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明細書 :抗酸化剤および腎障害処置剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-154609 (P2018-154609A)
公開日 平成30年10月4日(2018.10.4)
発明の名称または考案の名称 抗酸化剤および腎障害処置剤
国際特許分類 A61K  38/16        (2006.01)
A61P  39/06        (2006.01)
A61P  13/12        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
A61P  11/00        (2006.01)
A61P  31/04        (2006.01)
A61K  51/04        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
FI A61K 38/16
A61P 39/06
A61P 13/12
A61P 9/10
A61P 11/00
A61P 31/04
A61K 51/04 310
C12N 15/00 ZNAA
C07K 14/47
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2017-055092 (P2017-055092)
出願日 平成29年3月21日(2017.3.21)
発明者または考案者 【氏名】岩野 正之
【氏名】横井 靖二
【氏名】木村 秀樹
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4H045
Fターム 4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA21
4C084BA23
4C084CA62
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC211
4C084ZC212
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
要約 【課題】新規な抗酸化剤および新規な腎障害処置剤を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤は、FSP1タンパク質、または、上記FSP1タンパク質の発現ベクターを含有している。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
FSP1タンパク質、または、上記FSP1タンパク質の発現ベクターを含有している、抗酸化剤。
【請求項2】
上記FSP1タンパク質は、以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかのポリペプチドを含有しているものである、請求項1に記載の抗酸化剤:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、抗酸化活性を有するポリペプチド、
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、抗酸化活性を有するポリペプチド。
【請求項3】
アポトーシスを伴う疾患を処置するために用いられるものである、請求項1または2に記載の抗酸化剤。
【請求項4】
上記アポトーシスを伴う疾患は、腎障害、心筋梗塞、脳梗塞、肺障害、または敗血症である、請求項3に記載の抗酸化剤。
【請求項5】
FSP1タンパク質、または、上記FSP1タンパク質の発現ベクターを含有している、腎障害処置剤。
【請求項6】
上記FSP1タンパク質は、以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかのポリペプチドを含有しているものである、請求項5に記載の腎障害処置剤:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、抗酸化活性を有するポリペプチド、
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、抗酸化活性を有するポリペプチド。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化剤および腎障害処置剤に関する。より詳しくは、FSP1タンパク質、または、上記FSP1タンパク質の発現ベクターを含有している、抗酸化剤および腎障害処置剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓の機能に障害が生じる腎障害(例えば、急性腎障害)は、患者の予後、および治療に必要な医療費などの観点において、看過できない疾患である。通常、腎障害の程度は血清クレアチン濃度によって評価される。血清クレアチン濃度が0.5mg/dL以上増加している患者は、死亡率が6.5倍になり、入院日数が3.5日増加し、約7500ドルの医療費が余分に必要となると報告されている(非特許文献1)。このことから同文献は、急性腎障害により、死亡率、入院日数および医療費の増加が招かれると結論付けている。
【0003】
日本国のデータでは、「糸球体疾患、腎尿細管間質性疾患及び腎不全」の推計患者数は33.0万人であり(厚生労働省「平成26年 患者調査」、統計表2)、慢性腎不全の推計患者数は29.6万人である(同、統計表9)。また、腎不全(急性腎不全、慢性腎不全および詳細不明の腎不全の合計)により、1年間に24,560名が死亡しているとのデータもある(厚生労働省「平成27年人口動態調査(確定数)」、第7表)。
【0004】
腎障害(例えば、急性腎障害)に対する処置方法は、輸液および透析が中心であり、決定的な治療法は確立されておらず、重篤化して慢性腎不全に移行する例、死亡する例もある(例えば、非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Chertow GM et al. (2005) "Acute kidney injury, mortality, length of stay, and costs in hospitalized patients", Journal of the American Society of Nephrology, Vol.16 (Issue 11), pp.3365-3370
【非特許文献2】"KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury" (2012) Kidney International Supplements, Vol.2 (Issue 1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、腎障害に対する従来の処置には、改善の余地が残されていた。
【0007】
本発明の一態様は、新規な腎障害処置剤を提供することを目的とする。本発明の他の態様は、新規な抗酸化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、FSP1タンパク質により上記目的が達成されうることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の構成からなるものである。
【0009】
<1>
本発明の一態様は、FSP1タンパク質、または、上記FSP1タンパク質の発現ベクターを含有している、抗酸化剤である。
【0010】
<2>
上記FSP1タンパク質は、以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかのポリペプチドを含有しているものであることが好ましい:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、抗酸化活性を有するポリペプチド、
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、抗酸化活性を有するポリペプチド。
【0011】
<3>
上記抗酸化剤は、アポトーシスを伴う疾患を処置するために用いられるものであることが好ましい。
【0012】
<4>
上記アポトーシスを伴う疾患は、腎障害、心筋梗塞、脳梗塞、肺障害、または敗血症であることが好ましい。
【0013】
<5>
本発明の他の態様は、FSP1タンパク質、または、上記FSP1タンパク質の発現ベクターを含有している、腎障害処置剤である。
【0014】
<6>
上記FSP1タンパク質は、以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかのポリペプチドを含有しているものであることが好ましい:
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、抗酸化活性を有するポリペプチド、
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、抗酸化活性を有するポリペプチド。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、新規な腎障害処置剤が提供される。本発明の他の態様によれば、新規な抗酸化剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】培養尿細管上皮細胞に対してFSP1を添加することにより、活性酸素種(ROS)の産生が抑制されたことを示すグラフである。
【図2】(a)は、培養尿細管上皮細胞にシスプラチンを添加した後、16または24時間後におけるCleaved Caspase-3(上)またはβ-アクチン(下)の発現を示す、抗体染色像である。(b)は、培養尿細管上皮細胞において、シスプラチンによって誘導されるCleaved Caspase-3の発現が、FSP1により抑制されたことを示すグラフである。(c)は、培養尿細管上皮細胞において、Bax/Bcl2の比の値が、FSP1により低下したことを示すグラフである。
【図3】(a)は、FSP1を糸球体上皮細胞に組み込んだトランスジェニックマウスを作製するにあたり、使用した導入遺伝子の構造を示す模式図である。(b)は、上記トランスジェニックマウスの糸球体上皮細胞において、FSP1が発現していることを示す蛍光像である。(c)は、上記トランスジェニックマウスにおいて、シスプラチンによって誘導された腎障害が抑制されていることを示すグラフおよび染色像である。
【図4】組換えFSP1を投与したマウスにおいて、シスプラチンによって誘導された腎障害が抑制されていることを示すグラフおよび染色像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態の一例について詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されない。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。

【0018】
〔1.FSP1タンパク質およびその発現ベクター〕
[1-1.FSP1タンパク質]
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤および腎障害処置剤は、FSP1タンパク質を含んでいる。

【0019】
FSP1タンパク質(Fibroblast specific protein 1)は、線維芽細胞に強く発現するタンパク質である。FSP1タンパク質はまた、転移性癌細胞マーカーであるカルシウム結合タンパク質・S100A4としても知られている。したがって、本明細書においては、「FSP1(FSP1タンパク質)」と、「S100A4(S100A4タンパク質)」とは同義と見做す。FSP1タンパク質は、細胞外に分泌される分泌タンパク質としての生物活性も有している。

【0020】
上記FSP1タンパク質は、抗酸化活性を有する限り、FSP1タンパク質の部分ペプチドであってもよい。一実施形態において、上記部分ペプチドには、FSP1タンパク質のうち、抗酸化活性を有するドメインが含まれている。

【0021】
一実施形態において、上記FSP1タンパク質は、以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかのポリペプチドを含有している。他の実施形態において、上記FSP1タンパク質は、以下の(a)~(c)からなる群より選択されるいずれかのポリペプチドからなるものである。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、抗酸化活性を有するポリペプチド。
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、抗酸化活性を有するポリペプチド。

【0022】
(a)で表されるタンパク質は、ヒトFSP1の全長タンパク質である。

【0023】
(b)および(c)は、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質の、機能的に同等な変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、または他のタンパク質もしくはペプチドとの融合タンパク質などである。これらのタンパク質またはペプチドは、抗酸化活性を有している限り、具体的な配列は限定されない。なお、あるアミノ酸配列に対する1または数個のアミノ酸残基の欠失、付加および/または他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドが、その生物学的活性を維持しうることは、周知である。

【0024】
配列番号1で示されるアミノ酸配列において、欠失、置換または付加が生じる位置は特に限定されない。

【0025】
欠失、置換または付加されてもよいアミノ酸の数は、上記機能を失わせない限り、限定されないが、部位特異的突然変異誘発法などの公知の導入法によって欠失、置換または付加できる程度の数をいう。その数は、通常は30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、より好ましくは10アミノ酸以内であり、さらに好ましくは7アミノ酸以内、よりさらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、5、4、3、2または1アミノ酸以内)である。

【0026】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からアミノ酸残基を置換する場合は、所望のアミノ酸残基を、共通した性質のアミノ酸側鎖を有している他種のアミノ酸残基に置換することが好ましい。上記アミノ酸側鎖の性質としては、疎水性側鎖を有しているアミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性側鎖を有しているアミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有しているアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有しているアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有しているアミノ酸(C、M)、カルボン酸およびアミド含有側鎖を有しているアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有しているアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有しているアミノ酸(H、F、Y、W)が挙げられる(括弧内は、いずれもアミノ酸の一文字表記を表す)。置換の標的となるアミノ酸残基は、共通した性質をより多く有しているアミノ酸残基と置換させることが好ましい。

【0027】
また、本明細書中において「変異」とは、部位特異的突然変異誘発法などによって人為的に導入された変異と、天然に存在する同様の変異とを包含する概念である。すなわち、(b)または(c)が包含しているタンパク質には、人工的に合成されたFSP1類似タンパク質も、ヒト以外の生物におけるFSP1タンパク質も、含まれうる。

【0028】
本明細書において「機能的に同等」とは、あるタンパク質と、配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質とが、同等(同一および/または類似)の生物学的機能または生化学的機能を有していることを意図する。本明細書において、上記生物学的機能または生化学的機能としては、例えば、抗酸化活性が挙げられる。生物学的機能には、タンパク質が発現する部位の特異性や、タンパク質の発現量なども含まれる。

【0029】
変異を導入したタンパク質が、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と機能的に同等であるかどうかは、当該変異を導入したタンパク質を培養細胞に添加または被験体に投与し、所望の活性を有しているかを調べればよい。

【0030】
アミノ酸配列の同一性は、アミノ酸配列全体(または機能発現に必要な領域)において、少なくともは90%以上、よりに好ましくは95%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)でありうる。アミノ酸配列の同一性は、BLASTN(核酸レベル)またはBLASTX(アミノ酸レベル)([Altschul SF (1990) "Basic local alignment search tool", Journal of Molecular Biology, Vol.215 (Issue 3), pp.403-410]を参照)などのプログラムを利用して、決定することができる。該プログラムは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST([Karlin S and Altschul SF (1990) "Methods for assessing the statistical significance of molecular sequence features by using general scoring schemes", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.87 (No.6), pp.2264-2268]、[Karlin S and Altschul SF (1993) "Applications and statistics for multiple high-scoring segments in molecular sequences", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, Vol.90 (No.12), pp.5873-5877]を参照)に基づいている。

【0031】
BLASTNによって塩基配列を解析する場合は、パラメーターの一例として、score=100、wordlength=12を採用することができる。BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターの一例として、score=50、wordlength=3を採用することができる。Gapped BLASTを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、[Altschul SF et. al. (1997) "Gapped BLAST and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs", Nucleic Acids Research, Vol.25 (Issue 17), pp.3389-3402]の記載を参照に行うことができる。解析プログラムとしてBLASTまたはGapped BLASTを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いればよい。

【0032】
上述した解析方法の具体的な手法は、公知である。比較対象の塩基配列またはアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加または欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。

【0033】
ポリペプチドが抗酸化活性を有するか否かは、後述する実施例にて示すように、活性酸素種(ROS)の産生に及ぼすポリペプチドの影響を確認することによって判定することができる。例えば、マウス近位尿細管上皮細胞株(mProx)に、(i)シスプラチン(例えば、最終濃度50μM)を加える、および、(ii)シスプラチン(例えば、最終濃度50μM)並びに所望のポリペプチド(例えば、最終濃度10μM)を加える、2つの試験を行う。次いで、(i)の試験における細胞内ROS活性(測定値をX1とする)と、(ii)の試験における細胞内ROS活性(測定値をX2とする)とを、プレートリーダー(480nm/530nm)を用いた蛍光強度測定によって測定する。そして、X2/X1の値が9.5/10以下、好ましくは9.0/10以下、より好ましくは8.0/10以下、より好ましくは7.0/10以下、より好ましくは6.0/10以下、より好ましくは5.0/10以下、より好ましくは4.0/10以下、より好ましくは3.0/10以下、より好ましくは2.0/10以下、最も好ましくは1.0/10以下であれば、所望のポリペプチドが抗酸化活性を有すると判定することができる。

【0034】
[1-2.FSP1タンパク質の合成・抽出方法]
FSP1タンパク質は、公知の方法によって合成されうる。一実施形態において、上記FSP1タンパク質は、FSP1タンパク質を合成するように形質転換された、形質転換体によって合成される。一例において、上記形質転換体は、細菌(大腸菌など)、酵母(出芽酵母、油性酵母など)、昆虫、動物または植物である。

【0035】
合成されたFSP1タンパク質は、宿主細胞または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋かつ均一なタンパク質として精製することができる。タンパク質の分離および精製は、通常のタンパク質の分離および精製で使用されている分離方法および精製方法を使用すればよい。例えば、クロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、透析および再結晶などを、適宜選択または組み合せることにより、タンパク質を分離および精製することができる。

【0036】
クロマトグラフィーの具体的な方法としては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどが挙げられる。

【0037】
また、GSTとの融合タンパク質または6×Hisを付加させた組換えタンパク質として変異体タンパク質を宿主細胞内で発現させた場合は、発現させた組換えタンパク質を、グルタチオンカラムまたはニッケルカラムを用いて精製することができる。精製後、融合タンパク質のうち目的のタンパク質以外の領域を、トロンビンまたは第Xa因子などにより切断し、除去してもよい。

【0038】
[1-3.FSP1タンパク質の発現ベクター]
本発明の他の実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤は、FSP1タンパク質の発現ベクターを含んでいる。上記発現ベクターには、FSP1タンパク質をコードしている塩基配列が転写可能に含まれている。

【0039】
上記FSP1タンパク質をコードしている塩基配列は、抗酸化活性を有する限り、FSP1タンパク質の部分ペプチドをコードしている塩基配列であってもよい。一実施形態において、上記部分ペプチドには、FSP1タンパク質のうち、抗酸化活性を有するドメインをコードしている塩基配列が含まれている。

【0040】
一実施形態において、上記FSP1タンパク質をコードしている塩基配列は、(A)配列番号2で示されている塩基配列である。他の実施形態において、上記FSP1タンパク質をコードしている塩基配列は、(B)配列番号2で示されている塩基配列から、末端の38塩基(ポリA配列)を除いた塩基配列である。さらに他の実施形態において、上記FSP1タンパク質をコードしている塩基配列は、(C)上述の(a)~(c)のアミノ酸配列をコードしている塩基配列(当該配列は、コドン最適化を受けていてもよい)である。

【0041】
またさらに他の実施形態において、上記FSP1タンパク質をコードしている塩基配列は、(D)上記(A)~(C)のいずれかの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、抗酸化活性を有するタンパク質をコードする塩基配列である。

【0042】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、2本のポリヌクレオチド鎖が、塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドを形成するが、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドは形成しない条件をいう。換言すれば、相同性が高い核酸同士(例えば完全にマッチしたハイブリッド)の融解温度(Tm値)から15℃低い温度、好ましくは10℃低い温度、さらに好ましくは5℃低い温度までの温度範囲において、ハイブリダイズする条件ともいえる。

【0043】
ストリンジェントな条件の一例を示すと、0.25M NaHPO、7%SDS、1mM EDTA、1×デンハルト溶液からなる緩衝液(pH7.2)中において、温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16~24時間ハイブリダイズさせ、その後さらに20mM NaHPO、1% SDS、1mM EDTAからなる緩衝液(pH7.2)中において、温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回行う条件を挙げることができる。

【0044】
他の例としては、(1)25%ホルムアミド(より厳しい条件では50%ホルムアミド)、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mM Hepes(pH7.0)、10×デンハルト溶液、20μg/mL変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行い、(2)その後、(i)通常は1×SSC、0.1% SDS、37℃程度、(ii)より厳しい条件としては0.5×SSC、0.1% SDS、42℃程度、(iii)さらに厳しい条件としては0.2×SSC、0.1% SDS、65℃程度の、洗浄液および温度にて洗浄する条件を挙げることができる。

【0045】
このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほど、特異性の高いハイブリダイズとなる。なお、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示である。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上述の要素、または他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが、当業者には可能である。このことは、例えば、[Joseph Sambrook & David W. Russell, "Molecular cloning: a laboratory manual 3rd Ed.", New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001]などに記載されている。

【0046】
また、上記(D)の塩基配列には、配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50個の塩基配列が置換、欠損、挿入および/または付加しているDNAからなる塩基配列、および配列番号2に記載の塩基配列からなるDNAと90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の配列同一性を有するDNAからなる塩基配列も含まれる。

【0047】
本発明の一実施形態に係るFSP1タンパク質の発現ベクターは、基材ベクターとして、一般的に使用される種々のベクターを用いることができ、導入される細胞または導入方法に応じて適宜選択されうる。例えば、プラスミド、ファージまたはコスミドなどを用いることができる。つまり、ベクターの具体的な種類は特に限定されるものではなく、宿主細胞中で発現可能なベクターを適宜選択すればよい。

【0048】
FSP1タンパク質を発現させるために、本発明の一実施形態に係るFSP1タンパク質の発現ベクターは、プロモーター配列を含んでいてよい。上記プロモーター配列は、宿主細胞の種類に応じて適宜選択される。

【0049】
上述した発現ベクターは、例えば、ファージベクター、プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、染色体ベクター、エピソームベクターおよびウイルス由来ベクター(細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソームなど)、酵母染色体エレメントおよびウイルス(バキュロウイルス、パポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、トリポックスウイルス、仮性狂犬病ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルスおよびレトロウイルスなど)、および、それらの組み合わせに由来するベクター(コスミド、ファージミドなど)でありうる。

【0050】
本発明の一実施形態に係るFSP1タンパク質の発現ベクターは、さらに、転写開始および転写終結のための部位を含んでおり、かつ、転写領域中にリボソーム結合部位を含んでいることが好ましい。ベクター中の成熟転写物のコード部分は、翻訳されるべきポリペプチドの始めに転写開始コドンAUGを含み、そして終わりに適切に位置される終止コドンを含むことになる。

【0051】
本発明の一実施形態に係るFSP1タンパク質の発現ベクターは、DNAの転写を昂進させるための配列を含んでいてよい。一実施形態において、上記DNAの転写を昂進させるための配列は、エンハンサー配列である。上記エンハンサーとしては、例えば、SV40エンハンサー(これは、複製起点の下流の100~270bpに配置される)、サイトメガロウイルスの初期プロモーターエンハンサー、複製起点の下流に配置されるポリオーマエンハンサーおよびアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。

【0052】
本発明の一実施形態に係るFSP1タンパク質の発現ベクターは、転写されたRNAを安定化させるための配列を含んでいてよい。一実施形態において、上記転写されたRNAを安定化させるための配列は、ポリA付加配列(ポリアデニル化配列、polyA)である。ポリA付加配列の例としては、成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列、ウシ成長ホルモン遺伝子由来のポリA付加配列、ヒト成長ホルモン遺伝子由来ポリA付加配列、SV40ウイルス由来ポリA付加配列、ヒトまたはウサギのβグロビン遺伝子由来のポリA付加配列などが挙げられる。

【0053】
[1-4.FSP1タンパク質の発現ベクターの作製方法]
上述したFSP1タンパク質の発現ベクターは、公知の手法によって作成することができる。このような手法としては、ベクターを作製するためのキットに付属する実施マニュアルに記載の手法に加え、種々の手引書に記載の手法が挙げられる。例えば、[Joseph Sambrook & David W. Russell, "Molecular cloning: a laboratory manual 3rd Ed.", New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001]は、包括的な手引書であり、通常の遺伝子組換え実験方法以外に、大腸菌株の種類、ベクターの種類、培養法などが示されている。

【0054】
〔2.抗酸化剤〕
本発明の一態様は、FSP1タンパク質、または、上記FSP1タンパク質の発現ベクターを含有している、抗酸化剤である。

【0055】
本明細書において、「抗酸化剤」とは、抗酸化効果を有する製剤を意図する。本明細書において、「抗酸化効果(抗酸化活性)」とは、生物体または生物体に由来する系(摘出された組織、培養細胞、細胞抽出液など)において、酸化反応を抑制する効果を意図する。一実施形態において、上記酸化反応を抑制する効果とは、活性酸素種(ROS)の産生を抑制する効果である。一実施形態において、上記活性酸素種は、細胞内において産生される活性酸素種である。

【0056】
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤が有効である疾患の例としては、腎障害(急性腎障害、薬剤性腎障害、慢性腎不全など)、心筋梗塞、脳梗塞、肺障害(急性肺障害など)、敗血症が挙げられる。上述した疾患の中でも、本発明の一実施形態に係る抗酸化剤は、腎障害の処置に用いられることが好ましい。

【0057】
一実施形態において、本発明の一実施形態に係る抗酸化剤は、アポトーシスを伴う疾患を処置するために用いられる。上記に説明した抗酸化効果と併せて考慮すると、上記抗酸化剤は、酸化ストレスに起因するアポトーシスを伴う疾患を処置するために用いられることが好ましい。

【0058】
抗酸化剤の効果が見込まれる疾患として上記に例示した疾患は、アポトーシスにも関連している。このため、本発明の一実施形態に係る抗酸化剤は、上記に列挙されている疾患に対して、より効果的に作用しうる。

【0059】
一実施形態において、上記アポトーシスを伴う疾患は、尿細管上皮細胞のアポトーシスを伴う疾患である。本発明の一実施形態に係る抗酸化剤は、尿細管上皮細胞のアポトーシスを伴う疾患を処置するために用いられることが好ましい。

【0060】
本明細書において「処置」とは、処置効果をもたらす行為を意味する。処置効果とは、予防効果および治療効果を包含する概念で、例えば、以下の類型に含まれる効果を奏するものである。
(1)薬剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の発症を防止する、またはリスクを低減する。
(2)薬剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の再発を防止する、またはリスクを低減する。
(3)薬剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の徴候の発生を防止する、またはリスクを低減する。
(4)薬剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の重症度を低減する。
(5)薬剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の重症度の増加、または進行を防止する。
(6)薬剤を投与しなかった場合と比較して、疾患に係る1つ以上の症状の重症度の増加速度、または進行速度を低減する。

【0061】
したがって、本明細書において、「処置剤」とは、「予防剤」および「治療剤」を包含する概念である。

【0062】
〔3.腎障害処置剤〕
本発明の一態様は、FSP1タンパク質、または、上記FSP1タンパク質の発現ベクターを含有している、腎障害処置剤である。

【0063】
本明細書において、腎障害処置剤とは、腎障害を処置する効果を有する製剤を意図する。本明細書において、「腎障害を処置する効果」とは、少なくとも1つの腎機能の低下を伴う疾患を処置する効果を意図する。上記少なくとも1つの腎機能の低下を伴う疾患には、腎臓を主要な病巣とする疾患の他にも、例えば、合併症として腎機能の低下を伴う疾患(高血圧、糖尿病、膠原病、血管炎、感染症、悪性腫瘍、パラプロテイネミアなど)、腎臓を含む多臓器不全(心腎連関による腎不全、肺腎連関による腎不全、敗血症、横紋筋融解症など)も含まれる。

【0064】
一実施形態において、上記腎臓に関連している疾患は、急性腎障害、薬剤性腎障害または慢性腎不全である。上記薬剤性腎障害には、シスプラチン腎症、造影剤腎症、鎮痛剤腎症、電解質異常による腎障害などが含まれる。

【0065】
一実施形態において、本発明の一実施形態に係る腎障害処置剤は、急性腎障害の治療剤である。他の実施形態において、本発明の一実施形態に係る腎障害処置剤は、薬剤性腎障害の予防剤である。

【0066】
上記少なくとも1つの腎機能の低下を伴う疾患を処置することによる効果としては、例えば、尿素窒素(BUN)の低下、血清クレアチンの低下、尿細管内円柱数の増加の抑制、尿細管上皮細胞の壊死の抑制、糸球体濾過量の上昇、間質線維化の抑制、間質浸潤細胞数の低下が挙げられる。

【0067】
〔4.製剤、剤型および処方〕
[4-1.製剤]
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤は、常法に則り製剤されうる。より具体的には、(1)FSP1タンパク質またはFSP1タンパク質の発現ベクター、および(2)医薬品添加物を調合することによって製剤されうる。

【0068】
FSP1タンパク質の合成方法、およびFSP1タンパク質の発現ベクターの作製方法については、〔1〕で説明した通りである。

【0069】
本明細書において医薬品添加物とは、製剤に含まれる有効成分以外の物質を意図する。医薬品添加物は、製剤化を容易にする、品質の安定化を図る、有用性を高めるなどの目的のため、製剤に含まれている。一例において、上記医薬品添加物は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤(固形防止剤)、着色剤、カプセル被膜、コーティング剤、可塑剤、矯味剤、甘味剤、着香剤、溶剤、溶解補助剤、乳化剤、懸濁化剤(粘着剤)、粘稠剤、pH調整剤(酸性化剤、アルカリ化剤、緩衝剤)、湿潤剤(可溶化剤)、抗菌性保存剤、キレート剤、坐剤基材、軟膏基剤、硬化剤、軟化剤、医療用水、噴射剤、安定剤、保存剤、でありうる。これらの医薬品添加物は、意図された剤型および投与経路、ならびに標準的な薬学的慣行に従って、当業者によって容易に選択されうる。

【0070】
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤は、FSP1タンパク質またはFSP1タンパク質の発現ベクター以外の有効成分を含んでいてよい。FSP1タンパク質またはFSP1タンパク質の発現ベクター以外の有効成分は、抗酸化剤および/または腎障害処置剤としての効果を有するものであってもよいし、他の効果を有するものであってもよい。

【0071】
以上に説明した有効成分および医薬品添加物の具体例は、例えば、米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)、日本国厚生労働省などが策定している基準により、知ることができる。

【0072】
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤は、当該抗酸化剤または腎障害処置剤を所望の部位に送達するために、当該所望の部位を特異的に認識する抗体と連結されていてもよい。

【0073】
一実施形態において、上記所望の部位とは、例えば、特定の細胞である。特定の細胞としては、例えば、培養尿細管上皮細胞、糸球体上皮細胞、メサンギウム細胞、糸球体内皮細胞を挙げることができる。

【0074】
上記抗体は、当該特定の細胞のマーカー(当該特定の細胞の表面に特異的に存在するタンパク質、脂質、糖鎖など)を認識する抗体でありうる。糸球体上皮細胞のマーカーの例としては、シナプトポジン、ネフリン、ポドシンを挙げることができる。

【0075】
所望の部位を特異的に認識する抗体の製造方法、および、抗体と、抗酸化剤または腎障害処置剤(例えば、FSP1タンパク質)とを連結する方法は、公知の手法を用いることができる。

【0076】
上記抗体は、周知の方法に従って作製することができる(例えば[Harlow (Ed.), "Antibodies: a laboratory manual", New York: Cold Spring Harbor Laboratory, 1988]、[岩崎辰夫 他『単クローン抗体: ハイブリドーマとELISA』、講談社、1991年]を参照)。勿論、市販の抗体を用いることも可能である。

【0077】
モノクローナル抗体は、当該分野において周知の方法に従って作製することができる。モノクローナル抗体の作製方法の例としては、(1)ハイブリドーマ法(例えば[Koehler G & Milstein C (1975) "Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity", Nature, Vol.256 (No.5517), pp.447-518]を参照)、(2)トリオーマ法、(3)ヒトB細胞ハイブリドーマ法(例えば[Kozbor D & Roder JC (1983) "The production of monoclonal antibodies from human lymphocytes", Immunology Today, Vol.4 (Issue 3), pp.72-79]を参照)、(4)EBV-ハイブリドーマ法(例えば[Cole SPC et al., "The EBV-hybridoma technique and its application to human lung cancer" In: Reisfeld RA & Sell S (Eds.), "Monoclonal antibodies and cancer therapy", New York: Alan R. Liss, Inc., 1985, pp.77-96 (UCLA symposia on molecular and cellular biology, Vol.27)]を参照)を挙げることができる。

【0078】
抗酸化剤または腎障害処置剤と、抗体とを連結させる方法は、特に限定されない。例えば、市販のリンカー(例えば、架橋剤)を用いて、抗酸化剤または腎障害処置剤と、抗体とを連結させればよい。

【0079】
[4-2.剤型]
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤は、任意の剤型を取りうる。一例において、上記剤型は、錠剤、カプセル剤、内容液剤、外用剤、坐剤、注射剤、吸入剤でありうる。

【0080】
[4-3.処方]
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤は、医師または医療従事者の判断により、適宜処方されうる。

【0081】
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤の投与経路は、処置しようとする疾患の種類および重症度などの要素により、適宜選択される。一例において、上記投与経路は、非経口投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、鼻腔内投与、硬膜外投与、経口投与、舌下投与、鼻腔内投与、脳内投与、膣内投与、経皮投与、直腸内投与、吸入、局所投与でありうる。

【0082】
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤を投与する場合、投与回数1回当たりの抗酸化剤または腎障害処置剤に含まれているFSP1タンパク質またはFSP1タンパク質の発現ベクターの量の下限値は、0.001mg、0.002mg、0.005mg、0.007mg、0.01mg、0.02mg、0.05mg、0.07mg、0.1mg、0.2mg、0.5mg、0.7mg、1mg、2mg、5mg、7mg、10mgでありうる。

【0083】
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤を投与する場合、投与回数1回当たりの抗酸化剤または腎障害処置剤に含まれているFSP1タンパク質またはFSP1タンパク質の発現ベクターの量の上限値は、1mg、2mg、5mg、7mg、10mg、20mg、50mg、70mg、100mg、1g、2g、5g、7g、10gでありうる。

【0084】
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤を投与する場合、所望の効果が得られるならば、投与間隔に制限はない。上記投与間隔は、通常1時間~6箇月間に1回であり、好ましくは1時間に1回、2時間に1回、3時間に1回、6時間に1回、12時間に1回、1日間に1回、2日間に1回、3日間に1回、4日間に1回、5日間に1回、6日間に1回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、1箇月間に1回、2箇月間に1回、3箇月間に1回、4箇月間に1回、5箇月間に1回、6箇月間に1回であり、より好ましくは少なくとも1日に1回、少なくとも2日間に1回、少なくとも3日間に1回、少なくとも4日間に1回、少なくとも5日間に1回、少なくとも6日間に1回、少なくとも1週間に1回である。

【0085】
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤は、ヒト以外にも、非ヒト哺乳動物に対しても用いることができる。非ヒト哺乳動物としては、例えば、ヒトを除く哺乳類(ウシ、イノシシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの偶蹄類、ウマなどの奇蹄類、マウス、ラット、ハムスター、リスなどのげっ歯類、ウサギなどのウサギ目、イヌ、ネコ、フェレットなどの食肉類)などが挙げられる。また、これらの非ヒト動物は、家畜またはコンパニオンアニマル(愛玩動物)であることに限定されるものではなく、野生動物でありうる。

【0086】
本発明の一実施形態に係る抗酸化剤または腎障害処置剤はまた、生物体以外にも、生物体に由来する系(摘出された組織、培養細胞、細胞抽出液など)にも用いることができる。

【0087】
上記各項目で記載した内容は、他の項目においても適宜援用できる。また、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0088】
下記の実施例を通じて、シスプラチンとしては、DMSOに溶解させたストック溶液を、DMSOの最終濃度が0.1%を超えない条件で希釈した溶液を用いた。
【実施例】
【0089】
[実施例1]
培養尿細管上皮細胞における活性酸素種(ROS)の産生に対して、FSP1が及ぼす影響を調査した。アッセイにはOxiSelect(登録商標) Intracellular ROS Assay Kit (Green Fluorescence)(CELL BIOLABS製)を用いた。
【実施例】
【0090】
まず、文献[Okada H et al. (2006) "Dexamethasone induces connective tissue growth factor expression in renal tubular epithelial cells in a mouse strain-specific manner," American Journal of Pathology, Vol.168 (Issue 3), pp.737-747]に記載されている方法に基づき、マウス近位尿細管上皮細胞株(mProx)を作製した。上記mProxを、50000細胞/wellの密度で96穴プレートに播種し、K-1培地(Ham’s F-12培地:DMEM培地=1:1)に10%ウシ胎児血清を含ませた培地を用いて、5%CO、37℃の条件にて12時間培養した。培養されたmProxをPBSで洗浄し、DCFH-DA(CELL BIOLABS製)溶液を添加して1時間培養した。
【実施例】
【0091】
培養されたmProxをPBSで洗浄した後、下記の4種類の培養液を用いて1時間培養した。
1.10%ウシ胎児血清を含んでいるK-1培地(コントロール)
2.1の培地にシスプラチン(最終濃度50μM)を添加した培地
3.1の培地にFSP1(最終濃度10μM)を添加した培地
4.1の培地にシスプラチン(最終濃度50μM)およびFSP1(濃度10μM)を添加した培地。
【実施例】
【0092】
培養終了後、プレートリーダー(480nm/530nm)を用いて蛍光強度を測定することにより、細胞内ROS活性を調査した。
【実施例】
【0093】
(結果)
図1に、上記4種類の培養条件における、細胞内ROS活性を示す。
【実施例】
【0094】
培養液にシスプラチンを添加することにより、細胞内ROS活性が上昇した。これは、従前知られているシスプラチンの効果である。一方、培養液にシスプラチンおよびFSP1をすることにより、細胞内ROS活性の上昇が有意に抑えられた(P<0.005)。このことから、FSP1には、細胞内におけるROSの産生を抑制する効果があることが示唆される。
【実施例】
【0095】
[実施例2-1]
培養尿細管上皮細胞にシスプラチンを添加した後の、Cleaved Caspase-3またはβ-アクチンの発現を調査した。
【実施例】
【0096】
実施例1で使用したmProxを、12穴プレートに播種し、K-1培地(Ham’s F-12培地:DMEM培地=1:1)に10%ウシ胎児血清を含ませた培地を用いて、5%CO、37℃の条件で培養した。培地は2日に1回交換し、コンフルエントに増殖させた。
【実施例】
【0097】
その後、シスプラチン(Sigma-Aldrich製)を、濃度が0μM、5μM、10μMまたは25μMとなるように添加し、16または24時間後にmProxを回収した。回収したmProxをRIPA緩衝液で溶解して、細胞破砕液を得た。
【実施例】
【0098】
上記細胞破砕液に含まれるタンパク質10μgを、SDS-PAGEで分離し、TBS緩衝液を用いたセミドライ方式(Trans-Blot SD、Bio-Rad Laboratories製)でニトロセルロース膜に転写した。
【実施例】
【0099】
Blocking One(ナカライテスク製)によって非特異的な抗原をブロックした後、一次抗体として(1)抗Cleaved Caspase-3抗体(ウサギポリクローナル抗体、Cell signaling Technology製)、または(2)抗β-アクチン抗体(ウサギポリクローナル抗体、Abcam製)を用い、室温にて20分間反応させた。その後、二次抗体としてマウス抗ウサギ免疫グロブリン抗体(Dako製)を用い、室温にて1時間反応させた。最後に、ECL試薬(Thermo Fisher Scientific製)でバンドを発色させた。
【実施例】
【0100】
(結果)
発色させたバンドを撮影した像を、図2の(a)に示す。レーン番号1~4はシスプラチン添加後16時間培養したmProx(シスプラチン濃度は、左から順に0μM、5μM、10μM、25μM)、レーン番号5~8はシスプラチン添加後24時間培養したmProx(シスプラチン濃度は、左から順に0μM、5μM、10μM、25μM)の結果である。同図より、シスプラチンを濃度25μMで添加し、添加後24時間mProxを培養すれば、Cleaved Caspase-3が充分に発現することが示された。同様に、β-アクチンの発現量は、シスプラチンの濃度および添加後の培養時間に関係なく、定常的であることも示された。
【実施例】
【0101】
[実施例2-2]
培養尿細管上皮細胞におけるCleaved Caspase-3の発現に対して、FSP1が及ぼす影響を調査した。
【実施例】
【0102】
実施例2-1と同様の手法により、mProxを12穴プレートで培養し、増殖させた。増殖させたmProxを、以下の1~3の培地条件で、それぞれ24時間培養した。サンプル数は、各群n=3であった。
1.シスプラチン(最終濃度25μM)を添加した培地
2.シスプラチン(最終濃度25μM)およびFSP1(最終濃度1μM)を添加した培地
3.シスプラチン(最終濃度25μM)およびFSP1(最終濃度10μM)を添加した培地。
【実施例】
【0103】
培養したmProxを回収し、実施例2-1と同様の手法により、Cleaved Caspase-3の発現量およびβ-アクチンの発現量を測定した。測定には、デンシトメーター(Image Quant TL、GE Healthcare製)を用いた。
【実施例】
【0104】
(結果)
それぞれのサンプルに対して(Cleaved Caspase-3の発現量)/(β-アクチンの発現量)の値を算出し、培地条件ごとの平均値を図2の(b)に示した。グラフは、上記1の培地条件で培養したサンプルの値を1.0とする相対値で表している。
【実施例】
【0105】
実施例2-1より、β-アクチンは定常的に発現していると考えられるので、(Cleaved Caspase-3の発現量)/(β-アクチンの発現量)の値は、細胞内におけるCleaved Caspase-3の発現強度と見做すことができる。FSP1を10μM含む培地条件では、Cleaved Caspase-3の発現が有意に抑制されていた(P<0.05)。このことより、FSP1が、尿細管上皮細胞においてアポトーシスを抑制する効果を有していることが示唆される。
【実施例】
【0106】
[実施例2-3]
培養尿細管上皮細胞におけるBax(アポトーシス促進因子)およびBcl2(アポトーシス抑制因子)の発現に対して、FSP1が及ぼす影響を調査した。
【実施例】
【0107】
実施例2-1と同様の手法により、mProxを12穴プレートで培養し、増殖させた。増殖させたmProxを、以下の1~3の培地条件で、それぞれ24時間培養した。サンプル数は、各群n=3であった。
1.DMSOのみを添加した培地(コントロール)
2.シスプラチン(最終濃度25μM)を添加した培地
3.シスプラチン(最終濃度25μM)およびFSP1(最終濃度10μM)を添加した培地。
【実施例】
【0108】
培養したmProxを回収し、実施例2-1と同様の手法により、Baxの発現量、Bcl2の発現量およびβ-アクチンの発現量を測定した。なお、Baxの検出には、一次抗体として抗Bax抗体(ウサギモノクローナル抗体、Abcam製)を、二次抗体としてマウス抗ウサギ免疫グロブリン抗体(Dako製)を用いた。また、Bcl2の検出には、一次抗体として抗Bcl2抗体(ウサギポリクローナル抗体、Abcam製)を、二次抗体としてマウス抗ウサギ免疫グロブリン抗体(Dako製)を用いた。それぞれのサンプルに対して(Baxの発現量)/(β-アクチンの発現量)および(Bcl2の発現量)/(β-アクチンの発現量)の値を算出し、それぞれを細胞内におけるBaxおよびBcl2の発現強度とみなした。
【実施例】
【0109】
(結果)
それぞれのサンプルに対して(細胞内におけるBaxの発現強度)/(細胞内におけるBcl2の発現強度)を算出し、培地条件ごとの平均値を図2の(c)に示した。グラフは、上記1の培地条件で培養したサンプルの値を1.0とする相対値で表している。
【実施例】
【0110】
FSP1を10μM含む培地条件では、Bax/Bcl2の値が有意に低かった(P<0.05)。このことより、FSP1が、尿細管上皮細胞においてアポトーシスを抑制する効果を有していることが示唆される。
【実施例】
【0111】
[実施例3-1]
FSP1を糸球体上皮細胞に組み込んだトランスジェニックマウスを作製した。また、上記トランスジェニックマウスの糸球体上皮細胞において、FSP1が実際に発現していることを確認した。
【実施例】
【0112】
マウスNphs1遺伝子に、マウスFSP1遺伝子(CDSを配列番号3に、アミノ酸配列を配列番号4に示した)およびヒト成長ホルモンポリA付加配列を連結した導入遺伝子を、常法に則り作製した(図3の(a)を参照)。マウスNphs1遺伝子は、マウスの糸球体上皮細胞に特異的に発現するタンパク質、ネフリンのプロモーターであるため、上記導入遺伝子を導入することにより、糸球体上皮細胞におけるFSP1の発現が期待できる。
【実施例】
【0113】
上記導入遺伝子を、マウス受精卵にマイクロインジェクションし、トランスジェニックマウスを作製した。生後2月齢の時点で腎臓をサンプルとして摘出し、抗mFSP1抗体および抗シナプトポジン抗体(Santa Cruz Biotechnology製)を用いて蛍光2重染色を施した。なお、上記抗mFSP1抗体は、[Iwano M, et al (2002) "Evidence that fibroblasts derive from epithelium during tissue fibrosis", The Journal of Clinical Investigation, Vol.110 (No.3), pp.341-350]に記載の方法に従い作製した。また、シナプトポジンは糸球体上皮細胞マーカーであるため、抗シナプトポジン抗体により染色された箇所は、糸球体上皮細胞と見做すことができる。
【実施例】
【0114】
(結果)
野生種マウス(上段)およびトランスジェニックマウス(下段)における蛍光像を、図3の(b)に示した。同図より、トランスジェニックマウスでは、FSP1を発現している箇所と、シナプトポジンを発現している箇所が、同じであることが判る。以上より、トランスジェニックマウスの糸球体上皮細胞では、FSP1が発現していることが確認された。
【実施例】
【0115】
[実施例3-2]
実施例3-1で作製したトランスジェニックマウスに対してシスプラチンを投与したことによる、腎組織への影響を調査した。
【実施例】
【0116】
尿細管上皮細胞特異的にFSP1を過剰発現させた遺伝子改変マウス(FSP1 TG)および野生種マウス(コントロール)各16匹に、シスプラチンを腹腔内投与し(投与量:20mg/kg)、シスプラチン腎症モデルを作製した。シスプラチン投与から72時間後、マウスから血清および腎組織を採取した。
【実施例】
【0117】
血清サンプルからは、尿素窒素(BUN)および血清クレアチンを、常法に則り測定した。腎組織サンプルには、PAS染色を施した。
【実施例】
【0118】
(結果)
図3の(c)に、それぞれの結果を示す。Aは尿素窒素、Bは血清クレアチンの測定結果である。また、Cは野生種マウス、DはFSP1 TGの腎組織である。
【実施例】
【0119】
FSP1 TGでは、腎機能を表す代表的なマーカーである尿素窒素および血清クレアチンの値が、有意に低かった(p<0.05)。野生種マウスの腎組織には、尿細管中に円柱が多く観察され(白矢印)、尿細管上皮細胞が壊死している箇所も散見された(黒矢印)。一方、FSP1 TGの腎組織では、尿細管中の円柱が少なく、尿細管上皮細胞の壊死も見られなかった。以上より、FSP1 TGでは、シスプラチン腎症の症状が抑制されていることが示された。
【実施例】
【0120】
[実施例4]
組換えFSP1(rFSP1)を投与したマウスに対して、さらにシスプラチンを投与したことによる、腎組織への影響を調査した。
【実施例】
【0121】
まず、常法に則り、大腸菌にヒトFSP1発現ベクターを導入した。上記大腸菌を大量培養した後、細胞破砕液をHis TrapカラムおよびGSTカラムに通して、rFSP1(配列番号1)を精製した。精製物がrFSP1であることは、N末端アミノ酸配列を解析することにより確認した。
【実施例】
【0122】
2群のマウス(各16匹)を、それぞれ以下の通り処置した。
1.PBS500μLを腹腔内投与し、30分後にシスプラチン(投与量:20mg/kg)を腹腔内投与した。
2.rFSP1のPBS溶液500μL(rFSP1の投与量:1mg/匹)を腹腔内投与し、30分後にシスプラチン(投与量:20mg/kg)を腹腔内投与した。
【実施例】
【0123】
シスプラチン投与から72時間後、マウスから血清および腎組織を採取した。血清サンプルからは、尿素窒素(BUN)および血清クレアチンを、常法に則り測定した。腎組織サンプルには、PAS染色を施した。
【実施例】
【0124】
(結果)
図4に、それぞれの結果を示す。Aは尿素窒素、Bは血清クレアチンの測定結果である。また、Cは上記1の処置を受けたマウス、Dは上記2の処置を受けたマウスの腎組織である。
【実施例】
【0125】
上記2の処置を受けたマウスでは、腎機能を表す代表的なマーカーである尿素窒素および血清クレアチンの値が、有意に低かった(p<0.05)。上記1の処置を受けたマウスには、尿細管中に円柱が多く観察(白矢印)され、尿細管上皮細胞が壊死している箇所も散見された(黒矢印)。一方、上記2の処置を受けたマウスの腎組織では、尿細管中の円柱が少なく、尿細管上皮細胞の壊死も見られなかった。以上より、rFSP1の投与により、シスプラチン腎症の症状が抑制されていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明は、抗酸化活性が有効な疾患(腎障害など)の処置に用いることができる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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