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明細書 :金属錯体及びそれを有効成分とする抗がん剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-135297 (P2018-135297A)
公開日 平成30年8月30日(2018.8.30)
発明の名称または考案の名称 金属錯体及びそれを有効成分とする抗がん剤
国際特許分類 C07C 211/65        (2006.01)
A61K  31/282       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
C07F  15/00        (2006.01)
FI C07C 211/65 CSP
A61K 31/282
A61P 35/00
C07F 15/00 F
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 26
出願番号 特願2017-030456 (P2017-030456)
出願日 平成29年2月21日(2017.2.21)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 平成28年11月11日,公益社団法人日本薬学会北陸支部発行の「日本薬学会北陸支部第128回例会 プログラム&要旨集」にて発表 及び,平成28年11月27日,日本薬学会北陸支部平成28年度総会及び第128回例会において発表
発明者または考案者 【氏名】小谷 明
出願人 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100187481、【弁理士】、【氏名又は名称】小原 淳史
審査請求 未請求
テーマコード 4C206
4H006
4H050
Fターム 4C206AA01
4C206AA02
4C206JB15
4C206KA01
4C206KA05
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA33
4C206MA36
4C206MA41
4C206MA42
4C206MA43
4C206MA48
4C206MA55
4C206MA61
4C206MA63
4C206MA72
4C206MA76
4C206MA78
4C206MA79
4C206MA86
4C206NA14
4C206NA15
4C206ZB26
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB82
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB28
4H050WB14
4H050WB21
要約 【課題】抗がん活性に優れ、経口投与が可能な新規錯体、及びそれを有効成分とする抗がん剤を提供することを目的とする。
【解決手段】下記式[2]
JP2018135297A_000023t.gif
で表される金属錯体又はその塩を有効成分とする抗がん剤である。
【選択図】図17
特許請求の範囲 【請求項1】
下記式[1]
【化1】
JP2018135297A_000020t.gif
(式中、Mは、Pt又はPdであり、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であるか、又はR及びRは一緒になって、炭素数5もしくは6の環状の飽和炭化水素を形成し、
~R11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のシクロアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数7~30のアラルキル基、炭素数7~30のアラルケニル基、炭素数7~30のアラルキニル基、炭素数6~30のアリール基、ハロゲン原子、炭素数1~30のハロアルキル基、炭素数2~30のハロアルケニル基、炭素数2~30のハロアルキニル基、炭素数6~30のハロアリール基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数6~30のアリールオキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1~30のアルキルアミノ基、炭素数6~30のアリールアミノ基、シアノ基又はニトロ基である。)
で表される金属錯体又はその塩。
【請求項2】
Mが、Ptである請求項1に記載の金属錯体又はその塩。
【請求項3】
~R11が、水素原子である請求項1又は2に記載の金属錯体又はその塩。
【請求項4】
下記式[2]
【化2】
JP2018135297A_000021t.gif
で表される金属錯体又はその塩。
【請求項5】
下記式[3]
【化3】
JP2018135297A_000022t.gif
で表される金属錯体又はその塩。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の金属錯体又はその塩を有効成分として含有する抗がん剤。
【請求項7】
経口投与用である請求項6に記載の抗がん剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属錯体、及びそれを有効成分とする抗がん剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在臨床で用いられている白金製剤として、シスプラチンやオキサリプラチン等の白金-ジアミン骨格を有する白金(II)錯体があり、現在では分子標的薬と組み合わせた研究等、その広がりは多岐に及んでいる。
【0003】
しかし一方で、シスプラチンには腎毒性、オキサリプラチンには末梢神経障害といったそれぞれ重大な副作用があり、患者に長時間の点滴や安静等を強いることになる上、副作用の程度が治療の続行に影響する場合もある。また、これらの製剤は点滴静注が必要となるが、オキサリプラチンを末梢静脈から投与する場合には血管痛が生じるため、その点ではやや使いにくい面がある。患者のQOLを改善するため、既存の白金製剤と同等の効果が得られる経口製剤の開発が望まれる。
【0004】
シスプラチン後の白金抗がん剤として、(特許文献1)には、Pt(IV)錯体化によって脂溶性・安定性を向上させた医薬が開示されている。しかし、この白金(IV)錯体は、経口投与可能な白金製剤としての評価が行われたが、効果が小さく、また、吐き気を伴う等の副作用もあった。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開第2016/208481号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、抗がん活性に優れ、経口投与が可能な新規錯体、及びそれを有効成分とする抗がん剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定構造のジアミンに対してアントラセン環を結合させた9-アントラセニルジアミンを合成し、これをシスプラチン、オキサリプラチンと結合させてプロドラッグ化したところ、腫瘍細胞への取り込み増大と抗がん活性の増強が確認され、また、酸で分解されず経口投与が可能であることを見い出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0008】
(1)下記式[1]
【化1】
JP2018135297A_000003t.gif
(式中、Mは、Pt又はPdであり、
及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であるか、又はR及びRは一緒になって、炭素数5もしくは6の環状の飽和炭化水素を形成し、
~R11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のシクロアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数7~30のアラルキル基、炭素数7~30のアラルケニル基、炭素数7~30のアラルキニル基、炭素数6~30のアリール基、ハロゲン原子、炭素数1~30のハロアルキル基、炭素数2~30のハロアルケニル基、炭素数2~30のハロアルキニル基、炭素数6~30のハロアリール基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数6~30のアリールオキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1~30のアルキルアミノ基、炭素数6~30のアリールアミノ基、シアノ基又はニトロ基である。)
で表される金属錯体又はその塩。
(2)Mが、Ptである上記(1)に記載の金属錯体又はその塩。
(3)R~R11が、水素原子である上記(1)又は(2)に記載の金属錯体又はその塩。
(4)下記式[2]
【化2】
JP2018135297A_000004t.gif
で表される金属錯体又はその塩。
(5)下記式[3]
【化3】
JP2018135297A_000005t.gif
で表される金属錯体又はその塩。
(6)上記(1)~(5)のいずれかに記載の金属錯体又はその塩を有効成分として含有する抗がん剤。
(7)経口投与用である上記(6)に記載の抗がん剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属錯体又はその塩は、細胞内に取り込まれ易く、抗がん活性にも優れている。また、強酸条件下でも安定であるため、胃酸で分解されずに腸管へ到達し、吸収されることを期待して、経口投与用のプロドラッグとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】AtC2・HCl、Pt(NH(AtC2)Cl、及びPt(dach)(AtC2)Clの蛍光スペクトルを示す図である。
【図2】AtC3・HCl、Pt(NH(AtC3)Cl、及びPt(dach)(AtC3)Clの蛍光スペクトルを示す図である。
【図3】強酸下におけるPt(NH(AtC2)Clの24時間後のH-NMRスペクトルを示す図である。
【図4】強酸下におけるPt(NH(AtC2)Clの7日後のH-NMRスペクトルを示す図である。
【図5】強酸下におけるPt(NH(AtC3)Clの24時間後のH-NMRスペクトルを示す図である。
【図6】強酸下におけるPt(NH(AtC3)Clの7日後のH-NMRスペクトルを示す図である。
【図7】強酸下におけるPt(dach)(AtC2)Clの24時間後のH-NMRスペクトルを示す図である。
【図8】強酸下におけるPt(dach)(AtC2)Clの7日後のH-NMRスペクトルを示す図である。
【図9】強酸下におけるPt(dach)(AtC3)Clの24時間後のH-NMRスペクトルを示す図である。
【図10】強酸下におけるPt(dach)(AtC3)Clの7日後のH-NMRスペクトルを示す図である。
【図11】オキサリプラチン及びPt(dach)(AtC3)に曝露後、2時間及び24時間経過後の細胞に取り込まれたPt量を示すグラフである。
【図12】Pt(dach)(AtC3)入メディウムに暴露したヒト結腸腺癌細胞LS180の24時間経過後の蛍光顕微鏡像(20倍)である。左側が励起光露光像、右側が明視野像と励起光露光像を重ねた像である。
【図13】Pt(dach)(AtC3)入メディウムにヒト結腸腺癌細胞LS180を24時間暴露し、核染色を行った後の蛍光顕微鏡像(100倍)である。左側が、明視野像・青色励起光露光像を重ねた像、右側が明視野像・赤色励起光露光像を重ねた像である。
【図14】Pt(dach)(AtC3)を静脈内投与後2、5、24及び48時間の各臓器における分布を示すグラフである。
【図15】オキサリプラチンを静脈内投与後2、5、24及び48時間の各臓器における分布を示すグラフである。
【図16】Pt(dach)(AtC3)を経口投与後3、5、24及び48時間の各臓器における分布を示すグラフである。
【図17】がん移植マウスにPt(dach)(AtC3)を経口投与したときの腫瘍サイズの変化を示すグラフである。
【図18】がん移植マウスにPt(dach)(AtC3)を経口投与したときの体重の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態に基づき本発明を詳細に説明する。
本実施形態に係る金属錯体は、下記式[1]で表される。
【化4】
JP2018135297A_000006t.gif

【0012】
式[1]において、Mは、Pt又はPdである。本実施形態の金属錯体(又はその塩)は、貴金属である白金(Pt)又はパラジウム(Pd)を含有することにより、優れた抗がん効果を発揮する。体内においてタンパク質等の生体物質と置換反応を受けにくく、副作用が少ないという観点から、Mは好ましくはPtである。

【0013】
及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3の直鎖状もしくは分枝状アルキル基であるか、又はR及びRは一緒になって、炭素数5もしくは6の環状の飽和炭化水素を形成している。

【0014】
炭素数1~3の直鎖状もしくは分枝状アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。

【0015】
また、R~R11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~30のアルキル基、炭素数3~30のシクロアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数3~30のシクロアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、炭素数7~30のアラルキル基、炭素数7~30のアラルケニル基、炭素数7~30のアラルキニル基、炭素数6~30のアリール基、ハロゲン原子、炭素数1~30のハロアルキル基、炭素数2~30のハロアルケニル基、炭素数2~30のハロアルキニル基、炭素数6~30のハロアリール基、炭素数1~30のアルコキシ基、炭素数6~30のアリールオキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1~30のアルキルアミノ基、炭素数6~30のアリールアミノ基、シアノ基又はニトロ基である。

【0016】
炭素数1~30のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、1,3-ジメチルブチル基、1-イソプロピルプロピル基、1,2-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、1,4-ジメチルペンチル基、2-メチル-1-イソプロピルプロピル基、1-エチル-3-メチルブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、3-メチル-1-イソプロピルブチル基、2-メチル-1-イソプロピル基、1-t-ブチル-2-メチルプロピル基、n-ノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基等が挙げられる。

【0017】
炭素数3~30のシクロアルキル基の例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。

【0018】
炭素数2~30のアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチルアリル基、2-ブテニル基等が挙げられる。

【0019】
炭素数3~30のシクロアルケニル基の例としては、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、2-シクロペンテン-1-イル基、2-シクロヘキセン-1-イル基、3-シクロヘキセン-1-イル基等が挙げられる。

【0020】
炭素数2~30のアルキニル基の例としては、エチニル基、2-プロピニル基、2-ブチニル基等が挙げられる。

【0021】
炭素数7~30のアラルキル基の例としては、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。

【0022】
炭素数7~30のアラルケニル基の例としては、スチリル基、2-フェニル-1-プロペニル基、3-フェニル-2-ブテニル基、2-ナフチルエテニル基等が挙げられる。

【0023】
炭素数7~30のアラルキニル基の例としては、2-フェニルエチニル基、2-ナフチルエチニル基等が挙げられる。

【0024】
炭素数6~30のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、ナフチル基、アントラニル基等が挙げられる。

【0025】
ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素である。

【0026】
炭素数1~30のハロアルキル基の例としては、トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリクロロメチル基、ジクロロメチル基、フルオロメチル基、クロロメチル基、ヨードメチル基、ブロモメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタクロロエチル基等が挙げられる。

【0027】
炭素数2~30のハロアルケニル基の例としては、2,2-ジフルオロエテニル基、2,2-ジクロロエテニル基、3-クロロ-2-アリル基、3,3-ジクロロ-2-アリル基、2,3-ジブロモ-2-アリル基等が挙げられる。

【0028】
炭素数2~30のハロアルキニル基の例としては、3-クロロ-2-プロピニル基、1,3-ジクロロ-2-プロピニル基、1,3-ジブロモ-2-プロピニル基等が挙げられる。

【0029】
炭素数6~30のハロアリール基の例としては、クロロフェニル基(例えば、4-クロロフェニル基)、ブロモフェニル基、フルオロフェニル基等が挙げられる。

【0030】
炭素数1~30のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基等が挙げられる。

【0031】
炭素数6~30のアリールオキシ基の例としては、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、ビフェニルオキシ基等が挙げられる。

【0032】
炭素数1~30のアルキルアミノ基の例としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等が挙げられる。

【0033】
炭素数6~30のアリールアミノ基の例としては、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、ベンジルアミノ基、インダニルアミノ基、インデニルアミノ基等が挙げられる。

【0034】
好ましくは、アントラセン環は非置換であり、すなわち、R~R11は水素原子である。また、好ましくは、R及びRが水素原子であるか、R及びRは一緒になって、炭素数6の環状の飽和炭化水素を形成している。つまり、本実施形態の金属錯体の好ましい具体例は、下記式[2]又は式[3]で表される。式[2]及び式[3]の金属錯体は、それぞれ、シスプラチン及びオキサリプラチンをプロドラッグ化した化合物に相当する。

【0035】
【化5】
JP2018135297A_000007t.gif
【化6】
JP2018135297A_000008t.gif

【0036】
なお、上述した式[1]で表される金属錯体においては、中心金属Mに対するリガンドの配位の向きによって、幾何異性体が存在し得る。式[1]において一部の配位結合を波線(~~~)によって表現しているのはこのためである。

【0037】
幾何異性体が存在し得る金属錯体を製造する際には、選択的に製造するのでない限り、生成物が2種の幾何異性体の当量混合物として得られるのが通常である。この場合、得られた幾何異性体の混合物から一方のみを精製する手段としては、例えば、結晶化法,クロマトグラフィー法等が挙げられる。本発明においては、このような精製処理が施されていない混合物の形態であっても、また、精製処理が施された後の一方の異性体のみの形態であっても、いずれも請求項に記載された発明の技術的範囲に包含されるものとする。

【0038】
本実施形態に係る金属錯体は塩の形態であっても良い。金属錯体が塩の形態である場合における対アニオンの種類については特に限定されるものではない。このような対アニオンとしては、例えば、塩化物イオン、フッ化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン等が挙げられる。

【0039】
本発明の金属錯体又はその塩の製造方法については特に制限はなく、本願の出願時における技術常識を参酌することにより、製造が可能である。

【0040】
本実施形態に係る金属錯体の製造方法の一例としては、テトラクロリド白金酸カリウムKPtCl等の塩化白金酸塩や塩化パラジウム酸塩等の貴金属錯体を原料として、シスプラチン等の白金又はパラジウムの錯体を形成した後、得られた錯体を下記の「AtC3」で表されるアントラセン環を有するジアミン誘導体と反応させて目的の金属錯体を得る方法が例示される。ここでAtC3は、置換又は非置換の9-アントラセンカルボキシアルデヒドとジアミノプロパンを反応させることにより得ることができる。

【0041】
【化7】
JP2018135297A_000009t.gif

【0042】
上記反応の際、AtC3の種類をR~R11の置換基に応じて適宜選択することにより、所望の置換基を有する金属錯体を製造することができる。また、用いる貴金属錯体の有する貴金属原子(Pt又はPd)を選択することによって、得られる金属錯体に対して所望の貴金属原子を導入することができる。なお、上記の方法では原料としての貴金属錯体がリガンドとして塩素原子を有しているが、この形態には限られず、後段の反応においてAtC3と置換され得るリガンドであれば、特に制限されることなく用いることができる。

【0043】
なお、得られた金属錯体は、従来公知の精製手段によって、適宜精製され得る。これは、後述する他の化合物についても、同様である。

【0044】
反応条件についても特に制限はなく、適宜設定され得る。一例を挙げると、シスプラチン等の白金又はパラジウムの錯体とAtC3とを反応させる際の温度は、通常は室温~80℃であり、好ましくは室温~60℃である。また、反応時間は、通常は2時間~1週間であり、好ましくは数時間~数日である。

【0045】
本実施形態に係る金属錯体又はその塩は、後述するように高い抗がん活性を有することから、抗がん剤として用いられ得る。すなわち、上述した金属錯体又はその塩を有効成分とする抗がん剤が提供されるのである。

【0046】
本実施形態の抗がん剤が適用されるがんの種類は、特に限定されず、例えば、白血病、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、消化器がん、肺がん、食道がん、胃がん、大腸がん、直腸がん、結腸がん、尿管腫瘍、胆嚢がん、胆管がん、胆道がん、乳がん、肝臓がん、膵臓がん、睾丸腫瘍、上顎がん、舌がん、口唇がん、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、卵巣がん、子宮がん、前立腺がん、甲状腺がん、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚がん、基底細胞がん、皮膚付属器がん、皮膚転移がん、皮膚黒色腫等が挙げられる。また、悪性腫瘍のみならず、良性腫瘍への適用も可能である。また、本実施形態に係る抗がん剤は、がん転移を抑制するために使用することができ、特に、術後のがん転移抑制剤としても有用である。

【0047】
本実施形態に係る抗がん剤を使用するに当たっては、種々の形態でヒト又は動物(特に好ましくはヒト)に投与することができる。投与形態としては、経口投与でも良いし、静脈内、筋肉内、皮下又は皮内等への注射、直腸内投与、経粘膜投与等の非経口投与でも良い。経口投与に適する製剤形態としては、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等が挙げられる。また、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、点鼻剤、噴霧剤、吸入剤、坐剤等の外用固形剤、又は、軟膏、クリーム、粉状塗布剤、液状塗布剤、貼付剤等の経皮吸収剤等が挙げられる。さらに、本実施形態に係る抗がん剤の製剤形態として、埋め込み用ペレットや公知の技術により調製される持続性製剤が挙げられる。

【0048】
好ましい投与形態や製剤形態等は、患者の年齢、性別、体質、症状、処置時期等に応じて、医師によって適宜選択される。

【0049】
特に、本実施形態に係る抗がん剤は、胃酸で分解されずに腸管へ到達して吸収され、腫瘍細胞への取り込みが大きく、細胞内で分解されて抗がん活性を発揮するプロドラッグとして機能し得る。そのため、経口投与用の抗がん剤として有用である。

【0050】
抗がん剤が、錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤等の固形製剤である場合、これらの固形製剤は、本実施形態に係る金属錯体又はその塩を、常法に従って適当な添加剤、例えば、乳糖、ショ糖、D-マンニトール、トウモロコシデンプン、合成もしくは天然ガム、結晶セルロース等の賦形剤、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アラビアゴム、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等の結合剤、カルボシキメチルセルロースカルシウム、カルボシキメチルセルロースナトリウム、デンプン、コーンスターチ、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム等の滑沢剤、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム等の充填剤又は希釈剤等と適宜混合することにより製造することができる。錠剤等には、必要に応じて、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、酸化チタン等のコーティング剤を用いて、糖衣、ゼラチン、腸溶被覆、フイルムコーティング等が施されても良い。

【0051】
抗がん剤が、注射剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤、噴霧剤、ローション剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の液状製剤である場合、これらの液状製剤は、本実施形態に係る金属錯体又はその塩に、精製水、リン酸緩衝液等の適当な緩衝液、生理的食塩水、リンゲル溶液、ロック溶液等の生理的塩類溶液、カカオバター、ゴマ油、オリーブ油等の植物油、鉱油、高級アルコール、高級脂肪酸、エタノール等の有機溶媒等に溶解して、必要に応じてコレステロール等の乳化剤、アラビアゴム等の懸濁剤、分散助剤、浸潤剤、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系、ポリエチレングリコール系等の界面活性剤、リン酸ナトリウム等の溶解補助剤、糖、糖アルコール、アルブミン等の安定化剤、パラベン等の保存剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリン等の等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸着防止剤、保湿剤、酸化防止剤、着色剤、甘味料、フレーバー、芳香物質等を適宜添加することにより、滅菌された水溶液、非水溶液、懸濁液、リポソーム又はエマルジョン等として調製することができる。この際、注射剤は、生理学的なpHを有することが好ましく、6~8の範囲内のpHを有することが特に好ましい。

【0052】
抗がん剤が、ローション剤、クリーム剤、軟膏等の半固形製剤の場合、これらの半固形製剤は、本実施形態に係る金属錯体又はその塩を脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、蝋、硬膏剤、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤、懸濁化剤等と適宜混和することによって製造することができる。

【0053】
抗がん剤における、本実施形態に係る金属錯体又はその塩の含有量は、投与形態、重篤度や所望の投与量等に応じて変動し得るが、一般的には、抗がん剤の全質量に対して、0.001~80質量%、好ましくは0.1~50質量%である。

【0054】
抗がん剤の投与量は、例えば患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路等の条件に応じて、医師により適宜決定され得る。一般的には、成人一日当たりの有効成分の量として1μg/kgから1,000mg/kg程度の範囲であり、好ましくは10μg/kgから10mg/kg程度の範囲である。このような投与量の抗がん剤は、一日一回投与されても良いし、一日数回(例えば、2~4回程度)に分けて投与されても良い。

【0055】
抗がん剤を使用するに当たっては、既知の化学療法、外科的治療法、放射線療法、温熱療法や免疫療法等と併用しても良い。

【0056】
本実施形態に係る抗がん剤は、極めて高い抗がん活性を示す。また、重篤な副作用(腎毒性、吐き気等)が問題となっている従来の白金製剤と比較して、顕著に副作用が低減されている。したがって、既存の白金製剤に代替し得る可能性を秘めたものであり、非常に有望な新規薬剤となり得る。
【実施例】
【0057】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
1.合成
下記の方法により、金属錯体の合成を行った。合成した化合物は、H-NMR、元素分析によって同定した。
(1)cis-Pt(NHの合成
PtCl 2.0g(4.8mmol)をHO 20mlに溶解し、KI 3.3g(19.8mmol)を加えて50℃の湯浴で5分間撹拌した。28%アンモニア水 1mL(52.9mmol)にこの溶液を加え、2分間撹拌した。3時間静置後、黄色粉末をろ取した。熱水、エタノール、ジエチルエーテルの順で洗浄後、真空乾燥した。
収量: 2.11g
収率: 91.1%
元素分析: H6N2I2Pt1 (M=482.88)
【化8】
JP2018135297A_000010t.gif
【実施例】
【0059】
(2)cis-Pt(NHClの合成
AgNO 0.68g(4.0mmol)をHO 80mlに溶解し、cis-Pt(NH 0.96g(2.0mmol)を溶解した10mlのジメチルアセトアミド溶液を加えて、遮光し一晩撹拌した。溶液を濾過してAgIを除去し1M NaCl 2mLを加え、60℃で一晩撹拌した。生成した黄色粉末をろ取し、大量の冷水で洗浄した。
収量: 0.374g
収率: 61.7%
元素分析: H6N2PtCl2 (M=300.08)
calcd. C:0.00% H:2.00% N:9.33%
obsd. C:0.00% H:1.84% N:9.44%
【化9】
JP2018135297A_000011t.gif
【実施例】
【0060】
(3)Pt(dach)Clの合成
O 20mlにKPtCl 2.0g(4.8mmol)を加え1R,2R-シクロヘキサンジアミン(dach)0.57g(5.0mmol)をHO 20mlに溶かした。これを60℃で5時間加熱撹拌した。生成した黄色い粉末をろ取し、HOで洗浄後、乾燥した。
収量: 1.31g
収率: 71.8%
元素分析: C6H14N2PtCl2 (M=380.08)
calcd. C:18.95% H:3.68% N:7.37%
obsd. C:18.64% H:3.60% N:7.12%
【化10】
JP2018135297A_000012t.gif
【実施例】
【0061】
(4)AtC2の合成
CHCl 40mLとMeOH 10mLを混ぜた溶液にエチレンジアミン5ml(74.9mmol)と9-アントラセンカルボキシアルデヒド2.06g(10mmol)を加え、一晩撹拌した。その後NaBH 1.13g(30mmol)を少しずつ加え、一晩撹拌した。エバポレートすることで溶媒をとばし、35%HClを加えて酸性とし、10N NaOHを加えてアルカリ性とした。
CHCl 50mlで抽出し、1%NaCO 50mlで3回洗った後、有機層を分離した。
無水MgSOで脱水した後、エバポレートし、残渣を20mlのEtOHに溶かし、一晩撹拌し、35%HClを加えて撹拌することで化合物を得た。
収量: 1.49g
収率: 46.1%
元素分析: C17H18N2・2HCl (0H2O M=252 2HCl M'=323)
calcd. C:63.16% H:6.19% N:8.67%
obsd. C:63.28% H:6.16% N:8.74%
NMR (D2O,TSP基準)
δ1(s):8.662 δ2(d):8.271 δ3(d):8.154 δ4(dd):7.737 δ5(dd):7.635 C2 δ1(s):5.267 δ2(dd):3.136 δ3(dd):3.397
【化11】
JP2018135297A_000013t.gif
【実施例】
【0062】
(5)AtC3の合成
CHCl 40mLとMeOH 10mLを混ぜた溶液に1,3-ジアミノプロパン5ml(59.9mmol)と9-アントラセンカルボキシアルデヒド2.06g(10mmol)を加え、一晩撹拌した。その後NaBH 1.13g(30mmol)を少しずつ加え、一晩撹拌した。エバポレートすることで溶媒をとばし35%HClを加えて酸性とし、10N NaOHを加えてアルカリ性とした。
CHCl 50mlで抽出し、1%NaCO 50mlで3回洗った後、有機層を分離した。
無水MgSOで脱水した後、エバポレートし、残渣を20mlのEtOHに溶かし、一晩撹拌し、35%HClを加えて撹拌することで化合物を得た。
収量: 1.81g
収率: 53.7%
元素分析: C18H20N2・2HCl (0H2O M=266 2HCl M'=337)
calcd. C:64.09% H:6.52% N:8.31%
obsd. C:63.90% H:6.89% N:7.98%
NMR (D2O,TSP基準)
δ1(d):8.630 δ2(dd):8.232 δ3(dd):8.140 δ4(t):7.732 δ5(t):7.634 C2 δ1(s):5.875 δ2(t):3.361 δ3(t):3.092 δ4(m):2.182,2.102
【化12】
JP2018135297A_000014t.gif
【実施例】
【0063】
(6)Pt(NH(AtC2)Clの合成
AtC2・2HCl 0.42g(1.3mmol)をHO 10mlに溶かし、NaOH 0.20g(5mmol)を加えた。CHCl 20mLを加えてAtC3を抽出し、エバポレートしEtOH 10mLに溶解した。これにPt(NHCl 0.15g(0.5mmol)の5ml HO溶液を加え、60℃で24時間撹拌し、ろ液が1~2mlになるまでエバポレートし、アセトンで再沈澱し、黄色粉末を吸引ろ過でろ取し、洗浄した後乾燥した。
収量: 0.212g
収率: 71.3%
元素分析: C17H24N4PtCl2・2.5H2O (0H2O M=550.08 2.5H2O M'=595.08)
calcd. C:34.28% H:4.87% N:9.41%
obsd. C:34.05% H:4.82% N:9.64%
NMR (D2O,TSP基準)
アントラセン環 δ1(d):8.740 δ2(d):8.206 δ3(t):7.801 δ4(t):7.667 C2 δ1(d):5.218 δ2(m):3.400,3.325 δ3(m):3.173,3.074 δ4(m):2.959.2.921
【化13】
JP2018135297A_000015t.gif
【実施例】
【0064】
(7)Pt(NH(AtC3)Clの合成
AtC3・2HCl 0.44g(1.3mmol)をHO 10mlに溶かし、NaOH 0.20g(5mmol)を加えた。CHCl 20mLを加えてAtC3を抽出し、エバポレートしEtOH 10mLに溶解した。これにPt(NHCl 0.15g(0.5mmol)の5ml HO溶液を加え、60℃で24時間撹拌し、ろ液が1~2mlになるまでエバポレートし、アセトンで再沈澱し、橙色粉末を吸引ろ過でろ取し、洗浄した後乾燥した。
収量: 0.109g
収率: 35.9%
元素分析: C18H26N4PtCl2・3.5H2O (0H2O M=564.08 3.5H2O M'=627.08)
calcd. C:34.45% H:5.26% N:8.93%
obsd. C:34.65% H:5.37% N:8.63%
NMR (D2O,TSP基準)
アントラセン環 δ1(d):8.740 δ2(d):8.140 δ3(m):8.000,7.858 δ4(s):7.637 C3 δ1(br):5.12 δ2(br):4.52 δ3(m):3.51 δ4(m):3.27 δ5(m):3.11 δ6(m):2.25 δ7(m):1.93
【化14】
JP2018135297A_000016t.gif
【実施例】
【0065】
(8)Pt(dach)(AtC2)Clの合成
AtC2・2HCl 0.42g(1.3mmol)をHO 10mlに溶かし、NaOH 0.20g(5mmol)を加えた。CHCl 20mLを加えてAtC2を抽出し、エバポレートしEtOH 10mLに溶解した。これにPt(dach)Cl 0.15g(0.5mmol)の5ml HO溶液を加え、80℃で3時間撹拌し、ろ液が1~2mlになるまでエバポレートし、アセトンで再沈澱し、黄色粉末を吸引ろ過でろ取し、洗浄した後乾燥した。
収量: 0.570g
収率: 86.4%
元素分析: C23H32N4PtCl2・2H2O (0H2O M=630.08 2H2O M'=666.08)
calcd. C:41.44% H:5.41% N:8.41%
obsd. C:41.15% H:5.55% N:8.19%
NMR (D2O,TSP基準)
アントラセン環 δ1(br):8.72 δ2(br):8.17 δ3(br):7.80 δ4(br):7.67 dach, C2 δ1(br):5.06 δ2(m):3.13 δ3(m):1.83 δ4(m):1.71 δ5(m):1.34 δ6(m):0.87 δ7(m):0.55 δ8(m):0.11
【化15】
JP2018135297A_000017t.gif
【実施例】
【0066】
(9)Pt(dach)(AtC3)Clの合成
AtC3・2HCl 0.44g(1.3mmol)をHO 10mlに溶かし、NaOH 0.20g(5mmol)を加えた。CHCl 20mLを加えてAtC3を抽出し、エバポレートしEtOH 10mLに溶解した。これにPt(dach)Cl 0.15g(0.5mmol)の5ml HO溶液を加え、80℃で3時間撹拌し、ろ液が1~2mlになるまでエバポレートし、アセトンで再沈澱し、橙色粉末を吸引ろ過でろ取し、洗浄した後乾燥した。
収量: 0.329g
収率: 45.3%
元素分析: C24H34N4PtCl2・3.5H2O (0H2O M=644.08 3.5H2O M'=707.08)
calcd. C:40.74% H:5.80% N:7.92%
obsd. C:40.36% H:5.44% N:7.86%
NMR (D2O,TSP基準)
アントラセン環 δ1(s):8.66 δ2(d):8.153 δ3(br):7.84 δ4(s):7.669 dach, C3 δ1(m):2.24 δ2(m):1.90 δ3(m):1.76 δ4(br):1.39 δ5(br):1.31 δ6(m):1.21 δ7(m):0.76
【化16】
JP2018135297A_000018t.gif
【実施例】
【0067】
2.安定性試験
次に、合成したポリアミン含有白金(II)錯体の安定性について検討した。
まず、水中での安定性を確認する実験に必要な濃度を決めるため、UV測定を行い、その結果をもとに、リガンドと錯体での蛍光強度の比較実験を行った。
さらに、経口投与において最初の関門となる胃内の強い酸性条件下で錯体が分解するか否かの検討をH-NMRスペクトルの比較により行った。
【実施例】
【0068】
(1)蛍光強度測定
アントラセン環には、励起光の照射により蛍光を発する性質がある。しかし、Pt錯体中のアントラセン環は励起光のエネルギーをPtに奪われるため、蛍光がほとんど検出されない。これを踏まえ、錯体とそのリガンドであるAtC2及びAtC3で蛍光強度を比較し、錯体の安定性を検討した。
【実施例】
【0069】
(実験)
AtC2及びAtC3とポリアミン含有白金(II)錯体を水に1μMの濃度で溶かし、24h経過後、蛍光分光計(FP-6500 JASCO)を用いて、リガンド・錯体ともに吸光度が極大を示す367nmに励起波長を固定し、蛍光スペクトルを測定した。
錯体とリガンドでの蛍光スペクトル比較を図1及び図2に示す。
【実施例】
【0070】
(結果)
図1及び図2に示すように、リガンドのみと錯体間で蛍光強度を比較するとリガンドの蛍光強度と比較して錯体の蛍光は圧倒的に弱く、ほとんど分解していないことが分かった。したがって、これらの錯体は水中で安定と考えられた。
【実施例】
【0071】
(2)酸条件下での安定性比較
経口投与を想定した場合、胃内の強酸性下で容易に分解してしまう場合にはプロドラッグとしての役割が失われてしまう。抗がん作用のあるプロドラッグとしての働きが期待され錯体としては、胃内と同様の酸性条件下で分解せず吸収される必要がある。そこで、リガンドのスペクトルと強酸性下での錯体のスペクトルを比較し、分解が起こっているか検討した。
【実施例】
【0072】
(実験)
35%HClをDOで希釈し、0.02M HCl/DOを作製し、合成した錯体を加えたサンプルを調製後24時間、7日後にH-NMR測定を行った。その結果を図3~10に示す。
【実施例】
【0073】
(結果)
もし錯体が分解していれば、AtC2やAtC3といったリガンドのピークが見られるはずだが、図3~10に示すように、リガンドのものと思われるピークは見られなかったことから、いずれの錯体も胃酸条件下で分解しにくいことが明らかとなった。
【実施例】
【0074】
3.MTTアッセイによるin vitro細胞増殖抑制評価
合成したPt錯体と原料の細胞毒性を比較するため、ヒト結腸腺癌LS180を用いてMTTアッセイを行った。
【実施例】
【0075】
(実験)
・培地の作製
840mlのミリQにイーグル最小必須培地9.6gを加え撹拌した。そこにNaHCO 2.2gとFBSを100ml加えて撹拌し、全量が1000mlになるようにミリQを加えた。その後、クリーンベンチ内でオートクレーブ済みのメディウム瓶に滅菌ろ過し、以下の培養実験の培地として使用した(以下「MEM」とする。)。
【実施例】
【0076】
・細胞培養と継代
サンプル容器に凍結保存していたLS180を37℃で急速に溶解し、クリーンベンチ内で、20mlの培地を入れたディッシュに移した。
2日後、培地を除去し、5mlのPBSで洗浄後5倍希釈した0.5%-トリプシン/5.3mM-EDTA溶液5mlを加え、37℃で10分間インキュベートした。細胞が全て剥がれたのを確認後、メディウム5mlを加え、継代を行った。この継代実験を3回行った。
【実施例】
【0077】
・薬剤の調製
表1に示す各薬剤を10mMの水溶液とし、MEMで希釈し100μMとした。これを段階希釈し、1000、500、100、10、1、0.5、0.25、0.1、0.05、0.01及び0.001μMに調製した。
【実施例】
【0078】
・MTTアッセイ
培養し、細胞数を計測したLS180に5.0×10細胞/100μLとなるようにMEMを加え、96穴ウェルに1穴100μLずつ細胞を撒き、37℃で一晩インキュベートした。メディウムを吸い、PBSで1回洗浄後に各濃度の薬剤入りメディウムを加え(各濃度n=3)、24時間インキュベートした。メディウムを吸い、PBSで2回洗浄後に0.5mg/mL MTT入りのメディウムを100μL加え、3時間インキュベートした。メディウムを吸い、DMSOを100μL加え、570nmの吸光度を測定した。薬剤暴露後24時間と72時間におけるIC50の変化を比較した。結果を表1に示す。
【実施例】
【0079】
【表1】
JP2018135297A_000019t.gif
【実施例】
【0080】
(結果)
Pt(NH(AtC2)とPt(dach)(AtC2)は暴露後24時間、72時間でIC50の変化がほとんどないのに対し、Pt(NH(AtC3)、Pt(dach)(AtC3)では暴露後24時間に比べて72時間でのIC50が低下した。特に、Pt(dach)(AtC3)ではIC50が1/100ほどになり、毒性が強くなったことが分かった。この結果より、Pt(NH(AtC3)及びPt(dach)(AtC3)は錯体として存在している間は毒性が小さく、細胞内に入って分解されるにつれ、毒性が強くなることが明らかとなった。
【実施例】
【0081】
Pt(dach)(AtC3)はオキサリプラチンと比較してIC50が高かったが、Pt(dach)(AtC3)の暴露後24時間から72時間にかけてのIC50の低下を考慮すると、副作用の少ないプロドラッグとして使用できる可能性が示唆された。
【実施例】
【0082】
4.細胞取り込み実験
Pt(dach)(AtC3)の細胞内への取り込み量をオキサリプラチンと比較するため、以下の実験を行った。
【実施例】
【0083】
(実験)
1.6×10細胞を滅菌浅型シャーレ(90φ×15mm)に播き、24時間インキュベートした。Pt(dach)(AtC3)入メディウム(20μM)に暴露し2時間、24時間(n=4)経過後、PBSで洗浄した。PBSをよく吸引した後、60%硝酸を1mL加えて60℃で24時間加熱し、細胞を完全に溶解した。さらに蒸留水5mLを加えてサンプル溶液とし、ICP-AESでPt濃度を定量し、ディッシュ中の細胞に含まれたPt量を算出した。同じ実験をオキサリプラチン入メディウムを用いて行った。結果を図11に示す。
【実施例】
【0084】
(結果)
Pt(dach)(AtC3)入メディウム暴露群では、オキサリプラチン暴露群に比べて2時間経過後、24時間経過後のいずれにおいてもPt取り込み量が高かった。アントラセン-ポリアミン構造を結合させたことで細胞内への取り込み量が向上したことが示された。
【実施例】
【0085】
5.蛍光顕微鏡による観察
細胞中での錯体の挙動について検討するため、HSオールインワン蛍光顕微鏡(KEYENCE、BZ-9000)を用いて、Pt(dach)(AtC3)入メディウムに暴露した細胞を経時的に観察した。また、Pt(dach)(AtC3)の分解後の細胞内局在を調べるために、薬剤に暴露した細胞の核染色を行った。
【実施例】
【0086】
(1)蛍光顕微鏡観察
(実験)
ヒト結腸腺癌細胞LS180をガラスベースディッシュに播き、一晩インキュベートした。Pt(dach)(AtC3)入メディウム(10μM)に暴露し24時間経過後、蛍光顕微鏡で観察・撮像した。図12に、暴露24時間後に20倍で撮像した画像を示す。励起光露光像を左側、明視野像と励起光露光像を重ねた像を右側に示す。
【実施例】
【0087】
(結果)
暴露24時間経過後では、大多数の細胞が蛍光を発していたため、ほとんどの細胞でPt(dach)(AtC3)の分解が起こっていることが示唆された。
【実施例】
【0088】
(2)核染色後の蛍光顕微鏡観察
(実験)
核染色は以下の手順で行った。
Pt(dach)(AtC3)入メディウム(10μM)に24時間暴露した後、蛍光顕微鏡で青色蛍光が鮮明に見られることを確認した。これをPBSで洗浄後RNase 16μg/mL(/MEM)に30分間COインキュベーターで暴露後、ヨウ化プロピジウム(PI)15μM(/MEM)に30分間冷蔵庫内で遮光し暴露した。
図13に、100倍で撮像し、明視野像・青色励起光露光像を重ねた像を左側に、明視野像・赤色励起光露光像を重ねた像を右側に示す。
【実施例】
【0089】
(結果)
核内に赤色蛍光と青色蛍光が共存していることが分かった。一細胞内の同じ部位で赤色蛍光と青色蛍光が確認されたことから、錯体分解後に生じたAtC3が核内に存在することが示唆された。
【実施例】
【0090】
6.分布実験
Pt(dach)(AtC3)の生体内での臓器への蓄積性や特定の臓器への集積の有無を確認するため、ddY雄マウス(7週齢)を用いて各臓器への分布を調べた。
【実施例】
【0091】
(実験)
・投与量と投与方法
実験は静脈内投与、経口投与のそれぞれについて行った。静脈内投与ではPt(dach)(AtC3)及びオキサリプラチンを蒸留水に溶かし8.25μmol/kgで尾静脈より投与後、2、5、24及び48時間後にと殺、解剖し各臓器を得た。静脈内投与によるPt(dach)(AtC3)の分布を図14、オキサリプラチンの分布を図15に示す。経口投与ではPt(dach)(AtC3)を蒸留水に溶かし165μmol/kgで投与後、3、5、24及び48時間後にと殺、解剖し各臓器を得た。経口投与によるPt(dach)(AtC3)の分布を図16に示す。
【実施例】
【0092】
・測定サンプルの作製とPt濃度測定
臓器100mgに対して25%水酸化テトラアンモニウム(TMAH)500μLを加え(骨に対してはTMAHの代わりに60%HNOを加えた)、60℃で一晩加熱し、臓器を溶解した。次に、臓器溶解液500μL当たりトリトンX-100を入れた0.1M HNOを5mL加えて溶液を酸性にした後、シリンジフィルター(ナイロン:孔径0.45μm、直径32mm)でろ過した。既知濃度の白金溶液で検量線を作成し、調製した臓器溶解液の白金濃度をICP-AESにて測定した。
【実施例】
【0093】
(結果)
図14に示すように、Pt(dach)(AtC3)は静脈内投与の2時間後にほとんどが肝臓に集まっており、血中に入った後速やかに肝臓に移行していることが分かった。オキサリプラチンが腎排泄であるのに対してPt(dach)(AtC3)は肝代謝を受けると考えられる。時間の経過とともに消失し、臓器への滞留はほとんど見られなかった。臓器への蓄積性が少ないことから、臓器傷害性は少ないと考えられる。
【実施例】
【0094】
一方、図15に示すように、オキサリプラチンは投与から2時間以内に速やかに体内から消失した。オキサリプラチンは血中半減期が10分~25分とされており、臓器に分布後も速やかに消失すると考えられる。図14との比較から、Pt(dach)(AtC3)はAtC3により体内での滞留性が上昇したことが示唆される。
【実施例】
【0095】
さらに、図16に示すように、経口投与によって錯体が吸収されたことが確認された。投与3時間後では、胃と小腸におけるPt濃度が高く、錯体が吸収過程にあると考えられる。投与後5時間後にかけて消化管でのPt濃度が低下し、血中濃度が上昇するため、3~5時間にかけては錯体が腸管からゆっくりと吸収されていることが示唆された。腎臓・肝臓でPt濃度が頭打ちになっていることから、吸収された錯体は速やかに腎臓・肝臓に移行するが、5時間前後で飽和する可能性が示唆された。
【実施例】
【0096】
7.がん移植マウスを用いたin vivo抗がん実験
BALB/c Slcを用いてPt(dach)(AtC3)のin vivoにおける抗がん活性効果について検討した。
【実施例】
【0097】
(実験)
・マウス大腸癌細胞Colon26の継代実験
マウス大腸癌細胞Colon26を用いて担がんマウスを作製し、in vivoにおけるPt(dach)(AtC3)の抗がん活性の評価を行うためにColon26の培養実験を行った。下記に継代実験の操作手順を示す。
【実施例】
【0098】
・COインキュベーターの準備
COボンベをインキュベータ-に接続し、5%、37℃に調節した。インキュベーター内部には滅菌水を入れたバットを設置した。
【実施例】
【0099】
・クリーンベンチの用意
クリーンベンチの殺菌灯を消し、70%エタノールを手に吹き付け、クリーンベンチ内をエタノールを染み込ませたキムワイプで拭き、殺菌した。
【実施例】
【0100】
・培地の作製
500mL RPMI-1640にペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液をペニシリン100units/mL、ストレプトマイシン100mg/μLになるように加えた。さらに、FBS 50mlを加えた。
【実施例】
【0101】
・PBSの作製
ミリQ 1000mlにダルベッコリン酸緩衝生理食塩水9.6gを加えて撹拌し、溶解後、121℃、20分でオートクレーブで滅菌処理した。
【実施例】
【0102】
・細胞培養と継代
ディープフリーザーで凍結保存していたマウス大腸癌細胞Colon26を37℃で急速に溶解し、クリーンベンチ内で20mlの培地を入れたディッシュに移した。1日後、培地を除去し、5mlのPBSで洗浄後、5倍希釈した0.5%-トリプシン/5.3mM-EDTA溶液5mlを加え、37℃で5分間インキュベートした。細胞がすべてはがれたのを確認後、メディウム5mlを加え、継代を行った。3日間同様の操作を行った。
【実施例】
【0103】
・細胞数の計測
計数板にとりパンブルーで染色した細胞浮遊液をのせ、上からカバーガラスをかけた。光学顕微鏡で計数板の計8か所のカウンター部に存在する細胞数を数え、1か所に存在する平均細胞数を算出し、希釈前の細胞浮遊液中の細胞数を計算した。
【実施例】
【0104】
・細胞浮遊液の調整とインジェクション
メディウム100μl当たり1×10個の細胞数になるように細胞浮遊液を調製した。調整済みの細胞浮遊液を1匹あたり100μl×2、マウスの両肩付近の皮下にインジェクションした。
【実施例】
【0105】
・サンプル投与と腫瘍径の測定
マウスに腫瘍をインジェクションした日を0日目とし、14日間24時間毎に治療群(n=5)にPt(dach)(AtC3)を200μmol/kg(1.41mg/0.1mL HO/10g)で経口投与した。対照群は0.1mL HO/10g無処置とした。また、7日目、14日目、21日目に体重、腫瘍径を測定した。腫瘍サイズは(長さ×幅×0.52)として計算し、相対評価で示した。それぞれの群はn=5とした。測定した腫瘍サイズ、体重をそれぞれ図17及び図18に示す。
【実施例】
【0106】
(結果)
図17に示すように、Pt(dach)(AtC3)は200μmol/kgの投与で腫瘍の成長を抑制した。また、図18に示すように、投与直後は体重減少が見られ、食欲低下をもたらしたものと考えられた。しかし、日数の経過とともに体重が回復していることから、食欲低下は徐々におさまったものと考えられた。毎日経口投与を行う中で、吐瀉物や下痢等の異常便等は見られず、マウスの様子に異常は見られなかったことから、この投与量ではマウスへの急激な毒性は現れないものと考えられた。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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