TOP > 国内特許検索 > 腎臓またはその各部の状態の判定方法およびそのためのキット > 明細書

明細書 :腎臓またはその各部の状態の判定方法およびそのためのキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-072212 (P2018-072212A)
公開日 平成30年5月10日(2018.5.10)
発明の名称または考案の名称 腎臓またはその各部の状態の判定方法およびそのためのキット
国際特許分類 G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/493       (2006.01)
FI G01N 33/68
G01N 33/53 D
G01N 33/493 A
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2016-213418 (P2016-213418)
出願日 平成28年10月31日(2016.10.31)
発明者または考案者 【氏名】山本 格
出願人 【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110002147、【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
Fターム 2G045AA25
2G045CB03
2G045DA36
2G045DA77
要約 【課題】腎臓病の新しい尿バイオマーカーを利用した、腎臓またはその各部の状態の判定方法を提供すること。
【解決手段】(a)被験体由来の尿検体において、PLA2R1、GPRC5A、GGT5、およびNRP1からなる群から選択される1以上のバイオマーカーの量を測定する工程、ならびに(b)前記バイオマーカーの量を基準値と比較する工程を含み、前記バイオマーカーの量を、被験体における腎臓またはその各部の状態を判定するための指標とする、腎臓の状態の判定方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)被験体由来の尿検体において、PLA2R1、GPRC5A、GGT5、およびNRP1からなる群から選択される1以上のバイオマーカーの量を測定する工程、ならびに
(b)前記バイオマーカーの量を基準値と比較する工程を含み、
前記バイオマーカーの量を、被験体における腎臓またはその各部の状態を判定するための指標とする、腎臓の状態の判定方法。
【請求項2】
腎臓またはその各部の状態の判定が腎臓またはその各部の異常の可能性の判定であり、かつ(c)前記バイオマーカーの量が基準値よりも高いか否かを評価する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験体がヒトである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
腎臓の異常が腎臓病である、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
腎臓病が慢性腎臓病である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
慢性腎臓病がIgA腎症である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
(1)前記バイオマーカーとしてPLA2R1またはGPRC5Aの量を、糸球体障害の可能性および/または程度を判定するための指標とすること、
(2)前記バイオマーカーとしてGGT5の量を、間質障害の可能性および/または程度を判定するための指標とすること、ならびに
(3)前記バイオマーカーとしてNRP1の量を、近位尿細管障害の可能性および/または程度を判定するための指標とすること、
からなる1以上の指標が利用される、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
PLA2R1、GPRC5A、GGT5、およびNRP1からなる群から選択される1以上のバイオマーカーに対する抗体を含む、腎臓またはその各部の状態の判定キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、腎臓またはその各部の状態の判定方法およびそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
尿検査は様々な病気の発見、診断に使われている。腎臓病においても、尿検査が利用されている。例えば、これまでも測定されてきた腎臓病の古典的尿バイオマーカーである尿中のタンパク質総量は糸球体障害や下部尿路の炎症などを、血尿(血球数)は腎臓や下部尿路系の出血(炎症)、尿糖は高血糖血症、電解質異常は尿細管障害、尿量は糸球体及び腎臓全体の障害、尿比重は尿細管障害などを把握するのに用いられてきた。しかし、これらの尿バイオマーカーだけでは腎臓の詳細な障害部位、その程度、病型診断、予後推定などは十分には行えない。そのため、腎生検(バイオプシー)で腎臓組織を得て、病理組織学的検索を行うことも必要であった。
【0003】
尿は体の細胞外液の組成を一定に保つために、腎臓において血漿から体に不要なさまざまな代謝産物や余分な水、電解質、酸、塩基などを排泄している。すなわち、腎臓は体の細胞外液の組成を一定に保つために、尿の組成を変え、運動や食事、飲水などの外界から影響を排除している。そのため、尿バイオマーカーを探索する際には、個人の生活習慣などで変動しにくい分子対象にすることが望ましい。この観点からは、尿中のタンパク質(プロテオーム)は代謝産物(メタボローム)より生活習慣などの影響を受けにくいので尿中バイオマーカー探索の対象として有利である。
【0004】
これまで報告されている腎臓病または腎臓障害のバイオマーカーには、全血漿タンパク質(蛋白尿)、血漿アルブミン、シスタチンC、肝臓脂肪酸結合タンパク質(Liver-Fatty Acid Binding Protein:L-FABP)、ニュートロフィル・ゼラチナーゼ関連リポカイン(Neutrophil gelatinase-associated lipokine:NGAL)等のタンパク質、およびマイクロRNAがある(特許文献1~4、非特許文献1~9)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開第2007/119563号
【特許文献2】特表2014-526676号公報
【特許文献3】特表2010-529458号公報
【特許文献4】特表2015-536301号公報
【0006】

【非特許文献1】Ho J. et. al.,Am J Kidney Dis. 2015 Dec;66(6):993-1005
【非特許文献2】Imai E et al.,Clin Exp Nephrol 2007; 11: 156-163
【非特許文献3】Coca SG et al.,Kidney Int 2008;73:1008-16
【非特許文献4】Adachi J et al.,Genome Biol. 2006;7:R80
【非特許文献5】Omenn GS et al.,Proteomics. 2005;5:3226-45
【非特許文献6】Decramer S et al.,Nat Med. 2006;12(4):398-400
【非特許文献7】Yamamoto T et al.,Proteomics. 2008;8(11):2156-9
【非特許文献8】Yoshida Y et al.,Contrib Nephrol. 2008;160:186-97
【非特許文献9】Smith MP et al.,Nat Rev Nephrol. 2009 Dec;5(12):701-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
腎臓病(慢性腎臓病や急性腎障害など)は進行、重症化すると透析療法や腎移植が必要になるが、その根治的治療法がないことが多いため、早期に発見、診断し、その進行を抑制する医療が行われている。現在、多くの腎障害は蛋白尿や血漿クレアチニン値上昇で発見されるが、これらの検査では病気の診断や重症度の判定は容易でない。実際、上述したような既報のバイオマーカーの多くは尿中のみならず血液中にも存在しており、必ずしも腎臓障害の病態(障害の程度)を反映していないという難点がある。そのため、腎生検による病理組織学検査で病理診断、腎臓内障害組織部位および程度の判定が行われることも多く、患者の負担も大きい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した事情から、腎臓またはその各部の障害情報を得ることができる尿バイオマーカーの探索を試みた。具体的には、本発明者は、腎臓病の新しい尿バイオマーカーとして、腎臓内の部位特異的に産生され、尿に分泌または漏出するが、血液中には検出されないタンパク質に着目した。このようなタンパク質を同定できれば、腎臓内部の部位別の障害情報を得ることができると考えられるため、腎臓病の尿バイオマーカーとして有用である。そして、尿中におけるこのようなタンパク質の量が腎臓内部の部位の病態や障害と相関するのであれば、腎臓内部の詳細な障害が把握できる尿バイオマーカーとして特に有用である。また、それら腎臓内各部の障害を示す尿バイオマーカーを揃えて検出することで腎臓内各部のそれぞれの障害が把握でき、腎生検の代替となり得ると考えた。本発明者は、このような思想に基づき鋭意検討した結果、腎臓病の新しい尿バイオマーカーとして有用であるタンパク質を見出すことに成功し、もって本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕(a)被験体由来の尿検体において、PLA2R1、GPRC5A、GGT5、およびNRP1からなる群から選択される1以上のバイオマーカーの量を測定する工程、ならびに
(b)前記バイオマーカーの量を基準値と比較する工程を含み、
前記バイオマーカーの量を、被験体における腎臓またはその各部の状態を判定するための指標とする、腎臓またはその各部の状態の判定方法。
〔2〕腎臓またはその各部の状態の判定が腎臓またはその各部の異常の可能性の判定であり、かつ(c)前記バイオマーカーの量が基準値よりも高いか否かを評価する工程をさらに含む、〔1〕の方法。
〔3〕被験体がヒトである、〔1〕または〔2〕の方法。
〔4〕腎臓の異常が腎臓病である、〔1〕~〔3〕のいずれかの方法。
〔5〕腎臓病が慢性腎臓病である、〔4〕の方法。
〔6〕慢性腎臓病がIgA腎症である、〔5〕の方法。
〔7〕(1)前記バイオマーカーとしてPLA2R1またはGPRC5Aの量を、糸球体障害の可能性および/または程度を判定するための指標とすること、
(2)前記バイオマーカーとしてGGT5の量を、間質障害の可能性および/または程度を判定するための指標とすること、ならびに
(3)前記バイオマーカーとしてNRP1の量を、近位尿細管障害の可能性および/または程度を判定するための指標とすること、
からなる1以上の指標が利用される、〔1〕~〔6〕のいずれかの方法。
〔8〕PLA2R1、GPRC5A、GGT5、およびNRP1からなる群から選択される1以上のバイオマーカーに対する抗体を含む、腎臓またはその各部の状態の判定キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明で見出された尿バイオマーカーは、腎臓内部構造各部の状態に応じて特異的に測定され、さらに腎臓内部の部位の病態(障害の程度)を反映する。したがって、かかる尿バイオマーカー個々の測定とそれらを同時に組み合わせて測定することに基づく本発明によれば、腎臓内の部位の障害、病態や腎生検と同等の情報を低侵襲性で評価することができる。
本発明のキットは、腎生検の代替として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1A】図1A~Cは、免疫組織化学法による腎部位特異的バイオマーカータンパク質の腎臓組織中の局在を示す図である。図1Aは、バイオマーカーPLA2R1に対するモノクローナル抗体により糸球体が特異的に染色したことを示す図である。
【図1B】図1Bは、バイオマーカーGPRC5Aに対するモノクローナル抗体により糸球体が特異的に染色したことを示す図である。
【図1C】図1Cは、バイオマーカーNRP1に対するモノクローナル抗体により近位尿細管が特異的に染色したことを示す図である。
【図1D】図1Dは、バイオマーカーGGT5に対するモノクローナル抗体により間質が特異的に染色したことを示す図である。
【図2-1】図2-1は、PLA2R1に対するモノクローナル抗体を用いて表面プラズモン共鳴により測定した、慢性腎臓病患者(IgA腎症)の尿検体中の糸球体障害バイオマーカーPLA2R1の検出レベルを示す図である。横軸は患者番号(1~50)を示す。縦軸はPLA2R1の検出レベル(RU)を示す。No.58(n=6)は、陽性コントロールを示す。
【図2-2】図2-2は、PLA2R1に対するモノクローナル抗体を用いて表面プラズモン共鳴により測定した、健常者の尿検体中の糸球体障害バイオマーカーPLA2R1の検出レベルを示す図である。横軸は健常者番号(1~50)を示す。縦軸はPLA2R1の検出レベル(RU)を示す。No.58(n=6)は、陽性コントロールを示す。
【図3-1】図3-1は、GPRC5Aに対するモノクローナル抗体を用いて表面プラズモン共鳴により測定した、慢性腎臓病患者(IgA腎症)の尿検体中の糸球体障害バイオマーカーGPRC5Aの検出レベルを示す図である。横軸は患者番号(1~50)を示す。縦軸はGPRC5Aの検出レベル(RU)を示す。No.58(n=6)は、陽性コントロールを示す。
【図3-2】図3-2は、GPRC5Aに対するモノクローナル抗体を用いて表面プラズモン共鳴により測定した、健常者の尿検体中の糸球体障害バイオマーカーGPRC5Aの検出レベルを示す図である。横軸は健常者番号(1~50)を示す。縦軸はGPRC5Aの検出レベル(RU)を示す。No.58(n=6)は、陽性コントロールを示す。
【図4-1】図4-1は、GGT5に対するモノクローナル抗体を用いて表面プラズモン共鳴により測定した、慢性腎臓病患者(IgA腎症)の尿検体中の間質障害バイオマーカーGGT5の検出レベルを示す図である。横軸は患者番号(1~50)を示す。縦軸はGGT5の検出レベル(RU)を示す。No.58(n=6)は、陽性コントロールを示す。
【図4-2】図4-2は、GGT5に対するモノクローナル抗体を用いて表面プラズモン共鳴により測定した、健常者の尿検体中の間質障害バイオマーカーGGT5の検出レベルを示す図である。横軸は健常者番号(1~50)を示す。縦軸はGGT5の検出レベル(RU)を示す。No.58(n=6)は、陽性コントロールを示す。
【図5-1】図5-1は、NRP1に対するモノクローナル抗体を用いて表面プラズモン共鳴により測定した、慢性腎臓病患者(IgA腎症)の尿検体中の近位尿細管障害バイオマーカーNRP1の検出レベルを示す図である。横軸は患者番号(1~50)を示す。縦軸はNRP1の検出レベル(RU)を示す。No.58(n=6)は、陽性コントロールを示す。
【図5-2】図5-2は、NRP1に対するモノクローナル抗体を用いて表面プラズモン共鳴により測定した、健常者の尿検体中の近位尿細管障害バイオマーカーNRP1の検出レベルを示す図である。横軸は健常者番号(1~50)を示す。縦軸はNRP1の検出レベル(RU)を示す。No.58(n=6)は、陽性コントロールを示す。
【図6】図6は、表面プラズモン共鳴により測定した、健常者(HV;n=50)、慢性腎臓病(CKD)ステージ1(n=18)、ステージ2(n=12)、ステージ3(n=7)、およびステージ4(n=13)の尿検体中のバイオマーカー(A:GPRC5A、B:PLA2R1、C:GGT5、およびD:NRP1)の検出レベルの平均を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、腎臓またはその各部の状態の判定方法を提供する。

【0013】
本発明の方法により判定される腎臓またはその各部の状態としては、例えば、正常状態、異常状態、および所定の処置(例、薬物療法)後の変化、予後(例、予後良好または予後不良の状態)が挙げられる。腎臓またはその各部の異常状態の例は、腎臓病または障害である。腎臓またはその各部の異常状態としては、例えば、慢性腎臓病(例、IgA腎症、糖尿病性腎症)、糸球体障害(例、膜性腎症、ネフローゼ症候群)、間質障害(例、間質性腎炎)、尿細管障害(例、近位尿細管障害)、腎不全(例、急性腎不全、慢性腎不全)、その他の腎臓病(例、ANCA関連腎炎、全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)、紫斑病性腎炎、半月体形成性腎炎、巣状糸球体硬化症、腎硬化症、腎アミロイドーシス、強皮症腎、シェーグレン症候群による間質性腎炎、薬剤性腎症)などが挙げられる。本発明の方法は、このような腎臓またはその各部の状態の良否を判定することができる。

【0014】
好ましくは、本発明の方法により判定される腎臓またはその各部は、腎臓またはその各部の異常状態である。腎臓またはその各部の異常状態の判定では、腎臓またはその各部の異常状態の有無のみならず、腎臓またはその各部の異常状態の程度もまた判定することができる。腎臓またはその各部の異常状態の判定では、腎臓の各部位(例、糸球体、近位尿細管、間質)での異常状態の有無、およびその異常状態の程度も判定することができる。また、例えば、慢性腎臓病は、進行度によって、ステージ1、ステージ2、ステージ3、およびステージ4に分類することができるが、本発明の方法は、慢性腎臓病の各ステージにおける腎臓内各部の障害の違いの判定にも利用することができる。

【0015】
本発明の方法は、以下(a)および(b)を含む:
(a)被験体由来の尿検体において、PLA2R1、GPRC5A、GGT5、およびNRP1からなる群から選択される1以上のバイオマーカーの量を測定する工程;ならびに
(b)上記バイオマーカーの量を基準値と比較する工程。

【0016】
(a)において、被験体としては、例えば、哺乳動物(例、ヒト、サル等の霊長類;マウス、ラット、ハムスター等の齧歯類;イヌ、ネコ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ウマ、ウシ、ブタ等のペットまたは使役動物)が挙げられる。好ましくは、被験体は、ヒトである。

【0017】
尿検体は、例えば、排尿、または尿管へのカテーテルの挿入による収集によって得ることができるが、低侵襲性の観点から、排尿により得ることが好ましい。尿検体は、バイオマーカーの量の測定前に遠心分離され、さらに予備処理に付されてもよい。このような予備処理としては、例えば、タンパク質の分画、抽出、ろ過、沈殿、加熱、凍結、冷蔵、および攪拌が挙げられる。

【0018】
本発明の方法では、PLA2R1(PHOSPHOLIPASE A2 RECEPTOR 1;HGNCアクセッション番号:22925)、GPRC5A(G protein-coupled receptor, class C, group 5, member;HGNCアクセッション番号:9836)、GGT5(Gamma-glutamyltransferase 5;HGNCアクセッション番号:2687)、およびNRP1(Natriuretic peptide receptor 1;HGNCアクセッション番号:4881)からなる群から選択される1以上のバイオマーカーが用いられる。好ましくは、2以上、3以上、又は全ての上記バイオマーカーを用いてもよい。これらのバイオマーカーは、腎臓内の部位で特異的に産生され、尿に分泌または漏出するが、血液中には検出されないという特徴を有する。また、これらのバイオマーカーは、腎臓の各部位の病態(障害の程度を含む)を反映し得るという特徴を有する。

【0019】
バイオマーカーの量の測定は、タンパク質の量を測定できる任意の方法により行うことができる。このような方法としては、例えば、イムノアッセイ、および質量分析法が挙げられる。イムノアッセイとしては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、サンドイッチELISA)、放射免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、免疫クロマト法、ルミネッセンス免疫測定法、スピン免疫測定法、ブロッティング法(例、ウエスタンブロット法、ドットブロット法)、ラテックス凝集法、表面プラズモン共鳴が挙げられる。イムノアッセイでは、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、改変抗体(例、単鎖抗体、Fcフラグメント)等の任意の抗体を用いることができる。

【0020】
(b)において、比較されるべきバイオマーカーの量の基準値としては、比較被験体(例、健常被験体)の尿検体におけるバイオマーカーの量について通常の範囲内にある値を適宜用いることができる。このような基準値としては、例えば、カットオフ値、または比較被験体の尿検体中のバイオマーカーの量の平均値、もしくは当該平均値に一定の値を加算した値(例、平均値+SD、平均値+2SD)が挙げられる。カットオフ値は、当業者であれば適宜設定することができる。例えば、慢性腎臓病または腎臓の部位の障害の判定のためのカットオフ値については、診断感度および診断特異度を適宜考慮して、慢性腎臓病または腎臓の部位の障害を罹患する被験体を、健常被検体から鑑別できるような値を設定することができる。また、慢性腎臓病の進行度または腎臓の部位の障害の程度の判定のためのカットオフ値については、診断感度および診断特異度を適宜考慮して、所定のステージにある、または腎臓の部位において所定の程度の障害を有する被験体を、別のステージにある、または腎臓の部位において別の程度の障害を有する被験体から鑑別できるような値を設定することができる。

【0021】
本発明の方法では、前記バイオマーカーの量は、被験体における腎臓またはその各部の状態を判定するための指標として利用される。したがって、本発明の方法は、上記(a)および(b)に加えて、(c)上記バイオマーカーの量が基準値よりも高いか否かを評価する工程をさらに含んでいてもよい。あるいは、本発明の方法は、上記(a)および(b)に加えて、(c’)上記バイオマーカーの量が基準値よりも高いか否かを評価して、被験体における腎臓またはその各部の状態を評価する工程をさらに含んでいてもよい。

【0022】
本発明の方法はまた、腎臓の部位に特異的なバイオマーカーを指標とする、腎臓の部位の状態の判定に使用することができる。腎臓の部位としては、例えば、ネフロン(例、近位尿細管等の尿細管、および糸球体)、ならびに間質、集合管が挙げられる。腎臓の部位に特異的なバイオマーカーとしては、例えば、糸球体に特異的なPLA2R1およびGPRC5A、間質に特異的なGGT5、ならびに近位尿細管に特異的なNRP1が挙げられる。これらの部位に特異的なバイオマーカーの量は、それぞれの部位の障害の可能性および/または程度を判定するための指標とすることができる。

【0023】
本発明の方法では、既知のバイオマーカーが併用されてもよい。例えば、上述した特許文献および非特許文献中に記載されるようなバイオマーカーを併用することにより、腎臓またはその各部の状態を判定してもよい。

【0024】
本発明はまた、PLA2R1、GPRC5A、GGT5、およびNRP1からなる群から選択される1以上のバイオマーカーに対する1以上の抗体を用いた測定法の組み合わせを含む、それにより腎臓の様々な部位の状態の判定キットを提供する。

【0025】
本発明のキットでは、上記バイオマーカーの数は、好ましくは、2以上、3以上、又は全てであってもよい。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、改変抗体(例、単鎖抗体、Fcフラグメント)等の任意の抗体を用いることができる。抗体は、固相に固定されていてもよい。固相としては、例えば、プレート、支持体、膜、粒子(例、磁性粒子、ラテックス粒子)が挙げられる。例えば、キットがELISA用キットである場合、特定のバイオマーカーに対する抗体が固定されたプレート、および標識(検出)抗体を含むように、本発明のキットは構成されていてもよい。また、キットが免疫クロマト用キットである場合、特定のバイオマーカーに対する固相抗体および標識抗体が固定された支持体を含むように、本発明のキットは構成されていてもよい。

【0026】
本発明のキットはまた、補助的な手段を含んでいてもよい。このような補助的な手段としては、例えば、緩衝液、安定化剤、抗体の標識に用いられる酵素およびその酵素の基質、尿の予備処理用の容器(例、チューブ)が挙げられる。

【0027】
本発明のキット、例えば、本発明の方法において好適に利用することができる。したがって、本発明のキットにより判定される状態の詳細は、本発明の方法と同様であり、好ましい態様も同様である。

【0028】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
実施例1:腎臓病の腎生検検査の代替と成り得るリキッドバイオプシーに適した尿バイオマーカーの同定
腎臓病のリキッドバイオプシーに適した腎臓内各部の障害の尿バイオマーカーを同定し、その組み合わせをキット化するために、腎臓内の部位で特異的に産生され、尿に分泌または漏出するが、血液中には検出されないタンパク質を選択した。
【実施例】
【0030】
(1)腎臓内で部位特異的に産生されるタンパク質の選択
腎臓内で部位特異的に産生されるタンパク質を選択するために、腎臓の各組織部位についてプロテオーム解析を実施した。具体的には、腎臓の各組織部位(皮質、糸球体、近位尿細管、遠位尿細管、および集合管)をレーザーマイクロダイセクション法で切り出し、切り出した各組織部位をトリプシン消化し、消化物からペプチド成分を精製し、質量分析装置にかけ、各組織部位のプロテオーム解析を実施した。腎臓の各組織部位のプロテオームを比較することにより、各部位で特異的に産生されると考えられるタンパク質群を選択した。腎臓の各部位(皮質、糸球体、近位尿細管、遠位尿細管、および集合管)について、各部位で検出されたが、他の部位では検出されなかったタンパク質の数を、表1に示す。
【実施例】
【0031】
(2)腎臓内で部位特異的に産生され、尿に分泌または漏出するが、血液中には検出されないと考えられる候補タンパク質の選択
健常者の尿および血液のプロテオームを質量分析装置で解析した。尿および血液の一方にのみ検出されるタンパク質の数を、表1に示す。これらのプロテオームの結果に基づいて腎臓内で部位特異的に産生されると考えられるタンパク質群と、尿と血液に検出されるタンパク質群とを比較し、腎臓内で部位特異的に産生され、尿に分泌または漏出するが、血液中には検出されないと考えられるタンパク質を選択した。
【実施例】
【0032】
【表1】
JP2018072212A_000002t.gif
【実施例】
【0033】
(3)抗体を用いた免疫組織化学法による候補タンパク質の腎臓内部位特異性の検証
上記(2)で同定された候補タンパク質について、これらの候補タンパク質に対する抗体を用いた免疫組織化学法を行い、これらの候補タンパク質が腎臓の所定の部位で特異的に局在しているかを検証し、さらに候補タンパク質を絞り込んだ。腎臓の所定の部位における候補タンパク質の特異的な局在を示す例を、図1A~Cに示す。腎臓の所定の部位における特異的な局在が確認された候補タンパク質の中から、モノクローナル抗体が利用可能なタンパク質(すなわち、モノクローナル抗体が作製できたかまたは入手可能であったタンパク質)を選択して、腎臓の各部位の障害バイオマーカー候補とした。
【実施例】
【0034】
その結果、糸球体に特異的な尿タンパク質としてPLA2RおよびGPRC5A、近位尿細管に特異的な尿タンパク質としてNRP1、および間質に特異的な尿タンパク質としてGGT5が、それぞれの部位の障害バイオマーカー候補として同定された。
【実施例】
【0035】
実施例2:慢性腎臓病患者尿中のバイオマーカー候補の測定
実施例1で選択したバイオマーカー候補を、健常者および慢性腎臓病患者の尿検体において測定した。
【実施例】
【0036】
(1)尿検体
尿検体を、健常者(成人)50名および慢性腎臓病患者(IgA腎症)のステージ1、2、3、および4の患者それぞれ、18名、12名、7名、および13名から採取した。
【実施例】
【0037】
(2)尿検体中のバイオマーカー候補の測定
各バイオマーカー候補に対する抗体を固相化したチップ上で尿検体(10倍希釈)と反応させ、各バイオマーカー候補(タンパク質)について、抗体に結合したタンパク質の量を表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance、SPR)を用いた検出法(BioRad,ProteOn XPR36)で測定した(図2-1~図5-2)。健常者(n=50)、慢性腎臓病(CKD)ステージ1(n=18)、ステージ2(n=12)、ステージ3(n=7)、およびステージ4(n=13)の尿検体中の各バイオマーカー候補の量の傾向を、図6にまとめた。
【実施例】
【0038】
(3)結果
図2-1~5-2に示すように、バイオマーカー候補(PLA2R1、GPRC5A、GGT5、NRP1)の量は、慢性腎臓病患者の尿中で増加する傾向が認められた。したがって、これらのバイオマーカー候補の量を測定することで、腎臓またはその各部の状態を判定できることが示された。
また、図6に示すように、糸球体障害のバイオマーカー候補(PLA2R1およびGPRC5A)、間質障害のバイオマーカー候補(GGT5)、近位尿細管障害のバイオマーカー候補(NRP1)は、慢性腎臓病(CKD)の進行度に応じて尿中に増加する傾向が認められ、腎臓の各部位の病態(障害の程度)を反映していた。したがって、これらのバイオマーカー候補の量を測定することで、腎臓の各部位の病態を判定でき、リキッドバイオプシーが可能になることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、腎臓またはその各部の状態の判定に有用である。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図1C】
2
【図1D】
3
【図2-1】
4
【図2-2】
5
【図3-1】
6
【図3-2】
7
【図4-1】
8
【図4-2】
9
【図5-1】
10
【図5-2】
11
【図6】
12