TOP > 国内特許検索 > ソラフェニブ応答性予測のための方法 > 明細書

明細書 :ソラフェニブ応答性予測のための方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-096719 (P2018-096719A)
公開日 平成30年6月21日(2018.6.21)
発明の名称または考案の名称 ソラフェニブ応答性予測のための方法
国際特許分類 G01N  33/68        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI G01N 33/68
G01N 33/53 P
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2016-238838 (P2016-238838)
出願日 平成28年12月8日(2016.12.8)
発明者または考案者 【氏名】金子 周一
【氏名】本多 政夫
【氏名】山下 太郎
出願人 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100171505、【弁理士】、【氏名又は名称】内藤 由美
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
Fターム 2G045AA26
2G045CA26
2G045DA78
要約 【課題】進行性肝細胞がん(hepatocellular carcinoma, HCC)患者のソラフェニブ治療に対する応答性を予測するための方法を提供する。
【解決手段】進行性HCC患者から採取した末梢血を用いて、IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aから選択される1種以上のサイトカインの血中濃度を測定し、上記測定された血中濃度を上記サイトカインそれぞれの既定のカットオフ値と比較し、そして1種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値を超える場合に該患者がソラフェニブ応答性である可能性を示し、カットオフ値以下である場合に非応答性である可能性を示す結果を提供することを含む方法が提供される。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
進行性肝細胞がん(hepatocellular carcinoma, HCC)患者のソラフェニブ治療に対する応答性を予測するための検査方法であって、
該患者から採取した末梢血を用いて、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン8(IL-8)、ケモカイン(C-X-C)モチーフリガンド9(CXCL9)、血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor, PDGF)-BB、トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor, TGF)-α、及び血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)-Aから選択される1種以上のサイトカインの血中濃度を測定し、そして
上記測定された血中濃度を上記サイトカインそれぞれの既定のカットオフ値と比較し、そして
1種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値を超える場合に該患者がソラフェニブ応答性である可能性を示し、カットオフ値以下である場合に非応答性である可能性を示す結果を提供する
ことを含む、上記方法。
【請求項2】
サイトカインがIL-5であり、カットオフ値が12pg/mlである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
サイトカインがIL-8であり、カットオフ値が10pg/mlである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
サイトカインがCXCL9であり、カットオフ値が100pg/mlである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
サイトカインがPDGF-BBであり、カットオフ値が300pg/mlである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
サイトカインがTGF-αであり、カットオフ値が20pg/mlである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
サイトカインがVEGF-Aであり、カットオフ値が50pg/mlである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
IL-5、IL-8、PDGF-BB、及びVEGF-Aの血中濃度を測定し、これら4種のサイトカイン濃度がいずれもカットオフ値を超える場合に上記患者がソラフェニブ応答性である可能性を示す結果を提供する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aの血中濃度を測定し、これら6種のサイトカイン濃度がいずれもカットオフ値を超える場合に上記患者がソラフェニブ応答性である可能性を示す結果を提供する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
IL-5、IL-8、及びVEGF-Aの血中濃度を測定し、これら3種のサイトカイン濃度がいずれもカットオフ値以下である場合に上記患者がソラフェニブ非応答性である可能性を示す結果を提供する、請求項1記載の方法。
【請求項11】
進行性肝細胞がん患者のソラフェニブ治療に対する応答性を予測するための検査システムであって、
該患者から採取した末梢血を用いて、IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aから選択される1種以上のサイトカインの血中濃度を測定するための手段と、
上記測定された血中濃度を上記サイトカインそれぞれの既定のカットオフ値と比較するための手段と、
1種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値を超える場合に該患者がソラフェニブ応答性である可能性を示し、カットオフ値以下である場合に非応答性である可能性を示す結果を提供するための手段と
を含む、上記システム。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項記載の方法に使用するためのキットであって、IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α及びVEGF-Aから選択される1種以上のサイトカインに特異的に結合し得る抗体を含む、上記キット。
【請求項13】
IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aのそれぞれに特異的に結合し得る抗体を含む、請求項12記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、進行性肝細胞がん(hepatocellular carcinoma, HCC)患者のソラフェニブ治療に対する応答性を予測するための検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞がんは、世界的に見て5番目に多いがんであり、がんによる死亡で2番目に多い原因疾患である。本邦では年間約3万人が肝がんで亡くなっている。
【0003】
進行性肝細胞がんの治療としては、殺細胞性抗がん剤(5-FUやシスプラチン)を肝動脈から注入する動注化学療法(hepatic arterial infusion chemotherapy, HAIC)と、受容体チロシンキナーゼ阻害剤であり主に血管内皮細胞などの間質細胞に作用するソラフェニブの経口投与が行われている。
【0004】
ソラフェニブは、進行性HCC患者の生存期間を平均して約3カ月長くし得ることが報告されているマルチキナーゼ阻害剤である(非特許文献1)。しかしながら、固形がんの治療効果判定のためのRECISTガイドラインにおける評価基準に従って判定すると、ソラフェニブに対する応答率は一般的に5%未満である。一方、日本では5-フルオロウラシル及びシスプラチンを用いるHAICが進行性HCC患者の治療に広く用いられており、その応答率は20~30%である。
【0005】
近年、抗がん剤及び分子標的治療に対する応答において、腫瘍内の微小環境が極めて重要であることが報告されてきている。ソラフェニブは内皮細胞に発現する血管内皮増殖因子受容体2(VEGFR2)を標的とすると考えられており、そのためVEGFシグナル伝達の活性化はソラフェニブ治療に対する腫瘍応答と相関する可能性がある。実際に、VEGFAの増幅を有するHCCにおいて、ソラフェニブに対して良好な応答が示されたとの研究がある(非特許文献2)。更に、ソラフェニブに応答した進行性HCCにおけるゲノム変化を評価した研究から、HCC微小環境における線維芽細胞増殖因子(FGF)のシグナル伝達の活性化をもたらし得るFGF3/4の増幅が示されている(非特許文献3)。しかしながら、サイトカインが進行性HCCの臨床応答に影響し得る腫瘍の微小環境の状態を反映するか否かは不明であった(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】N England J Med 2008, 359: 378-390
【非特許文献2】Cancer Discov 2014, 4: 730-743
【非特許文献3】Hepatology 2013 Apr, 57(4): 1407-15
【非特許文献4】Clin Cancer Res 2012, 18: 2290-2300
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ソラフェニブ及びHAICによる治療は、その作用機序が異なるため、患者によってその有効性は異なると考えられている。従って、これらの治療による効果を予測し得るバイオマーカーの開発が求められているが、進行性HCC患者におけるソラフェニブ又はHAICに対する臨床応答又は全生存を予測できる有効なバイオマーカーが得られたという報告はこれまでなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、進行性HCC患者143例の治療前血清を用いて、サイトカイン20種の血中濃度を測定し、患者の予後との関連を解析した。その結果、6種のサイトカイン(IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-A)について適切なカットオフ値を用いることで、ソラフェニブ治療で延命効果が得られるか否かを予測できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
1. 進行性肝細胞がん(hepatocellular carcinoma, HCC)患者のソラフェニブ治療に対する応答性を予測するための検査方法であって、
該患者から採取した末梢血を用いて、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン8(IL-8)、ケモカイン(C-X-C)モチーフリガンド9(CXCL9)、血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor, PDGF)-BB)、トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor, TGF)-α、及び血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)-Aから選択される1種以上のサイトカインの血中濃度を測定し、そして
上記測定された血中濃度を上記サイトカインそれぞれの既定のカットオフ値と比較し、そして
1種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値を超える場合に該患者がソラフェニブ応答性である可能性を示し、カットオフ値以下である場合に非応答性である可能性を示す結果を提供する
ことを含む、上記方法。
2. サイトカインがIL-5であり、カットオフ値が12pg/mlである、上記1記載の方法。
3. サイトカインがIL-8であり、カットオフ値が10pg/mlである、上記1記載の方法。
4. サイトカインがCXCL9であり、カットオフ値が100pg/mlである、上記1記載の方法。
5. サイトカインがPDGF-BBであり、カットオフ値が300pg/mlである、上記1記載の方法。
6. サイトカインがTGF-αであり、カットオフ値が20pg/mlである、上記1記載の方法。
7. サイトカインがVEGF-Aであり、カットオフ値が50pg/mlである、上記1記載の方法。
8. IL-5、IL-8、PDGF-BB、及びVEGF-Aの血中濃度を測定し、これら4種のサイトカイン濃度がいずれもカットオフ値を超える場合に上記患者がソラフェニブ応答性である可能性を示す結果を提供する、上記1記載の方法。
9. IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aの血中濃度を測定し、これら6種のサイトカイン濃度がいずれもカットオフ値を超える場合に上記患者がソラフェニブ応答性である可能性を示す結果を提供する、上記1記載の方法。
10. IL-5、IL-8、及びVEGF-Aの血中濃度を測定し、これら3種のサイトカイン濃度がいずれもカットオフ値以下である場合に上記患者がソラフェニブ非応答性である可能性を示す結果を提供する、上記1記載の方法。
11. 進行性肝細胞がん患者のソラフェニブ治療に対する応答性を予測するための検査システムであって、
該患者から採取した末梢血を用いて、IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aから選択される1種以上のサイトカインの血中濃度を測定するための手段と、
上記測定された血中濃度を上記サイトカインそれぞれの既定のカットオフ値と比較するための手段と、
1種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値を超える場合に該患者がソラフェニブ応答性である可能性を示し、カットオフ値以下である場合に非応答性である可能性を示す結果を提供するための手段と
を含む、上記システム。
12. 上記1~10のいずれか記載の方法に使用するためのキットであって、IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α及びVEGF-Aから選択される1種以上のサイトカインに特異的に結合し得る抗体を含む、上記キット。
13. IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aのそれぞれに特異的に結合し得る抗体を含む、上記12記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明において特定されたサイトカインの血中濃度が上昇している患者では、ソラフェニブ治療による延命効果が期待でき、一方サイトカインの血中濃度が上昇していない患者ではソラフェニブ治療による延命効果が期待できず、むしろ動注化学療法により延命効果が期待できることが予測される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ソラフェニブ投与患者群におけるカプラン-マイヤー生存分析の結果を選択されたサイトカインの血中濃度との関連で示す。A:IL-5(カットオフ値12pg/ml)、B:IL-8(カットオフ値10pg/ml)、C:CXCL9(カットオフ値100pg/ml)、D:PDGF-BB(カットオフ値300pg/ml)、E:TGF-α(カットオフ値20pg/ml)、F:VEGF-A(カットオフ値50pg/ml)。
【図2】HAIC治療患者群におけるカプラン-マイヤー生存分析の結果を選択されたサイトカインの血中濃度との関連で示す。A:IL-5(カットオフ値12pg/ml)、B:IL-8(カットオフ値10pg/ml)、C:CXCL9(カットオフ値100pg/ml)、D:PDGF-BB(カットオフ値300pg/ml)、E:TGF-α(カットオフ値20pg/ml)、F:VEGF-A(カットオフ値50pg/ml)。
【図3】6種のサイトカインの発現プロファイル及びHCC予後を示す。6種のサイトカイン発現の階層的クラスタリング分析結果を示す。A:ソラフェニブ投与患者群を治療前にサイトカイン濃度がカットオフ値より高かった群及びカットオフ値以下の群に分け、6種のサイトカイン発現の階層的クラスタリング分析を行った結果を示す。B:HAIC治療患者群を治療前にサイトカイン濃度がカットオフ値より高かった群及びカットオフ値以下の群に分け、6種のサイトカイン発現の階層的クラスタリング分析を行った結果を示す。C:ソラフェニブ投与患者群ではサイトカイン濃度の高い群で生存期間が有意に長いことを示す。D:HAIC治療患者群ではサイトカイン濃度と関連した生存期間の差は見られないことを示す。
【図4】ソラフェニブ応答性が1種以上のサイトカインの血中濃度との関連で示唆されることをカプラン-マイヤー生存分析の結果で示す。A:6種のサイトカイン濃度がカットオフ値より高かった患者群及びカットオフ値以下のサイトカインがあった患者群に分けた結果を示す。B:5種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値より高かった患者群及びそれ以外の患者群に分けた結果を示す。C:4種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値より高かった患者群及びそれ以外の患者群に分けた結果を示す。D:3種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値より高かった患者群及びそれ以外の患者群に分けた結果を示す。E:2種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値より高かった患者群及びそれ以外の患者群に分けた結果を示す。F:1種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値より高かった患者群及び6種のサイトカイン濃度がカットオフ値以下であった患者群に分けた結果を示す。
【図5】IL-8及びPDGF-BBを用いた結果について作成したROC曲線を示す。
【図6】VEGF-A(A)、IL-8(B)及びIL-5(C)の血中濃度が低い患者に対してソラフェニブ投与又はHAIC治療を行った場合の生存期間を示すカプラン-マイヤー生存分析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、進行性肝細胞がん(HCC)患者のソラフェニブ治療に対する応答性を予測するための検査方法を提供する。本発明は、進行性HCC患者に対する治療を医師が選択する場合に有用な情報を提供するものである。

【0013】
本発明の方法の適用対象である患者は、超音波、CT、MRI等の画像検査、α-フェトプロテイン(AFP)等の腫瘍マーカーの数値、生検等の検査結果を総合して進行性HCCであると診断された患者である。特に、画像的にUICC-TNMステージでIIIB以上の場合、進行性と診断される。進行性HCCであると診断された場合、その治療として、外科療法、放射線療法、化学療法のいずれか、またはこれらの組み合わせが選択される。化学療法としては、一般的な抗がん剤、例えば5-フルオロウラシルやシスプラチンによるHAIC、及びソラフェニブ投与が選択される場合がある。

【0014】
ソラフェニブ(Sorafenib)は、下記の一般式を有する化合物であり、トシル酸塩として製剤化されている。応答率は低いものの、応答性を有する場合には腫瘍の進行を阻止し、生存期間を延長することが知られている。

【0015】
【化1】
JP2018096719A_000003t.gif

【0016】
本発明の方法では、具体的には、まず、患者から採取した末梢血を用いて、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン8(IL-8)、ケモカイン(C-X-C)モチーフリガンド9(CXCL9)、血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor, PDGF)-BB、トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor, TGF)-α、及び血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)-Aから選択される1種以上のサイトカインの血中濃度を測定する。測定するサイトカインは、上記のサイトカインから選択される1種であっても良く、また、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、あるいは6種全てであっても良い。

【0017】
患者から採取した末梢血は、採取後直ちにサイトカイン濃度の測定に用いても良いが、ヘパリン等を用いた抗凝固処理を行った後、例えば-20℃で測定まで保存することができる。血中濃度の測定のためには、末梢血から赤血球や血小板等を除去した後の血清を用いることが好適である。

【0018】
IL-5は、液性免疫を制御するTh2サイトカインとして知られる115個のアミノ酸からなるタンパク質である。IL-5のアミノ酸配列は、UniProtKB/Swiss-Prot: P05113.1として登録されている。

【0019】
IL-8は、ケモカイン(C-X-C)モチーフリガンド8とも称される、マクロファージや血管内皮細胞等が産生するケモカインであり、複数のアイソフォームが知られているが、主要な形態は72個のアミノ酸からなるタンパク質である。IL-8のアミノ酸配列は、UniProtKB/Swiss-Prot:P10145.1として登録されている。

【0020】
CXCL9は、インターフェロンγによって誘導されるモノカインとしても知られるCXCケモカインファミリーに属する103個のアミノ酸からなるタンパク質である。CXCL9のアミノ酸配列は、UniProtKB/Swiss-Prot: Q07325.1として登録されている。

【0021】
PDGF-BBは、血小板の他、内皮細胞等が産生するPDGF-Bのホモ二量体である。PDGF-Bは241個のアミノ酸からなるタンパク質であり、そのアミノ酸配列は、NCBI Reference Sequence: NP_002599.1として登録されている。

【0022】
TGF-αは、マクロファージ等の細胞が産生する増殖因子である。TGF-αのアミノ酸配列は、160個のアミノ酸からなる前駆体として、UniProtKB/Swiss-Prot: P01135.1として登録されている。

【0023】
VEGF-Aは、血管新生等に関与するVEGFファミリーに属する増殖因子である。VEGF-Aのアミノ酸配列は、例えばNCBI Reference Sequence: NP_001273973.1として登録されている。

【0024】
サイトカインの血中濃度は、当分野で通常実施されている方法を用いれば良く、特に限定するものではないが、例えばサイトカインに対する抗体と、検出のための蛍光標識二次抗体等を用いた結合アッセイ(イムノアッセイ)を用いて定量的に測定することができる。当業者であれば、例えば抗体に結合したサイトカインを磁気ビーズを用いて回収する方法や、二次抗体に結合したペルオキシダーゼ等の酵素による反応で別に添加した基質の発色を検出する方法等の当分野で一般的な手法を利用して、適切な測定方法を設計することができる。あるいはまた、様々なサイトカインを検出するための試薬がキットとして市販されているため、そのようなキットを利用しても良い。

【0025】
本発明の方法では、次いで、上記のサイトカインの血中濃度の測定の結果を上記サイトカインそれぞれの既定のカットオフ値と比較する。

【0026】
カットオフ値は、ソラフェニブ投与による治療を行った多数の進行性HCC患者の生存期間を記録し、長期生存患者と長期生存ができなかった患者の境界値として決定される。従って、患者集団によって若干の変動があり得ることは当業者には理解されるものであり、必ずしも特定の値に限定されるものではない。しかしながら、対象の患者のソラフェニブ応答性を予測するために、上記のサイトカインのそれぞれに対してカットオフ値を予め取得しておくことが必要である。

【0027】
本発明者等の行った患者集団での測定結果に基づけば、測定するサイトカインがIL-5である場合、カットオフ値は例えば12pg/mlである。
測定するサイトカインがIL-8である場合、カットオフ値は例えば10pg/mlである。
測定するサイトカインがCXCL9である場合、カットオフ値は例えば100pg/mlである。
測定するサイトカインがPDGF-BBである場合、カットオフ値は例えば300pg/mlである。
測定するサイトカインがTGF-αである場合、カットオフ値は例えば20pg/mlである。
測定するサイトカインがVEGF-Aである場合、カットオフ値は例えば50pg/mlである。

【0028】
本発明の方法では、次に、上記の1種以上のサイトカイン濃度がそのカットオフ値を超える場合に該患者がソラフェニブ応答性である可能性を示し、カットオフ値以下である場合に非応答性である可能性を示す結果が提供される。ここで、「ソラフェニブ応答性」とは、ソラフェニブによる治療によって生存期間が延長され得ることを意図し、「ソラフェニブ非応答性」とは、ソラフェニブによる治療によって生存期間が延長される可能性が低いことを意図する。

【0029】
より明確には、ある患者において、上記の1種以上、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、又は6種のサイトカインの血中濃度がそのカットオフ値を超える場合に、該患者はソラフェニブ応答性である可能性が示される。逆に言えば、6種全てのサイトカインの血中濃度がそのカットオフ値以下である場合、ソラフェニブ非応答性である可能性が示される。

【0030】
一実施形態において、本発明の方法は、IL-5、IL-8、PDGF-BB、及びVEGF-Aの血中濃度を測定し、これら4種のサイトカイン濃度がいずれもカットオフ値を超える場合に上記患者がソラフェニブ応答性である可能性を示す結果を提供するものである。

【0031】
別の実施形態において、本発明の方法は、IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aの血中濃度を測定し、これら6種のサイトカイン濃度がいずれもカットオフ値を超える場合に上記患者がソラフェニブ応答性である可能性を示す結果を提供するものである。

【0032】
更に別の実施形態において、本発明の方法は、IL-5、IL-8、及びVEGF-Aの血中濃度を測定し、これら3種のサイトカイン濃度がいずれもカットオフ値以下である場合に上記患者がソラフェニブ非応答性である可能性を示す結果を提供するものである。

【0033】
本発明の方法を実施して、対象の患者がソラフェニブ応答性である可能性が示された場合、医師の判断により、ソラフェニブによる治療を行うことができる。一方、対象の患者がソラフェニブ非応答性である可能性が示された場合、医師の判断により、ソラフェニブによる治療を選択せず、他の治療、例えばHAICを実施することができる。

【0034】
本発明の方法は、個々のステップを別個に行い、サイトカインの血中濃度の測定及びカットオフ値との比較を医師又は医師の依頼を受けた技術者が行うことができる。あるいはまた、血中濃度の測定及びカットオフ値との比較は、血中濃度の測定のための適切な装置及びカットオフ値との比較のためのシステムを構築して、半自動化又は自動化することもできる。この場合、カットオフ値との比較に基づいて、対象となる患者がソラフェニブ応答性であるか非応答性であるかの可能性は、例えば装置内のディスプレイに表示されるものであっても、検査結果が出力されるものであっても良い。

【0035】
従って、本発明はまた、進行性肝細胞がん患者のソラフェニブ治療に対する応答性を予測するための検査システムであって、
該患者から採取した末梢血を用いて、IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aから選択される1種以上のサイトカインの血中濃度を測定するための手段と、
上記測定された血中濃度を上記サイトカインそれぞれの既定のカットオフ値と比較するための手段と、
1種以上のサイトカイン濃度がカットオフ値を超える場合に該患者がソラフェニブ応答性である可能性を示し、カットオフ値以下である場合に非応答性である可能性を示す結果を提供するための手段と
を含む、上記システムを提供する。

【0036】
本発明は更に、上記の本発明の方法に使用するためのキットであって、IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α及びVEGF-Aから選択される1種以上のサイトカインに特異的に結合し得る抗体を含む、上記キットを提供する。

【0037】
サイトカインに特異的に結合し得る抗体は、当分野で通常実施されているように、サイトカインを抗原としてin vivoで作製することができる。抗体は、ポリクローナル抗体であっても良いが、好ましくはモノクローナル抗体である。

【0038】
あるいはまた、例えば実施例で用いたように、Bio-Rad Laboratories, Inc.等の複数の供給業者から、特定の抗原に対して特異的に結合し得る抗体が市販されているものを適宜使用することができる。

【0039】
キットはまた、サイトカインの血中濃度の定量的測定のために必要な二次抗体、三次抗体、蛍光標識、酵素標識等の標識、酵素反応のための基質、イムノアッセイのためのバッファー、希釈剤、反応容器等を必要に応じて含むことができる。

【0040】
キットは、本発明において特定されたサイトカインのいずれかの血中濃度を測定し得るものであれば良いが、複数のサイトカインを同時に測定することを目的とするものであっても良い。一実施形態において、キットは、IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aのそれぞれに特異的に結合し得る抗体を含む。
【実施例】
【0041】
[実施例1 ソラフェニブ治療患者群及びHAIC患者群におけるサイトカイン血中濃度の測定]
インターフェロン、並びに肝動注化学療法(HAIC)により5-フルオロウラシル(300mg/m2、1-5日目及び8-12日目)を単独で、又はシスプラチン(20mg/m2、1日目及び8日目)と組み合わせて投与された104名の患者(コホート1)、及びソラフェニブ(400mg、1日2回)を投与された39名の患者(コホート2)からなる、合計143名の進行性HCC患者を本研究の対象とした。
2つのコホートの患者の治療前のプロファイルを表1に示す。
【実施例】
【0042】
【表1】
JP2018096719A_000004t.gif
【実施例】
【0043】
コホート1及びコホート2の患者群は、年齢、性別、AFP、AFP-L3及びDCPに関してほぼ同様の特徴を有していた。
【実施例】
【0044】
コホート1及びコホート2のHCC患者に対して、上記の治療をそれぞれ実施したが、完全治癒は困難であり、平均生存期間はそれぞれ12.0及び12.4カ月であった。カプラン-マイヤー(Kaplan-Meier)生存分析の結果、コホート間で有意な差は認められなかった(Log-rank検定、P=0.65、データは示さない)。
【実施例】
【0045】
次に、双方のコホートで治療前に採取した患者血清を用いて、以下の合計20種のサイトカイン:上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(塩基性)、肝細胞増殖因子(HGF)、インターフェロン(IFN)-γ、IL-10、IL-12、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、CXCL9、CXCL10、PDGF-BB、幹細胞因子(SCF)、ストローマ細胞由来因子1(SDF1)、TGF-α、TGF-β、TNF-α、及びVEGF-Aを、マルチプレックスバイオメトリック酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)-ベースのイムノアッセイ(Bio-Plex、Bio-Rad Laboratories, Inc. Hercules, CA)により、使用説明書に従って測定した。血清α-フェトタンパク質(AFP)、レクチン反応性AFP(AFP-L3)及びデス-γ-カルボキシプロトロンビン(DCP)は、市販のアッセイを使用して従来の方法で測定した。
【実施例】
【0046】
また、ソラフェニブ治療は臨床応答での評価が困難であるため、ソラフェニブ治療患者群(コホート2)のHCC患者を長期生存患者(2年超の生存)及び長期生存できなかった患者(2年以下の生存)の2つの群に分類し、それぞれの群におけるサイトカイン濃度を検討した。
【実施例】
【0047】
その結果、表2に示すように、6種のサイトカイン:IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aにおいて、長期生存患者群でサイトカイン濃度の上昇が確認された。
【実施例】
【0048】
【表2】
JP2018096719A_000005t.gif
【実施例】
【0049】
一方、HAICを受けた患者群(コホート1)は、治療に対する腫瘍応答によって、「完全奏効/部分奏効(CR/PR)」群と「安定/進行(SD/PD)」群に分類し、それぞれの群におけるサイトカイン濃度を検討した。腫瘍応答の評価は、modified RECISTガイドラインに従って、ダイナミックCT検査によって行った。
【実施例】
【0050】
その結果、表3に示すように、6種のサイトカイン:IL-5、IL-8、CXCL9、PDGF-BB、TGF-α、及びVEGF-Aの血中濃度は、コホート2とは異なる傾向を有していた。
【実施例】
【0051】
【表3】
JP2018096719A_000006t.gif
【実施例】
【0052】
[実施例2 6種のサイトカインの血中濃度と生存期間との相関性]
実施例1で特定された6種のサイトカインのカットオフ値を、長期生存患者及び長期生存できなかった患者での血清レベルの分布の相違(表2)に基づいて以下のように設定した:IL-5(12pg/ml)、IL-8(10pg/ml)、CXCL9(100pg/ml)、PDGF-BB(300pg/ml)、VEGF-A(50ng/ml)、及びTGF-α(20ng/ml)。
【実施例】
【0053】
カプラン-マイヤー生存分析から、IL-5、IL-8、PDGF-BB、VEGF-A、CXCL9及びTGF-αでは、これらのサイトカインの血中濃度が上記のカットオフ値よりも高い患者が、ソラフェニブで治療した場合に生存がより長期であることが示された(図1A~F)。対照的に、同じカットオフ値を用いて検討した場合、HAICを受けた患者では血中濃度と生存期間に相関性は見出されなかった(図2A~F)。
【実施例】
【0054】
次いで、上記の6種のサイトカインを用い、Genesisソフトウェアによる階層的クラスタリング分析によってHCC患者を分類した。具体的には、サイトカインのプロファイルによって、HCC患者を2つの群(「サイトカイン上昇あり」及び「サイトカイン上昇なし」)に分けた(図3A及び3B)。
【実施例】
【0055】
「サイトカイン上昇あり」及び「サイトカイン上昇なし」の2群について、カプラン-マイヤー生存分析を行ったところ、コホート2では、サイトカイン上昇のあった患者では、サイトカイン上昇のなかった患者と比較してより長期の生存が示された(図3C)。対照的に、コホート1では、サイトカイン上昇のあった患者とサイトカイン上昇のなかった患者とで生存期間はほぼ同様であった(図3D)。
【実施例】
【0056】
これらのデータから、特定されたサイトカインの評価が、ソラフェニブ治療を受けた場合の進行性HCC患者における応答を予測するために有用であり得ることが示唆された。
【実施例】
【0057】
[実施例3 判別分析]
6種のサイトカインのうち、PDGF-BBおよびIL-8を用いて判別分析を行ったところ、ソラフェニブにより2年以上生存延長が期待される群を判別できることが示された(Dr.SPSSを用いて解析)。この指標を用いたAUROCは0.84であり、良好にソラフェニブによる生存期間延長を予測できる可能性が示唆された(Prismを用いて解析)。結果を表4及び図5に示す。
【実施例】
【0058】
【表4】
JP2018096719A_000007t.gif
【実施例】
【0059】
[実施例3 サイトカイン血中濃度が上昇しない患者に対する治療選択の可能性]
サイトカイン濃度がカットオフ値以下の患者について、ソラフェニブ治療患者群とHAIC患者群とでカプラン-マイヤー生存分析を実施した。本実施例では、サイトカインとして、VEGF-A、IL-8及びIL-5を選択した。
【実施例】
【0060】
その結果、VEGF-Aの血中濃度が低いHCC患者の場合(50pg/ml以下)(図6A)、IL-8の血中濃度が低いHCC患者の場合(10pg/ml以下)(図6B)、及びIL-5の血中濃度が低いHCC患者の場合(12pg/ml以下)(図6C)、HAICを受けた患者群の方が、ソラフェニブ治療患者群と比較してより良好な生存を示した。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明において特定されたサイトカインの血中濃度は、進行性HCC患者に対して適切な治療を選択する上で有効な新規バイオマーカーとなり得る。患者がソラフェニブ治療に対して応答性を有するか否かを予測することができれば、医師の治療選択を補助し得るだけでなく、患者にとっても非常に有益である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5