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明細書 :損傷治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-080118 (P2018-080118A)
公開日 平成30年5月24日(2018.5.24)
発明の名称または考案の名称 損傷治療剤
国際特許分類 A61K  31/662       (2006.01)
A61P  17/02        (2006.01)
A61P   7/04        (2006.01)
FI A61K 31/662
A61P 17/02
A61P 7/04
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2016-221422 (P2016-221422)
出願日 平成28年11月14日(2016.11.14)
発明者または考案者 【氏名】宮本 泰則
【氏名】濱野 文菜
【氏名】中島 麻里
【氏名】橋本 恵
【氏名】後藤 真里
【氏名】室伏 きみ子
出願人 【識別番号】305013910
【氏名又は名称】国立大学法人お茶の水女子大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査請求 未請求
テーマコード 4C086
Fターム 4C086AA01
4C086AA02
4C086DA35
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA53
4C086ZA89
要約 【課題】損傷からの血液成分の漏出を抑制する作用を有する新規な損傷治療剤を提供すること。
【解決手段】環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸あるいはその塩を含有する、損傷治療剤。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸あるいはその塩を含有する、損傷治療剤。
【請求項2】
環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸が、式(1)で示される化合物である、請求項1に記載の損傷治療剤。
【化1】
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(式中、Rは、炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基、又は炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルキニル基であり、これらの基はシクロアルカン環又は芳香環を含んでいてもよい。X及びYはそれぞれ独立に、-O-、-S-又は-CH2-を示すが、X及びYが同時に-CH2-になることはない。Mは、水素原子又は対カチオンである。)
【請求項3】
式(1)において、X及びYの一方が-CH2-であり、X及びYの他方が-O-である、請求項2に記載の損傷治療剤。
【請求項4】
損傷が外傷性損傷である、請求項1から3の何れか一項に記載の損傷治療剤。
【請求項5】
損傷が、外傷性脳損傷である、請求項1から4の何れか一項に記載の損傷治療剤。
【請求項6】
止血作用を有する止血剤として使用する、請求項1から5の何れか一項に記載の損傷治療剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸を有効成分とする損傷治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
1992年に、真性粘菌Physarum polycephalumの単相体ミクソアメーバから、真核細胞のDNA複製酵素であるDNAポリメラーゼαの活性を抑え、動物培養細胞の増殖を抑制する脂溶性物質が見いだされ、単離・精製された(非特許文献1))。この物質はグリセロール骨格のsn-1位にシクロプロパンを含むヘキサデカン酸が結合し、2位と3位にリン酸が環状エステル結合した物質であることがわかり、Physarum由来のLPA様物質であることから、PHYLPAと命名された。PHYLPAがsn-1位に特徴的な脂肪酸を有することから、一般的な脂肪酸に置換した誘導体を化学合成し、その活性を検討した結果、細胞増殖を抑制することが示され、PHYLPAの増殖抑制作用が、2位と3位の環状リン酸基によることが明らかになった。現在では、このような環状リン酸基を持つLPA類似体を総称して、環状ホスファチジン酸(cPA、cyclic phosphatidic acid)と呼んでいる。
【0003】
【化1】
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【0004】
環状ホスファチジン酸及びその誘導体については、神経栄養因子作用と神経変性疾患への適用(特許文献1及び2)、癌細胞の増殖と浸潤・転移の抑制(特許文献3)、鎮痛作用(特許文献4)、並びにアトピー性皮膚炎への適用(特許文献5)、脱髄疾患への適用(特許文献6及び非特許文献2)についての報告があるが、損傷治療に及ぼす影響についての知見はない。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2002-308778号公報
【特許文献2】特開2002-308779号公報
【特許文献3】国際公開WO2002/94286号公報
【特許文献4】国際公開WO2008/81580号公報
【特許文献5】特開2012-56853号公報
【特許文献6】国際公開WO2014/115885号公報
【0006】

【非特許文献1】Murakami-Murofushi,K.,他, J.Biol.Chem. 267,21512-21517 (1992)
【非特許文献2】Yamamoto, S.,他, European Journal of Pharmacology 741 (2014) 17-24
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
外傷性損傷などの損傷からの血液成分の漏出を抑制する作用を有する薬剤を見出すことができれば、新規な損傷治療剤を開発することが可能である。特に、外傷性脳損傷は修復機構が十分に明らかになっておらず、外傷性脳損傷の治療剤は見つかっていない。本発明は、損傷からの血液成分の漏出を抑制する作用を有する新規な損傷治療剤を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸及びその誘導体が、損傷からの血液成分の漏出を抑制する作用を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸あるいはその塩を含有する、損傷治療剤が提供される。
好ましくは、環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸は、式(1)で示される化合物である。
【化2】
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(式中、Rは、炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基、又は炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルキニル基であり、これらの基はシクロアルカン環又は芳香環を含んでいてもよい。X及びYはそれぞれ独立に、-O-、-S-又は-CH2-を示すが、X及びYが同時に-CH2-になることはない。Mは、水素原子又は対カチオンである。)
【0010】
好ましくは、式(1)において、X及びYの一方が-CH2-であり、X及びYの他方が-O-である。
好ましくは、損傷が外傷性損傷である。
好ましくは、損傷が、外傷性脳損傷である。
好ましくは、本発明の損傷治療剤は、止血作用を有する止血剤として使用される。
【0011】
本発明によれば、環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸あるいはその塩を、損傷を有する患者に投与することを含む、損傷を治療する方法が提供される。
【0012】
本発明によればさらに、損傷治療剤の製造のための、環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸あるいはその塩の使用が提供される。
本発明によればさらに、損傷の治療において使用するための、環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸あるいはその塩が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸を有効成分として含有することを特徴とする損傷治療剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、損傷修復の指標として、損傷部から脳組織への血液の漏出を、IgGの発色像により観察した結果を示す。
【図2】図2は、IgGの発色具合を、ImageJを用いて定量化した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について更に具体的に説明する。
本発明は、環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸あるいはその塩を有効成分として含有する、損傷治療剤に関する。本発明の損傷治療剤は、損傷を治療するために使用することができ、環状ホスファチジン酸カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸、あるいはその塩を有効成分として含む。環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸としては本発明の効果を示すものであれば特に限定されないが、好ましくは、下記式(I)で示される環状ホスファチジン酸を使用することができる。

【0016】
【化3】
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【0017】
(式中、Rは、炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基、又は炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルキニル基であり、これらの基はシクロアルカン環又は芳香環を含んでいてもよい。X及びYはそれぞれ独立に、-O-、-S-又は-CH2-を示すが、X及びYが同時に-CH2-になることはない。Mは、水素原子又は対カチオンである。)

【0018】
式(I)において、置換基Rが示す炭素数1~30の直鎖状若しくは分岐状アルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基などが挙げられる。

【0019】
置換基Rが示す炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基の具体例としては、例えば、アリル基、ブテニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデカジエニル基、ヘキサデカトリエニル基などが挙げられ、より具体的には、8-デセニル基、8-ウンデセニル基、8-ドデセニル基、8-トリデセニル基、8-テトラデセニル基、8-ペンタデセニル基、8-ヘキサデセニル基、8-ヘプタデセニル基、8-オクタデセニル基、8-イコセニル基、8-ドコセニル基、ヘプタデカ-8,11-ジエニル基、ヘプタデカ-8,11,14-トリエニル基、ノナデカ-4,7,10,13-テトラエニル基、ノナデカ-4,7,10,13,16-ペンタエニル基、ヘニコサ-3,6,9,12,15,18-ヘキサエニル基などが挙げられる。

【0020】
置換基Rが示す炭素数2~30の直鎖状若しくは分岐状アルキニル基の具体例としては、例えば、8-デシニル基、8-ウンデシニル基、8-ドデシニル基、8-トリデシニル基、8-テトラデシニル基、8-ペンタデシニル基、8-ヘキサデシニル基、8-ヘプタデシニル基、8-オクタデシニル基、8-イコシニル基、8-ドコシニル基、ヘプタデカ-8,11-ジイニル基などが挙げられる。

【0021】
上記のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基に含有されうるシクロアルカン環の具体例としては、例えば、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロオクタン環などが挙げられる。シクロアルカン環は、1個以上のヘテロ原子を含んでいてもよく、そのような例としては、例えば、オキシラン環、オキセタン環、テトラヒドロフラン環、N-メチルプロリジン環などが挙げられる。

【0022】
上記のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基に含有されうる芳香環の具体例としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、フラン環、チオフェン環などが挙げられる。

【0023】
従って、置換基Rがシクロアルカン環によって置換されたアルキル基である場合の具体例としては、例えば、シクロプロピルメチル基、シクロヘキシルエチル基、8,9-メタノペンタデシル基などが挙げられる。

【0024】
置換基Rが芳香環によって置換されたアルキル基である場合の具体例としては、ベンジ
ル基、フェネチル基、p-ペンチルフェニルオクチル基などが挙げられる。

【0025】
Rは、好ましくは、炭素数9~17の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、炭素数9~17の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基、又は炭素数9~17の直鎖状若しくは分岐状アルキニル基である。Rは、さらに好ましくは、炭素数9、11、13、15又は17の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又は炭素数9、11、13、15又は17の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基である。Rは、特に好ましくは、炭素数9、11、13、15又は17の直鎖状若しくは分岐状アルケニル基である。

【0026】
一般式(1)で示される化合物中のX及びYはそれぞれ独立に、-O-、-S-又は-CH2-を示すが、X及びYが同時に-CH2-になることはない。即ち、X及びYの組み合わせは以下の3通りである。
(1)Xが-O-であり、Yが-O-である。
(2)Xが-CH2-であり、Yが-O-である(2カルバcPA(2ccPAとも略記))。またはXが-S-であり、Yが-O-である。
(3)Xが-O-であり、Yが-CH2-である(3カルバcPA(3ccPAとも略記))。またはXが-O-であり、Yが-S-である。
上記の中でも、Xが-CH2-でありYが-O-である(2カルバcPA)が特に好ましい。

【0027】
式(I)で示される環状ホスファチジン酸誘導体中のMは、水素原子又は対カチオンである。Mが対カチオンである場合の例としては、例えば、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、置換若しくは無置換アンモニウム基が挙げられる。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられ、アルカリ土類金属原子としては、例えば、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。置換アンモニウム基としては、例えば、ブチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、テトラメチルアンモニウム基などが挙げられる。

【0028】
式(I)の化合物はその置換基の種類に応じて、位置異性体、幾何異性体、互変異性体、又は光学異性体のような異性体が存在する場合があるが、全ての可能な異性体、並びに2種類以上の該異性体を任意の比率で含む混合物も本発明の範囲内のものである。

【0029】
また、式(I)の化合物は、水あるいは各種溶媒との付加物(水和物又は溶媒和物)の形で存在することもあるが、これらの付加物も本発明の範囲内のものである。さらに、式(I)の化合物及びその塩の任意の結晶形も本発明の範囲内のものである。

【0030】
好ましくは、式(1)で示される化合物は、1-オレオイル環状ホスファチジン酸、又は1-パルミトオレオイル環状ホスファチジン酸である。本発明で用いられる式(1)で示される化合物の具体例としては、オレオイル2カルバcPA(△Ole-2ccPA)、パルミトオレオイル2カルバcPA(△Pal-2ccPA)などを挙げることができる。

【0031】
式(1)で示される化合物のうちX及びYが-O-である化合物は、例えば、Kobayashi, S., 他: Tetrahedron Lett., 34, 4047-4050 (1993)、特開平5-230088号公報、特開平7-149772号公報、特開平7-258278号公報、特開平9-25235号公報に記載の方法等に準じて化学的に合成することができる。

【0032】
また、式(1)で示される化合物のうちX及びYが-O-である化合物は、特開2001-178489号公報に記載の方法に準じてリゾ型リン脂質にホスホリパーゼDを作用させることによって合成することもできる。ここで用いるリゾ型リン脂質は、ホスホリパーゼDを作用しうるリゾ型リン脂質であれば特に限定されない。リゾ型リン脂質は多くの種類が知られており、脂肪酸種が異なるもの、エーテル又はビニルエーテル結合をもった分子種などが知られており、これらは市販品として入手可能である。ホスホリパーゼDとしては、キャベツや落花生などの高等植物由来のものやStreptomyces chromofuscus, Actinomadula sp.などの微生物由来のものが市販試薬として入手可能であるが、Actinomadula sp. No.362由来の酵素によって極めて選択的にcPAが合成される(特開平11-367032号明細書)。リゾ型リン脂質とホスホリパーゼDとの反応は、酵素が活性を発現できる条件であれば特に限定されないが、例えば、塩化カルシウムを含有する酢酸緩衝液(pH5~6程度)中で室温から加温下(好ましくは37℃程度)で1から5時間程度反応させることにより行う。生成したcPA誘導体は、常法に準じて、抽出、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー(TLC)などにより精製することができる。

【0033】
また、式(1)で示される化合物のうちX又はYが-S-である化合物は、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 21 (2011) 4180-4182、又はBioorganic & Medicinal Chemistry 20 (2012) 3196-3201の記載に準じて合成することができる。

【0034】
また、式(1)で示される化合物のうちXが-CH2-であり、Yが-O-である化合物は、特開2004-010582号公報又は国際公開WO03/104246号公報に記載の方法により合成することができる。

【0035】
また、式(1)で示される化合物のうちXが-O-であり、Yが-CH2-である化合物は、文献記載の方法(Uchiyama A. et al., Biochimica et Biophysica Acta 1771 (2007) 103-112;並びに「日本薬学会 第23回 反応と合成の進歩シンポジウム1997年11月17、18日(熊本市民会館)環状ホスファチジン酸およびカルバ体誘導体の合成と生理作用、要旨集ページ101-104」)に準じて合成することができ、また国際公開WO2002/094286号公報に記載の方法により合成することができる。具体的な合成経路の一例を以下に示す。

【0036】
【化4】
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【0037】
上記においては、先ず、市販の(R)-ベンジルグリシジルエーテル(1)をBF3・Et2Oで活性化させ、メチルホスホン酸ジメチルエステルにn-BuLiを作用させて得られるリチオ体を反応させることでアルコール(2)を得る。
得られたアルコールを、トルエン中で過剰のp-トルエンスルホン酸のピリジニウム塩を用いて80℃で反応させることにより、環化体(3)を得る。この環化体を、水素雰囲気下で20% Pd(OH)2-Cを用いて加水素分解し、脱ベンジル化を行う(4)。縮合剤として1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を用いて、脂肪酸と反応させてカップリング体(5)を得る。次に、求核剤としてブロモトリメチルシランを用いて、メチル基だけを位置選択的に除去し、環状ホスホン酸(6)を得る。これをエーテルを用いて分液ロートに移しこみ、少量の0.02Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、分液操作を行い、ナトリウム塩(7)として目的化合物を抽出、精製する。

【0038】
本発明において有効成分として用いる環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸あるいはその塩は、外傷性損傷などの損傷からの血液成分の漏出を抑制する作用を有することから損傷治療剤(損傷修復剤)として使用することができる。特に、本発明において有効成分として用いる環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸あるいはその塩は、損傷部位(傷口)において止血作用を有することにより、止血剤として使用することができる。

【0039】
本発明の損傷治療剤(損傷修復剤)の投与対象となる損傷としては、中枢神経損傷(例えば、外傷性脳損傷等の脳損傷、又は脊髄損傷)、組織損傷、臓器損傷(肝損傷、脾損傷、膵損傷、腎損傷、消化管損傷、間膜・小網・大網損傷、胸郭損傷、気管・気管支損傷、肺損傷、横隔膜損傷、心損傷、大血管損傷、骨盤損傷等)、皮膚損傷(例えば、熱傷、裂傷、創傷、穿刺又は外傷等)等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の損傷治療剤は、これらの中でも特に、外傷性脳損傷の治療薬として有用である。

【0040】
本発明の損傷治療剤は、1又は2以上の製剤学的に許容される製剤用添加物と有効成分である環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸(好ましくは、式(1)で示される化合物)あるいはその塩とを含む医薬組成物の形態で提供することが好ましい。

【0041】
本発明の損傷治療剤は、種々の形態で投与することができるが、好適な投与形態としては、経口投与でも非経口投与(例えば、静脈内、筋肉内、皮下又は皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与など)でもよいが、好ましくは非経口投与であり、特に好ましくは損傷部位への局所投与である。

【0042】
経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などを挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、経皮吸収剤などを挙げることができるが、本発明の損傷治療剤の剤形はこれらに限定されることはない。さらに、公知の技術によって持続性製剤とすることもできる。例えば、ゼラチンを基剤としたハイドロゲル中に、有効成分である環状ホスファチジン酸、カルバ環状ホスファチジン酸又はチア環状ホスファチジン酸あるいはその塩を封入することによって、徐放性製剤とすることができる。

【0043】
本発明の損傷治療剤の製造に用いられる製剤用添加物の種類は特に限定されず、当業者が適宜選択可能である。例えば、賦形剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、基剤、溶解剤又は溶解補助剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、緩衝剤、抗酸化剤、防腐剤、等張化剤、pH調節剤、溶解剤、安定化剤などを用いることができ、これらの目的で使用される個々の具体的成分は当業者に周知されている。

【0044】
経口投与用の製剤の調製に用いることができる製剤用添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D-マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。

【0045】
注射あるいは点滴用の製剤の調製に用いることができる製剤用添加物としては、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール、界面活性剤等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール、グリセリン,等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の製剤用添加物を用いることができる。

【0046】
本発明の損傷治療剤はヒトなどの哺乳動物に投与することができる。
本発明の損傷治療剤の投与量は患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路などの条件に応じて適宜増減されるべきであるが、一般的には、成人一日あたりの有効成分の量として1μg/kgから1,000mg/kg程度の範囲であり、好ましくは10μg/kgから100mg/kg程度の範囲である。上記投与量の損傷治療剤は一日一回に投与してもよいし、数回(例えば、2~4回程度)に分けて投与してもよい。

【0047】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されることはない。
【実施例】
【0048】
実施例1:
(1)被験化合物
実験で用いたカルバcPAは2ccPA (18:1)である。2ccPA (18:1)の構造は以下の通りである。ここで-C1733は、-(CH27CH=CH(CH27CH3(シス体)を示す。2ccPA (18:1)は、特開2004-010582号公報に記載の方法により合成した。
【実施例】
【0049】
【化5】
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【実施例】
【0050】
(2)マウス
6週齢雌性ICRマウス(チャールスリバー)を、プラスチック製ケージを用いて動物飼育室内で飼育した。飼育環境は温度を22℃で一定とし、明暗は12時間周期とした。実験は、文部科学省およびお茶の水女子大学動物実験委員会によって承認を受け、これらのガイドラインに従って行った。
【実施例】
【0051】
(3)脳損傷
穿刺傷害は、6週齢雌マウスに対して行った。マウスに三種混合麻酔薬(0.75 mg/kg ドミトール(日本全薬工業), 4.0 mg/kg ミダゾラム(サンド), 5.0 mg/kg ベトルファール(Meiji Seika ファルマ))を腹腔投与し麻酔をかけた後、後頭部頭蓋骨を露出させ、注射針(テルモ注射針19G×1 1/2", テルモ)を用いて後頭部の右脳側の頭蓋骨に穴を開けた。次に、注射針(テルモ注射針27G×3/4", テルモ)を用いて頭蓋骨の穴から大脳皮質に水平に刺傷した。刺傷後、麻酔に対する拮抗薬アンチセダン(0.75 mg/kg)(日本全薬工業)を腹腔投与した。左脳を対照実験として扱った。損傷直後から24時間おきに、500 μg/ml 2ccPAを1.8 mg/kg/day量腹腔投与した。またControl群として、リン酸緩衝液(PBS; 0.135M NaCl, 8.1mM Na2HPO4, 2.685mM KCl, 1.47mM KH2PO4)を同量腹腔投与したものを作製した。
【実施例】
【0052】
(4)固定
穿刺傷害1、3、5、7日後にそれぞれCO2を用いてマウスを安楽死させ、PBSを50ml、固定液(4%パラホルムアルデヒド, 80mM Na2HPO4, 20mM NaH2PO4) 50mlの順に左心室に注入し、灌流固定を行った。全脳を摘出した後、固定液に入れ室温で一晩振盪させた。固定液を15%スクロースに置換し4℃で一晩振盪し、さらにその後30% スクロースに置き換え4℃で一晩振盪を行った。
【実施例】
【0053】
(5)包埋・凍結組織切片作製
包埋剤(O.C.T Compound)(サクラファインテック)を、全脳を入れたクリオモルド(TED PELLA, Inc.)に入れ、4℃で30分振盪させ、ドライアイスとイソペンタンを入れた発砲スチロール箱内で全脳を凍結させ、-80℃で保管した。凍結組織切片作製装置クライオスタット(CM1850, ライカ)を用いて凍結組織切片を作製し、スライドグラス(Superfrost Plus, Fisher Scientific)に貼り付けた。切片は、厚さ20μmの冠状断切片とした。
【実施例】
【0054】
(6)IgGを用いた免疫組織染色
損傷修復の指標として、損傷部から脳組織への血液の漏出を観察した。穿刺傷害1、3、5、7日後のマウス脳の冠状断凍結切片において抗マウスIgG抗体を用いた酵素抗体染色を行い、IgGを発色させることで血液の漏出を可視化させた。さらに発色強度から2ccPA投与群及びControl群での血液漏出量を解析した。酵素抗体染色の方法を以下に示す。まず、冠状断凍結切片を37℃で1時間乾燥させた。後の操作は全て室温で行った。固定液で30分間固定し、PBSで5分×2回、トリス緩衝液(TBS;25mM Tris, 137mM NaCl, 2.68mM KCl, pH 7.4)で5分×2回洗浄を行った。10%メタノール、3% H2O2を含むTBS混合液を添加し、10分反応させることで内在性ペルオキシダーゼを不活性化させた後、TBSで5分×3回洗浄した。その後、ブロッキング溶液(10% 仔ウシ血清, 3% ウシ血清アルブミン,133mM グリシン, 0.4% トリトンX-100:in TBS)を用いてブロッキングを1時間行った。次にビオチン標識抗マウスIgG抗体(AP124B, メルクミリポア)をブロッキング溶液で希釈し、1時間反応させた。さらにVECTASTAIN Elite ABC Standard Kit試薬(ベクターラボラトリーズ)を1時間反応させることでアビジン-ビオチン標識酵素複合体を形成させた後、0.1M Tris-HCl(pH 8.0)を用いて5分×3回洗浄した。発色は0.05% ジアミノベンジジン, 0.003% H2O2, 0.1M Tris-HCl(pH 8.0)混合液で一晩反応させることで行った。翌日、蒸留水で洗浄後、70% エタノール, 95% エタノール, 100% エタノール, キシレンの順に置換していき、最後にカナダバルサムで封入した。
【実施例】
【0055】
(7)観察・定量化
2ccPA投与群及びControl群の穿刺傷害1、3、5、7日後における酵素抗体染色画像は、倒立顕微鏡(FSX-100, オリンパス)を用いて明視野で観察、撮影を行った。結果を図1に示す。
IgGの発色強度はImageJを用いて以下のように定量化した。まず、各切片において撮影した画像を8ビットに変換し、グレースケール画像にした。さらに白黒を反転させた。その後、右脳損傷領域周辺の5つの領域(8×8 μm2)をランダムに選択し、各領域内のMean Gray Valueを計測した。また、損傷していない左脳の大脳皮質領域からも5つの領域を選択し、Mean Gray Valueを計測した。染色のバックグラウンドを取り除くために右脳側から左脳側のMean Gray Valueを引き、その値をIgGの発色強度とした。上記の操作は、各個体から摘出した全脳の損傷部位を含む切片(1個体あたり8から10枚)に対して行った。各切片から得られたIgGの発色強度の平均値をその個体の数値とし、それぞれ3個体の数値を平均した結果を図2に示している。
【実施例】
【0056】
(8)結果
穿刺傷害後に2ccPAを腹腔投与することにより、血液漏出量はControl群と比較して1日目 28%、3日目 34%、5日目 42%、7日目 60% 有意に減少していた。このことから2ccPAは血液漏出を抑制し、修復を促進することが示された。
図面
【図1】
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【図2】
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