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明細書 :超分子複合体、発光体、および有機化合物検出用のセンサー素子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6311093号 (P6311093)
登録日 平成30年3月30日(2018.3.30)
発行日 平成30年4月18日(2018.4.18)
発明の名称または考案の名称 超分子複合体、発光体、および有機化合物検出用のセンサー素子
国際特許分類 C07F   5/02        (2006.01)
C07C  15/04        (2006.01)
C07C  15/06        (2006.01)
C07C  15/08        (2006.01)
C07C  15/02        (2006.01)
C07C  25/13        (2006.01)
C07C  25/02        (2006.01)
C07C  43/205       (2006.01)
C09K  11/06        (2006.01)
C07D 471/06        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
FI C07F 5/02 CSPA
C07C 15/04
C07C 15/06
C07C 15/08
C07C 15/02
C07C 25/13
C07C 25/02
C07C 43/205 Z
C09K 11/06 660
C07D 471/06
G01N 21/78 Z
請求項の数または発明の数 10
全頁数 19
出願番号 特願2015-504462 (P2015-504462)
出願日 平成26年3月7日(2014.3.7)
国際出願番号 PCT/JP2014/056070
国際公開番号 WO2014/136972
国際公開日 平成26年9月12日(2014.9.12)
優先権出願番号 2013045908
優先日 平成25年3月7日(2013.3.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年3月3日(2017.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】小野 利和
【氏名】久枝 良雄
【氏名】畠中 創
個別代理人の代理人 【識別番号】100099634、【弁理士】、【氏名又は名称】平井 安雄
審査官 【審査官】水島 英一郎
参考文献・文献 特開2011-256122(JP,A)
調査した分野 C07F
C07C
C07D
C09K
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の一般式(I-1)または一般式(I-2)で表される芳香族ジイミド化合物または芳香族イミド化合物からなるルイス塩基と、下記の一般式(II-1)で表される3級ホウ素化合物からなるルイス酸と、置換されていてもよいベンゼン、ナフタレン、アントラセン、またはピレンからなる溶媒分子とから構成され、該ルイス塩基に含まれる窒素原子と該ルイス酸に含まれるホウ素原子とが配位結合して構成されていることを特徴とする超分子複合体。
【化1】
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(式中、環Aは、置換基を有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素環を表し、単環でも複環でもよく、RおよびRは、互いに独立して、炭素数1~10のアルキル鎖で連結されていてもよい、置換もしくは非置換の、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、トリアジル基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基、イソチアゾール基、イソオキサゾール基、フラザン基、チアジアゾール基、トリアゾール基、テトラゾール基、インドール基、もしくはベンゾニトリル基;炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基もしくはフルオロ基で置換されていてもよい、アニリン基、もしくはアミノ基;ニトリル基を表す。)
【化2】
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(上記式中、Rは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、イソプロピル基を含む炭素数3~10からなるアルキル基またはフェニル基、ペンタフルオロフェニル基を含むアリール基を表す。
【請求項2】
ルイス塩基が、前記一般式(I-1)で表される芳香族ジイミド化合物であることを特徴とする請求項1に記載の超分子複合体。
【請求項3】
およびRは、互いに独立して、ピリジル基またはピリミジル基であり、Rが、フッ素原子で置換されていてもよいフェニル基であることを特徴とする請求項1に記載の超分子複合体。
【請求項4】
ルイス塩基が、前記一般式(I-1)で表される芳香族ジイミド化合物であり、RおよびRは、互いに独立して、ピリジル基またはピリミジル基であり、
ルイス酸が、前記一般式(II-1)で表される3級ホウ素化合物からなり、Rが、フッ素原子で置換されていてもよいフェニル基であることを特徴とする請求項1~請求項3に記載の超分子複合体。
【請求項5】
ルイス塩基が、ピリジル基またはピリミジル基で置換された、ピロメリット酸ジイミド化合物、ナフタレンジイミド化合物、およびペリレンジイミド化合物から構成される群から選択されることを特徴とする請求項4に記載の超分子複合体。
【請求項6】
ルイス塩基が、ピリジル基で置換された、ピロメリット酸ジイミド化合物、またはナフタレンジイミド化合物であることを特徴とする請求項5に記載の超分子複合体。
【請求項7】
ルイス酸が、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランであることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の超分子複合体。
【請求項8】
溶媒分子が、ベンゼン、トルエン、キシレン、フルオロトルエン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、アニソール、メチルアニソール、ヨードベンゼン、フルオロベンゼン、およびジフルオロベンゼンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の超分子複合体。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の超分子複合体を含む発光体。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載の超分子複合体からなるセンサー素子であって、被験対象となる溶液が溶媒分子として導入され、当該導入された溶媒分子に対応する色彩で呈色することを特徴とするセンサー素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性材料の技術分野に属し、特に、複数の分子を複合して構成される超分子複合体(超分子化合物)に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光により発光性が得られる発光材料は、主に有機EL材料等の電子デバイス用部品として広く利用されている。例えば、発光性ビス(アジニル)メテンホウ素錯体化合物を含有する発光層を含むOLEDデバイス(特許文献1参照)、青色発光ルミネッセンス化合物であるホウ素化合物(特許文献2参照)、ピレン化合物とビス(アジニル)アゼン骨格を有するホウ素錯体とを含有する発光素子(特許文献3参照)などがある。
【0003】
近年、このような従来の電子デバイス用の発光材料として、優れた光学特性および電気化学特性をもつπ共役分子を利用できる発光材料の実現が期待されている。π共役分子は、分子内でπ電子が非局在化されることによって、高い吸光度、広い吸収領域、豊富な波長選択性という優れた特性を有する。このπ共役分子を利用する発光については、例えば、ナフタレンジイミドと芳香族分子(トルエンなど)が、溶媒中で相互作用し、励起錯体発光(エキサイプレックス)を観測することが示されている(非特許文献1)。しかし、この発光は固体中ではなく溶液中での発光であり、さらには絶対発光量子収率は1%以下という低いものである。
【0004】
上記の溶液中での発光とは異なり、π共役分子の特性を活かして、充分な発光強度を得るために、複数の分子から構成される固体の超分子複合体も開示されている。例えば、多孔性金属錯体を用いて、ナフタレンジイミドと芳香族分子(トルエン、ベンゼン、キシレンなど)を結晶中で相互作用させることで、励起錯体発光(エキサイプレックス)を示す固体発光材料がある(非特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2007-524238号公報
【特許文献2】特表2006-520772号公報
【特許文献3】特開2009-10181号公報
【0006】

【非特許文献1】T. C. Barros, S. Brochsztain, V. G. Toscano, P. B. Filho, M. J. Politi, J. Photochem.Photobio. A 111, 97, (1997).
【非特許文献2】Y. Takashima, V. M. Martinez, S. Furukawa, M. Kondo, S. Shimomura, H. Uehara, M.Nakahama, K, Sugimoto, S. Kitagawa, Nat. Commun., 2, 168, (2011)
【非特許文献3】http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2010/110126_1.htm
【非特許文献4】V. M. Martinez, S. Furukawa, Y. Takashima, I. L. Arbeloa, S.Kitagawa, J. Phys. Chem.C 116, 26084, (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、該固体発光材料における絶対発光量子収率は、最大で22%という低い値にとどまっている。このように、π共役分子は、特に固体中ではその優れた特性を十分に発揮できないことが知られている。
【0008】
さらに、該固体発光材料では、次のような理由により、実用上、多くの問題がある。まず、重金属を用いることから、取り扱いが容易ではなく環境負荷も大きい。さらには、該固体発光材料を得る為に、硝酸亜鉛、テレフタル酸、ナフタレンジイミドをジメチルホルムアミドに溶解させ、95℃ で3日間にわたって反応させることで結晶を取得すること、溶媒分子(ジメチルホルムアミド)を取り除くこと、および、ゲスト分子(トルエン、ベンゼン、キシレンなど)を取り込ませること、という煩雑な複数の工程を経る必要がある。
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決すべく、重金属を用いることなく、さらには簡便な操作によって、複数の構成成分から形成される優れた発光特性を有する超分子複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、窒素原子(N)間とホウ素原子(B)間に働く強い分子間相互作用による配位結合(窒素-ホウ素結合:N-B 結合)に着目したところ、該分子相互作用を活用することによって、固体状態で優れた発光特性を発揮する超分子複合体(包接結晶ともいう)を見出した。また、該超分子複合体は、従来のような重金属を必要としないことのみならず、上記の複数成分を、単に混合するのみという極めて簡便な手法で得られることも見出した。
【0011】
かくして、本発明では、芳香族ジイミド化合物または芳香族イミド化合物からなるルイス塩基(ホスト分子;電子受容体)と、3級ホウ素化合物からなるルイス酸と、置換されていてもよいベンゼン、ナフタレン、アントラセン、またはピレンからなる溶媒分子(ゲスト分子;電子供与体)とから構成され、該ルイス塩基に含まれる窒素原子と該ルイス酸に含まれるホウ素原子とが配位結合して構成されていることを特徴とする超分子複合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る超分子複合体(包接結晶)の写真と元素分析の結果を示す(分子構造は溶媒分子の種類を示す)。
【図2】本発明に係る超分子複合体(包接結晶)の熱重量分析(TG)の結果 (昇温10℃/min)を示す(分子構造は溶媒分子の種類を示している)。
【図3】本発明に係る超分子複合体(包接結晶)(溶媒分子トルエン)に関する単結晶X 線構造解析の結果を示す。
【図4】本発明に係る超分子複合体(包接結晶)に対する粉末X 線回折測定の結果を示す。
【図5】(a)本発明に係る超分子複合体(包接結晶)の固体状態における発光スペクトル測定の結果を示す。(b)本発明に係る超分子複合体(包接結晶)のセンサーとして得られた発光スペクトル測定の結果を示す。
【図6】p-NDIの1H NMRスペクトル(溶媒CF3COOD )の結果を示す。(上段:全体図、下段:拡大図)
【図7】本発明に係る超分子複合体(包接結晶)の固体状態における発光スペクトル測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(ルイス塩基)
本発明の超分子複合体を構成するルイス塩基を構成する芳香族ジイミド化合物または芳香族イミド化合物は、各々、下記の一般式(I-1)または一般式(I-2)で表すことができる。

【0014】
【化1】
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【0015】
上記式中、環Aは、置換基を有してもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素環を表し、単環でも複環でもよく、RおよびRは、互いに独立して、炭素数1~10のアルキル鎖で連結されていてもよい、置換もしくは非置換の、ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、トリアジル基、ピロール基、イミダゾール基、ピラゾール基、イソチアゾール基、イソオキサゾール基、フラザン基、チアジアゾール基、トリアゾール基、テトラゾール基、インドール基、もしくはベンゾニトリル基;炭素数1~10の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基もしくはフルオロ基で置換されていてもよい、アニリン基、もしくはアミノ基;ニトリル基を表す。

【0016】
環Aとしては、1~4員環の芳香族炭化水素環が好ましく、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ペリレン環を用いることができる。すなわち、ルイス塩基の例としては、以下の式(a-1)~(a-6)で表される化合物を挙げることができるが、溶媒分子を取込みやすい点から、式(a-1)~(a-3)で表されるような、嵩高いジイミド化合物を用いることが、より好ましい。

【0017】
【化2】
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【0018】
上記化合物に含まれるRおよびRは、上記で既に記載したものと同一である。なお、このRおよびRの例としては、以下の式(b-1)~(b-25)で表される置換基を挙げることができるが、取扱いの容易さから、以下の式(b-1)~(b-6)で表される、ピリジル基またはピリミジル基であることが好ましい。より好ましくは、以下の式(b-1)~(b-3)で表される、ピリジル基である。

【0019】
【化3】
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(上記式中、Rは炭素数1~10であり、mは炭素数1~10である)

【0020】
以上の点から、本願発明に用いられるルイス塩基としては、ピリジル基またはピリミジル基で置換された、ピロメリット酸ジイミド化合物、ナフタレンジイミド化合物、またはペリレンジイミド化合物(それぞれ、前記式(a-1)、(a-2)、または(a-3)で表される化合物であって、各式中のRおよびRの双方が、ピリジル基またはピリミジル基であるもの)であることが好ましい。
さらに、取扱いの容易さから、以下の式(c-1)~(c-3)で表されるような、ピリジル基で置換されたナフタレンジイミド化合物、または、以下の式(c-4)~(c-6)で表されるような、ピリジル基で置換されたピロメリット酸ジイミド化合物であることが、より好ましい。

【0021】
【化4】
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【0022】
(ルイス酸)
本発明の超分子複合体を構成するルイス酸を構成する3級ホウ素化合物は、下記の一般式(II-1)または一般式(II-2)で表すことができる。

【0023】
【化5】
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【0024】
上記式中、Rは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、イソプロピル基を含む炭素数3~10からなるアルキル基またはフェニル基、ペンタフルオロフェニル基を含むアリール基を表し、Rは、イソプロピル基または、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基を含むアリール基を表す。

【0025】
すなわち、このようなルイス酸の例としては、以下の式(d-1)~(d-8)で表される化合物を挙げることができるが、このうち、取扱いの容易さから、以下の式(d-1)~(d-6)で表されるような、上記一般式(II-1)に該当する3級ホウ素化合物からなることが好ましい。このうち、嵩高い分子であることが好ましいことから、上記のRは、フッ素原子で置換されていてもよいフェニル基であることが好ましく、例えば、以下の式(d-5)で表されるようなトリフェニルボラン、または以下の式(d-6)で表されるようなトリス(ペンタフルオロフェニルボラン) (TPFB)が好ましく、特に好ましくは、より嵩高い分子であるトリス(ペンタフルオロフェニルボラン) (TPFB)である。

【0026】
【化6】
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【0027】
(溶媒分子)
本発明の超分子複合体を構成する溶媒分子としては、置換されていてもよいベンゼン、ナフタレン、アントラセン、およびピレンが挙げられる。このうち、前記ルイス酸およびルイス塩基の間隙に入り込みやすく、超分子複合体を形成し易いという点から、単環のものが好ましく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、フルオロトルエン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、アニソール、メチルアニソール、ヨードベンゼン、フルオロベンゼン、およびジフルオロベンゼンを挙げることができる。

【0028】
このように、本発明に係る超分子複合体は、上記のルイス塩基(ホスト分子)、ルイス酸、溶媒分子(ゲスト分子)の複数成分により構成されるものであり、従来とは異なり重金属を不要とするものである。さらにこれらの複数成分を単に混ぜるだけで調製することができるという優れた性質を有する。すなわち、本発明に係る超分子複合体は、溶媒分子(ゲスト分子)の種類を変えるだけで、各種の発光波長の異なる、収率および発光時間の優れたものも含む、各種の発光波長を有する、発光体として有用な化合物である超分子複合体である。

【0029】
その調製例としては、構成成分であるルイス塩基(ホスト分子)、ルイス酸、および溶媒分子(ゲスト分子)を混合し、溶媒分子(ゲスト分子)が煮沸する、もしくは100℃まで加熱した後、室温で数分間静置することによって、本発明に係る超分子複合体を粉末状で得ることができる。

【0030】
このようにして得られた本発明に係る超分子複合体(包接結晶)は、これら3つの構成成分、すなわち、ルイス塩基(ホスト分子)、ルイス酸、および溶媒分子(ゲスト分子)の組み合わせによって、様々な異なる発光特性を呈する(後述の実施例参照)。さらに、このような発光特性について、本発明に係る超分子複合体(包接結晶)の大部分は、従来よりも高い絶対発光量子収率を示した。特に、m-フルオロトルエンを溶媒分子(ゲスト分子)とした包接結晶では、40%という高値を示した。この数値は、上述した非特許文献2~4で示された従来の固体発光材料(最大22%)よりも約2倍の発光特性を示すものである。

【0031】
また、ルイス塩基(ホスト分子)とルイス酸の種類を固定して、溶媒分子(ゲスト分子)の種類を様々に入れ替えることによって、各々、異なる発色を呈する超分子複合体(包接結晶)が得られる。例えば、ルイス塩基をピリジル基で置換されたナフタレンジイミド(NDI)とし、ルイス酸をトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(TPFB)とした場合に、芳香族分子を、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、アニソール、ヨードベンゼン、およびフルオロベンゼンの各々に入れ替えた場合、得られた異なる超分子複合体(包接結晶)は、紫外光励起(励起波長330~380nm)によって、各々、青色~赤色の波長領域に含まれる7色(紫、藍、青、緑、黄、橙、赤)の異なる発色を呈することが示されている(後述の実施例参照)。

【0032】
このような優れた発光メカニズムは、未だ詳細には解明されていないが、この3つの構成成分の構造上の組み合わせ、すなわち、超分子複合体(包接結晶)内でルイス塩基(ホスト分子)とルイス酸との分子間に生じている隙間に溶媒分子(ゲスト分子)が密に取り込まれていることと、分子内の窒素およびホウ素の配位結合による強い分子間相互作用の共存によって、超分子複合体(包接結晶)内でルイス塩基(ホスト分子)と溶媒分子(ゲスト分子)による励起錯体発光(エキサイプレックス)が安定的かつ効率的に誘引されやすい状況を形成しているものと推察される。

【0033】
本発明に係る超分子複合体(包接結晶)は、このような優れた特性を活かして、紫外光照射により蛍光を発する照明材料や表示材料として利用することができる。

【0034】
また、該超分子複合体は、上述した発光材料としての用途に限定されない。すなわち、該超分子複合体は、溶媒分子(ゲスト分子)を加熱または減圧(真空引き)することにより、容易に離脱できるという特異な性質も有している。この性質を用いて、該溶媒分子(ゲスト分子)が離脱して形成された超分子複合体を、各種有機化合物(特に、溶媒分子)の種類を検出するための、検出用センサー素子として利用することもできる。

【0035】
この有機化合物検出用のセンサー素子の使用方法は、超分子複合体(包接材料)を調製する前記調製方法と同じく、被検対象の有機化合物を、該センサー素子に単に混ぜ合わせるのみで(その後、煮沸して室温まで冷却してもよい)、溶媒分子(ゲスト分子)の種類に応じた呈色が得られることから、視覚的に容易に該溶媒分子(ゲスト分子)を同定することができる。このように、単に混ぜ合わせるという簡素な操作のみによって、さらに呈色した色を観察するだけで、被検対象の有機化合物を同定できるという極めて簡便な有機化合物検出用のセンサー素子として利用することができる。

【0036】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に示すために実施例を記すが、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。
なお、以下の実施例では、次の機器・装置を使用した。
NMR:AVANCE 500 核磁気共鳴装置((株)ブルカー製)
蛍光スペクトル:F7000形日立蛍光光度計((株)日立ハイテク)
絶対発光量子収率測定装置:絶対PL量子収率測定装置((株)浜松ホトニクス)
発光寿命測定:小型蛍光寿命測定装置Quantaurus-Tau C11367-01 ((株)浜松ホトニクス))
蛍光顕微鏡観察:Leica DM2500(ライカ)
単結晶X線構造解析:CCD単結晶自動X線構造回折装置((株)リガク)
熱重量分析(TG):TG/DTA 7300(SIIナノテクノロジー)
拡散反射電子スペクトル(UV-vis):V670型紫外可視分光光度計((株)日本分光製)
赤外吸収スペクトル(IR):FT-IR 460plus分光光度計((株)日本分光社製)

【0037】
(実施例1)
原料となるルイス塩基の合成

【0038】
【化7】
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【0039】
還流管付き50 mL丸底フラスコに1,4,5,8 ナフタレンテトラカルボン酸二無水和物(2.50g,mmol, 9.32 mmol) 、3-アミノピリジン(1.95g, 20.7 mmol)、ジメチルホルムアミド(DMF)(20mL)を加え、150℃ で6 時間加熱還流を行った。室温まで冷却後、生じた沈殿をろ別し、DMF により再結晶することで黄土色の針状結晶を得た。バキュームオーブン(50℃)で真空下12 時間乾燥させる事で、黄土色の粉末(ナフタレンジイミド: 以下、化合物"1"という)を得た。(3.01g, 7.16mmol 収率: 77 %)。同定は元素分析により行った。Elemental Analysis: Calcd, C=68.57,H=2.88, N=13.33; Found, C=68.16, H=2.88, N=13.30.

【0040】
超分子複合体(包接結晶)の調製

【0041】
【化8】
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【0042】
前記化合物1(50 mg, mmol, 1 eq.)、トリス(ペンタフルオロフェニルボラン) (TPFB) (125 mg, mmol, 2eq.)、トルエン10mL をサンプル管に加えた。ホットプレートにてトルエンが煮沸するまで加熱後、室温にて数分間静置した。生じた沈殿をろ別することで、粉末として超分子複合体(以下、前記化合物"1"とトルエン(溶媒)から得られた超分子複合体を"1⊃Toluene"と表す)を得た(178 mg)。元素分析の結果、前記化合物"1":TPFB:トルエン分子=1:2:2 の組成で構成される包接結晶である事が明らかとなった。その他の芳香族溶媒中(フルオロベンゼン、m-フルオロトルエン、ベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、アニソール、m-メチルアニソール、ヨードベンゼン)においても、前記化合物"1":TPFB:溶媒分子=1:2:2 の組成比である包接結晶(以下、前記化合物"1"と"溶媒(Solvent)"から得られた超分子複合体を"1⊃Solvent"と表す)が得られた。

【0043】
図1では、本発明に係る包接結晶の写真と元素分析の結果を示す(分子構造は溶媒分子の種類を示す)。左上欄から右方向で進んで右下欄まで、ベンゼン(1⊃Benzene)、トルエン(1⊃Toluene)、o-キシレン(1⊃o-Xylene)、m-キシレン(1⊃m-Xylene) 、p- キシレン(1⊃p-Xylene) 、135 トリメチルベンゼン(1⊃1,3,5-Trimetylbenzene)、アニソール(1⊃Anisole)、ヨードベンゼン(1⊃Iodobenzene)の結果を示している。

【0044】
また、図2に、本発明に係る 包接結晶(1⊃Solvent)の熱重量分析(TG)の結果を示す。いずれの試料においても、溶媒分子(ゲスト分子)の放出による重量変化が観測された。それぞれの溶媒の沸点より少し高い温度での溶媒放出挙動が観測されたことから、包接結晶中においてホスト分子と溶媒分子(ゲスト分子)との間で相互作用(電荷移動相互作用)が働いていることが考えられる。またいずれの試料においても300 度付近を越えると大きな重量の減少が観測されたが、これは骨格(ホスト分子)の分解挙動に由来するものと考えられる。

【0045】
単結晶X 線構造解析
本発明に係る超分子複合体(包接結晶)(溶媒分子トルエン;1⊃Toluene)に関する単結晶X 線構造解析の結果を図3に示す。
結果として、化合物1 のピリジル基とTPFB とが窒素-ホウ素結合(N-B 結合)を介して超分子複合体を形成し、その間隙を埋めるかのように溶媒分子(トルエン分子)が取り込まれた包接結晶(1⊃Toluene)であった。電子不足なπ 共役分子(1)をアクセプター(A)、電子豊富なπ共役分子(トルエン)をドナー(D)とすると、D-A-D 型の一次元カラムを形成していた。単結晶から推測される構成成分の組成比は、前記化合物"1" : TPFB : トルエン = 1 : 2 : 2 であり、これは元素分析の結果と一致していた。

【0046】
本発明に係る各種の溶媒分子を用いた超分子複合体(包接結晶)に対する粉末X線回折測定の結果を図4に示す。図4では、上から1⊃m-Methylanisole、1⊃135-Trimetylbenzene、1⊃m-Xylene、1⊃Benzene、1⊃Toluene、1⊃Tolueneの結晶構造から推測されるX線回折パターン、である。いずれの試料においても1⊃Tolueneの結晶構造から推測されるX線回折パターンと類似していたことより、溶媒分子(ゲスト分子)の種類に関わらず、同様の結晶構造を有しているものと考えられる。これは超分子複合体(包接結晶)の元素分析が前記化合物"1":TPFB:溶媒分子=1:2:2であることからも強く示唆される。

【0047】
発光特性の評価
蛍光顕微鏡により評価された本発明に係る超分子複合体(包接結晶)の発光特性を、励起波長 = 330-380 nm 発光波長 > 420 nmで確認した。超分子複合体(包接結晶)としては、1⊃Benzene、1⊃Iodobenzene、1⊃Fluorobenzene, 1⊃Toluene, 1⊃m-Xylene, 1⊃p-Xylene,1⊃135-Trimethylbenzene, 1⊃Anisole, 1⊃m-Methylanisole, 1⊃Iodobenzeneを対象とした。

【0048】
いずれの試料においても、数μ~数十μメートルの結晶性固体であった。また紫外光照射下(励起波長=330-380nm)で結晶から発光する様子が観測された。その発光色は、ベンゼン(1⊃Benzene)で青色、メタキシレン(1⊃m-Xylene)で緑色、ヨードベンゼン(1⊃Iodobenzene)で赤色の発光が観測されるように、用いる溶媒分子(ゲスト分子)の種類の違いにより、異なる発光色を示した。

【0049】
さらに、固体状態における発光スペクトル測定および発光寿命測定を行った。結果を図5(a)および以下の表1に示す。

【0050】
【表1】
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【0051】
(発光スペクトル測定結果の考察)
このように、本発明に係る超分子複合体(包接結晶)は、紫外光励起(370nm)において、溶媒分子を変えることによって、7色発光(紫、藍、青、緑、黄、橙、赤:紫外光励起(370nm))を示す固体発光体として機能することが明らかとなった。芳香環に対して電子求引基を持つ溶媒分子であれば紫・藍・青色発光を示し、電子供与基を持つ溶媒分子とすると緑・黄・橙色へとより長波長側へとシフトした。これらの挙動は、励起状態におけるホスト分子(前記化合物1)と溶媒分子(ゲスト分子)との電子のやりとりで生ずる励起錯体発光(エキサイプレックス)に由来するものと考えられる。中でもm-フルオロトルエン(1⊃m-Fluorotoluene)、トルエン(1⊃Toluene)、m-キシレン(1⊃m-Xylene)をゲストとした包接結晶では、30%を超える高い絶対発光量子収率を示した。化合物1とTPFBが形成する超分子複合体が形成する間隙にゲスト分子が密に取り込まれる事が、効率の良い励起錯体発光(エキサイプレックス)形成を誘起している事が考えられる。ヨードベンゼンに関しては、赤色発光を示したが、これは重原子効果に伴うリン光による発光によるものと考えられる。

【0052】
(発光寿命測定結果の考察)
寿命の観測波長は、それぞれの最大発光波長で測定した(励起波長 365 nm、室温(25oC))。得られた発光寿命測定結果から、その多くは数ナノ秒から数十ナノ秒を示す発光寿命を示すものであり、ホスト分子(前記化合物1)とゲスト分子(溶媒分子)との相互作用で生じる電荷移動相互作用(チャージ-トランスファー相互作用、C-T相互作用)もしくは励起錯体発光(エキサイプレックス)による蛍光発光であることが考えられる。一方で、ヨードベンゼン、オルトヨードトルエン、メタヨードトルエンをゲスト分子(溶媒分子)として用いた場合は、数十マイクロ秒、数百マイクロ秒の長寿命の発光寿命が観測された。重原子(ヨウ素)を含むことから、包接結晶中における重原子効果によりスピン-軌道相互作用が大きくなり、励起三重項からの発光(リン光)が観測されたものである。結晶中で分子運動が制限されているため、室温でもリン光発光が観測されたものと考えられる。

【0053】
有機化合物検出用のセンサーとしての使用例
上記化合物1(50 mg, 0.12 mmol, 1eq.)、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(B(C6F5)3 , TPFB, 125 mg, 0.24 mmol, 2 eq.)、トルエン(0.10 mL)をメノウ乳鉢に加え、機械的粉砕・混合を15分行ったところ、淡黄色の粉末が得られた。得られた粉末に、紫外光(365 nm)照射を行ったところ、水色発光が観測された。その他、芳香族分子溶媒として、ベンゼン、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1-メチルナフタレンを用いたところ、図5(b)に示すように淡黄色から橙色の粉末が得られた。また得られた粉末に、紫外光(365 nm)照射を行ったところ、芳香族分子溶媒の違いによって、水色、緑色、黄色、橙色発光を示す事が観測された。有機化合物の違いを発光色の違いとしてセンシングすることができた。

【0054】
(実施例2)
出発原料を、実施例1の化合物1に代替して、化合物p-NDIを用いて、製造した。

【0055】
原料となるルイス塩基の合成
(p-NDIの合成と同定)

【0056】
【化9】
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【0057】
還流管付き200 mLのナスフラスコに1,4,5,8ナフタレンテトラカルボン酸二無水物( NA)(2.5g, 9.3 mmol)と4-アミノピリジン(21 mmol, 2.0g)を20mLのN,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、150℃で4時間還流を行った。室温まで冷却後、生じた沈殿を濾別し、赤褐色固体を得た。この固体を200mLのナスフラスコに加え40mLのDMFに溶解後再結晶させた。この再結晶操作を2回行い、薄橙色結晶を得た。結晶を真空下27時間130℃で加熱することで結晶中に残存するDMFを除去し、橙色結晶を得た。
p-NDIの同定は1H NMR測定により行った。溶媒として重トリフルオロ酢酸CF3COODを利用した。結果を図6および以下の表に示す。得られた結果から、収量3.2 g、収率83%であることが確認された。
【表2】
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【0058】
上記で得られた化合物p-NDI (50 mg, 0.12 mmol, 1eq.)、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(B(C6F5)3 , TPFB, 125 mg, 0.24 mmol, 2 eq.)、トルエン(0.10 mL)をメノウ乳鉢に加え、機械的粉砕・混合を15分行ったところ、淡黄色の粉末が得られた。

【0059】
有機化合物検出用のセンサーとしての使用例
得られた粉末に、紫外光(365 nm)照射を行ったところ、水色発光が観測された。その他、芳香族分子溶媒として、ベンゼン、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1-メチルナフタレンを用いたところ、淡黄色から橙色の粉末が得られた。また得られた粉末に、紫外光(365 nm)照射を行ったところ、芳香族分子溶媒の違いによって、水色、緑色、黄色、橙色発光を示す事が観測された。有機化合物の違いを発光色の違いとしてセンシングすることができた。

【0060】
(実施例3)
出発原料を、実施例1の化合物1に代替して、以下に述べる化合物2を用いて、製造した。

【0061】
原料となるルイス塩基の合成
(化合物2の合成と同定)

【0062】
【化10】
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【0063】
還流管付き200 mLのナスフラスコにピロメリット酸二無水物 (3.47 g, 15.9 mmol)と3-アミノピリジン(3.0 g, 31.9 mmol)を20 mLのN,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、150℃で6時間還流を行った。室温まで冷却後、生じた沈殿を濾別し、黄色固体を得た。この固体を200 mLのナスフラスコに加え40 mLのDMFに溶解後再結晶させた。この再結晶操作を2回行い、黄色結晶を得た。バキュームオーブンで12時間150℃で加熱することで結晶中に残存するDMFを除去し、黄色の粉末を得た。(4.44g, 12.0mmol収率: 75 %)。同定は元素分析により行った。Elemental Analysis: Calcd, C=64.87, H=2.72, N=15.30; Found, C=64.61, H=2.70, N=15.05.

【0064】
【化11】
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【0065】
上記で得られた化合物2(50 mg, 0.135mmol, 1 eq.)、トリス(ペンタフルオロフェニルボラン) (TPFB) (140 mg, 2eq.)、オルトキシレン10mL をサンプル管に加えた。ホットプレートにてメタキシレンが煮沸するまで加熱後、室温にて3日間静置した。生じた沈殿をろ別することで、粉末として超分子複合体(以下、前記化合物"2"とオルトキシレン(溶媒)から得られた超分子複合体を"2⊃o-Xylene"という)を得た(197 mg)。その他の芳香族溶媒中(m-キシレン、p-キシレン、1,3,5-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、アニソール、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン)においても、包接結晶(以下、前記化合物"2"と"溶媒"から得られたものを"2⊃Solvent"という)が得られた。

【0066】
以下の表および図7に、包接結晶(2⊃Solvent)の発光特性を示した。励起波長は365 nm。ブロモベンゼン、ヨードベンゼンをゲストとした場合の励起波長は340nm、寿命の観測波長はそれぞれの最大発光波長で測定した。室温(25oC)。

【0067】
【表3】
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【0068】
図7の結果から、ゲスト分子の違いにより、青色(466nm)から黄緑色(541nm)の発光を示し、絶対発光量子収率の多くは10%を超える高い値を示した。発光寿命に関しては、キシレン、トリメチルベンゼン、アニソールがゲスト分子の場合にはナノ秒オーダーであったことより、ホスト分子(前記化合物2)とゲスト分子(溶媒分子)との相互作用で生じるチャージトランスファー相互作用(C-T相互作用)もしくは励起錯体発光(エキサイプレックス)による蛍光発光であることが考えられる。一方で、ブロモベンゼン、ヨードベンゼンをゲスト分子(溶媒分子)として用いた場合は、990マイクロ秒、103マイクロ秒の長寿命の発光寿命が観測された。重原子(臭素、ヨウ素)を含むことから、包接結晶中における重原子効果によりスピン-軌道相互作用が大きくなり、励起三重項からの発光(リン光)が観測されたものである。結晶中で分子運動が強く制限されているため、室温でもリン光発光が観測されたものと考えられる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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