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明細書 :ラチェット付きポリマーステント

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6632143号 (P6632143)
登録日 令和元年12月20日(2019.12.20)
発行日 令和2年1月15日(2020.1.15)
発明の名称または考案の名称 ラチェット付きポリマーステント
国際特許分類 A61F   2/93        (2013.01)
A61F   2/91        (2013.01)
FI A61F 2/93
A61F 2/91
請求項の数または発明の数 9
全頁数 17
出願番号 特願2016-531430 (P2016-531430)
出願日 平成27年7月1日(2015.7.1)
国際出願番号 PCT/JP2015/069060
国際公開番号 WO2016/002857
国際公開日 平成28年1月7日(2016.1.7)
優先権出願番号 2014138602
優先日 平成26年7月4日(2014.7.4)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年6月27日(2018.6.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】南 和幸
個別代理人の代理人 【識別番号】100093687、【弁理士】、【氏名又は名称】富崎 元成
【識別番号】100139789、【弁理士】、【氏名又は名称】町田 光信
審査官 【審査官】鈴木 洋昭
参考文献・文献 特開2008-200530(JP,A)
米国特許第5984963(US,A)
米国特許第5797951(US,A)
調査した分野 A61F 2/93
A61F 2/91
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
各々複数のストラット辺が連結されてなる複数のストラットがリンクで連結されて網目形状をなすように配置され全体として円筒形状をなすようにポリマー材料で形成されたポリマーステントであって、該複数のストラット辺は対をなす2つのストラット辺を少なくとも1対含み、該対をなす2つのストラット辺の対向する側辺にはそれぞれ一方のストラット辺から他方のストラット辺に向かって突出する複数の枝片が設けられ、該枝片の一方の側辺または両側辺に沿って複数のラチェット歯が形成されており、前記対をなす2つのストラット辺の一方のストラット辺に設けられた枝片に形成された複数のラチェット歯と他方のストラット辺に設けられた枝片に形成された複数のラチェット歯とがかみ合うことにより前記対をなす2つのストラット辺が相互に拡がる動きを阻止して前記ポリマーステントがその円筒形状を縮径する方向に変形することを阻止するとともに、前記対をなす2つのストラット辺が相互に狭まって前記ポリマーステントがその円筒形状を拡径する方向に変形することを許容するものであることを特徴とするラチェット付きポリマーステント。
【請求項2】
前記複数のストラットの各々における対をなす2つのストラット辺が前記ポリマーステントの周方向のリンクに連結されてY字形状をなしていることを特徴とする請求項1に記載のラチェット付きポリマーステント。
【請求項3】
前記複数のストラットがリンクで連結された網目形状の構造において、前記ポリマーステントは留置される場所の内径よりも大きな最大拡張直径を有しており、前記ポリマーステントの軸方向に隣接して配置された2つのストラットの間にカテーテルを導く時に前記隣接する2つのストラットが前記ポリマーステントの周方向に伸びるとともに前記ポリマーステントの軸方向における該2つのストラットの間隔が拡がるように変形してカテーテル及びその後に留置される他のポリマーステントを挿通可能にする形状を維持できることを特徴とする請求項1に記載のラチェット付きポリマーステント。
【請求項4】
前記複数のストラットがリンクで連結された網目形状の構造において、前記ポリマーステントの軸方向に隣接して配置された2つのストラットを1組として該2つのストラットが前記ポリマーステントの周方向のリンクとこれから分岐したリンクとからなるY字形状のリンクを介して前記ポリマーステントの周方向に連結されているとともに、前記2つのストラットの相近接する側のストラット辺の外側に突出する複数のラチェット付き枝片が設けられ、前記ポリマーステントが拡径するように変形する際に始めに前記2つ1組のストラットが接近するように変形して両ストラットの外側の枝片のラチェット歯同士がかみ合い、その後に両ストラットが前記ポリマーステントの周方向に伸張し前記ポリマーステントの軸方向に幅が狭くなるように変形して前記ストラット辺の内側の枝片のラチェット歯同士がかみ合うようになることを特徴とする請求項2または3に記載のラチェット付きポリマーステント。
【請求項5】
前記複数のストラットがリンクで連結された網目形状の構造において、前記ポリマーステントの軸方向に隣接して配置された2つのストラットの間に複数のストラット辺を連結した形状をなしてリンクに連結された補助的ストラットが配置され、該補助的ストラットはそのストラット辺の側辺に枝片を有することはなく、前記ポリマーステントの周方向のリンクとこれに連結される2つのストラット辺とが傘形形状をなし、前記ポリマーステントが拡径するように変形して前記補助的ストラットの両側のストラットが前記ポリマーステントの周方向に伸張する際に前記補助的ストラットが前記ポリマーステントの軸方向に幅を拡げて両側のストラットを前記ポリマーステントの軸方向に押圧し該両側のストラットにおける対をなす2つのストラット辺に設けられた枝片に形成されたラチェット歯同士のかみ合いを促進する作用をなすことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のラチェット付きポリマーステント。
【請求項6】
前記複数のストラットの各々における対をなす2つのストラット辺が前記ポリマーステントの周方向のリンクに連結されて傘形形状または略T字形状をなし、前記対をなす2つのストラット辺においてこれに連結されるリンクと反対側にそれぞれ突出する複数の枝片が設けられ、該枝片の一方の側辺または両側辺に沿って複数のラチェット歯が形成されており、前記ポリマーステントが拡径する際に前記対をなす2つのストラット辺がこれに連結されるリンクに牽引されて傘形形状または略T字形状が変形して該リンクとの間でY字形状をなす状態になった後に前記対をなす2つのストラット辺から突出する枝片の一方の側辺または両側辺に突出するように形成されたラチェット歯がかみ合うようになることを特徴とする請求項1に記載のラチェット付きポリマーステント。
【請求項7】
前記複数のストラットの各々における少なくとも1対の対をなす2つのストラット辺は屈撓変形し易いストラット辺と屈撓変形しにくいストラット辺とが前記ポリマーステントの周方向に間隔をおくように端側で連結されており、前記ポリマーステントがその円筒形状を拡径する方向に変形する際に前記ストラットに連結されたリンクの前記ポリマーステントの周方向への牽引作用によって前記ストラットにおける対をなす2つのストラット辺のうちの屈撓し易い方のストラット辺が前記ポリマーステントの周方向に屈撓しつつ屈撓しにくい方のストラット辺に接近するように変形し、前記対をなす2つのストラット辺の一方から突出する枝片と他方から突出する枝片とにおいて対応する組をなす枝片の側辺が相互に接して該枝片の側辺に形成されたラチェット歯が相互にかみ合う状態になるものであることを特徴とする請求項1に記載のラチェット付きポリマーステント。
【請求項8】
前記対をなす2つのストラット辺の対向する側辺に突出して設けられた複数の枝片の一方の側辺または両側辺に沿って形成された複数のラチェット歯は、一の枝片に形成されたラチェット歯のピッチとこれにかみ合う他の枝片に形成されたラチェット歯のピッチとが相異なるものであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のラチェット付きポリマーステント。
【請求項9】
前記ポリマーステントが拡径または縮径の変形をする際に前記ストラットにおいて開閉または伸張・屈曲の変形が生じるストラット辺とリンクとの連結部またはストラット辺の屈曲部におけるストラット辺の幅を部分的に滑らかに細くなるように形成したことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のラチェット付きポリマーステント。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はラチェット付きポリマーステントに関する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞や脳梗塞など、血管の疾患による病気の療法として、バルーンカテーテルにより血管を拡張しステントを留置することが行われる。このステントとしては一般的に金属製のものが用いられるが、金属製のステントは永久的に体内に残留するものであるため、体の大きさが変わる若年者への適用は可能でなく、また、長時間にわたる力学的刺激により狭窄を再発する危険がある。
【0003】
ポリマー製のステントではこのような金属製ステントの欠点はなく、生体分解ポリマーで作製されたステントにすれば、生体内にステントが永久的に存在することによるストレスを解消するという利点があり、最近ではポリマーステントも多く用いられている。
【0004】
ポリマーステントに関して、以下に示すような技術がある。特許文献1には、複数の梯子状エレメントをシリーズに接続して形成され、各梯子状エレメントが2本の長尺リブのスライドを可能にし、隣接する梯子状エレメントの端部横桟間に可変的な距離を形成することにより縮小径から拡張径に拡張可能であり縮小径にスライドバックするのを阻止する梯子型拡張可能ステントについて記載され、特許文献2には、相互ロックする一連の突出部及び孔を有しオーバーラップ縁部を備え、ステントが管腔壁の一部を支持する開位置に拡大する時にラチェット作用をする円筒状シートからなる管腔内ステントについて記載されている。
【0005】
特許文献3には、頭部と頭部から延長される胴部からなるT字形のユニット部が複数連結されてなり、胴部の一側部または両側部に少なくとも一の突起部を有し、頭部は胴部を挿通して突起部を掛止する開口部を有するようにしたポリマーステントについて記載されている。
【0006】
特許文献4には、頭部と頭部から延長される胴部からなるT字形のユニット部が複数連結されてなり、胴部の一方の側部に鈎状突起部を有し、頭部は胴部を挿通して突起部を掛止するスリットを有するようにしたポリマーステントにおいて、胴部の他方の側部に胴部の幅可変部を形成するか、頭部におけるスリットの傾斜角度あるいはスリットを包囲する連結部を弾性的に変形可能にして、ステントの縮径方向への胴部の移動を係止し拡径する方向への移動を可能にすることについて記載されている。
【0007】
特許文献1による梯子型拡張可能ステントは形状・構造が複雑であるとともに、長尺リブに加わる抵抗が大きいためステントの直径を容易に可変とすることができない可能性があり、また、ステント径の縮小方向へのスライドを阻止するためのタブストップが長尺リブに設けられ、タブストップに端部横桟が係合し、長尺リブと端部横桟とが直角に構成されているために、長尺リブの動きによってタブストップが働くと端部横桟が歪んでステントが変形することにもなる。特許文献2によるものでは、円筒状シートに形成されているため、ステントの剛性が高く、円筒状シートの端部が突出して管腔内において断面が円形になるようにすることが困難であり、管腔内に密着できない可能性がある。
【0008】
特許文献3は特許文献1、2等による問題点を解消すべく本発明者が提案したものであるが、ポリマーステントがバルーンにより拡張されることにより内側から強い圧力を受け、胴部がスリットを通り抜ける箇所で頭部と胴部が重なり、この部分での摩擦力と内側からの圧力とで変形を生じ、スリットの線状切り込み部が拡張変形して鈎状突起部がスリットに係止されず、ステントの縮径方向への動きに抗し得ない、すなわちステントの機能が損なわれる可能性がある。
【0009】
特許文献4は、本発明者がさらに改良を進めたものであり、鈎状突起部を形成していない胴部の側部に幅可変部を形成するか、頭部におけるスリットの傾斜角度あるいはスリットを包囲する連結部を弾性的に変形可能にして、ステントの縮径方向への胴部の移動を係止し拡径する方向への移動を可能にするものであるが、シート状に形成したステント素材を丸めて円筒形状のステントとするということでは特許文献1~3と同様である。シート状のステント素材を丸めて円筒形状に形成するものでは、シート面と垂直方向への自由度が高く、長期間使用したような場合にその方向に力が加わると、安定して係止することができなくなる可能性がある。
【0010】
さらに、一般的な場合として、血管の分岐部に生じた病変に適用する場合、血管の本幹と側枝とにステントを留置することになる。このように血管の分岐部にステントを留置する手法としてT-ステント術があり、これは先に側枝にステントを留置し、その後に本幹にも別のステントを留置した後にステントの同時拡張を行うというシンプルな技法であるが、血管の分岐角度が70°以上、典型的には90°に近い場合に適合するものの、分岐角度が緩やかな場合には側枝の入口部をステントで覆うことができない範囲が生じるという不都合がある。
【0011】
キュロットステント術について図12(a)~(c)を参照して説明すると、図12(a)は血管の分岐部において側枝にまたがるように本幹内にステントS1を留置した状態を示し、その後に図12(b)のように、ステントS1の側枝に面する位置の側面のストラットを他のステントS2をマウントしたバルーンカテーテルで拡開しつつ側枝内にステントS2を導入する。その後にステントを同時拡張して、図12(c)のように分岐部において本幹と側枝とにステントを留置した状態になる。この手法では、側枝の入口部を完全にステントで覆うことができ、分岐角度が緩やかな場合にも適合する。
【0012】
このように、本幹内のステント側面のストラットを押し拡げて側枝内にステントを誘導するという形で分岐部へのステントを留置する際に、金属製ステントの場合には塑性変形によりその形状が維持され、ストラットが屈曲していてステントが血管径よりさらに拡張できる形状になっている。これに対しポリマーステントの場合には、ステントを血管径まで拡張した時にストラットがまっ直ぐに伸張した状態になりステント側面でストラットを拡開できないということになる。このような状況は、特許文献1~4のようなポリマーステントの場合も同様であり、血管の分岐部にステントを留置するのに適合しないものである。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】特表2002-540841号公報
【特許文献2】特開平7-531号公報
【特許文献3】特開2006-68250号公報
【特許文献4】特開2011-251117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
循環器系疾病に対して術後に管腔内に留置して用いられるステントとして金属製ステントは、強度的に優れるが柔軟性に劣り、血管壁への力学的刺激、ストレスを与えやすく、血管壁の肥厚を招くことのほかに、体内に永久的に残留するものであることから、金属製のステントが体内に残留した状態ではMRI(磁気共鳴イメージング)による画像に影響を及ぼすために診断が困難になるということがある。
【0015】
ポリマーステントでは金属製ステントにおいて問題となるストレスを抑制できるが、金属製ステントに比して弾性率、強度が低いために収縮抑制力が小さく、またクリープ変形を起こし易いことから、バルーン拡張型ステントでは留置後に縮径してしまう可能性があり、また、自己拡張性ステントでは長時間収縮状態に保持したり、収縮の割合を大きくしたりする場合に永久変形が生じて復元拡張、すなわち自己拡張できなくなる可能性がある。
【0016】
また、血管の分岐部に生じた病変に適用する場合、血管の本幹と側枝とにステントを留置することを行う。その際側枝内に留置するステントを本幹内におけるステントの横側部分から挿通する必要がある。網目構造の金属製ステントではステントの横側の網目構造を一部拡げてもステントの円筒形状を保持して側枝部分への適用に対応できるが、頭部と胴部との組を複数連接したシートを丸めて円筒状に形成したポリマーステントでは、胴部を横方に拡げるために、ステントの円筒形状を保持する上で難点があり、側枝部にステントを留置するのに適合し難いものであった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前述した課題を解決すべくなしたものであり、本発明によるラチェット付きポリマーステントは、各々複数のストラット辺が連結されてなる複数のストラットがリンクで連結されて網目形状をなすように配置され全体として円筒形状をなすようにポリマー材料で形成されたポリマーステントであって、該複数のストラット辺は対をなす2つのストラット辺を少なくとも1対含み、該対をなす2つのストラット辺の対向する側辺にはそれぞれ一方のストラット辺から他方のストラット辺に向かって突出する複数の枝片が設けられ、該枝片の一方の側辺または両側辺に沿って複数のラチェット歯が形成されており、前記対をなす2つのストラット辺の一方のストラット辺に設けられた枝片に形成された複数のラチェット歯と他方のストラット辺に設けられた枝片に形成された複数のラチェット歯とがかみ合うことにより前記対をなす2つのストラット辺が相互に拡がる動きを阻止して前記ポリマーステントがその円筒形状を縮径する方向に変形することを阻止するとともに、前記対をなす2つのストラット辺が相互に狭まって前記ポリマーステントがその円筒形状を拡径する方向に変形することを許容するものである。
【0018】
前記複数のストラットの各々における対をなす2つのストラット辺が前記ポリマーステントの周方向のリンクに連結されてY字形状をなすようにしてもよい。
【0019】
前記複数のストラットがリンクで連結された網目形状の構造において、前記ポリマーステントは留置される場所の内径よりも大きな最大拡張直径を有しており、前記ポリマーステントの軸方向に隣接して配置された2つのストラットの間にカテーテルを導く時に前記隣接する2つのストラットが前記ポリマーステントの周方向に伸びるとともに前記ポリマーステントの軸方向における該2つのストラットの間隔が拡がるように変形してカテーテル及びその後に留置される他のポリマーステントを挿通可能にする形状を維持できるようにしてもよい。
【0020】
前記複数のストラットがリンクで連結された網目形状の構造において、前記ポリマーステントの軸方向に隣接して配置された2つのストラットを1組として該2つのストラットが前記ポリマーステントの周方向のリンクとこれから分岐したリンクとからなるY字形状のリンクを介して前記ポリマーステントの周方向に連結されているとともに、前記2つのストラットの相近接する側のストラット辺の外側に突出する複数のラチェット付き枝片が設けられ、前記ポリマーステントが拡径するように変形する際に始めに前記2つ1組のストラットが接近するように変形して両ストラットの外側の枝片のラチェット歯同士がかみ合い、その後に両ストラットが前記ポリマーステントの周方向に伸張し前記ポリマーステントの軸方向に幅が狭くなるように変形して前記ストラット辺の内側の枝片のラチェット歯同士がかみ合うようになるものとしてもよい。
【0021】
前記複数のストラットがリンクで連結された網目形状の構造において、前記ポリマーステントの軸方向に隣接して配置された2つのストラットの間に複数のストラット辺を連結した形状をなしてリンクに連結された補助的ストラットが配置され、該補助的ストラットはそのストラット辺の側辺に枝片を有することはなく、前記ポリマーステントの周方向のリンクとこれに連結される2つのストラット辺とが傘形形状をなし、前記ポリマーステントが拡径するように変形して前記補助的ストラットの両側のストラットが前記ポリマーステントの周方向に伸張する際に前記補助的ストラットが前記ポリマーステントの軸方向に幅を拡げて両側のストラットを前記ポリマーステントの軸方向に押圧し該両側のストラットにおける対をなす2つのストラット辺に設けられた枝片に形成されたラチェット歯同士のかみ合いを促進する作用をなすようにしてもよい。
【0022】
前記複数のストラットの各々における対をなす2つのストラット辺が前記ポリマーステントの周方向のリンクに連結されて傘形形状または略T字形状をなし、前記対をなす2つのストラット辺においてこれに連結されるリンクと反対側にそれぞれ突出する複数の枝片が設けられ、該枝片の一方の側辺または両側辺に沿って複数のラチェット歯が形成されており、前記ポリマーステントが拡径する際に前記対をなす2つのストラット辺がこれに連結されるリンクに牽引されて傘形形状または略T字形状が変形して該リンクとの間でY字形状をなす状態になった後に前記対をなす2つのストラット辺から突出する枝片の一方の側辺または両側辺に突出するように形成されたラチェット歯がかみ合うようになるものとしてもよい。
【0023】
前記複数のストラットの各々における少なくとも1対の対をなす2つのストラット辺は屈撓変形し易いストラット辺と屈撓変形しにくいストラット辺とが前記ポリマーステントの周方向に間隔をおくように端側で連結されており、前記ポリマーステントがその円筒形状を拡径する方向に変形する際に前記ストラットに連結されたリンクの前記ポリマーステントの周方向への牽引作用によって前記ストラットにおける対をなす2つのストラット辺のうちの屈撓し易い方のストラット辺が前記ポリマーステントの周方向に屈撓しつつ屈撓しにくい方のストラット辺に接近するように変形し、前記対をなす2つのストラット辺の一方から突出する枝片と他方から突出する枝片とにおいて対応する組をなす枝片の側辺が相互に接して該枝片の側辺に形成されたラチェット歯が相互にかみ合う状態になるものとしてもよい。
【0024】
前記対をなす2つのストラット辺の対向する側辺に突出して設けられた複数の枝片の一方の側辺または両側辺に沿って形成された複数のラチェット歯は、一の枝片に形成されたラチェット歯のピッチとこれにかみ合う他の枝片に形成されたラチェット歯のピッチとが相異なるものであるようにしてもよい。
【0025】
前記ポリマーステントが拡径または縮径の変形をする際に前記ストラットにおいて開閉または伸張・屈曲の変形が生じるストラット辺とリンクとの連結部またはストラット辺の屈曲部におけるストラット辺の幅を部分的に滑らかに細くなるように形成してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、複数のストラットをリンクで連結して分布させた網目形状のストラット-リンク構造を有するポリマーステントにおいてリンクに連結される2辺のストラット辺の対向する側辺にラチェット付き枝辺を設け、ポリマーステントが拡径するように変形することは可能であるが、一定以上の拡径後に縮径するように変形する際には枝片のラチェット歯同士がかみ合うことによってステントの縮径変形を阻止するものである。
【0027】
ポリマーステントであるので、金属製ステントよりも体内器官にストレスが加わることは少なく、MRI画像に影響を及ぼすこともない。チューブ状のステント素材から微細加工を用いて形成することができ、シート状素材を丸めて形成したものにおいてみられるような、拡張時にシート同士がこすれ合うことによる余分な摩擦力が生じ、あるいは血管内への挿入の際に縮径のために巻き付けた状態では屈曲性が低下し曲率半径の小さい部分を通すのが難しくなるというようなことが生じることはない。また、金属製ステントと同様に、分岐部を有する血管の本幹と側枝とに留置するという使用形態にも適合する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるラチェット付きポリマーステントの概観図である。
【図2】図1のラチェット付きポリマーステントの網目構造を部分的に拡大した図である。
【図3】(a)は図2における2つのストラット辺とそれに連なるリンク辺とによる略Y字形状の部分をさらに拡大した図であり、(b)は(a)の状態から2つのストラット辺が閉じる方向に変形した時の状態を示す図である。
【図4】(a)は2つのストラット辺が閉じる際に2つのストラット辺に突設されたラチェット歯同士が相互に係合する状態を対応する1組の枝片について拡大して示す図であり、(b)はストラット辺に突設される枝片におけるラチェット歯の他の形態を示す図である。
【図5】(a)は枝片に形成された複数のラチェット歯のピッチの関係について説明する図であり、(b)、(c)はピッチが異なる場合のラチェット歯のかみ合い状態について説明する図である。
【図6】ポリマーステントの側面においてストラットを押し拡げて他のポリマーステントを挿通する状況を示す図である。
【図7】(a)は他の形状のストラットを有するポリマーステントの一部を示す図であり、(b)は(a)のうちの1つのストラットを示し、(c)はストラットが伸張した状態を示す図である。
【図8】ストラットの外側にラチェット付き枝片を設けたストラットを2つ1組に配置したストラット-リンクの構造を示す図であり、(a)は当初の状態、(b)は伸張した第1の段階の状態、(c)はさらに伸張した第2の段階を示す。
【図9】2つのストラットの間に補助的ストラットを配置したストラット-リンクの構造を示す図であり、(a)は当初の状態、(b)は伸張した状態を示す。
【図10】(a)はラチェットがかみ合う際の枝片の移動形態が異なるストラットの形状構造を示す図であり、(b)は枝片が重なるようにストラットが変形した状態を示す図である。
【図11】(a)はラチェットがかみ合う際の枝片の移動形態が異なるストラットのさらに他の形状構造を示す図であり、(b)は枝片が重なるようにストラットが変形した状態を示す図である。
【図12】分岐部を有する血管の部位へのステントの留置について説明する図であり、(a)は血管の分岐部において側枝にまたがるように本幹内に1つのステントを留置した状態を示し、(b)は留置されたステントの側面から他のステントを導入する状態を示し、(c)は分岐部において本幹と側枝とにステントを留置した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明によるラチェット付きポリマーステントの実施形態について説明する。図1はラチェット付きポリマーステントの概観図であり、ラチェット付きポリマーステント1は略菱形の多数のストラット3をリンク2で連結した網目構造をなして、全体として円筒形状になっている。

【0030】
図2は図1のラチェット付きポリマーステント1の網目構造の一部を拡大して示す図であり、各ストラット3のストラット辺3aは略菱形形状に閉じた形状をなし、図で上側の対をなす2つのストラット辺3aの対向する内側辺にそれぞれ複数の枝片3bが突設されており、下側の対をなす2つのストラット辺3aにも同様に複数の枝片が突設されている。

【0031】
図3(a)は図2における下側の対をなす2つのストラット辺3aとそれに連なるリンク辺2とによる略Y字形状の部分をさらに拡大して示したものである。2つのストラット辺3aの内側においては、両ストラット辺3aが内方に向かって複数の枝片3bが突設されており、図で左右のストラット辺3aから突出する枝片は左右の対応する枝片3aが組をなすように配置され、図3(a)では右側のストラット辺3aから突出する枝片3bが左側のストラット辺3aから突出する枝片3bよりやや下側にずれた位置にある。各枝片3bの一方の側または両側には多数のラチェット歯3cが形成されている。

【0032】
図3(b)に示すように、左右のストラット辺3aを閉じる方向に変形した際に、対応する組をなしてやや上下にずれた左右の枝片3bが重なるように移動して対応する組をなす枝片3bのラチェット歯3c同士がかみ合うようになる。
ストラット辺3aから突出する枝片3bは、このように左右のストラット辺3aが閉じる方向に変形した時に、左右のストラット辺3aから内方に突出する対応する組の枝片3bのラチェット歯が設けられた側辺が接しながら、図の面内で上下に重なり合っていく。すなわち、左右のストラット辺3aから突出する対応する組の枝片3bに設けられたラチェット歯3cが相互にかみ合うようになる。

【0033】
このように左右のストラット辺3aから内方に突出する対応する組の枝片3bのラチェット歯3cが相互にかみ合うことにより、図3(a)から図3(b)へのストラット辺3aが閉じる方向への移動は可能であるが、図3(b)から図3(a)へのストラット辺3aが開く方向への移動できなくなる。このように一方の枝片3bのラチェット歯3cが他方の枝片3bのラチェット歯3cとかみ合って一方への移動を許容し、逆の方向への移動を係止する作用をなすためには、図3(a)から図3(b)へのストラット辺3aが閉じるように移動する際に、対応する組の枝片3bのラチェット歯が設けられた側が接触しつつある程度押し合う状況になるようにするのが好ましく、ストラット辺3aから突出する枝片3bの位置、形状がその条件を満たすように形成しておくことが重要である。

【0034】
図3(a),(b)では図2における一つの略菱形形状のストラット3の下側部分の構造に関して説明したが、そのストラット3の上側部分においても、図3(a)と逆向きの略Y字形状のストラット-リンクの網目構造のストラット辺3aの内方に突出する、ラチェット歯3cが形成された枝片3bが設けられており、ストラット辺3aが閉じる方向には移動できるが、ストラット辺3aが開く方向には移動できないようになる。また、このようにストラット辺3aから突出する枝片3bは円筒形状ステント1の全周面に形成されたストラット-リンクの網目構造における各ストラット3に同様に形成される。

【0035】
ストラット辺3aが閉じるのは、円筒形のポリマーステント1の径が大きくなるように変化する時であり、逆にストラット辺3aが開くのは、ポリマーステント1の径が小さくなる時である。それゆえ、ポリマーステント1の各ストラットにおいて内側に突出するように設けられた枝片3bに形成されたラチェット歯3cが相互に係合しかみ合うことにより、ポリマーステント1の径が拡大する方向への変化は可能であるが、径が縮小する方向への変化は係止されるようになる。

【0036】
このように、ポリマーステントが拡径する際には、図3(a)の略Y字形状のストラット辺-リンクにおいて2つのストラット辺3a,3aが閉じるように変形し、また、図3(a)と逆向きの略Y字形状のストラット-リンクにおける2つのストラット辺も同様に閉じるように変形する。すなわち、図2に示す略菱形形状のストラット3をリンク2で連結したポリマーステントの構造において、ポリマーステントが拡径する際には、各々の略菱形形状のストラットは図で縦方向に伸び横方向に縮まった形状になるように変形し、ポリマーステントが縮径する際には、逆に各々の略菱形形状のストラットが縦方向に縮まり横方向に伸びる(拡がる)ように変形する。

【0037】
このため、各々の略菱形形状のストラットのストラット辺3aについてみると、上下のリンク2に連結される2つのストラット辺3a,3aはリンク2との連結部において開閉する変形が生じ、また、図2で左右の略く字状(逆く字状)に屈曲する2つのストラット辺3a,3aは、その屈曲部において直線に近づくように伸びる方向と、逆により深く屈曲する方向との変形が生じる。

【0038】
このような変形が生じる部分におけるストラット辺とリンクとの連結部やストラット辺の屈曲部では、変形の際に応力集中が生じ易くなり、ひいては破損にいたる可能性もある。これを防止するということから、このような部分におけるストラット辺の幅を部分的に滑らかに細くなるように形成したり、曲線状に形成することが有効である。このように、ストラットの変形に関与する部分を滑らかに細くなるように、あるいは曲線状に形成することにより、この部分における応力集中を緩和し、ひいてはストラットの形状を変形し易くすることに寄与するものとなる。

【0039】
図4(a)は、ステント1が拡径してストラット辺3aが図3(a)の状態から図3(b)のように閉じていく際に左右のストラット辺3aに突設された枝片3bのラチェット歯3c同士が相互に係合する状態を、対応する1組の枝片について拡大して示すものである。

【0040】
図4(b)は、ストラット辺3aに突設される枝片3bにおけるラチェット歯3cの他の形態を示すものであり、この場合1本の枝片3bの両側辺にラチェット歯が設けられる。一方のストラット辺3aに設けられる隣接する枝片3bの間隔は間に入り込む他方のストラット辺3aに設けられた枝片3bの最大幅(両側辺のラチェット歯頂部の間隔)と同等またはそれよりやや狭い間隔にしておくことにより、一方のストラット辺3aにおける隣接する枝片3bの間に押し入り図4(b)のように右側の枝片3bの両側のラチェット歯3cがそれぞれ両側の枝片3bのラチェット歯3cと係合する。図で右方からの枝片3bが押し入る際に、左方からの両側の枝片3bをやや押し開くようにして進み、ラチェット歯3c同士が係合した段階では弾性力により復元して図4(b)のような状態になる。このように、一方のストラット辺3aの各枝片3bの両側辺のラチェット歯3cが他方のストラット辺3aの枝片3bの両側辺のラチェット歯3cと係合することにより、ラチェット歯による係止力がより確実性をもつようになる。

【0041】
このように、複数の閉じた形状のストラットをリンクで結合し網目構造をなす円筒状のポリマーステントにおいて、2つのストラット辺とリンクとが略Y字形状をなし、ストラット辺の角部における2つのストラット辺の内側にはそれぞれ他方の辺に向かって突出する複数の枝片を設け、それらの枝片の一方の側辺または両側辺に沿って複数のラチェット歯を設ける。枝片のラチェット歯は2つのストラット辺が閉じて枝片が重なっていく際にはその移動を許容し、2つのストラット辺が開こうとする際には対応する枝辺のラチェット歯がかみ合ってその移動を阻止するような形状であるようにする。このような枝辺に設けられたラチェット歯の作用により、ポリマーステントの円筒形状が縮径する方向への変形が阻止され、拡径する方向へは変形することができる。

【0042】
図4(a)、(b)に示すストラット辺に設けられた枝片が重なりラチェット歯がかみ合う状態は、基本的に各枝片に形成された複数のラチェット歯が等ピッチになっているものであり、複数のラチェット歯が全体としてかみ合った状態で示してある。このように複数のラチェット歯のピッチを相互に等しくなるように形成しておくことにより、重なる枝片の複数のラチェット歯が全体的にかみ合うようになるが、反面何らかの状況によりいずれかのラチェット歯がかみ合わない場合に、重なる枝片の全てのラチェット歯がかみ合わないということが考えられる。また、歯のピッチ間隔で係止される位置が決まるため、これに関連してポリマーステントの保持径も不連続な値となり、治療したい血管径に完全に適合しない場合もあり得る。

【0043】
このような状況を防ぐために、ストラット片に設けられた枝片に形成されるラチェット歯のピッチpと、この枝片に重なる対応する枝片に形成されるラチェット歯のピッチp′と異なるようにするのがよい。図5(a)はそのように一の枝片のラチェット歯のピッチpとこの枝片に重なり合う他の枝片のラチェット歯のピッチp′と異なる(p′>p)ようにした場合を示している。図5(b)は図で最も左側のラチェット歯同士のみがかみ合っている状態を示し、また、図5(c)は左から3番目のラチッェト歯同士がかみ合う状態を示している(点線丸印の部分)。このように、重なる枝片の複数のラチェット歯のピッチを異なるように形成することにより、いずれかのラチェット歯のかみ合いを確実にし、ラチェット歯が全体的にかみ合わない状態を生じないようにすることができる。また、ステントを拡張した際の径も歯のピッチ間隔で決定される場合よりも細かく調整することができるため、多くの患者、患部に適用することができる。

【0044】
図2に示す、リンク2で連結されたストラット3は略菱形形状に閉じた形状をなすものとして説明したが、ストラット3の形状は後述の6角形状等、他の形状も可能であり、また上下対称、あるいは閉じた形状であることが不可欠でもない。ストラット3としての要件は、図3(a)、(b)のようにリンク2に連結されたストラット3の構造において、対をなすストラット片3aが開閉するように変形し、それらのストラット片の対向する側辺にそれぞれラチェット歯が形成された枝片3bが突出するように設けられ、ストラット片が閉じるように変形した時に、対応する枝片3bが重なってラチェット歯がかみ合うというものでる。このような条件を満たせば、ストラットは必ずしも上下対称でなく、あるいは閉じた形状でなくてもステントとしての機能は得られる。また、全てのストラットが同等の形状であることも必要ではない。

【0045】
図2のようなストラット-リンクの網目構造を有するポリマーステントは、リンクと略Y字形状をなす2本のストラット片の内側に突出するように設けられた枝片の側辺に形成されたラチェット歯によりポリマーステントが縮径する方向への移動を阻止することによりステントとしての機能を果たすものであるが、さらに、ステント側面に穴部を開成可能にし、この穴部から別のポリマーステントを誘導することができ、2本のポリマーステントを血管の分岐部における本幹と側枝とに留置することに適合するものである。

【0046】
これについて、図6を参照して説明する。図2のようなストラット-リンクの構造をもつポリマーステントの側面において、図で左右のストラットの間に縮径した他のポリマーステントをマウントしたバルーンカテーテルBCを内側から挿通していくと、図6のように両側の閉じた形状のストラットが図で左右の方向(ポリマーステントの軸方向)に押し拡げられる。その際のストラットの変形は、ポリマーステントの周方向に伸びる方向であるのでラチェット歯は拡径時と同じ動作、作用を発揮し、ストラットの変形が可能であるとともに、その押し拡げられた形状を保持できるので、ステントの留置後の側枝への血流を確保できる効果がある。このように、図2のようなストラット-リンクの網目構造のポリマーステントは別のポリマーステントを内側から挿通して血管の分岐部の本幹と側枝とにポリマーステントを留置することができる。

【0047】
図7(a)~(c)はストラットの形状が図2とは異なるようにしたポリマーステントの例を示すものである。図7(a)に示す形状のポリマーステントの場合、ポリマーステントの径が拡大していない状態で、閉じた形状のストラットは図7(a)のように6つのストラット辺3aからなり、上下の2辺ずつとリンク2とが傘形になっている。それらの2辺のストラット辺3aの内側にそれぞれ複数の突出する枝片3bが設けられるのは図2の場合と同様であり、各枝辺3bの一方の側辺または両側辺にラチェット歯が形成されることも同様である。

【0048】
図7(a)の形状のポリマーステントが拡径する時に、図7(b)のストラットの上下に連なるリンク2を介して上下に引っ張られ、上下の傘形の2辺ずつが反転して図7(c)のようにY字形状になる。図7(c)の状態が、枝片の関係で言えば、図2の状態に相当し、これから左右の枝辺3b同士が接してラチェット歯がかみ合う状態になる。このようなストラットの形状を有するポリマーステントでは、図7(b)から(c)への過程でポリマーステント径が拡大しその後にラチェット歯のかみ合いが始まることになり、その分ポリマーステント拡張量を大きくとれる。図7(a)の場合、2つのストラット辺3aとリンク2との当初形状が傘形をなすものとしているが、2つのストラット辺3aとリンク2との当初形状が略T字形状であってもよい。略T字形状の場合は、傘形形状のものよりは拡張量が少なくなる。

【0049】
図8(a)~(c)は、ラチェット歯付きの枝片によるストラット辺の係止についての変形形態を示すものである。図2に示されるストラット-リンクの形態では1つのストラット3の上下にリンク2が連結されたものとなっているが、図8(a)に示すストラット-リンクの形態では、上側のリンク2に枝分かれして連結されたリンク2-1,2-2にそれぞれストラット3-1,3-2が連結され、ストラット3-1,3-2がそれぞれ下側のリンク2から枝分かれしたリンク2-3,2-4に連結されている。

【0050】
ストラット3-1,3-2は閉じた6角形形状であるが、上側の対向する2つのストラット辺および下側の対向する2つのストラット辺の内側にラチェット歯を形成した枝片3bが突出し、ストラット辺が開く方向に変形しようとする際に枝片3bのラチェット歯のかみ合いにより阻止されることでは図2のストラットの場合と同様である。隣接するストラット3-1,3-2の間で向かい合うストラット辺3a-2,3a-3の外側にもそれぞれラチェット歯付きの枝片が設けられ、ストラット辺3a-2,3a-3が近接するようにストラット3-1,3-2が変形する際に枝片のラチェット歯がかみ合うようになっている。

【0051】
上側のリンク2がリンク2-1,2-2に分岐する部分及び下側のリンク2がリンク2-3,2-4に分岐する部分は、それぞれリンク2-1,2-2及びリンク2-3,2-4がストラット辺3a-1,3a-2,3a-3,3a-4と連結する部分よりも変形し易い、すなわち変形に対して柔らかくなる形状に設計する。

【0052】
このような図8(a)に示すストラット-リンクが網目形状に配置された円筒形状のポリマーステントにおいて、ステントが拡径するように変形すると、すなわち図8(a)で上下のリンク2が上下に伸びるように変形すると、リンク2からリンク2-1,2-2及びリンク2-3,2-4への分岐する部分が変形し易いことによって、図8(b)に示すように、ストラット3-1とストラット3-2とは変形する前に接近するように変形し、ストラット辺3a-2,3a-2の外側に設けられた枝片が重なるように移動して、それらに設けられたラチェットはかみ合うようになる。

【0053】
さらにステントが拡径するように変形すると次にはリンク2-1,2-2及びリンク2-3,2-4がストラット辺3a-1,3a-2,3a-3,3a-4と連結する部分が変形して、図6(c)のようにストラット3-1,3-2がそれぞれ上下に伸びるように変形し、それぞれのストラットの上側の2つのストラット辺及び下側の2つのストラット辺が閉じる方向に変形して、それらのストラット辺の内側に設けられた枝片が重なるように移動してそれらに設けられたラチェット歯がかみ合うようになる。

【0054】
このように、図8(a)のような形状のストラット-リンクの網目構造を有するポリマーステントにおいては、ステントの拡径の際に2段階のラチェット動作を行い、ポリマーステントの動作範囲を広くすることができ、固定できるステント径の範囲が広くなる。

【0055】
図9(a),(b)は、ストラットとしてラチェット歯のかみ合いにより係止作用を行うもののほかに、補助的作用を行うものを含めて構成したストラット-リンクの形態の例を示すものである。図9(a)において、3は図2におけるストラット3と同様にストラット辺の内側にラチェット歯が設けられたストラットであり、図で左右に並ぶストラット3の間に補助的ストラット4を配置して構成したものであり、それらをリンク2により連結して全体として網目形状のステントを構成している。補助的ストラット4はストラット辺の内側に枝片を設けてはいないことと、リンク2との連結部がY字形状でなく傘形になっていることでストラット3と異なる。ストラット3とストラット4との左右の近接した部分は繋ぎを入れて一体化してもよい。

【0056】
図9(a)のような構成を有するポリマーステントが拡径する際に、図9(b)のように、ストラット3は上下のリンク2に引かれて上下に伸び左右には狭まるように変形する。補助的ストラット4の方は上下のリンク2に引かれて上下の2つのストラット辺の傘形形状が平坦化し、ストラット4の横幅は拡大するとともにストラット4の左右両側のストラット辺がそれに接するストラット3を側方から押圧するように作用する。ストラット3へのこの左右からの押圧作用によりストラット3の上側及び下側の2つのストラット辺のリンクの付け根側が狭まる作用が強まり、それによりストラット辺の内側の枝辺が重なりラチェット歯がかみ合って係止する作用が強められ、確実になる。このように補助的ストラットを備える構造によりストラット辺の内側に設けられた枝片のラチェット歯の係合動作をより確実に行うことができる。

【0057】
以上説明したストラットとリンクとの網目構造を有するポリマーステントにおいて、ポリマーステントが拡径する際にポリマーステントの周方向のリンクに牽引された対をなすストラット辺が軸方向の幅を狭めるように変形し、対をなすストラット辺の側辺に設けられた枝片が重なり、枝片に形成されたラチェット歯がかみ合うようにしたものである。このようなストラットの構造では、ポリマーステントの拡径の際にストラット辺に設けられた枝片は基本的にポリマーステントの軸方向に移動する形態のものである。

【0058】
これに対し、ポリマーステントの拡径の際にストラット辺に設けられた枝片が基本的にポリマーステントの周方向に移動しつつ重なり、ラチェット歯がかみ合うようにした形態も考えられる。図10(a)、(b)はそのようなストラットの形態を示すものであり、リンク2に連結された1つのストラット30を示しているこのストラット30で上下のリンク2に連結されたストラット31、33とそれらの間のくの字形に屈曲したストラット辺32、34とが連結してなり、さらにストラット辺32、34の両方の屈曲点を連結する形で、上側に凸の形状のストラット辺35と、下側に凸のストラット辺36が設けられている。

【0059】
図で上下のリンク2にそれぞれ連結されたストラット辺31、33は太く形成されていて屈撓変形しにくくなっており、ストラット辺32、34、35、36は細く屈撓変形し易いものである。上側のストラット辺31とそれに連なるストラット辺32及び34の上側部分の側辺にはストラット辺35に向かって突出する複数の枝片30bが設けられ、ストラット辺35の側辺にはストラット辺31とこれに連なるストラット辺32及び34の上側部分に向かって突出する複数の枝片30bが設けられている。これらの枝片の各々において一方の側辺または両方の側辺に複数のラチェット歯が形成され、枝片が重なる際にラチェット歯同士がかみ合うようになっている。

【0060】
図で下側のストラット辺も同様な構造を有しており、リンク2に連結されたストラット辺33は太く屈撓変形しにくく、これに連なるストラット辺32、34の下側部分と、ストラット辺32、34の屈曲点を連結し下に凸のストラット辺36とは細く屈撓変形し易くなっている。ストラット辺33とこれに連なるストラット辺32、34の下側部分の側辺にはストラット辺36に向かって突出する複数の枝片30bが設けられ、ストラット辺36の側辺にはストラット辺33とこれに連なるストラット辺32、34の下側部分に向かって突出する枝片30bが設けられている。これらの枝片の各々において一方の側辺または両方の側辺に複数のラチェット歯が形成され、枝片が重なる際にラチェット歯同士がかみ合うようになっている。

【0061】
図10(a)のような形状構造の複数のストラット30がリンクで連結されたポリマーステントにおいて、ポリマーステントが拡径する際に、リンク2がストラット30をポリマーステントの周方向に牽引し、それによって太く変形ににくいストラット辺31、33はそのままであるが、細く変形し易い屈曲したストラット辺32、34がよりフラットな形状になるように伸張し、それとともに屈曲点を連結するストラット辺35、36は圧縮されさらに上下に屈曲程度が高まって図10(b)のようになる。この時、ストラット辺35はストラット辺31とこれに連なるストラット辺32及び34の上側部分に接近するように変形し枝片30b同士が重なる状態になり、それらの側辺に設けられたラチェット歯同士がかみ合う状態になる。

【0062】
ストラット30の図で下側の部分も同様に変形し、ポリマーステントが拡径する際に、ストラット辺36はストラット辺33とこれに連なるストラット辺32及び34の下側部分に接近するように変形し枝片30b同士が重なる状態になり、それらの側辺に設けられたラチェット歯同士がかみ合う状態になる。このように、図10(a)のようなストラットの形状構造を有するポリマーステントでは、ポリマーステントの拡径の際にストラット辺に設けられた枝片が基本的にポリマーステントの周方向に移動しつつ重なり、ラチェット歯がかみ合う状態になるものである。

【0063】
図11(a)、(b)はさらに異なるストラットの形状構造を示すものである。図11(a)はポリマーステントにおいてリンク2に連結された1つのストラット40を示しており、ストラット40は図で下に凸に屈曲するストラット辺43と上に凸に屈曲するストラット辺44とが両端で連結され、この連結点で上に凸に屈曲するストラット辺44の両端に角度をなしてそれぞれカンチレバー状のストラット辺41、42が連結されている。カンチレバー状のストラット辺41、42は太く屈撓変形しにくくなるように形成され、ストラット辺43、44は細く屈撓変形し易いように形成されている。

【0064】
ストラット辺44は中心位置で上側のリンク2に連結され、ストラット辺43は中心位置で下側のリンク2に連結されている。ストラット辺44の側辺からストラット辺41、42に向かって突出する複数の枝片40bが設けられ、また、ストラット辺41、42の側辺からストラット辺44に向かって突出する複数の枝片40bが設けられており、これらの枝片40bの各々において一方の側辺または両方の側辺に複数のラチェット歯が形成され、枝片が重なる際にラチェット歯同士がかみ合うようになっている。

【0065】
図11(a)のような形状構造の複数のストラット40がリンクで網目形状に連結された構成を有するポリマーステントにおいて、ポリマーステントが拡径するように変形する際に、上下のリンク2がストラット40をポリマーステントの周方向に牽引し、それによって屈撓変形し易い方のストラット辺43、44が図9(b)のようにそれぞれ下に凸の程度、上に凸の程度を高めるように屈撓する。それに伴って、ストラット辺44の両端側は、これとストラット辺41、42との角度が狭まるように接近していく。それによりストラット辺44と、ストラット辺41、42との側辺に設けられた枝片40b同士が重なり、枝片40bに形成されたラチェット歯がかみ合う状態になる。

【0066】
以上説明したポリマーステントは複数のストラットをリンクで連結して網目形状に形成して構成したものであり、このようなポリマーステントを作製するには、チューブ状のポリマー素材に対してストラット、リンクの部分を残して他の部分を削除するように加工する必要がある。このような枝辺のラチェット歯を有するストラット、リンクの形状の微細加工を行うに際し、平面状の素材を加工する際に用いられるフォトリソグラフィの手法は利用し難いので、他の手法として、金属製ステントの作製に用いられるレーザー加工により作製することができる。また、本発明者からが開発した手法である円筒面反応性イオンエッチングを用いるとさらに微細な加工を行うことができる(Journal of Micromechanics and Microengineering,24(2014)055022,pp.1-8,doi:10.1088/0960-1317/24/5/055022)。
【符号の説明】
【0067】
1 ポリマーステント
2,2-1,2-2,2-3,2-4 リンク
3,3-1,3-2 ストラット
3a,3a-1,3a-2,3a-3,3a-4 ストラット辺
3b 枝片
3c ラチェット歯
4 補助的ストラット
30 ストラット
30b 枝片
31,32,33,34,35,36 ストラット辺
40 ストラット
40b 枝片
41,42,43,44 ストラット辺
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11