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明細書 :操縦者状態推定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-063489 (P2018-063489A)
公開日 平成30年4月19日(2018.4.19)
発明の名称または考案の名称 操縦者状態推定装置
国際特許分類 G08G   1/16        (2006.01)
A61B   5/16        (2006.01)
B60W  40/08        (2012.01)
FI G08G 1/16 F
A61B 5/16
B60W 40/08
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2016-200328 (P2016-200328)
出願日 平成28年10月11日(2016.10.11)
発明者または考案者 【氏名】得竹 浩
【氏名】寺西 翔一朗
出願人 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100098545、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 伸一
【識別番号】100087745、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 善廣
【識別番号】100106611、【弁理士】、【氏名又は名称】辻田 幸史
【識別番号】100189717、【弁理士】、【氏名又は名称】太田 貴章
審査請求 未請求
テーマコード 3D241
4C038
5H181
Fターム 3D241AA71
3D241AB01
3D241AC30
3D241BA29
3D241BA70
3D241DD02
4C038PP05
4C038PQ03
4C038PS07
5H181AA01
5H181CC04
5H181LL01
5H181LL04
5H181LL06
5H181LL09
5H181LL20
要約 【課題】 手動運転時と自動走行時とに関わらず操縦者の状態を推定することができ、操縦者が操縦対象体周辺のどの被監視物にどれほど注意しているかを把握できる操縦者状態推定装置を提供すること。
【解決手段】 被監視物位置測定手段10と、注視点測定手段20と、操縦者モデル同定手段30と、操縦者状態推定手段40とを備え、被監視物位置測定手段10は、操縦者が監視する被監視物の位置を測定し、注視点測定手段20は、被監視物を監視する操縦者の注視点を測定し、操縦者モデル同定手段30は、被監視物の変位を入力とし、操縦者の注視点の変位を出力として、操縦者の入出力関係を示す操縦者モデルを同定し、操縦者状態推定手段40は、操縦者モデルの特徴量の変化又は閾値との比較によって操縦者の状態を推定する。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
操縦対象体を操作する操縦者の注意力低下などの状態を推定する操縦者状態推定装置であって、
被監視物位置測定手段と、
注視点測定手段と、
操縦者モデル同定手段と、
操縦者状態推定手段とを備え、
前記被監視物位置測定手段は、前記操縦者が監視する被監視物の位置を測定し、
前記注視点測定手段は、前記被監視物を監視する前記操縦者の注視点を測定し、
前記操縦者モデル同定手段は、前記操縦者の入出力関係を、前記被監視物の変位を入力とし、前記操縦者の前記注視点の変位を出力として示す操縦者モデルを同定し、
前記操縦者状態推定手段は、前記操縦者モデルの特徴量を、前記操縦者の以前の操縦者モデルの特徴量、又は規範的な操縦者モデルの特徴量と比較することにより、現在の前記操縦者の状態を推定することを特徴とする操縦者状態推定装置。
【請求項2】
前記特徴量は、ゲイン、時定数又は残差であることを特徴とする請求項1に記載の操縦者状態推定装置。
【請求項3】
前記操縦者モデル同定手段は、前記操縦者の前記注視点が前記被監視物から所定範囲内にある場合の前記被監視物の変位及び前記操縦者の前記注視点の変位を前記操縦者モデルの同定に用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の操縦者状態推定装置。
【請求項4】
前記操縦対象体は、道路を走行する車両であり、
前記被監視物は、前記車両の外に存在する静止物又は移動物であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の操縦者状態推定装置。
【請求項5】
前記車両は、前記操縦者が運転を行う手動運転モードと、加速、操舵及び制動のうち少なくとも一つの操作が自動で行われる自動走行モードとを有する準自動走行システム車であり、
前記操縦者状態推定手段は、前記手動運転モードと前記自動走行モードとを切り替える前に前記操縦者の状態を推定することを特徴とする請求項4に記載の操縦者状態推定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの操縦対象体を操作する操縦者の注意力低下などの状態を推定する操縦者状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
漫然運転などのヒューマンエラーが交通事故の主な原因となっている。このような事故を低減することなどを目指した自動走行システムの研究開発が活発に行われている。内閣府は2020年代前半を目途に準自動走行システムの市場化を掲げている。準自動走行システムでは、システムが要請したときに操縦を全自動走行システムからドライバ(操縦者)に切り替える。その切り替えの際は、ドライバが十分な操縦を行える状態であることを確認 したのちに切り替えることが望ましい。また、ドライバが運転している場合(手動運転時)でもドライバの状態を確認する技術は漫然運転や脇見運転の防止の点で有用である。
【0003】
発明者らはビークル(操縦対象体)を操縦するオペレータモデル(ドライバモデル)を陽に用いたビークルダイナミクスの解析手法や制御系設計手法を構築してきた(非特許文献1~5)。またビークルを操縦するオペレータ(操縦者)状態推定のためのオペレータモデルのリアルタイム同定手法と同定モデルからオペレータ状態を推定する手法を開発してきた(非特許文献6~8)。オペレータモデルを用いることで、オペレータの振る舞いを直接考慮した解析、設計が可能となった。
【0004】
また、特許文献1には、車両を運転するドライバの顔が映る画像に基づいて、ドライバの両眼の視線によって規定される輻輳角を順次算出し、算出した輻輳角の標準偏差に基づいて、車両を運転するドライバの覚醒度が低下した状態であるか否かを判定する覚醒度判定装置が開示されている。
特許文献2には、運転者の覚醒時の心電図波形における隣接するR波の間隔であるRRIデータを取得し、取得されたRRIデータに基づいて心拍変動を解析し、標準化された覚醒時HRV指標データに基づいて多変量統計的プロセス管理を用いて運転者毎の眠気検出モデルを構築する眠気検出方法及び装置が開示されている。
特許文献3には、入力される生体情報又は車両情報を示す複数の特徴量をそれぞれ2値的に識別する弱識別手段と、弱識別手段による複数の特徴量の識別結果に基づいて運転者の注意力低下を推定する状態推定手段と、複数の特徴量と運転者の注意力低下との関係をAdaBoostを用いて学習する学習手段とを備える運転者状態推定装置が開示されている。
特許文献4には、顔の特定部位の一時的な変化が所定時間以上継続しているとき、一時的な変化の所定周期内での回数が所定回数以上であるときに、運転者が漫然状態であると判定する運転者状態検出方法及び装置が開示されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2012-113450号公報
【特許文献2】特開2015-226696号公報
【特許文献3】特開2009-301367号公報
【特許文献4】特開2016-71577号公報
【0006】

【非特許文献1】Fujinaga,J.,Tokutake,H.and Miura,Y.:Pilot-in-the-Loop Analysis of Aileron Operation and Flight Simulator Experiments,Transactions of the Japan Society for Aeronauticaland Space Sciences,vol.50,p.193-200(2007)
【非特許文献2】Miura,Y.,Tokutake,H.and Fukui,K.:Handling qualityies evaluation method based on actual driver characteristics,Vehicle System Dynamics, vol.45,p.807-817(2007)
【非特許文献3】Tokutake,H.,Fujinaga,J.and Miura,Y.:Lateral-Directional controller design using a pilot model and flight simulator experiments.The Aeronautical Journal,vol.112,p.213-218(2008).
【非特許文献4】Tokutake,H.,Miura,Y.and Okubo,H.:Workload analysis method via optimal drive model,SAE Technical Papers(2004),2004-01-3536,doi:10.4271/2004-01-3536
【非特許文献5】Tokutake,H., Sato,M:Controller design using standard operator model,Journal of Guidance, Control and Dynamics,vol. 28, p.872-877(2005)
【非特許文献6】Tokutake,H.,Sugimoto,Y.,and Shirakata,T.:Real-time Identification Method of Driver Model with Steering Manipulation,Vehicle System Dynamics,vol.51,p.109-121(2012).
【非特許文献7】Tokutake,H.:Drowsiness Estimation from Identified Driver Model,Systems Science & Control Engineering,vol.3,p.381-390(2015).
【非特許文献8】寺西翔一朗,得竹浩:第 53回飛行機シンポジウム講演集,3G05,(2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献6~8で提案したオペレータ状態を推定する手法は、車両運動と操縦履歴のみを利用するため、一般に行われている生体信号を用いたドライバ状態推定手法より低価格で実装・運用できる。しかし、ドライバは自動走行時に操縦を行わないため、操縦履歴を利用した手法はドライバが操縦している状況しか適用できない。
また、特許文献1~4は、輻輳角、心拍変動、視線移動量又は口周りの変化等の生体信号のみを利用して運転者の状態を判断するものであり、ドライバが自車両周辺の注視すべき対象(被監視物)にどれほど注意を払っているかは把握できない。
【0008】
そこで本発明は、手動運転時と自動走行時とに関わらず操縦者の状態を推定することができ、操縦者が操縦対象体周辺の被監視物にどれほど注意しているかを把握できる操縦者状態推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の本発明の操縦者状態推定装置は、操縦対象体を操縦する操縦者の注意力低下などの状態を推定する操縦者状態推定装置であって、被監視物位置測定手段と、注視点測定手段と、操縦者モデル同定手段と、操縦者状態推定手段とを備え、前記被監視物位置測定手段は、前記操縦者が監視する被監視物の位置を測定し、前記注視点測定手段は、前記被監視物を監視する前記操縦者の注視点を測定し、前記操縦者モデル同定手段は、前記操縦者の入出力関係を、前記被監視物の変位を入力とし、前記操縦者の前記注視点の変位を出力として示す操縦者モデルを同定し、前記操縦者状態推定手段は、前記操縦者モデルの特徴量を、前記操縦者の以前の操縦者モデルの特徴量、又は規範的な操縦者モデルの特徴量と比較することにより、現在の前記操縦者の状態を推定することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の操縦者状態推定装置において、前記特徴量は、ゲイン、時定数又は残差であることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の操縦者状態推定装置において、前記操縦者モデル同定手段は、前記操縦者の前記注視点が前記被監視物から所定範囲内にある場合の前記被監視物の変位及び前記操縦者の前記注視点の変位を前記操縦者モデルの同定に用いることを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の操縦者状態推定装置において、前記操縦対象体は、道路を走行する車両であり、前記被監視物は、前記車両の外に存在する静止物又は移動物であることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の操縦者状態推定装置において、前記車両は、前記操縦者が運転を行う手動運転モードと、加速、操舵及び制動の全て又は複数の操作が自動で行われる自動走行モードとを有する準自動走行システム車であり、前記操縦者状態推定手段は、前記手動運転モードと前記自動走行モードを切り替える前に前記操縦者の状態を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、周辺環境情報(被監視物の変位)とドライバ(操縦者)の注視点移動を利用することで走行時のドライバの視点移動をモデル化し、得られたドライバモデル(操縦者モデル)の特徴量によりドライバ状態(操縦者状態)を推定する。したがって本発明によれば、手動運転時と自動走行時とに関わらず操縦者の状態を推定できると共に、操縦者が自車両(操縦対象体)周辺のどの被監視物にどれほど注意しているかを把握できる操縦者状態推定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例による操縦者状態推定装置を用いたヒューマンエラー防止システムの概略構成図
【図2】ドライバの注視点移動モデルを示す図
【図3】車両を運転するドライバ、車両、環境からなる閉ループ系を示す図
【図4】実験装置概略図
【図5】前方車両位置のxy座標系への変換図
【図6】自動走行中の各被験者の瞳孔径の平均値、標準偏差を示す図
【図7】自動走行中のデータから同定したドライバ モデルから得られた各被験者の(a)残差、(b)ゲイン、(c)時定数を示す図
【図8】自動走行中のデータから同定したドライバ モデルから得られた各被験者の(a)残差、(b)ゲイン、(c)時定数を示す図
【図9】自動走行中のデータから同定したドライバ モデルから得られた各被験者の(a)残差、(b)ゲイン、(c)時定数を示す図
【図10】自動走行中のデータから同定したドライバ モデルから得られた各被験者の(a)残差、(b)ゲイン、(c)時定数を示す図
【図11】各被験者の(a)残差、(b)ゲイン、(c)時定数の自動走行 時の平均値、標準偏差を示す図
【図12】副次課題がある場合とない場合の、ドライバの反応時間と運転切り替え前の 20秒間に得られた時定数の平均値の関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1の実施の形態による操縦者状態推定装置は、被監視物位置測定手段と、注視点測定手段と、操縦者モデル同定手段と、操縦者状態推定手段とを備え、被監視物位置測定手段は、操縦者が監視する被監視物の位置を測定し、注視点測定手段は、被監視物を監視する操縦者の注視点を測定し、操縦者モデル同定手段は、前記操縦者の入出力関係を、被監視物の変位を入力とし、操縦者の注視点の変位を出力として示す操縦者モデルを同定し、操縦者状態推定手段は、操縦者モデルの特徴量を、前記操縦者の以前の操縦者モデルの特徴量、又は規範的な操縦者モデルの特徴量と比較することにより、現在の操縦者の状態を推定するものである。本実施の形態によれば、操縦者の被監視物に対する注視点移動を利用した操縦者モデルから操縦者状態を推定するため、手動運転時と自動走行時とに関わらずドライバの状態を推定することができ、ドライバが自車両周辺のどの被監視物にどれほど注意しているかを把握できる。
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による操縦者状態推定装置において、特徴量は、ゲイン、時定数又は残差としたものである。本実施の形態によれば、操縦者の状態をゲイン、時定数又は残差を利用して推定できる。
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態による操縦者状態推定装置において、操縦者モデル同定手段は、操縦者の注視点が被監視物から所定範囲内にある場合の被監視物の変位及び操縦者の注視点の変位を操縦者モデルの同定に用いるものである。本実施の形態によれば、注視点が被監視物から所定範囲外にあるときのデータは操縦者モデルの同定に用いないことで、より正確にモデル化を行うことができる。
本発明の第4の実施の形態は、第1から第3のいずれか1つの実施の形態による操縦者状態推定装置において、操縦対象体は、道路を走行する車両であり、被監視物は、車両の外に存在する静止物又は移動物とするものである。本実施の形態によれば、車両(自動車)に適用できる。また、被監視物を自車両周辺の他車両、信号機、標識及び車線等の静止物又は移動物とすることで、ドライバが自車両周辺のどの被監視物にどれほど注意しているかを把握できる。
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による操縦者状態推定装置において、車両は、操縦者が運転を行う手動運転モードと、加速、操舵及び制動の全て又は複数の操作が自動で行われる自動走行モードとを有する準自動走行システム車であり、操縦者状態推定手段は、手動運転モードと自動走行モードとを切り替える前に操縦者の状態を推定するものである。本実施の形態によれば、モード切り替え前に操縦者の状態を推定するので、自動走行から手動運転に切り替える際の事故を減らすことができる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の一実施例による操縦者状態推定装置について説明する。
図1は、本実施例による操縦者状態推定装置を用いたヒューマンエラー防止システムの概略構成図である。
操縦者状態推定装置は、準自動走行システムを備えた車両(操縦対象体)に搭載されている。ここで、「準自動走行システム」とは、加速、操舵及び制動を全て操縦者が行う手動運転モードと、加速、操舵及び制動のうち少なくとも一つの操作が自動で行われる自動走行モードとを有し、所定条件下で手動運転モードと自動走行モードが切り替わるシステムをいう。
操縦者状態推定装置は、被監視物位置測定手段10と、注視点測定手段20と、ドライバモデル同定手段(操縦者モデル同定手段)30と、ドライバ状態推定手段(操縦者状態推定手段)40を備える。
被監視物位置測定手段10は、ドライバ(操縦者)が監視する被監視物の位置を継続的に測定し、ドライバモデル同定手段30に送信する。被監視物は、他車両、信号機、歩行者、標識又は車線など、ドライバが自車両を操縦するにあたって視線を向けるべき車外の静止物又は移動物である。
注視点測定手段20は、被監視物を監視するドライバの視線を追跡することにより注視点を継続的に測定し、ドライバモデル同定手段30に送信する。
ドライバモデル同定手段30は、ドライバの入出力関係を、被監視物位置測定手段10から送信された被監視物の位置に基づいて求めた被監視物の変位を入力とし、注視点測定手段20から送信されたドライバの注視点に基づいて求めたドライバの注視点の変位を出力として示すドライバモデルを同定し、同定したドライバモデルをドライバ状態推定手段40に送信する。
ドライバ状態推定手段40は、ドライバモデル同定手段30によって同定されたドライバモデルの特徴量を、操縦者の以前の操縦者モデルの特徴量、又は規範的な操縦者モデルの特徴量と比較することにより、現在の操縦者の状態を推定する。比較に用いる特徴量は、特に限定はないが、ゲイン、時定数又は残差とすることが好ましい。この場合例えば、ドライバモデル同定手段30によって同定されたドライバモデルの時定数の所定時間の平均値を、記憶手段60に記憶されている規範的なドライバモデルの時定数の所定時間の平均値と比較することにより、ドライバの注意力低下の有無を推定する。なお、ドライバモデル手段30によって同定されたドライバモデルを記憶手段60にも送信して保存しておき、最新のドライバモデルの特徴量を、保存された以前のドライバモデルの特徴量と比較することにより注意力低下の有無を推定してもよい。また、ゲイン、時定数及び残差について別のドライバモデルとそれぞれ比較し、総合的に注意力低下の有無を推定してもよい。
また、本実施例によるヒューマンエラー防止システムは、警告・操縦介入手段50を備えている。警告・操縦介入手段50は、ドライバ状態推定手段40がドライバの注意力が低下していると推定したとき、警告を発する。また、自動走行モードにあるときは、手動運転への切り替えを行わず自動走行モードを継続する。これにより、漫然運転などのヒューマンエラーに起因する事故を防止できる。
このように、ドライバの被監視物に対する注視点移動を利用したドライバモデルからドライバ状態を推定するため、手動運転時と自動走行時とに関わらずドライバの状態を推定することができ、ドライバが自車両周辺のどの被監視物にどれほど注意しているかを把握できる。
【実施例】
【0014】
また、ドライバモデル同定手段30は、ドライバの注視点が被監視物から所定範囲内にある場合の被監視物の変位及びドライバの注視点の変位をドライバモデルの同定に用いる。
注視点測定手段20によって測定されたドライバの注視点データには、被監視物を監視していないときの注視点の移動も含まれる可能性がある。そのため注視点が被監視物から所定範囲外にあるときのデータはドライバモデルの同定に用いないことで、より正確にモデル化を行うことができる。
【実施例】
【0015】
次に、ドライバの注視点移動モデルについて説明する。
図2は、ドライバの注視点移動モデルを示す図である。ドライバモデル同定手段30は、周辺環境(被監視物の変位)を入力、ドライバの注視点の変位を出力とするドライバの入出力関係を示すドライバモデルを同定する。
ドライバは自動走行中、注視点を移動させることで周辺環境の変化を察知する。そのドライバの振る舞いを以下のモデルにより表現する。
【数1】
JP2018063489A_000003t.gif
本実施例では解析を簡単にするため1次遅れ系をドライバモデルとして採用する。
【数2】
JP2018063489A_000004t.gif
(1)、(2)式で表現されるドライバモデルからドライバ状態を推定する。そのため残差の大きさJres(式(3))、ゲインK、時定数Τを評価量として採用する。
【数3】
JP2018063489A_000005t.gif
iはデータセット番号、tはi番目の切り分けたデータセットの開始時間、Lはi番目の切り分けたデータセットの時間幅である。残差からは線形ドライバモデルで表現できない注視点 移動の非線形要素や周辺環境の変化と相関のない注視点移動量、注視点分布の範囲の大きさを評価できる。
【実施例】
【0016】
次に、注意力低下とドライバモデルの関係性について説明する。
図3に車両を運転するドライバ、車両、環境(被監視物)からなる閉ループ系を示す。ドライバは操縦するとき周辺環境の変化を 認知し、どのように操縦するか判断する。そして手動運転時は 操縦を自動運転時は周辺環境の監視を行う。ドライバの注意力が低下したとき、認知の遅れやミスなどが発生 し、ドライバは判断や操作を誤ることとなる。
既存の研究では模擬運転状況で注意力が低下したとき、刺激提示に対するドライバの反応が遅れることが実験的に確認 されている(内田信行ほか:携帯電話会話時における運転者の注意状態評価について,IATSS Review,vol.30,No.3,p.57-65(2005).)。そのため、周囲環境の変化に対する注視点移動の時間的な遅れを表現するドライバモデルの時定数は注意力低下により増加する。また、手動運転に切り替えた直後の操縦成績は、モデル特徴量から予測可能である。
【実施例】
【0017】
次に、本発明の操縦者状態推定装置を用いた実験について説明する。
本実験ではドライバに周辺環境の監視と同時に副次課題による精神的負荷を与えることで、注意力低下状態を模擬する。ドライバに精神的負荷を与えられているか確認するため、瞳 孔径の変動をリファレンスとして用いる。
瞳孔は副交感神経により括約筋、交感神経により散大筋が支配を受けている(伊藤謙治, 桑野園子,小松原明哲:人間工学ハンドブック,東京,朝倉書店,2003,p.363.)。そのため、瞳孔径は人の心理状態を示す客観的指標となる(Yamanaka,K. and Kawakami, M.:Convenient Evaluation of Mental Stress with Pupil Diameter, International Journal of Occupational Safety and Ergonomics, vol.15, No.4, p.447-450 (2009).)。本実験では、瞳孔径の測定データから瞬きや瞳孔径が1/30秒間で0.1mm変化した点(Sandra,P.M.:U.S.Patent,US6090051A,(2000).)、瞳孔径が2mmから8mmの範囲を超えた点(産業技術総合研究所人間福祉医工学研門:人間計測ハンドブック,東京,朝倉書店,2003,p.113-115.)を除去し、精神的負荷の指標として用いる。
本実験では SeeingMachines社のアイトラッカーFOVIOを用いて瞳孔径を測定し、瞳孔径を精神的負荷の指標とした。
【実施例】
【0018】
図4に実験装置概略を示す。ドライバXはプロジェクタ1からスクリーン2に映し出される映像を見て、自動走行時は周辺環境の監視、手動運転 時はステアリング3やペダル4を用いて操縦する。ペダル4は、アクセルペダル4Aとブレーキペダル4Bとからなる。ステアリング2 に対するフォースフィードバックは無い。また、注視点および瞳孔径の測定には、注視点測定手段20として非接触式のアイトラッカー(SeeingMachines社製 FOVIO)を用いる。ドライビングシミュレータは株式会社フォーラムエイト社のUC-win/Roadを用いて構築した。UC-win/Road SDKと Delphi XE2を用いて、任意の操縦対象ダイナミクスや外乱などの実験条件をプログラミングする事が可能である。コンピュータ5はドライビングシュミレータを動作・制御する。
なお、被監視物位置測定手段10、ドライバモデル同定手段30及びドライバ状態推定手段40は図示を省略する。
【実施例】
【0019】
本実験では、ドライバが注視する対象は蛇行している前方車両のみとした。さらに解析を簡単にするため、走行環境を高さ一定の直線道路とした。また自車両と前方車両の車間距離を一定とし、被験者(ドライバX)から見て前方車両の位置が奥行き方向、鉛直方向に変化しないものとした。これらの実験条件により、本実験では被験者の道路面に平行な注視点移動のみを対象とする。
被験者は実験開始時、蛇行している前方車両と車間距離を一定に保つように自動走行している車両の運転席に乗車している。実験開始から約120秒後に前方車両と自車両の間に別の車両が割り込みを行う。スクリーン2に割り込み車両が映ると同時に自動走行から手動運転に切り替わり、それから60秒間は被験者が操縦し実験は終了する。
【実施例】
【0020】
本実験では、ドライバの前方車両の移動に対する注視点移動をモデル化するため、被験者には主要課題として常に前方車両を監視するように指示した。また、ドライバの注意力低下状態を模擬するため、自動走行中に副次課題を行うことで精神的負荷を与えた。副次課題は連続して流れてくる数字の最後からN番目の数字を口答するというNバック課題を与えた。さらに被験者には割り込み車両を認識したらすぐにブレーキペダル4Bを踏むよう指示した。
【実施例】
【0021】
自車両は蛇行している前方車両との車間距離が一定になるようにフィードバック制御により自動走行する。自動走行中 はステアリング3やペダル4を操作しても自車両には反映されな い。前方車両は、被験者に次の動きが予測できないようにランダムに蛇行している。割り込み車両は、自車両より速度が20km/h大きい状態で割り込むため、被験者が不適切な操縦をしない限り衝突しない。
【実施例】
【0022】
事前に本実験の内容と目的を十分に説明し合意を得た被験者4名に操縦実験に参加してもらった。十分な操縦練習を行ったのちに主要課題と副次課題を与えた操縦実験を実施した。副次的課題の答えは口頭で述べてもらい実験補助者が聞き取った。
また計測した注視点位置、前方車両の位置を 図5に示すようなxy座標系に変換しモデル同定に用いる。これはxy平面内に常に前方車両が存在するように一定速度で前方に進む座 標系である。
【実施例】
【0023】
本実験では、被験者が割り込み車両を認識してからすぐブレーキペダル4Bを踏むように指示した。そこで、スクリーン2に割り込み車両が映ってからブレーキペダル4Bを踏むまでの時間(以降、「ドライバの反応時間」又は「反応時間」という)を操縦成績とした。このドライ バの反応時間が短いほど操縦成績は良いとする。
【実施例】
【0024】
次にデータ処理について説明する。
ドライバモデルを以下に示す。
【数4】
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出力xδ,yδは平均値を除去した注視点の位置、入力xe,yは平均値を除去した前方車両の位置、w,wは残差である。前方 車両は主に左右に移動するためH,wを解析対象とし、ドラ イバモデルHのゲインおよび時定数、x方向の残差wの時間変動を確認する。
また、得られたデータには前方車両を監視していないときの注視点の移動も含まれている。そこで注視点と前方車両が5m以上離れているデータは前方車両の監視を行っていないと見なしモデル同定に利用しない。5m以上離れていないデータは10秒間隔で切り分け、10秒未満であっても2秒以上のデータは同定に用いた。
【実施例】
【0025】
図6に自動走行中の各被験者(subject)の瞳孔径の平均値、標準偏差を示す。
図7~10に自動走行中のデータから同定したドライバモデルHから得られた各被験者の(a)残差、(b)ゲイン、(c)時定数を示す。横軸は経過時間[秒]であり、上述の通り実験開始から約120秒経過するまでは自動走行、その後は手動運転である。図7は被験者A、図8は被験者B、図9は被験者C、図10は被験者Dのものである。
図11に各被験者の(a)残差、(b)ゲイン、(c)時定数の自動走行 時の平均値、標準偏差を示す。ただし同定モデルが不安定な場合は、入力と相関のある振る舞いをしていないとして解析対象から除いた。
なお、図6~11において、実線は副次課題がない場合を示し、破線は副次課題がある場合を示している。
表1に各被験者の副次課題ありの場合と副次課題なしの場合の反応時間(Reaction time)[秒]、表2に副次課題の正答率[%]を示す。
【実施例】
【0026】
【表1】
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【表2】
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【実施例】
【0027】
図6より、自動走行中の副次課題により被験者A,B,Dの瞳孔径は増加しており、副次課題により精神的負荷を与えたこと がわかる。また、表1より、3名とも副次課題を行ったときの反応時間が増加しており、副次課題により注意力低下状態になったことがわかる。被験者Cは瞳孔径の増加は確認されなかったが反応時間は0.36秒増加しており、被験者Cもまた副次課題により注意力低下状態になったと推定できる。
なお、副次課題がある場合の被験者Bのモデル特徴量が実験開始約80秒以降得られていない(図8参照)。これは注視点が前方車両から5m以上離れていることが多く、モデル同定されなかったためである。
被験者4人中A,C,Dの3人において、副次課題がある場合はない場合より時定数が大きい(図11(c)参照)。なお、被験者Bの時定数への副次課題の影響は見られな い。被験者Bの副次課題を与えた実験では、時間経過とともに注視点が前方車両より5m以上離れることが多くなり同定モデルを得られなかった。そのため実験開始直後の副次課題 の影響をあまり受けていない同定モデルのみで平均値を計算したために、あまり変化が現れない結果になったものと推定される。
図12に副次課題がある場合とない場合の、ドライバの反応時間と運転切り替え前の 20秒間に得られた時定数の平均値の関係を示す。「●」は被験者Aの副次課題ありの場合、「○」は被験者Aの副次課題なしの場合、「▲」は被験者Cの副次課題ありの場合、「△」は被験者Cの副次課題なしの場合、「■」は被験者Dの副次課題ありの場合、「□」は被験者Dの副次課題なしの場合である。被験者Bは副次課題がある場合の運転切り替え前20秒間で モデルが得られなかったためプロットしていない。図12より被験者A,C,Dでは自動走行時の時定数とドライバの反応時間の間に正の相関があることがわかる。これより自動走行時の注視点の動きを表したドライバモデルの時定数が大きい場合、注意力低下状態であると予測できることがわかる。被験者Bにおいても、注視点の動きは副次課題の影響を強く受けているこことは明らかであるため、予測アルゴリズムが構築可能である。
【実施例】
【0028】
なお、上記では、準自動走行システムを備えた車両に搭載する場合を例に説明したが、本発明による操縦者状態推定装置は、準自動走行システムを備えない手動運転のみの車両にも適用可能である。さらに、航空機、二輪車、船舶、鉄道など他の乗物、又は遠隔操縦可能な無人航空機(いわゆる「ドローン」)等にも適用可能である。
また、上記式(1)~(4)は本発明の理解を容易にするための例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で様々に変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明による操縦者状態推定装置は、操縦対象体を操縦する者の視点移動をモデル化し、得られた操縦者モデルの特徴量によりドライバの注意力低下などの状態を効果的に推定するので、自動車等に適用することで操縦者のヒューマンエラーによる事故防止に寄与する。
【符号の説明】
【0030】
1 プロジェクタ
2 スクリーン
3 ステアリング
4 ペダル
5 コンピュータ
10 被監視物位置測定手段
20 注視点測定手段
30 ドライバモデル同定手段(操縦者モデル同定手段)
40 ドライバ状態推定手段(操縦者状態推定手段)
50 警告・操縦介入手段
60 記憶手段
X ドライバ(操縦者)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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