TOP > 国内特許検索 > 計測装置及び計測方法 > 明細書

明細書 :計測装置及び計測方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6422449号 (P6422449)
登録日 平成30年10月26日(2018.10.26)
発行日 平成30年11月14日(2018.11.14)
発明の名称または考案の名称 計測装置及び計測方法
国際特許分類 G01N  21/65        (2006.01)
G02F   1/39        (2006.01)
G02F   1/37        (2006.01)
FI G01N 21/65
G02F 1/39
G02F 1/37
請求項の数または発明の数 6
全頁数 11
出願番号 特願2015-559872 (P2015-559872)
出願日 平成27年1月19日(2015.1.19)
国際出願番号 PCT/JP2015/051194
国際公開番号 WO2015/115221
国際公開日 平成27年8月6日(2015.8.6)
優先権出願番号 2014013437
優先日 平成26年1月28日(2014.1.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年1月11日(2018.1.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
発明者または考案者 【氏名】戸井田 昌宏
個別代理人の代理人 【識別番号】100090398、【弁理士】、【氏名又は名称】大渕 美千栄
【識別番号】100090387、【弁理士】、【氏名又は名称】布施 行夫
審査官 【審査官】嶋田 行志
参考文献・文献 国際公開第2013/129412(WO,A1)
特表2008-502915(JP,A)
特開平4-257283(JP,A)
特開2010-099095(JP,A)
特開2013-174530(JP,A)
国際公開第2013/047698(WO,A1)
特開2013-171154(JP,A)
特表2009-511175(JP,A)
特開2010-048805(JP,A)
調査した分野 G01N 21/00-21/83
G02F 1/35- 1/39
G01J 9/00- 9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
KAKEN
特許請求の範囲 【請求項1】
ポンプ光を発生する光源と、前記ポンプ光の第二高調波を励起光とする光パラメトリック発振器とを有し、前記光パラメトリック発振器からのアイドラー光をストークス光として発生する光源部と、
前記ポンプ光及び前記ストークス光を被検体へ照射する光照射部と、
前記光パラメトリック発振器からの一部のシグナル光の波長を変調する光変調部と、
波長変調された前記シグナル光と、前記被検体からのアンチストークス光との干渉光を検出する第1光検出部と、
前記光パラメトリック発振器からの一部のシグナル光と、波長変調された前記シグナル光との干渉光を検出する第2光検出部と、
前記第2光検出部からの信号を参照信号として、前記第1光検出部からの信号から前記参照信号との位相差が90°の成分を検出する信号検出部とを含み、
前記光パラメトリック発振器は、
光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶を有する、計測装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記被検体からのアンチストークス光を増幅する光増幅部を更に含み、
前記第1光検出部は、
波長変調された前記シグナル光と、増幅された前記アンチストークス光との干渉光を検出する、計測装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記ポンプ光及び前記ストークス光の波長は、0.7μm~1.5μmである、計測装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記信号検出部からの信号を血糖値に換算する処理を行う信号処理部を更に含む、計測装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記光照射部は、
前記ポンプ光及び前記ストークス光を前記被検体上で走査させる、計測装置。
【請求項6】
ポンプ光を発生する手順と、
前記ポンプ光の第二高調波を励起光とする光パラメトリック発振器からのアイドラー光をストークス光として発生する手順と、
前記ポンプ光及び前記ストークス光を被検体へ照射する手順と、
前記光パラメトリック発振器からの一部のシグナル光の波長を変調する手順と、
第1光検出部によって、波長変調された前記シグナル光と、前記被検体からのアンチストークス光との干渉光を検出する第1光検出手順と、
第2光検出部によって、前記光パラメトリック発振器からの一部のシグナル光と、波長変調された前記シグナル光との干渉光を検出する第2光検出手順と、
信号検出部によって、前記第2光検出部からの信号を参照信号として、前記第1光検出部からの信号から前記参照信号との位相差が90°の成分を検出する手順とを含み、
前記光パラメトリック発振器は、
光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶を有する、計測方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の分子情報を計測する計測装置及び計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポンプ光と、ポンプ光の第二高調波を励起光とした光パラメトリック発振器(OPO)からのストークス光(アイドラー光)とを材料に照射し、材料からのアンチストークス光と、OPOからのシグナル光とを干渉させて、ヘテロダイン検波する光学的装置が知られている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特表2010-526345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の光学装置では、計測対象分子の変更に伴ってシグナル光とアイドラー光の波長を変化させるために、OPO内の非線形光学結晶を回転すると、シグナル光とアイドラー光の出射位置及び出射方向が変化してしまうため、波長変更(計測対象分子の変更)を行うたびに、シグナル光とアイドラー光の干渉光学系を再調整しなければならない。
【0005】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、計測対象分子の変更に伴う干渉光学系の調整を不要とすることが可能な計測装置及び計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る計測装置は、
ポンプ光を発生する光源と、前記ポンプ光の第二高調波を励起光とする光パラメトリック発振器とを有し、前記光パラメトリック発振器からのアイドラー光をストークス光として発生する光源部と、
前記ポンプ光及び前記ストークス光を被検体へ照射する光照射部と、
前記光パラメトリック発振器からの一部のシグナル光の波長を変調する光変調部と、
波長変調された前記シグナル光と、前記被検体からのアンチストークス光との干渉光を検出する第1光検出部と、
前記光パラメトリック発振器からの一部のシグナル光と、波長変調された前記シグナル光との干渉光を検出する第2光検出部と、
前記第2光検出部からの信号を参照信号として、前記第1光検出部からの信号から前記参照信号との位相差が90°の成分を検出する信号検出部とを含み、
前記光パラメトリック発振器は、
光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶を有することを特徴とする。
【0007】
また本発明に係る計測方法は、
ポンプ光を発生する手順と、
前記ポンプ光の第二高調波を励起光とする光パラメトリック発振器からのアイドラー光をストークス光として発生する手順と、
前記ポンプ光及び前記ストークス光を被検体へ照射する手順と、
前記光パラメトリック発振器からの一部のシグナル光の波長を変調する手順と、
第1光検出部によって、波長変調された前記シグナル光と、前記被検体からのアンチストークス光との干渉光を検出する第1光検出手順と、
第2光検出部によって、前記光パラメトリック発振器からの一部のシグナル光と、波長変調された前記シグナル光との干渉光を検出する第2光検出手順と、
信号検出部によって、前記第2光検出部からの信号を参照信号として、前記第1光検出部からの信号から前記参照信号との位相差が90°の成分を検出する手順とを含み、
前記光パラメトリック発振器は、
光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶を有することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶により光パラメトリック発振器を構成することで、非線形光学結晶を回転させてもシグナル光とアイドラー光の出射位置及び出射方向を固定することができるため、計測対象分子の変更に伴うシグナル光とアイドラー光の干渉光学系の調整を不要とすることができる。また、本発明によれば、第1光検出部によって、波長変調されたシグナル光と被検体からのアンチストークス光との干渉光を検出し、第2光検出部によって、光パラメトリック発振器からの一部のシグナル光と波長変調されたシグナル光との干渉光を検出し、第2光検出部からの信号を参照信号として、第1光検出部からの信号から参照信号との位相差が90°の成分を検出することで、アンチストークス光(CARS光)の信号を高感度に検出することができる。
【0009】
(2)また本発明に係る計測装置では、
前記被検体からのアンチストークス光を増幅する光増幅部を更に含み、
前記第1光検出部は、
波長変調された前記シグナル光と、増幅された前記アンチストークス光との干渉光を検出してもよい。
【0010】
また本発明に係る計測方法では、
前記被検体からのアンチストークス光を増幅する手順を更に含み、
前記第1光検出手順では、
波長変調された前記シグナル光と、増幅された前記アンチストークス光との干渉光を検出してもよい。
【0011】
本発明によれば、被検体からのアンチストークス光を増幅して、増幅されたアンチストークス光を、波長変調されたシグナル光と干渉させることで、アンチストークス光(CARS光)の信号を高感度に検出することができる。
【0012】
(3)また本発明に係る計測装置及び計測方法では、
前記ポンプ光及び前記ストークス光の波長は、0.7μm~1.5μmであってもよい。
【0013】
ポンプ光及びストークス光として生体に対して高い透過性を持つ近赤外光を用いることで、精度の高い生体計測を行うことができる。
【0014】
(4)また本発明に係る計測装置では、
前記信号検出部からの信号を血糖値に換算する処理を行う信号処理部を更に含んでもよい。
【0015】
また本発明に係る計測方法では、
前記信号検出部からの信号を血糖値に換算する処理を行う手順を更に含んでもよい。
【0016】
本発明によれば、精度の高い血糖計測を行うことができる。
【0017】
(5)また本発明に係る計測装置及び計測方法では、
前記光照射部は(前記光照射手順では)、
前記ポンプ光及び前記ストークス光を前記被検体上で走査させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、CARSにおける、光子と分子振動のエネルギー関係を示す図である。
【図2】図2は、光源部の各波長とCARSの波長関係を示す図である。
【図3】図3は、3次非線形感受率χ(3)の励起光の差周波数特性を示す図である。
【図4】図4は、第1の実施の形態に係る計測装置の構成を示す図である。
【図5】図5は、光パラメトリック発振器の構成を示す図である。
【図6】図6は、被検体からの信号光側に光増幅器を挿入し、光増幅器への励起注入電流を変化させた時の干渉信号の利得特性と干渉信号の様子を示す図である。
【図7】図7は、第2の実施の形態に係る計測装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。

【0020】
まず、本実施形態に係る計測装置及び計測方法における計測原理について説明する。本実施形態に係る計測装置及び計測方法は、血糖値(血中グルコース濃度)の非侵襲計測を実現するものである。

【0021】
血糖値の非侵襲計測は、そのニーズの高さからこれまで様々な手法が検討されてきたが、いまだ実用に至っていない。光を用いた非侵襲計測では、生体に対して高い透過性を持つ近赤外域の光が選好されるが、グルコース分子の原吸収波長はグルコース分子振動準位に対応した赤外域にある。このため近赤外域の光では、グルコースの高次倍音吸収を観測することとなり、その光吸収量は光計測限界に近いほど小さく、また近赤外域では水の温度変化に伴う吸収変化が重なるため、精度の良い計測は困難となる。すなわち、光を用いた血糖値の非侵襲計測には、測定対象の光特性と計測プローブ波長とに大きなミスマッチがあるという課題が存在する。

【0022】
また、生体組織は光散乱体であるため、通常の直接検出法では光散乱の影響によって、生体内物質の定量計測は困難である。血糖計測では高い精度を確保することが要求されるため、散乱問題の克服も大きな課題である。

【0023】
更に、指などの透過計測や腕などの反射計測では、光の伝搬経路中になる皮下の血液や組織間質液などの大まかな領域内のグルコースの情報を計測することとなり、適格に血中グルコースの信号のみを計測できていないことが、血中グルコースの濃度変化に対する追随性の悪さとして計測精度の劣化につながっている。

【0024】
本実施形態では、第1の課題(生体の光特性とプローブ波長の不整合)を解決するために、プローブ光として近赤外光を用いた近赤外CARS(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering)を採用する。図1に、CARSにおける、光子と分子振動のエネルギー関係を示す。CARSでは、分子の振動吸収バンドに対応した周波数差Δωのあるポンプ光(周波数ω)パルスとストークス光(周波数ω)パルスを時空間的に同時に照射すると、分子は、ポンプ光パルスにより基底準位V=0から上準位へ上がるとともに、ストークス光パルスにより励起準位V=1に誘導される。更に、分子は、ポンプ光パルスにより上準位へ上がった後、基底準位V=0に緩和する過程でアンチストークス光(周波数ωas)を生じる。ストークス光とアンチストークス光のそれぞれの周波数ω、ωasは、ポンプ光の周波数ωを中心にΔω折り返された周波数であり、ω=ω-Δω、ωas=2ω-ωとなる。ωとωは、予め設定可能なため、近赤外域でωとωを設定すれば、近赤外域の波長(0.7~1.5μm)のポンプ光、ストークス光を用いて、赤外振動吸収のΔωの情報をアンチストークス光により計測することができる。

【0025】
また、本実施形態では、散乱下での定量計測を実現するために、光ヘテロダイン検出を採用する。CARSにおいて光ヘテロダイン検出を実現するためには、被検体からのアンチストークス光と相関ある局発光が必要となる。そこで、本実施形態では、近赤外のCARSポンプ光パルスを発生するレーザー光源と、当該ポンプ光の第二高調波を励起光とする光パラメトリック発振器(OPO:Optical Parametric Oscillator)とを備えた光源部を用いる。図2に、光源部の各波長とCARSの波長関係を示す。例えば、ポンプ光の周波数をωとすると、その第二高調波光の周波数は2ωとなり、この2ωはOPOにより、2ω=ωsignal+ωidlerに周波数変換される。OPOは周波数可変であるから、ωidler-ωsignal=Δωとなるように調整し、OPOのアイドラー光(周波数ωidler)をCARSのストークス光として用いると、ωas=ωsignalとなるので、被検体からのアンチストークス光とOPOのシグナル光は相関があり可干渉である。従って、OPOのシグナル光をアンチストークス光の局発光として光ヘテロダイン検出することができる。

【0026】
CARS信号には、分子振動の励起準位V=1を介したアンチストークス光生成による基底準位V=0への緩和である共鳴過程(図1参照)と、励起準位V=1を介さない(仮想準位を介した)アンチストークス光生成による基底準位V=0への緩和である非共鳴過程に基づく2種類がある。CARSのS/N比は、実質的に共鳴信号/非共鳴信号比が律速している。このため共鳴信号/非共鳴信号比がとれるパルス幅としてピコ秒パルスが用いられるものの、共鳴信号/非共鳴信号比の更なる向上が課題となる。特に、血糖計測においては、低血糖値範囲において精度を確保することが重要である。

【0027】
CARSは3次の非線形光学効果の一種であり、CARS光の光電界は3次非線形感受率χ(3)に比例し、CARS信号強度はχ(3)の絶対値の二乗に比例する。図3に、χ(3)の励起光の差周波数特性を示す。図3を見ると、χ(3)の虚部(Imχ(3))は共鳴周波数ωのみにおいて存在するのに対して、χ(3)の実部(Reχ(3))は非共鳴周波数においても存在することがわかる。仮にχ(3)の虚部だけを検出できれば非共鳴信号は生じないが、CARSは光強度を検出するため、χ(3)の実部も検出されてしまい、これが共鳴信号/非共鳴信号比を低下させる原因となる。CARS信号を光ヘテロダイン検出する場合、検出されるCARS信号Sは、
【数1】
JP0006422449B2_000002t.gif
となる。ここで、EEX=Eであり、φはアンチストークス光と局発光との位相差である。

【0028】
すなわち、本実施形態では、OPOのシグナル光をアンチストークス光の局発光として光ヘテロダイン検出しているので、局発光であるOPOのシグナル光の位相を保ったもう一つの光ヘテロダイン検出系を確保して、この2つの光ヘテロダイン信号の位相差90°の成分を検出することで、共鳴信号のみを検出できることになる。更に、本実施形態では、干渉前のアンチストークス光を光増幅して、光増幅したアンチストークス光とOPOのシグナル光を光ヘテロダイン検出することで、アンチストークス光の高感度検出を実現する。

【0029】
また、本実施形態では、ポンプ光とストークス光を被検体に照射する際に、ポンプ光束とストークス光束が皮下血管内で交差するように調整することで、血中グルコースのみからの情報の取得を実現する。

【0030】
(第1の実施の形態)
図4は、第1の実施の形態に係る計測装置の構成を示す図である。図4に示す計測装置1は、ポンプ光及びストークス光を発生する光源部10と、ポンプ光及びストークス光を被検体Sへ照射する光照射部20と、シグナル光の波長を変調する光変調部30と、アンチストークス光を増幅する光増幅部40と、第1光検出部50と、第2光検出部52と、信号検出部60と、信号処理部70と、表示部72とを含む。光変調部30(波長シフター)の機能は、例えば音響光学素子(AOM)により実現することができ、光増幅部40の機能は、例えば半導体増幅器や光ファイバー増幅器により実現することができ、第1光検出部50及び第2光検出部52の機能は、例えばフォトダイオードにより実現することができる。

【0031】
光源部10は、ポンプ光とストークス光を発生するものであり、ピコ秒パルスの基本波と第二高調波を発生するレーザー光源11と、該第二高調波を励起光とする光パラメトリック発振器12とを備える。ここでは、レーザー光源11として、波長1064nmの基本波と、波長532nmの第二高調波を発生するNd:YAG-SHGレーザー結晶を用いている。レーザー光源11からの基本波が、ポンプ光パルスとして取り出される。

【0032】
光パラメトリック発振器12は、アイドラー光とシグナル光を出射する。光パラメトリック発振器12からのアイドラー光が、ストークス光パルスとして取り出される。光パラメトリック発振器12は、基本波(ポンプ光)の角周波数ωと、アイドラー光(ストークス光)の角周波数ωの差が、計測対象分子の振動数ωγと等しくなるように(すなわち、ωγ=ω-ωとなるように)、その結晶軸の角度が調整される。ここでは、グルコース分子を計測対象分子とするため、グルコースの骨格振動バンドである512cm-1に合わせて、アイドラー光の波長は1.125μm(9398.5cm- 1-512cm-1=8886.5cm-1)に、シグナル光の波長は1.009μm(9398.5cm-1+512cm-1=9910.5cm-1)に調整される。

【0033】
図5は、光パラメトリック発振器12の構成を示す図である。光パラメトリック発振器12は、光共振器を構成する第1ミラー13、第2ミラー14及び第3ミラー15と、光共振器内に配置された第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18を含む。第1ミラー13(ダイクロイックミラー)は、光路OPに対して45°傾いて配置され、ポンプ光の第二高調波を透過し、シグナル光とアイドラー光を反射する特性を有する。また、第2ミラー14(ハーフミラー)は、ポンプ光の第二高調波、シグナル光、アイドラー光を50%の反射率で透過する特性を有し、第3ミラー15は、これら3つの光を全反射(高反射率で反射)する特性を有する。

【0034】
第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18は、形状(例えば、直方体)、寸法、材質(ここでは、KTP結晶)が同一であり、光路OP(入射ビームの光軸)に対して互いに逆方向に同一角度傾くように配置される。第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18は、それぞれ第1回転テーブル17及び第2回転テーブル19に載置され、第1回転テーブル17及び第2回転テーブル19は、連動(同期)して互いに逆方向に同一角度回転するように構成されている。図中左方向から第1ミラー13に入射するポンプ光の第二高調波は、第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18によって、シグナル光とアイドラー光に変換されて、第2ミラー14から出射する。なお、第1非線形光学結晶16は、ポンプ光の第二高調波が入射する位置Pを中心に回転し、第2非線形光学結晶18は、シグナル光とアイドラー光が出射する位置Pを中心に回転する。

【0035】
ポンプ光の第二高調波は、第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18との位相整合角度に合致したシグナル光とアイドラー光に変換される。すなわち、シグナル光とアイドラー光の波長は、光路OPに対する第1非線形光学結晶16及び第2非線形光学結晶18の角度によって変化する。第1非線形光学結晶16の角度変化によって光ビームの位置は変化するが、第1非線形光学結晶16と逆方向に同一角度回転(対称回転)する第2非線形光学結晶18によって光ビームの位置は補償されるため、結果として、非線形光学結晶を回転(シグナル光とアイドラー光の波長を変更)しても、光パラメトリック発振器12から出射するシグナル光とアイドラー光の出射位置と出射方向を不変となる。

【0036】
図4の説明に戻ると、光源部10からのポンプ光PPは、ミラー80で反射した後、2つのミラー81、82を備えた光遅延部によって遅延(光路長を調整)させられ、光照射部20に入射する。一方、光源部10からのストークス光ST(アイドラー光ID)は、ダイクロイックミラー83で反射して光照射部20に入射する。

【0037】
ポンプ光PPとストークス光STは、ダイクロイックミラー21、22により、対物レンズ24の中心軸と平行に等間隔のビーム位置に調整され、対物レンズ24によって被検体S上(ここでは、皮下血管内)に集光される。被検体S内の集束位置では、ポンプ光PPとストークス光STが重なり合い、その位置の被検体S内の計測対象分子(ここでは、血中グルコース分子)との相互作用により、アンチストークス光(CARS光)が発生する。被検体Sで発生したアンチストークス光ASは、対物レンズ24で集束され、ダイクロイックミラー22によりポンプ光PP及びストークス光STと分離され、ミラー84で反射した後、光増幅部40で増幅される。

【0038】
一方、光源部10からのシグナル光SGは、ダイクロイックミラー83を透過した後、2つのミラー85、86を備えた光遅延部によって遅延(光路長を調整)させられ、ハーフミラー87で分割される。ハーフミラー87を透過した一方のシグナル光SGは、光変調部30で波長変調され、ハーフミラー88で分割される。波長変調されハーフミラー88を透過した一方のシグナル光は、光増幅部40で増幅されたアンチストークス光ASとハーフミラー89において同軸上に重畳されて、干渉光として第1光検出部50に入射する。第1光検出部50は、波長変調されたシグナル光とアンチストークス光ASとの干渉光の検出信号を信号検出部60に出力する。ハーフミラー87で反射した他方のシグナル光SGは、ミラー90で反射した後、波長変調されハーフミラー88で反射した他方のシグナル光SGとハーフミラー91において同軸上に重畳されて、干渉光として第2光検出部52に入射する。第2光検出部52は、シグナル光SG(波長変調されていないシグナル光)と波長変調されたシグナル光との干渉光の検出信号を信号検出部60に出力する。

【0039】
信号検出部60(ロックインアンプ)は、第2光検出部52からの検出信号を参照信号として、第1光検出部50からの検出信号の位相90°成分を検出する。すなわち、信号検出部60は、第1光検出部50からの検出信号から、参照信号との位相差が90°の成分を検出し、検出信号をアンチストークス信号(CARS共鳴信号)として信号処理部70に出力する。

【0040】
信号処理部70は、処理部(CPU)、記憶部(メモリ)等を備えたコンピュータであり、信号検出部60からのアンチストークス信号に基づいて、被検体Sの定量的な分子情報を生成する処理を行う。例えば、計測対象分子が血中グルコースである場合には、信号処理部70は、アンチストークス信号の各値に対応するグルコース濃度を格納したテーブルデータを参照して、信号検出部60からのアンチストークス信号に対応するグルコース濃度を取得することで、信号検出部60からのアンチストークス信号を血糖値(血中グルコース濃度)に換算する処理を行う。また、アンチストークス信号を血糖値に換算する関数に、信号検出部60からのアンチストークス信号を入力してもよい。信号処理部70で生成された分子情報は、表示部72(ディスプレイ)に表示される。

【0041】
このように本実施形態によれば、ヘテロダイン検出の局発光の位相との位相差が90°の成分を検出することで、CARS共鳴信号のみを検出することができ、CARS検出のS/N比(共鳴信号/非共鳴信号比)を向上させることができる。

【0042】
また、本実施形態では、被検体Sからのアンチストークス光ASを光増幅してヘテロダイン検出することで、微弱なCARS信号の検出が可能となる。特に、血糖計測において低血糖域での測定精度が飛躍的に向上する。被検体Sからのアンチストークス光ASが光増幅部40で増幅されるとき、アンチストークス光AS以外の雑音光も同様に増幅されるが、シグナル光SGは相関のあるアンチストークス光ASのみと干渉する。ここで、シグナル光SGは波長変調されているから、第1光検出部50では、アンチストークス光ASとシグナル光SGの周波数差の交流信号として検出される。一方、雑音光はシグナル光SGとは干渉せずに直流信号として検出される。そこで、交流信号のみを計測することで、アンチストークス光の増幅検出が実現する。図6は、被検体からの信号光側に光増幅器(ここでは、PDFA:Praseodymium doped fiber amplifier)を挿入し、光増幅器への励起注入電流を変化させた時の干渉信号の利得特性と干渉信号の様子を示す図である。図6において、Iは、信号光光源の注入電流であり、Iが小さいほど大きな利得が得られ、20dBもの大きな利得改善効果(100倍の信号増幅効果)が得られている。このような大きな信号増幅が実現できると、検出光学系のNA値(開口数)が制限される用途(例えば、眼科領域での応用)においても、高精度な計測を行うことができる。

【0043】
また、本実施形態によれば、光路に対して互いに逆方向に同一角度傾くように回転する2つの非線形光学結晶(16、18)により光パラメトリック発振器12を構成することで、非線形光学結晶を回転させてもシグナル光SGとアイドラー光(ストークス光ST)の出射位置及び出射方向を固定することができるため、計測対象分子の変更(波長変更)に伴うシグナル光とアイドラー光の干渉光学系の調整を不要とすることができ、計測装置としての実用性を高めることができる。

【0044】
(第2の実施の形態)
図7に、第2の実施の形態に係る計測装置の構成の一例を示す。なお、図7において、図4の構成と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。

【0045】
図7に示す計測装置1の光照射部20は、ポンプ光PP及びストークス光STを被検体S上で走査させるXY方向走査部26及びZ方向走査部29を更に含む。ダイクロイックミラー21、22により平行ビームに調整されたポンプ光PPとストークス光STは、XY方向走査部26の走査ミラー27、28によって、被検体S上のXY平面内で光走査される。また、対物レンズ24は、Z方向走査部29によってZ軸方向に移動し、これにより被検体SにおけるZ軸方向(深さ方向、奥行き方向)の光走査を行う。

【0046】
信号処理部70は、走査信号をXY方向走査部26及びZ方向走査部29に供給して、走査ミラー27、28の駆動と対物レンズ24の駆動を制御する処理を行う。また、信号処理部70は、信号検出部60からのアンチストークス信号を、走査信号と同期された画像(CARS画像)とする処理を行う。ポンプ光PP及びストークス光STの走査は、X-Y平面上とZ軸方向において行われるため、被検体SのX-Y平面における2次元画像と、被検体SのX-Z平面或いはY-Z平面における断層画像とを生成することができる。信号処理部70で生成されたCARS画像は、表示部72(ディスプレイ)に表示される。

【0047】
なお、本発明の適用は上述した実施例に限定されず、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 計測装置、10 光源部、11 レーザー光源(光源)、12 光パラメトリック発振器、13 第1ミラー、14 第2ミラー、15 第3ミラー、16 第1非線形光学結晶、17 第1回転テーブル、18 第2非線形光学結晶、19 第2回転テーブル、20 光照射部、21,22 ダイクロイックミラー、24 対物レンズ、26 XY方向走査部、27,28 走査ミラー、29 Z方向走査部、30 光変調部、40 光増幅部、50 第1光検出部、52 第2光検出部、60 信号検出部、70 信号処理部、72 表示部、80,81,82, ミラー、83 ダイクロイックミラー、84,85,86 ミラー、87,88,89 ハーフミラー、90 ミラー、91 ハーフミラー
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6