TOP > 国内特許検索 > 筋疾患の治療または予防のための医薬組成物 > 明細書

明細書 :筋疾患の治療または予防のための医薬組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6566520号 (P6566520)
登録日 令和元年8月9日(2019.8.9)
発行日 令和元年8月28日(2019.8.28)
発明の名称または考案の名称 筋疾患の治療または予防のための医薬組成物
国際特許分類 A61K  38/29        (2006.01)
A61P  21/00        (2006.01)
A61P  21/04        (2006.01)
A61K  35/34        (2015.01)
A61K  35/545       (2015.01)
FI A61K 38/29
A61P 21/00
A61P 21/04
A61K 35/34
A61K 35/545
請求項の数または発明の数 20
全頁数 20
出願番号 特願2015-545240 (P2015-545240)
出願日 平成26年10月28日(2014.10.28)
国際出願番号 PCT/JP2014/078654
国際公開番号 WO2015/064585
国際公開日 平成27年5月7日(2015.5.7)
優先権出願番号 2013223948
2014080937
優先日 平成25年10月29日(2013.10.29)
平成26年4月10日(2014.4.10)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成29年10月27日(2017.10.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
発明者または考案者 【氏名】木村 重美
個別代理人の代理人 【識別番号】100102015、【弁理士】、【氏名又は名称】大澤 健一
審査官 【審査官】佐々木 大輔
参考文献・文献 国際公開第2015/050160(WO,A1)
特表2013-519869(JP,A)
日本整形外科学会雑誌, 2004, Vol.78, No.8, p.S1016, 2-7-5 欄
日本骨代謝学会学術集会プログラム抄録集, 2005, Vol.22nd, p.204, P-068
J. Cell. Physiol., 1997, Vol.172, No.1, pp.55-62
Genes Dev., 1993, Vol.7, No.12B, pp.2609-2617
調査した分野 A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
副甲状腺ホルモン(PTH)またはPTH誘導体の1種または2種以上、あるいは141個のアミノ酸からなりPTH様作用により高カルシウム血症をもたらすタンパク質である副甲状腺ホルモン関連タンパク質を有効成分として含有する筋疾患(但し、加齢に伴う筋力の低下および筋肉量の減少によるものを除く)治療剤または予防剤。
【請求項2】
ヒトPTH(1-84)、ヒトPTH(1-34)、またはblack bear PTHを有効成分として含有する、請求項1に記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【請求項3】
ヒトPTH(1-34)を有効成分として含有する請求項2に記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【請求項4】
前記筋疾患が筋ジストロフィーである請求項1~3のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【請求項5】
前記筋ジストロフィーがデュシェンヌ型筋ジストロフィーである請求項4に記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【請求項6】
骨粗鬆症の発症前の筋疾患患者に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【請求項7】
骨粗鬆治療薬による治療を開始する前の筋疾患患者に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【請求項8】
骨粗鬆治療薬を投与されていない筋疾患患者に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【請求項9】
前記筋疾患患者が筋ジストロフィー患者である請求項6~8のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【請求項10】
前記筋ジストロフィー患者がデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者である請求項9に記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【請求項11】
ステロイド剤と併用せずにデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に投与されるように用いられることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【請求項12】
哺乳動物由来多能性幹細胞を筋細胞へと分化誘導する工程において用いることができる筋細胞への分化誘導を促進する分化誘導促進剤であって、副甲状腺ホルモン(PTH)またはPTH誘導体の1種または2種以上、あるいは141個のアミノ酸からなりPTH様作用により高カルシウム血症をもたらすタンパク質である副甲状腺ホルモン関連タンパク質を含有する分化誘導促進剤。
【請求項13】
前記哺乳動物由来多能性細胞がヒトES細胞またはヒトiPS細胞である、請求項12に記載の分化誘導促進剤。
【請求項14】
哺乳動物由来筋衛星細胞の筋細胞への分化誘導を促進する分化誘導促進剤であって、副甲状腺ホルモン(PTH)またはPTH誘導体の1種または2種以上、あるいは141個のアミノ酸からなりPTH様作用により高カルシウム血症をもたらすタンパク質である副甲状腺ホルモン関連タンパク質を含有する分化誘導促進剤。
【請求項15】
前記PTHまたはPTH誘導体が、ヒトPTH(1-84)、ヒトPTH(1-34)、またはblack bear PTHである、請求項12~14のいずれか一つに記載の分化誘導促進剤。
【請求項16】
前記PTH誘導体がヒトPTH(1-34)である請求項15に記載の分化誘導促進剤。
【請求項17】
副甲状腺ホルモン(PTH)またはPTH誘導体の1種または2種以上、あるいは141個のアミノ酸からなりPTH様作用により高カルシウム血症をもたらすタンパク質である副甲状腺ホルモン関連タンパク質を有効成分として含有する筋肉再生促進剤または筋線維再生促進剤。
【請求項18】
前記PTHまたはPTH誘導体が、ヒトPTH(1-84)、ヒトPTH(1-34)、またはblack bear PTHである、請求項17に記載の筋肉再生促進剤または筋線維再生促進剤。
【請求項19】
前記PTH誘導体がヒトPTH(1-34)である請求項18に記載の筋肉再生促進剤または筋線維再生促進剤。
【請求項20】
上記有効成分が、副甲状腺レセプターと関連して筋細胞への分化誘導を促進することを特徴とする、請求項17に記載の筋肉再生促進剤または筋線維再生促進剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、筋疾患を治療または予防するための医薬組成物および方法に関する。より詳細には、本発明は、副甲状腺ホルモンを有効成分として含む筋疾患を治療または予防するための医薬組成物に関し、さらには、副甲状腺ホルモンを投与することによる、筋疾患を治療または予防するための方法に関する。本発明はまた、筋細胞への分化を誘導する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋疾患とは、筋力低下、筋の機能低下、骨格筋肉量の減少、筋崩壊などを伴う筋肉の疾患である。筋疾患の症状の大部分は、筋肉、特には骨格筋の萎縮、減少によって起こる筋力の低下であり、筋肉が萎縮または減少する原因として主に2つある。一つは、筋肉自体に問題がある場合(一般に、筋原性疾患という)、もう一つは筋肉を動かす神経に問題がある場合(一般に、神経原性筋疾患という)である。筋原性疾患の典型例は、筋ジストロフィーである。また、現在は一般には筋疾患には分類されていないが、進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とするサルコペニアがある。サルコペニアのために、ベッド上安静によりそのまま寝たきりとなって、介護が必要となってくる老人が増加している。現在のところ、これらの筋の疾患や障害に対する根治治療方法は皆無である。
【0003】
脊椎動物の骨格筋内には、筋細胞の基である筋衛星細胞が存在し、壊死などの損傷が起こった際には骨格筋の再生が行われている。筋衛星細胞は筋組織全体に分布しており、損傷または疾患がなければ、有糸分裂における休止状態にある。この細胞は、筋線維の壊死などの損傷が起こると活性化し、MyoD遺伝子が発現して筋線維へ分化が始まる。MyoDとは、未熟な細胞を筋分化に誘導可能な転写因子である。その際、筋衛星細胞は分裂し、その数を増す。筋衛星細胞は最終的に、既存の筋線維に置きかわる筋線維を生じるか、または既存の筋線維と融合する。そして、損傷治癒が治まると、再び、その一部の筋衛星細胞は休止の状態となる。このような筋線維の再生機構が十分に機能しなくなると、筋力低下、筋の機能低下、骨格筋肉量の減少などを伴う筋肉の疾患や障害を引き起こす。
【0004】
筋衛星細胞の増殖および分化に関与する因子としては、IGF-1(インスリン様成長因子-1)、MyoD、Myogenin、Myf5が報告されている。また、ニューレグリン類タンパク質由来のポリペプチドを用いて、筋組織の疾患、障害を予防する医薬品が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
筋障害の典型例である筋ジストロフィー、とりわけジストロフィン欠損によるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、X染色体上の突然変異を原因として、筋細胞の細胞骨格を担うジストロフィンを欠損する重症の遺伝子性筋疾患である。この発症率は出生男児3,500~4,000人に1人と比較的高い上に、3分の1は母体の卵細胞レベルにおける突然変異によるため遺伝相談による予防が必ずしも有効ではない。DMDでは、上記のような筋線維の再生機構が、壊れる筋線維の数に追いつかず、筋力低下を招いている。DMDは、筋力低下の進行が早く、筋力低下、呼吸機能、心機能の低下により著しく日常生活に制限を受ける。DMDの患者は典型的には、3~5才で筋力低下の症状を表し、9~10才で歩行不能となり、そして30才前後で心不全や呼吸障害で死亡する。このようにDMDは、重症で致死性の遺伝子性筋疾患である。
筋ジストロフィーにおいて頻度の一番高いDMDに対して、唯一厚生労働省が認めている治療法はステロイドの内服である。この治療により、歩行期間が1年延長すると言われている。ただし、ステロイド療法は骨密度を低下させるリスクがあり、脊椎骨折のリスクを高めることが知られている。また、アンチセンスによりエクソンスキップ起こさせ、重症のデュシェンヌ型から良性のベッカー型にする治療法が、国際共同治験で進行中であるが、まだ効果の有無は不明である。さらにその治療法は、テーラーメイド治療で、原因遺伝子のジストロフィン遺伝子の特殊な欠損の患者しか対象とならない。その他に、細胞治療、遺伝子治療、薬物治療などについて動物実験が行われているが、倫理的な問題、副作用などを考えると、まだ十分な治療法とはなり得ていない。そこで、この重症で致死性の遺伝子性筋疾患に対して治療法の開発が求められている。
【0006】
副甲状腺ホルモン(PTH)は、副甲状腺から分泌される84アミノ酸から構成されるポリペプチドホルモンであり、血中カルシウム濃度の低下に応答して分泌される。PTHは、血中で容易に34-35位が切断され、活性型1-34(N末端側)と不活性型35-84(C末端側)となる。PTHはまた、破骨細胞を活性化し、骨芽細胞を抑制することにより、骨吸収を促進する。さらに、PTHは、骨、軟骨の細胞の分化に関与していることが報告されている。そして、PTHまたはPTH関連タンパク質を用いた、骨粗鬆症の治療が提案されている(非特許文献1、非特許文献2)。また、ヒトPTH(1-34)であるテリパラチドは、日本で骨粗鬆症の治療薬として既に使われている。このように、PTHの骨に対する作用は数多く報告されている。
また、PTHタイプ1リセプター(PTH1R)が、血管平滑筋細胞(VSMC)機能の制御に関与していること、VSMCでの促進したPTH1Rレベルがしばしば過形成を伴うが、外来PTHrP(1-36)は、VSMCの増殖を阻害することが報告されている(非特許文献3)。しかしながら、筋芽細胞を初めとする筋組織、特に骨格筋に対する作用についての報告はない。
【0007】
DMD患者は、ステロイド療法により骨密度が低下し骨折のリスクが増す。ステロイド(グルココルチコイド)療法が行われて骨密度が減少し骨折のリスクが増しているDMD患者に対して、骨格特性を改善して骨折のリスクを軽減するためにBlack Bear PTHの使用が提案されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2004-43437号公報
【特許文献2】米国特許第8026213号明細書
【0009】

【非特許文献1】Esbrit P.ら、Biochem Pharmacol. 2013 May 15;85(10):1417-23.
【非特許文献2】Lombardi G.ら、J Endocrinol Invest. 2011 Jul;34(7 Suppl):18-22.
【非特許文献3】Song G.J.ら、Mol. Endocrinol. 23, 1681-1790 (2009).
【非特許文献4】Sarah K. Gray et al. ,Bone. 2012 September ; 51(3): 578-585.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、筋力低下を伴う筋疾患に広く適用可能な治療または予防に用いることができる医薬組成物または方法を提供することを目的とする。本発明は特には、筋力の増強、または筋力低下の進行を遅延させることができる医薬組成物または方法を提供することを目的とする。本発明はまた、筋疾患の例として、筋ジストロフィーまたはサルコペニアの治療または予防に用いることができる医薬組成物または方法を提供することを目的とする。本発明はさらには、筋細胞への分化を誘導できる組成物または方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、1型副甲状腺レセプター(PTH1R)が哺乳動物由来の多能性幹細胞の筋細胞への分化に必要なタンパク質であることを見出し、筋細胞の分化誘導を、副甲状腺ホルモン(PTH)、PTH誘導体、または副甲状腺関連タンパク質が促進するであろうとの知見を得た。そして、本発明者らは、副甲状腺ホルモン(PTH)が、ES細胞から筋芽細胞に分化する過程で大きな役割を果たしていることを発見し、さらにはPTHが骨格筋の成長に関与していることを発見して、本発明を完成した。
本発明は以下を含むものである。
(1)副甲状腺ホルモン(PTH)またはPTH誘導体の1種または2種以上、あるいは副甲状腺ホルモン関連タンパク質を有効成分として含有する筋疾患治療剤または予防剤。
(2)ヒトPTH(1-84)、ヒトPTH(1-34)、またはblack bear PTHを有効成分として含有する、上記(1)に記載の筋疾患治療剤または予防剤。
(3)ヒトPTH(1-34)を有効成分として含有する上記(2)に記載の筋疾患治療剤または予防剤。
(4)前記筋疾患が筋ジストロフィーである、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
(5)前記筋ジストロフィーがデュシェンヌ型筋ジストロフィーである、上記(4)に記載の筋疾患治療剤または予防剤。
(6)前記筋疾患がサルコペニアである、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
(7)骨粗鬆症の発症前の筋疾患患者に投与されるように用いられることを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
(8)骨粗鬆治療薬による治療を開始する前の筋疾患患者に投与されるように用いられることを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤、ここで、骨粗鬆治療薬による治療は、例えば、骨密度の低下に伴って開始される。
(9)副甲状腺ホルモン(PTH(1-84))、その活性型ペプチド(PTH(1-34))または副甲状腺ホルモン関連タンパク質を有効成分とする骨粗鬆治療薬を投与されていない筋疾患患者に投与されるように用いられることを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
(10)前記筋疾患が筋ジストロフィー患者である、上記(7)~(9)のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
(11)前記筋ジストロフィー患者がデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者である、上記(10)に記載の筋疾患治療剤または予防剤。
(12)前記筋疾患がサルコペニアである、上記(7)~(9)のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
(13)ステロイド剤と併用せずにデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に投与されるように用いられることを特徴とする、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の筋疾患治療剤または予防剤。
【0012】
(14)哺乳動物由来多能性幹細胞の筋細胞への分化誘導を促進する分化誘導促進剤であって、副甲状腺ホルモン(PTH)またはPTH誘導体の1種または2種以上、あるいは副甲状腺ホルモン関連タンパク質を含有する分化誘導促進剤。
(15)前記哺乳動物由来多能性細胞が、ヒトES細胞またはヒトiPS細胞である、上記(14)に記載の分化誘導促進剤。
(16)哺乳動物由来筋衛星細胞の筋細胞への分化誘導を促進する分化誘導促進剤であって、副甲状腺ホルモン(PTH)またはPTH誘導体の1種または2種以上、あるいは副甲状腺ホルモン関連タンパク質を含有する分化誘導促進剤。
(17)前記PTHまたはPTH誘導体が、ヒトPTH(1-84)、ヒトPTH(1-34)、またはblack bear PTHである、上記(14)~(16)のいずれか一つに記載の分化誘導促進剤。
(18)前記PTH誘導体がヒトPTH(1-34)である上記(17)に記載の分化誘導促進剤。
(19)副甲状腺ホルモン(PTH)またはPTH誘導体の1種または2種以上、あるいは副甲状腺ホルモン関連タンパク質を有効成分として含有する筋肉再生促進剤(または筋線維再生促進剤)。
(20)前記PTHまたはPTH誘導体が、ヒトPTH(1-84)、ヒトPTH(1-34)、またはblack bear PTHである上記(19)に記載の筋肉再生促進剤(または筋線維再生促進剤)。
(21)前記PTH誘導体がヒトPTH(1-34)である上記(20)に記載の筋肉再生促進剤(または筋線維再生促進剤)。
【0013】
(22)(例えば、筋力低下、筋の機能低下、骨格筋肉量の低下、遺伝子診断、または筋生検、のいずれかあるいはそれらの組合せにより)筋疾患と診断されたまたは筋疾患と推定されるヒト患者に、治療有効量の、副甲状腺ホルモン(PTH)またはPTH誘導体の1種または2種以上、あるいは副甲状腺ホルモン関連タンパク質を投与することを含む、該患者を処置または治療する方法。
(23)前記PTHまたはPTH誘導体が、ヒトPTH(1-84)、ヒトPTH(1-34)、またはblack bear PTHである上記(22)に記載の方法。
(24)前記PTH誘導がヒトPTH(1-34)である上記(23)に記載の方法。
(25)前記筋疾患が筋ジストロフィーである、上記(22)~(24)のいずれか一つに記載の方法。
(26)前記筋ジストロフィーがデュシェンヌ型筋ジストロフィーである、上記(25)に記載の方法。
(27)前記筋疾患がサルコペニアである、上記(22)~(24)のいずれか一つに記載の方法。
(28)前記筋疾患患者が骨粗鬆症の発症前の筋疾患患者である上記(22)~(24)のいずれか一つに記載の方法。
(29)前記筋疾患患者が骨粗鬆治療薬による治療を開始する前の筋疾患患者である上記(22)~(24)のいずれか一つに記載の方法、ここで、骨粗鬆治療薬による治療は、例えば、骨密度の低下に伴って開始される。
(30)前記筋疾患患者が、副甲状腺ホルモン(PTH(1-84))、その活性型ペプチド(PTH(1-34))または副甲状腺ホルモン関連タンパク質を有効成分とする骨粗鬆治療薬を投与されていない筋疾患患者である、上記(22)~(24)のいずれか一つに記載の方法。
(31)前記筋疾患が筋ジストロフィー患者である、上記(28)~(30)のいずれか一つに記載の方法。
(32)前記筋ジストロフィー患者がデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者である、上記(31)に記載の方法。
(32)前記筋疾患がサルコペニアである、上記(28)~(30)のいずれか一つに記載の方法。
(33)前記筋疾患患者がデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者であり、かつ、副甲状腺ホルモン(PTH)、PTH誘導体、または副甲状腺ホルモン関連タンパク質が、ステロイド剤と併用せずに投与される、上記(22)~(24)のいずれか一つに記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、筋力低下を伴う筋疾患に広く適用できる治療剤または予防剤が提供される。本発明によりまた、多能性幹細胞や筋衛星細胞の筋細胞への分化誘導を促進する組成物または方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】Aは、スーパー標的(super-targeting)により、誘導可能なMyoD遺伝子を組み込んだマウスES細胞(ZHTc6-MyoD)の作製方法を示している。Bは、ドキシサイクリン(Dox)存在下で培養しコロニーを形成させた状態(未分化状態)(左図)とDoxの非存在下で8日間培養して細長い紡錘細胞を形成させた状態(右図)である。
【図2】ZHTc6-MyoD細胞を、培養液よりDoxを除去して分化させた後、未分化の細胞をDox存在下でさらに培養し、再び培養液よりDoxを除去して分化させた結果を示している。一部の細胞は、分化誘導をかけてもMyoDが発現しているにも関わらず、再びコロニーを形成している。
【図3】DNAマイクロアレイ分析による、未分化ES—MyoD細胞と、分化13日後の未分化ES-MyoD細胞の比較の結果を示している。
【図4】DNAマイクロアレイ分析による、未分化ES—MyoD細胞と、分化13日後のマイオチューブの比較の結果を示している。
【図5】未分化ES—MyoD細胞、分化13日後の未分化ES-MyoD細胞、およびマイオチューブでの、1型副甲状腺レセプター(PTH1R)の発現をRT-PCRにより確認した結果である。
【図6】ES-MyoD細胞の分化誘導時における、siRNAによるPTH1R発現の抑制の効果を確認した結果である。Aは、実験スケジュールを示している。Bは、細胞の状態を示した顕微鏡写真である。
【図7】不死化したヒト由来の筋芽細胞(Immortalized human myogenic cell clone Hu5/KD3)(KD3)を、PTH存在下で分化誘導した結果である。分化誘導後16日目の細胞の顕微鏡写真である。Aは、PTH非存在下(PTH(-))およびPTH存在下(PTH(+))の結果を示している。PTH(+)の写真中の矢印は、マイオシートの幅を示している。Bは、PTH(+)で分化誘導した細胞の拡大写真である。PTH存在下で培養すると自己収縮を認めた。
【図8】抗Pax7抗体および抗PTH1R抗体を用いて、マウスの筋組織を免疫組織染色した結果である。Pax7陽性は、筋衛星細胞マーカーである。矢印は、それぞれの陽性細胞を確認できた箇所を示している。筋衛星細胞の多くはPTH1R陽性細胞であることを示している。
【図9】PTHを投与したマウスの筋組織における中心核が占める割合を確認した結果である。Aの写真の下の数値は、PTHの投与量を示す。Bは、正常マウスから採取した腓腹筋を用いた結果である。正常筋細胞においては、核は中心にない。Cは、それぞれの投与量における、中心核の割合を示したグラフである。
【図10】筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)におけるPTHの効果を、ワイヤーハンギングテストで確認した結果である。
【図11】筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)におけるPTHの効果を、トレッドミルテストで確認した結果である。
【図12】59日間PTHを投与した筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)の第四腰椎を、高解像度X線マイクロコンピュータ化されたトモグラフィ(mCT)画像分を行った結果である。
【図13】59日間PTHを投与した筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)の筋組織の写真である。
【図14】59日間PTHを投与した筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)の筋組織における筋原線維の平均直径を測定した結果である。
【図15】59日間PTHを投与した筋ジストロフィーモデルマウス(mdxマウス)の筋組織における中心核をもつ筋原線維が占める割合を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に記載の態様に限定されるものではない。
以下、本明細書において、特に断りのない限りは、あるいは文脈において特定のPTHまたはPTH誘導体を意味していることが明らかでない限りは、PTHなる用語は、副甲状腺ホルモン(PTH)およびPTH誘導体を含む意味で用いられる。また本明細書においてPTHなる用語は、文脈においてPTH関連タンパク質を除いていると明らかでない限りは、PTHおよびPTH誘導体に加えさらにPTH関連タンパク質を含む意味で用いられる。

【0017】
本発明における副甲状腺ホルモン(PTH)とは、天然型のPTH、遺伝子工学的手法で製造されたPTH、化学的に合成されたPTHを包含し、好ましくは84アミノ酸残基より成るヒトPTH(ヒトPTH(1-84))またはBlack bear parathyroid hormone(bbPTH)である。また、PTH誘導体とは、前記のPTHの部分ペプチドや、PTHそのものあるいはその部分ペプチドの構成アミノ酸の一部を他のアミノ酸に置換したもの、PTHそのものあるいはその部分ペプチドの構成アミノ酸の一部を欠失したもの、およびPTHそのものあるいはその部分ペプチドに1または2以上のアミノ酸を付加したペプチドなどで同様の活性を有するペプチドを意味する。PTHの部分ペプチドとしては、ヒトPTHの部分ペプチドまたはbbPTHの部分ペプチド等をあげることができ、例えば、ヒトPTH(1-34)、ヒトPTH(1-64)、ヒトPTH(35-84)、ウシPTH(1-34)等があげられる。ヒトPTH(1-34)とはPTHのN末端から34番目のアミノ酸までの34個のアミノ酸からなるPTHの部分ペプチドを示す。アミノ酸置換の好ましい例としては、8位における構成アミノ酸のロイシンやノルロイシンへの置換、18位における構成アミノ酸のロイシンやノルロイシンへの置換、34位における構成アミノ酸のチロシンへの置換などをあげることができるがこれらに限定されない。

【0018】
本発明用いられる副甲状腺ホルモン(PTH)またはPTH誘導体の好ましい例としては、ヒトPTH(1-84)、ヒトPTH(1-34)、ヒトPTH(1-38)、ヒトPTH(1-37)、ヒトPTH(1-34)-NH2、bbPTHなどがあげられ、さらに好ましくはヒトPTH(1-84)、ヒトPTH(1-34)、bbPTHであり、最も好ましいものとしてヒトPTH(1-34)があげられる。

【0019】
本発明における副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)とは、141個のアミノ酸からなり、PTH様作用により高カルシウム血症をもたらす蛋白質であり、天然型のPTHrP、遺伝子工学的手法で製造されたPTHrP、化学的に合成されたPTHrPを包含し、好ましくは141アミノ酸残基より成るヒトPTHrPである。本発明におけるPTHrPは、PTHrPそのものに加え、その構成アミノ酸の一部を他のアミノ酸に置換したもの、その構成アミノ酸の一部を欠失したもの、およびPTHrPに1または2以上のアミノ酸を付加したものなどで同様の活性を有するペプチドを含み、さらには、本発明の目的において同様の活性を有する限り、PTHrPの部分ペプチドおよびそのアミノ酸の一部を置換・欠失またはそれにアミノ酸を付加したものも含む意味で用いられる。

【0020】
本発明の一つの態様において、本発明は、哺乳動物由来多能性幹細胞の筋芽細胞や筋細胞への分化誘導を促進する分化誘導促進剤であって、PTHを含有する分化誘導促進剤である。
本発明の別の態様において、本発明は、PTHを用いて、哺乳動物由来多能性幹細胞を筋芽細胞や筋細胞に分化誘導する方法である。

【0021】
本発明で用いる「多能性幹細胞」とは、自己複製能を有しインビトロにおいて培養することが可能で、かつ、個体を構成する細胞に分化しうる多分化能を有する細胞をいう。具体的には、胚性幹細胞(ES細胞)、体細胞由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)等をあげることができるが、好ましくは、ES細胞又はiPS細胞であり、特に好ましくは、ヒトES細胞及びヒトiPS細胞である。

【0022】
iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは、分化多能性を獲得した細胞のことで、体細胞(例えば、線維芽細胞など)へ分化多能性を付与する数種類の転写因子(分化多能性因子)遺伝子を導入することにより、ES細胞と同等の分化多能性を獲得した細胞のことである。「分化多能性因子」としては、多くの因子が報告されており、特に限定しないが、例えば、Octファミリー(例えば、Oct3/4)、Soxファミリー(例えば、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15及びSox17など)、Klfファミリー(例えば、Klf4、Klf2など)、Mycファミリー(例えば、c-Myc、N-Myc、L-Mycなど)、Nanog、LIN28などを挙げることができる。iPS細胞の樹立方法については、多くの報告が既になされており、それらを参考にすることができる。

【0023】
哺乳動物由来のES細胞の培養方法は常法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を用い、白血病阻害因子、KSR(ノックアウト血清代替物)、ウシ胎仔血清(FBS)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ピルビン酸、ペニシリン、ストレプトマイシン、β-メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM培地を用いて維持することができる。
iPS細胞の培養も定法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてマウス線維芽細胞を用いて、bFGF、KSR、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、β-メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM/F12培地やPrimate ES培地(リプロセル)を用いて維持することができる。

【0024】
本発明においては、例えば、ヒトES細胞やヒトiPS細胞を、PTHを含有する培地で培養することにより、ヒト筋芽細胞またはヒト筋細胞を誘導でき、誘導された細胞は、筋疾患の治療に用いることができる。
本発明の分化誘導促進剤は、その組成および形態は、PTHを含有しかつそれを安定に保存できれば特に制限がない。

【0025】
本発明の別の一つの態様において、本発明は、哺乳動物由来筋衛星細胞(サテライト細胞)の筋芽細胞や筋細胞への分化誘導を促進する分化誘導促進剤であって、PTHを含有する分化誘導促進剤である。
本発明のさらに別の一つの態様において、本発明は、PTHを用いて、哺乳動物由来の筋衛星細胞(サテライト細胞)を筋芽細胞や筋細胞に分化誘導する方法である。
ヒトから採取した筋衛星細胞を分化誘導する場合は、例えば、筋衛星細胞を、PTHを含有する培地で培養することにより、ヒト筋芽細胞またはヒト筋細胞へと誘導でき、誘導された細胞は、筋疾患の治療に用いることができる。あるいは、生体(例えばヒト)の筋組織中に存在する筋衛星細胞の筋芽細胞または筋細胞への分化誘導を促進する場合は、以下に記載の筋疾患の治療剤または予防剤と同様にして、ヒトに投与することにより、筋衛星細胞への分化誘導を促進できる。

【0026】
本発明の他の一つの態様として、本発明は、例えば、ヒトの筋肉(または筋線維)の再生促進剤であって、PTHを有効成分として含有する筋肉(または筋線維)再生促進剤である。
本発明のさらに他の一つの態様として、本発明は、PTHを用いて、例えば、ヒトの筋肉(筋線維)を再生する方法である。
筋肉(または筋線維)再生促進剤として用いる場合は、以下に記載の筋疾患の治療剤または予防剤と同様にして、ヒトに投与することにより、筋衛星細胞を活性化して、細胞分裂を促進し、筋線維の再生を引き起こすことにより、筋肉の再生を誘導できる。

【0027】
本発明の別の一つの態様において、本発明は、PTHを有効成分として含有する、筋疾患のための治療剤または予防剤である。
本発明のさらに別の一つの態様においては、本発明は、PTHを用いて、筋疾患を治療または予防する方法である。
本明細書で言う筋疾患とは、筋力低下、筋の機能低下、骨格筋肉量の減少などを伴う筋肉の疾患を意味する。筋疾患の症状の大部分は、筋肉、特には骨格筋の萎縮、減少によって起こる筋力の低下である。筋肉が萎縮または減少する原因は大まかに2つあり、一つは、筋肉自体に問題がある場合(一般に、筋原性疾患という)であり、もう一つは筋肉を動かす神経に問題がある場合(一般に、神経原性筋疾患という)である。筋原性疾患には、進行性筋ジストロフィー(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、遠位型ミオパチーなど)、先天性筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー症、先天性非進行性ミオパチー、皮膚筋炎、糖原病、脂質代謝異常ミオパチー、ミトコンドリアミオパチー、などがある。一方、神経原性筋疾患には、乳児脊髄性筋萎縮症(ウェルドニッヒ・ホフマン病)、クーゲルベルグ・ウェランダー病、DRPLAなどがある。

【0028】
本発明が対象とする筋疾患は、上記の筋原性疾患および神経原性筋疾患の両者を含み、例えば、それに限定されないが、上記に例示した各疾患を対象とする。現在は一般には筋疾患に分類されていないが、廃用性筋萎縮による筋疾患やサルコペニアも本発明の対象であり、本明細書においては、筋疾患は、廃用性筋萎縮による筋疾患やサルコペニアを含む意味で用いられる。サルコペニアは、進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群であり、筋肉量の低下を伴い、筋力または身体能力の低下のいずれかが当てはまればサルコペニアと診断される。本発明の対象として好ましいのは、骨格筋肉量の減少を伴う筋疾患、特には、進行性筋ジストロフィー、例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィー、とサルコペニアである。
本発明の筋疾患治療剤または予防剤、あるいは筋疾患の治療または予防方法を用いることにより、筋力の増強または筋力低下の遅延を達成することができる。

【0029】
本発明の薬剤の剤形としてはペプチドの通常の製剤方法により製造される剤形を用いることができ、非経口投与剤および経口投与剤のいずれも可能である。
非経口投与のための剤形としては、例えば、注射剤、坐薬、吸入剤(経鼻吸収剤、経肺呼吸剤、経皮吸収剤)、皮膚粘膜投与製剤等が挙げられる。注射剤は、液剤(無菌水又は非水溶液)、乳剤および懸濁剤の形態とすることができ、これらに用いられる非水担体、希釈剤、溶媒またはビヒクルとしては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等の注射可能な有機酸エステルが挙げられる。なお、注射剤は、凍結保存または凍結乾燥により保存するのが望ましく、凍結乾燥製剤とした場合は、用時に注射用蒸留水等により溶解して使用される。
経口投与製剤としては、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形製剤、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤、油性若しくは水性懸濁剤等の液剤を例示でき、賦形剤、結合剤、崩壊剤、矯味剤、矯臭剤、乳化剤、希釈剤等の製剤化に必要な添加物を適宜配合して調製することができる。
さらには、ゲル状のシートに含ませるなど局所化および遅効性を期待した剤形も可能である。
また、血中半減期の増大をねらってポリエチレングリコールで修飾した製剤やペプチドを修飾した製剤も可能である。

【0030】
製剤化の際には、製薬学的に許容しうる補助成分を添加することができる。
補助成分としては、基剤、安定剤、防腐剤、保存剤、乳化剤、懸濁化剤、溶解剤、溶解補助剤、滑沢剤、矯味剤、着色剤、芳香剤、無痛化剤、賦形剤、結合剤、粘稠剤、緩衝剤などがあげられ、具体的には、たとえば、炭酸カルシウム、乳糖、蔗糖、ソルビット、マンニトール、デンプン、アミロペクチン、セルロース誘導体、ゼラチン、カカオ脂、注射用蒸留水、塩化ナトリウム水溶液、リンゲル液、グルコース溶液、ヒト血清アルブミンなどがあげられる。これらの補助成分を用いて、本発明の薬剤を調整する場合には、当該補助成分を適宜選択し、使用すればよい。また、補助成分の使用量は、製剤学的に許容されうる範囲内において、剤形などに応じ、適宜選択すればよい。

【0031】
本発明の薬剤の投与方法は、全身投与でも局所投与でもよく、好ましい例として、経口投与、皮下投与、経皮投与、静脈内投与、鼻腔内投与、経肺投与などによる全身投与などがあげられるが、経口投与(例えば、錠剤)、皮下投与(例えば、注射剤)、経皮投与(例えば、テープ剤)がより好ましい。投与期間は、臨床的に筋疾患と判断される期間を原則とし、病因に応じて臨床医の判断により、本発明の薬剤の投与により筋力低下が回復した後も投与を続けることも可能である。さらに、筋疾患により筋力低下が予測される場合、予防的に投与することも可能である。投与頻度は、月1回投与から連日投与が可能であり、好ましくは1回/2週から5回/週程度もしくは連日投与である。

【0032】
本発明のPTHの投与量は、疾患、症状などにより異なり、適用疾患、症状、患者の状態、投与方法により適宜選択される。例えば、これに限定されないが、全身投与では、1日あたり体重1kgあたり0.01μg~100μg程度であり、好ましくは0.1μg~60μg程度であり、さらに好ましくは0.4μg~60μgである。投与方法は、限定されないが、連日でも間歇でもよく、週1回、またはそれ以上の期間を空けてもよい。投与方法及び投与量は、患者の症状や状態により適宜選択されるが、例えば、0.4μg/kg~100μg/kg、好ましくは1μg/kg~60μg/kgを、週1回、皮下注で投与が可能である。

【0033】
本発明のPTHを用いた治療剤及び予防剤の特徴は、すべての筋疾患を有する個体に適用可能なことである。そして、本発明の治療剤または予防剤を投与した個体は、筋力の増強、または筋力低下の進行を遅らせることが可能となる。それ故、ヒトにおいては、歩行不能になることを防ぐまたは歩行不能になる時期を遅らせることができ、患者のQOL(Quality of Life)やADL(Activities of Daily Living)を改善できる。
本発明のPTHを用いた治療剤及び予防剤の特徴はまた、横隔膜などの呼吸筋の筋力の改善または維持による呼吸機能障害の改善も期待でき、さらには、PTHが心筋の分化を促すことにより、骨格筋の改善のみならず、筋疾患に合併する心機能の改善も期待できる。

【0034】
本発明のPTHを用いた治療剤及び予防剤は、疾患のもととなる特定の原因や機序をターゲットとするものではなく、筋組織機能の改善という効果に基づくものであるので、筋力の低下を伴う筋疾患に広く適用できる。そのため、本発明は、特定の原因に基づく筋に影響を及ぼす疾患ではない、加齢や骨折、癌などによりベッド上で安静を余儀なくされ廃用性筋萎縮をきたすいわゆるサルコペニアなどの治療にも適用できる。本発明により、寝たきりの時間が短縮、また老人の寝たきりになる率の減少が期待される。

【0035】
筋疾患(サルコペニアを含む)の患者は、早い段階で筋力低下の症状を発症する。筋力低下は、多くの合併症を引き起こすので、この筋力低下の症状を呈した早い段階で、本発明のPTHを用いた治療剤及び予防剤を用いるのが好ましい。
筋疾患(サルコペニアを含む)の患者は、筋力の低下に伴い運動量が減少するため、骨密度の低下を引き起こす。骨密度の低下は骨折のリスクを伴うため、骨密度の低下が顕著な場合は、一般には骨粗鬆薬が患者に投与される。骨粗鬆薬としては、ビスフォスフォネート製剤やPTH誘導体であるテリパラチドが用いられる。本発明のPTHを用いた治療剤及び予防剤は、患者が骨密度の低下を来す前に投与を開始することが好ましく、それにより、筋力低下による骨密度の低下を防ぐことができる。

【0036】
以下に本発明の使用態様を例示するが、これに限定されるわけではない。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、一般に、遺伝子診断(MLPA法)および/または抗ジストロフィン抗体を使用した免疫組織染色による筋生検により診断される。これらの診断方法により確定診断された患者は、本発明の治療剤を投与する対象となるが、投与を開始する時期は、特に制限されず、(i)筋力低下の症状が出現する前、(ii)筋力低下の症状が出現したころ、(iii)良く転ぶ、階段が昇れない、登攀性起立などを認めるころ(通常、3~4歳頃)、(iv)動揺性歩行が目立つ頃(5~7歳頃)、あるいはそれ以降のいずれでも良いが、好ましくは、(iv)動揺性歩行が目立つ頃である。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者においては、現在ステロイド治療薬の投与が行われるが、ステロイド投与は一般に、(iv)動揺性歩行が目立つ頃(5~7歳頃)から開始され、次いで、歩行不能となり(10歳頃)、その後骨粗鬆症の症状を呈することが報告されている。
本発明の治療薬の投与は、骨粗鬆症の症状を呈する遙か以前の、例えば、ステロイド投与の開始と同時期の、(iv)動揺性歩行が目立つ頃(5~7歳頃)から開始するのが好ましいが、それ以前から開始してもよい。
なお、ステロイドの投与により結果として骨粗鬆症が起こりうるので、ステロイド投与が開始された筋疾患患者には、本発明の筋疾患治療薬を併用することが望ましい。

【0037】
他の先天性筋ジストロフィーも同様に、一般に、遺伝子診断(たとえば、福山型先天性筋ジストロフィーにおける、フクチン遺伝子(原因遺伝子)へのトランスポゾンの挿入のサザンブッロトやPCRでの検出)や各原因遺伝子の抗体で免疫組織染色による筋生検を行い診断される。これらの診断方法により確定診断された患者は、本発明の治療薬により治療を開始するのが好ましい。あるいは、患者は、生まれて数ヶ月で筋力低下と筋緊張低下が目立ってくるので、筋ジストロフィーとの診断がついたら、本発明の治療薬により治療を開始するのが好ましい。

【0038】
他の筋ジストロフィーである筋力低下の進行が遅い筋ジストロフィー、例えばベッカー型筋ジストロフィーや肢体型筋ジストロフィーなども、一般に、遺伝子診断(例えば、ベッカー型におけるMLPA法)および/または免疫組織染色による筋生検を行い診断される。これらの筋ジストロフィーは、筋力低下の進行が遅く、症状を呈するまでに個人差があり、10歳代で歩行が出来なくなる患者もいるが、多くは歩行困難が出てくるのは20歳以上である。従って、これらの患者に対しては、登攀性起立を認めるころ、もしくは動揺性歩行が出現する頃に、本発明の治療薬により治療を開始するのが好ましい。

【0039】
サルコペニアは、全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする疾患であるが、例えば、手術などで長期臥床を余儀なくされ、歩行回復に時間がかかることが予想される患者などが発症する。これらの患者の場合は、リハビリを開始する前に、本発明の治療薬により治療を開始するのが好ましい。また、治療は、例えば、歩行が安定してきたら、中止することが好ましい。

【0040】
なお、本発明で用いることができるPTH誘導体であるヒトPTH(1-34)は、テリパラチドとして既に医薬品として市販されているので、ヒトへの投与について、安全性が確認されている。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1:MyoD遺伝子発現マウスES細胞の作成
発明者らの文献(Ozasaら、Biochem. Bioph. Res. Comm. 357, 957-963, 2007)に従って、Tet-Offシステムを利用して、ドキシサイクリン(Dox)を除去することにより、MyoD遺伝子を発現させることのできるマウスES細胞(ES-MyoD)を作製した。スーパー標的(super-targeting)による、ZHTc6-MyoD細胞の作製方法を図1(A)に示す。ES-MyoD細胞の維持にはGlasgow minimum essential medium(GMEM)、15% Knockout SR (Gibco)、Leukemia inhibitory factor (LIF) 1000 U/ml、sodium pyruvate 1mM、non-essential amino acids 0.1 mM、2-mercaptethano 0.055 mM、doxycycline 100 ng/mL、Zeocin 10 μg/mLの培養液(維持培地)を使用した。ゼラチンコートデッシュを使用し、維持には3日毎に細胞を0.25%トリプシン処理し、細胞をはがし、PBSで洗浄後、播種した。筋細胞分化には、上記の培養液より、Knockout SR、LIF、Zeocin、doxycyclineを除き4% fetal bovine serum (FBS)を添加した(分化培地)。この細胞は培養液からDoxを除去することにより、in vitroでは高率にES細胞を筋分化させることが出来た(図1(B))。
しかし、ES-MyoD(MyoD-)の培養液よりDoxを除去しても、すべての細胞がマイオチューブへと筋分化するわけでなく、一部の細胞(「ES-MyoD(MyoD+)」と称する)は筋衛星細胞の休止状態と同じ様に未熟の状態を保っていた(図2)。この分化は筋衛星細胞に似ている。
【実施例】
【0042】
実施例2:ZHTc6-MyoD細胞の網羅的DNAマイクロアレイ分析
次いで、未分化ES-MyoD細胞と分化13日後ES-MyoD細胞において、網羅的DNAマイクロアレイにより遺伝子の発現を解析した。
未分化のES-MyoD細胞を維持培地で培養し、PBSで洗浄後、0.25%トリプシンではがしてPBSで洗浄後、細胞を回収し、RNAを抽出した(未分化ES-MyoD)。
ES-MyoD細胞を維持培地から分化培地に変更し、筋細胞に分化誘導をかけ13日後、ピペットでマイオチューブに培養液を直接吹きかけ、マイオチューブをディシュよりはがした。多くは簡単にこの操作でマイオチューブははがれていく。その後、コロニーを0.25%トリプシンではがして,PBSで洗浄後、細胞を回収しRNAを抽出した(分化13日後未分化ES-MyoD)。
また、分化誘導後7日後に分化培地にガンシクロビル1mMを入れて未分化な細胞を死滅させ、分化誘導13日後にマイオチューブのみを採取し、マイオチューブからRNAを抽出した。
抽出したそれぞれのRNAを用いてDNAマイクロアレイ分析を行った。網羅的DNAアレイはフィルジェン株式会社(日本)に委託した(CodeLink Human Whole genome Bioarray受託解析サービス、単色法3サンプル Cat.#F-300026-1-3)。
未分化ES-MyoD細胞と分化13日後の未分化ES-MyoDの細胞の比較を図3に、未分化ES-MyoD細胞と分化13日後のマイオチューブの細胞の比較を図4に示す。分化13日後の未分化ES-MyoD細胞では1型副甲状腺レセプター(PTH1R)が高発現していた(図5)。
【実施例】
【0043】
実施例3:siRNAによるPTH1R発現の抑制
PTH1Rの発現抑制のためのsiRNAはMn-PTH1R-5、Mn-PTH1R-6、Mn-PTH1R-7、およびMn-PTH1R-8(QIAGEN社、GeneSolution siRNA Cat. No. 1027416)を使用した。ネガテイブコントロールとしてAllSTars Neg siRNA AF488(QIAGEN社、Cat. No. 1027284)を使用した。Death controlとしてAllStars Mm/Rn Cell Death Control siRNA(QIAGEN社、Cat. No. S104939025)を使用した。
トランスフェクション2日前に、ES-MyoD細胞の培地を分化培地(2% HS DMEM)に変えて分化誘導した。Day0で、分化誘導をかけたES-MyoD細胞を、トリプシンを用いてディッシュからはがし、PBSで洗浄後、維持培地で中和して、トランスフェクションの前にコラゲンコートされた6ウェルディシュの1ウェルに2x105細胞ずつ播種し、短い時間、230μL の分化培地で培養した。マイクロチューブに、1500ngのsiRNAを血清が入っていない培地100μLを入れ、次いで、15μL のHiperfect transfection reagent(QIAGEN社、CAT 301704)を入れてボルテックスをして混ぜた。その後、5分から10分間、室温でインキュベートし、用意した細胞の入ったディシュ(6ウェルディッシュ)に入れた。48時間後(Day2)に、分化培地に培地交換をした。48時間後にトランスフェンの効率を蛍光AF488で確認し、death controlでほぼすべての細胞が死んでいることを確認した。トランスフェクション2日後(Day2)および10日後(Day10)における細胞の状態を確認した。結果を図6に示す。未分化ES-MyoD(MyoD-)細胞が筋分化する際に、siRNAでPTH1Rを抑制すると、多くの細胞は分化せずに死んでいくことが確認された。
【実施例】
【0044】
実施例4:PTHによるヒト筋芽細胞の分化誘導
不死化したヒト由来の筋芽細胞(Immortalized human myogenic cell clone Hu5/KD3)(KD3)細胞におけるPTH存在化での筋分化誘導を確認した。KD3の維持培養は、DMEM-Dulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)、20% FBS、2% Utraser G(Life science社、15950-017)(維持培地)を使用した。分化培地は、DMEM、2% horse serum、1% Insulin-Transferrin-Selenium-A(Gibco社、51300-044)を使用した。
維持培地を使用してKD3細胞をコラゲンコートディシュに播種し、翌日、分化培地に培地を入れ替えた。PTH(副甲状腺ホルモンフラグメント1-34ヒト、Cat. No. P3796、シグマ社)を添加する場合は、最終濃度を2.5nMとした。KD3を、PTHを添加した培地で培養すると、収縮まで分化がすすむことが確認された。また、分化誘導されたマイオシートの幅が広くなっていることが確認された。結果を図7に示す。
また、ES細胞を用いて筋細胞への分化誘導を行ったところ、PTHの添加により分化誘導の促進が確認できた。
【実施例】
【0045】
実施例5:筋組織のPTH1R抗体を用いた免疫組織染色
マウスの筋組織に対して、Pax7とPTH1Rの2重染色を施行した。実験には、12週齢のC57BL/10SnSlcマウスの筋組織を用いた。10μm クライオスタットを使用してマウスの腓腹筋より筋組織を切り出し、常法に従って免疫組織染色を行った。1次抗体としてanti PTH1R(SIGMA-ALDRICH社、rabbit poly)400倍希釈と、anti Pax7(LifeSpan BioSciences, Inc.、goat poly)300倍希釈を使用した。2次抗体としては anti rabiit IgG Alexa 488(Molecular Probes社)、anti goat IgG Alexa 555(Molecular Probes社)を使用した。結果を図8に示す。筋組織のPax7陽性を示す筋衛星細胞の一部にPTH1Rの発現する細胞を認めた。ヒトの筋組織を用いて同様の実験を行った結果、マウスと同様の結果を得た。
【実施例】
【0046】
実施例6:筋ジストロフィーモデルマウスに対するPTHの投与
4週齢のmdxマウス(筋ジストロフィーのモデルマウス、ジストロフィン欠損マウス)に、PTH(副甲状腺ホルモンフラグメント1-34ラット、Cat. No. P3921、シグマ社)を10、60、および200μg/kgの投与量にて、各1匹ずつ連日、20日間、皮下注射した。コントロールは、生理食塩水を投与した。その後、ワイヤーハンギングテストにて、それぞれの濃度でPTHを投与されたマウスのつかまり時間を測定した。ワイヤーハンギングテストは以下のように行った。HARA&CO.,LTD.(小原医科産業株式会社)製WH-3002を使用して行った。マウスを金網に捕まらせて、逆さまにして、つかまれる時間を計測した。その時に、マウスのしっぽに2.8gのおもりを負荷した。3回行い最長時間を示した。結果は、生理食塩水、10、60、および200μg/kgの投与量の順に、13秒、55秒、221秒、および87秒とPTH投与群のマウスが長く捕まることができた。なお、PTH200μg/kgを投与したマウスは、高Ca血症を呈していた。
【実施例】
【0047】
実施例7:PTH投与マウスの筋組織の中心核率の検討
PTH投与マウスの筋組織における中心核が占める割合を、mdxマウスを用いて確認した。10、60、および200μg/kgの投与量にて、各1匹ずつ連日、20日間、皮下注射したマウスをジエチルエーテルで麻酔し、頸椎脱臼にて殺し、腓腹筋を採取し、HE染色を行った。写真を撮影し、中心核の率をカウントした。コントロールは、生理食塩水を投与した。結果を図9に示す。筋組織の中心核の率は、生食投与、10、60、および200μg/kg投与mdxマウスにおいて、それぞれ91.0、88.5、73.7、および85.4%であり、PTH投与群が中心核の割合の低下を示した。中心核の率が低いほど、細胞の壊死が少ないことを示し、筋の正常化を示す。
【実施例】
【0048】
実施例8:mdxマウスのPTHの投与による筋力低下の回復
次いで、mdxマウスにPTHを連日60μg/kg皮下注射し、10日目、および31日目に、それぞれワイヤーハンギングテストと100分間トレッドミルを施行した。
ワイヤーハンギングテストは、mdxマウスを用いて、投与10日目に、生食(生理食塩水)投与mdx7匹、PTH投与mdx6匹を使用し、実施例6と同様にして行った。それぞれの平均は30.8±21、132±61で0.03の有意差を認めた(図10)。
PTH投与31日目のmdxマウスを用いて、トレッドミル試験を行った。トレッドミル:コントロールLE8710(Panlab Harvard社製、スペイン)を使用した。B10マウス(正常マウス)4匹、生食投与mdxマウス3匹、PTH60μg/kg投与mdxマウス4匹を使用した。25cm/secで、100分間走らせた際の、走行距離を測定した。途中で走れなくなったマウスはその時点までの走行した距離を走行距離とした。100分間走った距離は、それぞれ、1488±7.9、343±251、973±339メートルであった(図11)。B10とmdxの生食投与群では0.01以下の有意差を示し、生食投与群とPTH投与群では0.04の有意差を示した。よって、PTH投与による、筋力の維持もしくは増強効果を認めた。この結果はPTH、PTH誘導体、PTH関連タンパクが、筋疾患やサルコペニアの治療に有効であることを示している。
【実施例】
【0049】
実施例9:mdxマウスのPTHの投与による筋線維および骨に対する効果
mdxマウス(6匹)にPTHを連日60μg/kg、59日間、皮下注射し、骨状態と筋線維の状態を確認した。対照として、正常マウス(B10マウス)(5匹)、および生食(生理食塩水)を投与したmdxマウス(7匹)を用いた。
実施例8同様、ワイヤーハンギングテストおよびトレッドミル試験ともに、PTH投与群は有意な効果を示し、PTH投与による、筋力の維持もしくは増強効果を認めた。
投与59日目に、各群のそれぞれのマウスの骨密度を確認した。骨密度分析は、以下のようにしておこなった。マススの第四腰椎について、高解像度X線マイクロコンピュータ化されたトモグラフィ(mCT)画像分析を、FLEX Triumph CT scanner(TriFoil Imaging, Northridge, CA, USA)を用いて、40kV,790mAで操作して行った。X線透過像は、360度にわたる256投射を用いて取得した(256ms放射/投射,x2倍率,焦点:84μm)。幾何学的照射野は、512x512マトリックスに対して59x59mmとした。各512切片のmCTイメージセットを、115μmピクセルサイズを用いて再構成し、3次元イメージを作成した。結果を、図12に示す。腰椎体のmCT値(図中の線内の平均密度)は、Image J Softwareを用いて測定した。正常マウス(B10)、PTH投与群、および生食投与群の平均mCT値は、それぞれ、1521.87,1304.34および1207.27ハウンズフィールドユニットであった。PTH処理によるジストロフィン欠損マウスの骨化の改善が示唆された。
【実施例】
【0050】
翌日(60日目)、全てのマウスをジエチルエーテルで麻酔し、頸椎脱臼にて殺し、血液および組織サンプルを採取し、血液学的分および組織学的分析を行った。
血清クレアチンキナーゼ(CK)およびカルシウム(Ca)レベルを、Fuji Dri-Chem system(Fuji Film Medical, Tokyo, Japan)を用いて、製造者の操作手順書に従って測定した。CKレベルは、それぞれ、正常マウス(B10)が1558.6±1316.7 IU/L(n=5)、PTH投与群が5508.8±2149.7 IU/L(n=6)、および生食投与群が6630.1±3811.1 IU/L(n=7)であった。正常マウスのCKレベルは、PTH投与群および生食投与群のマウスより顕著に低く、PTH投与群および生食投与群マウスのCKレベルは、統計的に同じであった。PTH投与により筋原線維ダメージのバイオマーカーであるCKのレベルが減少しなかったことより、PTH投与によって筋細胞の細胞膜の安定性が改善されたのではないことが示唆された。従って、mdxマウスにおけるPTH投与のおける筋力の増強は、処理していないマウスに比べてより速い筋の再生が起こった結果と考えられる。血清カルシウムレベルは、正常マウス、PTH投与群マウス、および生食投与群のマウスにおいて差がなかった。
組織学的分析は、筋原線維の最小の断面直径と筋原線維の中心核の数を、HE染色切片のデジタルイメージ分析に基づいて、それぞれ、Image J(NIH, Bethesda, MD, USA)およびCell Sense(Olympus, Tokyo, Japan)Software suitesを用いて決定することにより行った。筋線維サイズおよび中心核データの統計的分析は、Microsoft Excel, version 14.2.5 software(REdmond, WA, USA)を用いて行った。
正常マウス(B10)、PTH投与群、および生食投与群の筋組織の写真を図13に、筋原線維の平均直径を図14に、中心核率を図15に示す。図13の結果は、実施例7(図9)と同様であった。正常マウスにおいては、筋線維の周辺に位置しているのに対し、mdxマウスでは核を中心にもつ筋原線維が顕著に出現し、PTH投与により改善された。また、生食投与群のマウスの筋原線維は、PTH投与群のマウスに比べて、小さく、そしてより丸い線維(再生線維)であった。正常マウス(B10)、PTH投与群、および生食投与群の筋原線維の平均直径は、それぞれ、33.62±10.6μm(n=5)、31.16±12.9μm(n=6)、および25.41±10.4μm(n=7)であった。中心核をもつ筋原線維の率は、正常マウス(B10)、PTH投与群、および生食投与群のそれぞれで、0.34±0.2%(n=5)、83.01±4.0%(n=6)、および93.2±2.0%(n=7)であった。これらの結果は、PTH処理により、mdxマウスの筋線維の構造が顕著に改善されたことを示しており、PTH処理は、筋線維の再生を促進することにより筋力弱化を改善したことを示している。
【実施例】
【0051】
上記の記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のPTHを含む筋疾患治療剤または予防剤は、筋力低下を伴う筋疾患に広く適用でき、筋力の増強または筋力低下の進行を遅延させることができる。適用できる筋疾患としては、例えば、筋ジストロフィーやサルコペニアをあげることができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14