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明細書 :昇温ホルダおよびプローブ顕微鏡

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-091666 (P2018-091666A)
公開日 平成30年6月14日(2018.6.14)
発明の名称または考案の名称 昇温ホルダおよびプローブ顕微鏡
国際特許分類 G01Q  30/10        (2010.01)
G01Q  70/02        (2010.01)
G01Q  30/14        (2010.01)
G01Q  20/02        (2010.01)
FI G01Q 30/10
G01Q 70/02
G01Q 30/14
G01Q 20/02
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2016-233494 (P2016-233494)
出願日 平成28年11月30日(2016.11.30)
発明者または考案者 【氏名】内橋 貴之
【氏名】足立 彗
【氏名】古寺 哲幸
出願人 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100109210、【弁理士】、【氏名又は名称】新居 広守
審査請求 未請求
要約 【課題】試料を一定の温度で安定して昇温することができる昇温ホルダおよびプローブ顕微鏡を提供する。
【解決手段】昇温ホルダ11は、溶液41を保持する穴部13aを有する溶液保持部13と、溶液保持部13の片面に設けられ、穴部13aの底面を構成する透明部材15と、透明部材15の溶液保持部13が配置された側と反対側の面に設けられた電極16aおよび16bとを備え、電極16aおよび16bに電流を流すことにより穴部13aに保持される観測用溶液41を昇温する。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
溶液中で試料を計測するための前記溶液を昇温する昇温ホルダであって、
前記溶液を保持する穴部を有する溶液保持部と、
前記溶液保持部の片面に設けられ、前記穴部の底面を構成する透明部材と、
前記透明部材の前記溶液保持部が配置された側と反対側の面に設けられた電極とを備え、
前記電極に電流を流すことにより前記穴部に保持される前記溶液を昇温する
昇温ホルダ。
【請求項2】
前記昇温ホルダは、前記溶液保持部の前記透明部材が配置された側と反対側の面に、前記試料に対して相対的に走査される探針を支持する探針支持部を備え、
前記探針の先端は、前記透明部材が配置された側と反対側を向くように前記探針支持部に支持されている
請求項1に記載の昇温ホルダ。
【請求項3】
前記透明部材は、ITO(Indium Tin Oxide)膜を有する
請求項2に記載の昇温ホルダ。
【請求項4】
前記透明部材は、前記ITO膜と前記溶液保持部との間に透明の絶縁体を有する
請求項3に記載の昇温ホルダ。
【請求項5】
前記昇温ホルダは、前記溶液を供給する溶液供給部を備える
請求項1~4のいずれか1項に記載の昇温ホルダ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の昇温ホルダと、
前記試料に対して相対的に走査される探針と、
前記試料を保持する試料ホルダと、
前記試料ホルダを走査するスキャナと、
前記探針に所定の周波数の電圧を印加する発振器と、
前記所定の周波数に対応する周波数で変化する振幅信号を検出する振幅検出部と、
前記振幅信号に基づいて画像を生成する画像処理部と、
前記画像を表示する表示部とを備える
プローブ顕微鏡。
【請求項7】
前記昇温ホルダに保持されている前記溶液の温度を検出する温度センサ部と、
前記溶液の温度を所定の温度にするために前記昇温ホルダの温度を制御する温度制御部とを備える
請求項6に記載のプローブ顕微鏡。
【請求項8】
前記温度制御部は、前記溶液保持部の穴部に保持されている前記溶液の温度変化から前記溶液の蒸発量を計算し、
前記プローブ顕微鏡は、前記計算した蒸発量に基づいて、前記溶液供給部により前記溶液を前記溶液保持部の前記穴部に供給する
請求項5に従属する請求項6に記載のプローブ顕微鏡。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブ顕微鏡において、観測試料を昇温するための昇温ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
プローブ顕微鏡は、プローブ(探針)を試料に対して走査することにより、凹凸などの試料表面の物理情報または試料の化学的性質を信号として取得することができる装置である。
【0003】
プローブ顕微鏡には、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)、走査型磁気力顕微鏡(MFM)、走査型電気容量顕微鏡(SCaM)、走査型近接場光顕微鏡(SNOM)、走査型熱顕微鏡(SThM)、走査型イオン電動顕微鏡(SICM)などがある。これらの走査型プローブ顕微鏡では、プローブまたは試料を水平方向(XY方向)と垂直方向(Z方向)に走査し、得られた試料の物理情報または化学的性質を順次表示することにより、試料の物理情報または化学的性質を動的に画像として表す(例えば、特許文献1参考)。
【0004】
特許文献1に記載の走査型プローブ顕微鏡は、合成高分子の一本鎖の動態の観察が可能な高速走査型プローブ顕微鏡である。当該走査型プローブ顕微鏡では、溶液中に配置された試料の表面に探針を走査することにより観測試料の動態の観察を行っている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2012-32389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の走査型プローブ顕微鏡では、試料を昇温しながら観測を行う場合、試料または試料を浸漬する溶液を、ペルチェ素子またはヒータ等の加熱手段を用いたり赤外線を照射したりすることにより昇温していた。しかし、試料または溶液を一定の温度で均一に昇温することが難しく、試料の位置によって温度にムラが生じるという問題があった。
【0007】
上記課題に鑑み、本発明は、試料を一定の温度で安定して昇温することができる昇温ホルダおよびプローブ顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様にかかる昇温ホルダは、溶液中で試料を計測するための前記溶液を昇温する昇温ホルダであって、前記溶液を保持する穴部を有する溶液保持部と、前記溶液保持部の片面に設けられ、前記穴部の底面を構成する透明部材と、前記透明部材の前記溶液保持部が配置された側と反対側の面に設けられた電極とを備え、前記電極に電流を流すことにより前記穴部に保持される前記溶液を昇温する。
【0009】
これにより、電極に電流を流すことにより、溶液保持部の穴部に保持されている観測用の溶液を、穴部の底面側から均一に昇温することができる。したがって、溶液に浸漬される、観測対象物である試料を均一に昇温することができる。
【0010】
また、前記昇温ホルダは、前記溶液保持部の前記透明部材が配置された側と反対側の面に、前記試料に対して相対的に走査される探針を支持する探針支持部を備え、前記探針の先端は、前記透明部材が配置された側と反対側を向くように前記探針支持部に支持されていてもよい。
【0011】
これにより、探針の先端が上向きになるように指示されている場合に、探針が配置された側と反対側である探針の下側から、透明部材を透過して探針にレーザ光を照射することができる。また、探針で反射され透明部材を透過したレーザ光を検出することができる。
【0012】
また、前記透明部材は、ITO(Indium Tin Oxide)膜を有してもよい。
【0013】
これにより、ITO膜に電圧を印加して電流を流すことにより、溶液保持部の穴部に保持されている溶液を均一に昇温することができる。
【0014】
また、前記透明部材は、前記ITO膜と前記溶液保持部との間に透明の絶縁体を有してもよい。
【0015】
これにより、ITO膜に電圧を印加する場合であっても、溶液保持部に電圧が印加されることはなく、絶縁性を保つことができる。また、透明の絶縁体を透過して探針にレーザ光を照射することができる。また、探針で反射され透明の絶縁体を透過したレーザ光を検出することができる。
【0016】
また、前記昇温ホルダは、前記溶液を供給する溶液供給部を備えてもよい。
【0017】
これにより、昇温された溶液が蒸発した場合であっても、溶液供給部により溶液保持部に溶液を供給することができる。よって、蒸発した溶液を補償することができる。
【0018】
また、上記の課題を解決するため、本発明の一態様にかかるプローブ顕微鏡は、上述した特徴を有する昇温ホルダと、前記試料に対して相対的に走査される探針と、前記試料を保持する試料ホルダと、前記試料ホルダを走査するスキャナと、前記探針に所定の周波数の電圧を印加する発振器と、前記所定の周波数に対応する周波数で変化する振幅信号を検出する振幅検出部と、前記振幅信号に基づいて画像を生成する画像処理部と、前記画像を表示する表示部とを備える。
【0019】
これにより、昇温ホルダの溶液保持部の穴部に保持された溶液を昇温することにより、溶液に浸漬される試料を均一に昇温することができるので、試料を均一に昇温しながらプローブ顕微鏡により試料の表面の状態または動態を観測することができる。
【0020】
また、前記昇温ホルダに保持されている前記溶液の温度を検出する温度センサ部と、前記溶液の温度を所定の温度にするために前記昇温ホルダの温度を制御する温度制御部とを備えてもよい。
【0021】
これにより、溶液の温度を計測しながらフィードバック制御することにより、溶液を一定温度に均一に安定して昇温することができる。
【0022】
また、前記温度制御部は、前記溶液保持部の穴部に保持されている前記溶液の温度変化から前記溶液の蒸発量を計算し、前記プローブ顕微鏡は、前記計算した蒸発量に基づいて、前記溶液供給部により前記溶液を前記溶液保持部の前記穴部に供給してもよい。
【0023】
これにより、試料を浸漬する溶液を昇温しながら試料の表面の状態または動態の観測を行う場合であっても、蒸発した溶液を供給することができるので、安定した条件下で試料の観測を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、試料を一定の温度で安定して昇温することができる昇温ホルダおよびプローブ顕微鏡を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態にかかるプローブ顕微鏡の構成を示すブロック図
【図2】実施の形態にかかる昇温ホルダの構成を示す斜視図
【図3A】図2に示した昇温ホルダを+Z方向表面からみた平面図
【図3B】図2に示した昇温ホルダを-Z方向表面からみた平面図
【図3C】図2に示した昇温ホルダを+X方向表面からみた平面図
【図3D】図2に示した昇温ホルダを+Y方向表面からみた平面図
【図4】実施の形態にかかる昇温ホルダの昇温機構を説明するための概略図
【図5】実施の形態にかかる昇温ホルダにおける溶液補償を説明するための概略図
【図6】実施の形態にかかるプローブ顕微鏡を用いた観測方法を示す概略図
【図7】実施の形態にかかるプローブ顕微鏡を用いた観測例であり、(a)は溶液の温度を室温とした場合の観測像、(b)は溶液の温度を37℃とした場合の観測像、(c)は溶液の温度を43℃とした場合の観測像
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を用いて、本発明にかかる実施の形態について説明する。なお、図面において、同一の符号が付された構成要素は、同一または同種の構成要素を示す。

【0027】
また、以下で説明する実施の形態は、本発明の好ましい一具体例を示す。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より望ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。

【0028】
(実施の形態)
[プローブ顕微鏡の構成]
はじめに、本実施の形態にかかるプローブ顕微鏡1の構成について、図1を用いて説明する。図1は、本実施の形態にかかるプローブ顕微鏡1の構成を示すブロック図である。

【0029】
プローブ顕微鏡1は、観測対象物である試料20の表面状態、動態等を、所定の溶液中で所定の温度に昇温しながら観測することができる顕微鏡である。プローブ顕微鏡1は、カンチレバー10の探針10aの先端を試料に接触させて走査する接触式の顕微鏡としてもよいし、カンチレバー10の探針10aの先端が試料20に間欠的に接触する間欠接触法式でもよい、あるいはカンチレバー10の探針10aの先端から所定間隔離して走査する非接触式の顕微鏡としてもよい。

【0030】
図1に示すように、プローブ顕微鏡1は、カンチレバー10が支持された昇温ホルダ11と、試料20が保持される試料ステージ22と、試料ステージ22を三次元方向(X方向、Y方向、Z方向)に移動させるスキャナ24と、レーザユニット30と、センサ31と、振幅検出部33と、フィードバック制御部34と、コンピュータ35と、発振器36と、モニタ37と、コントローラ38とを備えている)。

【0031】
カンチレバー10は、例えば、窒化シリコンで構成されている。カンチレバー10は、探針10aと、梁部10bとを有している。探針10aは、梁部10bの一端側の片面に設けられており、先端が尖った形状に形成されている。カンチレバー10は、探針10aが形成された側と反対側の梁部10bの根元部分が、昇温ホルダ11に支持されている。すなわち、カンチレバー10の探針10aが配置された側の梁部10bは自由端となっている。このとき、探針10aが上向き、すなわち、試料20が配置される試料ステージ22側に向くように配置されている)。

【0032】
昇温ホルダ11は、後に詳述する試料観測用の溶液41を保持する溶液保持部13(図2参照)を有している。溶液41は、例えば、PBS(Phosphate buffered saline:リン酸緩衝生理食塩水)溶液である。なお、溶液41は、塩濃度を維持するために純水を用いてもよい。

【0033】
溶液保持部13には、例えば100μl程度の溶液41が保持される。カンチレバー10の先端に配置された探針10aは、溶液保持部13に保持された溶液41に浸るように溶液保持部13の内部に配置されている。なお、昇温ホルダ11の構成については、後に詳述する。

【0034】
試料ステージ22は、試料20をカンチレバー10の探針側に向けて保持するための試料ホルダである。試料ステージ22は、スキャナ24に搭載されている。試料ステージ22は、例えば、吸着機構(図示せず)を備えることにより、試料20を吸着して保持してもよい。なお、試料20は、試料ステージに接着されるとしてもよい。

【0035】
スキャナ24は、試料ステージ22をX方向、Y方向、Z方向に移動させることにより試料20を探針10aに対して相対的に走査するための走査機構である。スキャナ24は、例えば、直径が2mm、高さが2mm程度の柱状の圧電素子(ピエゾ素子)により構成されている。スキャナ24のX方向およびY方向の走査はコンピュータ35により制御され、Z方向の走査は後に詳述するフィードバック制御部34により制御される。具体的には、フィードバック制御部34からフィードバック信号(FB信号)がスキャナドライバ(図示せず)に供給され、増幅されてスキャナ24に供給される。

【0036】
レーザユニット30は、センサ31と共に光てこ式の変位センサを構成している。レーザユニット30は、カンチレバー10にレーザ光を照射するためのレーザ発光装置である。レーザユニット30から出射されたレーザ光は、のちに詳述する昇温ホルダ11の透明部材15を透過して、カンチレバー10の梁部10bの自由端近傍であって探針10aが設けられた面と反対側の面で反射する。カンチレバー10は、試料20の表面の状態または動態に合わせて振動するので、梁部10bの自由端近傍で反射したレーザ光も試料20の表面の状態または動態に合わせて反射位置および反射強度が変化することとなる。

【0037】
センサ31は、例えばフォトダイオードで構成された受光センサである。カンチレバー10において反射したレーザ光は、後に詳述する昇温ホルダ11の透明部材15を透過し、センサ31で受光される。つまり、センサ31は、カンチレバー10で反射したレーザ光を受光することにより、試料20の表面の状態または動態に対応した変位信号を検出する。

【0038】
発振器36は、カンチレバー10に設置された圧電素子に周波数fの正弦波(sin2πft)を印加するための発振器である。ここで、周波数fは、カンチレバー10の共振周波数近傍に設定され、圧電素子の振動によりカンチレバー10が周波数fで振動する。探針10aが試料に接触すると、梁部10bの変位もしくは振幅信号が変化する。この変位信号に基づいて、後述するようにスキャナ24のZ方向の移動のフィードバック制御が行われる。

【0039】
振幅検出部33は、センサ31で検出された変位信号のうち、振幅変化を検出する振幅検出部である。振幅検出部33で検出された信号は、フィードバック制御部34に供給される。

【0040】
フィードバック制御部34は、振幅が予め設定されたセットポイント(目標値)と一致し続けるように、スキャナ24をZ方向に制御する。フィードバック制御部34は、例えば、振幅からセットポイントを減算して偏差信号を生成する減算器と、偏差信号を増幅するPID回路とを有し、スキャナ24を制御するためのFB信号を生成する。FB信号は、コンピュータ35に供給される。

【0041】
コンピュータ35は、例えばパーソナルコンピュータ等で構成され、プローブ顕微鏡1の全体を制御する。また、コンピュータ35は、ユーザインターフェース機能を提供する。ユーザからの各種の指示がコンピュータ35に入力されると、コンピュータ35はユーザの入力に従ってプローブ顕微鏡1を制御する。また、コンピュータ35はコントローラ38に接続され昇温ホルダの溶液温度を設定し、記録する。上述したフィードバック制御のセットポイントも、コンピュータ35からフィードバック制御部34に供給される。また、コンピュータ35は、フィードバック制御部34を介して、FB信号に基づいてスキャナ24のX方向およびY方向の移動を制御する。さらに、コンピュータ35は、フィードバック制御部34から供給された振幅信号に基づいて試料表面の画像を生成し、画像処理部であり、生成した画像をモニタ37に出力する。

【0042】
モニタ37は、供給された信号に基づいて画像を表示する表示部であり、コンピュータ35から出力された試料の表面状態または動態に関する情報を画像として表示する。

【0043】
コントローラ38は、昇温ホルダ11に保持されている溶液の温度を所定値に調整するための温度制御部である。コントローラ38は、後述するように、電極16aおよび電極16bに接続される配線50(図4参照)と、先端が溶液保持部13の穴部13aの内部に配置され、溶液41の温度を計測する温度センサ部である熱電対52(図4参照)とを有している。

【0044】
コントローラ38は、熱電対52により溶液保持部13の穴部13aの内部に保持された溶液41の温度を計測し、計測された温度に基づいて配線50を介して電極16aおよび電極16bに電圧を印加する。これにより、溶液保持部13の内部に保持された溶液41を所定の温度に調整する。

【0045】
また、コントローラ38は、計測された温度に基づいて、蒸発した溶液41の量を計算する。そして、計算された溶液41の蒸発量に基づいて、溶液供給部40から溶液保持部13の穴部13aに溶液41を補償する。なお、溶液41の蒸発量の計算は、コンピュータ35において行ってもよい。この場合、コントローラ38は、熱電対52により計測された温度および時間をコンピュータ35に供給するとしてもよい。

【0046】
[昇温ホルダの構成]
次に、昇温ホルダ11の構成について図2~図4を用いて説明する。

【0047】
図2は、本実施の形態にかかる昇温ホルダ11の構成を示す斜視図である。図3Aは、図2に示した昇温ホルダ11を+Z方向表面からみた平面図である。図3Bは、図2に示した昇温ホルダ11を-Z方向表面からみた平面図である。図3Cは、図2に示した昇温ホルダ11を+X方向表面からみた平面図である。図3Dは、図2に示した昇温ホルダ11を+Y方向表面からみた平面図である。図4は、本実施の形態にかかる昇温ホルダ11の昇温機構を説明するための概略図である。なお、図2~図4では、カンチレバー10の図示を省略している。

【0048】
図2に示すように、昇温ホルダ11は、ホルダ本体部12と、溶液保持部13と、探針支持部14と、透明部材15と、電極16aおよび電極16bとを備えている。

【0049】
ホルダ本体部12は、溶液保持部13と、探針支持部14と、透明部材15と、電極16aおよび電極16bとを接合した、昇温ホルダ11の本体である。ホルダ本体部12は、例えば、SUS等のステンレス鋼またはアルミニウム等の金属で形成されている。なお、ホルダ本体部12の形状は、図2に示した形状に限らず、溶液保持部13と、探針支持部14と、透明部材15と、電極16aおよび電極16bを接合することができる形状であれば他の形状であってもよい。また、ホルダ本体部12を構成する材料は、上述した材料に限らず他の材料であってもよい。

【0050】
溶液保持部13は、観測試料を浸して昇温するための溶液41を保持する穴部13aが形成された保持部である。溶液保持部13は、例えば、ピーク(絶縁プラスチック樹脂)またはテフロン(登録商標)等の樹脂により構成されている。図2および図3Aに示すように、穴部13aは、溶液保持部13の中央部分において、溶液保持部13の両面を貫通するように形成されている。なお、穴部13aの底面には、図2および図3Bに示すように、後に説明する透明部材15が配置されている。穴部13aの大きさおよび形状は、試料ステージ22よりも大きく、例えば10mm×5mm程度の長方形の形状である。穴部13aは例えば、切削、エッチング等の方法で形成される。

【0051】
なお、溶液保持部13を構成する材料は、上述したものに限らず、他の材料であってもよい。また、穴部13aの大きさおよび形状は、試料ステージ22に保持された試料20が入る大きさおよび形状であればどのような大きさおよび形状であってもよい。

【0052】
探針支持部14は、探針であるカンチレバー10を支持するための支持部である。探針支持部14の下すなわち溶液保持部13と対向する面側には、圧電素子(図示せず)が配置されている。この圧電素子に電圧を印加して振動させることにより、探針支持部14を振動させることができる。カンチレバー10は、例えばバネ式クランプにより探針支持部14に固定されている。このとき、少なくともカンチレバー10の探針10aが設けられた梁部10bの先端部分が、Z方向から見たときに穴部13aの内部に配置される位置に接合されている。また、カンチレバー10は、探針10aが上向き、すなわち、図2に示す+Z方向に向くように探針支持部14に接合されている。

【0053】
なお、探針支持部14は、図2に示すように、発振器36から所定の周波数の電圧を、探針支持部14の下に設けられた圧電素子に印加するための配線17aおよび配線17bを備えていてもよい。

【0054】
透明部材15は、図3Bに示すように、ホルダ本体部12および溶液保持部13の下面、すなわち-Z方向の面に配置されている。透明部材15は、例えば、ガラス基板15aと、ガラス基板15aの片面に形成されたITO(Indium Tin Oxide)膜15bにより構成されている。透明部材15は、例えば、接着剤によりホルダ本体部12および溶液保持部13に接合されている。このとき、透明部材15は、溶液保持部13の穴部13aを塞ぐようにホルダ本体部12および溶液保持部13に接合されている。したがって、ITO膜15bは、ガラス基板15aの、ホルダ本体部12が接合された側と反対側の面に配置されている。つまり、ホルダ本体部12および溶液保持部13と導電性を有するITO膜15bとの間に、透明かつ絶縁性を有するガラス基板15aが配置されている。これにより、ホルダ本体部12および溶液保持部13を、ITO膜15bから電気的に絶縁することができる。

【0055】
なお、透明部材15は、ガラス基板15aのみで構成されていてもよいし、ITO膜のみで構成されていてもよい。また、透明部材15は、ガラス基板15a、ITO膜15b以外の透明材料で構成されていてもよい。また、ITO膜以外の高抵抗導通膜をガラスに蒸着してもよい。

【0056】
電極16aおよび電極16bは、溶液保持部13に保持された溶液41を昇温するために、透明部材15に電圧を印加するための電極である。電極16aおよび電極16bは、例えば、銅により構成されている。より具体的には、電極16aおよび電極16bは、ITO膜15bに接続されている。つまり、図3Cおよび図3Dに示すように、電極16aおよび電極16bは、ホルダ本体部12および透明部材15の下面、すなわち、-Z方向の面に配置されている。このとき、電極16aおよび電極16bは、図3Bおよび図3Dに示すように、溶液保持部13を挟むように、溶液保持部13の両側に配置されている。これにより、電極16aおよび電極16bを介してITO膜15bに電圧が印加され、少なくとも溶液保持部13が配置された位置のガラス基板15aを加熱することができる。したがって、ガラス基板15aを介して、溶液保持部13に保持された溶液41を加熱および昇温することができる。

【0057】
ここで、電極16aおよび電極16bは、図4に示すように、配線50によりコントローラ38に接続されている。また、溶液保持部13には、熱電対52が設けられている。熱電対52は、コントローラ38に接続されている。熱電対52の先端は、溶液保持部13の内部に配置されている。これにより、熱電対52により、溶液41の温度を計測することができる。計測された温度に基づいて、コントローラ38は、電極16aと電極16bとの間に所定の電圧を印加する。これにより、ITO膜15bに電流が流れ、ITO膜15bが形成されたガラス基板15aが所定の温度に昇温される。

【0058】
また、昇温ホルダ11は、上述したように、蒸発した溶液41を補償(供給)するための溶液供給部40を有している。図5は、本実施の形態にかかる昇温ホルダ11における溶液41の補償を説明するための概略図である。

【0059】
溶液供給部40は、例えばシリンジポンプであり、シリンジに収容された溶液41を押し子により溶液供給部40の先端から押し出すことにより、溶液保持部13の穴部13aに溶液41を供給する構成である。このとき、押し子の移動量を調整することにより、溶液供給部40の先端から所定量の溶液41を押し出すことができる。

【0060】
溶液供給部40は、Z方向から見たときに先端が溶液保持部13の穴部13aの内部に位置するように配置されている。これにより、図5に示すように、溶液供給部40から供給される溶液41は、溶液保持部13の穴部13aに滴下される。

【0061】
供給される溶液41の溶液量は、例えば、あらかじめ定められた溶液量であってもよいし、コントローラ38において、熱電対52で検出された温度から蒸発した溶液41の溶液量を計算することにより、決定してもよい。例えば、熱電対52で検出された温度と蒸発した溶液41の溶液量との相関データを事前に取得し、取得したデータに基づいて溶液41の供給量を決定してもよい。なお、蒸発した溶液41の溶液量の計算および供給量の決定は、コントローラ38を介してコンピュータ35により行ってもよい。

【0062】
[プローブ顕微鏡の動作]
ここで、プローブ顕微鏡1の動作について、図6を用いて説明する。図6は、本実施の形態にかかるプローブ顕微鏡1を用いた観測方法を示す概略図である。

【0063】
まず、プローブ顕微鏡1において、スキャナ24は、コンピュータ35に制御されて、試料ステージ22をX方向およびY方向に走査する。X方向およびY方向への試料ステージ22の走査中、発振器36は、周波数fの正弦波電圧を圧電素子に印加しカンチレバー10を励振する。試料20およびカンチレバー10は、相対的にX方向およびY方向に走査される。

【0064】
試料20のX方向およびY方向の走査中、センサ31は、カンチレバー10の振動の変位信号を検出し、振幅検出部33に供給する。振幅検出部33は、供給された変位信号から振幅成分を検出してフィードバック制御部34に供給する。フィードバック制御部34は、検出された振幅がセットポイントと一致するように、スキャナ24のZ方向の移動についてフィードバック制御を行う。

【0065】
スキャナ24のZ方向のフィードバック制御では、フィードバック制御部34は、振幅とセットポイントとの差に応じたフィードバック信号を生成し、スキャナ24に供給する。スキャナ24は、供給されたフィードバック信号に従ってZ方向に動作する。ここで、振幅は、カンチレバー10と試料20との間の距離に応じて変化する。したがって、フィードバック制御により、カンチレバー10と試料20の距離は、一定に保たれる。

【0066】
また、試料20のX方向およびY方向の走査中、コントローラ38から配線50と電極16aおよび電極16bとを介して昇温ホルダ11の透明部材15に電圧が印加される。具体的には、電極16aおよび電極16bからITO膜15bに電圧が印加される。これにより、ITO膜15bが形成されたガラス基板15a全体が均一に加熱される。よって、昇温ホルダ11に設けられた溶液保持部13の内部に配置された溶液41は、所定の温度に昇温される。また、試料20の走査中も熱電対52により溶液41の温度を計測しフィードバック制御を行うことで、試料20の走査中に、溶液41を一定の温度に均一に安定して昇温することができる。これにより、走査中の試料20の温度も、一定の温度に安定して昇温することができる。

【0067】
また、コントローラ38は、試料20のX方向およびY方向の走査中、熱電対52により計測された溶液41の温度に基づいて、溶液41の蒸発量を計算する。そして、計算された溶液41の蒸発量に基づいて、溶液供給部40から新たに溶液41が供給される。これにより、溶液保持部13に保持された溶液41の溶液量を試料20の観測中に気にする必要がなく、安定した条件下で試料20の表面の状態または動態の観測を続けることができる。なお、コントローラ38は、熱電対52により計測された溶液41の温度に基づいて、溶液41の蒸発量を計算することに限らず、溶液41の蒸発速度を計算してもよい。また、溶液41の蒸発速度から、さらに溶液41の蒸発量を計算してもよい。

【0068】
このように、プローブ顕微鏡1では、溶液41の温度を一定に均一に昇温しながら、カンチレバー10と試料20とをX方向およびY方向へ相対的に走査することができる。

【0069】
また、フィードバック信号は、コンピュータ35にも供給される。フィードバック信号は、スキャナ24をZ方向に駆動する信号であり、試料20のZ方向の高さに対応している。また、試料20におけるX方向およびY方向の位置は、コンピュータ35により制御されている。コンピュータ35は、X方向およびY方向への走査の制御データと、入力されるフィードバック信号とに基づいて、試料20の表面の状態または動態に関する画像を生成してモニタ37に表示する。これにより、試料20の表面の状態または動態に関する三次元画像が好適に生成され、表示される。

【0070】
[プローブ顕微鏡による計測例]
以下、プローブ顕微鏡1を用いた計測例について、図7を用いて説明する。

【0071】
本観測例では、観測用の試料20として、DPPC脂質二重膜を用いた。DPPC脂質二重膜は、固相から液相への相転移温度が41℃程度である。本観測例では、室温(25℃)、37℃および43℃の溶液41中で、DPPC脂質二重膜の表面状態の変化を観測した。

【0072】
図7は、本実施の形態にかかるプローブ顕微鏡1を用いた観測例であり、(a)は溶液41の温度を室温(25℃)とした場合の観測像、(b)は溶液41の温度を37℃とした場合の観測像、(c)は溶液41の温度を43℃とした場合の観測像である。なお、図7の(a)、(b)および(c)は、それぞれDPPC脂質二重膜において異なる部分の表面状態を観測している。

【0073】
図7の(a)に示すように、室温(25℃)の溶液41中にDPPC脂質二重膜を配置し、配置後0秒、4秒、8秒、11.5秒後の試料表面の計測を行った結果、表面状態の変化は見られなかった。すなわち、室温では、DPPC脂質二重膜は固相状態のままであり、表面状態は変化していないといえる。

【0074】
また、図7の(b)に示すように、37℃の溶液41中にDPPC脂質二重膜を配置し、配置後0秒、4秒、8秒、12秒後の試料表面の計測を行った結果も同様であり、表面状態の変化は見られなかった。すなわち、相転移温度以下の37℃では、DPPC脂質二重膜は固相状態のままであり、表面状態は変化していないといえる。

【0075】
また、図7の(c)に示すように、43℃の溶液41中にDPPC脂質二重膜を配置し、配置後0秒、4秒、8秒、12秒後の試料表面の計測を行った結果、表面状態は時間が経過するにつれて変化している。すなわち、相転移温度以上の43℃では、DPPC脂質二重膜は時間の経過とともに固相状態から液相状態に変化しており、表面状態が柔らかく変化しているといえる。また、観測像全体について筋状の変化が表れており、試料全体が均一に昇温され、変化していることがわかる。

【0076】
このように、本実施の形態にかかるプローブ顕微鏡1を用いると、溶液41を介して試料20に温度を印加することができるので、温度変化により変化を伴う材料の観測を行うことができる。また、プローブ顕微鏡1によると、試料全体を均一に昇温することができるといえる。

【0077】
[効果等]
以上、本実施の形態にかかる昇温ホルダによると、電極に電流を流すことにより、溶液保持部の穴部に保持されている観測用の溶液を、穴部の底面側から均一に昇温することができる。したがって、溶液に浸漬される、観測対象物である試料を均一に昇温することができる。

【0078】
(その他の実施の形態)
以上、本発明にかかる昇温ホルダおよびプローブ顕微鏡について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではない。実施の形態に対して当業者が思いつく変形を施して得られる形態、および、複数の実施の形態における構成要素を任意に組み合わせて実現される別の形態も本発明に含まれる。

【0079】
例えば、上述した実施の形態では、透明部材として、片面にITO膜を形成したガラス基板を用いたが、透明部材の構成はこれに限らない。例えば、ガラス基板に代えて透明樹脂基板を用いてもよいし、他の構成であってもよい。

【0080】
また、上述した実施の形態では、探針としてカンチレバーを備えたプローブ顕微鏡について説明をしたが、探針はカンチレバーに限らず他の構成の探針であってもよい。また、探針以外の手段により試料の表面を走査してもよい。

【0081】
また、上述した実施の形態に示したように、昇温ホルダは、溶液供給部を備える構成であってもよいし備えない構成であってもよい。また、プローブ顕微鏡は、熱電対を備える構成であってもよいし備えない構成であってもよい。

【0082】
また、上述した実施の形態では、コントローラにより溶液の蒸発量の計算を行っていたが、溶液の蒸発量の計算はコンピュータにより行ってもよい。この場合、コントローラは、熱電対により計測された温度および時間をコンピュータに供給するとしてもよい。また、コントローラおよびコンピュータは、溶液の蒸発量の計算に限らず、溶液の蒸発速度の計算を行ってもよい。また、コントローラおよびコンピュータは、計算された溶液の蒸発速度からさらに蒸発量の計算を行ってもよい。

【0083】
また、溶液の供給量は、上述した蒸発量または蒸発速度から決定してもよいし、定められた供給量であってもよいし、あらかじめ計測した蒸発量または蒸発速度のデータから決定してもよい。

【0084】
また、プローブ顕微鏡の構成は、上記したものに限らず、プローブ顕微鏡の種類に応じて適宜変更してもよい。例えば、カンチレバーおよび試料ステージに、フィードバック制御のための超音波を印加してもよいし、印加しなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明にかかる昇温ホルダは、温度変化をさせながら試料表面の物理情報または試料の化学的性質を観測するプローブ顕微鏡、プローブ走査装置に有用である。
【符号の説明】
【0086】
1 プローブ顕微鏡
10 カンチレバー(探針)
10a 探針
10b 梁部
11 昇温ホルダ
12 ホルダ本体部
13 溶液保持部
13a 穴部
14 探針支持部
15 透明部材
15a ガラス基板(透明部材)
15b ITO膜(透明部材)
16a、16b 電極
17a、17b 配線
20 試料
22 試料ステージ(試料ホルダ)
24 スキャナ
30 レーザユニット
31 センサ
33 振幅検出部
34 フィードバック制御部
35 コンピュータ(画像処理部)
36 発振器
37 モニタ(表示部)
38 コントローラ(温度制御部)
40 溶液供給部
41 溶液
50 配線
52 熱電対(温度センサ部)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3A】
2
【図3B】
3
【図3C】
4
【図3D】
5
【図4】
6
【図5】
7
【図6】
8
【図7】
9