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明細書 :組織構造体及びその作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6400575号 (P6400575)
登録日 平成30年9月14日(2018.9.14)
発行日 平成30年10月3日(2018.10.3)
発明の名称または考案の名称 組織構造体及びその作製方法
国際特許分類 C12N   5/073       (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
C12N   5/077       (2010.01)
FI C12N 5/073
C12N 5/10
C12N 5/071
C12N 5/077
請求項の数または発明の数 15
全頁数 26
出願番号 特願2015-522539 (P2015-522539)
出願日 平成26年6月9日(2014.6.9)
国際出願番号 PCT/JP2014/003067
国際公開番号 WO2014/199622
国際公開日 平成26年12月18日(2014.12.18)
優先権出願番号 2013122190
優先日 平成25年6月10日(2013.6.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年12月26日(2016.12.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
発明者または考案者 【氏名】江尻 洋子
【氏名】綾野 賢
【氏名】福原 直人
【氏名】谷口 英樹
【氏名】武部 貴則
個別代理人の代理人 【識別番号】100103894、【弁理士】、【氏名又は名称】家入 健
審査官 【審査官】千葉 直紀
参考文献・文献 国際公開第2013/047639(WO,A1)
国際公開第2013/042360(WO,A1)
特開2000-287680(JP,A)
国際公開第2008/149807(WO,A1)
特表2012-529901(JP,A)
JAPAN MEDICAL SOCIETY, 2012, Vol. 188, pp. 10-12
調査した分野 C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
血管細胞、及び間葉系細胞とともに、胎生幹細胞または人工多能性幹細胞に由来する肝臓内胚葉細胞を共培養して得られる組織構造体であって、複数の機能についてピアソンの積率相関係数(Pearson product-moment correlation coefficient)を用いて検定した値が、胎児から採取された細胞または生体組織より、成体から採取された細胞または生体組織の値に近い組織構造体であって、
前記組織構造体がスフェロイド形状であり、スフェロイドの直径が50μm~2mmであり、
前記複数の機能が、明細書に記載の表2-1及び表2-2の変動倍率がx2である61個の遺伝子から選択される49個以上の遺伝子の発現量であり、
前記選択される49個以上の遺伝子に、明細書に記載の表2-1及び表2-2の変動倍率がx10である49個の遺伝子が含まれる、
組織構造体
【請求項2】
遺伝子発現量が、全ての遺伝子断片が固定されているDNAチップを用いて解析された値であることを特徴とする請求項記載の組織構造体。
【請求項3】
前記複数の機能が、肝臓に特有の機能であることを特徴とする請求項1または2記載の組織構造体。
【請求項4】
血管細胞、及び間葉系細胞とともに、胎生幹細胞または人工多能性幹細胞に由来する肝臓内胚葉細胞を共培養して培養形成物を作製し、
前記培養形成物が有する複数の機能に関してピアソンの積率相関係数(Pearson product-moment correlation coefficient)を用いて検定し、
検定した値が、胎児から採取された細胞または生体組織より、成体から採取された細胞または生体組織の値に近い培養形成物を組織構造体として抽出する組織構造体の作製方法であって、
前記共培養は、相当直径が20μm以上2.5mm以下、深さが20μm以上1000μm以下のマイクロ容器で行い、
前記マイクロ容器が、底部と開口部とから構成されており、
前記開口部が、前記底部との境界から端部までを囲むテーパ角1度以上20度以下の壁で構成され、
前記底部が、半球状と円錐台とのいずれかの形状を有し、
前記複数の機能が、明細書に記載の表2-1及び表2-2の変動倍率がx2である61個の遺伝子から選択される49個以上の遺伝子の発現量であり、
明細書に記載の表2-1及び表2-2の変動倍率がx10である49個の遺伝子が前記選択される49個以上の遺伝子に含まれる、
組織構造体の作製方法
【請求項5】
記遺伝子発現量を、全ての遺伝子断片が固定されているDNAチップを用いて解析する請求項記載の組織構造体の作製方法。
【請求項6】
前記共培養の工程が、凝集体を形成させる工程、器官芽を形成させる工程、さらに培養を行い成熟化させる工程を含むことを特徴とする請求項4または5記載の組織構造体の作製方法。
【請求項7】
凝集体、器官芽、成熟化させる工程において、細胞同士が結合して凝集していることを特徴とする請求項記載の組織構造体の作製方法。
【請求項8】
凝集体、器官芽、成熟化させる工程において、細胞同士が結合してスフェロイド形状の塊が形成されていることを特徴とする請求項6または7記載の組織構造体の作製方法。
【請求項9】
前記細胞同士が形成するスフェロイドの直径が50μm~2mmであることを特徴とする請求項記載の組織構造体の作製方法。
【請求項10】
前記肝臓内胚葉細胞が、人工多能性幹細胞由来であることを特徴とする請求項4乃至9のいずれか一項に記載の組織構造体の作製方法。
【請求項11】
前記複数の機能が、肝臓に特有の機能であることを特徴とする請求項4乃至10のいずれか一項に記載の組織構造体の作製方法。
【請求項12】
前記組織構造体を、培養表面が細胞非接着表面である培養容器を用いて培養することを特徴とする請求項4乃至11のいずれか一項に記載の組織構造体の作製方法。
【請求項13】
前記培養表面が、リン脂質、リン脂質・高分子複合体、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリビニルアルコール、アガロース、キトサン、ポリエチレングリコール、及びアルブミン、のグループから選択される一つまたはこれら組合せからなるポリマーが細胞と接触する培養面にコートされている培養容器であることを特徴とする請求項12記載の組織構造体の作製方法。
【請求項14】
血管細胞:前記肝臓内胚葉細胞:間葉系細胞を、10:7~10:1~2の割合で共培養し、かつ、マイクロ容器1個あたり20個~2000個となる密度で細胞を播種することを特徴とする請求項4乃至13のいずれか一項に記載の組織構造体の作製方法。
【請求項15】
血管細胞、及び間葉系細胞とともに、胎生幹細胞または人工多能性幹細胞に由来する肝臓内胚葉細胞を共培養して得られる組織構造体であって、複数の機能についてピアソンの積率相関係数(Pearson product-moment correlation coefficient)を用いて検定した値が、胎児から採取された細胞または生体組織より、成体から採取された細胞または生体組織の値に近い組織構造体であって、
前記組織構造体がスフェロイド形状であり、スフェロイドの直径が50μm~2mmであり、
前記複数の機能が、下記49個の遺伝子の発現量である、
組織構造体。
VKORC1、UBD、TNFSF10、TDO2、TAP1、SORD、SERPING1、PXMP2、PSMB9、PSMB8、PNPLA7、PLG、ORM2、ORM1、NFIC、MX1、MGLL、MAT1A、LRG1、KNG1、KLF9、ITIH4、IL13RA1、IGFBP4、IFIT1、HSD3B7、HRG、HP、HGD、HAMP、G0S2、FGGY、FBP1、F12、ETFDH、DEFB1、CTSO、CLDN2、CFI、CFH、CFB、C3、APOC3、ANG、ALDOB、ALDH3A2、ACAT1、ABCC3及びABCA6。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞、例えば人工多能性幹細胞や胚性幹細胞等の未分化細胞から成熟組織に匹敵する機能を持つ組織構造体及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な機能細胞へ分化する能力を持つ例えばiPS細胞といった多能性幹細胞を、目的臓器または細胞に特有の機能をもつ細胞に分化させて、それを創薬スクリーニングや再生医療に利用する試みが行われている(例えば、非特許文献1)。しかし、in vivoの機能の一部を再現できているにすぎず、その機能は生体内の機能に比べて格段に低い。
創薬スクリーニング試験においては、生体内での試験、いわゆるin vivo試験と同様の薬剤感受性、毒性反応を示すことが要求される。このような用途で利用するためには、上述した先行技術では不十分であり、より成熟化した、すなわち生体内の細胞がもつ機能に匹敵するレベルの機能が発現している細胞が求められている。
【0003】
再生医療分野では臓器移植や人工臓器移植が行われているが、ドナー不足や拒絶反応といった問題が存在する。例えば、重篤な臓器不全に対して、臨床現場においては臓器移植や人工臓器による置換治療が行われている。しかし、臓器移植については拒絶反応や絶対的なドナー不足が存在し、人口臓器については機能の一部のみを短期間代替できるにすぎないなど(例えば、特許文献1,2)、根本的な未解決課題が残されている。ヒト組織の人為的創出については、終末分化した細胞を用いて単体(足場材料)への細胞播種を行う方法などが考案されているものの、肝臓などの複雑な高次機能を有する臓器については確立された手法は存在しないのが現状である(非特許文献2)。
【0004】
このように最終分化した成熟細胞または生体組織が求められているものの、未だ達成されていないのが現状である。例えば、肝機能について成体と従来の分化細胞を比較した例を以下に述べる。
肝細胞の薬物代謝酵素のひとつであるチトクロムP450は57種類の遺伝子があることからも分かるように、細胞は非常に多くの機能を有している。これらが同時または必要に応じて機能することで生命を維持している。
また、肝細胞については80にも及ぶ遺伝子の発現量が胎児期から成体になっていくにつれ増加することが確認されている。さらに膵臓については、非特許文献3,4に、発生過程において、細胞が成熟するに従い遺伝子発現プロファイルが変化することが示されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開平9-56814号公報
【特許文献2】特開2004-166717号公報
【特許文献3】国際公開第2013/047639号
【特許文献4】国際公開第2007/058105号
【特許文献5】国際公開第2008/066199号
【0006】

【非特許文献1】Maya Schuldiner、他著、"Effects of eight growth factors on the differentiation of cells derived from human embryonic stem cells"、PNAS, 97 vol21、2000年10月10日(Published online)、pp.11307-11312
【非特許文献2】Basak E Uygun、他著、"Organ reengineering through development of a transplantable recellularized liver graft using decellularized liver matrix"、Nat Med, 16(7), 2010年6月13日(Published online)、pp. 814-820
【非特許文献3】Marta Szabat、他著、"Kinetics and genomic profiling of adult human and mouse β-cell maturation"、Islets 3:4、 July/August 2011、pp.175-187
【非特許文献4】Guoqiang Gu、他著、" Global expression analysis of gene regulatory pathways during endocrine pancreatic development" Research article、2003年9月30日、pp. 165-178
【非特許文献5】Francesco Pampaloni、他著、"The third dimension bridges the gap between cell culture and live tissue"、Nature reviews molecular cell biology volume 8、2007年10月、pp. 839-845
【非特許文献6】Markus Rimann、他著、"Synthetic 3D multicellular systems for drug development" Current Opinion in Biotechnology 2012 23、 2012年、pp. 1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、例えば特許文献3に記載の器官芽、特許文献4に記載の未分化細胞から膵島細胞を誘導する方法、特許文献5に記載の未分化細胞からインスリン分泌細胞への誘導方法などが開示されているが、いずれも細胞機能の一部の機能に着目して限られた数の評価指標について分化の有無が判断されている。従って、このような細胞や臓器は、上記のように多くの遺伝子パターンを発現している、いわゆる成熟レベルと断定することができない。
そのため、従来の評価指標で判定された細胞や臓器を用いて薬の作用効果や毒性などを判定する場合、生体内の反応を正確に予測できないという問題や、人工臓器が十分に機能しないという問題が生じる。
【0008】
発明者らは、上述した問題を回避するには、これら最終分化した成熟細胞または生体組織のタンパク発現や遺伝子パターンを包括的に捉えることが重要であるということを発見した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
我々は最終分化した成熟細胞または生体組織のタンパク発現や遺伝子発現パターンの類似性を指標にした新しい組織構造体及びその作製方法を発明するに至った。
【0010】
本発明の一実施形態に係る組織構造体は、血管細胞、間葉系細胞、血管細胞から分泌される因子、間葉系細胞から分泌される因子、血管細胞と間葉系細胞の両方が存在することによって分泌される因子からなる群より選択される少なくとも1つの細胞及び/又は因子とともに、幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞を共培養して得られる組織構造体であって、複数の機能についてピアソンの積率相関係数(Pearson product-moment correlation coefficient)を用いて検定した値が、胎児から採取された細胞または生体組織より、成体から採取された細胞または生体組織の値に近い組織構造体である。
【0011】
また、本発明の一実施形態に係る組織構造体において、前記複数の機能が、10種類以上の遺伝子の発現量であり、前記10種類以上の遺伝子が、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞の遺伝子発現量に対し、前記組織構造体の遺伝子発現量が2倍以上変動する遺伝子であることが好ましい。例えば、遺伝子発現量が、全ての遺伝子断片が固定されているDNAチップを用いて解析された値であり、前記10種類以上の遺伝子が、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞の遺伝子発現量に対し、前記組織構造体の遺伝子発現量が2倍以上変動するすべての遺伝子であることがより好ましい。
さらに、本発明の一実施形態に係る組織構造体において、前記複数の機能が、10種類以上のタンパク質について測定したタンパク質量であり、前記10種類以上のタンパク質が、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞のタンパク質量に対し前記組織構造体のタンパク量が20%以上変動する全てのタンパク質であることが好ましい。前記組織構造体がスフェロイド形状であり、スフェロイドの直径が50μm~2mmであることがより好ましい。
また、前記複数の機能が、肝臓または膵臓に特有の機能であることが好ましい。
【0012】
本発明の一実施形態に係る組織構造体の作製方法は、(1)血管細胞、間葉系細胞、血管細胞から分泌される因子、間葉系細胞から分泌される因子、血管細胞と間葉系細胞の両方が存在することによって分泌される因子からなる群より選択される少なくとも1つの細胞及び/又は因子とともに、幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞を共培養して培養形成物を作製し、(2)前記培養形成物が有する複数の機能に関してピアソンの積率相関係数(Pearson product-moment correlation coefficient)を用いて検定し、(3)検定した値が、胎児から採取された細胞または生体組織より、成体から採取された細胞または生体組織の値に近い培養形成物を組織構造体として抽出する。
【0013】
また、本発明の一実施形態に係る組織構造体の作製方法において、前記複数の機能が、10種類以上の遺伝子の発現量であり、前記10種類以上の遺伝子が、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞の遺伝子発現量に対し、前記組織構造体の遺伝子発現量が2倍以上変動する遺伝子であること、及び、前記組織構造体の抽出が、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞及び前記培養形成物の遺伝子発現量を測定し、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞の遺伝子発現量に対し、前記培養形成物の遺伝子発現量が2倍以上変動する遺伝子を10種類以上有する培養形成物を選択することが好ましい。例えば、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞と前記組織構造体との遺伝子発現量を、全ての遺伝子断片が固定されているDNAチップを用いて解析したときに、前記10種類以上の遺伝子が、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞の遺伝子発現量に対し、組織構造体の遺伝子発現量が2倍以上変動するすべての遺伝子であることがより好ましい。
さらに、本発明の一実施形態に係る組織構造体の作製方法において、前記複数の機能が、10種類以上のタンパク質について測定したタンパク質量であり、前記10種類以上のタンパク質が、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞のタンパク量に対し組織構造体のタンパク量が20%以上変動する全てのタンパク質であること、及び、前記組織構造体の抽出が、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞及び前記培養形成物のタンパク質量を測定し、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞のタンパク質量に対し、前記培養形成物のタンパク質量が2倍以上変動するタンパク質を10種類以上有する培養形成物を選択することが好ましい。
また、本発明の一実施形態に係る組織構造体の作製方法において、前記共培養の工程が、凝集体を形成させる工程、器官芽を形成させる工程、さらに培養を行い成熟化させる工程を含むことが好ましい。加えて、凝集体、器官芽、成熟化させる工程において、細胞同士が結合して凝集していることが好ましく、凝集体、器官芽、成熟化させる工程において、細胞同士が結合してスフェロイド形状の塊が形成されていることがより好ましい。
本発明の一実施形態に係る組織構造体の作製方法において、前記細胞同士が形成するスフェロイドの直径が50μm~2mmであることが好ましい。前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞が、胎生幹細胞または人工多能性幹細胞由来から選択される細胞であることが好ましく、前記幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞が、人工多能性幹細胞由来の細胞から内胚葉系列の細胞に分化可能な細胞であることがより好ましい。
また、前記複数の機能が、肝臓または膵臓に特有の機能であることが好ましい。
本発明の一実施形態に係る組織構造体の作製方法において、前記組織構造体を、相当直径が20μm以上2.5mm以下、深さが20μm以上1000μm以下のマイクロ容器で培養することが好ましい。加えて、前記組織構造体を、培養表面が細胞非接着表面である培養容器を用いて培養することが好ましい。さらに加えて、前記培養表面が、リン脂質、リン脂質・高分子複合体、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリビニルアルコール、アガロース、キトサン、ポリエチレングリコール、及びアルブミン、のグループから選択される一つまたはこれら組合せからなるポリマーが細胞と接触する培養面にコートされている培養容器であることが好ましい。
本発明の一実施形態に係る組織構造体の作製方法において、血管細胞:幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞:間葉系細胞を、10:7~10:1~2の割合で共培養し、かつ、マイクロ容器1個あたり20個~2000個となる密度で細胞を播種することが好ましい。また、前記マイクロ容器が、底部と開口部とから構成されており、前記開口部が、前記底部との境界から端部までを囲むテーパ角1度以上20度以下の壁で構成され、前記底部が、半球状と円錐台とのいずれかの形状を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
一実施形態によれば、最終分化した成熟細胞(未分化細胞から分化誘導した組織構造体)または生体組織のタンパク発現や遺伝子パターンを包括的に捉える組織構造体及びその作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施形態の培養容器の一例を示す図である。
【図2】一実施形態の凹みを横から見た形状例を示す断面図である。
【図3】一実施形態の凹みを上から見た形状例を示す図である。
【図4】培養容器の他の形状例を示す図である。
【図5】図4に示す培養容器のV-V線断面図である。
【図6】培養容器のさらに他の形状例を示す図である。
【図7】実施例の結果(散布図)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において同一の構成または機能を有する構成要素および相当部分には、同一の符号を付し、その説明は省略する。

【0017】
一実施形態に係る組織構造体は、試験管内で分化させた成熟細胞または生体組織であって、成体に由来する(採取した)成熟細胞または生体組織の遺伝子発現パターンの類似性を指標にして作製する。遺伝子発現パターンによって、成熟細胞が有する機能または成熟細胞が実現する機能が導かれることから、「遺伝子発現パターン」を「複数の機能」と言い換えることもできる。
生理的な器官発生過程において、臓器細胞が血管細胞および未分化な間葉系細胞と密な細胞間相互作用を持つことで、自律的な組織構造の構築と細胞分化を伴う器官形成が進行する。
そこで、一実施形態では、この様な器官発生の早期プロセスを人為的に再現することで、複数の細胞系譜による相互作用を介した初期分化誘導を行い、初期分化を遂げた細胞の組織形成能力を誘導する。そして、培養容器内で成熟細胞が有する複数の機能を発現する、分化させた細胞または生体組織、例えば組織・臓器の元となる器官芽(organ bud)を経由して培養容器内で細胞または生体組織を培養して成熟させ、細胞と血管系とから成る組織の作製を行うものである。

【0018】
*組織構造体の説明
一実施形態の組織構造体は、血管細胞、間葉系細胞、血管細胞から分泌される因子、間葉系細胞から分泌される因子、血管細胞と間葉系細胞の両方が存在することによって分泌される因子からなる群より選択される少なくとも1つの細胞及び/又は因子とともに、幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞を共培養して得られる組織構造体である。加えて、組織構造体は、複数の機能の値についてピアソンの積率相関係数(Pearson product-moment correlation coefficient)を用いて検定した値が、胎児から採取された細胞または胎児から採取された生体組織より、成体から採取された細胞または成体から採取された生体組織に近い値である。
組織構造体は、少なくとも二種類、(好ましくは三種類)の細胞を共培養することにより、器官芽を形成させ、さらに器官芽を成熟させて、複数の機能について上述した特徴を有する組織構造体を形成する。器官芽については後述するが、成熟することで器官に分化することができる構造体である。

【0019】
本明細書では以下の用語を用いる。
「生体組織(biological tissue)」とは、何種類かの決まった細胞が一定のパターンで集合した構造の単位のことであり、全体としてひとつのまとまった役割をもつ。例えば、生体内の各器官(臓器)は、何種類かの組織が決まったパターンで集まって構成されている。本明細書では、分化した細胞により構成され、任意の機能を有する細胞の集まり(細胞群)を組織という。

【0020】
「幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞」(以下"幹細胞由来三胚葉細胞"と称す)、について以下に説明する。
幹細胞とは胎生幹細胞(ES細胞)または人工多能性幹細胞由来(iPS細胞)から選択される細胞を含み、無限増殖性を有しており、かつ、内胚葉、中胚葉、外胚葉の全ての器官に分化可能な細胞をいう。
内胚葉細胞とは、肝臓、膵臓、腸管、肺、甲状腺、副甲状腺、尿路などの中胚葉性器官に分化可能な細胞をいう。
外胚葉細胞とは、脳、脊髄、副腎髄質、表皮、毛髪・爪・皮膚腺、感覚器、末梢神経、水晶体などの外胚葉系器官に分化可能な細胞のことをいう。
中胚葉細胞とは、腎臓、尿管、心臓、血液、生殖腺、副腎皮質、筋肉、骨格、真皮、結合組織、中皮などの中胚葉系器官に分化可能な細胞のことをいう。
すなわち、幹細胞由来三胚葉細胞とは、ES細胞またはiPS細胞から選択された細胞に由来する、内胚葉、外胚葉または中胚葉系器官の性質を有する細胞をいう。
ある細胞が外胚葉性器官、中胚葉性器官又は内胚葉性器官に分化可能な細胞であるかどうかは、マーカーとなるタンパク質の発現を調べることにより確認できる(マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば内胚葉性器官に分化可能な細胞であると判断できる。)。例えば、肝臓に分化可能な細胞では、HHEX、SOX2、HNF4A、AFP、 ALBなどがマーカーになり、膵臓に分化可能な細胞では、PDX1、SOX17、SOX9などがマーカーになり、腸管に分化可能な細胞では、CDX2、SOX9などがマーカーになり、腎臓に分化可能な細胞では、SIX2、SALL1、心臓に分化可能な細胞では、NKX2-5 MYH6、ACTN2、MYL7、HPPA、血液に分化可能な細胞では、C-KIT、SCA1、TER119、HOXB4、脳や脊髄に分化可能な細胞では、HNK1、AP2、NESTINなどがマーカーになる。

【0021】
「間葉系細胞」とは、主として中胚葉に由来する結合織に存在し、組織で機能する細胞の支持構造を形成する結合織細胞であるが、間葉系細胞への分化運命が決定しているが、まだ間葉系細胞へ分化していない細胞も含む概念である。本発明において用いる間葉系細胞は、分化したものであっても、未分化なものであってもよい。ある細胞が未分化間葉系細胞であるかどうかは、マーカータンパク質、例えば、Stro-1、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD133、CD271、Nestinが発現しているかどうかを調べることにより確認できる(前記マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば未分化間葉系細胞であると判断できる。)。また、前項のマーカーのいずれも発現していない間葉系細胞は分化間葉系細胞と判断できる。当業者間で使用されている用語のうち、mesenchymal stem cells、mesenchymal progenitor cells、mesenchymal cells(R. Peters, et al. PLoS One. 30;5(12):e15689.(2010))などは本発明における間葉系細胞に含まれる。間葉系細胞は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物、例えば、マウス、ラット、イヌ、ブタ、サルなどの動物由来の未分化間葉系細胞を用いてもよい。

【0022】
「血管細胞」とは、血管内皮を構成する細胞、又はそのような細胞に分化することのできる細胞をいう。ある細胞が血管細胞であるかどうかは、マーカータンパク質、例えば、TIE2、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3、CD41が発現しているかどうかを調べることにより確認できる(前記マーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば血管細胞であると判断できる。)。本発明において用いる血管細胞は、分化したものであっても、未分化なものであってもよい。血管細胞が、分化した細胞であるかどうかは、CD31、CD144により、確認することができる。当業者間で使用されている用語のうち、endothelial cells、umbilical vein endothelial cells、endothelial progenitor cells、endothelial precursor cells、vasculogenic progenitors、hemangioblast(HJ. joo, et al. Blood. 25;118(8):2094-104.(2011))などは本発明における血管細胞に含まれる。血管細胞は、主としてヒト由来のものを用いるが、ヒト以外の動物、例えば、マウス、ラット、イヌ、ブタ、サルなどの動物由来の血管細胞を用いてもよい。

【0023】
「器官芽」とは、成熟することで器官に分化することができる構造体であって、幹細胞由来三胚葉細胞、血管細胞、及び未分化間葉系細胞若しくはそれから分化した細胞の三種類の細胞を含む構造体をいう。ある構造体が器官芽であるかどうかは、例えば、その構造体を生体へ移植し、目的の器官に分化できるかどうかを調べること(目的の器官へ分化していれば器官芽であると判断できる。)、及び/又はその構造体が上述した三種類の細胞をすべて含んでいるかどうかを調べること(三種類の細胞をすべて含んでいれば器官芽であると判断できる。)により確認できる。器官芽は、例えば、腎臓、心臓、肺臓、脾臓、食道、胃、甲状腺、副甲状腺、胸腺、生殖腺、脳、脊髄などの器官に分化する器官芽などであってもよいが、肝臓に分化する器官芽(肝芽)、膵臓に分化する器官芽(膵芽)、腸管に分化する器官芽など内胚葉性器官に分化する器官芽が好ましい。ある構造体が内胚葉性器官に分化する器官芽であるかどうかは、マーカーとなるタンパク質の発現を調べることにより確認できる(後述するマーカータンパク質のいずれか一つあるいは複数が発現していれば器官芽であると判断できる。)。例えば、肝芽では、HHEX、SOX2、HNF4A、AFP、 ALBなどがマーカーになり、膵芽では、PDX1、SOX17、SOX9などがマーカーになり、腸管に分化する器官芽では、CDX2、SOX9などがマーカーになる。当業者間で使用されている用語のうち、liver bud、liver diverticula、liver organoid、pancreatic (dorsal or ventral) buds、pancreatic diverticula、pancreatic organoid、intestinal bud、intestinal diverticula、intestinal organoid(K. Matsumoto, et al. Science.19;294(5542):559-63.(2001))などは本発明における器官芽に含まれる。

【0024】
「胎児から採取された細胞」とは、卵から生まれた子が何らかの形で母親の体との連絡を持ち、母体から栄養などの供給を受けて成長し、十分に発育した後に生まれてくるものから採取した細胞である。例えば、胎児から採取された細胞は、胎児の肝臓の生体組織や市販されている胎児肝細胞を含む。
「成体から採取された細胞」とは、十分に成長して、生殖が可能となった生物体から採取した細胞である。成体から採取された細胞は、例えば、市販されているヒト初代肝細胞やバイオプシーした生体組織を含む。

【0025】
「成体から採取された、細胞または生体組織」は、各社からヒトや動物に由来する細胞が販売されている。肝細胞は、チャールズリバー社、KAC社から購入することができる。
動物から採取することも可能である。例えば、ラットやマウスから採取する場合、2段階コラゲナーゼ灌流法により肝細胞を分離する方法がある。例えばラットの場合、門脈よりカニューレを入れ、37度に加温したリン酸緩衝液(前還流液)で脱血し、次に37度に加温したコラゲナーゼ溶液でコラーゲンを分解して細胞のみを回収する方法を利用できる。
「胎児から採取された、細胞または生体組織」は、市販されているものがある。セルバンク等から入手可能である。例えば、株式会社ベリタスから入手することができる。

【0026】
「相関係数(correlation coefficient)」とは、2つの確率変数の間の相関(類似性の度合い)を示す統計学的指標である。原則、単位は無く、-1から1の間の実数値をとり、1に近いときは2つの確率変数には正の相関があるといい、-1に近ければ負の相関があるという。0(ゼロ)に近いときはもとの確率変数の相関は弱い。1もしくは-1となる場合は2つの確率変数は線形従属の関係にある。一般に、単に相関係数といえば、ピアソンの積率相関係数(Pearson product-moment correlation coefficient)をさす。これの検定には偏差の正規分布を仮定する(パラメトリック)方法であるが、他にこのような仮定を置かないノンパラメトリックな方法として、スピアマンの順位相関係数、ケンドールの順位相関係数なども一般に用いられる。

【0027】
「ピアソンの積率相関係数」とは、2変数XY間の直線的関係について調べるものである。ピアソンの積率相関係数は小文字rで表現され、-1≦r≦1の範囲を取る。+(プラス)は正の相関であることを意味し、一方が増加することでもう一方も増加する正の関係性を表す。また、-(マイナス)の場合は負の相関であることを意味し、一方が増加することでもう一方は減少する負の関係性を表す。

【0028】
*複数の機能の説明
複数の機能は、組織構造体が有する機能、言い換えると、組織構造体から検出可能な機能である。一実施形態では、例えば、遺伝子発現量、タンパク質量によって測定できる機能を用い、特に、幹細胞由来三胚葉細胞から組織構造体に分化するときに、変動する機能を用いる。具体的には、組織構造体が有する機能のうち、胎児から採取された細胞と成体から採取された細胞とが有する機能を比較したときに、機能の量が変動する機能を用いる。そして、組織構造体は、胎児から採取された細胞より成体から採取された細胞に近い機能の量を有する構造体が選択(抽出)される。
ここで、胎児から採取された細胞は、胎児から採取された細胞とその生体組織とを含み、成体から採取された細胞は、成体から採取された細胞とその生体組織とを含む。

【0029】
例えば、複数の機能は、10種類以上の遺伝子の発現量を用いることができる。
遺伝子種を選択する場合は、器官芽の遺伝子発現量に対し組織構造体の遺伝子発現量が2倍以上変動する遺伝子種を含む。タンパク種を選択する場合は、器官芽のタンパク量に対し組織構造体のタンパク量が20%以上変動するタンパク種を含む。
または、10種類以上の遺伝子が、幹細胞由来三胚葉細胞の遺伝子発現量に対し、組織構造体の遺伝子発現量が2倍以上変動する遺伝子を含む。より具体的には、遺伝子発現量は、全ての遺伝子断片が固定されているDNAチップを用いて解析された値を用いる。そして、10種類以上の遺伝子は、幹細胞由来三胚葉細胞の遺伝子発現量に対し、組織構造体の遺伝子発現量が2倍以上変動するすべての遺伝子を含む。
10種類以上の遺伝子の発現量を用いるのは、遺伝子の発現量によって組織構造体が幹細胞由来三胚葉細胞から成熟したことを判定するための数を設定したものである。
別の例として、複数の機能は、10種類以上のタンパク質について測定したタンパク質量を用いることができる。この場合、幹細胞由来三胚葉細胞及び組織構造体のタンパク質量を測定したときに、10種類以上のタンパク質が、幹細胞由来三胚葉細胞のタンパク質量に対し組織構造体のタンパク量が20%以上変動する全てのタンパク質を含む。
なお、複数の機能は、上述した具体例に限られることはない。複数の機能は、任意の装置で機能の量や大きさが測定できるものや要素などであればよい。加えて、幹細胞由来三胚葉細胞または器官芽が組織構造体に分化・成熟するときに、機能の量や大きさを測定または解析した値(測定値、解析値)が変動するものであればよく、特に2倍以上に変動するものであれば好ましい。

【0030】
*複数の機能の測定(検出)について
複数の機能については、採用する機能を測定する機器を用いて測定する。
遺伝子発現量は、例えば遺伝子マイクロアレイ解析装置を用いて解析することができる。遺伝子解析では、例えば、遺伝子解析法のひとつであるチップでの解析を用いることができ、一例が以下のURLで紹介されている。
http://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1002411
http://www.gelifesciences.co.jp/newsletter/biodirect_mail/technical_tips/tips21.html(GEのマイクロアレイに関する原理説明)
タンパク質量は、例えばタンパク質アレイ解析装置を用いて測定することができる。タンパク質解析では、一例が以下のURLで紹介されている。
http://www.filgen.jp/Product/Bioscience2/index.htm
http://www.filgen.jp/Product/BioScience22-MS/index2.htm
加えて、目的臓器で特徴的に発現する遺伝子やタンパク質が分かっている場合には、特定の遺伝子発現量やタンパク質量について分析して、2倍以上変動するか検証することができる。目的臓器で特徴的な機能の種類が10個以上存在することが好ましい。
上記のような方法で網羅的に分析して2倍以上変動するものが10個以上あることがより好ましい。

【0031】
肝組織の性質をもつ組織構造体の場合、アフィメトリクス社から販売しているDMET(登録商標)Plusを用いて肝組織に特徴的な遺伝子種全てまたはこれらから選択することができる。
膵臓の性質、特に膵島β細胞を含む組織構造体の場合、非特許文献4や5に挙げられている胎児と成体組織で変動する遺伝子種またはタンパク種全てまたはこれらから選択することができる。

【0032】
上述した方法で複数の機能について測定値(解析値)し検定を行う。検定に用いる遺伝子発現量は、選択した遺伝子の発現量をハウスキーピング遺伝子の発現量を、GAPDH(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase),β-アクチン,β2-マイクログロブリン,HPRT 1(hypoxanthine phosphoribosyltransferase 1)で割って正規化した値を測定値(解析値)として用いることができる。または、Shiftile法といった、方法を用いて正規化した値を測定値(解析値)としてもよい。本発明で用いている遺伝子発現量は特に記載がない場合、このようにして正規化した値のことをいう。タンパク質量の場合も、選択された複数の機能のタンパク量をアルブミン量で割った値、もしくは選択された複数の機能のタンパク量を総タンパク量で割った値を測定値として用いることができる。

【0033】
*組織構造体の作製方法
組織構造体は、血管細胞、間葉系細胞、血管細胞から分泌される因子、間葉系細胞から分泌される因子、血管細胞と間葉系細胞の両方が存在することによって分泌される因子からなる群より選択される少なくとも1つの細胞及び/又は因子とともに、幹細胞由来三胚葉細胞を共培養することによって作製する。
詳細には、一実施形態の組織構造体の作製方法は、例えば、少なくとも二種類(好ましくは三種類)の細胞を共培養して分化した細胞を形成させ、さらに共培養を継続することによって形成した分化した細胞をさらに成熟させた培養形成物を得て、複数の機能を生じさせる。そして、培養形成物のうち、複数の機能を有するものを組織構造体として抽出する。
「共培養」とは、一般には、一緒に培養する2種あるいはそれ以上の異なる種類の細胞を混合し、細胞を培養することをいう。

【0034】
また、一実施形態の共培養は、凝集体を形成させる工程、形成した凝集体を共培養して分化させる工程、さらに培養を行い分化した細胞を成熟化させる工程、を含む。ここでは説明を容易にするため、凝集体を共培養して器官芽を形成させ、器官芽を成熟させて組織構造体を作製する場合を一例として説明する。しかしながら、上述したように、分化した細胞は、器官芽に限られることなく、凝集体を分化させて形成される細胞や組織を含むことは言うまでもない。
以下で説明する共培養は、(1)凝集体を形成させる工程、(2)器官芽を形成させる工程、(3)培養を行い成熟化させる工程、を含む。
以下、各工程について説明する。

【0035】
(1)凝集体を形成させる工程(凝集体形成工程)
凝集体を形成させる工程は、幹細胞由来三胚葉細胞として用いる凝集体を形成する。

【0036】
凝集体の形成方法としては、ハンギングドロップ法として知られている液滴中にスフェロイドを形成させる方法、培養容器底面にナノオーダのピラーやメッシュ構造の凹凸を有する容器を用いる方法、ローラーボトルを攪拌しながら培地中に細胞を浮遊させた状態でスフェロイドを形成させる方法、アガロースやマトリゲルなどのゲル上で培養する方法、さらには、細胞非接着処理が施された培養容器を用いて静置してスフェロイドを形成させる方法など、様々な方法が知られており、これらいずれの方法を用いても良い。具体的な手法については、様々な文献で紹介されており、例えば、非特許文献5及び非特許文献6)に紹介されている。

【0037】
(2)器官芽を形成させる工程(器官芽形成工程)
器官芽を形成させる工程は、三種類の細胞、血管細胞、幹細胞由来三胚葉細胞及び間葉系細胞を共培養して器官芽を形成させる。

【0038】
共培養における三種類の細胞の培養比は器官芽が形成できる範囲内であれば特に限定されないが、好適な細胞の数比は、幹細胞由来三胚葉細胞:血管細胞:間葉系細胞=10:10~5:2~1である。

【0039】
また、血管細胞と間葉系細胞のいずれか一方又は両方は、血管細胞から分泌される因子、間葉系細胞から分泌される因子、血管細胞と間葉系細胞の両方が存在することによって分泌される因子などの物質で代替することもできる。

【0040】
血管細胞から分泌される因子、間葉系細胞から分泌される因子、及び血管細胞と間葉系細胞の両方が存在することによって分泌される因子などの物質の例としては、FGF2、FGF5、BMF4、BMP6、CTGFなどを例示することができるが、これらに限定されることはない。

【0041】
これらの物質の添加量としては、FGF2については、細胞1x10^6個当たり、10~100ng/mlが適当であり、20ng/ml程度が好ましく、BMF4については、細胞1x10^6個当たり、10~100ng/mlが適当であり、20ng/ml程度が好ましい。

【0042】
培養の際に使用する培地は、組織構造体が形成されるものであればどのようなものでもよいが、培養用の培地、幹細胞(ES細胞やiPS細胞培養用)培養用の培地、前記2つの培地を混合したものなどを使用することが好ましい。血管細胞培養用の培地はどのようなものを使用してもよいが、hEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、ヒドロコルチゾン、bFGF、アスコルビン酸、IGF1、FBS、Antibiotics(例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシンBなど)、Heparin、L-Glutamine、Phenolred、BBEの少なくとも1種を含むものを使用するのが好ましい。血管細胞培養用の培地としては、EGM-2 BulletKit(Lonza社製)、EGM BulletKit(Lonza社製)、VascuLife EnGS Comp Kit(LCT社製)、Human Endothelial-SFM Basal Growth Medium(Invitrogen社製)、ヒト微小血管内皮細胞増殖培地(TOYOBO社製)などを用いることができる。幹細胞由来三胚葉細胞培養用の培地はどのようなものを使用してもよいが、目的とする組織構造体が肝臓組織である場合、肝細胞培養用の培地を用いることが好ましく、ascorbic acid、BSA- FAF、insulin、hydrocortisone、GA-1000の少なくとも1種を含むもの、または、肝細胞培養用の培地として市販されているHCM BulletKit(Lonza社製)からhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたもの、RPMI1640(Sigma-Aldrich社製)に1% B27 Supplements (GIBCO社製) と 10ng/mL hHGF (Sigma-Aldrich社製)を添加した培地などを用いることが好ましい。より好ましくはGM BulletKit(Lonza社製)とHCM BulletKit(Lonza社製)よりhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたものを1:1で混ぜたものに、Dexamethasone、Oncostatin M、HGFを添加したものを用いる。

【0043】
培養時の温度は特に限定されないが、30~40℃とするのが好ましく、37℃とするのが更に好ましい。

【0044】
培養期間は特に限定されないが、3~50日とするのが好ましく、15日とするのが更に好ましい。

【0045】
(3)培養を行い成熟化させる工程(成熟化工程)
成熟化工程では、形成した器官芽を成熟させて培養形成物(組織構造体候補:下記組織構造体作製容器で培養した培養形成物を指す)を形成する。言い換えると、培養形成物を形成し、複数の機能を検定して適切な(要件を満たす)培養形成物を組織構造体とする。
例えば、組織構造体を形成させるために使用する培養容器(組織構造体作製容器)と同じスケール、スケールダウンまたはスケールアップした培養容器(試験容器)を別途用意する。試験容器の培養は、組織構造体作製容器の場合と同じ培地の組成、播種密度、培地交換頻度、細胞と培地量の比率とする。そして試験容器で作製された培養形成物を用いて遺伝子発現量の測定行う。複数の機能が、10種類以上の遺伝子の発現量であり、10種類以上の遺伝子が、幹細胞由来三胚葉細胞の遺伝子発現量に対し、組織構造体の遺伝子発現量が2倍以上変動する遺伝子を抽出する。
抽出した遺伝子種について、試験容器で作製された培養形成物、胎児から採取された細胞または生体組織、成体から採取された細胞または生体組織の遺伝子発現量を測定、判定に用いる。即ち、試験容器で培養した培養形成物の判定結果を、組織構造体作製容器で作製された培養形成物の判定結果に置き換えることができる。
上記はセルスタックやフラスコを組織構造体作製容器に使用、ディッシュや小さいフラスコ(24cm^2)を試験容器として使用した場合を想定している。ウェルプレートの場合は異なるウェルを試験容器(言い換えると、試験ウェル)として取り扱うことができる。
成熟化工程において、使用する培地は所望する組織用の培地を用いることが好ましく、血管細胞用の培地や幹細胞用の培地を混合することが好ましい。

【0046】
(4)判定方法について、
成体との類似性を評価する方法であり、成体に近い機能を有することが前提であることから、成体から採取された細胞または生体組織と、組織構造体の遺伝子発現量は正の相関を示す。負の相関を示した場合は、成熟化が不十分であり成体に近くないと判定する。即ち、成体から採取された細胞または生体組織と組織構造体の遺伝子発現量は正相関を示すことが必要条件である。以下の[a]、[b]との間に、[a]が[b]より小さく、かつ[b]が1より小さい関係(言い換えると、式[a]<[b]<1を満たす関係)が得られれば組織構造体候補を組織構造体と認定する。
[a]「生体から採取された細胞または生体組織の遺伝子発現量」と「培養形成物(試験容器)の遺伝子発現量」の相関係数が正である、かつ、「胎児から採取された細胞または生体組織の遺伝子発現量」と「培養形成物(試験容器)の遺伝子発現量」の相関係数
[b]「生体から採取された細胞または生体組織の遺伝子発現量」と「培養形成物(試験容器)の遺伝子発現量」の相関係数

【0047】
ピアソンの相関係数を算出する方法として、作業を効率的に行うため(例えば、数百遺伝子を検定するような場合を想定)にはインフォマティクス用のソフトウェアを使用することが好ましい。ソフトウェアとしては、例えば、Gene spring、Subioを用いることが好ましい。またはマイクロソフト社のエクセルソフトを用いて検定することができる。

【0048】
器官芽形成工程及び成熟化工程では、培養容器を用いて、凝集体(スフェロイド)を培養する。また、凝集体形成工程においても培養容器を用い、細胞を培養または成熟させるすべての工程において培養容器を用いてもよい。
凝集体形成工程、器官芽形成工程、成熟化工程において、細胞同士が結合して凝集していることが好ましい。また凝集体形成工程、器官芽形成工程、成熟化工程において、細胞同士が結合してスフェロイド形状の塊が形成されていることが好ましい。さらに加えて、細胞同士が形成するスフェロイドの直径が50μm~2mmであることが好ましい。

【0049】
培養容器は例えば次の構成を有するものを用いる。
<培養容器>
図1は、一実施形態の培養容器の一例を示す図である。図1では、複数の培養容器1を有する培養プレート3の一部分を示す。図1の上段には、培養容器1の底に形成される複数の凹み10の一部分を、培養プレート3の上からみた図を示す。培養容器1は、複数の凹み10が配置される。複数の凹み10は、培養容器1の製造や細胞培養の効率の観点から、規則的に配置されることが好ましい。培養容器1は例えば複数のウェルを有するウェルプレートの一つのウェルに相当する。言い換えると、ウェルプレートの各ウェルに複数の凹み10が配置されることになる。
ウェルプレートは、多数のくぼみ(穴またはウェル)のついた平板からなる実験・検査器具であり、各ウェルを試験管あるいはシャーレとして利用するものをいう。ウェルの数には例えば、6、24、96、384などがあり、それ以上の数のものもある。ウェルの底は平らなもの、丸いもののほか、細長いマイクロチューブを多数組み合わせた形式のもの(ディープウェルプレート)もある。
図2、3は、実施形態1の凹みの形状例を示す図である。図2では、一つの凹み10を横から見たときの断面図を示し、図3は、一つの凹み10を上から見たときの図を示す。
各凹み10は、底部11と開口部12とから構成される。底部11は、培養容器1の底になる部分であり、開口部12は、底部11の上部に配置される部分である。底部11と開口部12とが接する部分を境界と記載する。図2では、符号Rの矢印で示す長さの部分が境界の位置に対応する。また、図3では、境界の位置を2点破線で示している。ただし、底部11と開口部12とは連続した面で構成され、一体として製造される。

【0050】
図2,3では、培養容器1に形成される複数の凹み10に関して、相当直径R、深さ(高さ)H、を示す。
相当直径Rは、凹み10の底部11に内接する内接円の直径をいう。ここでは、底部11と開口部12との境界において内接する内接円の直径をいう。より詳しくは、相当直径Rは、境界における、凹み10の高さHの方向と垂直になる面の形状の内接円の直径をいう。
深さHは、底部11の内側の底から凹み10の上端までの長さである。凹みの10の上端は、開口部12の端部(上端)と同じである。深さHは、凹み10が形成する空間の深さである。言い換えると、底部11が形成する空間の底から開口部12が形成する空間の上端までの深さである。図2では凹み10の深さHに加え、底部11の深さH1及び開口部12の深さH2を示している。

【0051】
底部11は、細胞を培養する空間(第1空間)を形成する。底部11は、例えば、半球状の形状を有する。例えば、相当直径Rを直径とする球形を半分にした形状を用いることができる。底部11の形状について半球状に限定されるものではない。
開口部12は、細胞の培養及び回収を補助するように働く空間(第2空間)を形成する。開口部12は、底部11との境界から凹み10の端部(先端)までを囲むテーパ角が1度以上20度以下の壁で構成される。開口部12を構成する壁のテーパ角が5度以上15度以下度以下であることが好ましく、10度がより好ましい。その理由は、テーパ角が小さすぎると回収する際に細胞が凹みから培地に移行できず、逆に大きすぎると培地交換中に細胞が離脱するからである。
図2ではテーパ角を符号θ1、θ2で示す。図2,3に示す凹み10の形状例では、テーパ角θ1、θ2は略同じ場合を示している。
底部11と開口部12との境界は、相当直径Rが50μm以上1mm以下となるように形成される。スフェロイドの中心部まで栄養を供給したい場合は相当直径50μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以上500μm以下が好ましい。
加えて、底部の底から端部までの深さHが相当直径Rの0.5倍以上3倍以下となるように形成される。好ましくは、深さHが相当直径Rの0.7倍以上1.2倍以下であり、より好ましくは、0、8~1倍である。

【0052】
また、培養容器は、隣り合う二つの凹み10の間が平坦であることが好ましい。例えば、二つの凹み10の距離が5μmから50μmの範囲であることが好ましい。その理由は、細胞が壁の上にのり、そこで細胞が接着し増殖、スフェロイド形成を阻害することを防ぐ効果がある。ただし、薄い場合は、細胞播種時や培地交換時の振動により容易に亀裂が生じる可能性がある。そのため5μm以上であることが好ましい。このような観点から5~20μmが好ましい。

【0053】
上述した形状に加え、培養容器1は以下のように製造されることが好ましい。
培養容器1が、アクリル系樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、スチレン系樹脂、アクリル・スチレン系共重合樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン・ビニルアルコール系共重合樹脂、熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系樹脂、及びシリコン樹脂のうちの1つまたはこれらの組み合わせからなる樹脂成形品であることが好ましい。

【0054】
培養容器1が有する各凹み10へ、プラズマ処理、ガラスコート、コロナ放電、UVオゾン処理のいいずれかまたはこれら組み合わせからなる表面改質処理方法により官能基を形成させて、水接触角が45度以下になるように処理されることが好ましい。
加えて、各凹み10へ、細胞接着を阻害する親水性のポリマー鎖が固定化されていることが好ましい。親水性のポリマー鎖は、上述した水接触角が45度以下になるように処理された各凹み10へ固定化されることがより好ましい。
さらに加えて、各凹み10へ、リン脂質、または、リン脂質・高分子複合体が固定化されていることが好ましい。この固定化の処理は、上述した水接触角が45度以下になるように処理された各凹み10、親水性のポリマー鎖が固定化された各凹み10、またはこれらを組合せた各凹み10へ実施されることがより好ましい。

【0055】
さらに、各凹み10へ、プラズマ処理、ガラスコート、コロナ放電、UVオゾン処理のいいずれかまたはこれら組み合わせからなる表面改質処理方法により官能基を形成させて、水接触角を45度以下になるように処理した後、細胞接着を阻害する親水性のポリマー鎖、及び、リン脂質、または、リン脂質・高分子複合体のうちのいずれか一つのポリマーが固定化されている細胞非接着表面であることが好ましい。この処理は、上述した各処理、または各処理の組合せた処理とともに実施されることがより好ましい。
また、上述した親水性のポリマー鎖がポリヒドロキシエチルメタクリレートであることが好ましく、さらに、ポリヒドロキシエチルメタクリレートの平均分子量が10万以上であることがより好ましい。

【0056】
培養容器1は、上述した図1-3に示すものに加え、図4,5に示すマイクロパターンを形成した培養容器を用いてもよい。
図4に、一実施形態で用いる培養容器の他の形状例を示す。図5は、図4に示す培養容器のV-V線断面図である。
培養容器30は、培養空間31と、壁32と、底部33とを有する。
培養空間31は、壁32と底部33とで仕切られた領域であり、細胞を培養する三次元の空間領域(培養領域)となる。培養空間31は、単に「空間」、または「マイクロ空間」とも称する。
壁32は、培養空間31を仕切る隔壁であり、培養容器30に凹凸パターンを形成する凸部ともいえる。
底部33は、培養容器30の基板として機能するとともに、培養空間31が配置される側の表面は、培養領域(培養表面)の一部となる。底部33は、例えば、図1の培養プレートに形成された各ウェルの底部と同じ領域であり、各ウェルの底部が用いられる。底部33は、培養空間31の底を形成する。底部33のうち、培養空間31を形成する面の一部分であり、かつ、培養領域となる底部の表面を、「底部培養面34」とも称する。

【0057】
図4,5では、培養容器30に形成される培養空間31に関して、相当直径D、高さ(深さ)H、壁32の幅(厚さ)W、及び、底部33の厚さTを示す。図4,5では、底部33は、壁32と一体として作製された場合を示している。
相当直径Dは、図2の相当直径Rと同様であり、培養空間31に内接する内接円の直径をいう。より詳しくは、相当直径Dは、培養空間31の底部33と平行する面の形状(正面の形状)、言い換えると、培養空間31の高さHの方向と垂直になる面の形状の内接円の直径をいう。培養空間31の正面の形状が、高さHに応じて異なる場合、株化肝細胞を培養する空間領域の最大値を相当直径とする。
高さHは、培養空間31の底(底部培養面34)から壁32の上面までの長さであり、培養空間31の深さでもあるともいえる。また、底部培養面34が平面の場合、高さHは、壁32の高さと同じである。
壁32の幅Wは、壁32の厚さであるとともに、隣接する培養空間31間を隔てる距離であるともいえる。

【0058】
培養容器30内(言い換えると、各ウェル内)において、複数の培養空間31は、図4に示すようにアレイ状に配置される。培養容器30に含まれる培養空間31の数または大きさは、培養プレートに作製されるウェルの数(ウェルの大きさ)と培養空間31及び壁32の大きさに依存するものである。図4,5では、9個の培養空間31を示している。これは説明のために示したものであり、実際の培養容器30(各ウェル)に含まれる培養空間31の数に対応するものではない。

【0059】
さらに、培養容器に図6に示す凹み20Dを用いてもよい。図6は、底部が線状、言い換えると底部が空間を形成しない凹み20Dの形状例を示す。図6では、上段に凹み20Dを上から見た正面図、下段に断面図を示す。凹み20Dは、開口部12から構成される。

【0060】
凝集体は、上述した培養容器1の各凹み10内で共培養する。凹み10は、マイクロ容器とも記載する。
上述した事項に加え凹み10は、次のように構成されることが好ましい。
凹み10は、相当直径が20μm以上2.5mm以下、深さが20μm以上2.5mm以下であることが好ましい。
組織構造体を、培養表面が細胞非接着表面である培養容器を用いて培養することが好ましい。
培養表面が、リン脂質、リン脂質・高分子複合体、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリビニルアルコール、アガロース、キトサン、ポリエチレングリコール、及びアルブミン、のグループから選択される一つまたはこれら組合せからなるポリマーが細胞と接触する培養面にコートされている培養容器1であることが好ましい。

【0061】
血管細胞:幹細胞由来の内胚葉、外胚葉または中胚葉細胞:間葉系細胞を、10:7~10:1~2の割合で共培養し、かつ、凹み10(マイクロ容器)1個あたり20個~2000個となる密度で細胞を播種することが好ましい。
凹み10が、底部11と開口部12とから構成されており、開口部12が、底部11との境界から端部までを囲むテーパ角1度以上20度以下の壁で構成され、底部11が、半球状と円錐台とのいずれかの形状を有することが好ましい。

【0062】
以上のようにして作製した組織構造体は、創薬スクリーニングや再生医療などに使用することができる。

【0063】
さらに、本発明は、上記の方法によって作製された組織構造体を用いて、薬剤を評価する方法も提供する。薬剤の評価としては、例えば、薬の候補化合物の薬物代謝プロファイルの予測、薬効評価、毒性評価、薬物相互作用評価などを挙げることができる。

【0064】
[実施例]
[実験方法]
(1)幹細胞由来三胚葉細胞の作製
ヒトiPS細胞(ヒト皮膚由来TkDA3 hiPSCクローン(Koji Eto氏及び Hiromitsu Nakauchi氏より譲渡))を無血清培地にアクチビンを添加して培養することで、CXCR4及びE-cadherin両陽性の内胚葉系細胞を誘導した。得られた内胚葉系細胞をBMP4、FGF2を添加して2日間培養することで、CXCR4陰性 HNF4α陽性の肝臓内胚葉集団を得た。CXCR4及びHNF4αの発現は、Hepatology, 51(1), 297-305,2010の記載に従い、免疫染色及び遺伝子発現解析により確認した。

【0065】
(2)組織構造体の作製
細胞播種割合:得られた肝臓内胚葉細胞を、血管内皮細胞(ヒト臍帯血由来静脈内皮細胞)(Lonza、Basel、Switzerland)及び未分化間葉系細胞(ヒト間葉系幹細胞)(Lonza、Basel、Switzerland)を各々10:5-10:2の割合で混合し、細胞溶液を作製した。血管内皮細胞および未分化間葉系細胞は、各々蛍光標識を行ったものを用いた。
培地:培養液は、内皮細胞培地キット-2:EGM-2 BulletKit(製品コード CC-3162:Lonza)または、内皮細胞培地キット:EGM BulletKit(製品コード CC-3124:Lonza)を用いた。
培養方法:実施例及び比較例ともに上述した細胞溶液と培地を用いた。

【0066】
<実施例>
図1~3において、相当直径が500μm、深さが500μmの凹み(空間)を有する24ウェルプレートの培養容器を使用した。細胞接着性を抑制するため細胞が接触する培養表面にp-HEMAをコートした。
3日間~15日間培養を行ったところ凝集体が形成された。培養15日目に凝集体(培養形成物)を回収し遺伝子発現解析を行った。このとき、凝集体は2mm以下であった。

【0067】
<比較例>
マトリゲルコートしたφ3cmディッシュを用いた。
原液ないし2倍希釈のマトリゲル(BD pharmingen)の固相化を行った培養皿の上へ細胞懸濁液を播種した。
3日間~15日間培養を行ったところ凝集体が形成された。凝集体の大きさが2mm以上となりこれ以降培養すると、中心部に栄養分が供給されず壊死することから、凝集体の直径が2mmになった時点で培養を終了した。このようにして作製した培養形成物の遺伝子発現解析を行った。

【0068】
(3)複数の機能の検定
1、複数の機能の値の選択
セルバンクから入手したiPS細胞、10週齢胎児由来の肝細胞及び30歳の成人由来の肝細胞を用いて、遺伝子発現量をGeneChip(アジレント・テクノロジー株式会社;Whole Human Genome DNA マイクロアレイ 4x44K v2 G4845A)を用いて網羅的に解析した(以下、成体由来の肝細胞の遺伝子発現量の値を"値B"、胎児由来の肝細胞の遺伝子発現量の値を"値C"とする)。成熟するにつれ(iPS細胞→胎児由来の肝細胞→成体由来の肝細胞)遺伝子発現量が上昇するヒトで発現する遺伝子種70遺伝子を抽出した(表1-1から表1-3)。さらに、特許文献3に従って作製した肝芽の遺伝子発現量(値A)と実施例の組織構造体の遺伝子発現量(値D)を算出した。値A対して値Dが2倍以上、10倍以上及び100倍以上上昇する遺伝種をそれぞれ抽出した(表2-1、表2-2)。10倍以上上昇する遺伝子は49遺伝子あった。2倍以上上昇する遺伝子種は61種、100倍以上上昇する遺伝子種は38遺伝子であった。

【0069】
【表1-1】
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【0070】
【表1-2】
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【0071】
【表1-3】
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【0072】
【表2-1】
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【0073】
【表2-2】
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【0074】
2、成体由来の肝細胞の遺伝子発現量の算出
値A、B、C及びDは上述した1、複数機能の値の選択の項で用いた値を用いた。比較例の各種遺伝子発現量を測定した(値E)。尚、ここでいう遺伝子発現量は各サンプルから得られたアレイ結果 (全Probeの値) を75%shiftile値 (75パーセンタイル値) で補正、標準化した値のことを言う。
図7に生体由来の肝細胞、胎児由来の肝細胞、実施例及び比較例について、49遺伝子の遺伝子発現量の値の一部を示した。
検定
表1-1から表1-3に示した49遺伝子について、各種遺伝子発現量を求め、Gene Springを用いてピアソンの積率相関係数を算出した。

【0075】
(4)結果
<実施例>
10倍以上変動する遺伝子 49遺伝子
(値C)と(値D)の相関係数は0.4757であった
(値B)と(値D)の相関係数は0.6314であった
図7に散布図を示した。
よって値Bの成体の肝細胞のほうが1に近いことから組織構造体と認定することができた。
<比較例>
10倍以上変動する遺伝子 49遺伝子
(値C)と(値E)の相関係数は-0.5000であった
(値B)と(値E)の相関係数は-0.3496であった
生体から採取された細胞の遺伝子発現量(値B)と比較例の遺伝子発現量の相関係数は負の相関を示した。このことから、必要条件である"正の相関"の条件を満たさない、組織構造体と認定できない。

【0076】
この出願は、2013年6月10日に出願された日本出願特願2013-122190を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0077】
1、30 培養容器
3 培養プレート
10、20D 凹み
11 底部
12 開口部
31 培養空間
32 壁
33 底部
34 底部培養面
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6