TOP > 国内特許検索 > マウス精子の冷蔵保存液及び保存方法 > 明細書

明細書 :マウス精子の冷蔵保存液及び保存方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-087163 (P2018-087163A)
公開日 平成30年6月7日(2018.6.7)
発明の名称または考案の名称 マウス精子の冷蔵保存液及び保存方法
国際特許分類 A01N   1/00        (2006.01)
C12N   1/04        (2006.01)
C12N   5/076       (2010.01)
FI A01N 1/00
C12N 1/04
C12N 5/076
請求項の数または発明の数 22
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2016-230757 (P2016-230757)
出願日 平成28年11月29日(2016.11.29)
発明者または考案者 【氏名】中潟 直己
【氏名】竹尾 透
【氏名】吉本 英高
出願人 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100102015、【弁理士】、【氏名又は名称】大澤 健一
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4H011
Fターム 4B065AA91X
4B065AC20
4B065BC03
4B065BC07
4B065BD09
4B065BD34
4B065CA60
4H011BA06
4H011BB07
4H011BB08
4H011BC08
4H011CA01
4H011CB08
4H011CD02
要約 【課題】本発明の目的は、マウス精子の冷蔵保存に関し、従来技術より長期間の冷蔵保存が可能な保存液および方法を提供することである。
【解決手段】マウス精子上体尾部中に保持されたマウス精子を冷蔵保存するための保存液であって、ジメチルスルフォオキサイド、またはジメチルスルフォオキサイドおよびケルセチンを含有する保存液、および該保存液をもちいたマウス精子の冷蔵保存方法が提供される。本発明により冷蔵保存されたマウス精子は、高い受精率及び運動能を保持できる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
マウス精子を冷蔵保存するための保存液であって、ジメチルスルフォオキサイドを1%以上の濃度にて含有する保存液。
【請求項2】
ジメチルスルフォオキサイドの濃度が5%以上である請求項1に記載の保存液。
【請求項3】
マウス精子を冷蔵保存するための保存液であって、ケルセチンおよびジメチルスルフォオキサイドを含有する保存液。
【請求項4】
前記マウス精子がマウス精巣上体尾部中に保持されたマウス精子である請求項3に記載の保存液。
【請求項5】
ケルセチン濃度が10μg/ml~200μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が1%~20%である、請求項4に記載の保存液。
【請求項6】
ケルセチン濃度が50μg/ml以上であり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が5%以上である、請求項5に記載の保存液。
【請求項7】
前記マウス精子がマウス精子懸濁液である請求項3に記載の保存液。
【請求項8】
ケルセチン濃度が10μg/ml~100μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が1%~10%である、請求項7に記載の保存液。
【請求項9】
ケルセチン濃度が10μg/ml~50μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が1%~5%である、請求項8に記載の保存液。
【請求項10】
前記保存液が、ジメチルスルフォオキサイドまたはケルセチンを含有するLifor(登録商標)保存液またはM2保存液である請求項1~9のいずれか一つに記載の保存液。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一つに記載の保存液を用いてマウス精子を保存する方法。
【請求項12】
マウス精子を冷蔵保存するための保存液のキットであって、ケルセチン、ジメチルスルフォオキサイド、および保存液からなるキット。
【請求項13】
ケルセチンをジメチルスルフォオキサイドに溶解した後、保存液と混合した場合、ケルセチンの最終濃度が10μg/ml~200μg/ml、ジメチルスルフォオキサイドの最終濃度が1%~20%となるように組み合わされている、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
前記保存液が、Lifor(登録商標)保存液またはM2保存液である請求項12または13に記載のキット。
【請求項15】
ジメチルスルフォオキサイドを1%以上の濃度にて含有する保存液中に雄マウスから摘出したマウス精巣上体尾部を浸漬し、4℃~10℃の温度にて冷蔵保存する工程を含む、マウス精子の冷蔵保存方法。
【請求項16】
ジメチルスルフォオキサイドの濃度が5%以上である請求項15に記載の冷蔵保存方法。
【請求項17】
ケルセチンおよびジメチルスルフォオキサイドを含有する保存液中に雄マウスから摘出したマウス精巣上体尾部を浸漬し、4℃~10℃の温度にて冷蔵保存する工程を含む、マウス精子の冷蔵保存方法。
【請求項18】
ケルセチン濃度が10μg/ml~200μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が1%~20%の濃度である、請求項17に記載の冷蔵保存方法。
【請求項19】
ケルセチン濃度が50μg/ml~100μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が5%~10%の濃度である、請求項18に記載の冷蔵保存方法。
【請求項20】
ケルセチンおよびジメチルスルフォオキサイドを含有する保存液中に雄マウスから得られたマウス精子を懸濁し、該精子懸濁液を、4℃~10℃の温度にて冷蔵保存する工程を含む、マウス精子の冷蔵保存方法。
【請求項21】
前記保存液が、ケルセチン濃度が10μg/ml~50μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が1%~5%である請求項20に記載の冷蔵保存方法。
【請求項22】
前記保存液が、ジメチルスルフォオキサイドまたはケルセチンを含有するLifor(登録商標)保存液またはM2保存液である請求項15~21のいずれか一つに記載の冷蔵保存方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスの精子を冷蔵保存するための保存液および保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子改変マウスを用いた研究を支援する機関として、マウスバンクが世界中に設立されており、遺伝子改変マウスは、遺伝子機能の解析およびヒト疾患のモデル動物として、医学研究に広く利用されている。ほとんどのマウスバンクは、遺伝子改変マウスを収集、保管および供給する機能を担っており、研究者は必要に応じてそれらマウスを容易に入手することが可能である。
【0003】
現在、遺伝子改変マウスの輸送方法として、生体、凍結精子あるいは凍結胚による輸送が利用されている。生体による輸送は、微生物学的汚染の拡大、輸送中の逃亡や死亡のリスク、遺伝子組み換え生物の使用に関する法規制および実験動物の福祉の観点から多くの課題がある。一方、凍結精子または凍結胚による輸送では、輸送中にドライシッパーなど専用の輸送容器が必要であり、凍結精子や凍結胚を作製するために専門の技術を習得しなければならない等の欠点があることから、これらの方法に代替する新規輸送技術の開発が求められている。
【0004】
そこで、上記方法に替わる簡便な輸送技術として、マウス精巣上体尾部の冷蔵保存法の開発が進められてきた。この方法は、成熟した精子を貯蔵する雄性生殖器官である精巣上体尾部を冷蔵保存液に浸漬し、低温条件下で精子を輸送する技術である。輸送された精巣上体尾部から精子を回収し、体外受精および胚移植を行うことで、特定の病原体を持たないマウス個体を作製することが可能である。
【0005】
これまで、マウス精巣上体尾部の冷蔵保存において、流動パラフィンやミネラルオイルを冷蔵保存液として用いた場合、冷蔵保存精巣上体尾部から採取した精子の受精能保持時間はせいぜい1日であった。そこで、本発明者らは、透明帯をレーザーで穿孔した卵子を用いて体外受精を行うことにより、受精率を向上さることに成功した。しかしながら、レーザー穿孔卵の作製には、高価な装置や専門の技術が必要となること、また、レーザー穿孔により胚の発生能が低下するため、冷蔵保存液そのものの改良が望まれた。
【0006】
本発明者らは様々な保存液を検討した結果、ヒト臓器の冷蔵保存液であるLifor(登録商標)保存液(Lifeblood Medical, Inc.) が、流動パラフィン、M2培地およびCPS-1に比べて、高い低温保護効果を示すことを見いだし報告した(非特許文献1)。Liforは、栄養素、成長因子、および非タンパク性の酸素および栄養素のキャリアを含む人工の保存液である。
【0007】
また本発明者らは、メチル-β-シクロデキストリン(MBCD)と還元グルタチオン(GSH)を体外受精に用いることにより、マウス凍結精子に対して受精率を改善したこと、および、その技術は冷蔵精子に対しても受精率改善に有効であることを報告した(非特許文献2、非特許文献3、特許文献1、特許文献2)。これらの技術改良により、マウス精子の冷蔵保存期間は、3日間まで延長することができた。
【0008】
現在、日本国内における精巣上体尾部の冷蔵輸送は、3日間の輸送時間があれば可能である。しかしながら、国際輸送では、輸送時のトラブルや通関の遅延等の理由で、輸送時間が延長することがあり、高い受精能を維持した精子を輸送するには、更なる冷蔵保存期間の延長が必要である。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2006-204180号公報
【特許文献2】国際公開WO2012/036107号公報
【特許文献3】国際公開WO2013/047665号公報
【特許文献4】国際公開WO2014/162910号公報
【0010】

【非特許文献1】竹尾ら(2012)Cryobiology 65(3): 163-168
【非特許文献2】竹尾ら(2008)Biology of Reproduction 78: 546-551
【非特許文献3】竹尾ら(2011)Biology of Reproduction 85: 1066-1072
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、精子の冷蔵保存に関し、従来技術より長期間の冷蔵保存が可能な保存液および保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究をした結果、精子、特には精子を含む精巣上体尾部の冷蔵保存において、ジメチルスルフォオキサイド(DMSO)、またはケルセチン (quercetin)およびジメチルスルフォオキサイド (DMSO)の組合せを用いることにより、より長い期間、冷蔵保存した精子においても高い受精率及び運動能を保持できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明は以下のものを含む。
(1)マウス精子を冷蔵保存するための保存液であって、ジメチルスルフォオキサイドを1%以上の濃度にて含有する保存液。
(2)ジメチルスルフォオキサイドの濃度が5%以上である前記(1)に記載の保存液。
(3)マウス精子を冷蔵保存するための保存液であって、ケルセチンおよびジメチルスルフォオキサイドを含有する保存液。
(4)前記マウス精子がマウス精巣上体尾部中に保持されたマウス精子である前記(3)に記載の保存液。
(5)ケルセチン濃度が10μg/ml~200μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が1%~20%である、前記(4)に記載の保存液。
(6)ケルセチン濃度が50μg/ml以上であり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が5%以上である、前記(5)に記載の保存液。
(7)前記マウス精子がマウス精子懸濁液である前記(3)に記載の保存液。
(8)ケルセチン濃度が10μg/ml~100μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が1%~10%である、前記(7)に記載の保存液。
(9)ケルセチン濃度が10μg/ml~50μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が1%~5%である、前記(8)に記載の保存液。
(10)前記保存液が、ジメチルスルフォオキサイドまたはケルセチンを含有するLifor(登録商標)保存液またはM2保存液である前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の保存液。
(11)前記(1)~(10)のいずれか一つに記載の保存液を用いてマウス精子を保存する方法。
(12)マウス精子を冷蔵保存するための保存液のキットであって、ケルセチン、ジメチルスルフォオキサイド、および保存液からなるキット。
(13)ケルセチンをジメチルスルフォオキサイドに溶解した後、保存液と混合した場合、ケルセチンの最終濃度が10μg/ml~200μg/ml、ジメチルスルフォオキサイドの最終濃度が1%~20%となるように組み合わされている、前記(12)に記載のキット。
(14)前記保存液が、Lifor(登録商標)保存液またはM2保存液である前記(12)または(13)に記載のキット。
(15)ジメチルスルフォオキサイドを1%以上の濃度にて含有する保存液中に雄マウスから摘出したマウス精巣上体尾部を浸漬し、4℃~10℃の温度にて冷蔵保存する工程を含む、マウス精子の冷蔵保存方法。
(16)ジメチルスルフォオキサイドの濃度が5%以上である前記(15)に記載の冷蔵保存方法。
(17)ケルセチンおよびジメチルスルフォオキサイドを含有する保存液中に雄マウスから摘出したマウス精巣上体尾部を浸漬し、4℃~10℃の温度にて冷蔵保存する工程を含む、マウス精子の冷蔵保存方法。
(18)ケルセチン濃度が10μg/ml~200μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が1%~20%の濃度である、前記(17)に記載の冷蔵保存方法。
(19)ケルセチン濃度が50μg/ml~100μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が5%~10%の濃度である、前記(18)に記載の冷蔵保存方法。
(20)ケルセチンおよびジメチルスルフォオキサイドを含有する保存液中に雄マウスから得られたマウス精子を懸濁し、該精子懸濁液を、4℃~10℃の温度にて冷蔵保存する工程を含む、マウス精子の冷蔵保存方法。
(21)前記保存液が、ケルセチン濃度が10μg/ml~50μg/mlであり、ジメチルスルフォオキサイドの濃度が1%~5%である前記(20)に記載の冷蔵保存方法。
(22)前記保存液が、ジメチルスルフォオキサイドまたはケルセチンを含有するLifor(登録商標)保存液またはM2保存液である前記(15)~(21)のいずれか一つに記載の冷蔵保存方法。
【0014】
本発明の一つの態様は、マウス精子の冷蔵保存に関し、従来技術より長期間の冷蔵保存が可能な保存液および保存方法を提供するものである。
本発明の別の一つの態様は、マウスの精子を例えば7日間冷蔵保存した後でも、実用上問題のない運動能、受精能および産子発生能を達成できる精子を提供できる冷蔵保存液および冷蔵保存方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の保存液及び保存方法により、従来技術より長期間にわたり、マウス精子を冷蔵保存できる。また、本発明を用いて保存されたマウス精子は、実用上問題のない運動能、受精能および産子発生能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】精子の運動能に関し、精巣上体尾部の冷蔵保存におけるジメチルスルフォオキサイド(DMSO)またはDMSO+ケルセチン(Que)の影響を検討した結果である。図AおよびBは4日間冷蔵保存精子の結果、図CおよびDは7日間冷蔵保存精子の結果を示した。図AおよびCは、精子全体数のうち、運動能を持つ精子(Motile sperm)の割合を示した。図BおよびDは、精子全体数のうち、前進運動能を持つ精子(Progressive motile sperm)の割合を示した。測定値は平均値±標準偏差で示した(n=3)。*P<0.05は、各実験区におけるLiforの値と比較した。
【図2】精子の受精能に関し、精巣上体尾部の冷蔵保存におけるDMSOまたはDMSO+Queの影響を検討した結果である。測定値は平均値±標準偏差で示した(n=4)。*P<0.05は、Liforの値と比較した。
【図3】精子の運動能に関し、精巣上体尾部の冷蔵保存におけるDMSOの影響を検討した結果である。図Aは、精子全体数のうち、運動能を持つ精子(Motile sperm)の割合を示した。図Bは、精子全体数のうち、前進運動能を持つ精子(Progressive motile sperm)の割合を示した。測定値は平均値±標準偏差で示した(n=3~5)。*P<0.05は、各実験区における新鮮精子(0日)の値と比較した。
【図4】精子の運動能に関し、精巣上体尾部の冷蔵保存におけるDMSO+Queの影響を検討した結果である。図Aは、精子全体数のうち、運動能を持つ精子(Motile sperm)の割合を示した。図Bは、精子全体数のうち、前進運動能を持つ精子(Progressive motile sperm)の割合を示した。測定値は平均値±標準偏差で示した(n=3~5)。*P<0.05は、各実験区における新鮮精子(0日)の値と比較した。
【図5】精子の受精能に関し、精巣上体尾部の冷蔵保存におけるDMSOまたはDMSO+Queの影響を検討した結果である。測定値は平均値±標準偏差で示した(n=3~5)。*P<0.05は、各実験区における新鮮精子(0日)の値と比較した。
【図6】国内冷蔵輸送試験における冷蔵輸送キット内部の温度変化を示した結果である。
【図7】国内冷蔵輸送における、精子の運動能に対するQueの効果を検討した結果である。図Aは、精子全体数のうち、運動能を持つ精子(Motile sperm)の割合を示した。図Bは、精子全体数のうち、前進運動能を持つ精子(Progressive motile sperm)の割合を示した。測定値は平均値±標準偏差で示した(n=3)。*P<0.05は、Liforの値と比較した。
【図8】国内冷蔵輸送における、精子の受精能に対するQueの効果を検討した結果である。*P<0.05は、Liforの値と比較して算出した。
【図9】M2保存液を用いて冷蔵保存を行った結果である。精子全体数のうち、運動能を持つ精子(motile)の割合および前進運動能を持つ精子(progressive)の割合を示した。測定値は平均値±標準偏差で示した(n=4)。異文字間に有意差あり(大文字:P<0.01,小文字:P<0.05)。
【図10】精子の運動能に関し、精子懸濁液の冷蔵保存におけるDMSOまたはDMSO+Queの影響を検討した結果である。精子全体数のうち、運動能を持つ精子(motile)の割合および前進運動能を持つ精子(progressive)の割合を示した。測定値は平均値±標準偏差で示した(n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として詳細に説明するが、本発明は以下に記載の実施態様に限定されるものではない。
なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等又は同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。
また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。

【0018】
本明細書中で、「X~Y」という表現を用いた場合は、下限としてXを、上限としてYを含む意味で用いる。

【0019】
本発明者らは、ケルセチンに着目し、マウス精子の冷蔵保存、特に精巣上体尾部の冷蔵保存に対するケルセチンの効果を確認した。
フラボノイド配糖体化合物であるケルセチングルコシドは、生体材料の低温保存用の保存剤として提案されており、細胞の生存率が高められ低温障害保護効果が得られると報告されている(特許文献3)。また、同じ発明者により、フラボノイド配糖体化合物(例えば、ケルセチングルコシド)に加えてフラボノイド化合物(例えば、ケルセチン)を含む生体材料の低温保存用の保存剤も提案されている(特許文献4)。ここでは、フラボノイド配糖体化合物単独では低温障害保護効果がほとんど認められないか、十分な効果が得られない濃度範囲で、フラボノイド配糖体化合物とフラボノイド化合物を併用することにより、両者が相乗的に作用して低温障害保護効果が得られると記載されている。

【0020】
本発明者らはまた、ジメチルスルフォオキサイドに精子保護効果があることを見いだし、ジメチルスルフォオキサイドにより、精子の冷蔵保存期間、特には精巣上体尾部の冷蔵保存期間を延長できることを確認した。
そして、ジメチルスルフォオキサイド単独、またはケルセチンとジメチルスルフォオキサイドを組み合わせて用いることにより、従来の方法より長い期間、精子を冷蔵保存できることを確認し、冷蔵保存されたマウス精子は、実用上問題のない運動能、受精能および産子発生能を有することを確認した。組み合わせて用いた場合、効果は特に顕著である。

【0021】
本発明において用いるケルセチン(クエルセチンともよばれる)とは、フラボノイドの一種で、以下の式で表される化合物であり、本発明においては、ケルセチン、およびその水和物や塩のいずれも用いることができる。本明細書中で、ケルセチンという場合は、ケルセチンおよびその水和物や塩を含む意味で用いられる。

【0022】
【化1】
JP2018087163A_000003t.gif

ケルセチンは市販されている。市販のケルセチンは、例えば、水和物として販売されているが、それを本発明において制限なく用いることができる。
ジメチルスルフォオキサイドは、市販されているものを、本発明において制限なく用いることができる。

【0023】
本発明において冷蔵保存とは、0℃~10℃、好ましくは4℃~8℃での保存をいう。冷蔵保存では、精巣上体尾部をマウスから摘出した後、本発明の保存液中に浸漬し、できる限り早くに10℃以下、好ましくは8℃以下にすることが好ましい。懸濁した精子の冷蔵保存の際は、マウスから摘出した精巣上体尾部から精子を回収した後、その懸濁液を本発明の保存液中に混合し、できる限り早くに10℃以下、好ましくは8℃以下にすることが好ましい。

【0024】
本発明の保存液中で冷蔵保存されるまたは本発明の保存方法で冷蔵保存されるマウス精子は、マウス精子懸濁液の精子および精巣上体尾部中に含まれる精子のいずれも含むが、精巣上体尾部中に保持された状態で保存されるのが好ましい。また、雄マウスからの精巣上体尾部の摘出および保存液中への浸漬等の操作は、公知の方法に従って行うことができる。
本発明で冷蔵保存されるマウス精子が由来するマウスの種類は特に制限なく、いずれの種類のまたは系統のマウスでもよい。

【0025】
本発明の保存液におけるケルセチンの濃度は、精巣上体尾部の保存の場合は、通常、1~1000μg/ml、好ましくは10~200μg/ml、より好ましくは50~200μg/ml、さらに好ましくは50~100μg/mlであり、精子懸濁液の保存の場合は、通常、1~1000μg/ml、好ましくは10~200μg/ml、より好ましくは10~100μg/ml、さらに好ましくは10~50μg/mlである。

【0026】
本発明の保存液におけるジメチルスルフォオキサイドの濃度は、精巣上体尾部の保存の場合は、通常、1~20%、好ましくは5~20%、より好ましくは5~10%であり、精子懸濁液の場合は、通常、1~20%、好ましくは1~10%、より好ましくは1~5%である。

【0027】
本発明の保存液は、細胞または組織、好ましくは胚または精子の凍結または冷蔵保存液として用いられている任意の公知の保存液に、ジメチルスルフォオキサイド単独、またはケルセチンおよびジメチルスルフォオキサイドの組合せを上記の濃度で添加することにより調製できる。公知の保存液としては、これに限定されないが、例えば、Lifor(登録商標)保存液(Lifeblood Medical, Inc.により販売されている)、M2保存液(複数のメーカーから市販されている)をあげることができる。
ケルセチンおよびジメチルスルフォオキサイドの組合せを添加する場合、ケルセチンが難水溶性であるので、目的の最終濃度となるようにしてケルセチンをジメチルスルフォオキサイドに溶解した後、その溶解液を保存液に添加することが好ましい。

【0028】
本発明の保存液は、用時調製可能なキットを含むものであり、具体的には、これに限定されないが、ケルセチン、ジメチルスルフォオキサイド、および保存液のキットからなるマウス精子保存液のキットを含むものである。
本発明の保存液のキットにおいては、ケルセチンをジメチルスルフォオキサイドに溶解した後、その全量または一定量を保存液と混合した場合、ケルセチンの最終濃度およびジメチルスルフォオキサイドの最終濃度が所定の濃度となるように組み合わされている。ケルセチンおよびジメチルスルフォオキサイドの最終濃度は、それぞれ、上記した濃度である。保存液は、細胞または組織、好ましくは胚または精子の凍結または冷蔵保存液として用いられている任意の公知の保存液を用いることができ、これに限定されないが、例えば、Lifor保存液、M2保存液をあげることができる。

【0029】
本発明の方法は、以下の工程(a)、(b)を含む精子の冷蔵保存方法である。以下、マウスを例に説明する。
工程(a):雄マウスからマウス精巣上体尾部を摘出する工程。マウス精巣上体尾部の摘出は常法に基づいて行うことができるが、たとえば、本発明者らの文献(非特許文献1)を参照することができる。
工程(b):摘出したマウス精巣上体尾部を、ジメチルスルフォオキサイド、または、ジメチルスルフォオキサイドおよびケルセチンを含有する保存液中へ浸漬し、4℃~10℃の温度にて冷蔵保存する工程。保存液中への浸漬操作および冷蔵保存方法は、常法に従い行うことができる。
或いは、摘出したマウス精巣上体尾部から精子を分離し、本発明の保存液に精子を懸濁し、マウス精子懸濁液として、4℃~10℃の温度にて冷蔵保存する。
ジメチルスルフォオキサイドおよびケルセチンの含有量、および保存液については、本発明の保存液に関して記載した濃度を本発明の方法においてもそのまま適用できる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
1.材料と方法
(1-1)動物
精子および卵子の採取には、性成熟期に達した雄(10~15週齢)および雌(8~12週齢)のC57BL/6Jマウス(日本クレア)を使用した。胚移植用のレシピエントマウスおよび精管結紮雄には、成熟雄(12~20週齢)および雌(8~12週齢)のICRマウス(日本クレア)を用いた。飼育環境は、7時から19時までの明期、19時から7時までの暗期、室温は22±1℃、固形飼料および水は不断給与した。なお、全ての動物実験は、熊本大学動物実験指針に準じて行った。
【実施例】
【0032】
(1-2)保存液および培地
(i)精巣上体尾部冷蔵保存液
精巣上体尾部の冷蔵保存液は、Lifor(登録商標)保存液(Lifeblood Medical,Inc.)(以下、”Lifor”と略す)またはM2保存液(Sigma-Aldrich)を使用した。以下の実験例において、ジメチルスルフォオキサイド(DMSO)は、最終濃度が1、5、10%(v/v)になるようLiforに添加した。また、ケルセチン(以下、”Que”と略す)は、1 mg/mLとなるようにDMSOに溶解し、Queの最終濃度が1、5、100 μg/mLになるようLiforに添加した。
【実施例】
【0033】
(ii)精子前培養培地および体外受精培地
精子前培養培地はmodified Krebs-Ringer bicarbonate solution(TYH)よりBSAを除去したfree-TYHに、0.75 mMのメチル-β-シクロデキストリン(MBCD)および100 mg/100mLのポリビニルアルコールを添加したcTYHを使用した。また、体外受精培地には、1.0 mMの還元グルタチオン(GSH)を含有したmodified human tubal fluid(mHTF)を使用した。なお、調製した培地は、フィルター濾過(0.22 μm)により滅菌した後、4℃で保存した。
【実施例】
【0034】
(iii)胚培養培地
体外受精により得られた胚は、potassium simplex optimized medium(KSOM)により、胚盤胞期まで体外培養を行った。なお、調製した培地は、フィルター濾過(0.22 μm)により滅菌した後、4℃で保存した。
【実施例】
【0035】
(1-3)精子の回収
(i)新鮮精子
精子は、安楽死させた成熟雄マウスの精巣上体尾部から採取した。採取した精子は、100 μLのcTYHに導入し、37℃、5% CO2のインキュベーター中で、60分間の前培養を行い、各検討に用いた。
(ii)冷蔵保存精子(精子懸濁液)
精子懸濁液の冷蔵保存には、予め冷蔵したCARD冷蔵輸送キット(九動株式会社)を使用した。精子は、安楽死させた成熟雄マウスの精巣上体尾部から採取した。採取した精子は、冷蔵保存液であるM2保存液に各種濃度のDMSOおよびQueを添加した冷蔵保存液に導入して精子懸濁液にした。その後、精子懸濁液を0.2 mLチューブに移した。続いて、ボタン温度計とともにチューブを紙箱に入れ、紙箱を魔法瓶に封入した後に、保冷剤と共に発泡スチロールの箱に梱包した。保存容器は、使用するまで冷蔵庫内(4℃)で保存した(3日間)。保存後、精子懸濁液を回収し、遠心処理(600g、4℃、5分)によって冷蔵保存液を除去した。その後、100 μLの精子前培養培地中に精子を導入した。導入した精子は、インキュベーター中で、37℃、5% CO2にて、60分間の前培養を行い、各検討に用いた。
【実施例】
【0036】
(ii)冷蔵保存精子(精巣上体尾部)
精巣上体尾部の保存は、竹尾らの方法に従って行った(非特許文献1)。精巣上体尾部の冷蔵保存には、予め冷蔵したCARD冷蔵輸送キット(九動株式会社)を使用した。精巣上体尾部の保存は、まず、安楽死させた成熟雄マウスから精巣上体尾部を採取し、冷蔵保存液であるLiforまたはM2保存液に各種濃度のDMSOおよびQueを添加した冷蔵保存液で満たした0.2 mLチューブに精巣上体尾部を移した。続いて、ボタン温度計とともにチューブを紙箱に入れ、紙箱を魔法瓶に封入した後に、保冷剤と共に発泡スチロールの箱に梱包した。保存容器は、使用するまで冷蔵庫内(4℃)で保存した(~7日間)。保存後、精巣上体尾部を回収し、100 μLの精子前培養培地中に精子を採取した。採精後、インキュベーター中で、37℃、5% CO2にて、60分間の前培養を行い、各検討に用いた。保存0日は、成熟雄マウスから採取した精巣上体尾部から、精子前培養培地中に精子を採取して用いた。
【実施例】
【0037】
(1-4)精子運動能の評価
前培養した精子をmHTFにより希釈し、専用チャンバー(Hamilton Thorne, Inc.)に精子を導入した。その後、HTM-IVOS(Hamilton Thorne, Inc.)にセットし、精子運動能を解析した。運動能を持つ精子(Motile sperm)の割合(%)は、精子全体数のうち、1秒間に5 μm 以上動いた精子の割合を示した。前進運動能を持つ精子(Progressive motile sperm)の割合(%)は、精子全体数のうち、精子進行方向性速度の平均値(Path Velocity)が50 μm/秒 以上であり、かつ直線性(Straightness)が50 % 以上である精子の割合を示した。
【実施例】
【0038】
(1-5)卵子の回収
過排卵処理のため、成熟雌マウスに、7.5 IU pregnant mare serum gonadotropin(PMSG)を腹腔内投与し、48時間後に7.5 IU human chorionic gonadotropin(hCG)を腹腔内投与した。hCG投与後14~17時間後に、過排卵処理した雌マウスを安楽死させ、採取した卵管膨大部から、卵子卵丘細胞複合体を、パラフィンオイルで被覆した200 μLの1.0 mM 還元グルタチオン(GSH)含有mHTF(体外受精培地)に導入した。導入後、インキュベーター中で、37℃、5% CO2にて、30~60分間の前培養を行った。
【実施例】
【0039】
(1-6)体外受精、胚培養および胚移植
体外受精、胚培養および胚移植は、常法に従い行った。
【実施例】
【0040】
(1-7)統計解析
実験結果は、Statcel3を用いて分散分析を行い、有意差が認められた場合に限り、TukeyまたはDunnettの方法により各群間の有意差検定を行った。有意水準 P<0.05のとき、その結果に有意に差があると判定した。
【実施例】
【0041】
2.実験例
(2-1)実験例1:精子の運動能に対するDMSOまたはQueの影響
精巣上体尾部の冷蔵保存におけるDMSOまたはQueの精子の運動能に及ぼす影響を検討した。安楽死させた雄マウスから採取した精巣上体尾部を、Lifor、各種濃度(5、10%)のDMSO含有Lifor、あるいは各種濃度(50、100μg/mL)のQueおよび各種濃度(5、10%)のDMSO含有Lifor中において4日間あるいは7日間冷蔵保存した。その後、精子を、0.75 mM メチル-β-シクロデキストリン(MBCD)含有free-TYH(cTYH)で60分間前培養した。続いて、前培養した精子をmHTFにより希釈し、HTM-IVOSにて精子運動能を解析した。結果を図1に示す。
運動能を持つ精子の割合および前進運動能を持つ精子の割合が、DMSOの添加により顕著に向上した。また、DMSOに加えてQueを添加することにより、それらの向上がより顕著になった。
【実施例】
【0042】
(2-2)実験例2:精子の受精能に対するDMSOまたはQueの影響
精巣上体尾部の冷蔵保存におけるDMSOまたはQueの精子の受精能に及ぼす影響を検討した。安楽死させた雄マウスから採取した精巣上体尾部を、Lifor、各種濃度(1、5、10%)のDMSO含有Lifor、あるいは各種濃度(10、50、100μg/mL)のQueおよび各種濃度(1、5、10%)のDMSO含有Lifor中において7日間冷蔵保存した。その後、精子を、cTYHで60分間前培養した。続いて、卵子を回収した1.0 mM GSH含有mHTFに精子を導入し、体外受精を行った。受精率(Fertilization rate)は次式にて算出した。Fertilization rate (%)=二細胞期胚数/供試卵子数× 100。結果を図2に示す。
受精能を持つ精子の割合がDMSOの添加により顕著に向上した。また、DMSOに加えてさらにQueを添加することにより、向上がより顕著になった。
また、DMSO含有Lifor、またはDMSO+Que含有Liforにて冷蔵保存を行った精巣上体尾部から採取した精子を用いた体外受精を行ったところ、いずれの場合も体外受精により得られた二細胞期胚は、正常な産子へ発生した。
【実施例】
【0043】
(2-3)実験例3:精子の運動能に対するDMSOの影響
DMSOが冷蔵保存精子の運動能に及ぼす影響を検討した。安楽死させた雄マウスから採取した精巣上体尾部を、Lifor、10%のDMSO含有Lifor中において0、1、2、3、4、5、6、7日間冷蔵保存しした。その後、精子を、cTYHで60分間前培養した。続いて、前培養した精子をmHTFにより希釈し、HTM-IVOSにて精子運動能を解析した。結果を図3に示す。
DMSOの添加により、7日間まで、冷蔵保存した精子において、運動能を持つ精子の割合および前進運動能を持つ精子の割合が、0日間保存精子(新鮮精子)と同等に維持された。
【実施例】
【0044】
(2-4)実験例4:精子の運動能に対するQueの影響
Queが冷蔵保存精子の運動能に及ぼす影響を検討した。安楽死させた雄マウスから採取した精巣上体尾部を、Lifor、10%のDMSOおよび100μg/mLのQue含有Lifor中において0、1、2、3、4、5、6、7日間冷蔵保存しした。その後、精子を、cTYHで60分間前培養した。続いて、前培養した精子をmHTFにより希釈し、HTM-IVOSにて精子運動能を解析した。結果を図4に示す。
DMSO+Queの添加により、7日間まで、冷蔵保存した精子において、運動能を持つ精子の割合および前進運動能を持つ精子の割合が、0日間保存精子(新鮮精子)と同等に維持された。
【実施例】
【0045】
(2-5)実験例5:精子の受精能に対するDMSOまたはQueの影響
DMSO、またはDMSOおよびQueを含有するLiforで0~7日間冷蔵保存した精巣上体尾部から採取した精子の受精能を検討した。安楽死させた雄マウスから採取した精巣上体尾部を、Lifor、10%のDMSOを含有するLifor、10%のDMSO+100μg/mLのQueを含有するLifor中において0、1、2、3、4、5、6、7日間冷蔵保存した。その後、精子をcTYHで60分間前培養した。続いて、卵子を回収した1.0 mM GSH含有mHTFに精子を導入し、体外受精を行った。なお、受精率(Fertilization rate)は次式にて算出した。Fertilization rate (%)=二細胞期胚数/供試卵子数 × 100(n=3~5)。結果を図5に示す。
DMSOの添加により、5日間まで冷蔵保存した精子において、0日間保存精子(新鮮精子)と同等の受精率を維持した。また、DMSO+Queの添加により、7日間まで冷蔵保存した精子において、新鮮精子と同等の受精率を維持した。
【実施例】
【0046】
(2-6)実験例6:本発明の冷蔵保存液を用いた輸送
本発明の冷蔵保存液および方法を用い、旭川医科大学より熊本大学へ国内冷蔵輸送試験を行った。
安楽死させた雄マウスから採取した精巣上体尾部を、Lifor、10%のDMSOおよび100μg/mLのQue含有Lifor中においてCARD冷蔵輸送キットを用いて冷蔵保存し、旭川医科大学より熊本大学へ冷蔵輸送を行った。輸送キットの内部に設置した温度計の測定結果を図6に示す。輸送を開始した時間を0とし、精子を回収した時間まで温度を測定した。保存温度は14℃から漸次低下し、5.5℃で一定となった。
【実施例】
【0047】
次いで、冷蔵輸送された精巣上体尾部から精子を回収し、cTYHで60分間前培養した。なお、冷蔵保存開始から精子回収までの保存時間は7日間であった。続いて、前培養した精子をmHTFにより希釈し、HTM-IVOSにて精子運動能を解析した。結果を図7に示す。
Que含有Liforを用いて冷蔵保存した場合は、Liforのみの場合に比べて、運動能を持つ精子の割合および前進運動能を持つ精子の割合が著しく向上した。
続いて、冷蔵輸送した精巣上体尾部から回収した精子を用いて受精能を確認した。卵子を回収した1.0 mM GSH含有mHTFに精子を導入し、体外受精を行った。受精率(Fertilization rate)は、以下により算出した。Fertilization rate(%)=二細胞期胚数/供試卵子数×100(n=3)。
Que含有Liforを用いて冷蔵保存した場合は、Liforのみの場合に比べて、精子の受精率が著しく向上した。
また、Que含有Liforにて冷蔵保存を行った精巣上体尾部から採取した精子を用いた体外受精を行ったところ、体外受精により得られた二細胞期胚は、正常な産子へ発生した。
【実施例】
【0048】
(2-7)実験例7:M2保存液を用いた冷蔵保存
実施例1と同様にして、DMSOまたはDMSO+Queを含有するM2保存液で冷蔵保存した場合の精子の運動能を確認した。M2保存液、10%のDMSO含有M2保存液(M2-DMSO)、あるいは10%のDMSOおよび100μg/mLのQueを含有するM2保存液(M2-DMSO+Q)、のそれぞれを用いて4日間冷蔵保存を行ったのち、精子の運動能を測定した。結果を図9に示す。
M2保存液を用いた場合でも、受精能を持つ精子の割合が、DMSOの添加あるいはDMSO+Queの添加により顕著に向上した。
【実施例】
【0049】
(2-8)実験例8:精子懸濁液の冷蔵保存
精子懸濁液の冷蔵保存におけるDMSOまたはQueの精子の運動能に及ぼす影響を検討した。安楽死させた雄マウスから採取した精巣上体尾部から回収した精子の懸濁液を、M2保存液、各種濃度(1、5、10%)のDMSO含有M2保存液、あるいは各種濃度(10、50、100μg/mL)のQueおよび各種濃度(1、5、10%)のDMSO含有M2保存液中において3日間冷蔵保存した。その後、精子を、cTYHで60分間前培養した。続いて、前培養した精子をmHTFにより希釈し、HTM-IVOSにて精子運動能を解析した。結果を図10に示す。
運動能を持つ精子の割合および前進運動能を持つ精子の割合が、5%のDMSOの添加により顕著に向上した。また、1%のDMSO+10μg/mLのQueを組み合わせて添加することにより、同様に運動能を持つ精子の割合が顕著に向上した。
【実施例】
【0050】
上記の記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の方法により、マウスの精子を例えば7日間冷蔵保存した後でも、実用上問題のない運動能、受精能および産子発生能を達成できる精子を提供でき、マウス精子の冷蔵保存技術として有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9