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明細書 :siRNA細胞内送達のための脂質膜構造体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6570188号 (P6570188)
登録日 令和元年8月16日(2019.8.16)
発行日 令和元年9月4日(2019.9.4)
発明の名称または考案の名称 siRNA細胞内送達のための脂質膜構造体
国際特許分類 C07C 215/24        (2006.01)
A61K  47/18        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
A61P  37/02        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
FI C07C 215/24 CSP
A61K 47/18
A61K 9/127
A61K 31/7105
A61P 37/02
A61K 48/00
請求項の数または発明の数 8
全頁数 20
出願番号 特願2016-521092 (P2016-521092)
出願日 平成27年5月18日(2015.5.18)
国際出願番号 PCT/JP2015/064196
国際公開番号 WO2015/178343
国際公開日 平成27年11月26日(2015.11.26)
優先権出願番号 2014104131
優先日 平成26年5月20日(2014.5.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年4月4日(2018.4.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
発明者または考案者 【氏名】原島 秀吉
【氏名】佐藤 悠介
【氏名】藁科 翔太
【氏名】畠山 浩人
【氏名】兵藤 守
【氏名】中村 孝司
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】前田 憲彦
参考文献・文献 特表2014-500233(JP,A)
特表2013-545727(JP,A)
特表2013-545723(JP,A)
特表2013-533223(JP,A)
国際公開第2013/158579(WO,A1)
調査した分野 C07C 215/00
A61K 9/00
A61K 31/00
A61K 47/00
A61K 48/00
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の式(I):
【化1】
JP0006570188B2_000004t.gif
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立にCH3-(CH2)n-CH=CH-CH2-CH=CH-(CH2)m-(nは3~5の整数を示し、mは6~10の整数を示す)を示し、pは2~7の整数を示し、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基を示す]
で表される脂質化合物又はその塩。
【請求項2】
nが4、mが7~9の整数であり、pが3~5の整数であり、R3及びR4がそれぞれ独立にC1-4アルキル基である請求項1に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項3】
R1及びR2が同一であり、nが4、mが8であり、pが4であり、R3及びR4がメチル基である請求項1に記載の脂質化合物又はその塩。
【請求項4】
細胞内にsiRNAを送達するための脂質膜構造体であって、脂質成分として請求項1ないし3のいずれか1項に記載の脂質化合物又はその塩を含む脂質膜構造体
【請求項5】
細胞内にsiRNAを送達するための脂質膜構造体であって、siRNAが内部に封入されており、かつ脂質成分として請求項1ないし3のいずれかに記載の脂質化合物を含む脂質膜構造体。
【請求項6】
リポソームである請求項5に記載の脂質膜構造体。
【請求項7】
樹状細胞において標的遺伝子をノックダウンするために用いる請求項5又は6に記載の脂質膜構造体。
【請求項8】
患者から樹状細胞を分離・採取し、インビトロで樹状細胞の細胞内にsiRNAを導入した後、標的遺伝子がノックダウンされた樹状細胞をその患者に投与する免疫療法において、樹状細胞における標的遺伝子をノックダウンするために用いる請求項7に記載の脂質膜構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はsiRNA細胞内送達のための脂質膜構造体に関する。より具体的には、本発明は、免疫細胞の核内、特に樹状細胞の細胞内にsiRNAを容易に送達することができるリポソームなどの脂質膜構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬剤を患部に特異的に輸送する手段として脂質膜構造体であるリポソームに薬剤を封入する方法が提案されている。特に、悪性腫瘍の治療分野において抗腫瘍剤を封入したリポソームの有効性が数多く報告されている。また、遺伝子発現に利用可能な脂質膜構造体として多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND: Multifunctional envelope-type nano device;以下、本明細書において「MEND」と略す場合がある。例えばDrug Delivery System, 22-2, pp.115-122, 2007などを参照のこと)が提案されている。この構造体は、遺伝子などを特定の細胞内に選択的に送達するためのドラッグデリバリーシステムとして用いることができ、例えば、腫瘍の遺伝子治療などに有用であることが知られている。
【0003】
脂質膜構造体を用いて薬物、核酸、ペプチド、ポリペプチド、糖などの目的物質を標的臓器や腫瘍組織など特異的な部位に送達するための手段として、脂質膜構造体の表面を機能性分子で修飾する方法が多数提案されている。抗腫瘍剤などの薬剤を内包した脂質膜構造体は標的細胞に到達するとエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれエンドソーム内に包含された状態となるが、その後、リソソームの酵素による加水分解作用などを受けて内包されていた薬剤を細胞質内に放出する。エンドソーム内に取り込まれたリポソームからの薬剤放出性を高めるために、リポソームの表面をペプチド(GALA: Biochemistry, 26, pp.2964-2972, 1987)で修飾したリポソーム(Biochemistry, 43, pp.5618-5623, 2004)やMEND(特開2006-28030号公報)が提案されている。
【0004】
また、核酸などの目的物質を内包した脂質膜構造体を標的細胞の核内に移行させるための手段としては、例えば、リポソームの外側表面をオクタアルギニンで修飾したリポソーム(国際公開WO2005/32593; Journal of Controlled Release, 98, pp.317-323, 2004)、核移行性ペプチドで修飾された脂質膜を有する2枚膜リポソーム(国際公開WO2006/101201)、ガラクトースやマンノースなどの単糖で表面を修飾したリポソーム(国際公開WO2007/102481)が提案されている。単糖で修飾された多重脂質膜構造体(T-MEND)は脂質膜及び核膜と融合性を示し、in vitroでの試験結果において遺伝子発現効率を改善できたとされている。さらに、KALAペプチド(Biochemistry, 36, pp.3008-3017, 1997)により修飾された脂質膜構造体が細胞の核内に核酸などの物質を効率的に送達できることが報告されている(国際公開WO2011/132713)。
【0005】
一方、樹状細胞は、免疫応答の中心を担っている抗原提示細胞であることから、癌免疫療法の重要な標的細胞の1つであり、癌患者から樹状細胞を採取し、体外で抗原導入や活性化を行った後、再びその患者に投与する免疫細胞療法(樹状細胞療法)にも使用されている。近年、樹状細胞における免疫抑制因子が発見されたことからsiRNA医薬の標的としての注目も集めており、樹状細胞療法と組み合わせることにより、より強力な癌免疫誘導を行なえるものと期待されている。
【0006】
従来、樹状細胞の核内へのRNA導入に関してshRNAを発現するレンチウイルスベクターを用いて免疫抑制因子をノックダウンしたとの報告(Nat. Biotechnol. 2004; Nat. Med. 2008)はあるが、人工デリバリーシステムを用いた樹状細胞へのsiRNA導入の報告は殆どない。ウイルスベクターの使用は標的遺伝子の高効率ノックダウンを実現可能であるが、安全面に問題がある。
【0007】
siRNA導入用の人工デリバリーシステムとしてR8/GALA-D-MEND(D-MEND)が報告されている(J. Control. Release, 143, pp.311-317, 2010)。D-MENDは細胞親和性素子であるオクタアルギニン(R8)ペプチドとエンドソーム脱出性素子であるGALAペプチドをMENDに修飾し、MENDのエンベロープ膜枚数を制御したナノキャリアである。D-MENDは一般的に使用される癌細胞であるHeLa細胞においてはsiRNA濃度が12 nMという低濃度で約70%のノックダウンを示し、その活性は一般導入試薬として汎用されているリポフェクタミン2000(LFN2000)と比較して2倍以上の活性を示す。
【0008】
しかしながら、マウス骨髄細胞から誘導した樹状細胞にD-MENDでトランスフェクションを行う場合には70-80%のノックダウン効率を達成するためにsiRNA濃度を高濃度(80-120 nM)にする必要があり、siRNAの標的因子によっては40%程度のノックダウン効率に留まるという問題もある(Biol. Pharm. Bull., 34, pp.1348-1351, 2011)。このように従来の人工デリバリーシステムを用いた場合には、一般的な癌細胞に比べて樹状細胞におけるノックダウン効率は大きく低下する傾向があり、siRNA医薬の免疫療法分野への展開を妨げている。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】国際公開WO2005/32593
【特許文献2】国際公開WO2006/101201
【特許文献3】国際公開WO2007/102481
【特許文献4】特開2006-28030号公報
【特許文献5】国際公開WO2011/132713
【0010】

【非特許文献1】Drug Delivery System, 22-2, pp.115-122, 2007
【非特許文献2】Biochemistry, 26, pp.2964-2972, 1987
【非特許文献3】Biochemistry, 43, pp.5618-5623, 2004
【非特許文献4】Journal of Controlled Release, 98, pp.317-323, 2004
【非特許文献5】Biochemistry, 36, pp.3008-3017, 1997
【非特許文献6】Nat. Biotechnol., 22, pp.1546-1553, 2004
【非特許文献7】Nat. Med., 14, pp.258-265, 2008
【非特許文献8】J. Control. Release, 143, pp.311-317, 2010
【非特許文献9】Biol. Pharm. Bull., 34, pp.1348-1351, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、免疫細胞、特に抗原提示能を有する樹状細胞の細胞内にsiRNAを効率的に送達するための手段を提供することにある。より具体的には、樹状細胞などの免疫細胞の細胞内にsiRNAを効率的に送達することができる脂質膜構造体及び該脂質膜構造体の製造に有用な新規化合物を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは免疫細胞、特に抗原提示能を有する樹状細胞における標的遺伝子の効率的なノックダウンを実現すべく細胞内にsiRNAを効率的に送達するための手段を鋭意検討した。その結果、2本の脂肪酸鎖に2つの不飽和結合を有し、親水部の炭素鎖を伸長することによりpKaを高めた脂質化合物を脂質成分として用いてMENDなどの脂質膜構造体を形成すると非常に高いエンドソーム脱出性が達成されること、及びこの脂質化合物を含む脂質組成物で調製した脂質膜構造体ではsiRNAによる標的遺伝子ノックダウンを極めて効率的に行うことができることを見出した。この脂質膜構造体を用いてSOCS1をノックダウンした樹状細胞ではサイトカイン産生の顕著な増強が認められ、この樹状細胞を投与したマウス群では移植した腫瘍の生着・増殖が完全に抑制されることも見出した。本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
すなわち、本発明により、下記の式(I):
【化1】
JP0006570188B2_000002t.gif
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立にCH3-(CH2)n-CH=CH-CH2-CH=CH-(CH2)m-(nは3~5の整数を示し、mは6~10の整数を示す)を示し、pは2~7の整数を示し、R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基を示す]
で表される脂質化合物又はその塩が提供される。
【0014】
上記の発明の好ましい態様によれば、nが4、mが7~9の整数であり、pが3~5の整数であり、R3及びR4がそれぞれ独立にC1-4アルキル基である上記の脂質化合物又はその塩;R1及びR2が同一であり、nが4、mが7~9の整数であり、pが4であり、R3及びR4がそれぞれ独立にメチル基又はエチル基である上記の脂質化合物又はその塩;及びR1及びR2が同一であり、nが4、mが8であり、pが4であり、R3及びR4がメチル基である上記の脂質化合物又はその塩が提供される。
【0015】
別の観点からは、本発明により、細胞内にsiRNAを送達するための脂質膜構造体の脂質成分として用いるための上記の式(I)で表される脂質化合物又はその塩が提供される。この発明の好ましい態様によれば、細胞が免疫細胞、好ましくは樹状細胞である上記の脂質化合物;脂質膜構造体がリポソームである上記の脂質化合物又はその塩;及び多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)である上記の脂質化合物又はその塩が提供される。
【0016】
さらに別の観点からは、本発明により、細胞内にsiRNAを送達するための脂質膜構造体であって、siRNAが内部に封入されており、かつ脂質成分として上記の式(I)で表される脂質化合物を含む脂質膜構造体が提供される。この脂質膜構造体は、特に抗原提示能を有する樹状細胞における標的遺伝子をノックダウンするために用いることができる。従って、上記の観点から、本発明により、樹状細胞における標的遺伝子のノックダウンに用いるための上記の脂質膜構造体も提供される。
【0017】
この発明の好ましい態様によれば、nが4、mが7~9の整数であり、pが3~5の整数であり、R3及びR4がそれぞれ独立にC1-4アルキル基である上記の脂質化合物を含む上記脂質膜構造体;R1及びR2が同一であり、nが4、mが7~9の整数であり、pが4であり、R3及びR4がそれぞれ独立にメチル基又はエチル基である上記の脂質化合物を含む上記の脂質膜構造体;R1及びR2が同一であり、nが4、mが8であり、pが4であり、R3及びR4がメチル基である上記の脂質化合物を含む上記の脂質膜構造体が提供される。
【0018】
また、別の好ましい態様により、脂質成分として上記式(I)の脂質化合物、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、コレステロール(Chol)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール、及びメトキシポリエチレングリコール2000(PEG-DMG 2000)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含む脂質膜構造体;脂質成分として上記式(I)の脂質化合物、コレステロール(Chol)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール、及びメトキシポリエチレングリコール2000(PEG-DMG 2000)からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含む脂質膜構造体;細胞が免疫細胞、好ましくは樹状細胞である上記の脂質膜構造体;リポソームである上記の脂質膜構造体;及び多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)である上記の脂質化合物が提供される。
【0019】
また、本発明により、細胞、好ましくは免疫細胞、特に好ましくは樹状細胞の細胞内にsiRNAを送達する方法であって、siRNAが内部に封入されており、かつ脂質成分として上記の式(I)で表される脂質化合物を含む上記の脂質膜構造体を細胞に接触させる工程を含む方法が提供される。この方法はヒトを含む哺乳類動物の生体内で行ってもよいが、生体から分離・採取された細胞を用いてイン・ビトロで行ってもよい。
【0020】
例えば、樹状細胞を用いる場合には、患者から分離・採取された樹状細胞に対して上記の方法により細胞内にsiRNAを導入した後、標的遺伝子がノックダウンされた樹状細胞をその患者に投与することにより樹状細胞療法を行うことができる。従って、本発明により、免疫療法であって、患者から樹状細胞を分離・採取し、インビトロで樹状細胞の細胞内にsiRNAを導入した後、標的遺伝子がノックダウンされた樹状細胞をその患者に投与する方法が提供される。また、本発明により、患者から樹状細胞を分離・採取し、イン・ビトロで樹状細胞の細胞内にsiRNAを導入した後、標的遺伝子がノックダウンされた樹状細胞をその患者に投与する免疫療法において、樹状細胞における標的遺伝子をノックダウンするために用いる上記の脂質膜構造体が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明により提供される脂質膜構造体は、樹状細胞を含む免疫細胞などのsiRNAが導入困難な任意の細胞の細胞内に効率的に移行し、エンドソームから効率的に脱出することができることから、封入されたsiRNAを細胞内において効率的に放出して該siRNAにより標的遺伝子をノックアウトすることができる。従って、本発明の脂質膜構造体を用いて、例えばがん治療においてsiRNAを利用した有効な免疫療法、好ましくは樹状細胞療法を行うことができる。また、本発明により提供される脂質化合物を脂質成分として用いてリポソームなどの脂質膜構造体を調製すると、非常に高いエンドソーム脱出性が達成され、該脂質化合物を含む脂質膜構造体から細胞質中にsiRNAを効率よく送達することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】YSK12-MENDの最適化のためsiRNA濃度5 nM又は10 nMにおいてDMG-PEG 2000を2 mol%としてYSK12/POPE/Cholの脂質組成におけるYSK12の比率を変化させてノックダウン効率を求めた結果を示した図である。
【図2】YSK12-MENDの最適化のためsiRNA濃度2.5 nM又は5 nMにおいて脂質組成をYSK12/POPE/Chol=85/7.5/7.5としてDMG-PEG 2000を3~0.75 mol%の範囲で変化させてsiRNAの回収率を求めた結果を示した図である。
【図3】YSK12-MENDの最適化のためsiRNA濃度1.25 nM又は2.5 nMにおいてDMG-PEG 2000を1 mol%としてYSK12/POPE/Cholの脂質組成においてYSK12を85%としてPOPE/Cholの比率を変化させてノックダウン効率を求めた結果を示した図である。
【図4】YSK12-MENDの用量/反応曲線を示した図である。D-MENDとしてはDOPE/PA=7:2; Chol-GALA 1mol%;及びSTR-R8 10 mol%のものを用いた。
【図5】YSK12-MENDの細胞毒性を評価した結果を示した図である。
【図6】YSK12-MENDのエンドソーム脱出能を評価した結果を示した図である。淡青は核、緑はacid compartment、赤はsiRNAを示す。
【図7】YSK12-MENDの膜障害作用を評価した結果を示した図である。siRNA各キャリアと赤血球を混合し、漏出するヘモグロビンの吸光度を測定して膜障害活性を評価した。
【図8】YSK12-MENDの膜障害作用を評価した結果を示した図である。カテプシンB活性を検出することにより直接的なエンドソーム膜破壊作用を測定した。siRNA量は10、30、及び100 nMとした。**はp<0.01の有意差を示す(one-way ANOVA followed by Tukey-Kramer)。
【図9】YSK12-MENDによるSOCS1ノックダウンの結果を示した図である。siRNA量は3、10、及び30 nM、コントロールsiRNAは30 nMとした。*はp<0.05、**はp<0.01の有意差を示す(one-way ANOVA followed by Tukey-Kramer)。
【図10】YSK12-MENDによりSOCS1をノックダウンすることによりDCのサイトカイン産生能が増強され免疫機能が活性化した結果を示した図である。NTは未処理、CはコントロールsiRNA(30 nM)を示し、siRNA量は3、10、及び30 nMとした。**はp<0.01の有意差を示す(one-way ANOVA followed by Tukey-Kramer)。
【図11】YSK12-MENDによる予防的抗腫瘍活性を評価した結果を示した図である。**はp<0.01の有意差を示す(one-way ANOVA followed by Tukey-Kramer)
【図12】YSK12-MENDによるTHP-1細胞(ヒト単球株)に対する遺伝子発現抑制を示した図である。
【図13】YSK12-MENDによるJurkat細胞(ヒトT細胞株)に対する遺伝子発現抑制を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
式(I)においてR1及びR2はそれぞれ独立にCH3-(CH2)n-CH=CH-CH2-CH=CH-(CH2)m-を示す。nは3~5の整数を示し、mは6~10の整数を示すが、好ましくはnは4であり、mは7~9の整数である。特に好ましいのはnが4であり、mが8の場合である。R1及びR2は同一でも異なっていてもよいが、同一の基であることが好ましい。pは2から7の整数を示すが、3~5の整数であることが好ましく、特に好ましくは4である。R3及びR4はそれぞれ独立にC1-4アルキル基又はC2-4アルケニル基を示すが、それぞれ独立にC1-4アルキル基であることが好ましい。R3及びR4がそれぞれ独立にメチル基又はエチル基であることがより好ましく、特に好ましいのはR3及びR4がメチル基の場合である。

【0024】
式(I)で表される脂質化合物は酸付加塩として存在する場合がある。塩を構成する酸の種類は特に限定されず、鉱酸類又は有機酸類などのいずれであってもよい。例えば、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩、又は酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩などの有機酸塩などを例示することができるが、これらに限定されるわけではない。式(I)で表される脂質化合物又はその塩は水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、これらの物質も本発明の範囲に包含される。さらに、R1及びR2が異なる場合には光学異性体が存在する場合もあるが、純粋な形態の光学異性体、任意の光学活性体の混合物、又はラセミ体なども本発明の範囲に包含される。

【0025】
式(I)の化合物のうち特に好ましい化合物としてR1及びR2が同一であり、nが4、mが8であり、R3及びR4がメチル基である脂質化合物(本明細書においてこの化合物を「YSK12」と称する場合がある)の製造方法を本明細書の実施例に具体的に示した。この実施例の製造方法を参照し、原料化合物、試薬、及び反応条件などを適宜選択することにより、当業者は式(I)の範囲に包含される任意の化合物を容易に製造することができる。なお、式(I)の化合物のpKaは7.8~8.2程度、好ましくは8.0程度である。

【0026】
本発明の脂質膜構造体を構成する脂質としては、例えば、リン脂質、糖脂質、ステロール、又は飽和若しくは不飽和の脂肪酸などが挙げられる。
リン脂質及びリン脂質誘導体としては、例えば、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファリジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドホスホリルグリセロールホスファート、1,2-ジミリストイル-1,2-デオキシホスファチジルコリン、プラスマロゲン、ホスファチジン酸などを挙げることができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらリン脂質における脂肪酸残基は特に限定されないが、例えば、炭素数12~20の飽和又は不飽和の脂肪酸残基を挙げることができ、具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪酸由来のアシル基を挙げることができる。また、卵黄レシチン、大豆レシチンなどの天然物由来のリン脂質を用いることもできる。

【0027】
糖脂質としては、例えば、グリセロ糖脂質(例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド)、スフィンゴ糖脂質(例えば、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド)などが挙げられる。

【0028】
ステロールとしては、例えば、動物由来のステロール(例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール)、植物由来のステロール(フィトステロール)(例えば、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール)、微生物由来のステロール(例えば、チモステロール、エルゴステロール)などが挙げられる。
飽和又は不飽和の脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ミリスチン酸などの炭素数12~20の飽和又は不飽和の脂肪酸が挙げられる。

【0029】
脂質膜構造体の形態は特に限定されないが、例えば、水系溶媒に分散した形態として一枚膜リポソーム、多重層リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、又は不定型の層状構造物などを挙げることができる。本発明の脂質膜構造体の好ましい形態としてリポソームを挙げることができる。以下、本発明の脂質膜構造体の好ましい態様としてリポソームについて説明する場合があるが、本発明の脂質膜構造体はリポソームに限定されることはない。

【0030】
本発明の脂質膜構造体は、細胞内にsiRNAを送達するための脂質膜構造体であって、siRNAが内部に封入されており、かつ脂質成分として上記の式(I)で表される脂質化合物を含むことを特徴としている。本発明の脂質膜構造体によりsiRNAを送達すべき細胞の種類は特に限定されないが、好ましくは免疫細胞、特に好ましくは樹状細胞を挙げることができる。

【0031】
siRNA(small interfering RNA)は21~23塩基対からなる低分子二本鎖RNAであり、RNA干渉(RNAi)に関与し、mRNAの破壊によって配列特異的に遺伝子の発現を抑制する。合成のsiRNAがヒトの細胞においてRNA干渉を引き起こすことが報告されており、siRNAを用いたRNA干渉により遺伝子をノックダウンすることができることから、医薬としての利用やがんなどの治療分野において応用が期待されている。本発明において使用可能なsiRNAの種類は特に限定されず、RNA干渉を引き起こすことができるものであればいかなるものを使用してもよいが、一般的には、21~23塩基対の二本鎖RNAであって、RNA鎖の3'部分が2塩基分突出した構造をとり、それぞれの鎖は5'末端にリン酸基と3'末端にヒドロキシル基を有する構造のRNAを本発明におけるsiRNAとして使用することができる。また、リボース骨格の2’位のヒドロキシル基がメトキシ基、フルオロ基、あるいはメトキシエチル基に、ホスホジエステル結合がホスホロチオエート結合に一部置換されたsiRNAも含まれる。

【0032】
本発明の脂質膜構造体を用いて、細胞、好ましくは免疫細胞、特に好ましくは樹状細胞の細胞内にsiRNAを送達することができる。この方法をヒトを含む哺乳類動物の生体内において行うこともできるが、生体から分離・採取された細胞を用いてインビトロで行ってもよい。例えば、樹状細胞を用いる場合には、患者から分離・採取された樹状細胞に対して本発明の脂質膜構造体を用いて細胞内にsiRNAを導入した後、標的遺伝子がノックダウンされた樹状細胞をその患者に投与することにより樹状細胞療法を行うことができる。いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、本発明の脂質膜構造体により細胞内に送達された二本鎖siRNAはヘリカーゼと呼ばれる酵素の働きを受けて一本鎖に解離し、標的mRNAに対するエンドヌクレアーゼ活性を示すアルゴノート(Argonaute)タンパク質等と複合体(RISC)を形成し、標的遺伝子をRNA干渉によりノックダウンすることができる。

【0033】
本発明の脂質膜構造体の脂質成分として式(I)の脂質化合物を単独で用いてもよいが、一般的には先に説明した脂質の1種又は2種以上と式(I)の脂質化合物とを組み合わせて脂質膜構造体を形成することが好ましい。複数の脂質の組み合わせ及びその配合割合は特に限定されないが、実施例に具体的に示したように、例えば標的遺伝子に対するノックダウン活性などを指標として使用する脂質の種類及び配合割合を最適化することができる。例えば、脂質成分として式(I)の化合物、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、コレステロール(Chol)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール、メトキシポリエチレングリコール2000(PEG-DMG 2000)の組み合わせについては、式(I)の化合物の含有割合を80~90%、好ましくは85%程度とし、PEG-DMG 2000を約1~2%、好ましくは1%程度とし、及び/又は式(I)の化合物を85%としたときのPOPE/Cholの割合を0/15~4/11程度、好ましくは0/15とすることによりノックダウン活性を上昇させることができるが、これらの特定の脂質及びその配合割合に限定されるわけではない。

【0034】
本発明の脂質膜構造体の粒子径は特に限定されないが、例えば120 nm~300 nm程度、好ましくは150 nm~250 nm程度、さらに好ましくは約180 nm程度であり、多分散度指数(PDI)は0.05~0.1程度、好ましくは0.06~0.08程度、さらに好ましくは約0.07程度である。ゼータ電位は5.5 mV~6.0 mVの範囲、好ましくは5.8 mV程度とすることができる。

【0035】
本発明の脂質膜構造体には、必要に応じて適宜の表面修飾などを行うことができる。
例えば、本発明の脂質膜構造体の核内移行を促進するために、例えば、脂質膜構造体を3糖以上のオリゴ糖化合物で表面修飾することもできる。3糖以上のオリゴ糖化合物の種類は特に限定されないが、例えば、3個ないし10個程度の糖ユニットが結合したオリゴ糖化合物を用いることができ、好ましくは3個ないし6個程度の糖ユニットが結合したオリゴ糖化合物を用いることができる。

【0036】
オリゴ糖化合物としてより具体的には、例えば、セロトリオース(Cellotriose: β-D-グルコピラノシル-(1→4)-β-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)、カコトリオース(Chacotriose: α-L-ラムノピラノシル-(1→2)-[α-L-ラムノピラノシル-(1→4)]-D-グルコース)、ゲンチアノース(Gentianose: β-D-フルクトフラノシル β-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシド)、イソマルトトリオース(Isomaltotriose: α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→6)-D-グルコース)、イソパノース(Isopanose: α-D-グルコピラノシル-(1→4)-[α-D-グルコピラノシル-(1→6)]-D-グルコース)、マルトトリオース(Maltotriose: α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)、マンニノトリオース(Manninotriose: α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-D-グルコース)、メレジトース(Melezitose: α-D-グルコピラノシル-(1→3)-β-D-フルクトフラノシル=α-D-グルコピラノシド)、パノース(Panose: α-D-グルコピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)、プランテオース(Planteose: α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-β-D-フルクトフラノシル=α-D-グルコピラノシド)、ラフィノース(Raffinose: β-D-フルクトフラノシル=α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシド)、ソラトリオース(Solatriose: α-L-ラムノピラノシル-(1→2)-[β-D-グルコピラノシル-(1→3)]-D-ガラクトース)、ウンベリフェロース(Umbelliferose: β-D-フルクトフラノシル=α-D-ガラクトピラノシル-(1→2)-α-D-ガラクトピラノシド)などの3糖化合物; リコテトラオース(Lycotetraose: β-D-グルコピラノシル-(1→2)-[β-D-キシロピラノシル-(1→3)]-β-D-グルコピラノシル-(1→4)-β-D-ガラクトース)、マルトテトラオース(Maltotetraose: α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)、スタキオース(Stachyose: β-D-フルクトフラノシル=α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシド)などの4糖化合物;マルトペンタオース(Maltopentaose: α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)、ベルバスコース(Verbascose: β-D-フルクトフラノシル=α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-ガラクトピラノシル-(1→6)-α-D-グルコピラノシド)などの5糖化合物;マルトヘキサオース(Maltohexaose: α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-α-D-グルコピラノシル-(1→4)-D-グルコース)などの6糖化合物を挙げることができるが、これらに限定されることはない。

【0037】
好ましくはグルコースの3量体ないし6量体であるオリゴ糖化合物を用いることができ、さらに好ましくはグルコースの3量体又は4量体であるオリゴ糖化合物を用いることができる。より具体的には、イソマルトトリオース、イソパノース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘキサオースなどを好適に用いることができ、これらのうち、グルコースがα1-4結合したマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、又はマルトヘキサオースがさらに好ましい。特に好ましいのはマルトトリオース又はマルトテトラオースであり、最も好ましいのはマルトトリオースである。オリゴ糖化合物による脂質膜構造体の表面修飾量は特に限定されないが、例えば、総脂質量に対して1~30モル%程度、好ましくは2~20モル%程度、より好ましくは5~10モル%程度である。

【0038】
オリゴ糖化合物で脂質膜構造体を表面修飾する方法は特に限定されないが、例えば、脂質膜構造体をガラクトースやマンノースなどの単糖で表面を修飾したリポソーム(国際公開WO2007/102481)が知られているので、この刊行物に記載された表面修飾方法を採用することができる。上記刊行物の開示の全てを参照により本明細書の開示として含める。この手段はポリアルキレングリコール化脂質に単糖化合物を結合して脂質膜構造体の表面修飾を行なう方法であり、この手段により脂質膜構造体の表面をポリアルキレングリコールにより同時に修飾することができるので好ましい。

【0039】
脂質膜構造体の表面をポリアルキレングリコールなどの親水性ポリマーで修飾することによりリポソームの血中滞留性などの安定性を高めることができる場合がある。この手段については、例えば、特開平1-249717号公報、特開平2-149512号公報、特開平4-346918号公報、特開2004-10481号公報などに記載されている。親水性ポリマーとしてはポリアルキレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコールなどを用いることができる。ポリアルキレングリコールの分子量は、例えば300~10,000程度、好ましくは500~10,000、さらに好ましくは1,000~5,000程度である。

【0040】
ポリアルキレングリコールによる脂質膜構造体の表面修飾は、例えばポリアルキレングリコール修飾脂質を脂質膜構成脂質として用いて脂質膜構造体を構築することにより容易に行なうことができる。例えば、ポリエチレングリコールによる修飾を行う場合にはステアリル化ポリエチレングリコール(例えばステアリン酸PEG45(STR-PEG45)など)を用いることができる。その他、N-{カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000}-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、n-{カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000}-1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-750}-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-2000}-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、N-{カルボニル-メトキシポリエチレングリコール-5000}-1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミンなどのポリエチレングリコール誘導体などを用いることもできるが、ポリアルキレングリコール化脂質はこれらに限定されることはない。

【0041】
また、ポリアルキレングリコールにオリゴ糖化合物を結合させることにより、ポリアルキレングリコール及びオリゴ糖化合物による表面修飾を同時に達成することができる。もっとも、脂質膜構造体をポリアルキレングリコールやオリゴ糖化合物で表面修飾する方法は上記の方法に限定されることはなく、例えば、ステアリル化されたポリアルキレングリコールやオリゴ糖化合物など脂質化された化合物を脂質膜構造体の構成脂質として使用することにより、表面修飾を行なうことができる場合もある。

【0042】
本発明の脂質膜構造体の製造にあたり、血中滞留性を高めるための脂質誘導体として、例えば、グリコフォリン、ガングリオシドGM1、ホスファチジルイノシトール、ガングリオシドGM3、グルクロン酸誘導体、グルタミン酸誘導体、ポリグリセリンリン脂質誘導体などを利用することもできる。また、血中滞留性を高めるための親水性ポリマーとして、ポリアルキレングリコールのほかにデキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン-無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル-無水マレイン酸交互共重合体、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンなどを表面修飾に用いることもできる。

【0043】
本発明の脂質膜構造体は、ステロール、又はグリセリン若しくはその脂肪酸エステルなどの膜安定化剤、トコフェロール、没食子酸プロピル、パルミチン酸アスコルビル、又はブチル化ヒドロキシトルエンなどの抗酸化剤、荷電物質、及び膜ポリペプチドなどからなる群から選ばれる1種又は2種以上の物質を含んでいてもよい。正荷電を付与する荷電物質としては、例えば、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの飽和又は不飽和脂肪族アミン;ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパンなどの飽和又は不飽和カチオン性合成脂質;あるいはカチオン性ポリマーなどを挙げることができ、負電荷を付与する荷電物質としては、例えば、ジセチルホスフェート、コレステリルヘミスクシネート、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸などを挙げることができる。膜ポリペプチドとしては、例えば、膜表在性ポリペプチド、又は膜内在性ポリペプチドなどが挙げられる。これらの物質の配合量は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。

【0044】
また、本発明の脂質膜構造体には、例えば、温度変化感受性機能、膜透過機能、遺伝子発現機能、及びpH感受性機能などのいずれか1つ又は2つ以上の機能を付与することができる。これらの機能を適宜付加することにより、例えば遺伝子を含む核酸などを内包する脂質膜構造体の血液中での滞留性を向上させ、肝臓や脾臓などの細網内皮系組織による捕捉率を低下させるとともに、標的細胞におけるエンドサイトーシスの後にエンドソームから効率的に脂質膜構造体を脱出させて核内に移行させることができ、核内において高い遺伝子発現活性を達成することが可能になる。

【0045】
温度変化感受性機能を付与することができる温度変化感受性脂質誘導体としては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリンなどを挙げることができる。また、pH感受性機能を付与することができるpH感受性脂質誘導体としては、例えば、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンなどを挙げることができる。

【0046】
また、本発明の脂質膜構造体は、細胞表面の受容体や抗原に対して特異的に結合可能な抗体などの物質で修飾を施すこともでき、細胞の核内への物質送達効率を改善することができる。例えば標的組織又は臓器に特異的に発現する生体成分に対するモノクローナル抗体を脂質膜構造体の表面に配置することが好ましい。この手法は、例えば、STEALTH LIPOSOME(第233-244頁、CRC Press, Inc.発行, Danilo Lasic及びFrank Martin編)などに記載されている。脂質膜構造体の構成成分として、モノクローナル抗体やそのフラグメント(例えば、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント、又はFab’フラグメントなど)中のメルカプト基と反応し得る脂質誘導体、例えばポリ(エチレングリコール)-α-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン-ω-マレインイミド、α-[N-(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォリル-エチル)カルバミル)-ω-{3-[2-(2,5-ジヒドロ-2,5-ジオキソ-1H-ピロール-1-イル)エタンカルボキサミド]プロピル}-ポリ(オキシ-1,2-エタンジル)などのマレインイミド構造を有する脂質誘導体を含有させることにより、モノクローナル抗体を脂質膜構造体の膜の表面に結合させることができる。

【0047】
本発明の脂質膜構造体の表面を連続した複数個のアルギニン残基を含むポリペプチド(以下、「ポリアルギニン」と呼ぶ。)で修飾してもよい。ポリアルギニンとしては、好ましくは4ないし20個の連続したアルギニン残基を含むポリペプチド、さらに好ましくは4ないし20個の連続したアルギニン残基のみからなるポリペプチド、特に好ましくはオクタアルギニンなどを用いることができる。リポソームなどの脂質膜構造体の表面をオクタアルギニンなどのポリアルギニンで修飾することにより、リポソームに封入された目的物質の細胞内送達効率を向上させることができる(Journal of Controlled Release, 98, pp.317-323, 2004; 国際公開WO2005/32593)。ポリアルギニンによる脂質膜構造体表面の修飾は、上記の刊行物に記載された方法に従って、例えば脂質修飾ポリアルギニン、例えばステアリル化オクタアルギニンなどを脂質膜構造体の構成脂質として使用することにより容易に行なうことができる。上記刊行物の開示及びこの刊行物において引用された全ての文献の開示を参照により本明細書の開示として含める。

【0048】
また、本発明の脂質膜構造体にsiRNAを封入する際に、必要に応じて核酸導入機能を有する化合物を加えることもできる。このような化合物としては、例えば、O,O'-N-ジドデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジテトラデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジヘキサデカノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O'-N-ジオクタデセノイル-N-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジエタノールアミンクロリド、O,O',O''-トリデカノイル-N-(ω-トリメチルアンモニオデカノイル)アミノメタンブロミド及びN-[α-トリメチルアンモニオアセチル]-ジドデシル-D-グルタメート、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキサミド)エチル)-N,N-ジメチル-1-プロパンアンモニウムトリフルオロアセテート、1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-ジメチル-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド、3-β-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロールなどを挙げることができる。これらの核酸導入機能を有する化合物は、脂質膜構造体の膜の任意の位置に配置されていてもよく、及び/又は脂質膜構造体の内部に充填されていてもよい。

【0049】
多機能性を付加したエンベロープ型ナノ構造体(MEND)が知られており、本発明の脂質膜構造体として好適に使用することができる。MENDとしては、例えば、プラスミドDNAなどの核酸とプロタミンなどのカチオン性ポリマーとの複合体をコアとし、このコアがリポソーム形態の脂質エンベロープ膜の内部に封入された構造を有するものが報告されている。また、MENDの脂質エンベロープ膜には、必要に応じてpH応答性や膜透過性を調節するためのペプチドを配置することができ、脂質エンベロープ膜の外側表面はポリエチレングリコールなどのアルキレングリコールで修飾することができることも報告されている。MENDの脂質エンベロープの内部に凝縮化されたDNA及びカチオン性ポリマーが封入され、効率的に遺伝子発現を達成できるように設計されたMENDも知られている。MENDについては、例えばDrug Delivery System, 22-2, pp.115-122, 2007などの総説を参照することができる。上記刊行物の開示及びこの総説において引用された全ての文献の開示を参照により本明細書の開示として含める。

【0050】
脂質膜構造体の形態は特に限定されないが、例えば、水系溶媒(例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水など)に分散された形態やこの水性分散物を凍結乾燥した形態などが挙げられる。

【0051】
脂質膜構造体の製造方法も特に限定されず、当業者に利用可能な任意の方法を採用することができる。一例を挙げれば、全ての脂質成分をクロロホルムなどの有機溶媒に溶解し、エバポレータによる減圧乾固や噴霧乾燥機による噴霧乾燥を行うことによって脂質膜を形成した後、水系溶媒を乾燥した上記の混合物に添加し、さらにホモジナイザーなどの乳化機、超音波乳化機、又は高圧噴射乳化機などにより乳化することで製造することができる。また、リポソームを製造する方法としてよく知られている方法、例えば逆相蒸発法などによっても製造することができる。脂質膜構造体の大きさを制御したい場合には、孔径のそろったメンブランフィルターなどを用いて、高圧下でイクストルージョン(押し出し濾過)を行えばよい。分散した状態の脂質膜構造体の大きさは特に限定されないが、例えば、リポソームの場合には粒子径が50 nmから5μm程度であり、50 nmから400 nm程度が好ましく、50 nmから300 nm程度が好ましく、150 nmから250 nm程度がより好ましい。粒子径は、例えばDLS(dynamic light scattering)法により測定することができる。

【0052】
水系溶媒(分散媒)の組成は特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩液などの緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地などを挙げることができる。これら水系溶媒(分散媒)は脂質膜構造体を安定に分散させることができるが、さらに、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトースなどの二糖類、ラフィノース、メレジノースなどの三糖類、シクロデキストリンなどの多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコールなどの糖(水溶液)や、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)などを加えてもよい。この水系溶媒に分散した脂質膜構造体を安定に長期間保存するには、凝集抑制などの物理的安定性の面から水系溶媒中の電解質を極力排除することが望ましい。また、脂質の化学的安定性の面からは水系溶媒のpHを弱酸性から中性付近(pH3.0から8.0程度)に設定し、及び/又は窒素バブリングなどにより溶存酸素を除去することが望ましい。

【0053】
得られた脂質膜構造体の水性分散物を凍結乾燥又は噴霧乾燥する場合には、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース糖の単糖類、乳糖、ショ糖、セロビオース、トレハロース、マルトースなどの二糖類、ラフィノース、メレジノースなどの三糖類、シクロデキストリンなどの多糖類、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトールなどの糖アルコールなどの糖(水溶液)を用いると安定性を改善できる場合がある。また、上記水性分散物を凍結する場合には、例えば、前記の糖類やグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、1,3-ブチレングリコールなどの多価アルコール(水溶液)を用いると安定性を改善できる場合がある。

【0054】
本発明の脂質膜構造体の内部には、siRNAの機能を阻害しない範囲で他の物質を封入することができる。封入可能な物質の種類は特に限定されないが、抗腫瘍剤、抗炎症剤、抗菌剤、抗ウイルス剤などの任意の医薬の有効成分のほか、糖類、ペプチド類、核酸類、低分子化合物、金属化合物など任意の物質を封入することができる。核酸としては、例えば遺伝子を含む核酸を挙げることができ、より具体的には、例えば、プラスミドに組み込まれた遺伝子などを挙げることができるが、この特定の態様に限定されることはない。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0056】
例1:YSK12の合成
【化2】
JP0006570188B2_000003t.gif
【実施例】
【0057】
上記のスキームに従ってリノール酸からYSK12を合成した。
(1) (9z,12z)-octadecadien-1-ol
4℃に冷却したテトラヒドロフラン(THF)190 mLに、水素化リチウムアルミニウム2.73 g(72 mmol)を懸濁した。そこへリノール酸10 g(36 mmol)を滴下し、10分間撹拌した。その後、オイルバスで加熱しながら一晩還流した。これを冷却した後、1 mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100 mLを加えて反応を停止させた。次に、酢酸エチル100 mLを加えて希釈した後、濾過し、濾液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。続いて、有機層を回収して、そこに無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、(9z,12z)-octadecadien-1-ol 8.68 g(32.6 mmol)を無色オイルとして得た。収率は91%であった。
(9z, 12z)-octadecadien-1-olのプロトン核磁気共鳴(1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.88 (t, 3H), 1.25-1.36 (m, 16H), 1.53-1.58 (m, 2H), 2.02-2.06 (m, 4H), 2.76 (t, 2H), 3.62 (t, 2H), 5.29-5.40 (m, 4H).
【実施例】
【0058】
(2) (9z,12z)-octadecadien-1-methanesulfonate
(9z,12z)-octadecadien-1-ol 8.68 g(32.6 mmol)を100 mLのジクロロメタンに溶解した後、N,N-dimethyl-4-aminopyridine(DMAP)366 mg(3.26 mmol)、triethylamine(TEA) 6.8 mL(48.9 mmol)を加えた。続いて、滴下ロートを用いて、50 mLのジクロロメタンで希釈したmethanesulfonyl chloride 3.03 mL(39.1 mmol)を滴下し、室温で一晩撹拌した。反応液を回収して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、(9z, 12z)-octadecadien-1-methanesulfonate 10.64 g(30.9 mmol)を無色オイルとして得た。収率は95%であった。
(9z, 12z)-octadecadien-1-methanesulfonateのプロトン核磁気共鳴(1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.88 (t, 3H), 1.06-1.18 (m, 18H), 1.70-1.90 (m, 2H), 2.00-2.19 (m, 4H), 2.79 (t, 2H), 3.06 (s, 3H), 4.20 (t, 2H), 5.21-5.42 (m, 4H).
【実施例】
【0059】
(3) 18-bromo-octadeca-(6z,9z)-diene
(9z,12z)-octadecadien-1-methanesulfonate 10.64 gを140 mLのジエチルエーテルに溶解した後、magnesium bromide ethyl etherate 16.0 g(61.8 mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。反応液を回収して、100 mLの飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、18-bromo-octadeca-(6z,9z)-diene 8.85 g(26.9 mmol)を無色オイルとして得た。収率は87%であった。
18-bromo-octadeca-(6z, 9z)-dieneのプロトン核磁気共鳴(1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.88 (t, 3H), 1.27-1.46 (m, 18H), 1.80-1.88 (m, 2H), 2.00-2.09 (m, 4H), 2.77 (t, 2H), 3.40 (t, 2H), 4.20 (d, 2H), 5.29-5.41 (m, 4H).
【実施例】
【0060】
(4) 4-[(9z,12z)-octadecadienyl]-(13z,16z)-tricosadien-1,4-diol
1.5 mLのジエチルエーテルに18-bromo-octadeca-(6z,9z)-diene 0.50 g(1.52 mmol)を溶解し、削り屑状マグネシウム609 mg(25.1 mmol)を加え、続いてヨウ素1欠片を加えた。室温で10分間静置した後、オイルバスで45℃に加熱しながら撹拌し、6 mLのジエチルエーテルに溶解した18-bromo-octadeca-(6z, 9z)-diene 5.0 g(15.2 mmol)を滴下した。45℃で1時間反応させた後、室温に冷却した。続いて、δ-バレロラクトン300 μL(3.23 mmol)を添加し、室温で1時間反応させた。次に、4℃に冷却し、濾過した後、濾液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して、4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-(13z, 16z)-tricosadien-1,4-diol 1.64 g(2.73 mmol)を無色オイルとして得た。δ-バレロラクトンからの収率は85%であった。
4-[(9z,12z)-octadecadienyl]-(13z,16z)-tricosadien-1,4-diolのプロトン核磁気共鳴(1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.88 (t, 6H), 1.25-1.1.46 (m, 46H), 2.02-2.06 (m, 8H), 2.77 (t, 4H), 3.66 (t, 2H), 5.30-5.40 (m, 8H).
【実施例】
【0061】
(5) 4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-1-p-toluenesulfonyl-(13z, 16z)-tricosadien-4-ol
4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-(13z, 16z)-tricosadien-1,4-diol 301 mg(0.50 mmol)を5.0 mLのジクロロメタンに溶解し、DMAP 6.11 mg(0.05 mmol)とTEA 83.6 μL(0.60 mmol)を加え、続いてp-toluenesulfonyl chloride 95.3 mg(0.50 mmol)を加えた後、室温で一晩撹拌した。続いて、反応液にシリカゲルを加え、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した。その後、シリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ヘキサン:酢酸エチル(連続勾配)}に供することにより精製して293 mg(0.39 mmol)を無色オイルとして得た。収率は78%であった。
4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-1-p-toluenesulfonyl-(13z, 16z)-tricosadien-4-olのプロトン核磁気共鳴(1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.88 (t, 3H), 1.25-1.49 (m, 46H), 2.03-2.05 (m, 8H), 2.44 (s, 3H), 2.77 (t, 4H), 4.03 (t, 2H), 5.31-5.39 (m, 8H), 7.34 (d, 2H), 7.78 (d, 2H).
【実施例】
【0062】
(6) 1-N,N-dimethylamino-4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-(13z, 16z)-tricosadien-4-ol 293 mg(0.39 mmol)に10 mLの 2.0 M dimethylamineのテトラヒドロフラン溶液を加え、室温で一晩反応させた。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去した後、100 mLのジクロロメタンを加え、100 mLの0.1 M水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した。続いて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水した。これを濾過した後、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー{溶離溶媒;ジクロロメタン:メタノール(連続勾配)}に供することで精製して 155 mg(0.25 mmol)を薄黄色オイルとして得た。収率は64%であった。
1-N,N-dimethylamino-4-[(9z, 12z)-octadecadienyl]-(13z, 16z)-tricosadien-4-olのプロトン核磁気共鳴(1H NMR;500 MHz)データ
δ=0.87 (t, 6H), 1.23-1.40 (m, 46H), 2.02-2.07 (m, 8H), 2.26 (s, 6H), 2.33 (t, 2H), 2.77 (t, 4H), 5.31-5.39 (m, 8H).
【実施例】
【0063】
例2:YSK12-MENDの調製
YSK12-MENDをアルコール希釈法により調製した。総脂質量が505 nmolとなるようにYSK12、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、コレステロール(Chol)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロール、メトキシポリエチレングリコール2000 (DMG-PEG 2000)を含む90% t-ブタノール溶液400 μlに撹拌下でsiRNA 600 pmolを含む水溶液を200 μl添加した。さらに撹拌下で20 mMのクエン酸緩衝液を2 ml添加し、続いて3.5 mlのPBSを添加後に限外ろ過を行った。
【実施例】
【0064】
マウス樹状細胞を用いてYSK12-MENDの脂質組成の最適化を行った。SR-B1を標的としたsiRNAを用いて6×105個の樹状細胞に対して血清非存在下でsiRNA濃度5 nMと10 nMでトランスフェクションし、2時間後に血清入り培地を添加して22時間後に細胞を回収し、ノックダウン効率を評価した(Warashina S. et al., Biol. Pharm. Bull., 34, pp.1348-2351, 2011)。ノックダウン効率の評価は、リアルタイムRT-PCRによりmRNA量を定量することで行った。その結果、YSK12の割合は85%(図1)、DMG-PEG2000の割合は1%(図2)、POPC/Cholも割合は0%/15%(図3)のときに最も高いノックダウン効率が得られた。この結果から、YSK12/Chol=85/15、DMG-PEG2000 1mol%を最適組成とした。最適化したYSK12-MENDは粒子径180 ±6nm、多分散度指数(PDI)0.071±0.023、ゼータ電位5.8 ±0.6mVであり、siRNAの封入率(%)は94.2±0.8であった。
【実施例】
【0065】
細胞親和性素子であるオクタアルギニン(R8)ペプチドとエンドソーム脱出性素子であるGALAペプチドで修飾することによりMENDのエンベロープ膜枚数を制御したナノキャリアであるR8/GALA-D-MEND(D-MEND: J. Control. Release, 143, pp.311-317, 2010)及び市販試薬としてはノックダウン効率が最も優れていると考えられるLFN RNAi MAXとノックダウン効率のED50を比較した結果、YSK12-MEND、D-MEND、及びLFN RNAi MAXのED50はそれぞれ1.5 nM、70 nM、及び25 nMであり、YSK12-MENDはD-MENDの47倍、LFN RNAi MAXの17倍のノックダウン効率を示した(図4)。また、マウス樹状細胞へのトランスフェクション2時間後の細胞毒性をMTS assayを用いて評価したところ、YSK12-MEND、D-MEND、及びLFN RNAi MAX処理による顕著な細胞毒性は認められなかった(図5)。
【実施例】
【0066】
共焦点レーザ走査型顕微鏡を用いて、マウス樹状細胞におけるYSK12-MEND、D-MEND、及びLFN RNAi MAXの6時間後の細胞内動態を観察した結果、YSK12-MENDを処理した樹状細胞において赤色蛍光でラベルしたsiRNAが細胞内に多数認められたことから、YSK12-MENDはエンドソーム(緑蛍光)から非常に効率よく脱出し、siRNAを細胞質に送達できることが明らかになった(図6)。また、YSK12-MENDでは酸性コンパートメントを示す緑色蛍光が細胞内に認められないこと(図6)、及び高い膜破壊作用を示すこと(図7及び8)から、エンドソーム膜を破壊することでsiRNAを細胞質に送達させていることが示唆された。以上の結果から、YSK12-MENDは高い膜破壊作用により細胞に取り込まれた後の細胞内動態、特にエンドソーム脱出を大きく向上させることで、高いノックダウン効率を示すと考えられる。
【実施例】
【0067】
YSK12-MEND、D-MEND、及びLFN RNAi MAXを用いて、樹状細胞における抑制因子であるSOCS1のノックダウン効率を評価した。その結果、YSK12-MENDは、3、10、30 nMのdoseにおいて約80%のノックダウン効率を示した(図9)。またSOCS1をノックダウンした樹状細胞をIFN-γを添加することで活性化させ、24時間後までに産生されたサイトカイン(TNF-α、IL-6)をELISA法により測定した結果、トランスフェクションしたsiRNA量依存的なTNF-α、IL-6産生の増強が認められた(図10)。
【実施例】
【0068】
さらに、樹状細胞療法による癌ワクチンとしての機能を評価した。YSK12-MEND、D-MEND、及びLFN RNAi MAXを用いて、SOCS1に対するsiRNAもしくはコントロールsiRNAを導入した樹状細胞(5×105個)に抗原としてovalbumin(OVA)を取り込ませ、マウスの足蹠に免疫し、1週間後にOVAを発現するマウスリンパ腫細胞(E.G7-OVA)を1×106個皮下移植した。経時的に腫瘍体積を測定した結果、D-MEND、LFN RNAi MAXを用いてSOCS1をノックダウンしたDCを投与したマウス群では、コントロール群と比較して有意な抗腫瘍活性が認められたものの、腫瘍の成長を抑制することはできなかった(図11)。一方、YSK12-MENDを用いてSOCS1をノックダウンしたDCを投与したマウス群では、腫瘍の生着が完全に抑制された(図11)。
【実施例】
【0069】
例3:THP-1細胞(ヒト単球株)に対する遺伝子発現抑制
GAPDH silencer siRNA又はcontrol silencer siRNAを封入したYSK12-MENDを例2と同様の方法で調製した。12ウエルプレートにOPTI-MENDに懸濁した細胞を6×105cell/wellとなるように播種し、さらにsiRNAの終濃度が3、10、及び30 nMになるようにYSK12-MEND又はLipofectamineRNAiMAXを加えた。2時間培養後、血清入り培養培地を添加して22時間培養した。その後、細胞を回収しリアルタイムRT-PCR法によりmRNA量を評価した。結果を図12に示す。LipofectamineRNAiMAXと比較してYSK12-MENDではより効率的に遺伝子ノックダウンが達成できることが示された。
【実施例】
【0070】
例4:Jurkat細胞(ヒトT細胞株)に対する遺伝子発現抑制
GAPDH silencer siRNAを封入したYSK12-MENDを例2と同様の方法で調製した。12ウエルプレートにOPTI-MENDに懸濁した細胞を6×105 cell/wellとなるように播種し、さらにsiRNAの終濃度が1及び3 nMになるようにYSK12-MENDを加えた。2時間培養後、血清入り培養培地を添加して22時間培養した。その後、細胞を回収しリアルタイムRT-PCR法によりmRNA量を評価した。結果を図13に示す。例3におけるTHP-1と同レベルの効率的な遺伝子ノックダウンが達成できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により提供される脂質膜構造体は、樹状細胞を含む免疫細胞などのsiRNAが導入困難な任意の細胞の細胞内に効率的に移行し、エンドソームから効率的に脱出することができることから、封入されたsiRNAを細胞内において効率的に放出して該siRNAにより標的遺伝子をノックアウトすることができる。従って、本発明の脂質膜構造体を用いて、例えばがん治療においてsiRNAを利用した有効な免疫療法、好ましくは樹状細胞療法を行うことができる。また、本発明により提供される脂質化合物を脂質成分として用いてリポソームなどの脂質膜構造体を調製すると、非常に高いエンドソーム脱出性が達成され、該脂質化合物を含む脂質膜構造体から細胞質中にsiRNAを効率よく送達することが可能になる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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