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明細書 :ストレス評価装置およびストレス状態の評価方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-143320 (P2018-143320A)
公開日 平成30年9月20日(2018.9.20)
発明の名称または考案の名称 ストレス評価装置およびストレス状態の評価方法
国際特許分類 A61B   5/055       (2006.01)
A61B   5/16        (2006.01)
A61B  10/00        (2006.01)
A61B   5/05        (2006.01)
A61B   5/0484      (2006.01)
FI A61B 5/05 382
A61B 5/16
A61B 10/00 E
A61B 10/00 H
A61B 5/05 A
A61B 5/04 320M
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2017-039071 (P2017-039071)
出願日 平成29年3月2日(2017.3.2)
発明者または考案者 【氏名】島田 浩二
【氏名】友田 明美
出願人 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 4C038
4C096
4C127
Fターム 4C038PP03
4C038PS03
4C096AA20
4C096AB02
4C096AC01
4C096DC25
4C127AA03
4C127DD01
4C127DD02
4C127DD07
4C127GG13
要約 【課題】脳活動信号から対象者の抑うつ気分といったストレス状態を客観的・定量的に計測可能なストレス評価装置を提供する
【解決手段】感情に関連する情報を推測する第一課題と感情に関連しない情報を推測する第二課題の遂行に対する脳活動反応信号を計測し、その差分を解析することで、対象者の抑うつ気分といったストレス状態を客観的・定量的に計測することができる。このようなストレス状態を反映する脳活動信号は、社会能力関連の課題の成績が低下する前に生起する準臨床域の変化をとらえることができる。また、臨床域のうつ病などが発症する前の予防的観点から有用である。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
課題呈示制御部、脳機能計測部およびストレス状態評価部を含むストレス評価装置であって、課題呈示制御部から呈示される少なくとも2種の課題遂行時の、対象者の腹外側前頭前野の脳活動信号を脳機能計測部が計測し、該計測値に基づいてストレス状態評価部で演算したストレス状態を提示することを特徴とする、ストレス評価装置。
【請求項2】
腹外側前頭前野が、ブロードマン44/45野である、請求項1に記載のストレス評価装置。
【請求項3】
少なくとも2種の課題が、特定の画像に対する、感情に関連する情報を推測する第一課題と感情に関連しない情報を推測する第二課題である、請求項1または2に記載のストレス評価装置。
【請求項4】
前記特定の画像が、対象者とは異なるヒトの顔に係る画像であり、少なくとも2種の課題が、当該顔の画像に対する第一課題および第二課題の少なくとも2種の課題である、請求項3に記載のストレス評価装置。
【請求項5】
脳機能計測部が、少なくとも2種の課題遂行時の、腹外側前頭前野の脳活動信号を計測する計測部である、請求項1~4のいずれかに記載のストレス評価装置。
【請求項6】
ストレス状態評価部が、少なくとも2種の課題遂行時の、腹外側前頭前野の脳活動信号の差分に基づきストレス状態を評価する評価部である、請求項1~5のいずれかに記載のストレス評価装置。
【請求項7】
ストレス状態評価部が、少なくとも2種の課題遂行時の腹外側前頭前野の脳活動信号の差分と、さらに当該少なくとも2種の課題遂行時の成績に基づき、ストレス状態を評価する評価部である、請求項6に記載のストレス評価装置。
【請求項8】
脳活動信号が、神経活動に伴う血管中の酸素代謝量または血流量である、請求項1~7のいずれかに記載のストレス評価装置。
【請求項9】
少なくとも2種の課題遂行時の対象者の腹外側前頭前野から検知された脳活動信号に基づき演算することを特徴とする、ストレス状態の評価方法。
【請求項10】
少なくとも2種の課題遂行時の対象者の腹外側前頭前野から検知された各脳活動信号の差分に基づき演算することを特徴とする、請求項9に記載ストレス状態の評価方法。
【請求項11】
少なくとも2種の課題遂行時の対象者の腹外側前頭前野から検知された脳活動信号と、さらに当該少なくとも2種の課題成績に基づき、演算することを特徴とする、請求項9または10に記載のストレス状態の評価方法。
【請求項12】
少なくとも2種の課題遂行時の対象者の腹外側前頭前野から検知された脳活動信号と、対象者とは異なる成人の腹外側前頭前野から検知された脳活動信号でからなる標準データに基づき演算することを特徴とする、請求項9~11のいずれかに記載のストレス状態の評価方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレス評価装置に関し、具体的には対象者の腹外側前頭前野の脳活動信号に基づくストレス評価装置に関する。さらには、ストレス状態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代ストレス社会の病理のひとつに、共感性や利他性などの社会能力(社会性・感情機能を含む)の不全に関わる反社会的行動、子ども虐待等がある。殴る・蹴るといった身体的虐待や性的虐待、暴言による心理的虐待、家庭内暴力への曝露、養育放棄といったネグレクトなどが含まれる。子ども虐待は日本の少子化が進む中でも増加の一途をたどっている。そのような事態に陥らないためにも、予防的観点から、養育者の抑うつ気分などのストレス状態を客観的に評価する生物学的指標、例えば、脳機能指標の開発が有用であるといえる。
【0003】
脳科学の発展に伴い、心的機能に伴う脳の活性部位の可視化が進み、認知・感情・記憶・意思・社会性などのヒトの心の働きを生み出す脳の構造と機能が解明されつつある。脳科学が急速に発展した背景として、非侵襲性に生体の脳機能を計測するための装置の開発がある。例えば、機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging; fMRI)などが挙げられる。脳機能画像法の1つであるfMRIは、感覚刺激や認知課題遂行による脳活動と安静時や対照課題遂行による脳活動の違いを検出して、その課題遂行に関連する心的機能の構成要素に対応する脳部位(神経基盤)を同定することができる。
【0004】
認知機能に関連する課題を遂行中の脳活動信号から、抑うつ気分などのストレス状態を評価する装置、方法およびプログラムについて開示がある(特許文献1)。ここでは、左右半球の背外側前頭前野(DLPFC; ブロードマン46野)に焦点を当て、抑うつ気分に負相関する言語性ワーキングメモリ(WM)課題遂行中の脳活動と、抑うつ気分に相関しない視空間性WM課題遂行中の脳活動の2つの脳活動から相対値を算出し、対象者の抑うつ気分を推定する装置が示されている。具体的には、空間性WM課題遂行時での脳活動信号の計測値と言語性WM課題遂行時での脳活動信号の計測値の差分より抑うつ気分スコアとの相関を確認したことが開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、特許文献1と同様の装置であって、抑うつ気分の推定精度を高めるために、課題成績を追加した演算部が導入された装置が報告されている。
【0006】
その一方で、近年では、うつ病の病態には、上記のような認知機能の問題が関連していることを越えて、社会能力の問題が中核として関連していると考えられてきている(非特許文献1)。最近のうつ病の社会能力研究のメタ解析(非特許文献2)では、うつ病は他者の気持ちを推測する能力の問題として特徴づけられ、例えば、他者の目から心(感情状態)を読む(Reading the Mind in the Eyes; RME)テストが用いられ(非特許文献3)、その課題の成績がうつ病患者では健常者に比べて低下することが明らかにされている。このような他者の気持ちを推測する能力を支える脳神経基盤の機能が抑うつ気分などのうつ病症状の重症度に伴い低下することが推測されるが、現時点では明らかではない。
【0007】
うつ病を罹患していない健常者のRME課題遂行中の脳機能計測研究のメタ解析(非特許文献4)では、左と右半球の腹外側前頭前野(VLPFC; ブロードマン44/45野)が、実験条件のRME課題時に、対照条件の性別判断課題時と比べてより強い活動を示し(左半球のVLPFCは右半球のVLPFCよりも広範囲により強い活動を示し)、他者の気持ちを推測する能力を支える中核的な脳部位であることが明らかにされてきた。また、脳損傷研究(非特許文献5)では、左半球のVLPFC損傷は別部位損傷と異なってRME課題の成績低下を引き起こしているとされている。社会能力を反映するRME課題にはVLPFCの関与が示唆されているが、その関与には左右半球間で違いがあり、また、抑うつ気分に対する脆弱性に違いがあると推測される。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2009-285000号公報(特許第5319960号公報)
【特許文献2】特開2013-146410号公報(特許第5898970号公報)
【0009】

【非特許文献1】CNS Spectr, 18(3), 139-149 (2013)
【非特許文献2】The British Journal of Psychiatry, 207(6) 483-489. (2015)
【非特許文献3】J. Child Psychol. Psychiat., 42(2), 241-251 (2001)
【非特許文献4】Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 42, 9-34 (2014)
【非特許文献5】Cortex, 58, 9-17 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、脳活動信号から対象者の抑うつ気分といったストレス状態を客観的・定量的に計測可能なストレス評価装置およびストレス状態を評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、対象者の大脳前頭葉の腹外側前頭前野について、特定の画像に対する他者の感情に関連する情報を推測する第一課題の遂行時の脳活動信号と、他者の感情に関連しない情報を推測する第二課題の遂行時の脳活動信号を計測し、それらの脳活動信号の差分を解析することで、対象者の抑うつ気分といったストレス状態を客観的・定量的に計測することができる事を見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.課題呈示制御部、脳機能計測部およびストレス状態評価部を含むストレス評価装置であって、課題呈示制御部から呈示される少なくとも2種の課題遂行時の、対象者の腹外側前頭前野の脳活動信号を脳機能計測部が計測し、該計測値に基づいてストレス状態評価部で演算したストレス状態を提示することを特徴とする、ストレス評価装置。
2.腹外側前頭前野が、ブロードマン44/45野である、前項1に記載のストレス評価装置。
3.少なくとも2種の課題が、特定の画像に対する、感情に関連する情報を推測する第一課題と感情に関連しない情報を推測する第二課題である、前項1または2に記載のストレス評価装置。
4.前記特定の画像が、対象者とは異なるヒトの顔に係る画像であり、少なくとも2種の課題が、当該顔の画像に対する第一課題および第二課題の少なくとも2種の課題である、前項3に記載のストレス評価装置。
5.脳機能計測部が、少なくとも2種の課題遂行時の、腹外側前頭前野の脳活動信号を計測する計測部である、前項1~4のいずれかに記載のストレス評価装置。
6.ストレス状態評価部が、少なくとも2種の課題遂行時の、腹外側前頭前野の脳活動信号の差分に基づきストレス状態を評価する評価部である、前項1~5のいずれかに記載のストレス評価装置。
7.ストレス状態評価部が、少なくとも2種の課題遂行時の腹外側前頭前野の脳活動信号の差分と、さらに当該少なくとも2種の課題遂行時の成績に基づき、ストレス状態を評価する評価部である、前項6に記載のストレス評価装置。
8.脳活動信号が、神経活動に伴う血管中の酸素代謝量または血流量である、前項1~7のいずれかに記載のストレス評価装置。
9.少なくとも2種の課題遂行時の対象者の腹外側前頭前野から検知された脳活動信号に基づき演算することを特徴とする、ストレス状態の評価方法。
10.少なくとも2種の課題遂行時の対象者の腹外側前頭前野から検知された各脳活動信号の差分に基づき演算することを特徴とする、前項9に記載ストレス状態の評価方法。
11.少なくとも2種の課題遂行時の対象者の腹外側前頭前野から検知された脳活動信号と、さらに当該少なくとも2種の課題成績に基づき、演算することを特徴とする、前項9または10に記載のストレス状態の評価方法。
12.少なくとも2種の課題遂行時の対象者の腹外側前頭前野から検知された脳活動信号と、対象者とは異なる成人の腹外側前頭前野から検知された脳活動信号でからなる標準データに基づき演算することを特徴とする、前項9~11のいずれかに記載のストレス状態の評価方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、対象者の腹外側前頭前野の脳活動信号を計測することで、対象者の抑うつ気分といったストレス状態を客観的・定量的に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のストレス評価装置の概要構成の一例を示すブロック構成図である。(実施例)
【図2】第一課題(RME)および第二課題(性別判断)に対する右腹側前頭前野の脳活動信号の差分とベック抑うつ質問票 (BDI-II)の点数の相関関係を確認した結果図である。(実施例)
【図3】健康な状態から準臨床域うつ状態、臨床域うつ状態に至るまでの脳機能、脳形態、社会能力、行動の変容モデル を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明はストレス評価装置に関し、具体的には対象者の腹外側前頭前野の脳活動信号に基づくストレス評価装置に関する。さらには、ストレス状態の評価方法にも及ぶ。本発明のストレス評価装置は、課題呈示制御部、脳機能計測部およびストレス状態評価部を含み、課題呈示制御部から呈示される課題に対する課題遂行時の腹外側前頭前野の脳活動信号を脳機能計測部が計測し、該計測値に基づいてストレス状態評価部で演算したストレス状態を提示することを特徴とする(図1参照)。

【0016】
本発明はヒトの心的機能の2構成要素、認知能力と社会能力の考え方に基づいている。OECD(経済協力開発機構)も同様に心的機能の2構成要素に基づき、前者の認知能力を認知的スキルと名付け、文字・数・記憶などといったIQテストで点数化が可能なスキルであると見なし、後者の社会能力を社会情動的スキルと名付け、他者との協働や感情コントロールなどに必要なスキルと見なしている。認知能力には背外側前頭前野(DLPFC;ブロードマン46野)、社会能力には腹外側前頭前野(VLPFC; ブロードマン44/45野)がより強く関与し、各々の心的機能を支える神経基盤が異なるとされる。また、各々の心的機能のストレス脆弱性に伴う脳の可塑的変化には、それぞれの異なる神経基盤が関わるとされる。ストレスに伴い認知能力を支える背外側前頭前野の可塑的変化が生じない場合でも、社会能力を支える腹外側前頭前野の可塑的変化が生じる場合があり、その逆もまた然りである。そこで、本発明の脳活動信号としては、少なくとも腹外側前頭前野、より具体的には左と右半球の腹外側前頭前野の脳活動信号を計測できればよい。腹外側前頭前野は、認知能力よりも社会能力により強く関連して反応する脳部位といわれている。本発明が評価するストレス状態としては、認知能力のストレス脆弱性ではなく、社会能力のストレス脆弱性がより好ましく適用される。従来技術は認知能力に関連する課題遂行時の背外側前頭前野の脳活動に基づき認知能力のストレス脆弱性を検討してきているのに対して、本発明は社会能力に関連する課題遂行時の腹外側前頭前野の脳活動に基づき社会能力のストレス脆弱性を検討していくものである。この点から、社会能力および腹外側前頭前野に着目したストレス状態の評価の考え方は報告されていない。

【0017】
本明細書において課題とは、ストレス状態評価のために対象者に与えられる課題をいい、少なくとも2種の課題が与えられる。当該少なくとも2種の課題とは、例えば特定の画像に対して、感情に関連する情報を推測する課題(第一課題)と感情に関連しない情報を推測する課題(第二課題)が挙げられる。本明細書において課題遂行とはストレス状態評価のための対象者に与えられる画像と質問に対して回答することをいう。第一課題は、特定の画像に対して他者の感情に関連する情報を推測するために提示されるものであり、例えばRME課題が挙げられる。RME課題は、対象者は視覚的に呈示された特定の画像を見て、その画像から感情状態を推測するために提示され、当該課題の回答はその推測した感情状態をもっともよく表す言葉を判断または選択する事で得られる。第二課題としては、感情に関連しない情報、例えば性別判断課題、年齢判断課題などが挙げられ、課題の回答は、例えば与えられた画像から性別を推測し、その推測した性別をもっともよく表す言葉を判断または選択する事で得られる。ここで与えられた特定の画像とは、対象者とは異なるヒト(他者)の顔に係る画像とすることができ、さらにはヒトの顔の部分、例えば眼や口などの部分を示す画像とすることができる。本明細書において、脳活動信号とは、脳の神経細胞の電気的活動および/またはそれに伴う脳血流動態反応をいう。

【0018】
本発明のストレス評価装置の実施形態の一例について、図1に基づいて説明する。なお本発明が図1の態様に限定されるものではないことは、敢えていうまでもない。
課題呈示制御部51には、課題を呈示する呈示デバイス511と課題に対しての回答を入力する入力デバイス512が備えられている。課題呈示制御部51にはストレス状態を評価するために対象者に与えられる課題とそれを呈示する手順が格納されている。課題は、課題呈示制御部51に格納された手順に沿って、ディスプレイやスピーカー等に例示される呈示デバイス511から対象者に提示され、出力される。前記画像と言葉は課題呈示制御部51を通して呈示デバイス511で呈示制御されてもよいし、課題呈示制御部51を通して呈示制御されていれば、いかなる媒体、例えば紙媒体や別の表示媒体により呈示制御されることがあってもよい。脳機能計測部52では、対象者の脳活動(脳反応)信号が計測され記録される。ここで、提示した課題とその手順の情報が課題呈示制御部51から脳機能計測部52に送られ、脳活動信号と一緒に記録される。すなわち、提示した課題に対する課題遂行時の脳活動信号が対の形になって記録される。さらに、当該脳活動信号の情報が脳機能計測部52からストレス状態評価部53に送られる。ストレス状態評価部53では、課題遂行時の脳活動信号の情報を基に後述するような演算処理により脳活動信号の差分が算出され、それを基にストレス状態が評価され、その結果を提示する。その提示方法は、数値や図などとすることができる。また、ストレス状態はストレス評価装置からネットワーク等を介して転送した先で提示されてもよい。なお、課題呈示制御部51からの情報が直接ストレス状態評価部53に送られ、そこで脳活動信号との対の形にされてもよい。

【0019】
課題呈示制御部51を通して呈示デバイス511に表示される画像と言葉は、一定時間ディスプレイに表示させることができる。例えば安静時間を間にはさみ、各々の課題に係る画像と言葉を一定時間表示することができる。表示の時間は、特に限定されないが、課題の画像と言葉が提示される場合には、前回の課題の残像が残っていない条件で提示されることが好ましい。例えば、無表示(安静時間)→画像表示(第一課題表示時間)→無表示(安静時間)→画像表示(第二課題表示時間)→無表示(安静時間)のように表示時間を設定することができる。安静時間は、例えば5~60秒、好ましくは10~30秒、さらに好ましくは15秒程度とすることができる。また、画像と言葉の表示時間は、例えば5~300秒、好ましくは15~60秒、さらに好ましくは30秒程度とすることができる。例えば6枚の画像(および言葉)について、第一課題において、各々例えば5秒ずつ6回繰り返し(第一課題の画像1→画像2→画像3→画像4→画像5→画像6)、安静時間を経た後に、第二課題において、同様に各々5秒ずつ6回繰り返すことができる(第二課題の画像1→画像2→画像3→画像4→画像5→画像6)。安静時間を例えば15秒とすることができる。それぞれの時間は、条件に応じて適宜設定することができる。なお、画像と言葉の表示は、言葉が先に表示されるよりも、画像が先に表示または画像と言葉が同時に表示されることが好ましい。第二課題で提示する画像の順序は第一課題と異なった順序とすることもできる。

【0020】
課題遂行時の脳活動信号は脳機能計測部52において計測することができる。本発明において使用可能な脳機能計測部52では、例えば、ハンドル、キーボード、マウスや音声などを用いて脳活動信号を入力し計測することもできるが、非侵襲的に脳活動信号を計測することもできる。本明細書において脳機能計測部52は、脳活動信号を入力可能なインターフェースを活用することができ、例えば既存のインターフェースや今後開発されるあらゆるものを利用することができる。このようなインターフェースを、一般には脳マシンインターフェース(Brain Machine Interfaces; BMI)ということができる。本発明において使用可能な脳機能計測部52は、外部刺激(視覚刺激や聴覚刺激など)やメンタルタスク(ある事象の出現回数を数える、手足の運動を想像するなど)による脳の神経活動の変化を捉え、その変化に対して何らかのコマンドを対応づけることでインターフェースを構築することができる。脳機能計測部で使用可能なインターフェースとして、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)、機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いる脳計測装置、および脳波(EEG)または脳磁波(MEG)を計測する装置などを適用することができ、特に好適にはfMRIやfNIRSを使用することができる。fMRIとfNIRSは、神経活動に伴う血管中の血流の変化および酸素代謝の変化を反映する酸素化および脱酸素化ヘモグロビンの濃度を計測することによって、神経活動の局所平均値を計測する手法である。fMRIは、大型で費用もかかるが、脳実質の関心のある特定の部位から数ミリメートル単位の高精度に脳活動信号を計測することができるので好ましい。さらに、計測すべき脳部位が頭蓋骨に面する脳表の大脳皮質(腹外側前頭前野)であることを考えると、脳機能計測部で使用可能なインターフェースとして、関心の計測部位を腹外側前頭前野に焦点化したfNIRSを使用することができる。fNIRSは小型で費用も軽減化することができる。なお、fNIRSは頭表上に設置したプローブから脳活動状態を計測する方法であるが、広く普及した脳波計測国際10-20システムの基準点における頭表-脳表対応関係に基づき、腹外側前頭前野、背外側前頭前野、前頭極といった前頭前野を区分して脳活動を計測することができる。

【0021】
ストレス状態は、ストレス状態評価部53において、前記少なくとも2種の課題遂行時の対象者の腹外側前頭前野から計測された脳活動信号に基づき演算し、評価することができる。具体的には、前述の感情に関連する情報を推測する第一課題遂行時の脳活動信号と感情に関連しない情報を推測する第二課題遂行時の脳活動信号を計測し、各々の脳活動信号の差分に基づき演算することで評価することができる。より具体的には、他者についてRME課題を遂行した時の脳活動信号と、感情に関連しない課題を遂行した時の脳活動信号について各々定量し、その差分を演算することで、ストレスの状態を評価することができる。このように、画像を特定して、さらに画像を同一にした時において、感情に関連する情報を推測する第一課題遂行時と感情に関連しない情報を推測する第二課題遂行時に対する脳活動の差を演算することによって、特定の画像に対する感情に関連しない情報を推測する第二課題に対応した脳活動状態を基準(すなわち感情推測による脳活動が誘発されていない状態を基準にする)にして、感情に関連する情報を推測する第一課題に対応した脳活動状態を評価していることになる。その結果、脳への感情推測に伴う変化以外の脳活動信号(即ち雑音)が差し引かれることになるので、より感情推測による変化分が強調されて計測できるので好ましい。

【0022】
ストレス状態評価部53に格納しておく脳活動信号の差分を用いたストレス状態を推定するための換算式の求め方の例について説明する。例えば後述する実施例に示す図2の通り、課題遂行時の脳活動信号の「差分R」(縦軸)とベック抑うつ質問票の「点数BDI-II」(横軸)との間の関係式を立てることができる。回帰分析による回帰式は「差分R=-0.064×点数BDI-II-0.947」となるので、換算式「点数BDI-II=-15.723×差分R+14.888」に基づき、脳活動信号の差分からベック抑うつ質問票(BDI-II)の点数が表すストレス状態を推定することができる。脳活動信号の差分が正の値であると低いストレス状態(低い抑うつ気分)であることを示し、負の値であると高いストレス状態(高い抑うつ気分)であることを示す。また、その差分とベック抑うつ質問票の点数の間における相関係数(r)は-0.763(p<0.000037)であり、非常に高い相関を示す。

【0023】
換算式を構築する具体的な手続きを以下に例示する。
ステップ1:ストレス状態を評価する対象者とは異なる成人を選出する。
ステップ2:選出した成人についてストレス状態を評価する対象者に呈示制御するものと同じ課題と手順を用意してストレス評価装置に格納する。
ステップ3:選出した成人は各課題を遂行し、その時の脳活動信号を計測し、それに基づいて脳活動信号の差分を演算する。
ステップ4:すべての課題遂行が終了した後、直ちに、ベック抑うつ質問票(BDI-II)を行い抑うつ気分といったストレス状態値を測定する。
ステップ5:ステップ3で求めた課題遂行時の脳活動信号の差分を縦軸に、ステップ4で求めたストレス状態値を横軸にしてプロットする。
ステップ6:それらの2変数の間の関係性を回帰式として、それに基づき脳活動信号の差分からストレス状態を推定する換算式を導出する。
上記において選出された成人は、一般成人であってもよいし、実際に測定した過去の対象者であって、現在ストレス状態を評価しようとする対象者とは異なる者であってもよい。すなわち、ステップ3に示す脳活動信号は一般成人から選出された者から得られた脳活動信号であってもよいし、過去の対象者から得られた脳活動信号であってもよい。

【0024】
ストレスの評価は、課題遂行時の脳活動信号の差分に加えて、課題遂行時の成績を標準データとして利用することで、評価の精度を向上させることができる。ここで、課題遂行時の成績とは、基本的には回答時間(反応時間)と正回答率(正回答数)それぞれまたはそれらの組み合わせを意味する。対象者の課題遂行時の回答は、キーボード、ボタン、マイク、カメラなどに例示される入力デバイス512を通して課題呈示制御部51に入力され、ストレス状態評価部53に送られる。ストレス状態評価部53では、対象者の課題遂行時の回答パターンに基づき平均回答時間と平均正回答率が算出され、ストレス状態評価を補足することができる。予め所定の方法で実施された課題遂行時の正回答率と回答時間の標準データとして用いて、対象者の平均回答時間や平均正回答率と比較することで、ストレス状態評価時の課題遂行時の回答パターンがでたらめ(詐称)である可能性を除外することができる。例えば、予め実施された標準データの平均回答時間や平均正回答率から標準偏差×3を逸脱した課題成績の場合は、課題遂行の外れ値として課題遂行時の脳活動信号の差分によるストレス状態の評価が十分にできていないとすることで、ストレ状態評価の精度が向上する。

【0025】
予め実施された標準データとして、ストレス状態評価部53に格納しておく平均回答時間や平均正回答率および標準偏差の求め方の例について説明する。
ステップ1:ストレス状態を評価する対象者とは異なる成人を選出する。
ステップ2:選出した成人についてストレス状態を評価する対象者に呈示制御するものと同じ課題と手順を用意してストレス評価装置に格納する。
ステップ3:選出した成人は各課題を遂行し、その時の成績(回答時間、正回答率および標準偏差を記録する。
ステップ4:選出した成人に対して上記ステップ3を繰り返す。
ステップ5:選出した成人の課題成績の記録が終了した後、各課題遂行時の正回答率を集計して統計処理し、特定の画像に対する正しい回答が前提とされる場合は平均正回答率および標準偏差を標準値とし、特定の画像に対する正しい回答が前提とされない場合は各画像に対して例えば多数が判断または選択した回答を正しい回答として定義し、その定義された正回答に基づき平均正回答率および標準偏差を標準値として設定する。
スッテプ6:選出した成人の課題成績の記録が終了した後、各課題遂行時の回答時間(特定の画像の呈示時刻とその回答入力時刻から求めた時間差)を集計して統計処理し、平均回答時間および標準偏差を標準値として設定する。
ステップ7:設定した標準値(平均正回答率と平均回答時間)をストレス状態評価部53に格納しておく。設定した標準値を課題呈示制御部51に格納することもできる。課題呈示制御部51に格納しておくことで、課題遂行中の対象者の回答と比較して回答パターンがでたらめであると判断することができ、その時に、対象者に注意を発したり、課題を繰り返したりなどすることができる。
上記において選出された成人は、一般成人であってもよいし、実際に測定した過去の対象者であって、現在ストレス状態を評価しようとする対象者とは異なる者であってもよい。すなわち、ステップ3、4、5、6に示す課題成績は一般成人から選出された者から得られた課題成績であってもよいし、過去の対象者から得られた課題成績であってもよい。

【0026】
本発明における、ストレス状態の評価は、従来のストレス状態評価方法と組み合わせて行うことも可能である。従来の認知能力と背外側前頭前野に焦点を当てたストレス状態評価方法として、例えば特許文献1および2に示すように、空間性ワーキングメモリ(WM)についての課題や言語性ワーキングメモリ(WM)についての課題遂行に対する計測結果と組み合わせて行なうこともできる。さらにストレス状態の評価が、育児に係るものであれば、例えば育児ストレスインデックス(PSI)による評価結果と組み合わせることができる。例えば日本版育児ストレスインデックス(Narama et al., The Journal of Child Health, 58, pp. 610-616)の結果と共に評価することもできる。従来の方法と組み合わせて行うことで、より信頼性の高いストレス状態の評価結果を得ることができると考えられる。
【実施例】
【0027】
本発明の理解を深めるために、具体的な実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は実施例の記載に範囲に限定されるものではないことは明らかである。
【実施例】
【0028】
本実施例では、健康な女性22名(年齢:27-43歳、平均年齢:35.4歳)を対象者としてストレス状態の評価を行った。なお、本実施例の対象者は、就学前の乳幼児を子育て中の母親に焦点を当てた養育者研究に協力した方々であった。
【実施例】
【0029】
うつ状態は、ベック抑うつ質問票(Beck Depression Inventory-II; BDI-II) (Beck et al.,(1996) Manual for the Beck Depression Inventory-II, San Antonio, TX, Psychological Corporation; Kojima et al., Psychiatry Research, 110(3), pp. 291-299(2002))に基づいて確認した。
【実施例】
【0030】
まず他者の感情に関連する情報を推測する課題(以下、第一課題)と他者の感情に関連しない情報を推測する課題(以下、第二課題)を遂行することを求め、課題遂行時の脳活動信号を計測した。第一課題遂行時の脳活動信号から第二課題遂行時の脳活動信号の差分を求め、それを指標としてストレス状態の評価を行った。上記の22名について、1枚の画像(写真)毎に第一課題としてRME(Baron-Cohen et al., Journal of Child Psychology and Psychiatry, 42(2), pp. 241-251 (2001))課題を行い、第二課題として、性別を判断する課題を行なった。課題は、無表示(安静時間15秒間)→画像表示(第一課題について30秒間)→無表示(安静時間15秒間)→画像表示(第二課題について30秒間)→無表示(安静時間15秒間)で表示した。6枚の画像について試験を行う場合は、第一課題について、各々5秒ずつ画像を変更しながら6回繰り返して表示した。その後15秒間の安静時間を経た後、第二課題について、各々5秒ずつ画像を変更しながら6回繰り返して表示した。その後、同様に安静時間を経てから、上述のように各課題と安静時間を繰り返して、各課題でそれぞれ計36枚の画像について、各々第一及び第二課題について遂行した。
【実施例】
【0031】
各課題遂行時に、各対象者について 3-Tesla MRI scanner(Discovery MR 750; General Electric Medical Systems, Milwaukee, WI, USA)を用いてfMRIによる脳血流動態反応を計測した。fMRI脳機能時系列データは、MATLAB(MathWorks)および統計画像解析ソフト(Statistical Parametric Mapping; SPM)を用いて解析し、各課題遂行に対応した脳血流動態反応函数(hemodynamic response function; HRF)により脳機能時系列データをモデル化し、得られた回帰係数の値を各課題遂行時の脳活動信号の推定値とした。
【実施例】
【0032】
各課題遂行時の成績は、第一課題であるRME課題について平均正答率は87.0%(標準偏差6.3%)、平均反応時間は2395ミリ秒(標準偏差357ミリ秒)、第二課題である性別判断課題について平均正答率は97.2%(標準偏差2.6%)、平均反応時間は1109ミリ秒(標準偏差214ミリ秒)であり、各課題の平均正答率および平均反応時間とベック抑うつ質問票(BDI-II)との間に有意な相関関係はなかった。この結果は、各課題遂行時の成績のみではストレス状態を予測できないことを示唆した。
【実施例】
【0033】
計測した脳活動信号から、第一課題と第二課題遂行時の右腹外側前頭前野の脳活動信号の差分を求め、それらの差分の値と、ベック抑うつ質問票(BDI-II)の点数の相関関係の結果を図2に示した。有意な負の相関性があることが認められた。この結果は、各課題遂行時の脳活動信号の差分に基づくことでストレス状態を予測できることを示唆した。健康な状態から準臨床域うつ状態、臨床域うつ状態に至るまでの脳機能、脳形態、社会能力、行動の変容モデル を図3に示した。抑うつ気分といったストレス状態の高まりに伴って、社会脳の機能低下が先立って生じた後、社会能力の機能低下が生じることを推測する概念は、図3に示す如くであり、本実施例では、健康な状態から準臨床域うつ状態の過程で、社会能力指標(課題成績)は低下しないが、社会能力を支える社会脳機能指標は低下することが示された。すなわち、本発明の(社会)脳機能指標といったバイオマーカー(脳活動信号)が早期に異常値を発現し、その脳機能指標を確認することで、社会能力のストレス脆弱性に対するケアや対策を早期に施すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、脳活動信号から対象者の抑うつ気分といったストレス状態を客観的・定量的に計測することができる。ストレスは、身体的、精神的ストレスによって分けられる。例えば身体的ストレスの主な原因として、病気、けが、不規則な生活、環境名護が挙げられる。また、精神的なストレスの主な原因として、職場、学校、育児、家族関係等を含む人間関係などが挙げられる。このようなストレス状態を反映する脳活動信号は、社会能力関連の課題の成績(正答率や反応時間)が低下する前に生起する準臨床域の変化をとらえることができる。また、臨床域のうつ病などが発症する前の予防的観点から有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2