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明細書 :植物細胞培養用の液体培地および植物細胞の培養方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-023290 (P2018-023290A)
公開日 平成30年2月15日(2018.2.15)
発明の名称または考案の名称 植物細胞培養用の液体培地および植物細胞の培養方法
国際特許分類 C12N   5/04        (2006.01)
C12P  17/18        (2006.01)
C12P  17/16        (2006.01)
FI C12N 5/04
C12P 17/18 B
C12P 17/16
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 9
出願番号 特願2016-155754 (P2016-155754)
出願日 平成28年8月8日(2016.8.8)
発明者または考案者 【氏名】徳本 勇人
【氏名】竹田 恵美
【氏名】吉原 静恵
【氏名】野村 俊之
【氏名】中島 淑乃
【氏名】山本 花純
出願人 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001896、【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
4B065
Fターム 4B064AE57
4B064CA11
4B064CC01
4B064CC07
4B064CC30
4B064CD01
4B064CD19
4B065AA89X
4B065AC14
4B065BB02
4B065BB08
4B065BB12
4B065BB13
4B065BB18
4B065BC48
4B065CA18
要約 【課題】植物細胞および/またはクロロフィルの増殖速度に優れた植物細胞培養用の液体培地、および植物細胞および/またはクロロフィルの増殖速度に優れた植物細胞の培養方法を提供することを目的とする。
【解決手段】金属酸化物粒子を配合してなる植物細胞培養用の液体培地、および光照射環境下で、前記の液体培地を用いる植物細胞の培養方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
金属酸化物粒子を配合してなる植物細胞培養用の液体培地。
【請求項2】
前記金属酸化物粒子が、酸化亜鉛粒子および/または酸化チタン粒子である請求項1記載の液体培地。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子の平均粒子径が3000nm以下である請求項1または2記載の液体培地。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子の含有量が5~200mg/Lである請求項1~3のいずれか1項に記載の液体培地。
【請求項5】
光照射環境下で、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体培地を用いる植物細胞の培養方法。
【請求項6】
照射光が白色光である請求項5記載の培養方法。
【請求項7】
照射光が青色光および/または赤色光である請求項5記載の培養方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の培養方法による植物細胞の培養工程を含む、クロロフィルの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は植物細胞培養用の液体培地、およびこの液体培地を用いる植物細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物細胞は分化全性能を有することから、植物細胞を用いて特定の植物組織を培養する組織培養や、異種植物のプロトプラストを細胞融合させる雑種形成などの研究が盛んに行われている。
【0003】
植物細胞は、植物体をカルス誘導用MS(ムラシゲスクーグ)培地に植えることで未分化植物細胞の塊であるカルスを誘導し、得られたカルスの一部を固体培養や懸濁培養により増殖させて製造することが一般的である。懸濁培養は、カルス化した小細胞塊または細胞集団を液体培地に移植し、振とうまたは攪拌によって通気しながら、浮遊状態で培養する方法である。懸濁培養は、固体培地に比べて培地に加えた物質の影響が出やすく、比較的均一な細胞集団を形成し、細胞増殖速度に優れるという特徴を有する。しかし、さらなる増殖速度の向上が求められている。
【0004】
特許文献1には、ジベレリンが添加されていることを特徴とする植物細胞懸濁培養用の液体培地が記載されており、この液体培地を用いて培養することにより、形成される細胞塊を小型化できることが記載されている。しかしながら、細胞増殖速度の向上については考慮されていない。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2011-360727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植物細胞および/またはクロロフィルの増殖速度に優れた植物細胞培養用の液体培地、および植物細胞および/またはクロロフィルの増殖速度に優れた植物細胞の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属酸化物粒子を配合してなる植物細胞培養用の液体培地に関する。
【0008】
前記金属酸化物粒子が、酸化亜鉛粒子および/または酸化チタン粒子であることが好ましい。
【0009】
前記金属酸化物粒子の平均粒子径が3000nm以下であることが好ましい。
【0010】
前記金属酸化物粒子の含有量が5~200mg/Lであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は光照射環境下で、前記の液体培地を用いる植物細胞の培養方法に関する。
【0012】
照射光が白色光であることが好ましい。
【0013】
照射光が青色光および/または赤色光であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明は前記の培養方法による植物細胞の培養工程を含む、クロロフィルの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液体培地を用いて植物細胞を培養することにより、細胞および/またはクロロフィルの増殖速度が向上し、従来よりも効率的に植物細胞および/またはクロロフィルを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の植物細胞培養用の液体培地は、金属酸化物粒子を配合してなることを特徴とする。

【0017】
前記液体培地としては、植物細胞培養用の液体培地であれば特に限定されない。例えば、MS(ムラシゲスクーグ)培地やB5培地が挙げられる。

【0018】
前記金属酸化物粒子を配合してなる液体培地を用いて植物細胞を培養することにより、細胞および/またはクロロフィルの増殖速度が向上し、従来よりも効率的に植物細胞を製造することができる。

【0019】
金属酸化物粒子としては、酸化亜鉛粒子、酸化チタン粒子、酸化ケイ素粒子、酸価鉄粒子、酸化銅粒子などの生体に悪影響を及ぼし難い金属の酸化物粒子が挙げられる。なかでも、白色光照射環境下および青色光照射環境下での培養で細胞増殖速度が顕著に向上するという理由からは酸化亜鉛粒子が好ましく、青色光照射環境下および赤色光照射環境下での培養でクロロフィル増殖速度が向上するという理由からは酸化チタン粒子および酸化ケイ素粒子が好ましい。

【0020】
金属酸化物粒子の平均粒子径は、本発明の効果がより発揮されるという理由から、3000nm以下が好ましく、2000nm以下がより好ましく、クロロフィルの形成がより促進されるという理由から、100nm以下がさらに好ましく、50nm以下が最も好ましい。また、金属酸化物粒子の平均粒子径は、培地中での凝集を抑制するという理由から、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。なお、本明細書における金属酸化物粒子の平均粒子径は、BET法により求められる値である。

【0021】
金属酸化物粒子の液体培地中の配合量は、完全に溶解してしまうことを抑制し、本発明の効果を効果的に発揮するという理由から、5mg/L以上が好ましく、20mg/L以上がより好ましく、クロロフィルの形成がより促進されるという理由から、40mg/L以上がさらに好ましい。また、金属酸化物粒子の液体培地中の配合量は、200mg/L以下が好ましく、150mg/L以下がより好ましく、120mg/L以下がさらに好ましい。配合量が200mg/Lを超える場合は、液体培地中の固形分(金属酸化物粒子)が多すぎて植物細胞の培養が困難となる傾向がある。

【0022】
本発明の液体培地を用いて植物細胞を懸濁培養する場合、金属酸化物粒子の他に植物細胞培養に必要な植物ホルモンを適宜配合する必要がある。植物ホルモンとしては、オーキシン、サイトカイニン、ジベレリンなどが挙げられ、培養する植物細胞に応じた植物ホルモンを所定量含有する液体培地とすればよい。

【0023】
本発明の液体培地の製造方法は特に限定されず、従来の方法により製造することができる。例えば、MS培地に植物ホルモン添加およびpH調整を行った後、オートクレーブなどで滅菌した液体培地に、乾熱滅菌などで滅菌した金属酸化物粒子を添加して撹拌する方法がある。液体培地中の金属酸化物粒子を撹拌する方法としては、金属酸化物粒子を効率的に分散させることができるという理由から超音波洗浄機を用いた方法が好ましい。

【0024】
本発明の植物細胞の培養方法は、光照射環境下で前記の液体培地を用いることを特徴とし、この液体培地を用いること以外は従来の培養方法と同様とすることができる。

【0025】
光照射環境は、植物細胞増殖速度、クロロフィル生成量の観点から、自然光または白色光を照射する環境が好ましい。ここで、白色光とは自然光に近い人工光であり、白色蛍光灯による光や、青色光と緑色光と赤色光とを所定の分布で混合した光とすることができる。自然光または白色光を照射する場合の光照射量は、従来の植物細胞培養条件であれば特に限定されず、5000~10000luxが好ましい。

【0026】
光照射にかかる電力を低減できるという理由からは、青色光および赤色光の少なくとも1つを照射する環境が好ましい。なお、本明細書における青色光は450~495nm領域の光成分が優勢である光であり、赤色光は620~750nm領域の光成分が優勢である光である。青色光および赤色光の照射機器としては特に限定されず、青色LED、赤色LEDなどを用いることができる。青色光および/または赤色光を照射する場合の光照射量は、従来の植物細胞培養条件であれば特に限定されず、500~3000luxが好ましい。

【0027】
本発明の培養方法に用いる植物細胞は、本発明の効果が損なわれない限り特に限定されない。例えば、タバコ、シロイヌナズナ、エンドウなどの双子葉類植物、イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギなどの単子葉類植物の植物細胞の培養に用いることができる。

【0028】
本発明の一実施形態に係る植物細胞の培養方法によれば、細胞増殖速度が向上し、従来よりも効率的に植物細胞を製造することができる。また、一実施形態に係る培養方法により増殖した植物細胞は、クロロフィルの形成が促進されるため、本発明の培養方法による植物細胞の培養工程を含む、クロロフィルの製造方法とすることが好ましい。

【0029】
本発明のクロロフィルの製造方法は、前記の培養方法により培養された植物細胞からクロロフィルを抽出することを特徴とする。

【0030】
クロロフィルの抽出方法としては、従来の方法を採用することができる。例えば、植物細胞をアセトンなどの有機溶媒中ですり潰すなどして、有機溶媒中に溶解させ、遠心分離などで精製することで抽出することができる。
【実施例】
【0031】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
以下に実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
MS培地:和光純薬工業株式会社製のMS培地、pH5.6~5.7
発芽用固体培地:0.25質量%のゲランガムを含有するMS培地、pH5.6~5.7
カルス誘導用固体培地:0.25質量%のゲランガム、10-5Mのナフタレン酢酸、10-6Mのベンジルアデニンを含有するMS培地、pH5.6~5.7
カルス誘導用液体培地:10-7Mのナフタレン酢酸、10-5Mのベンジルアデニンを含有するMS培地、pH5.6~5.7
酸化亜鉛粒子1:シーアイ化成株式会社製、平均粒子径34nm
酸化亜鉛粒子2:シーアイ化成株式会社製、平均粒子径2000nm
酸化チタン粒子:シーアイ化成株式会社製、平均粒子径36nm
酸化ケイ素粒子:シーアイ化成株式会社製、平均粒子径25nm
【実施例】
【0033】
カルス細胞の誘導
エッペンチューブにタバコの種子と70%エタノール1mLを加え、30秒攪拌後6000rpmで遠心分離し上清を取り除いた。次に、次亜塩素酸濃度0.6%の滅菌液1mLを加え、3~5分攪拌後6000rpmで遠心分離し上清を取り除いた後、滅菌水を1mL加え、よく攪拌後6000rpmで遠心分離し上清を取り除いた。この洗浄操作を計3回行った。洗浄後のタバコの種子を寒天濃度0.1%のアガー液に懸濁し、シャーレ中の発芽用固体培地上に播種した。シャーレのふたを閉じサジカルテープを巻き2週間、25℃の人工気象器(EYELA製)で生育させた。生育したタバコの葉を葉脈を傷つけるようにメスで切り取りカルス誘導用固体培地に静置した。シャーレのふたを閉じサジカルテープを巻いた後、約1週間、25℃の人工気象器(EYELA製)で培養した。葉の切片から形成したカルスを暗所において継代培養繰り返すことによって作成した遺伝子レベルで同一の細胞を実施例および比較例に使用した。培地の作製、種子の滅菌、カルスの誘導は滅菌条件で行うことが重要であるため、使用する器具は滅菌し、作業は全てクリーンベンチで行った。
【実施例】
【0034】
試験用液体培地の調製
表1~3に示す処方に従い各液体培地を調製した。まず、70℃で一晩乾熱滅菌処理した各金属酸化物をカルス誘導用液体培地に添加し、超音波洗浄機で15分間分散処理を行うことで各試験用液体培地を調製した。
【実施例】
【0035】
実施例1~6、比較例1~3
表1に示す各試験用液体培地が12.5mLずつ入った三角フラスコ(50mL)に、0.2gのタバコカルスを投入し、実施例1~6および比較例1は白色蛍光灯(光量7000lux)照射環境下、比較例2および3は暗所で、2週間、25℃で懸濁培養した。
【実施例】
【0036】
実施例7~9、比較例4
表2に示す各試験用液体培地が7mLずつ入った6穴マルチウェルプレートのウェルに、0.2gのタバコカルスを投入し、青色LED(光量1500lux)照射環境下、2週間、25℃で懸濁培養した。
【実施例】
【0037】
実施例10~12、比較例5
表3に示す各試験用液体培地が7mLずつ入った6穴マルチウェルプレートのウェルに、0.2gのタバコカルスを投入し、赤色LED(光量1500lux)照射環境下、2週間、25℃で懸濁培養した。
【実施例】
【0038】
評価
培養後のタバコ培養細胞について、細胞量およびクロロフィル量を評価した。結果を表1~3に示す。
【実施例】
【0039】
細胞量の測定
懸濁培養後の培養液から吸引ろ過により液体培地を取り除き、残った培養細胞の重量を測定した。
【実施例】
【0040】
クロロフィル量の測定
細胞量の測定で得られた細胞培養を、細胞量の約4倍量の100%アセトンを用いて乳鉢上で乳棒を用いてカルスを摩砕した。摩砕後の細胞をバスツールピペットを用いて十分冷えた試験管に回収した。回収した摩砕液を3500rpmで10min遠心分離した後、上澄み液を目盛り付き試験管に回収した。上澄み液を85%アセトンでメスアップし、分光光度計を用いて663.6nmおよび646.6nmの吸光度を測定した。ただし750nmにおいてゼロ点合わせを行った。測定した吸光度と下記式によりクロロフィル含有量(μg/mL)を算出した。
クロロフィル含有量(μg/mL)=
17.76×646.6nmの吸光度+7.34×663.6nmの吸光度
そして、クロロフィル含有量、加えたアセトンの量およびカルスの生重量を用いて培養細胞あたりのクロロフィル量を算出した。
【実施例】
【0041】
【表1】
JP2018023290A_000002t.gif
【実施例】
【0042】
【表2】
JP2018023290A_000003t.gif
【実施例】
【0043】
【表3】
JP2018023290A_000004t.gif
【実施例】
【0044】
上記表1~3の結果より、本発明の液体培地が植物細胞および/またはクロロフィルの増殖速度に優れた植物細胞培養用の液体培地であり、さらに本発明の培養方法が植物細胞および/またはクロロフィルの増殖速度に優れた植物細胞の培養方法であることがわかる。