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明細書 :リンパ浮腫の治療薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-108969 (P2018-108969A)
公開日 平成30年7月12日(2018.7.12)
発明の名称または考案の名称 リンパ浮腫の治療薬
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61P   7/10        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  31/137       (2006.01)
FI A61K 45/00
A61P 7/10
A61P 43/00 111
A61K 31/137
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2017-000280 (P2017-000280)
出願日 平成29年1月4日(2017.1.4)
発明者または考案者 【氏名】平田 仁
【氏名】大河原 美静
【氏名】大野 欽司
【氏名】赤根 真央
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C206
Fターム 4C084AA17
4C084NA14
4C084ZC211
4C084ZC212
4C084ZC411
4C084ZC412
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA14
4C206FA31
4C206KA01
4C206KA17
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZC21
4C206ZC41
要約 【課題】リンパ浮腫に対する新規治療薬の提供。
【解決手段】β2刺激剤又はその薬理学的に許容される塩。β2刺激剤はフェノテロール、クレンブテロール、テルブタリン、サルメトロール、ツロブテロール、フォルモテロール、イソプロテレノール、サルブタモール、レボサルブタモール、ピルブテロール、プロカテロール、メタプロテレノール、ビトルテロール、ビランテロール、バンブテロール及びインダカテロールからなる群より選択される。β2刺激剤であるフェノテロールは、Akt/eNOSシグナル経路を活性化し、リンパ管内皮細胞を増殖させた。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
β2刺激剤又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、リンパ浮腫治療薬。
【請求項2】
β2刺激剤が、フェノテロール、クレンブテロール、テルブタリン、サルメトロール、ツロブテロール、フォルモテロール、イソプロテレノール、サルブタモール、レボサルブタモール、ピルブテロール、プロカテロール、メタプロテレノール、ビトルテロール、ビランテロール、バンブテロール及びインダカテロールからなる群より選択される化合物である、請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
β2刺激剤がフェノテロール又はクレンブテロールである、請求項1に記載の治療薬。
【請求項4】
リンパ灌流の改善をもたらす、請求項1~3のいずれか一項に記載の治療薬。
【請求項5】
β2刺激剤がリンパ管内皮細胞を増殖させる作用を示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の治療薬。
【請求項6】
Akt/eNOSシグナル経路が活性化し、リンパ管内皮細胞が増殖する、請求項5に記載の治療薬。
【請求項7】
2次性リンパ浮腫の治療に用いられる、請求項1~6のいずれか一項に記載の治療薬。
【請求項8】
2次性リンパ浮腫が、手術後のリンパ浮腫、がん治療後のリンパ浮腫、又は外傷後のリンパ浮腫である、請求項7に記載の治療薬。
【請求項9】
がんが、乳がん、子宮頚がん、子宮体がん、卵巣がん、前立腺がん、大腸がん、すい臓がん、肝臓がん又は肺がんである。請求項8に記載の治療薬。
【請求項10】
リンパ浮腫の患者に対して、β2刺激剤又はその薬理学的に許容される塩を、治療上有効量投与するステップを含む、リンパ浮腫の治療法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はリンパ浮腫の治療薬及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
リンパ管は組織液の調整、免疫反応、脂質代謝に関与しており、破綻するとリンパ浮腫が引き起こされる。リンパ浮腫は、先天性を含めた原因不明の原発性(1次性)と、リンパ管破綻などの原因による続発性(2次性)に大別される。日本における2次性リンパ浮腫患者数は12万人(2004年)、1次性リンパ浮腫患者数は5千人(2009年)と言われている。また、乳がん術後には約50%、婦人科がん(子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん)術後には約30%の患者にリンパ浮腫が発症するとされており、がんなどの手術の増加に伴いリンパ浮腫患者も増加している。
【0003】
リンパ浮腫の主な特徴は上肢または下肢の腫脹である。上肢のリンパ浮腫の全発生率は手術後2年経過時で8%~56%に及ぶ。四肢の腫脹をきたせば関節が動きにくくなり疼痛と拘縮を生じるようになる。
【0004】
国際リンパ学会のリンパ浮腫病気分類では、0期はリンパ液の輸送に障害があるが、腫脹が明らかではなく、無症状の状態である。浮腫を認めるようになるまで数ヵ月から何年にもわたって続くことがある。1期組織液の貯留は挙上により軽減する圧痕を生じる。2期は挙上のみにより腫脹が軽減することはほとんどない圧痕が明らかである。2後期は組織線維化が明らかになり、圧痕の有無は様々である。3期は組織が硬くなり(線維性)、圧痕は生じない。肥厚、色素過剰、皮膚の皺襞の増生、脂肪沈着、疣贅過成長などの皮膚変化を認める。
【0005】
リンパ浮腫は急性期、慢性期ともに日常生活にも多大な支障を及ぼす難治性の疾患である。軽度のリンパ浮腫患者が予防可能な重度のリンパ浮腫を引き起こすため、リンパ浮腫の診断及び治療を軽度の段階で行うことが重要となる。軽度のリンパ浮腫を有する女性は、リンパ浮腫を有さない女性よりも重度のリンパ浮腫を発症する可能性が3倍以上高い。
【0006】
リンパ浮腫の治療は100年以上にわたり行われ、医薬も提案されているが(例えば特許文献1~4、非特許文献1を参照)、有効な根治的治療法はなく、リンパ浮腫の病態メカニズムも解明されていない。リンパ浮腫に対する治療としてはリンパ管静脈吻合、リンパドレナージマッサージ、弾性着衣などが行われているが、その効果は十分とはいえない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2013-234136号公報
【特許文献2】再表2007-13603号公報
【特許文献3】特開2008-163007号公報
【特許文献4】特開2008-189609号公報
【特許文献5】特開2005-82536号公報
【特許文献6】特開2011-63611号公報
【0008】

【非特許文献1】小川佳宏、「リンパ浮腫の内科的治療の最近の進歩」、THE JOURNAL of JAPANESE COLLEGE of ANGIOLOGY Vol.48, 167-172
【非特許文献2】上山武史(2004):リンパ浮腫治療に対する社会認識の現状と今後の課題、リンパ浮腫診療の実際-現状と展望、文光堂、130.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の背景の下、本発明は、リンパ浮腫に対する新規治療薬及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、気管支の拡張や抗アレルギー作用等の薬効を示すことで知られるβ2刺激剤がリンパ浮腫に対して治療効果を発揮することが判明した。この知見は、β2刺激剤の既知の薬効からすれば予測できない驚くべきものであり、また、有効な根治的治療法のないリンパ浮腫に対して新規且つ有望な治療戦略を提供し得る点においてその臨床上の意義は大きい。
【0011】
以下の発明は上記の知見ないし成果に基づく。
[1]β2刺激剤又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、リンパ浮腫治療薬。
[2]β2刺激剤が、フェノテロール、クレンブテロール、テルブタリン、サルメトロール、ツロブテロール、フォルモテロール、イソプロテレノール、サルブタモール、レボサルブタモール、ピルブテロール、プロカテロール、メタプロテレノール、ビトルテロール、ビランテロール、バンブテロール及びインダカテロールからなる群より選択される化合物である、[1]に記載の治療薬。
[3]β2刺激剤がフェノテロール又はクレンブテロールである、[1]に記載の治療薬。
[4]リンパ灌流の改善をもたらす、[1]~[3]のいずれか一項に記載の治療薬。
[5]β2刺激剤がリンパ管内皮細胞を増殖させる作用を示す、[1]~[3]のいずれか一項に記載の治療薬。
[6]Akt/eNOSシグナル経路が活性化し、リンパ管内皮細胞が増殖する、[5]に記載の治療薬。
[7]2次性リンパ浮腫の治療に用いられる、[1]~[6]のいずれか一項に記載の治療薬。
[8]2次性リンパ浮腫が、手術後のリンパ浮腫、がん治療後のリンパ浮腫、又は外傷後のリンパ浮腫である、[7]に記載の治療薬。
[9]がんが、乳がん、子宮頚がん、子宮体がん、卵巣がん、前立腺がん、大腸がん、すい臓がん、肝臓がん又は肺がんである、[8]に記載の治療薬。
[10]リンパ浮腫の患者に対して、β2刺激剤又はその薬理学的に許容される塩を、治療上有効量投与するステップを含む、リンパ浮腫の治療法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】β2刺激剤がヒトリンパ管内皮細胞を増殖させることを示すグラフ。
【図2】フェノテロールがヒトリンパ管内皮細胞を増殖させることによりリンパ管形成を促進することを示す光学顕微鏡像。
【図3】フェノテロールがヒトリンパ管内皮細胞のAktのリン酸化を促進することを示すデータ(ウエスタンブロットの結果)。
【図4】フェノテロールがヒトリンパ管内皮細胞のeNOSのリン酸化を促進することを示すデータ(ウエスタンブロットの結果)。
【図5】フェノテロールを投与したリンパ浮腫の野生マウスの尾が改善することを示すグラフ。
【図6】クレンブテロールを投与したリンパ浮腫の野生マウスの尾が改善することを示すグラフ。
【図7】水を投与したリンパ浮腫の野生マウスの尾の組織の免疫染色像。紫:BrdU、緑:LYVE-1(リンパ管内皮細胞特異的マーカー)。
【図8】フェノテロールを投与したリンパ浮腫の野生マウスの尾の組織の免疫染色像。紫:BrdU、緑:LYVE-1(リンパ管内皮細胞特異的マーカー)。
【図9】フェノテロールを投与したラットのリンパ灌流が改善することを示すグラフ(ICG試験の結果)。左:生理食塩水を投与した場合の平均輝度変化、右:フェノテロールを投与した場合の平均輝度変化。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明はリンパ浮腫の治療薬及びその用途に関する。「治療薬」とは、標的の疾病ないし病態(即ちリンパ浮腫)に対する治療的又は予防的効果を示す医薬のことをいう。治療的効果には、標的疾患/病態に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であり、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、予防的効果の典型的なものは、標的疾患/病態に特徴的な症状の再発を阻止ないし遅延することである。標的疾患/病態に対して何らかの治療的効果又は予防的効果、或いはこの両者を示す限り、標的疾患/病態に対する治療薬に該当する。

【0014】
本発明はβ2刺激剤の新規な薬理作用、即ち、リンパ浮腫を軽減ないし改善する作用を見出した成果に基づく。β2刺激剤の既知の薬効は、(1)気管支平滑筋の弛緩による気管支の拡張、(2)抗アレルギー作用、(3)気道線毛運動及び粘液輸送速度の亢進、(4)気道過敏性の亢進抑制である。本発明の治療薬は、本発明者らの検討によって明らかとなったβ2刺激剤の新たな薬効によって治療効果を発揮する。理論に拘泥する訳ではないが、後述の実施例に示した実験結果に鑑みると、本発明の治療薬はリンパ管内皮細胞に作用し、Akt/eNOSシグナル経路の活性化を介して細胞の増殖を促す。その結果、リンパ管が新生し、患部のリンパ管の機能の正常化(典型的にはリンパ灌流の改善)が図られ、浮腫が軽減ないし改善する。

【0015】
本発明の治療薬が適用される者、即ち、リンパ浮腫の患者、病態(例えば片側性、両側性)、ステージ等は特に限定されない。従って、1次性リンパ浮腫の内、早発性リンパ浮腫と遅発性リンパ浮腫の患者、及び2次性リンパ浮腫の患者のいずれに対しても本発明の治療薬を適用可能である。また、病気分類0期の患者、1期の患者及び2期の患者のいずれも治療対象になり得る。

【0016】
好ましい一態様では、本発明の治療薬は2次性リンパ浮腫の治療に用いられる。二次性リンパ浮腫の例は、手術後のリンパ浮腫、がん(乳がん、子宮頚がん、子宮体がん、卵巣がん、前立腺がん、大腸がん、すい臓がん、肝臓がん、肺がん等)治療後のリンパ浮腫、外傷後のリンパ浮腫である。典型的には、これらのリンパ浮腫はリンパ管の損傷ないし切除に起因して生ずる。

【0017】
リンパ浮腫を起こす可能性のある者に対して、リンパ浮腫発症の阻止ないし軽度化を目的として本発明の治療薬を投与することにしてもよい。即ち、予防的に本発明の治療薬を用いることもできる。例えば、がん治療の際にリンパ節を摘出した患者、外傷などでリンパ節を損傷した者等は、一般に、リンパ浮腫を起こす可能性が高いと考えられる。

【0018】
本発明の治療薬はβ2刺激剤又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する。β2刺激剤はアドレナリンβ2受容体刺激薬、交換神経β2受容体作動薬などとも呼ばれる。β2刺激剤の具体例はフェノテロール、クレンブテロール、テルブタリン、サルメトロール、ツロブテロール、フォルモテロール、イソプロテレノール、サルブタモール、レボサルブタモール、ピルブテロール、プロカテロール、メタプロテレノール、ビトルテロール、ビランテロール、バンブテロール及びインダカテロールである。これらの中でも、フェノテロールとクレンブテロールは特に好ましい。二種類以上のβ2刺激剤を併用することにしてもよい。

【0019】
本発明の治療薬の有効成分として、β2刺激剤の薬理学的に許容される塩を用いても良い。「薬理学的に許容される塩」は特に限定されるものではなく、様々な塩、例えば、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等の利用が想定される。酸付加塩の例としては塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、メタンスルホン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩が挙げられる。金属塩の例としてはナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩が挙げられる。アンモニウム塩の例としてはアンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどの塩が挙げられる。有機アミン付加塩の例としてはモルホリン付加塩、ピペリジン付加塩が挙げられる。アミノ酸付加塩の例としてはグリシン付加塩、フェニルアラニン付加塩、リジン付加塩、アスパラギン酸付加塩、グルタミン酸付加塩が挙げられる。

【0020】
上記の有効成分(β2刺激剤又はその薬理学的に許容される塩)に加えて、他の有効成分を混合してもよい。他の有効成分としては、例えば、組織間隙内のタンパクの分解を促進し、リンパ液の循環向上に有効であると知られているクマリンなどが挙げられる。

【0021】
また、本発明の治療薬には、本発明の効果及び製剤的な安定性などを損なわない限り、上記成分の他に、用途又は剤形などに応じて、医薬品、医薬部外品、食品に通常使用され得る任意の成分を適宜配合してもよい。配合できる成分は特に制限されないが、例えば、担体成分または添加剤などが挙げられ、固形剤における担体成分又は添加剤としては、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味剤、界面活性剤、可塑剤、甘味剤、着香剤の他、崩壊補助剤、発泡剤、吸着剤、防腐剤、湿潤剤、帯電防止剤などが例示できる。また、液剤における担体成分又は添加剤としては、例えば、溶剤、pH調整剤、清涼化剤、懸濁化剤、消泡剤、粘稠剤、溶解補助剤、界面活性剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、着香剤の他、防腐・抗菌剤、キレート剤、可溶化剤若しくは溶解補助剤、安定化剤、流動化剤、乳化剤、増粘剤、緩衝剤、等張化剤、分散剤などが例示できる。

【0022】
製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形の例は錠剤(素錠、糖衣錠、口腔内速崩壊錠、口腔内速溶解錠、チュアブル錠、発泡錠、トローチ剤、ドロップ剤、フィルムコーティング錠などを含む)、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤である。ゼリー状で嚥下しやすく成形したり(例えばゼリー状)、消化管での吸収性を改善したりすることも可能である。また、固形剤、半固形剤、液剤(例えば、煎剤や浸剤など)のいずれであってもよい。好ましい剤形の一つは錠剤である。錠剤の中でも、下痢の症状を感じたときに水無しでも手軽に服用することのできる口腔内速崩壊錠、口腔内速溶解錠、チュアブル錠などのような剤形や、不快な味を遮断することができる糖衣錠やフィルムコーティング錠などのような剤形は特に好ましいといえる。

【0023】
本発明の治療薬は、当該技術分野における慣用の方法をそのまま或いは適宜応用して製造することができる。例えば、錠剤であれば、粉末状の活性成分と製薬上許容される担体成分(賦形剤など)とを混合して、直接的にこの混合物を圧縮成形することにより調製でき(直打法)、ドロップ剤は型に注入する方法で調製することができる。更に、固形剤の内、顆粒剤などの粉粒剤は、種々の造粒法(押出造粒法、粉砕造粒法、乾式圧密造粒法、流動層造粒法、転動造粒法、高速攪拌造粒法など)により調製することができる。また、錠剤は、上記の造粒法と打錠法(湿式打錠法など)等を適宜組み合わせても調製できる(間接圧縮法)。更に、カプセル剤は、慣用の方法により、カプセル(軟質または硬質カプセル)内に粉粒剤(粉剤、顆粒剤など)を充填することにより調製できる。錠剤は、コーティングを施し、糖衣錠やフィルムコーティング錠としてもよい。更に、錠剤は単層錠であっても、二層錠などの積層錠であってもよい。液剤は、各成分を担体成分である水性媒体(精製水、熱精製水、エタノール含有精製水など)に溶解または分散させ、必要により加熱、濾過、布ごしまたは滅菌処理し、所定の容器に充填し、滅菌処理することなどにより調製できる。

【0024】
本発明の治療薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって患者に適用される。また、全身的な投与と局所的な投与も対象により適応される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。本発明の治療薬には、期待される治療効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の治療薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%~約99重量%の範囲内で設定する。

【0025】
本発明の治療薬の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に症状、患者の年齢、性別、及び体重などが考慮される。当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与量の一例として、クレンブテロールであれば、1日当たり20μg~100μg、好ましくは40μg~60μgを挙げることができる。投与スケジュールとしては例えば一日一回~数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の病状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。

【0026】
以上の記述から明らかな通り、本出願は、リンパ浮腫の患者に対してβ2刺激剤を治療上有効量投与することを特徴とする、リンパ浮腫の治療法も提供する。
【実施例】
【0027】
ドラッグ・リポジショニング(drug repositioning)戦略(既存薬の新たな効能を探索し、適用拡大を図ること)によって同定された薬剤は、至適服用量や副作用などが既に確立していることから、その速やかな臨床応用が可能となる。リンパ浮腫の治療に有効な薬剤を同定すべく、事前に選定した320種のFDA認可薬を対象としてスクリーニングを実施した。
【実施例】
【0028】
(1)MTSアッセイ
320種のFDA認可薬を用意し、ヒトリンパ管内皮細胞を用いてMTSアッセイを行った。薬剤による処理時間は48時間とした。MTSアッセイの結果(抜粋)を図1に示す。各種β2刺激剤がヒトリンパ管内皮細胞を増殖させる効果を示した。縦軸はコントロール(DMSO)に対する吸光度の比率を表したものであり、1.0以上がコントロールと比較して細胞が増殖したことを示す。グラフに示した全てのβ2刺激剤は1.0以上の値を示しており、β2刺激剤がヒトリンパ管内皮細胞を増殖させる作用を有することが判明した。
【実施例】
【0029】
(2)リンパ管形成に対する作用
次に、細胞増殖活性を示したβ2刺激剤のリンパ管形成に対する作用を調べた。β2刺激剤(この実験では、β2刺激剤の代表としてフェノテロールを使用した)を含有した培地でヒトリンパ管内皮細胞を96時間培養した後、等量の培地で希釈し、基底膜成分でコートした培養皿に播種した。6時間後、形成されたリンパ管の長さを計測した(リンパ管の円周方向の長さをImageJで解析。Gilles Carpentier. Contribution: Angiogenesis Analyzer. ImageJ News, 5 October 2012.を参照)。結果を図2に示す。フェノテロールを投与し、分化させるとリンパ管形成が増大した。この結果より、フェノテロールは分化を阻害しないことが判明した。
【実施例】
【0030】
(3)作用メカニズムの検討
ヒトリンパ管内皮細胞を無血清EBM培地で6時間培養した後、β2刺激剤(この実験では、β2刺激剤の代表としてフェノテロールを使用した)を添加し、更に1時間培養した。細胞を溶解処理し、抗リン酸化Aktポリクローナル抗体及び抗リン酸化eNOS抗体を用いたウエスタンブロット解析に供した。図3に示すように、フェノテロールはヒトリンパ管内皮細胞のAktのリン酸化を促進した。また、図4に示すように、フェノテロールはヒトリンパ管内皮細胞のeNOSのリン酸化を促進した。これらの結果より、フェノテロールがAkt/eNOSシグナル経路を活性化させることが判明した。
【実施例】
【0031】
(4)モデルマウスを用いた検討
既報(Therapeutic lymphangiogenesis with implantation of adipose-derived regenerative cells. Shimizu Y J Am Heart Assoc. 2012 Aug;1(4))の方法に準じてマウスのリンパ浮腫モデルを作製した。概要を示すと、麻酔下、マウスの尾の付け根から10mmの位置において、電気メスを用いて2mm幅で周方向に皮膚を焼灼し(腹側に2mm皮弁状に残す)、表面リンパ網を除去した。術後1日目~7日目に薬剤(フェノテロール(7.5mg/kg/日)又は術後1日目~14日目にクレンブテロール(12μg/kg/日))を飲水に添加して経口投与し、経時的に処置マウスの尾の直径(処置部から尾の先端方向に10mm離れた位置)を測定した。図5は、フェノテロールを投与したリンパ浮腫モデルマウスの尾の改善を示すグラフである。横軸は手術後の時間(日)、縦軸は尾の直径(mm)を表す。フェノテロールの投与により、リンパ浮腫の尾の太さが減少した。この結果は、フェノテロールがリンパ浮腫を軽減する作用を発揮することを示す。図6は、クレンブテロールを投与したリンパ浮腫モデルマウスの尾の改善を示すグラフである。横軸は手術後の時間(日)、縦軸は尾の直径(手術日の直径に対する割合)を表す。図示の通り、クレンブテロールの投与により、リンパ浮腫の尾の太さが減少した。この結果は、クレンブテロールがリンパ浮腫を軽減する作用を発揮することを示す。
【実施例】
【0032】
上記の方法で処置したマウスに対して、術後1日目~7日目にフェノテロール(7.5mg/kg/日)を投与するとともに、とBrdU(1mg/100μL)(治療群)を腹腔内注射した。術後14日目に尾の組織を免疫染色し、BrdU陽性細胞とLYVE-1陽性細胞を検出した。コントロール群には、BrdU(1mg/100μL)のみを腹腔内注射した。免疫染色像を図7(コントロール群)と図8(治療群)に示す。BrdU陽性且つLYVE-1陽性の細胞の数は、治療群の方がコントロール群よりも有意に多い。即ち、フェノテロールの投与によってリンパ管内皮細胞が増殖した。この結果は、フェノテロールがマウスリンパ管内皮細胞を増殖させる作用を有することを示す。
【実施例】
【0033】
(5)リンパ灌流の改善
β2刺激剤による治療効果(リンパ管流の改善)を検証するため、ラットを用いたICG試験を行った。ラットの足底にICG(インドシアニングリーン)を注射し、安静10分後に鼠径部リンパ管におけるICG輝度を測定した。フェノテロール注射前とフェノテロール 2.25mgを腹腔内注射した30分後に当該ICG試験を実施し、フェノテロールの注射による輝度変化(注射前の輝度/注射30分後の輝度)をコントロール(生理食塩水を注射)と比較した。測定時間30秒間の平均輝度変化を図9に示す。コントロールに比べ、フェノテロールを投与した場合の輝度変化は大きく、リンパ流量が増大した。即ち、フェノテロールによるリンパ灌流の改善が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
リンパ浮腫に対する決定的な治療方法は存在せず、従来の治療方法では治療効果が一時的か限定的にとどまっていた。本発明の治療薬を用いることにより、リンパ浮腫の根治治療が可能になることを期待できる。フェノテロールやクレンブテロール等のβ2刺激剤は既に臨床において幅広く利用されている。このように臨床での使用実績が豊富な薬剤を有効成分とすることで臨床応用が極めて容易となる。この点も本発明の大きな利点の一つである。2004年の時点で上肢リンパ浮腫患者は5万人、下肢リンパ浮腫患者は7万人と推定されている。また、リンパ浮腫の患者は今後、更に増え続けると予想される。このように多くの患者について生活の質(QOL)の改善をもたらし得る、本発明の治療薬は、産業上、非常に有用といえる。
【0035】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
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【図2】
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【図3】
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