TOP > 国内特許検索 > 当接機構 > 明細書

明細書 :当接機構

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-043301 (P2018-043301A)
公開日 平成30年3月22日(2018.3.22)
発明の名称または考案の名称 当接機構
国際特許分類 B25J  15/08        (2006.01)
FI B25J 15/08 S
請求項の数または発明の数 3
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2016-177669 (P2016-177669)
出願日 平成28年9月12日(2016.9.12)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 発行日:平成28年3月17日、刊行物:第21回ロボティクスシンポジア予稿集,第274~279頁、公開者:渡辺哲陽、西村斉寛及び藤平■孝 開催日:平成28年3月18日、集会名:第21回ロボティクスシンポジア 長崎温泉 やすらぎ伊王島(長崎県長崎市伊王島町1丁目3277-7)、公開者:渡辺哲陽、西村斉寛及び藤平■孝
発明者または考案者 【氏名】渡邊 哲陽
【氏名】西村 斉寛
出願人 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100154966、【弁理士】、【氏名又は名称】海野 徹
審査請求 未請求
テーマコード 3C707
Fターム 3C707DS01
3C707ES03
3C707ET03
3C707EU13
3C707EV12
3C707EV13
3C707EV14
3C707NS09
要約 【課題】 力学的拘束と幾何学的拘束を併用することで形状、重量及び柔らかさが異なる様々な対象物を正確な位置で安定的に把持でき、更に小型化及び製造コストを抑制できるロボットハンド用の当接機構を提供する。
【解決手段】 本発明の当接機構1は、開口部11を備えており内部に流動体12が充填される筐体10と、開口部を覆う弾性膜20と、筐体内に配置されるマイクログリッパ30と、筐体内の流動体の充填圧力を調節する充填圧力調整手段50とを備えており、マイクログリッパが少なくとも一対のアーム31を備えており、各アームはその先端が開口部から外側に突出し、且つその先端同士が離間した位置から近接する位置に移動可能となるように筐体に支持される。(1)弾性膜のみで対象物を把持する形態、(2)マイクログリッパを用いて対象物を挟み込んで把持する形態、(3)マイクログリッパを押し当てて対象物を把持する3種類の把持形態を取ることができる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
対象物を把持するロボットハンドに取り付けられる当接機構において、
開口部を備えており内部に流動体が充填される筐体と、
前記開口部を覆う弾性膜と、
前記筐体内に配置されるマイクログリッパと、
前記筐体内の前記流動体の充填圧力を調節する充填圧力調整手段とを備えており、
前記マイクログリッパが少なくとも一対のアームを備えており、
前記各アームはその先端が前記開口部から外側に突出し、且つその先端同士が離間した位置から近接する位置に移動可能となるように前記筐体に支持されていることを特徴とする当接機構。

【請求項2】
前記マイクログリッパが前記一対のアームの先端同士を繋ぐ可撓性を有する帯を備えることを特徴とする請求項1に記載の当接機構。

【請求項3】
前記各アームの先端同士が離間した状態になるように前記各アームを付勢する付勢手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の当接機構。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、力学的拘束と幾何学的拘束を併用することで形状、重量及び柔らかさが異なる様々な対象物を正確な位置で安定的に把持でき、更に小型化及び製造コストを抑制できるロボットハンド用の当接機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にロボットハンドの指部は硬いもの(剛体指)が多く、その特徴として重量物の把持が可能なことが挙げられるが、柔らかい(壊れやすい)物体の把持が苦手という問題がある。
そこで、柔らかい指(柔軟指)の研究も進んでいる(非特許文献1)。柔軟指の特徴として対象物が複雑な形状や柔らかい場合でも把持できる点が挙げられるが、対象物が重量物の場合には把持面が対象物の重量により垂直荷重を受けて下方に撓んでしまうため、把持面の摩擦力が低下するという問題がある。
このように指の剛性によって把持が得意な対象物、苦手な対象物が存在する。ロボットがより幅広い分野で活躍するには得意不得意なく何でも把持できる汎用性の高いロボットハンドが求められる。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、先端に粉体ホルダを取り付けた2本の指と、粉体ホルダ内に粉体を供給及び排出するための粉体給排手段を備えたロボットハンドが開示されている。
また、特許文献2には、袋状の当接部材と、当接部材に充填される流動性を備えた充填部材(液体や粉体)と、当接部材に覆われた状態で配置され、充填部材が充填された状態の当接部材の剛性よりも剛性の高い補強部材と、充填部材の充填圧力を調整する充填圧力調整手段とを備える当接機構が開示されている。
これら各特許文献に開示された技術によれば、粉体や液体が対象物の形状に倣って追従移動するため、種々の形状の対象物をある程度安定的且つ確実に把持することができる。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特許第4469110号公報
【特許文献2】特開2015-20246号公報
【0005】

【非特許文献1】Shimoga, K. B., and Goldenberg, a. a., 1992, “Soft materials for robotic fingers,” Proc. 1992 IEEE Int. Conf. Robot. Autom., (May), pp. 4-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記従来技術では次のような問題がある。
すなわち、特許文献1の技術では粉体を対象物の形状に倣って追従移動させるには、指を対象物に対して大きな圧力で押し付ける必要があるため、柔らかい対象物が破損してしまうおそれがある。
また、特許文献1及び2の技術では粉体や液体を適量充填するための電気的駆動機構が必要になるため、ロボットハンドが大型化し、製造コストが嵩むという問題がある。
また、特許文献1及び2の技術では主に摩擦力を利用した力学的拘束により対象物を把持しているが、上述のとおり対象物が重量物の場合に粉体ホルダや当接部材が対象物の重量により垂直荷重を受けて下方に撓んでしまうため、把持面の摩擦力が低下するという問題は解消されたとはいえない。
また、指が対象物をずれた状態で把持したり、把持中に対象物がずれてしまった場合、対象物の位置を補正できないため、例えばピックアンドプレイスなど対象物を正確に把持して決まった位置に置く作業には適さないという問題もある。
【0007】
本発明は、このような問題を考慮し、力学的拘束と幾何学的拘束を併用することで形状、重量及び柔らかさが異なる様々な対象物を正確な位置で安定的に把持でき、更に小型化及び製造コストを抑制できるロボットハンド用の当接機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の当接機構は、対象物を把持するロボットハンドに取り付けられる当接機構において、開口部を備えており内部に流動体が充填される筐体と、前記開口部を覆う弾性膜と、前記筐体内に配置されるマイクログリッパと、前記筐体内の前記流動体の充填圧力を調節する充填圧力調整手段とを備えており、前記マイクログリッパが少なくとも一対のアームを備えており、前記各アームはその先端が前記開口部から外側に突出し、且つその先端同士が離間した位置から近接する位置に移動可能となるように前記筐体に支持されていることを特徴とする。
また、前記マイクログリッパが前記一対のアームの先端同士を繋ぐ可撓性を有する帯を備えることを特徴とする。
また、前記各アームの先端同士が離間した状態になるように前記各アームを付勢する付勢手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、(1)マイクログリッパを用いずに弾性膜のみで対象物を把持する形態と、(2)マイクログリッパを用いて対象物を挟み込んで把持する形態と、(3)マイクログリッパ(アーム)を押し当てて対象物を把持する形態の3種類の把持形態を取ることができる。したがって、対象物の形状、重量及び柔らかさ(壊れやすさ)に応じた適切な把持形態を採用することで様々な対象物を把持することができる。
特に(2)の把持形態では弾性膜に生じる摩擦を利用した力学的拘束と、マイクログリッパが閉じて対象物を挟み込むことによる幾何学的拘束とによって従来の剛体指以上の把持耐力を得ることができる。
また、マイクログリッパを動作させるための電気的駆動手段が不要なので当接機構の小型化及び製造コスト抑制を実現できる。
また、(2)の把持形態において、対象物が一対のアームの中心位置からずれた場所に存在していた場合でも、対象物を一対のアームの中心まで位置させて把持するという位置決め補正機能を有するので、対象物を正確な位置で安定的に把持できる。
特に、マイクログリッパの一対のアームの先端同士を繋ぐ可撓性を有する帯を備えることにすれば、各アームの動作を連携させて、対象物をより正確に把持でき且つ把持耐力を増加することができる。
また、付勢手段を用いることで把持状態を解消した時点で各アームを起立状態に自動的に復元することができる。すなわち、各アームを起立状態に復元させるための電気的駆動手段が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】当接機構の外観構成を示す概略図
【図2】当接機構の内部構成を示す平面図(a)及び(b)
【図3】特異充填圧力が発生した場合の押し付け量と充填圧力との関係を示すグラフ(a)~(c)
【図4】3種類の把持形態を示す図(a)~(c)
【図5】帯が変形しているときの幾何学的関係と力の関係を示す図
【図6】帯が変形しているときの幾何学的関係と力の関係を示す図
【図7】対象物をアーム間の中心に引き込んだ状態を示す図
【図8】対象物をアーム間の中心に引き込んだ状態を示す写真
【図9】設計において決定すべき寸法を示す図
【図10】薄板を押し込んだときの幾何学的関係を示す図
【図11】押し込んだ薄板が筐体の底に接触しないための範囲を示すグラフ
【図12】lとl-dとの関係を示すグラフ
【図13】マイクログリッパが開いた状態でのアーム先端と筐体の側板との距離を示す図
【図14】弾性膜の先端の高さxtipと弾性膜の接合部の接線の傾き角φを示す写真
【図15】a=44mm,b=32mmのときのPとxtip,φとの関係を示すグラフ
【図16】第2の実施の形態の当接機構の内部構造を示す平面図(a)及び(b)
【図17】実施例における当接機構を示す写真
【図18】把持力fgraと把持耐力fresを示す図
【図19】把持力fgraと把持耐力fresの関係を示すグラフ
【図20】当節機構が重量物を把持した状態を示す写真(a)及び(b)
【図21】当節機構が弾性体のシートを把持した状態を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の当接機構の第1の実施の形態について説明する。なお、当接機構は対象物を把持するロボットハンドに取り付けるのが一般的であるが、ロボットハンド自体は周知であるため図示を省略する。

【0012】
図1及び図2に示すように当接機構1は筐体10、弾性膜20、マイクログリッパ30、付勢手段40及び充填圧力調整手段50から概略構成される。
筐体10は開口部11を備えておりその内部に流動体12が充填される。筐体10の形状は特に限定されないが、本実施の形態では角を丸めた直方体形状になっている。筐体10の材料も特に限定されず、金属やプラスチックを用いることができる。
流動体12としては機械油等の粘性が高い液体が挙げられるが、必ずしもこれに限定されず水を用いてもよい。
弾性膜20は開口部11を覆う部材であり、弾性膜20によって流動体12は筐体10内に油密(又は水密)で充填される。流動体12は充填圧力調整手段50によって筐体10内での圧力が一定になるように調節される。

【0013】
マイクログリッパ30は筐体10内に配置される部材であり、一対のアーム31と帯32を備える。
各アーム31は筐体10の底に支持されており、その先端が開口部11から外側に突出する程度の長さを備えている。具体的には、筐体10の底に基台13が設けてあり、基台13にアーム31の基部31aを軸支している。アーム31が軸支された箇所を中心にして回転することで、アーム31の先端同士が互いに離間した位置(図2(a))から近接する位置(図2(b))まで移動可能になっている。
帯32は一対のアーム31の先端同士を繋ぐための可撓性を有する部材である。帯32の材料は可撓性を有してさえいれば特に限定されず、例えばポリ塩化ビニルやポリエチレンテレフタレート等の樹脂、ゴム、金属が挙げられる。

【0014】
付勢手段40は外力が作用していない状況で各アーム31の先端同士が離間した状態になるように各アーム31を付勢するものである。本実施の形態ではトーションバネ40を使用している。トーションバネ40はその一方の端部が基台13に固定されており、他方の端部がアーム31の基部31aに固定されている。各アーム31はトーションバネ40の復元力によって筐体10の底に対して起立する方向に付勢されることになる。付勢手段40としてはトーションバネ40以外に周知のバネ部材を使用してもよい。付勢手段40を用いることで把持状態を解消した時点で各アーム31は自動的に起立状態に復元する。
なお、付勢手段40を用いずに、例えばアーム31の基部31aと筐体10の基台13とをある程度の柔軟性を持たせて接合したり、柔軟性を持つ材料でアーム31と筐体10とを一体成形することで、アーム31に対して外力が作用していない状態ではアーム31が起立しており、外力が作用している状態ではアーム31の先端同士が互いに近接する位置まで弾性的に移動する構造にしてもよい。
充填圧力調整手段50は筐体10内の流動体12の圧力である充填圧力を好ましい値に調整するために設けられる。充填圧力調整手段50は充填圧力検出手段51、シリンジ52、ピストン53及びモータ(図示略)を備えており、各々パイプ54によって筐体10内部に接続されている。
充填圧力検出手段51は充填圧力を検出する装置である。本実施の形態の場合、充填圧力検出手段51は圧力センサである。なお、充填圧力検出手段51は圧力センサに限定されるものではなく、任意の圧力検出方法を採用しうる。例えば、シリンジ52に対するピストン53の相対的な移動量を検出する装置を充填圧力検出手段51としてもよい。
充填圧力調整手段50は充填圧力検出手段51からの充填圧力に基づいてモータを駆動させ、ピストン53をシリンジ52に対して出し入れすることでフィードバック制御により充填圧力を好ましい値に調節する。
なお、好ましい充填圧力の値は対象物100の形状、重量及び柔らかさ(壊れやすさ)に応じて予め設定しておくことにしてもよく、或いは次に説明する特異充填圧力に基づいて好ましい充填圧力の値を求めてもよい。
特異充填圧力とは、把持作業中にロボットアーム31による対象物100への当接機構1の押し付け量と充填圧力とを検出し続け、押し付け量が増加しているにもかかわらず充填圧力が一定の時の当該充填圧力を指す。押し付け量の検出はロボットアーム31のセンサが行なうことにすればよい。
ここで、「充填圧力が一定」とは、剛体からなる対象物100を保持した際の押し付け量(横軸)と充填圧力(縦軸)との関係を示すグラフと比較して、図3(a)に示すように剛体以外の対象物100を保持した際の当該グラフの上昇角度が緩くなっている状態(同図中の「SP1」と記した部分)を指す。充填圧力が若干増加していても全体のスケールに対し上昇角度が緩くなっていれば「充填圧力が一定」に含まれる。
この場合、充填圧力が特異充填圧力となった時点(同図中の「保持点」)で対象物100を保持すれば、同一種類の対象物100を再現性よく保持することが可能となる。
図3(b)は、他のパターンで特異充填圧力が発生した場合の押し付け量と充填圧力との関係を示すグラフである。同図に示すように、押し付け量の増加にもかかわらず充填圧力が低下した時、ピークの圧力(同図中「SP2」と記した部分)が特異充填圧力である。
この場合、充填圧力が特異充填圧力の90%程度、またはそれ以上となった時点(同図中の「保持点」)で対象物100を保持すれば、同一種類の脆弱な対象物100を破壊することなく保持することができ、また再現することが可能となる。
図3(c)は、他のパターンで特異充填圧力が発生した場合の押し付け量と充填圧力との関係を示すグラフである。同図に示すように、押し付け量と充填圧力が比例関係になった時(同図中「SP3」と記した部分)の当該充填圧力が特異充填圧力である。
この場合、充填圧力が特異充填圧力となった時点(同図中の「保持点」)で対象物100を保持すれば、同一種類の対象物100を再現性よく保持することが可能となる。

【0015】
次に、当接機構1の動作について説明する。
[把持形態]
本発明の当接機構1は次の3種類の把持形態をとることができる。
(1)マイクログリッパ30を用いずに弾性膜20のみで対象物100を把持する形態(図43(a))
(2)マイクログリッパ30を用いて対象物100を挟み込んで把持する形態(図4(b))
(3)マイクログリッパ30(アーム31)を対象物100に押し当てて把持する形態(図4(c))
なお、筐体10内の充填圧力は充填圧力調整手段50によって対象物100に応じた好ましい値に調節されるものとする。

【0016】
(1)の把持形態は対象物100が柔らかい(壊れやすい)又は形状が複雑な場合に適している。使用者はロボットハンドを動かして左右の当接機構1を対象物100側に移動させていく。そして、弾性膜20が対象物100と接触して弾性変形した状態でロボットハンドを上昇させて対象物100を把持する。この状態では弾性膜20は対象物100の外形に沿って弾性変形しており、対象物100は弾性膜20の反発力及び摩擦力によって把持される。
なお、当然のことながらロボットハンドの操作を使用者ではなく、コンピュータープログラムによる自動操作で行ってもよい。

【0017】
(2)の把持形態は対象物100が重量物で壊れにくく且つ一対のアーム31間の距離よりも小さい場合に適している。使用者がロボットハンドを動かして左右の当接機構1を対象物100側に移動させていくと、まず弾性膜20が対象物100と接触して弾性変形する。更にロボットハンドを対象物100側に移動させていくと、帯32が対象物100によって押されて筐体10の底の方に撓み始める。帯32が撓むことで、帯32で繋がれている一対のアーム31の先端同士は互いに離間した位置から近接する位置まで移動(アーム31が回転)し始める。ロボットハンドを更に対象物100側に移動させていくと、帯32が更に撓むと共にアーム31の先端が弾性膜20を介して対象物100に接触する。この状態でロボットハンドを上昇させて対象物100を把持する。弾性膜20の摩擦力による力学的拘束とマイクログリッパ30が閉じて対象物100を挟み込むことによる幾何学的拘束とによって従来の剛体指以上の把持耐力を得ることができる。

【0018】
(3)の把持形態は対象物100が壊れにくく且つ一対のアーム31間の距離よりも大きい場合に適している。使用者がロボットハンドを動かして左右の当接機構1を対象物100側に移動させていくと、まず弾性膜20は対象物100と接触して弾性変形する。更にロボットハンドを対象物100側に移動させていくと、アーム31の先端の端面及び帯32が弾性膜20を介して対象物100に接触する。この状態でロボットハンドを上昇させて対象物100を把持する。対象物100の左右からアーム31の先端を押し当てることで、上記幾何学的拘束を行わないので(2)の把持形態ほどの把持耐力はないものの、剛体部(アーム31)で対象物100を左右から押さえつけて把持することになるため従来の流体(粉体又は液体)を対象物100の形状に倣って追従移動させる流体指と比較すると大きな把持耐力を得られる。
(1)~(3)の把持が終了し、ロボットハンドを対象物100から離れる方向に移動させると、付勢手段40によって各アーム31は自動的に起立状態に戻る。

【0019】
[位置決め補正]
本発明の当接機構1は位置決め補正機能を備える。
具体的には、上記(2)の把持形態において、対象物100が一対のアーム31の中心位置からずれた場所に存在していた場合でも、最終的に対象物100が一対のアーム31の中心位置にくるように移動させて保持する機能を備える。
以下、位置決め補正の原理について説明する。
簡単化のため下記のような仮定をおく。
1. 奥行き方向の対称性から二次元で議論できる
2. マイクログリッパ30の先端の帯32は非伸縮である
3. 各アーム31の基部31aに固定したトーションバネ40同士は連動しない
4. 対象物100のうち弾性膜20を介して各アーム31と接触する部分は当接機構1全体と比較して十分薄いものであるとして対象物100を棒形状として議論する
5. 対象物100と帯32の間には弾性膜20と流動体12が存在しており、流動体12が潤滑剤となる。弾性膜20の伸縮性により対象物100と弾性膜20の間は滑らず、弾性膜20と帯32の間は滑る。このため対象物100の表面形状に関係なく帯32に加わる摩擦は無視して、対象物100は帯32に対して摩擦なしで点接触するものとする

【0020】
対象物100を水平にε押し込んでいくとき上下のアーム31がそれぞれθ1,θ2だけ閉じる(近接する位置まで移動する)。帯32が変形しているときの幾何学的関係と力の関係をそれぞれ図5,図6に示す。
図5より幾何学的関係は次のとおりとなる。
【数1】
JP2018043301A_000003t.gif
接触点と各アーム31の先端との距離をδ1,δ2とした。
図6より帯32の張力をTとし水平方向の力の関係と鉛直方向の合力fver及び図6での各アーム31の回転軸まわりのモーメントM1,M2は次のとおりとなる。
【数2】
JP2018043301A_000004t.gif
但し、トーションバネ40のばね定数をk[N・m/deg]とした。

【0021】
図5において対象物100が中心よりも上にずれているとき(δ1のとき)、α1となるためfver<0となる。対象物100に下向きの力が加わることで対象物100は中心方向に移動する。同様に対象物100が中心よりも下にずれているとき(δ2のとき)、α12となるためfver>0となる。対象物100には上向きの力が加わることで対象物100は中心方向に移動する。
鉛直方向に釣り合うためにはfver=0となるときなので式(4)よりα1=α2である。
更にアーム31が静止するのはM1とM2の大きさが等しくなるときなので式(5),(6)よりθ1=θ2となる。
式(1),(2)よりδ1=δ2となり、図7のように対象物100をアーム31間の中心に引き込むことができる。そこから更に対象物100を押し込みアーム31が閉じることで対象物100を幾何学的な拘束で把持することができる。
よって本発明の当接機構1では(2)の把持形態において対象物100の位置が各アーム31の中心からずれていても(図中の「Gap」箇所)、対象物100をアーム31間に押し込むことで位置補正ができ、対象物100を正確に把持できる(図8(a)~(d))。

【0022】
次に、マイクログリッパ30の設計手順について説明する。
設計において決定すべき寸法は図9の通りである。
筐体10の外形の高さa、幅b、深さd、マイクログリッパ30のアーム長l、アーム間距離wである。ここでwは対象物100の大きさによって決定され、aとbも当接機構1を取り付けるロボットハンドの大きさや周囲の環境に合わせて適宜決定するものとする。
寸法精度等を考慮してw=14mmとする。また筐体10寸法はヒトの指2本分程度を想定しa=44mm,b=32mmと設定する。よって以下には残りの2つの寸法(l,d)を決定する手順と使用時の内圧を示す。
まずはマイクログリッパ30の寸法の条件を考える。対象物100の厚さをWとする。厚さW以下の対象物100を把持するために厚さが0に近い物体(薄板)を押し込んだときも考える必要がある。薄板を押し込んだときの幾何学的関係は図10より次のとおりとなる。
【数3】
JP2018043301A_000005t.gif
薄板を押し込んだとき薄板の先端の押し込み量がW/2となることを考慮すると押し込んだ薄板が筐体10の底に接触しないためには次の条件が成り立つ。
【数4】
JP2018043301A_000006t.gif
式(7),(8)より次式となり、その示す範囲は図11となる。
【数5】
JP2018043301A_000007t.gif

【0023】
さらに式(9)での臨界点を用いてlとl-dとの関係とその曲線の傾きを求めると図12のようになる。
l-dは図13のようにマイクログリッパ30が開いた状態でのアーム31先端と筐体10の側板との距離であり、弾性膜20を膨張させるべき大きさである。l-dが大きいほど弾性膜20を膨張させるために内圧を高くする必要があるが、内圧が高いと対象物100によっては把持の際に弾性膜20の破損などにつながる可能性がある。よって、l-dの値は小さいほど良い。図12に示すようにlを大きくすればl-dを小さくできるが、lはアーム長であり当接機構1全体の大きさに影響するため、lも長くなり過ぎない方が良い。
以上より、l-dを小さくしつつlも長くなり過ぎない最適なバランスとなる寸法を決定する必要がある。図12よりlを大きくするとl-dの曲線の傾きも徐々に小さくなっていることからこの傾きの閾値を定めることでl-dを小さくしつつlを出来る限り小さい長さにできる。仮に傾きの閾値を0.1とするとl=14.4mm,d=6.59mm,l-d=7.81mmとなる。

【0024】
次に、筐体10の内圧の設定手順について説明する。
流動体12を使用する本発明の当接機構1は内部の圧力が均一で対象物100に圧力集中がかからないという長所を残す必要がある。そのためにはアーム31の先端が弾性膜20の表面に接触しないようにしなければならない。そこで、弾性膜20の表面の断面形状を楕円で近似する。そして、図14のように弾性膜20の先端の高さxtipと弾性膜20の接合部の接線の傾き角φを各圧力で測定する。図15はa=44mm,b=32mmのときのPとxtip,φとの関係である。
図15から圧力P[kPa]と高さxtip[mm],傾き角φ[deg]との次の関係式を得た。
【数6】
JP2018043301A_000008t.gif
これにより任意の圧力でのxtip,φを求めることができる。
図14の座標系において近似楕円の方程式は次式で表すことができる。
【数7】
JP2018043301A_000009t.gif
この楕円は(0,α/2),(xtip,0)を通り、(0,α/2)での接線の傾きが-tanφである。式(10),(11)を用いると α,p,qは圧力Pを用いて表されるためxarmの値は圧力の関数として次式で表される。
【数8】
JP2018043301A_000010t.gif
したがって図13に示すようにアーム31先端が弾性膜20に接触しないための条件は次式で表される。
【数9】
JP2018043301A_000011t.gif
L-d=7.81mmを用いると式(14)を満たす最小のxarmが求まるため、式(13)よりそのときの圧力が5.83kPaと求められる。これは弾性膜20がマイクログリッパ30に干渉しない最小圧力であり、対象物100によっては内圧をより高めることでアーム31との干渉を防ぐことができる。

【0025】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の当接機構1の第2の実施の形態について説明するが、上記第1の実施の形態と同一の構成となる箇所については同一の符号を付してその説明を省略する。
図16(a)に示すように、本実施の形態の当接機構1は帯32を備えない点に特徴を有する。
この構成の場合、一対のアーム31の先端同士を繋ぐという帯32の機能を弾性膜20が果たすことになる。すなわち、(2)の把持形態において、対象物100によって押されて撓み始めた弾性膜20が各アーム31の先端に接触することで各アーム31に対してその先端同士が近接する位置に移動するように外力を作用させる。対象物100をアーム31の間に充分に押し込むと、弾性膜20が更に撓むと共にアーム31の先端が弾性膜20を介して対象物100に接触する(図16(b))。この状態でロボットハンドを上昇させて対象物100を把持する。マイクログリッパ30が閉じて対象物100を挟み込むことで弾性膜20の摩擦力による力学的拘束とマイクログリッパ30による幾何学的拘束とによって従来の剛体指以上の把持耐力を得ることができる。
【実施例】
【0026】
上記各寸法で製作した当接機構1を図17に示す。アーム31にはABS 樹脂、弾性膜20にはニトリルゴム、流動体12はチェーンソーオイル(ISO VG 100)、帯32はポリ塩化ビニル、トーションバネ40はばね定数0.05N・mm/degのものを用いた。
図18のようにPETシートS1(100mm×70mm×0.41mm)を左右に配置した当接機構1で把持し、その際の当接機構1からの水平荷重を把持力fgra(Grasping force)とし、上からフォースゲージFGで垂直荷重を加えていってPETシートS1が落下したときの垂直荷重を把持耐力fres(Resistible force)とする。これを本発明の当接機構1(Fluid fingertip with micro-gripper)、内部にアーム31を持たない従来の流体指(Fluid fingertip)及び従来の剛体指(ABS樹脂 Rigid material fingertip)でそれぞれ計測した結果が図19である。
いずれの把持力においても、本発明の当接機構1の方が流体指及び剛体指よりも把持耐力が増加している。また流体指と剛体指は把持力と把持耐力がおよそ線形の関係になっている。一方、本発明の当接機構1は対象物100をアーム31の間に押し込むほど帯32が変形し、マイクログリッパ30の引っ掛かりが大きくなるため把持耐力の増加率が大きくなっているのが分かる。
【実施例】
【0027】
従来の流体指では把持できなかった重量物を本発明の当接機構1では把持できた(図20)。図20(a)は薄い重量物(バイス、質量600g、把持される部分の厚さ8mm)、図20(b)は厚い重量物(ペットボトル、質量900g)である。
更に、弾性体のシートは把持すると変形するため剛体指では把持が困難であったが(11回中6回把持成功)、本発明の当接機構1では弾性体のシートS2を把持できた(図21)。したがって、本発明の当接機構1は従来の流体指の長所であるなじむという特徴も残っている。また本発明の当接機構1は豆腐とポテトチップスの把持も成功したことから壊れやすい物体の把持も可能であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、力学的拘束と幾何学的拘束を併用することで形状、重量及び柔らかさが異なる様々な対象物を正確な位置で安定的に把持でき、更に小型化及び製造コストを抑制できるロボットハンド用の当接機構であり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0029】
FG フォースゲージ
S1 PETシート
S2 弾性体のシート
1 当接機構
10 筐体
11 開口部
12 流動体
13 基台
20 弾性膜
30 マイクログリッパ
31 一対のアーム
31a 基部
32 帯
40 付勢手段(トーションバネ)
50 充填圧力調整手段
51 充填圧力検出手段(圧力センサ)
52 シリンジ
53 ピストン
54 パイプ
100 対象物

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20