平行に調整することにより、光路長plの調整の影響を避け、揺らぎ層と揺らぎ補正面の間の結像共役の調整を、自在性の高い状態で行うことができる。これは、前述した無限遠焦点の対物レンズを使った場合と同様の調整となる。

【0108】
[光学系の構成例]
前述した有限遠焦点を持つ設計の対物レンズ又は対物レンズ群を用いた共役調整光学系は、無限遠焦点を持つ対物レンズと同様に、撮像光学系及び波面センサーとの光学系に組み合わせて、補償光学系を構成することができる。例えば、図18に示す1枚のリレーレンズを用いた系は、図20に示すような構成となる。また、2枚のリレーレンズを用いた系の場合は、図20に示す対物レンズLo及びリレーレンズL2の代わりに、図19に示す対物レンズLo及びリレーレンズL1,L2を用いる系に置き換えればよい。

【0109】
(第1の実施形態の第5変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第5変形例の顕微鏡装置について説明する。波面位相変調器6からその出射側のレンズまでの光路長と、波面センサー7とその手前のレンズ間までの光路の長さは、リレーレンズL3及びリレーレンズL4の焦点距離を変更せずに調整することができる。

【0110】
図21A及び図21Bは本変形例の顕微鏡装置の補償光学系の構成例を示す図である。波面位相変調器6からその出射側のリレーレンズL3までの光路長をle、波面センサー7の検出面から手前のリレーレンズL4までの光路長をlwとしている。そして、これらの光路長le,lwの調整方法を以下に示す。

【0111】
図21Aに示す補償光学系は、光路長leをリレーレンズL3の焦点距離f3とし、光路長lwをリレーレンズL4の焦点距離f4にした標準的な配置である。一方、図21Bに示す補償光学系では、光路長le,lwを調整し、それぞれ光路長le’,lw’とした場合であり、これら光路長le及び光路長lwの調整に対して、点線で示す波面位相変調器6及び波面センサー7における平行光線成分は不変に保たれるため、光線と垂直となる波面の平面性には影響が出ない。

【0112】
同時に、実線で示すように、波面位相変調器6及び波面センサー7を結像共役にすることも可能である。なお、図21Bでは、le’>f3かつlw’<f4にしているが、調整の方向を逆にすれば、le’<f3かつlw’>f4でも同様の調整が可能である。これにより、リレーレンズL3,L4の焦点距離の変更なしに、光路le,lwの長さを調整することができる。

【0113】
本変形例の顕微鏡装置では、例えば、光路分岐用ミラーやフィルターなどを設置するために、波面位相変調器6その後方のリレーレンズL3の間の平行光路部分を長く取りたい場合、レンズの交換なしに該当部分の平行光路で適切な長さを確保することができる。その際、レンズの交換が不要であるため、調整が容易となる。また、調整に際して、平行光線部分のビームの直径は、レンズの焦点距離f3と焦点距離f4との比で一定となることから、波面位相変調器6の素子面と波面センサー7の素子面の間での倍率は一定に保たれる。前述したように、この調整方法は、補償光学系の動作に対して自在性を有する。

【0114】
更に、機材や部品の配置に必要な光路長le及び光路長lwの長さが事前に知られている場合、それらを実現しうる範囲で、リレーレンズL3,L4として、その焦点距離f3,f4が最小となるものを用いることにより、光学系の最小化を実現することができる。

【0115】
(第1の実施形態の第6変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第6変形例に係る顕微鏡装置について説明する。図22及び図23は本変形例の顕微鏡装置における揺らぎ補正面の結像共役位置調整機構の構成例を示す図である。図22及び図23に示すように、本変形例の顕微鏡装置の補償光学系では、波面位相変調器を複数備えており、それぞれの波面位相変調器が試料1内において異なる位置で結像共役となっている。これにより、揺らぎ層が複数ある場合や揺らぎ層に厚みのある場合にも、対応することが可能となる。

【0116】
例えば、図22に示す補償光学系では、2つの波面位相変調器16a,16bを、リレーレンズL1a,L2a,L1b,L2bと共に光路上に配置し、試料1の深さ方向において異なる位置で結像共役となるように調整する。これにより、揺らぎ層が複数ある場合や揺らぎ層に厚みのある場合の補正に対応することができる。波面位相変調器16aによる揺らぎ補正面の結像共役像と対物レンズLoとの距離lca’は、図22に示す光路長lc1aと光路長lc2aを調整することにより変更可能である。

【0117】
また、波面位相変調器16bによる揺らぎ補正面の結像共役像と対物レンズLoとの距離lcb’は、光路長lc1aと光路長lc2aに加えて、光路長lc1bと光路長lc2bを変化させることで調整することが可能である。この補償光学系では、波面位相変調器が1つの場合と同様に、点線で示す参照物又は観察対象の光線が、対物レンズLoとリレーレンズL1aとの間、リレーレンズL2aと波面位相変調器16aとの間、波面位相変調器16aとリレーレンズL1bとの間、リレーレンズL2bと波面位相変調器16bとの間において平行光線になるため、揺らぎ補正面の結像共役像と対物レンズLoとの距離lca’,lcb’を、自在に調整可能となる。更に、それらに加えて、波面位相変調器が1つの場合同様に、リレーレンズL1aとリレーレンズL2aとの光路長lra及びリレーレンズL1bとリレーレンズL2bとの光路長lrbを調整することにより、出射光の無限遠焦点化も可能になる。

【0118】
一方、図23に示すように、複数の波面位相変調器を用いた補償光学系において、波面位相変調器の間にリレーレンズを配置しない構成とすることもできる。波面位相変調器16aによる揺らぎ補正面の結像共役像と対物レンズLoとの距離lca’は、光路長lc1aと光路長lc2aを変更することで調整可能である。波面位相変調器16bによる揺らぎ補正面の結像共役像と対物レンズLoとの距離lcb’は、光路長lc1aと光路長lc2aに加えて、光路長lcabを変化させることで調整可能である。

【0119】
また、波面位相変調器が1つの場合と同様に、点線示す参照物又は観察対象の光線がこれらの光路上で平行光線になるため、揺らぎ補正面の結像共役像と対物レンズLoとの距離lca’,lcb’は、独自にかつ自在に調整することが可能となる。更に、それらに加えて、波面位相変調器が1つの場合と同様に、リレーレンズL1とリレーレンズL2との光路長lrを調整することにより、出射光の無限遠焦点化も可能になる。

【0120】
なお、波面の補正に関しては、後方に置かれた波面センサー7による波面残差の測定値を、例えばコンピュータ10の制御部12により、波面位相変調器16a,16bに負帰還を行い、残差が0へ向かって減少するように補正を行う。また、波面残差を測定する際は、波面センサー7の信号が、波面位相変調器16a,16bの結像共役面での波面揺らぎを含むように、必要に応じて光学系を移動させながら測定を行う。その際移動する光学系は、波面センサー7の他、リレーレンズL3,L4、視野絞りSTを含んでいてもよい。これら一連の波面残差測定値に基づく計算から、波面変調器16a,16bに帰還する最適な制御値を求め、制御動作を行う。

【0121】
(第1の実施形態の第7変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第7変形例に係る顕微鏡装置について説明する。図24は本変形例の顕微鏡装置の補償光学系の概要を示す図であり、図25は図24に示す補償光学系において複数の波面センサーを用いる場合の構成を示す図である。単一の参照物を用いた場合に、参照物を中心にした補正可能領域のみに視野の大きさが限られるため、本変形体の顕微鏡装置では、複数の参照物を波面測定に用いて補正可能領域を接続し、視野の拡大を図る。

【0122】
図24に示すように、本変形例の顕微鏡装置では、異なる位置にある複数の参照物RefA,RefB,RefCを、それぞれ波面センサー7で捉え、それぞれに対応した有効開口上での波面揺らぎ値を測定する。そして、それらを誤差信号として波面位相変調器6を駆動して補正を行う。このように、参照物ごとにその有効開口上で得られている誤差信号を相互に接続し、有効開口全体を補正領域として補正を行うことにより、視野を拡大することができる。

【0123】
本変形例の顕微鏡装置において、参照物を切り替える場合は、視野絞りSTを移動させる、波面センサー7を移動させる、励起光源の収束スポットを動かして参照物の励起される位置を移動させる、波面センサー7の像を画像処理して参照物の一部分の情報を切り出すなどの方法がある。また、図25に示すように、切り替えを行う代わりに、複数の参照物RefA,RefB,RefCに対応した複数の波面センサー17a~17cを用意し、リレー光学系(レンズL4a~L4c,ミラーM1a~M1d)を挿入することにより、参照物との位置調整を行うことも可能である。

【0124】
更に、複数の波面位相変調器を用いた場合に、この方法を適用して組み合わせれば、揺らぎ層に厚みがある場合でも視野の拡張を図ることができる。この場合、必要に応じて波面センサー7を移動させるか、複数の波面センサーを用いて波面計測を行えばよい。

【0125】
(第1の実施形態の第8変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第8変形例に係る顕微鏡装置について説明する。図26はリレー光学系のレンズの変位による波面傾斜成分の補正方法を示す図であり、図27はリレー光学系のレンズの変位による波面曲率成分の補正方法を示す図である。なお、図26及び図27に示す点線は入射波面が傾斜又は曲率を持たない場合に対する光線とレンズの位置を示し、実線は入射波面が傾斜又は曲率を持つ場合を示す。

【0126】
[波面傾斜成分の補正]
波面傾斜成分の補正については、例えば、公知のティップティルトミラーや波面位相変調器そのものをティップティルトマウントに載せる方法を用いることができる。その他に、リレーレンズを光軸に対して垂直に変位させる手法(横変位)を用いることもできる。例えば、図26に示すように、入射波面の傾斜に対してリレーレンズL1を一点鎖線で示すように光軸に対して横変位させて波面の傾斜の補正を行う際に、更にリレーレンズL2で逆の変位を与えて光線の振れを相殺することで、出射光線の位置を一定に保つことができる。

【0127】
[波面曲率成分の補正]
波面の曲率成分の補正については、リレーレンズL1とリレーレンズL2との間の距離を変化させることにより、調整することができる。例えば、図27に示すように、リレーレンズL1を一点鎖線で示すように光軸に沿って変位させることで、リレーレンズL1とリレーレンズL2との間の距離を調整する。

【0128】
前述した波面傾斜の補正と焦点の補正は、波面センサー7からの誤差信号を減少させるように、波面位相変調器6と共に制御することにより、補正が可能な波面歪の最大値を拡大することができる。

【0129】
(第1の実施形態の第9変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第9変形例として、計算値の利用と調整手順の簡素化について説明する。揺らぎ層と揺らぎ補正面が結像共役となるように調整する光路長lc又は光路長lc1,lc2参照物の位置によって定まる光路長lr、像の焦点が合うように定められる波面センサー7、リレーレンズL4及び視野絞りSTの位置、波面センサー7や波面位相変調器6への偏差やオフセット値などの各種設定値は、光学系のレンズの焦点距離、揺らぎ層の位置及び参照物の位置などの既定値により決定される。

【0130】
これらの値は、光学設計に基づく計算やシミュレーションによって、これまで述べた調整操作によるものと同等の設定値を、事前に算出することが可能である。具体的には、調整操作又は計算によって、前述した各設定値を予め求めておき、それらの値を使用するレンズ、参照物の位置及び揺らぎ層の位置に対応づけて記録し、観察時の状況に応じて実際に使用する系に設定を行う。これにより、調整時の操作を容易にすることができ、更には、調整を自動化することも可能となる。

【0131】
(第1の実施形態の第10変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第10変形例として、Zスタック画像の取得への応用について説明する。一般に、顕微鏡の焦点を試料の深さ方向に特定の間隔でずらしながら撮影した断層画像群を、Zスタック画像という。このZスタック画像を取得するために焦点を移動させる際にも、前述した調整方法を適用すれば、補償光学系の揺らぎ補正面を試料内部の揺らぎ層と結像共役にすることができるため、補償光学による補正に対する擾乱や変動を防ぐことができる。

【0132】
図28は本変形例の顕微鏡装置の補償光学系の構成例を示す図である。図28に示すように、本変形例の顕微鏡装置の補償光学系は、図14に示す構成と同様に、試料ステージ2と対物レンズLoとを一体で移動させて光路長の調整を行い、更に、リレーレンズL1,L2を光軸に沿って移動させる。

【0133】
先ず、Zスタック画像の取得のために、試料1内の焦点に変位を与える。具体的には、図28に示すように、試料1のみが載置されている試料ステージ2を、対物レンズLoに対して移動させる(変位量i)。引き続き、試料ステージ2と対物レンズLoを載置したステージ22、リレーレンズL1,L2の位置を調整して対物レンズLoからリレーレンズL1までの光路長、リレーレンズL1からリレーレンズL2までの光路長、リレーレンズL2から波面位相変調器6までの光路長を変位させる(変位量ii~iv)。このとき、揺らぎ補正面の位置と試料内部の揺らぎ層との位置を、結像共役に維持する。

【0134】
次に、撮像カメラ8が観察対象と結像共役となって合焦するように、前述した方法で焦点調整を行う。具体的には、結像レンズL5の焦点調整(変位量v)と、波線センサー7の波面計測信号へのオフセットを与え、それを偏差信号として負帰還制御された波面位相変調器6の各素子6aを制御し、反射面に曲率を与える(変位量vi)、視野絞りST、リレーレンズL4及び波面センサー7が配置されたスライドステージ25を変位させ、参照物からの入射が波面センサー7上で平面波になるように調整する(変位量vii)などを行う。

【0135】
このように、試料上での対物レンズの焦点の移動(変位量i)に対応した一連の光学素子の変位量(変位量ii~vii)は、実験や計算値により、事前に求めることが可能である。このため、これらの調整は、Zスタック画像の取得動作中に自動的に行うことが可能である。同様に、図28に示す変位量iを固定とし、変位量vでの結像レンズL5の焦点の調整により、Zスタック画像を取得することも可能である。この方法は、収差の増加や像の焦点の調整範囲が狭くなる可能性はあるが、実現が容易である。

【0136】
また、試料1の揺らぎ層と、補償光学系の揺らぎ補正面とを結像共役とし、その位置関係を一定に保持することにより、補償光学系の補正値のずれを防ぐことができる。これにより、Zスタック画像の取得中に補償光学の再度の補正動作にかかる時間消費をなくしたり、減少させることが可能となる。従来は、Z軸方向へ焦点を変位させるたびに補償光学を動作させて新たに補正を行う必要があったが、本変形例を適用することにより、この状況を改善することができる。

【0137】
(第1の実施形態の第11変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第11変形例として、タイムラプス撮影への応用について説明する。一般に、一定時間隔で継続して撮影を行う観察法を、タイムラプス撮影という。この場合のタイムラプスとは、時間間隔が低速のものからビデオレートやそれより速い高速の撮影を含む。

【0138】
タイムラプス撮影自体は公知であるが、本変形例の顕微鏡装置では、補償光学により、像の劣化を補正しながらタイムラプス撮影を行う。これにより、観察精度の向上を図ることができる。また、補償光学の補正面に揺らぎ面を結像共役に保つことで、更なる観察精度の向上を図ることができる。

【0139】
具体的には、試料内の揺らぎ成分や参照物の対物レンズLoに対する位置を合わせ、一度、揺らぎ補正面の結像共役位置の調整を確立すると、揺らぎ成分の形状や内容が変化しても、それを補償光学系で補正しながらタイムラプス撮影を行うことができる。また、公知のソフトウェア(Metamorph, Molecular Device社など)を用いると、タイムラプス撮影を自動化することもできる。

【0140】
更に、前述したZスタック画像の取得自動化に、タイムラプス撮影自動化を組み合わせることにより、Zスタック画像を継時的に撮影し、4D(3D+時間)画像を得ることも可能である。観察対象が三次元的に移動する場合でも、撮影の前に観察対象が移動すると考えられる範囲でZスタック画像を取得するように設定しておくことで、揺らぎ成分を補正しながら三次元的に移動する観察対象の精細な画像を得ることができる。このように、観察対象が移動し、揺らぎ成分の形状や内容が変化する場合でも、揺らぎ面の位置が固定されていれば、補償光学の補正面に揺らぎ面を結像共役に調整することで、更なる観察精度の向上を図りながら4D画像を得ることができる。

【0141】
更に、揺らぎ面の位置が移動する場合でも、瞳カメラ9により取得された像に基づいて、揺らぎ補正面と揺らぎ面が結像共役となるように自動的に制御することが可能である。具体的には、撮影の前段階として、揺らぎ面が移動すると考えられる範囲を設定しておく。そして、それぞれのタイムラプス撮影の前に、対物レンズLoとリレーレンズL1、又はリレーレンズL2と波面位相変調器6との間の距離を変化させながら、瞳カメラ9で揺らぎ面が移動すると考えられる範囲のZスタック画像を取得する。

【0142】
そして、揺らぎ補正面の結像共役面と試料内部の揺らぎ層が近くなったところで、像の波面位相に起因したコントラストが減少することなどを指標に、揺らぎ層近傍と揺らぎ補正面が結像共役になるように、例えば位置調整制御部(図示せず)により、結像共役位置調整機構を自動的に制御する。その後、前述した方法でZスタック画像を取得する。これを各タイムラプス撮影時に行うことによって、観察対象と揺らぎ面の両方が移動する場合でも、観察精度の向上を図りながら4D画像を得ることができる。

【0143】
(第1の実施形態の第12変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第12変形例として、参照物と観察対象との間で、励起波長及び蛍光波長を調整する方法について説明する。参照物及び観察対象から発生される検出対象光がいずれも蛍光である場合、一方の励起光と蛍光の波長の特性を、他方の波長の特性とずらすことによって、弁別性を向上し、相互の影響による性能の劣化を防ぐことが可能である。

【0144】
具体的には、参照物と観察対象の蛍光物質を調整して励起波長特性に差があるように選び、それぞれの励起波長に合わせて、一方の励起効率が他方よりも高くなるように光源の波長を切り替えることで、参照物と観察対象で選択的に蛍光を励起できる。

【0145】
また、参照物と観察対象の蛍光物質を蛍光波長特性に差があるように選び、それぞれの蛍光の弁別性が高くなるように、必要に応じてビームスプリッターBS2としてダイクロイックミラーを使用する。さらに、波面測定光路には、参照物の蛍光の透過率が観察物体の蛍光の透過率よりも高くなるような波長フィルターを、また、撮像観察光路には観察対象の蛍光の透過率が参照物からの蛍光の透過率よりも高くなるような波長フィルターを、それぞれ挿入する。これにより、相互の影響を低減することができる。

【0146】
なお、前述した蛍光波長のフィルターなどによる弁別は、単一又は複数の励起光で参照物と観察対象を同時に励起した場合にも適用可能である。

【0147】
(第1の実施形態の第13変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の第13変形例として、波面揺らぎの情報を用いた画像処理について説明する。補償光学系の波面センサー7及び波面位相変調器6の情報を用いて点像分布を推定可能である。本変形例の顕微鏡装置では、揺らぎ補正面を可変にすることで、三次元的な揺らぎの情報を得ることができる。これにより、顕微鏡試料のような立体構造を持つ対象において、揺らぎの情報を画像として可視化することが可能になると共に、そのような点像分布の推定の精度を向上することが可能になる。その結果、得られた揺らぎの立体構造及び点像分布の推定を、画像の回復処理に利用することができる。

【0148】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡装置について説明する。現在のところ、波面センサーはシャックハルトマン方式が主流であるが、調整の原理は光学面の結像共役によっているため、他の公知の方式を共役位置調整と組み合わせて用いることが可能である。波面センサーの例としては、曲率方式、位相差方式、タルボマスクなど他のハルトマンマスクを用いた傾斜検出方式などが存在する。これらの公知の方式のうち、位相差方式は、位相差法による光位相の可視化検出を、波面位相の検出に用いる手法である。

【0149】
一方、シャックハルトマン方式などの波面傾斜センサーを用いて波面補正を行う際に、波面位相変調器にノイズの影響でワッフルモードと呼ばれる隣接素子が交互に上下に変位した皺状の変形が見られることがある。これは、細かな揺らぎの強い顕微鏡観察の際に生じやすい。図29はワッフルモードの波面形状の模式図である。図29に示すように、ワッフルモード状の波面の歪みは、シャックハルトマンセンサーなどの波面傾斜検出では検出が困難であるため、一旦発生してしまうと制御の収束性が劣化する。これにより、ノイズの影響が強い時にワッフルモード状の波面形状が発生すると、制御が発散して精度が低下するなど、制御が不安定になる現象が見られる。

【0150】
図30A及び図30Bは波面位相変調器に対する波面センサーの素子の配置を示す図であり、図31は波面センサーの素子配置の違いとワッフルモードへの検出感度との関係を示す図である。更に、図32A及び図32Bは波面センサーの45°回転配置と光学系の倍率の変更の関係を示す図である。本実施形態の顕微鏡装置では、波面センサー7の各素子7aの配置を、図30Aに示す通常の配置に対して、図30Bに示すように45°回転させて傾斜を加え、更に、間隔を調整して波面位相変調器6の上下左右に隣り合う素子6aの中心に並ぶようにしている。これにより、ワッフルモードに対しても感度を持たせることが可能になる。

【0151】
図30Aに示す通常の素子配置では、図31Aに示す波面センサー7の部分開口素子7aが波面位相変調器6の隣接した4素子6aの鞍状点に配置されるため、図29に示すワッフルモードに起因した傾斜を検出できない。これに対して、図30Bに示す45°傾斜配置では、図31Bに示す波面位相変調器6の凹凸の上下左右の隣接素子6a間で、ワッフルモードに起因した傾斜が検出される。

【0152】
そこで、本実施形態の顕微鏡装置では、ワッフルモードによる性能の低下を防ぐために、図32Bに示すように、シャックハルトマン方式などの波面傾斜センサーを光軸を回転軸として45°回転させた上で、対物レンズLo及びリレーレンズL1の焦点の長さを調整して倍率を変更し、図31Aに示す波面位相変調器6の素子6aの配置を、図31Bに示す配置にしている。これにより、ワッフルモードへの感度を持たせ、補償光学の動作安定性を向上させることができる。

【0153】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係るレーザー入射装置について、レーザー入射顕微鏡に適用した場合を例にして説明する。前述した補償光学系は、光の逆進性を用いて、レーザーなどを試料に入射させる際の回折散乱の補正に用いることもできる。図33は本実施形態のレーザー入射装置を用いたレーザー入射顕微鏡の構成を示す模式図である。

【0154】
図33に示すように、レーザー光源LSから出射されたレーザー光を、補償光学系の波面位相変調器6を介して入射させれば、試料1の内部での散乱の抑制が期待できる。ここで、補償光学系を動作させるための参照物には、入射するレーザーで励起可能な蛍光物質を配置することが可能である。また、赤外レーザーなど励起可能な蛍光物質が少なく、配置が難しい場合は、通常光源による蛍光励起を併用するか、入射レーザーとは別の参照物用の励起レーザーを、入射レーザーと光軸を共有するように配置し、蛍光物質を励起してその蛍光を参照物として用いればよい。

【0155】
本実施形態のレーザー入射装置は、熱ショックなどによる特定の細胞における遺伝子誘導系(例えばシグマ光機株式会社製 InfraRed Laser-Evoked Gene Operatorなど)やオプトジェネティクスなど、光によって特定の細胞・細胞部位の遺伝子や物質の機能を調節できる系に適用することができる。

【0156】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態に係る位相差顕微鏡装置について説明する。図34は本実施形態の位相差顕微鏡装置の構成を示す模式図である。補償光学系による揺らぎ補正により整った波面に対して、位相差法を適用することにより、光位相イメージングの精度を向上させることができる。

【0157】
図34に示すように、本実施形態の位相差顕微鏡では、光源部30の光源3と集光レンズL8の間に、スリット又はピンホールPHが配置されている。そして、その光源部30のスリット又はピンホールPHの像が、ビームスプリッターBS2の後方の撮像観察光路に生ずるのに合わせて、撮像部80に位相差マスクPMを配置し、その後方の結像レンズL7と像カメラ8で位相差像を得る。ここで、図34において、破線は0次回折光の光線を、点線は観察対象及び参照物からの光線を、実線は揺らぎ補正面からの光線をそれぞれ示している。

【0158】
位相差顕微鏡の基本原理は既に公知であるが、これに補償光学系を組み込むことにより、位相差像の鮮鋭化を実現することができる。またその際に、揺らぎ層と揺らぎ補正面の共役位置の調整をすることにより、補償光学の効果をさらに広範囲・高精度にすることが可能となる。また、補償光学の補正効果のうち斜行成分の検出補正は、光軸合わせを自動で行うことに相当するため、像の精度の向上を図ることができる。これは、位相差法のピンホール及びスリットの位置合わせの自動化に応用することが可能である。

【0159】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態に係る微分干渉顕微鏡装置について説明する。図35は本実施形態の微分干渉顕微鏡装置の構成を示す模式図である。補償光学系による揺らぎ補正により整った波面に対して、微分干渉法を適用しても、前述した位相差法と同様に、光位相イメージングの精度を向上させることができる。

【0160】
図35に示すように、本実施形態の微分干渉顕微鏡装置では、試料1を照らす透過光源3には微分干渉用のものを用いる。そして、光源部31では、光源3から出射した光を、ピンホールP、コリメーターC、偏光フィルターPL1を透過させた後、ウォラストン偏光プリズムPP1で偏光ごとに光路を分離して、横ずれを与えた後、コンデンサーレンズL9により試料1の上に投射している。なお、図35において、破線は0次回折光の光線を、点線は観察対象及び参照物からの光線を、実線は揺らぎ補正面からの光線をそれぞれ示している。

【0161】
本実施形態の微分干渉顕微鏡装置では、補償光学系による補正を受けた後、撮像観察光路において受光側の光学系に入射し、撮像部81のウォラストン偏光プリズムPP2で偏光ごとに分離された光線が再合成され干渉を起こす。その結果、空間方向の光路長の変化分が像に明暗を生ずる。光線は、偏光プリズムPP2を通過した後、偏光フィルターPL2を通過し、その後方の結像レンズL7を通じて像カメラ8に入射され、微分干渉像が得られる。

【0162】
微分干渉顕微鏡装置の基本原理は既に公知であるが、これに補償光学系を組み込むことにより、微分干渉像の鮮鋭化を実現することができる。またその際に、揺らぎ層と揺らぎ補正面の共役位置の調整をすることにより、補償光学の効果をさらに広範囲・高精度にすることが可能となる。また、補償光学の補正効果のうち斜行成分の検出補正は、光軸合わせを自動で行うことに相当するため、像の精度の向上を図ることができる。

【0163】
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態に係る共焦点走査顕微鏡装置について説明する。図36は本実施形態の共焦点走査顕微鏡装置の構成を示す模式図である。各種走査型の補償光学顕微鏡に対して、揺らぎ層と揺らぎ補正面の共役位置の調整を組み合わせることにより、性能向上を図ることができる。

【0164】
具体的な構成例は、図36に示す通りである。補償光学系の後方に共焦点操作部82を配置することにより、走査時における補償光学系と試料1との間での変位を防ぎ、走査と補償光学の動作を独立にすることで高速の走査を実現できる。また、揺らぎ層と揺らぎ補正面の共役位置の調整を組み合わせることで、性能の向上を図ることができる。なお、焦点の調整は、走査光学系側での調整又は前述した焦点調整方法を用いることができる。

【0165】
本実施形態の共焦点走査顕微鏡装置は、ビームスプリッターBS2の撮像観察光路に、共焦点走査光学系を配置可能にすることで実現できる。その動作方法は、まず、補償光学系を動作させて波面補償を行う。補償光学の動作に参照物を蛍光で励起する場合は、波長が合えば走査用のレーザーを用いることができる。

【0166】
波面位相変調器のパターンを固定したまま、ビームスプリッターBS2の撮像観察光路に配置された共焦点走査光学系を用いて、試料1内をレーザーで走査することにより、共焦点顕微観察の鮮鋭化が実現できる。共焦点顕微鏡の基本原理は公知であるが、揺らぎ層と揺らぎ補正面の共役位置の調整を組み合わせ、補償光学の効果をさらに広範囲・高精度にすることで、性能を向上できる。また、補償光学の補正効果のうち斜行成分の検出補正は、光軸合わせを行うことに相当するため、光軸合わせの自動化による像の精度の向上を図ることもできる。

【0167】
具体的には、図36に示すように、レーザー光源LSから発せられたレーザーは偏光素子PL1と波長板WP1を通過し、リレーレンズL10、ピンホールP1を通過した後、コリメートレンズL7で平行光線となる。そのレーザー光にガルバノミラーGMX,GMYで傾きを与えることで、試料1内を走査し、励起する。得られた蛍光は、ビームスプリッターBS2から共焦点操作系82を逆進し、ビームスプリッターBS3によって光電子増倍管PMTへ導かれる。

【0168】
ビームスプリッターBS3と光電子増倍管PMTとの間には、リレーレンズL11,L12、さらにそれらの中間点近傍にピンホールP2が配置され、焦点面以外の断層面からの蛍光を遮断し減衰させる。ピンホールP2を通過した蛍光は、波長板WP2と偏光素子PL2とを通過し、光電子増倍管PMTへと入射され、コンピュータ14の画像構成記憶部によって焦点面の断層像が得られる。本実施形態の構成は、前述したガルバノミラーを用いた走査型共焦点顕微鏡に限定されるものではなく、スピニングディスクを用いた光学系など他方式の走査機構を持つ系にも、共焦点走査系と同様に適用することが可能である。

【0169】
(第7の実施形態)
次に、本発明の第7の実施形態に係る多光子励起顕微鏡について説明する。図37は本実施形態の多光子励起顕微鏡の構成を示す模式図である。図37に示すように、本実施形態の多光子励起顕微鏡は、ビームスプリッターBS2から分岐する撮像観察用光路に、多光子励起用のレーザーの走査検出光学系(多光子走査検出部83)が設けられている。

【0170】
この顕微鏡装置で観察を行う際は、先ず、補償光学系を動作させて波面補償を行う。その際、補償光学の動作のために参照物の蛍光励起が必要な場合は、多光子走査検出部83に設けられた走査用のレーザー光源LSによる二光子励起を用いることもできる。次に、レーザーによる二光子励起で試料内を走査して二光子顕微鏡として観察を行う。

【0171】
多光子励起顕微鏡の基本原理は公知であるが、補償光学系を適用することにより、二光子顕微観察の鮮鋭化を実現することができる。またその際に、揺らぎ補正面の共役位置の調整を用いることにより、補償光学の効果をさらに広範囲・高精度にすることが可能となる。また、補償光学の補正効果のうち斜行成分の検出補正は、光軸合わせを行うことに相当するため、光軸合わせの自動化による像の精度の向上を図ることもできる。

【0172】
具体的には、図37に示すように、レーザー光源LSから発せられたレーザーは、リレーレンズL10,L7を通過し、ガルバノミラーGMX,GMYで傾きを与えられ、多光子吸収によって励起光となり、試料内を走査する。得られた蛍光は、ビームスプリッターBS2から多光子走査検出部83を逆進し、ビームスプリッターBS3によって光電子増倍管PMTへ導かれる。

【0173】
ビームスプリッターBS3と光電子増倍管PMTとの間には、リレーレンズL11,L12、さらにそれらの中間点にある焦点にピンホールP2が配置され、焦点面以外の断層面からの蛍光を遮断し、減衰させる。ピンホールP2を通過した蛍光は、バンドパスフィルターBPFを通過し、光電子増倍管PMTへと入射され、コンピュータ14の画像構成記憶部によって焦点面の断層像が得られる。また、本実施形態の構成は、ガルバノミラーを用いた走査型多光子顕微に限定されるものではなく、前述した各種構成の補償光学系を適用することができる。

【0174】
(第8の実施形態)
次に、本発明の第8の実施形態に係る顕微鏡装置について説明する。本発明の補償光学系は、前述した各種顕微鏡装置の他に、種々の顕微鏡装置に適用することが可能である。具体的には、超解像顕微鏡装置といわれる方式の顕微鏡装置も、基本原理は公知であるが、補償光学系を組み合わせることにより、出入射波束の収束性及び断面形状を改善し、その性能を向上させることができる。

【0175】
例えば、飽和励起顕微鏡装置(SAX顕微鏡;Saturated Excitation Microscope)においては、観察対象内部の揺らぎなどによる収差の存在下でも、屈折や回折に起因した入射レーザーの集光性の劣化による飽和励起部分の広がりを抑えることができ、更に、試料から対物レンズに入射する検出光の揺らぎを補正することで、分解能の向上を図ることができる。そして、補償光学による出入射波束の収束性及び断面形状の改善は、超解像と呼ばれる手法での精度の向上にも役立てることができる。

【0176】
また、誘導放出抑制顕微鏡装置(STED顕微鏡装置;Stimulated Emission Depletion Microscope)では、試料内部に揺らぎなどによる収差が存在していても、屈折や回折に起因した励起光スポット及び誘導放射光のビーム形状の劣化を抑え、試料から対物レンズに入射する検出光の揺らぎを補正することにより、分解能の向上を図ることができる。

【0177】
更に、回折限界以下の粒子構造に対して、試料から対物レンズに入射する検出光の強度の中心や重心の位置の測定を行う場合は、試料内部に揺らぎなどによる収差が存在していても、屈折や回折に起因した励起光スポットの劣化を抑え、更に、試料から対物レンズに入射する検出光の揺らぎも補正することにより、精度を向上させることができる。また、補償光学の補正効果のうち斜行成分の検出補正は、光軸合わせを自動で行うことに相当するため、像の精度の向上を図ることができる。

【0178】
構造照明顕微鏡装置(SIM顕微鏡装置;Structured Illumination Microscopy)においては、試料内部に揺らぎなどによる収差が存在していても、屈折や回折に起因した照明パターンの劣化を抑え、更に、試料から対物レンズに入射する検出光の揺らぎも補正することにより、分解能を向上させることができる。更に、本発明の補償光学系は、前述した顕微鏡装置以外に、偏光顕微鏡装置など、各種顕微鏡装置への適用が可能である。

【0179】
(第9の実施形態)
次に、本発明の第9の実施形態に係る望遠鏡装置について説明する。図38は本実施形態の望遠鏡装置の構成を示す模式図である。望遠鏡装置に補償光学を組み合わせる技術は、従来より検討されており、大気揺らぎの高度と揺らぎ補償面を結像共役にし、調整を固定化する技術は、既に提案されている。

【0180】
これに対して、図38に示す望遠鏡装置のように、望遠鏡装置の補償光学系の共役位置を調整自在とすることにより、被写体までの光路上の大気などの揺らぎの位置と、補償光学系の補正面が結像共役となるように調整を行いつつ、被写体とは別に存在する参照物の位置に対しても独立に調整を行うことが可能となる。これにより、補償光学の効果を、最大限に発揮させることが可能となる。

【0181】
更に、本実施形態の望遠鏡装置は、従来よりも設定が柔軟な系となるため、広範な応用を図ることができる。また、調整機能の幅が広いことを利用し、補償光学系の設計を望遠鏡TSの主鏡や副鏡(一次鏡、二次鏡)などの対物光学系と切り離して独立にし、交換可能な汎用の補償光学システムとして設計することも可能になる。更に、カメラの交換式レンズと組み合わせて用いるアダプターとしての使用も考えられる。
【実施例】
【0182】
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明の効果について具体的に説明する。先ず、本発明の補償光学顕微鏡を用いて、図5Aに示す構成の結像共役位置調整前の従来の補償光学系と、図5Bに示す構成の本発明によって揺らぎ補正面を揺らぎ層と結像共役にした補償光学系とを用いて、それぞれ波面補正を行って、人工的な試料を観察し、像精度を比較した。
【実施例】
【0183】
人工的な試料としては、観察対象としてスライドグラス上に間隔10μmの格子パターンを印刷したものを用い、参照物としてはその格子パターン面上に直径3.5μmの蛍光ビーズ付着させたものを用いた。揺らぎ発生面には、片面に凹凸を施したカバーグラスを、スペーサーとして凹凸面上に直径50μmのガラスビーズを付着させた上で、凹凸面がスライドグラス側になるようにスライドガラスに被せた上で、スライドグラスとカバーグラスの間隙に屈折率がガラスとは異なるシリコンオイルを封入した。
【実施例】
【0184】
観察方法としては、蛍光ビーズの蛍光を参照物として補償光学を動作させた後、格子に焦点を合わせて明視野での像を観察した。図39Aは結像共役位置調整なしの従来の補償光学系により補正を行って撮影した人工試料の顕微鏡写真であり、図39Bは本発明の補償光学系を用いて揺らぎ補償面を揺らぎ層と結像共役にして補正を行って撮影した人工試料の顕微鏡写真である。なお、図39A及びBでは、補償光学により解像度が向上した視野領域を点線で示す。参照物体として用いた蛍光ビーズは、点線の領域の中心に見られる。
【実施例】
【0185】
揺らぎ補正面を対物レンズの瞳と結像共役にして撮像した図39Aに示す像に対して、本発明が適用された補償光学系を用いた顕微鏡により撮像した図39Bに示す像は、共役調整機構によって揺らぎ面と揺らぎ補正面とを結像共役に合致させているため、解像度が向上した視野領域が広がっていた。
【実施例】
【0186】
次に、タマネギ鱗片葉の表皮細胞の観察を行った。その際、対物レンズと反対側の細胞表面に蛍光ビーズを貼り付け、参照物として用いた。図40Aは結像共役位置調整なしの従来の補償光学系により補正を行って撮影したタマネギ表皮細胞の顕微鏡写真であり、図40Bは本発明の補償光学系を用いて揺らぎ補償面を揺らぎ層と結像共役にして補正を行って撮影したタマネギ表皮細胞の顕微鏡写真である。
【実施例】
【0187】
図40Aに示す像は、補正面を対物レンズの開口瞳と結像共役に調整して取得したものである。これに対して、図40Bに示す揺らぎ補正面を揺らぎ面と結像共役に調整して取得した像では、直径30μm程度の視野において、細胞内組織の像の鮮明度が向上しており、本発明が立体的な構造を持つ実際の生物試料に対しても有効であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明の補償光学系は、顕微鏡装置や天体望遠鏡の他、地上用望遠鏡、レーザー計測装置、レーザー通信装置、水中監視カメラ、測位機器、測量機器、レーザーによるエネルギー伝送、射撃用照準装置、監視装置、遠距離撮像カメラ、内視鏡のファイバースコープやGRIN(GRaded INdex;屈折率分布型)ファイバースコープ、その他の医療用検査・診断装置などへの応用が考えられる。
【0189】
また、揺らぎ補正層の共役位置調整機能は、補償光学の応用全般で精度向上の有効性が見込める。補償光学の応用として、天体望遠鏡でのゆらぎ補正、宇宙望遠鏡の収差補正、レーザー発振器の安定化、レーザー光学系の安定化、レーザー光学系のスペックル除去、レーザー核融合、プラズマ密度測定装置、レーザー加工機のビーム成形、眼底カメラ、眼底撮像、眼底のレーザー治療、医療用レーザー装置の収差補正、医療用レーザーでの生体における屈折補正、医療用装置を用いた検査・診断の際の生体に由来する屈折補正、人工衛星からの地上撮像時の劣化補正、地上からの人工衛星の撮像時の劣化補正、空間光通信機、空間光量子通信機、量子光源、量子もつれ光源などが挙げられる。
【符号の説明】
【0190】
1 試料
2 試料ステージ
3 光源
4、5、21、22、24、25 スライドステージ
6、16a、16b 波面位相変調器
6a 波面位相変調器の素子
7、17a~17c 波面センサー
7a 波面センサーの素子
8 撮像カメラ
9 瞳カメラ
10、14 コンピュータ
11 画像記憶部
12 補償光学制御部
13 波面センサー開口鏡像
30、31 光源部
80、81 撮像部
82 共焦点走査部
83 多光子走査検出部
100 観察対象
101 参照物
102 揺らぎ層
103 カバーグラス
104、Lo 対物レンズ
110、111、L1~L12、L1a、L1b、L2a、L2b、L4a~L4c レンズ
BPF バンドパスフィルター
BS1~BS3 ビームスプリッター
C コリメーター
CM1,CM2 凹面鏡
DP フーリエ回折面
F1~F3 フィルター
GMX,GMY ガルバノミラー
LS レーザー光源
M1~M6、M1a~M1d ミラー
P、P1、P2 ピンホール
PH スリット又はピンホール
PL1、PL2 偏光フィルター
PM 位相差マスク
PMT 光電子増倍管
PP1、PP2 ウォラストン偏光プリズム
ST、STa~STc 視野絞り
TS 望遠鏡
WP1、WP2 波長板
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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