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明細書 :アダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6615616号 (P6615616)
登録日 令和元年11月15日(2019.11.15)
発行日 令和元年12月4日(2019.12.4)
発明の名称または考案の名称 アダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法
国際特許分類 C12N   5/0797      (2010.01)
A61K  35/30        (2015.01)
A61P  25/00        (2006.01)
FI C12N 5/0797
A61K 35/30
A61P 25/00
請求項の数または発明の数 8
全頁数 13
出願番号 特願2015-559084 (P2015-559084)
出願日 平成27年1月21日(2015.1.21)
国際出願番号 PCT/JP2015/051485
国際公開番号 WO2015/111602
国際公開日 平成27年7月30日(2015.7.30)
優先権出願番号 2014008780
優先日 平成26年1月21日(2014.1.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年1月22日(2018.1.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】末松 誠
【氏名】徳元 康人
【氏名】玉置 親平
個別代理人の代理人 【識別番号】100149548、【弁理士】、【氏名又は名称】松沼 泰史
【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
【識別番号】100163496、【弁理士】、【氏名又は名称】荒 則彦
【識別番号】100161207、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 和純
審査官 【審査官】伊達 利奈
参考文献・文献 国際公開第2012/095730(WO,A1)
国際公開第2013/021381(WO,A1)
特開2010-158242(JP,A)
特開平09-194364(JP,A)
特開平09-002939(JP,A)
特表2005-532079(JP,A)
米国特許出願公開第2007/0264712(US,A1)
CHONG et al,J. Cell Biol.,2010年,Vol. 188, No. 3,p. 305-312
TANG et al,J. Cell Biol.,2000年 3月 6日,Vol. 148, No. 5,p. 971-984
阿相皓晃,培養系におけるオリゴデンドロサイト,脳と神経 -分子神経生物科学入門 初版,共立出版株式会社,1999年 3月15日,第1版,p. 198-202
BACK et al,The Journal of Neuroscience,2001年 2月15日,Vol. 21, No. 4,p. 1302-1312
ALLEN et al,Tissue Engineering,2006年,Vol. 12, No. 11,p. 3135-3147
The EMBO Journal, 2001, Vol.20, pp.5261-5268
調査した分野 C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
特許請求の範囲 【請求項1】
増殖型オリゴデンドロサイト前駆細胞を、0.5~1.5体積%である低酸素環境下、甲状腺ホルモン受容体又はレチノイン酸受容体のリガンドであって、T4、T3、これらと類似の構造を有するテトラゾール化合物のうち甲状腺ホルモン受容体と結合可能な物質、レチノイン酸、及びビタミンAから選択されるものの存在下、無血清培地中で培養しアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞に誘導分化する工程を有する、アダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法。
【請求項2】
前記工程の前に、前記増殖型オリゴデンドロサイト前駆細胞を、0.5~1.5体積%である低酸素環境下、T4、T3、これらと類似の構造を有するテトラゾール化合物のうち甲状腺ホルモン受容体と結合可能な物質、レチノイン酸、及びビタミンAを含んでいない無血清培地中で増殖させる増殖工程を有する
請求項1に記載のアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法。
【請求項3】
前記低酸素環境の酸素濃度が0.5~1.0体積%である、請求項1又は2に記載のアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法。
【請求項4】
前記増殖型オリゴデンドロサイト前駆細胞が、生体から採取されたオリゴデンドロサイト前駆細胞を初代培養又は継代培養して得られた細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法により製造され、分化能を保持したまま休眠状態にあるアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞と、0.5~1.5体積%である低酸素環境下にある無血清培地と、を含む組成物
【請求項6】
T4、T3、これらと類似の構造を有するテトラゾール化合物のうち甲状腺ホルモン受容体と結合可能な物質、レチノイン酸、及びビタミンAからなる群より選択される1種以上を含有し、分化能を保持したまま休眠状態にあるアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞と、0.5~1.5体積%である低酸素環境下にある無血清培地と、を含む組成物
【請求項7】
請求項5又は6に記載の組成物を有効成分として含む、医薬用組成物。
【請求項8】
ミエリン鞘形成不全、脱髄、又はミエリン鞘の損傷の治療用である、請求項7に記載の医薬用組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、器官形成期や出生後間もない時期にみられる活発に細胞分裂を繰り返すオリゴデンドロサイト前駆細胞(以下、「増殖型OPC」ということがある)から、成体においてみられる分化能を保持したまま休眠状態にあるオリゴデンドロサイト前駆細胞(以下、「アダルト型OPC」ということがある)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オリゴデンドロサイトは、オリゴデンドロサイト前駆細胞(oligodendrocyte-type-2 astrocyte (O-2A) progenitor cells;本願ではOPCと記載する)が成熟してなる中枢神経系内のグリア細胞の一つであり、主にミエリン鞘(髄鞘)形成を担っている。OPCは、神経幹細胞から分化したグリア前駆細胞がさらに分化したものである。器官形成期のOPCは活発に細胞分裂を繰り返しているが、出生後間もない時期からその一部が成熟してオリゴデンドロサイトに分化しはじめ、成体では一部(アダルト型OPC)を除いてオリゴデンドロサイトに分化している。成体に見られるアダルト型OPCは、器官形成期や出生後間もない時期にみられる増殖型OPCとは異なり、ほとんど増殖していない休眠状態にある。しかしながらアダルト型OPCは、分化能を保持しており、適当な刺激によりオリゴデンドロサイトへ分化する。つまり、アダルト型OPCは、体性幹細胞の一種である。
【0003】
出生後間もないラットの視神経から採取された増殖型OPCは、酸素濃度20体積%環境下(大気様環境下)では、血小板由来成長因子(PDGF)含有無血清培地で培養してもオリゴデンドロサイトに分化せず、PDGFと甲状腺ホルモンを共に含む無血清培地で培養するとオリゴデンドロサイトに分化すること、また、増殖型OPCをPDGF含有無血清培地で増殖期型OPCの性質を保ったまま複製老化させる事無く1年以上もの長期間にわたり継代培養出来ることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。また、レチノイン酸も甲状腺ホルモンと同様にOPCからオリゴデンドロサイトへの分化を誘導する因子であること、両者は同じp53依存性細胞内情報伝達経路を介して機能しているであろうことも報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Wolswijk,et al.,Development,1990,vol.109,p.691~698.
【非特許文献2】Tang,et al.,The Journal of Cell Biology,2000,vol.148(5),p.971~984.
【非特許文献3】Tokumoto,et al.,The EMBO Journal,2001,vol.20(18),p.5261~5268.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、アダルト型OPCは増殖型OPCが誘導分化されたものであるが(例えば、非特許文献1参照)、その誘導分化の作用機序は未だ明らかになってはいない。アダルト型OPCの生理的な機能についての研究のためには、ある程度まとまった量のアダルト型OPCが必要である。また、アダルト型OPCは適切な刺激によりオリゴデンドロサイトに分化し、ミエリン鞘の形成に寄与する。つまり、ミエリン鞘の損傷部位や脱髄部位にアダルト型OPCを移植することによりミエリン鞘を治療し得る可能性があるが、細胞治療薬として使用するためにも、ある程度まとまった量のアダルト型OPCが必要である。しかしながら、アダルト型OPCは、成体の中枢神経内に微量しか存在していない上にほとんど増殖しないため、充分量のアダルト型OPCを調製することは非常に困難であった。
【0006】
本発明は、入手が比較的容易な増殖型OPCから、これまで多量の取得が困難であったアダルト型OPCを製造するための方法、及び当該方法により製造されたアダルト型OPCを有効成分とする医薬用組成物等を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、低酸素環境下で、甲状腺ホルモン受容体又はレチノイン酸受容体のリガンドで刺激することにより、増殖型オリゴデンドロサイト前駆細胞が、分化能を保持したままほとんど増殖しないアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞に誘導分化されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明に係るアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法、アダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞、及び医薬用組成物、下記[1]~[]の構成を有する。
[1] 増殖型オリゴデンドロサイト前駆細胞を、0.5~1.5体積%である低酸素環境下、甲状腺ホルモン受容体又はレチノイン酸受容体のリガンドであって、T4、T3、これらと類似の構造を有するテトラゾール化合物のうち甲状腺ホルモン受容体と結合可能な物質、レチノイン酸、及びビタミンAから選択されるものの存在下、無血清培地中で培養しアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞に誘導分化する工程を有する、アダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法。
[2] 前記工程の前に、前記増殖型オリゴデンドロサイト前駆細胞を、0.5~1.5体積%である低酸素環境下、T4、T3、これらと類似の構造を有するテトラゾール化合物のうち甲状腺ホルモン受容体と結合可能な物質、レチノイン酸、及びビタミンAを含んでいない無血清培地中で増殖させる増殖工程を有する
前記[1]のアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法。
] 前記低酸素環境の酸素濃度が0.5~1.0体積%である、前記[1]又は[2]に記載のアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法。
] 前記増殖型オリゴデンドロサイト前駆細胞が、生体から採取されたオリゴデンドロサイト前駆細胞を初代培養又は継代培養して得られた細胞である、前記[1]~[]のいずれかのアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法。
] 前記[1]~[]のいずれかのアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法により製造され、分化能を保持したまま休眠状態にあるアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞と、0.5~1.5体積%である低酸素環境下にある無血清培地と、を含む組成物
[6] T4、T3、これらと類似の構造を有するテトラゾール化合物のうち甲状腺ホルモン受容体と結合可能な物質、レチノイン酸、及びビタミンAからなる群より選択される1種以上を含有し、分化能を保持したまま休眠状態にあるアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞と、0.5~1.5体積%である低酸素環境下にある無血清培地と、を含む組成物
[7] 前記[5]又は[6]の組成物を有効成分とする、医薬用組成物。
[8] ミエリン鞘形成不全、脱髄、又はミエリン鞘の損傷の治療用である、前記[7]の医薬用組成物

【発明の効果】
【0009】
本発明により、単に培養条件を調節するだけで、活発に細胞分裂を繰り返す増殖型OPCから、分化能を保持したまま休眠状態にあるアダルト型OPCを効率よく製造することができる。特に、予め充分量になるまで増殖させた増殖型OPCに対して本発明に係るアダルト型OPC製造方法を適用することにより、比較的均質なアダルト型OPCを充分量得ることができる。また、得られたアダルト型OPCは、学術研究用のみならず、細胞医薬としても有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1において、増殖型OPCをTH(甲状腺ホルモン)含有培地で培養した場合とTH不含培地で培養した場合における細胞増殖率(倍)を算出した結果を示した図である。
【図2】実施例2において、TH含有培地で、酸素濃度20体積%の環境下で培養した細胞の染色像(上段)と、酸素濃度1.5体積%の環境下で培養した細胞の染色像(下段)である。
【図3】実施例2において、ディッシュ中の全細胞に対する抗ガングリオシドGT3抗体(A2B5抗体)で染色された細胞の割合と抗GC抗体で染色された細胞の割合を算出した結果を示した図である。
【図4】実施例3において、増殖型OPCを酸素濃度1.5体積%の環境下で、TH含有培地又はRA含有培地で培養した場合の、全コロニーに対する、それぞれの細胞分裂回数であったコロニーの占める割合(%)を計測した結果を示した図である。
【図5】実施例3において、酸素濃度1.5体積%の環境下で、TH含有培地で培養した細胞の位相差顕微鏡画像(「+TH」)と、RA含有培地で培養した細胞の位相差顕微鏡画像(「+RA」)である。
【図6】実施例4において、PDGF不含TH含有培地で培養したディッシュに存在していたMBP陽性細胞とCNPase陽性細胞の染色像と、FBS含有培地で培養したディッシュに存在していたGFAP陽性細胞の染色像である。
【図7】実施例5において、アダルト型OPCを酸素濃度20体積%の環境下、各培地中で培養した場合の、全コロニーに対する、それぞれの細胞分裂回数であったコロニーの占める割合(%)を計測した結果を示した図である。
【図8】実施例5において、図7に示す結果に基づき、アダルト型OPCを酸素濃度20体積%の環境下で、各培地で培養した場合のコロニーの平均細胞分裂回数を算出した結果を示した図である。
【図9】実施例6において、各酸素濃度の環境下で、TH含有培地で培養した場合の生細胞数を計数した結果を示した図である。
【図10】実施例7において、マウス由来の増殖型OPCを酸素濃度1.0又は3.0体積%の環境下で、TH含有培地で培養した場合の、全クローンに対する、それぞれの細胞分裂回数であったクローンの占める割合(%)を計測した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るアダルト型オリゴデンドロサイト前駆細胞の製造方法(以下、「本発明に係るアダルト型OPC製造方法」ということがある。)は、増殖型OPCを、低酸素環境下、甲状腺ホルモン受容体又はレチノイン酸受容体のリガンドの存在下で培養し、アダルト型OPCに誘導分化する工程を有することを特徴とする。非特許文献2や非特許文献3において開示されているように、甲状腺ホルモンやレチノイン酸は、酸素濃度20体積%環境下ではOPCからオリゴデンドロサイトへの分化誘導因子として知られている。これらの因子が、低酸素環境下では分化誘導因子としては機能せず、休眠状態のアダルト型OPCへの誘導分化因子として機能すること、すなわち、低酸素刺激と共に甲状腺ホルモン受容体又はレチノイン酸受容体を刺激することにより増殖型OPCがアダルト型OPCへと誘導分化されることは、本発明者らにより初めて見出された知見である。

【0012】
本発明に係るアダルト型OPC製造方法において用いられる増殖型OPCは、器官形成期や出生後間もない時期にみられる活発に細胞分裂を繰り返すOPCであり、細胞周期が50時間以下の細胞をいう。本発明において用いられる増殖型OPCとしては、器官形成期や出生後間もない時期にある生物から採取された増殖型OPCそのものであってもよく、生体から採取された増殖型OPCを初代培養又は継代培養して増殖させた細胞であってもよい。また、ES(胚性幹)細胞やiPS(人工多能性幹)細胞から分化させた増殖型OPCも、本発明において用いることができる。

【0013】
生体からの増殖型OPCの採取、及びその後の培養は、常法により行うことができる。増殖型OPCは、特に、視神経から多く採取できる。例えば、出生後間もない時期のラット(生後1~10日)の視神経を切除して細断したものから単細胞懸濁液を調製し、当該単細胞懸濁液から、A2B5抗体等の増殖型OPCの細胞表面に特異的に発現している分子を認識する抗体を利用した免疫的手法により増殖型OPCを精製することができる。精製された増殖型OPCを培養する培地としては、分化誘導することなく増殖型OPCを培養可能な培地であれば特に限定されるものではない。例えば、増殖型OPCは、無血清改変B-S培地や無血清DMEM培地等で培養することができる。この際、培地には、インシュリン、フォルスコリン、PDGF-AA、及びNT-3(ニューロトロフィン-3)等が添加されていることが好ましい。特にPDGF-AAで刺激することにより、増殖型OPCが効率よく増殖する。この際の培養は、標準的な酸素濃度(約20体積%)で行ってもよく、生体内における酸素濃度(組織にもよるが、脳内では約0.5~8体積%濃度相当)で行ってもよく、低酸素濃度(1.5体積%以下)で行ってもよい。

【0014】
本発明に係るアダルト型OPC製造方法において、増殖型OPCをアダルト型OPCへ誘導分化するための培養時における気体の酸素濃度は、増殖型OPCに対して低酸素刺激可能な程度の低濃度である。低酸素刺激となり得る酸素濃度の上限値は、当該細胞の由来する組織や生物種によって多少の違いがある。用いる増殖型OPCに対して低酸素刺激となる酸素濃度の上限値は、例えば後記実施例6に示すように実験的に求めることができる。本発明において、増殖型OPCをアダルト型OPCへ誘導分化するための培養時には、酸素濃度が1.5体積%以下の環境下が好ましく、0.5~1.5体積%の環境下がより好ましく、0.5~1.2体積%の環境下がさらに好ましく、0.5~1.0体積%の環境下がよりさらに好ましい。Kitamotoらの報告(Kitamoto,et al.,Oncogene,2013,vol.32,p.4614~4621.)、Sekiguchiらの報告(Sekiguchi,et al.,Journal of Cellular and Molecular Medicine,2012,vol.16(8),p.1934~1945.)、及びAllenらの報告(Allen,et al.,TISSUE ENGINEERING,2006,vol.12(11),p.3135~3147.)にあるように、酸素濃度を1体積%以下に調整することにより、ヒト、ラット、マウスをはじめとする各種生物由来の細胞に対して低酸素刺激を行うことができる。

【0015】
本発明に係るアダルト型OPC製造方法において、増殖型OPCをアダルト型OPCへ誘導分化するための培養時における気体の酸素濃度以外のガス組成は特に限定されるものではないが、酸素以外に窒素を主たる成分とすることが好ましく、二酸化炭素を含有していてもよい。二酸化炭素を含有する場合には、二酸化炭素濃度は3~10体積%程度であることが好ましい。

【0016】
本発明に係るアダルト型OPC製造方法は、具体的には、低酸素濃度の気体内で、甲状腺ホルモン受容体又はレチノイン酸受容体のリガンドを添加した培地中で増殖型OPCを培養する。当該培地としては、無血清改変B-S培地や無血清DMEM培地等の増殖型OPCが分化誘導されずに増殖可能な培地に、甲状腺ホルモン受容体又はレチノイン酸受容体のリガンドを添加した培地が挙げられる。

【0017】
本発明において用いられる甲状腺ホルモン受容体のリガンドとしては、T4(3,5,3’,5’-テトラヨード-L-チロニン。チロキシンともいう。)及びT3(3,5,3’-トリヨード-L-チロニン)が挙げられる。その他、T3又はT4と類似の構造を有するテトラゾール化合物のうち、甲状腺ホルモン受容体と結合可能な物質であってもよい。本発明において用いられるレチノイン酸受容体のリガンドとしては、レチノイン酸、ビタミンA等が挙げられる。本発明において用いられるリガンドとしては、T4、T3、又はオールトランスレチノイン酸が好ましい。

【0018】
増殖型OPC細胞は、1種類のリガンドのみを含有する培地中で培養してもよく、2種類以上のリガンドを含有する培地中で培養してもよい。また、甲状腺ホルモン受容体のリガンドとレチノイン酸受容体のリガンドの両方を含有する培地であってもよい。具体的には、例えば、T3とT4のいずれか一方のみを含有する培地であってもよく、T3とT4を両方含有する培地であってもよく、T3とT4の少なくともいずれか一方とレチノイン酸を含有する培地であってもよい。

【0019】
本発明に係るアダルト型OPC製造方法により得られたアダルト型OPCは、増殖が停止しており休眠状態にあるが、多分化能と再増殖能を有する。このため、得られたアダルト型OPCは、生体内に存在するアダルト型OPCと同様に適切な刺激により再分裂及び分化が誘導される。例えば、当該アダルト型OPCをPDGFとニューレグリン(NRG)とフォスフォジエステラーゼ1阻害剤であるIBMX(1-メチル-3-(2-メチルプロピル)キサンチン)で刺激することによって、再分裂が起こる。一方で、当該アダルト型OPCを酸素濃度20%環境下でPDGFとTHで刺激することにより、オリゴデンドロサイトに分化する。

【0020】
本発明に係るアダルト型OPC製造方法により、比較的均質なアダルト型OPCを従来よりも多量にかつ安定して供給することが可能になる。このため、得られたアダルト型OPCをモデル細胞等として用いることにより、アダルト型OPCの機能研究が飛躍的に加速することが期待できる。

【0021】
アダルト型OPCをミエリン鞘の損傷部位や、脱鞘部位、ミエリン鞘形成不全部位に移植することにより、ミエリン鞘が回復することが期待できる。また、アダルト型OPCは、増殖型OPCとは異なり、分化能を有するものの休眠状態にあるため、癌化するリスクが低いという利点もある。

【0022】
このため、本発明に係るアダルト型OPC製造方法により得られたアダルト型OPCは、医薬用組成物の有効成分として用いることもできる。当該医薬用組成物は、ミエリン鞘形成不全、脱髄、又はミエリン鞘の損傷の治療に用いられるものであることが好ましい。具体的には、例えば、外傷、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病、多発性硬化症(MS)、進行性多巣性白質脳症(PML)、脳脊髄炎(EPL)、橋中心髄鞘崩壊症(CPM)、ウォラー変性、副腎白質ジストロフィー、アレキサンダー病、ペリツェウス・メルツバッヘル病(PMZ)、黄斑円孔等の治療や予防に用いられる医薬用組成物の有効成分としてアダルト型OPCは有用なことが期待できる。

【0023】
本発明に係るアダルト型OPC製造方法により得られたアダルト型OPCは、その他にも、アダルト型OPCに対する増殖誘導能又は分化誘導能を有する物質のスクリーニングにも用いることができる。例えば、アダルト型OPCを、増殖誘導能又は分化誘導能についての候補物質を含有する培地中で培養し、当該アダルト型OPCが再分裂するかどうか、即ち培地中のアダルト型OPCの数が培養によって増加したか否かを計測するか、又はアダルト型OPCがオリゴデンドロサイトへ分化するか、即ち培地中の細胞に、分化細胞特異的な抗原が発現しているか否かを検出する検出工程を行い、前記検出工程において、前記アダルト型OPCが有意に増殖した場合又は前記アダルト型OPCから分化誘導された細胞が検出された場合に、前記候補物質がアダルト型OPCに対する増殖誘導能又は分化誘導能を有するとそれぞれ評価することで、当該候補物質のスクリーニングを行うことができる。増殖誘導能の確認手段としては、BrdU(ブロモデオキシウリジン)の取り込みの差を確認したり、増殖マーカーのKi-67タンパク質の発現を確認することによっても行うことができます。当該アダルト型OPCが再分裂し、培地中のアダルト型OPCの数が有意に増加した場合(2倍以上、好ましくは10倍以上)には、培地に添加した候補物質はアダルト型OPCに対する増殖誘導能を有すると評価することができる。また、当該アダルト型OPCがオリゴデンドロサイトへ分化し、培地中の細胞に分化細胞特異的な抗原を検出できた場合には、培地に添加した候補物質はアダルト型OPCに対する分化誘導能を有すると評価することができる。分化細胞特異的な抗原としては、オリゴデンドロサイトに特異的に発現しているGC(ガラクトセレブシド)、PLP(プロテオリピッドプロテイン)、CNPase(2',3'サイクリックフォスフォジエステレース)、MBP(ミエリンベーシックプロテイン)等を挙げることができる。
【実施例】
【0024】
次に、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。また、以下の全ての動物実験のプロトコールは、慶応義塾大学の倫理委員会により承認された。
【実施例】
【0025】
また、特に記載のない限り、以降の実施例において用いた増殖型OPCは、生後7日齢(P7)のラットの視神経から、Barresらのimmunopanning法(Barres et al.,Cell,1992,vol.70,p.31~46)に則って精製したものであって、純度(全細胞に対する増殖型OPCの占める割合)が99.9%以上のものである。
【実施例】
【0026】
[実施例1]
増殖型OPCを、酸素濃度が1.5体積%の環境下で、甲状腺ホルモンを添加した培地又は甲状腺ホルモン無添加の培地中で培養し、増殖型OPCの増殖能に対する甲状腺ホルモンの影響を調べた。
【実施例】
【0027】
ポリ-D-リジン(PDL)をコートしたT25培養フラスコに、1フラスコ当たり1000個の増殖型OPCを播き、甲状腺ホルモン混合物(T3とT4の等量混合物(40ng/mL)。以下、「TH」と略記することがある。)を添加したTH含有培地と添加していないTH不含培地中で、酸素濃度1.5体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中、37℃でそれぞれ15日間培養した。TH不含培地としては、PDGF-AA(10ng/mL)、NT-3(5ng/mL)、インシュリン(5μg/mL)、及びフォルスコリン(5μM)を添加した無血清改変B-S培地を用い、TH含有培地としては、TH不含培地にTH(T3とT4が各40ng/mL)を添加した培地を用いた。
【実施例】
【0028】
各フラスコ内の細胞数を計数した結果を表1に、細胞増殖率(倍)を算出した結果を図1に示す。TH不含培地では、15日目には当初の細胞数の60倍以上となった(表1中、「甲状腺ホルモン無し」、図1中、「w/o TH」)。一方、TH含有培地では、培養4日目まではTH不含培地と同様に増殖が見られたが、以降は細胞数はほぼ一定であり、増殖が停止していた(表1中、「甲状腺ホルモン有り」、図1中、「with TH」)。当該結果から、低酸素環境下でTH刺激することにより、細胞を一定時期まで増殖させ、その後増殖を停止できることが確認された。
【実施例】
【0029】
【表1】
JP0006615616B2_000002t.gif
【実施例】
【0030】
[実施例2]
増殖型OPCを、酸素濃度が1.5体積%又は20体積%の環境下で、甲状腺ホルモンを添加した培地中で培養し、増殖型OPCの分化能に対する甲状腺ホルモンの影響を調べた。
PDLをコートした直径12mmのガラスボトムディッシュに、ディッシュ当たり300個の増殖型OPCを播いたものを6枚用意し、実施例1で用いたTH含有培地中で37℃、12日間培養した。6枚のディッシュのうち、3枚は酸素濃度1.5体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で培養し、残る3枚は酸素濃度20体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で培養した。
培養終了後、各ディッシュの細胞を、2.0%ホルムアルデヒド溶液で室温、5分間処理することによって固定した。固定された細胞に対して、マウス抗GC(ガラクトセレブトシド)抗体(Martin C. Raff氏より供与)及びマウスA2B5抗体(Martin C. Raff氏より供与)を用いて一次免疫染色した後、Alexa(登録商標)Fluor 488標識抗マウスIgG抗体及びAlexa(登録商標)Fluor 568標識抗マウスIgM抗体(いずれも、インビトロジェン社製)を用いて二次染色し、さらにDAPI染色(同仁化学研究所製)を行った。A2B5抗体はOPC特異抗体であり、GCはオリゴデンドロサイトマーカーである。
【実施例】
【0031】
図2に、酸素濃度20体積%の環境下で培養した細胞の染色像(上段)と、酸素濃度1.5体積%の環境下で培養した細胞の染色像(下段)を示す。また、図3に、各ディッシュ中の細胞のうち、A2B5抗体で染色された細胞(A2B5陽性細胞)の割合(図中、「A2B5+」)と抗GC抗体で染色された細胞(GC陽性細胞)の割合(図中、「GC+」)を算出した結果を示す。図3中、左カラム(「20% O」)が酸素濃度20体積%の環境下で培養した結果であり、右カラム(「1.5% O」)が酸素濃度1.5体積%の環境下で培養した結果である。この結果、酸素濃度20体積%の環境下で培養した細胞は、約65%がGC陽性細胞であり、オリゴデンドロサイトに分化していた。これに対して、酸素濃度1.5体積%の環境下で培養した細胞では、GC陽性細胞は約10%しかなく、約45%はA2B5陽性細胞であり、OPCであった。
以上より、実施例1の結果とあわせると、増殖型OPCを低酸素濃度環境下で甲状腺ホルモン含有培地で培養した場合、一定時期までは増殖を示すが、その後増殖を停止し、オリゴデンドロサイトへの分化が抑えられたアダルト型OPCとなることが確認できた。
【実施例】
【0032】
[実施例3]
増殖型OPCを、酸素濃度が1.5体積%の環境下で、甲状腺ホルモンを添加した培地又はレチノイン酸を添加した培地中で培養し、増殖型OPCに対するレチノイン酸(RA)の影響を調べた。
PDLをコートした直径12mmのガラスボトムディッシュに、ディッシュ当たり300個の増殖型OPCを播いたものを6枚用意し、酸素濃度1.5体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で37℃、12日間培養した。6枚のディッシュのうち、3枚は実施例1で用いたTH含有培地中で培養し、残る3枚はRA含有培地(実施例1で用いたTH不含培地にオールトランスレチノイン酸(シグマ社製)(1ng/mL)を添加した培地)中で培養した。
【実施例】
【0033】
培養終了後、各コロニーを形成する細胞数を計数し、コロニーごとの細胞分裂回数を求めた。図4に、全コロニーに対する、それぞれの細胞分裂回数であったコロニーの占める割合(%)を計測した結果を示す。この結果、TH含有培地で培養した場合(図中、「+TH」)とRA含有培地で培養した場合(図中、「+RA」)は、細胞分裂回数が5~6回のコロニーの占める割合が最も多く、細胞分裂回数が10回を超えるコロニーはなかった。
また、図5に、TH含有培地で培養した細胞の位相差顕微鏡画像(「+TH」)と、RA含有培地で培養した細胞の位相差顕微鏡画像(「+RA」)を示す。増殖型OPCを12日間TH含有培地で培養した後の細胞とRA含有培地で培養した後の細胞は、いずれも同様の形態であった。これらの結果から、甲状腺ホルモンと同様にレチノイン酸も、低酸素環境下で増殖型OPCの増殖を停止させアダルト型OPCへ分化誘導し得ることが明らかになった。
【実施例】
【0034】
[実施例4]
増殖型OPCを低酸素刺激及びTH刺激して得られたアダルト型OPCが、分化能を備えているかどうかを調べた。
PDLをコートした直径12mmのガラスボトムディッシュに、ディッシュ当たり300個の増殖型OPCを播いたものを6枚用意し、酸素濃度1.5体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で37℃、15日間、実施例1で用いたTH含有培地中で培養した。次いで、6枚のディッシュのうち3枚について、培地をPDGF不含TH含有培地(実施例1で用いたTH含有培地からPDGFを除いた培地)に交換し、酸素濃度1.5体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で37℃、5日間培養した。残る3枚については、培地をFBS含有培地(FBS(10%)を添加した無血清改変B-S培地)に交換し、酸素濃度1.5体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で37℃、5日間培養した。
【実施例】
【0035】
培養終了後、各ディッシュの細胞を、2.0%ホルムアルデヒド溶液で室温、5分間処理することによって固定した後、細胞膜透過処理を行った。細胞膜透過処理後の細胞のうち、PDGF不含TH含有培地で培養した3枚のうちの1枚と、FBS含有培地で培養した3枚のうちの1枚に対して、ラット抗MBP抗体(MAB386、ミリポア社製)を用いて一次免疫染色した後、Alexa(登録商標)Fluor 488標識抗ラットIgG抗体を用いて二次染色した。同様に、PDGF不含TH含有培地で培養した3枚のうちの1枚と、FBS含有培地で培養した3枚のうちの1枚に対して、マウス抗CNPase抗体(C5922、シグマ社製)を用いて一次免疫染色した後、Alexa(登録商標)Fluor 488標識抗マウスIgG抗体を用いて二次染色した。PDGF不含TH含有培地で培養した3枚のうちの1枚と、FBS含有培地で培養した3枚のうちの1枚に対して、ウサギ抗GFAP抗体(G4546、シグマ社製)を用いて一次免疫染色した後、Alexa(登録商標)Fluor 488標識抗ウサギIgG抗体を用いて二次染色した。CNPase(2’,3’-サイクリックヌクレオチドフォスフォジエステラーゼ)及びMBP(ミエリン塩基性タンパク質)は、オリゴデンドロサイトのマーカーであり、GFAP(グリア細胞線維性酸性タンパク質)は、アストロサイトのマーカーである。
【実施例】
【0036】
図6に、各細胞の染色像を示す。PDGF不含TH含有培地で培養したディッシュには、MBP陽性細胞とCNPase陽性細胞が存在していた(図中、「MBP陽性」と「CNPase陽性」)。これに対して、FBS含有培地で培養したディッシュには、GFAP陽性細胞が存在していた(図中、「GFAP陽性」)。これらの結果から、増殖型OPCを低酸素刺激及びTH刺激して得られたアダルト型OPCは、適当な刺激により、オリゴデンドロサイト及びアストロサイトに分化し得ること、すなわち、当該アダルト型OPCは、増殖期型OPCと同じく多分化能を保持していることが確認された。
【実施例】
【0037】
[実施例5]
増殖型OPCを低酸素刺激及びTH刺激して得られたアダルト型OPCの再増殖能と分化能について調べた。
PDLをコートしたT25培養フラスコに、1フラスコ当たり1000個の増殖型OPCを播き、酸素濃度1.5体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で37℃、15日間、実施例1で用いたTH含有培地中で培養した。次いで、当該フラスコから細胞を回収し、新たなPDLをコートしたT25培養フラスコに、1フラスコ当たり1000個の増殖型OPCを播いたものを3枚用意し、酸素濃度20体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で37℃、7日間培養した。3枚のフラスコのうちの1枚は、実施例1で用いたTH不含培地で培養し、1枚は実施例1で用いたTH含有培地で培養し、残る1枚はIN含有培地(実施例1で用いたTH不含培地に、NRG1(50ng/mL)とIBMX(0.1mM)を添加した培地)で培養した。
【実施例】
【0038】
培養終了後、各コロニーを形成する細胞数を計数し、コロニーごとの細胞分裂回数を求めた。図7に、全コロニーに対する、それぞれの細胞分裂回数であったコロニーの占める割合(%)を計測した結果を示す。また、図8に、図7に示す結果に基づき、各培地で培養した場合のコロニーの平均細胞分裂回数を算出した結果を示す。この結果、TH不含培地又はIN含有培地で培養した場合には、7割近くのコロニーが少なくとも1回は細胞分裂を行っており、6回も分裂したコロニーもあったが、オリゴデンドロサイトに分化した細胞は観察されなかった(図7及び8中、「P」及び「P+I+N」)。これに対して、TH含有培地で培養した場合には、平均細胞分裂回数は0.5未満であり、オリゴデンドロサイトに分化した細胞が観察された(図7及び8中、「P+TH」)。これらの結果から、増殖型OPCを低酸素刺激及びTH刺激して得られたアダルト型OPCは、適当な刺激により再増殖可能であり、さらに適当な刺激により分化も可能であることが確認された。
【実施例】
【0039】
[実施例6]
増殖型OPCを、酸素濃度が1.0、1.5、2.0、2.5、又は3.0体積%の環境下で、甲状腺ホルモンを添加した培地中で培養し、増殖型OPCに対する酸素濃度の影響を調べた。
PDLをコートしたT25培養フラスコに、1フラスコ当たり1000個の増殖型OPCを播いたものを5枚用意し、酸素濃度1.0~3.0体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で、実施例1で用いたTH含有培地中、37℃、10日間培養した。
培養終了後、各ディッシュの生細胞数を計数した。図9に、計測した結果を示す。この結果、酸素濃度が2.0、2.5、又は3.0体積%の環境下で培養した場合には、生細胞数40000個以上にまで増殖していた。これに対して、酸素濃度が1.0体積%又は1.5体積%の環境下で培養した場合には、細胞数はほとんど増えておらず、増殖が停止していることがわかった。つまり、ラットの増殖型OPC細胞においては、酸素濃度1.5体積%と2.0体積%の間に、低酸素刺激可能な酸素濃度の上限(閾値)があることがわかった。
【実施例】
【0040】
[実施例7]
生後7日齢のC57BL/6マウスの視神経から、Barresらのimmunopanning法(Barres et al.,Cell,1992,vol.70,p.31~46)に則って精製したものであって、純度(全細胞に対する増殖型OPCの占める割合)が99.9%以上の増殖型OPCを用い、酸素濃度が1.0又は3.0体積%の環境下で、甲状腺ホルモンを添加した培地中で培養し、増殖能を調べた。
PDLをコートした直径12mmのガラスボトムディッシュに、ディッシュ当たり300個のマウス増殖型OPCを播いたものを6枚用意し、3枚は酸素濃度1.0体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で、残る3枚は酸素濃度3.0体積%、二酸化炭素濃度5体積%の気体中で、それぞれ37℃、12日間、実施例1で用いたTH含有培地中で培養した。
【実施例】
【0041】
培養終了後、各クローンの細胞数を計数し、それぞれの細胞分裂回数を推定した。具体的には、例えば、細胞数が5~8個の場合には分裂回数は3回、9~16個の場合には分裂回数は4回とした。図10に、全クローンに対する、それぞれの細胞分裂回数であったクローンの占める割合(%)を計測した結果を示す。この結果、酸素濃度が3.0体積%環境下で培養した細胞では、分裂回数が3回以上のクローンが全体の50%以上であり、12回分裂した細胞もあった。これに対して、酸素濃度が1.0体積%環境下で培養した細胞では、全体の70%近くにおいて分裂回数が2回以下であり、一度も分裂しなかったクローンが27%程度もあり、細胞数はほとんど増えておらず、増殖が停止していることがわかった。これらの結果から、酸素濃度が1.0体積%環境下でTH刺激することにより、マウス由来の増殖型OPCにおいても、その増殖を停止させアダルト型OPCへ分化誘導し得ることが明らかになった。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
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