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明細書 :窒化物半導体結晶、製造方法および製造装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6510413号 (P6510413)
登録日 平成31年4月12日(2019.4.12)
発行日 令和元年5月8日(2019.5.8)
発明の名称または考案の名称 窒化物半導体結晶、製造方法および製造装置
国際特許分類 C30B  29/38        (2006.01)
C30B  25/14        (2006.01)
FI C30B 29/38 D
C30B 29/38 C
C30B 25/14
請求項の数または発明の数 13
全頁数 23
出願番号 特願2015-536448 (P2015-536448)
出願日 平成26年9月10日(2014.9.10)
国際出願番号 PCT/JP2014/004655
国際公開番号 WO2015/037232
国際公開日 平成27年3月19日(2015.3.19)
優先権出願番号 2013188805
優先日 平成25年9月11日(2013.9.11)
優先権主張国 日本国(JP)
審判番号 不服 2017-016880(P2017-016880/J1)
審査請求日 平成28年3月10日(2016.3.10)
審判請求日 平成29年11月14日(2017.11.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
発明者または考案者 【氏名】纐纈 明伯
【氏名】熊谷 義直
【氏名】村上 尚
個別代理人の代理人 【識別番号】110000877、【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
参考文献・文献 特開2007-169132(JP,A)
特開2006-44982(JP,A)
特開2012-66983(JP,A)
特開2009-173507(JP,A)
調査した分野 C30B1/00-35/00
H01L21/205
特許請求の範囲 【請求項1】
基板を用意する工程と、
分圧が9.0×10-3atm以上である三ハロゲン化ガリウムガスを前記基板上に供給する工程と、
アンモニアガスを前記基板上に供給する工程と、
前記基板上に、GaN結晶を-C軸方向に成長させる工程と
を備え、
前記GaN結晶の成長温度が1200℃以上である窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項2】
金属ガリウムとハロゲンガスとを反応させて一ハロゲン化ガリウムガスを生成する第1工程と、
生成した前記一ハロゲン化ガリウムガスとハロゲンガスとを反応させて前記三ハロゲン化ガリウムガスを生成する第2工程と
をさらに備え、
前記第1工程が行われる第1反応室と前記第2工程が行われる第2反応室の間の抑制構造において、前記第1工程で生成された前記一ハロゲン化ガリウムガスの濃度が低下することを抑制する請求項1に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項3】
前記抑制構造は、前記第1反応室および前記第2反応室の間の経路であり、
前記経路の断面積は、前記第1反応室および前記第2反応室の断面積よりも小さい請求項2に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項4】
前記第2反応室は、前記三ハロゲン化ガリウムガスの流速を減速させる複数の仕切り板を備える請求項2に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項5】
前記基板は、前記窒化物半導体結晶と異なる材料である請求項1から4のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程が行われる第1反応室に供給される前記ハロゲンガスの分圧は、.0×10-3atm以上である請求項2に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項7】
前記GaN結晶を-C軸方向に成長させる工程の後に、前記窒化物半導体結晶の上面を切り出す工程と、切り出された前記窒化物半導体結晶の上面にさらに結晶を成長させる工程と、を繰り返す工程
をさらに備える請求項1から6のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項8】
前記三ハロゲン化ガリウムガスは、三塩化ガリウムガスである請求項1から7のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項9】
前記GaN結晶を-C軸方向に成長させる工程は、THVPE法(トリハライド気相成長法)で成長させる請求項1から8のいずれか一項に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
分圧が9.0×10-3atm以上である三ハロゲン化ガリウムガスを生成して、基板上に供給するガス供給部と、
アンモニアガスを前記基板上に供給するアンモニア供給部と、
前記基板が設置され、前記基板上に、GaN結晶を-C軸方向に成長させる成長室と、
前記GaN結晶の成長温度を1200℃以上に制御する温度制御部と
を備え、
前記ガス供給部は、
金属ガリウムとハロゲンガスとを反応させて一ハロゲン化ガリウムガスを生成する第1反応室と、
生成した前記一ハロゲン化ガリウムガスとハロゲンガスとを反応させて前記三ハロゲン化ガリウムガスを生成する第2反応室と
を備え、
前記第1反応室において生成された前記一ハロゲン化ガリウムガスの濃度が低下することを抑制する抑制構造を、前記第1反応室と前記第2反応室との間に備え
前記第2反応室は、複数の仕切り板を備える窒化物半導体結晶の製造装置。
【請求項11】
前記抑制構造は、前記第1反応室および前記第2反応室の間の経路であり、
前記経路の断面積は、前記第1反応室および前記第2反応室の断面積よりも小さい請求項10に記載の窒化物半導体結晶の製造装置。
【請求項12】
前記第1反応室に供給される前記ハロゲンガスの分圧は、.0×10-3atm以上である請求項11に記載の窒化物半導体結晶の製造装置。
【請求項13】
前記GaN結晶の成長速度は、250μm/h以上である請求項1に記載の窒化物半導体結晶の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体結晶、製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)、ソーラーセル、パワーデバイス等様々な分野において、窒化物半導体結晶が利用されている。
【0003】
トリハライド気相成長法(THVPE法、Tri-halide Vapor Phase Epitaxy)は、ハイドライド気相成長法(HVPE法、Hydride Vapor Phase Epitaxy)に比べて、高温、かつ、高速に窒化物半導体結晶を成長できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のTHVPE法は、高濃度の原料ガスを供給できないため、大口径、かつ、超厚膜の窒化物半導体結晶を製造するまでに至らなかった(例えば、特許文献1)。
特許文献1 国際公開第2011/142402号パンフレット
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様においては、基板を用意する工程と、分圧が9.0×10-3atm以上である三ハロゲン化ガリウムガスを基板上に供給する工程と、基板上に、GaN結晶を-C軸方向に成長させる工程とを備え、GaN結晶の成長温度が1200℃以上である窒化物半導体結晶の製造方法を提供する。
【0006】
本発明の第2の態様においては、基板を用意する工程と、分圧が9.0×10-3atm以上である三ハロゲン化アルミニウムガスを基板上に供給する工程と、基板上に、AlN結晶を-C軸方向に成長させる工程とを備え、AlN結晶の成長温度が1400℃以上である窒化物半導体結晶の製造方法を提供する。
【0007】
本発明の第3の態様においては、結晶の直径が4インチ以上、かつ、反りの曲率半径が100m以上であり、結晶の不純物濃度が1×1017/cm以下である窒化物半導体結晶を提供する。
【0008】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】初期基板上に窒化物半導体薄膜層を積層した積層体の断面の概要を示す。
【図2】窒化物系LEDの問題であるDroop現象を示す。
【図3】窒化物半導体結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】GaN結晶の構造および極性を示す。
【図5】GaN結晶成長と極性の関係を示す。
【図6】-C軸および+C軸方向にGaNを成長させた場合の結晶の形状を示す。
【図7】窒化物半導体結晶の成長方法毎の特性を比較した表である。
【図8】HVPE法とTHVPE法の成長の駆動力を比較した図である。
【図9】HVPE法とTHVPE法の成長速度を比較したグラフである。
【図10】窒化物半導体結晶製造装置200の概要を示す。
【図11】従来の窒化物半導体結晶製造装置250の概要を示す。
【図12】従来の窒化物半導体基板の製造プロセスを示す。
【図13】本発明に係るGaN基板の製造プロセスを示す。
【図14】KOHエッチングによるGaN結晶の極性判定の方法を示す。
【図15】-C面および+C面に作成したLEDのバンド図の比較例を示す。
【図16】-C面と+C面のIn取り込みの大きさの比較例を示す。
【図17】GaClガスの分圧と、GaN結晶の成長速度との関係を示す。
【図18】実施例1に係るGaN結晶層のSEMの断面写真および鳥瞰写真を示す。
【図19】実施例4に係るGaN結晶層の光学顕微鏡写真を示す。
【図20】GaN結晶層のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示す。
【図21】実施例5に係るGaN結晶層の断面SEM写真を示す。
【図22】比較例1に係るGaN結晶層の鳥瞰SEM写真を示す。
【図23】比較例2に係るGaN結晶層のSEMの鳥瞰写真を示す。
【図24】比較例3に係るGaN結晶層のSEMの鳥瞰写真を示す。
【図25】比較例4に係るGaN結晶層のSEMの鳥瞰写真を示す。
【図26】窒化物半導体結晶を成長する場合の成長温度と成長速度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。

【0011】
図1は、初期基板上に窒化物半導体薄膜層を積層した積層体の断面の概要を示す。図1では、窒化物半導体薄膜層303とは異種材料の初期基板301を用いた場合の積層体300(左図)と、窒化物半導体薄膜層303と同一材料の初期基板101を用いた場合の積層体100(右図)を示す。

【0012】
従来は、高品質、かつ、大口径の窒化物半導体基板(初期基板101)が存在しなかったので、窒化物半導体薄膜層303を成長させる初期基板としては、異種材料の初期基板301が用いられてきた。例えば、LED用途にはサファイア基板が、横型電子デバイス用途にはシリコン基板が用いられてきた。異種材料の初期基板301を用いる場合、初期基板301上に低温バッファ層302を設けている。

【0013】
低温バッファ層302は、初期基板301と窒化物半導体薄膜層303との格子定数差および熱膨張係数差を緩和するために用いられる。例えば、格子定数差をある程度緩和して、異種の初期基板301上に窒化物半導体薄膜層303の結晶が成長される。

【0014】
窒化物半導体薄膜層303は、MOVPE法等を用いて、低温バッファ層302上にエピタキシャル成長される。なお、低温バッファ層302を用いた場合でも、格子定数差の影響を完全には緩和できないので、窒化物半導体薄膜層303には、格子定数差に起因する多数の欠陥304が発生する。例えば、窒化物半導体薄膜層303の表面では、10cm-2以上程度の高い密度の転位が生じる。また、窒化物半導体薄膜層303を高温で成長すると、常温に戻る際に熱膨張率差に起因する応力歪み(反り)が発生する。

【0015】
例えば、応力による反りが100m以上の曲率半径を有する結晶層は、歪みがなく、信頼性の高い窒化物半導体結晶として実用化されうる。現在販売されている、異種材料の初期基板301を用いて製造された4インチのGaN結晶層は、曲率半径が20m程度である。また、異種材料の初期基板301を用いないアモノサーマル法を用いれば、結晶層の反りの曲率半径が1000mのものも製造できるが、大口径化には向いておらず、2インチ程度の大きさしか成長できない。

【0016】
一方、窒化物半導体結晶の初期基板101を用いた場合、ホモエピタキシャル成長で窒化物半導体薄膜層303を形成可能であり、転位密度が大幅に低減される。一例では、初期基板101が窒化物半導体結晶の場合、転位密度は1×10cm-2以下に低減される。また、口径が4インチで、曲率半径が300m以上の窒化物半導体結晶を得ることができる。さらには、曲率半径が1000m以上の窒化物半導体結晶を得ることもできる。

【0017】
図2は、窒化物系LEDにおいて問題となるDroop現象を示す。図2は、電流密度[A/cm](横軸)に対する、外部量子効率[%](縦軸)の変化を示す。外部量子効率とは、LEDの発光層に注入される電子数に対する、LED外部に放射される光子数の割合を示したものである。

【0018】
LED1およびLED2は、互いに特性の異なるLEDであり、サファイア基板にGaN結晶層を成長して製造される。従来の結晶成長法により成長されたGaN結晶層は、電流密度がある値を超えると、外部量子効率が低下する。このように、従来の結晶成長法で、サファイア等の異種材料の基板上に成長されたGaN結晶層は、大電流動作では発光効率が低下してしまうDroop現象が問題となる。Droop現象の低減には、欠陥や不純物の少ない高品位なGaN結晶層が必要とされる。

【0019】
従来の窒化物半導体結晶の初期基板101は、GaClを原料としたHVPE成長法で形成されている。しかし、当該方法で高品位の窒化物半導体結晶を成長させた場合、温度の上限(1100℃)の関係から500μm/h以上の成長速度で高品質結晶が得られない。本発明の実施例においては、-C軸方向で、且つ、高速に窒化物半導体結晶を安定的に成長させることで、大口径の窒化物半導体結晶を容易に製造できる。

【0020】
図3は、本発明の実施形態に係る窒化物半導体結晶の製造方法の一例を示すフローチャートである。本例の製造方法は、原料ガスとして三ハロゲン化ガスを用い、且つ、成長温度を制御したTHVPE法により、-C軸方向への成長を実現している。

【0021】
ステップS100では、分圧が9.0×10-3atm以上である高濃度の三ハロゲン化ガスを生成する。基板上に供給される三ハロゲン化ガスの分圧を高くすることで、成長速度が向上する。

【0022】
ステップS200では、窒化物半導体基板101の温度を制御する。窒化物半導体基板101の温度を高温にすることで、高い成長速度においても結晶品質を維持し、かつ、窒化物半導体結晶の不純物濃度を低減する。成長温度は、1200℃以上であることが好ましく、成長させる材料によっては、1300℃以上でもよく、1400℃以上であってもよい。例えば、成長温度とは、窒化物半導体基板101の温度を指す。

【0023】
ステップS300では、窒化物半導体基板101上に三ハロゲン化原料ガスおよびアンモニア(NH)ガスを供給する。原料として、三ハロゲン化原料ガスを用いて成長温度等の条件を最適化しているので、-C軸方向に結晶成長できる(ステップS400)。また、窒化物半導体結晶は、-C軸成長により、大口径化が容易である。なお、各ステップの順番は、図3に示した順番に限られない。例えば、ステップS100およびステップS200は、同時に実行されてよく、また、ステップS200が先に実行されてもよい。

【0024】
図4および図5は、原料ガスを選択することで、-C軸方向への成長が実現できることを説明する図である。なお、本明細書においては、主にGaN結晶層を例として説明するが、AlN結晶も同様である。

【0025】
図4は、GaN結晶層の構造および極性を示す。GaNの結晶構造は、一般的にGa原子(黒丸)とN原子(白丸)が互いに結合された六方晶構造をとる。GaN結晶成長では、C軸方向の正負いずれの向きに成長するかによって、結晶層の極性がGa極性もしくはN極性となる。C軸方向とは、六方晶の底面と垂直な方向である。

【0026】
Ga極性では、Ga原子の4個のボンドのうち3個が基板側へ向き、残りの1個が表面側に垂直に向く。この場合、GaN結晶層の成長面は+C面(0001)となる。

【0027】
N極性では、基板に対する結晶構造が、Ga極性とはC軸方向に反対の構造であり、Ga原子の4個のボンドのうち3個が表面側へ向き、残りの1個が基板側に垂直に向く。この場合、GaN結晶層の成長面は-C面(000-1)となる。

【0028】
図5は、GaN結晶成長と極性の関係を示す。N極性面(左図)およびGa極性面(右図)に、三塩化ガリウム(GaCl)ガスを用いて結晶成長させる場合の反応を示す。GaCl分子は、Ga原子の3個のボンドに、塩素原子(濃黒丸)がそれぞれ結合している。

【0029】
Ga極性面では、N原子の3個のボンドが表面側を向くので、3個のGaClの分子が同時に結合しようとして立体障害が生じる。そのため、GaClガスのGa原子は、N原子のボンドと結合しにくいので、結晶内に取り込まれにくく、エピタキシャル成長が進行しにくい。

【0030】
N極性面では、GaClガスとの反応の際、N原子の1個のボンドが表面側を向く。GaClガスのGa原子は、Ga極性面と比較してN原子のボンドと結合しやすいので、結晶内に取り込まれやすく、エピタキシャル成長が進行しやすい。

【0031】
これに対して、一塩化ガリウム(GaCl)ガスを用いたGaN結晶成長では、GaClガスに比べて、立体障害が生じにくい。そのため、GaClガスは、Ga極性面およびN極性面のいずれにも吸着される。

【0032】
つまり、GaClガスは、Ga極性面およびN極性面のいずれにも吸着されるので、結晶成長の途中で成長方向の反転が容易に起こり、-C軸方向に安定的に成長できない。また、GaClガスを用いると、異種材料の初期基板301を用いて-C軸方向に窒化物半導体結晶を成長することがさらに困難である。

【0033】
一方、GaClガスは、Ga極性面よりもN極性面に吸着されやすいので、GaClガスを用いると、-C軸方向に安定的に成長しやすくなる。また、+C軸方向に成長を開始させた場合でも、-C軸方向に反転して結晶成長する。したがって、異種材料の初期基板301を用いて-C軸方向に窒化物半導体結晶を成長できる。このように、原料ガスを選択することで、-C軸方向に窒化物半導体結晶を成長できる。但し、GaClガスを原料に用いた場合であっても、成長温度が低い場合等には、-C軸方向と+C軸方向とが混在してしまう場合があるので、成長温度を高くすることが好ましい。

【0034】
図6は、-C軸および+C軸方向にGaNを成長させた場合の結晶層の形状を示す。左図は-C軸方向に結晶成長させた場合と、右図は+C軸方向に結晶成長させた場合の結晶層の形状を示す。図6に示された結晶形状は、第一原理計算および成長実験により実証されている。

【0035】
+C軸方向の成長では、(10-11)面のファセットが出現する。また、+C軸方向に成長された結晶層の(000-1)面と(10-11)面とがなす角度は、鋭角(例えば61.96°)である。そのため、+C軸方向の成長では、結晶成長とともに+C面の面積が小さくなる。

【0036】
-C軸方向の成長では、+C軸方向の成長と同様に(10-11)面のファセットが出現する。しかし、-C軸方向に成長された結晶層の(0001)面と(10-11)面とがなす角度は、鈍角(例えば118.0°)である。そのため、-C軸方向の成長では、-C面の結晶面積が、+C面の結晶面積よりも大きくなる。従って、-C軸方向の成長により、大口径の窒化物半導体結晶を容易に製造することができる。つまり、-C軸方向の成長では、(0001)面と(10-11)面とがなす角度は、90°より大きく180°より小さい鈍角であればよい。なお、ファセットは、(10-11)面に限られず、(11-22)面、もしくは(10-12)面等の、(0001)面とのなす角度が鈍角となる面であればよい。

【0037】
図7は、窒化物半導体結晶の成長方法毎の特性を比較した表である。窒化物半導体結晶の成長方法には、例えば、THVPE法、HVPE法、有機金属気相成長(MOVPE法)、分子線エピタキシー法(MBE法)等がある。図7において、「〇」は図7に示す(i)~(v)の条件を満たす結晶層が得られることを示す。「△」は(i)~(v)の条件を満たす可能性があるものの、実際には結晶層を得ることが困難であることを示す。「×」は、(i)~(v)の条件を満たす結晶層を従来の技術からは得られないことを示す。

【0038】
従来のTHVPE法は、成長温度が1300℃未満で、基板上に供給されるGaClガスの分圧は、8.0×10-3atm以下である。本発明に係るTHVPE法は、成長温度が1200℃以上1300℃未満で、かつ、基板上に供給される、GaClガスの分圧は、9.0×10-3atm以上である。また、本発明のTHVPE法における成長温度は、1300℃以上にすることができる。

【0039】
図7では、各成長方法が、条件(i)から(v)の組み合わせからなる条件を満たしうるか否かを示す。条件(i)から(v)は、(i)-C軸成長、(ii)直径4インチ、転位密度1×10/cm以下、かつ、曲率半径100m以上、(iii)厚さ100μm以上(iv)不純物濃度1×1017/cm以下、(v)直径3インチ、かつ、厚さ5mmをそれぞれ示す。

【0040】
THVPE法は、GaClガスおよびNHガスを用いたGaN結晶層の成長方法である。THVPE法は、GaClガスを用いて、高温、かつ、高速に結晶層を成長することができる。また、GaClガスを用いたGaN結晶成長法では、成長条件を最適化することにより、(i)-C軸方向へ安定的に結晶層を成長できる。

【0041】
また、従来のTHVPE法に用いられてきた窒化物半導体結晶製造装置では、GaClガスの濃度を8.0×10-3atmよりも大きく上げることができない。そのため、成長温度が1200℃以上になると、成長速度が急速に減少する。成長温度を低くすると、成長中に酸素(O)およびシリコン(Si)を取り込みやすく、(iv)不純物濃度を1×1017/cm以下に低減できない。

【0042】
また、従来のTHVPE法に用いられてきた窒化物半導体結晶製造装置は、GaClガスの濃度を大きくすることが困難であることから、180μm/h程度であった。また、低いGaClガス濃度では、1200℃以上で成長速度が急激に小さくなる。一般的に、成長速度の大きさに限らず、成長室の内部に再付着する堆積物の問題があるので、結晶成長の連続運転時間に制限がある。つまり、成長速度が速いと連続して成膜できる膜厚が厚くなり、成長速度が遅いと連続して成膜できる膜厚が薄くなる。そのため、従来のTHVPE法では、(v)GaN結晶層を5mm以上に超厚膜成長することが非常に困難であった。

【0043】
本例のTHVPE法は、例えば、成長温度を1200℃以上1300℃未満として、基板上に供給される、GaClガスの分圧は、9.0×10-3atm以上で結晶成長させる。これにより、300μm/h以上の成長速度が可能である。また、GaClガスの分圧の増加により1mm/h以上の成長速度が可能となり、条件(i)および(v)を満たす、超厚膜(5mm以上)の窒化物半導体結晶を成長できる。

【0044】
本例のTHVPE法は、例えば、1300℃以上の成長温度で結晶層を成長させる。THVPE法では、成長温度が1300℃以上の場合、成長速度を0.15~1mm/h以上にできる。また、成長温度が高温なので、不純物の混入が少なく、透明度の高い窒化物半導体結晶が得られる。これにより、(i)から(iv)までの条件を満たす窒化物半導体結晶を成長できる。なお、本例のTHVPE法は、1300℃以上の高温成長を実現したので、不純物濃度を1×1016/cm以下、さらには、1×1015/cm以下に低減できる。

【0045】
HVPE法によるGaN結晶成長法では、一塩化ガリウム-アンモニア系(GaCl-NH系)が用いられてきた。HVPE法では、GaClガスを用いるので、(i)安定的な-C軸方向成長が困難である。また、HVPE法は、図8を用いて説明する通り、成長温度が高温になると成長の駆動力が低下し、成長速度が減少することから成長温度を高温(1200℃以上)にできないので、(iv)不純物濃度が大きくなる。

【0046】
MOVPE法は、原料にTMG(トリメチルガリウム)等の有機物を用いるので、(iv)カーボンCの不純物濃度が大きくなる。また、MOVPE法では、一定条件で-C軸方向に薄膜を結晶成長できることが知られている。しかしながら、MOVPE法では、(v)-C軸方向に100μm以上成長させた例がない。

【0047】
MBE法は、原料の比を厳密に制御すれば-C軸方向へ結晶成長できる。しかし、MBE法では、成長速度が数十~数百nm/h程度と他の成長方法に比べて極端に遅いので、100μm以上のGaN結晶層を成長させるには、数週間から数カ月かかる。長時間装置を起動させることによる装置内部の堆積物や成長コストを考慮すると、MBE法をGaN厚膜結晶成長に用いることは難しい。また、MBE法は、チャンバ—内を超高真空にする必要があるので、材料の温度制御方法が基板加熱等に限られ、材料を高温に維持することが難しい。そのため、限られた加熱源を用いて、厚膜のGaN結晶層を均一な温度に制御することは難しく、MBE法により100μm以上の厚膜にGaN結晶層を成長させることは簡単ではない。そして、成長温度を高温に維持することが難しいので、成長された窒化物半導体結晶には、多くの酸素不純物が残留してしまう。例えば、MBE法で成長させた窒化物半導体結晶は、(iv)1×1017/cm程度の大きい酸素不純物濃度が残る。さらに、MBE法を用いて典型的な成長条件により、(v)膜厚5mm以上を達成しようとすると57年もの月日がかかる。

【0048】
窒化物半導体結晶(バルク)を作成する方法として、アモノサーマル法、および、Naフラックス法等も考えられるが、現在の技術常識では、2インチ程度の口径のものが限度であり、大口径化および厚膜化に不向きである。そのため、アモノサーマル法等を用いても、4インチ以上、もしくは、膜厚5mm以上の結晶層が得られない。

【0049】
図8は、HVPE法(破線)とTHVPE法(実線)の成長の駆動力を比較した図である。図8は、成長温度[℃](横軸)に対する成長の駆動力[atm](縦軸)を示す。本例では、全圧ΣPiは1.0atmであり、GaClガスおよびGaClガスの分圧(P°GaCl、P°GaCl)はそれぞれ、1.0×10-3atmである。五族原料ガスと三族原料ガスの供給量の比を示すV/III比は20であり、アンモニア分解率αは0.0である。

【0050】
成長の駆動力は、結晶層の成長速度に比例するパラメータである。具体的には、成長速度は、Kを物質移動係数とした場合、成長速度 = K×成長の駆動力で表される。図8より、成長温度が高温になった場合、HVPE法では、成長の駆動力が減少する。一方で、THVPE法では、成長温度が高温になった場合でも、成長の駆動力が低下しない。したがって、THVPE法は、HVPE法よりも高温で、GaN結晶層を高速に成長できる。

【0051】
図9は、HVPE法とTHVPE法の成長速度を比較するために同じ装置内で原料を変えて成長速度を比較したグラフである。図9は、成長温度[℃](横軸)に対する、成長速度[μm/h](縦軸)の変化を示す。本例では、成長室に供給されるGaClガスの分圧(P°GaCl)およびGaClガスの分圧(P°GaCl)は、それぞれ、1.0×10-3atmである。また、成長室に供給されるNHガスの分圧(P°NH)は、2.0×10-2atmである。

【0052】
本例において、HVPE法では、成長温度が900℃~1000℃の間で成長速度が減少している。一方で、THVPE法では、1100℃~1200℃の間において成長速度が減少している。つまり、THVPE法の方が、HVPE法より、成長温度の上昇に伴う成長速度の低下が生じにくい。また、THVPE法におけるGaClガスの分圧とHVPE法におけるGaClガスの分圧を同一にした場合、THVPE法の成長速度は、HVPE法の成長速度よりも大きい。

【0053】
図10は、THVPE法を用いた窒化物半導体結晶製造装置200の概要を示す。本例の窒化物半導体結晶製造装置200は、第1反応室210、第2反応室220および成長室230を備える。第1反応室210および第2反応室220は、三ハロゲン化ガスを生成して基板上に供給するガス供給部の一例である。第1反応室210および第2反応室220は、それぞれ異なる反応管内に設けられてよい。第1反応室210および第2反応室220の間は、抑制構造214で仕切られている。

【0054】
第1反応室210は、第1ハロゲンガス供給口262を備え、第1ゾーンZ1を有する。第1ゾーンZ1には、金属ガリウム212が設置される。

【0055】
第1ハロゲンガス供給口262は、金属ガリウム212が設置された第1ゾーンZ1にハロゲンガスを供給する。

【0056】
第2反応室220は、第2ハロゲンガス供給口264および第1排気口266を備え、第2ゾーンZ2を有する。第2ゾーンZ2には、第1反応室210で生成されたガスが供給される。

【0057】
抑制構造214は、第1工程が行われる第1反応室210と第2工程が行われる第2反応室220の間に設けられる。これにより、抑制構造214は、第1工程で生成されたGaClガスの濃度が低下することを抑制する。

【0058】
例えば、抑制構造214は、第1反応室および第2反応室の間の経路である。経路の断面積は、第1反応室210および第2反応室220の断面積よりも小さい。これにより、窒化物半導体結晶製造装置200は、第1ゾーンZ1の圧力を高められる。

【0059】
第1反応室210は、第1ゾーンZ1の圧力を高められるので、塩素ガス(Cl)の分圧を高くしてよい。例えば、第1反応室210に供給されるClガスの分圧は、1.0×10-3atm以上である。

【0060】
第2反応室220は、GaClガスの流速を減速させる複数の仕切り板222を備える。これにより、窒化物半導体結晶製造装置200は、第2ハロゲンガス供給口264におけるClガスの流量および第2ゾーンZ2における圧力を高められる。

【0061】
本例の窒化物半導体結晶製造装置200は、基板上に供給される、三ハロゲン化ガリウムガスの分圧(P°GaCl)を、9.0×10-3atm以上に調整する。本例のGaClガス分圧(P°GaCl)は、従来の値と比較して高い値に調整できる。

【0062】
具体的には、基板上に供給される、三ハロゲン化ガリウムガスの分圧は、9.0×10-3atm以上、1.0×10-1atm以下に調整される。また、成長室230におけるNHガスの分圧(P°NH)は、5.0×10-2atm以上2.5×10-1atm以下に調整される。

【0063】
(第1工程)
第1工程では、金属ガリウム212とハロゲンガスとを反応させて一ハロゲン化ガリウムガスを生成する。例えばハロゲンガスとは、Clガス、臭素(Br)ガス、ヨウ素(I)ガスである。

【0064】
具体的には、金属ガリウム212上に高純度のClガスを連続的に供給して、金属ガリウム212とClガスとを接触させてGaClガスを生成する。第1工程においてGaClガスを生成する反応は、反応式(1)で表わされる。
Ga(l) + 1/2Cl(g) → GaCl(g) ・・・(1)
ここで(l)および(g)はそれぞれ物質が液体およびガス状態であることを示す。

【0065】
第1工程では、Clガスは、キャリアガスとともに供給される。キャリアガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、もしくはヘリウムガス、またはこれらの少なくとも1種を含む混合ガス等の不活性ガスを用いる。例えば、第1ゾーンZ1では、Clガスの分圧が1.0×10-3atm以上で、全圧が1atmとなるように調整される。

【0066】
第1工程における反応では、GaClガスの他にもガリウム塩化物ガスが生成される。ガリウム塩化物とは、一塩化ガリウム、二塩化ガリウム、三塩化ガリウム、三塩化ガリウムのダイマー(二量体)等のガリウムの塩化物全般を指す。

【0067】
第1工程では、GaClガスを主成分とするガリウム塩化物ガスが生成されることが好ましい。生成されるガリウム塩化物ガスの全量に対するGaClガスの量が、99モル%以上であることが好ましく、99.9モル%以上であることが更に好ましい。

【0068】
第1反応室210の外部には外部加熱手段が設けられてよい。例えば、外部加熱手段とは、抵抗加熱式ヒーター、高周波加熱装置、ランプヒーター等であってよい。外部加熱手段は、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2とを、それぞれ独立に加熱する。ここで、外部加熱手段は、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2とを同時に加熱できる手段であってもよい。また、窒化物半導体結晶製造装置200は、外部加熱手段に加え、金属ガリウム212を独立して加熱できる加熱手段を更に備えていてもよい。

【0069】
第1工程における反応温度は300~1000℃が好ましく、500~900℃がより好ましく、700~850℃が特に好ましい。第1工程における反応温度が300℃以上であると、生成されるGaClガスの選択性が向上する。第1工程における反応温度が1000℃以下であると、石英等を材質とする反応管の損傷を抑制できる。

【0070】
(第2工程)
第2工程では、生成した一ハロゲン化ガリウムガスとハロゲンガスとを反応させて三ハロゲン化ガリウムガスを生成する。具体的には、第2工程では、第1工程で生成した一塩化ガリウムとClガスとを反応させる。第2工程において三塩化ガリウムガスを生成する反応は、反応式(2)で表わされる。
GaCl(g) + Cl(g) →GaCl(g) ・・・(2)

【0071】
第2工程では、Clガスは、キャリアガスとともに供給される。キャリアガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、もしくはヘリウムガス、またはこれらの少なくとも1種を含む混合ガス等の不活性ガスを用いる。第2ゾーンZ2では、例えば、Clガスの分圧が2.0×10-3atmで、全圧が1atmとなるように調整される。

【0072】
第2工程における反応温度は150~1000℃が好ましく、200~900℃がより好ましく、500~700℃が特に好ましい。第2工程における反応温度が150℃以上であると、生成されるGaClガスの選択性が向上する。

【0073】
第1排気口266は、第2工程で生成されたGaClガスを、成長室230に供給する。第1排気口266は、成長室230の内部に配置されてよい。

【0074】
(成長工程)
成長工程では、成長室230の結晶成長部G1において、第2工程で生成されたGaClガスとNHガスを反応させて、GaN結晶層を成長する。

【0075】
成長室230は、アンモニアガス供給口236、サセプタ232、および第2排気口238を備える。サセプタ232上には、初期基板234が設置される。

【0076】
アンモニアガス供給口236は、キャリアガスとともに、ガス混合部M1にNHガスを供給する。キャリアガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、もしくはヘリウムガス、またはこれらの少なくとも1種を含む混合ガス等の不活性ガスを用いる。ガス混合部M1では、NHガスとGaClガスが混合されて、原料ガスが生成される。

【0077】
サセプタ232は、初期基板234を保持して、初期基板234を予め定められた成長温度に制御する温度制御部の一例である。サセプタ232は、例えば耐熱性および耐食性のある窒化硼素焼結体または窒化ホウ素焼結体で覆われたカーボン等で構成される。サセプタ232は、内部にカーボン発熱体が設けられ、初期基板234を昇温する。

【0078】
初期基板234には、ガス混合部M1で生成されたNHガスとGaClガスを含む原料ガスが供給される。これにより、結晶成長部G1において、初期基板234上にGaN結晶層が成長される。例えば、初期基板234には、サファイア(0001)基板、砒化ガリウム、炭化シリコン基板、窒化ガリウム基板等の単結晶基板が用いられる。なお、窒化物半導体結晶製造装置200は、GaClガスを包囲するように、第1排気口266の周囲からバリアガスを供給してもよい。この場合、GaClガスとNHガスとが、結晶成長部G1付近で混合されるので、成長室230の内部における再付着が防止される。これにより、本例の窒化物半導体結晶製造装置200は、長時間運転することにより生じる成長速度の低下を抑制できる。例えば、バリアガスは、窒素ガス又はアルゴンガス等の不活性ガスである。

【0079】
第2排気口238は、GaN結晶成長により発生した不要なガスや、未反応のガスを外部に排気する。GaN結晶成長により発生した不要なガスとは、塩化水素HClもしくは水素H等である。

【0080】
本例の窒化物半導体結晶製造装置200は、窒化物半導体基板101上に、GaN結晶層を-C軸方向に1mm/h以上の速度で成長できる。また、GaN結晶層の成長温度は、1200℃以上となる。本例の窒化物半導体結晶製造装置200は、-C軸方向に結晶成長できるので、成長膜厚増加により結晶層を大口径化できる。具体的には、本例の窒化物半導体結晶製造装置200は、結晶層の直径が3インチ以上、かつ、5mm以上の厚みを有する窒化物半導体結晶を成長できる。例えば、窒化物半導体結晶製造装置200を用いて製造されたGaN結晶層は、1cmまたは5cm以上に成長されるので、複数枚のGaN基板を切り出すことが容易である。

【0081】
なお、製造方法に関して、三族原料としてガリウムを用いた例を示したが、三族原料としてアルミニウムを用いることができる。例えば、AlN結晶成長の場合、成長温度は1400℃以上とすることにより、GaN結晶成長の場合と同様に、結晶層の直径が3インチ以上、かつ、5mm以上の厚みを有するAlN結晶層が得られる。以下に、AlN結晶層の製造方法とGaN結晶層の製造方法との相違点について説明する。

【0082】
第1反応室210では、金属アルミニウムとClガスとが反応して、三塩化アルミニウム(AlCl)ガスが生成される。第1反応室210では、第1ゾーンZ1が750℃以下の低温に保持されるので、一塩化アルミニウム(AlCl)ガスが生成されない。これにより、窒化物半導体結晶製造装置200は、第1反応室210の石英が、AlClガスにより侵食されるのを防止できる。

【0083】
第2反応室220では、第1反応室210において、AlClガスが生成されるので、第2ハロゲンガス供給口264からClガスが供給されなくてもよい。なお、AlN結晶層を成長する場合、第2反応室220を用いずに、第1反応室210から成長室230にAlClガスを直接供給してもよい。

【0084】
本例の窒化物半導体結晶製造装置200は、窒化物半導体基板101上に、AlN結晶層を-C軸方向に1mm/h以上の速度で成長できる。AlN結晶層の成長温度は、1400℃以上となる。また、本例の窒化物半導体結晶製造装置200は、直径が4インチ以上、かつ、反りの曲率半径が100m以上であり、不純物濃度が1×1017/cm以下のAlN結晶層を成長できる。なお、本例の窒化物半導体結晶製造装置200は、1400℃以上の高温成長を実現したので、不純物濃度を1×1016/cm以下、さらには、1×1015/cm以下に低減できる。

【0085】
図11は、従来の窒化物半導体結晶製造装置250の概要を示す。従来の窒化物半導体結晶製造装置250は、第1反応室210および第2反応室220が共通の反応管となった共通反応室260を備える点で窒化物半導体結晶製造装置200と異なる。

【0086】
共通反応室260は、第1ハロゲンガス供給口262、第2ハロゲンガス供給口264および第1排気口266を備える。共通反応室260は、第1工程が実施される第1ゾーンZ1と、第2工程が実施される第2ゾーンZ2とを有する。

【0087】
従来の窒化物半導体結晶製造装置250は、共通反応室260内において、第1ゾーンZ1と第2ゾーンZ2とが構造上分離されていなかった。そのため、従来の窒化物半導体結晶製造装置250は、第1ハロゲンガス供給口262における塩素ガスClの流量および第1ゾーンZ1における圧力を十分に高めることができなかった。

【0088】
図12は、従来の窒化物半導体基板の製造プロセスを示す。従来のGaN基板は、GaAs、サファイア等の初期基板に、HVPE法を用いたヘテロエピタキシャル成長によりGaN結晶層を厚膜成長する。その後、初期基板を剥離してGaN自立基板を製造する。しかしながら、HVPE法では、成長速度が遅く、安定的に-C軸方向へ成長できないので、GaN基板を一枚ずつ成長させる必要があり、一枚当たり数十万円のコストがかかる。このように、シリコン半導体基板では、18インチバルク結晶技術が確立しているものの、GaN基板では、シリコンウエハのようにバルク結晶からウエハを切り出す技術が確立されていない。よって、従来の窒化物半導体基板の製造プロセスにより製造された2インチ程度のGaN基板は、現在、青紫色LDや高輝度LEDの製造に限定して用いられており、パワーデバイスの製造に用いられるに至っていない。

【0089】
図13は、本発明に係るGaN基板の製造プロセスを示す。本例の製造プロセスでは、初期基板として、Naフラックス、アモノサーマル法等により、高品質なGaN基板を作成する。その後、本発明のTHVPE法を用いてホモエピタキシャル成長により、GaN結晶層を超厚膜成長する。その後、成長された超厚膜のGaNバルク結晶からGaNウエハを切り出す。

【0090】
なお、GaN結晶層、もしくは、AlN結晶層を-C軸方向に成長させる工程の後に、窒化物半導体結晶の上面を切り出す工程と、切り出された窒化物半導体結晶の上面にさらに結晶を成長させる工程と、を繰り返してよい。上面を切り出して、その結晶上に成長することを繰り返すことにより、結晶層の高品質化および大口径化が達成できる。これにより、-C面の転位密度が1×10cm-2以下のものや、1×10cm-2以下とすることができ、最終的には、-C面の転位のない結晶層を製造できる。

【0091】
具体的には、本例の製造方法により、結晶層の直径が4インチ以上、かつ、反りの曲率半径が100m以上であり、結晶層の不純物濃度が1×1017/cm以下である窒化物半導体結晶が得られる。さらに、本例の製造方法によれば、-C面の転位密度が1×10cm-2以下である窒化物半導体結晶が得られる。

【0092】
現在販売されているGaN基板は大きくとも2インチ程度であり、AlN基板に至っては、1インチ以下のものが主流である。これに対して、本例によれば、-C軸方向への高速結晶成長によりGaNバルク厚膜結晶を形成できる。即ち、-C軸方向成長により大面積化が図れるので、GaNバルク結晶から、4インチおよび6インチといった大口径のGaN自立基板を複数枚切り出すことができる。

【0093】
本発明により製造された窒化物半導体結晶は、サファイア等の初期基板と一体となったテンプレート基板として用いることができる。また、本例の窒化物半導体結晶は、厚膜化することができるので、初期基板と分離された状態で販売等されてよい。

【0094】
本発明に係る製造方法を用いれば、高品質かつ大口径の窒化物半導体結晶の高速成長が実現される。これにより、高品質で高効率な発光素子、パワーデバイス等向けの窒化物半導体結晶を低コストで製造できる。特に、大口径化および低コスト化の実現により、これまで使用されることのなかったパワーデバイスに使用される意義は大きい。

【0095】
図14は、KOHエッチングによるGaN結晶層の極性判定の方法を示す。サファイア基板上(左図)およびGaNテンプレート上(右図)にHVPE法でGaN結晶層を成長させた場合の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。上側と下側の写真は、それぞれ結晶表面をKOH溶液でエッチングする前後のSEM写真である。

【0096】
Ga極性面は、KOHエッチングに対して耐性がある。一方、N極性面は、KOH溶液によりエッチングされやすく、エッチングされると表面に凹凸が生じる。そのため、GaN結晶成長後の表面をKOHエッチングすれば、容易にGa極性とN極性を判定できる。

【0097】
図15は数値シミュレーションによって計算された、+C面および-C面にLEDを作成した場合のバンド図の比較例を示す。図15は、+C面(上図)および-C面(下図)に結晶層を成長した場合のバンド図を示す。縦軸はエネルギー[eV]を示し、横軸は、結晶表面からの距離[nm]を示す。本例では、初期基板側から、n-GaN、InGaN、p-GaNをそれぞれ順に成長させている。InGaNは、GaNよりも格子定数が大きく、バンドギャップが小さい。

【0098】
+C面に成長させた場合、n-GaN上に形成されたInGaN層は圧縮応力を受けるため結晶内に圧電分極が生じる。そのため、InGaN層の表面側から基板側の方向へ強い圧電分極電場が発生する。そのため、InGaNの両端において、n-GaNのエネルギー準位は相対的に上がり、p-GaNのエネルギー準位が下がる。よって、+C軸方向に成長した場合、バリアが低くなり、n-GaN側から流れてきた電子があふれ出し発光に寄与せずに流れて行ってしまう。

【0099】
-C面に成長させた場合、n-GaN上に形成されたInGaNは圧縮応力を受けるため結晶内に圧電分極が生じる。そのため、InGaN層の基板側から表面側の方向へ強い圧電分極電場が発生する。そのため、InGaNの両端において、n-GaNのエネルギー準位が相対的に下がり、p-GaNのエネルギー準位が上がる。したがって、-C軸方向に成長した場合、InGaN両端のバリアが高くなる。

【0100】
InGaN両端のバリアが高くなると、電子およびホールが井戸に閉じ込められて、再結合しやすくなる。これにより、-C面を用いたLEDは、+C面を用いたGaN結晶層よりも効率的に発光する。

【0101】
InGaN結晶層は、In組成を増加することにより、LEDの波長が長くなる。また、より長波長のLEDを実現するためには、高いIn組成比XInを有するInGa1-xNが必要となる。しかしながら、In原子を高濃度にGaN結晶層に取り込むことは容易ではない。

【0102】
図16は、-C面と+C面のIn取り込みの大きさの比較例を示す。トリメチルインジウム(TMIn)の流量fTMIn[μmol/min](横軸)と、GaN表面におけるIn組成比XIn(縦軸)との関係を示す。グラフの黒丸および白丸は、それぞれN極性面およびGa極性面にInGaNを成長した場合の実験結果を示す。

【0103】
本例では、トリメチルインジウム流量fTMInが5μmol/min以下の場合、In組成比XInは、N極性面とGa極性面とで差異は生じなかった。しかし、トリメチルインジウム流量fTMInが5μmol/minを超えると、In組成比XInは、N極性面にInを取り込む方が、Ga極性面にInを取り込む場合よりも高くなる。したがって、-C面に成長されたGaN結晶層は、長波長のLEDを実現できる。

【0104】
[実施例1]
実施例1では、窒化物半導体結晶製造装置200を用いて、GaClガスの分圧を1.0×10-2atm、成長温度を1200℃、成長時間を12分間としてGaN結晶層を成長させた。第1反応室210における金属ガリウム212は、7Nグレード(純度99.99999%)の金属ガリウムを用いた。本例の窒化物半導体基板101は、-C面GaN(000-1)基板を用いた。

【0105】
第1ゾーンZ1には、窒素(N)キャリアガスおよび高純度Clガスを供給する。NキャリアガスおよびClガスの供給量を調整し、反応管200系内総流量に対して、Clガスの分圧は5×10-3atmとなる。反応管200系内総流量とは、結晶成長部G1に流れるガスの総流量を指す。第1ゾーンZ1における反応管温度を800℃に調整する。第1ゾーンZ1における反応管温度は、第1ゾーンZ1において原料ガスが反応する温度に等しい。なお、Clガスの流量は、結晶成長部G1に流れるガスの総流量と、Clガスの分圧との積で算出できる。

【0106】
第2ゾーンZ2には、Nキャリアガスおよび高純度Clガスを供給する。Clガスの分圧は、NキャリアガスおよびClガスの供給量を調整し、反応管200系内総流量に対して、1×10-2atmとなる。第2ゾーンZ2における反応管温度を800℃に調整する。第2ゾーンZ2における反応管温度は、第2ゾーンZ2において原料ガスが反応する温度に等しい。

【0107】
成長室230には、NキャリアガスおよびNHガスが供給される。成長室230では、排気速度およびNキャリアガスならびにNHガスの供給量が調整される。成長室230において、NHガスの分圧は8×10-2atmであり、GaClガスの分圧は1.0×10-2atmである。

【0108】
基板温度の昇温中、成長室230は、NキャリアガスおよびNHガスの混合ガス雰囲気である。NHガスの供給分圧は、成長室230内に流入するガスの総流量に対して8×10-2atmとする。基板温度が予め定められた成長温度に到達した後、ただちに第1反応室210にて生成したGaClガスを成長室230に供給し、GaN結晶層の成長を開始する。GaN結晶層の成長後は、GaClガスの供給を止め、NキャリアガスおよびNHガスの混合ガス雰囲気で室温まで降温する。降温時のNHガスの供給分圧は、成長室230内に流入するガスの総流量に対して8×10-2atmとする。

【0109】
図17は、GaClガスの分圧と、GaN結晶層の成長速度との関係を示す。図17は、GaNの結晶成長を行った際の成長温度(Growth Temperature [℃])と成長速度(Growth rate [μm/h])との関係を示す。窒化物半導体結晶製造装置250を用いた場合、GaClガスの分圧を8.0×10-3atmよりも大きくすることができなかった。しかしながら、窒化物半導体結晶製造装置200は、GaClガスの分圧を9.0×10-3atm以上にできる。例えば、GaClガスの分圧を1×10-2atmとすると、成長温度が1200℃以上の高温域において、GaClガスの分圧を5×10-3atmとした場合のおよそ2倍の成長速度が得られる。

【0110】
出願人は、領域AにおけるTHVPE法を用いると、欠陥および不純物の少ない高品位なGaN結晶層を、-C軸方向に安定的に成長できることを発見した。領域Aとは、成長温度の上昇に伴い、成長速度が線形的に低下する領域を指す。一般に、成長速度を高くすると、結晶の品質は低下すると考えられている。しかし、領域Aの中でも、成長速度の高い領域を用いれば、高品位、且つ、高速成長を実現できる。

【0111】
図18は、実施例1に係るGaN結晶層のSEMの断面写真および鳥瞰写真を示す。本例のGaN結晶層の表面外観は鏡面状であり、ピットおよび突起は観察されなかった。即ち、GaClガスの分圧を1.0×10-2atmと高くすることにより、成長速度が増加したにもかかわらず、成長温度を1200℃と高温にすることにより、GaN結晶層は均一に成長している。本例のGaN結晶は表面平坦性が高い。また、実施例1に係るGaN結晶層の結晶性は、GaN(0002)面のX線回折半値幅(Tilt)が570arcsecであった。X線回折半値幅の値が小さい程、GaN結晶層の結晶性が良い。

【0112】
[実施例2]
実施例2では、成長温度を1300℃としてGaN結晶層を成長させた。成長温度以外の条件は、実施例1の場合と同一である。実施例2の成長速度は、実施例1の成長速度よりも遅い。しかしながら、実施例2のGaN結晶層の結晶性は、GaN(0002)面のX線回折半値幅が374arcsecである。即ち、実施例2では、実施例1の場合よりも、成長温度を高温にすることにより、GaN結晶層の結晶性をさらに向上することができる。

【0113】
[実施例3]
実施例3では、GaClガスの分圧を9.0×10-3atmとしてGaN結晶層を成長させた。GaClガスの分圧以外の条件は、一部を除き、基本的に実施例1の場合と同一である。実施例3と実施例1との相違点について、以下に説明する。

【0114】
実施例3では、第1工程において、第1ゾーンZ1に供給するClガスの分圧を、反応管200系内総流量に対して、4.5×10-3atmとする。また、第2工程において、第2ゾーンZ2に供給するClガスの分圧を、反応管200系内総流量に対して、9×10-3atmとする。図17に示す通り、実施例3では、250μm/h程度の高速成長に成功した。実施例3の結晶性は、実施例1の結晶性と同程度であった。

【0115】
[実施例4]
実施例4では、成長温度を1250℃、成長時間を15分として、サファイア(0001)基板上にGaN結晶層を成長させた。成長温度および初期基板以外の条件は、一部を除き、基本的に実施例1の場合と同様である。実施例4と実施例1との相違点について、以下に説明する。

【0116】
基板温度の昇温中、成長室230内の雰囲気をNキャリアガスのみとした。基板温度を昇温する場合のNキャリアガスの総流量を3500sccmとする。基板温度が予め定められた成長温度に到達すると、ただちにNHガスおよび生成されたGaClガスを成長室230に供給し、GaNの結晶成長を行う。

【0117】
GaN結晶層の成長後、GaClガスの供給を止め、NキャリアガスおよびNHガスの混合ガス雰囲気で室温まで降温する。このときのNHガスの供給分圧は、成長室230内に流入するガスの総流量に対して8×10-2atmとなるように調整する。

【0118】
図19は、実施例4に係るGaN結晶層の光学顕微鏡写真を示す。図19では、500倍および1000倍に拡大して撮影したGaN結晶層およびサファイア基板の断面図を示す。本例のGaN結晶層の端面には、成長表面となす角が約60度である(10-11)ファセット面が観察された。即ち、GaN結晶層の結晶径がGaN結晶層に伴い拡大している。

【0119】
図20は、実施例4に係るGaN結晶層のフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示す。本例のPLスペクトルは、波長325nmのHe-Cdレーザを用いて、室温で測定した。波長365nmに明瞭な近バンド端発光が見られる。一方、長波長帯(400~800nm)において、欠陥や不純物が起因する発光は見られない。即ち、実施例4に係るGaN結晶層には、不純物混入が非常に少ない。

【0120】
[実施例5]
実施例5では、成長時間を30分としてGaN結晶層を成長した。成長時間以外の条件は、実施例3の場合と同様である。

【0121】
図21は、実施例5に係るGaN結晶層の断面SEM写真を示す。本例のGaN結晶層の厚みは128μmである。GaN結晶層の厚みを100μm以上の厚膜にしてもGaN表面の均一性は保たれており表面平坦性が高い。このように本例のGaN結晶層成長法を用いることにより、GaN結晶層の厚膜成長が可能である。

【0122】
[比較例1]
比較例1では、成長温度を1050℃としてGaN結晶層を成長させた。成長温度以外の条件は、実施例1の場合と同一である。

【0123】
図22は、比較例1に係るGaN結晶層の鳥瞰SEM写真を示す。本例のGaN結晶層は、実施例1の場合と比較して、GaN結晶表面での原料のマイグレーションが悪く、表面形態が荒れている。比較例1では、GaN(0002)面のX線回折半値幅が3214arcsecであった。

【0124】
[比較例2]
比較例2では、成長温度を1100℃としてGaN結晶層を成長させた。成長温度以外の条件は、実施例1の場合と同一である。

【0125】
図23は、比較例2に係るGaN結晶層のSEMの鳥瞰写真を示す。本例のGaN結晶層は、比較例1の場合よりも平坦性が向上しているものの、実施例1の場合と比較して表面形態が荒れている。比較例2では、GaN(0002)面のX線回折半値幅が1854arcsecであった。

【0126】
[比較例3]
比較例3では、窒化物半導体結晶製造装置200を用い、GaClガスの分圧を5×10-3atm、成長温度を1100℃、成長時間を20分間としてGaN結晶層を成長させた。第1反応室210における金属ガリウム212は、7Nグレード(純度99.99999%)の金属ガリウムを用いた。本例の窒化物半導体基板101は、-C面GaN(000-1)基板を用いた。

【0127】
第1ゾーンZ1には、Nキャリアガスおよび高純度Clガスを供給する。NキャリアガスおよびClガスの供給量を調整し、反応管200系内総流量に対して、Clガスの分圧は2.5×10-3atmとなる。第1ゾーンZ1における反応管温度を800℃に調整する。

【0128】
第2ゾーンZ2には、Nキャリアガスおよび高純度Clガスを供給する。Clガスの分圧は、NキャリアガスおよびClガスの供給量を調整し、反応管200系内総流量に対して、5×10-3atmとなる。第2ゾーンZ2における反応管温度を800℃に調整する。

【0129】
成長室230には、NキャリアガスおよびNHガスが供給される。成長室230では、排気速度およびNキャリアガスならびにNHガスの供給量が調整される。成長室230において、NHガスの分圧は8×10-2atmであり、GaClガスの分圧は5×10-3atmである。

【0130】
基板温度の昇温中の成長室230内は、NキャリアガスおよびNHガスの混合ガス雰囲気である。NHガスの供給分圧は、成長室230内に流入するガスの総流量に対して1×10-1atmとする。基板温度が予め定められた成長温度に到達した後、ただちに第1反応室210にて生成したGaClガスを成長室230に供給し、GaN結晶層の成長を開始する。GaN結晶層の成長後は、GaClガスの供給を止め、NキャリアガスおよびNHガスの混合ガス雰囲気で室温まで降温する。降温時のNHガスの供給分圧は、成長室230内に流入するガスの総流量に対して8×10-1atmとする。

【0131】
図24は、比較例3に係るGaN結晶層のSEMの鳥瞰写真を示す。本例のGaN結晶層の表面は、荒れており、平坦性が悪い。また、比較例3では、GaN(0002)面のX線回折半値幅が852arcsecであった。以上の通り、比較例3は、実施例1と比較して、GaN結晶層の表面の平坦性が悪く、成長速度も遅い。

【0132】
[比較例4]
比較例4では、成長温度を1200℃としてGaN結晶層を成長させた。成長温度以外の条件は、比較例3の場合と同一である。比較例4の成長速度は、100μm/h程度であり、比較例3の成長速度よりも遅い。

【0133】
図25は、比較例4に係るGaN結晶層のSEMの鳥瞰写真を示す。本例のGaN結晶層の表面は、荒れているものの、図24に示した比較例3の場合と比較して、平坦性が増している。しかしながら、比較例4は、実施例1および2と比較して、GaN結晶層の表面の平坦性が悪く、成長速度も遅い。

【0134】
図26は、窒化物半導体結晶を成長する場合の条件設定の方法を説明するための図である。横軸は成長温度[℃]を、縦軸は成長速度[μm/h]を示す。実線は基板に供給するガスの種類及び分圧を変更した場合の、成長温度と成長速度との関係を示す。

【0135】
一般的に、高速に結晶性のよい窒化物半導体結晶を成長するためには、成長温度と成長速度を最適に設定する必要がある。従来のTHVPE法を用いた窒化物半導体結晶の成長では、十分な成長速度が得られておらず、成長速度の更なる増加が要求されている。また、図9に示す通り、基板の成長温度を高温にすると成長速度が低下する。したがって、これまでの技術的思想では、成長速度が低下し始める高温温度領域(ゾーンZ2)よりも成長速度の高い低温領域(ゾーンZ1)で窒化物半導体結晶を成長させることが通常であった。

【0136】
従来の窒化物半導体結晶の成長方法では、そもそもの結晶の成長速度が十分ではなく、成長速度が低下するゾーンZ2を用いることに想到し得なかった。また、単純に窒化物半導体結晶の成長速度を大きくすると、結晶性が悪くなるという問題もあった。従来のTHVPE法に関しては、成長温度を高くすると成長速度が減少し、一方で成長温度を低くすると安定的に-C軸方向に成長できず、且つ、不純物濃度が大きくなるトレードオフの問題を抱えていた。

【0137】
一方、出願人は、三ハロゲン化ガリウムガスの分圧を制御することで、これまで用いられることのなかったゾーンZ2を用いた窒化物半導体結晶の成長に成功した。即ち、三ハロゲン化ガリウムガスの分圧を9.0×10-3atm以上とし、且つ、ゾーンZ2を用いることにより、高速で結晶性のよい窒化物半導体結晶を成長させた。例えば、ゾーンZ2では、ゾーンZ1を用いる場合よりも成長温度が高温になるので、原料ガスが活性化され、結晶の成長表面において安定化する位置まで輸送しやすくなる。成長温度が低温の場合、原料ガスが結晶の成長表面において十分に輸送される前に結晶化されてしまい結晶性が悪い。さらに、成長温度が高温な領域では、-C軸方向に安定的に成長できる。よって、成長表面が安定化するので、窒化物半導体結晶の結晶性が改善される。

【0138】
以上の通り、三ハロゲン化ガリウムガスの分圧が9.0×10-3atm以上で、且つ、成長温度が1200℃以上のような領域Aを用いることにより、結晶性のよい窒化物半導体結晶を成長できる。また、成長温度を制御すれば、領域Aにおいて成長速度が大きくなる条件を選択できる。これにより、本例のTHVPE法は、従来のTHVPE法が抱えていたトレードオフの問題を解消することに成功した。

【0139】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0140】
100 積層体、101 初期基板、200 窒化物半導体結晶製造装置、210 第1反応室、212 金属ガリウム、214 抑制構造、220 第2反応室、222 仕切り板、230 成長室、232 サセプタ、234 初期基板、236 アンモニアガス供給口、238 第2排気口、250 窒化物半導体結晶製造装置、260 共通反応室、262 第1ハロゲンガス供給口、264 第2ハロゲンガス供給口、266 第1排気口、300 積層体、301 初期基板、302 低温バッファ層、303 窒化物半導体薄膜層、304 欠陥
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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