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明細書 :金属錯体への金属酸化物の添加による固体触媒の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6578211号 (P6578211)
登録日 令和元年8月30日(2019.8.30)
発行日 令和元年9月18日(2019.9.18)
発明の名称または考案の名称 金属錯体への金属酸化物の添加による固体触媒の製造方法
国際特許分類 B01J  31/28        (2006.01)
B01J  23/63        (2006.01)
B01J  37/04        (2006.01)
B01J  38/00        (2006.01)
C07F   7/08        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI B01J 31/28 Z
B01J 23/63 Z
B01J 37/04 102
B01J 38/00 301Z
C07F 7/08 C
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 15
全頁数 17
出願番号 特願2015-561055 (P2015-561055)
出願日 平成27年2月6日(2015.2.6)
国際出願番号 PCT/JP2015/053377
国際公開番号 WO2015/119244
国際公開日 平成27年8月13日(2015.8.13)
優先権出願番号 2014022456
優先日 平成26年2月7日(2014.2.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年1月18日(2018.1.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
発明者または考案者 【氏名】和田 健司
【氏名】束田 深志
【氏名】細川 三郎
【氏名】阿部 竜
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】佐藤 慶明
参考文献・文献 中国特許出願公開第103084214(CN,A)
特開2010-184881(JP,A)
束田深志,和田健司, 細川三郎, 阿部竜,アルケンへの選択的脱水素シリル化反応に有効な担持イリジウム触媒の開発,触媒討論会討論会A予稿集,日本,2013年 9月11日,ISSN 1343-9936, Vol.112th,Page.424
調査した分野 B01J 21/00 - 38/74
C07F 7/00 - 7/30
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
DWPI(Derwent Innovation)
特許請求の範囲 【請求項1】
希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を溶媒中で処理し、溶媒中でイリジウム触媒を調製することを特徴とする、非焼成方式のシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒の製造方法。
【請求項2】
溶媒中にイリジウム化合物とヒドロシラン類を添加して加熱し、次いで希土類金属を含む酸化物を加えてイリジウム化合物とヒドロシラン類を溶媒中で処理することを特徴とする、請求項1に記載のシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒の製造方法。
【請求項3】
前記処理が希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を溶媒中で混合することである、請求項1又は2に記載のシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒の製造方法。
【請求項4】
前記処理が希土類金属を含む酸化物をイリジウム化合物の溶媒溶液に含浸もしくは浸漬することである、請求項1又は2に記載のシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒の製造方法。
【請求項5】
希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を溶媒中で処理し、加熱することを特徴とする請求項1又は2に記載のシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒の製造方法。
【請求項6】
希土類金属を含む酸化物が希土類金属酸化物又は希土類金属を含む複合酸化物である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒の製造方法。
【請求項7】
前記酸化物が酸化セリウムである、請求項1~6のいずれか1項に記載のシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒の製造方法。
【請求項8】
イリジウム化合物がイリジウム錯体またはイリジウム塩である、請求項1~7のいずれか1項に記載のシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒の製造方法。
【請求項9】
イリジウム化合物がIrCl・xHO(x=0~3)、トリアセチルアセトナトイリジウム、Ir(CO)12、ビス(シクロペンタジエニルイリジウムジクロリド)である、請求項1~8のいずれかに記載のシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒の製造方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の製造方法によって得られるシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒。
【請求項11】
請求項10に記載のイリジウム触媒の存在下で、シラン化合物(1)と不飽和化合物(2)を反応させることを特徴とする、一般式(I)で表されるシラン化合物の製造方法:
【化1】
JP0006578211B2_000006t.gif
(式中、RはR1a1b1cSi基を示し、Rはアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基を示す。
1a、R1b、R1cは、各々独立してアルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、ハロゲン原子を示す。)
【請求項12】
溶媒中に希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を添加し、必要に応じて加熱してイリジウム触媒を溶媒中で調製し、得られた非焼成方式のイリジウム触媒をヒドロシラン類とアルケンを原料とした脱水素シリル化反応に使用して反応液からイリジウム触媒を濾過により回収し、回収した非焼成方式のイリジウム触媒をさらに次の脱水素シリル化反応に使用する工程を少なくとも1回行うことを特徴とするイリジウム触媒の回収及び再利用方法。
【請求項13】
溶媒中にイリジウム化合物とヒドロシラン類と希土類金属を含む酸化物を添加して加熱することにより最初のイリジウム触媒の調製を行い、以下、イリジウム触媒の回収と脱水素シリル化反応への再利用を少なくとも1回行うことを特徴とする、請求項12に記載の脱水素シリル化反応におけるイリジウム触媒の回収及び再利用方法。
【請求項14】
溶媒中にイリジウム化合物とヒドロシラン類とアルケンと希土類金属を含む酸化物を添加して加熱し、最初のイリジウム触媒の調製と脱水素シリル化反応を同時に行い、以下、イリジウム触媒の回収と脱水素シリル化反応への再利用を少なくとも1回行うことを特徴とする、請求項12に記載の脱水素シリル化反応におけるイリジウム触媒の回収及び再利用方法。
【請求項15】
溶媒中にイリジウム化合物とヒドロシラン類を添加して加熱し、さらに希土類金属を含む酸化物を添加して加熱することにより最初のイリジウム触媒の調製を行い、得られたイリジウム触媒とアルケンの存在下に脱水素シリル化反応を行い、以下、イリジウム触媒の回収と脱水素シリル化反応への再利用を少なくとも1回行うことを特徴とする、請求項12~14のいずれか1項に記載の脱水素シリル化反応におけるイリジウム触媒の回収及び再利用方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、固体触媒及び固体触媒から溶液に溶出するイリジウム触媒の製造方法、触媒によるシリル基置換不飽和化合物の製造方法に関し、詳しくはイリジウム触媒によるシリル基置換不飽和化合物の製造方法に関するものである。
また、本発明は、イリジウム触媒の回収及び再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の有機ケイ素ポリマー原料として、及び不飽和化合物合成原料として工業的に重要な基幹化合物であるシリルアルケン類を、ヒドロシラン類とアルケンを原料として脱水素シリル化反応によって製造する方法は、ヒドロシラン類及びアルケン類の事前の活性化を必要としない原子効率が高い優れた手法である。
【0003】
有機合成反応における触媒は、均一系触媒と不均一系触媒に大きく二分される。代表的な均一系触媒である錯体触媒は、高効率、高選択的な反応の実現が容易であるといった利点を有しているため、精密な制御が必要な有機合成にしばしば用いられる。均一系ロジウム錯体触媒(非特許文献1、2)あるいはパラジウム錯体触媒(非特許文献3)等を活用したシリルアルケン類の製造方法が既に見出され、報告されているが、均一系錯体触媒には、1)触媒製造プロセスが複雑で、高環境負荷・高コスト、2)触媒の分離回収・再利用が困難で、生成物への金属の混入が問題となる、3)一般に化学的・熱的に不安定であり取り扱いが困難、などの工業化の上で重大かつ本質的な問題点がある。さらに、本反応はヒドロシリル化反応によるシリルアルカンの副生を本質的に伴い、目的とするシリルアルケンを選択的に得るためにはシリルアルカンの副生を抑制する必要がある。そのため、反応後の分離回収が困難な配位子あるいは添加剤として有害なホスフィンや高価な1,10-フェナントロリン誘導体の使用が不可欠であるが、それでも特にジメチルフェニルシランを原料として用いた場合にはシリルアルカンの副生が著しく、選択的にシリルアルケンを得ることは極めて困難である。
【0004】
一方、不均一系触媒の中でも酸化物担持触媒は、活性や選択性では劣る場合が多いものの、均一系触媒と比較して、1)触媒の分離回収・再利用が容易である、2)生成物への金属種の混入リスクが小さい、3)熱や空気に対する安定性が高く取り扱いが容易、などのメリットが挙げられ、錯体触媒に匹敵する活性及び選択性を有する固体触媒の開発は、グリーンケミストリーの観点から必要不可欠である。
【0005】
こうした観点から和田らは、酸化セリウム担持ルテニウム (Ru/CeO) 触媒やイリジウム (Ir/CeO) 触媒を開発し、これらが多種多様な有機合成反応に有効であることを見出し、特許文献1~3、非特許文献4~10によって報告している。これらはいずれも「金属酸化物担持触媒」の範疇にはいる触媒群であり、触媒を焼成して金属酸化物に変換し、その形態で用いられる。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】WO2014/133031
【特許文献2】特開2010-189313
【特許文献3】特開2010-184881
【0007】

【非特許文献1】Activation of the Vinylic d C - H Bond of Styrene by a Rhodium - Siloxide Complex: The Key Step in the Silylative Coupling of Styrene with Vinylsilanes, Marciniec, B.; Walczuk-Gusciora, E.; Pietraszuk, C. Organometallics 2001, 20, 3423-3428.
【非特許文献2】Cationic Rhodium Complex-Catalyzed Highly Selective Dehydrogenative Silylation of Styrene, Takeuchi, R.; Yasue, H. Organometallics 1996, 15, 2098-2102.
【非特許文献3】Mechanistic Studies of Palladium(II)-Catalyzed Hydrosilationand Dehydrogenative Silation Reactions, LaPointe, A. M.; Rix, F. C.; Brookhart, M. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 906-917.
【非特許文献4】Ruthenium-catalyzed Intermolecular Hydroacylation of Internal Alkynes: The Use of Ceria-supported Catalyst facilitates the Catalyst RecyclingMiura, H.; Wada, K.; Hosokawa, S.; Inoue, M.Chem. Eur. J. 2013, 19, 861-864..
【非特許文献5】Highly Selective Linear Dimerization of Styrenes by Ceria-Supported Ruthenium CatalystsShimura, S.; Miura, H.; Tsukada, S.; Wada, K.; Hosokawa, S.; Inoue, M.ChemCatChem 2012, 4, 2062-2067.
【非特許文献6】Active Ruthenium Catalysts Based on Phosphine-modified Ru/CeO2 for the Selective Addition of Carboxylic Acids to Terminal AlkynesNishiumi, M.; Miura, H.; Wada, K.; Hosokawa, S.; Inoue, M.ACS Catalysis 2012, 2, 1753-1759.
【非特許文献7】Development of Ceria-supported Ruthenium Catalysts for Green Organic Transformation ProcessesWada, K.; Miura, H.; Hosokawa, S.; Inoue, M.J. Jpn. Petro. Inst.2013, 56, 69-79..
【非特許文献8】「グリーン分子変換プロセスのための担持ルテニウム触媒の開発」 和田健司; 三浦大樹、ケミカルエンジニヤリング 2012, 57, 679-684.
【非特許文献9】「アルケンへの選択的脱水素シリル化反応に有効な担持イリジウム触媒の開発」 束田深志・和田健司・細川三郎・阿部竜、第112回触媒討論会、1I30、平成25年9月18日~20日(9月18日)、秋田大学手形キャンパス、秋田市(Oral)
【非特許文献10】束田深志 京都大学工学部工業化学科 平成23年度卒業論文
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、回収再利用が困難なホスフィン等の有害物質や1,10-フェナントロリン等の高価な配位子を使用する必要がなく、調製が極めて簡便で再生が容易な固体触媒及び固体複合体から溶液に溶出する触媒による、シリル基置換不飽和化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、広範囲なイリジウム錯体あるいはイリジウム塩と、酸化セリウム等の希土類金属酸化物を用いることで、飛躍的に効率が高く、環境等への負荷が小さなシリルアルケン類の製造方法を見出した。
本発明は、以下のイリジウム触媒の製造方法、イリジウム触媒及び当該イリジウム触媒を用いたシリル基置換不飽和化合物の製造方法及びイリジウム触媒の回収及び再利用方法を提供するものである。
項1. 希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を溶媒中で処理することを特徴とする、イリジウム触媒の製造方法。
項2. 溶媒中にイリジウム化合物とヒドロシラン類を添加して加熱し、次いで希土類金属を含む酸化物を加えてイリジウム化合物とヒドロシラン類を溶媒中で処理することを特徴とする、項1に記載のイリジウム触媒の製造方法。
項3. 前記処理が希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を溶媒中で混合することである、項1又は2に記載のイリジウム触媒の製造方法。
項4. 前記処理が希土類金属を含む酸化物をイリジウム化合物の溶媒溶液に含浸もしくは浸漬することである、項1又は2に記載のイリジウム触媒の製造方法。
項5. 希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を溶媒中で処理し、加熱することを特徴とする項1又は2に記載のイリジウム触媒の製造方法。
項6. 希土類金属を含む酸化物が希土類金属酸化物又は希土類金属を含む複合酸化物である、項1~5のいずれか1項に記載のイリジウム触媒の製造方法。
項7. 前記酸化物が酸化セリウムである、項1~6のいずれか1項に記載のイリジウム触媒の製造方法。
項8. イリジウム化合物がイリジウム錯体またはイリジウム塩である、項1~7のいずれか1項に記載のイリジウム触媒の製造方法。
項9. イリジウム化合物がIrCl3・xH2O(x=0~3)、トリアセチルアセトナトイリジウム、Ir(CO)12、ビス(シクロペンタジエニルイリジウムジクロリド)である、項1~8のいずれかに記載のイリジウム触媒の製造方法。
項10. 項1~9のいずれかに記載の製造方法によって得られるシリル基置換不飽和化合物製造用イリジウム触媒。
項11. 項10に記載のイリジウム触媒の存在下で、シラン化合物(1)と不飽和化合物(2)を反応させることを特徴とする、一般式(I)で表されるシラン化合物の製造方法:
【0010】
【化1】
JP0006578211B2_000002t.gif

【0011】
(式中、RはR1a1b1cSi基を示し、Rはアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリールアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基を示す。
1a、R1b、R1cは、各々独立してアルキル基、アルコキシ基、置換基を有していてもよいアリール基、ハロゲン原子を示す。)
項12. 溶媒中に希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を添加し、必要に応じて加熱してイリジウム触媒を調製し、得られたイリジウム触媒をヒドロシラン類とアルケンを原料とした脱水素シリル化反応に使用して反応液からイリジウム触媒を濾過により回収し、回収したイリジウム触媒をさらに次の脱水素シリル化反応に使用する工程を少なくとも1回行うことを特徴とするイリジウム触媒の回収及び再利用方法。
項13. 溶媒中にイリジウム化合物とヒドロシラン類と希土類金属を含む酸化物を添加して加熱することにより最初のイリジウム触媒の調製を行い、以下、イリジウム触媒の回収と脱水素シリル化反応への再利用を少なくとも1回行うことを特徴とする、項12に記載の脱水素シリル化反応におけるイリジウム触媒の回収及び再利用方法。
項14. 溶媒中にイリジウム化合物とヒドロシラン類とアルケンと希土類金属を含む酸化物を添加して加熱し、最初のイリジウム触媒の調製と脱水素シリル化反応を同時に行い、以下、イリジウム触媒の回収と脱水素シリル化反応への再利用を少なくとも1回行うことを特徴とする、項12に記載の脱水素シリル化反応におけるイリジウム触媒の回収及び再利用方法。
項15. 溶媒中にイリジウム化合物とヒドロシラン類を添加して加熱し、さらに希土類金属を含む酸化物を添加して加熱することにより最初のイリジウム触媒の調製を行い、得られたイリジウム触媒とアルケンの存在下に脱水素シリル化反応を行い、以下、イリジウム触媒の回収と脱水素シリル化反応への再利用を少なくとも1回行うことを特徴とする、項12~14のいずれか1項に記載の脱水素シリル化反応におけるイリジウム触媒の回収及び再利用方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、種々の有機ケイ素ポリマー原料として、および不飽和化合物合成原料として工業的に重要な基幹化合物であるシリルアルケン類を、ヒドロシラン類とアルケンを原料として脱水素シリル化反応によって製造する方法を提供するものである。本発明の方法は、ヒドロシラン類およびアルケン類の事前の活性化を必要としない原子効率が高い優れた手法である。
【0013】
本発明の触媒は、金属酸化物中にナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が含まれていないことが望ましく(アルカリ金属フリーの触媒)、アルカリ土類金属が含まれていないことが好ましい。
【0014】
本発明では、シリルカップリング反応に対して、比較的安価で入手が容易な種々のイリジウム錯体あるいはイリジウム塩から反応系中で調製される固体触媒及び固体複合体から溶液に溶出する触媒を用いることができる。
【0015】
本発明の製造方法によれば、有害なホスフィンを使用する必要がないので、生成物にホスフィンが混入することはない。
【0016】
また、本発明の触媒は、再生処理が不要であり、バッチ式、セミバッチ式あるいは連続式の反応で繰り返し使用できる。
【0017】
さらに、本発明の触媒を用いることによって、生成するシリルアルケンへのイリジウム種の混入を防ぐことで、生成物の生成過程を簡略化あるいは省略することができる。
本発明の触媒は、脱水素シリル化反応に対して飛躍的に高い活性を示し、触媒活性の低下を伴うことなく触媒の再利用が可能で、さらに均一系錯体触媒の使用に伴って発生する問題点を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)Ir(acac)への金属酸化物の添加効果。(b)Ir(acac)への金属酸化物の添加効果。
【図2】(a)Ir(CO)12に対する酸化セリウムの添加効果。(b)IrCl・xHOに対する酸化セリウムの添加効果
【図3】高基質/触媒比に於けるIr(acac)への酸化セリウムの添加効果
【図4】本発明触媒の再利用性の検討
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のイリジウム触媒は、希土類金属を含む酸化物(以下、「希土類金属酸化物」と記載する場合がある)とイリジウム化合物を溶媒中で処理することにより製造でき、溶媒中での処理としては、希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を混合すること、希土類金属酸化物をイリジウム化合物の溶媒溶液に含浸もしくは浸漬することのいずれでもよい。前記処理は加熱下に行ってもよく、前記処理後に加熱してもよい。

【0020】
本発明のイリジウム触媒は、希土類金属酸化物とイリジウム化合物を溶媒中で処理することにより製造できるが、アルケンを加えず、ヒドロシラン類とイリジウム化合物と希土類金属酸化物の混合物を溶媒中で加熱することでも高活性のイリジウム固体触媒を得ることができる。例えば、ヒドロシラン類を溶媒中に希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を添加して加熱を行うことで、溶媒中でイリジウム触媒を得ることができる。ヒドロシラン類とイリジウム化合物と希土類金属酸化物の混合物を溶媒中で加熱してイリジウム触媒を調製し、さらにアルケンを加えることで脱水素シリル化反応を行うこともできる。本発明の好ましい実施形態では、ヒドロシラン類とイリジウム化合物を溶媒に加えて加熱しながら前処理し、そこに希土類金属酸化物を加えて加熱することで、高活性のイリジウム触媒を得ることができる。このように、本発明のイリジウム触媒は、イリジウム化合物と希土類金属酸化物の2成分を用いて調製することもでき、イリジウム化合物と希土類金属酸化物とヒドロシラン類の3成分を用いて調製することもできる。3成分を用いる場合、溶媒中に添加する順序は問わず、いずれかの2成分(例えばイリジウム化合物とヒドロシラン類)を先に添加し、次いで残りの1成分(例えば希土類金属酸化物)を添加してもよいが、特に、ヒドロシラン類とイリジウム化合物で前処理し、その後希土類金属酸化物を作用させるのが好ましい。

【0021】
本明細書において、「希土類金属を含む酸化物」としては、酸化セリウムなどの希土類金属酸化物又は希土類金属と非希土類金属を含む複合酸化物が挙げられる。本明細書では、これらの酸化物と複合酸化物を含めて「希土類金属含有酸化物」と記載することがある。好ましい希土類金属を含む酸化物は、酸化セリウム、酸化プラセオジウム、酸化テルビウム、酸化イッテルビウム、酸化イットリウム、セリウムとプラセオジウムの複合酸化物、セリウムとテルビウムの複合酸化物、セリウムとイッテルビウムの複合酸化物、セリウムとイットリウムの複合酸化物である。

【0022】
本明細書において、「イリジウム化合物」は、希土類金属を含む酸化物と反応させることで、ヒドロシラン類とアルケンを原料とした脱水素シリル化反応によりシリルアルケン類を製造するための優れたイリジウム触媒になり得るものであり、溶媒中で少なくとも一部は溶解し、希土類金属を含む酸化物と接触し、最終的に本発明のイリジウム触媒になるものである。イリジウム化合物は、イリジウム塩とイリジウム錯体を包含する。

【0023】
本発明では、希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を混合することで、従来のイリジウム錯体、イリジウム塩等のイリジウム化合物、あるいは希土類金属酸化物担持イリジウムを大きく上回る触媒活性及び選択性を示す触媒が製造できる。

【0024】
本発明のイリジウム錯体は、ヒドロシラン類とアルケンを原料とした脱水素シリル化反応によりシリルアルケン類を製造する反応系で調製されてもよく、予めこのような錯体を調製しておき、前記反応系に添加することもできる。また、前記反応系から回収したイリジウム触媒は、繰り返し使用することができる。

【0025】
イリジウム触媒の製造方法
イリジウム錯体、イリジウム塩等のイリジウム化合物とともに添加する希土類金属を含む酸化物/複合酸化物としては、一般的に機械的強度が高く、触媒として利用した際の触媒の摩耗や粉化等によるロス及び製品への混入等の不利を避けることができるという点、高活性を有する触媒調製が容易であるという点、高い熱的、化学的安定性を有する点、及び他の副生成物を産しない点等から、希土類金属酸化物あるいはこれらを含む複合酸化物が挙げられる。

【0026】
希土類金属としては、例えば、セリウム、プラセオジウム、テルビウム、イッテルビウム、イットリウム等が挙げられる。これらの希土類金属の酸化物は、1種の希土類金属を単独で用いてもよく、また、2種以上を希土類金属を混合して用いてもよい。これらの金属酸化物の中で、入手可能性、価格、触媒活性等の観点から、酸化セリウムあるいはこれを含む複合酸化物が好ましい。

【0027】
また、希土類金属含有酸化物は、さらにその他の金属酸化物との複合酸化物であってもよい。ここで、「複合酸化物」とは、希土類金属酸化物と他の金属(特に遷移金属)酸化物との複合体を意味する。他の金属は、アルカリ金属を含まないのが好ましく、アルカリ金属とアルカリ土類金属をともに含まないことがより好ましい。希土類金属以外の他の金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅等が挙げられる。

【0028】
前記複合酸化物を用いる場合における、希土類金属酸化物以外の金属酸化物の含有割合は触媒としての機能を発現できれば特に制限されるものではないが、例えば、複合酸化物中、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、特に5質量%以下である。

【0029】
希土類金属含有酸化物は、その前駆体として、硝酸塩、オキシ硝酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩等の金属塩を用い、加水分解後に空気中で焼成させること、あるいは直接熱分解させることによって得られる。好ましくは、希土類金属含有酸化物は、希土類金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩等の金属塩の溶液に沈殿剤を添加し、生じた沈殿を焼成することで得ることができる。沈殿剤としてはアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミノ、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類などが挙げられる。希土類金属含有酸化物を得るための焼成温度としては、200~700℃が好ましく、より好ましくは300~500℃程度である。

【0030】
触媒を製造する方法としては「希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を溶媒中で処理」し、その後に必要に応じて加熱すればよい。例えば、イリジウム化合物と希土類金属含有酸化物をともに溶媒中に投入して混合し、必要に応じて溶媒中で加熱すること、あるいは希土類金属含有酸化物を溶媒中のイリジウム化合物溶液に含浸もしくは浸漬し、必要に応じて加熱することにより、イリジウム触媒を製造することができる。これらの混合、含浸、浸漬は、全て「希土類金属を含む酸化物とイリジウム化合物を溶媒中で処理する」ことに該当する。溶媒としては、ヒドロシラン類(1)とアルケン(2)を原料とした脱水素シリル化反応によりシリルアルケン類(I)を製造する際の溶媒が好ましく例示され、具体的にはベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素、アセトニトリルなどのニトリル類、ピリジン、イミダゾールなどのヘテロ芳香族化合物、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン、エーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノ/ジアルキルエーテル、グリセリン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、酢酸などが挙げられる。本発明で使用するイリジウム触媒は、一般式(I)で表される不飽和シラン化合物の製造の反応系で調製することができ、溶媒としてはこのような反応に使用する溶媒が好ましく例示される。

【0031】
本発明の他の実施形態において、溶媒中にイリジウム化合物とヒドロシラン類と希土類金属を含む酸化物を加えることで、本発明のイリジウム触媒を得ることができる。

【0032】
本発明のさらに他の実施形態において、溶媒中にイリジウム化合物とヒドロシラン類とアルケンと希土類金属を含む酸化物とアルケン化合物を加え、イリジウム触媒を反応系中で生成させながら同時に脱水素シリル化反応を行ってもよい。

【0033】
イリジウム化合物としては、イリジウム塩、イリジウム錯体などが挙げられ、具体的には、IrCl4,IrCl3,IrCl2,IrBr4,IrBr3,IrBr2,IrI4,IrI3,IrI2,酢酸イリジウムなどのイリジウム塩、ヘキサクロロイリジン酸[H2IrCl6]、(NH4)2IrCl6、(NH4)2IrBr6、[Ir(CO)2I]2、[Ir(CO)2Cl]2、[Ir(CO)2Br]2、[Ir(CO)2I2]-H+、[Ir(CO)2Br2]-H+、[Ir(CO)2I4]-H+、[Ir(CH3)I3(CO)2]-H+、Ir4(CO)12、Ir(acac)(CO)2、Ir(acac)3(「acac」はアセチルアセトナトである)、ビス(シクロペンタジエニルイリジウムジクロリド)などのイリジウム錯体が挙げられ、これらイリジウム化合物は水和物であってもよい。好ましいイリジウム化合物は、IrCl3・xH2O(x=0~3)、トリアセチルアセトナトイリジウム、Ir(CO)12、ビス(シクロペンタジエニルイリジウムジクロリド)である。

【0034】
本発明のイリジウム触媒はイリジウム化合物の溶媒溶液中で希土類金属含有酸化物を処理(混合、含浸、浸漬)することで製造することができるが、好ましくは溶媒中でさらに加熱することにより製造することができる。

【0035】
イリジウム錯体あるいはイリジウム塩等のイリジウム化合物の割合(溶媒中に添加されたイリジウム化合物の量)としては、希土類金属含有酸化物の添加量を基準として0.001~20質量%程度が好ましく、0.1~5質量%程度がより好ましく、0.08~0.2質量%程度がさらに好ましい。このような範囲は、触媒にかかるコストを低減し、同時に触媒回転数の低下を防ぐために好ましい。

【0036】
本発明の好ましい実施形態において、希土類金属含有酸化物とともに添加したイリジウム化合物を、溶媒(好ましい実施形態では脱水素シリル化の原料および溶媒)中で混合し加熱する工程によって本発明のイリジウム触媒が製造され得る。

【0037】
イリジウム化合物と希土類金属含有酸化物は溶媒中で混合した後、必要に応じて加熱を行う。加熱しない場合には、その分長時間反応させることで、本発明の触媒を得ることができる。反応温度は室温以上が好ましく、より好ましくは40~200℃程度、さらに好ましくは80~170℃程度、特に好ましくは120~140℃程度である。この反応温度は、イリジウム触媒の製造と脱水素シリル化反応の両方に適用できる。ヒドロシラン類とアルケンを原料とした脱水素シリル化反応の反応系でイリジウム触媒を調製する場合、反応温度が40℃以上であれば、触媒の合成および脱水素シリル化反応に要する時間を短縮することができる。また、反応温度を200℃以下に設定することで、比較的沸点の低い成分のロスを抑制することができる。このような温度で反応を行うことで、高活性なイリジウム触媒を得ることができる。脱水素シリル化に要する反応時間は30分から48時間程度、好ましくは1~24時間程度である。

【0038】
希土類金属含有酸化物およびイリジウム化合物の混合及び上記反応温度での反応工程は、空気中で行うことも可能であるが、不活性ガス雰囲気下で行われてもよい。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素、ヘリウム等が挙げられる。

【0039】
上記のように製造された金属酸化物に担持したイリジウム触媒は、式(I)の化合物を製造後、必要に応じて洗浄後に分離、回収を行い、再生することなく次の反応に使用することができる。

【0040】
洗浄に用いられる洗浄剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、THF、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、水、ヘキサン、石油エーテルあるいはこれらの混合物等が挙げられる。

【0041】
本発明で得られたイリジウム触媒は、ヒドロシラン類とアルケンを原料とした脱水素シリル化反応によりシリルアルケン類を製造する反応系中で発生させた場合には、そのまま触媒として使用すればよく、触媒を回収/再利用する場合には、反応系の温度を下げ(例えば室温)、その状態で希土類金属を含む酸化物を濾別すればよい。反応系の温度を下げることで、イリジウム成分はほぼ完全に希土類金属を含む酸化物に吸着され、溶液中には検出限界以下のイリジウムのみ存在するようにできるため、イリジウムの損失を最小限にして回収し、生成物中のイリジウム含量をできるだけ低下することができる。

【0042】
イリジウム化合物は溶媒中で少なくとも一部は溶解し、希土類金属を含む酸化物は不溶物として存在する。溶媒中でこれらの化合物を反応させて活性なイリジウム化合物を発生させてそれを濾過すれば、ろ液と濾別される不溶物の両方に触媒活性が確認され得る。理論に拘束されることを望むわけではないが、ろ液中の触媒活性イリジウムは、希土類金属を含む酸化物と接触することでヒドロシラン類とアルケンを原料とした脱水素シリル化反応に適したイリジウム触媒に変換されたものと本発明者は考えている。一方、このような触媒活性イリジウムは大部分が溶媒不溶性の希土類金属含有酸化物の表面に吸着された形態で存在し、この不溶物を不飽和シラン化合物を製造するための反応系中に添加すると、この反応系において触媒活性イリジウムが溶媒中に微量遊離するか、或いは、希土類金属を含む酸化物の表面に吸着されたままで選択性の高いイリジウム触媒として作用すると本発明者は考えている。従って、本発明の触媒の製造方法で得られるイリジウム触媒は、溶媒に溶解する形態であってもよく、溶媒に不溶な形態であってもよい。

【0043】
式(I)の化合物の製造方法
本発明は、上記製造方法により得られたイリジウム触媒の存在下で、化合物(1)と化合物(2)を反応させる工程を含む化合物(I)の製造方法にも関する。
化合物(I)の製造方法をScheme1に示す。

【0044】
【化2】
JP0006578211B2_000003t.gif

(式中、R、Rは、前記に定義されるとおりである)

【0045】
溶媒の存在下で式(I)の化合物を製造する場合、溶媒としては、メシチレン、キシレン、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、n-オクタン、n-デカン等の無極性溶媒;N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPともいう)、N,N-ジメチルホルムアミド、THF、ジオキサン、塩化メチレン等の極性溶媒が挙げられるが、これらの中で、式(I)の化合物の収率が向上するという点において、無極性溶媒であることが好ましく、具体的には、トルエン、メシチレン等が特に好ましい。

【0046】
式(I)の化合物の製造方法において、反応温度は、40~200℃程度であることが好ましく、80~150℃程度であることがより好ましい。反応時間は、30分から48時間程度、好ましくは1~24時間程度である。

【0047】
式(I)の化合物の製造法は、化合物(1)1モルに対し、化合物(2)を0.5モル~10モル程度、好ましくは1.6モル~2.4モル程度使用する。

【0048】
本発明で用いられるイリジウム触媒は、希土類金属含有酸化物にイリジウム種が吸着した固体触媒及びこの固体から溶液に溶出するイリジウム種であるため、本発明の製造方法は、液相プロセス又は固相-液相プロセスにおいて行われる。そのため、例えば、本発明の希土類金属含有酸化物に担持されたイリジウム触媒をカラム等に詰め、出発物質等を流して(必要に応じて循環させる)、化合物(I)を得るといった連続的に反応を行う方法や、溶液中に分散させて反応後にろ過や傾斜法によって触媒と生成物を分離する方法等に応用することが可能である。

【0049】
また、本発明の製造方法によって製造される化合物(I)は、有機ケイ素ポリマー原料として有用である。均一系触媒を用いる現行プロセスでは、生成物からの触媒成分の除去段階の環境・エネルギー負荷が大きい。これに対して、本願発明の触媒を用いた製造方法によると、触媒成分の除去にかかるコストを低減することが可能となり、再生工程が不要であり、トリフェニルホスフィンなどのリン化合物や、1,10-フェナントロリン等の高価な配位子の使用が必要とされないため、有用な活用が期待できる。
【実施例】
【0050】
以下に参考例、実施例及び試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0051】
実施例1
1.実験
1.1)触媒調製
(酸化セリウムの調製)硝酸セリウム(III)六水和物12.6g(和光純薬製29.0mmol)をイオン交換水400mLに溶解させ、28%アンモニア水35mLを滴下して室温で2時間撹拌した。1時間以上放置した後、生じた紫色の沈殿をイオン交換水で洗浄し80℃で一晩乾燥させ、空気中10℃/minで昇温、所定温度にて30分間焼成して酸化セリウムを得た。このようにして得られた酸化セリウムを例えば沈殿剤にアンモニア水、400℃で焼成した際にはCeO(NH,400)のように表記する。また、水酸化ナトリウム水溶液を沈殿剤とした際には、アンモニア水の代わりに3.0M水酸化ナトリウム水溶液を40mL用いた。その際得られた酸化セリウムは、例えばCeO(NaOH,400)のように表記する。沈殿剤としてNaOHを使用した場合、微量のNaが酸化セリウムに含まれる。
【実施例】
【0052】
(本発明触媒及び比較触媒の調製)
上記で調製した酸化セリウム125mgにトリアセチルアセトナトイリジウム(Ir(acac)3、アルドリッチ社製、イリジウムとして13~0.625μmol)を20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に加え、以下に述べる反応条件下でのシリル化合物合成反応に供した。
【実施例】
【0053】
比較触媒(Ir/CeO)はトリアセチルアセトナトイリジウム(アルドリッチ社製)を0.2~2質量%の担持量となるようにメタノール約10mLに溶かし、酸化セリウム1.0gを加えて室温で含浸し、蒸発乾固させ、空気中で300℃にて30分焼成し、酸化セリウムに担持したイリジウム(Ir/CeO)触媒を得た。その他の担持触媒も同様の方法で合成した。
【実施例】
【0054】
1.2)触媒の検討
磁気回転子を入れた20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に、所定量のCeO(NH,400)及びトリアセチルアセトナトイリジウムを加え、アルゴン置換後、ジメチルフェニルシラン(1a)を1.0mmol、スチレン(1b)を3.0mmol、内部標準としてテトラデカン(C1430)、及び溶媒としてトルエンを2.0mL加え、アルゴン雰囲気下、還流冷却装置を備えた120℃に保ったホットプレート上で3時間反応を行い、エチルベンゼンとともに、シリルスチレンを合成した。なお、反応容器にアルゴンを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物の定性、及び定量は、NMR(日本電子(株)製のEX-400)、GC-MS((株)島津製作所製のParvum2)及びGC((株)島津製作所製のGC14APF)を用いて測定した。
【実施例】
【0055】
触媒、反応温度を以下の図表に示すように変更し、同様の方法で脱水素シリル化反応を行った。
【実施例】
【0056】
1.3)固体成分の熱時ろ過試験
本処方により反応系中で調製した固体触媒について、固体表面から溶液中に溶出した金属種、あるいは固体表面に固定化された金属種のいずれが触媒活性種として機能しているかを調べるため、熱時ろ過試験を行った。1.2)に示した条件下で所定時間反応後、加熱中の懸濁液をシリンジにて採取し、シリンジフィルタを用いて触媒をろ過した。その際、予め加熱しておいた反応容器にろ液を加えて再度加熱反応を行い、その後は1.2)と同様の操作によって経時変化測定を続けた。
【実施例】
【0057】
1.4)固体成分の回収・再利用
1.2)に示した条件下で反応後、遠心分離により固体成分を回収したのち、ジエチルエーテルを用いて3回洗浄、減圧乾燥器にて80℃で終夜乾燥し、その後再度触媒として1.2)に示した条件下で反応に用いた。
【実施例】
【0058】
2.結果と考察
(Ir(acac)に及ぼす金属酸化物の添加効果)
ジメチルフェニルシランによるスチレンの脱水素型シリル化反応に対する本発明触媒(Ir(acac)+CeO)、及び比較触媒(Ir(acac))を用いた検討結果を式1及び図1に示した。ここで、各触媒中のIr量はいずれも0.013mmol(原料に対して1.3%)であり、本反応に於ける目的生成物はIaa、副生成物はIIaaである。酸化セリウムとしては特に表記のない限りCeO(NH,400)を用いた。なお、非特許文献2によると、ジメチルフェニルシランは最もヒドロシリル化反応が進行しやすく、Iaaのみを選択的に生成できる触媒の開発が求められている原料である。
【実施例】
【0059】
比較触媒(Ir(acac)のみ)を用いた際には、反応開始3時間後にIaaが収率60%程度、IIaaが収率10%程度生成したのに対して、本発明触媒を用いることで顕著な活性、選択性の向上が認められ、開始3時間後のIaa及び副生物IIaaの収率はそれぞれ86%、3%となった。一方で、酸化チタンや酸化マグネシウムのような他の酸化物や、炭酸ナトリウムのような固体塩基を添加した場合は、Iaaの選択性の向上は認められず、Iaaの収率にも顕著な向上効果は認められなかった。なお、本反応においては、目的生成物Iaaに対して当量のエチルベンゼンの生成が確認されており、イリジウムヒドリド種からスチレンへの水素移動を伴って進行することが判明している。以上の結果から、Ir(acac)と酸化セリウム間の特異な相互作用によって、高活性・高選択性を有するイリジウム種が生成することが示された。
【実施例】
【0060】
【化3】
JP0006578211B2_000004t.gif
【実施例】
【0061】
本発明触媒に於いて添加する酸化セリウムの焼成温度の影響を検討した。本発明触媒の活性・選択性は焼成温度の影響を受け、酸化セリウムの焼成温度は400℃程度がより望ましいことが判明した。より低温で焼成した場合には活性が低下する傾向があり、より高温で焼成した場合には活性はやや向上する一方、Iaaの選択性が低下する傾向が見られた。
【実施例】
【0062】
(種々のイリジウム錯体及びイリジウム塩に対する酸化セリウムの添加効果)
Ir(CO)12、IrCl・xHO等の様々なイリジウム錯体やイリジウム塩について酸化セリウムの添加効果を検討した。結果を図2に示す。いずれのイリジウム錯体もそのままでは本反応にはほとんど活性を示さないが、酸化セリウムの共存下では優れた触媒活性を示し、選択的にIaaが得られた。特にIr(CO)12触媒に酸化セリウムを添加した場合には含浸担持Ir/CeO触媒を上回る活性を示した。一方、IrCl・xHOを前駆体とする含浸担持Ir/CeO触媒を用いるとIIaaの副生が認められたが、IrCl・xHOに酸化セリウムを共存させた場合にはこうしたIIaaの副生は顕著に抑制された。このように、幅広いイリジウム錯体に対して、酸化セリウムの添加による効果が認められ、特に非特許論文10に示した従来法固体触媒(含浸担持Ir/CeO触媒)よりも優れた性能が示された。
【実施例】
【0063】
(高基質/触媒比における酸化セリウムの添加効果)
酸化セリウム(125mg)共存下でIr(acac)の量が及ぼす影響を検討したところ、0.625μmol付近で触媒回転頻度が最大となった。この際の基質/触媒比は1600である。図3には本条件下で、本発明触媒、及び比較触媒(Ir(acac))を用いた検討結果を示した。同イリジウム量の含浸担持Ir/CeO触媒を用いた場合の結果も併せて示した。図3に示すように、本発明触媒は比較触媒群を上回る高い触媒活性と優れた選択性が示された。このように、実用水準の高い基質/触媒比においても、本発明触媒は優れた選択性、活性を維持することが判明した。さらに、反応終了後、室温にて固体をろ過し、ろ液中に含まれるイリジウム量をICP発光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィク社製iCAP6300)によって測定したところ、イリジウムは検出されず、反応系の温度を下げることで、イリジウム成分はほぼ完全に希土類金属を含む酸化物に吸着されることが判明した。
【実施例】
【0064】
(本発明触媒の熱時ろ過試験結果)
本発明触媒(イリジウム量0.625μmol)について、反応開始1時間後に固体をろ過し、ろ液を再度加熱したところ、反応は停止せず副生物IIaaの生成もほとんど認められなかった。これより、Ir(acac)と酸化セリウムとの相互作用により反応初期段階でイリジウム種の形態が変化し、これらのイリジウム種が液相に溶出して触媒として機能すると考えられる。
【実施例】
【0065】
(本発明触媒の再利用試験結果)
本発明触媒(イリジウム量0.625μmol)を用いた検討に於いて、反応終了後の固体を回収、洗浄及び乾燥し、再度触媒として用いたところ、図4に示すように活性及び選択性の低下をほとんど伴わずに円滑に反応が進行した。さらに、活性の低下を伴わず少なくとも3回使用可能であることを確認した。すなわち、大部分のイリジウム種が触媒反応後に酸化セリウム表面に吸着し、再度固体触媒として反応に用いた際に高い活性・選択性を示すことが判明した。
【実施例】
【0066】
(アルカリ金属の影響)
NaOHを沈殿剤として用いて調製した酸化セリウムを使用したところ、IIaaの副生がほとんど抑制されなかった。そこで、NaClやKClを本発明触媒(CeO(NH,400使用))に添加して検討したところ、いずれの場合もIIaaの副生が認められた。これよりアルカリ金属の存在がIIaaの副生を促進すると考えられ、アルカリ金属を含まない酸化セリウムを用いることがより望ましいことが判明した。
【実施例】
【0067】
(原料の適用範囲の検討)
種々のスチレン誘導体及びアルケンを用いて、ジメチルビニルフェニルシランとのクロスカップリング反応における基質適応範囲を検討した結果を表1に示す。
ここに示したスチレン誘導体との反応は、これらの構造や置換基に関係なく反応温度130℃で円滑に反応が進行した。なお、現時点では正確な定量には至っていないが、GC-MS測定の結果から、良好な収率で目的生成物が生成していると見積もられた(◎)。このように多種多様なスチレン誘導体が適用可能であることが示された。さらにアクリル酸誘導体との反応も進行した(○)。なお、アルケン化合物とトリエチルシランとの反応(生成物:Iba)は、良好な収率で進行する(◎)ことを本発明者は確認した。
【実施例】
【0068】
【表1】
JP0006578211B2_000005t.gif
【実施例】
【0069】
(ヒドロシラン前処理の影響)
トルエン溶媒(2.0mL)およびジメチルフェニルシラン(1a)1.0mmol存在下、アルゴン雰囲気中でIr(acac)(イリジウム量1.25μmol)を130℃で90分前処理した後、もう一方の基質であるスチレン(1b)を3.0mmol、およびCeOを125mg加えて反応を行ったところ、反応初期に短い誘導期が認められたものの、その後の反応はIIaaの副生を伴うことなく円滑に進行し、反応開始1時間後にIaaの収率は77%に達した。このようにイリジウム錯体にヒドロシラン存在下で加熱前処理を施し、その後にCeOを加えることによって触媒活性が顕著に向上すること判明した。
【実施例】
【0070】
磁気回転子を入れた20mLのPyrex(登録商標)製反応容器に、所定量のCeO(NH,400)及びトリアセチルアセトナトイリジウムを加え、アルゴン置換後、ジメチルフェニルシラン(1a)を1.0mmol、スチレン(1b)を3.0mmol、内部標準としてテトラデカン(C1430)、及び溶媒としてトルエンを2.0mL加え、アルゴン雰囲気下、還流冷却装置を備えた120℃に保ったホットプレート上で3時間反応を行い、エチルベンゼンとともに、シリルスチレンを合成した。なお、反応容器にアルゴンを充填したゴムバルーンを装着させた。得られた化合物の定性、及び定量は、NMR(日本電子(株)製のEX-400)、GC-MS((株)島津製作所製のParvum2)及びGC((株)島津製作所製のGC14APF)を用いて測定した。
【実施例】
【0071】
本発明の製造方法で得られる触媒は、ホスフィン等の有害物質や1,10-フェナントロリン等の高価な配位子の添加が不要であり、生成物へのイリジウム種の混入を抑制でき、活性を失うことなく繰り返し再利用が可能であることから、この触媒の使用によって、従来の錯体触媒、及び本発明者らが既に報告した担持イリジウム触媒が有する、シリルアルケン類の製造上の諸問題が解決される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
有機ケイ素ポリマー原料、有機無機複合多孔質材料原料、医薬品原料、農薬原料、液晶材料、電子材料等の効率的かつ低環境負荷型製造方法として活用されているが、均一系触媒を用いる現行プロセスでは、生成物からの触媒成分の除去段階の環境・エネルギー負荷が大きい。特に医療用ポリマー原料として用いる場合にはポリマー内に取り込まれた重金属種の除去が極めて困難であり、金属種の生成物への混入を最小化できる本発明の将来的な活用が期待できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3