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明細書 :抗原提示を促進するエピトープ間配列を含むT細胞誘導ワクチン

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6558699号 (P6558699)
登録日 令和元年7月26日(2019.7.26)
発行日 令和元年8月14日(2019.8.14)
発明の名称または考案の名称 抗原提示を促進するエピトープ間配列を含むT細胞誘導ワクチン
国際特許分類 A61K  39/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
A61P  31/12        (2006.01)
A61K  47/36        (2006.01)
C07K  14/00        (2006.01)
FI A61K 39/00 Z
A61P 35/00
A61P 31/04
A61P 31/12
A61K 47/36
C07K 14/00 ZNA
請求項の数または発明の数 5
全頁数 21
出願番号 特願2015-540520 (P2015-540520)
出願日 平成26年10月1日(2014.10.1)
国際出願番号 PCT/JP2014/076286
国際公開番号 WO2015/050158
国際公開日 平成27年4月9日(2015.4.9)
優先権出願番号 2013206639
優先日 平成25年10月1日(2013.10.1)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年9月20日(2017.9.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】珠玖 洋
【氏名】原田 直純
【氏名】村岡 大輔
【氏名】秋吉 一成
個別代理人の代理人 【識別番号】100108280、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 洋平
審査官 【審査官】岩下 直人
参考文献・文献 再公表特許第2013/031882(JP,A1)
特開2002-255995(JP,A)
THE JOURNAL OF IMMUNOLOGY,1996年,Vol.157,No.8,pages 3242-3249
調査した分野 A61K 39/00
A61K 47/36
A61P 31/04
A61P 31/12
A61P 35/00
C07K 14/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
複数個のエピトープを有する長鎖ペプチド抗原を備えたワクチンにおいて、各エピトープ間配列は、4個~8個の連続するチロシン、4個~8個の連続するスレオニン、4個~8個の連続するアラニン、4個~8個の連続するヒスチジン、4個~8個の連続するグルタミン及び4個~8個の連続するアスパラギンからなる群から選択される一つであることを特徴とするワクチンと、デリバリーシステムとして疎水化多糖とを備え、
前記長鎖ペプチド抗原のアミノ酸長が28個~46個であることを特徴とする組合せワクチン。
【請求項2】
前記ワクチンは、抗がんワクチン、抗菌ワクチン及び抗ウイルスワクチンからなる群から選択される一つであることを特徴とする請求項1に記載の組合せワクチン。
【請求項3】
前記ワクチンは、ペプチドワクチン、DNAワクチン、mRNAワクチン、樹状細胞ワクチンからなる群から選択される少なくとも一つのものであることを特徴とする請求項1または2に記載の組合せワクチン。
【請求項4】
前記エピトープ間配列は、6個の連続するチロシン、6個の連続するグルタミン及び6個の連続するアスパラギンからなる群から選択される一つであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の組合せワクチン。
【請求項5】
前記ワクチンは、抗がんワクチンであり、かつペプチドワクチンであることを特徴とする請求項1または4に記載の組合せワクチン。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原提示を促進するエピトープ間配列を含むT細胞誘導ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
がんに対する免疫応答に関する長年の研究の結果、がん宿主の腫瘍拒絶における細胞性免疫の重要性が明らかになった。特に、CD8キラーT細胞(CD8細胞傷害性T細胞)は腫瘍を直接破壊する作用を有するエフェクター細胞であること、CD4ヘルパーT細胞はCD8キラーT細胞や抗原提示細胞の働きを増強する重要な調節細胞であること、ならびに樹状細胞やマクロファージといったプロフェッショナルな抗原提示細胞はT細胞に抗原を提示し刺激すると共に、CD80やCD86などの共刺激分子やサイトカイン等を介してT細胞を活性化することが明らかとなり、以下に述べるように、腫瘍に対する細胞性免疫応答を担う各細胞の役割や位置付けが確立された(非特許文献1)。
【0003】
腫瘍細胞由来のタンパクは、抗原提示細胞に貪食されたあと、細胞内のプロテアソームやプロテアーゼ、ペプチダーゼにより種々の長さのペプチドへと切断される。生じたペプチドのうち、8~10アミノ酸のペプチドは主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex, MHC)クラスI分子に抗原エピトープペプチドとして搭載され、抗原提示細胞の表面で提示され得る。CD8キラーT細胞は、T細胞受容体(T cell receptor, TCR)を用いてこのMHCクラスI/抗原ペプチド複合体を特異的に認識し活性化する。活性化したCD8キラーT細胞は、腫瘍細胞上にも存在するMHCクラスI/抗原ペプチド複合体を検出し、グランザイムやパーフォリンなどのエフェクター分子を用いて腫瘍細胞を破壊する。
CD8キラーT細胞の十分な活性化には、CD4ヘルパーT細胞の働きは重要である(非特許文献2)。抗原提示細胞に取り込まれた抗原タンパクは細胞内のプロテアーゼやペプチダーゼにより種々の長さに切断されるが、そのうち15~20アミノ酸の抗原ペプチドはMHCクラスII分子と複合体を形成し抗原提示細胞上で提示され得る。CD4ヘルパーT細胞はこれを特異的に認識し活性化する。活性化CD4ヘルパーT細胞は、インターフェロン(interferon, IFN)‐γやインターロイキン(interleukin, IL)‐2等のサイトカインの分泌を介して、CD8キラーT細胞の分化や増殖、機能を増強する。またCD4ヘルパーT細胞は、CD40リガンド/CD40経路を介して抗原提示細胞を活性化する働きも有し、CD4ヘルパーT細胞により活性化された抗原提示細胞はCD8キラーT細胞に対する刺激能力が向上する(非特許文献3)。CD4ヘルパーT細胞にはB細胞の抗原特異的IgG抗体産生を増強する作用もあることは従来から良く知られている。
【0004】
以上のT細胞免疫応答の理解に基づき、腫瘍特異的抗原をワクチン抗原として反復投与し、腫瘍特異的なCD8キラーT細胞を患者体内に誘導することでがんの増殖や転移、再発を抑えるがんワクチン療法が考案されている。がんワクチンの抗原の形態は合成ペプチドや組換えタンパク、加工した細胞など様々なものが知られている。発明者らはかつて、腫瘍抗原タンパクの組換え全長タンパクを抗原とするがんワクチンを作製した。全長タンパクには、CD8キラーT細胞及びCD4ヘルパーT細胞が認識する多様な抗原ペプチドが含まれており、両T細胞を同時に活性化すると期待される。しかしながら、外因性(細胞外)の抗原タンパクではMHCクラスII経路を介したCD4ヘルパーT細胞の活性化は進行しやすいが、MHCクラスI経路を介したCD8キラーT細胞の活性化は進行しにくい。これは抗原提示細胞における外因性抗原タンパクの取り込みと抗原プロセシングの機構上の理由による(非特許文献4)。
そこで国内外では、短鎖のペプチド、主としてCD8キラーT細胞が認識する8~10残基のエピトープペプチドを化学合成し、これを抗原とするワクチンを臨床応用する試みが多くなされている。短鎖ペプチド抗原は抗原提示細胞内への取り込みと抗原プロセシングを経ずに細胞表面のMHC分子に直接結合するため、T細胞への提示は起こりやすい。また、短鎖ペプチドは化学合成による製造が可能で、遺伝子組換え生物を用いる必要がある組換えタンパクの製造に比べて簡便であるという利点がある。
【0005】
しかし、短鎖ペプチド抗原が抗原提示細胞内への取り込みと抗原プロセシングを経ずに、細胞表面のMHC分子に直接結合することについて、免疫学上の問題が指摘されている(非特許文献5)。外因性の抗原タンパクでは、共刺激分子(CD80、CD86など)を備えた樹状細胞やマクロファージのようなプロフェッショナルな抗原提示細胞に貪食され、細胞内でプロセシングされ、適切な濃度と共刺激を伴う様式でT細胞に抗原提示される。一方、短鎖ペプチド抗原は細胞表面のMHC分子に直接結合するため、抗原の取り込み能力(貪食能力)を持たず共刺激分子も発現しない一般の体細胞でも短鎖ペプチド抗原が大量かつ共刺激を欠く不適切な様式で提示され得る。この場合、短鎖ペプチド抗原とMHCの複合体を認識するT細胞は消耗や細胞死を起こしやすくなり、結果として目的抗原に対する免疫寛容を招く可能性がある。
こうした短鎖ペプチドワクチンの課題を鑑み、長鎖の合成ペプチド抗原の有用性が注目されている(非特許文献5)。長鎖ペプチド抗原は、T細胞の認識エピトープペプチドを少なくとも二つ以上含むような数十残基のポリペプチドである。長鎖ペプチド抗原は短鎖ペプチドと異なり、そのままではMHC分子に直接結合できない。長鎖ペプチド抗原ではタンパク抗原と同様、樹状細胞やマクロファージといった貪食能を有するプロフェッショナルな抗原提示細胞に取り込まれ、細胞内でプロセシングを経ることで、初めて長鎖ペプチド抗原に含まれるT細胞エピトープペプチドがMHC分子と複合体を形成し、T細胞に適切な濃度と共刺激を伴う様式で提示される。抗原の貪食能を欠く一般の体細胞では長鎖ペプチド抗原はワクチン抗原として機能しないため、短鎖ペプチドワクチンと異なりT細胞への不適切な抗原提示を生じることがない。また、長鎖ペプチド抗原の製造には化学合成法を用いることができるため、短鎖ペプチド抗原と同様に製造が比較的容易であるという長所も持つ。
【0006】
化学合成で製造する長鎖ペプチド抗原は、配列の自由な設計が可能であることも大きな利点である。長鎖ペプチド抗原は2個以上のT細胞エピトープを一本のペプチドに含むように設計されるが、それらT細胞エピトープは単一のがん抗原タンパク由来でも、複数のがん抗原タンパク由来でもよい。また、それらT細胞エピトープは単一のMHCに拘束性でもよく、複数のMHCに拘束性でもよい。CD8キラーT細胞が認識するエピトープとCD4ヘルパーT細胞が認識するエピトープを、長鎖ペプチド抗原が同時に含むように設計することも可能である。長鎖ペプチド抗原は、このように多様なT細胞を誘導できる高性能のワクチン抗原として機能し得る。ただ、長鎖ペプチド抗原に含まれる一連のエピトープがT細胞に効率良く提示されるためには、抗原提示反応の機構に基づき、抗原提示細胞内でプロテアソームやプロテアーゼ、ペプチダーゼによって長鎖ペプチド抗原上の各エピトープ間の配列が適切に切断され、MHC分子に結合できる長さと配列のエピトープペプチドとして切り出される必要がある。
CD4ヘルパーT細胞が認識するMHCクラスII結合性エピトープペプチドについては、MHCクラスII分子上のエピトープペプチド結合溝の末端が開放状態にあり、様々な長さのエピトープペプチドがMHCクラスII分子に結合し得る(非特許文献6)。よって、MHCクラスII結合性エピトープペプチドでは長さの制限は比較的緩やかである。一方、CD8キラーT細胞が認識するMHCクラスI結合性エピトープペプチドでは、MHCクラスI分子上のエピトープペプチド結合溝の末端が閉鎖状態にあり、8~10残基と厳密に限定された長さのエピトープペプチドのみがMHCクラスI分子に結合し得る。よって、特にMHCクラスI結合性エピトープペプチドでは、適切な長さのペプチドが抗原提示細胞内で産生されることが肝要である。
【0007】
MHC分子に結合するエピトープペプチドの長さと配列は、細胞内のプロテアソームや種々のプロテアーゼ、ペプチダーゼが関わる複雑な切断反応で決定される。MHCクラスI結合性エピトープペプチドの産生では、細胞質に存在するプロテアソームが初めに抗原タンパクや長鎖ペプチド抗原を大まかに切断する。生じたペプチド断片の末端をその他のプロテアーゼやペプチダーゼが、一定の基質配列特異性に基づいて切断し、適切な長さになるまで削る(トリミング反応)。この過程でペプチド断片のN末端をトリムする酵素群は存在するが、C末端をトリムする酵素は知られておらず、MHCクラスI結合性エピトープペプチドのC末端の決定は最初のプロテアソームによる切断反応のみに依拠している(非特許文献7)。しかし、プロテアソームの基質配列特異性は詳細には明らかになっておらず、プロテアソームに切断されやすいペプチド配列を予測するのは困難である。
以上のエピトープ産生機構を鑑みれば、長鎖ペプチド抗原に含まれるエピトープの間の配列が細胞内のプロテアソームやプロテアーゼ、ペプチダーゼによりいかに切断されるかが、その前後のエピトープペプチドの産生を大きく左右し、その結果、長鎖ペプチド抗原を用いるワクチンによるT細胞の誘導を規定する非常に重要な因子になると考えられる。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Ribas, A., et al. Clin. Oncol. 2003;21(12):2415-2432
【非特許文献2】Shiku, H. Int. J. Hematol. 2003;77(5):435-8.
【非特許文献3】Behrens, G., et al. Immunol. Cell Biol. 2004;82(1):84-90
【非特許文献4】Shen, L. & Rock, K. L. Curr. Opin. Immunol. 2006;18(1):85-91
【非特許文献5】Melief, C. J. M., & van der Burg, S. H. Nature Rev. Cancer, 2008;8(5):351-360.
【非特許文献6】Holland, C. J., et al. Front Immunol. 2013;4:172.
【非特許文献7】Goldberg, A. L., et al. Mol. Immunol. 2002;39(3-4):147-64.
【非特許文献8】Muraoka, D., et al. Vaccine. 2013;31:2110-2118.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ある長鎖ペプチドやタンパクに含まれるT細胞エピトープペプチドが効率良く抗原提示されるためには、長鎖ペプチドやタンパクからそのエピトープペプチド配列が細胞内のプロテアソームやプロテアーゼ、ペプチダーゼによって適切に切り出されなければならない。そのためには、エピトープ間の配列がプロテアソームやプロテアーゼ、ペプチダーゼの認識部位をうまく含んでいる必要がある。
従来技術では、どのようなエピトープ間配列がその条件を満たすか、ほとんど検討されていなかった。そのため、エピトープ間配列を未検討のまま設計した長鎖ペプチド抗原を用いるワクチンでは、含まれるエピトープペプチドを認識するT細胞の誘導が弱いか、確認できないことがある。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数個のエピトープペプチドを含有する長鎖ペプチド抗原において、各エピトープペプチドの抗原提示を有効に達成するエピトープ間配列を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための発明に係る複数個のエピトープを有する長鎖ペプチド抗原を備えたワクチンにおいて、各エピトープ間配列は、2個~10個の連続するチロシン、2個~10個の連続するスレオニン、2個~10個の連続するアラニン、2個~10個の連続するヒスチジン、2個~10個の連続するグルタミン及び2個~10個の連続するアスパラギンからなる群から選択される一つであることを特徴とし、特にチロシン、グルタミン又はアスパラギンであることが好ましい。このとき、連続するチロシン、連続するスレオニン、連続するヒスチジン、連続するグルタミン又は連続するアスパラギンの個数は、4個~8個であることが好ましく、更に4個~6個であることが好ましく、特に6個であることが好ましい。
上記構成を備えることにより、長鎖ペプチド抗原が体内で生体内の酵素によって、各エピトープが抗原提示を行えるように切断されるので、各エピトープが有効に抗原提示能を発揮する。また、連続するチロシンから成るエピトープ間配列を有する長鎖ペプチド抗原を用いたワクチンは、抗原提示細胞への取込みも向上する。
前記ワクチンは、抗がんワクチン(樹状細胞ワクチンを含む)、抗菌ワクチン、及び抗ウイルスワクチンからなる群から選択される一つのものであることが好ましい。
また、前記ワクチンは、ペプチドワクチン、DNAワクチン及びmRNAワクチン、樹状細胞ワクチンからなる群から選択される少なくとも一つのものであることが好ましい。樹状細胞ワクチンとする場合には、ペプチド抗原またはmRNAを添加する。
また、前記ワクチンは、ペプチドワクチンである場合はデリバリーシステムとして疎水化多糖、特にコレステロール修飾プルラン(CHP)と組み合わせてワクチンとすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ワクチン中の複数個のエピトープが有効に抗原提示を行えるので、高い効果を有するワクチンを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】複数個のCD8T細胞エピトープを含む長鎖ペプチドワクチンのエピトープ間配列の違いが、ワクチンによる特異的CD8T細胞誘導に及ぼす影響を調べた。3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)を含む長鎖ペプチド抗原MENを合成した。各エピトープ間の配列は6個連続したチロシン(Y)、グリシン(G)、プロリン(P)またはスレオニン(T)のいずれかとした。各長鎖ペプチド抗原をデリバリーシステムの一種であるコレステロール修飾プルラン(CHP)と複合体化し、ワクチンとしてマウスに投与した。投与の際、免疫増強剤としてCpGオリゴDNAを同時投与した。最終投与の1週間後に脾臓細胞を回収し、各エピトープ配列に特異的なCD8T細胞の頻度を細胞内サイトカイン染色法で測定した。
【図2】複数個のCD8T細胞エピトープを含む長鎖ペプチドワクチンのエピトープ間配列の違いが、ワクチンの治療効果に及ぼす影響を調べた。3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)を含む長鎖ペプチド抗原MENを合成した。各エピトープ間の配列は6個連続したチロシン(Y)、グリシン(G)またはプロリン(P)のいずれかとした。各長鎖ペプチド抗原をCHPと複合体化し、ワクチンとしてマウスに単回投与した。対照として、mERK2 9mペプチドのみから成る短鎖ペプチドワクチンをフロイント不完全アジュバントと混合して投与した。投与の際、免疫増強剤としてCpGオリゴDNAを同時投与した。投与翌日、腫瘍抗原としてmERK2を発現し、同抗原由来のCD8T細胞エピトープmERK2 9mを提示するマウス繊維芽肉腫細胞株CMS5aを皮下移植し、その増殖を経時的に記録した。
【図3】複数個のCD8T細胞エピトープを含む長鎖ペプチドワクチンのエピトープ間配列の違いが、ワクチンによる特異的CD8T細胞誘導に及ぼす影響を調べた。3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)を含む長鎖ペプチド抗原NMEを合成した。図1のMENとは、3種のエピトープの順序が異なる。各エピトープ間の配列は、6個連続したチロシン(Y)、グリシン(G)またはプロリン(P)のいずれかとした。各長鎖ペプチド抗原を含むワクチンを図1と同様にマウスに投与し、各エピトープ配列に特異的なCD8T細胞の頻度を細胞内サイトカイン染色法で測定した。
【図4】連続するチロシンから成るエピトープ間配列の有用性が、その前後のエピトープ配列に影響されるかを調べた。3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)を含む長鎖ペプチド抗原MEN、ENM、NMEを合成した。MEN、ENM、MENは、3種のエピトープの順序が異なる。各エピトープ間の配列は、6個連続したチロシン(Y)とした。各長鎖ペプチド抗原を含むワクチンを図1と同様にマウスに投与し、各エピトープ配列に特異的なCD8T細胞の頻度を細胞内サイトカイン染色法で測定した。
【図5】エピトープ間配列として天然配列と連続チロシン配列の違いがワクチンによる特異的CD8T細胞及び特異的CD4T細胞の誘導に及ぼす影響を調べた。ヒトNY‐ESO‐1抗原に由来するマウスCD8T細胞エピトープ配列(NY p81)及びマウスCD4T細胞エピトープ配列(NY p91)を含む長鎖ペプチド抗原ESO1 LP(天然型)及びESO1 LP(Y)を合成した。エピトープ間の配列は、ESO1 LP(天然型)ではNY‐ESO‐1の天然アミノ酸配列を保持し、ESO1 LP(Y)では6個連続したチロシン(Y)とした。各長鎖ペプチド抗原を含むワクチンを図1と同様にマウスに投与し、各エピトープ配列に特異的なCD8T細胞およびCD4T細胞の頻度を細胞内サイトカイン染色法で測定した。
【図6】連続するチロシンから成るエピトープ間配列について、チロシンの個数とワクチンによる特異的T細胞誘導の関係を調べた。3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)を含む長鎖ペプチド抗原MENを合成した。各エピトープ間の配列は、1~6個の連続したチロシンとした。各長鎖ペプチド抗原を含むワクチンを図1と同様にマウスに投与し、各エピトープ配列に特異的なCD8T細胞の頻度を細胞内サイトカイン染色法で測定した。
【図7】連続するチロシンから成るエピトープ間配列について、チロシンの個数とワクチンによる特異的T細胞誘導の関係を調べた。3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)を含む長鎖ペプチド抗原MENを合成した。各エピトープ間の配列は、5~10個の連続したチロシンとした。各長鎖ペプチド抗原を含むワクチンを図1と同様にマウスに投与し、各エピトープ配列に特異的なCD8T細胞の頻度を細胞内サイトカイン染色法で測定した。
【図8】長鎖ペプチドワクチンのエピトープ間配列の違いが、ワクチンの抗原提示細胞への取込みに及ぼす影響を調べた。3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)を含む長鎖ペプチド抗原MENを合成した。各エピトープ間の配列は、6個連続したチロシン(Y)、グリシン(G)またはプロリン(P)のいずれかとした。蛍光色素FAMで標識された各長鎖ペプチド抗原をCHPと複合体化し、試験管内でマウス樹状細胞およびマウスマクロファージに投与した。60分後に各細胞への蛍光取込みについて、樹状細胞では図中のP5画分、マクロファージでは図中のP6画分としてフローサイトメトリーで測定した。
【図9】長鎖ペプチドワクチンのエピトープ間配列の違いが、ワクチンの抗原提示細胞への取込みに及ぼす影響を調べた。図8と同様のFAM標識長鎖ペプチド抗原をCHPと複合体化し、マウスに皮下投与した。16時間後に投与部位の所属リンパ節より細胞を回収し、樹状細胞およびマウスマクロファージへの蛍光取込みについて、樹状細胞では図中のP4画分、マクロファージでは図中のP5画分としてフローサイトメトリーで測定した。
【図10】複数個のCD8T細胞エピトープを含む長鎖ペプチドワクチンのエピトープ間配列の違いが、ワクチンによる特異的CD8T細胞誘導に及ぼす影響を調べた。3種のヒトCD8T細胞エピトープ配列(NY p157:HLA-A0201拘束性、MA4 p143:HLA-A2402拘束性、WT1:HLA-A2402拘束性 p235)を含む長鎖ペプチド抗原NMWを合成した。各エピトープ間の配列は図示したアミノ酸が6個連続したものとした。各長鎖ペプチド抗原をデリバリーシステムの一種であるコレステロール修飾プルラン(CHP)と複合体化し、ワクチンとして試験管内で不死化ヒトB細胞株(LCL)に投与した。これを抗原提示細胞として、NY p157に特異的なCD8T細胞クローン1G4細胞と共培養し、抗原提示による1G4細胞の活性化をIFN—γ ELISPOT法で測定した。陽性対照にはNY p157短鎖ペプチドを投与したLCL、陰性対照には抗原未添加のLCLを抗原提示細胞に用いた。
【図11】複数個のCD8T細胞エピトープを含むRNAワクチンのエピトープ間配列の違いが、ワクチンによる特異的CD8T細胞誘導に及ぼす影響を調べた。3種のヒトCD8T細胞エピトープ配列(NY p157:HLA-A0201拘束性、MA4 p143:HLA-A2402拘束性、WT1:HLA-A2402拘束性p235)を含む長鎖ペプチド抗原NMWをコードするmRNAを合成した。各エピトープ間の配列は図示したアミノ酸が6個連続したものとした。各mRNAをワクチンとして、試験管内でLCLに電気穿孔法を用いて導入した。これを抗原提示細胞として、NY p157に特異的なCD8T細胞クローン1G4細胞またはMA4 p143に特異的なCD8T細胞クローンRNT007#45細胞と共培養し、抗原提示によるCD8T細胞の活性化をIFN—γ ELISPOT法で測定した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
<材料及び方法>
(1)試験動物
BALB/cマウスは6~12週齢の雌を日本SLCから購入し、三重大学医学部動物センターにて飼育した。動物実験のプロトコールについては、三重大学医学部の倫理委員会の承認を得た。

【0014】
(2)ペプチド
合成長鎖ペプチドはBio-Synthesis社から購入した。合成長鎖ペプチドの配列は次の通りであった。
MEN(Y):SNPARYEFLYYYYYYQYIHSANVLYYYYYYRGPESRLL(配列番号1)
MEN(G):SNPARYEFLGGGGGGQYIHSANVLGGGGGGRGPESRLL(配列番号2)
MEN(P):SNPARYEFLPPPPPPQYIHSANVLPPPPPPRGPESRLL(配列番号3)
MEN(T):SNPARYEFLTTTTTTQYIHSANVLTTTTTTRGPESRLL(配列番号4)
NME(Y):RGPESRLLYYYYYYSNPARYEFLYYYYYYQYIHSANVL(配列番号5)
NME(G):RGPESRLLGGGGGGSNPARYEFLGGGGGGQYIHSANVL(配列番号6)
NME(P):RGPESRLLPPPPPPSNPARYEFLPPPPPPQYIHSANVL(配列番号7)
ENM(Y):QYIHSANVLYYYYYYRGPESRLLYYYYYYSNPARYEFL(配列番号8)
MEN(Y):SNPARYEFLYQYIHSANVLYRGPESRLL(配列番号9)
MEN(Y):SNPARYEFLYYQYIHSANVLYYRGPESRLL(配列番号10)

【0015】
MEN(Y):SNPARYEFLYYYQYIHSANVLYYYRGPESRLL(配列番号11)
MEN(Y):SNPARYEFLYYYYQYIHSANVLYYYYRGPESRLL(配列番号12)
MEN(Y):SNPARYEFLYYYYYQYIHSANVLYYYYYRGPESRLL(配列番号13)
MEN(Y):SNPARYEFLYYYYYYYYQYIHSANVLYYYYYYYYRGPESRLL(配列番号14)
MEN(Y10):SNPARYEFLYYYYYYYYYYQYIHSANVLYYYYYYYYYYRGPESRLL(配列番号15)
ESO1 LP(天然型):GARGPESRLLEFYLAMPFATPMEAELARRSLAQDAPPLPV(配列番号16)
ESO1 LP(Y):GPESRLLYYYYYYYLAMPFATPMEAELARRSLA(配列番号17)
NMW(A):SLLMWITQCAAAAAANYKRCFPVIAAAAAACMTWNQMNL(配列番号18)
NMW(E):SLLMWITQCEEEEEENYKRCFPVIEEEEEECMTWNQMNL(配列番号19)
NMW(G):SLLMWITQCGGGGGGNYKRCFPVIGGGGGGCMTWNQMNL(配列番号20)

【0016】
NMW(H):SLLMWITQCHHHHHHNYKRCFPVIHHHHHHCMTWNQMNL(配列番号21)
NMW(N):SLLMWITQCNNNNNNNYKRCFPVINNNNNNCMTWNQMNL(配列番号22)
NMW(P):SLLMWITQCPPPPPPNYKRCFPVIPPPPPPCMTWNQMNL(配列番号23)
NMW(Q):SLLMWITQCQQQQQQNYKRCFPVIQQQQQQCMTWNQMNL(配列番号24)
NMW(S):SLLMWITQCSSSSSSNYKRCFPVISSSSSSCMTWNQMNL(配列番号25)
NMW(Y):SLLMWITQCYYYYYYNYKRCFPVIYYYYYYCMTWNQMNL(配列番号26)
合成短鎖ペプチドはシグマジェノシスから購入した。ペプチドのアミノ酸配列は次の通りであった。
MA p265:SNPARYEFL(配列番号27)
mERK2 9m:QYIHSANVL(配列番号28)
NY p81:RGPESRLL(配列番号29)
NY p157:SLLMWITQC(配列番号30)

【0017】
RNAワクチンの合成に用いた鋳型cDNAはオペロンバイオテクノロジ—株式会社より購入した。cDNAの配列は以下の通りであった。
NMW(Y):GGATCCATGAGCCTCCTGATGTGGATTACCCAATGCTATTACTACTATTACTACAACTATAAGAGATGTTT CCCCGTGATCTATTACTACTACTACTATTGCTATACATGGAATCAGATGAACCTGTGAGAATTC(配列番号31)
NMW(T):GGATCCATGAGCCTGCTCATGTGGATCACACAATGCACCACTACTACCACAACCAACTACAAGAGATGT TTCCCCGTGATTACCACAACCACAACTACGTGCTATACGTGGAATCAGATGAACCTGTGAGAATTC(配列番号32)
NMW(G):GGATCCATGAGCTTGCTCATGTGGATCACCCAATGTGGAGGAGGTGGTGGAGGCAACTACAAGCGATG TTTCCCCGTGATAGGCGGTGGAGGTGGAGGGTGCTACACATGGAACCAGATGAACCTGTGAGAATTC(配列番号33)
NMW(P):GGATCCATGAGTCTGCTGATGTGGATCACTCAGTGTCCTCCACCACCACCACCCAACTACAAGAGGTGT TTCCCCGTGATTCCACCACCTCCTCCTCCATGCTATACCTGGAATCAGATGAACCTGTGAGAATTC(配列番号34)

【0018】
(3)その他の試薬
コレステロール修飾プルラン(略称CHP)(CHP-80T)は(株)日油より入手した。CpGオリゴDNAは北海道システムサイエンスより購入した。FITC標識抗CD4モノクローナル抗体(クローンRM4‐5)、PerCP‐Cy5.5標識抗CD8モノクローナル抗体(クローン53‐6.7)、APC標識抗IFN‐γ抗体(クローンXMG1.2)はeBiosciece又はBDバイオサイエンスから購入した。抗ヒトIFN‐γ抗体、ビオチン化抗ヒトIFN‐γ抗体はMabtech社から購入した。
(4)長鎖ペプチド抗原とCHPの複合体の作製
長鎖ペプチドを10mg/mLの濃度でジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。CHPは10mg/mLの濃度で6M尿素含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解した。1mL(10mg)の長鎖ペプチド溶液と20mL(200mg)のCHP溶液を混合し、暗所にて室温で一晩放置した。混合液を透析膜(分子量カット:3,500,サーモサイエンティフィック社)に移し、透析外液として容積比100倍以上の0.6M尿素含有PBSに対し4℃で2時間から一晩透析した。次いで、透析外液として容積比100倍以上の0.06M尿素含有PBSに対し4℃で2時間から一晩透析した。再び、透析外液として容積比100倍以上のPBSに対し4℃で2時間から一晩透析した。透析内液を回収し、孔径0.45μmまたは0.22μmの濾過滅菌フィルターで濾過後、280nmにおけるUV吸収を測定し、長鎖ペプチドの分子吸光係数からその最終濃度を求めた。

【0019】
(5)マウスへのワクチン投与と脾臓細胞の分離
CHP/長鎖ペプチド複合体をワクチンとして、またCpGオリゴDNAを免疫増強剤として同時にマウスに投与した。投与は、マウスの背部皮下に注射して行った。投与量は、CHP/長鎖ペプチド複合体は長鎖ペプチドとして投与1回につき0.05~0.1mg相当を投与した。CpGオリゴDNAは投与1回につき0.05mgを投与した。最終投与の1週間後に、投与マウスから脾臓細胞を次の要領で分離した。マウスから脾臓を単離し、RPMI1640培地で洗浄し脱血した。スライドガラスを使いて脾臓を磨砕した後、遊離した細胞をRPMI1640培地中に回収した。遠心分離(400×g、5分、4℃)後に上清を除去し、2mLのACK溶液を加えて細胞を1分間処理した。18mLのRPMI1640培地を加え、遠心分離(400×g、5分、4℃)した。上清を除き、細胞を適当な量のRPMI1640培地に懸濁した。細胞数を計数した後、1×10個/mLの細胞濃度になるように10%ウシ胎児血清(FBS)含有RPMI1640培地に懸濁した。

【0020】
(6)マウス脾臓細胞の細胞内サイトカイン染色
24穴培養プレート(ヌンク)に、マウス脾臓細胞を1ウェルあたり5×10個/0.5 mLで添加した。CD8T細胞刺激用の短鎖ペプチドとしてNY p81、MAGE p265又はmERK2 9mを、あるいはCD4T細胞刺激用にESO1 LP(天然型)またはESO1 LP(Y)を10 μMの濃度で添加し、37℃、5% COで6時間培養を行った。その後、10%FBS含有RPMI1640培地にて10倍希釈したGoldiPlug(BDバイオサイエンス)を1ウェル辺り50μL添加し、37℃、5% COで6時間培養を行った。細胞を回収し、96ウェル丸底マイクロプレート(ヌンク)に移した。遠心分離(1200rpm, 1分, 4℃)して上清を除いた後、1ウェル当たり50μLの染色用バッファー(0.5%ウシ血清アルブミン含有PBS)に懸濁した。FITC標識抗CD8抗体またはFITC標識抗CD4抗体を添加し、混合した後、4℃の暗所にて15分間静置した。200μLの染色用バッファーで細胞を2回洗浄した後、100μLのCytofix/Cytopermバッファー(BDバイオサイエンス)を添加し、穏やかに混合した。室温の暗所にて20分間静置した後、100μLのPerm/Washバッファー(BDバイオサイエンス)で2回洗浄した。各種の抗サイトカイン抗体を添加した50μLのPerm/Washバッファーを細胞に加えて穏やかに懸濁した後、室温の暗所にて15分間静置した。100μLのPerm/Washバッファーで細胞を2回洗浄した後、染色用バッファー200μLに再懸濁を行い、丸底ポリスチレンチューブ(BDバイオサイエンス)へと移した。細胞はフローサイトメーター(FACS Canto II,BDバイオサイエンス)にて、付属の解析ソフトウェア(FACSDiva)を用いて解析した。

【0021】
(7)マウス腫瘍増殖試験
BALB/cマウスに3‐メチルコラントレンを投与して誘発した繊維芽肉腫から単離したCMS5細胞株より得られたサブクローンCMS5a細胞株は、腫瘍抗原として変異ERK2(mERK2)を発現し、mERK2由来のCD8T細胞エピトープを提示している。T75フラスコ(ヌンク)に培養したCMS5a細胞株を0.5%トリプシン含有PBSを用いて剥離し、10%FBS含有RPMI1640培地に回収した。遠心分離(400×g, 5分, 4℃)した後に上清を除き、RPMI1640培地にて2回洗浄後、1×106個/100μLの濃度でRPMI1640培地に懸濁し、100μL/個体の用量でBALB/cマウスに皮下移植した。CHP/長鎖ペプチド複合体と免疫増強剤は、腫瘍移植の7日前に投与した(予防的条件)。腫瘍移植後、経時的に腫瘍の長径と短径を測定し、その積を腫瘍サイズとして記録した。腫瘍増殖試験におけるデータの比較は、マイクロソフトエクセル(マイクロソフト社)を用いてスチューデントt検定により行った。

【0022】
(8)長鎖ペプチド抗原の抗原提示細胞への取込み
In vitroにおける長鎖ペプチド抗原の抗原提示細胞への取込みは、以下のようにして測定した。蛍光色素で標識した長鎖ペプチドを前述の方法でCHPと複合体化した。正常マウスより分離した脾臓細胞を24ウェルプレートに1×10個/0.5mL/ウェルで添加した。各々のCHP/蛍光標識長鎖ペプチド複合体を10μg/mLの濃度で添加し、37℃にて培養した。60分後に細胞を回収し、抗CD11c抗体および抗F4/80抗体で染色した。フローサイトメトリーを用いて、CD11c細胞(樹状細胞)とF4/80細胞(マクロファージ)への蛍光標識長鎖ペプチド抗原の取込みを観察した。
動物個体における抗原提示細胞への長鎖ペプチド抗原取り込み試験は、次のように行った。長鎖ペプチドを蛍光標識しCHPナノゲルと複合体してBALB/cマウスへ皮下投与した。投与16時間後、リンパ節より細胞を回収し、抗CD11c抗体および抗F4/80抗体で染色後、CD11c細胞(樹状細胞)とF4/80細胞(マクロファージ)への蛍光標識長鎖ペプチド抗原の取り込みをフローサイトメトリーにより解析した。

【0023】
(9)不死化B細胞株(LCL)への長鎖ペプチドワクチン投与
凍結保管していたLCLをRPMI培地で洗浄し、1.25×10/mLとなるようにX-VIVO15培地に懸濁した。これをポリプロピレンチューブに0.4mLずつ分注し、各チューブに0.1mLのワクチン溶液(ペプチドとして0.1mg/mL)を加えた。37℃, 5%CO存在下で24時間培養し、抗原提示細胞として用いた。
(10)不死化B細胞株(LCL)へのRNAワクチン投与
(9)と同様に洗浄・懸濁したLCLに対し、ECM830を用いた電気穿孔法(300V, 700μs)によりmRNAを導入した。37℃, 5%CO存在下で24時間培養し、抗原提示細胞として用いた。

【0024】
(11)ELISPOT法
ELISPOT専用の96ウェルプレート(ミリポア社、Multiscreen HA、 MAHAS4510)に適切な濃度に希釈した捕捉用抗IFN-γ抗体を75μLずつ分注し、4℃で一夜静置した。液を廃棄し、RPMI培地で洗浄した後、10%ウシ胎児血清を含むRPMI培地を100μLずつ分注し、37℃で1時間以上静置した。液を廃棄し、(9)または(10)で調製したLCLを5×10個/100μL/ウェルとなるように調整し、各ウェルに添加した。凍結保管していたCD8T細胞クローンを解凍・洗浄し、5×10/mLとなるようにRPMI培地で調整した後、0.1mLずつを各ウェルに添加した。37℃, 5%CO存在下で24時間培養した後、液を廃棄し、0.05%Tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS—T)で良く洗浄した。ビオチン標識した検出用IFN-γ抗体を適切な濃度に希釈し、0.1mLずつ各ウェルに分注した。4℃で一夜放置した後、PBS—Tで良く洗浄し、適切な濃度に希釈したアルカリフォスファターゼ標識ストレプトアビジンを0.1mLずつ添加した。室温で1時間インキュベートした後、PBS—Tで良く洗浄した。発色液を0.1mLずつ添加し、室温で5分間から30分間反応させた。スポットの発生が認められたら、水で洗浄して反応停止した。
(12)長鎖ペプチド抗原をコードするmRNAの作製
目的の長鎖ペプチド抗原をコードするcDNAを、合成遺伝子としてオペロンバイオテクノロジー株式会社から購入した。これをpcDNA3.1ベクターのマルチクローニングサイトにクローニングした。pcDNA3.1に含まれるT7プロモーター上のプライミングサイトを利用し、ライフテクノロジー社のMEGAscript(登録商標)T7 Transcription Kitなどを用いて、常法に従いmRNAを合成した。

【0025】
<試験結果>
複数個のT細胞エピトープを含む長鎖ペプチドを抗原とするワクチンにおいて、エピトープ間配列の違いにより、各エピトープによる特異的T細胞誘導の成否に影響が生じることを図1に示す。ヒト腫瘍抗原のMAGE‐A4、NY‐ESO‐1及びマウス腫瘍抗原の変異ERK2(mERK2)に由来する3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列MA p265、NY p81、mERK2 9mを含む長鎖ペプチド抗原MENを合成した。3種のエピトープの間の配列は6個連続したチロシン(Y)、グリシン(G)、プロリン(P)またはスレオニン(T)のいずれかとした。各長鎖ペプチド抗原をデリバリーシステムの一種であるコレステロール修飾プルラン(CHP)と複合体化し、ワクチンとしてマウスに投与した。エピトープ間配列にYまたはTを採用した長鎖ペプチドワクチンでは、3種の全てのエピトープに対応する特異的CD8T細胞が明確に誘導された。これに対しエピトープ間配列にGまたはPを用いたワクチンでは、3種のエピトープに対する特異的CD8T細胞の誘導は明らかに弱いものであった。このことから、エピトープ間配列がその前後のエピトープによるT細胞誘導に大きく影響すること、エピトープ間配列としては連続したチロシンまたはスレオニンが好ましいことが明らかとなった。
長鎖ペプチド抗原のエピトープ間配列の違いがワクチンによる抗腫瘍効果に及ぼす影響について、マウス腫瘍移植モデルを用いて検討した(図2)。3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)を含む長鎖ペプチド抗原MENを合成し、各エピトープ間の配列は6個連続したチロシン(Y)、グリシン(G)またはプロリン(P)のいずれかとした。各長鎖ペプチド抗原をCHPと複合体化し、ワクチンとしてマウスに単回投与した。対照として、mERK2 9mペプチドのみから成る短鎖ペプチドワクチンを投与した。投与翌日、mERK2抗原由来のCD8T細胞エピトープmERK2 9mを提示するマウス繊維芽肉腫細胞株CMS5aを皮下移植し、その増殖を経時的に記録した。長鎖ペプチド抗原MEN(Y)を用いるワクチンでは、腫瘍の増殖が顕著に抑制された(p<0.05)。これと比較して、MEN(G)またはMEN(P)を用いるワクチン、もしくはmERK2 9m短鎖ペプチドワクチンでは、腫瘍増殖の有意な抑制は認められなかった。図1で認められたエピトープ間配列の違いから生じた特異的CD8キラーT細胞の誘導の差異が、ワクチンによる治療効果に大きな影響を及ぼしたと考えられる。また、最適なエピトープ間配列を採用することによって、長鎖ペプチドワクチンの方が短鎖ペプチドワクチン(ここではmERK2 9mペプチドを抗原としたワクチン)を凌駕する治療効果を発揮することも明らかとなった。

【0026】
図1の場合とは長鎖ペプチド抗原上のエピトープの順序が異なる、すなわちエピトープ間配列の前後のエピトープ配列が異なるときの連続チロシン配列のエピトープ間配列としての有用性について検討した。3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)を含む長鎖ペプチド抗原NMEを合成した。NMEは図1のMENとは3種のエピトープの順序が異なる。各エピトープ間の配列は、6個連続したチロシン(Y)、グリシン(G)またはプロリン(P)のいずれかとした。各長鎖ペプチド抗原を含むワクチンをマウスに投与したところ、図1と同様、エピトープ間配列にYを用いたワクチンで3種の全てのエピトープに対応する特異的CD8T細胞が明確に誘導された(図3)。これに対し、GまたはPを用いたワクチンでは、3種のエピトープのうち1~2種のエピトープに対する特異的CD8T細胞誘導が認められなかった。エピトープ間配列の前後のエピトープ配列の影響をさらに調べるため、エピトープ間配列は6個連続したチロシン(Y)に固定し、3種のエピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)の順序を変えた長鎖ペプチド抗原MEN、ENM、NMEを用意した。各長鎖ペプチド抗原を含むワクチンをマウスに投与したところ、いずれの長鎖ペプチド抗原においても3種の全てのエピトープに対応する特異的CD8T細胞が明確に誘導された(図4)。よって、連続したチロシンからなるエピトープ間配列を含む長鎖ペプチド抗原では、エピトープ間配列の前後の配列に関わらず、全てのエピトープに対する特異的CD8T細胞が誘導できることが分かった。

【0027】
長鎖ペプチドワクチンでは、標的抗原とするタンパクの天然アミノ酸配列をそのまま長鎖ペプチド抗原の配列に用いることが多い。一方、これまでの試験結果から、エピトープ間の配列によってはその前後のエピトープが適切に機能しないことが明らかとなった(図1~3)。よって、エピトープ間配列が天然アミノ酸配列であっても、その前後のエピトープの働きに好ましくない影響を及ぼすことがあり得ると考えた。そこで、ヒト腫瘍抗原NY‐ESO‐1に由来するマウスCD8T細胞エピトープ配列(NY p81又はNY p82)およびマウスCD4T細胞エピトープ配列(NY p91)を含む長鎖ペプチド抗原ESO1 LP(天然型)およびESO1 LP(Y)を合成した。エピトープ間の配列は、ESO1 LP(天然型)ではNY‐ESO‐1の天然アミノ酸配列を保持し、ESO1 LP(Y)では6個連続したチロシン(Y)とした。各長鎖ペプチド抗原を含むワクチンをマウスに投与したところ、NY p81特異的CD8T細胞の誘導はESO1 LP(天然型)を抗原とするワクチンではほとんど認められなかったが、ESO1 LP(Y)を抗原とするワクチンでは顕著であった(図5)。CD8T細胞エピトープとしてESO1 LP(天然型)はNY p81(RGPESRLL(配列番号29))を含み、ESO1 LP(Y)はNY p82(GPESRLL(配列番号35))を含む点で差異があるが、NY p82はNY p81に比べて免疫原性が乏しいことを確認しており(非特許文献8)、ESO1 LP(天然型)よりESO1 LP(Y)が優れていたのはこの差異に依らない。また、NY p91特異的CD4T細胞の誘導は、ESO1 LP(天然型)とESO1 LP(Y)のいずれにおいても明確に認められた。以上より、天然アミノ酸配列由来のエピトープ間配列は機能しないことがあること、連続チロシン配列をエピトープ間配列に選べば、その問題も解決できることが明らかとなった。

【0028】
連続するチロシンがエピトープ間配列として有用であるとして、その最適な個数について検討した。3種のマウスCD8T細胞エピトープ配列(MA p265、NY p81、mERK2 9m)を含む長鎖ペプチド抗原MENを合成した。各エピトープ間の配列は、1~6個(図6)または5~10個(図7)の連続したチロシンとした。各長鎖ペプチド抗原を含むワクチンを図1と同様にマウスに投与し、誘導される特異的CD8T細胞の頻度を測定した。1~6個のチロシンを比較した場合(図6)、1番目のエピトープであるMA p265と3番目のエピトープであるNY p81に関しては、エピトープ間配列が6個のチロシン(Y)の時が特異的CD8T細胞の誘導が最も高く、チロシンの個数が減るに従いCD8T細胞の誘導は弱まる傾向にあった。2番目のエピトープであるmERK2 9mについては、エピトープ間配列が4個のチロシン(Y)の時が特異的CD8T細胞の誘導が最も高く、チロシンの個数が減るに従って、CD8T細胞の誘導は弱まる傾向にあった。このmERK2 9mではエピトープ間配列が6個のチロシン(Y)の場合、4個のチロシン(Y)のときよりは劣るが、ある程度の特異的CD8T細胞の誘導が認められた。以上の3種のエピトープでの結果を鑑み、エピトープ間配列のチロシンの個数としては6個が最も良く、次いで4個が良く、3個以下は好ましくないと考えられた。5~10個のチロシンを比較した場合(図7)、1番目のエピトープであるMA p265については、エピトープ間配列のチロシンの個数による特異的CD8T細胞の誘導への明らかな影響は認められなかった。2番目のエピトープであるmERK2 9mについては、エピトープ間配列が6個のチロシン(Y)の時が特異的CD8T細胞の誘導が最も高く、チロシンの個数がそれ以外の場合は、CD8T細胞の誘導は弱まる傾向にあった。3番目のエピトープであるNY p81に関しては、エピトープ間配列のチロシンの個数が8個(Y)の場合を除き、チロシンの個数による特異的CD8T細胞の誘導への明らかな影響は認められなかった。3種のエピトープでの結果を鑑み、エピトープ間配列のチロシンの個数としては6個が最もよく、それより多くなっても概ね変わらないと考えられた。以上より、エピトープ間配列として連続するチロシンの個数は4個~8個が好ましく、4個~6個がより好ましく、6個が特に好ましいことが明らかとなった。

【0029】
エピトープ間配列の違いがその前後のエピトープによる特異的T細胞誘導に影響するとして、その機序はエピトープ間配列が抗原提示細胞内のプロテアソームなどにより適切に切断されるか否かによると考えられる(非特許文献7)。その他の機序を探る目的で、エピトープ間配列を6個連続したチロシン(Y)、グリシン(G)またはプロリン(P)のいずれかとした長鎖ペプチド抗原MENを合成した。蛍光色素FAMで標識した各長鎖ペプチド抗原をCHPと複合体化し、試験管内で樹状細胞とマクロファージを含むマウス脾臓細胞に投与した。樹状細胞とマクロファージへの蛍光の取込みを測定したところ、エピトープ間配列の違いにより細胞への取込みが異なるという想定外の所見を得た(図8)。すなわち、エピトープ間配列にYを採用した長鎖ペプチド抗原は、GやPを用いた場合と比較し、細胞への取込みが樹状細胞とマクロファージのいずれにおいても著しく高かった。同様の所見はマウス個体での試験でも得られた。図8と同様のFAM標識長鎖ペプチド抗原をCHPと複合体化し、マウスに皮下投与した。投与部位の所属リンパ節に存在する樹状細胞およびマウスマクロファージへの蛍光取込みを測定した。マクロファージでは、エピトープ間配列にYを採用した長鎖ペプチド抗原の取込みが明確に認められた。これに対し、GやPを採用した長鎖ペプチド抗原の取込みはほとんど認められなかった。樹状細胞では、いずれの長鎖ペプチド抗原においても取込みが認められなかった。図8の結果と合わせ、連続するチロシンをエピトープ間配列に有する長鎖ペプチド抗原は抗原提示細胞、特にマクロファージへの取込みが改善することが明らかとなった。この現象は、連続するチロシンをエピトープ間配列に有する長鎖ペプチド抗原を用いたワクチンの高い特異的T細胞誘導能力と、優れたがん治療効果の機序の一つとなっている可能性がある。

【0030】
複数個のT細胞エピトープを含む長鎖ペプチドを抗原とするワクチンにおいて、エピトープ間配列の違いにより、各エピトープによる特異的T細胞誘導の成否に影響が生じることを、ヒト免疫細胞を用いた試験管内抗原提示反応において検討した(図10)。ヒト腫瘍抗原のNY-ESO-1、MAGE-A4、及びWT1に由来する3種のヒトCD8T細胞認識エピトープ配列NY p157、MA4 p143、WT1 p235を含む長鎖ペプチド抗原NMWを合成した。3種のエピトープの間の配列はアラニン(A)、グルタミン酸(E)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、アスパラギン(N)、プロリン(P)、グルタミン(Q)、セリン(S)、チロシン(Y)のいずれかが6個連続するものとした。これら以外のアミノ酸から成るエピトープ間配列を含む長鎖ペプチドは、合成が困難であったか、あるいはCHPとの複合体化が困難であった。各長鎖ペプチド抗原をCHPと複合体化したワクチンを投与したヒト不死化B細胞株(LCL)を抗原提示細胞として、NY p157特異的CD8T細胞クローン1G4細胞に対する抗原提示活性をIFN-γ ELISPOT法で評価した。マウスでの検討結果と同様に、エピトープ間配列にYを採用した長鎖ペプチドワクチンでは1G4細胞の活性化が明確に確認されたが、エピトープ間配列にGまたはPを用いたワクチンでは、同細胞の活性化は明確に認められなかった。また、エピトープ間配列にA、N、Q、Sを用いたワクチンでもYを用いたワクチンと同様に1G4細胞の活性化が認められ、これらのエピトープ間配列も有用であることが示された。

【0031】
複数個のT細胞エピトープを含む長鎖ペプチド抗原をコードするmRNAを用いるワクチンにおいて、エピトープ間配列の違いにより、各エピトープによる特異的T細胞誘導の成否に影響が生じることを、ヒト免疫細胞を用いた試験管内抗原提示反応において検討した(図11)。ヒト腫瘍抗原のNY-ESO-1、MAGE-A4、及びWT1に由来する3種のヒトCD8T細胞認識エピトープ配列NY p157、MA4 p143、WT1 p235を含む長鎖ペプチド抗原NMWをコードするmRNAを合成した。3種のエピトープの間の配列はグリシン(G)、プロリン(P)、スレオニン(T)、チロシン(Y)のいずれかが6個連続するものとした。各mRNAを導入したLCLを抗原提示細胞として、NY p157特異的CD8T細胞クローン1G4細胞またはMA4 p143特異的CD8T細胞クローンRNT007#45細胞に対する抗原提示活性をIFN-γ ELISPOT法で評価した。エピトープ間配列にYを採用した長鎖ペプチドをコードするRNAワクチンでは、1G4細胞およびRNT007#45の活性化が明確に確認された。このことから、本発明のエピトープ間配列はペプチドワクチンだけでなくRNAワクチンにおいても有用であることが示された。

【0032】
連続するチロシンまたはスレオニンのエピトープ間配列としての有用性は、以上の長鎖ペプチドワクチンに限らず、DNAワクチン、mRNAワクチンまたは樹状細胞ワクチンにも適用できる。
DNAワクチンは、N末端にメチオニン1個を有し、複数個のT細胞エピトープを連続チロシン配列または連続スレオニン配列で連結した長鎖ペプチド抗原をコードするcDNAを人工遺伝子合成技術で合成し、哺乳類向け遺伝子発現プラスミドベクターに挿入することで作製できる。長鎖ペプチド抗原のcDNAは、含めるT細胞エピトープの個数により66~数kbpの範囲で合成する。プラスミドは、pcDNA3やpVAXなどの哺乳類細胞で動作するプロモーター(CMVプロモーターなど)およびmRNAの安定化用のポリA(ウシ成長ホルモン由来など)と薬剤耐性遺伝子(カナマイシンなど)を含むものが利用できる。プラスミドには複数個の長鎖ペプチド抗原cDNAを搭載してもよく、各抗原cDNAはIRES配列などで連結することで同時発現させることができる。同様にして、プラスミドには腫瘍免疫応答を増強するためのアクセサリー遺伝子、例えばIFN‐γやIL‐12などのサイトカインや、GITRリガンド‐Fcなどの免疫刺激性分子、PD‐L1‐Fcなどの免疫抑制阻害分子も同時に搭載できる。また、搭載する抗原cDNAやアクセサリー分子の数と種類が異なる複数のプラスミドDNAを同時に投与してもよい。

【0033】
得られたDNAワクチンは、1個体あたり1μgから1mgの用量で、遺伝子銃、無針注射器、エレクトロポレーション法、DNAタトゥーイング、デリバリーシステム(カチオニックリポソームやポリエチレンイミンなど)、ハイドロダイナミック法、経皮投与法などの投与技術を用いてマウス(BALB/cマウスまたはC57BL/6マウスなど)などの動物やヒトなどの生体の皮下、皮内、静脈内、筋肉内、リンパ節内、皮膚上または腫瘍内に、1~4週間の間隔で反復投与する。投与の1~2週間後には、DNAワクチン上のcDNAから転写・翻訳された長鎖ペプチド抗原に含まれるT細胞エピトープにより誘導された特異的T細胞を、細胞内サイトカイン染色法やELISPOT法、MHCテトラマー染色法などの免疫学的技術で検出できる。マウスでの試験では野生型もしくはモデル抗原遺伝子を組み込んだCMS5a繊維芽肉腫、CT26大腸がん、4T1乳がん(以上BALB/cマウス)やB16メラノーマ、LLC肺がん(以上C57BL/6マウス)を皮下移植し、その増殖や転移に対するDNAワクチンの抑制効果を観察できる。腫瘍の増殖は腫瘍のサイズを計測してもよいし、ルシフェラーゼ遺伝子などのモニター用遺伝子を組み込んだ腫瘍細胞を用いれば、IVIS(パーキンエルマー社)などのin vivoイメージング技術で測定できる。転移は、腫瘍を静脈内または皮下投与したときに転移先の肺などに生じる腫瘍結節を解剖後に目視で計数するか、あるいはin vivoイメージング技術で評価できる。

【0034】
DNAワクチンでは、プラスミドベクターでなくウイルスや微生物を用いる生体ベクターを利用してもよい。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、鶏痘ウイルスベクター、アルファウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどが利用できる。微生物ベクターには酵母やリステリア、サルモネラ菌、大腸菌、乳酸菌などが利用できる。これら生体ベクターを用いたDNAワクチンは、マウスなどの試験動物やヒトの静脈内、皮下、皮内、筋肉内、リンパ節内、粘膜上または腫瘍内に投与される。生体ベクターに搭載する遺伝子の構成と評価方法(免疫原性と治療効果)は、前述のプラスミドベクターの例に準じる。

【0035】
連続するチロシンまたはスレオニンをエピトープ間配列に配したmRNAワクチンも、DNAワクチンと同様に実施できる。N末端にメチオニン1個を有し、複数個のT細胞エピトープを連続チロシン配列または連続スレオニン配列で連結した長鎖ペプチド抗原をコードするcDNAを人工遺伝子合成技術で合成し、in vitro転写の鋳型用のプラスミドDNAに挿入する。cDNAは、含めるT細胞エピトープの個数により、66~数kbpの範囲で作製する。プラスミドDNAは、ファージRNAポリメラーゼが認識するプロモーター(T7プロモーター、T3プロモーターやSP6プロモーターなど)とポリAおよび薬剤耐性遺伝子(カナマイシンなど)を含むもの、例えばpGEMやpcDNA3などが利用できる。このプラスミドDNAを鋳型として、市販のin vitro転写キット(ライフテクノロジーズ社のMEGAscriptやプロメガ社のRiboMax Large Scale RNA Production Systemsなど)を用いてmRNAを合成する。必要に応じて、ポリAテーリングキット(ライフテクノロジーズ)などを用いてポリAをmRNAに付加する。得られたmRNAはそのまま、もしくはプロタミンやリポソームなどを用いて安定化したのち、マウスなどの試験動物やヒトの皮下、皮内、筋肉内、リンパ節内または腫瘍内に投与される。mRNAワクチンは複数のmRNAを含有できる。例えば長鎖ペプチド抗原をコードする複数のmRNAを混合して投与してもよい。また、IFN‐γやIL‐12などのサイトカイン、CD40リガンドやGITRリガンド‐Fcなどの免疫刺激性分子、PD‐L1‐Fcなどの免疫抑制阻害分子といった腫瘍免疫応答を増強するためのアクセサリー分子をコードするmRNAをmRNAワクチンと同時に投与してもよい。mRNAワクチンの投与条件と評価方法(免疫原性と治療効果)は、前述のDNAワクチンの例に準じる。

【0036】
樹状細胞ワクチンに用いる樹状細胞は、ヒトでは末梢血単核球から、マウスでは骨髄細胞から、GM‐CSFとIL‐4を用いて常法により試験管内で分化誘導できる。これに前述の長鎖ペプチド抗原を添加したもの、もしくは前述の長鎖ペプチド抗原をコードするmRNAを添加したものをワクチンとする。長鎖ペプチド抗原を用いる場合は、デリバリーシステムとしてCHPを利用することで取込みと発現の効率を高めることができる(図8)。長鎖ペプチド抗原をコードするmRNAを用いる場合は、エレクトロポレーション法により樹状細胞への取込みと発現の効率を高めることができる。このとき、前述のように腫瘍免疫応答を増強するためのアクセサリー分子をコードするmRNAを同時に添加してもよい。抗原を添加した後の樹状細胞は、TNFα, IL‐1β, IL‐6, Flt3リガンド、PGE、CpGオリゴDNA、ポリIC RNAなどで刺激して成熟化させて用いてもよい。得られた樹状細胞ワクチンは、マウスなどの試験動物やヒトの皮下、皮内、リンパ節内、腫瘍内または静脈内に10~10個の用量で投与される。その評価方法(免疫原性と治療効果)は、前述のDNAワクチンの例に準じる。

【0037】
連続するチロシンまたはスレオニンをエピトープ間配列に採用した長鎖ペプチドワクチン、DNAワクチン、mRNAワクチン、樹状細胞ワクチンはがん以外の疾患、例えば感染症にも適用できる。感染症の病原体としては、肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、成人型T細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、コクサッキーウイルス、ロタウイルス、RSウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、麻疹ウイルス、ポリオウイルス、ノロウイルスなどの病原性ウイルス類や、リケッチア、クラミジア、ファイトプラズマ、コクシエラ、トキソプラズマ、リーシュマニア等の病原性の偏性細胞内寄生性微生物、マラリア原虫、クリプトスポリジウム等の原虫類などを挙げることができる。

【0038】
例として、C型肝炎ウイルスに対するワクチンでは、C型肝炎ウイルス由来タンパク、例えばコアタンパク、NS3、NS4で同定されている複数のT細胞エピトープを連続するチロシンまたはスレオニンから成るエピトープ間配列で連結した長鎖ペプチド抗原を設計できる。ヒト肝臓組織を移植した免疫不全マウスなどのモデル系を用いれば、この長鎖ペプチド抗原を含むワクチンの投与条件とC型肝炎ウイルスの感染に対する治療効果を検討することができる。ヒトヘルペスウイルスに対するワクチンでは、ヒトヘルペスウイルス由来タンパクのE6やE7に含まれるT細胞エピトープを用いて同様に長鎖ペプチド抗原を設計し、E6又はE7を発現する腫瘍を移植したマウスモデルで投与条件と治療効果を検討することができる。病原性微生物に対するワクチン、例えばマラリアに対するワクチンでは、マラリア原虫の成熟体の表面に発現するmerozoite surface protein 3(MSP3)やglutamate rich protein(GLURP)、管内気に発現するliver-specific protein 2(LISP2)に含まれるT細胞エピトープ群を連続チロシン配列または連続スレオニン配列で連結した長鎖ペプチド抗原を設計する。この長鎖ペプチド抗原を含むワクチンを投与したマウスに、1万個のマラリア原虫のスポロゾイトを静脈内投与し、4~14日後に末梢血スメアを作製する。ギムザ染色したのち、顕微鏡下で寄生虫血を観察することで、ワクチンの投与条件と治療効果を検討できる。

【0039】
以上の結果は、長鎖ペプチド抗原に含まれる複数個のエピトープによる特異的T細胞誘導をエピトープ間配列の違いが大きく左右すること、不適切なエピトープ間配列を用いたがん治療用ワクチンは目的のT細胞誘導もがん治療効果も乏しいことを示す一方で、連続したチロシンやスレオニンをエピトープ間配列に用いることで、長鎖ペプチド抗原に含まれる複数個のエピトープによる特異的T細胞誘導を確実に達成し、高い治療効果を発揮するがん治療用ワクチンを実現できることを示している。その際、エピトープ間配列の前後のエピトープ配列は問わないことも明らかにし、エピトープ間配列の適切な長さも規定できた。
本実施形態によれば、がん治療効果が極めて高いがん治療用ワクチンを提供できた。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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