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明細書 :グルタミン酸による動脈管開存症の予防又は治療

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6396424号 (P6396424)
登録日 平成30年9月7日(2018.9.7)
発行日 平成30年9月26日(2018.9.26)
発明の名称または考案の名称 グルタミン酸による動脈管開存症の予防又は治療
国際特許分類 A61K  31/198       (2006.01)
A61P   9/00        (2006.01)
FI A61K 31/198
A61P 9/00
請求項の数または発明の数 1
全頁数 8
出願番号 特願2016-507411 (P2016-507411)
出願日 平成27年2月17日(2015.2.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 平成26年2月19日 https://www.myabstracts.jp/jcs2014/programs/presentation_detail_ext/TP06/312/
国際出願番号 PCT/JP2015/054277
国際公開番号 WO2015/137056
国際公開日 平成27年9月17日(2015.9.17)
優先権出願番号 2014050206
優先日 平成26年3月13日(2014.3.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年11月14日(2017.11.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
発明者または考案者 【氏名】横山 詩子
【氏名】石川 義弘
【氏名】藤田 秀次郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100098121、【弁理士】、【氏名又は名称】間山 世津子
【識別番号】100107870、【弁理士】、【氏名又は名称】野村 健一
審査官 【審査官】中村 浩
参考文献・文献 国際公開第2011/059075(WO,A1)
特開2007-106698(JP,A)
Ryckman, Kelli K. et al.,Association of amino acids with common complications of prematurity,Pediatric Research,2013年,Vol.73, No.6,p.700-705
門間和夫,胎生期動脈管の薬理学,東京女子医科大学雑誌,2001年,Vol.71, No.4,p.263-269
河野寿夫,動脈管開存症に対するインドメタシン静注用の使用,臨床と薬物治療,1996年,Vol.15, No.11,p.977-979
中西敏雄,II.小児科領域 1.動脈管収縮弛緩の機序,Annual Review 循環器,1998年,p.153-155
藤田秀次郎,アミノ酸輸液の組成の違いが動脈管閉鎖に及ぼす作用の検討,日本周産期・新生児医学会雑誌,2012年,Vol.48, No.2,p.491
調査した分野 A61K31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
グルタミン酸又はその塩を有効成分として含有する、動脈管開存症の予防薬又は治療薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタミン酸による動脈管開存症の予防又は治療に関し、より詳細には、動脈管開存症の予防薬又は治療薬としてのグルタミン酸の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢出産の増加や不妊治療による多胎妊娠の増加などの影響により、総出生数に対する低出生体重児の割合は徐々に増加している。平成24年度の厚生労働省の統計によれば、特に慎重な管理を要する1000g未満の超低出生体重児は総出生数の約0.3%(3195人)である。
【0003】
新生児医療が長足の進歩を遂げた昨今でも、超低出生体重児の急性期管理には難渋することが少なくない。なかでも未熟児動脈管開存症は心不全、呼吸不全、壊死性腸炎など生命予後を左右する合併症の要因となるため、その治療は最重要課題の一つである。
【0004】
超低出生体重児のおおむね4割程度が動脈管開存症の治療を必要とする。従来の治療法としては、外科手術による動脈管結紮術とインドメタシンを使用する内科治療(非特許文献1)の2種があるが、いずれも循環動態の不安定な低出生体重児では生命に関わる合併症のリスクも少なくない。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Laughon M, et al., Treatment strategies to prevent or close a patent ductus arteriosus in preterm infants and outcomes. J Perinatol. 27:164-170, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な動脈管開存症予防薬又は治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、グルタミン酸レセプター(GluR1)の発現がラットでは大動脈に比べて動脈管で多く、また、ヒト動脈管でもGluR1が多く発現していることを見出した。さらに、グルタミン酸は血管周囲神経から血管収縮作用のあるノルアドレナリンを放出させることで動脈管を収縮させ、閉鎖に導く作用があることを明らかにした。本発明は、これらの知見に基づいて、完成されたものである。
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)グルタミン酸又はその塩を有効成分として含有する、動脈管開存症の予防薬又は治療薬。
(2)医薬的に有効な量のグルタミン酸又はその塩を被験者に投与することを含む、動脈管開存症を予防及び/又は治療する方法。
(3)動脈管開存症の予防及び/又は治療のためのグルタミン酸又はその塩の使用。
(4)動脈管開存症を予防及び/又は治療する方法に使用するためのグルタミン酸又はその塩。
【発明の効果】
【0009】
グルタミン酸又はその塩を投与することで、未熟児における動脈管開存症を抑制することができる。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2014‐050206の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】4種のAMPA型グルタミン酸受容体GluR1~R4の胎齢19(e19、未熟児)及び胎齢21(e21、成熟児)での大動脈組織(AO)および動脈管組織(DA)での発現の比較を示す。未熟児、成熟児ともにGluR1の発現が動脈管で大動脈に比べて多い。
【図2】抗GluR1抗体を用いたヒト動脈管免疫染色の結果を示す。図上側が血管内腔、下側が血管外膜となる。動脈管血管外膜側に、血管に分布する神経と同じ場所にGluR1の発現を認めた。
【図3】生理食塩水(NS)、0.7%グルタミン酸(Glu),グルタミン酸受容体阻害薬(NASPM)およびGluを投与した際の動脈管管腔径と肺動脈管腔径の比を示す。右二枚の写真はNS投与、Glu投与を行った際の一例を示す。グルタミン酸投与により有意に動脈管が収縮し、グルタミン酸受容体阻害薬でその効果が抑制されたことを示す。
【図4】double distilled water(DDW)および0.7%グルタミン酸(Glu)腹腔内投与後の、ラット血清中のグルタミン酸濃度測定結果を示す。グルタミン酸投与により有意にラットの血清中のグルタミン酸濃度が上昇していることが示された。
【図5】生理食塩水(NS)、0.7%グルタミン酸(Glu),アドレナリン受容体阻害薬(prazosin)およびGluを投与した際の動脈管管腔径と肺動脈管腔径の比を示す。グルタミン酸投与により有意に動脈管が収縮し、アドレナリン受容体阻害薬でその効果が抑制されたことを示す。ノルアドレナリンはアドレナリン受容体を刺激することで血管を収縮させるため、グルタミン酸投与によりノルアドレナリンを介して動脈管が収縮したことが示された。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。

【0012】
本発明は、グルタミン酸又はその塩を有効成分として含有する、動脈管開存症の予防薬又は治療薬を提供する。
また、本発明は、医薬的に有効な量のグルタミン酸又はその塩を被験者に投与することを含む、動脈管開存症を予防及び/又は治療する方法を提供する。
さらに、本発明は、動脈管開存症の予防及び/又は治療のためのグルタミン酸又はその塩の使用を提供する。
さらにまた、本発明は、動脈管開存症を予防及び/又は治療する方法に使用するためのグルタミン酸又はその塩を提供する。

【0013】
グルタミン酸は、下記の式で表される。

【0014】
【化1】
JP0006396424B2_000002t.gif

【0015】
グルタミン酸は公知の方法で製造することができ、また、市販のものを用いることもできる。

【0016】
グルタミン酸は、動脈管を収縮させ、閉鎖に導く作用があるので、未熟児における動脈管開存症の予防薬又は治療薬として利用することができる。

【0017】
グルタミン酸又はその塩は、動脈管開存症に対する予防又は治療効果のある非経口補給物として、又は他の栄養液との組み合わせによる完全非経口補給物として、特に、未熟児、新生児に適する。例えば、有効成分の量に換算して、1日あたり約 5~ 10000 mg/kg(体重)、好ましくは、約 50~ 1000 mg/kg(体重)の投与量で、1回または数回に分けて、輸液法により、静脈内に持続点滴注入するとよいが、その投与量や投与回数は、臨床症状、臨床検査値等により、適宜増減するとよい。グルタミン酸又はその塩と組み合わせる他の栄養液中に含まれる成分としては、グルコース、アミノ酸(例えば、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、プロリン、セリン、チロシン、システイン、タウリンなど)、脂肪などを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。本明細書において、光学異性体を有するアミノ酸(グルタミン酸を含む)は、特に断りがない限りL体である。また、アミノ酸は塩の形態(例えば、グルタミン酸ナトリウム)をとってもよく、アミノ酸又はその塩は水などの溶媒を含む溶媒和物の形態であってもよい。塩や溶媒和物は、医薬的に許容されるものであるとよい。グルタミン酸又はその塩を注射剤に製剤化する場合には、蒸留水、生理食塩水などの担体を用いるとよく、亜硫酸水素ナトリウム、pH調節剤などの添加物を加えてもよい。製剤中の有効成分の含有率は、1~99重量%の間で変動させることができ、例えば、注射剤の場合には、有効成分を1~10重量%含有させるのが好ましい。

【0018】
グルタミン酸又はその塩は、市販の小児用アミノ酸輸液(例えば、プレアミン-P注射液(扶桑薬品工業株式会社、Trophamine(B. Braun Medical Inc.)、Aminosyn(Hospira, Inc.)、Primene(Baxter Healthcare Pty Ltd)など)に添加して、用いてもよい。未熟児のための適切なアミノ酸溶液は、成熟新生児用または成人用のアミノ酸溶液とは、アミノ酸パターンに求められる事項において大きく相違している。さらに未熟児は動脈管開存症を発症するリスクが高く、この発症を予防するようなアミノ酸組成が必要である。現在日本において新生児に使用されているアミノ酸輸液(プレアミン-P注射液(扶桑薬品工業株式会社))は、成熟新生児が外科手術を受けた際に補充されるべきアミノ酸の構成成分をもとに作製されている。したがって、未熟児(出生時体重2kg未満)が必要とするアミノ酸組成を有したアミノ酸輸液は存在せず、このため適切ではないアミノ酸組成を投与される未熟児において、栄養状態の改善や動脈管開存症の発症抑制が妨げられている可能性がある。本発明により、従来のアミノ酸輸液に加えてグルタミン酸又はその塩を投与することで未熟児動脈管開存症の予後改善をはかることが可能となる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕定量RT-PCR(図1)
交配日が確定されている妊娠ラットを日本エスエルシーより購入し、交配日より算出された日程(胎生19日及び21日)で全身麻酔の後、帝王切開で胎仔を摘出した。胎仔動脈管(DA)組織および大動脈(AO)組織から作製したcDNAをテンプレートとしてRT-PCRによりグルタミン酸AMPA型受容体の4種のサブユニットGluR1、GluR2、GluR3およびGluR4の発現解析を行った。
GluR1:Forward: 5’- tcctgttgacacatccaatca-3’(配列番号1) Reverse: 5’- ccgttacctgccagttcttc-3’ (配列番号2)
GluR2:Forward: 5’- cagtcaccaatgctttctgc-3’ (配列番号3) Reverse: 5’- tgctcctttgaggtcaggtc -3’ (配列番号4)
GluR3:Forward: 5’- gcttcgttttaggcgtagca -3’ (配列番号5) Reverse: 5’- gctcctgaaccgtgtttctc -3’ (配列番号6)
GluR4:Forward: 5’ - cgatttggagggcataaaaa-3’ (配列番号7) Reverse: 5’- agaggcattgaagacgatgg -3’ (配列番号8)
【実施例】
【0020】
結果を図1に示す。グラフの縦軸は18S ribosomal RNAの発現を1とした場合の各サブユニットの発現の比を表している。実験より得られた値は平均値±標準誤差(mean±SEM)で示し、二群間の有意差検定にはt-testを用い、有意水準はP<0.05とした。ラット動脈管ではGluR1サブユニットが多く発現していた。【0021】
〔実施例2〕ヒト動脈管および大動脈の抗GluR1抗体を用いた免疫染色(図2)
学内倫理委員会の同意を得て、外科手術で摘除されたヒト動脈管大動脈移行部をホルマリン固定した後にパラフィン切片を作製した。作製したパラフィン切片から脱パラフィン操作を行った後に抗GluR1抗体(Sigma-Aldrich,USA)を反応させた後に二次抗体で標識し、動脈管でのGluR1サブユニットの発現を検討した。大動脈に比べて血管に厚みがあることなどで動脈管組織であることがわかる。この血管外膜側の血管周囲神経に一致してGluR1サブユニットが発現していることを確認した。
【実施例】
【0022】
〔実施例3〕ラット動脈管および肺動脈のグルタミン酸およびグルタミン酸受容体阻害薬1-naphthyl acetylspermine (NASPM)投与後の管腔測定(図3)
胎生21日のWistar ratを麻酔下で開腹し、以下の4群の肺動脈管腔径、動脈管(DA)腔径の計測を行った。
(1)子宮外からラット胎仔に生理食塩水(NS)200μlを胎仔腹腔内に投与したのちに一旦閉腹し30分後にラット胎仔を娩出。
(2)子宮外からラット胎仔に0.7%グルタミン酸水溶液(Glu)200μlを胎仔腹腔内に投与したのちに一旦閉腹し30分後にラット胎仔を娩出。
(3)子宮外からラット胎仔にAMPA型グルタミン酸受容体阻害薬NASPM(1μg/50μl)を投与し、更に15分後に0.7%グルタミン酸水溶液(Glu)200μlを胎仔腹腔内に投与したのちに一旦閉腹し30分後にラット胎仔を娩出。
(4)子宮外からラット胎仔にAMPA型グルタミン酸受容体阻害薬NASPM (10μg/50μl)を投与し、更に15分後に0.7%グルタミン酸水溶液(Glu)200μlを胎仔腹腔内に投与したのちに一旦閉腹し30分後にラット胎仔を娩出。
【実施例】
【0023】
すべての群で胎仔を娩出後、自発呼吸の生じないうちに液体窒素で急速に凍結した。凍結した胎仔のサンプルを滑走式ミクロトームで薄切し、その前額面で動脈管の中間位径と肺動脈径を顕微鏡用デジタルカメラセットで計測した。
【実施例】
【0024】
結果を図3に示す。グラフの縦軸は肺動脈径を1とした場合の動脈管中間位の径を表している。各二群間の有意差検定にはt-testを用い、有意水準はP<0.05とした。【0025】
〔実施例4〕ラット胎仔血清グルタミン酸濃度測定(図4)
胎生21日のWistar ratを麻酔し、帝王切開で胎仔を摘出した。摘出した胎仔に200μlの0.7%グルタミン酸(Glu)水溶液またはdouble distilled water(DDW)を腹腔内投与した後に37℃のホットプレートで30分間観察した。その後心腔穿刺によりラット血液を採取し血漿分離を行った後に、血中アミノ酸分析をhigh-performance liquid chromatography/electrospray ionization/ mass spectrometry methodを用いて行った。
【実施例】
【0026】
結果を図4に示す。グラフはDDW腹腔内投与群と0.7%Glu投与群の血漿グルタミン酸濃度の比較である。二群間の有意差検定にはt-testを用いた。
【実施例】
【0027】
〔実施例5〕ラット動脈管および肺動脈のグルタミン酸およびアドレナリン受容体阻害薬prazosin投与後の管腔測定(図5)
胎生21日のWistar ratを麻酔下で開腹し、以下の4群の肺動脈管腔径、動脈管腔径の計測を行った。
(1)子宮外からラット胎仔に生理食塩水(NS)200μlを胎仔腹腔内に投与したのちに一旦閉腹し30分後にラット胎仔を娩出。
(2)子宮外からラット胎仔に0.7%グルタミン酸水溶液(Glu)200μlを胎仔腹腔内に投与したのちに一旦閉腹し30分後にラット胎仔を娩出。
(3)子宮外からラット胎仔にアドレナリン受容体阻害薬prazosin(1μg/50μl)を投与し、更に15分後に0.7%グルタミン酸水溶液(Glu)200μlを胎仔腹腔内に投与したのちに一旦閉腹し30分後にラット胎仔を娩出。
実施例3と同様の方法で評価した。結果を図5に示す。グラフの縦軸は動脈管管腔径と肺動脈管腔径の比を表している。各二群間の有意差検定にはt-testを用い、有意水準はP<0.001とした。【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、未熟児の動脈管開存症の予防又は治療に利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4