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明細書 :シート集積型希土類錯体及びその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6382811号 (P6382811)
登録日 平成30年8月10日(2018.8.10)
発行日 平成30年8月29日(2018.8.29)
発明の名称または考案の名称 シート集積型希土類錯体及びその用途
国際特許分類 C07F   9/53        (2006.01)
C07F   9/58        (2006.01)
C07F   9/60        (2006.01)
C07F   9/6521      (2006.01)
C09K  11/06        (2006.01)
C09D  11/03        (2014.01)
C08L 101/00        (2006.01)
C07F   5/00        (2006.01)
FI C07F 9/53 CSP
C07F 9/58 Z
C07F 9/60
C07F 9/6521
C09K 11/06 660
C09D 11/03
C08L 101/00
C07F 5/00 D
請求項の数または発明の数 15
全頁数 29
出願番号 特願2015-525292 (P2015-525292)
出願日 平成26年7月4日(2014.7.4)
国際出願番号 PCT/JP2014/067909
国際公開番号 WO2015/002295
国際公開日 平成27年1月8日(2015.1.8)
優先権出願番号 2013141995
優先日 平成25年7月5日(2013.7.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年4月21日(2017.4.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】長谷川 靖哉
【氏名】立野 栞
【氏名】中西 貴之
【氏名】伏見 公志
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】三上 晶子
参考文献・文献 特開2009-242385(JP,A)
特開2004-262909(JP,A)
特開2011-157279(JP,A)
特開2011-119591(JP,A)
特開2010-278376(JP,A)
調査した分野 C07F 1/00- 19/00
C08L101/00
C09D 11/00- 13/00
C09K 11/00- 11/89
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物
【化1】
JP0006382811B2_000024t.gif
[一般式(1)中、Xは、原子の結合子を含む構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子、又は化学構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子団を表し、
前記原子団は、1又は複数の置換基を有していてもよい1のアリール基又は1又は複数の置換基を有していてもよい1のヘテロアリール基であり、
Ar1~Ar9はそれぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
Ar4とAr5、Ar6とAr7、Ar8とAr9がそれぞれ結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。]、
Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群から選ばれる1種又は2種以上の希土類イオン、及び
配位化合物を含み、
希土類イオンに対する一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物及び配位化合物の配位数が、8~10配位であり、
複数の一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物及び複数の希土類イオンが架橋構造を有する希土類錯体。
【請求項2】
前記原子団は、1のアリール基又は1のヘテロアリール基である、請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
Ar1~Ar9は、独立に、1又は複数の置換基を有していてもよいフェニル基である、請求項1又は2に記載の錯体。
【請求項4】
配位化合物が多座配位化合物である、請求項1~3のいずれかに記載の錯体。
【請求項5】
多座配位化合物がジケト化合物である、請求項4に記載の錯体。
【請求項6】
ジケト化合物が一般式(2)で示される化合物である、請求項5に記載の錯体。
【化2】
JP0006382811B2_000025t.gif
一般式(2)中、Aは、独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Zは水素原子又は重水素原子を示す。
【請求項7】
ジケト化合物が、アセチルアセトン(acac)、2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオン(TMHD)、1,1,1-トリフルオロアセチルアセトン(TFA)、及び1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトン(HFA)から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、請求項5に記載の錯体。
【請求項8】
一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物が、下記(1-1)及び(1-3)から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1~7のいずれかに記載の錯体。
【化3】
JP0006382811B2_000026t.gif

【請求項9】
下記一般式(1-2)、(1-4)又は(1-5)で示されるホスフィンオキシド化合物、
Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群から選ばれる1種又は2種以上の希土類イオン、及び
配位化合物を含み、
希土類イオンに対する一般式(1-2)、(1-4)又は(1-5)で示されるホスフィンオキシド化合物及び配位化合物の配位数が、8~10配位であり、
複数の一般式(1-2)、(1-4)又は(1-5)で示されるホスフィンオキシド化合物及び複数の希土類イオンが架橋構造を有する希土類錯体。
【化4】
JP0006382811B2_000027t.gif

【請求項10】
架橋構造を有する複数の希土類錯体がシート集積構造を有する、請求項1~9のいずれかに記載の錯体。
【請求項11】
吸収スペクトルにインターリガンド・チャージ・トランスファー(ILCT)バンドを有する、請求項1~10のいずれかに記載の錯体。
【請求項12】
トリボルミネッセンスを示す、請求項1~11のいずれかに記載の錯体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の錯体を発光材料として用いた発光素子。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の錯体を含有する、発光性インキ組成物。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載の錯体を含有する、発光性プラスチック組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、シート集積型希土類錯体及びその用途に関する。
[関連出願の相互参照]
本出願は、2013年7月5日出願の日本特願2013-141995号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
【背景技術】
【0002】
希土類錯体は、蛍光またはリン光を発する材料として、エレクトロルミネッセンスや白色LED照明の分野、あるいは発光性インキの分野、さらには発光性プラスチックの分野などで利用されつつある。何れの分野においても、希土類錯体は、有機溶媒や樹脂との相溶性を有することが望まれている。
【0003】
有機溶媒や樹脂との相溶性を有する希土類錯体としては、例えば、特許文献1及び2、非特許文献1に記載の例がある。特許文献1に記載の錯体は、鎖状テトラホスフィンテトラオキシドであり、特許文献2に記載の錯体は、複数のホスフィンオキシド多座配位子及び希土類イオンが架橋構造を形成した錯体である。
【0004】
特許文献1:日本特開2010-95514号公報
特許文献2:WO2012/150712
【0005】
非特許文献1:K.Miyama,Y.Hasegawa et al, ChemPlusChem,2012,77,277-280
特許文献1、2及び非特許文献1の全記載は、ここに特に開示として援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、有機溶媒や樹脂との相溶性を有し、かつ発光体として優れた発光特性を有する新たな構造の希土類錯体及びその用途を提供することにある。特に本発明は、錯体を使用した発光デバイスの省エネルギー化を可能とする、吸光から発光に至るエネルギーの利用効率を高めた希土類錯体、及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
[1]
下記一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物
【化1】
JP0006382811B2_000002t.gif
[一般式(1)中、Xは、原子の結合子を含む構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子、又は化学構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子団を表し、
Ar1~Ar9はそれぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基を表し、
Ar4とAr5、Ar6とAr7、Ar8とAr9がそれぞれ結合することによりリン原子を含むヘテロ環を形成していてもよい。]、
Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群から選ばれる1種又は2種以上の希土類イオン、及び
配位化合物を含み、
希土類イオンに対する一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物及び配位化合物の配位数が、8~10配位であり、
複数の一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物及び複数の希土類イオンが架橋構造を有する希土類錯体。
[2]
前記原子団は、1又は複数の置換基を有していてもよい1のアリール基又は1又は複数の置換基を有していてもよい1のヘテロアリール基である、[1]に記載の錯体。
[3]
Ar9~Ar17は、独立に、1又は複数の置換基を有していてもよいフェニル基である、[1]又は[2]に記載の錯体。
[4]
配位化合物が多座配位化合物である、[1]~[3]のいずれかに記載の錯体。
[5]
多座配位化合物がジケト化合物である、[4]に記載の錯体。
[6]
ジケト化合物が一般式(2)で示される化合物である、[5]に記載の錯体。
【化2】
JP0006382811B2_000003t.gif
[7]
ジケト化合物が、アセチルアセトン(acac)、2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオン(TMHD)、1,1,1-トリフルオロアセチルアセトン(TFA)、及び1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトン(HFA)から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である、[5]に記載の錯体。
[8]
一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物が、下記(1-1)~(1-5)から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物である[1]~[7]のいずれかに記載の錯体。
【化3】
JP0006382811B2_000004t.gif
[9]
架橋構造を有する複数の希土類錯体がシート集積構造を有する、[1]~[8]のいずれかに記載の錯体。
[10]
吸収スペクトルにインターリガンド・チャージ・トランスファー(ILCT)バンドを有する、[1]~[9]のいずれかに記載の錯体。
[11]
トリボルミネッセンスを示す、[1]~[10]のいずれかに記載の錯体。
[12]
[1]~[11]のいずれか1項に記載の錯体を発光材料として用いた発光素子。
[13]
[1]~[11]のいずれか1項に記載の錯体を含有する、発光性インキ組成物。
[14]
[1]~[11]のいずれか1項に記載の錯体を含有する、発光性プラスチック組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、有機溶媒や樹脂との相溶性を有し、かつ優れた発光特性、特に、高いエネルギー移動効率を示す希土類錯体を提供できる。さらに本発明によれば、トリボルミネッセンス希土類錯体を提供することもできる。加えて、本発明の希土類錯体の用途を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は[Eu(hfa)3(tppb)]nのメタノール中における吸収スペクトル(赤)及び固体状態での拡散反射吸収スペクトル(黒) を示す。
【図2】図2は[Eu(hfa)3(tppb)]nの発光スペクトル(395 nm励起)を示す。
【図3】図3は[Eu(hfa)3(tppb)]nの発光スペクトル拡大図(395 nm励起)を示す。
【図4】図4は[Eu(hfa)3(tppb)]n及び[Eu(hfa)3(tpptz)]nの発光スペクトル(465 nm励起)を示す。
【図5】図5は固体状態における[Eu(hfa)3(tppb)]n及び[Eu(hfa)3(tpptz)]nの発光寿命を示す。
【図6】図6は、非特許文献1のポリマー錯体である[Eu(hfa)3(dppcz)]nの吸収スペクトルである(ライン3)。
【図7】図7は[Eu(hfa)3(tppb)]nのトリボルミネッセンスの様子を示す。
【図8】図8は[Eu(hfa)3(tpptz)]nのESI-MS(エレクトロスプレーイオン化質量分析)を示す。
【図9】図9は[Eu(hfa)3(tpptz)]nのTG曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[希土類錯体]
本発明は、下記一般式(1)のホスフィンオキシド化合物、1種又は2種以上の希土類イオン、及び配位化合物を含み、希土類イオンに対する一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物及び配位化合物の配位数が、8~10配位であり、複数の一般式(1)のホスフィンオキシド化合物及び複数の希土類イオンが架橋構造を有する希土類錯体に関する。
【化4】
JP0006382811B2_000005t.gif

【0011】
<一般式(1)のホスフィンオキシド化合物>
一般式(1)のホスフィンオキシド化合物は、公知化合物であるか、あるいは公知の方法により調製可能な化合物である。

【0012】
一般式(1)中、Xは、原子の結合子を含む構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子、又は化学構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子団である。原子の結合子を含む構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子は、例えば、アルミニウム、ホウ素、ゲルマニウム、窒素(非共有電子対を含むがC3対称となる)などを挙げることができる。前記化学構造式を平面視したときに3回対称性を有する原子団としては、例えば、1又は複数の置換基を有していてもよい1のアリール基又は1又は複数の置換基を有していてもよい1のヘテロアリール基を挙げることができる。前記原子団に含まれるアリール基及びヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、3~6であることが好ましい。ヘテロアリール基は、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子からなる群から選ばれるヘテロ原子を含むものであり、ヘテロ原子の数は、ヘテロアリール基の大きさに応じて適宜変更でき、例えば、単環の場合は、1~3個であり、縮環(2以上の環を有する場合には)には、1個の環に1~3個である。前記原子団は、化学構造式を平面視したときに3回対称性を有するという観点から、具体的には、フェニル基及び単環式の6員環ヘテロアリール基等を挙げられる。6員環ヘテロアリール基としては、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、等を挙げることができる。

【0013】
Ar1~Ar9はそれぞれ独立して1又は複数の置換基を有していてもよいアリール基又はヘテロアリール基を表す。アリール基及びヘテロアリール基は、Xの例である原子団におけるアリール基及びヘテロアリール基と同様である。Ar1~Ar9は好ましくは1又は複数の置換基を有していてもよいフェニル基であり、より好ましくはフェニル基である。

【0014】
一般式(1)のホスフィンオキシド化合物の具体例としては、下記(1-1)~(1-5)から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。
【化5】
JP0006382811B2_000006t.gif

【0015】
一般式(1)のホスフィンオキシド化合物は、市販品として入手可能な化合物がある他、第三級ホスフィンの酸化、塩化ホスフィニル又は二塩化ホスホリルとGrignard試薬との反応、ハロゲン化アリールとジアリールホスフィンオキシドとのカップリング、ジハロホスホランの加水分解等の任意の公知の方法を用いて合成して用いてもよい。一般式(1)のホスフィンオキシド化合物の合成に関しては、以下の文献を参照できる。
[1] M. Stol, D. J. M. Snelders, H. Kooijman, A. L. Spek, G. P. M. Klink and G. Koten, Dalton Trans., 2007, 2589-2593.
[2] I. O. Koshevoy, L. Koskinen, E. S. Smirnova, M. Haukka, T. A. Pakkanen, A. S. Melnikov, and S. P. Tunik, Z. Anorg. Allg. Chem. 2010, 636, 795-802.

【0016】
本発明の希土類錯体に含まれる希土類イオンは、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群から選ばれる1種又は2種以上の希土類イオンである。これらの希土類イオンは、4f電子を有し、そのため、一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物及び配位化合物の希土類イオンに対する配位数が、8~10配位を取り得る。一般的に希土類イオンにはLaイオンもあるが、Laイオンは4f電子を有さず、そのため配位数が、8~10配位を取り得ない。上記希土類イオンは、通常は、3価(3+)であるが、元素の種類によって2価(2+)又は4価(4+)の場合もあり得る。

【0017】
本発明の錯体は、一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物以外の配位化合物をさらに含む。配位化合物は、好ましくは多座配位化合物である。多座配位化合物は、例えば、2座配位化合物、3座配位化合物、又は4座配位化合物であることができる。多座配位化合物の中でも2座配位化合物の例としては、ジケト化合物を挙げることができ、ジケト化合物としては一般式(2)で示される化合物を例示できる。一般式(2)中、Aは、独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又はハロゲン原子を示し、Zは水素原子又は重水素原子を示す。炭素数1~6のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-及びiso)、ブチル基(n-及びtert-)、ペンチル基、ヘキシル基である。

【0018】
【化6】
JP0006382811B2_000007t.gif

【0019】
一般式(2)で示されるジケト化合物は、より具体的には、例えば、アセチルアセトン(acac)、2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオン(TMHD)、1,1,1-トリフルオロアセチルアセトン(TFA)、及び1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトン(HFA)から成る群から選ばれる1種又は2種以上の化合物である。これらの化合物は公知化合物である。

【0020】
ジケト化合物の別の例としては、一般式(3)で示されるfacam誘導体を挙げることもできる。一般式(3)で示されるfacam誘導体はキラルな化合物であり、一般式(3)で示されるfacam誘導体が希土類イオンに配位した本発明の希土類錯体は円偏光発光特性を示す。
【化7】
JP0006382811B2_000008t.gif

【0021】
一般式(3)中、Yは同一または異なる水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、C1からC20の炭化水素基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかであり、Rは置換基を有することができるC1からC20の炭化水素基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、メルカプト基のいずれかを表す。C1からC20の炭化水素基が有することができる置換基は、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)である。C1からC20の炭化水素基は、好ましくは炭素数1~6のアルキル基であり、より具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-及びiso)、ブチル基(n-及びtert-)、ペンチル基、ヘキシル基である。facam誘導体としては、例えば、Yはいずれも水素原子であり、Rがトリフロロメチル基であるD-facamを挙げることができる。

【0022】
本発明の錯体は、希土類イオンに対する一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物及び配位化合物の配位数が、8~10配位である。本発明の錯体が含む希土類イオンは4f電子を有し、4f-5d相互作用により配位構造を形成すると考えられる。そのため、希土類イオンに対する配位子の配位数が、8~10配位である。8~10配位の何れの配位数を示すかは、使用する配位子、特に一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物以外の配位化合物の種類により決定される。前述のジケト化合物を配位化合物とする場合には、8配位を示し、ピリジンなどのヘテロ元素を含む有機分子をさらに加えることにより、9配位または10配位となる。ここで追加する有機分子の配位力および分子の大きさに応じて、9配位構造か10配位構造が決まる。
(参考文献:Y. Hasegawa, et al, J.Phys.Chem. A 2008,112,803-807)

【0023】
本発明の希土類錯体は、複数の一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物及び複数の希土類イオンが架橋構造を有する。一般式(1)のホスフィンオキシド化合物が上記(1-1)の化合物であり、配位化合物が、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトン(HFA)であり、希土類イオンがEu3+の場合、及び一般式(1)のホスフィンオキシド化合物が上記(1-3)の化合物であり、配位化合物が、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロアセチルアセトン(HFA)であり、希土類イオンがEu3+の場合を、以下に例示する。一般式(1)のホスフィンオキシド化合物は、3個のホスフィンオキシド基を有し、そのそれぞれが、希土類イオンに配位結合する。1個の希土類イオンに対しては、2個の一般式(1)のホスフィンオキシド化合物のいずれか1個のホスフィンオキシド基がそれぞれ配位結合する。さらに1個の希土類イオンに対しては、2個のホスフィンオキシド基に加えて、3個のHFAが配位結合する。この錯体の場合、8配位である。
一般式(1)のホスフィンオキシド化合物の3個のホスフィンオキシド基は、ほぼ等価であり、それぞれが異なる希土類イオンと結合し、全体として平面的に広がりを有する架橋構造を有する。架橋構造における繰り返し数nは、例えば、2~10,000の範囲であり、希土類錯体の分子量は、例えば、1,000~1,000,000の範囲である。

【0024】
【化8】
JP0006382811B2_000009t.gif

【0025】
【化9】
JP0006382811B2_000010t.gif

【0026】
本発明の希土類錯体は、一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物、並びに配位化合物及び希土類イオン含有化合物を溶媒中で混合することで合成できる。一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物、並びに配位化合物及び希土類イオン含有化合物の混合比は、目的とする錯体に応じて適宜決定できる。例えば、一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物に対して配位化合物及び希土類イオン含有化合物を0.1~5当量の範囲で混合でき、好ましくは0.5~3当量の範囲、より好ましくは0.8~1.2当量の範囲である。使用する溶媒は、一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物、配位化合物及び希土類イオン又は希土類含有化合物の何れをも溶解できる溶媒であれば良い。例えば、メタノール、エタノール、アセトン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ピリジン、DMSO、DMF等を使用できる。配位化合物及び希土類イオン含有化合物は、例えば、配位化合物を配位子の少なくとも一部として有する希土類イオン錯体化合物であることができる。好ましくは、配位化合物を配位子の一部として有し、かつ残りの配位子が、一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物の希土類イオンに対する配位力より弱い配位力を有する配位子である希土類イオン錯体化合物であることが、本発明の希土類錯体の合成を容易にするという観点から好ましい。一般式(1)で示されるホスフィンオキシド化合物の希土類イオンに対する配位力より弱い配位力を有する配位子の例としては、例えば、水(H20)、メタノール、エタノール等を挙げることができる。

【0027】
後述の実施例においては、下記反応式に示すように、配位化合物(1-1)又は(1-3)及び希土類イオン含有化合物としてEu(hfa)3(H2O)2を用い、メタノール溶媒中で反応を行った。反応温度及び時間には特に制限はない。反応温度は、例えば、常温(例えば、20℃)~溶媒の沸点の範囲の温度とすることができ、反応時間は、目的とする本発明の錯体の生成率等を考慮して適宜選択でき、例えば、1~12時間の範囲とすることができる。但し、この範囲に限定する意図ではなく、あくまでも例示である。

【0028】
【化10】
JP0006382811B2_000011t.gif

【0029】
【化11】
JP0006382811B2_000012t.gif

【0030】
本発明の希土類錯体の1分子は、全体として平面的に広がりを有することから、複数の希土類錯体分子が架橋すると、ポリマーとなり、シート状の架橋構造体となり得る。さらに、希土類錯体には、複数のシート状の希土類錯体分子が存在し得、複数のシート状の希土類錯体分子は集積して、希土類錯体の塊を構成する。シート状の希土類錯体分子が集積した状態の模式図を以下に示す。下記模式図においては、最上層の錯体分子のEuイオンのみを図示し、2層目及び3層目の錯体分子のEuイオンは省略して記載する。各シート状の希土類錯体分子は水素結合による弱いスタッキングを生じ、一般式(1)のホスフィンオキシド化合物からなる配位子は構造中で歪みを生じ、その結果、空間群が非対称中心を含むことになると推察される。その結果、後述するように、その結果、後述するように、本発明の希土類錯体はその吸収スペクトルにおいてインターリガンド・チャージ・トランスファーと思われる吸収バンド(本明細書では、以降ILCTバンドと記載する。)、また、強いトリボルミネッセンスを示すことになる。

【0031】
【化12】
JP0006382811B2_000013t.gif

【0032】
本発明の希土類錯体は、吸収スペクトルにILCTバンドを有する。その結果、高いエネルギー移動効率を示し、発光強度も高くなる。ILCTバンドはπ-π*遷移に起因する吸収バンドの長波長側に出現する固体状態に起因した新しい吸収バンドである。

【0033】
さらに本発明の希土類錯体は、トリボルミネッセンスを示す。トリボルミネッセンスとは、バルク固体を機械的応力によって粉砕する際に発現する特異な発光現象である。400年ほど前にフランシス・ベーコンによって砂糖の結晶を砕くことで発光を示すことが初めて観測された。トリボルミネッセンスの原理については、広く議論がされている。一般に、非中心対称性のバルク結晶を粉砕するときに、その割れ目が静電分極することによって帯電し、放電することによって結晶が励起されて発光すると考えられている。これまでに様々な有機結晶、ポリマー、金属錯体などのトリボルミネッセンスを示す材料が報告されている。

【0034】
中でもEu(III)錯体のトリボルミネッセンスは多く研究されている。Eu(III)錯体の場合、結晶粉砕の際に流れる電流によってEu(III)イオンが励起され蛍光するため、Eu(III)イオン由来の強い赤色トリボルミネッセンスが観測される。一般のEu(III)錯体は光励起によって光エネルギーを取り出しているが、摩擦によって電気エネルギーを光エネルギーに変換するシステムは様々な応用が期待できる。本発明の希土類錯体についても、色純度の高い強い赤色発光を示すEu(III)錯体は、トリボルミネッセンスを示すことから、圧力センサーなど応力発光の分野においての応用が期待できる。

【0035】
<発光素子>
本発明は、上記本発明の錯体を発光材料として用いた発光素子を包含する。本発明の発光素子は本発明の錯体の薄膜を有するものであることができる。より具体的には、本発明の希土類錯体は、例えば、白色LED素子の発光層(発光媒体)及び有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層に用いることができる。本発明の発光素子はディスプレイまたは照明であることもできる。さらに、本発明の希土類錯体は、例えば、蛍光性インキ組成物及び発光性のセキュリティーインク組成物等の発光性インキ組成物に用いることもできる。さらに、キラルなジケト化合物を配位子の一部として用いた本発明の希土類錯体は、円偏光発光を利用したセキュリティーセンサー、バイオ関連に用いるラベリング剤(イムノアッセイ)、円偏光光源など(例えば、WO2008/111293参照)、様々な応用への展開が期待される。加えて、本発明の希土類錯体は、例えば、シリコン太陽電池の表面に装着する光エネルギー変換効率向上用の発光性薄膜として用いることができる(例えば、特開平9-230396号公報)。加えて、2種以上の希土類イオンを含有する本発明の希土類錯体は、温度センサーとして使うことができる(K. Miyata, Y. Konno, T. Nakanishi, A. Kobayashi, M. Kato, K. Fushimi, Y. Hasegawa, Angew. Chem. Int. Ed.52, 6413-6416 (2013)参照)。

【0036】
前記希土類錯体をこれらの用途に用いる場合、前記希土類錯体を一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。

【0037】
また、前記希土類錯体を必須成分として含有し、さらに該錯体以外のイオン、化合物等をさらに含有する混合物として用いることもできる。前記混合物には、前記希土類錯体が含まれていればよく、本発明の効果を阻害しない範囲内で、希土類金属イオン、前記本発明の化合物が配位していない希土類錯体等をさらに含んでいてもよい。

【0038】
(1)白色LED素子
本発明の白色LED素子は、発光層を構成する発光媒体(蛍光体)中に前記希土類錯体を含有させる以外は、公知のLED素子と同様の構成を採用できる。例えば、LEDチップと発光媒体とからなる発光層を有するLED素子が挙げられる。

【0039】
LEDチップは、電極より電気エネルギーを受けて、発光し光を放射する。LEDチップから放射される光を吸収した発光媒体(蛍光体)は、吸収した光とは異なる波長の光を放射する。この時、LEDチップから放射される光と蛍光体から放射される光とが組み合わさることにより、新たな光の色が形成される。本発明では、蛍光体中に前記希土類錯体を含有させることにより、白色の光を発することができる。また、前記希土類錯体は、有機媒体に好適に溶解し、有機媒体中で析出することが基本的にないため、効率よく(高い光取り出し効率で)、白色光を放射できる。

【0040】
LEDチップとしては、紫外~近紫外~可視~近赤外領域の光を放出する素子であればよく特に限定されない。例えば、青色LED、近紫外LED等が挙げられる。

【0041】
発光媒体は、前記希土類錯体が有機媒体に溶解してなるものである。本発明では、前記希土類錯体中の希土類元素イオン(中心元素イオン)を適宜選択することにより、発光媒体から放射される光の色を制御できる。例えば、中心元素イオンが全てEu3+である希土類錯体を含む発光媒体は、赤色の光を放射できる。また、中心元素イオンが全てTb3+である希土類錯体を含む発光媒体は、緑色の光を放射できる。さらに、中心元素イオンがEu3+及びTb3+以外の希土類元素イオン(例えば中心元素イオンが全てTm3+)である希土類錯体を含む発光媒体は、青色の光を放射できる。

【0042】
発光媒体には、2種類以上の前記希土類錯体を含有させてもよい。発光媒体には、光取り出し効率が低下する等の観点から、公知の蛍光性無機化合物粒子を含有させないほうがよいが、本発明の効果を妨げない範囲であれば、必要に応じて前記粒子を含有させてもよい。

【0043】
前記粒子としては、Y3Al5O12(YAG)にCeを付活してなる粒子等の黄色光を放射する無機化合物粒子;Sr10(PO46Cl2にEuを付活してなる粒子、Ca10(PO46l2にEuを付活してなる粒子、Ba10(PO46l2にEuを付活してなる粒子、BaMgAl1017にEuを付活してなる粒子、Ba3MgSi28にEuを付活してなる粒子等の青色光を放射する無機化合物粒子;SrGa24にEuを付活してなる粒子、CaAl24にEuを付活してなる粒子、BaAl24にEuを付活してなる粒子、SrAl24にEuを付活してなる粒子等の緑色光を放射する無機化合物粒子;SrSにEuを付活してなる粒子、CaSにEuを付活してなる粒子、CaAlSiN3にEuを付活してなる粒子、Ba3MgSi28にEu、Mnを付活してなる粒子等の赤色光を放射する無機化合物粒子等が挙げられる。これらの粒子は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。

【0044】
例えば、下記LEDチップと発光媒体との組み合わせの場合、好適に白色光を得ることができる。
(1)LEDチップ:青色LED(例えばInGaN)、発光媒体:赤色光を放射する希土類錯体+黄色光を放射する無機化合物粒子(例えば、Y3Al5O12(YAG)結晶にCeを付活してなる粒子)
(2)LEDチップ:青色LED(例えばInGaN)、発光媒体:赤色光を放射する希土類錯体+緑色光を放射する希土類錯体
(3)LEDチップ:近紫外LED(例えばInGaN)、発光媒体:青色光を放射する無機化合物粒子(例えば、Sr10(PO46Cl2にEuを付活してなる粒子、Ca10(PO46Cl2にEuを付活してなる粒子、Ba10(PO46l2にEuを付活してなる粒子等)+赤色光を放射する希土類錯体+緑色光を放射する希土類錯体
(4)LEDチップ:近紫外LED(例えばInGaN)、発光媒体:赤色光を放射する希土類錯体+緑色光を放射する希土類錯体+青色光を放射する希土類錯体
前記有機媒体としては、例えば、有機溶媒、液状ポリマー等が挙げられる。

【0045】
前記有機溶媒としては、例えばフッ素系溶媒等が挙げられる。これら有機溶媒は、一種単独で又は二種以上からなる混合溶媒として使用できる。

【0046】
前記液状ポリマーとしては、例えばフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。前記フッ素系樹脂、前記シリコーン系樹脂等としては、市販品を好適に用いることができる。フッ素系樹脂の市販品としては、例えば、テフロン(登録商標)AF(デュポン社製)、サイトップ(旭ガラス製)等が挙げられる。シリコーン樹脂の市販品としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等が挙げられる。

【0047】
特に、前記有機媒体としては、液状ポリマーが好ましく、フッ素系樹脂がより好ましい。フッ素系樹脂は、高ガラス転移点、高防湿性、低気体透過性等の特性を有するため、前記有機媒体としてフッ素系樹脂を用いることにより、発光媒体3の発光特性、発光寿命、耐久性等を向上させることができる。

【0048】
発光媒体中における前記希土類錯体の含有量は、特に限定されないが、5~90質量%程度が好ましい。

【0049】
発光媒体中における前記蛍光性無機化合物粒子の含有量は、本発明を妨げない範囲である限り特に限定されない。

【0050】
本発明の白色LED素子は、砲弾型LED、表面実装型LED等の種々のLEDに用いることができる。前記LEDの具体的構成は、前記白色LED素子が配置される以外は公知のLEDと同様の構成を採用できる。

【0051】
(2)有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子
本発明の有機EL素子は、前記希土類錯体を含む発光層を有する。

【0052】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、通常、基板、陽極、電荷(正孔)輸送層、前記発光層、電荷(電子)輸送層及び陰極が順に積層された構造を有する。前記発光層中における前記希土類錯体の含有量は、例えば、5~100質量%程度であることができる。

【0053】
前記発光層は本発明の希土類錯体単独で形成されていてもよいし、本発明の希土類錯体以外の化合物をさらに含有していてもよい。例えば下記に示す電荷(正孔)輸送層の材料もしくは電荷(電子)輸送層の材料等をホスト化合物として含有していても良い。

【0054】
前記発光層の膜厚は、少なくともピンホールが発生しないような厚みが必要であるが、厚すぎると素子の抵抗が増し、高い駆動電圧が必要となるためあまり好ましくない。従って前記発光層の膜厚は、0.0005~10μm程度、好ましくは0.001~1μm程度、より好ましくは、0.005~0.2μm程度である。

【0055】
前記発光層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、前記希土類錯体を正孔輸送層上に蒸着する方法、或いは、後述する発光性インキ組成物をスピンコート法、インクジェット法等の印刷方法により塗布する方法が挙げられる。

【0056】
前記基板は、透明のものであればよく、例えば、ガラス、石英、光透過性プラスチックフィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート(PC)等)等が挙げられる。前記基板の厚みは、本発明の効果を妨げない範囲であればよく特に限定されない。

【0057】
前記陽極の材料として、例えば、仕事関数の大きな導電性材料であるITO(インジウム錫酸化物)等を用いることができる。前記陽極の厚みは、0.1~0.3μm程度とすることができる。

【0058】
前記電荷(正孔)輸送層の材料としては、例えば、トリアリールアミン等のアリールアミン系化合物等が用いられる。前記材料は一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。

【0059】
前記電荷(電子)輸送層の材料としては、例えば、トリス(8-ヒドロキシキノリノール)アルミニウム、トリアゾール類、フェナントロリン類、オキサジアゾール類等が用いられる。前記材料は一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。

【0060】
これら電荷輸送層の厚みは、それぞれ通常0.0005μm~10μm程度であり、好ましくは0.001~1μm程度である。

【0061】
前記陰極の材料としては、仕事関数が小さな金属であるアルミニウム、マグネシウム、インジウム、アルミ-リチウム合金、マグネシウム-銀合金等が使用される。前記陰極の厚みは、0.01~0.5μm程度が好ましい。

【0062】
前記陽極、前記正孔輸送層、前記電子輸送層及び前記陰極は、前記各種材料を用いて抵抗加熱蒸着、真空蒸着、スパッタリング法等の公知の方法に従って形成できる。

【0063】
本発明の有機EL素子は、カラー液晶表示器のバックライト等の照明器、ディスプレイ等に用いることができる。

【0064】
(3)発光性インキ組成物
本発明の発光性インキ組成物は、前記希土類錯体を含有する。前記希土類錯体は、天然光の下では放射する光の色は実質的に無色である。本発明の発光性インキ組成物は、蛍光性のインキ及び発光性のセキュリティーインクとして使用できる。

【0065】
一方、前記希土類錯体に紫外光を照射する場合、該錯体は有色の光を放射するので、その放射光を観察することができる。従って、前記希土類錯体を溶解させたインキ組成物を種々の基材上に印刷することにより、ブラックライト等を使用した紫外線照射下でのみ印刷内容の視認が可能になる。例えば、紙幣、文書、書類、カード等の基材に前記インキ組成物を印刷することにより、偽造、不正複写等を防止できるセキュリティー機能を持たせることができる。

【0066】
前記放射光の色は、前記希土類錯体の中心元素イオンの種類に応じて異なる。例えば、中心元素イオンがEu3+の場合、前記錯体は強い赤色の光を放射し、中心元素イオンがTb3+の場合、前記錯体は強い緑色の光を放射する。なお、前記希土類錯体が中心元素イオンを複数個有する場合、複数の希土類元素イオンは全て同一であることが好ましい。

【0067】
前記インキ組成物中には2種類以上の前記希土類錯体組成物を含有させてもよい。

【0068】
例えば、第1の蛍光体に、波長365nm及び254nmの紫外線を放射するブラックライトランプ照射で強い緑色発光を示す中心元素イオンがTb3+からなる本発明の希土類錯体を、第2の蛍光体に波長365nmの紫外線を放射するブラックライトランプ照射で強い赤色発光を示し、波長254nmの紫外線を放射するブラックライトランプ照射ではほとんど赤色発光を示さない中心元素イオンがEu3+からなる本発明の希土類錯体を混ぜ合わせた、2色混合型のインキを作成することができる。

【0069】
前記インキ組成物は、波長365nmの紫外線を放射するブラックライトランプを照射した場合、第1の蛍光体と第2の蛍光体が、それぞれ緑と赤の混色である黄色に近い色を発光する。一方、波長254nmの紫外線を放射するブラックライトランプを照射した場合、第2の蛍光体はほとんど発光せず、第1の蛍光体の緑色のみが発光する。

【0070】
この様に、前記2つの波長領域を使用して異なる色相を判別することになるため、真偽判別性をより高めることができる。

【0071】
本発明の蛍光性インキ組成物中における前記希土類錯体の含有量は、前記基材の種類等に応じて適宜設定すればよいが、0.001~30質量%程度が好ましく、0.05~3質量%程度がより好ましい。

【0072】
本発明の蛍光性インキ組成物には、必要に応じて、溶媒、樹脂(バインダー)、浸透剤、消泡剤、分散剤、着色剤等の添加物を含有させてもよい。特に、本発明のインキ組成物は、前記希土類錯体が溶媒中に溶解したものが好ましい。

【0073】
前記溶媒としては、前記希土類錯体を溶解することができるものであればよく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;n-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ペンタン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。これらの溶媒は蛍光性インキ組成物の用途等に応じて適宜選択すればよく、一種単独で又は二種以上の混合溶媒として使用できる。

【0074】
前記樹脂(バインダー)は、前記希土類錯体を前記基材上に良好に定着でき、且つ、上記溶媒に良好に溶解するものが好ましい。前記樹脂は、光学的に透明であってもよいし、不透明であってもよい。例えば、ポリビニル系樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は蛍光性インキ組成物の用途等に応じて適宜選択すればよく、一種単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。

【0075】
浸透剤は、紙等へのインク組成物の浸透を早め、見かけの乾燥性を早くする目的で加える。前記浸透剤としては、例えば、グリコールエーテル、アルキレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。これらの浸透剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。

【0076】
消泡剤は、インク組成物の移動やインク組成物製造時の泡の発生を防止する目的で添加する。前記消泡剤としては、アニオン性、非イオン性、カチオン性及び両イオン性界面活性剤を使用できる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコーン系等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等が挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド、ホスファチジルコリン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。

【0077】
前記分散剤としては、例えば、ステアリン酸石鹸、オレイン酸石鹸、ロジン酸石鹸、Na-ジ-β-ナフチルメタンジサルフェート、Na-ラウリルサルフェート、Na-ジエチルヘキシルスルホサクシネート、Na-ジオクチルスルホサクシネート等の界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。

【0078】
前記着色剤としては、公知の顔料や染料を使用できる。例えば、アゾ系、アゾメチン系、キナクドリン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、キノリン系、ペリレン系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の有機染顔料を使用できる。これらの着色剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。

【0079】
本発明の蛍光性インキ組成物中における上記各種添加剤の含有量は特に限定されず、前記基材の種類、用途等に応じて適宜設定すればよいが、本発明の蛍光性インキ組成物中における前記樹脂(バインダー)の含有量は0.5~30質量%程度が好ましく、1~10質量%程度がより好ましい。前記樹脂の含有量が0.5質量%未満の場合、非浸透性の基材に対して前記希土類錯体を十分に定着できない。また前記樹脂の含有量が30質量%を超える場合、蛍光性インキ組成物中において前記希土類錯体の周囲を前記樹脂(バインダー)が厚く覆うこととなるため前記希土類錯体の発光の低下を招く恐れがある。

【0080】
<希土類錯体含有プラスチック>
本発明は、本発明の希土類錯体を含有する発光性のプラスチック組成物を包含する。発光性のプラスチック組成物に用いるプラスチック材料としては、例えば、特に制限されず、種々の材料を適用することができる。プラスチック材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。希土類錯体を配合して成形加工する方法としては、特に限定されないが、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、押出成形、反応成形、中空成形、熱成形、FRP成形等が挙げられる。

【0081】
本発明の発光性のプラスチック組成物は、例えば、シリコン太陽電池の表面に装着する光エネルギー変換効率向上用の発光性薄膜として用いることもできる(例えば、特開平9-230396号公報)。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【実施例】
【0083】
シート集積型Eu(III)錯体[Eu(hfa)3(tppb)]nは以下のスキームに従い合成した。原料、触媒、および溶媒は市販品(関東化学、東京化成工業、和光純薬工業)を用いた。各化合物の同定は1H-NMR、EI-Massスペクトル、ESI-Massスペクトル、FAB-Massスペクトル、FT-IR測定、元素分析で行った。
【実施例】
【0084】
【化13】
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【実施例】
【0085】
参考例1 配位子合成
三座型配位子tppbは既報の文献に従って合成した。
1,3,5-Tris(4-diphenylphosphorylphenyl)benzene (tppb)の合成[1][2]
【化14】
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【実施例】
【0086】
300 mL容三口フラスコをフレームドライし、Ar置換した。1,3,5-Tris(4-bromophenyl)benzeneを1.55 g (2.86 mmol)、THFを200 mL加え、液体窒素/MeOHで-78℃に冷却した。次に、n-BuLiを7 mL(11.2 mmol)加えて-78℃で2 時間撹拌した。濁った黄白色の溶液にClPPh2を2.03 mL(11.3 mmol)滴下し、透明な黄色の溶液を-78℃で1 時間撹拌した後徐々に室温まで戻した。飽和食塩水とCH3CO2Etで抽出し、得られた有機層をMgSO4で乾燥後、溶媒留去した。得られた黄色の残留物にCH2Cl2を50 mL、H2O2を4 mL加えて氷浴中で3時間撹拌した。反応液を飽和食塩水で抽出し、MgSO4で乾燥して溶媒留去した。得られた茶色の残留物について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH2Cl2 : hexane =4 : 1)で精製すると目的物2が白色の結晶で得られた。
【実施例】
【0087】
1,3,5-Tris(4-diphenylphosphorylphenyl)benzene (tppb) : 2
Yield: 0.72 g (28%). 1H NMR(400 MHz, CDCl3) : δ 7.63-7.82(m, 3H, Ar), δ 7.41-7.59(m, 2H, Ar) ppm. EI-MS : m/z = 906.26[M]+. FTIR (ATR) : 3080-3030 (ar C-H), 1610-1575 (ar C-C), 1190 (P=O). Elemental analysis: Calcd for C60H45O3P3・H2O : C, 77.91; H, 5.12 . Found: C, 78.32; H, 5.04 .
【実施例】
【0088】
実施例1
錯体合成
[Eu(hfa)3(tppb)]nの合成
【化15】
JP0006382811B2_000016t.gif
【実施例】
【0089】
tppb 80 mg (0.09 mmol)、Eu(hfa)3(H2O)2 85 mg (0.11 mmol, 1.2 equiv)をMeOH 7 mLに溶かし、60℃で6時間加熱還流を行った。減圧下でMeOHを留去した後、得られた固体をクロロホルムで洗浄し不純物をろ過により取り除いた。減圧下でろ液中の溶媒を留去し乾燥することで、淡黄色の粉末を得た。
【実施例】
【0090】
[Eu(hfa)3(tppb)]n : 3
Yield: 121 mg (92%). ESI-MS : m/z = 1473.2[M]+. FTIR (ATR) : 3080-3030 (ar C-H), 1650 (P=O), 1625-1575 (ar C-C), 1300-1230 (C-F), 1190-1150 (P=O). Elemental analysis:
【実施例】
【0091】
シート集積型Eu(III)錯体[Eu(hfa)3(tpptz)]nは以下のスキームに従い合成した。原料、触媒、および溶媒は市販品(関東化学、東京化成工業、和光純薬工業)を用いた。各化合物の同定は1H-NMR、ESI-Massスペクトルで行った。
【化16】
JP0006382811B2_000017t.gif
【実施例】
【0092】
参考例2 配位子合成
2,4,6-Tris(4-bromophenyl)-1,3,5-triazineの合成[4]
【化17】
JP0006382811B2_000018t.gif
【実施例】
【0093】
50 mL容二口フラスコをフレイムドライした後に、Ar置換し、trifluoromethanesulfonic acid 4.5 mL (50.85 mmol)を滴下した。その後、Arフローしながら4-bromobenzonitrile を2.75 g (14.0 mmol)加え、0℃で1 h撹拌し、さらに室温で終夜撹拌した。オレンジ色の反応溶液を0℃の蒸留水に注ぐと、白色結晶が沈殿した。NaOH aqを用いて中性にし、沈殿物を濾過で回収し、蒸留水で数回洗浄した。白色結晶を減圧下、80℃で乾燥させた後、熱トルエンで再結晶することで、針状結晶を得た。
【実施例】
【0094】
収量(収率): 1.27 g (50%)
1H NMR(400 MHz,CDCl3) : δ 8.54 (d,6H,Ar), 7.72 (d,6H,Ar) ppm.
【実施例】
【0095】
2,4,6-Tris(4-diphenylphosphorylphenyl)-1,3,5-triazine ( tpptz ) の合成4)
【化18】
JP0006382811B2_000019t.gif
【実施例】
【0096】
50 mL容二口フラスコをフレイムドライした後に、Ar置換し、2,4,6-Tris(4-bromophenyl)-1,3,5-triazineを0.295 g (0.5 mmol)、 dry THFを10 mL加えた。滴下ロートを用いて、0.5 M potassium diphenylphosphine in THF を3.5 mL (1.75 mmol, 3.5 equiv.) を加え、48時間還流した。反応溶液を室温に戻し、CH2Cl2/NaCl aqで抽出した後、有機層をMgSO4で乾燥して溶媒留去した。得られたオイル状の生成物にether/hexaneを加えると微結晶が析出したため、吸引濾過で回収することで、光沢のある黄色結晶が得られた。この結晶にCH2Cl2を30 mL、H2O2を10 mL加え4時間撹拌した。反応液をCH2Cl2/NaCl aqで抽出し、有機層をMgSO4で乾燥して溶媒留去した。得られた黄色のオイル状の残留物を真空乾燥することで,白色結晶が得られた。
【実施例】
【0097】
収量(収率): 0.39 g (42%)
1H NMR(400 MHz,CDCl3) : δ 8.8 (m, 6H, Ar), 7.89 (m, 6H, Ar), 7.74-7.43 (m, 30H, Ar) ppm.
ESI-MS(m/z) = 910.25 [M + H]+.
【実施例】
【0098】
実施例2
錯体合成
[Eu(hfa)3(TPPTZ)]n (Eu-tpptz)の合成
【化19】
JP0006382811B2_000020t.gif
【実施例】
【0099】
tpptz 30 mg (0.03 mmol)、Eu(hfa)3(H2O)2 81 mg (0.9 mmol, 3 equiv)をEtOH 20 mLに溶かし、6時間加熱還流を行った。減圧下で溶媒留去し、得られた白色結晶をクロロホルムで洗浄し、吸引濾過で回収した。
Eu-tpptz収量(収率): 39.3 mg (70%)
ESI-MS (m/z) = 1476.12 [Eu(hfa)2(tpptz)]+, 2249.49 [Eu2(hfa)5(tpptz)]+,
3024.91 [Eu3(hfa)8(tpptz)]+, 3933.07 [Eu3(hfa)8(tpptz)2]+.
【実施例】
【0100】
光物理特性測定
合成した[Eu(hfa)3(tppb)]n及び[Eu(hfa)3(tpptz)]nについて以下の解析を行った。
【実施例】
【0101】
吸収スペクトル測定
i) 拡散反射吸収スペクトル測定
JASCO V-670に積分球を取り付け、粉末セルにサンプルである錯体を高さ6 mmほど入れて、リファレンスとして拡散板を用いて、測定範囲:220-800 nm、走査速度40 nm /minで行った。
【実施例】
【0102】
ii) 吸収スペクトル測定
[Eu(hfa)3(tppb)]n又は[Eu(hfa)3(tpptz)]nのメタノール溶液(1.0 × 10-5 M)を調整した。測定にはJASCO V-670及び1 cm × 1 cmの四面石英セルを使用し、測定範囲:220-800 nm、走査速度200 nm / minで行った。
【実施例】
【0103】
発光量子収率計算
i) 配位子励起による発光量子収率計算
JASCO FP-6600に積分球を取り付け、粉末セルにサンプルである錯体とリファレンスのBaSO4粉末をそれぞれ高さ6 mmほど入れて、測定範囲:350-730 nm、励起波長:370 nm、走査速度で行った。配位子励起による発光量子収率の計算は絶対法により以下の式(1)を用いて行った。
【数1】
JP0006382811B2_000021t.gif
【実施例】
【0104】
上式において、Φtotは配位子励起によるユーロピウムの発光量子収率[%]、分子におけるIはサンプルの発光スペクトルの積分強度[-]、分母におけるIはそれぞれリファレンスとサンプルの励起スペクトルの積分強度[-]を表している。
【実施例】
【0105】
初めに、吸収光量を算出するために、リファレンスとして用いたBaSO4粉末の370 nm光励起の励起スペクトルの面積から錯体の370 nm光励起により得られた励起スペクトルの面積を減算した。次に、放出光量を算出するために、得られた錯体の発光スペクトルにおける5D07FJ遷移(J = 0-4)に起因する発光バンドの総面積を算出した。この放出光量を吸収光量で割ることで、配位子励起による発光量子収率を算出した。
【実施例】
【0106】
ii) 直接励起による発光量子収率計算
配位子励起と同様の手法で、測定範囲:550-730 nm、励起波長:465 nm、走査速度で直接励起による発光量子収率の算出を行った。直接励起による発光量子収率の計算は以下の式(2)[3]を用いて行った。
【数2】
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【実施例】
【0107】
この式において、ΦLnは直接励起によるユーロピウムの発光量子収率、τobsは観測された発光寿命、AMD,0は定数でありAMD,0 = 14.65 s-1、nは屈折率で通常の配位化合物では固体状態で1.5である。(Itot/IMD)は磁気双極子遷移5D07F1の積分強度に対する5D07FJ(J = 0-4)遷移における発光スペクトル全体の積分強度の割合である。ηsensは配位子からユーロピウムへのエネルギー移動効率である。
【実施例】
【0108】
発光寿命測定
[Eu(hfa)3(tppb)]n粉末をスライドガラス中に固定して測定を行った。励起光源にはSpectra-Physics YAGレーザーヘッド(H-INDI2-LW)を用いた。YAGレーザーに対する応答は日本テクトロニス-デジタルオシロスコープ(TDS3052B)を用いて観測した。求められる発光寿命τobsは、発光減衰プロファイルの縦軸の値を自然対数でプロットし、得られた直線の傾きから算出した。
【実施例】
【0109】
参考文献
[1] M. Stol, D. J. M. Snelders, H. Kooijman, A. L. Spek, G. P. M. Klink and G. Koten, Dalton Trans., 2007, 2589-2593.
[2] I. O. Koshevoy, L. Koskinen, E. S. Smirnova, M. Haukka, T. A. Pakkanen, A. S. Melnikov, and S. P. Tunik, Z. Anorg. Allg. Chem. 2010, 636, 795-802.
[3] S.V.Eliseeva, D.N.Pleshkov, K.A.Lyssenko, L.S.Lepnev, J-C.G.Bunzli, and N.P.Kuzmina. Inorg. Chem. 2011, 50, 5137-5144
[4] N.P.Kuzmina. Inorg. Chem. 2011, 50, 5137-5144
【実施例】
【0110】
[Eu(hfa)3(tppb)]nの光物理特性
1 吸収スペクトル測定
[Eu(hfa)3(tppb)]nの固体状態での拡散反射吸収スペクトルとメタノール中での吸収スペクトルを図1に示す。
2つのスペクトルの概形は大きく異なり、このことから[Eu(hfa)3(tppb)]nが固体状態と溶液中で異なる構造を取っていることが分かる。固体、メタノール溶液中共に270 nmにhfaのπ-π*遷移に起因する吸収バンドが見られた。465 nmの小さいバンドはEu(III)イオンの5D07F2遷移に当たる。固体状態では330 nm付近にメタノール溶液中では見られない特異な吸収バンドが見られる。これはILCT(interligand charge transfer)バンドと呼ばれる吸収帯であり、hfa配位子間の電荷再分配により安定化するためhfa本来の吸収よりも長波長にシフトすると考えられる。CT遷移はラポルテ許容であるため大きい吸収を示す。また固体状態でこのバンドが現れることより、固体状態では平面構造である[Eu(hfa)3(tppb)]n同士がhfaの水素結合など何らかの分子間相互作用による弱い結合によってシートが重なった形状のポリマーになっていると考えられる。
【実施例】
【0111】
2 発光スペクトル測定
[Eu(hfa)3(tppb)]nの395 nm励起(配位子励起)による発光スペクトルを図2及び3に示す。図4には、[Eu(hfa)3(tppb)]n及び[Eu(hfa)3(tpptz)]nの発光スペクトル(465 nm励起)を示す。 配位子励起、直接励起発光スペクトル共に、Eu(III)錯体に特徴的な4f-4f電子遷移に基づく578 nm(5D07F0)、592 nm(5D07F1)、614 nm(5D07F2)、650 nm(5D07F3)、700 nm(5D07F4)の発光が観測された。
【実施例】
【0112】
3 発光量子収率、発光寿命測定
[Eu(hfa)3(tppb)]n及び[Eu(hfa)3(tpptz)]nと従来錯体であるEu(hfa)3(biphepo)の直接励起(465 nm)による発光量子収率(ΦLn)、配位子励起(370 nm)による発光量子収率(Φtot)、発光寿命(τobs)、エネルギー移動効率(ηsens)、放射速度定数(kr)、無放射速度定数(knr)の測定結果を図5、表1に示す。さらに表1には、非特許文献1のポリマー錯体である[Eu(hfa)3(dppcz)]n各種物性を転記し、図6に吸収スペクトルを転記する(ライン3)。蛍光の寿命は一般にns単位であることから、[Eu(hfa)3(tppb)]nの発光はEu(hfa)3(biphepo)には劣るが非常に長い寿命を示していることが分かり、強発光特性が明らかになった。Eu(hfa)3(biphepo)に比べてΦLn、τobs、krが低く、knrは高い値となったのは、Eu(hfa)3(biphepo)に比べて構造の対称性が高いため、低振動化が反映されてないためと思われる。しかし、[Eu(hfa)3(tppb)]nはEu(hfa)3(biphepo)に比べて非常に高いηsensを持つことが分かる。これは図1に示す吸収スペクトル測定で観測されたILCTバンドに起因すると考えられる。[Eu(hfa)3(tppb)]nは非特許文献1のポリマー錯体[Eu(hfa)3(dppcz)]nに比べても、高いηsensを持つ。図6に示す非特許文献1のポリマー錯体の吸収スペクトルにはILCTバンドが観測されていないことと符合している。[Eu(hfa)3(tpptz)]nは 、Eu(hfa)3(biphepo)に比べてτobs、ΦLn、Φtot、及びηsensが高かった。
【実施例】
【0113】
【表1】
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【実施例】
【0114】
4 トリボルミネッセンスの観測とその発光スペクトル
[Eu(hfa)3(tppb)]nの結晶を粉砕するとEu(III)イオン由来の強い赤色トリボルミネッセンスが観測された(図7)。
【実施例】
【0115】
ESI-MSの結果から、[Eu(hfa)3(tppb)]nは溶液中では配位子とEu(III)イオンの比が1:1のモノマーとして存在していることが分かった。また、[Eu(hfa)3(tppb)]nの固体状態での拡散反射吸収スペクトルおよびメタノール溶液中での吸収スペクトル測定より、固体状態ではILCTバンドに起因する吸収を持つことから、[Eu(hfa)3(tppb)]nは固体状態では水素結合など何らかの相互作用によってシートがスタッキングしたポリマー状の構造を取っていると考えられる。
【実施例】
【0116】
図8に示す[Eu(hfa)3(tpptz)]nのESI-MSの結果は、[Eu(hfa)3(tpptz)]nは、ポリマー構造を有することを示唆する。図9に示すTG曲線は、[Eu(hfa)3(tpptz)]nの分解温度が317℃であり、熱安定性が高いことを示す。
【実施例】
【0117】
発光特性において、[Eu(hfa)3(tppb)]nは370 nm励起により、配位子の光増感作用に起因する強い赤色発光を示した。発光量子収率測定および発光寿命測定では、[Eu(hfa)3(tppb)]n、及び[Eu(hfa)3(tpptz)]nは従来錯体に比べて非常に高いエネルギー移動効率を示したが、これはILCTバンドに起因すると考えられる。
また、[Eu(hfa)3(tppb)]n結晶及び[Eu(hfa)3(tpptz)]n結晶を粉砕することによりEu(III)由来の強い赤色トリボルミネッセンスを示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、発光性材料に関する分野に有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8